説明

子宮頸部塗抹標本における腫瘍細胞およびそれらの前駆体の検出方法

【課題】 子宮頸部塗抹標本における腫瘍細胞およびそれらの前駆体の正確な検出方法の提供。
【解決手段】 細胞において、遺伝子発現における疾病関連変化を示している少なくとも2種の異なる分子マーカーを、抗体もしくは核酸プローブを使用して同時に染色および検出することによって、子宮頸部塗抹標本におけるがんおよびその前がん段階の改良された診断を得る方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体由来の標本からのがん疾患の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
がん疾患は、今なお、もっとも頻度の高い世界的な死亡原因の1つである。早期の治療介入によって腫瘍の発達を防ぐために、がんおよび前がん段階の早期認識および特異的検出に対する臨床上の要望が存在する。この理由で、種々のがん腫(特に頸部、乳房および腸)に対する予防プログラムが、既に1950年代以降提出されていて、これらのプログラムによって多くの国において死亡率の低減をもたらした。
【0003】
女性における子宮がんの場合、薬物チェックは、本質的に、頸部から採取される細胞塗抹標本の形態学的/細胞学的検査、すなわちPAP試験と呼ばれる検査に基づいている。しかしながら、この試験は限られた感度しかもたない(40%までの誤った陰性診断、非特許文献1、非特許文献2、参照)。さらにまた、塗抹標本の10%までは、ASCUS(決定不能の有意性をもつ異常な鱗細胞)として分類される、すなわち、正常、中等もしくは重度の病巣または腫瘍への明確な類別を行うことが不可能である。しかしながら、経験では、10%までのこのASCUS集団が真の病巣からなり、これが結果的にまた見逃されることも示している(非特許文献3、参照)。異常細胞が発見されれば、さらなる診断操作、例えば膣鏡または生検採取が実施され、これらの操作の結果を用いて、より正確な診断に達し、そして治療上の決定、例えば罹病領域の外科的除去もしくはレーザー療法を採用することが可能になる。
【0004】
変異の結果として遺伝子の発現に変化を生じ、そして結果的にがんの発生に役割を演じる多数の遺伝子が近年同定されている。対応するタンパク質は、両血清中および細胞レベルにおいて診断マーカーとして潜在的に検出することができる。タンパク質は、細胞における生理学的調節過程、例えば成長制御(増殖遺伝子。例えばKi67およびmcm−5;がん遺伝子および腫瘍サプレッサー遺伝子、例えばp16,EGFレセプター、her2/neuおよびmdm−2)、アポトーシス(自然細胞死、例えばp53およびbcl−2)、DNA修復(msh−1)および細胞接着(E−カドヘリン、β−カテニンおよびAPC)に関与している。マーカーを検出する適当な方法の例は、これらのタンパク質に対する特異抗体を使用する免疫組織化学的および免疫細胞化学的検出方法である(非特許文献4、参照)。
【0005】
さらに、ある種のがんでは、ウイルスの出現が、がんの発達に有意に関連している。ウイルスDNAはハイブリダイゼーション法によって検出され、そして例えば頸部塗抹標本におけるヒト・パピローマウイルスの検出の場合では、診断マーカーとしても役立つ(検出キットはいくつかの供給者、例えばDigene,DAKO,BioGenex and ENZOから得ることができる)。
【0006】
単一のマーカーは健全な細胞においても少しは存在するので、それが病理学的に変性した細胞を認識するために十分には特異的ではないことが多くの場合に示されてきた。これは、マーカーが健全な細胞においても同様に生理学的調節過程に関与しているタンパク質であるという事実に基づいている。かくして、例えば、HPVは事実上すべての頸部腫瘍において検出できるけれども、それはまた、多くの正常な頸部上皮においても検出できる;すなわち、HPVを検出する試験は高度に敏感であるけれども、それは低い特異性しかもたない(例えば、非特許文献5、非特許文献6、参照)は、頸部(n=58)について試験された病巣/腫瘍28例を検出したが、また28例の正常な塗抹標本のうち2例の誤った陽性染色を与えたDNA複製マーカーmcm−5を報告している。非特許文献7には、マーカーp16が、15例の正常な頸部生検のうち3例を非特異的に染色することが報告されている。
【0007】
細胞学/病理学において、生物サンプルにおける数種のマーカーを検出することに関心がますます高まっている。一方では、これは、より多くの情報を利用可能にし;他方では、個々のマーカーにより得られた非特異的染色は、それらが何であるか、より容易に認識されるであろう。慣例的には、身体サンプルの得られた生検標本の連続切片または複数標本(例えば固定剤中の頸部塗抹標本)が、この目的のために調製され、各々が、特定のマーカーに関して染色される。この方法はいくつかの欠点:それが、大量の、通常は限定される患者のサンプル材料および染色試薬を消費すること、それが多くの時間を要し、そして高価であること、そしてまた細胞において2種以上のマーカーを明瞭に同時に場所を示すことが不可能であるという欠点を有する。生物サンプルにおける2種以上の異なる生物学的マーカーの同時検出は、文献(非特許文献8、非特許文献9、参照)には既に記述されているけれども、このアプローチは、日常的診断においてはまだ使用されなかった。Terhavautaら(非特許文献10)は、頸部病巣から採取された生検標本におけるp53およびKi67の2重染色を使用し、そしてHPV陽性およびHPV陰性の病巣由来の基底および副基底細胞において、ある場合は1つの細胞において両マーカーを検出できた。上記2重染色は頸部生検において実施され、そして頸部塗抹標本には移行できなかった。同様に、ほとんどいずれの基底および副基底細胞も含有しない塗抹標本の細胞組成は、生検標本のそれとは異なっている。本発明者らの発見によれば、上記マーカー組み合わせを頸部塗抹標本に応用する場合、いずれか診断的に利用できる結果を得ることは不可能である。その上、本発明者らは、2重染色から得られた情報を使用して、その結果を組み合わせることによって、このサンプルにおける腫瘍細胞の存在に関する、より正確な結論に達することはなかった。
【0008】
Raoら(非特許文献11)は、乳房組織から得られた針穿刺材料(FNA,ine eedle spirates)における種々の腫瘍関連マーカー(DNA含量、Gアクチンおよびp53)の多重染色を記述している。彼らは、彼らの結果を、数種のマーカーを使用することが個々のマーカーの観察をするよりも高い臨床的特異性をもたらし、結果的に、乳がんの早期認識において重要な役割を演じることができるという効果に対して説明している。著者らによって引用された多重染色は、乳房組織から得られた針穿刺材料に限定される。腫瘍領域の検出を自動化することに関して染色情報を使用する試みはない。これに加えて、記述されている染色方法は、物質の異なる性質のために他の生物材料(すなわち生検および頸部塗抹)に応用することができない。
【0009】
自動化
近年の臨床的腫瘍診断におけるさらなる改良は、サンプルの調製および染色の自動化ならびに診断確定を含む自動画像解析の両方からなる。時間および人員における節減に加えて、これはまた、より客観的で、結果的により一様な診断をもたらす。蛍光または発色染料を用いる腫瘍細胞およびそれらの前駆体における生物学的マーカーの染色は、シグナルの定量および結果的に自動化された読み取りを可能にする。画像解析による自動診断はないけれども、染色操作の自動的実施を可能にする装置は既に存在している(非特許文献12、参照)。もっとも進歩した装置は、形態学的画像情報を使用する頸部塗抹標本における腫瘍細胞とそれらの前駆体の自動検出である(非特許文献13、非特許文献14参照)。
【0010】
PAPNETシステムを用いる頸部塗抹標本における異常細胞の自動形態学的検出に加えて、Boonら(非特許文献15)は、また、Ki67による増殖細胞の免疫組織学的染色を使用する。しかしながら、この1種の分子マーカーの使用は、良性の増殖細胞とがん原性細胞を明瞭に区別することを可能にはさせない。
【0011】
Boonらによる特許(特許文献1)は、免疫化学的マーカーによる染色がサンプル中の増殖(がん原性および非がん原性)細胞の自動検出を容易にすること、そして半自動方法において、次に、モニターしている病理学者/細胞学者が、染色された細胞が実際にがん原性細胞であるか否かを決定することを報告している。
【0012】
McGlynnおよびAkkapeddiによる特許文献2は、身体サンプルにおける数種の蛍光標識マーカーを同時検出するためと、また、がん診断における何か特定の応用をもたらすか、または特異性を増強する適当なマーカーの組み合わせを特定することはないが、がん細胞を同定するための応用および方法を詳細に記述している。
【0013】
Ampersand Medical Systems Group(www.ampersandmedical.com)が、会社の社内サンプル調製に加えて、不特定の生物学的マーカーの蛍光検出もまた含む、頸部塗抹標本のための新しいスクリーニングシステム(InPath)を開発しつつあることは知られている。
【0014】
【特許文献1】米国特許第5544650号
【特許文献2】米国特許第6005256号
【非特許文献1】Duggan et al.;1998,Eur J Gynaecol Oncol;19:209−214;
【非特許文献2】Bishop et al.,1996,Buss Pan Am Health Organ,30,378−86)
【非特許文献3】Manos et al.,1999,JAMA 281,1605−1610)
【非特許文献4】van Noorden,1986,Immunocytochemistry,Modern Methods abd Applications,2nd edition,Wright,Bristol,26−53)
【非特許文献5】Cuzick,2000,JAMA,283,108−109
【非特許文献6】Williamsら、1998,PNAS,95,14932−14937
【非特許文献7】Sanoら、Pathology Intl.,1998,48,580−585
【非特許文献8】DAKO,Practical Guide for Immunoenzymatic Double Staining Methods
【非特許文献9】Gomez et al.,Eur.J.Histochem.,1997.41,255−259
【非特許文献10】Terhavautaら、Cytopathology,1994,5,282−293
【非特許文献11】Raoら、1998,Cancer Epidemiology,Biomarkers and Evolution.7,1027−1033
【非特許文献12】LeNeel et al.,1998,Clin Chim Acta,278,185−192
【非特許文献13】Sawaya et al.,1999,Clinical Obsterics and Gynaecology,42,922−928
【非特許文献14】Stoler,2000 Mod,Pathol.,13,275−284)
【非特許文献15】Boonら、1995,Diagn.Cytopathol.,13,423−428
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、早期段階において、そして従来より確実に、調製された頸部塗抹標本におけるがん腫細胞またはそれらの前駆体を診断するために使用できる方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、少なくとも2種の分子マーカー、すなわち遺伝子発現またはウイルス核酸における疾病関連変化の同時検出が、子宮頸部塗抹標本における、病理学的に変性した細胞、例えばがん腫細胞およびそれらの前駆体の検出の特異性を増強し、そして組み合わされたマーカー染色の情報価値のために、より特異的である検出を可能にし、そしてこれに加えて、自動化することが同様にできるという本出願者らの発見に基づく。
【0017】
本発明は、分子マーカーが、病理学的に変性されていない生物材料において、類似または異なる量においてまた部分的に存在するので、個々に検出される場合には、病理学的に変性した細胞もしくは組織を認識することに関して十分な特異性を達成しない分子マーカーに関する。これは、これらのマーカーが、健全な細胞において同様に生理学的調節過程に関与しているタンパク質であるという事実に基づく。これに加えて、非特異的に交差反応する抗体のために、分子マーカーの検出は、明瞭にはできず、そして分子マーカーを含有しない生物材料の粒子の染色においても表される。本発明者らは、異常な細胞もしくは組織切片を検出する場合、細胞における少なくとも2種のマーカーを同時に検出することによって、単一のマーカーの検出に伴われる不十分な特異性が相殺されて、より高い特異性を確定できることを観察した。その結果、生物サンプルの診断において、単一マーカーの使用によるよりも一層大きい情報価値が、細胞における数種のマーカーを組み合わせることによって達成される。
【0018】
マーカー組み合わせは、次の遺伝子類:がん遺伝子、腫瘍サプレッサー遺伝子、アポトーシス遺伝子、増殖遺伝子、修復遺伝子およびウイルス遺伝子の少なくとも1種に属する遺伝子の発現の可視化、あるいはウイルス核酸の可視化と組み合わせて、列挙された遺伝子類の少なくとも1種からの遺伝子の変化された発現の可視化を必要とする。好適な組み合わせは、次の分子マーカー:her2/neu,p16,p53,MN,mdm−2,bcl−2およびEGFレセプターならびにHPVサブタイプ6,11,16,18,30,31,33,35,45,51および52からのDNAを含む。次の組み合わせ物が特に好適である:p16とher2/neuまたはp16とEGF−Rまたはher2/neuとp53またはmdm−2とher2/neuまたはp16とbcl−2またはher2/neuとbcl−2またはp53とp16。
【0019】
本発明によれば、本出願者らの発見は、がん腫およびそれらの前駆体を検出するための自動装置を使用する目的で、前記分子マーカーの組み合わせを検出することを含む、疾病関連細胞もしくは組織切片の早期診断の方法のために使用される。腫瘍細胞の自動化された特異的検出は、次の方法:第1には、少なくとも2種のシグナルが細胞中に存在しなければならず、そして第2には、2種のマーカーの各々のシグナルが、各場合、個々に定められた強度または個々に定められた閾値よりも大きくなければならない方法によって確立することができる。これらの2つの基準を用いることによって、例えば、設定閾値を超えるマーカーを発現するか、または健全であるような、それぞれ一定のシグナル強度以下である2種のマーカーについての染色を示す細胞を注視することが可能である。
【0020】
表現「分子マーカー」は、細胞における分子変化、特に遺伝子発現における変化を含み、これらは、変性されているか、または病的である細胞構成と関連して観察された。分子マーカーを検出する方法は、いずれか核酸レベルまたはタンパク質レベルにおいて、マーカーの量または存在を決定するいかなる方法も含む。タンパク質レベルにおける検出では、後に、発色および/または蛍光検出を用いて細胞化学的または組織化学的同定を可能にする抗体または他の特異的結合タンパク質(例えば、抗クリン(anti−cullin))を使用することが可能である。核酸レベルにおける検出では、さらなる同様の増幅段階(例えば、標的配列への結合後、標識プローブの免疫細胞化学的増幅)後のある時点で、細胞化学的または組織化学的染色反応を用いて同様に同定できるハイブリダイゼーション技術を使用することが可能である。
【0021】
表現「少なくとも2種の分子マーカーの同時検出」は、身体サンプル、特に同様の身体サンプルの単一標本、好ましくは遺伝子発現が互いに関連して観察できる単一細胞において少なくとも2種の遺伝子の発現を可視化する方法を含む。
【0022】
表現「組み合わされたマーカー染色の情報価値」は、身体サンプル、好ましくは単一細胞における少なくとも2種のマーカーの検出に基づいて得られた少なくとも2つの情報量の組み合わせを含む。されに、健全細胞は、マーカー強度に関する閾値を定めることによって罹病細胞から特異的に区別できる。
【0023】
表現「病理学的に変性された頸部塗抹細胞」は、女性の子宮膣管から得られ、そして日常の婦人科サンプリングによって、顕微鏡スライドに適用されるか、または流動蛍光光度計(FACS)において測定されるがん腫およびそれらの前駆体を含む。
【0024】
表現「自動検出」は、完全に、または構成段階においてのみ、人の手作業を置換し、そして特に、検出操作の段階において、または続く文書もしくは情報処理に関連して使用される方法を含む。これは、サンプル調製、サンプル染色、サンプル読み取りおよび情報処理の段階を含む。
【0025】
検出は、吸光測定、反射測定もしくは蛍光測定の手段によって実施できる。
【0026】
表現「診断専門システム」は、画像情報を提案される診断に変換するコンピューターソフトウエアを含む。この専門システムは、すべての利用しうる情報またはその一部を、ソフトウエア中に存在するパラメーターか、またはソフトウエアがアクセスできる外部情報に基づいて、提案される診断に合体することができる。さらなるパラメーターが、提案される診断を実証するために必要であれば、ソフトウエアは、これらのパラメーターの収集を提起できるか、あるいはレフレックス(reflex)アルゴリズムの意味における適当な解析装置と結合させることによってそれを自動的に要求できる。
【0027】
表現「増幅システム」は、シグナル強度を増強して分子マーカーを特異的に検出するために、より好ましいシグナル/ノイズ比率を生み出す生化学的方法を含む。これは、正常には、さらなる抗体および/または酵素的検出反応を用いることによって達成される。
【0028】
本発明を使用して、頸部における病理学的に変性した細胞、例えばがん腫およびそれらの前駆体を特異的に検出することが可能である。また、本発明は、本発明による方法を実施するためのキットであって、次の成分:
(a)少なくとも2種の分子マーカーを検出するための試薬、すなわちher2/neu,p16,p53,MN,mdm−2,bcl−2、EGFレセプターおよびHPV L1に対する標識および/または非標識抗体、ならびにまたHPVウイルスゲノムの領域を含有している標識DNAプローブ、(b)慣用の補助物質、例えばバッファー、担体(supports)、シグナル増幅物質、染色試薬など、
(c)サンプル調製および染色のため、そしてシグナル検出のための自動化された方法、
(d)対照反応として細胞系を染色するための方法および試薬、
を含有するキットに関する。
【0029】
上記説明は、キットの個々の成分に適合する。また、キットの個々の成分、または数種の成分は改変形態で使用されてもよい。
【0030】
本発明を使用して、頸部塗抹標本においてがん腫およびそれらの前駆体を、いずれか手動または部分的もしくは完全に自動化された方法を用いて検出することが可能である。少なくとも2種の分子マーカーの同時検出から、本発明により達成される結果は、いかなる主観的検査も受けず、反対に、生物材料における病理学的変化の客観的な自動検出を促進するので、形態学的発見、例えばPAP試験において作成される発見は、例えば同様に反射試験の形式での客観的パラメーターによって補足することができる。方法は急速に実施することができ、そしてこの実施は自動化できるので、それらは、費用および人員に関して経済的である大規模なスクリーニング方法に適している。
【0031】
その結果、本発明は、塗抹標本の診断において頸部がんの早期認識に関連して腫瘍細胞およびそれらの前駆体の特異的検出に対して重要な貢献を示す。
【実施例】
【0032】
上記本発明を実施するための方法は実施例によって以下に示される。これらの実施例において、正確な反応条件が、例えば反応性抗体もしくはDNAプローブについて指定されるので、種々のパラメーター、例えばインキュベーション温度および洗浄温度、インキュベーション時間および洗浄時間、ならびに抗体および他の試薬の濃度は、それぞれの抗体もしくはDNAプローブに応じて変えることができる。同様にして、本明細書に記述されている増幅システムは、省略または付加することができる。
【0033】
特異的抗体を使用して頸部塗抹標本における2種の分子マーカーを同時に検出するための実験の記述
Thin−Prep(Cytyc製)のような調製技術が、Preservcyt(Cytyc製)中に保存されている細胞を顕微鏡スライド(MS)に適用するために使用される。細胞は冷エタノールにより3分間固定され、その後、顕微鏡スライドはPBS(137mMNaCl,3mMKCl,4mMNa2HPO4,2mMKH2PO4)中で洗浄される。非特異的結合部位が、PBSバッファー中5%胎児ウシ血清により室温(RT)で30分間ブロックされた後、MSが、2種の特異的モノクローナル抗体(Oncogene Science/BAYER製のher2/neu(クローン3B5,20μg/ml)およびp16(クローンDCS50.1,10μg/ml))とともに、湿潤チャンバーにおいて60分間同時にインキュベートされる。抗体の一方はフルオレセインに共役されるが、他方はビオチンに共役される。各々次のインキュベーション段階後、MSは、各場合5分間PBSにより3回洗浄される。2種の異なる染色システムが、個々の抗原・抗体結合を検出するために交互に1種ずつ使用される。最初の染色システムでは、MSは、シグナルを増幅するために、ストレプトアビジン−Cy3(Mobi Tec,5%ウシ血清を含有するPBS中5μg/ml)とともに30分間、次いで、その後、抗ストレプトアビジン−ビオチン(Vector;5%ウシ血清を含有するPBS中2μg/ml)とともにさらに30分間インキュベートされる。最後に、MSは再びストレプトアビジン−Cy3とともに1回インキュベートされる。第2の染色システムは、Alexa Fluor−488 Signal Amplification KitTM(Molecular Probes,order No.A−11053)からなる。最後に、MSは、MowiolTM(Hoechst)により被覆される。
【0034】
特異的抗体を使用して頸部塗抹標本における3種の分子マーカーを同時に検出するための実験の記述
Thin−Prep(Cytyc製)のような調製技術が、例えばPreservcyt(Cytyc製)中に保存されている細胞を顕微鏡スライド(MS)に適用するために使用される。細胞は冷エタノールにより3分間固定され、次いで、顕微鏡スライドはPBS(137mMNaCl,3mMKCl,4mMNa2HPO4,2mMKH2PO4,pH7.4)中で洗浄される。非特異的結合部位が、PBSバッファー中レバミソール(Sigma製)4mmol/lを含有する5%胎児ウシ血清により室温(RT)で30分間ブロックされた後、MSは、3種の特異的モノクローナル抗体(Oncogene Science/BAYER製のher2/neu(クローン3B5,20μg/ml)、bcl−2(クローン100,2μg/ml)およびp16(クローンDCS50.1,10μg/ml))とともに、湿潤チャンバーにおいて室温で60分間同時にインキュベートされる。第1の抗体はフルオレセインに共役されるが、第2の抗体はジゴキシゲニンに、そして第3の抗体はビオチンに共役される。各々次のインキュベーション段階後、MSは、各場合5分間PBSにより3回洗浄される。3種の異なる染色システムが、個々の抗原・抗体結合を検出するために交互に1種ずつ使用される。第1の染色システムでは、MSは、シグナルを増幅するために、ストレプトアビジン−Cy3(Mobi Tec,レバミソール4mmol/lを含有する5%ウシ血清を含有するPBS中5μg/ml)とともに30分間、次いで、その後、ビオチン化抗ストレプトアビジン抗体(Vector;レバミソール4mmol/lを含有する5%ウシ血清を含有するPBS中2μg/ml)とともにさらに30分間インキュベートされる。最後に、MSは再びストレプトアビジン−Cy3とともに1回インキュベートされる。第2の染色システムは、Alexa Fluor−488 Signal Amplification KitTM(Molecular Probes,order No.A−11053)からなる。第3の染色システムでは、MSは、ヒツジ抗ジゴキシゲニン抗体およびアルカリホスファターゼ(DAKO,レバミソール4mmol/lを含有する5%ウシ血清を含有するPBS中で1:150希釈される)からなる共役体とともに30分間インキュベートされる。蛍光の読み取りは、Molecular Probes製ELF97 Cytological Labelling Kit(order No.E6602)を用いて製造者の指示にしたがって実施される。最後に、MSは、MowiolTM(Hoechst)により被覆される。
【0035】
特異的抗体およびHPV DNAプローブを使用して頸部塗抹標本における2種の分子マーカーを同時に検出するための実験の記述
免疫細胞化学的抗体染色とインサイチューDNAハイブリダイゼーションとを組み合わせる場合、サンプル調製および固定、およびブロッキングおよび第1抗体とのインキュベーションは、抗体染色のための上記方法におけるように実施される。第1の抗体は、Oncogene Science/BAYER製のタンパク質p16(クローンDCS50.1)に対向するフルオレセイン共役抗体であり、そして濃度10μg/mlにおいて使用される。抗原・抗体結合を検出するために、MSは、まず第1に、第2の抗体、すなわち濃度15μg/mlにおけるウサギ抗FITC(MoBiTec)とともに、次いで、PBS中1:100希釈におけるDianova製アルカリホスファターゼ共役ヤギ抗ウサギ抗体とともに、室温(RT)で30分間インキュベートされる。染色システムでは、MSは、DAKO製の発色性アルカリホスファターゼ基質Fuchsinとともに、製造者の指示にしたがって室温で5分間インキュベートされる。染色の固定では、続いてMSは、5分間PBS中5%パラホルムアルデヒドにより固定される。次にインサイチュー染色が続く。このためには、まず第1に、2xSSC(0.3MNaCl,30mMクエン酸Na)中で2回洗浄され、次いで、37℃で60分間、2xSSC中RNアーゼ40μg/mlにより消化される。PBSによる2回の2分間洗浄段階後、消化が、プロテナーゼK2μg/mlにより37℃で10分間実施される。蒸留水による3x2分間洗浄後、ハイブリダイゼーションバッファー(Kreatech)中即使用可能のジゴキシゲニン標識のHPV16 DNAプローブ(Kreatech)20μgがMSに添加され、これが次にカバースリップで覆われ、密閉され、変性のために94℃で8分間加熱され、次いで37℃で一夜インキュベートされる。ハイブリダイゼーション溶液が除去された後、MSは、Boehringerブロッキングバッファー(ブロッキングバッファー(150mMNaCl,100mMtris−HCl,pH7.5)5ml中ブロッカー(Boehringer 1201107)0.05g)中3%ウサギ血清を用いて再び1回30分間ブロックされる。発色の読み取りでは、MSは、各場合室温で15分間、DAKOペルオキシダーゼ共役ウサギ抗ジゴキシゲニン抗体(ブロッキングバッファーにより1:150希釈)、PBS/0.1Mイミダゾール,pH7.6/0.001%H22中Dig−Tyramide(5.71μg/ml)(Hopman et al.,1998,J Histochem Cytochem.,46(6).771−777に記述されるように調製)、そしてさらに1回ペルオキシダーゼ共役ウサギ抗ジゴキシゲニン抗体(DAKO,3%ウサギ血清を含有するTBST(50mMtris/HCl,0.3MNaCl,1%Tween20,pH7.6)中で1:150希釈)とともに連続してインキュベートされる。間では、MSは各場合PBST3x5分間洗浄される。色原体の発色反応では、MSは、DAB基質とともに製造者の指示にしたがって10分間染色される。最後に、MSは、MowiolTMにおいて被覆される。
【0036】
少なくとも2種の分子マーカーの同時検出によって染色された異常細胞を自動的に検出するための実験の記述
少なくとも2種の分子マーカーが上記方法を用いて抗体によって検出された頸部塗抹標本は、顕微鏡スライド8枚までの可動クロスステージをもつ蛍光顕微鏡(Multicontrol−Box 2000−3およびanalySIS「Module StageTM」ドライブソフトウエアをもつOlympus AX70)およびSoft Imaging Systems GmbH(SIS)製のanalySIS 3.0ソフトウエアの改訂版を使用して解釈されるが、これは、「Grabbit Dual Pro」SISパッケージとして、付属モジュール、特にFFT(=「Fast Fourier Transformation」)モジュール、MIA(=「Multiple Image Alignment」)モジュールおよびCモジュールを含有する。高分解能黒白(MV2 Slow Scan Camera,12bit,SIS製)およびカラー(DXC−950P 3CCD chip,Sony製)カメラが画像記録のために使用される。組み合わせにおいて、これらのシステムは、16−bit Grauton画像解析ならびに24−bit画像深度までのRGBおよびHSI色彩空間におけるカラー画像解析のために適当である。
【0037】
可動クロスステージ(analySIS「Module Stage」)測定後、顕微鏡スライド8枚までのすべての位置が、「オートメーション」メニュー(analySIS「Module Grains」)において8連続ステージパスを決定することによって、「論理的ゼロ点」に比較して記録される。自動Thin−Prep(Cytyc)法が確定する生物サンプルの全域は、常に顕微鏡スライドの一定領域内に置かれ、サイズ571.2μmx457.06μmをもち、そして顕微鏡単位を用いて倍率20倍の写真の画像分野に対応する個々の領域に、総合方式で分解される。各生物サンプルは、1ステージパスを通して解析される。各ステージパスは、750の個別ステージパス位置(30行、25列)からなり、定められた顕微鏡スライドの位置の生物サンプルの各領域が、ステージパス位置によって隣接しているが重複しない方式で検出されるように、一連のステージパス位置として、ゆっくり流れる方式で、顕微鏡は水平に描写する。その結果、同一のステージパスが、作動ステージ上の各標本について定められる。「オートメーション」メニューに8ステージパスを加えて、自動方式で作動ステージ上に置かれているすべての標本を解析することが可能である。
【0038】
一般に、3種の異なる蛍光波長により励起された後、各ステージパス位置が、各場合高分解能B/Wカメラおよび適当な蛍光カラーフィルターを用いて1x写真撮影される。次いで、個々の写真の蛍光強度が測定される。これは、「オートメーション」メニューにおいて「測定」記録カードを用いて実施される。同一ステージパス位置における個々の画像の蛍光強度と相関するカラー混合物が、個々の青色、赤色および緑色画像を重ねることによって作成される。次いで、「相解析(phase analysis)」が続く、すなわち示されたカラー混合物の領域が測定され、そして面積として定量的に再現される。これに関連して、与えられたカラー混合物は、病理学的に変性した細胞の特徴を表し、診断予測をすることが可能であることを意味する。
【0039】
詳細には、数種の分子マーカーを用いる蛍光測定では、黒白写真が、各蛍光フィルターチャンネルについてステージパス位置毎に作成される。次いで、カラーが、ステージパス位置に属する個々の画像に割り当てられ、そして得られる仮のカラー画像が、カラー混合物が異なる蛍光カラーの「付加(adding)」によって、蛍光強度に応じて得られるように、「FIPモジュール」を用いて重ねられる。例えば、黄色の2次カラーは、赤色および緑色のカラーチャンネルにおいて等しい強さの同時蛍光配色である場合に、対応する画像位置において得られる。蛍光強度の強さに応じて、2次カラーは、また、赤色もしくは緑色の方に傾くことがある。同様にして、白の2次カラーは、等しい強度の青色、緑色および赤色蛍光が重ねられる場合に形成される。次いで、これらの重ねられた画像は、閾値を設定し、続いてRGBモード(画像メニュー)においてカラー閾値を設定することによって直接生じる「相解析」を遂行することによって測定される。すべてこれらの段階は、手動で行われてもよいが、また、それらは、「プロット マクロス(plot macros)」下で「Extras」メニューにおけるマクロスを作成し、続いて、それらを「オートメーション」メニューにおいて回復することによって自動方式で実施することもできる。最後に、特定のカラー混合物についての定量的検査が、面積値(=特定の強度における少なくとも2種の分子マーカーにより染色されたことにより正確に定められた2次カラーを保持する生物サンプルにおける面積)の作成において得られる。それぞれのステージパス位置についての両解析画像および面積値は、「オートメーション」メニューにおける「プロトコール」記録カードを用いて自動的に保存することができる。この方法で、この領域において測定された蛍光強度もしくはカラー混合物に関する定量的検査が、各ステージパス位置について得られる。各ステージパス位置におけるカラー混合物の値(=3種の個々の写真の重ね合わせ)は、各場合1つのExcelデータファイルにおける各ステージパス位置(=個々の標本)について表示される。Excel表は、結果的に、8種の異なるカラー混合物について、750列、例えばステージパス毎に750の個別ステージパス位置、および8行からなる。特定のカラー混合物(例えば赤色と緑色における2種の個々のマーカーを表示する場合の黄色混合物)は、同時に高レベルにおいて発現される数種の疾病関連マーカーに因るものとされるので、これらのステージパス位置は、対応する蛍光写真が、対照目的のために、その後個々の画像として可視的に検査できるように、「病理的」であるとして標識(=「フラッギング(flagging)」)される。8種のカラー混合物に関するExcel表に示された領域は、Excelにおけるマクロスを用いて信認される、すなわち行中のすべての値(=特定のカラー混合物)が総括される。その結果、8種の2次カラーの各々についての数値が与えられた生物標本(=ステージパス)について得られる。病理学的に変性した細胞の特徴をもつ特定のカラー混合物(例えば既に上述した黄色カラー混合物)の総計が臨界最小値を越える場合は、対応するステージパスによって解析される生物サンプルまたは与えられた頸部塗抹標本は、病理的であると分類される。その結果、生物サンプルに関する診断予測は、信認される個々の蛍光強度を定量的に解析することによって自動的に達成される。
【0040】
特異的抗体を使用して流動細胞計(flow−through cytometer)において2種の分子マーカーを同時検出するための実験の記述
Preservcyt(Cytyc)において保存されていた塗抹細胞が、細胞塊を個々の細胞に崩壊するために100μm孔径のナイロン布を通して圧縮される。細胞が遠心によって沈降された後、それらはPBSで1x洗浄され、続いて次の方法、a)OPF法(ORTHOPermeaFixTM)、b)F&P(FIX&PERM Cell Permeablization Kit,Imtec)およびc)MWH(マイクロ波加熱):の1つを用いて透過性にされる。すべての方法は、製造者の指示にしたがうか、またはMillardら(Clin Chem 1998,44,2320−2330)にしたがって実施されねばならない。透過性にされた細胞は、2種のマウス抗体(Oncogene Science/BAYER製のher2/neu(クローン3B5,20μg/ml)およびp16(クローンDCS50.1,10μg/ml))とともに60分間インキュベートされる。第1の抗体はフルオレセインに共役されるが、第2はビオチンに共役される。各々次のインキュベーション段階後、細胞は沈降され、そしてPBSにより全2回洗浄される。2種の異なる染色システムが、個々の抗原・抗体結合を検出するために連続して使用される。最初の染色システムの場合、細胞は、ストレプトアビジン−Cy3(Mobi Tec,5μg/ml)とともに30分間インキュベートされる。第2の染色システムは、Alexa Fluor−488 Signal Amplification KitTM(Molecular Probes,order No.A−11053)からなる。続いて、細胞はISOTON II(Coulter)中に採取され、そして緑色と赤色蛍光のためにレーザー励起を固定された流動細胞計(FACScan,Becton Dickinson)において測定される。陰性細胞、および単一陽性もしくは2重陽性細胞の比較および絶対数が、シグナル強度について閾値を定めた後に検出される。診断専門システムが、この情報を提案される診断に変換する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞における少なくとも2種の分子マーカーを同時に検出することによって、子宮頸部塗抹標本における腫瘍細胞およびそれらの前駆体を検出する方法。
【請求項2】
マーカーが、次の群:腫瘍サプレッサー遺伝子、アポトーシス遺伝子、増殖遺伝子、修復遺伝子およびウイルス遺伝子の少なくとも1種から選ばれることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
次のマーカー:her2/neu,p16,p53,MN,mdm−2,bcl−2,EGFレセプター、ならびにHPVサブタイプ6,11,16,18,30,31,33,35,45,51および52からの特異的DNAが、組み合わせにおいて存在していることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
マーカー組み合わせ:p16とher2/neuまたはp16とEGF−Rまたはher2/neuとp53またはmdm−2とher2/neuまたはp16とbcl−2またはher2/neuとbcl−2またはp53とp16が存在していることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
3種のマーカーが検出されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかの1つに記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの1つに記載の方法を実施するためのキット。
【請求項7】
試薬が抗体もしくは核酸であることを特徴とする、請求項6記載のキット。
【請求項8】
抗体もしくは核酸プローブが、蛍光または発色性染料物質を用いて直接または間接に読まれることを特徴とする、請求項6または7記載のキット。
【請求項9】
少なくとも2種のマーカーが検出され、そしてシグナル強度が合体され、加算されることを特徴とする自動方式において、異常細胞を検出することが可能になることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかの1つに記載の方法。
【請求項10】
自動情報処理が、画像情報を提案される診断に統合させ、そして適当であれば反射試験を実施させる診断専門システムと組み合わされることを特徴とする、請求項9記載の方法。

【公開番号】特開2008−116466(P2008−116466A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−312193(P2007−312193)
【出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【分割の表示】特願2001−376990(P2001−376990)の分割
【原出願日】平成13年12月11日(2001.12.11)
【出願人】(591063187)バイエル アクチェンゲゼルシャフト (67)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】D−51368 Leverkusen,Germany
【Fターム(参考)】