説明

妊娠成績についての高い能力を有する卵母細胞およびコンピテントな胚を選択するための方法

本発明は、コンピテントな卵母細胞またはコンピテントな胚を選択するための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、コンピテントな卵母細胞またはコンピテントな胚を選択するための方法に関する。
【0002】
発明の背景
補助生殖医療(ART)における体外受精(IVF)の試みの後の妊娠率および出生率は依然として低い。実際に、3回中2回のIVFサイクルが妊娠に失敗し(SART 2004)、そして10中8を超える移植された胚が着床に失敗している(KovalevskyおよびPatrizio, 2005)。さらに、IVFにより生まれた赤ん坊の50%超が、多胎妊娠による(Reddy et al., 2007)。ARTによって引き起こされる多胎妊娠から生じる早産は、年間、約8億9000万米ドルを占めると推定されている(BromerおよびSeli, 2008)。
【0003】
主観的で形態学的なパラメーターが依然として、IVFおよびICSIプログラムにおいて使用するための健康な胚を選択するための判断基準である。しかしながら、このような判断基準は、胚のコンピテンスを真に予測しない。多くの研究が、いくつかの異なる形態学的な判断基準の組合せにより、より正確な胚の選択が行なわれることを示した(BalabanおよびUrman, 2006; La Sala et al., 2008; Scott et al., 2000)。胚選択のための形態学的な判断基準は移植日に評価され、そして主に早期胚分割(精子注入から25〜27時間後)、2日目または3日目における卵割球の数およびサイズ、フラグメンテーション率、並びに4細胞期または8細胞期における多核形成の存在に基づく(Fenwick et al., 2002)。
【0004】
しかしながら、近年の研究は、精子注入のための卵母細胞の選択が、その品質に関係なく、全ての利用可能な胚の移植と比較して、ARTの成績を改善しないことを示した(La Sala et al., 2008)。IVFの成功率を高める最も高い着床力を有する生存可能な胚を同定し、新たに補充するための胚の数を減少させ、そして多胎妊娠率を低下させる必要がある。
【0005】
全てのこれらの理由のために、胚の選択のためのいくつかのバイオマーカーが現在調査されている(Haouzi et al., 2008; Pearson, 2006)。妊娠をもたらす胚は、妊娠をもたらさない胚と比較してその代謝プロファイルが異なるので、いくつかの研究は、胚培養培地の非侵襲的な評価によって検出することのできる分子サインを同定しようと努力している(Brison et al., 2004; Gardner et al., 2001; SakkasおよびGardner, 2005; Seli et al., 2007; Zhu et al., 2007)。
【0006】
ゲノミクスもまた、胚発達中の重要な遺伝子的および細胞的機能の知識を提供する。(McKenzie et al., 2004)および(Feuerstein et al., 2007)は、シクロオキシゲナーゼ2(COX2)などの卵丘細胞におけるいくつかの遺伝子の発現が、卵母細胞および胚の品質を示したことを報告した。グレムリン1(GREM1)、ヒアルロン酸シンターゼ2(HAS2)、ステロイド産生急性調節タンパク質(STAR)、ステアロイル補酵素A不飽和酵素1および5(SCD1および5)、アンフィレギュリン(AREG)およびペントラキシン3(PTX3)もまた、胚の品質に正に相関していることが示された(Zhang et al., 2005)。より最近では、ヒト卵丘細胞におけるグルタチオンペルオキシダーゼ(GPX3)、ケモカインレセプター4(CXCR4)、サイクリンD2(CCND2)およびカテニンδ1(CTNND1)の発現が、胚発達中の早期分割率に基づいて、胚の品質に負に相関していることが示された(van Montfoort et al., 2008)。しかし、早期分割が妊娠を予測するための信頼性のあるバイオマーカーであることが示されたという事実にも関わらず(Lundin et al., 2001; Van Montfoort et al., 2004; Yang et al., 2007)、卵丘細胞の遺伝子発現プロファイルは妊娠成績について研究されてこなかった。
【0007】
発明の要約:
本発明は、卵母細胞を囲む卵丘細胞において45個の遺伝子の発現レベルを測定する工程を含む、前記のコンピテントな卵母細胞を選択するための方法に関し、前記遺伝子は、WNT6、LRCH4、PAX8、CABP4、PDE5A、BCL2L11、PCK1、TCF20、SLAMF6、EPOR、CACNG6、NLRP1、PECAM1、NOS1、ATF3、KRTAP8、GRIK5、SLC24A3、SLC5A12、SLCA10A2、SLCO1A2、SLC25A5、MG29、NLGN2、PRKACA、FOSB、SIAT6、LOXL2、PRF1、ADPRH、APBB3、EGR3、CNR2、IFITM1、PLA2G5、CAMTA1、SOX4、NFIB、NFIC、RBMS1、G0S2、FAT3、SLC40A1、GPC6およびIGF1Rである。
【0008】
本発明はまた、胚を囲む卵丘細胞において45個の遺伝子の発現レベルを測定する工程を含む、コンピテントな胚を選択するための方法に関し、前記遺伝子は、WNT6、LRCH4、PAX8、CABP4、PDE5A、BCL2L11、PCK1、TCF20、SLAMF6、EPOR、CACNG6、NLRP1、PECAM1、NOS1、ATF3、KRTAP8、GRIK5、SLC24A3、SLC5A12、SLCA10A2、SLCO1A2、SLC25A5、MG29、NLGN2、PRKACA、FOSB、SIAT6、LOXL2、PRF1、ADPRH、APBB3、EGR3、CNR2、IFITM1、PLA2G5、CAMTA1、SOX4、NFIB、NFIC、RBMS1、G0S2、FAT3、SLC40A1、GPC6およびIGF1Rである。
【0009】
本発明はまた、卵母細胞または胚を囲む卵丘細胞において、A群、B群またはC群から選択される1つ以上の遺伝子の発現レベルを測定する工程を含む、コンピテントな卵母細胞またはコンピテントな胚を選択するための方法に関し、A群はPCK1、ADPRH、CABP4、SLAMF6、CAMTA1、CSPG2およびPRF1からなり;B群はFOSB、NLGN2、PDE5A、PLA2G5、GPC6およびEGR3からなり;そしてC群はNFIB、NFIC、IGF1R、G0S2、GIRK5およびRBMS1からなる。
【0010】
A群から選択される1つ以上の遺伝子の過剰発現は、妊娠に至るコンピテントな卵母細胞または胚を予測する。B群から選択される1つ以上の遺伝子の過剰発現は、非コンピテントな卵母細胞または胚を予測し、前記胚は着床することができない。C群から選択される1つ以上の遺伝子の過剰発現は、早期胚停止に因る非コンピテントな卵母細胞または胚を予測する。
【0011】
発明の詳細な説明:
本発明者らは、卵丘細胞において発現される遺伝子のセットを、胚の能力および妊娠成績についてのバイオバーカーとして決定した。本発明者らは、卵母細胞を囲む卵丘細胞の遺伝子発現プロファイルが異なる妊娠成績に相関し、これが妊娠に向けて発達する胚の特異的な発現サインの同定を可能とすることを実証した。本発明者らの結果は、卵母細胞を囲む卵丘細胞の分析が、胚の選択のための非侵襲的なアプローチであることを示す。
【0012】
予測遺伝子のセット:
本発明に関する全ての遺伝子はそれ自体公知であり、そして以下の表AおよびBに列挙されている。表AおよびBは、その合わせた発現プロファイルが、コンピテントな卵母細胞を選択するための、または妊娠に至る高い着床力を有するコンピテントな胚を選択するための情報となることが示された遺伝子セットを提示する。
【0013】
【表1】



【0014】
本発明の目的は、卵母細胞を囲む卵丘細胞において45個の遺伝子の発現レベルを測定する工程を含む、コンピテントな卵母細胞を選択するための方法に関し、前記遺伝子は、WNT6、LRCH4、PAX8、CABP4、PDE5A、BCL2L11、PCK1、TCF20、SLAMF6、EPOR、CACNG6、NLRP1、PECAM1、NOS1、ATF3、KRTAP8、GRIK5、SLC24A3、SLC5A12、SLCA10A2、SLCO1A2、SLC25A5、MG29、NLGN2、PRKACA、FOSB、SIAT6、LOXL2、PRF1、ADPRH、APBB3、EGR3、CNR2、IFITM1、PLA2G5、CAMTA1、SOX4、NFIB、NFIC、RBMS1、G0S2、FAT3、SLC40A1、GPC6およびIGF1Rである。
【0015】
本明細書において使用する「コンピテントな卵母細胞」という用語は、受精すると妊娠に至る高い着床率を有する生存可能な胚を産生する、雌性配偶子または雌性卵を指す。
【0016】
本発明によると、卵母細胞は、天然サイクル、改変された天然サイクル、またはcIVFもしくはICSIのために刺激されたサイクルから生じ得る。「天然サイクル」という用語は、雌または女性が卵母細胞を産生する天然サイクルを指す。「改変された天然サイクル」という用語は、雌または女性が、組換えFSHまたはhMGと合わせたGnRHアンタゴニストを用いての穏やかな卵巣刺激下において1つまたは2つの卵母細胞を産生する過程を指す。「刺激されたサイクル」という用語は、雌または女性が、組換えFSHまたはhMGと合わせたGnRHアゴニストまたはアンタゴニストを用いての刺激下において1つ以上の卵母細胞を産生する過程を指す。
【0017】
「卵丘細胞」という用語は、卵母細胞を囲む細胞塊に含まれる細胞を指す。これらの細胞は、卵母細胞に、その栄養的ないくらかのエネルギー、およびまたは受精時に生存可能な胚を生じるに必要な他の必要条件を提供することに関与すると考えられている。
【0018】
本発明の方法は、さらに、試料中の遺伝子の発現レベルを対照と比較することからなる工程を含み得、試料と対照との間の前記遺伝子の発現レベルの差異の検出は、前記卵母細胞がコンピテントであるかどうかを示す。対照は、コンピテントな卵母細胞を伴う卵丘細胞を含む試料、または授精していない卵母細胞を伴う卵丘細胞を含む試料からなり得る。
【0019】
本発明の方法は、女性に好ましくは適用可能であるが、他の哺乳動物(例えば霊長類、イヌ、ネコ、ブタ、ウシなど)にも適用可能であり得る。
【0020】
本発明の方法は、特に、体外受精による処置の効力を評価するのに適している。従って、本発明は、また、
i)前記の雌被験体から、少なくとも1つの卵母細胞をその卵丘細胞と共に準備する工程;
ii)本発明の方法によって、前記卵母細胞がコンピテントな卵母細胞であるかどうかを決定する工程
を含む、雌の被験体における調節卵巣過剰刺激(COS)プロトコールの効力を評価するための方法にも関する。
【0021】
その後、このような方法の後、発生学者はコンピテントな卵母細胞を選択し得、そしてそれらを、古典的な体外受精(cIVF)プロトコールによってか、または卵細胞質内精子注入(ICSI)プロトコール下で体外受精し得る。
【0022】
本発明のさらなる目的は、
i)前記女性から、天然サイクル、改変サイクルまたは刺激されたサイクル下において、少なくとも1つの卵母細胞をその卵丘細胞と共に単離する工程;
ii)本発明の方法によって、前記卵母細胞がコンピテントな卵母細胞であるかどうかを決定する工程;
iii)そして、それがコンピテントな卵母細胞を生じるかどうかに基づいて、COS処置の効力をモニタリングする工程
を含む、調節卵巣過剰刺激(COS)プロトコールの効力をモニタリングするための方法に関する。
【0023】
COS処置は、組換えFSHまたはhMGと合わせたGnRHアゴニストまたはアンタゴニストからなる群より選択される少なくとも1つの活性成分に基づき得る。
【0024】
本発明はまた、胚を囲む卵丘細胞において45個の遺伝子の発現レベルを測定する工程を含む、コンピテントな胚を選択するための方法に関し、前記遺伝子は、WNT6、LRCH4、PAX8、CABP4、PDE5A、BCL2L11、PCK1、TCF20、SLAMF6、EPOR、CACNG6、NLRP1、PECAM1、NOS1、ATF3、KRTAP8、GRIK5、SLC24A3、SLC5A12、SLCA10A2、SLCO1A2、SLC25A5、MG29、NLGN2、PRKACA、FOSB、SIAT6、LOXL2、PRF1、ADPRH、APBB3、EGR3、CNR2、IFITM1、PLA2G5、CAMTA1、SOX4、NFIB、NFIC、RBMS1、G0S2、FAT3、SLC40A1、GPC6およびIGF1Rである。
【0025】
「胚」という用語は、受精した卵母細胞または接合体を指す。前記受精は、古典的な体外受精(cIVF)下または卵細胞質内精子注入(ICSI)プロトコール下において介入し得る。
【0026】
「古典的な体外受精」すなわち「cIVF」という用語は、卵母細胞が、生体外でin vitroにおいて精子によって受精する過程を指す。IVFは、in vivoにおける受胎が失敗した場合の不妊の主要な処置である。「卵細胞質内精子注入」すなわち「ICSI」という用語は、1つの精子が直接的に卵母細胞に注入される体外受精手順を指す。この手順は、男性不妊要因を克服するために最も一般的に使用されるが、卵母細胞が精子によって容易に貫通されることができない場合、および時に精子提供に特に関連した体外受精の方法として使用され得る。
【0027】
「コンピテントな胚」という用語は、妊娠に至る高い着床率を有する胚を指す。「高い着床率」という用語は、子宮に移植された場合に、子宮環境に着床し、そして生存可能な胎児を生じ、次いで前記妊娠を中途で終える手順または事象を伴うことなく生存可能な子孫を発達させる、胚の能力を意味する。
【0028】
本発明の方法は、試料中の前記遺伝子の発現レベルを対照と比較することからなる工程をさらに含み得、試料と対照との間の前記遺伝子の発現レベルの差異の検出は、前記胚がコンピテントであるかどうかを示す。対照は、生存可能な胎児を生じる胚に関連した卵丘細胞を含む試料、または生存可能な胎児を生じない胚に関連した卵丘細胞を含む試料からなり得る。
【0029】
本発明の方法が胚の形態学的な考察に依存しないことは特筆すべきことである。2つの胚は同じ形態学的な局面を有し得るが、本発明の方法によって、妊娠に至る異なる着床率を提示し得る。
【0030】
本発明の方法は、女性に好ましくは適用可能であるが、他の哺乳動物(例えば霊長類、イヌ、ネコ、ブタ、ウシなど)にも適用可能であり得る。
【0031】
本発明はまた、胚を囲む卵丘細胞において45個の遺伝子の発現レベルを測定することからなる工程を含む、胚がコンピテントな胚であるかどうかを決定するための方法に関し、前記遺伝子は、WNT6、LRCH4、PAX8、CABP4、PDE5A、BCL2L11、PCK1、TCF20、SLAMF6、EPOR、CACNG6、NLRP1、PECAM1、NOS1、ATF3、KRTAP8、GRIK5、SLC24A3、SLC5A12、SLCA10A2、SLCO1A2、SLC25A5、MG29、NLGN2、PRKACA、FOSB、SIAT6、LOXL2、PRF1、ADPRH、APBB3、EGR3、CNR2、IFITM1、PLA2G5、CAMTA1、SOX4、NFIB、NFIC、RBMS1、G0S2、FAT3、SLC40A1、GPC6およびIGF1Rである。
【0032】
本発明は、また、
i)卵母細胞をその卵丘細胞と共に準備する工程、
ii)前記卵母細胞を体外受精する工程
iii)本発明の方法によって工程i)の前記卵母細胞がコンピテントな卵母細胞であるかどうかを決定することによって、工程ii)から生じた胚がコンピテントであるかどうかを決定する工程
を含む、胚がコンピテントな胚であるかどうかを決定するための方法にも関する。
【0033】
本発明は、また、卵母細胞または胚を囲む卵丘細胞において、A群、B群またはC群から選択される1つ以上の遺伝子の発現レベルを測定する工程を含む、前記のコンピテントな卵母細胞または前記のコンピテントな胚を選択するための方法にも関し、A群はPCK1、ADPRH、CABP4、SLAMF6、CAMTA1、CSPG2およびPRF1からなり;B群はFOSB、NLGN2、PDE5A、PLA2G5、GPC6およびEGR3からなり;そしてC群はNFIB、NFIC、IGF1R、G0S2、GIRK5およびRBMS1からなる。
【0034】
A群から選択される1つ以上の遺伝子の過剰発現は、妊娠に至るコンピテントな卵母細胞または胚を予測する。B群から選択される1つ以上の遺伝子の過剰発現は、非コンピテントな卵母細胞または胚を予測し、前記胚は着床することができない。C群から選択される1つ以上の遺伝子の過剰発現は、早期胚停止に因る非コンピテントな卵母細胞または胚を予測する。
【0035】
前記の1つ以上の遺伝子を、例えば、A群のみ、B群のみ、またはC群のみから選択し得る。
【0036】
典型的には、1、2、3、4、5、6または7個の遺伝子をA群から選択し得る。
【0037】
典型的には、1、2、3、4、5または6個の遺伝子をB群から選択し得る。
【0038】
典型的には、1、2、3、4、5または6個の遺伝子をC群から選択し得る。
【0039】
あるいは、前記遺伝子を、A群およびB群から、A群およびC群から、B群およびC群から、またはA群、B群およびC群から選択し得る。
【0040】
典型的には、1、2、3、4、5、6または7個の遺伝子をA群から選択し得、そして0、1、2、3、4、5または6個の遺伝子をB群から選択し得、そして0、1、2、3、4、5または6個の遺伝子をC群から選択し得る。
【0041】
典型的には、0、1、2、3、4、5、6または7個の遺伝子をA群から選択し得、そして1、2、3、4、5または6個の遺伝子をB群から選択し得、そして0、1、2、3、4、5または6個の遺伝子をC群から選択し得る。
【0042】
典型的には、0、1、2、3、4、5、6または7個の遺伝子をA群から選択し得、そして0、1、2、3、4、5または6個の遺伝子をB群から選択し得、そして1、2、3、4、5または6個の遺伝子をC群から選択し得る。
【0043】
本発明の方法は、雌の妊娠成績を増強するのに特に適している。従って、本発明は、また、
i)本発明の方法を実施することによってコンピテントな胚を選択する工程、
ii)前記雌の子宮に工程i)において選択された胚を着床させる工程
を含む、雌の妊娠成績を増強するための方法にも関する。
【0044】
前記したような方法は、従って、発生学者が、妊娠成績について低い能力を有する胚の子宮への移植を回避するのを助ける。
【0045】
前記したような方法はまた、着床および妊娠に至ることのできるコンピテントな胚を選択することによって、多胎妊娠を回避するのに特に適している。
【0046】
上の全ての場合において、前記方法は、卵丘細胞および胚の遺伝子発現プロファイルと、妊娠成績との間の関係を記載した。
【0047】
本発明の遺伝子の発現レベルを決定するための方法:
表AおよびBにおいて前記したような遺伝子の発現レベルの決定を、多種多様な技術によって実施することができる。一般的には、決定されたような発現レベルは、相対的な発現レベルである。
【0048】
より好ましくは、決定は、試料を、プローブ、プライマーまたはリガンドなどの選択的試薬と接触させ、そしてこれにより、試料中に元来存在する対象のポリペプチドまたは核酸の存在を検出またはその量を測定することを含む。接触は、プレート、マイクロタイターディッシュ、試験チューブ、ウェル、ガラス、カラムなどの任意の適切な器具においてであり得る。特別な態様において、接触は、核酸アレイまたは特異的なリガンドアレイなどの試薬でコーティングされた基材上で行なう。基材は、ガラス、プラスチック、ナイロン、紙、金属、ポリマーなどを含む任意の適切な支持体などの固体状または半固体状の基材であり得る。基材は、種々の形状およびサイズのものであり得、例えばスライド、膜、ビーズ、カラム、ゲルなどであり得る。接触は、核酸ハイブリッドまたは抗体−抗原複合体などの検出可能な複合体が、試薬と、試料の核酸またはポリペプチドとの間で形成されるのに適した任意の条件下で行なわれ得る。
【0049】
好ましい態様において、発現レベルは、mRNAの量を決定することによって決定され得る。
【0050】
mRNAの量を決定するための方法は当技術分野において周知である。例えば、試料中に含まれる核酸(例えば患者から調製された細胞または組織)をまず、例えば溶解酵素または化学溶液を使用して標準的な方法に従って抽出するか、あるいは製造業者の指示に従って核酸結合樹脂によって抽出する。その後、抽出されたmRNAをハイブリダイゼーション(例えばノザンブロット分析)および/または増幅(例えばRT−PCR)によって検出する。好ましくは定量または半定量RT−PCRが好ましい。リアルタイム定量または半定量RT−PCRが特に有利である。
【0051】
増幅の他の方法としては、リガンド連鎖反応(LCR)、転写介在増幅法(TMA)、鎖置換型増幅法(SDA)および核酸配列ベース増幅法(NASBA)が挙げられる。
【0052】
少なくとも10個のヌクレオチドを有し、そして対象のmRNAに対する配列相補性または相同性を示す核酸は、本明細書において、ハイブリダイゼーションプローブまたは増幅プライマーとして有用性を見出す。このような核酸は同一である必要はないが、典型的には同等なサイズの相同領域に対して少なくとも約80%同一、より好ましくは85%同一、さらにより好ましくは90〜95%同一であることが理解される。特定の態様において、ハイブリダイゼーションの検出のために、検出可能な標識などの適切な手段と組み合わせて核酸を使用することが有利である。当技術分野において、蛍光リガンド、放射能リガンド、酵素リガンドまたは他のリガンド(例えばアビジン/ビオチン)を含む、多種多様な適切な指示薬が知られている。
【0053】
プローブは、典型的には、10〜1000、例えば10〜800、より好ましくは15〜700、典型的には20〜500のヌクレオチド長の一本鎖核酸を含む。プライマーは、典型的には、増幅しようとする対象の核酸と完全にまたはほぼ完全に一致するように設計された、10〜25ヌクレオチド長の、より短い一本鎖核酸である。プローブおよびプライマーは、それらがハイブリダイゼーションする核酸に対して「特異的」であり、すなわち、それらは好ましくは高いストリンジェンシーなハイブリダイゼーション条件下において(最も高い融解温度Tmに相当する、例えば50%ホルムアミド、5×または6×SCC。SCCは、0.15M NaCl、0.015M クエン酸Naである)ハイブリダイゼーションする。
【0054】
上の増幅法および検出法において使用される核酸プライマーまたはプローブは、キットしてまとめられていてもよい。このようなキットは、共通プライマーおよび分子プローブを含む。好ましいキットはまた、増幅が起こったかどうかを決定するのに必要な成分を含む。前記キットはまた、例えばPCR緩衝液および酵素:正の対照配列、反応対照プライマー;および、特異的な配列を増幅および検出するための説明書を含み得る。
【0055】
特定の態様において、本発明の方法は、卵丘細胞から抽出した全RNAを準備する工程、そして、より特定すると定量または半定量RT−PCRを用いて、前記RNAを増幅し特異的なプローブに対するハイブリダイゼーションにかける工程を含む。
【0056】
別の好ましい態様において、発現レベルは、DNAチップ分析によって決定される。このようなDNAチップまたは核酸マイクロアレイは、基材(マイクロチップ、スライドガラスまたはマイクロスフィアのサイズのビーズであり得る)に化学的に付着させた種々の核酸プローブからなる。マイクロチップは、ポリマー、プラスチック、樹脂、多糖、シリカまたはシリカをベースとした材料、炭素、金属、無機ガラスまたはニトロセルロースから構成され得る。プローブは、約10〜約60塩基対であり得るcDNAまたはオリゴヌクレオチドなどの核酸を含む。発現レベルを決定するために、場合により最初に逆転写にかけた試験被験体からの試料を標識し、そしてマイクロアレイ表面に付着させたプローブ配列に対して相補的であるターゲット核酸との間に複合体の形成をもたらすハイブリダイゼーション条件においてマイクロアレイと接触させる。その後、標識されハイブリダイゼーションされた複合体を検出し、そして定量または半定量することができる。標識を、種々の方法によって、例えば放射能標識または蛍光標識を使用することによって行なうことができる。マイクロアレイハイブリダイゼーション技術の多くの改変形が当業者には利用可能である(例えば、Hoheisel, Nature Reviews, Genetics, 2006, 7:200-210による総説を参照)。
【0057】
この脈絡において、本発明はさらに、表AまたはBにおいて列挙した遺伝子に対して特異的である核酸を有する固相支持体を含むDNAチップを提供する。
【0058】
前記遺伝子の発現レベルを決定するための他の方法は、前記遺伝子によってコードされるタンパク質の量の決定を含む。
【0059】
このような方法は、試料を、試料中に存在するマーカータンパク質と選択的に相互作用することのできる結合対と接触させることを含む。結合対は、一般的に、ポリクローナルまたはモノクローナル、好ましくはモノクローナルであり得る抗体である。
【0060】
タンパク質の存在を、競合、直接的な反応またはサンドイッチ型アッセイなどのイムノアッセイを含む、標準的な電気泳動技術および免疫診断技術を使用して検出することができる。このようなアッセイは、ウェスタンブロット;凝集試験;酵素標識イムノアッセイおよび酵素イムノアッセイ、例えばELISA;ビオチン/アビジン型アッセイ;ラジオイムノアッセイ;免疫電気泳動;免疫沈降などを含むがそれらに限定されない。反応は、一般的に、蛍光標識、化学発光標識、放射能標識、酵素標識またはダイ分子などの顕現化標識、または抗原と、それと反応する抗体または抗体群との間の複合体の形成を検出するための他の方法を含む。
【0061】
前記のアッセイは、一般的に、抗原−抗体複合体が結合した固相支持体からの、液相中の非結合タンパク質の分離を含む。本発明の実施に使用することのできる固相支持体は、ニトロセルロース(例えば膜またはマイクロタイターウェルの形状);ポリビニルクロライド(例えばシートまたはマイクロタイターのウェル);ポリスチレンラテックス(例えばビーズまたはマイクロタイタープレート);ポリビニリデンフルオライド;ジアゾ化紙;ナイロン膜;活性化ビーズ、磁気反応性ビーズなどの基材を含む。
【0062】
より特定すると、ELISA法を使用することができ、マイクロタイタープレートのウェルは、試験しようとするタンパク質に対する抗体でコーティングされている。マーカータンパク質を含むまたは含むことが疑われる生物学的試料を、その後、コーティングされたウェルに加える。抗体−抗原複合体の形成を可能とするに十分なインキュベーション期間の後、プレート(群)を洗浄して、非結合部分を除去し、そして検出可能となるように標識された二次結合分子を加えることができる。二次結合分子を、あらゆる捕捉される試料マーカータンパク質と反応させ、プレートを洗浄し、そして二次結合分子の存在を当技術分野において周知の方法を使用して検出する。
【0063】
あるいは、免疫組織化学(IHC)法が好ましくあり得る。IHCは、特異的に、in situにおいて試料または組織標本中のターゲットを検出する方法を提供する。試料の全体的な細胞の完全性がIHCにおいては維持され、従って、対象のターゲットの存在および位置の両方の検出が可能となる。典型的には、試料をホルマリンで固定し、パラフィン中に包埋し、そして染色およびその後の光学顕微鏡による検査のために切片に切断する。IHCの現在の方法は、直接的な標識または二次抗体に基づいたもしくはハプテンに基づいた標識のいずれかを使用する。公知のIHCシステムの例としては、例えば、EnVision(TM) (DakoCytomation)、Powervision(R) (Immunovision, Springdale, AZ)、NBA(TM)キット(Zymed Laboratories Inc., South San Francisco, CA)、HistoFine(R) (Nichirei Corp, Tokyo, Japan)が挙げられる。
【0064】
特定の態様において、組織切片(例えば卵丘細胞を含む試料)を、対象の遺伝子によってコードされるタンパク質に対して作られた抗体と共にインキュベーションした後、スライドまたは他の支持体上に載せ得る。その後、適切な固相支持体上に載せられた試料の顕微鏡による検査を行ない得る。顕微鏡写真の作成のために、切片を含む試料をスライドガラスまたは他の平面の支持体上に載せて、対象のタンパク質の存在を選択的に染色することによって強調し得る。
【0065】
それ故、IHC試料は、例えば、(a)卵丘細胞を含む調製物(b)固定および包埋された前記細胞および(c)前記の細胞試料中における対象のタンパク質の検出を含み得る。いくつかの態様において、IHC染色手順は、組織の切断および整え、固定、脱水、パラフィン浸透、薄い切片へと切断、スライドガラス上への積載、ベーキング、脱パラフィン処理、親水化、抗原回収、遮断工程、一次抗体のアプライ、洗浄、(場合により適切な検出可能な標識に結合させた)二次抗体のアプライ、洗浄、対比染色および顕微鏡による検査などの工程を含み得る。
【0066】
本発明は、また、前記したような方法を実施するためのキットにも関し、前記キットは、卵母細胞または胚がコンピテントであるかどうかを示す、表AまたはBの遺伝子の発現レベルを測定するための手段を含む。
【0067】
本発明は、さらに、以下の図面および実施例によって説明される。しかしながら、これらの実施例および図面をいずれにしても、本発明の範囲を制限するものとは解釈すべきではない。
【0068】
実施例:ヒト卵丘細胞の遺伝子発現プロファイルによって胚の能力を評価するための非侵襲的な試験
実施例1
材料および方法:
患者およびIVF処置:この後向き研究において、30.9±2.5歳の年齢で、男性不妊要因のために本発明者らのICSI(卵細胞質内精子注入)センターに問い合わせられた通常の応答患者(n=30)を研究した。患者を、組換えFSH(GonalF、Puregon;それぞれMerck-SeronoおよびOrganon)またはhMG(Menopur, Ferring)とGnRHアゴニストまたはアンタゴニストの組合せを用いて刺激した。卵巣応答を、血清中エストラジオールレベルおよび超音波検査によって評価して、卵胞の発達をモニタリングした。卵母細胞の回収を、超音波の指針下で、hCG投与(5000IU)の投与から36時間後に実施した。
【0069】
胚の品質の評価:マイクロインジェクションから2日後および3日後に、個々に培養した胚の品質パラメーターを、卵割球の数およびフラグメンテーション度を判断基準として使用して評価した(グレード1〜2:等しいサイズの卵割球および0〜20%のフラグメンテーション、グレード3〜4:等しいサイズの卵割球は全くなく、20%を超えるフラグメンテーション)。最高品質の胚は、3日目に、6〜8細胞、等しいサイズの卵割球、およびフラグメンテーションが全くないとして定義された。1つまたは2つの胚を、卵母細胞を回収した3日後に移植した。臨床的な妊娠を、血清中β−hCGおよび超音波検査(心拍と胎嚢の存在)にそれぞれ基づいて、胚移植の2週間後および6週間後に評価した。
【0070】
卵丘細胞:全ての卵丘細胞(CC)試料を、卵収集日に凍結させた。その後、患者1人あたり1〜3つのCC試料をマイクロアレイ分析のために無作為に選択した。全部で50個のCC試料を50個の単一の卵母細胞から収集し、そして個々に分析した:グレード1〜2の胚からの34個のCC(n=20人の患者)、グレード3〜4の胚からの11個のCC(n=10人の患者)および受精していない卵母細胞からの5つのCC(n=5人の患者)(表1)。
【0071】
【表2】

【0072】
データ分析を、マイクロアレイをハイブリダイゼーションさせた後にのみ妊娠成績を開示する二重盲検条件下において実施した。妊娠成績に関して、受精した卵母細胞からの45個のCCは、妊娠をもたらさなかったグレード1〜2の胚からの16個のCC(n=9人の患者)、正の妊娠成績に関連した18個のCC(n=11人の患者)、および移植されなかったグレード3〜4の胚からの11個のCCを含んでいた。卵丘細胞を、卵母細胞の回収後にすぐに剥ぎ取った(hCG投与から40時間後未満)。卵丘細胞を機械で除去し、そして培養培地中で洗浄し、そして直ちに−80℃でRLT RNA抽出緩衝液(RNeasyキット, Qiagen, Valencia, CA, USA)中で凍結させて、その後、RNA抽出を行なった。
【0073】
顆粒膜細胞:男性不妊要因のためにICSIプログラムに問い合わせられた正常な応答患者(n=8)(34.8±3.2歳)の独立した群を、顆粒膜細胞の収集のために選択した(8個の試料)。卵母細胞の回収後直ちに、同じ患者の成熟した卵胞(17mmを超える)の卵胞液を、卵丘卵母細胞複合体の除去後にプールし、そして、50mlのバッチ中のHBSS溶液(BioWhittaker)の1/3容量に希釈して、これは1つの試料を示す。顆粒膜細胞の精製は、(Kolena et al., 1983)によるプロトコールから適応させた。20分間のスイングするバケツ中における500gでの遠心分離後に、顆粒膜細胞をフィコールクッション(12mlのリンパ球分離培地、BioWhittaker)上に収集した。それらを、HBSSおよびPBS中で連続的に洗浄し、血液溶解緩衝液(KHCO10mM、NHCl 150mM、EDTA 0.1mM)中で5分間インキュベーションして赤血球を除去し、計測し、PBS中でペレット化し、その後、RLT緩衝液(Quiagen)中に溶解し、そして−80℃で保存した。卵胞穿刺の回数および精製顆粒膜細胞の数は、それぞれ、6〜12回および2×10〜9×10個であった。
【0074】
相補的RNA(cRNA)調製およびマイクロアレイハイブリダイゼーション:CCおよび顆粒膜細胞のRNAを、マイクロRNeasyキット(Quiagen)を使用して抽出した。全RNAの量を、Nanodrop ND-1000分光光度計(Nanodrop Technologies Inc., DE, USA)を用いて測定し、そしてRNAの完全性を、Agilent 2100バイオアナライザー(Agilent, Palo Alto, CA, USA)を用いて評価した。cRNAを、全RNA(70ng〜100ngまで)から開始して製造業者のプロトコール「2回増幅」(Two-Cycle cDNA Synthesis Kit, Invitrogen)に従って2回の増幅により調製した。1回目の増幅後に得られたcRNAは0.1μg/μl〜1.9μg/μlであり、そして2回目の増幅後では1.6μg/μl〜4.5μg/μlであった。
【0075】
標識され断片化されたcRNA(12μg)を、約30000個の独特なヒト遺伝子または予測される遺伝子に対応する54675セットのオリゴヌクレオチドプローブ(「プローブセット」)を含む、Affymetrix HG-U133 Plus 2.0アレイ上のオリゴヌクレオチドプローブにハイブリダイゼーションさせた。各卵丘および顆粒膜試料を、マイクロアレイチップ上に個々に置いた。
【0076】
データ処理:走査したGeneChip画像を、Affymetrix GCOS 1.4ソフトウェアを使用して処理し、デフォールト分析設定およびグローバルスケーリングを最初の標準化法として使用して、各々のアレイの整えられた平均ターゲット強度値(TGT)を任意に100と設定して、各プローブセットについての強度値および検出コール(有、辺縁域、または無)を得た。プローブ強度をMAS5.0アルゴリズムを使用して導いた。このアルゴリズムはまた、遺伝子が規定の信頼レベルで発現されているかまたは発現されていないかどうかを決定する(「検出コール」)。この「コール」は「有」(完全に一致するプローブが、ミスマッチプローブよりも有意により多くハイブリダイゼーションする場合、p値<0.04)、「辺縁域」(p値>0.04および<0.06)または「無」(p値>0.06)のいずれかであり得る。マイクロアレイデータは、本発明者らの研究室においてMinimal Information about a Microarray Experiment MIAMEの推奨(Brazma et al. 2001)と一致して得られた。
【0077】
データ分析および可視化:マイクロアレイの有意性分析(SAM)(Tusher et al., 2001) (http://www-stat.stanford.edu/~tibs/SAM/)を使用して、発現が試料群間で有意に異なる遺伝子を同定した。SAMは、データ並べ替えに基づいた倍率変化(FC)の平均値または中央値および偽陽性比率(FDR)の信頼度%を提供する(倍率変化平均>2、およびFDR<5%)。卵丘細胞試料と顆粒膜細胞試料との間の遺伝子発現プロファイルの比較を可能とするアレイ分析は、まず、有意なRNA検出(検出コール「有」または「無」)に基づき、そしてその後、SAM(マイクロアレイの有意性分析)に提出され、発現が試料群間で有意に変化した遺伝子が同定される。胚の品質および/または妊娠成績により卵丘細胞試料間の遺伝子発現プロファイルの比較を行なうために、変動係数(CV≧40%)および無/有「検出コール」フィルターを使用したプローブセットの教師なしの選択をSAMの前に実施した。変化した(グレード3〜4)および良好な(グレード1〜2)胚の発達からの、または妊娠に至るもしくは至らない胚からの卵丘細胞のプロファイル発現を比較するために、本発明者らは、主成分分析(PCA)および階層的なクラスタリングの両方を用いて教師なし分類を実施した(de Hoon et al., 2004; Eisen et al., 1998)。PCAは、RAGEwebインターフェース(http://rage.montp.inserm.fr) (Reme et al., 2008)を通したR統計ソフトウェアに基づいた元来のスクリプトを含んでいた。種々のプローブの発現レベルに基づいた階層的なクラスタリング分析を、CLUSTERおよびTREEVIEWソフトウェアパッケージを用いて実施した。機能的な生物学的なネットワークおよび一番定型的な経路を明らかにするために、本発明者らは、遺伝子発現サインをIngenuity Pathways Analysis (IPA)ソフトウェア(Ingenuity Systems, Redwood City, CA, USA)にインポートした。
【0078】
定量RT−PCR分析:qRT−PCR分析のために、マイクロアレイ実験に使用する10個のCC試料を、その妊娠成績に従って選択した(10人の患者に相当する、負の成績に関連する5個のCC試料および正の成績に関連する5個のCC試料)。患者からの標識されたcRNA(1μg)を使用して第1鎖cDNAを生成した。これらのcDNA(1/10希釈の5μl)を、製造業者の推奨に従って(Applied Biosytems)リアルタイム定量PCR反応のために使用した。20μlの反応混合物はcDNA(5μl)、1μMのプライマーおよび10μlのTaqman Universal PCR Master Mix(Applied Biosystem)からなっていた。増幅を60℃のアニーリング温度で40サイクルの間に測定した。PCR反応の全てのサイクル工程において産生されたPCR産物の量を、TaqManプローブによってモニタリングする。閾値は増殖曲線の指数関数期に設定され、これからサイクル数(「サイクル閾値(Cycle Threshold)については「Ct」)を解読する。Ct値を、相対的なmRNA転写レベルの計算に使用する。PCRの有効性(E)を測定した。この有効性は、使用するプライマーに対応する標準曲線によって得られる。定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(QRT−PCR)を、ABI Prism7000配列検出システム(Applied Biosystems)を使用して実施し、そして以下の式を使用して各試料についてPGK1に正規化した:E試験したプライマーΔCt/EPGK1ΔCt(E=10−1/勾配)、ΔCt=Ct対照−Ct未知、対照=非妊娠群の1つのCC試料)。各試料を2回分析し、そして複数の水のブランクを分析に含めた。
【0079】
結果
胚の成績によるCCの遺伝子発現プロファイル:胚の成績に相関したCCの遺伝子発現プロファイルを同定するために、本発明者らは、各々の成績カテゴリーについての遺伝子発現サインを確立した:受精していない卵母細胞のCC、胚の発達をもたらすが広範なフラグメンテーションをもたらした(グレード3〜4)卵母細胞のCC、および全くフラグメンテーションがないかまたは限定されたフラグメンテーションを伴う胚の発達をもたらした(グレード1〜2)卵母細胞のCC。顆粒膜細胞試料を、リファレンス組織(対照)と捉えた。実際に、顆粒膜細胞は、他の成体組織とは異なり、CCに密接に関連した細胞である。このリファレンス組織の使用は、粗の系統差異に関連した異なって発現される遺伝子の数を低下させ、従って、CC/卵母細胞の相互作用における僅かな変化の同定を促進する。SAM分析は、受精されていない群において2605個の遺伝子が、グレード3/4群において2739個の遺伝子が、グレード1〜2群において2482個の遺伝子がFDR<5%でアップレギュレーションされていたことを示した。逆に、それぞれ4270個、4349個および4483個の遺伝子がダウンレギュレーションされた。その後、遺伝子のこれらのリストを交差させて、その重複を決定した。449個の上昇発現および890個の下降発現した遺伝子が、3つ全ての群において共通し、各カテゴリーは特異的な遺伝子発現プロファイルを示した。興味深いことに、860個のアップレギュレーションされた遺伝子(例えばガラニンおよびギャップジャンクションA5(GJA5)を含む)および1416個のダウンレギュレーションされた遺伝子(HLA−GおよびEGR1を含む)が、良好な形態学的な胚の品質を伴う卵丘細胞において特異的にモデュレーションされていた。グレード1〜2の群は、強力な遺伝子発現プロファイルを示したが、この群は妊娠成績に関して不均一であり、そして妊娠をもたらす胚に関連した18個のCC試料(4つの双胎妊娠を含む)を含んだが、妊娠をもたらすことに失敗した胚に関連した16個のCC試料も含んでいたことを注記しなければならない。
【0080】
妊娠成績によるCCの遺伝子発現プロファイル:それ故、CC試料を妊娠成績により比較した。SAM分析は2つの患者群間(妊娠vs非妊娠)で有意に(FDR<5%)変化した630個の遺伝子の「妊娠成績」のリストを描写した。PCAおよび階層的クラスタリングは、この630個の遺伝子のリストが実際に、妊娠に関連したCC試料の大半を、非妊娠に関連したものから分離したことを確認した。特筆すべきは、「妊娠成績」リストの遺伝子は、主に、良好な成績を伴う試料においてアップレギュレーションされていた。「妊娠成績」発現サインは、「妊娠」群に関連した胚からの10個のCC試料の亜群において特に顕著であった。
【0081】
妊娠成績遺伝子リストの機能的アノテーション:妊娠を達成する胚に関連した生物学的過程を調べるために、Ingenuity社およびPubmedデータベースを使用して、「妊娠成績」遺伝子リストからの630個の遺伝子をアノテーションした。その過剰発現が妊娠に関連している遺伝子の中で、最も有意に過剰提示されている経路は「酸化的ストレス」、「TR/RXR活性化」、「細胞周期のG2/M移行」、「異物代謝」および「NF−κB」シグナル伝達であった。これらの経路の中で、最も代表的な遺伝子はインターロイキン、ケモカイン、アダプタータンパク質、およびキナーゼであった:IL1β(非妊娠に対して妊娠試料において4.5倍、P=0.001)、IL16(4.8倍、P=0.001)、IL8(2.6倍、P=0.007)、IL1RN(2.1倍、P=0.0051)、IL17RC(3.6倍、P=0.001)、TIRAP(8.0倍、P=0.001)、CXCL12(3.1倍、P=0.001)、CCR5(2.6倍、P=0.0051)、およびPCK1(3.4倍、P=0.001)。顕著には、アポトーシスの調節に関与する多くの遺伝子が、妊娠をもたらす卵母細胞のCC試料において有意にモデュレーションされていた。これらの遺伝子は、BCL2L11(6.9倍、P<0.001)、CRADD(2倍、P=0.0036)、NEMO(4.6倍、P<0.001)、BCL10(3.1倍、P=<0.001)、SERPINB8(9.1倍、P<0.001)およびTNFSF13(2.5倍、P=0.0038)であった。
【0082】
他方で、非妊娠に関連する遺伝子は、以下の経路に関連していた:G2/M DNA傷害および細胞周期チェックポイント、「ソニックヘッジホッグ」、「IGF-1」、「補体系」および「Wnt/β−カテニン」シグナル伝達。非妊娠に関連する代表的な遺伝子としては、NFIB(0.3倍、P<0.001)、MAD2L1(0.4倍、P<0.001)およびIGF1R(0.4倍、P<0.001)が挙げられた。
【0083】
胚の能力についてのCCにおいて発現される候補遺伝子:妊娠成績によるCCのSAM分析は、CC分析の遺伝子発現に基づいて、妊娠をもたらす胚を産生する卵母細胞と、妊娠をもたらさなかったものとの間で異なるであろう胚の能力についてのバイオマーカーである表Aの45個の遺伝子を同定した。QRT−PCRを使用してマイクロアレイデータを独立的に確認した。本発明者らは、妊娠を達成しなかったグレード1〜2の胚のCCと、妊娠を達成したグレード1〜2の胚のCCとの間の、36個のアップレギュレーションされた遺伝子および9個のダウンレギュレーションされた遺伝子の異なる発現を分析した。
【0084】
結論:
ヒトを含む大半の哺乳動物種において、卵母細胞を囲む卵丘細胞は、依然として受精時に輸卵管に存在し、そして胚が着床するまで留まる。卵丘内および周辺における細胞外マトリックス再構築はおそらく、これらの両方の工程において重要な役割を果たしている。これに関して、本発明者らは、胚の能力および妊娠成績についてのバイオマーカーである卵丘細胞において発現されている45個の遺伝子を同定した。本発明者らの研究において、本発明者らは、卵母細胞を囲むCCの遺伝子発現プロファイルが異なる成績に関連し、これは妊娠に向けて発達している胚の特異的な発現サインの同定を可能とすることを実証した。結論すると、本発明者らはICSIまたはIVFのために問い合わせられた患者の異なる妊娠成績をもたらす、卵母細胞に由来するヒト卵丘細胞間における異なる遺伝子発現を発見した。本発明者らの結果は、卵母細胞を囲む卵丘細胞の分析が、胚の選択のための非侵襲的なアプローチであることを示す。典型的には、CCを卵母細胞のピックアップ後直ちに収集することができ、CCをゲノム検査(G検査)を用いて分析して、胚の能力を評価することができ、そしてその後、G検査結果に基づいて新たに補充するための胚を選択することができる。
【0085】
実施例2
45個の遺伝子のリストの信頼性を検査するために、本発明者らは、男性不妊のために本発明者らのICSIセンターに問い合わせられた若い(36歳未満)通常の応答患者を含む、前向き研究を実施した。胚の選択は、CCの遺伝子発現プロファイルに従って(第1群)、または形態学的な局面に従って(対照として使用した第2群)のいずれかで行なった。各群について2つの胚を補充した。最初の60人の患者について(1群につき30人の患者)、卵収集日に、第1群において、各CC試料を個々に収集し、そして遺伝子発現分析のために処理した。CC試料(n=267)を分析した。定量RT−PCR分析を実施して、CCにおける対象の遺伝子の転写物の相対量を測定し、そして全てのバイオマーカーについての発現データを全ての試料から得た。両群における全ての患者は3日目に新たな胚の移植を受けた。2群間の比較は、着床率および進行する妊娠率/ピックアップ(それぞれ40.0%vs26.7%および70.0%vs46.7%:p<0.05)についての有意な差異を明らかとする。本発明者らは第1群において5つの双胎妊娠を認めたが、これに対して対照として使用した第2群においては0であった。さらに、本発明者らは、形態学的局面とCC遺伝子発現プロファイルとの間の関係が全くないことを観察した。267個のCC試料の分析に基づいて、本発明者らは、CCの27%が、妊娠を達成することのできる胚を予測する遺伝子を発現し、CCの42%が発現せず、CCの31%が胚発達の早期停止についての遺伝子発現を示したことを認めた。
【0086】
選択された候補バイオマーカーを以下の表Bに列挙する。表Bは、異なる臨床条件を予測することのできる卵丘細胞における遺伝子セットを提示する:(A)妊娠、(B)妊娠せずおよび(C)早期胚停止。
【0087】
【表3】

【0088】
参考文献:
本出願全体を通して、種々の参考文献が、本発明が属する当技術分野の最新技術を記載する。これらの参考文献の開示は、本明細書において、本開示への参照により組み入れられる。
【0089】
【表4】








【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵母細胞または胚を囲む卵丘細胞において、A群、B群またはC群から選択される1つ以上の遺伝子の発現レベルを測定する工程を含む、前記のコンピテントな卵母細胞または前記のコンピテントな胚を選択するための方法であって、A群はPCK1、ADPRH、CABP4、SLAMF6、CAMTA1、CSPG2およびPRF1からなり;B群はFOSB、NLGN2、PDE5A、PLA2G5、GPC6およびEGR3からなり;そしてC群はNFIB、NFIC、IGF1R、G0S2、GIRK5およびRBMS1からなる、前記方法。
【請求項2】
卵母細胞を囲む卵丘細胞において45個の遺伝子の発現レベルを測定する工程を含む、コンピテントな卵母細胞を選択するための方法であって、前記遺伝子は、WNT6、LRCH4、PAX8、CABP4、PDE5A、BCL2L11、PCK1、TCF20、SLAMF6、EPOR、CACNG6、NLRP1、PECAM1、NOS1、ATF3、KRTAP8、GRIK5、SLC24A3、SLC5A12、SLCA10A2、SLCO1A2、SLC25A5、MG29、NLGN2、PRKACA、FOSB、SIAT6、LOXL2、PRF1、ADPRH、APBB3、EGR3、CNR2、IFITM1、PLA2G5、CAMTA1、SOX4、NFIB、NFIC、RBMS1、G0S2、FAT3、SLC40A1、GPC6およびIGF1Rである、前記方法。
【請求項3】
胚を囲む卵丘細胞において45個の遺伝子の発現レベルを測定する工程を含む、コンピテントな胚を選択するための方法であって、前記遺伝子は、WNT6、LRCH4、PAX8、CABP4、PDE5A、BCL2L11、PCK1、TCF20、SLAMF6、EPOR、CACNG6、NLRP1、PECAM1、NOS1、ATF3、KRTAP8、GRIK5、SLC24A3、SLC5A12、SLCA10A2、SLCO1A2、SLC25A5、MG29、NLGN2、PRKACA、FOSB、SIAT6、LOXL2、PRF1、ADPRH、APBB3、EGR3、CNR2、IFITM1、PLA2G5、CAMTA1、SOX4、NFIB、NFIC、RBMS1、G0S2、FAT3、SLC40A1、GPC6およびIGF1Rである、前記方法。
【請求項4】
試料中の前記遺伝子の発現レベルを対照と比較することからなる工程をさらに含み、試料と対照との間の前記遺伝子の発現レベルの差異の検出は、前記卵母細胞または前記胚がコンピテントであるかどうかを示す、請求項1〜3のいずれか記載の方法。

【公表番号】特表2012−523826(P2012−523826A)
【公表日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−505130(P2012−505130)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【国際出願番号】PCT/EP2010/054714
【国際公開番号】WO2010/118991
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(591100596)アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル (59)
【Fターム(参考)】