説明

安定化された水性アルファ−ガラクトシダーゼ組成物およびこれに関連する方法

【課題】アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つタンパク質を含んでいる水性組成物の提供。
【解決手段】アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つタンパク質を含んでいる水性組成物を安定化する方法。このアルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つタンパク質を含んでいる精製された水性組成物を調製する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つタンパク質を含んでいる水性組成物に関する。本発明はさらに、アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つタンパク質を含んでいる水性組成物を安定化する方法、およびこのアルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つタンパク質を含んでいる精製された水性組成物を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1900年に発見されたABO式血液型はヒト輸血、したがって輸血医療において重要な役割を持つ。このABO式血液型はそれぞれ血液型抗原AおよびBの存在または不在に基づいている。対応する血液型の炭水化物構造はABHで表示されるが、これは赤血球の表面、特にグリコタンパク質およびグリコ脂質上のオリゴサッカライド鎖の末端に存在する。すなわち、血液型Aの赤血球上に存在するA抗原は末端α-1,3-連結N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)に特異性があり、一方、血液型BのB抗原は、免疫優勢モノサッカライドとしての末端α-1,3-連結ガラクトース(Gal)モノサッカライドに特異性がある。
【0003】
炭水化物に対して活性な酵素は自然界に広範に分布しており、多数の生物工学および製薬工程での応用が発見されている(Daviesら、2005)。普遍的赤血球を開発するための血液型ABO抗原の酵素による除去は、最初に25年前に提案された、先駆的構想であった。AおよびB型血球からのそれぞれα-1,3-連結N-アセチルガラクトサミンおよびα-1,3-連結ガラクトースモノサッカライドの酵素による除去は、こうして輸血の安全性および全体としての血液供給量を向上させるための魅力的な方法を提供する。当初は、エキソグリコシダーゼを使用して、免疫優勢AおよびBトリサッカライド抗原からα-GalNAcおよびα-Gal残基を選択的除去することによって、赤血球上のAおよびB抗原をそれぞれH抗原に酵素的に転換することが構想された。特に、血液型A、BおよびABの赤血球の酵素転換において、アルファ-N-アセチル-ガラクトサミニダーゼおよびアルファ-ガラクトシダーゼは特定の対象である(WO 03/027245 A2)。エキソグルコシダーゼ、アルファ-N-アセチル-ガラクトサミニダーゼ(A-zyme)はA型赤血球上の末端α-1,3-GalNAc残基を特異的に加水分解するが、一方エキソグルコシダーゼ、アルファ-ガラクトシダーゼ(B-zyme)はB型赤血球上の末端α-1,3-ガラクトース残基を特異的に加水分解する。両酵素反応の結果、O型赤血球上にある共通のH構造が形成される。
【0004】
B型赤血球の転換のために、生コーヒー豆由来のアルファ-ガラクトシダーゼが最初に使用された。赤血球の酵素転換は実現可能であり、その上、転換された血球が輸血されても機能することが証明されたが、大量の酵素が必要とされるので、臨床実施は不可能であった。最近になって、血液型Bの赤血球からアルファ-1,3-結合ガラクトース残基を除去するため、海洋細菌、シュードアルテロモナス属(Pseudoalteromonas)の種からのアルファ-ガラクトシダーゼの使用が報告された(Bakuninaら、1998)。その上、低消費量の組換え酵素によって中性pHでAおよびB抗原を効果的に除去することができる酵素を供給する、2種の細菌グリコシダーゼ遺伝子ファミリーが報告された(Liuら、2007)。これらの中に、細菌生物体、バクテロイデス・フラギリス(Bacteroides fragilis)に由来するアルファ-ガラクトシダーゼの組換えN-末端断片がある。
【0005】
組換えDNA技術は、これが1970年代に始まって以来、生化学に革命的変化をもたらした。一方では、最近発達したマイクロ化学技法の感度と遺伝子クローニングおよびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が可能にした増幅の組み合わせによって、あらゆる種類の細胞もしくは組織からの内在性タンパク質およびこれに対応するそのメッセンジャーRNAを、それぞれの遺伝子の単離およびクローニングの出発点として使用することができる。他方では、組換えDNA技術はこれによって同定および単離した遺伝子の効率的な大量生産の道を開いた。なぜならば、組換えタンパク質の発現を目的として、対象のタンパク質をコードするDNAを、宿主生物体または培養して増殖させる細胞中に導入することが可能になったからである。特に、細菌は遺伝子増幅および遺伝子発現の両方にとって理想的な宿主であると考えられる。なぜならば、これらは広範囲の原核および真核タンパク質の製造のための操作が容易な工場になるからである。しかし、細菌宿主細胞中での組換え異種タンパク質の発現は、凝集および不溶性形態での対象のタンパク質を含有する封入体の形成をもたらし、その結果、発現したタンパク質はそれ以上の生化学的精製ができなくなることが多い。この場合、組換えタンパク質の回収には、封入体の可溶化と、そのタンパク質の活性構造への再折りたたみが必要である。
【0006】
Enzyme Commission of the International Union of BiochemistryによってEC 3.2.1.22として分類されるアルファ-ガラクトシダーゼ酵素は、多様な微生物、植物および動物によって内在性で発現される。しかし、in vitroでの水性酵素組成物の提供は、水性溶液中で保存したときに、アルファ-ガラクトシダーゼ活性が急速に低下するので、非常に困難である。特に、組換え発現したアルファ-ガラクトシダーゼは、塩の不在中、すなわち低電導度のバッファー中では、不溶性沈殿を形成するという、当分野での一般的問題がある。この沈殿は急速に発生して、不可逆的になり、また高タンパク質濃度の状況下でなりやすい。しかし、(沈殿を防止するための)低タンパク質濃度でのアルファ-ガラクトシダーゼの既知の精製方法は、経済的に有用な製造工程にとって好適な選択肢ではない。今までのところ、酵素の沈殿は通常、好適な濃度の塩の添加によって防止されてきた。したがって、溶液中の酵素の安定化には、高濃度の塩を含有するバッファーが不可欠である。例えば、アルファ-ガラクトシダーゼ酵素の保存用に一般的に使用されるバッファーは、25 mMリン酸ナトリウムおよび0.3 M NaCl、pH 7.0で構成される。しかし、こうした高塩バッファー条件では、望ましいと考えられるいくつかの生化学的精製方法、例えば、カラムへの低塩条件でのタンパク質の結合を必要とする、カチオン交換クロマトグラフィーが可能にならない。カチオン交換クロマトグラフィーは、実質的に純粋なアルファ-ガラクトシダーゼ組成物を獲得するためには、基本的な手段である。なぜならば、分解生成物および/またはその他の混入タンパク質の効果的な除去にとって、これが最も好ましい方法だからである。
【0007】
別法として、対象のタンパク質をアニオン交換クロマトグラフィーによって精製することもできる。すなわち、酸性pH範囲に等電点を持つタンパク質を、アルカリ性pH値のアニオン交換樹脂に結合させることができる。しかし、アルファ-ガラクトシダーゼ、特にLiuら(2007)が報告している等電点がpI 6.72の、Bacteriodes fragilisからのアルファ-ガラクトシダーゼは、アルカリ性pH値(例えば、約≧ 9.0もしくはそれ以上のpH)のバッファーに可溶性であるが不安定である。したがって、アルカリ性pHのバッファー中での酵素のインキュベーションは、酵素活性の不可逆的損失をもたらした。結果的に、約pH ≧ 9.0のpH値でのアニオン交換クロマトグラフィーによるタンパク質の精製は、(本発明に関しては「B-zyme」としても指定している)アルファ-ガラクトシダーゼの精製戦略の選択肢の1つにはなりそうにもなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的の1つは、保存およびその後の加工用に安定なアルファ-ガラクトシダーゼ組成物を提供するため、アルファ-ガラクトシダーゼ活性を持つタンパク質を含んでいる水性組成物を安定化する方法、ならびにこれを製造する方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
封入体からのタンパク質の回収を促進し、可溶化およびタンパク質再折りたたみを支援するための、多様な薬剤が当分野で既知である。これらとして、その中でも、例えば、カオトロピック塩類、尿素、および界面活性剤、スルホベタインが含まれる。本発明に関しては、驚くべきことに、100 mMを超える濃度、特に少なくとも150 mMの濃度のアルギニンの存在中で、アルファ-ガラクトシダーゼが溶液中で安定化されることがわかった。明らかになったのは、本発明に関して各種濃度で試験したその他の薬剤のいずれによっても、タンパク質の安定化が達成されなかったことである。
【0010】
アルギニンは、再折りたたみ効率を改善するため、またはタンパク質の凝集を抑制するために、使用されてきた(Arakawaら、2006; Ishibashiら、2005)。その上、タンパク質の熱誘発および希釈誘発凝集におけるアルギニンの役割が報告されている(Shirakiら、2002)。アルギニンはさらに、タンパク質再折りたたみ、可溶化および精製に関与し、透析もしくは希釈によるタンパク質の再折りたたみのために使用する溶媒中に、0.1〜1 Mのアルギニンを含ませることができると報告されている。さらに、E.coli細胞の溶解後に得られる不溶性ペレットから活性で折りたたまれたタンパク質を抽出するために、0.5〜2 Mの濃度のアルギニンを使用することができる(Tsumotoら、2004)。
【0011】
アルギニンによる安定化は、明確な技術上の優位点をもたらす。なぜならば、これによってタンパク質沈殿による損失を伴わないで、溶液中で酵素の高レベルへの濃縮が可能になるからである。その結果、アルギニンによる安定化が、長期保存およびその後の加工に好適なアルファ-ガラクトシダーゼ組成物の供給を可能にする。第2に、アルギニンの存在中での安定化は、イオン交換クロマトグラフィー、特にカチオンイオン交換クロマトグラフィーなどの、高収率での精製スキームの経済的な応用を可能にする。結果的に、アルギニンの存在中での酵素の安定化によって、精製されたアルファ-ガラクトシダーゼを含む組成物の提供が可能になる。
【0012】
第1の態様中、本発明は、アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つタンパク質を含んでいる水性組成物であって、100 mMを超える濃度、特に少なくとも150 mMの濃度のアルギニンを含んでいることを特徴とする組成物を提供する。
【0013】
本明細書で使用する用語「水性組成物」とは、対象のタンパク質を含有する水を基剤とするあらゆる種類の溶液である。水を基剤とする溶液または水性溶液とは、溶媒が主として水(溶媒の50 %、60 %、75 %、80 %超、好ましくは90 %超、より好ましくは95 %超、または100 %までもが水)であることを意味する。その上、DMSO、エタノールその他などの1以上の好適な可溶化剤を存在させてもよい。アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つタンパク質に加えて、水性組成物中に塩類、別のタンパク質、細胞構成成分、増殖培地の成分、その他などの化合物をさらに存在させてもよい。特に、本発明にしたがう水性組成物はアルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つタンパク質に加えて以下を含んでいる: 限定するわけではないが、Na+、K+、Mg++、PO43-、Ca++、Cl-などの、任意の1、2もしくは3価塩イオン、ならびに任意の種類の細胞および/または核成分、例えば、細胞および/または核タンパク質、細胞および/または核DNA、ならびに細胞および/または核RNA分子。さらに、本発明の水性組成物は、対象のタンパク質を含有する生物体から誘導された、精製または非精製形態のあらゆる細胞抽出物でもよい。こうした細胞抽出物は、生物体全体、その生物体の特定の1組織、その多種の組織、または例えば、細胞培養によって培養された何らかの種類の細胞、のいずれかから誘導することができる。生物体全体または組織から調製する細胞抽出物は、当初の分画および/または遠心分離ステップ(群)を伴っても伴わなくても、作製することができる。その上、本発明の水性組成物に、対象のタンパク質を安定化し、かつ/またはこれをタンパク質分解から保護するのに有益な、限定するわけではないが、例えば、特異的プロテアーゼインヒビター類およびプロテアーゼインヒビターカクテルなどの、任意の添加剤(群)を含ませることができる。タンパク質の安定化に役立つ好適な添加剤は当業者には周知であり(例えば、Suckerら、1991参照)、例えば以下が含まれる: 生理食塩水、デキストロース加リンゲル液、乳酸加リンゲル液、脱ミネラル水、安定化剤、抗酸化剤、錯化剤、および/または抗微生物化合物。本発明の組成物はさらに、以下を含んでいてもよい: グリセロール、ショ糖、グルコース、ビタミン類、または還元剤、例えばDTTまたはベータ-メルカプトエタノールなど。本発明にしたがう水性組成物は、例えば、実施例5に例示している。
【0014】
好ましくは、アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つタンパク質を含んでいる水性組成物は透明な溶液であり、沈殿を含む溶液もしくは不透明溶液の場合は、その沈殿もしくは濁りがアルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つタンパク質に起因するならば、本発明にしたがうアルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つタンパク質を含んでいる水性組成物とはみなさないこととする。
【0015】
透明度/濁度の判定方法の1つは、目視検査、すなわち眼による検査である。別の判定方法は光度計による光減衰の測定である。これに関して、用語「光学密度」(「OD」とも称される)は、所定の波長λでのある光学要素の所定の距離の透過についての無単位の尺度を表す:
ODλ = log10 O = - log10 T = - log10(I/I0)
式中、
O = 単位当たりの不透過率
T = 単位当たりの透過率
I0 = 入射光線の強度
I = 透過光線の強度。
【0016】
光学密度が高いほど、透過率は低くなる。粒子に当たった光線の散乱によって、懸濁液もしくはコロイドの光学密度は、透明な溶液に比較して増大する。
【0017】
濁度を判定するための好ましい1方法は、散乱光の測定である。この目的には、光散乱光度計を使用することが多い。光散乱を検出および定量する方向に応じて、当分野では数種のタイプの散乱光光度計が知られている。原則として、そのすべてを、液体サンプル中の濁度の定量評価のために使用することができる。用語「光散乱」には、サンプル中の粒子による光波の散乱とサンプル中の粒状物質による反射の両方が総合的に含まれる。後方散乱とは光源に向かう方角に対して90°未満と定義される。前方散乱は光源から遠ざかる、または全体の光と同一の方角に対して90°未満と定義される。現在使用される濁度測定単位の大多数は、90°側方散乱測定技法を基礎としている。
【0018】
散乱光の強度は不均質混合物中の非溶解(粒状)物質の量に依存し、以下のように記載することができる。
【0019】
F = I0・Φ・(2.303・ε・c・d)
式中、
F は散乱光の強度、
I0 は入射光線の強度、
Φ は放出対吸収フォトンの比率、
ε は混合物中の粒状物質のモル吸収係数、
c はキュベット内の液体サンプル(不均質混合物)の容量当たりの粒状物質の量
d はキュベット内の空間の厚み。
【0020】
例えば、本発明の組成物の透明度/濁度を判定するためには、90°側方散乱測定を、蛍光光度計、例えば、CARY ECLIPSE装置(Varian, Inc. Palo Alto, CA, USA)によって実施することができる。液体サンプルは通常、標準クオーツキュベットで分析する。入射光の波長は800 nmがよい。90°側方散乱を同一の波長(すなわち800 nm)で測定する。この装置のパラメーターセッティングは以下とすることができる。
【0021】
装置: Cary Eclipse
装置番号: EL06033429
データモード: 蛍光
Em.波長(nm): 800
Ex.波長(nm): 800
Ex.スリット(nm): 5
Em.スリット(nm): 5
Ave時間(sec): 0.1
Ex.フィルター: Auto
Em.フィルター: Open
PMT電圧(V): Medium
Multicellホルダー: Multicell
Multi zero: Off
Replicates: 1
サンプルアベレージング(Sample averaging): off
本発明の目的に関しては、「透明な」水性組成物とは、アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つタンパク質を含まないこと以外は同一の組成と濃度のそれぞれの成分を含む溶液の濁度とほぼ同等の(すなわちほぼ等しい)濁度(上記のようにして判定)であることを特徴とする。好ましくは、これは、記載された条件下で、波長800 nmの光を使用する90°側方散乱によって判定して、0〜0.40の範囲、より好ましくは0〜0.13の範囲に相当し、0.05〜0.130の範囲がさらにより好ましい。
【0022】
本発明に関しては、「アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つタンパク質」は、一般的にアルファ-ガラクトシダーゼ活性を提示するあらゆる種類のタンパク質である。本発明のアルファ-ガラクトシダーゼ活性は、ガラクトシダーゼ残基の加水分解、特にガラクトースオリゴサッカライドおよびガラクトマンナンなどのアルファ-D-ガラクトシド中の末端アルファ-D-ガラクトース残基の加水分解を特徴とする。さらに特定すると、本発明のアルファ-ガラクトシダーゼ活性は末端1,3-連結ガラクトシダーゼ残基の加水分解である。アルファ-ガラクトシダーゼ酵素活性の分析のためのアッセイは、当分野で十分確立されており、例えばLiuら(2007)に詳細に記載されている。こうした酵素アッセイはin vitro設定で実施することができ、合成基質、例えばモノサッカライドGalα-pNPもしくはBテトラサッカライド-AMC基質の触媒的切断を分析することによって、タンパク質の酵素活性を決定することを目的とする。そこで1単位の酵素活性は、一定量の容積中の一定量の基質の存在中で1分間に基質1μモルを切断するのに必要な酵素の量として定義される。その後、反応容積中の基質の完全切断を基礎として、特異的活性を決定することによって、酵素活性を算出する。例えばGalα-pNP基質の場合、p-ニトロ-フェノール(pNP)の形成を波長405 nmで定量する。本発明にしたがうアルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を分析するための試験を、例えば、実施例1に記載する。
【0023】
本明細書で使用する用語「アルギニン」とは、α-アミノ酸である、アルギニン(短縮してArgもしくはRとも)、好ましくはL-アルギニンもしくはD-アルギニン、またはこれらの混合物、特にL-アルギニンを表す。アルギニンは天然に見られる最も一般的な20種のアミノ酸の1つである。α-アミノ酸はアミノ基1個に連結されたα-炭素と称される中心炭素原子1個、カルボン酸基1個、水素原子1個、および側鎖と称されることが多い特徴的なR基1個で構成される。アルギニンは4-炭素の脂肪族側鎖で構成され、その遠位末端はグアニジン基でキャップされている。pKa値が12.48で、グアニジン基は中性、酸性および最も塩基性の環境でも、陽性荷電であり、この分子に塩基性の化学的性質をもたらしている。アルギニンはコドンCGU、CGC、CGA、CGG、AGA、およびAGGのそれぞれでコードされる。用語「アルギニン」には任意の塩形態のアミノ酸も含まれる。
【0024】
本発明に関して証明されたように、アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つタンパク質を含んでいる組成物は、100 mMを超える濃度、特に少なくとも150 mMおよびそれ以上の濃度のアルギニンの存在中で、安定化される。これらの濃度中でどんな濃度も含まれる。別のタンパク質での実験から、アルギニンの濃度はタンパク質の構造および/または機能に影響せずに、2 Mまで増加することができると結論される。
【0025】
したがって、好ましい1実施形態中、本発明の組成物はアルギニンを150 mM〜2 Mの濃度で含んでいる。モラリティ(molarity)(単位mol/L、モル、もしくはM)またはモル濃度は、溶液1リッター中の所定の物質のモル数を表す。大文字Mは単位mol/Lを短縮するために使用される。
【0026】
上記のように、アルギニンの濃度は100 mMを超えるものであり、例えば以下のアルギニン濃度が含まれる: 少なくとも、110 mM、120 mM、130 mM、140 mM、150 mM、200 mM、220 mM、250 mM、275 mM、300 mM、320 mM、350 mM、375 mM、400 mM、425 mM、450 mM、475 mM、もしくは500 mM、好ましくは少なくとも110 mM、120 mM、130 mM、140 mM、150 mM、200 mM、220 mM、もしくは250 mM、特に少なくとも150 mM、200 mM、220 mMもしくは250 mM。
【0027】
上記のように、アルギニン濃度は2 Mまで増加することができ、例えば以下のアルギニン濃度が含まれる: 最大で200 mM、220 mM、250 mM、275 mM、300 mM、320 mM、350 mM、375 mM、400 mM、425 mM、450 mM、475 mM、500 mM、550 mM、600 mM、650 mM、700 mM、750 mM、800 mM、850 mM、900 mM、1 M、もしくは1.5 M、好ましくは最大で400 mM、320 mMもしくは200 mM、特に最大で320 mM。
【0028】
別の好ましい実施形態中、本発明にしたがう組成物は、200〜400 mMの濃度のアルギニンを含んでいる。
【0029】
本発明に関しては、アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つタンパク質を含んでいる組成物が、250 mM〜320 mMの濃度のアルギニンの存在中、特に310 mMアルギニンの存在中で安定化されることが証明された。
【0030】
したがって、別のさらに好ましい実施形態中、本発明の組成物はアルギニンを250 mM〜320 mMの濃度で、最も好ましくは約310 mMの濃度で含んでいる。本発明に関して使用する用語「約」は、指示した数値 ± 10 %、好ましくは± 5 %、特に ± 4 %、3 %、2 %もしくは1 %を意味する。
【0031】
イオンを含有する水性溶液は電気を通す。その結果、ある溶液の導電性の測定は、その溶液が解離イオンを含有するかどうか、および溶液中で何らかの化学反応がイオンを産生しているか消費しているかを調べるための好適な手段となり得る。しかし、どんな溶液でも、イオンを含有するものですら、この中を通る電流に対して、相当の抵抗を生み出す。電導度はこの抵抗の逆数である。すなわち、高抵抗は低電導度を意味し、低抵抗は高電導度を意味する。当分野での標準方法は、通常、回路の中に一対の電極を挿入し、その電極を1溶液中に浸漬して、ある電気回路を完成させるようにその溶液を使用することによって、その溶液の電導度を測定する。電導度センサーは、水1 cmをどれほどの電気が通されるかを測定する。比電導度はmhos/cm(M/cm)で表され、シーメンス/cm(S/cm)とも称される。mho(もしくはシーメンス)は非常に大きい単位なので、マイクロmho(マイクロシーメンス)もしくは典型的にはミリmho(ミリシーメンス)が使用される(mS/cm)。電導度は温度とともに変化するので、読み取り値を温度変化について補正する必要がある。大部分の装置は、自動的に温度について補償し、読み取り値を標準25℃に補正する回路を含有する。標準条件下で電導度を測定するのに好適な方法は当業者に知られており、これらの1つを実施例3に例示する。
【0032】
上記詳述のように、本発明の組成物に、アルギニンの外に、対象のタンパク質にとって好ましい環境を確立するのに好適な、どんな種類の塩イオン、バッファー成分および/または化学薬剤でも含ませることができる。本発明に関しては、アルファ-ガラクトシダーゼ活性を持つタンパク質がアルギニンの存在中かつ高濃度の塩の不在中、すなわち低塩条件下で安定化されることがわかった。こうした低塩条件として、限定するわけではないが、以下の1、2もしくは3価塩イオン濃度が含まれる: 最大で0.5 M、より好ましくは最大で450 mM、400 mM、350 mM、300 mM、250 mM、200 mM、150 mM、100 mM、50 mM、25 mMもしくは10 mM、特に最大で50 mM。上記の濃度数値は組成物中に存在するアルギニンを除外して想定していることに留意されたい。
【0033】
好ましい1実施形態中、本発明の組成物は約310 mMの濃度のアルギニン、および最終濃度が最大で50 mMの1、2もしくは3価塩イオンを含んでいる。別の好ましい実施形態中、本発明の組成物は最終濃度が最大で350 mMの1、2もしくは3価塩イオンを含んでいる。この1、2もしくは3価塩イオンとして、限定するわけではないが、Na+、K+、Mg++、PO43-、Ca++、Cl-、などが含まれる。
【0034】
したがって、使用する正確な塩濃度に対応して、本発明の組成物の電導度は5 mS/cm〜50 mS/cmである。
【0035】
好ましい1実施形態中、本発明の組成物の電導度は最大で40 mS/cmである。さらに別の好ましい実施形態中、本発明の組成物の電導度は15 mS/cm〜25 mS/cm、より好ましくは18 mS/cm〜22 mS/cmである。
【0036】
本明細書で使用する用語「mS/cm」は溶液cmについての電導度の単位、ミリシーメンスであり、Sは公的な単位名、Systeme Internationale(SI)である。上記詳述のように、水性溶液の電導度は当業者に知られた標準方法によって測定することができる。電導度を測定するための器具は市販されており、例えば以下などのいくつかの供給元から購入することができる: Sartorius(Gottingen、Germany)。本発明に関しては、用語「mS/cm」は+/- 0.1 mS/cmの偏差を含むものと定義される。本発明にしたがう組成物の電導度は、例えば、本出願の表2に例示されている(実施例3参照)。
【0037】
上記のように、溶液中のアルファ-ガラクトシダーゼ酵素の安定化は、このタンパク質を含有する組成物のpH値にも依存する。すなわち、組換えアルファ-ガラクトシダーゼ、特にBacteriodes fragilis由来のアルファ-ガラクトシダーゼはアルカリ性pH値(すなわちpH値 > 9.0)のバッファー中では不安定であって、酵素活性の不可逆的損失がもたらされる。本発明に関して証明されたように(例えば、実施例3参照)、本発明のアルファ-ガラクトシダーゼはアルカリ性pH値(すなわちpH値9.0および9.5)で、溶液状のままであった。
【0038】
したがって、好ましい1実施形態中、本発明の組成物はpH 5〜pH 7.5のpHである。別の好ましい実施形態中、本発明の組成物はpH 5.5〜pH 7、より好ましくはpH 5.8〜pH 6.5のpHである。
【0039】
本明細書で使用する用語「pH」とは、溶液中のH+イオンの濃度であり、pH = log10(1/[H+]) = - log10[H+]として定義される。本発明にしたがう組成物のpH値の分析は標準的方法であり、当業者に周知である。溶液中でpHを測定するための器具は、例えばMettler-Toledo(Giessen, Germany)などの、さまざまな供給元から市販されている。本発明に関して使用する用語「pH」は+/- 0.2 pH値の偏差を含むものと定義されることに留意されたい。
【0040】
上記詳述のように、対象のタンパク質をコードする特定のDNAを好適な宿主細胞(群)中に導入して、組換え手段によって相当するタンパク質を製造することができる。これらの宿主細胞はどんな種類の好適な細胞でもよいが、好ましくは例えば培養によって増殖させる、細菌または真核細胞である。この手法の第1ステップには相当する遺伝子の好適なプラスミドベクター中へのクローニングが含まれる。プラスミドベクターは遺伝子クローニングのために広く使用されており、一時的にDNAに透過性にした細菌細胞中に、容易に導入、すなわちトランスフェクトすることができる。相当する宿主細胞中でタンパク質が発現した後、細胞を収穫し、対象のタンパク質を含有する細胞抽出物の調製のための出発物質とする。この対象のタンパク質を含有する細胞抽出物は細胞の溶解によって取得する。化学的もしくは機械的細胞溶解のいずれかによって細胞抽出物を調製する方法は当業者に周知であり、限定するわけではないが、例えば、低張塩処理、ホモジナイズ、ダウンシング(douncing)または超音波処理が含まれる。
【0041】
本発明に関しては、細菌宿主細胞由来のアルファ-ガラクトシダーゼ活性を持つタンパク質を含む組成物が100 mMを超える濃度、特に少なくとも150 mMの濃度のアルギニンの存在中で安定化されることが証明された。細菌宿主細胞由来のアルファ-ガラクトシダーゼ活性を持つタンパク質を含む組成物は、場合によって、例えば下記のように、遠心分離、クロマトグラフィー、透析、もしくは限外ろ過によって加工された後の、宿主細胞のあらゆる種類の溶解物を示すことを想定している。
【0042】
したがって、好ましい1実施形態中、本発明の組成物は細菌宿主細胞から誘導される。別の好ましい実施形態中、本発明の組成物は細菌株エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)(E. coli)から誘導される。
【0043】
本明細書で使用する用語「細菌宿主細胞」とは、組換えDNA技術で適用するのに好適なあらゆる種類の細菌生物体であって、すべての既知の細菌株、特に1以上の組換えタンパク質(群)を発現させるための宿主細胞として使用することができるものが含まれる。細菌株Escherichia coli(E. coli)は十分特性決定されており、組換えタンパク質の迅速かつ経済的な製造のために最もよく使用されている発現システムである。多様なE. coli細菌宿主細胞が当業者に知られており、限定するわけではないが、DH5-アルファ、HB101、MV1190、JM109、JM101、もしくはXL−1ブルーなどの菌株が含まれ、これらは例えば以下を含む、多様な供給元から購入することができる: Stratagene(CA, USA)、Promega(WI, USA)またはQiagen(Hilden, Germany)。好適な宿主細胞および本発明にしたがうE. coli由来の組成物を、例えば、本発明の実施例5に例示する。
【0044】
本発明に関しては、本発明にしたがう組成物のタンパク質濃度は典型的には20〜30 mg/mlの範囲であることがわかった(例えば、実施例5参照)。
【0045】
したがって、好ましい1実施形態中、本発明の組成物はタンパク質濃度が少なくとも20 mg/mlである。
【0046】
本明細書で使用する用語「タンパク質濃度」とは、一般的に容積あたりで算出した本発明にしたがう組成物の総タンパク質含量(例えば、mg/ml)である。この定義には、原核もしくは真核細胞から誘導された、本発明のタンパク質を含有する総細胞抽出物のタンパク質濃度への言及も含まれ、あるいは部分的にもしくは実質的に精製された形態のいずれかの本発明のタンパク質を含む組成物のタンパク質濃度についても同等に使用される。したがって、本明細書中で言及するタンパク質濃度とは、本発明にしたがうアルファ-ガラクトシダーゼの製造方法中、またはその後の任意のステップで測定されるどのタンパク質含量についても関係する。特定の組成物のタンパク質濃度を決定するための方法は当業者に周知であり、例えば、Bradfordアッセイの使用、または単純に280 nmでのタンパク質溶液の吸光度を測定することによるものが含まれる。
【0047】
組成物中のタンパク質の濃縮は多様な標準方法によって実施することができるが、これらとして例えば、超遠心分離用フィルター器具の使用が含まれる。こうしたフィルター装置は希薄な(ng〜μg/mL)タンパク質溶液でも高回収量(典型的には > 95%)をもたらし、これには3,000、10,000、30,000、50,000〜100,000 NMWL(Nominal Molecular Weight Limit(名目分子量限界))の範囲で利用できるカットオフ値を持つフィルター膜を使用する。超遠心分離用フィルター器具は各種供給元、例えば、Millipore(MA, USA)から購入することができる。
【0048】
本発明に関しては、アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性をさらに生化学的手段によって判定した。実施例(例えば、実施例1参照)によって証明されるように、本発明のタンパク質は一般的に、組成物の総タンパク質含量について、0.5〜0.8単位/mgのアルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を提示する。
【0049】
したがって、好ましい1実施形態中、本発明の組成物は、アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性が総タンパク質について0.5〜0.8単位/mgであることを特徴とする。
【0050】
上記詳述のように、アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を決定するためのアッセイは、当分野で十分確立されており、例えば、Liuら(2007)によって詳細に記載されている。これらのアッセイでは、人工的基質、例えば、モノサッカライドGalα-pNPもしくはBテトラサッカライド-AMC基質の切断を利用する。したがって、1単位の酵素活性は、一定量の基質の存在中で一定量の反応容積を使用し、1分間に基質1μモルを切断するのに必要とされる酵素の量として定義される。酵素活性は、その後、反応容積中の基質の完全切断を基礎として比活性を決定することによって、算出する。酵素活性は実施例1に例示するようにして、測定することができる。
【0051】
本明細書で定義する用語「単位/mg」は、一般的には、上記にもあるように、生化学的手段によって判定して、総タンパク質含量1 mg(mg)についての酵素活性の単位である。この総タンパク質含量は本発明の酵素活性を含有する全細胞抽出物から誘導してもよいし、アルファ-ガラクトシダーゼ活性を持つタンパク質を含んでいる精製した組成物から誘導してもよい。
【0052】
好ましい1実施形態中、本発明のタンパク質はEC 3.2.1.22の基質特異性を持つものである。別の好ましい実施形態中、本発明の組成物は末端アルファ-1,3-ガラクトシル部分を加水分解するタンパク質を含んでいる。
【0053】
上記詳述のように、用語「EC 3.2.1.22」とは、Enzyme Commission of the International Union of Biochemistryによる、酵素の酵素反応性のタイプにしたがって、アルファ-ガラクトシダーゼの酵素クラスに割り当てられた、系統的番号である。特に、系統的番号EC 3.2.1.22は、アルファ-D-ガラクトシドの末端アルファ-D-ガラクトース残基の加水分解として、アルファ-ガラクトシダーゼの触媒機構を特定化している。本発明に関しては、アルファ-ガラクトシダーゼの触媒機構とは特に、例えば、B型赤血球上にあって、血液型B抗原を構成する、末端アルファ-1,3-ガラクトシダーゼ残基の加水分解を称する。
【0054】
アルファ-ガラクトシダーゼは広範囲の生物体中に見られる。
【0055】
したがって、好ましい1実施形態中、アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つタンパク質を含んでいる本発明の組成物は、そのタンパク質が天然に生起するタンパク質であることを特徴とする。あるいは、本発明のタンパク質は、この天然に生起するタンパク質の機能的に活性な断片または誘導体である。
【0056】
さらに別の好ましい実施形態中、本発明のタンパク質はヒト、動物、植物、真菌および細菌からなる群から選択される生物体から誘導される。
【0057】
本発明に関しては「天然に生起するタンパク質」は、一般的にどんな種類でも生きている生物体に天然に見られ、その生物体の組織、液体、および/または任意の種類の個々の細胞からそのまま単離することができるタンパク質を表す。その上、この天然に生起するタンパク質は生物体全体から、例えば、そのタンパク質を含んでいる生物体の全細胞抽出物を調達することによって、さらに単離することができる。この天然に生起するタンパク質の起源となり得る生物体として、限定するわけではないが、ヒト、動物(昆虫を含む)、コーヒー植物などの植物、真菌(酵母を含む)、およびシュードアルテロモナス(Pseudoalteromonas)属の種もしくはバクテロイデス(Bacteroides)属の種の細菌が含まれる。
【0058】
本明細書で使用する用語「機能的に活性な断片もしくは誘導体」とは、アルファ-ガラクトシダーゼ活性を持つ天然に生起するタンパク質のアミノ酸配列を部分的に、置換されて、または修飾形態でのいずれかで含んでいる、アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を表すあらゆる種類のタンパク質である。
【0059】
すなわち、本発明の機能的に活性な断片には、アルファ-ガラクトシダーゼ活性を持つ天然に生起するタンパク質を起源として、これを誘導した野生型タンパク質と同一の酵素活性を表示するタンパク質ドメイン(群)が含まれる。こうした機能的に活性な断片は、対象のタンパク質ドメインのN-末端、C-末端もしくは中央部、またはその任意の組み合わせのいずれかで構成されている。
【0060】
さらに、機能的に活性な誘導体は、野生型配列が存在していて、このほかに別のアミノ酸を、例えば、N-もしくはC-末端延長部分および/または内部タンパク質ドメインの一部として含んでいるものでもよい。
【0061】
機能的に活性な断片はさらに構造的様相に特徴がある。したがって、本発明の好ましい1実施形態中、機能的に活性な断片は、アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つ天然に生起するタンパク質、例えば、Bacteroides fragilisからのアルファ-ガラクトシダーゼ(菌株ATCC 25285(American Type Culture Collection, Manassas, Virginia USA)、NCTC 9343(National Collection of Type Cultures, London, UK)とも命名)など、の少なくとも60 %、好ましくは少なくとも70 %、より好ましくは少なくとも80 %、さらにより好ましくは少なくとも90 %、さらにより好ましくは少なくとも95 %、最も好ましくは99 %からなる。こうした断片の1例は、SEQ ID NO: 1で示すタンパク質である。上記定義の機能的に活性な断片はこのタンパク質から1以上のアミノ酸欠失によって誘導してもよい。欠失はC-末端、N-末端および/または内部におけるものでもよい。
【0062】
配列同一性のパーセンテージは例えば配列アラインメントによって決定することができる。比較のための配列アラインメントの方法は当分野で周知である。各種プログラムおよびアラインメントアルゴリズムが、例えば、Smith and Waterman(1981)またはPearson and Lipman(1988)に記載されている。
【0063】
配列分析プログラムblastp、blastn、blastx、tblastnおよびtblastxと組み合わせて使用するために、NCBI Basic Local Alignment Search Tool(BLAST)(Altschulら、1990)が、National Center for Biotechnology Information(NCBI, Bethesda, MD)およびインターネットなどのいくつかの供給源から、入手可能である。
【0064】
アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つタンパク質の機能的に活性な誘導体は、タンパク質の配列変更(1以上のアミノ酸欠失、置換および/または付加)によって取得できるが、この際、配列変更したタンパク質は未変更のタンパク質の機能、すなわちグリコ脂質およびグリコタンパク質からの末端アルファ-ガラクトシル部分を加水分解する能力を保持しているものである。こうした配列変更として限定するわけではないが、保存的置換、欠失、突然変異および挿入が含まれる。ただし、この機能的に活性な誘導体はアルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を提示するものである。機能的に活性な断片もしくは誘導体のこの特徴は、例えば、実施例1で詳述するようにして、評価することができる。
【0065】
その上、本発明の機能的に活性な誘導体は、限定するわけではないが、例えば、リン酸化、アセチル化、ユビキチン化、および/またはスモ(SUMO)化された残基を含む、1以上の修飾アミノ酸を含んでいてもよい。本発明の機能的に活性な誘導体はさらに、例えば、蛍光標識部分分子などのあらゆる種類の化学的標識を含んでいてもよい。上記詳述のように、天然に生起するアルファ-ガラクトシダーゼの機能的に活性な断片もしくは誘導体は、人工基質の切断を可視化することによってタンパク質の酵素活性を判定する、標準的アッセイによって同定し、かつ生化学的に特性決定することができる。こうしたアッセイは当分野で周知であり、例えば、Liuら(2007)が記載している。
【0066】
用語「機能的に活性な誘導体」には、アレレ変異体、および突然変異体またはその他の天然に生起しないどんな変異体でも含まれる。当分野で知られているように、アレレ変異体は、基本的にポリペプチドの生物学的機能を変更しない、1以上のアミノ酸の置換、欠失または付加を持つことを特徴とする、(ポリ)ペプチドの変化形態である。「生物学的機能」とは、天然に生起する細胞中でのそのポリペプチドの機能を意味し、その機能はこの細胞の生長もしくは生存に必須でない場合もあり得る。例えば、ポーリンの生物学的機能は、細胞外媒体中に存在する化合物の細胞内への進入を可能にするものである。この生物学的機能は抗原性機能とは別のものである。1個のポリペプチドが2以上の生物学的機能を持つこともある。
【0067】
本発明に関しては、機能的に活性な断片もしくは誘導体は、その断片もしくは誘導体の活性が、配列変更されていないタンパク質の少なくとも10 %、好ましくは少なくとも25 %、より好ましくは少なくとも50 %、さらにより好ましくは少なくとも70 %、さらにより好ましくは少なくとも80 %、特に少なくとも90 %、特に少なくとも95 %、最も好ましくは少なくとも99 %になる場合に、アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つものとする。
【0068】
好ましい1実施形態中、天然に生起するタンパク質からアミノ酸交換、欠失もしくは挿入によって誘導された、機能的に活性な誘導体もしくは断片は、酵素活性を保存していてもよく、あるいはより好ましくはこれを改良する。
【0069】
本発明のさらにより好ましい実施形態中、アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つ天然に生起するタンパク質の機能的に活性な誘導体は、そのタンパク質と少なくとも50 %、特にそのタンパク質と少なくとも60 %、好ましくは少なくとも70 %、より好ましくは少なくとも80 %、さらにより好ましくは少なくとも90 %、さらにより好ましくは少なくとも95 %、最も好ましくは99 %の配列同一性を持ち、そして好ましくは、そのタンパク質は保存的置換によって誘導される。保存的置換はその側鎖および化学的性質に関連性があるファミリーのアミノ酸間で発生するものである。こうしたファミリーの例は以下を持つアミノ酸である: 塩基性側鎖、酸性側鎖、非極性脂肪族側鎖、非極性芳香族側鎖、非荷電極性側鎖、小分子側鎖、大分子側鎖、その他。1実施形態中、ペプチド内に1個の保存的置換が含まれる。別の実施形態中、ペプチド内に2個もしくはそれ以下の保存的置換が含まれる。さらに別の実施形態中、ペプチド内に3個もしくはそれ以下の保存的置換が含まれる。
【0070】
保存的アミノ酸置換の例として、限定するわけではないが、以下に列挙するものが含まれる。
【0071】
当初残基 保存的置換基
Ala Ser
Arg Lys
Asn Gln; His
Asp Glu
Cys Ser
Gln Asn
Glu Asp
His Asn; Gln
Ile Leu; Val
Leu Ile; Val
Lys Arg; Gln; Asn
Met Leu; Ile
Phe Met; Leu; Tyr
Ser Thr
Thr Ser
Trp Tyr
Tyr Trp; Phe
Val Ile; Leu
本発明のタンパク質をさらに、エピトープタグの1つであって、抗タグ物質が選択的に結合することができる1エピトープを提供するものに融合させることができる。エピトープタグは一般的にペプチドのアミノ-もしくはカルボキシル-末端に置かれるが、生物学的活性が許す限り、内部挿入もしくは置換によって組み込んでもよい。こうしたエピトープタグを付けた形態のペプチドの存在を、このタグを付けたペプチドに対する抗体などの物質を使用して、検出することができる。また、エピトープタグの付設によって、そのペプチドを、抗タグ抗体もしくはエピトープタグに結合するその他のタイプのアフィニティマトリックスを使用するアフィニティ精製によって、容易に精製することが可能になる。各種のタグポリペプチドおよびそれに対応する抗体は当分野で周知である。例として、以下が含まれる: ポリ-ヒスチジン(poly-his)、ポリ-ヒスチジン-グリシン(poly-his-gly)タグ、HAタグポリペプチド、c-mycタグ、StrepタグおよびFLAGタグ。
【0072】
本発明に関しては、用語「細菌」には微生物細胞のすべての変異体が含まれ、その例として、限定するわけではないが、偏性嫌気性グラム陰性微生物、好ましくは以下の微生物が含まれる: バクテロイデス(Bacteroides)属、Bacteroides caccae、Bacteroides distasonis、Bacteroides eggerthii、Bacteroides fragilis、Bacteroides merdae、Bacteroides ovatus、Bacteroides stercoris、Bacteroides thetaiotaomicron、Bacteroides uniformis、およびBacteriodes vulgatusなど。
【0073】
好ましい1実施形態中、本発明の組成物は細菌生物体Bacteroides fragilis由来のアルファ-ガラクトシダーゼ活性を持つタンパク質、より好ましくはBacteroides fragilisアルファ-ガラクトシダーゼの何らかの天然に生起する形態を含んでいる。
【0074】
本発明に関しては、Bacteroides fragilis由来のアルファ-ガラクトシダーゼ活性を持つタンパク質は、B.fragilis内にある2種のアルファ-ガラクトシダーゼ相同体のいずれかである。2種の相同体、すなわちアルファ-ガラクトシダーゼAおよびアルファ-ガラクトシダーゼB、はそれぞれ遺伝子galAおよびgalBによってコードされている。これらの酵素はそれぞれ605および595アミノ酸からなる。Bacteroides fragilis由来のアルファ-ガラクトシダーゼ活性を持つタンパク質は、血液型B抗原の分枝アルファ-1,3-連結ガラクトース残基および線状アルファ-1,3-連結ガラクトース構造の両方を除去する。このタンパク質の触媒活性として以下が含まれる: ガラクトースオリゴサッカライド、ガラクトマンナンおよびガラクトヒドロラーゼを含むアルファ-D-ガラクトシド中の、末端、非還元性線状アルファ-1,3-連結ガラクトース残基の加水分解、末端、非還元性分枝アルファ-1,3-連結ガラクトース残基の加水分解、および末端、非還元性アルファ-D-ガラクトース残基の加水分解。
【0075】
別の好ましい実施形態中、本発明の組成物は、アミノ酸配列SEQ ID NO: 1を含むか、これからなる、Bacteroides fragiles由来のアルファ-ガラクトシダーゼの断片を含んでいる。さらに別の好ましい実施形態中、組成物は機能的に活性なその何らかの誘導体または断片を含んでいる。
【0076】
本明細書で言及する用語「SEQ ID NO: 1」は、SEQ ID NO: 1(図3にも示す)で示されるアミノ酸配列を表し、B. fragiles NCTC(National Collection of Type Cultures, London, UK)9343(菌株ATCC 25285(American Type Culture Collection, Manassas, Virginia USA)、fragAとしても指定)内にあるアルファ-ガラクトシダーゼのアミノ酸配列を表す。SEQ ID NO: 1のアミノ酸配列は、EMBL(European Molecular Biology Laboratory, Heidelberg, Germany)Nucleotide Sequence Database Accession No. AM109955によって、同定される。
【0077】
これとの関係で、用語「機能的に活性なその誘導体もしくは断片」とは、一般的に上記詳述の定義である。特に、これはSEQ ID NO: 1のアミノ酸を含むか、またはこれからなるどんな種類の断片および誘導体でも相当し、限定するわけではないが、アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を表し、アルファ-ガラクトシダーゼ活性を持つ天然に生起するタンパク質の断片および誘導体について上記定義したものより小さい断片、またはこの他に別のアミノ酸を含むあらゆる断片が含まれる。この別のアミノ酸はそのタンパク質のN-末端、C-末端または内部ドメインの一部のいずれかに存在させることができる。この別のアミノ酸はさらに、限定するわけではないが、以下などのアフィニティ精製タグを含んでいてもよい: 例えば、6x His-、GST-、NusA-、NusB-、またはProtein A-タグ。こうしたアフィニティタグは一般に当業者に知られており、組換えタンパク質発現に関連して常套的に使用される。その上、SEQ ID NO: 1の機能的に活性な誘導体もしくは断片は、SEQ ID NO: 1に示すアミノ酸もしくはその一部からなるか、これを含み、1以上の修飾アミノ酸(群)もしくは何らかのその他の種類の化学修飾(群)を含んでいる、どんなタンパク質も含まれる。上に詳述したように、機能的に活性な誘導体もしくは断片の酵素活性は、当業者に知られた標準的方法によって決定することができる(例えば、Liuら、2007参照)。
【0078】
好ましくは、本発明の組成物は、
(i) アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つ、天然に生起するタンパク質、好ましくはSEQ ID NO: 1のアルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つタンパク質、および
(ii) 250 mM〜320 mMの濃度のアルギニン、
を含んでいて、
(iii) 電導度が20 mS/cm ± 0.1 mS、
であることを特徴とする。
【0079】
別の好ましい実施形態中、本発明の組成物は、
(i) アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つ、天然に生起するタンパク質、好ましくはSEQ ID NO: 1のアルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つタンパク質、および
(ii) 250 mM〜320 mMの濃度のアルギニン、
を含んでいて、
(iii) pHが5.8〜6.2、
であることを特徴とする。
【0080】
より好ましくは、本発明の組成物は、
(i) アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つ、天然に生起するタンパク質、好ましくはSEQ ID NO: 1のアルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つタンパク質、および
(ii) 250 mM〜320 mMの濃度のアルギニン、
を含んでいて、
(iii) 電導度が20 mS/cm ± 0.1 mS、かつ
(iv) pHが5.8〜6.2、
であることを特徴とする。
【0081】
最も好ましくは、本発明の組成物は、
(i) アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つ、天然に生起するタンパク質、好ましくはSEQ ID NO: 1のアルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つタンパク質、および
(ii) 250 mM〜320 mMの濃度、好ましくは310 mMの濃度のアルギニン、および
(iii) 50 mM以下の濃度の1、2、もしくは3価塩イオン、
を含んでいて、
(iv) 電導度が20 mS/cm ± 0.1 mS、かつ
(v) pHが5.8〜6.2、
であることを特徴とする。
【0082】
上に記載した実施形態に関して、本発明の組成物がアルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つ、天然に生起するタンパク質の機能的に活性な断片もしくは誘導体、またはSEQ ID NO: 1のタンパク質の機能的に活性な断片もしくは誘導体を含んでいることが、いずれも同等に好ましい。
【0083】
本発明に関して、タンパク質組成物へのアルギニンの添加がアルファ-ガラクトシダーゼの安定化をもたらすことがさらに証明された。
【0084】
したがって、別の態様中、本発明はアルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つタンパク質を含んでいる水性組成物を安定化する方法であって、100 mMを超える最終濃度、特に少なくとも150 mMになるようにアルギニンを組成物に添加するステップを含んでいることを特徴とする、方法を提供する。
【0085】
これとの関連で、用語「水性組成物」、「アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つタンパク質」、「アルギニン」および「濃度」は上記詳述の通りであると解釈されたい。
【0086】
本発明に関して使用する用語「安定化する」または「安定化」には、対象のタンパク質を溶液中で安定化または保持することを促進し、かつ/または可能にする、あらゆる種類の工程が含まれ、任意の温度、例えば4℃〜37℃での対象のタンパク質の可溶化を促進し、かつ/または可能にする任意の工程が含まれる。タンパク質の可溶化および/または安定化として限定するわけではないが、沈殿および/または凝集生成物(群)の出現がないことが含まれ、その存在および/または不在は、例えば以下などの当分野で既知の標準的方法によって分析することができる: 目視検査による分析、光学密度測定による分析、例えば、安定化されたタンパク質を含有する、それぞれの組成物の総タンパク質含量の判定など、および/または標準的生化学技法(例えば、SDS-polyacrylamidゲル電気泳動)を使用するタンパク質分析。用語「安定化する」または「安定化」には、タンパク質の酵素触媒反応の実行可能性もさらに含まれる。特に、本発明に関しては、本発明の方法にしたがって安定化されたタンパク質は、アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性、より特定化すると、1,3-連結ガラクトシダーゼ残基の加水分解性を提示する。上記既述のように、この酵素活性は当業者に知られた生化学標準アッセイによって判定および評価することができる(例えば、Liuら、2007参照)。その上、本発明にしたがうタンパク質の安定化には、対象のタンパク質を溶液中で、沈殿および/または凝集によるタンパク質の損失を伴わずに、少なくとも20 mg/mlの濃度まで実際に濃縮する可能性も含まれる。
【0087】
好ましい1実施形態中、この安定化された組成物は、本発明の水性組成物との関連で上に詳述した実施形態中のいずれによっても特徴づけられる。
【0088】
本発明に関しては、アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つタンパク質を、100 mMを超える濃度、好ましくは少なくとも150 mMの濃度のアルギニンの存在中で安定化させたとき、イオン交換クロマトグラフィー、特にカチオン交換クロマトグラフィーの使用によって、精製することができることがさらに証明された。本発明に関しては、カチオン交換クロマトグラフィーの適用は、本発明にしたがってタンパク質を安定化させないと、不可能であった。
【0089】
したがって、別の態様中、本発明はアルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つ精製されたタンパク質を含んでいる水性組成物を調製する方法であって、以下のステップを含む方法を提供する:
(a) アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つタンパク質を含有する組成物を提供し、
(b) ステップ(a)の組成物を、100 mMを超える濃度、特に少なくとも150 mMのアルギニンの存在中で濃縮し、そして
(c) ステップ(b)の組成物をカチオン交換クロマトグラフィーによって精製する。
【0090】
これに関して、用語「水性組成物」、「アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つタンパク質」、「アルギニン」および「濃度」は上記詳述のとおりであると理解されたい。
【0091】
本発明に関して使用する用語「組成物を提供し」とは、対象のタンパク質を含有する組成物を調製するのに好適なすべての種類の操作法である。これらの操作法として、限定するわけではないが以下が含まれる: 対象のタンパク質を含有する任意の種類の生物体から誘導される全細胞抽出物の調製、特定の種類の細胞、例えば培養によって増殖させた、対象のタンパク質を含有するもの、からの総細胞抽出物の調製、限定するわけではないが、対象のタンパク質の組換え体を発現する細菌宿主細胞から誘導される総細胞抽出物の調製など、またはその他の任意の手段によるタンパク質組成物の調製。上記詳述のように、細胞抽出物の調製として、例えば以下などの、培養物から細胞を収穫するのに必要なすべての種類のステップが含まれる: 多様な遠心分離および/もしくは分画ステップ、あるいは機械的もしくは化学的手段、限定するわけではないが、例えば、細胞の多数回凍結および/もしくは解凍サイクルならびに/または超音波処理などによる、細胞の溶解ステップ。
【0092】
好ましくは、この組成物は水性組成物である。用語「水性組成物」は、上記詳述の通りであると理解されたい。
【0093】
本明細書で使用する用語「組成物の濃縮」とは、組成物および/または溶液の既定のタンパク質濃度についての何らかの増強である。こうした増強は、生化学的標準方法によって達成することができる。こうした方法は当業者に周知であって、例えば、超遠心分離フィルター器具の使用による、透析および/または限外ろ過(すなわちダイアフィルターろ過)が含まれる。上記詳述のように、こうしたフィルター器具は、3,000、10,000、30,000、50,000〜100,000 NMWL(Nominal Molecular Weight Limit(名目分子量限界))の範囲で利用できるカットオフ値を持つフィルター膜を使用するが、これは各種供給元、例えば、Millipore(MA, USA)から購入することができる。
【0094】
一般的に、タンパク質は、その溶解性、サイズ、荷電、および特異的結合親和性などの特徴に基づいて、精製することができる。すなわち、タンパク質はその正味荷電に基づいて、イオン交換クロマトグラフィーによって分離されることが多い。
【0095】
本発明に関して使用する用語「カチオン交換クロマトグラフィー」は、陽性荷電したタンパク質(すなわち本発明のタンパク質などの、中性pHで正味陽性荷電しているカチオン性タンパク質)を、カルボキシメチル-セルロース(CM-セルロース)またはカルボキシメチル-アガロース(CM-アガロース)などの、カルボキシラート基を含有する陰性荷電した樹脂に結合させることができる、すべての種類の操作法である。その後、こうした樹脂に結合させた陽性荷電タンパク質を、溶出バッファー中の塩化ナトリウムもしくは別の塩の濃度を増加させることによって、溶出させることができる。なぜならば、ナトリウムイオンは、カラムへの結合について、タンパク質表面の陽性荷電基と競合するからである。当業者は、カチオン交換クロマトグラフィーにより、特定の樹脂への結合によって、対象のタンパク質をその他のタンパク質から分離することができる。その操作法には、結合したタンパク質の洗浄と、濃度を増加させていく塩の存在中でのそのタンパク質の溶出が含まれる。したがって、本発明にしたがうカチオン交換クロマトグラフィーによって、当業者は生化学的手段により、アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つタンパク質を天然の状態で高収率で精製することが可能になる。本発明にしたがうカチオン交換クロマトグラフィーは、例えば本発明の実施例6に例示されている。
【0096】
好ましい1実施形態中、ステップ(b)の組成物は、上記のどの実施形態で定義されるものでもよい。
【0097】
通常、タンパク質混合物は、純粋タンパク質を生成させるため、それぞれ別々の性質に基づく一連の分離ステップにかけられる。
【0098】
したがって、別の好ましい実施形態中、本発明の方法は、(i) ステップ(b)の前および/または後、ならびに/あるいは(ii) ステップ(c)の前および/または後に、さらに1以上の別の精製ステップ(群)を含んでいる。
【0099】
本明細書で使用する用語「別の精製ステップ(群)」は、対象のタンパク質の精製を支援かつ/または可能にするあらゆる種類の生化学的方法である。こうした標準的方法は当業者に周知であり、例えば以下が含まれる: 塩析、透析、(限外)ろ過、(超)遠心分離、ゲルろ過クロマトグラフィー、アニオン交換クロマトグラフィー、および/またはアフィニティクロマトグラフィー。
【0100】
詳述すると、塩析は、大部分のタンパク質が例えば高塩濃度で溶解度が低下するという効果に基づくものであ。タンパク質が沈殿する塩濃度はタンパク質間で異なっている。したがって、塩析を使用して、例えば硫酸アンモニウムの使用により、タンパク質を互いに分画し、それによって分離することができる。塩析は、別の精製ステップから得られた活性画分などの、タンパク質の希薄溶液の濃縮のためにも有用である。
【0101】
透析を使用して、半透膜、例えば一定サイズの孔を持つセルロース膜によって、タンパク質を例えば小分子から分離することができる。その孔径より大きい直径を持つ分子は透析バッグ中に残留し、一方これより小さい分子およびイオンはこうした膜の孔を通過する。
【0102】
(限外)ろ過を使用して、例えば、タンパク質を組成物のその他の成分からさらに分離することができる。使用することができるフィルター材料は以下である: 硝酸セルロース、酢酸セルロース、PVC、Teflonまたはセラミック膜、例えば酸化ジルコニウム製のもの。フィルターは個別の膜でも、例えばモジュールなどの膜システムに組み立てられたものでもよい。モジュールはチューブ型モジュール、スパイラル型モジュールもしくは巻き込み型モジュールまたは中空糸型モジュールでもよい。フィルターの孔径はおよそ5μmまで、好ましくは4μm、より好ましくは3μmおよび最も好ましくは1μmである。限外ろ過のために使用する孔径は好ましくは100 000 NMGT(Nominal Molecular Weight Limit)以下、より好ましくは75 000 NMGT以下、さらにより好ましくは50 000 NMGT以下、そして最も好ましくは30 000 NMGT以下である。滅菌ろ過のために使用するフィルターの孔径は好ましくは0.8μm以下、より好ましくは0.6μm以下、さらにより好ましくは0.4μm以下および最も好ましくは0.22μm以下である。ろ過または限外ろ過に使用するフィルター器具は、例えば、Sartorius(Gottingen, Germany)またはMillipore(MA, USA)などの多様な供給元から市販されている。
【0103】
タンパク質のそのサイズに基づく分離を実行するために、ゲルろ過クロマトグラフィーを使用することができる。デキストラン、アガロースもしくはポリアクリルアミドなどの不溶性であるが高度水和ポリマー製の多孔質ビーズで構成されたカラムに、タンパク質を通す。一般的に使用されるこれらのビーズの市販の調製品として、限定するわけではないが、Sephadex、Sepharose、Biogelが含まれ、典型的には直径が100μmである。
【0104】
アニオン交換クロマトグラフィーを使用して、陽性荷電したジエチルアミノエチル-セルロース(DEAE-セルロース)樹脂および/または膜にタンパク質を結合させることによって、陰性荷電したタンパク質(アニオン性タンパク質)を分離することができる。本発明にしたがう精製した組成物を提供するのに好適なアニオン交換クロマトグラフィーの1例は、例えば実施例6に詳述する。
【0105】
アフィニティクロマトグラフィーは多くのタンパク質の特異的化学基についての高親和性の利点を利用する技法であり、特定の基を認識するタンパク質を単離するために、以下によって効果的に使用することができる: (1) その基もしくはその誘導体をカラムに共有結合させ、そして(2) このカラムにタンパク質の混合物を添加し、その後これをバッファー洗浄して、非結合タンパク質を除去し、そして(3) 高濃度の可溶性形態のその基を添加するか、または結合親和性を低下させる条件に変更することによって、所望のタンパク質を溶出させる。一般的に、アフィニティクロマトグラフィーは、タンパク質と「仕掛け(bait)」として使用する分子の相互作用が高度に特異的である場合に、最も効果的である。
【0106】
その上、本発明にしたがう方法(群)の各ステップで、例えば、サンプルのその後の処理工程を実施する前に、その正確なタンパク質濃度を決定するために、本発明の組成物をさらに分析することもできる。
【0107】
本発明の好ましい1実施形態中、本発明の組成物を基本的に実施例5に記載したようにして、調製する。すなわち、アルファ-ガラクトシダーゼ(例えば、B-zymeまたはSEQ ID NO: 1のタンパク質)を好適な宿主細胞、例えば、E. coli HB101中で発現または過剰発現させる。この宿主細胞を(例えば、解凍および/またはAPV高圧器具によって)溶解させ、そしてタンパク質を精製によって単離する。この目的のため、溶解物を、
(i) 例えば、ポリミン沈殿によって核酸を除去する処理をし;
(ii) 例えばアルギニン、例えば250〜320 mMアルギニンを含有するバッファー中での遠心分離および/または限外ろ過によって、アルギニンの存在中で濃縮し; かつ/あるいは
(iii) クロマトグラフィー方法、例えば、カチオン交換クロマトグラフィーおよび、場合によってアニオン交換クロマトグラフィーによって精製する。
【0108】
より好ましい実施形態中、溶解物を、
(i) 例えば、ポリミン沈殿によって核酸を除去する処理をし;
(ii) 例えばアルギニン、例えば250〜320 mMアルギニンを含有するバッファー中での遠心分離および/または限外ろ過によって、アルギニンの存在中で濃縮し; かつ
(iii) クロマトグラフィー方法、例えば、カチオン交換クロマトグラフィーおよび、場合によってアニオン交換クロマトグラフィーによって精製する。
【0109】
以下の図面および実施例は本発明の各種実施形態を説明することを意図している。この中で、考察した特定の改変は本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。本発明の範囲から離れることなく、各種均等物、変更、および改変を実施することができることは、当業者に明らかであり、したがってこうした同等な実施形態が本明細書に含まれるものと解釈すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】標準ゲル電気泳動を使用して、4-20 % Tris/グリシンSDSポリアクリルアミドゲル上で分離後、本発明の方法によって取得した、精製されたアルファ-ガラクトシダーゼタンパク質を示す図である。精製されたタンパク質はCoomassie Blue(Simply blue(登録商標), Invitrogen, CA, USA)でゲルを染色することによって可視化した。
【0111】
使用バッファー: Mes 1x; Marker: Mark 12(登録商標)(Invitrogen, CA, USA)
レーン 1: 分子量マーカー(Mark 12(登録商標), Invitrogen, CA, USA)
レーン 2: アルファ-ガラクトシダーゼ(B-zyme)3μg
レーン 3: アルファ-ガラクトシダーゼ(B-zyme)4.5μg
レーン 4: アルファ-ガラクトシダーゼ(B-zyme)9μg
【図2】精製されたアルファ-ガラクトシダーゼ(B-zyme)のHPLC分析を示す図である。
【0112】
タンパク質サンプル(タンパク質1.5 mg/ml)100μgをTSK 3000(Tosoh Bioscience GmbH, Stuttgart, Germany)カラム上に適用した。
【図3】生物体Bacteroides fragilisからの総長572アミノ酸(aa)のアルファ-ガラクトシダーゼ断片(fragA)のアミノ酸配列(SEQ ID NO: 1)を示す図である。このタンパク質は算出分子量が64564.8 Da、そして算出等電点が6.72である。
【0113】
(実施例)
【実施例1】
【0114】
アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性の試験
アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を、基本的に既述(Liuら、2007)の通りにして測定した。合成基質として、4-ニトロフェニル-α-D-ガラクトシドを使用した。p-ニトロ-フェノールの放出を、100 mMリン酸ナトリウム、50 mM塩化ナトリウムを含有する反応バッファー、pH 6.8中、26℃で、405 nmの波長で追跡した。
【実施例2】
【0115】
添加剤についてのスクリーニング
部分的に精製されたアルファ-ガラクトシダーゼの溶解性を改善するため、多様な添加剤を試験した。ポリミン沈殿ステップ(下記実施例5参照)の上清をサンプルとして使用した。
【0116】
詳述すると、バッファー物質(50 mM Tris、20 mM塩化ナトリウム、pH 7.0)および各種濃度の添加剤を含有する多様なバッファーを調製した(表1)。タンパク質約20 mg/mlを含有する上清のアリコートを、それぞれのバッファーに対して、室温でダイアフィルターろ過した。ダイアフィルターろ過ステップ中、アルファ-ガラクトシダーゼ溶液の外観を、サンプルの目視検査によってモニターした。サンプルの大部分で、ダイアフィルターろ過中に、アルファ-ガラクトシダーゼの沈殿が発生した。
【0117】
例えば界面活性剤、尿素および糖類などの一般的な添加剤は、この酵素を可溶化することができなかった。表1に示すように、L-アルギニンが酵素を溶液中で保持するのに好ましい添加剤であることがわかった。
【0118】
表1に、アルファ-ガラクトシダーゼの溶解性に対する添加剤の影響を示す。
【表1】


【0119】
表1に示した結果によって証明されたように、アルファ-ガラクトシダーゼは100 mMを超える最終濃度、少なくとも150 mMなどのアルギニンの存在中でのみ、安定化された。
【実施例3】
【0120】
バッファー条件のスクリーニング
アルファ-ガラクトシダーゼの溶解性を特性決定するため、各種バッファー条件を試験した。この目的のため、サンプルとして、ポリミン沈殿ステップの上清(実施例5参照)を使用した。50 mMリン酸ナトリウムバッファー中で、pH 4.5〜pH 9.5の範囲を試験した。
【0121】
表2に示すように、各種電導度についても試験した。それぞれのバッファー溶液に、塩化ナトリウム原溶液のアリコートを添加することによって、電導度を調整した。サンプルの目視検査によって、アルファ-ガラクトシダーゼ溶液の外観をモニターした。表2に示すように、酵素は酸性および中性バッファー条件(pH 7.5未満のpH値)下で沈殿した。それより高いpH値では、溶液中に残留した。バッファーの電導度は、試験した条件下では溶解性に影響しなかった。
【0122】
表2に、アルファ-ガラクトシダーゼの溶解性に対するpHおよび電導度の影響を示す。
【表2】

【0123】
表2に示した結果は、このタンパク質がpH 9.0または9.5で溶液として保たれることを意味している。しかし、このタンパク質はpH値が高いと、活性を失うことがわかった。
【実施例4】
【0124】
タンパク質測定
280 nmでのタンパク質吸光度を測定することによって、それぞれの画分およびプールのタンパク質濃度を判定した。タンパク質濃度の測定は当分野で既知の標準的方法である。組換えアルファ-ガラクトシダーゼについては、分子減衰係数1.279を使用して、酵素の濃度を算出した。
【実施例5】
【0125】
アルファ-ガラクトシダーゼ(B-zyme)の調製
組換えアルファ-ガラクトシダーゼを過剰発現したE.coli HB101細胞を出発物質として使用して、安定化されたアルファ-ガラクトシダーゼ(B-zyme)の組成物を調製した。その調製は、細胞溶解および核酸の分離後、限外ろ過、およびその後の透析ステップによって、実施した。この調製工程で、安定な組換えアルファ-ガラクトシダーゼ酵素(B-zyme)の組成物が生成されるので、これを保存するか、または次の精製操作のために使用することができる。
【0126】
以下のバッファーを使用した。
【0127】
バッファーA: 50 mM Tris/HCl、20 mM NaCl、pH 7.5 +/- 0.2(6 mS/cm +/- 0.1)
バッファーB: 50 mMリン酸ナトリウム、310 mM L-アルギニン、pH 6.0 +/- 0.2(20 mS/cm +/- 0.1)
細胞溶解:
凍結E. coli細胞260 g(乾燥量; 湿潤量約1000 gと等量)に、バッファーA 3.6 lを添加した。細胞を解凍して懸濁させた。その後、氷上で懸濁液を冷却しながら、APV高圧器具(750〜800 bar)によって、細胞を溶解させた。精製操作の以下のステップを室温で実施した。
【0128】
核酸の沈殿:
細胞溶解後、粗抽出物中に存在する核酸を、ポリミン沈殿によって除去した。この目的のため、抽出物にに3 M塩化ナトリウムの一部(容積の10 %)を、最終濃度が300 mMになるように、添加した。必要ならば、4 N NaOHまたは4 N HClのいずれかを使用して、pH値をpH 7.5 ± 0.2に再調整した。その後、核酸の完全な沈殿が得られるまで、ポリミンP溶液(10 %)を段階的に添加した。その後、溶液を5000 rpmで10分間遠心分離した。得られた上清を、場合によって4℃で一晩保存した後、次の濃縮ステップに供した。
【0129】
濃縮および限外ろ過(すなわちダイアフィルターろ過):
遠心分離ステップ後に得られる透明な上清(すなわちポリミンP上清)は、典型的にはタンパク質濃度が20〜30 mg/mlである。Amicon Ultra 4(登録商標)(Millipore, MA, USA)膜を使用して、この上清を濃縮した。濃縮したポリミンP上清を場合によって4℃で保存した。次に、上清を、限外ろ過器によってダイアフィルターろ過した。この目的のため、30 kDa膜(例えば、Pellicon 2, Millipore, MA, USA)を使用した。最初に、30 kDa膜(例えば、Pellicon 2, Millipore, USA)を使用して、溶液を濃縮し、その後、5倍容積のバッファーB(HCl 25 %でpHを調整)に対して、十分に透析(ダイアフィルターろ過)した。透析ステップの結果、0.5〜0.8 U/mgの比活性を持つ、安定化されたアルファ-ガラクトシダーゼの組成物となる。
【0130】
アルギニンの添加によって、タンパク質の沈殿を伴わずに、アルファ-ガラクトシダーゼを含む組成物のダイアフィルターろ過が可能である。上に設定した操作によって、Poros(登録商標)HS 50(Applied Biosystems, Darmstadt, Germany)上のイオン交換クロマトグラフィーによるタンパク質のさらなる精製も可能になる。
【実施例6】
【0131】
アルファ-ガラクトシダーゼ(B-zyme)の精製
クロマトグラフィー方法によって、精製を実施した。2つの連続したクロマトグラフィーを実施した。最初のクロマトグラフィーステップ中、アルファ-ガラクトシダーゼをカチオン交換樹脂に結合させ、そして高塩処理によってカラムから溶出させた。第2のクロマトグラフィーステップ中、この酵素をアニオン交換樹脂に適用し、流下物から取得した。この精製工程で、組換えアルファ-ガラクトシダーゼ酵素が高度に精製された品質で生成した。
【0132】
以下のバッファーを使用した:
バッファーC: 50 mMリン酸ナトリウム、0.043 M L-アルギニン、pH 6.0 +/- 0.2(7 mS/cm +/- 0.1)
バッファーD: 50 mMリン酸ナトリウム、0.043 M L-アルギニン、350 mM NaCl; pH 6.0 +/- 0.2(40 mS/cm +/- 0.1)
バッファーE: 20 mM Tris/HCl、60 mM NaCl、pH 8.0 +/- 0.2(7.5 mS/cm +/- 0.1)
バッファーF: 25 mMリン酸ナトリウム、0.3 M NaCl、pH 7.0 +/- 0.2(>30 mS/cm)。
【0133】
提示したすべてのpH値は+/- 0.2 pH単位の偏差を含んでいるものとして定義する。
【0134】
Poros(登録商標)HS 50上のクロマトグラフィー(カチオン交換クロマトグラフィー):
Poros(登録商標)HS 50 カラム(5 l、Applied Biosystems, Darmstadt, Germany)をバッファーCで平衡化した。実施例5に記載したようにして取得した、安定化されたアルファ-ガラクトシダーゼ組成物をカラムに負荷した。本発明で使用したPoros(登録商標)HS 50カラムには、イオン交換物質33 mlについてタンパク質0.2〜1 gを負荷することができる。
【0135】
バッファーCを使用して、このカラムを洗浄した。洗浄ステップ後、バッファーDを使用して、酵素を溶出させた。酵素は単一ピークとなって溶出した。相当する画分中で、酵素活性およびタンパク質濃度を決定した。組換えアルファ-ガラクトシダーゼを含有する画分をプールした。
【0136】
限外ろ過:
酵素を含有する画分のプールを、限外ろ過器によってダイアフィルターろ過した。30 kDa膜(例えば、Pellicon 2, Millipore, USA)を使用した。このタンパク質溶液をバッファーEに対して十分に透析した。このタンパク質溶液を場合によって4℃で保存した後、その後の処理をした。
【0137】
Q Sepharose(登録商標)高速流でのクロマトグラフィー(アニオン交換クロマトグラフィー):
透析したプールを、2カラム体積のバッファーEで平衡化したQ Sepharose(登録商標)高速流カラム(500 ml、Amersham Bioscience, Uppsala, Sweden)に適用した。このカラムには多くとも、イオン交換樹脂1 mlに対して、タンパク質40 mgの最大濃度で適用すべきである。バッファーEを使用して、カラムを洗浄した。画分を回収し、アルファ-ガラクトシダーゼ活性についてモニターした。画分のアリコートを取り、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動によって、活性について分析し、かつ可視化した。流下物に組換えアルファ-ガラクトシダーゼを溶出させた。分子量が64.5 kDaのアルファ-ガラクトシダーゼの純粋バンドを示す画分をプールして、保存用バッファー(バッファーF)に対して透析した。SDSゲル電気泳動が示すように、この酵素調製物は純粋である(図1)。HPLC分析において、この酵素調製物について、純度>99 %と判定された(図2)。
【実施例7】
【0138】
SDSゲル電気泳動
市販のゲル(4-20 %, Invitrogen, CA, USA)を使用して、SDSゲル電気泳動を実施した。ゲルに通した後、Coomassie Blue(Simply Blue(登録商標)、Invitrogen, CA, USA)で染色することによって、タンパク質を検出した。分子量マーカー(Mark 12(登録商標)、Invitrogen, CA, USA)を使用して、このタンパク質の見かけの分子量を決定した。結果を図1に示す。
【実施例8】
【0139】
分析用HPLC
分析用HPLCを使用して、タンパク質画分およびプールの純度を決定した。アリコート(100μl)をTSK G3000 SW(Tosoh Bioscience GmbH, Stuttgart, Germany)上に適用した。カラムに適切なバッファー(50 mM Tris/HCl、100 mM NaCl、pH 7.5)を通した。280 nmでの吸光度を測定することによって、タンパク質を検出した。結果を図2に示す。
【0140】
引用文献
Altschul et al.(1990), J. Mol. Biol. 215: 403-410.
Arakawa et al.(2006), Protein Peptide Letters, 13, 921-927.
Bakumina et al.(1998), Biochemistry(Mosc.) 63(10), 1420-1427.
Davies et al.(2005), Current Opin. Struct. Biol. 15, 637-645.
Ishibashi et al.(2005), Protein Expression and Purific. 42, 1-6.
Liu、et al.(2007), Nature Biotechnology Vol. 25(4), 454-464.
Pearson and Lipman(1988), Proc. Natl. Acad. Sci.US. A. 85: 2444.
Shiraki et al.(2002), J. Biochem. 132, 591-595.
Smith and Waterman(1981), Adv. Appl. Math. 2: 482.
Sucker et al.(1991), Pharmazeutische Technologie、2nd Edition, Georg Thieme Verlag, Stuttgart, Germany.
Tsumoto et al.(2004), Biotechnol. Prog. 20, 1301-1308.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つタンパク質を含んでいる水性組成物であって、100 mMを超える濃度、特に少なくとも150 mMの濃度のアルギニンを含んでいることを特徴とする組成物。
【請求項2】
組成物が150 mM〜2 M、より好ましくは200〜400 mM、最も好ましくは250 mM〜320 mMの濃度のアルギニンを含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
さらに組成物の電導度が40 mS/cm以下、好ましくは15 mS/cm〜25 mS/cm、より好ましくは18 mS/cm〜22 mS/cmであることを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
組成物のpHがpH 5〜pH 7.5、好ましくはpH 5.5〜pH 7、より好ましくはpH 5.8〜pH 6.5であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
組成物が細菌宿主細胞、好ましくはE. coliから誘導されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
さらに組成物の総タンパク質含量が少なくとも20 mg/mlであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
さらにアルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性が0.5〜0.8単位/総タンパク質mgであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
タンパク質がEC 3.2.1.22の基質特異性を持ち、好ましくはそのタンパク質が末端アルファ-1,3-ガラクトシル部分を加水分解することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つタンパク質が天然に生起するタンパク質またはその機能的に活性な誘導体もしくは断片であって、好ましくはヒト、動物、植物、真菌および細菌からなる群から選択される生物体由来であることを特徴とする、前項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
タンパク質が細菌生物体Bacteroides fragilisから誘導され、好ましくはそのタンパク質がアミノ酸配列SEQ ID NO: 1、またはその機能的に活性な誘導体もしくは断片のいずれかを含んでいるか、あるいはそれからなる、Bacteroides fragiles由来のアルファ-ガラクトシダーゼの断片であることを特徴とする、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つタンパク質を含んでいる水性組成物を安定化する方法であって、100 mMを超える最終濃度、特に少なくとも150 mMになるようにアルギニンを組成物に添加するステップを含んでいることを特徴とする、方法。
【請求項12】
さらに組成物が請求項2〜10のいずれか1項に記載の組成物であることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
精製されたアルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つタンパク質を含んでいる水性組成物を調製する方法であって、以下のステップを含む方法:
(a) アルファ-ガラクトシダーゼの酵素活性を持つタンパク質を含有する組成物を提供し、
(b) ステップ(a)の組成物を、100 mMを超える濃度、特に少なくとも150 mMのアルギニンの存在中で濃縮し、そして
(c) ステップ(b)の組成物をカチオン交換クロマトグラフィーによって精製する。
【請求項14】
さらにステップ(b)の組成物が請求項2〜10のいずれか1項に記載の組成物であることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
方法が、
(i) ステップ(b)の前および/または後、ならびに/あるいは
(ii) ステップ(c)の前および/または後に、
さらに1以上の別の精製ステップを含んでいることを特徴とする、請求項13または14に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−252793(P2010−252793A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−99666(P2010−99666)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】