説明

孔版印刷用薄葉紙

【課題】薄く均質で耐刷性に優れ、さらに、油性インキと水性インキの両方に適した孔版印刷用薄葉紙を提供する。
【解決手段】(X)幹部から離脱した繊維径1μm以下のフィブリル化繊維、(Y)繊維径2μm以上の幹部から、繊維径1μm以下の枝部が発生したフィブリル化繊維の2種類のフィブリル化繊維の少なくとも一方と、(Z)繊維径1〜30μmの有機繊維とを含有してなる孔版印刷用薄葉紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲンランプ、キセノンランプ、フラッシュバルブなどによる閃光照射や赤外線照射、レーザー光線等のパルス照射、サーマルヘッド等によって穿孔製版される孔版印刷用薄葉紙に関する。
【背景技術】
【0002】
簡易な印刷方式として、孔版印刷方式が広く行われている。孔版印刷用原紙としては、多孔質支持体上に熱可塑性フィルム層をあるいは熱可塑性ポリマー塗布層からなる感熱性孔版層を積層したものを用いる。この孔版印刷用原紙に対して、閃光照射、赤外線照射、レーザー光線等のパルス照射、サーマルヘッドによる加熱印字によって、画像状の穿孔を形成し、印刷にあたってはインキドラム等に巻き付けて、多孔性支持体側から印刷インキを供給して、紙等の被印刷物に対して印刷を印刷を行う。
【0003】
多孔性支持体としては、天然繊維、合成繊維の単独または混抄による薄葉紙が一般的に使用されている。このような孔版印刷用薄葉紙を支持体として用いた場合、孔版印刷用薄葉紙の繊維が密な部分において、インキの通過が妨げられてしまい、白抜けが生じ、印刷むらが発生したり、孔版印刷用薄葉紙の繊維目により熱可塑性フィルム面の平滑性が低下し、例えば、サーマルヘッドによる加熱印字によって画像状の穿孔を形成する場合、サーマルヘッドとの密着性が低下し、未穿孔部ができてしまって、印刷むらとなるといった問題があった。
【0004】
これらの問題点を解決するために、薄く、均質でかつ、耐刷性に優れた孔版印刷用薄葉紙が求められている。例えば、ポリエステルかつまたはアクリルの0.1dtex以下の極細繊維が含まれる孔版印刷用薄葉紙が提案されている。この孔版印刷用薄葉紙は、使用されている繊維は、最も細いものでも0.1dtex、つまり約3μmであり、白抜けや平滑性が低く、印刷むらが生じたり、高解像度の画像に対応できないという問題がある(例えば、特許文献1)。
【0005】
より細い繊維を用いた例として、セルロース繊維のフィブリル化物を主体繊維の少なくとも一部として構成した孔版印刷用薄葉紙が提案されている。この孔版印刷用薄葉紙では、耐刷性を上げるために、主体繊維として0.4dtex以下のポリビニルアルコール繊維を添加し、バインダーとして繊維状ポリビニルアルコールを使用している。このポリビニルアルコール繊維とポリビニルアルコールバインダーとの間で形成される水素結合を利用して、孔版印刷用薄葉紙の機械的強度を上げている。しかしながら、昨今の環境問題が原因となって、孔版印刷方式においても、油性インキの代わりに水性インキを用いることが求められており、このような水素結合を利用した孔版印刷用薄葉紙においては、印刷時に機械的強度が低下することがあった(例えば、特許文献2)。
【特許文献1】特開平3−8892号公報
【特許文献2】特開平6−155956号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、薄く均質で耐刷性に優れ、さらに、油性インキと水性インキの両方に適した孔版印刷用薄葉紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、次の発明を見出した。すなわち、
(1)(X)幹部から離脱した繊維径1μm以下のフィブリル化繊維、(Y)繊維径2μm以上の幹部から、繊維径1μm以下の枝部が発生したフィブリル化繊維の2種類のフィブリル化繊維の少なくとも一方と、(Z)繊維径1〜30μmの有機繊維を含有してなる孔版印刷用薄葉紙、
(2)フィブリル化繊維(X)と(Y)が、フィブリル化リヨセル繊維、フィブリル化アクリル繊維、フィブリル化芳香族ポリアミド繊維から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記(1)記載の孔版印刷用薄葉紙、
(3)有機繊維(Z)の少なくとも一部が熱融着性バインダー繊維であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の孔版印刷用薄葉紙、
(4)有機繊維(Z)がポリエステル系繊維であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の孔版印刷用薄葉紙、
(5)孔版印刷用薄葉紙に対して、(X)と(Y)の総含有量が1〜98質量%であり、(Z)の含有量が2〜99質量%であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の孔版印刷用薄葉紙
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の孔版印刷用薄葉紙で使用されるフィブリル化繊維は、従来使用されてきたフィブリル化繊維より非常に細かい繊維であるので、薄い孔版印刷用薄葉紙を製造するのに適している。しかし、フィブリル化繊維だけであると、製造時にフィブリル化繊維が脱落してしまったり、フィブリル化繊維が凝集することがある。特に、幹部から枝部が発生したフィブリル化繊維(Y)は、その特異的な構造上絡み合い易い。そこで、(Z)繊維径1〜30μmの有機繊維を併用し、太い有機繊維(Z)が作ったネットワークに、フィブリル化繊維が絡み合う均一な構造体を形成させて、フィブリル化繊維が均一に存在し、かつ薄く、強度の高い孔版印刷用薄葉紙とすることができる。また、本発明では、有機繊維(Z)が作るネットワークが耐水性と耐溶剤性の両方を兼ね備えているため、水性インキと油性インキの両方に適した孔版印刷用薄葉紙となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の孔版印刷用薄葉紙において、フィブリル化とは、繊維内部のフィブリル(小繊維)が、摩擦作用で表面に現れて毛羽立ちささくれる現象を言う。本発明では、幹部から離脱した繊維径1μm以下にフィブリル化した繊維(X)と、繊維径2μm以上の幹部から繊維径1μm以下の枝部が発生したフィブリル化繊維(Y)というフィブリル化度合いの異なる繊維を使用する。
【0010】
本発明の孔版印刷用薄葉紙に係わるフィブリル化繊維は、フィブリル化できる繊維であれば、特に制限はない。アクリル、アクリル系、リヨセル、パルプ、レーヨン、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、全芳香族ポリエステルアミド、全芳香族ポリエーテル、全芳香族ポリカーボネート、全芳香族ポリアゾメチン、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリ−p−フェニレンベンゾビスチアゾール(PBZT)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ−p−フェニレン−2,6−ベンゾビスオキサゾール(PBO)等の繊維を使用することができる。
【0011】
このうち、フィブリル化が簡単にできるものとしては、アクリル繊維、もしくはリヨセル繊維を挙げることができる。アクリル繊維は特に割繊性アクリル繊維を用いると良い。割繊性アクリル繊維とは、紡糸したアクリル繊維を熱処理、化学処理、機械的処理等の後処理を施して割繊可能な繊維であり、本発明においては、後述するフィブリル化処理によって、割繊可能なアクリル繊維を使用する。通常のアクリル繊維に用いられるアクリロニトリル系ポリマーのみから構成されても良いし、アクリロニトリル系ポリマーと添加剤ポリマーとから構成されても構わない。
【0012】
アクリロニトリルの共重合成分は、通常のアクリル繊維を構成する共重合モノマーであれば特に限定されないが、例えば以下のモノマーが挙げられる。すなわち、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチルなどに代表されるアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチルなどに代表されるメタクリル酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、アクリルアミド、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどの不飽和単量体などである。
【0013】
また、添加剤ポリマーは、特に限定されないが、アクリル樹脂系ポリマーや一部のポリマーが挙げられる。アクリル樹脂系ポリマーを構成するモノマーは特に限定されないが、例えば以下のモノマーが挙げられ、このうちの1種以上を用いる事ができる。すなわち、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチルなどに代表されるアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチルなどに代表されるメタクリル酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、アクリルアミド、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデンなどの不飽和単量体などである。また、アクリル樹脂系ポリマー以外のポリマーとしては、ポリ塩化ビニル、ポリアルキレングリコール、ポリエーテル系化合物、ポリエーテルエステル系化合物、セルロースアセテート、ポリスルホン、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリエステル、ポリペプチドなどが挙げられる。
【0014】
割繊性アクリル繊維に用いる添加剤ポリマーの軟化点もしくはガラス転移点が、孔版印刷用薄葉紙を製造する工程での処理温度よりも低い場合、軟化点もしくはガラス転移点以上の温度がかかる事で、添加剤ポリマーの一部又は全てが溶融し、孔版印刷用薄葉紙表面上のフィブリル化繊維(X)、(Y)を覆う形で皮膜を形成する可能性がある。その場合、印刷むらの原因となる可能性がある。したがって、添加剤ポリマーの軟化点もしくはガラス転移点が比較的高いものを選択するか、孔版印刷用薄葉紙製造時に、温度がかかる工程、例えば、乾燥工程や熱処理工程での処理温度を添加剤ポリマーの軟化点もしくはガラス転移点よりも低い温度で行うことが好ましい。
【0015】
リヨセルとは、JIS規格およびISO規格で定める繊維用語において、「有機溶剤紡糸法によって得られるセルロース繊維。有機溶剤とは、有機化合物と水との混合溶液をいい、溶剤紡糸法とは、セルロースを誘導体を経ずに直接溶解させて紡糸する方法をいう。」と定められている。リヨセル繊維は、湿潤強度に優れていること、フィブリル化しやすいこと、セルロース繊維特有の水素結合を形成することができるため、孔版印刷用薄葉紙の機械的強度を高めることができるといった利点を有する。また、リヨセル繊維は水で若干膨潤するという性質があり、クッション的役割を果たすことになり、耐刷性の向上に有効に作用する。
【0016】
孔版印刷用薄葉紙に耐熱性を求められる場合、フィブリル化繊維としては、液晶性のため均一にフィブリル化されやすい全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステルを用いることが好ましい。
【0017】
孔版印刷用薄葉紙の均一性、薄膜性、機械的強度といった性能をバランス良く発現させるためには、最適なフィブリル化条件を見出す事が重要である。剪断力を加えて、幹部から離脱した繊維径1μm以下のフィブリル化繊維(X)、及び、剪断力を加えて、繊維径2μm以上の幹部から繊維径1μm以下の枝部が発生したフィブリル化繊維(Y)の2つのフィブリル化度合いの繊維は、フィブリル化工程の条件(装置、濃度、温度、時間、応力、添加剤など)を適宜調製することで得ることができる。フィブリル化繊維のフィブリル化の度合いは、フィブリル化した繊維を水等で十分希釈した後に乾燥させて顕微鏡か、好ましくは電子顕微鏡で観察することで確認される。
【0018】
本発明に係わるフィブリル化繊維は、ビーター、PFIミル、シングルディスクリファイナー(SDR)、ダブルディスクリファイナー(DDR)、また、顔料等の分散や粉砕に使用するボールミル、ダイノミル等の叩解、分散設備でフィブリル化される。
【0019】
本発明の孔版印刷用薄葉紙に係わるフィブリル化繊維を調製するための繊維の断面形状に特に制限はなく、円形、楕円形のみならず偏平、三角、Y型、T型、U型、星型、ドッグボーン型など、いわゆる異形断面形状をとるもの、中空状のもの、枝別れ状のものであっても良い。フィブリル化工程において、凝集しにくいことから、円形もしくは、楕円形のものが最も好ましい。また、フィブリル化後の繊維の断面形状に特に制限はないが、円形、楕円形のみならず扁平、筋状、米字、三角などの異形断面形状をとるものが挙げられる。
【0020】
本発明の孔版印刷用薄葉紙において、(X)幹部から離脱した繊維径1μm以下のフィブリル化繊維のアスペクト比(繊維長/繊維径)は、10〜100000であり、より好ましくは100〜50000である。また、(Y)幹部から枝部が発生したフィブリル化繊維において、幹部のアスペクト比は、10〜50000、好ましくは50〜30000である。また、枝部のアスペクト比は、10〜100000、好ましくは100〜50000である。これらのフィブリル化状態は、上述の顕微鏡観察によって、確認する事ができる。
【0021】
本発明の孔版印刷用薄葉紙において、(Z)繊維径が1〜30μmの有機繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びこれらのコポリマー等のポリエステル系繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等のポリオレフィン系繊維、ポリアクリロニトリル等のアクリル繊維、モダクリル等のアクリル系繊維、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等のポリアミド系繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ウレタン繊維等の合成繊維、トリアセテート繊維、ジアセテート繊維等の半合成繊維、ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン、ポリノジックレーヨン、リヨセル等の再生セルロース系繊維、コラーゲン、アルギン酸、キチン質などを溶液にしたものを紡糸した再生繊維を挙げることができる。これらの繊維を構成するポリマーは、ホモポリマー、変性ポリマー、ブレンド、共重合体などの形でも利用できる。上記の繊維の他に、植物繊維として、針葉樹パルプ、広葉樹パルプなどの木材パルプや藁パルプ、竹パルプ、ケナフパルプなどの木本類、草本類を含むものも利用できる。更に、古紙、損紙などから得られるパルプ繊維等も含まれる。当然ではあるが、これら複数の材質からなる複合繊維を用いても良い。また、断面形状が円形、楕円形のみならず偏平、三角、Y型、T型、U型、星型、ドッグボーン型など、いわゆる異形断面形状をとるもの、中空状のもの、枝別れ状のものであっても良い。
【0022】
本発明の孔版印刷用薄葉紙において、繊維径が1〜30μmの有機繊維(Z)は、熱融着性バインダー繊維であっても良い。熱融着性バインダー繊維を含有させて、バインダー繊維の溶融温度以上の温度で加熱処理する工程を製造工程に組み入れることで、孔版印刷用薄葉紙の機械的強度が向上する。特に、水性インキを用いた場合にも高い機械的強度を示すことが可能となる。また、熱融着性バインダー繊維としては、単繊維のほか、芯鞘繊維(コアシェルタイプ)、並列繊維(サイドバイサイドタイプ)などの複合繊維が挙げられる。複合繊維は、孔版印刷用薄葉紙表面に皮膜を形成しにくいので、孔版印刷用薄葉紙表面のフィブリル化繊維が露出した状態を保持したまま、機械的強度を向上させることができる。熱融着性バインダー繊維としては、例えば、ポリプロピレン(芯)とポリエチレン(鞘)の組み合わせ、ポリプロピレン(芯)とエチレンビニルアルコール(鞘)の組み合わせ、高融点ポリエステル(芯)と低融点ポリエステル(鞘)の組み合わせが挙げられる。また、ポリエチレン等の低融点樹脂のみで構成される単繊維(全融タイプ)や、ポリビニルアルコール系のような熱水可溶性バインダーは、孔版印刷用薄葉紙製造の乾燥工程で皮膜を形成し易く、印刷インキの透過を妨げて印刷むらの原因となることがあるので、皮膜を形成しない程度の少量であれば使用することができる。
【0023】
本発明の孔版印刷用薄葉紙において、機械的強度、印刷インキに対する耐性つまり、耐水性と耐油性をさらに向上させるために、熱可塑性樹脂を含有させることができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル系、酢酸ビニル系、エポキシ系、合成ゴム系、ウレタン系、ポリエステル系、塩化ビニリデン系などのラテックス、ポリビニルアルコール、澱粉、フェノール樹脂などが挙げられ、これらを単独または2種類以上を併用できる。このうち、耐水性を向上させるためには、エポキシ系、合成ゴム系、ウレタン系、ポリエステル系、塩化ビニリデン系などのラテックスが好ましい。
【0024】
本発明の孔版印刷用薄葉紙に含有せしめる熱可塑性樹脂の量としては、孔版印刷用薄葉紙に対して0.01〜10質量%が適当である。10質量%を超えると、孔版印刷用薄葉紙の繊維のネットワークが塞がれてしまう。また、0.01質量%未満では、熱可塑性樹脂を含有しない孔版印刷用薄葉紙と比較して、機械的強度や耐水性が向上しない。
【0025】
熱可塑性樹脂を孔版印刷用薄葉紙に含有させる方法としては、特に限定はしないが、サイズプレス方式、タブサイズプレス方式、スプレー方式、内添方式、グラビア塗工方式などの方法が挙げられる。
【0026】
本発明の孔版印刷用薄葉紙には、必要に応じて孔版印刷用薄葉紙の特性を阻害しない範囲で、架橋剤、撥水剤、分散剤、歩留り向上剤、紙力剤、染料などの添加剤を適宜配合することができる。
【0027】
本発明の孔版印刷用薄葉紙は、フィブリル化繊維をフィブリル化する工程、孔版印刷用薄葉紙を抄紙する工程、水分を除去(乾燥)する工程により製造される。熱融着性バインダー繊維を融着させるために、さらに乾燥工程を設けても良い。本発明の抄紙工程はでは、フィブリル化した繊維と有機繊維とを水中に投入し、パルパー等の回転式の装置で混合し、分散を行い、濃度0.1〜3質量%程度の繊維懸濁液を調製する。次いで、懸濁液を用い、長網、短網、円網、傾斜ワイヤー等のワイヤーを少なくとも一つ有する抄紙機で抄造する。乾燥工程は、エアードライヤー、シリンダードライヤー、サクションドラムドライヤー、赤外方式ドライヤー等を用いることができる。また、熱融着性バインダー繊維を融着させる工程や熱可塑性樹脂を含浸させた後の乾燥工程においても、同様のドライヤーを用いることができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明を詳説する。
<フィブリル化繊維の調製>
フィブリル化していないレンチング社製リヨセル単繊維(1.7dtex×4mm)をダブルディスクリファイナーを用いて15回繰り返し処理し、幹部から離脱した平均繊維径0.9μmのフィブリル化リヨセル繊維(X1)を調製した。
【0029】
<フィブリル化繊維の調製>
フィブリル化していないレンチング社製リヨセル単繊維(1.7dtex×4mm)をシングルディスクリファイナーを用いて40回繰り返し処理し、平均繊維径3μmの幹部から平均繊維径1μm以下の枝部が発生したフィブリル化リヨセル繊維(Y1)を調製した。
【0030】
<フィブリル化繊維の調製>
フィブリル化していないレンチング社製リヨセル単繊維(1.7dtex×4mm)をPFIミルを用いて4万回転処理し、幹部から離脱した繊維径1μm以下のフィブリル化リヨセル繊維と、平均繊維径4μmの幹部から平均繊維径1μm以下の枝部が発生したフィブリル化リヨセル繊維の混合繊維(XY1)を調製した。
【0031】
<フィブリル化繊維の調製>
フィブリル化していないレンチング社製リヨセル単繊維(1.7dtex×4mm)をPFIミルを用いて2000回転処理し、平均繊維径5μmの幹部から平均繊維径2.5μmの枝部が発生したフィブリル化リヨセル繊維(V1)を調製した。
【0032】
<フィブリル化繊維の調製>
フィブリル化していない三菱レイヨン社製割繊性アクリル繊維(ボンネルM.V.P C300、3dtex×3mm)をダブルディスクリファイナーを用いて10回繰り返し処理し、幹部から離脱した平均繊維径0.9μmのフィブリル化アクリル繊維(X2)を調製した。
【0033】
<フィブリル化繊維の調製>
フィブリル化していない三菱レイヨン社製割繊性アクリル繊維(ボンネルM.V.P C300、3dtex×3mm)をシングルディスクリファイナーを用いて30回繰り返し処理し、平均繊維径3μmの幹部から平均繊維径1μm以下の枝部が発生したフィブリル化アクリル繊維(Y2)を調製した。
【0034】
<フィブリル化繊維の調製>
フィブリル化していない三菱レイヨン社製割繊性アクリル繊維(ボンネルM.V.P C300、3dtex×3mm)をPFIミルを用いて1万回転処理し、幹部から離脱した繊維径1μm以下のフィブリル化アクリル繊維と、平均繊維径3μmの幹部から平均繊維径1μm以下の枝部が発生したフィブリル化アクリル繊維の混合繊維(XY2)を調製した。
【0035】
<フィブリル化繊維の調製>
フィブリル化していない三菱レイヨン社製割繊性アクリル繊維(ボンネルM.V.P C300、3dtex×3mm)をPFIミルを用いて1000回転処理し、平均繊維径5μmの幹部から平均繊維径2.5μmの枝部が発生したフィブリル化アクリル繊維(V2)を調製した。
【0036】
<フィブリル化繊維の調製>
帝人テクノプロダクツ社製パラ系全芳香族ポリアミド繊維(トワロン1080、1.2dtex×3mm)をダブルディスクリファイナーを用いて、15回繰り返し処理し、幹部から離脱した平均繊維径0.8μmのフィブリル化パラ系全芳香族ポリアミド繊維(X3)を調製した。
【0037】
<フィブリル化繊維の調製>
帝人テクノプロダクツ社製パラ系全芳香族ポリアミド繊維(トワロン1080、1.2dtex×3mm)をシングルディスクリファイナーを用いて20回繰り返し処理し、平均繊維径4μmの幹部から平均繊維径1μm以下の枝部が発生したフィブリル化パラ芳香族ポリアミド繊維(Y3)を調製した。
【0038】
<フィブリル化繊維の調製>
帝人テクノプロダクツ社製パラ系全芳香族ポリアミド繊維(トワロン1080、1.2dtex×3mm)をPFIミルを用いて1.5万回転処理し、幹部から離脱した繊維径1μm以下のフィブリル化パラ芳香族ポリアミド繊維と、平均繊維径3μmの幹部から平均繊維径1μm以下の枝部が発生したフィブリル化パラ芳香族ポリアミド繊維の混合繊維(XY3)を調製した。
【0039】
<フィブリル化繊維の調製>
帝人テクノプロダクツ社製パラ系全芳香族ポリアミド繊維(トワロン1080、1.2dtex×3mm)をシングルディスクリファイナーを用いて7回繰り返し処理し、平均繊維径5μmの幹部から平均繊維径3μm以下の枝部が発生したフィブリル化パラ芳香族ポリアミド繊維(V3)を調製した。
【0040】
<フィブリル化繊維の調製>
クラレ社製全芳香族ポリエステル繊維(ベクトランHHA、1.7dtex×3mm)をダブルディスクリファイナーを用いて15回繰り返し処理した後、高圧ホモジナイザーを用いて50MPaの条件で20回繰り返し処理し、幹部から離脱した平均繊維径0.7μmのフィブリル化全芳香族ポリエステル繊維(X4)を調製した。
【0041】
<フィブリル化繊維の調製>
クラレ社製全芳香族ポリエステル繊維(ベクトランHHA、1.7dtex×3mm)をシングルディスクリファイナーを用いて22回繰り返し処理し、平均繊維径3μmの幹部から平均繊維径1μm以下の枝部が発生したフィブリル化全芳香族ポリエステル繊維(Y4)を調製した。
【0042】
<フィブリル化繊維の調製>
クラレ社製全芳香族ポリエステル繊維(ベクトランHHA、1.7dtex×3mm)をPFIミルを用いて1.5万回転処理し、幹部から離脱した繊維径1μm以下のフィブリル化全芳香族ポリエステル繊維と、平均繊維径3μmの幹部から平均繊維径1μm以下の枝部が発生したフィブリル化全芳香族ポリエステル繊維の混合繊維(XY4)を調製した。
【0043】
<フィブリル化繊維の調製>
クラレ社製全芳香族ポリエステル繊維(ベクトランHHA、1.7dtex×3mm)をシングルディスクリファイナーを用いて7回繰り返し処理し、平均繊維径8μmの幹部から平均繊維径2μm以下の枝部が発生したフィブリル化全芳香族ポリエステル繊維(V4)を調製した。
【0044】
<フィブリル化繊維の調製>
東洋紡社製PBO繊維(ザイロンAS、1.7dtex×3mm)をダブルディスクリファイナーを用いて15回繰り返し処理した後、高圧ホモジナイザーを用いて50MPaの条件で20回繰り返し処理し、幹部から離脱した平均繊維径0.9μmのフィブリル化PBO繊維(X5)を調製した。
【0045】
<フィブリル化繊維の調製>
東洋紡社製PBO繊維(ザイロンAS、1.7dtex×3mm)をシングルディスクリファイナーを用いて20回繰り返し処理し、平均繊維径3μmの幹部から平均繊維径1μm以下の枝部が発生したフィブリル化PBO繊維(Y5)を調製した。
【0046】
<フィブリル化繊維の調製>
東洋紡社製PBO繊維(ザイロンAS、1.7dtex×3mm)をPFIミルを用いて1.5万回転処理し、幹部から離脱した繊維径1μm以下のフィブリル化PBO繊維と、平均繊維径3μmの幹部から平均繊維径1μm以下の枝部が発生したフィブリル化PBO繊維(XY5)を調製した。
【0047】
<フィブリル化繊維の調製>
東洋紡社製PBO繊維(ザイロンAS、1.7dtex×3mm)をシングルディスクリファイナーを用いて7回繰り返し処理し、平均繊維径8μmの幹部から平均繊維径2μm以下の枝部が発生したフィブリル化PBO繊維(V5)を調製した。
【0048】
<有機繊維>
有機繊維として、以下の繊維を使用した。
有機繊維(Z1):帝人社製ポリエチレンテレフタレート繊維(テイジンテトロン テピルス、0.1dtex×3mm、繊維径約4μm)
有機繊維(Z2):帝人社製ポリエチレンテレフタレート繊維(テイジンテトロン テピルス、0.6dtex×3mm、繊維径約7μm)
有機繊維(Z3):ユニチカ社製芯鞘ポリエステル繊維(メルティ、1.5dtex×5mm、繊維径約13μm、芯部:融点255℃のポリエチレンテレフタレート、鞘部:ポリエチレンテレフタレート成分とポリエチレンイソフタレート成分を有する共重合ポリエステル、融点110℃)
有機繊維(Z4):三菱レイヨン社製割繊性アクリル繊維(ボンネルM.V.P、0.1dtex×3mm、繊維径約4μm)
有機繊維(Z5):クラレ社製全芳香族ポリエステル繊維(ベクトラン、1.7dtex×5mm、繊維径約12μm)
有機繊維(Z6):クラレ社製芳香族ポリアミド繊維(ジェネスタ、0.08dtex×3mm、繊維径約3μm)
有機繊維(Z7):帝人テクノプロダクツ社製パラ系全芳香族ポリアミド繊維(テクノーラ、1.2dtex×5mm、繊維径約11μm)、
有機繊維(Z8):東洋紡社製、PBO繊維(ザイロン、1.7dtex×5mm、繊維径約12μm)
有機繊維(Z9):帝人社製ポリエチレンテレフタレート繊維(テイジンテトロンTT04 6.6dtex×5mm、繊維径約25μm)
有機繊維(Z10):レンチング社製リヨセル単繊維(1.7dtex×4mm、繊維径約12μm)
【0049】
<スラリーの調製>
表1および表2に示した原料と含有率の通り、パルパーを用いて、スラリーを調製した。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
実施例1〜30
表3に示した条件で湿式抄紙し、シリンダードライヤー(130℃)で乾燥して、実施例1〜30の孔版印刷用薄葉紙を製造した。表中の「円網」は円網抄紙機、「傾斜」は傾斜型抄紙機、「傾斜短網」は傾斜短網型抄紙機を意味する。
【0053】
【表3】

【0054】
(比較例1〜6)
表4に示した条件で湿式抄紙し、シリンダードライヤー(130℃)で乾燥して、比較例1〜6の孔版印刷用薄葉紙を製造した。
【0055】
【表4】

【0056】
(比較例7)
フィブリル化リヨセル繊維(V1)90質量部、クラレ社製ポリビニルアルコールバインダー繊維(1.1dtex×3mm、水中溶解温度75℃)10質量部を、水に分散して、スラリーを調製した。このスラリーを円網抄紙機にて抄紙し、ドライヤー温度110℃で乾燥を行い、坪量9.0g/m2の比較例7の孔版印刷用薄葉紙を製造した。
【0057】
<孔版印刷用薄葉紙の物性評価>
引張強度(単位:N/m):JIS P8113に則り、実施例および比較例の孔版印刷用薄葉紙を幅15mm、長さ200mmに裁断し、テンシロン測定機(オリエンテック社製、STA−1150)を用いて、破断時の荷重をおのおの10回測定し、その平均値を示した。
【0058】
耐水強度:実施例及び比較例の孔版印刷用薄葉紙を、水に10分間浸した。このとき試料の全体が水に浸るようにする。10分後、水から取り出した試料の角をクリップで挟み垂直に吊し、そのまま15分間静置させて水切りを行った。次いで、上記引張強度評価とと同様の方法で引張強度を測定し、耐水強度の評価とした。
【0059】
<孔版印刷用薄葉紙の印刷適性評価>
実施例及び比較例の孔版印刷用薄葉紙の片面に厚さ3μmの熱可塑性ポリエステルフィルムを酢酸ビニル系接着剤にて貼り合わせ、孔版印刷用原紙を製造した。この孔版印刷用原紙をサーマルヘッドで穿孔し製版した。油性インキと水性インキを用いて印刷をし、耐刷枚数を評価し、結果を表5および表6に示した。
【0060】
<孔版印刷用薄葉紙の画像性評価>
実施例及び比較例の孔版印刷用薄葉紙の片面に厚さ3μmの熱可塑性ポリエステルフィルムを酢酸ビニル系接着剤にて貼り合わせ、孔版印刷用原紙を製造した。この孔版印刷用原紙をサーマルヘッドで穿孔し、50mm×50mmの黒ベタ部となる画像を有する製版を製造した。油性インキを用いて印刷をし、白抜けの有無を評価し、結果を表5および表6に示した。白抜けのあるものを×、白抜けのないものを○、白抜けはあるが使用できるレベルのものを△とした。
【0061】
【表5】

【0062】
【表6】

【0063】
実施例の孔版印刷用薄葉紙は、適正なフィブリル化度合いを有するフィブリル化繊維を使用しているので、比較例の孔版印刷用薄葉紙と比較して、印刷における白抜けが少なかった。また、耐水強度が高いため、水性インキを用いた場合でも、油性インキと同様に、高い耐刷性が得られた。比較例7の孔版印刷用薄葉紙は、水素結合によって機械的強度を発現させているため、耐水強度が低く、水性インキを用いた場合の耐刷性が低いものであった。なお、実施例1〜25、実施例27〜36の孔版印刷用薄葉紙は、熱融着性バインダー繊維を含有しているので、機械的強度が高いく、耐刷性も優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、ハロゲンランプ、キセノンランプ、フラッシュバルブなどによる閃光照射や赤外線照射、レーザー光線等のパルス照射、サーマルヘッド等によって穿孔製版される孔版印刷用薄葉紙に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(X)幹部から離脱した繊維径1μm以下のフィブリル化繊維、(Y)繊維径2μm以上の幹部から、繊維径1μm以下の枝部が発生したフィブリル化繊維の2種類のフィブリル化繊維の少なくとも一方と、(Z)繊維径1〜30μmの有機繊維とを含有してなる孔版印刷用薄葉紙。
【請求項2】
フィブリル化繊維(X)と(Y)が、フィブリル化リヨセル繊維、フィブリル化アクリル繊維、フィブリル化芳香族ポリアミド繊維から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の孔版印刷用薄葉紙。
【請求項3】
有機繊維(Z)の少なくとも一部が熱融着性バインダー繊維であることを特徴とする請求項1または2に記載の孔版印刷用薄葉紙。
【請求項4】
有機繊維(Z)がポリエステル繊維であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の孔版印刷用薄葉紙。
【請求項5】
孔版印刷用薄葉紙に対して、(X)と(Y)の総含有量が1〜98質量%であり、(Z)の含有量が2〜99質量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の孔版印刷用薄葉紙。

【公開番号】特開2006−281690(P2006−281690A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−107321(P2005−107321)
【出願日】平成17年4月4日(2005.4.4)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】