説明

媒体記憶装置及び位置復調装置

【課題】位相サーボパターンを用いて、位置を復調する位置復調装置において、テーブルサイズを削減し、高精度の位置復調を実現。
【解決手段】記憶媒体(10)の位相サーボパターンの再生信号から第1のベクトル情報と第2のベクトル情報を復調するサーボ復調回路(30)と、第1、第2のベクトル情報から角度差のtan値を計算し、近似式で、トラック中心に位置ずれ量を計算する処理ユニット(40)と差分テーブル(64)とを有する。近似式と差分を使用したので、テーブルサイズを大幅に削減でき、且つ低速のプロセッサでも、高精度に位置復調が可能となる。このため、高精度の位置復調を、低価格の装置で実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記憶媒体からヘッドが読み取ったサーボパターンを復調して、ヘッドの位置を検出する位置復調装置及び媒体記憶装置に関し、特に、高い分解能で、ヘッドの位置を復調するための位置復調装置及び媒体記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ホストに接続された記憶装置として、記憶媒体が回転体で構成されるディスク装置が、広く利用されている。ディスク装置では、ディスクのトラックにヘッドを位置付け、ヘッドが、そのトラックの対象データをリード/ライトする。このため、ディスク上のヘッドの位置を検出する必要がある。
【0003】
例えば、磁気ディスク装置では、磁気ディスクは、外周から内周に渡り、多数のトラックが円周上に形成され、各トラックにサーボ信号(位置信号)が、円周方向に等間隔に配置される。各トラックは、複数のセクタで構成され、各セクタに、サーボ信号が記録される。
【0004】
サーボ(位置)信号は,サーボマークSMKと、グレイコードGray Codeと、サーボバースト(Position Burst)信号と、ポストコードPost Codeとからなる。
【0005】
サーボマークは、サーボ信号の先頭を示し、サーボマーク以降の信号がサーボ信号であることを認識させる。グレイコードは、シリンダ番号を示す。ポストコードは、そのサーボセクタの偏心補正量を示す。サーボバースト信号は、ヘッドのトラック位置及びトラック内の位置を検出するため、使用される。
【0006】
図12は、従来の位置復調のための位相サーボパターン信号CBの説明図である。図12に示すように、位相領域は、even1,odd1,even2の3相であり、各相は、1トラック当り所定の送り角度を持つパターンである。即ち、EVEN1は、+90度、ODD1は、−90度、EVEN2は、+90度の送り角度(1トラック当り)を持つ。
【0007】
例えば、EVEN1の位相パターン(正弦波)では、あるトラックTr0と、これに隣接トラックTr1との位相差が、+90度である。同様に、ODD1の位相パターンでは、あるトラックTr0と、これに隣接トラックTr1との位相差が、−90度である。従って、EVEN1,EVEN2,ODD1とも、4トラック(シリンダ)を単位に繰り返しが続くパターンである。
【0008】
この位相パターンから、下記式(1)、(2)の演算により、±2シリンダ復調が可能である(例えば、特許文献1,2,3)。
【0009】
【数1】

【0010】
【数2】

即ち、図13、図14に示すように、式(1)の演算により、位相差Posは、0度から360度変化し、90度単位で、トラック(シリンダ)の復調ができる。
【0011】
更に、トラック(シリンダ)内の位置も、位相差Posが、0度〜89度では、トラック0、90度〜179度では、トラック1、180度〜269度では、トラック3、270度〜359度では、トラック4内で、復調できる。
【0012】
ヘッドが読み取った媒体の2つの位相サーボ情報(EVEN1,2,ODD1)は、リードチャネルで、2つの回転ベクトル情報に復調される。図15に示すように、この2つの回転ベクトル情報A,Bは、各々、EVEN1,2とODD1に対応している。従って、ベクトルA(e1+e2)と、ベクトルB(o1)との角度差θを計算する。この角度差(位相差)から半径方向のポジションオフセット量(位置ずれ量)を計算する。
【0013】
このベクトル間の角度差は、ベクトルから直接計算できない。このため、ベクトル情報の内積と外積の割り算から、tan(θ)を計算する。
【0014】
即ち、図15に示すように、外積は、下記式(3)で表され、内積は、下記式(4)で表される。
【0015】
【数3】

【0016】
【数4】

従って、tan(θ)は、下記式(5)で計算できる。
【0017】
【数5】

このようにして、計算したtan(θ)から、トラック内の位置ずれ量を計算するのは、図16に示すように、計算したtan(θ)を、アークタンジェント(ATAN)演算して、位相差θを求める。次に、位相差θをトラック位置に変換する。このようにして、位相サーボ情報を復調し、トラック内の位置ずれ量を計算していた。
【特許文献1】日本国特許第3,340,077号公報
【特許文献2】特開平10−83640号公報
【特許文献3】特開平11−144218号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
近年の装置の低価格化と高精度の位置制御とが要求されている。このような位置復調演算は、各サンプルで行う必要があり、tan(θ)、ATAN演算をプロセッサで行うには、高速で高価なプロセッサ、又は専用のプロセッサを必要とし、装置価格を大幅に増加する要因となる。特に、小型、低価格の磁気ディスク装置では、実現が困難である。
【0019】
又、このようなトラック位置への変換を、tan(θ)とθとのテーブルを用いて、ATAN演算を省くことも考えられる。しかしながら、ATANは、非線形特性を持つため、例えば、0.25トラック範囲で、4096の分解能を得るような高精度の位置復調が必要な場合には、その非線形データを格納するテーブルサイズが大きくなり、メモリサイズが大きくなり、装置価格を大幅に増加する要因となる。
【0020】
特に、小型、低価格、大容量の磁気ディスク装置では、実現が困難である。近年、大容量化の要請に伴い、トラックピッチが狭くなっており、位置復調の分解能が、高いものが要求される。
【0021】
従って、本発明の目的は、高精度な位相サーボ信号の復調のための構成を低価格に実現するための媒体記憶装置及び位置復調装置を提供することにある。
【0022】
又、本発明の他の目的は、位相サーボ信号の復調を、高分解能で実現するとともに、低価格な構成で実現するための媒体記憶装置及び位置復調装置を提供することにある。
【0023】
更に、本発明の他の目的は、位相サーボ信号の復調のためのテーブルサイズを大幅に低減し、低価格で、高精度の装置を実現するための媒体記憶装置及び位置復調装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
この目的の達成のため、本発明の媒体記憶装置は、隣接トラック間で位相が異なる複数の位相パターンが、互いに逆位相で形成された位相サーボパターン領域が、複数のトラックの各々に形成された記憶媒体と、前記記憶媒体の前記トラックのデータを少なくとも読み取るヘッドと、前記ヘッドを前記記憶媒体の前記トラックの横断方向に移動するアクチュエータと、前記ヘッドの前記位相サーボパターン領域の再生信号から前記複数の位相パターンの第1の位相パターンの第1のベクトル情報と、前記第1の位相パターンと逆位相の第2の位相パターンの第2のベクトル情報を復調するサーボ復調回路と、前記第1のベクトル情報と前記第2のベクトル情報の角度差から、前記ヘッドのトラック中心からの位置ずれ量を検出し、前記検出した位置ずれ量に従い、前記アクチュエータを駆動し、前記ヘッドを目標トラック中心に位置付ける制御ユニットとを有し、前記制御ユニットは、前記第1、第2のベクトル情報との外積と内積とを演算し、前記外積値と内積値の割り算により、前記角度差のタンジェント値を演算し、前記タンジェント値を、近似式によりトラック位置情報に変換する処理ユニットと、前記タンジェント値に対応するトラック位置情報と前記近似式の値との差分を格納する差分テーブルとを有し、前記処理ユニットは、前記近似式によるトラック位置情報と前記差分とを加算して、前記位置ずれ量を復調する。
【0025】
又、本発明の位置復調装置は、記憶媒体のトラックに記録された位相サーボパターンから位置ずれ量を復調する位置復調装置において、前記位相サーボパターンの第1の位相パターンの第1のベクトル情報と、前記第1の位相パターンと逆位相の第2の位相パターンの第2のベクトル情報とを受け、前記第1、第2のベクトル情報との外積と内積とを演算し、前記外積値と内積値の割り算により、前記角度差のタンジェント値を演算し、前記タンジェント値を、近似式によりトラック位置情報に変換する処理ユニットと、前記タンジェント値に対応するトラック位置情報と前記近似式の値との差分を格納する差分テーブルとを有し、前記処理ユニットは、前記近似式によるトラック位置情報と前記差分とを加算して、前記位置ずれ量を復調する。
【0026】
更に、本発明では、好ましくは、前記処理ユニットは、前記近似式として、非線形関数の近似式を計算する。
【0027】
更に、本発明では、好ましくは、前記処理ユニットは、前記近似式として、2次の近似式を計算する。
【0028】
更に、本発明では、好ましくは、前記処理ユニットは、前記位置ずれ量として、前記トラック中心から0.5トラック以内の位置ずれ量を復調する。
【0029】
更に、本発明では、好ましくは、前記処理ユニットは、前記復調した位置ずれ量に従い、前記ヘッドを前記目標トラック中心に位置付けるためのサーボ演算を実行する。
【0030】
更に、本発明では、好ましくは、前記サーボ復調回路は、前記記憶媒体の前記トラック間の送り角が、+90度である前記第1の位相パターンの第1のベクトル情報と、前記トラック間の送り角が、−90度である前記第2の位相パターンの第2のベクトル情報を復調する。
【0031】
更に、本発明では、好ましくは、前記サーボ復調回路は、前記ヘッドの再生信号をフーリエ変換して、前記第1のベクトル情報と、前記第2のベクトル情報を復調するフーリエ変換回路を有する。
【0032】
更に、本発明では、好ましくは、前記処理ユニットは、前記外積値と内積値とを比較し、前記外積値が内積値より大きいと判定した場合に、前記内積値を前記外積値で割り、第1の前記角度差のタンジェント値を演算し、前記外積値が内積値より大きくないと判定した場合に、前記外積値を前記内積値で割り、第2の前記角度差のタンジェント値を演算する。
【0033】
更に、本発明では、好ましくは、前記処理ユニットは、前記第1のタンジェント値を演算した場合には、前記第1のタンジェント値を、前記近似式によりトラック位置情報に変換し、前記差分テーブルを前記第1のタンジェント値で参照して、前記差分を得るとともに、前記第2のタンジェント値を演算した場合には、第2のタンジェント値を、前記近似式によりトラック位置情報に変換し、前記差分テーブルを前記第2のタンジェント値で参照して、前記差分を得て、前記トラック位置情報と前記差分とを、所定のトラック位置ずれ量で補正計算して、前記位置ずれ量を復調する。
【発明の効果】
【0034】
位相サーボパターンの復調のため、計算したtan値から、トラック中心に対する位置ずれ量を計算するのに、近似式と差分テーブルを使用したので、テーブルサイズを大幅に削減でき、且つ低速のプロセッサでも、高精度に位置復調が可能となる。このため、高精度の位置復調を、低価格の装置で実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の実施の形態を、媒体記憶装置、位置復調装置、他の実施の形態の順で説明するが、本発明は、この実施の形態に限られない。
【0036】
(媒体記憶装置)
図1は、本発明の一実施の形態の媒体記憶装置の構成図、図2は、図1の位相サーボ情報の説明図である。図1は、媒体記憶装置として、磁気ディスク装置を示す。
【0037】
図1に示すように、磁気記憶媒体である磁気ディスク10が、スピンドルモータ18の回転軸19に設けられている。スピンドルモータ18は、磁気ディスク10を回転する。アクチュエータ(VCM)14は、先端に磁気ヘッド12を備え、磁気ヘッド12を磁気ディスク10の半径方向に移動する。
【0038】
アクチュエータ14は、回転軸を中心に回転するボイスコイルモータ(VCM)で構成される。図では、磁気ディスク装置に、2枚の磁気ディスク10が搭載され、4つの磁気ヘッド12が、同一のアクチュエータ14で同時に駆動される。
【0039】
磁気ヘッド12は、リード素子と、ライト素子とからなる。磁気ヘッド12は、スライダに、磁気抵抗(MR)素子を含むリード素子を積層し、その上にライトコイルを含むライト素子を積層して、構成される。
【0040】
磁気ヘッド12が読み取った位置信号(アナログ信号)は、プリアンプ20で増幅された後、リードチャネル(サーボ復調回路)30に入力する。サーボ復調回路30は、図3で説明するように、サーボマークを同期検出して、サーボ信号の各位相パターンの角度(ベクトル情報)を復調する。
【0041】
復調ベクトル情報は、データ処理ユニット(Digital Signal Processor)40に入力する。データ処理ユニット40は、フィードフォワード(FF)機能を持つフィードバック制御系のデータ処理を実行する。目標軌道生成部42は、シーク距離dに応じて、シーク開始からサンプル毎の目標位置軌道を生成し、且つこの位置軌道から、このサンプル毎の目標位置を生成する。
【0042】
FF電流生成部44は、目標位置軌道に従い、目標位置への速度カーブに従う、フィードフォワード(FF)電流を生成する。現在位置計算部46は、サーボ復調回路30からの2つの位相パターンのベクトル情報A,Bから、図3以下で説明するように、現在位置を計算する。
【0043】
位置誤差計算部48は、現在位置から目標位置を差し引き、位置誤差(サンプル毎の)を計算する。コントローラ50は、オブザーバ制御、PID制御等により、位置誤差をなくすためのフィードバック電流を計算する。電流加算部52は、FF電流生成部44のFF電流と、コントローラ50のフィードバック電流とを加算し、VCM制御電流を生成する。パワーアンプ22は、VCM制御電流を増幅し、VCM14を駆動する。
【0044】
即ち、サンプル毎に、目標軌道分のフィードフォワード電流を供給し、目標軌道との誤差は、目標軌道のサンプル間の差分と復調位置との誤差で得て、フィードバックコントローラ50で、修正する。
【0045】
図2に示すように、磁気ディスク10の各トラックのセクタに設けられた位相サーボ情報SVは、even1,odd1,even2の3相の位相領域を持ち、各相は、1トラック当り所定の送り角度を持つパターンである。即ち、EVEN1は、+90度、ODD1は、−90度、EVEN2は、+90度の送り角度(1トラック当り)を持つ。
【0046】
この例では、ODD1領域を、EVEN1領域とEVEN2領域とを足した長さに設定している。これにより、ODD1領域でも、読み取り信号の平均化が可能となり、ベクトル情報Bのノイズを除去するのに有効である。
【0047】
(位置復調装置)
次に、図3乃至図11により、図1の位置復調系を説明する。図3は、図1の位置復調系のブロック図、図4乃至図8は、図3のtan(θ)計算部の説明図、図9乃至図11は、図3の近似式計算部と差分テーブルの説明図である。
【0048】
図3に示すように、リードチャネル(サーボ復調回路)30では、プリアンプ20からの読み取り信号は、信号整形回路32に入力する。信号整形回路32は、ハイパスフィルタ(HPF)、AGC回路、非対称特性制御回路(ASC)等で構成され、不要な帯域の信号成分(例えば、DC成分)をカットし、振幅を調整する。
【0049】
信号整形回路32の出力は、アナログ/デジタル変換器(ADC)34に入力し、アナログ信号をタイミング同期したサンプルクロックで、デジタル値に変換する。ADC34の出力は、DFT(Digital Fourier Transform)回路36で、フーリエ変換される。これにより、時間関数を角度ベクトルに変換する。
【0050】
図2の例では、ODD1領域、EVEN1領域、EVEN2領域は、サーボマークの検出から既知の位置(時間位置)にあるため、EVEN1,2の角度ベクトル情報Aと、ODD1の角度ベクトル情報Bとが、分離され、且つ実数と虚数で表現され、出力される。
【0051】
次に、現在位置計算部46を説明する。先ず、tanθ計算部60は、前述の式(3)〜式(5)で説明したように、2つのベクトル情報A,Bの外積、内積を計算し、これらから、tan(θ)を計算する。この場合に、更に、テーブルサイズを小さくするため、図4乃至図8で説明する演算を行う。
【0052】
即ち、tan(θ)計算部60は、式(3)で外積を演算し、式(4)で内積を演算する。そして、外積の値と内積の値を比較する。図4に示すように、外積の値が、内積の値より大きくない場合には、位相差θは、0度〜45度の範囲(即ち、0〜0.25トラック)にあるため、式(5)により、tan(θ)を演算する。後述するように、この演算されたtan(θ)は、図5に示すように、そのままトラック位置に変換される。
【0053】
一方、tan(θ)計算部60は、図6に示すように、式(3)で演算した外積の値が、式(4)で演算した内積の値より大きい場合には、位相差θは、45度〜90度の範囲(即ち、0.25〜0.5トラック)にあるため、位相差θを、図6の(90−φ)に置き換える。
【0054】
このφは、θが、45度から90度に変化するに伴い、45度から0度に変化する。そして、φを用いて、下記式(6)により外積を、下記式(7)により、内積を計算し、下記式(8)により、tanφを演算する。
【0055】
【数6】

【0056】
【数7】

【0057】
【数8】

後述するように、この演算されたtanφは、図7に示すように、そのままトラック位置に変換される。そして、tanφから得られた位置ずれ量を、0.5トラック分のオフセットから減算して、正しいトラック位置を得る。
【0058】
即ち、図8に示すように、0度〜45度の位相差は、θで計算し、45度〜90度の位相差は、φ(=90−θ)で計算する。これにより、後述するように、0度〜45度のテーブルで、0度〜90度のトラック位置(トラック中心からの位置ずれ量)が得られる。
【0059】
図3に戻り、計算されたtan(θ)は、近似式の値と差分により、トラック位置に変換される。即ち、近似式計算部62と、差分テーブル64を設ける。先ず、近似式計算部62は、図10に示すように、tan(θ)を、低次数の近似式により、トラック位置に近似する。ATAN演算及びトラック位置変換のための低次数の近似式は、下記(9)式を用いる。
【0060】
【数9】

この近似式は、基本的に、2次関数であり、それ程、計算時間がかからない。
【0061】
一方、差分テーブル64には、正しいトラック位置と近似式で計算されたトラック位置との差分を、各tan(θ)に対して、格納する。図11は、差分テーブル64のtan(θ)に対応して、格納される差分(補正量)を示す。
【0062】
そして、計算されたtan(θ)の値を、近似式計算部62に入力し、図10のように、近似式を演算し、近似されたトラック位置を得る。又、tan(θ)で、差分テーブル64を参照し、対応する差分値を得る。そして、加算部66は、この近似されたトラック位置と差分値を加算して、正しいトラック位置を出力する。
【0063】
図9は、差分テーブル64の説明図である。ここでは、tan(θ)を、512段階(0〜0.25トラック範囲)の分解能とし、その値に対する正しいトラック位置をその横に羅列する。そして、近似値は、前述の近似式で計算したトラック位置である。従って、差分テーブル64は、各tan(θ)に対する(正しいトラック位置−近似値)を格納する。
【0064】
このようにすると、テーブルに、正しいトラック位置を格納した場合には、テーブルの大きさは、12bit×512段となるが、差分を格納すると、4bit×512段となり、約1/3のテーブルサイズで済む。
【0065】
しかも、近似式に、低次数の近似式を用いているため、処理負荷も少なく、計算速度の低下を防止できる。
【0066】
又、前述の図6、図7で説明したtanφを計算した場合には、tanφの値を、同様に、近似式計算部62に入力し、図10に示したように、近似式を演算し、近似されたトラック位置ずれを得る。又、tanφの値で、差分テーブル64を参照し、対応する差分値を得る。そして、加算部66は、この近似されたトラック位置と差分値を加算して、トラック位置ずれ量を計算する。そして、減算ブロック68は、0.5トラック分の値から、加算されたトラック位置ずれ量を減算する。これにより、正しいトラック位置ずれ値が復調できる。このように、tanθと同様に近似式計算とテーブル参照ができる。
【0067】
即ち、角度φは、角度θが、45度から90度に変化する(トラック位置では、0.25トラック〜0.5トラックに変化する)に伴い、45度から0度に変化するため、この値に応じて、0.25トラック〜0.5トラックの位置ずれ量を出力する。このため、図7で説明したように、0.5トラックから、tanφの値で得られた近似式と、差分との加算値を差し引くことにより、tanθと同様に近似式計算とテーブルを参照して、正しいトラック位置ずれ量が得られる。
【0068】
このように、位相サーボ復調のtan値から、トラック中心に位置ずれ量を計算するのに、近似式と差分テーブルを使用したので、テーブルサイズを大幅に削減でき、且つ低速のプロセッサでも、高精度に位置復調が可能となる。このため、高精度の位置復調を、低価格の装置で実現できる。
【0069】
(他の実施の形態)
前述の実施の形態では、位置復調を、磁気ディスク装置のヘッド位置復調の例で説明したが、光ディスク装置等の他のディスク装置にも適用できる。又、前述のように、位相差が、45度を境に、計算方法を変更した例で説明したが、このような操作を行わない場合にも適用できる。
【0070】
以上、本発明を、実施の形態で説明したが、本発明は、その趣旨の範囲内で種々の変形が可能であり、これを本発明の範囲から排除するものではない。
【0071】
(付記1)隣接トラック間で位相が異なる複数の位相パターンが、互いに逆位相で形成された位相サーボパターン領域が、複数のトラックの各々に形成された記憶媒体と、前記記憶媒体の前記トラックのデータを少なくとも読み取るヘッドと、前記ヘッドを前記記憶媒体の前記トラックの横断方向に移動するアクチュエータと、前記ヘッドの前記位相サーボパターン領域の再生信号から前記複数の位相パターンの第1の位相パターンの第1のベクトル情報と、前記第1の位相パターンと逆位相の第2の位相パターンの第2のベクトル情報を復調するサーボ復調回路と、前記第1のベクトル情報と前記第2のベクトル情報の角度差から、前記ヘッドのトラック中心からの位置ずれ量を検出し、前記検出した位置ずれ量に従い、前記アクチュエータを駆動し、前記ヘッドを目標トラック中心に位置付ける制御ユニットとを有し、前記制御ユニットは、前記第1、第2のベクトル情報との外積と内積とを演算し、前記外積値と内積値の割り算により、前記角度差のタンジェント値を演算し、前記タンジェント値を、近似式によりトラック位置情報に変換する処理ユニットと、前記タンジェント値に対応するトラック位置情報と前記近似式の値との差分を格納する差分テーブルとを有し、前記処理ユニットは、前記近似式によるトラック位置情報と前記差分とを加算して、前記位置ずれ量を復調することを特徴とする媒体記憶装置。
【0072】
(付記2)前記処理ユニットは、前記近似式として、非線形関数の近似式を計算することを特徴とする付記1の媒体記憶装置。
【0073】
(付記3)前記処理ユニットは、前記近似式として、2次の近似式を計算することを特徴とする付記2の媒体記憶装置。
【0074】
(付記4)前記処理ユニットは、前記位置ずれ量として、前記トラック中心から0.5トラック以内の位置ずれ量を復調することを特徴とする付記1の媒体記憶装置。
【0075】
(付記5)前記処理ユニットは、前記復調した位置ずれ量に従い、前記ヘッドを前記目標トラック中心に位置付けるためのサーボ演算を実行することを特徴とする付記1の媒体記憶装置。
【0076】
(付記6)前記サーボ復調回路は、前記記憶媒体の前記トラック間の送り角が、+90度である前記第1の位相パターンの第1のベクトル情報と、前記トラック間の送り角が、−90度である前記第2の位相パターンの第2のベクトル情報を復調することを特徴とする付記1の媒体記憶装置。
【0077】
(付記7)前記サーボ復調回路は、前記ヘッドの再生信号をフーリエ変換して、前記第1のベクトル情報と、前記第2のベクトル情報を復調するフーリエ変換回路を有することを特徴とする付記1の媒体記憶装置。
【0078】
(付記8)前記処理ユニットは、前記外積値と内積値とを比較し、前記外積値が内積値より大きいと判定した場合に、前記内積値を前記外積値で割り、第1の前記角度差のタンジェント値を演算し、前記外積値が内積値より大きくないと判定した場合に、前記外積値を前記内積値で割り、第2の前記角度差のタンジェント値を演算することを特徴とする付記1の媒体記憶装置。
【0079】
(付記9)前記処理ユニットは、前記第1のタンジェント値を演算した場合には、前記第1のタンジェント値を、前記近似式によりトラック位置情報に変換し、前記差分テーブルを前記第1のタンジェント値で参照して、前記差分を得るとともに、前記第2のタンジェント値を演算した場合には、第2のタンジェント値を、前記近似式によりトラック位置情報に変換し、前記差分テーブルを前記第2のタンジェント値で参照して、前記差分を得て、前記トラック位置情報と前記差分とを、所定のトラック位置ずれ量で補正計算して、前記位置ずれ量を復調することを特徴とする付記8の媒体記憶装置。
【0080】
(付記10)記憶媒体のトラックに記録された位相サーボパターンから位置ずれ量を復調する位置復調装置において、前記位相サーボパターンの第1の位相パターンの第1のベクトル情報と、前記第1の位相パターンと逆位相の第2の位相パターンの第2のベクトル情報とを受け、前記第1、第2のベクトル情報との外積と内積とを演算し、前記外積値と内積値の割り算により、前記角度差のタンジェント値を演算し、前記タンジェント値を、近似式によりトラック位置情報に変換する処理ユニットと、前記タンジェント値に対応するトラック位置情報と前記近似式の値との差分を格納する差分テーブルとを有し、前記処理ユニットは、前記近似式によるトラック位置情報と前記差分とを加算して、前記位置ずれ量を復調することを特徴とする位置復調装置。
【0081】
(付記11)前記処理ユニットは、前記近似式として、非線形関数の近似式を計算することを特徴とする付記10の位置復調装置。
【0082】
(付記12)前記処理ユニットは、前記近似式として、2次の近似式を計算することを特徴とする付記11の位置復調装置。
【0083】
(付記13)前記処理ユニットは、前記位置ずれ量として、前記トラック中心から0.5トラック以内の位置ずれ量を復調することを特徴とする付記10の位置復調装置。
【0084】
(付記14)前記処理ユニットは、前記復調した位置ずれ量に従い、ヘッドを前記目標トラック中心に位置付けるためのサーボ演算を実行することを特徴とする付記10の位置復調装置。
【0085】
(付記15)ヘッドの前記位相サーボパターンの再生信号から前記第1のベクトル情報と、前記第2のベクトル情報を復調するサーボ復調回路を更に有することを特徴とする付記10の位置復調装置。
【0086】
(付記16)前記サーボ復調回路は、前記記憶媒体の前記トラック間の送り角が、+90度である前記第1の位相パターンの第1のベクトル情報と、前記トラック間の送り角が、−90度である前記第2の位相パターンの第2のベクトル情報を復調することを特徴とする付記15の位置復調装置。
【0087】
(付記17)前記サーボ復調回路は、前記ヘッドの再生信号をフーリエ変換して、前記第1のベクトル情報と、前記第2のベクトル情報を復調するフーリエ変換回路を有することを特徴とする付記15の位置復調装置。
【0088】
(付記18)前記処理ユニットは、前記外積値と内積値とを比較し、前記外積値が内積値より大きいと判定した場合に、前記内積値を前記外積値で割り、第1の前記角度差のタンジェント値を演算し、前記外積値が内積値より大きくないと判定した場合に、前記外積値を前記内積値で割り、第2の前記角度差のタンジェント値を演算することを特徴とする付記10の位置復調装置。
【0089】
(付記19)前記処理ユニットは、前記第1のタンジェント値を演算した場合には、前記第1のタンジェント値を、前記近似式によりトラック位置情報に変換し、前記差分テーブルを前記第1のタンジェント値で参照して、前記差分を得るとともに、前記第2のタンジェント値を演算した場合には、第2のタンジェント値を、前記近似式によりトラック位置情報に変換し、前記差分テーブルを前記第2のタンジェント値で参照して、前記差分を得て、前記トラック位置情報と前記差分とを、所定のトラック位置ずれ量で補正計算して、前記位置ずれ量を復調することを特徴とする付記18の位置復調装置。
【産業上の利用可能性】
【0090】
位相サーボパターンの復調のため、計算したtan値から、トラック中心に位置ずれ量を計算するのに、近似式と差分テーブルを使用したので、テーブルサイズを大幅に削減でき、且つ低速のプロセッサでも、高精度に位置復調が可能となる。このため、高精度の位置復調を、低価格の装置で実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の一実施の形態の媒体記憶装置の構成図である。
【図2】図1の記憶媒体の位相サーボパターンの説明図である。
【図3】図1の位置復調系の構成図である。
【図4】図3の角度差のtan値の計算処理の説明図である。
【図5】図4で計算されたtan値とトラック位置ずれ量との説明図である。
【図6】図3の角度差のtan値の他の計算処理の説明図である。
【図7】図6で計算されたtan値とトラック位置ずれ量との説明図である。
【図8】図4の計算処理と図6の計算処理との関係図である。
【図9】図3の差分テーブルの構成図である。
【図10】図3の近似式計算処理の説明図である。
【図11】図3の差分テーブルの説明図である。
【図12】従来の位相サーボパターンの説明図である。
【図13】従来の位相サーボパターンの角度差によるトラック位置復調動作の説明図である、
【図14】従来の位相サーボパターンの角度と±2シリンダ復調との関係図である、
【図15】従来の位相サーボパターンの角度差のtan値計算処理の説明図である。
【図16】従来の位相サーボパターンの角度差のtan値とトラック位置ずれ量の説明図である。
【符号の説明】
【0092】
10 ディスク(記憶媒体)
12 磁気ヘッド
14 VCM(アクチュエータ)
18 スピンドルモータ
30 サーボ復調回路
40 制御ユニット
42 目標位置軌道生成部
44 FF電流生成部
46 現在位置計算部
48 位置誤差計算部
50 コントローラ
52 電流加算部
36 DFT回路
60 tanθ計算部
62 近似式計算部
64 差分テーブル
66 加算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接トラック間で位相が異なる複数の位相パターンが、互いに逆位相で形成された位相サーボパターン領域が、複数のトラックの各々に形成された記憶媒体と、
前記記憶媒体の前記トラックのデータを少なくとも読み取るヘッドと、
前記ヘッドを前記記憶媒体の前記トラックの横断方向に移動するアクチュエータと、
前記ヘッドの前記位相サーボパターン領域の再生信号から前記複数の位相パターンの第1の位相パターンの第1のベクトル情報と、前記第1の位相パターンと逆位相の第2の位相パターンの第2のベクトル情報を復調するサーボ復調回路と、
前記第1のベクトル情報と前記第2のベクトル情報の角度差から、前記ヘッドのトラック中心からの位置ずれ量を検出し、前記検出した位置ずれ量に従い、前記アクチュエータを駆動し、前記ヘッドを目標トラック中心に位置付ける制御ユニットとを有し、
前記制御ユニットは、
前記第1、第2のベクトル情報との外積と内積とを演算し、前記外積値と内積値の割り算により、前記角度差のタンジェント値を演算し、前記タンジェント値を、近似式によりトラック位置情報に変換する処理ユニットと、
前記タンジェント値に対応するトラック位置情報と前記近似式の値との差分を格納する差分テーブルとを有し、
前記処理ユニットは、前記近似式によるトラック位置情報と前記差分とを加算して、前記位置ずれ量を復調する
ことを特徴とする媒体記憶装置。
【請求項2】
前記処理ユニットは、前記近似式として、非線形関数の近似式を計算する
ことを特徴とする請求項1の媒体記憶装置。
【請求項3】
記憶媒体のトラックに記録された位相サーボパターンから位置ずれ量を復調する位置復調装置において、
前記位相サーボパターンの第1の位相パターンの第1のベクトル情報と、前記第1の位相パターンと逆位相の第2の位相パターンの第2のベクトル情報とを受け、前記第1、第2のベクトル情報との外積と内積とを演算し、前記外積値と内積値の割り算により、前記角度差のタンジェント値を演算し、前記タンジェント値を、近似式によりトラック位置情報に変換する処理ユニットと、
前記タンジェント値に対応するトラック位置情報と前記近似式の値との差分を格納する差分テーブルとを有し、
前記処理ユニットは、前記近似式によるトラック位置情報と前記差分とを加算して、前記位置ずれ量を復調する
ことを特徴とする位置復調装置。
【請求項4】
前記処理ユニットは、前記近似式として、非線形関数の近似式を計算する
ことを特徴とする請求項3の位置復調装置。
【請求項5】
前記処理ユニットは、前記近似式として、2次の近似式を計算する
ことを特徴とする請求項4の位置復調装置。
【請求項6】
前記処理ユニットは、前記復調した位置ずれ量に従い、ヘッドを前記目標トラック中心に位置付けるためのサーボ演算を実行する
ことを特徴とする請求項3の位置復調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−257772(P2008−257772A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−96503(P2007−96503)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】