説明

季節変動への対応性が大きいメタン発酵システム

【課題】
動植物系の有機廃棄物をメタン発酵させてメタン含有ガスと消化液を生成する方法において、消化液が液肥として需要がない時期に、プロセス内での使用エネルギーを抑えながら有効利用できるようにした、季節変動に対応性が大きいシステムを提供する。
【解決手段】
生成した消化液が液肥として需要がない時点では石膏系凝集剤を添加して、固体側にリン、窒素を移して腐植土などに利用する。また、消化液に石膏系凝集剤を添加して得られた液体分を、メタン発酵工程への水分70%以下の動植物系有機物の添加と合わせて、メタン発酵工程に循環使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機汚泥、食品残渣、家畜排泄物などの水分含有量の多い動植物系有機廃棄物をメタン発酵処理する場合に、副生する消化液が季節によって需要変動が大きいことから、その季節変動への対応性を大きくしたメタン発酵システムに関する。
【背景技術】
【0002】
有機汚泥、食品残渣、家畜排泄物、草などの動植物系の廃棄物には、各種の有機成分や無機成分が含まれている。従来、堆肥として利用する場合には好気性環境で、堆肥化バクテリアに健全な環境(および養分)を供給して発酵させていた。堆肥化バクテリアは、原料に含まれる蛋白質やアミノ酸を取り込んで繁殖しながら、原料に含まれる炭水化物をエネルギー源として分解消費する。適正な条件で造られた堆肥は窒素、りん、カリウムなどの肥料成分を含むものとして、また土壌の物理性を改善するものとして用いられる。しかし、堆肥化の挙動は、原料の組成や温度条件などの影響を受ける。発酵が不十分なまま得られた堆肥を土壌に施用すると、土壌中でバクテリアが急激に繁殖することによって作物の根が障害を受けるという根やけという現象を生じたり、あるいは窒素飢餓を引き起こすおそれがある。このように堆肥は品質がばらつきやすいので、一般的には農家では使いにくいという問題があり、有機農法として期待されながらも、化学肥料になかなか取って代われないという状況にある。また、堆肥化の過程で好気性発酵を利用しているので、含まれていた炭素や水素は、エネルギーとしては外部に取り出せないという制約がある。
【0003】
これに対して、水分含有量の多い動植物系廃棄物を処理してエネルギーを取り出す方法としてメタン発酵法が知られている。これは嫌気性雰囲気で動植物系の廃棄物に含まれる炭水化物などをメタン発酵させる各種微生物類の働きで、メタンガスを含むガスを得る方法である。この反応過程は複雑であるが、適正な方法で行えば、メタン含有ガスと、発酵の残渣としての消化液が得られる。メタン含有ガスは燃料などとして利用可能である。一方、副生物である消化液は、液体分は液肥として、固体分は腐植土として、いずれも肥料や土壌改良剤に利用できるが、特に液肥については需要に季節変動性が大きいこと、および保管が難しいことが問題である。メタン発酵が処理対象とする動植物系の有機廃棄物の水分含有量と、メタン発酵処理時の適正な水分量(たとえば約90%)との関係次第では、消化液の液体分は、メタン発酵工程に循環使用できないわけではないが、液に窒素(とくにアンモニアとして)が含まれていると、一般にはメタン発酵菌の活動に悪影響を及ぼすという問題がある。そこで、液肥としての需要がない場合には、液体を排水として排出することになるが、排水基準を満足するために窒素、リンなどの富栄養化元素の低減の処理が必要である。特許文献1においては、メタン発酵残渣、すなわち消化液を膜分離して、分離液は希釈後下水に放流する方法が示されている。この方法では、分離液に含まれる窒素、リンなどの含有量次第では、希釈に用いる水量が増えるという問題がある。特許文献2には消化液を蒸留してアンモニア濃度の低い液を得る方法が示されている。特許文献3には、電解酸化して、炭素、水素、窒素、酸素で構成される有機物を分解する方法が示されている。また、特許文献4には曝気により液に含まれる窒素分を低減する方法が示されている。いずれも窒素などの除去のために多量のエネルギーを消費するのが問題である
【特許文献1】特開2002−361217号公報
【特許文献2】特開2008−23434号公報
【特許文献3】特開2004−130186号公報
【特許文献4】特開2003−260435号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、有機汚泥、食品残渣、家畜排泄物などの水分含有量の多い動植物系の有機廃棄物をメタン発酵させてメタン含有ガスと消化液を生成する方法において、消化液が液肥として需要がない時期に、プロセス内での使用エネルギーを抑えながら、有効利用できるようにした季節変動に対応性が大きいシステムにするための方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の課題を解決するための具体的手段の第1は、動植物系有機廃棄物を原料とするメタン発酵システムにおいて、生成した消化液が液肥として需要がない時点では石膏系凝集剤を添加して、固体側にリン、窒素を移して腐植土などに利用することである。
【0006】
具体的手段の第2は、0005において、消化液に石膏系凝集剤を添加して得られた液体分を、メタン発酵工程への水分70%以下の動植物系有機物の添加と合わせて、メタン発酵工程にリサイクル使用することである。
【0007】
具体的手段の第3は、0005および0006において消化液に石膏系凝集剤を添加して、得られた液体分にアルファー線を発生する鉱物を浸漬して脱窒素処理することである。
【発明の効果】
【0008】
0005の方法によって、消化液の中に含まれる固体と液体分を迅速に分離するとともに、消化液の中に含まれていたリンの大半と、窒素分の1部を固体分の方に移行させ、、液体中の濃度を下げるとともに、腐植土として用いられる固体分の肥料効果を高めることができる。成分を調整した得られた液体を0006の方法によって、水分量の点からも、メタン発酵工程にリサイクル使用できるようにすることができる。また、液の窒素濃度をさらに低下したい時は、0008によって、容易にそれをおこなうことができる。これらの方法を合わせて、消化液が液肥として需要がない時期には、消化液をプロセス内で有効利用できるようにして、季節変動に対応性が大きいシステムとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のプロセスフローを図1に示す。 メタン発酵の処理対象物となるのは動植物系の有機廃棄物であって、具体的には牛糞、豚糞、鶏糞などの蓄糞、下水汚泥などの有機汚泥、食品残渣、生ごみなどがある。また、樹木の剪定屑、刈り草など、ある季節に発生するもの、紙くずなどのように燃焼などの方法で別処理されている廃棄物も使用することができる。これらの原料は、まず粗破砕した後、スクリーンを通して金属、ガラス、石などの無機質異物を除去するという前処理を受ける。そして水分含有量を、85〜94%の範囲に調整して、メタン発酵槽に移す。
メタン発酵槽の中では各種の微生物、菌の作用で、処理対象物の中に含まれている脂肪、プロテイン、炭化処理などが、脂肪酸、アミノ酸、蔗糖などを経て、酢酸、プロピオン酸、炭酸ガス、水素などになり、さらに、メタンガスに変換される。そして、メタンガスを約60%、炭酸ガスを約40%含んだガス(バイオガス)が得られる。これを燃焼して得られた高温ガスでガスエンジンを回して発電したり、あるいはボイラーで燃焼して熱源として利用することが出来る。
【0010】
メタン発酵槽から取り出された固液混合物は消化液と呼ばれる。液肥の需要がある時期は、この消化液の液体分が液肥として利用される。液肥は速効性の肥料であるので、対象とする栽培作物の種類にもよるが、液肥の需要がある季節は限定されている。液体のまま容器にいれて、需要がある時期まで保管する方法も不可能ではないが、容器の容量などを考えると、それを実施できる場合は限定されている。したがって、ほとんどの場合、消化液のうち、液肥として利用される量は限定されている。それに対して、本発明では、液肥としての需要がない場合の消化液の有効利用のための方法を対象としている。
【0011】
本発明では、液肥としての需要がない時期には、消化液に石膏系凝集剤が添加される。 石膏系凝集剤は、半水石膏の粉末を主体とするものであるが、これに凝集促進のために全体量の5%以下の無機系の凝集剤;ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウムなど、あるいは有機系の凝集剤;ポリアクリルアミド系などが加えられている場合もある。これらの添加の有無は、5%以下であれば、本発明の効果にはほとんど影響を及ぼさない。この石膏系凝集剤を、処理対象物である消化液に対して重量で0.3〜2.0%の割合で添加して攪拌すると、固体分の凝集、沈澱が速やかに進行する。同時に、液体中に溶解していたリン分の90%以上、窒素分の20〜50%が凝集、沈澱物に移行する。上澄み液から分離した凝集、沈澱物は必要によって、脱水のための圧縮、あるいは乾燥を行ってから、腐植土として栽培などに用いられる。メタン発酵の消化液から従来法で得られた腐植土と異なり、リン含有量、窒素含有量が高くなっているので肥料効果が増していること、また、石膏系凝集剤は中性であるので、これが腐植土に混入しても植物の栽培に悪影響を及ぼさないのが、他の凝集剤に比べて優れている。
【0012】
0011の方法で得られた液体分は、特別な場合には、液肥として用いることもできる。通常の液肥に比べてリン含有量が著しく低下しているが、液肥を施す対象作物が、リン過剰を嫌う場合には、特色を発揮した使用ができる。
【0013】
本発明においては液肥としての需要がない場合には、液体分はメタン発酵工程の水分含有量の調整用に循環使用される。この循環使用を可能にするための必要条件は、まず、メタン発酵工程の水分比率が適正域(84〜93%)にできること、さらにメタン発酵工程の液体の窒素含有量が高くなりすぎて、とくにアンモニアの影響で、メタン発酵に関連する微生物や菌に悪影響を与えることがないようにすることである。本発明では、次のような方法でこれに対応する。
【0014】
まず、水分量のバランスを取るための対応策であるが、水分量を調整するために、水分含有量が70%以下のものを原料として受け入れて使用する。そのような有機物系原料としては、まず、近くに食品廃棄物を乾燥して家畜飼料などを製造している工場がある場合は、その過程で発生した腐敗などによる飼料としての品質不良品を受け入れて使用する。また、剪定くず、刈り草などを受け入れて使用する。さらに廃紙を原料の1部として受け入れて使用する。液肥の需要は季節によってきまっているので、これらの水分調整用の原料も、年間計画を作って計画的に受け入れることができる。
【0015】
次に、循環する液体分の窒素含有量(とくにアンモニア分)がメタン発酵に悪影響を及ぼさないようにすることである。そのために、液体の窒素含有量は、メタン発酵に用いた原料に依存する。また、どの窒素含有量までメタン発酵が悪影響を受けないかは、採用されているメタン発酵プロセスに依存する。本発明では、まず、石膏系凝集剤の使用で消化液に含まれる窒素の約30%が除去されていることが効果的である。また、メタン発酵プロセスに高圧炭酸ガス処理などのアンモニア系窒素対策が組み込まれている場合は、液体を循環使用しても窒素による問題は生じない。
【0016】
採用されているメタン発酵プロセス自体が窒素含有量に許容力がない時は、循環使用する液体の脱窒素処理を行う。液体の脱窒素処理を特別な装置を使ったり、電気を多量に使ったりしないで簡単に行うために、本発明では、アルファー線の作用で、アンモニアイオンを窒素ガスに変える方法を採用する。水中でアルファー線を発生させるためにが、ラジウムなどを含む鉱物粒を細かい金網で挟んだものを、処理対象液体の流れの中に浸漬する。これによって、約40〜70%の窒素を低減することができる。また、この処理は、メタン発酵工程が休止し、しかも液肥の需要がない場合の、消化液を排水処理しないといけない場合の方策に用いることができる。
【実施例1】
【0017】
メタン発酵処理に用いた原料は、重量%で牛糞55%、豚糞20%、鶏糞8%、有機汚泥12%、食品屑5%である。これを粗破砕したのち、この水分を90%に調整したものをメタン発酵した。用いたメタン発酵工程は、液の1部を抜き出して高圧の炭酸ガスで処理してアンモニア分を分離する工程を含んでいる。得られたメタンガスを65%含むガスを燃焼して、ガスエンジンを回転して発電し、余熱は温水の製造および、隣接する食品廃棄物から家畜飼料を製造する乾燥用熱源として利用した。液肥の需要がある4月〜6月、9月〜10月は、メタン発酵残渣である消化液は、固体分は腐植土、液体分は液肥として利用した。液肥の需要が少ない11月〜2月、7月〜8月には、消化液に半水石膏に、ポリ塩化アルミニウムを2%加えた中性凝集剤を、1%の割合で加えて、凝集、沈澱を行わせた。これによって、消化液中のリン分の90%、窒素分の25%が凝集、沈澱した固体層に移行した。凝集、沈澱した固体層は、放置、乾燥して腐植土として利用した。液体分は、全量、メタン発酵工程に循環した。そのためには、水分含有量は70%以下に有機物原料として、家畜飼料工場の廃棄物(家畜飼料としての品質を満足しなかったもの;水分含有量12%)、およびごみ処理工場に収集された廃紙を引き取って原料に加え、メタン発酵工程の平均水分量が90±2%になるように、添加する水分量で調整した。
【実施例2】
【0018】
0017において、メタン発酵設備が整備のために操業を休止した時に、消化液を0017で述べた条件で処理し得られた液体を、2〜5mm径のラジウム鉱石をステンレス金網に挟み込んだもの(20cm×30cm)4枚設置した場所を流して、窒素分を55%除去した。そして、アンモニア性窒素含有量を250mg/lにして排水した。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、動植物系有機廃棄物のメタン発酵プロセスでの消化液の処理に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のプロセスフローを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動植物系有機廃棄物を原料とするメタン発酵システムにおいて、生成した消化液が液肥として需要がない時点では石膏系凝集剤を添加して、固体側にリン、窒素を移して腐植土などに利用することを特徴とする季節変動への対応性が大きいメタン発酵システム。
【請求項2】
請求項1において、消化液に石膏系凝集剤を添加して得られた液体分を、メタン発酵工程への水分70%以下の動植物系有機物の添加と合わせて、メタン発酵工程に循環使用することを特徴とする季節変動への対応性が大きいメタン発酵システム。
【請求項3】
請求項1および2において、消化液に石膏系凝集剤を添加して、得られた液体分にアルファー線を発生する鉱物を浸漬して脱窒素処理することを特徴とする季節変動への対応性が大きいメタン発酵システム。

【図1】
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【公開番号】特開2009−268984(P2009−268984A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−122371(P2008−122371)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(300057492)
【Fターム(参考)】