説明

安定化された2−ヨードキシ安息香酸(SIBX)によるモキシデクチンの製造に有用な安全性の向上しかつ改善された酸化方法

本発明は、5−O−保護−LLF−28249−α化合物を、対応する式Iの23−ケト化合物(Rは保護基)へ選択的に酸化させるための安全でかつ効率的な方法を提供する。本発明は、モキシデクチンの製造における選択的酸化方法の使用も提供する。本発明の方法では、安定化されたo−ヨードキシ安息香酸を用い、このo−ヨードキシ安息香酸は、約48〜50%、好ましくは49%のo−ヨードキシ−安息香酸、約28〜30%、好ましくは29%のイソフタル酸および約21〜23%、好ましくは22%の安息香酸を含む混合物である。
【化19】


【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
モキシデクチン(23−メトキシム−LL−F−28249−α)は強力な内外寄生虫殺虫剤(endectocidal agent)である。モキシデクチンの製造における重要な工程は、5−O−保護−LLF−28249−α中間体の酸化である。その製造工程で使用できる酸化剤は特許文献1および特許文献2に記載されている。工業的生産規模では、多くの場合、これらの酸化剤には、大量のピリジンや、ジクロロ酢酸などの腐食性の触媒が必要とされるか、または、工業的生産規模で望ましくない危険を招く恐れのある酸化剤が含まれることになる。さらに、すべての製造方法と同じように、エネルギー効率、産物収率および製品純度の向上が強く望まれる。
【特許文献1】米国特許第4,988,824号明細書
【特許文献2】米国特許第6,762,327号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
したがって、本発明の目的は、モキシデクチンの製造のための改善された酸化方法を提供することである。
【0003】
本発明の他の目的は、穏やかな反応条件と高い産物収率をもたらす酸化方法を提供することである。
【0004】
この酸化方法では、安全性の高い酸化剤が使用されることが本発明の特徴である。
【0005】
本発明の上記および他の目的および特徴は、以下に示す詳細な説明により明らかとなろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、任意選択で溶媒の存在下、式II
【0007】
【化9】

の5−O−保護−LLF−28249−α化合物[式中、Rは対応する式I
【0008】
【化10】

の23−ケト化合物(式中、Rは式IIについて記載するのと同様である)
に対する保護基である]
の選択的酸化のための改善された方法を提供し、この方法は、式IIの化合物と安定化されたo−ヨードキシ安息香酸とを反応させることを含む。
【0009】
モキシデクチンの製造における改善された酸化方法の使用も提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
モキシデクチンは大環状ラクトン系の抗菌剤の部類の強力かつ広範なスペクトルの内外寄生虫殺虫剤である。ヒトと動物の両方におけるモキシデクチンの内部および外部寄生虫に対する独特の活性は、その高い安全率とともに、コンパニオンアニマルや家畜における内部および外部寄生虫の制御に多大な影響を及ぼすものである。したがって、この化合物の利用可能性を高めることが強く望まれている。モキシデクチンはLL−F28249−αの23−オキシム誘導体である。LL−F28249−αからのモキシデクチンの製造方法が米国特許第4,988,824号に開示されている。前記方法は、開示された酸化剤が、重クロム酸ピリジニウム、アルミニウムt−ブトキシド、o−ベンゾキノン、五酸化リン、ジシクロヘキシルカルボジイミド、二酸化マンガン、無水酢酸、ジメチルスルホキシド等またはその混合物などの通常の化合物である酸化工程を含む。米国特許第6,762,327号に開示されている他の方法はペルヨージナン誘導体を用いる。これらの薬品を用いる際に伴ういくつかの共通的な困難性、例えば、長い反応時間、困難な後処理手順、大過剰の酸化剤を使用する可能性、酸化剤の潜在的不安定性等は、工業規模での製造の際に問題となる可能性がある。
【0011】
驚くべきことに、安定化されたo−ヨードキシ安息香酸を用いて、穏やかな反応条件下で、5−O−保護−LL−F28249−α化合物を選択的に酸化して、高い産物収率で、かつ、従来の酸化剤に通常付随する有害な化学的特性を伴うことなく、対応する5−O−保護−23−ケトン化合物を得ることができることをここに見出した。
【0012】
したがって、本発明は、式II
【0013】
【化11】

の5−O−保護−LLF−28249−α化合物[式中、Rは対応する式I
【0014】
【化12】

の23−ケト化合物(式中、Rは式IIについて記載するのと同様である)
に対する保護基である]
の選択的酸化のための改善された方法を提供し、この方法は、任意選択で溶媒の存在下、前記式IIの化合物を安定化されたo−ヨードキシ安息香酸と反応させることを含む。この反応を流れ図Iで示す。ここで、Rは保護基を表す。
【0015】
【化13】

本明細書および特許請求の範囲において用いる「安定化されたo−ヨードキシ安息香酸」という用語は、約48〜50%、好ましくは49%のo−ヨードキシ−安息香酸、約28〜30%、好ましくは29%のイソフタル酸および約21〜23%、好ましくは22%の安息香酸を含む混合物を指す。
【0016】
本発明の方法で用いるのに適した溶媒には、トルエン、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリジノンなど、またはその混合物が含まれる。好ましくはトルエンである。
【0017】
本明細書および特許請求の範囲において用いる保護基という用語は、p−ニトロベンゾイル、アセチル、ベンジル、メチル、メトキシメチル、メチルチオメチル、(フェニルジメチルシリル)メトキシメチル、p−メトキシベンジルオキシメチル、o−ニトロベンジルメチル、o−ニトロベンジル−オキシメチル、4−メトキシフェノキシメチル、グアヤコールメチル、t−ブトキシメチル,4−ペンテニルオキシメチル、シロキシメチル、2−エトキシエトキシメチル、2,2,2−トリクロロエトキシメチル(trichloroethxymethyl)、2−(トリメチルシリル)エトキシメチル、トリメチルシリル、t−ブチルジメチルシリル、フェニルジメチルシリルまたは有機合成においてヒドロキシ基を保護するのに知られている任意の保護基、好ましくはp−ニトロベンゾイルを指す。
【0018】
実際には、安定化されたo−ヨードキシ安息香酸物質を、約1.1〜1.5重量/重量の式IIの化合物に対するo−ヨードキシ安息香酸の比で、任意選択で溶媒の存在下、約20℃〜70℃の温度範囲で酸化が完結するまで式IIの化合物と混合する。本発明の方法の反応時間は、用いる安定化されたo−ヨードキシ安息香酸物質の量、式IIの化合物の濃度、反応温度などに応じて変えることができる。一般に、反応時間は1〜2時間で十分である。最適の産物収率のためには、本発明の方法で用いるのに、約1.1〜1.5重量/重量の式IIの化合物に対するo−ヨードキシ−安息香酸の比が適している。
【0019】
有利には、本発明の方法を、モキシデクチンを製造するために用いることができる。したがって、本発明は、
1)LL−F28249−αの5−ヒドロキシ基を保護して式IIの化合物を得る工程と、
2)任意選択で溶媒の存在下、前記式IIの化合物を安定化されたo−ヨードキシ安息香酸と反応させ、式Iのケトンを得る工程と、
3)前記式Iケトンをメトキシルアミンまたはその塩と反応させて式IIIの化合物を得る工程と、
4)塩基の存在下で前記式IIIの化合物を脱保護してモキシデクチン生成物を得る工程と
を含むモキシデクチンの改善された製造方法を提供する。
【0020】
あるいは、式Iの化合物を脱保護して式IVの化合物を生成させ、式IVの化合物をメトキシルアミンまたはその塩と反応させて、所望のモキシデクチン生成物を得ることができる。したがって、本発明は、
1)LL−F28249−αの5−ヒドロキシ基を保護して式IIの化合物を得る工程と、
2)任意選択で溶媒の存在下、前記式IIの化合物を安定化されたo−ヨードキシ安息香酸と反応させて式Iのケトンを得る工程と、
3)塩基の存在下で前記式Iのケトンを脱保護して式IVの化合物を得る工程と、
4)前記式IVの化合物をメトキシルアミンまたはその塩と反応させてモキシデクチン生成物を得る工程と
を含むモキシデクチンの製造方法も提供する。
【0021】
本発明の方法を流れ図IIに示す。ここで、Rは上記で定義の保護基である。
【0022】
【化14】

実際には、LL−F28249−αの5−ヒドロキシ基の保護は、トルエン、塩化メチレン、酢酸エチル、アセトニトリルなどの有機溶媒(好ましくはトルエン)、およびピリジン、トリエチルアミン、N−メチルピロリジノンなどの有機塩基(好ましくはトリエチルアミン)の存在下で、LL−F28249−αを上記したような保護基のハロゲン化物前駆体、例えばp−ニトロベンゾイルクロリド、トリメチルシリルクロリド、メトキシメチルブロミドなど(好ましくはp−ニトロベンゾイルクロリド)と反応させることによって実施する。式IIの保護されたLL−F28249−α化合物の酸化は、上記の改善された酸化方法、すなわち、任意選択で溶媒の存在下、前記式IIの化合物を安定化されたo−ヨードキシ安息香酸と反応させて式Iのケトンを生成させる方法を用いて首尾よく実施される。式Iの化合物(単離して精製するか、または、トルエンなどの有機溶媒中の粗製反応生成物として)を、メトキシルアミンまたはその塩および酢酸ナトリウムの水溶液と反応させて式IIIの保護されたモキシデクチン化合物を得る。脱保護は、トルエン、ジオキサン、n−ブタノールなどの有機溶媒、好ましくはジオキサン中の前記式IIIの化合物の溶液を、0℃〜25℃で水酸化ナトリウム水溶液と反応させ、濃縮やろ過または溶媒の除去などの標準的な手順を用いて有機相から所望のモキシデクチン生成物を単離することによって実施する。
【0023】
本発明のさらなる理解を容易にすることを目的として、主として、その詳細をより具体的に説明するために以下の実施例を示す。したがって、特許請求の範囲で定義されるものを除いて、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0024】
別段の指定のない限り、すべての部は重量部である。安定化されたo−ヨードキシ−安息香酸(SIBX)はSimafex Company、Franceにより供給された。用いたSIBXの組成は:49%のo−ヨードキシ安息香酸;29%のイソフタル酸;および22%の安息香酸であった。HPLCおよびDMSOという用語はそれぞれ、高速液体クロマトグラフィーおよびジメチルスルホキシドを指す。化学構造式においては、PNBという用語はp−ニトロベンゾイルを指す。
【実施例】
【0025】
(実施例1)
5−O−(p−ニトロベンゾイル)−23−ケト−LL−F28249−αの調製
【0026】
【化15】

トルエン中の5−O−(p−ニトロベンゾイル)−LL−F28249−α(8.68g)の溶液を、DMSO中のSIBX(12gのSIBX)の20重量%溶液で処理した。反応混合物を強く攪拌し、25℃で2時間半保持した(92.7%の変換が得られた)。その混合物を亜硫酸ナトリウム水溶液(24重量%濃度)でクエンチした。相分離を行い、トルエン相をHPLCで分析して表題生成物を88.4%の収率で得た。
【0027】
(実施例2)
5−O−(p−ニトロベンゾイル)−23−ケト−LL−F28249−αの調製
【0028】
【化16】

トルエン中の5−O−(p−ニトロベンゾイル)−LL−F28249−α(7.44g)の溶液をDMSO中のSIBX(10.3gのSIBX)の30重量%溶液で処理した。反応混合物を強く攪拌し、59℃で30分間保持した(99.5%の変換が得られた)。その混合物を亜硫酸ナトリウム水溶液(24重量%濃度)でクエンチした。相分離を行い、トルエン相をHPLCで分析して表題生成物を94.5%の収率で得た。
【0029】
(実施例3)
5−O−(p−ニトロベンゾイル)−23−ケト−LL−F28249−αの調製
【0030】
【化17】

トルエン中の5−O−(p−ニトロベンゾイル)−LL−F28249−α(7.44g)の溶液をDMSO中のSIBX(8.1gのSIBX)の30重量%溶液で処理した。反応混合物を強く攪拌し、60℃で30分間保持した(98.9%の変換が得られた)。その混合物を亜硫酸ナトリウム水溶液(24重量%濃度)でクエンチした。相分離を行い、トルエン相をHPLCで分析して表題生成物を93.9%の収率で得た。
【0031】
(実施例4)
5−O−(p−ニトロベンゾイル)−23−ケト−LL−F28249−αの調製
【0032】
【化18】

トルエン中の5−O−(p−ニトロベンゾイル)−LL−F28249−α(19.84g)の溶液を40.48gのDMSOで処理し、続いて固体SIBX(27.04g)で処理した。反応混合物を強く攪拌し、50℃で1時間保持した(98.5%の変換が得られた)。その混合物を亜硫酸ナトリウム水溶液(22重量%濃度)でクエンチした。相分離を行い、トルエン相をHPLCで分析して表題生成物を88.1%の収率で得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式II
【化1】

の5−O−保護−LLF−28249−α化合物
[式中、Rは対応する式I
【化2】

の23−ケト化合物(式中、Rは式IIについて記載するのと同様である)に対する保護基である]を選択的に酸化するための方法であって、任意選択で溶媒の存在下、該式IIの化合物と安定化されたo−ヨードキシ安息香酸とを反応させる工程を含む、方法。
【請求項2】
Rがp−ニトロベンゾイルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記安定化されたo−ヨードキシ安息香酸が、o−ヨードキシ安息香酸、イソフタル酸および安息香酸の混合物である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記溶媒がトルエンである、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記溶媒がトルエンとジメチルスルホキシドとの混合物である、請求項2または請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記安定化されたo−ヨードキシ−安息香酸が、約1.1〜1.5の5−(p−ニトロベンゾイル)−LL−F28249−αに対するo−ヨードキシ安息香酸の重量比で存在する、請求項2から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記混合物が、約48〜50%のo−ヨードキシ−安息香酸、約28〜30%のイソフタル酸および約21〜23%の安息香酸を含む、請求項3から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記混合物が、約49%のo−ヨードキシ−安息香酸、約29%のイソフタル酸および約22%の安息香酸を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記混合物が、約1.1〜1.5の5−(p−ニトロベンゾイル)−LL−F28249−αに対するo−ヨードキシ安息香酸の重量比で存在する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
モキシデクチンを製造するための方法であって、
1)LL−F28249−αの5−ヒドロキシ基を保護して式II
【化3】

(式中、Rは保護基である)の化合物を得る工程と、
2)任意選択で溶媒の存在下、該式IIの化合物と安定化されたo−ヨードキシ安息香酸とを反応させて式I
【化4】

(式中、Rは式IIについて記載したのと同様である)のケトンを得る工程と、
3)該式Iのケトンをメトキシルアミンまたはその塩と反応させて式III
【化5】

(式中、Rは式IIについて記載したのと同様である)
の化合物を得る工程と、
4)塩基の存在下で該式IIIの化合物を脱保護して該モキシデクチン生成物を得る工程と
を含む、方法。
【請求項11】
モキシデクチンを製造するための方法であって、
1)LL−F28249−αの5−ヒドロキシ基を保護して式II
【化6】

(式中、Rは保護基である)の化合物を得る工程と、
2)任意選択で溶媒の存在下、該式IIの化合物を安定化されたo−ヨードキシ安息香酸と反応させて式I
【化7】

(式中、Rは式IIについて記載したのと同様である)のケトンを得る工程と、
3)塩基の存在下で該式Iのケトンを脱保護して式IV
【化8】

の化合物を得る工程と、
4)該式IVの化合物をメトキシルアミンまたはその塩と反応させて該モキシデクチン生成物を得る工程と
を含む、方法。
【請求項12】
前記安定化されたo−ヨードキシ安息香酸が、o−ヨードキシ安息香酸、イソフタル酸および安息香酸の混合物である、請求項10または請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記混合物が、約48〜50%のo−ヨードキシ安息香酸、約28〜30%のイソフタル酸および約21〜23%の安息香酸を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記混合物が、約49%のo−ヨードキシ−安息香酸、約29%のイソフタル酸および約22%の安息香酸を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記混合物が、約1.1〜1.5の5−(p−ニトロベンゾイル)−LL−F28249−αに対するo−ヨードキシ安息香酸の重量比で存在する、請求項12または請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記溶媒が、トルエンとジメチルスルホキシドとの混合物である、請求項11から15のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2009−541315(P2009−541315A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−516521(P2009−516521)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【国際出願番号】PCT/US2007/014020
【国際公開番号】WO2007/149305
【国際公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(591011502)ワイス (573)
【氏名又は名称原語表記】Wyeth
【Fターム(参考)】