説明

安定処理土の造成方法

【課題】蒸気のもつ熱量を確実に地中に投与して、安定処理土の初期温度の昇温化を図る。
【解決手段】バックホウ1に装着された撹拌混合機3にて原位置土と固化材スラリとを撹拌混合して安定処理土とすることで、地盤の強度増加を図る造成方法である。固化材スラリと水とを予め混練りした常温スラリと、蒸気とをそれぞれに独立した供給経路18,19をもって撹拌混合機3側に供給する。蒸気の供給経路19の途中の合流部23にて圧縮空気の供給経路20を合流させて両者を混合する。吐出ノズル8から常温スラリを地中吐出するとともに、吐出ノズル9から蒸気を地中吐出し、原土と常温スラリと蒸気の三者を撹拌混合することで安定処理土の初期温度を昇温させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントやセメント系の固化材のように水に反応して発熱する無機化合物と原土(原位置土または現位置土)とを攪拌混合して、原土の強度増加を図る安定処理土の造成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軟弱地盤対策としての安定処理土の造成(地盤改良)では、セメントやセメント系等の固化材を水で混練りしたセメントスラリ(固化材スラリ)として使用するケースと、セメントやセメント系の固化材あるいは生石灰や石灰系の固化材を粉体状で使用するケースとがある。ここでは、前者の固化材スラリを原土(原位置土)と撹拌混合する固化材スラリ撹拌処理による地盤改良方法について述べる。
【0003】
セメントやセメント系の固化材は、酸化カルシウム(CaO)を主成分とする固化材(添加材)であって、当該固化材は原土中の水分との反応(水和反応)によって熱(水和熱)を発する無機化合物である。そして、その水和熱が小さい(発熱温度が低い)と、所期の目的である安定処理土の強度不足(増加強度が小さいこと)が起こることは周知である。
【0004】
ここで、本発明の着眼点である安定処理土の温度(水和反応時の温度)と強度の変化との関係に言及した文献として非特許文献1および非特許文献2がある。これらの非特許文献1,2では、本発明とは観点の異なる寒冷地での施工に際して、安定処理土の低温化もしくは凍結の度合いや養生温度が当該安定化処理土の強度発現に影響を与えるとの報告がなされている。
【0005】
一方、安定処理土の高温化を図る技術として特許文献1に記載のものが提案されている。
【0006】
特許文献1に記載の技術は、軟弱地質強化グラウト工事に供する技術であって、薬液注入剤を地盤中に注入後に注入管を通して追加の熱蒸気をビット先端より吐出噴射させることとしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】佐藤厚子、外2名、『安定処理土の養生温度と発現強度について』,社団法人地盤工学会北海道支部技術報告集第46号,平成18年2月
【非特許文献2】城戸優一郎、外3名、『セメント改良した泥炭における養生温度が改良強度へ与える影響』,社団法人地盤工学会北海道支部技術報告集第48号,平成20年2月
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭58−168717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
蒸気は、飽和状態の圧力下にあっては飽和温度を維持し、飽和圧力が高ければ高いほど飽和温度も高くなり、飽和圧力に比例して保有する熱エネルギーも高くなるといった特徴を有している。しかし、原土(原位置土)中に吐出された蒸気は、圧力が低下(開放)とともに温度低下を起こし、気体から液体(熱湯)に変化する。そして、蒸気の流れ(移動)は、圧力の高い蒸気が圧力の低い側(開放側)へと移動(流入)し、熱エネルギーが奪われることで凝縮(体積減少)して圧力低下する。その圧力低下したところへ蒸気が流れ込む形態が蒸気の流れである。加えて、飽和蒸気(気体)の比重は100℃で0.598であるのに対し、液体である水は100℃で958.4と約1600倍もの差がある。この差は絶対圧力(押しのけようとする力)の差であり、飽和蒸気の持つ絶対圧力は非常に小さいことを示している。つまり、蒸気状態にあっては高い圧力を有してはいるが、その圧力が物体を押しのける力(絶対圧力)とまでにはならないことを示すものである。
【0010】
これを特許文献1に記載の技術に当てはめるならば、ピット先端より地盤中に吐出噴射された蒸気は、熱エネルギーが吸収されると共に凝縮して圧力低下を起こし、蒸気は液体(熱湯)に変化する。そして、地盤中に空隙があれば蒸気は継続して吐出噴射されるが、蒸気から変化した熱湯や地下水により地盤中に空隙が無くなれば、蒸気自らの圧力(絶対圧力)で地盤や地下水を押しのけることはできずにピット先端は閉塞状態となる。つまり、ピット先端からは、蒸気は閉塞状態となり地盤中には吐出噴射はされなくなる。
【0011】
すなわち、これらの特許文献1に記載の技術は、蒸気の持つ熱エネルギーにより処理土の昇温を図り、その昇温効果として処理土の強度増加を図る技術であって、且つ薬液注入剤や固化材の使用量の低減によるコスト縮減を図ろうとする技術であっても、蒸気の吐出または合流・混合の方法(システム)については具体的に述べられていない。
【0012】
蒸気は、熱エネルギーの保有力は高いが、気体であるがために比重は小さく、絶対圧力が非常に小さいと言う特徴は前述したが、これらの特徴を踏まえた方法または手段によらなければ、蒸気の地盤中への吐出噴射や固化材スラリとの合流はできなくなり、地盤または安定処理土の昇温化は図れず、ひいては処理土の強度増加を図るとの所期の目的を達成できないことになる。言い換えるならば、ボイラーにより予め製造した蒸気が吐出されず、地盤温度が予定した温度まで上がらないと、安定処理土の強度増加は望めず、安定処理土は強度の低下をおこすことになり、なおも改善の余地を残している。
【0013】
本発明はこのような課題に着目してなされたものであり、とりわけ前述の蒸気の特徴を踏まえて、ボイラーで製造した蒸気が持つ熱量(熱エネルギー)を原土中に確実に吐出させる方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
初めに、本発明の特定にあたって使用される主な用語の定義をしておけば下記のとおりのものとなる。
【0015】
・原土:改良対象または安定処理対象となる原地盤の土。原位置土または現位置土とも言う。
【0016】
・安定処理:原土と固化材の撹拌混合により土の強度増加を図ること。
【0017】
・安定処理土:安定処理を施すことにより造成された土。
【0018】
・固化材:水と反応して発熱する無機化合物であって、原土に添加し、撹拌混合処理して強度増加を図る材料。セメントやセメント系の固化材等をいう。
【0019】
・水:固化材スラリを製造する常温の水をいう。地下水、河川水、湖沼水、池の水ならびに水道水等であって、当該施工現場において調達し易い水をスラリ製造用または蒸気製造用の水とする。常温の製造水の温度は季節、地域によって異なるが、一般的には2、3℃〜25℃程度である。
【0020】
・蒸気:産業用ボイラー等により水が加熱され、沸騰・蒸発して気体になったものをいう。ボイラーで発生する蒸気は、基本的には飽和蒸気である。
【0021】
・常温スラリ:常温の固化材スラリのことで、粉体状の固化材と常温の水とを混練りしたスラリ状の材料。一般的に使われているセメントスラリを言う。
【0022】
・高温スラリ:固化材スラリと蒸気とを混練りして高温化した固化材スラリ。当該現場での常温スラリよりも温められて温度の高い固化材スラリ。
【0023】
・常温施工:常温スラリにて安定処理を施すことをいう。
【0024】
・高温施工:高温スラリにて安定処理を施すことをいう。
【0025】
・安定処理土の初期温度:原位置土を固化材スラリ(常温スラリまたは高温スラリ)にて撹拌混合された安定処理土の撹拌混合直後の温度。
【0026】
・全熱:飽和蒸気が保有する全熱量であって、顕熱と潜熱の和をいう。
【0027】
本発明に係る安定処理土の造成方法は、要約するならば、原土と固化材とを撹拌混合して安定処理土とすることで地盤の強度増加を図る方法であって、上記安定処理土の温度を常温施工時の安定処理土の温度よりも高くするために、その昇温化に必要な熱量の蒸気を予め用意しておき、この蒸気と固化材および原土の三者を撹拌混合することにある。
【0028】
先に定義もしているが、このように蒸気の熱量を添加して安定処理土の昇温を図る施工方法を高温施工とするならば、従来のように蒸気を添加しないで行う施工方法は常温施工ということができる。
【0029】
このいわゆる高温施工により、従来の常温施工よりも強度増加を図ることが可能となる。すなわち、セメント等の固化材の添加量が同一であっても、高温施工のほうが常温施工よりも強度増加を図れるようになる。これは、設計基準強度を同じくするならば、セメント等の固化材の添加量の低減となり、経済的、環境的(CO2排出量の低減効果)に良好な結果となる。
【0030】
その上、高温施工によれば、常温施工よりも早く目標強度が得られることになる。すなわち、固化材の添加量が同一であっても、高温施工では常温施工よりも早く設計基準強度を満たすことができる。例えば、固化材の添加量が同一であっても、常温施工の長期強度(28日強度)が高温施工ならば、2〜3日の短期養生にて設計基準強度とすることができる。
【0031】
結果として、同一の設計基準強度とした時に用いるセメント等の固化材の添加量の低減と併せて、例えばセメントの製造に伴い排出されるCO2排出量の低減が図れ、このセメントの添加量の低減が当該セメントに含まれる六価クロムの低減にも繋がることになる。
【0032】
ここで、強度増加または早期強度を求めるためには固化材の使用量(添加量)の増量に頼らざるを得ない実情は、セメントおよびセメント系の固化材を用いる地盤改良工法全般において言えることであって、原土と固化材との撹拌混合方式の違いによって大きな差異は生じないことは先に述べたとおりである。
【0033】
したがって、本発明は、水と発熱反応する無機化合物であるセメントおよびセメント系の固化材を添加材として原土と撹拌混合して、軟弱な原土の強度増加を図る工法全般に用いることが可能である。撹拌混合方法としては、いわゆるトレンチャー式の撹拌混合機等を用いた垂直撹拌(パワーブレンダー工法)、撹拌ロッドに取り付けられた水平撹拌翼による水平撹拌(CDM工法)等の機械撹拌方式から、固化材スラリを撹拌ロッドから高圧噴射させながらその撹拌ロッドを回転させて撹拌混合する高圧噴射撹拌方式のいずれにも適用可能である。
【発明の効果】
【0034】
いわゆる高温施工を基本とする本発明によれば、セメント等の固化材の使用量(添加量)を増量せずとも常温施工に比べて強度増加を図ることが可能であり、経済性に優れるほか、例えば固化材使用量が同一であれば常温施工よりも強度増加が図れる。また、蒸気の使用を前提としていることにより、従来技術よりも熱エネルギーが大きく、これによってもまた熱源設備の低廉化と経済性に寄与することができる。
【0035】
さらに、常温施工よりも早く所期の目標強度(早期強度)が得られることから、早強固化材や固化材の増量をしなくても早い時期に設計基準強度を満たすことができるようになる。加えて、同一設計基準強度を目標とした時に用いる固化材使用量の低減により、材料費の低減、固化材の製造に伴うCO2の排出量の低減、ひいては六価クロムの低減にも寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る造成方法に用いるトレンチャー式の撹拌混合機の概略構造を示す説明図。
【図2】図1の要部の詳細を示す図で、(A)は図1の要部拡大説明図、(B)は同図(A)の側面説明図。
【図3】本発明に係る造成方法の好ましい第1の実施の形態を示す図で、図1の撹拌混合機を用いていわゆる高温施工を行う場合の常温スラリおよび蒸気の供給システムの概略を示す説明図。
【図4】図3を模式化したフローチャート。
【図5】蒸気と合流後の固化材スラリの温度と吐出量との相関を示すグラフ。
【図6】図3のシステムにおいて圧縮空気と蒸気の最適な合流位置を検証するための説明図。
【図7】(A)は図3における一方の合流部の拡大説明図、(B)は図3における他方の合流部の拡大説明図。
【図8】本発明が適用可能な他の工法としてCDM−LODIC工法の概略を示す説明図。
【図9】同じく本発明が適用可能な他の工法として高圧噴射工法の概略を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明のより具体的な実施の形態について詳しく説明する。
【0038】
本発明に係る安定処理土の造成方法の実施工に際しては、例えば図1に示すようないわゆるトレンチャー式の撹拌混合機3を用いて行うものとする。
【0039】
撹拌混合機3は、そのフレーム6をベースマシンであるバックホウ1のアーム2に支持させてあり、フレーム6の上下の駆動輪7aおよび従動輪7b間にエンドレスなドライブチェーン4を巻き掛けてあるとともに、そのドライブチェーン4にそれとほぼ直交する複数の撹拌混合翼5(図3参照)を装着してあり、これらの撹拌混合翼5がドライブチェーン4とともに上下方向に周回駆動されることになる。
【0040】
撹拌混合機3におけるフレーム6の先端部には、図2に示すように、周回駆動される複数の撹拌混合翼5と干渉しないように常温スラリ(後述するように、粉体状の固化材と水とを混練りすることで製造される。)のための吐出ノズル8と、蒸気のための吐出ノズル9を設けてある。常温スラリのための吐出ノズル8は、後述するよう常温スラリを供給するための供給経路18(図3参照)である供給管またはホースの末端に接続されていて、同様に蒸気のための吐出ノズル9は蒸気を供給するための供給経路19(図3参照)である供給管またはホースの末端に接続されている。
【0041】
そして、この撹拌混合機3をほぼ鉛直姿勢にて原土G中に貫入して、その撹拌混合機3の先端の吐出ノズル8から常温スラリを、吐出ノズル9から蒸気(後述するように、予め圧縮空気と混合されている。)をそれぞれ噴射・吐出しながら、撹拌混合機3を同1の左右方向に移動させて、常温スラリと圧縮空気混じりの蒸気および原土Gとの三者の撹拌混合処理を施すものとする。
【0042】
なお、かかる撹拌混合機3は例えば本出願人による特開2002−212941号公報等で公知のものであり、また常温スラリ(固化材スラリ)あるいは蒸気のための吐出ノズル8,9としては、特開2003−206526号公報等に開示のものや、任意のタイプのものを用いることができる。
【0043】
蒸気の使用を前提とした本発明のいわゆる高温施工では、図3の常温スラリおよび蒸気の供給システムのもとで行うものとする。なお、図3を模式化したフローチャートを図4に示す。
【0044】
図3において、10はセメント等の粉体状の固化材が貯留された固化材サイロ、11はミキサーのほかアジテーター12を含んでなるミキシングプラント、13は水(常温水)の貯留部としての水槽、14はグラウトポンプ(圧送ポンプ)、15はボイラー、16,17はコンプレッサーである。
【0045】
このシステムでの基本機能としては、同図に示すように、固化材サイロ10に貯留されている粉体状の固化材と、水槽13に貯留されている水とを、それぞれに計量した上でミキシングプラント11にて混練りし、これをもって常温スラリ(常温の固化材スラリであることは先に定義したとおりである。)を製造し、その常温スラリをアジテーター12に一旦貯留する。このアジテーター12に貯留された常温スラリをグラウトポンプ14にて供給経路18である図示外の供給管やホース等を介して撹拌混合機3側の常温スラリのための吐出ノズル8に向けて圧送する。
【0046】
また、ボイラー15は当該ボイラー15にて製造された蒸気(飽和蒸気)を供給経路19である図示外の供給管やホース等を介して撹拌混合機3側の蒸気のための吐出ノズル9に向けて供給する機能を有し、コンプレッサー16,17は所定圧力の圧縮空気を同じく供給経路20,21である供給管やホース等にて供給する機能を有する。
【0047】
このように本実施の形態では、常温スラリの供給経路18と蒸気の供給経路19とが相互に独立していて、これに対応するべく、撹拌混合機3側には、図2に示したように常温スラリのための吐出ノズル8と蒸気のための吐出ノズル9とが独立して設けられている。
【0048】
先に述べたようにミキシングプラント11のアジテーター12に貯留されている常温スラリは、グラウトポンプ14により吐出ノズル8に向けて圧送される一方、その途中の合流部22においてコンプレッサー17からの圧縮空気が合流・混合される。
【0049】
また、ボイラー15からの蒸気はそれ自体が持つ圧力で吐出ノズル9に向けて供給される一方、その途中の合流部23にてコンプレッサー16からの圧縮空気が合流・混合される。なお、これらの合流部22,23の好ましい形態を図7に示す。
【0050】
こうして常温スラリおよび蒸気が撹拌混合機3側に供給されると、常温スラリは吐出ノズル8から原土G中に吐出されるととともに、蒸気は圧縮空気とともに吐出ノズル9から原土G中に吐出されて、撹拌混合機3自体の撹拌混合作用により原土Gと撹拌混合されることになる。これらの常温スラリおよび蒸気との撹拌混合のために原土Gは安定処理土と化し、しかも元々は蒸気が保有していた熱量(熱エネルギー)が投与されることでその安定処理土の昇温化または高温化が図れることになる。つまり、蒸気の熱エネルギーにて固化材の水和反応を助長(水和反応熱をより高く)することが可能となる。
【0051】
ここで、グラウトポンプ14によって合流部22に向けて圧送される常温スラリはそれ自体で所定の圧力を有しているので、グラウトポンプ14側と吐出ノズル8側との間に所定の圧力差(ヘッドまたは落差)があれば、合流部22でのコンプレッサー17からの圧縮空気の合流は必ずしも必要としない。
【0052】
また、安定処理土の昇温化のための手段としては、常温スラリ(固化材スラリ)と蒸気との合流・混合をもって高温化した高温スラリと原土とを撹拌混合する方法もあるが、常温スラリの吐出量が少ない場合には高温スラリの温度が100℃を超えることもある。固化材スラリが沸点を超えたときには、体積膨張を起こし固化材スラリの供給管(または供給ホース)内の圧力が上昇し、供給管の破損や、合流箇所での閉塞により蒸気の吐出が不可能となる等の問題があった。
【0053】
以下、この問題点について、市販の簡易ボイラー2台を使用した場合の蒸気量と固化材スラリの各吐出量における高温スラリの温度の観点から検証してみる。
【0054】
下記の式(1)に基づく固化材スラリの比熱のほか各諸元の一例を示すと表1のようになる。
【0055】
・固化材スラリ比熱=
{比重÷(1+W/C)×(固化材比熱+水比熱×W/C)‥‥(1)
ただし、固化材比熱:0.9kJ/kg
水比熱:4.186kJ/kg
【0056】
【表1】

【0057】
次に、総発生熱量およびボイラー発生熱量を下記の(2),(3)とし、さらに常温スラリの温度を15℃としたとき、かかる条件にて、常温スラリの吐出量を80リットル/分、100リットル/分および120リットル/分としたときの常温スラリと蒸気との合流後の温度(高温スラリの温度)を求めてみる。これを表2に示す。
【0058】
・総発生熱量=常温スラリ比熱×スラリ重量×上昇温度(ΔT)
・ボイラー発生熱量:1245000×2台=2490000kJ/h
【0059】
【表2】

【0060】
さらに、合流後の温度が100℃となる時の固化材スラリの吐出量を図5の相関グラフから求める。
【0061】
図5から明らかなように、合流後の温度が100℃を超えるときの吐出量は86リットル/分となる。しかし、上記温度は常温スラリの温度を15℃としてシュミレーションした場合のものであって、常温スラリの製造水の温度によっては常温スラリの温度はさらに高温化する。また、固化材スラリの沸点は水よりも低く、合流後の温度が100℃となる時には沸点を超えているものと思われる。これらを鑑みて、常温スラリの吐出量が100リットル/分以下(本シュミレーションでの合流後の温度は87.5℃)となる時には、安全作業上、本発明にて提案する方法で安定処理土の昇温化を図ることが望ましい。
【0062】
ここで、図3,4の合流部23において、高温スラリの熱源なる蒸気と圧縮空気の安定的な合流・混合のためには、それぞれの供給過程における管内圧力のバランスが重要となる。蒸気の供給管内圧力をSpとし、圧縮空気の供給(圧送)管内圧力をCpとしたとき、SpがCpよりも大きくなる箇所、すなわちSp>Cpの条件を満たす箇所で両者を合流・混合させる必要がある。
【0063】
図6を参照しながら上記Sp>Cpの条件を満たす最適な箇所を検討してみる。圧縮空気の圧送管内圧力Cpはコンプレッサー16での製造圧力(製造能力)と管内抵抗に大きく依存し、コンプレッサー16で製造吐出された圧縮空気の圧送管内圧力は圧送管径とコンプレッサー16からの圧送距離によって異なる。一方、施工現場で一般的に使用されるコンプレッサーの吐出空気量(圧縮空気の製造能力)は2.0〜18.5m3/分で且つ吐出圧力は0.7MPa前後である。よって、規定の吐出口よりも大きな吐出口に変更することにより、本発明での望ましい管内圧力は0.6MPa以下となる。
【0064】
他方、蒸気の圧力は、ボイラー15として簡易ボイラーの使用を前提とした場合、その製造圧力は1MPa以下(この値は、ボイラーに関する関連法規にて示されている値)である。よって、安全管理上、簡易ボイラーのゲージ圧力にて0.7〜0.9MPaの範囲にて運転している。さらに、図3,4に示したボイラー15から圧縮空気との合流部23までに供給される過程でも減圧されることから、その合流部23近くの蒸気の供給管内圧力は0.6〜0.8MPa程度となる。
【0065】
したがって、コンプレッサー16の下流側(撹拌混合機3側)においてSp>Cpの条件を満たす箇所は、図6のL1の範囲ということになり、先に説明した図3,4の事例は蒸気と圧縮空気との合流・混合位置に関してこの条件を満たしていることになる。
【0066】
また、先に述べた図3,4の合流部22として好ましい形態を図7の(A)に示す。同図に示すように、圧縮空気の供給経路18の供給管径をD1とし、常温スラリの供給経路18の供給管径をD2としたとき、D1≦D2となる管径にて合流させることにより、よりスムースな合流・混合が可能となる。加えて、常温スラリの供給経路18である供給管に所定曲率の滑らかな曲がり部(屈曲部)24を設けて、該曲がり部24の曲率の外周側にて圧縮空気の供給経路21となる供給管を合流させることが望ましい。これは、曲がり部24の曲率の外周側ほど圧送速度が増加して、その接線方向で負圧状態となるいわゆるエジェクター効果を期待できるようになるからである。
【0067】
さらに、先に述べた図3,4の合流部23として好ましい形態を図7の(B)に示す。同図(A)に示した合流部22と同様の理由から、蒸気の供給経路19の供給管径をD1とし、圧縮空気の供給経路20の供給管径をD2としたとき、D1≦D2となる管径にて合流させることにより、よりスムースな合流・混合が可能となる。その上、圧縮空気の供給経路20の供給管に所定曲率の滑らかな曲がり部(屈曲部)24を設けて、該曲がり部24の曲率の外周側にて蒸気の供給経路19となる供給管を合流させることが望ましいことも同図(A)の場合と同様である。
【0068】
ここで、先の実施の形態で使用するボイラー15に着目した場合、日本機械学会が定める水および水蒸気の熱的性質のうち、圧力基準飽和蒸気表での飽和蒸気の圧力、温度および全熱(熱量)は次のとおりである。
【0069】
・蒸気圧400kPa:蒸気温度143.61℃、全熱2738.06kJ/kg
・蒸気圧500kPa:蒸気温度151.84℃、全熱2748.11kJ/kg
・蒸気圧600kPa:蒸気温度165.03℃、全熱2762.10kJ/kg
労働安全衛生法で定めるボイラーの取り扱いには、ボイラー技師免許者やボイラー取扱技能講習修了者でなければ取り扱いできない区分と、特別教育受講者若しくは無資格者であっても取り扱い可能な区分とがある。地盤改良等の現場では、無資格者であっても取り扱い可能な区分となる簡易ボイラーが便宜上使用される。簡易ボイラーの仕様を例示すれば下記のとおりである。
【0070】
一般的には、熱出力として188、251、313、434、459、470kW/台・時の能力を有する簡易ボイラー(例えば、三浦工業(株)社製のもの)が市販されている。これらのボイラーを単独若しくは複数台を組み合わせて使用することにより、必要に応じた幅広い熱量の供給が可能となる。これは、撹拌混合直後の安定処理土の初期温度をより高くする上できわめて有効である。なお、使用するボイラーの能力と発生熱量との関係の一例を示せば下記のとおりである。
【0071】
・例1.熱出力188kWの簡易ボイラー1台での発生熱量
188×(3.6×103)=676800kJ/時=676MJ/時
・例2.熱出力470kWの簡易ボイラー2台での発生熱量
{470×(3.6×103)}×2=3384000kJ/時=3384MJ/時
このように、現場の諸条件を考慮して、機種選択並びに適宜複数台の組み合わせにより676〜3384MJ/時と幅広い熱量の供給が可能となる。
【0072】
これらは、あくまでいわゆる簡易ボイラーを使用した場合の一例にすぎず、簡易ボイラー以外の小型ボイラーあるいはそれよりの大型のボイラー等が使用可能な場合には、さらに大きな発生熱量の供給が可能となる。
【0073】
また、先の実施の形態では、固化材スラリと撹拌混合した安定処理土に蒸気の保有する熱量(熱エネルギー)を投与する高温施工であって、この蒸気の保有する熱量の投与によって、撹拌混合処理直後の安定処理土の昇温化または高温化を図り、もって施工後の地盤の強度増加を目的とするものであることは先に述べたとおりである。この目的達成にために、先に提示した非特許文献1,2の記載からの示唆および経験的な知見によれば、撹拌混合処理直後の安定処理土の初期温度としては、常温施工(常温施工の定義は先に述べたとおりである。)の場合の撹拌混合直後の安定処理土の初期温度と比べて、少なくとも5℃以上、望ましくは10℃以上高くなるように施工するものとする。そして、その常温施工と比べた場合の昇温量に応じて、蒸気の混合をもって投与すべき熱量、すなわち昇温化に必要な蒸気量を決定する。
【0074】
この場合において、所定の昇温量(原土の温度と高温施工による温度との差または常温施工の温度と高温施工による温度との差)に必要な熱量を求め、その熱量に相当する蒸気量(実際蒸発量)を昇温化に必要な蒸気量とする。必要な熱量は次式により求める。
【0075】
必要な熱量(Q)=物体重量×比熱×昇温量
={(原土重量×原土の比熱)+(固化材スラリ重量×固化材スラリの比熱)}×(高温施工による安定処理土の温度−原土の温度)
この式から明らかなように、必要な熱量は、温めようとする物体重量と比熱によって変化する。この場合の物体重量は、1時間当たりに安定処理(撹拌混合)される原土量と、その原土に添加混合される固化材スラリ量のそれぞれの重量である。
【0076】
また、比熱は物体によって様々であるが、その比熱が大きければ大きいほど温めにくくなり、所定の昇温量を得るにあたり、より大きな熱量(蒸気量)が必要となる。土(原土)は、土粒子と水と空気で構成されており、原土に含まれる水分量(含水比)によって比熱は変化する。その比熱は次式により求める。
【0077】
比熱(C)=ρd(Cs+CwW)
ただし、ρdは原土の乾燥密度、Csは土粒子の比熱、Cwは水の比熱、Wは原土の含水比である。
【0078】
ここでは、
Cs=0.84kJ/kg・K
Cw=4.186kJ/kg・K
とする。
【0079】
なお、水の比熱Cwは古くから1kcal/kg・℃であったが、SI単位系への移行に伴いこれを同SI単位系に換算すると、Cw=4.186kJ/kg・Kとなる。また、土粒子の比熱Csは粒子を構成する鉱物によって異なり、一般的には0.17〜0.24kcal/kg・℃である。これを0.2kcal/kg・℃として丸めた上でSI単位系に換算すると、Cs=0.84kJ/kg・Kとなる。
【0080】
以上のことから、昇温量を同じとしても、時間当たりの作業量によって安定処理土の量や固化材スラリの量は変化(物体重量の変化)し、対象とする原土によって含水比も変化する。故に、所定温度だけ昇温させるのに必要な熱量(蒸気量)は物体重量と比熱によって変化することになる。
【0081】
ここで、上記の実施の形態では、撹拌混合手段として図1〜3に示したいわゆるトレンチャー式の撹拌混合機3を用いた場合について例示しているが、本発明はその目的からしてトレンチャー式の撹拌混合機以外の各種の撹拌混合手段を用いる場合にも同様に適用できるものである。
【0082】
例えば深層固結工法の一つであるCDM工法のほか、CDM−LODIC工法(変位低減型深層混合処理工法)、あるいは高圧噴射撹拌工法にも適用することができる。
【0083】
CDM−LODIC工法は、図8に示すように、クローラ式のベースマシン30のリーダー31に駆動装置32とともに撹拌軸33を回転可能に支持させ、その撹拌軸33の先端には撹拌混合翼34を、撹拌混合翼34の上部にスクリュー35をそれぞれに取り付け、固化材スラリの投入量に相当する土量をスクリュー35にて排出することにより、周辺の地盤や構造物への影響を与えないようにしたものである。なお、CDM工法は、CDM−LODIC工法での上記スクリュー35を廃止したものと理解することができるから、同様にして本発明を適用することが可能である。
【0084】
高圧噴射工法は、図9に示すように、例えば多重管ロッド41をボーリングマシン40にて地中に貫入し、その多重管ロッド41の先端にメタルクラウン42とともに装着したモニター43から固化材スラリを圧縮空気と同時に横方向に噴射し、地盤を切削しながら回転し、引き上げることにより、地盤中に均質な円柱状固結体を造成する工法である。
【0085】
さらに、本発明は、寒冷地において、施工時の気温が0℃未満となる厳寒期に、原土と固化材とを撹拌混合して安定処理を施す場合にも適用することができる。具体的には、安定処理として固化材スラリを地中に吐出して原位置土と撹拌混合するにあたり、別系統から供給された蒸気を吐出して、撹拌混合直後(安定処理直後)の安定処理土の初期温度を常温スラリで撹拌混合したときよりも高くし、ひいてはその安定処理土の初期温度が外気では凍結しない温度とすることにより、寒冷地において且つ厳寒期での施工でありながら、必要十分な強度発現を実現できるようになる。
【符号の説明】
【0086】
1…バックホウ(ベースマシン)
3…撹拌混合機
8…吐出ノズル
9…吐出ノズル
10…固化材サイロ
11…ミキシングプラント
13…水槽(水の貯留部)
14…グラウトポンプ
15…ボイラー
16…コンプレッサー
18…常温スラリの供給経路
19…蒸気の供給経路
20…圧縮空気の供給経路
21…圧縮空気の供給経路
22…合流部
25…吐出ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原土と固化材とを撹拌混合して安定処理土とすることで地盤の強度増加を図る安定処理土の造成方法であって、
粉体状の固化材と水とを予め混練りした固化材スラリと、蒸気とを、それぞれに独立した供給経路をもって原土中に吐出するとともに、
蒸気の吐出に際しては、互いに独立している蒸気の供給経路と圧縮空気の供給経路とを合流させて、それら蒸気と圧縮空気とを混合した上で原土中に吐出し、
原土と固化材スラリと蒸気の三者を撹拌混合することで安定処理土の初期温度を昇温させることを特徴とする安定処理土の造成方法。
【請求項2】
蒸気の供給経路の管内圧力をSpとし、圧縮空気の供給経路の管内圧力をCpとしたとき、Sp>Cpなる箇所にて蒸気の供給経路と圧縮空気の供給経路とを合流させることを特徴とする請求項1に記載の安定処理土の造成方法。。
【請求項3】
蒸気の供給管径をD1、圧縮空気の供給管径をD2としたときに、D1≦D2となる管径にて合流させることを特徴とする請求項1または2に記載の安定処理土の造成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−21304(P2012−21304A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159239(P2010−159239)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【特許番号】特許第4616932号(P4616932)
【特許公報発行日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000140694)株式会社加藤建設 (50)
【Fターム(参考)】