説明

嫌気硬化性組成物

【課題】
本発明は低硬化収縮性、低熱膨張性の嫌気硬化性接着剤に関するものである。
【解決手段】
(a)分子中に少なくとも1つ以上のラジカル重合性官能基を有する化合物、(b)有機過酸化物、(c)o−ベンゾイックスルフィミド、(d)平均粒子径0.1〜100μmのビニル重合物の有機微粒子、(e)ヒュームドシリカからなることを特徴とする嫌気硬化性組成物。さらに好ましくは前記(a)成分100重量部に対し、(b)成分を0.1〜5重量部、(c)成分を0.1〜5重量部、(d)成分を10〜50、(e)成分を10〜50重量部の範囲で含有し、かつ(d)成分と(e)成分の合計量が(a)成分100重量部に対し30〜90重量部である嫌気硬化性組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は接着剤、封着剤に使用される嫌気硬化性組成物に関するものであり、ヒュームドシリカ、有機微粒子を配合することにより、低線膨張で低硬化収縮な嫌気硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
嫌気硬化性組成物は(メタ)アクリル酸エステルモノマーを主成分とする硬化性組成物であり、空気または酸素と接触している間は長期間ゲル化せずに液状状態で安定に保たれ、空気または酸素が遮断もしくは排除されると急速に硬化する性質を有するものである。嫌気硬化性組成物はこのような性質を利用して、ネジ、ボルト等の接着、固定、嵌め合い部品の固着、フランジ面間の接着、シール、鋳造部品に生じる巣孔の充填等に使用されている。嫌気硬化性組成物は例えば、特許文献1,2に記載されている。
【0003】
嫌気硬化性接着剤は常温において速硬化性を有し、硬化後も安定した物性を有するため、生産工程の簡易化と生産時間の短縮が可能であることから、電気分野での利用が増加している。特にモータ分野において、その生産性から例えば、特許文献3のようにモータマグネットの接着に嫌気硬化性接着剤が使用されている。
【特許文献1】特開2003−313206号公報
【特許文献2】特開2003−165806号公報
【特許文献3】特開2004−273582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そのような状況で、近年、嫌気硬化性組成物に対するさまざまな要望が増加している。一般的に硬化性組成物は硬化時に体積収縮する(硬化収縮)が、その収縮は小さい方が接着後の信頼性が高い。また、物質は一般的に高温時には熱膨張する。被着体も硬化性組成物の硬化物も同様に熱膨張するが、被着体の大部分は接着剤硬化物の熱膨張率より低いため接着剤の膨張率は低い方が好ましい。特に、被着体が高熱と低熱を繰り返す部材・箇所においては、接着剤硬化物の熱膨張率が低いものは、長期間安定して接着が可能なのに対し、それが高いものは経時で接着力が低下していく。よって、嫌気硬化性組成物の低硬化収縮性と低熱膨張性が求められている。しかしながら、現状の嫌気硬化性接着剤の高温での熱膨張率の制御、低硬化収縮はその特異的な性質から実現が困難であった。一般的に接着剤の熱膨張率を低下するためには無機充填剤を多量に加えることで可能であるが、嫌気硬化性接着剤に無機充填剤を多量に加えると、接着剤の保存安定性を悪くしてしまい、保存中に増粘、ゲル化したり、嫌気硬化性が低下したりなど、保存安定性が低下するためこの手法は不適である。また、無機充填剤を多量に添加しても、組成物中で沈降してしまい、液中に均一に分散させるためには増粘剤などを使用しなければならず組成物が高粘度化し、作業性を劣化させるという不都合を招来する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上述した従来の問題点を克服するものである。すなわち(a)分子中に少なくとも1つ以上のラジカル重合性官能基する化合物、(b)有機過酸化物、(c)o−ベンゾイックスルフィミド、(d)平均粒子径0.1〜100μmのビニル重合物の有機微粒子、(e)表面を(メタ)アクリルシラン処理したヒュームドシリカからなる嫌気硬化性組成物を提供する。
【0006】
本発明に使用される(a)成分、分子中に少なくとも1つ以上のラジカル重合性官能基する化合物は以下に説明されるものである。まず、ラジカル重合性官能基とは、アクリロイル基、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、プロペニル基などがあげられる。このような官能基を1つ有する化合物は一般的にラジカル重合性モノマーと呼ばれ、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等があげられる。なお、(メタ)アクリルとはアクリルとメタクリルを総称したものである。
【0007】
ラジカル重合性官能基を2つ以上有するものとして、比較的低分子の化合物の分子中にラジカル重合性官能基が2つ以上存在するいわゆるラジカル重合性多官能モノマーと、比較的高分子の化合物の両末端などにラジカル重合性官能基を有する、いわゆるラジカル重合性オリゴマーが挙げられる。ラジカル重合性多官能モノマーとしてはエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0008】
ラジカル重合性オリゴマーとしてはビスフェノールなどのグリシジルエーテルのエポキシ基にアクリル酸、メタクリル酸もしくはそれらの多量体を反応させて得られるエポキシ変性(メタ)アクリレート、水酸基含有(メタ)アクリレートと末端イソシアネート基含有化合物とを反応して得られるウレタン結合含有(メタ)アクリレート、ポリエーテル樹脂の末端に(メタ)アクリロイル基を反応させた化合物、ポリエステルの末端に(メタ)アクリロイル基を反応させた化合物などが挙げられる。
【0009】
これらは単独で用いても良いし嫌気硬化性組成物の粘度の調整、あるいはその硬化物の特性を調整する目的で、複数を混合してもどちらでも良いが、通常、単独で所望の性能を出すことが困難であるためラジカル重合性モノマーとラジカル重合性オリゴマーを混合して使用することが好ましい。
【0010】
本発明に用いられる(b)有機過酸化物は従来より嫌気硬化性組成物にて用いられているもので、特に限定されるものではなく、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド等のジアリルパーオキサイド類、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサンパーオキサイド、メチルシクロヘキサンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、アセチルパーオキシド等のジアシルパーオキシド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル類等の有機過酸化物等が挙げられる。
【0011】
これらの有機過酸化物は単独で或いは二種以上の混合物として用いることができる。この(b)成分の配合量は、(a)成分100重量部に対して、通常0.1〜5重量部である。0.1重量部よりも少ないと重合反応を生じさせるのに不十分である場合があり、5重量部よりも多いと、嫌気硬化性組成物の安定性が低下する場合がある。
【0012】
本発明において用いられる(c)成分はo−ベンゾイックスルフィミドであり嫌気硬化性組成物には通常使用される成分である。o−ベンゾイックスルフィミドはいわゆるサッカリンであり、(c)成分の添加量は(a)成分100重量部に対して通常0.1〜5重量部配合される。
【0013】
本発明に用いられる(d)成分は平均粒子径0.1〜100μmのビニル重合物の有機微粒子である。ビニル重合物は例えばスチレン系、スチレン−アクリル系、ジビニルベンゼン系、メチルメタクリレート系、メタクリレート系、エチルメタクリレート系、エチルアクリレート系、n−ブチルアクリレート系、アクリル酸系、アクリロニトリル系、アクリルゴム−メタクリレート系、等があげられるが、その中でも(メタ)アクリル酸エステル、スチレンを重合させて得られたものが好ましい。当該エステル部はメチル、エチル、プロピル、ブチルが挙げられるがこれに限定したものではない。また、粒子径、粒子の物性調整のために多価エステル類を用いることも可能である。多価エステル類としてはトリメチロールプロパンで構成される微粒子が好ましい。トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等用いることが可能である。
【0014】
これら有機微粒子は従来公知の方法で製造することが可能であり、例えば、乳化重合を利用した方法、シード乳化重合法、ソープフリー重合法、分散重合法、懸濁重合法等があげられるが、これらの方法によって作製されたものに限定されるものではない。また、重合物を粉砕した物でもよい。
【0015】
本発明の(d)成分の例として、綜研化学より販売されているケミスノーMX、MR、MP、SXシリーズ(架橋ポリメチルメタクリレート)、SXシリーズ(架橋ポリスチレン)、根上工業より販売されている架橋アクリルビーズGRシリーズ、Jシリーズ、積水化学工業より販売されている架橋スチレン、メタクリル酸メチルのテクポリマーMBX−シリーズを挙げることができる。(d)成分は100重量部に対して10〜50重量部添加することが好ましい。
【0016】
本発明に用いられる(e)表面を(メタ)アクリルシラン処理したヒュームドシリカは、ヒュームドシリカの表面を(メタ)アクリロイル基含有シランで表面処理したものである。(e)成分は一次粒子が1μm以下のものが好ましい。(e)成分としては日本アエロジル社製のアエロジルR−7200、アエロジルR711として、入手可能である。本発明において用いられる(e)成分は100重量部に対して10〜50重量部添加することができる。
【0017】
また、本発明組成物中に(d)成分と(e)成分の合計量は(a)成分100重量部に対して30〜90重量部であることが好ましい。
【0018】
本発明の組成物中、(a)〜(c)の嫌気硬化性成分に(d)と(e)成分の両方を加えることにより、本発明の目的である低硬化収縮性と低熱膨張性を発揮することができる。(d)のみまたは(e)のみではこの効果が得られず、また、(d)成分でない有機微粒子、例えば、ポリエチレン微粒子、ポリテトラフルオロエチレン微粒子、ポリシロキサン微粒子などを使用してもこの効果は得られない。また、(e)成分も(メタ)アクリルシラン処理したヒュームドシリカ以外を用いた場合は本発明の効果は得られがたい。また、(d)成分には(a)成分との分散性が良いという別の作用効果もある。無機微粒子や(d)成分以外の有機微粒子を(a)成分に分散させても、長期保存中に沈降してしまったり、粒子が凝集してしまったりといったことが発生するが、(d)成分を使用した場合それらが発生せず、長期間わたり分散させることが可能である。
【0019】
本組成物の主剤は上記成分以外に重合を促進する成分を添加することができる。これらの成分としてはo−ベンゾイックスルフィミドのほかに、アミン化合物、メルカプタン化合物、ヒドラジン化合物を挙げることができる。アミン化合物は1,2,3,4−テトラヒドロキノリン、1,2,3,4−テトラヒドロキナルジン等の複素環第2級アミン、キノリン、メチルキノリン、キナルジン、キノキサリンフェナジン等の複素環第3級アミン、N,N−ジメチル−アニシジン、N,N−ジメチルアニリン等の芳香族第三級アミン類、1,2,4−トリアゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、ベンゾトリアゾール、ヒドロキシベンゾトリアゾール、ベンゾキサゾール、1,2,3−ベンゾチアジアゾール、3−メルカプトベンゾトリゾール等のアゾール系化合物等が挙げられる。また、メルカプタン化合物としてはn−ドデシルメルカプタン、エチルメルカプタン、ブチルメルカプタン等の直鎖型メルカプタンが挙げられる。ヒドラジン誘導体としてはエチルカルバゼート、N−アミノルホダニン、アセチルフェニルヒドラジン、p−ニトロフェニルヒドラジン、p−トリスルホニルヒドラジド等が挙げられるがこれに限定したものではない。
【0020】
本発明は更に種々の添加剤を使用できる。例えば、保存安定性を得るためには、ベンゾキノン、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル等のラジカル吸収剤、エチレンジアミン4酢酸又はその2−ナトリウム塩、シユウ酸、アセチルアセトン、o−アミノフエノール等の金属キレート化剤等を添加することもできる。更に、その他に嫌気硬化性樹脂の性状や硬化物の性質を調整するために、増粘剤、充填剤、可塑剤、着色剤等を必要に応じて使用することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は硬化物の硬化収縮が小さくかつ熱膨張率が小さい。よって、被着体が高熱と低熱を繰り返す部材であっても経時で接着力が低下することが無く、信頼性の高い接着剤を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を実施例により優れた効果を証明する。なお、表中の配合はすべて重量部である。(a)成分として2,2−ビス〔4−(メタクリロキシエトキシ)フェニル〕プロパン80重量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート20重量部、(b)成分としてクメンハイトロパーオキサイドを1重量部、(c)成分としてo−ベンゾイックスルホイミドを1重量部、その他アセチルフェニルヒドラジン0.3重量部、1,2,3,4−テトラヒドロキノリン0.2重量部、EDTA・2Na0.02重量部を調製しベース組成とした。(d)成分としてJ−4P(根上工業、架橋アクリルビーズ、平均粒子径2.2μm)、SX−500H(綜研化学、ポリスチレン粒子、平均粒子径5μm)を使用し比較成分としてルブロンL(ダイキン工業、ポリテトラフルオロエチレン)、トスパール(東芝シリコーン、シリコーン樹脂)を使用した。また、(e)成分としてR−7200(日本アエロジル)を使用し、比較成分としてカルファイン500(丸尾カルシウム、炭酸カルシウム)を使用した。
【0023】
表1、表2の通りの配合物、配合量で組成物を調製し嫌気硬化性組成物とした。それらの線膨張率測定、硬化収縮率測定、保存安定性試験を行った。なお試験方法は以下の通りで得ある。
【0024】
線膨張率測定は線膨張率測定用硬化物を作成し、熱機械分析装置(TMA)により線膨張率を測定した。装置は理学機械製ThermoPLUS TMA8310を用いて行った。線膨張率測定用硬化物の作成は、嫌気硬化性組成物に対して1重量%の銅系硬化促進剤を添加し撹拌、測定用容器に流し込みその硬化したものを測定用サンプルとした。
【0025】
硬化収縮率の測定は、嫌気硬化性組成物の比重を比重カップ法により測定し、線膨張率測定用サンプルと同様の方法で硬化させたサンプルを水中置換法で下記式により求めた。
【0026】
Sg=W/W−W
ΔV=Sg−Sg/Sg×100
ΔV:硬化収縮率
Sg:嫌気硬化性組成物の比重
Sg:硬化物の比重
:硬化物の空気中の質量
:硬化物の水中の質量
【0027】
保存安定性試験は80℃での加熱促進試験を行った。試験管に嫌気硬化性組成物を5g注入し80℃の雰囲気下に2時間放置し、その後の性状を確認した。結果はゲル化しなかったものを○とし、ゲル化したものを×とし、大きく増粘したものを△とした。
【0028】
これらの結果を表に示す。
【0029】
【表1】

【表2】

【産業上の利用可能性】
【0030】
従来の嫌気硬化性接着剤での線膨張率、硬化収縮率、に比べ飛躍的に線膨張率、硬化収縮率を小さくすることが可能となり、熱要求が高い、車載用の電機部品の接着などに適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)分子中に少なくとも1つ以上のラジカル重合性官能基を有する化合物、(b)有機過酸化物、(c)o−ベンゾイックスルフィミド、(d)平均粒子径0.1〜100μmのビニル重合物の有機微粒子、(e)表面を(メタ)アクリルシラン処理したヒュームドシリカからなることを特徴とする嫌気硬化性組成物。
【請求項2】
前記(a)成分100重量部に対し、(b)成分を0.1〜5重量部、(c)成分を0.1〜5重量部、(d)成分を10〜50、(e)成分を10〜50重量部の範囲で含有し、かつ(d)成分と(e)成分の合計量が(a)成分100重量部に対し30〜90重量部である、請求項1に記載の嫌気硬化性組成物。

【公開番号】特開2006−117813(P2006−117813A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−307574(P2004−307574)
【出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(000132404)株式会社スリーボンド (140)
【Fターム(参考)】