安全キャビネット
【課題】
グローブを有する安全キャビネットの作業において、ケミカル汚染またはバイオ汚染を防止しながらグローブを用いた作業の作業性を向上させる。
【解決手段】
安全キャビネット1では、本体キャビネット1a内に作業空間3が形成されている。作業空間内の空気をフィルタ11,12を介して外部へ送風機5が排気する。作業空間の前面には、上下に移動可能に前面シャッター4が配置されている。前面シャッターの下部であって作業空間の前面に作業開口部6が形成されている。前面シャッターに、左右に移動可能でかつ引き戸状に重なりあう複数の小窓18a〜18cを設ける。そして、この複数の小窓のいずれかの作業空間側に、作業空間での作業用の一対のグローブを気密に取り付け可能なグローブポートを取り付ける。
グローブを有する安全キャビネットの作業において、ケミカル汚染またはバイオ汚染を防止しながらグローブを用いた作業の作業性を向上させる。
【解決手段】
安全キャビネット1では、本体キャビネット1a内に作業空間3が形成されている。作業空間内の空気をフィルタ11,12を介して外部へ送風機5が排気する。作業空間の前面には、上下に移動可能に前面シャッター4が配置されている。前面シャッターの下部であって作業空間の前面に作業開口部6が形成されている。前面シャッターに、左右に移動可能でかつ引き戸状に重なりあう複数の小窓18a〜18cを設ける。そして、この複数の小窓のいずれかの作業空間側に、作業空間での作業用の一対のグローブを気密に取り付け可能なグローブポートを取り付ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラフトチャンバーおよびバイオハザード対策用クラスIIキャビネット、ケミカルハザード対策用キャビネット(以下総称して安全キャビネットと呼ぶ)に係り、特に汚染物質を装置内部の作業空間で取り扱う場合に好適な安全キャビネットに関する。
【背景技術】
【0002】
ドラフトチャンバーやナノテクノロジー用キャビネット、ケミカルハザード対策用キャビネット(以上を総称して安全キャビネット)では、装置内部に作業空間を形成して作業することが多い。この場合、装置正面に前面シャッターを設け、前面シャッター下部に作業開口部を形成し、この作業開口部から作業者が腕を差し入れて、ナノ材料やケミカル汚染物質を取り扱っている。作業者が実験中にナノ材料やケミカル汚染物質により汚染しないように、作業開口部には、装置内に吸い込まれる吸い込み気流またはエアバリアを形成している。
【0003】
さらに、汚染物質への接触を制限したい場合には、作業空間を密閉空間としたグローブボックス内に実験材料を入れて、作業空間正面に取り付けた作業空間と周辺空間を隔離する人の手状に形成したグローブに腕を挿入し、グローブ越しに実験材料を取り扱っている。そして、ケミカルハザード対策用キャビネットやグローブボックスでは、作業空間の空気を安全に排出するために、ともにHEPAフィルタを用いて作業空間内で発生した汚染物質を除去した後に、清浄空気のみを装置外に排出している。このような従来の安全キャビネットの例が、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−163053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術に記載の安全キャビネットでは、グローブボックスの正面に設けたグローブ挿入口から作業者が腕を差し入れ、作業空間内に配置した作業台上の汚染物質を取り扱っている。その際、腕を差し入れるグローブの位置を固定しているので、作業空間内の実験材料の位置を制限される場合や、作業者の体格による操作性が低下する場合がある。なお、グローブ位置を固定しているのは、装置の密閉性を重視するためであり、これにより科学的汚染やバイオハザード等に対しては、厳重に対策されている。
【0006】
本発明は上記従来技術の不具合に鑑みなされたものであり、その目的は、グローブを有する安全キャビネットの作業において、ケミカル汚染またはバイオ汚染を防止しながらグローブを用いた作業の作業性を向上させることにある。本発明の他の目的は、バイオハザード対策またはケミカルハザード対策をしたうえで、安全キャビネットが有するグローブを用いた作業の作業性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明の特徴は、本体キャビネット内に形成した作業空間内の空気をフィルタを介して外部へ排気する排気手段と、前記作業空間の前面に配置され上下に移動可能な前面シャッターと、この前面シャッターの下部であって前記作業空間の前面に形成した作業開口部とを備えた安全キャビネットにおいて、前記前面シャッターに、左右に移動可能でかつ引き戸状に重なりあう複数の小窓を設け、この複数の小窓のいずれかの前記作業空間側に、作業空間での作業に用いる一対のグローブを気密に取り付け可能なグローブポートを設けたことにある。
【0008】
そしてこの特徴において、複数の小窓の1個だけに、一対の前記グローブを取り付けてもよく、複数の小窓の中の2個の小窓にそれぞれ1個ずつ前記グローブを配置してもよい。また、作業開口部の左右両側部に、前記複数の小窓の中で左右両端部を構成する小窓の端部を着脱自在に係止する係支溝を設けてもよい。さらに、作業空間内の圧力とこの安全キャビネットの外部の圧力との差圧を検出する差圧センサーを設け、この差圧センサーの出力を入力として排気手段の出力を制御する制御手段を設けることが好ましい。また、作業開口部であって前面シャッターの下方に、グローブを取り付けたグローブパネルを着脱自在に設けてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、グローブを有する安全キャビネットの前面カバーに移動可能にグローブを取り付けたので、ケミカル汚染またはバイオ汚染を防止しながらグローブを用いた作業の作業性を向上できる。また、バイオハザード対策またはケミカルハザード対策をしたうえで、安全キャビネットのグローブを用いた作業の作業性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係るケミカルハザード対策用キャビネットの一実施例(実施例1)の縦断面図および正面図である。
【図2】図1に示したケミカルハザード対策用キャビネットにおいて、前面シャッターを閉めた状態を示す縦断面図および正面図である。
【図3】図1に示したケミカルハザード対策用キャビネットにおいて、グローブを移動させた状態を示す縦断面図および正面図である。
【図4】図1に示したケミカルハザード対策用キャビネットにおいて、グローブを移動させた状態を示す正面図である。
【図5】図1に示したケミカルハザード対策用キャビネットが備える前面シャッター部の横断面図とその部分断面図である。
【図6】本発明に係るケミカルハザード対策用キャビネットの他の実施例(実施例2)の縦断面図および正面図である。
【図7】図6に示したケミカルハザード対策用キャビネットが備える前面シャッター部の横断面図である。
【図8】図6に示したケミカルハザード対策用キャビネットのさらに他の実施例(実施例3)の縦断面図および正面図である。
【図9】図8に示したケミカルハザード対策用キャビネットが備える前面シャッター部の横断面図である。
【図10】本発明に係るケミカルハザード対策用キャビネットのさらに他の実施例(実施例4)の縦断面図である。
【図11】図10に示したケミカルハザード対策用キャビネットにおける風量制御を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、安全キャビネットの一つであるケミカルハザード対策用キャビネットを例にとり、いくつかの具体的な実施例を、図面を用いて説明する。なお、他の種類の安全キャビネットにおいても、本発明が適用できることは言うまでもない。
【実施例1】
【0012】
図1ないし図5を用いて、ケミカルハザード対策用キャビネット1の一実施例を説明する。図1(a)はケミカルハザード対策用キャビネット1の縦断面図であり、図1(b)はその正面図である。ケミカルハザード対策用キャビネット1では、本体ケース1a内の中央部に形成された作業空間3の前面に、前面シャッター4が上下に移動可能に取り付けられている。前面シャッター4を下げた状態では作業空間3の前面は、この前面シャッター4で塞がれているが、前面シャッター4を上げた状態では、前面シャッター4の下方に作業開口部6が形成される。
【0013】
本体ケース内1aであって作業空間3の背面側および上方、下方には、作業空間3内で発生した汚染物質や塵埃をフィルタリングして清浄空気とするために、HEPAフィルタ流路12aが形成されている。つまり、作業空間3の背面上部には、汚染したHEPAフィルタ12を収容するためのビニールバッグ15が保持されている。HEPAフィルタ12の下流側は清浄な空間12bなので、この空間12bと作業空間3を仕切るHEPAフィルタカバー13には、密閉性を高めるためパッキン14が取り付けられている。
【0014】
作業空間3の背面下部には金網が設けられており、作業者の手がHEPAフィルタ流路12aに入り込むのを防止している。HEPAフィルタ流路12aの作業空間3に対応する位置には、下方から順に、プレフィルタ11、HEPAフィルタ12が配置されており、HEPAフィルタ12の上方には、送風機5が取り付けられている。送風機5の出口側であって本体ケース1aには、排気口8が形成されている。なお、作業空間3の底面は作業台2となっている。
【0015】
このように構成したケミカルハザード対策用キャビネット1では、以下のように気流が形成される。前面シャッター4の下に形成した作業開口部6から、このキャビネット1外の周囲空気が吸い込まれ、流入気流7を形成する。流入空気7は作業空間3内に入り、プレフィルタ11に吸い込まれる。そして、HEPAフィルタ12で空気中に含まれる汚染物質10が除去される。その後、送風機5に吸い込まれ、本体ケース1aに形成した排気口8から排気空気9として排気される。図示しない作業者は、作業開口部6から作業空間3へ腕を差し入れ、作業空間3内で実験材料である汚染物質10を取り扱う。前面開口部6に形成された流入気流7により、作業空間3内で発生または持ち込まれた汚染物質10が、ケミカルハザード対策用キャビネット1の外に漏れ出ないようにしている。
【0016】
ここで、前面シャッター4には小窓18a〜18cが形成されている。各小窓18a〜18cは、前面シャッター4内で水平に移動可能に構成されている。各小窓18a〜18cは、ガラスなどの透明な材質のもので作られており、キャビネット1の外部から作業空間3の内部を見ることが可能になっている。
【0017】
送風機5を運転すると、作業開口部6には、このキャビネット1内に吸い込まれる流入気流7が形成され、作業空間3は陰圧(−)となる。流入気流7が形成されるので、作業者は開放された作業開口部6から腕を入れて、作業空間3内で汚染物質10を取り扱っても、汚染物質10を作業者が吸い込んだり、ケミカルハザード対策用キャビネット1の外に漏れたりすることが無い。
【0018】
作業空間3内で取り扱った汚染物質10は、プレフィルタ11およびHEPAフィルタ12で除去され、清浄空気のみが排気口8から排気される。HEPAフィルタ12には、汚染物質10が蓄積される。HEPAフィルタ12に汚染物質10が蓄積するとフィルタが目詰まりし、空気が流れにくくなり、HEPAフィルタ12を交換する必要が生じる。
【0019】
HEPAフィルタ12の前面側にビニールバッグ15を配置しているので、ビニールバッグ15の作業空間3側に設けたHEPAフィルタカバー13を取り外し、ビニールバッグ15越しにHEPAフィルタ12を取り外す。そして、ビニールバッグ15でHEPAフィルタ12を覆いながら取り出す。
【0020】
この作業により、作業者はHEPAフィルタ12に付着した汚染物質10に触れることなく、ビニールバッグ15に密閉したままHEPAフィルタ12を取り出すことができる。この作業は、他の方法では、取り扱う汚染物質10を有効に無力化することが出来ない場合に用いられる。なお、古いHEPAフィルタ12を取り外した後に新しいHEPAフィルタ12を取り付ける方法については、記載を省略する。
【0021】
図2に、図1に示したケミカルハザード対策用キャビネット1において、前面シャッター4を閉めた状態を、縦断面図(同図(a))および正面図(同図(b))に示す。図1に示した例では、流入気流7により作業開口部6からの作業を可能にしていた。この図2に示した例は、流入気流7のエアバリアにより作業空間3とキャビネット1外を隔離するだけでは、試料である汚染物質10の取り扱いが十分ではないと考えられる場合に用いられる。そのため、この図2に示した例では、前面シャッター4を下げて作業している。
【0022】
前面シャッター4に設けた透明な小窓18a〜18cは、前面シャッター4内で水平方向に移動可能になっている。小窓18aには、グローブポート17が配置されている。グローブポート17には、グローブ16が気密に取り付けられており、グローブ16越しに作業空間3内の汚染物質10を取り扱うことができる。このとき、送風機5で吸引される作業空間3内への流入空気7は、前面シャッター4と本体ケース1aの隙間を通って吸い込まれるので、作業空間3は陰圧になっている。
【0023】
本作業方法によれば、作業者と作業空間3の間に開口部が無いので、汚染物質10が作業者側に漏洩する可能性が極端に減る。それとともに、作業はグローブ16越しになるため、汚染物質10に接触する可能性が無い。
【0024】
図3ないし図5を用いて、小窓18a〜18cの水平方向の移動について説明する。図3は、ケミカルハザード対策用キャビネット1の前面シャッター4を閉めて、グローブポート17が取り付けられた小窓18aを左側に移動させ、右側の小窓18b、18cを利用する場合であり、図4はグローブポート17が取り付けられた小窓18aを右側に移動させ、左側の小窓18b、18cを利用する場合である。なお、図3(a)は、キャビネット1の縦断面図、図3(b)および図4はその正面図である。
【0025】
図2に示した状態では、グローブ16が中央に位置していたので、作業空間3の側面に手を伸ばしたくても届かない場合がある。そこで図3、図4に示すように、前面シャッター4に配置され水平に移動可能で透明な小窓18aを移動させる。
【0026】
図5に、小窓18a〜18cの移動と形成の様子を、図2(b)のA−A断面矢視図で示す。同図(a)は、小窓18aが中央に位置する場合であり、同図(b)は小窓18aが右側に移動した場合である。同図(c)は、図5(b)のC部詳細であり、同図(d)は図5(b)のD部詳細である。
【0027】
透明な小窓18aには、円形の2個のグローブポート17が気密に取り付けられている。グローブポート17には、手を入れることができしかも気密なグローブ16を取り付けることが可能である。小窓18aはガラスなどの透明な材質の板で構成されており、矩形の小窓枠19に取り付けられている。
【0028】
小窓18aの左右両側には、引き戸のように、ガラスなどの板面が重なり合う形で小窓18b、18bが配置されている。さらに小窓18b、18bの左右外側には、これも引き戸のように、ガラスなどの板面が重なり合う形で小窓18c、18cが配置されている。
【0029】
小窓18aを右側に移動させた図5(b)の状態では、小窓18aの右側で小窓18a〜18cが重なり合っている。一方、小窓18aの左側では、小窓18aを右側に移動させたので小窓18bも左側に移動するが、小窓18a〜18cが重なり合う端部で、詳細を以下に述べる小窓枠19を設けて開け放たれるのを防止している。
【0030】
小窓18a〜18cは上述したように、板状の部材であり、矩形の小窓枠19に各辺がはめ込まれている。ここで中間に位置する小窓18bの小窓枠19は、他の小窓18a、18cの小窓枠19とは異なり、前面内側および背面外側の部分に、断面矩形の突起19aが形成されている。
【0031】
したがって、小窓18aを右側に移動させると、小窓18aの左側では、初めに小窓18aのみが右側に移動する。さらに小窓18aを右側に移動させ続けると、小窓18aの小窓枠19が小窓18bの小窓枠19に当接し、さらにこの小窓18bの小窓枠19に形成された突起19aに当接する。そして、小窓18aの移動とともに小窓18bを移動させる(図5(c))参照)。これにより、前面シャッター4の小窓18a〜18cが開け放たれることはない。
【0032】
一方、小窓18aの左側では、小窓18aを右方向の移動限界まで移動させた図5(d)に示すように、小窓18a〜18cが重なった状態になる。小窓18aが移動する際に、小窓18aの小窓枠19が小窓18bの突起19aに引っ掛かり、小窓18aと一緒に小窓18bも移動したためである。
【0033】
なお、小窓18a〜18cは左右対称に構成しているので、小窓18aを反対側の左方向に移動させても、同様に前面シャッター4には、開け放たれる部分が形成されない。本実施例によれば、容易にグローブ16を左右の水平方向に移動することが可能となる。これにより、グローブ16での実験操作の自由度が増す。
【実施例2】
【0034】
図6および図7を用いて、本発明に係るケミカルハザード対策用キャビネットの他の実施例を説明する。図6はケミカルハザード対策用キャビネット1の縦断面図(同図(a))および正面図(同図(b))である。図7は、図6に示したキャビネット1が有する前面シャッター4部のE−E矢視断面図である。本実施例が実施例1と相違するのは、作業開口部4にグローブパネル20を取り付けたことにある。その他の構成は、実施例1と同様である。
【0035】
作業開口部6の開口部両側には、係支溝部材22が配置されている。係支溝部材22に、グローブパネル20が取り付けられている。係支溝部材22は、前面シャッター4よりも作業空間3側、すなわち奥側に配置されている。グローブパネル20は、上方から係支溝部材22に挿入する形で取り付けられている。
【0036】
図7に示すように、グローブパネル20は前面シャッター4の作業空間3側に取り付けられている。前面シャッター4の直下ではなく、真下から奥側に多少ずらすことにより、グローブパネル20を取り付けた状態でも、前面シャッター4をグローブ16に当たらない範囲で上下に移動させることができる。
【0037】
前面シャッター4を下げた状態で、前面シャッター4に取り付けたグローブ16を使用して操作するには、グローブポート17の位置が低すぎ、作業者が作業しづらいときに有効である。また、前面シャッター4におけるグローブ16の高さ位置を適切にし、前面シャッター4下部に作業開口部6を形成し、汚染物質10の取り扱いにグローブ16を用いて汚染を防止していたとしても、流入風速7によるエアバリアだけでは汚染物質10の漏洩のおそれがある場合等にも有効である。
【0038】
作業開口部6にグローブパネル20を取り付ける。グローブ16の取り付け位置が上方と下方の2段に設けられているので、作業内容や作業者の体格に合わせて、あらゆる位置でグローブ16を使用した操作が可能になる。また、グローブ16を複数有しているので、複数の作業者が作業空間3内で同時に実験することも可能となる。
【0039】
作業開口部6の流入気流7をエアバリアとして使用して作業空間3と周囲空間を隔離する場合、作業開口部6の前に複数の作業者が立つと、流入気流7が遮られる。そして、エアバリアが崩れ、作業空間3内の汚染物質10が漏洩するおそれが生じる。本実施例の場合には、同時に複数の作業者が装置の前に立っても、グローブパネル20で作業空間3と周囲空間とを仕切っているので、このような不具合を回避できる。
【0040】
なお、本実施例では、グローブパネル20を前面シャッター4の作業空間3側に設けたが、反対に前面シャッター4の手前側に設けても同様な効果が得られる。
【実施例3】
【0041】
図8および図9を用いて、本発明に係るケミカルハザード対策用キャビネットのさらに他の実施例(実施例3)を説明する。図8(a)は、ケミカルハザード対策用キャビネット1の縦断面図であり、図8(b)はその正面図である。図9は、図8に示したケミカルハザード対策用キャビネット1が有する前面シャッター4部のF−F断面矢視図である。
【0042】
本実施例が実施例1と異なるのは、グローブポート17を中央の小窓18aではなく左右の小窓18bに取り付けたことと、中央の小窓18aには何も取り付けていないことである。左右の小窓18bの中央に小窓18aが配置されており、2つのグローブ16、16間の距離(G寸法)が可変になっている。
【0043】
小窓18aと小窓18bには重なり合うように配置されている。また、小窓18bと小窓18cも重なり合うように配置されている。2つのグローブ16、16の間隔であるG寸法を、作業者の体格に応じて狭めたり広げたりするために、2つの小窓18bを移動可能にしている。G寸法を変化させて体格に合わせて調整することができるだけでなく、小窓18aと小窓18bおよび小窓18bと小窓18cとが重なり合って配置されているので、G寸法を変化させても小窓18a〜18cが開け放たれることはない。
【実施例4】
【0044】
図10および図11を用いて、本発明に係るケミカルハザード対策用キャビネットのさらに他の実施例(実施例4)を説明する。図10はケミカルハザード対策用キャビネットの縦断面図であり、同図(a)は作業開口部6を開けたままでの作業の状態を、同図(b)は作業開口部6にグローブパネル20を設けた場合の作業状態を示す図である。図11は、上記各例における流入気流7を制御する送風機5の特性を説明する図である。
【0045】
図10(a)では、前面シャッター4の下部に作業開口部6が形成されており、流入気流7を形成するたに送風機5が作業空間3から空気を吸込んでいる。一方、図10(b)では、作業開口部6にグローブパネル20を取り付け、前面シャッター4を閉じ、前面シャッター4に取り付けたグローブ16の位置を下げている。このとき、作業開口部6はほとんど気密になっているので、周囲から作業開口部6を経て送風機5に吸い込まれる空気が少なくなる。したがって、図10(a)の作業空間3内の圧力Paと図10(b)の作業空間3内の圧力Pbが異なってくる。
【0046】
ここで、送風機5は「通常のファン特性H0(図11の外側の曲線)」の出力で運転している。図10(a)に示した作業開口部6が形成される状態では、作業室内3は圧力Paであり、負荷はL1である。グローブパネル20を取り付けると、吸込みの抵抗が増すので作業空間3の圧力は圧力Pbまで上昇し、負荷はL2となる。吸込んでいる空間の圧力なので、圧力Pa、圧力Pbはともに陰圧である。図10(b)に示すように作業空間3を仕切った場合、作業空間3内の圧力がどんどん低下し、この仕切られた空間から強制的に空気を吸込もうとするので、キャビネット1によっては吸込み気流により振動するおそれがある。
【0047】
そこで本実施例では、作業空間3の境界部に陰圧を検出する差圧センサー23を配置している。差圧としては、作業空間3内とHEPAフィルタ12の2次側(送風機5側)の差圧、または作業空間3とキャビネット1外の圧力との差圧を計測する。グローブパネル20を取り付けるなどして、作業空間3内の圧力が圧力Pbまで上昇したことを差圧センサー23が検出すると、送風機5を駆動するインバータ26の運転周波数や電圧などで送風機5の出力を制御し、図11の内側の実線で示した「制御後の送風機特性HC」のラインに沿って制御する。これにより、作業空間3内の圧力は、圧力Paと圧力Pbとの中間の圧力Pb“まで下がり、無用に吸込み過ぎることを防止するとともに、省エネとなる。なお、HEPAフィルタ12の2次側との差圧を監視すれば、HEPAフィルタ12の寿命(目詰まり)も同時に監視できる。
【0048】
本実施例では差圧センサー23を利用したが、係支溝部材22にグローブパネル20の取り付け検出スイッチを設けるとか、前面シャッター4の位置を検出するリミットスイッチの信号を利用して、送風機5の出力を制御してもよい。
【0049】
上記各実施例によれば、安全キャビネットとしてのケミカルハザード対策用キャビネットにおいて、取り扱う汚染物質の危険度に応じて、作業開口部からの作業と密閉型のグローブを用いた作業の使い分けを可能とし、グローブの位置を可変としたので、安全キャビネットを利用した作業の作業性が向上する。
【符号の説明】
【0050】
1…ケミカルハザード対策用キャビネット(安全キャビネット)
1a…本体ケース
2…作業台
3…作業空間
4…前面シャッター
5…送風機(排気手段)
6…作業開口部
7…流入気流
8…排気口
9…排気空気
10…汚染物質
11…プレフィルタ
12…HEPAフィルタ
12a…HEPAフィルタ流路
12b…清浄な空間
13…HEPAフィルタカバー
14…パッキン
15…ビニールバッグ
16…グローブ
17…グローブポート
18a〜18c…小窓
19…小窓枠
19a…突起
20…グローブパネル
22…係支溝部材
23…差圧センサー
25…グローブボックス
26…インバータ(制御手段)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラフトチャンバーおよびバイオハザード対策用クラスIIキャビネット、ケミカルハザード対策用キャビネット(以下総称して安全キャビネットと呼ぶ)に係り、特に汚染物質を装置内部の作業空間で取り扱う場合に好適な安全キャビネットに関する。
【背景技術】
【0002】
ドラフトチャンバーやナノテクノロジー用キャビネット、ケミカルハザード対策用キャビネット(以上を総称して安全キャビネット)では、装置内部に作業空間を形成して作業することが多い。この場合、装置正面に前面シャッターを設け、前面シャッター下部に作業開口部を形成し、この作業開口部から作業者が腕を差し入れて、ナノ材料やケミカル汚染物質を取り扱っている。作業者が実験中にナノ材料やケミカル汚染物質により汚染しないように、作業開口部には、装置内に吸い込まれる吸い込み気流またはエアバリアを形成している。
【0003】
さらに、汚染物質への接触を制限したい場合には、作業空間を密閉空間としたグローブボックス内に実験材料を入れて、作業空間正面に取り付けた作業空間と周辺空間を隔離する人の手状に形成したグローブに腕を挿入し、グローブ越しに実験材料を取り扱っている。そして、ケミカルハザード対策用キャビネットやグローブボックスでは、作業空間の空気を安全に排出するために、ともにHEPAフィルタを用いて作業空間内で発生した汚染物質を除去した後に、清浄空気のみを装置外に排出している。このような従来の安全キャビネットの例が、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−163053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術に記載の安全キャビネットでは、グローブボックスの正面に設けたグローブ挿入口から作業者が腕を差し入れ、作業空間内に配置した作業台上の汚染物質を取り扱っている。その際、腕を差し入れるグローブの位置を固定しているので、作業空間内の実験材料の位置を制限される場合や、作業者の体格による操作性が低下する場合がある。なお、グローブ位置を固定しているのは、装置の密閉性を重視するためであり、これにより科学的汚染やバイオハザード等に対しては、厳重に対策されている。
【0006】
本発明は上記従来技術の不具合に鑑みなされたものであり、その目的は、グローブを有する安全キャビネットの作業において、ケミカル汚染またはバイオ汚染を防止しながらグローブを用いた作業の作業性を向上させることにある。本発明の他の目的は、バイオハザード対策またはケミカルハザード対策をしたうえで、安全キャビネットが有するグローブを用いた作業の作業性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明の特徴は、本体キャビネット内に形成した作業空間内の空気をフィルタを介して外部へ排気する排気手段と、前記作業空間の前面に配置され上下に移動可能な前面シャッターと、この前面シャッターの下部であって前記作業空間の前面に形成した作業開口部とを備えた安全キャビネットにおいて、前記前面シャッターに、左右に移動可能でかつ引き戸状に重なりあう複数の小窓を設け、この複数の小窓のいずれかの前記作業空間側に、作業空間での作業に用いる一対のグローブを気密に取り付け可能なグローブポートを設けたことにある。
【0008】
そしてこの特徴において、複数の小窓の1個だけに、一対の前記グローブを取り付けてもよく、複数の小窓の中の2個の小窓にそれぞれ1個ずつ前記グローブを配置してもよい。また、作業開口部の左右両側部に、前記複数の小窓の中で左右両端部を構成する小窓の端部を着脱自在に係止する係支溝を設けてもよい。さらに、作業空間内の圧力とこの安全キャビネットの外部の圧力との差圧を検出する差圧センサーを設け、この差圧センサーの出力を入力として排気手段の出力を制御する制御手段を設けることが好ましい。また、作業開口部であって前面シャッターの下方に、グローブを取り付けたグローブパネルを着脱自在に設けてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、グローブを有する安全キャビネットの前面カバーに移動可能にグローブを取り付けたので、ケミカル汚染またはバイオ汚染を防止しながらグローブを用いた作業の作業性を向上できる。また、バイオハザード対策またはケミカルハザード対策をしたうえで、安全キャビネットのグローブを用いた作業の作業性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係るケミカルハザード対策用キャビネットの一実施例(実施例1)の縦断面図および正面図である。
【図2】図1に示したケミカルハザード対策用キャビネットにおいて、前面シャッターを閉めた状態を示す縦断面図および正面図である。
【図3】図1に示したケミカルハザード対策用キャビネットにおいて、グローブを移動させた状態を示す縦断面図および正面図である。
【図4】図1に示したケミカルハザード対策用キャビネットにおいて、グローブを移動させた状態を示す正面図である。
【図5】図1に示したケミカルハザード対策用キャビネットが備える前面シャッター部の横断面図とその部分断面図である。
【図6】本発明に係るケミカルハザード対策用キャビネットの他の実施例(実施例2)の縦断面図および正面図である。
【図7】図6に示したケミカルハザード対策用キャビネットが備える前面シャッター部の横断面図である。
【図8】図6に示したケミカルハザード対策用キャビネットのさらに他の実施例(実施例3)の縦断面図および正面図である。
【図9】図8に示したケミカルハザード対策用キャビネットが備える前面シャッター部の横断面図である。
【図10】本発明に係るケミカルハザード対策用キャビネットのさらに他の実施例(実施例4)の縦断面図である。
【図11】図10に示したケミカルハザード対策用キャビネットにおける風量制御を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、安全キャビネットの一つであるケミカルハザード対策用キャビネットを例にとり、いくつかの具体的な実施例を、図面を用いて説明する。なお、他の種類の安全キャビネットにおいても、本発明が適用できることは言うまでもない。
【実施例1】
【0012】
図1ないし図5を用いて、ケミカルハザード対策用キャビネット1の一実施例を説明する。図1(a)はケミカルハザード対策用キャビネット1の縦断面図であり、図1(b)はその正面図である。ケミカルハザード対策用キャビネット1では、本体ケース1a内の中央部に形成された作業空間3の前面に、前面シャッター4が上下に移動可能に取り付けられている。前面シャッター4を下げた状態では作業空間3の前面は、この前面シャッター4で塞がれているが、前面シャッター4を上げた状態では、前面シャッター4の下方に作業開口部6が形成される。
【0013】
本体ケース内1aであって作業空間3の背面側および上方、下方には、作業空間3内で発生した汚染物質や塵埃をフィルタリングして清浄空気とするために、HEPAフィルタ流路12aが形成されている。つまり、作業空間3の背面上部には、汚染したHEPAフィルタ12を収容するためのビニールバッグ15が保持されている。HEPAフィルタ12の下流側は清浄な空間12bなので、この空間12bと作業空間3を仕切るHEPAフィルタカバー13には、密閉性を高めるためパッキン14が取り付けられている。
【0014】
作業空間3の背面下部には金網が設けられており、作業者の手がHEPAフィルタ流路12aに入り込むのを防止している。HEPAフィルタ流路12aの作業空間3に対応する位置には、下方から順に、プレフィルタ11、HEPAフィルタ12が配置されており、HEPAフィルタ12の上方には、送風機5が取り付けられている。送風機5の出口側であって本体ケース1aには、排気口8が形成されている。なお、作業空間3の底面は作業台2となっている。
【0015】
このように構成したケミカルハザード対策用キャビネット1では、以下のように気流が形成される。前面シャッター4の下に形成した作業開口部6から、このキャビネット1外の周囲空気が吸い込まれ、流入気流7を形成する。流入空気7は作業空間3内に入り、プレフィルタ11に吸い込まれる。そして、HEPAフィルタ12で空気中に含まれる汚染物質10が除去される。その後、送風機5に吸い込まれ、本体ケース1aに形成した排気口8から排気空気9として排気される。図示しない作業者は、作業開口部6から作業空間3へ腕を差し入れ、作業空間3内で実験材料である汚染物質10を取り扱う。前面開口部6に形成された流入気流7により、作業空間3内で発生または持ち込まれた汚染物質10が、ケミカルハザード対策用キャビネット1の外に漏れ出ないようにしている。
【0016】
ここで、前面シャッター4には小窓18a〜18cが形成されている。各小窓18a〜18cは、前面シャッター4内で水平に移動可能に構成されている。各小窓18a〜18cは、ガラスなどの透明な材質のもので作られており、キャビネット1の外部から作業空間3の内部を見ることが可能になっている。
【0017】
送風機5を運転すると、作業開口部6には、このキャビネット1内に吸い込まれる流入気流7が形成され、作業空間3は陰圧(−)となる。流入気流7が形成されるので、作業者は開放された作業開口部6から腕を入れて、作業空間3内で汚染物質10を取り扱っても、汚染物質10を作業者が吸い込んだり、ケミカルハザード対策用キャビネット1の外に漏れたりすることが無い。
【0018】
作業空間3内で取り扱った汚染物質10は、プレフィルタ11およびHEPAフィルタ12で除去され、清浄空気のみが排気口8から排気される。HEPAフィルタ12には、汚染物質10が蓄積される。HEPAフィルタ12に汚染物質10が蓄積するとフィルタが目詰まりし、空気が流れにくくなり、HEPAフィルタ12を交換する必要が生じる。
【0019】
HEPAフィルタ12の前面側にビニールバッグ15を配置しているので、ビニールバッグ15の作業空間3側に設けたHEPAフィルタカバー13を取り外し、ビニールバッグ15越しにHEPAフィルタ12を取り外す。そして、ビニールバッグ15でHEPAフィルタ12を覆いながら取り出す。
【0020】
この作業により、作業者はHEPAフィルタ12に付着した汚染物質10に触れることなく、ビニールバッグ15に密閉したままHEPAフィルタ12を取り出すことができる。この作業は、他の方法では、取り扱う汚染物質10を有効に無力化することが出来ない場合に用いられる。なお、古いHEPAフィルタ12を取り外した後に新しいHEPAフィルタ12を取り付ける方法については、記載を省略する。
【0021】
図2に、図1に示したケミカルハザード対策用キャビネット1において、前面シャッター4を閉めた状態を、縦断面図(同図(a))および正面図(同図(b))に示す。図1に示した例では、流入気流7により作業開口部6からの作業を可能にしていた。この図2に示した例は、流入気流7のエアバリアにより作業空間3とキャビネット1外を隔離するだけでは、試料である汚染物質10の取り扱いが十分ではないと考えられる場合に用いられる。そのため、この図2に示した例では、前面シャッター4を下げて作業している。
【0022】
前面シャッター4に設けた透明な小窓18a〜18cは、前面シャッター4内で水平方向に移動可能になっている。小窓18aには、グローブポート17が配置されている。グローブポート17には、グローブ16が気密に取り付けられており、グローブ16越しに作業空間3内の汚染物質10を取り扱うことができる。このとき、送風機5で吸引される作業空間3内への流入空気7は、前面シャッター4と本体ケース1aの隙間を通って吸い込まれるので、作業空間3は陰圧になっている。
【0023】
本作業方法によれば、作業者と作業空間3の間に開口部が無いので、汚染物質10が作業者側に漏洩する可能性が極端に減る。それとともに、作業はグローブ16越しになるため、汚染物質10に接触する可能性が無い。
【0024】
図3ないし図5を用いて、小窓18a〜18cの水平方向の移動について説明する。図3は、ケミカルハザード対策用キャビネット1の前面シャッター4を閉めて、グローブポート17が取り付けられた小窓18aを左側に移動させ、右側の小窓18b、18cを利用する場合であり、図4はグローブポート17が取り付けられた小窓18aを右側に移動させ、左側の小窓18b、18cを利用する場合である。なお、図3(a)は、キャビネット1の縦断面図、図3(b)および図4はその正面図である。
【0025】
図2に示した状態では、グローブ16が中央に位置していたので、作業空間3の側面に手を伸ばしたくても届かない場合がある。そこで図3、図4に示すように、前面シャッター4に配置され水平に移動可能で透明な小窓18aを移動させる。
【0026】
図5に、小窓18a〜18cの移動と形成の様子を、図2(b)のA−A断面矢視図で示す。同図(a)は、小窓18aが中央に位置する場合であり、同図(b)は小窓18aが右側に移動した場合である。同図(c)は、図5(b)のC部詳細であり、同図(d)は図5(b)のD部詳細である。
【0027】
透明な小窓18aには、円形の2個のグローブポート17が気密に取り付けられている。グローブポート17には、手を入れることができしかも気密なグローブ16を取り付けることが可能である。小窓18aはガラスなどの透明な材質の板で構成されており、矩形の小窓枠19に取り付けられている。
【0028】
小窓18aの左右両側には、引き戸のように、ガラスなどの板面が重なり合う形で小窓18b、18bが配置されている。さらに小窓18b、18bの左右外側には、これも引き戸のように、ガラスなどの板面が重なり合う形で小窓18c、18cが配置されている。
【0029】
小窓18aを右側に移動させた図5(b)の状態では、小窓18aの右側で小窓18a〜18cが重なり合っている。一方、小窓18aの左側では、小窓18aを右側に移動させたので小窓18bも左側に移動するが、小窓18a〜18cが重なり合う端部で、詳細を以下に述べる小窓枠19を設けて開け放たれるのを防止している。
【0030】
小窓18a〜18cは上述したように、板状の部材であり、矩形の小窓枠19に各辺がはめ込まれている。ここで中間に位置する小窓18bの小窓枠19は、他の小窓18a、18cの小窓枠19とは異なり、前面内側および背面外側の部分に、断面矩形の突起19aが形成されている。
【0031】
したがって、小窓18aを右側に移動させると、小窓18aの左側では、初めに小窓18aのみが右側に移動する。さらに小窓18aを右側に移動させ続けると、小窓18aの小窓枠19が小窓18bの小窓枠19に当接し、さらにこの小窓18bの小窓枠19に形成された突起19aに当接する。そして、小窓18aの移動とともに小窓18bを移動させる(図5(c))参照)。これにより、前面シャッター4の小窓18a〜18cが開け放たれることはない。
【0032】
一方、小窓18aの左側では、小窓18aを右方向の移動限界まで移動させた図5(d)に示すように、小窓18a〜18cが重なった状態になる。小窓18aが移動する際に、小窓18aの小窓枠19が小窓18bの突起19aに引っ掛かり、小窓18aと一緒に小窓18bも移動したためである。
【0033】
なお、小窓18a〜18cは左右対称に構成しているので、小窓18aを反対側の左方向に移動させても、同様に前面シャッター4には、開け放たれる部分が形成されない。本実施例によれば、容易にグローブ16を左右の水平方向に移動することが可能となる。これにより、グローブ16での実験操作の自由度が増す。
【実施例2】
【0034】
図6および図7を用いて、本発明に係るケミカルハザード対策用キャビネットの他の実施例を説明する。図6はケミカルハザード対策用キャビネット1の縦断面図(同図(a))および正面図(同図(b))である。図7は、図6に示したキャビネット1が有する前面シャッター4部のE−E矢視断面図である。本実施例が実施例1と相違するのは、作業開口部4にグローブパネル20を取り付けたことにある。その他の構成は、実施例1と同様である。
【0035】
作業開口部6の開口部両側には、係支溝部材22が配置されている。係支溝部材22に、グローブパネル20が取り付けられている。係支溝部材22は、前面シャッター4よりも作業空間3側、すなわち奥側に配置されている。グローブパネル20は、上方から係支溝部材22に挿入する形で取り付けられている。
【0036】
図7に示すように、グローブパネル20は前面シャッター4の作業空間3側に取り付けられている。前面シャッター4の直下ではなく、真下から奥側に多少ずらすことにより、グローブパネル20を取り付けた状態でも、前面シャッター4をグローブ16に当たらない範囲で上下に移動させることができる。
【0037】
前面シャッター4を下げた状態で、前面シャッター4に取り付けたグローブ16を使用して操作するには、グローブポート17の位置が低すぎ、作業者が作業しづらいときに有効である。また、前面シャッター4におけるグローブ16の高さ位置を適切にし、前面シャッター4下部に作業開口部6を形成し、汚染物質10の取り扱いにグローブ16を用いて汚染を防止していたとしても、流入風速7によるエアバリアだけでは汚染物質10の漏洩のおそれがある場合等にも有効である。
【0038】
作業開口部6にグローブパネル20を取り付ける。グローブ16の取り付け位置が上方と下方の2段に設けられているので、作業内容や作業者の体格に合わせて、あらゆる位置でグローブ16を使用した操作が可能になる。また、グローブ16を複数有しているので、複数の作業者が作業空間3内で同時に実験することも可能となる。
【0039】
作業開口部6の流入気流7をエアバリアとして使用して作業空間3と周囲空間を隔離する場合、作業開口部6の前に複数の作業者が立つと、流入気流7が遮られる。そして、エアバリアが崩れ、作業空間3内の汚染物質10が漏洩するおそれが生じる。本実施例の場合には、同時に複数の作業者が装置の前に立っても、グローブパネル20で作業空間3と周囲空間とを仕切っているので、このような不具合を回避できる。
【0040】
なお、本実施例では、グローブパネル20を前面シャッター4の作業空間3側に設けたが、反対に前面シャッター4の手前側に設けても同様な効果が得られる。
【実施例3】
【0041】
図8および図9を用いて、本発明に係るケミカルハザード対策用キャビネットのさらに他の実施例(実施例3)を説明する。図8(a)は、ケミカルハザード対策用キャビネット1の縦断面図であり、図8(b)はその正面図である。図9は、図8に示したケミカルハザード対策用キャビネット1が有する前面シャッター4部のF−F断面矢視図である。
【0042】
本実施例が実施例1と異なるのは、グローブポート17を中央の小窓18aではなく左右の小窓18bに取り付けたことと、中央の小窓18aには何も取り付けていないことである。左右の小窓18bの中央に小窓18aが配置されており、2つのグローブ16、16間の距離(G寸法)が可変になっている。
【0043】
小窓18aと小窓18bには重なり合うように配置されている。また、小窓18bと小窓18cも重なり合うように配置されている。2つのグローブ16、16の間隔であるG寸法を、作業者の体格に応じて狭めたり広げたりするために、2つの小窓18bを移動可能にしている。G寸法を変化させて体格に合わせて調整することができるだけでなく、小窓18aと小窓18bおよび小窓18bと小窓18cとが重なり合って配置されているので、G寸法を変化させても小窓18a〜18cが開け放たれることはない。
【実施例4】
【0044】
図10および図11を用いて、本発明に係るケミカルハザード対策用キャビネットのさらに他の実施例(実施例4)を説明する。図10はケミカルハザード対策用キャビネットの縦断面図であり、同図(a)は作業開口部6を開けたままでの作業の状態を、同図(b)は作業開口部6にグローブパネル20を設けた場合の作業状態を示す図である。図11は、上記各例における流入気流7を制御する送風機5の特性を説明する図である。
【0045】
図10(a)では、前面シャッター4の下部に作業開口部6が形成されており、流入気流7を形成するたに送風機5が作業空間3から空気を吸込んでいる。一方、図10(b)では、作業開口部6にグローブパネル20を取り付け、前面シャッター4を閉じ、前面シャッター4に取り付けたグローブ16の位置を下げている。このとき、作業開口部6はほとんど気密になっているので、周囲から作業開口部6を経て送風機5に吸い込まれる空気が少なくなる。したがって、図10(a)の作業空間3内の圧力Paと図10(b)の作業空間3内の圧力Pbが異なってくる。
【0046】
ここで、送風機5は「通常のファン特性H0(図11の外側の曲線)」の出力で運転している。図10(a)に示した作業開口部6が形成される状態では、作業室内3は圧力Paであり、負荷はL1である。グローブパネル20を取り付けると、吸込みの抵抗が増すので作業空間3の圧力は圧力Pbまで上昇し、負荷はL2となる。吸込んでいる空間の圧力なので、圧力Pa、圧力Pbはともに陰圧である。図10(b)に示すように作業空間3を仕切った場合、作業空間3内の圧力がどんどん低下し、この仕切られた空間から強制的に空気を吸込もうとするので、キャビネット1によっては吸込み気流により振動するおそれがある。
【0047】
そこで本実施例では、作業空間3の境界部に陰圧を検出する差圧センサー23を配置している。差圧としては、作業空間3内とHEPAフィルタ12の2次側(送風機5側)の差圧、または作業空間3とキャビネット1外の圧力との差圧を計測する。グローブパネル20を取り付けるなどして、作業空間3内の圧力が圧力Pbまで上昇したことを差圧センサー23が検出すると、送風機5を駆動するインバータ26の運転周波数や電圧などで送風機5の出力を制御し、図11の内側の実線で示した「制御後の送風機特性HC」のラインに沿って制御する。これにより、作業空間3内の圧力は、圧力Paと圧力Pbとの中間の圧力Pb“まで下がり、無用に吸込み過ぎることを防止するとともに、省エネとなる。なお、HEPAフィルタ12の2次側との差圧を監視すれば、HEPAフィルタ12の寿命(目詰まり)も同時に監視できる。
【0048】
本実施例では差圧センサー23を利用したが、係支溝部材22にグローブパネル20の取り付け検出スイッチを設けるとか、前面シャッター4の位置を検出するリミットスイッチの信号を利用して、送風機5の出力を制御してもよい。
【0049】
上記各実施例によれば、安全キャビネットとしてのケミカルハザード対策用キャビネットにおいて、取り扱う汚染物質の危険度に応じて、作業開口部からの作業と密閉型のグローブを用いた作業の使い分けを可能とし、グローブの位置を可変としたので、安全キャビネットを利用した作業の作業性が向上する。
【符号の説明】
【0050】
1…ケミカルハザード対策用キャビネット(安全キャビネット)
1a…本体ケース
2…作業台
3…作業空間
4…前面シャッター
5…送風機(排気手段)
6…作業開口部
7…流入気流
8…排気口
9…排気空気
10…汚染物質
11…プレフィルタ
12…HEPAフィルタ
12a…HEPAフィルタ流路
12b…清浄な空間
13…HEPAフィルタカバー
14…パッキン
15…ビニールバッグ
16…グローブ
17…グローブポート
18a〜18c…小窓
19…小窓枠
19a…突起
20…グローブパネル
22…係支溝部材
23…差圧センサー
25…グローブボックス
26…インバータ(制御手段)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体キャビネット内に形成した作業空間内の空気をフィルタを介して外部へ排気する排気手段と、前記作業空間の前面に配置され上下に移動可能な前面シャッターと、この前面シャッターの下部であって前記作業空間の前面に形成した作業開口部とを備えた安全キャビネットにおいて、
前記前面シャッターに、左右に移動可能でかつ引き戸状に重なりあう複数の小窓を設け、この複数の小窓のいずれかの前記作業空間側に、作業空間での作業に用いる一対のグローブを気密に取り付け可能なグローブポートを設けたことを特徴とする安全キャビネット。
【請求項2】
前記複数の小窓の1個だけに、一対の前記グローブを取り付けたことを特徴とする請求項1に記載の安全キャビネット。
【請求項3】
前記複数の小窓の中の2個の小窓に、それぞれ1個ずつ前記グローブを配置したことを特徴とする請求項1に記載の安全キャビネット
【請求項4】
前記作業開口部の左右両側部に、前記複数の小窓の中で左右両端部を構成する小窓の端部を着脱自在に係止する係支溝を設けたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の安全キャビネット。
【請求項5】
前記作業空間内の圧力とこの安全キャビネットの外部の圧力または前記作業空間内の圧力と前記フィルタ下流側との差圧を検出する差圧センサーを設け、この差圧センサーの出力を入力として前記排気手段の出力を制御する制御手段を設けたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の安全キャビネット。
【請求項6】
前記作業開口部であって前記前面シャッターの下方に、グローブを取り付けたグローブパネルを着脱自在に設けたことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の安全キャビネット。
【請求項1】
本体キャビネット内に形成した作業空間内の空気をフィルタを介して外部へ排気する排気手段と、前記作業空間の前面に配置され上下に移動可能な前面シャッターと、この前面シャッターの下部であって前記作業空間の前面に形成した作業開口部とを備えた安全キャビネットにおいて、
前記前面シャッターに、左右に移動可能でかつ引き戸状に重なりあう複数の小窓を設け、この複数の小窓のいずれかの前記作業空間側に、作業空間での作業に用いる一対のグローブを気密に取り付け可能なグローブポートを設けたことを特徴とする安全キャビネット。
【請求項2】
前記複数の小窓の1個だけに、一対の前記グローブを取り付けたことを特徴とする請求項1に記載の安全キャビネット。
【請求項3】
前記複数の小窓の中の2個の小窓に、それぞれ1個ずつ前記グローブを配置したことを特徴とする請求項1に記載の安全キャビネット
【請求項4】
前記作業開口部の左右両側部に、前記複数の小窓の中で左右両端部を構成する小窓の端部を着脱自在に係止する係支溝を設けたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の安全キャビネット。
【請求項5】
前記作業空間内の圧力とこの安全キャビネットの外部の圧力または前記作業空間内の圧力と前記フィルタ下流側との差圧を検出する差圧センサーを設け、この差圧センサーの出力を入力として前記排気手段の出力を制御する制御手段を設けたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の安全キャビネット。
【請求項6】
前記作業開口部であって前記前面シャッターの下方に、グローブを取り付けたグローブパネルを着脱自在に設けたことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の安全キャビネット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−24657(P2012−24657A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−163031(P2010−163031)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【出願人】(502129933)株式会社日立産機システム (1,140)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【出願人】(502129933)株式会社日立産機システム (1,140)
【Fターム(参考)】
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