説明

孔質構造の空隙を有する食品

【課題】3大アレルギー物質の全部又は一部(特に卵や小麦粉)を含まない、孔質構造の空隙を有する食品を提供すること。
【解決手段】α化澱粉と大豆成分溶液とを混練して得られた生地を焼成することで、孔質構造の空隙を有する食品を形成することができる。得られた孔質構造の空隙を有する食品は、3大アレルギー物質の全部又は一部を含まない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、孔質構造の空隙を有する食品に関する。より詳細には、3大アレルギー物質である卵、小麦粉、乳の全部又は一部を使わない、孔質構造の空隙を有する食品に関する。
【背景技術】
【0002】
シュークリームのシューやアップルパイのパイなど、空隙の大きな食品や空隙の多い食品は、卵や小麦粉の特性を利用して製造されている。
卵は、常温では高粘性で粘着性があるため、空気を内包しその形状を維持しやすいという気泡性を有し、一方、調理温度(80〜200℃程度)では、固まるという熱凝固性を有する。この性質により、孔質構造の空隙を有する食品の調理素材として広く利用されている。
例えば、シュークリームのシューは、卵と小麦粉と乳(バター)等を混ぜて焼いた軽い皮で、特に卵の気泡性と熱凝固性を利用して、内部に大きな空洞を形成している。そのため、卵を使用しないでシューを作ることは不可能とされていた。
【0003】
一方、小麦粉は、水を加えて練り合わせると、小麦粉中のタンパク質のグリアジンとグルテニンによってガム状の粘弾性を有するグルテンになり、発酵で生じる炭酸ガスを生地中に包蔵する機能が発揮される。この性質により、孔質構造の空隙を有する食品の調理素材として広く利用されている。
例えば、アップルパイのパイは、小麦粉の層と乳(バター)の層とを交互に重ねて焼いた軽い皮で、特に小麦粉の上記性質を利用して、内部に多数の空隙を形成している。そのため、小麦粉を使用しないでパイを作ることは不可能とされていた。
【0004】
しかし、卵、小麦粉、乳(バター)は3大アレルギー物質であり、シュークリームやアップルパイを食べられない人が少なくなかった。
【0005】
なお、卵、小麦粉、乳(バター)を使用しない食品は種々提示されているが(例えば、特許文献1参照。)、空隙の大きな食品や空隙の多い食品に関しては、アレルギー物質(特に卵や小麦粉)を使用しないで製造することは困難であった。
【特許文献1】特開2003−169592号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、3大アレルギー物質の全部又は一部(特に卵や小麦粉)を含まない、孔質構造の空隙を有する食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねたところ、α化澱粉と大豆成分溶液とを混練することにより上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
請求項1に記載の発明は、α化澱粉と大豆成分溶液とを混練して得られた生地を焼成してなる孔質構造の空隙を有する食品である。
本発明では、α化澱粉の粘りを利用して孔質構造の空隙を有する状態にすることが特徴である。α化澱粉を水で練って膨潤させ、その後加熱すると、α化澱粉は膨らんで孔質構造の空隙を有する状態となる。しかし、α化澱粉には熱凝固性がないため、膨らんでも熱が下がるとしぼんでしまう。その膨らみを保持するために、熱凝固性の高い大豆成分の溶液を用いる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、3大アレルギー物質の中でも特に卵や小麦粉を含まない、孔質構造の空隙を有する食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の食品は、α化澱粉と大豆成分溶液とを混練して得られた生地を焼成してなり、孔質構造の空隙を有する。
【0011】
本発明において、「孔質構造の空隙を有する食品」とは、孔質構造により空隙部分の占める割合の多い食品をいい、具体的には空隙の占める割合が、30%〜80%程度のものをいう。孔質構造の空隙を有する食品は、パイのように多孔質の構造を有するものであっても、シューのように内部に主として1つの空洞を有するものであってもよい。
【0012】
また、本発明において、「α化澱粉」とは、水と熱を加えて糊化した澱粉をいい、高粘度で膨潤性が高い。α化する前のβ澱粉は分子の配列が規則的で結晶構造をなすが、水を加えて加熱すると水を吸収して膨潤し、やがて強い粘性を示し糊状(α化、即ち、非結晶構造)となる。α化は、澱粉分子のミセル構造が熱のためにゆるみ、水に分散したために起きる現象である。
【0013】
本発明におけるα化澱粉は、澱粉に水と熱を加え(又は温水を加え)て混練した膨潤状態のもの、澱粉に市販の乾燥したα化澱粉を所定量混合したもの(市販のα化澱粉のみでも可)、又は特殊な方法(加熱粉砕)でアルファ化しながら製粉したもの、などの何れでもよい。
ここで、水と熱を加えた澱粉(又は加える温水)は、α化するのに60〜90℃とすることが好ましく、70〜80℃とすることがより好ましい。90℃以下にすると澱粉の褐色化が抑えられ、食味も損なわれず好ましい。また、α化しながら製粉する場合は製粉機の粉砕部位を50〜80℃の温度に加熱することが好ましい。
【0014】
これらのα化澱粉のα化度は、BAP法(β−アミラーゼ・プルラナーゼ法)による糊化度測定やX線回折法による結晶化測定によって確認することができる。
【0015】
澱粉としては、穀類澱粉や根茎菜澱粉などを用いることができる。具体的には、米、小麦、蕎麦、小豆、とうもろこし等の穀類の澱粉、又は芋、カボチャ、葛、タピオカ等の根茎菜の澱粉などを挙げることができる。但し、アレルギーの観点からは、小麦の澱粉をできるだけ使用しないことが好ましい。
【0016】
本発明において、「大豆成分溶液」とは、大豆成分(特に大豆に豊富に含まれる蛋白質)を溶解した液をいい、具体的には大豆飲料(水に浸した大豆をひき砕き、水を加えて煮た液)、又は豆乳(水に浸した大豆をひき砕き、水を加えて煮た後に濾した液)、などの何れでもよい。主に大豆成分中のたんぱく質によって熱凝固性が高められる。
なお、豆乳は、3大アレルギー物質の中の乳(牛乳製品等)と異質なものであることは勿論である。
【0017】
本発明においては、前述の通り、α化澱粉と大豆成分溶液とを混練して生地を作るが、生地の作製工程において、澱粉と大豆粉とに、水と熱を加え(又は温水を加え)、これらを混練して生地を作る場合も、本発明の技術範囲に包含される。即ち、この工程中において澱粉が水と熱によりα化澱粉になると共に、大豆粉が成分を溶出して大豆成分溶液となりうるからである。
【0018】
これらのα化澱粉と大豆成分溶液とを混練して得られた生地を焼成すると、α化澱粉が膨らんで孔質構造の空隙を有する状態となり、熱凝固性の高い大豆成分によって冷却しても萎まない孔質構造の空隙を有する食品を得ることができる。これらは、シュー皮やパイ皮等とすることができる。
生地の焼成装置としては、例えば、オーブン、マイクロ波加熱装置、ホイロ等、従来用いられているものを適宜利用することができる。
【0019】
前記生地を焼成する前に、具材料を包み込んでアップルパイやミートパイ等に仕上げることができ、また生地を加熱した後に生クリーム、カスタードクリーム等を注入して、シュークリーム等に仕上げることができる。但し、本発明に係る生地を作製し、これを焼成して得られるものであれば、これら用途に限定されるものではない。
【0020】
なお、本発明の食品を作る上で、澱粉と大豆成分溶液とを混練した生地を焼成しても、本発明の食品にはならない。焼くことによって澱粉がα化することも考えられるが、焼く前の生地の段階で澱粉をα化しておかなければならない。
また、大豆粉に水と熱を加えて混練した生地を焼成しても、やはり本発明の食品にはならない。大豆粉には澱粉と蛋白質が含まれているので、大豆粉の生地だけでもよいと考えられるが、大豆には含有澱粉量が少なく、逆に油脂が多いので、生地の表面に厚い油膜ができ、焼成工程で生地内の水分が発散しなくなる。この結果、孔質構造の空隙が形成されず、べとべとした不味い食品になってしまう。
【0021】
また、本発明の利点として、製造工程が簡略化される点を挙げることができる。以下では具体的に、シュー皮の作り方とパイ皮の作り方を例に、製造工程が簡略化された様子を説明する。但し、これらの作製方法は一例であり、これらの作製方法に限定されない。
【0022】
従来のシュー皮は、原料として、水、小麦粉、無塩バター、卵及び塩を用いる。当然に、これらの他に、調味料等を適宜含有させることができる。これらの材料を用いて、下記の工程を経て、シュー皮が作られている。
【0023】
(1)まず、鍋に、バター、水、塩を入れて中火にかけ、バターを木べらなどで崩しながら温める。
(2)バターが完全に溶け、煮立ってきたら小麦粉を一度にいれ、木べらで手早くまとめてから火を消し、しっかり練り混ぜる。ここで、鍋肌から離れるようになるまで、力強くしっかり生地を練らないと膨らまない。
(3)解きほぐした卵を生地に少し加え、木べらで手早く混ぜる。卵が生地に馴染んで滑らかになったら、様子を見ながら少しずつ加え混ぜる。
(4)木べらで持ち上げると薄い膜状になり、ゆっくり落ちるくらいの硬さになれば生地の完成となる。
(5)生地を任意の大きさに絞り出す。
(6)200℃のオーブンで15分焼く。充分に膨らんだら180℃に下げ、更に15分焼く。
【0024】
このように従来のシュー皮の製造方法では、内部に大きな空洞が形成されるように、小麦粉や卵を入れるタイミングや、混ぜ合わせるときの温度、混ぜ方、焼くときの温度調整などを工夫しなければならない。
【0025】
これに対し、本発明の食品では、大豆飲料とα化澱粉を原料とすれば、その他の添加物は任意である。したがって、従来のシュー皮の製造方法に比べて、準備する原料の種類が少なくて済むという利点を有する。
本発明の食品をシュー皮に適用した場合の製造工程を下記に示す。
【0026】
(1)大豆飲料とα化澱粉をミキサーで10分間程度ミキシングする。
(2)得られた生地を任意の大きさに絞り出す。
(3)200℃のオーブンで30分焼く。
【0027】
本発明の食品をシュー皮に適用すれば、従来の製造工程では重要であった、原料を混ぜ合わせるタイミングや温度、混ぜ方、焼くときの温度などについて神経質にならずに、シュー皮を簡便に作製することができる。
【0028】
また、得られたシュー皮も、従来のシュー皮に比べて、薄く、そしてパリパリとした食感が得られる。
【0029】
次にパイ皮を製造する場合について説明する。
従来のパイ皮は、原料として、小麦粉、無塩バター、水を用いる。
【0030】
(1)まず、冷たい小麦粉の上に冷たいバターの塊をのせ、常に小麦粉がまぶしてある状態にして、バターをちぎっていく。小麦粉とバターが混ざった生地をそぼろ状にする。
(2)生地の中央に窪みを作り、そこへ水を加えていくが、始めは多めに、後半は極少なめにして混ぜる。手のひらで軽く押し付けるようにして、生地をひとまとめにする。
(3)生地が縮んだり粘ったりするのを防ぐため、堅く絞った濡れふきんで生地を包み、さらにそれをビニール袋かラップで包む。
冷蔵庫で最低1時間、できれば半日から一晩寝かせる。
(4)寝かせた生地を打ち粉をふった台の上に置き、のし棒で1cmの厚みの正方形になるように伸ばす。
更に、正方形の四隅を引っ張るようにしながら伸ばしていき、真ん中に冷やしておいたバターを置く。空気が入らないように注意しながら、生地でバターを包む。
【0031】
(5)バターを包んだら、のし棒で軽く抑えるようにして伸ばし、なじませる。ある程度伸ばしたら細長く伸ばしていき、打ち粉をして余分な粉をはらってから、三つ折にしてラップに包み、冷蔵庫で30分寝かせる。
(6)上記(5)を5回ほど繰り返したらパイ生地が完成する。
(7)パイ生地に具をのせて、具を包む。
(8)200℃のオーブンで20分焼く。
【0032】
得られた従来のパイ皮について、その断面のイメージ図を図1に示す。
上記工程の(5)によって、生地とバターとが何層にも重なった状態になっており、この生地とバターの間に空隙が発生して、パイ皮が形成されている。この空隙を生じさせるために、従来のパイ皮の製造方法では、バターの温度を調節したり、バターと小麦粉の混ぜ方を工夫したり、打ち粉をしたり、生地を寝かせたりなどの工夫や工程が必要であった。
【0033】
一方、本発明の食品をパイ皮に適用する場合には、原料としては大豆飲料とα化澱粉を用い、更に、重しの役目としてのクッキー生地を用いる。クッキー生地は、米粉、ショートニング砂糖を原料とし、これらをミキシングして焼いたものである。重しの役目を果たすのであれば、クッキー生地に限定されない。但し、本発明の食品はアレルギーフリーを目的とするため、このクッキー生地もアレルギーフリーのものを適用する。
【0034】
(1)まず、大豆飲料とα化澱粉をミキサーで10分間程度ミキシングする。
(2)上記(1)の生地を任意の大きさに絞り出し、その上に粉末油脂をふりかけ、更にその上に上記(1)の生地を絞り出して乗せる。最後に、重しとしてのクッキー生地をのせる。
(3)パイ生地に具をのせて、具を包む。
(4)200℃のオーブンで30分焼く。
【0035】
得られた本発明に係るパイ皮について、その断面のイメージ図を図2に示す。当然に、上記(2)の工程において、工程(1)の生地を更に多く重ねれば、パイ皮の層を多くすることができる。
なお、上記工程の(2)において、粉末油脂を用いているが、これは打ち粉の役目を果たし、またバターの代用でもある。
【0036】
このように本発明の食品をパイ皮に適用すれば、温度の調節や、混ぜ方などに神経質にならずに製造することができ、また、打ち粉をしたり、生地を寝かせたりなどの工程が不要となるので、パイ皮を簡便に作製することができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。但し、本発明は、以下の実施例によって制限されない。
【0038】
実施例および比較例では、α化澱粉として、もち粉、米(糠)粉、そば粉、小麦粉、大豆粉、タピオカ粉を用い、大豆成分溶液として大豆飲料を用いた。比較例では大豆成分溶液の代わりに水を用いる場合がある。α化澱粉は、臼式製粉機で加熱(約60℃)・剪断条件下でα化しながら製粉したものであり、そのα化度はBAP法で測定した。
このα化澱粉と大豆成分溶液とを混練して得られた生地を、オーブン(上火180℃、下火200℃)にて30分間焼成した。
【0039】
この結果、表1に示す実施例1〜15の生地は膨らんだ(孔質構造の空隙を形成した)が、表2に示す比較例1〜8の生地は膨らまなかった(孔質構造の空隙を形成しなかった)。
実施例において、α化澱粉はα化度が50%以上のものが非常によく膨らみ、12%のものでもある程度膨らむことが分かる。また、α化澱粉に対する大豆成分溶液の質量比率は、5〜6倍程度のものが非常によく膨らみ、その範囲から離れると膨らみが小さくなることが分かる。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

表1及び表2における空欄は、その物質を添加していないことを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】従来のパイ皮の断面イメージ図である。
【図2】本発明のパイ皮の一例についての断面イメージ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α化澱粉と大豆成分溶液とを混練して得られた生地を焼成してなる孔質構造の空隙を有する食品。

【図1】
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【図2】
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