説明

媒体循環型粉砕装置

【課題】高粘度のスラリーの処理が可能で、媒体が出口側に押し付けられる傾向を抑制でき、ベッセル内圧の上昇や発熱の問題を伴う恐れのない媒体攪拌型粉砕装置を提供すること。
【解決手段】攪拌部材のロータに、ベッセルから突出する静止ピンに対向する円筒面に、ロータ軸方向に測定した幅が静止ピンの直径の2倍以上の溝を静止ピンの軸方向列の各々に対向して形成する。この溝によって、粉砕媒体には、溝の側壁から受ける遠心力により半径方向外向きに移動する運動及び循環運動を生じる。静止ピン近傍の通常は静止域となる領域においても粉砕媒体の運動量が増加し、転写によるスラリー移送量が増大する。スラリーが通過できる断面積が大きくなるので、スラリーの通過抵抗が低下し、静止ピン近傍における圧力損失が低下し、粉砕処理量が増加し、高粘度スラリーの処理を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被粉砕物を微細粒子に粉砕するための粉砕装置に関し、特に、中空円筒形のベッセル内に攪拌ピンを有する攪拌部材が回転自在に配置され、ベッセルの内面と攪拌部材との間に形成される粉砕室に粉砕媒体が充填された形式の媒体攪拌型粉砕装置に関する。
【背景技術】
【0002】
媒体攪拌型粉砕装置は、主として湿式装置の形態で、セラミック原料、化成品、顔料、食品、医薬品などの微細粉砕の用途に広く使用されている。例えばインクやペンキなどの顔料の場合、非常に微細な粒径への粉砕が要求され、このような超微細粒径への粉砕を特に分散と呼ぶことがある。本発明では、このような超微細粒径への分散を含む意味で、粉砕という用語を使用する。
【0003】
湿式粉砕装置においては、被粉砕物が液状ビヒクルに懸濁されたスラリーとして装置に供給される。媒体攪拌型粉砕装置は、開発当初はディスクタイプと呼ばれる円板型の攪拌部材を使用するものであった。ディスクタイプの攪拌部材を備える粉砕装置においては、ベッセル内壁には静止ピンは設けられていなかった。使用されるスラリーの粘度は3000cp程度で、主としてペンキ顔料の粉砕に使用された。このディスクタイプの粉砕装置においては、ディスクの外周縁とベッセル内壁面との間に相対的運動が生じ、その結果、周方向の剪断域が形成され、この剪断域が粉砕作用に寄与する。
【0004】
媒体攪拌型粉砕装置は、その後用途が着実に広がり、高粘度スラリーの粉砕にも適用されるようになった。しかし、ディスクタイプの攪拌部材を備える粉砕装置を高粘度スラリーに使用すると、スラリーが攪拌部材のディスクに随伴して共回りする現象を生じ、粉砕作用の低下を生じることが分かった。
【0005】
このような開発の経過を経て、スラリーがディスクと共回りする現象を防止するために、ピンタイプの攪拌部材を備えた粉砕装置が開発された。この形式の装置は、攪拌部材を、円筒面を有するロータと、該ロータの円筒面に半径方向に突出するように軸方向及び周方向の両方に間隔をもって配列された複数の攪拌ピンとを含む構造とし、ベッセルの内面には、複数の静止ピンを、軸方向にみて攪拌部材の攪拌ピンの間の位置に半径方向内方に突出するように、半径方向に間隔をもって配置する。この形式の媒体攪拌型粉砕装置は、例えば特公平2−10699号公報(〔特許文献1〕)に記載されている。このピンタイプの粉砕装置においても、ディスクタイプの粉砕装置におけると同様に、攪拌ピンの先端とベッセルの内壁面との間に周方向剪断域が形成される。さらに、攪拌ピンの周囲では、媒体は攪拌ピンにより周方向に駆動されて高速域を形成し、これとは逆に、静止ピンの周囲では、媒体は該静止ピンによって運動を妨害されるので、運動が低速になり、相対的静止域が形成される。そして、高速域と静止域の間の速度差により、半径方向剪断域が、装置の軸方向にみて攪拌ピンの両側に形成される。したがって、ベッセル内を通過するスラリーは、必ず周方向剪断域又は半径方向剪断域を通過しなければならないので、粉砕効率はディスクタイプに比べて大幅に改善されることになる。
【0006】
媒体攪拌型粉砕装置においては、ベッセルのスラリー入口から粉砕室内にポンプ圧送されたスラリーは、運動する粉砕媒体相互の接触の過程で媒体から媒体に転写されることによる転写移送と、媒体の間を通過して流れる通過流の形態でスラリー出口に送られる。粉砕に最も効果があるのは、転写移送である。
【0007】
上述の粉砕装置は、スラリー粘度が低い場合には問題はないが、スラリーが高粘度になると問題に遭遇する。すなわち、スラリー粘度が高くなると、それに伴って通過抵抗が大きくなるが、静止域においては媒体の運動速度が低いので、転写移送が少なく、殆どが通過流となるため、高い通過抵抗によって媒体が出口側に押し付けられる傾向を生じる。その結果、ベッセル内の内圧が高くなり、媒体が発熱し、処理量が低下するか、時には処理不能になる。
【0008】
媒体攪拌型粉砕装置が使用される多くの用途の中で、特定の用途の場合、例えば電子部品用のフェライトや、キャパシタ用チタン酸バリウムの用途のように、粉砕工程に続いて乾燥工程を行う場合には、乾燥工程に備えてできるだけ水分量を少なくするために、非常に高粘度のスラリーが使用される。また、オフセット印刷インクやスクリーン印刷インクなどは、数万cpという高粘度での粉砕が要求される。従来の媒体攪拌型粉砕装置は、このような高粘度のスラリーを取り扱うには問題が多く、そのため、高粘度のスラリーは、生産効率の低いロールミルなどの装置により処理されるのが一般的であった。
【0009】
【特許文献1】特公平2−10699号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の媒体攪拌型粉砕装置における上述の問題を念頭に、本発明の課題は、高粘度のスラリーの処理が可能で、媒体が出口側に押し付けられる傾向を抑制でき、ベッセル内圧の上昇や発熱の問題を伴う恐れのない媒体攪拌型粉砕装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明による媒体攪拌型粉砕装置は、一端側にスラリー入口を、他端側にスラリー出口を有する中空円筒形のベッセルと、該ベッセルの内部に同軸に回転自在に配置された攪拌部材と、該攪拌部材を回転駆動する駆動手段とを備える。攪拌部材は、円筒面を有するロータと、該ロータの円筒面の半径方向に突出するように軸方向及び周方向の両方に間隔をもって配列された複数の攪拌ピンとを含む。ベッセルの内面には、複数の静止ピンが、軸方向にみて攪拌部材の攪拌ピンの間の位置に半径方向内方に突出するように、半径方向に間隔をもって配置される。ベッセルの内面と攪拌部材のロータの円筒面との間に形成される粉砕室には粉砕媒体が充填され、攪拌軸を回転駆動して粉砕媒体に循環運動を与えながら被粉砕物を含むスラリーを粉砕室に導入することにより、スラリー内の被粉砕物を微細粒子に粉砕するように構成される。
【0012】
本発明の特徴として、攪拌部材のロータには、ベッセルから突出する静止ピンに対向する円筒面に、ロータ軸方向に測定した幅が静止ピンの直径の少なくとも2倍の溝を静止ピンの軸方向列の各々に対向して形成する。この溝を設けることによって、粉砕媒体には、溝の側壁から受ける遠心力により半径方向外向きに移動する運動を生じる。また、半径方向外方位置の静止ピン近傍の領域すなわち静止域においては、半径方向内方に移動する循環運動を生じる。その結果、粉砕媒体は、溝の側壁に沿って半径方向外向きに移動し、静止ピンに沿って半径方向内向きに溝に向かって移動するという循環運動を生じる。したがって、静止ピン近傍の通常は静止域となる領域においても粉砕媒体の運動量が増加し、転写によるスラリー移送量が増大する。さらに、スラリーが通過できる断面積が大きくなるので、スラリーの通過抵抗が低下し、静止ピン近傍における圧力損失が低下する。このことは、粉砕処理量の増加をもたらし、高粘度スラリーの処理を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を図面について説明する。
図1は、本発明の一実施形態による媒体循環型粉砕装置を示す縦断面図であり、図2は、そのA−A線に沿って取った横断面図である。この粉砕装置1は、一端が端板3により閉じられ、他端にはスラリー出口孔4aを中央に有する端板4が取り付けられた円筒形のベッセル2を備える。ベッセル2の端板側の端部付近には、スラリー入口5が形成されている。端版4の外側には、スラリー出口室ハウジング6が固定されて、内部にスラリー出口孔4aに通じるスラリー出口室6aが形成される。スラリー出口ハウジング6は、スラリー出口6bを有する。
【0014】
攪拌軸7に取り付けられたロータ8が、ベッセル2の内部に軸方向に同軸に延びるように配置されている。ロータ8は円筒面8aを有し、該円筒面8aには、軸方向に等間隔の位置に、半径方向外向きに延びる攪拌ピン9が植設されている。攪拌ピン9は、該攪拌軸ピン9が取り付けられる軸方向位置において、複数本が周方向に等間隔で配置されている。ロータ8と攪拌ピン9は、攪拌部材を構成する。ロータ8が取り付けられた攪拌軸7は、端板4及び出口ハウジング6を貫通して外方に延び、出口ハウジング6に固定された軸受ハウジング10により回転自在に支持されている。軸受ハウジング10から外方に延びる攪拌軸7の端部には、図示しない駆動装置によりベルトを介して駆動される駆動プーリー11が固定されている。
【0015】
ベッセル2の内部には、該ベッセル2の内壁面とロータ8の円筒面8aとの間に粉砕室12が形成される。ベッセル2の内壁面には、ロータ8上の攪拌ピン9に対して軸方向に互い違いの位置に、複数の静止ピン13が周方向に間隔をもって植設されている。粉砕室12には、多数の粉砕媒体14が充填されている。攪拌軸7には、粉砕室12内で端版4のスラリー出口孔4aに隣接する位置にセパレータ15が取り付けられている。セパレータ15は、端版4との間に粉砕媒体14が通過できない隙間を形成して、出口孔4aを出るスラリーから粉砕媒体14を分離する。粉砕媒体14をスラリーから分離する機構は、このようなスリット方式に限らず、スクリーン等のような、公知の他の手段を採用することもできる。
【0016】
この粉砕装置1においては、被粉砕固形物を含むスラリーをスラリー入口5から粉砕室12内に導入しながら攪拌部材を回転駆動する。粉砕室12内の粉砕媒体14は攪拌ピン9の攪拌作用により運動し、先に述べたようにスラリー内の被粉砕固形物を微細粒子に粉砕し、又は分散させる。しかし、前述のように、この種の粉砕装置においては、高粘度のスラリーの処理に問題を生じる。
【0017】
この問題に対処するため、本発明の図示実施形態においては、ロータ8の円筒面8aに、静止ピン13に対応する位置、すなわち、静止ピン13の先端に向き合った位置に円筒面の円周方向に、複数の周溝16が形成される。溝16の幅すなわち軸方向の寸法は、静止ピン13の直径の少なくとも2倍である。好ましい実施形態では、溝16の幅は静止ピン13の直径の3±0.5倍である。溝16の深さは、静止ピン13の長さの少なくとも30%である。好ましい実施形態では、溝16の深さは、静止ピン13の長さの30%から60%の範囲、もっと好ましい実施形態では、静止ピン13の長さの45%から55%の範囲である。
【0018】
本発明のこの実施形態では、ロータ8の円筒面8aに上述した幅の溝16が形成されているので、粉砕室12内の粉砕媒体14は、図3に示すように、該周溝16の側壁16aの近傍では、該側壁16aから与えられる作用及び攪拌ピン9から与えられる作用により回転運動を生じ、遠心力により半径方向外方に運動する。また、静止ピン13の近傍の静止域では回転運動が抑制されるため、遠心力が弱まり、粉砕媒体14は半径方向内方に運動する。このように、粉砕媒体14には、溝16の内部から側壁16aに沿った半径方向外向きの運動と、静止ピン13の近傍から半径方向内方に向かう運動による循環運動を生じる。その結果、粉砕媒体14における転写による移送量が増大し、かつ、スラリーの通過抵抗が減少するので、総合的に処理量の大幅な増加をもたらすことになる。
【実施例】
【0019】
内径230mm、長さ500mmの円筒形ベッセル内に、外径125mmのロータを配置し、該ロータを攪拌軸により回転自在に支持した構成の粉砕装置を準備した。ロータには、軸方向に60mm間隔で7個所、周方向に等間隔で6箇所に攪拌ピンを配置した。攪拌ピンは、直径10mm、長さ30mmであった。ベッセル内には、ロータ上の各攪拌ピン列と攪拌ピン列との間の中央位置に、それぞれ6本の静止ピンを周方向に等間隔で配置した。静止ピンは、直径10mm、長さ30mmであった。
【0020】
ロータの円筒面に周溝が形成されていない粉砕装置と、異なる大きさの周溝が形成された幾種類かの粉砕装置とを準備した。周溝の大きさは、幅30mmとし、深さを7.5mm、15mm、22.5mmの3種類とした。これらの粉砕装置を使用し、スラリー吐出温度を一定の60℃に維持して、粘度30000CP及び60000CPのスラリーについてスラリーの吐出量を測定した。その結果を図4に示す。図4から分かるように、溝の深さが静止ピンの長さの30%付近で、スラリー吐出量が急激に増加し始め、増加傾向は溝深さが静止ピンの長さの60%あたりまで続く。
【0021】
図5は、粉砕媒体の増加量に対するスラリー吐出量の変化を示す。この図から分かるように、溝の深さが静止ピンの長さの約50%の場合に、粉砕媒体の単位量あたりのスラリー吐出量が最大になる。好ましい範囲は、静止ピンの長さの30%から60%の範囲、もっと好ましい範囲は、静止ピン13の長さの45%から55%である。
【0022】
以上、本発明を好ましい実施形態について説明したが、本発明は、この実施形態の細部に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態による媒体攪拌型粉砕装置を示す縦断面図である。
【図2】図1のA−A線における横断面図である。
【図3】本発明の作用を説明するため、図1の構造の一部を拡大して示す部分断面図である。
【図4】本発明の実施例における溝の深さとスラリー吐出量の関係を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例における溝の深さと粉砕媒体単位量あたりのスラリー吐出量の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0024】
1・・・粉砕装置
2・・・ベッセル
5・・・スラリー入口
6b・・・スラリー出口
8・・・ロータ
9・・・攪拌ピン
12・・・粉砕室
13・・・静止ピン
14・・・粉砕媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側にスラリー入口を、他端側にスラリー出口を有する中空円筒形のベッセルと、
前記ベッセルの内部に同軸に回転自在に配置された攪拌部材と、
前記攪拌部材を回転駆動する駆動手段と、
を備え、
前記攪拌部材は、円筒面を有するロータと、該ロータの前記円筒面に半径方向に突出するように軸方向及び周方向の両方に間隔をもって配列された複数の攪拌ピンとを含み、
前記ベッセルの内面には、複数の静止ピンが、軸方向にみて前記攪拌部材の攪拌ピンの間の位置に半径方向内方に突出するように、半径方向に間隔をもって配置されており、
前記ベッセルの内面と前記攪拌部材のロータの円筒面との間に形成される粉砕室には粉砕媒体が充填され、前記攪拌軸を回転駆動して前記粉砕媒体に循環運動を与えながら被粉砕物を含むスラリーを前記粉砕室に導入することにより、スラリー内の被粉砕物を微細粒子に粉砕するようになった媒体循環型粉砕装置であって、
前記攪拌部材の前記ロータには、前記ベッセルから突出する前記静止ピンに対向する円筒面に、ロータ軸方向に測定した幅が前記静止ピンの直径の少なくとも2倍の溝を前記静止ピンの軸方向列の各々に対向して形成し、これによって、粉砕媒体に、溝の側壁から受ける遠心力により半径方向外向きに移動し、半径方向外方位置の前記静止ピン近傍の領域において半径方向内方に移動する循環運動を生じるようになった、
ことを特徴とする媒体循環型粉砕装置。
【請求項2】
請求項1に記載した粉砕装置であって、前記ロータに形成される前記溝の前記幅は、前記静止ピンの直径の3±0.5倍であることを特徴とする粉砕装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載した粉砕装置であって、前記ロータに形成される前記溝の前記円筒面からの深さは、前記静止ピンの長さの50±10%であることを特徴とする粉砕装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−255519(P2006−255519A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−73292(P2005−73292)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(591208205)
【Fターム(参考)】