説明

媒体収容カセット、媒体給送装置、記録装置

【課題】分離部を構成する突起の押し込み力のばらつきを防止して適切な分離を行うことにあり、また更にはより一層確実に重送を防止できる分離手段を提供する。
【解決手段】用紙の分離を行う土手状の分離部7は、用紙先端に対して引っ掛かりを与えない第1傾斜領域Saと、用紙先端に対して引っ掛かりを与える様に第1傾斜領域Saから用紙先端側に突出する歯状突起9aが複数形成された第2傾斜領域Sbと、を備えている。第1傾斜領域Saは固定部材8に形成され、第2傾斜領域Sbは、歯状突起9aの突出量が変化する方向に変位可能に設けられるとともに付勢手段によって歯状突起9aが用紙先端側に突出する方向に付勢された可動部材9に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、媒体を収容する媒体収容カセットに関する。また本発明は、媒体を給送する媒体給送装置、およびこれを備えた記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ファクシミリやプリンター等に代表される記録装置においては、用紙を収容する収容部から送り出される用紙の先端が当接する位置に、特許文献1〜8に示されるような分離壁を設け、給送されるべき用紙と、これに連れられて重送されようとする次位以降の用紙とを摩擦分離する構成が採られる場合がある。
【0003】
例えば、特許文献2記載の給紙分離部は、用紙給送方向に沿って一定間隔で設けられる突起部と、この突起部を両側から支持するアーム部と、各アーム部を支持するベース部とを備えている。前記突起部は、給送方向に沿って長孔から所定量突出するように設定されており、最上層の用紙先端が突起部を押圧するとき、アーム部の弾性撓みにより、突起部がホルダの長孔から沈むが、最上層以外の用紙先端は突出状態の突起に拘束されて移動しないので、最上層の用紙のみが分離されて給送できる様になっている。同様な構成は、他の特許文献3、4にも記載されている。
【0004】
更に、特許文献5には、最上位の用紙先端が当接することにより退避するベース部に弾性変形可能な凸状部を複数備えて成る分離部材が開示されている。より具体的には、このベース部は全体として弾性を有しているか或いは用紙先端の当接方向に対して進退可能に設けられており、最上位の用紙先端が凸状部に当接すると、先ずベース部が弾性変形するか或いは退避する。
【0005】
この状態では、凸状部に隣接する滑らかな案内面に対して凸状部は突出状態となっているが、凸状部は弾性変形可能であるので、最上位の用紙先端が凸状部を弾性変形させることで、当該最上位の用紙先端は滑らかな案内面に接することができ、下流側へ進むことができる。しかしながら次位以降の用紙先端は下流側に進む力が弱いので、凸状部を弾性変形させることができず、即ち用紙先端が滑らかな案内面に到達できないので、凸状部に引っかかり、重送が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−267416号公報
【特許文献2】特開2004−149297号公報
【特許文献3】特開2006−182481号公報
【特許文献4】特開2008−239299号公報
【特許文献5】特開2009−269757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献2記載の給紙分離部においては、各突起が、各突起に対応するアーム部の変形により沈み込む構成であることから、アーム部形成の精度ばらつきによりアーム部の弾性にばらつきが生じ、適切な分離が行えない虞がある。
【0008】
また、上記特許文献2記載の突起は、用紙給送方向下流側に倒れる様な傾斜角を有している為、例えば用紙間の密着力が強い場合には、送り出される最上位の用紙に密着した次位以降の用紙先端が突起を乗り越え、その結果重送されてしまう場合もある。その反面、突起を用紙給送方向上流側に倒れる様な傾斜角で設定してしまうと、送り出されるべき最上位の用紙までもが引っ掛かり、ノンフィードが生じてしまう虞もある。
【0009】
更に、上記特許文献5記載の分離部材においては、次位以降の用紙先端が凸状部を弾性変形させることができない点を利用して重送を防止するものの、例えば用紙間の密着力が強い場合には次位以降の用紙先端が凸状部を弾性変形させ、これにより重送が生じてしまう場合もある。加えて、当該特許文献3記載の発明においても、複数形成された凸状部のそれぞれの弾性変形を利用するので、製造ばらつきにより凸状部の弾性にばらつきが生じ、適切な分離が行えない虞もある。
【0010】
そこで本発明はこの様な状況に鑑みなされたものであり、その目的は、分離部を構成する突起の押し込み力のばらつきを防止して適切な分離を行うことにあり、また更にはより一層確実に重送を防止できる分離手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する為の、本発明の第1の態様に係る媒体収容カセットは、媒体を収容する媒体収容領域と、前記媒体収容領域に収容される媒体の先端と対向して配置され、送り出される媒体と次位以降の媒体との分離を行う土手状の分離部と、固定部材において媒体送り出し方向に沿って形成された、前記分離部を構成する第1傾斜領域と、前記第1傾斜領域に対し媒体送り出し方向と交差する方向に配置され、前記第1傾斜領域から媒体先端側に突出する歯状突起を媒体送り出し方向に沿って複数備えるとともに前記歯状突起の媒体先端側への突出量が変化する方向に変位可能であり、且つ付勢手段によって前記突出する方向に付勢される可動部材に形成された、前記分離部を構成する第2傾斜領域とを備え、前記第1傾斜領域は、媒体送り出し方向に倣う形状を有する歯状段差が媒体送り出し方向に沿って複数形成されて成り、前記送り出される媒体の先端が前記第1傾斜領域に沿って進む際、当該送り出される媒体の先端が前記可動部材を押すことによる前記歯状突起の退避動作と、前記付勢手段が前記可動部材を付勢することによる前記歯状突起の突出動作と、が交互に実行されることを特徴とする。
【0012】
本態様によれば、前記第1傾斜領域から媒体先端側に突出する複数の歯状突起が、当該歯状突起の突出量が変化する方向に変位可能であるとともに付勢手段によって前記歯状突起が突出する方向に付勢される可動部材に形成されているので、複数形成された歯状突起を押し下げる力のばらつきが無くなり、これにより適切な分離を行うことができる。
【0013】
そして、前記送り出される媒体の先端が前記第1傾斜領域に沿って進む際、当該送り出される媒体の先端が前記歯状突起を押すことによる当該歯状突起の退避動作と、前記付勢手段が前記可動部材を付勢することによる前記歯状突起の突出動作と、が交互に実行されるので、前記歯状突起の突出動作が複数回繰り返されることととなり、即ち次位以降の媒体を上流側に戻そうとする動作が複数回実行されることとなるので、これにより媒体の重送をより一層確実に防止することができる。
【0014】
そして本態様は、前記第1傾斜領域が、媒体送り出し方向に倣う形状を有する歯状段差が媒体送り出し方向に沿って複数形成されて成るので、以下の様な作用効果を得ることができる。
【0015】
即ち、前記第1傾斜領域を単なる傾斜面で形成した場合、前記歯状突起の前記第1傾斜領域からの突出区間長さが長くなる為、前記歯状突起が給送されるべき媒体先端に押されて沈み込む時間が長くなり、前記歯状突起による次位の媒体先端の押し戻し動作が速やかに行われず、これにより次位の媒体先端が下流側に進み易くなる。しかしながら、本態様の如く第1傾斜領域を歯状段差で構成することで、歯状突起の突出区間長さを短くでき、これによってより一層確実に次位の媒体先端を止める(重送を防止する)ことができる。尚、この作用効果は、後に図面を参照しながら詳説する。
【0016】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記第1傾斜領域が、前記第2傾斜領域に対し媒体送り出し方向と交差する方向の両側に配置されていることを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、前記第1傾斜領域が、前記第2傾斜領域に対し媒体送り出し方向と交差する方向(以下「媒体幅方向」とする)の両側に配置されているので、分離部と媒体先端との間の負荷が媒体幅方向でバランスされ、媒体の斜行を防止できる。
【0018】
本発明の第3の態様は、第1のまたは第2の態様において、前記第2傾斜領域が、媒体送り出し方向の上流側と下流側とで分割される様に複数の前記可動部材によって形成されており、媒体送り出し方向下流側に位置する前記可動部材を付勢する前記付勢手段の付勢力が、媒体送り出し方向上流側に位置する前記可動部材を付勢する前記付勢手段の付勢力より小さいことを特徴とする。
【0019】
媒体収容カセットの底面に対し進退可能な給送ローラーによって媒体を給送する構成において、給送ローラーが揺動可能なアームに支持されている場合、媒体の積載枚数によって給送力(給送ローラーが媒体に与える送り出し方向の力)が変化する。例えば、媒体の積載枚数が多い場合には、媒体の面とアームとの成す角度が小さく、給送ローラーが媒体に食い込む力が小さいので、給送力は小さくなり、ノンフィードが生じ易くなる。逆に、媒体の積載枚数が少ない場合には、媒体の面とアームとの成す角度が大きく、給送ローラーが媒体に食い込む力が大きいいので、給送力は大きくなり、ダブルフィードが生じ易くなる。
【0020】
そこで本態様においては、上記第2傾斜領域を、媒体送り出し方向の上流側と下流側とで分割される様に複数の可動部材で形成した上で、下流側の可動部材を付勢する付勢力を、上流側の可動部材を付勢する付勢力より小さくした。これにより、媒体積載枚数が多いときは前記歯状突起を押し込む為の力が小さくて済むので、上記ノンフィードを防止できる。また、媒体積載枚数が多いときは前記歯状突起を押し込む為に必要な力が大きくなるので、上記ダブルフィードを防止できる。
【0021】
本発明の第4の態様は、第1から第3の態様のいずれかにおいて、前記歯状突起において媒体先端に対して引っ掛かりを与える面と媒体進行方向との成す角度が、複数の前記歯状突起において、媒体送り出し方向下流側に向かって緩やかになる様に構成されていることを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、前記歯状突起において媒体先端に対して引っ掛かりを与える面と媒体進行方向との成す角度が、媒体送り出し方向下流側に向かって緩やかになる様に複数の前記歯状突起が形成されているので、これにより上記第4の態様の作用効果と同様な作用効果が得られる。即ち、媒体積載枚数が多いときは媒体先端は前記歯状突起を乗り越え易いので、上記ノンフィードを防止できる。また、媒体積載枚数が少ないときは前記歯状突起を乗り越え難いので、上記ダブルフィードを防止できる。
【0023】
本発明の第5の態様に係る媒体給送装置は、第1から第4の態様のいずれかに係る前記媒体収容カセットと、前記媒体収容カセットに収容された媒体を前記媒体収容カセットから送り出す給送ローラーとを備えたことを特徴とする。本態様によれば、媒体給送装置において、上記第1から第4の態様のいずれかと同様な作用効果を得ることができる。
【0024】
本発明の第6の態様に係る媒体給送装置は、媒体を収容する媒体収容領域と、前記媒体収容領域に収容された媒体を送り出す給送手段と、前記媒体収容領域に収容される媒体の先端と対向して配置され、送り出される媒体と次位以降の媒体との分離を行う土手状の分離部と、固定部材において媒体送り出し方向に沿って形成された、前記分離部を構成する第1傾斜領域と、前記第1傾斜領域に対し媒体送り出し方向と交差する方向に配置され、前記第1傾斜領域から媒体先端側に突出する歯状突起を媒体送り出し方向に沿って複数備えるとともに前記歯状突起の媒体先端側への突出量が変化する方向に変位可能であり、且つ付勢手段によって前記突出する方向に付勢される可動部材に形成された、前記分離部を構成する第2傾斜領域とを備え、前記第1傾斜領域は、媒体送り出し方向に倣う形状を有する歯状段差が媒体送り出し方向に沿って複数形成されて成り、前記送り出される媒体の先端が前記第1傾斜領域に沿って進む際、当該送り出される媒体の先端が前記可動部材を押すことによる前記歯状突起の退避動作と、前記付勢手段が前記可動部材を付勢することによる前記歯状突起の突出動作と、が交互に実行されることを特徴とする。
【0025】
本態様によれば、上記第1の態様と同様に、媒体先端に対して引っ掛かりを与える様に媒体先端側に突出する複数の歯状突起が、当該歯状突起の突出量が変化する方向に変位可能であるとともに付勢手段によって前記歯状突起が突出する方向に付勢される可動部材に形成されているので、複数形成された歯状突起を押し下げる力のばらつきが無くなり、これにより適切な分離を行うことができる。また、第1傾斜領域が歯状段差で構成されるので、歯状突起の突出区間長さを短くでき、これによってより一層確実に次位の媒体先端を止める(重送を防止する)ことができる(後に詳述する)。
【0026】
本発明の第7の態様に係る記録装置は、媒体に記録を行う記録手段と、第5または第6の態様の前記媒体給送装置と、を備えたことを特徴とする。本態様によれば、記録装置において、上記第5または第6の態様と同様な作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係るプリンターの用紙搬送経路を示す側断面図。
【図2】本発明の一実施形態に係る用紙カセットの斜視図。
【図3】本発明の一実施形態に係る用紙カセットの先端部の斜視図。
【図4】本発明の一実施形態に係る用紙カセットの分離部の斜視図。
【図5】本発明の一実施形態に係る用紙カセットの分離部の拡大側面図。
【図6】本発明の一実施形態に係る用紙カセットの分離部の拡大側面図。
【図7】本発明の一実施形態に係る用紙カセットの分離部の拡大側面図。
【図8】他の実施形態に係る分離部の側面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明するが、本発明は、以下説明する実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれるものであることを前提として、以下本発明の一実施形態を説明するものとする。
【0029】
図1は、本発明に係る記録装置、そして更にその一例としてのインクジェットプリンター1の側断面概略図、図2は本発明に係る媒体収容カセットの一実施形態である用紙カセット5の斜視図、図3は用紙カセット5の先端部の斜視図、図4は分離部7の斜視図である。また、図5〜図7は分離部7の拡大側面図であり、その中で図6及び図7は用紙給送時における可動部材9の動きを示すものである。
【0030】
以下では先ず、インクジェットプリンター1の全体構成を概説する。図1において符号2は媒体の一例としての記録用紙にインクジェット記録を行う記録部を、符号3は記録部2の上部に設けられるスキャナ部を、符号4はスキャナ部3の上部に設けられる自動原稿搬送部を、それぞれ示しており、即ちインクジェットプリンター1はインクジェット記録機能に加えてスキャナ機能を備える複合機として構成されている。
【0031】
装置下部において符号5は記録用紙をセットする着脱可能な用紙カセットであり、符号43は排出された記録用紙を受ける排紙受けトレイである。この記録部2は2つの用紙給送経路を備えており、1つは装置下部に設けられた、本発明に係る媒体給送装置の一実施形態である第2用紙給送部17からの用紙給送経路であり、他の1つは装置背面側に設けられた第1用紙給送部16からの用紙給送経路である。尚、破線Pfは第2用紙給送部17から送り出される記録用紙の通過軌跡を示し、破線Prは第1用紙給送部16から送り出される用紙の通過軌跡を示している。
【0032】
第2用紙給送部17において、用紙カセット5と対向する位置には、回転軸21aを中心に揺動可能なローラー支持部材(アーム部材)21に軸支された、用紙給送手段を構成する給送ローラー22が設けられている。この給送ローラー22は、ローラー支持部材21の揺動動作により用紙カセット5に対して進退可能に設けられ、用紙カセット5に収容された記録用紙Pの最上位のものと接して回転することで、当該最上位の記録用紙Pを下流側に送り出す。
【0033】
給送ローラー22によって送り出された記録用紙Pは、大径の反転ローラー24によって湾曲反転させられた後、搬送手段としての搬送駆動ローラー26及び搬送従動ローラー27に到達する。尚、符号25は反転ローラー24との間で用紙をニップすることにより用紙の分離を行う分離ローラーを示している。
【0034】
一方、記録部2の上部後方に設けられた第1用紙給送部16において、支持部材18は記録用紙を傾斜姿勢に支持するとともに、上部の図示しない揺動軸を中心に揺動することで、支持している用紙の最上位のものを給送ローラー19に圧接させる。給送ローラー19は、回転することにより、圧接している用紙を下流側へ送り出す。尚、符号20は給送ローラー19との間で用紙をニップすることにより用紙の分離を行う分離ローラーを示している。
【0035】
搬送駆動ローラー26及び搬送従動ローラー27は、下流側へと記録用紙Pを精密送りするローラー対であり、このローラー対の下流側にはインクジェット式の記録ヘッド35と、用紙を下流側へ案内する支持部材29とが対向配置されている。
【0036】
記録ヘッド35は、用紙搬送方向と直交する方向(図1の紙面表裏方向:以下では適宜「主走査方向」或いは「用紙幅方向」と言うこととする)に往復動可能なキャリッジ34の底部に設けられ、主走査方向に移動しながら記録用紙Pに対してインクを吐出することにより記録を行う。
【0037】
記録ヘッド35の下流側において、符号39は記録用紙Pの浮きを防止する従動ローラーであり、符号40は回転することにより記録用紙Pを排出する排出駆動ローラーであり、符号41は排出駆動ローラー40との間で記録用紙Pをニップする排出従動ローラーである。これらローラー対により、記録の行われた記録用紙Pは、排紙受けトレイ43に向けて排出される。
【0038】
尚、インクジェットプリンター1は、おもて面(第1面)に記録の行われた記録用紙Pを排紙受けトレイ43に向けて排出せずに、バックフィードして反転ローラー24により湾曲反転させることで、うら面(第2面)への記録が可能となっている。
【0039】
以上がインクジェットプリンター1の大略構成であり、以下では、用紙カセット5、特にその中の分離部7について詳説する。
図2に示す様に、用紙カセット5はその内側の用紙収容領域5aに、用紙の両側端をガイドするエッジガイド11、12が、用紙幅方向にスライド変位可能に設けられている。また符号13は、用紙後端をガイドするエッジガイドである。
【0040】
用紙収容領域5aの底面において給送ローラー22と対向する位置には摩擦パッド6が設けられており、この摩擦パッド6により、用紙給送時に用紙束が用紙束ごと送り出されない様に保持される。
【0041】
用紙収容領域5aに収容される用紙先端と対向する位置には、土手状のガイド斜面10A、10B、分離部7、のこれらが、用紙幅方向に沿って適宜配置されている。ガイド斜面10A、10B、分離部7、のこれらは、用紙収容領域5aの底面との間で所定の開き角(分離角度)を成すように設けられている。そして、送り出される最上位の記録用紙Pの先端が分離部7に摺接しつつ送られることで、当該送り出される最上位の記録用紙Pと、次位以降の記録用紙Pとの分離が行われる様になっている。
【0042】
続いて分離部7について詳説する。本実施形態において分離部7は、図3及び図4に示す様に用紙送り出し方向に沿って延設された、用紙先端に対して引っ掛かりを与えない第1傾斜領域Saと、用紙先端に対して引っ掛かりを与える様に第1傾斜領域Saから用紙先端側に突出する歯状突起9aが用紙送り出し方向に沿って複数形成された、第1傾斜領域Saに対し用紙送り出し方向と交差する方向に配置される第2傾斜領域Sbと、を備えている。
【0043】
第1傾斜領域Saは、固定的に設けられる第1部材としての固定部材8に形成されている。また、第2傾斜領域Sbは、第1傾斜領域Saからの歯状突起9aの突出量が変化する方向に変位可能に設けられるとともに、付勢手段としてのばね部8dによって歯状突起9aが第1傾斜領域Saから用紙先端側に突出する方向に付勢された第2部材としての可動部材9に形成されている。
【0044】
より詳しくは、固定部材8は用紙カセット5の本体に対して固定的に設けられており、その側面にはボス8c、8cが形成されている。一方、可動部材9には長穴9d、9dが設けられており、この長穴9d、9dにボス8c、8cが入り込んだ状態となり、これにより可動部材9が固定部材8に対して変位可能に設けられている。尚、可動部材9の変位方向は後に詳述するが、歯状突起9aの第1傾斜領域Saからの突出量が変化する方向であり、また用紙送り出し方向にもある程度沿った方向である。
【0045】
固定部材8には、弾性変形可能なばね部8dが固定部材8に一体的に形成されており、このばね部8dが可動部材9を付勢する付勢手段として機能し、即ち歯状突起9aが第1傾斜領域Saから用紙先端側に突出する方向に可動部材9が付勢された状態となっている。
【0046】
固定部材8において用紙送り出し方向に沿って複数形成される歯状段差8aと、可動部材9において用紙送り出し方向に沿って複数形成される形成される歯状突起9aとは、図5に示す様な位置関係となっている。即ち、非給送状態では、歯状突起9aが歯状段差8aから比較的大きく用紙先端側(同図右側)に突出している。
【0047】
尚、符号8bは、歯状段差8aの上側斜面(第1傾斜領域Saの上面を構成する)を示している。また、符号9bは歯状突起9aの上側斜面を示し、符号9cは歯状突起9aにおいて用紙先端に引っ掛かりを与える面(以下「引っ掛かり面」と言う)を示している。また、符号αは、歯状段差8aの上側斜面8b(用紙進行方向に沿った面)と、歯状突起9aの引っ掛かり面9cとが成す角度を示している。
【0048】
尚本実施形態では、角度α<90°に設定されているが、引っ掛かり面9cと用紙先端との間の摩擦係数が高ければ用紙先端に対し引っ掛かりを与えることができるので、この様な摩擦を考慮して角度α≧90°であっても良い。即ち第2傾斜領域Sbは、必ずしも用紙送り出し方向と対向する様な面を備えていなくても良く、用紙先端に引っ掛かりを与える様な面を備えていれば良い。尚、第1傾斜領域Saについては、用紙送り出し方向と対向する様な面が形成されていないことが好ましい。
【0049】
以下、用紙分離時の歯状突起9a(可動部材9)の動きについて説明する。図6及び図7において符号P1は送り出されるべき最上位の用紙を示し、符号P2は最上位の用紙P1に連れられて重送されようとする次位の用紙を示している。
【0050】
給送ローラー22の回転により用紙の給送が始まると、最上位の用紙P1と次位の用紙P2は、用紙カセット5のガイド斜面10A、10B、分離部7、のこれらに当接する。このとき、分離部7では、歯状突起9aが大きく突出した状態となっている為、用紙先端は歯状突起9a(引っ掛かり面9c)に当接する(図6)。
【0051】
ここで、歯状突起9aは可動部材9に形成されていることから、歯状突起9aは最上位の用紙P1によって下方に押し下げられる(図7)。即ち、最上位の用紙P1は、給送ローラー19に圧接されながら送り出されるため、複数設けられた歯状突起9aを押し下げながら歯状突起9aを乗り越えて下流側へと進む。しかしながら用紙間の摩擦力は、最上位の用紙P1と給送ローラー19との間の摩擦力に比べて弱い為、次位の用紙P2は歯状突起9aを押し下げることができずに歯状突起9a(引っ掛かり面9c)に引っ掛かり、これにより重送が防止される(分離が行われる)。なお、用紙先端が歯状突起9aに当接することにより、歯状突起9aは第1傾斜領域Saよりも引っ込む場合もあるが、ばね部8dにより可動部材9が付勢されているため、突起9aは再び第1傾斜領域Saから突出するようになる。
【0052】
この様に、第1傾斜領域Saから用紙先端側に突出する複数の歯状突起9aが、当該歯状突起9aの突出量が変化する方向に変位可能であるとともに歯状突起9aが突出する方向に付勢される可動部材9に形成され、そしてこの可動部材9がばね部8dによって付勢された状態となっているので、複数形成された歯状突起9aを押し下げる力のばらつきが無く、これにより適切な分離を行うことができる。
【0053】
そして、送り出される最上位の用紙P1の先端が第1傾斜領域Saに沿って進む際、当該送り出される最上位の用紙P1先端が可動部材9(歯状突起9a)を押すことによる歯状突起9aの退避動作と、付勢手段としてのばね部8dが可動部材9を付勢することによる歯状突起9aの突出動作と、が交互に実行されるので、歯状突起9aの突出動作が複数回繰り返されることととなり、即ち次位の用紙P2を上流側に戻そうとする動作が複数回実行されることとなるので、これにより用紙の重送をより一層確実に防止することができる。
【0054】
尚、第1傾斜領域Saは単なる傾斜面で形成することもできるが、本実施形態の如く用紙送り出し方向に倣う形状(即ち、引っ掛かりを与えない形状)を有する歯状段差8aにより第1傾斜領域Saを構成することで、より確実に次位の用紙P2を止めることができる。
【0055】
即ち、仮に第1傾斜領域Saを単なる傾斜面で形成する場合、歯状突起9aの突出量を同程度に確保するときには、角度αがより鋭角になり、図5に示す距離L1、つまり歯状突起9aの突出区間長さが長くなる。
【0056】
ここで、歯状突起9aがばね部8dの付勢力によって上流側に復帰することにより、次位の用紙P2の先端が上流側に押し戻され、重送がより一層防止されることとなるが、歯状突起9aが給送されるべき最上位の用紙P1先端によって長い時間押し込まれた状態となると、歯状突起9aによる上記押し戻し動作が速やかに行われず、これにより次位の用紙P2が下流側に進み易くなる。しかしながら、本実施形態の如く第1傾斜領域Saを歯状段差8aで構成することで、歯状突起9aの突出区間長さL1を短くでき、これによって最上位の用紙P1先端が歯状突起9aを通過した後に速やかに上記押し戻し動作が行われるので、より一層確実に次位の用紙P2の重送を防止することができる。
【0057】
尚、本実施形態では一つの分離部7において第1傾斜領域Saと第2傾斜領域Sbとがそれぞれ一つ、設けられているが、第1傾斜領域Saを、第2傾斜領域Sbに対し用紙幅方向両側に配置すれば、分離部7と用紙先端との間の負荷が用紙幅方向でバランスされ、斜行を防止できる。尚、この様な作用効果を得る他の態様として、第2傾斜領域Sbを、第1傾斜領域Saに対し用紙幅方向両側に配置しても良い。また、用紙幅方向において給送ローラー22の位置に対し、分離部7を左右対称に設けることも斜行防止の観点で好適である。
【0058】
ところで、他の実施形態として、可動部材9を用紙送り出し方向で分割することも好適である。図8はその様な実施形態を示すものであり、符号7’は他の実施形態に係る分離部を示している。分離部7’が備える可動部材は、符号9Aで示す下流側の可動部材と、符号9Bで示す上流側の可動部材と、で構成されている。
【0059】
固定部材8’には、2つのばね部8d、8eが形成されており、下流側の可動部材9Aを付勢するばね部8eは、上流側の可動部材9Bを付勢するばね部8dより付勢力が小さくなる様に形成されている。
【0060】
本実施形態によれば、以下の様な作用効果が得られる。即ち、用紙カセット5の底面に対し進退可能な給送ローラー22によって用紙を給送する構成において、給送ローラー22が揺動可能なアーム(ローラー支持部材21)に支持されている場合、用紙の積載枚数によって給送力(給送ローラー22が用紙に与える送り出し方向の力)が変化する。
【0061】
例えば、用紙の積載枚数が多い場合には、用紙の面とローラー支持部材21との成す角度が小さく、給送ローラー22が用紙に食い込む力が小さいので、給送力は小さくなり、ノンフィードが生じ易くなる。逆に、用紙の積載枚数が少ない場合には、用紙の面とローラー支持部材21との成す角度が大きく、給送ローラー22が用紙に食い込む力が大きいいので、給送力は大きくなり、ダブルフィードが生じ易くなる。
【0062】
そこで本実施形態では、第2傾斜領域Sbが、用紙送り出し方向の上流側と下流側とで分割される様に複数の可動部材9A、9Bで形成した上で、下流側の可動部材9Aを付勢する付勢力を、上流側の可動部材9Bを付勢する付勢力より小さくした。これにより、用紙積載枚数が少ないときは歯状突起9aを押し込む為の力が小さくて済むので、上記ノンフィードを防止できる。
【0063】
また用紙積載枚数が多いときは、歯状突起8aを押し込む為に必要な力が大きくなるので、上記ダブルフィードを防止できる。尚、本実施形態では2つの可動部材9A、9Bで第2傾斜領域Sbを形成したが、これに限られず、更に多数の可動部材で第2傾斜領域Sbを形成しても良い。その際、下流側に向かって可動部材を付勢する付勢力を小さくすることが好ましい。
【0064】
また更に、他の実施形態として、図5に示した角度αを、複数の歯状突起9aの間で、下流側に向かって緩やかになる様に構成することもできる(図示省略)。この様に構成することにより、用紙積載枚数が多いときは角度αが上流側より相対的に大きく、用紙先端は歯状突起9aを乗り越え易いので、上記ノンフィードを防止できる。また、用紙積載枚数が少ないときは角度αが下流側より相対的に小さく、歯状突起9aを乗り越え難いので、上記ダブルフィードを防止できる。
【符号の説明】
【0065】
1 インクジェットプリンター、2 記録部、3 スキャナ部、4 自動原稿搬送部、5 用紙カセット、5a 用紙収容領域、6 摩擦パッド、7 分離部、8 固定部材、8a 歯状段差、8b 斜面、8c ボス、8d ばね部、9 可動部材、9a 歯状突起、9b 斜面、9c 長穴、10A、10B ガイド斜面、11〜13 エッジガイド、16 第1用紙給送部、17 第2用紙給送部、18 用紙支持部材、19 給送ローラー、20 分離ローラー、21 ローラー支持部材、21a 回転軸、22 給送ローラー、24 反転ローラー、25 分離ローラー、26 搬送駆動ローラー、27 搬送従動ローラー、29 支持部材、34 キャリッジ、35 インクジェット記録ヘッド、39 従動ローラー、40 排出駆動ローラー、41 排出従動ローラー、43 排紙受けトレイ、P、P1、P2、Pf、Pr 記録用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体を収容する媒体収容領域と、
前記媒体収容領域に収容される媒体の先端と対向して配置され、送り出される媒体と次位以降の媒体との分離を行う土手状の分離部と、
固定部材において媒体送り出し方向に沿って形成された、前記分離部を構成する第1傾斜領域と、
前記第1傾斜領域に対し媒体送り出し方向と交差する方向に配置され、前記第1傾斜領域から媒体先端側に突出する歯状突起を媒体送り出し方向に沿って複数備えるとともに前記歯状突起の媒体先端側への突出量が変化する方向に変位可能であり、且つ付勢手段によって前記突出する方向に付勢される可動部材に形成された、前記分離部を構成する第2傾斜領域と、を備え、
前記第1傾斜領域は、媒体送り出し方向に倣う形状を有する歯状段差が媒体送り出し方向に沿って複数形成されて成り、
前記送り出される媒体の先端が前記第1傾斜領域に沿って進む際、当該送り出される媒体の先端が前記可動部材を押すことによる前記歯状突起の退避動作と、前記付勢手段が前記可動部材を付勢することによる前記歯状突起の突出動作と、が交互に実行される、
ことを特徴とする媒体収容カセット。
【請求項2】
請求項1に記載の媒体収容カセットにおいて、前記第1傾斜領域が、前記第2傾斜領域に対し媒体送り出し方向と交差する方向の両側に配置されている、
ことを特徴とする媒体収容カセット。
【請求項3】
請求項1または2に記載の媒体収容カセットにおいて、前記第2傾斜領域が、媒体送り出し方向の上流側と下流側とで分割される様に複数の前記可動部材によって形成されており、
媒体送り出し方向下流側に位置する前記可動部材を付勢する前記付勢手段の付勢力が、媒体送り出し方向上流側に位置する前記可動部材を付勢する前記付勢手段の付勢力より小さい、
ことを特徴とする媒体収容カセット。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の媒体収容カセットにおいて、前記歯状突起において媒体先端に対して引っ掛かりを与える面と媒体進行方向との成す角度が、複数の前記歯状突起において、媒体送り出し方向下流側に向かって緩やかになる様に構成されている、
ことを特徴とする媒体収容カセット。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載された前記媒体収容カセットと、
前記媒体収容カセットに収容された媒体を前記媒体収容カセットから送り出す給送ローラーと、
を備えた媒体給送装置。
【請求項6】
媒体を収容する媒体収容領域と、
前記媒体収容領域に収容された媒体を送り出す給送手段と、
前記媒体収容領域に収容される媒体の先端と対向して配置され、送り出される媒体と次位以降の媒体との分離を行う土手状の分離部と、
固定部材において媒体送り出し方向に沿って形成された、前記分離部を構成する第1傾斜領域と、
前記第1傾斜領域に対し媒体送り出し方向と交差する方向に配置され、前記第1傾斜領域から媒体先端側に突出する歯状突起を媒体送り出し方向に沿って複数備えるとともに前記歯状突起の媒体先端側への突出量が変化する方向に変位可能であり、且つ付勢手段によって前記突出する方向に付勢される可動部材に形成された、前記分離部を構成する第2傾斜領域と、を備え、
前記第1傾斜領域は、媒体送り出し方向に倣う形状を有する歯状段差が媒体送り出し方向に沿って複数形成されて成り、
前記送り出される媒体の先端が前記第1傾斜領域に沿って進む際、当該送り出される媒体の先端が前記可動部材を押すことによる前記歯状突起の退避動作と、前記付勢手段が前記可動部材を付勢することによる前記歯状突起の突出動作と、が交互に実行される、
ことを特徴とする媒体給送装置。
【請求項7】
媒体に記録を行う記録手段と、
請求項5または6に記載の前記媒体給送装置と、を備えた記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−47126(P2013−47126A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185605(P2011−185605)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】