説明

孔版印刷用W/Oエマルションインク

【課題】インクの裏抜け抑制に優れた孔版印刷用W/Oエマルションインクを提供する。
【解決手段】油相および水相からなる孔版印刷用エマルションインクにおいて、前記油相に金属を含む荷電制御剤を含むことを特徴とする孔版印刷用W/Oエマルションインク。前記荷電制御剤が配位子にサリチル酸またはアゾ結合のいずれかを含む金属錯体であることを特徴とする孔版印刷用W/Oエマルションインク。前記金属錯体の中心金属が亜鉛またはクロムであることを特徴とする孔版印刷用W/Oエマルションインク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、孔版印刷用W/Oエマルションインクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
孔版印刷は版の作製が容易なため幅広い分野で利用されており、孔版印刷に用いるインクとしては、一般に油中水(W/O)型エマルジョンインクが使用されている。このエマルジョンインクの乾燥は、被印刷体である印刷用紙の内部にインク成分を浸透させるとともに、水成分を大気中に飛散させることにより行われる。従って、インク乾燥時にインク成分が印刷用紙の内部に浸透し、同時に着色剤も印刷用紙内部に浸透することから、印刷用紙の裏面から逆像の印刷画像が見える、いわゆるインクの裏抜け現象が発生し易い。
【0003】
このようなインクの裏抜けの改善を図るため、油相中に体質顔料を含有させたエマルジョンインクが知られている(特許文献1)。このインクは、印刷用紙への浸透は油相の浸透後に水相の浸透が生じ、エマルジョンインクの浸透速度は油相成分に最も影響を受けることに鑑み、油相中に体質顔料を含有させることによって、インクの浸透速度ひいてはインクの乾燥性の向上を図るとともに、インクの裏抜け抑制を図るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−302262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
孔版印刷は、孔版印刷原紙(マスター)を用いて製版を行い、原紙に形成された穿孔部からインクを供給して印刷用紙等に印刷を行うものであるが、体質顔料は裏抜け抑制効果には優れるものの、一方で、体質顔料の含有量を高くするとマスターの多孔性支持体を目詰まりさせるという問題がある。すなわち、特許文献1においては、裏抜け抑制効果を発揮させるためには体質顔料の含有量を高くする必要がある一方で、体質顔料の含有量を高くすると多孔性支持体の目詰まりが起きやすくなるという二律背反の関係にあり、調整が難しいという問題がある。このため、マスターの目詰まりを起こすことがなく、裏抜けを抑制することが可能なインクが要求されている。
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、インクの裏抜け抑制に優れた孔版印刷用W/Oエマルションインクを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の孔版印刷用W/Oエマルションインクは、油相および水相からなる孔版印刷用エマルションインクにおいて、前記油相に金属を含む荷電制御剤を含むことを特徴とするものである。
前記荷電制御剤は配位子にサリチル酸またはアゾ結合のいずれかを含む金属錯体であることが好ましい。
前記金属錯体の中心金属は亜鉛またはクロムであることが好ましい。
前記金属錯体の含有量はインク全量に対し、1〜5質量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の孔版印刷用W/Oエマルションインクは、油相に金属を含む荷電制御剤を含むので裏抜けを抑制することができる。このメカニズムは定かではないが、次のように推測される。印刷によりインクが被印刷体である印刷用紙に転移すると、転移したインクの油相成分が印刷用紙内部に浸透するとともに、蒸発し(溶剤の離脱)、実質的に顔料濃度および荷電制御剤濃度が高くなる。金属を含む荷電制御剤は負帯電の作用をもち顔料を負に帯電する。一方、印刷用紙のパルプは負の性質をもっているため負に帯電した顔料は静電反発により印刷用紙内部に浸透しにくく裏抜けが抑制されるものと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の孔版印刷用W/Oエマルションインクを詳細に説明する。本発明の孔版印刷用W/Oエマルションインクは、油相および水相からなる孔版印刷用エマルションインク(以下、単にインクともいう)において、油相に金属を含む荷電制御剤を含むことを特徴とする。
【0009】
ここで、金属を含む荷電制御剤とは、キャリアとの接触・摩擦によって帯電するトナーの極性と帯電量を制御するために添加される材料である。具体的には、サリチル酸、ナフトエ酸、ダイカルボン酸の如き芳香族カルボン酸の金属化合物;アゾ結合を含む金属錯体等が挙げられる。配位子にサリチル酸またはアゾ結合のいずれかを含む金属錯体であって、中心金属が亜鉛またはクロムであるものが好ましい。油相に含まれる金属を含む荷電制御剤は顔料の表面電荷に作用し、印刷用紙内部への顔料の浸透を妨げることによって裏抜けが抑制されるものと考えられる。このような金属錯体としては下記化学式(I)や(II)で示されるものを例示することができる。
【0010】
【化1】

【化2】

【0011】
なお、化学式(I)において中心金属を亜鉛に変更したもの、化学式(II)において中心金属をクロムに変更したものも好適に用いることができる。金属を含む荷電制御剤は、インク全量に対し1〜5質量%であることが好ましい。インク全量に対し1質量%未満の場合には裏抜けの抑制効果が低い。一方で、インク全量に対し5質量%よりも多く含むと、エマルションの安定性が低下し、エマルションの崩壊が発生することがあるため好ましくない。荷電制御剤は油相に溶解または微細に分散しているため、マスターの目詰まりを起こすことがなく、少量の添加で裏抜けを抑制することが可能である。
【0012】
本発明のインクは、油相と水相とからなり、油相は、上記荷電制御剤以外に、溶剤、樹脂、着色剤、分散剤から主として構成されるが、必要に応じて、ゲル化剤、酸化防止剤等の公知の成分を適宜含ませることができる。油相の割合はインク全量に対して20質量%〜50質量%であることが好ましく、30質量%〜60質量%であることがより好ましい。
【0013】
溶剤としては、非極性溶剤及び極性溶剤の何れも使用できる。これらは、単独で使用してもよく、または、単一の相を形成する限り、2種以上を組み合わせて使用できる。非極性溶剤としては、ナフテン系、パラフィン系、イソパラフィン系等の石油系炭化水素溶剤を使用でき、具体的には、ドデカンなどの脂肪族飽和炭化水素類、エクソンモービル社製「アイソパー、エクソール」(いずれも商品名)、新日本石油社製「AFソルベント」(商品名)、サン石油社製「サンセン、サンパー」(いずれも商品名)等が挙げられる。極性溶剤としては、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、高級脂肪酸系溶剤、エーテル系溶剤などが挙げられる。植物油も使用でき、植物油としてはヤシ油、パーム油等の植物脂、大豆油、オリーブ油、ヒマシ油、アマニ油等が挙げられる。溶剤及び植物油の含有量は、インク全量に対して1〜50質量%であることが好ましく、3〜20質量%であることがより好ましい。
【0014】
樹脂はインクに粘度を付与し、エマルションの安定性を向上させるもので、油相に溶解するものが用いられる。樹脂を含ませることにより、顔料の分散性、紙への定着性、転写汚れの抑制を向上させることができる。樹脂としては、たとえば、ロジン、ギルソナイト、ロジンエステル、マレイン酸樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、石油樹脂、アクリル樹脂、アミノ樹脂、ウレタン樹脂、セルロース樹脂、天然ゴム誘導体樹脂等を好ましく用いることができ、アルキド樹脂、フェノール樹脂をより好ましく用いることができる。また、アルキド樹脂またはロジン変性樹脂とアルミニウムキレート化合物またはアルミニウムアルコラートとの反応生成物も、好ましく用いることができる。
【0015】
樹脂の含有量は、インク全量に対して3〜25質量%であることが好ましく、8〜20質量%であることがより好ましい。樹脂の含有量が3質量%より少なくなると、顔料の分散性が悪くなる。また、インクの油相粘度が低くなってしまい、インクの転写量が過剰になってしまうため好ましくない。樹脂の含有量が25質量%より多くなると、インクの油相粘度が高くなってしまい、被印刷体への浸透が遅くなってしまうため好ましくない。
【0016】
着色剤としては、印刷物の耐候性が高いことから、顔料を使用することが好ましい。顔料としては、有機顔料、無機顔料を問わず、印刷の技術分野で一般に用いられているものを使用でき、特に限定されない。具体的には、カーボンブラック、カドミウムレッド、クロムイエロー、カドミウムイエロー、酸化クロム、ピリジアン、チタンコバルトグリーン、ウルトラマリンブルー、プルシアンブルー、コバルトブルー、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、スレン系顔料、ペリレン系顔料、チオインジゴ系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料などが好適に使用できる。とりわけ、アゾ系顔料は本発明の効果が特に顕著に確認できる顔料である。これらの顔料は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。着色剤は、インク全量に対して0.01〜20質量%の範囲で含有されることが好ましい。
【0017】
着色剤として顔料を使用する場合、油相中における顔料の分散を良好にするために、油相に顔料分散剤を添加することができる。本発明で使用できる顔料分散剤としては、顔料を溶剤中に安定して分散させるものであれば特に限定されないが、例えば、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、高分子共重合物、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエステルポリアミン、ステアリルアミンアセテート等を用いることができ、中でも主鎖にポリアミド構造を有し、側鎖にポリエステル構造を有した櫛型のポリマーが好ましい。顔料分散剤の含有量は、インク全量に対して0〜10質量%であることが好ましく、0.1〜5質量%であることがより好ましい。
【0018】
界面活性剤はW/Oエマルションを構成するために用いられ、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤のいずれを用いてもよい。このうち、油中水型エマルションの乳化性や保存安定性の観点から、非イオン界面活性剤を用いることが好ましい。
【0019】
具体的には、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタンモノイソステアレート等のソルビタン脂肪酸エステル、グリセリルモノステアレート、ヘキサグリセリルテトラオレエート、デカグリセリルデカオレエート、ヘキサグリセリルペンタオレエート等の(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、(ポリ)エチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン(硬化)ヒマシ油等を好ましく挙げることができる。上記界面活性剤は、単独で用いてもよいし、二種類以上を適宜組み合わせて用いることもできる。
【0020】
水相中には、水の他、必要に応じて水蒸発抑制剤(または凍結防止剤)、電解質、pH調整剤、酸化防止剤等を含ませることができる。
水蒸発抑制剤(または凍結防止剤)としては、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類等の、水溶性有機溶剤等を好ましく挙げることができ、その含有量は、水相全量に対して1〜20質量%であることが好ましく、3〜15質量%であることがより好ましい。
【0021】
電解質としては、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、リン酸水素カリウム、クエン酸ナトリウム、酒石酸カリウム、ホウ酸ナトリウム等が挙げられ、その含有量は、水相全量に対して0.1〜5.0質量%であることが好ましく、0.5〜2.0質量%であることがより好ましい。
【0022】
本発明のインクは、公知の方法で調製することができる。例えば油相は、公知の分散機で着色剤を溶剤、樹脂の混合体に分散した後、さらに溶剤で希釈し、その他の油相成分を添加して調製することができる。希釈には、それ自体公知の撹拌機を使用することができる。水相は、水相の成分を、撹拌機により水に混合・溶解することにより調製することができる。そして、公知の乳化機を使用し、攪拌下の油相中に水相を滴下することにより、本発明のインクを得ることができる。これらの分散、稀釈、乳化等を行うにあたって採用される条件等は、適宜選択することができる。
以下に本発明のインクの実施例を示す。
【実施例】
【0023】
(インクの調製)
下記表1に示す配合(表に示す数値は質量部である)により、以下の手順に従い、各実施例、比較例のインクを調製した。着色剤を溶剤、樹脂の混合体に三本ロールで分散した後、油相に示す他の材料を混合し、攪拌機により十分に攪拌した。この油相中に、水相に示す材料を混合した水相混合溶液を徐々に滴下し、ホモジナイザーを用いて乳化を行いエマルションインクを得た。なお、実施例1の添加剤であるアゾ含クロム錯体bontron S-32は上記で示した化学式(I)、実施例2の添加剤であるサリチル酸亜鉛錯体bontron E-304は上記で示した化学式(II)、実施例3の添加剤であるサリチル酸クロム錯体CHUO CCA100は上記で示した化学式(II)の中心金属がクロムの物質であり、比較例3の添加剤は下記化学式で示される物質である。
【0024】
【化3】

【0025】
(評価)
(裏抜け)
理想科学工業(株)製RISOGRAPH“RZ970”に供給して、サーマルヘッド式製版方式(600dpi)により、A4普通紙へ10cm角の角ベタを印刷した。得られた印刷物を裏側から観察し、目視により比較例1を△とした基準により裏抜けを評価した。
○:基準より優れる
△:比較例1と同等
×:基準より劣る
【0026】
【表1】

【0027】
表1に示すように、本発明のインクはいずれも裏抜けが抑制された。一方で、中性染料を用いた比較例2、アジン系化合物を用いた比較例3では裏抜け抑制効果は認められなかった。これは、中性染料、アジン系化合物とも顔料を負帯電させにくい化合物であるためと考えられる。
【0028】
以上のように、本発明の孔版印刷用W/Oエマルションインクは、油相に荷電制御剤を含むことよって、裏抜けを抑制することができる。
なお、本実施例では顔料としてカーボンブラックを用いた例を示したが、荷電制御剤の作用メカニズムからすれば、その他の顔料でも同様の結果が得られるものと推測される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油相および水相からなる孔版印刷用エマルションインクにおいて、前記油相に金属を含む荷電制御剤を含むことを特徴とする孔版印刷用W/Oエマルションインク。
【請求項2】
前記荷電制御剤が配位子にサリチル酸またはアゾ結合のいずれかを含む金属錯体であることを特徴とする請求項1記載の孔版印刷用W/Oエマルションインク。
【請求項3】
前記金属錯体の中心金属が亜鉛またはクロムであることを特徴とする請求項2記載の孔版印刷用W/Oエマルションインク。
【請求項4】
前記金属錯体の含有量がインク全量に対し、1〜5質量%であることを特徴とする請求項2または3記載の孔版印刷用W/Oエマルションインク。

【公開番号】特開2013−72006(P2013−72006A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212010(P2011−212010)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】