説明

孔拡散装置を用いた給水管の防錆および除錆方法

【課題】既設の家屋等の給水管の赤錆化の進行を止め、既に付着した赤錆の除去を給水を止めることなく実施する技術の提供。
【解決手段】給水用の水路を形成する回路内に微生物汚染のない還元性食品添加剤を溶解した水溶液をウイルス除去膜5を用いて作製された濾液を間欠的または連続的に注入する方法およびこれを実現するために(a)還元性食品添加剤を溶解した水溶液を無菌的に貯えるタンク部2、(b)タンク部と水道水部を膜5で接続させて浸透および孔拡散回路、(c)微生物に対しては閉空間で気体分子に対しては開空間となる密閉容器に(b)を納めた注入装置9を給水管4に設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は飲料水および工業用給水設備に利用される給水管の保守管理に関する。より詳しくは、本発明は家屋、ビル、マンション、病院、ホテル、工場等で集中化された給水設備で、給水管の防錆方法および装置を提供する。
【背景技術】
【0002】
工場等では給水管に設備する機器(例えば水道メーター)を介して上水道は供給され、それぞれの消費場所に水を供給している。この場合の給水用の給水管は通常は地表の下もしくは建物の内部に埋め込まれている。給水管は防錆のためこの内部にはポリ塩化ビニール等の高分子で被覆されているかあるいは、プラスチック管が利用されている。しかし、給水管に接続する機器では異種金属管と相互に接触する。異種金属が接触した個所に水道水が接触すると赤錆びを発生する現象が認められる
【0003】
家屋が建築されて15年間以上経過すると給水管内に赤錆化が進行する。この赤錆の発生と堆積によって給水管の閉塞が起こる。赤錆化の防止や赤錆の除去方法として、従来より提案された方法は以下の通りである。(1)機械的あるいは化学的に給水管内部の錆を駆除し、その後プラスチックライニングを行う。(2)防錆剤を水に混入(3)給水管内部または外部から給水管内水に電磁力を負荷する方法がある。
【0004】
機械的または化学的方法で給水管内部の赤錆を落とし、その後ポリ塩化ビニール等で管の内壁面をコーティング加工で行う方法は赤錆除去方法としてほぼ完璧である。しかし加工する処理費用が高く、加工後には赤錆化が徐々に進行し、10年後には赤錆除去が必要となる。
【0005】
赤水防止法として重合リン酸塩素や重合ケイ素塩素の防食剤を水中に投入する方法が採用されているが、飲料水中に継続的に投入し続けることは安全上および食感上問題がある。そのため、薬剤処理としては間欠的に実施され、残留薬剤除去や給水管のサニタリー性が要求されるので給水管の建設時にこのサニタリー性を考慮した設計がなされた給水管のみに適用できる。
【0006】
給水管回路内部に殺菌用次亜塩素の電解による発生装置を内蔵している場合には、この発生装置を内蔵したステンレス製貯水槽内での防食を行う装置上の工夫が提案されている。(特許文献1)。この方法では給水管内部の赤錆化を防ぐことは難しい。むしろ該発生装置の存在自体が給水管内赤錆化を加速させている可能性もある。
【0007】
給水回路に電解槽を設け、この電解槽の炭素電極に被処理剤を接触させることにより投入される。防食剤や滅菌剤の投入量を減少させる方法が提案されている。(特許文献2)この方法では給水回路内に電解槽を設置することが必要であるばかりではなく水中に溶解している塩による水の電気分解が起こり水中への溶解酸素量が増加する恐れもある。溶解酸素量の増加は給水管の赤錆化を加速する。
【0008】
給水回路の一部である受水槽に濾過を中心とした浄化システムを設け、この浄化システムと受水槽のその間で循環路を設けて水のPH上昇と酸化還元電位の低下を施すことによる赤錆化を防止する方法が提案されている(引用文献3)。この方法は給水回路に薬剤を投入することなく濾過により赤錆化を防止できる可能性を持つ。ただし、フィルターの目詰まりと濾過に必要な動力の供給を必要とするため維持管理費用が新たに発生する。しかも給水回路として複雑化し、濾過部でのサニタリー性が失われる可能性と濾液側での微生物汚染の可能性も生じる。濾過の際セラミックフィルターを用いる際のフィルターの安全性についての保証をいかに実証するかについての問題点もある。
【0009】
給水管の外側または内部より水へ電磁力を作用して赤錆化の防止を計る方法が実用化しつつある。この方法の原理は赤錆を黒錆化するのに磁力が寄与するという作業仮説に基づく。しかしながらこの作業仮説の実証は達成されていない。この方法には再現性、作用の予測性という科学的実証が不十分であり、技術として確立していない。
【0010】
【特許文献1】特開2007−167729
【特許文献2】特開平8−164390
【特許文献3】特開平10−317433
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明では家屋等で既設の給水管の赤錆化の進行を抑制し、すでに付着した赤錆の除去を、給水を止める事なく実施する技術を提供する。(a)科学的根拠が明確であり、(b)安全性も確保され、(c)給水回路を複雑化することなく、(d)新たに動力エネルギーを加えず、(e)添加薬剤あるいは新たに導入された機器、設備からの微生物(ウイルス)汚染がウイルス除去膜を使用する事で起こらない、(f)汎用性と安価な設備装置と保守管理の諸条件を同時に満足する、(g)受水槽のない給水回路にも適用可能である技術を提供する。
【0012】
家屋等の水源が市町村から供給される水のみを給水源とする場合は、水道水に一定濃度の遊離塩素が添加されこの遊離塩素は赤錆化の原因ともなっている。その他の赤錆化の原因として溶存酸素による酸化作用と給水回路内での異種金属の接触にある。給水回路内の異種金属の接触箇所を皆無にすることは大規模な改修工事を必要とし、赤錆対策として現実的ではない。
【0013】
本発明では既設の配管に孔拡散型膜モジュール接続し、安全でかつ根本的な赤錆防止策を示す。本発明の第1の特徴は、水道法で定められる給水栓口以降より水の消費部への送水用の水路を形成する回路内の水にウイルス除去膜を使用して孔拡散で添加薬剤を入れる点である。本発明中での孔拡散とは、膜中の孔中を移動する物質の駆動力がその物質の濃度勾配であり、移動速度は物質の持つブラウン運動の激しさ(水中での拡散係数)に比例する。拡散の見掛けの活性化エネルギーは水分子の拡散の活性化エネルギーに近く、拡散係数は高分子膜中の拡散(溶解拡散)の100〜10000倍になる。回路内に添加薬剤を注入することにより回路内の水の性質を還元的に変化させることができる。
接続場所としては外部機器(例えば水道メーター)との接続後(例えば家屋側)が適する。
【0014】
回路内に流入する薬剤は特定された組成と特定された条件下で拡散または濾過された液であることが本発明の第2の特徴である。該添加薬剤は還元性を持つ食品添加剤を無菌状態の水に分子状に溶解されて作製した水溶液を、ウイルス除去膜を用いて膜間差圧3気圧以下で濾過して作製される。あるいはウイルス除去膜を利用した孔拡散で調整される。
【0015】
還元性を持つ食品添加物としてはL−アスコルビン酸あるいはL−アスコルビン酸ナトリウムが最適である。これらの添加物により水溶液中溶存した酸素を除去することが出来る。そのため該添加物を入れた水は還元性を示し、赤錆化を防止し、赤錆の減少に寄与する。還元性濃度を0.1〜30%の範囲に設定して孔拡散を行うか、あるいは薬剤の飽和濃度に設定し、この飽和濃度の溶液をあらかじめ孔拡散施した液として孔拡散速度を制御する。0.1%以下では還元性作用は供給する水道水中の溶存酸素を還元するには不十分であり一方、30%を超える濃度では還元性の水としての作用が強すぎると遊離塩素の作用が弱まりカビ等の発生が起こることがある。
【0016】
水中に溶解した還元性食品添加剤の水溶液の調整時の濾過にはウイルス除去膜を使用する。ここでウイルス除去膜とは水中のすべてのウイルスに対して対数除去性能が4以上の膜である。例えば再生セルロース製の多層構造膜で平均孔径20nm、膜厚70μmの(株)セパシグマ製のSEPAΣ20膜がその例である。30nm以下の微粒子の混入が予測される場合には該水溶液を調整する前の水中に水酸化第2鉄コロイドの造核剤(4〜15nm径)をわずかに混入させ微粒子の大きさを30nm以上にすることであらかじめ除去しておくことが好ましい。ウイルス除去膜を用いた濾過により還元性食品添加水溶液からの微生物汚染を防止できる。ウイルス除去膜を用いた孔拡散ではウイルス除去膜を装着した膜モジュールの有効濾過面積を食品添加剤で濃度と孔拡散の速度を制御する。
【0017】
還元性食品添加剤を無菌的に溶解して無菌的に貯えるタンク部には外部と接する部分にはさらにウイルス除去膜を使用する。また還元性食品添加剤の補給においてはウイルス除去膜を使用することで微生物を除去することができる。
【0018】
本発明方法の倦怠かした装置1ではタンク部2、ウイルス除去膜を設置した孔拡散部5および給水管(給水回路)4から供給される水道水部3と孔拡散部とを連絡した回路を通して該膜と供給水とが流動下で接触する部とで構成される。本装置は空気や水分などの気体分子に対しては開放空間を作る密閉容器内に納められる。密閉溶液の開閉は鍵によって閉じられる。
【0019】
本発明によって既設の施設を利用しつつ給水回路の赤錆化を防止できる給水を続けながら給水路回路の赤錆化を防止する。同時に安全性を確保し、新たに動力エネルギーを加えずに安価な保守管理が可能である。この方法は工業的な給水施設にも利用可能である。
【0020】
第1図に本発明の装置と給水路の模式図を示す。モジュール1内は薬剤の入ったタンク2と給水口4から供給した水道水3をウイルス除去膜5で仕切りコック8を閉じることで、膜間差圧3気圧以下で定常状態に達すると0気圧で保たれる。家屋などで使用される水道水の鉄イオン濃度は通常水道水基準より高く1〜2ppmであり、この鉄イオンが赤錆発生源となる。水に溶解している酸素濃度が高くなると鉄イオンは3価の鉄イオンとなり水への溶解度が減少し、赤錆を発生させる。本発明の注入装置はウイルス除去膜5を通して水道水3側に孔拡散させる方法である。
【0021】
注入装置9はステンレスの箱をなし、ふた部には施錠されている。注入装置9の内部はモジュールと給水管回路が設置されている。モジュールは給水管と直結され薬剤注入口を2箇所ありウイルス除去膜で外部から微生物を除去させ、給水管には泡抜き6を1箇所、備付けている。
【0022】
薬剤タンク2は還元性食品添加剤が0.1〜30%濃度で無菌的に調整された水溶液が充填されている。充填量はほぼ1箇月分の使用量である。薬剤タンク部2の気相部にはシリンジフィルター9を装備する。シリンジフィルター9は平均孔径20nmの再生セルロースの平膜の多層構造膜が乾燥状態で用いられている。シリンジ型ウイルス除去フィルターによりモジュールは完全に無菌、無ウイルス状態を保たれる。
【0023】
本発明の特徴の一つであるウイルス除去膜の有効濾過面積は薬剤の注入速度によって定められている。ただし該モジュールの拡散速度が律速にならないように十分余裕を持って設計される。水道水使用量が月あたり25mであれば、0.001〜0.02平方メートルである。該モジュールに充填されているウイルス除去膜によって除去可能なウイルス数は1016個以上である。ウイルス除去モジュール1は1年に1回膜を張替えることによって継続的に孔拡散が行われる程度まで浴液をあらかじめ精製しておく。
【0024】
水道水使用量が月あたり25mの福岡県北九州市の工場内家屋(築後20年)給水管に下記装置(第1図の注入装置)を設置した。
防錆および防錆装置の仕様:
モジュール:容量60mlステンレス製、モジュール上部外部接触部:乾燥状態のシリンジフィルター2個、シリンジフィルターには平均孔径20nmのウイルス除去用再生セルロース膜を装着、ウイルス除去膜は有効濾過面積0.00083m、平均孔径20nmの2段多層構造を持つ再生セルロース膜(膜厚140μm)を装着、給水管と接続部はシリコンチューブ使用
密閉容器:縦50cm、横60cm、高さ100cmのステンレスの箱型、開閉用扉が1個所あり、この扉によって薬液の入替えを行なう。開閉扉は施錠可能で、上部には乾燥シリンジフィルターを装着した。
【0025】
無菌室内で減圧滅菌したビーカーにL−アスコルビン酸ナトリウムを添加4gを水道水を逆浸透膜で濾過した水30mlに溶解させ13重量%の水溶液を作製した。この水を滅菌した容器にウイルス除去シリンジフィルターで入れ、現場において滅菌したシリンジでシリンジフィルターを通して、モジュールの薬剤タンク部に注入した。この時、タンク部側のもう一方のコックを開けシリンジフィルターにより外部空気と接触させ泡抜きを行った。注入後両方のコックを閉めた。
【0026】
水道水と水道水中に0.4ppm濃度のL−アスコルビン酸ナトリウムを添加した液のそれぞれに鉄製の釘を浴比1/100で、密閉状態で浸漬静置した。25℃で24時間の錆の発生状況を観察した。その結果、水道水中の釘は赤錆が発生していたのに対して、L−アスコルビン酸ナトリウムを添加した液中では赤錆はかすかであり、赤錆の発生速度の減少が認められた。この減少度はL−アスコルビン酸ナトリウムの濃度が高いほど大きく、該濃度が100ppmを超えると赤錆は発生しない。該濃度が1ppmを超えると赤錆の発生速度は顕著に減少し、水道水が流動状態にあるL−アスコルビン酸ナトリウムの防錆効果は顕著であった。水道水中の遊離塩素濃度が低い場合にはL−アスコルビン酸ナトリウムの効果は0.1ppmでも現れた。
【産業上の利用可能性】
【0027】
築10年以上の家屋では給水管の赤錆化が進行し、その対策に多大な費用を必要とするが、本発明により赤錆化の防止と赤錆の除去が可能となる。給水設備のある集合住宅でも給水管の赤錆化の防止に本発明は利用可能で、食品工業用の給水管の保守管理方法として利用可能である。また病院、オフィスビル、ホテルなどの集中化された給水装置での保守管理にも利用される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明注入装置の詳細図
【符号の説明】
【0029】
1:モジュール
2:薬剤タンク部
3:水道水
4:給水管
5:ウイルス除去膜
6:泡抜き
7:シリンジフィルター(外気との連結用)
8:仕切りコック
9:注入装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水の供給源(吸水口)より水の消費部への送水に際し、送水用の水路を形成する回路内の
水に間欠的または連続的にウイルス除去膜を介して濃度差に基づく孔拡散で下記の物質を輸送させる事を特徴とする給水管の防錆および除錆方法。
還元性を持つ食品添加剤で遊離塩素の酸化作用を不活化する作用の持つ物質でかつ無菌状態の水に分子状に溶解させて作製した水溶液を、ウイルス除去膜を用いて膜間差圧が3気圧以下で濾過またはウイルス除去膜で孔拡散を調整する。
【請求項2】
請求項1を具体化したモジュール中に(1)還元性食品添加剤を溶解した水溶液または該添加剤を無菌状態で保持される薬剤部と(2)ウイルス除去膜用いて薬剤部と水道水とを仕切る孔拡散部と(3)孔拡散部の膜と被処理対象の送水用回路内の水とが流動下で接触する部とで構成される防錆および除錆方法。
【請求項3】
請求項1,2において還元剤食品添加剤としてL−アスコルビン酸あるいはL−アスコルビンサンナトリウム,ウイルス除去膜として再生セルロース製多段多層構造膜、濃度差により浸透および孔拡散をさせる方法を採用し、還元性食品添加剤濃度を0.1〜30%の範囲の水溶液または該添加剤の飽和濃度で制御する事を特徴とする。

【図1】
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【公開番号】特開2012−604(P2012−604A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140934(P2010−140934)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(307002932)株式会社セパシグマ (23)
【出願人】(594185352)佳秀工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】