説明

安定化光源装置

【課題】 フォトダイオードを要する従来の安定化光源装置と比較して安価に製造することができる安定化光源装置を提供すること。
【解決手段】 光ファイバ4に光を出力するレーザダイオード10と、レーザダイオード10の周辺温度を測定する温度測定部11と、温度測定部11によって測定された周辺温度に応じてレーザダイオード10の駆動電流をレーザダイオードによって出力される光の強度が一定になるように制御する駆動電流制御部12とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一定の強度の光を出力する安定化光源装置に関し、例えば、光ファイバの心線対照用に一定の強度の光を出力する安定化光源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一定の強度の光を出力するものとしては、例えば、APC(Automatic Power Control)という技術が知られている(例えば、非特許文献1参照)。APCを適用した従来の安定化光源装置は、図5に示すように、レーザダイオード20と、レーザダイオード20によって出力された光を受けて電気信号に変換するフォトダイオード21と、フォトダイオード21によって変換された電気信号を増幅する差動増幅器22と、差動増幅器22によって増幅された電気信号に基づいてレーザダイオード20の駆動電流を制御する駆動電流制御回路23とを備え、出力する光の強度が温度によって変化するレーザダイオード20の駆動電流を制御することによって、レーザダイオード20から出力される光の強度を一定にしていた。
【非特許文献1】「光半導体デバイス」日本電気株式会社出版、平成元年12月29日、p.42
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の安定化光源装置は、フォトダイオードを要するため、製造コストが高くなるといった問題があった。
【0004】
本発明は、従来の問題を解決するためになされたもので、フォトダイオードを要する従来の安定化光源装置と比較して安価に製造することができる安定化光源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の安定化光源装置(5)は、レーザダイオード(10)と、前記レーザダイオードの周辺温度を測定する温度測定部(11)と、前記温度測定部によって測定された周辺温度に応じて前記レーザダイオードの駆動電流を前記レーザダイオードによって出力される光の強度が一定になるように制御する駆動電流制御部(12)とを備えた構成を有している。
【0006】
この構成により、レーザダイオードの周辺温度に応じてレーザダイオードの駆動電流を制御することによって、フォトダイオードを要せずにレーザダイオードによって出力される光の強度を一定にするため、フォトダイオードを要する従来の安定化光源装置と比較して安価に製造することができる。
【0007】
なお、前記駆動電流制御部は、前記温度測定部によって測定された周辺温度を独立変数として前記レーザダイオードの駆動電流を従属変数とした前記周辺温度の2次関数等の多項式関数に基づいて前記レーザダイオードの駆動電流を制御するようにしてもよい。
【0008】
また、前記駆動電流制御部は、前記温度測定部によって測定された周辺温度を独立変数として前記レーザダイオードの駆動電流を従属変数とした指数関数に基づいて前記レーザダイオードの駆動電流を制御するようにしてもよい。ここで、前記指数関数の底は、自然対数の底としてもよい。
【0009】
また、本発明の安定化光源係数設定方法は、レーザダイオード(10)と、前記レーザダイオードの周辺温度を測定する温度測定部(11)と、前記温度測定部によって測定された周辺温度を独立変数として前記レーザダイオードの駆動電流を従属変数とした、出力光強度一定の条件で求めた2次関数に基づいて前記レーザダイオードの駆動電流を制御する駆動電流制御部(12)とを備えた安定化光源装置(5)における前記2次関数の係数を設定する安定化光源係数設定方法であって、前記レーザダイオードの周辺温度を段階的に変化させ、各周辺温度において前記レーザダイオードに所定の強度の光を出力させるための駆動電流値をそれぞれ測定し、測定した前記各駆動電流値の近似曲線となるように前記2次関数の係数を設定する。
【0010】
この方法により、レーザダイオードとして適用される部品の特性の差に関わらずに安定化光源装置に一定の強度の光を出力させることができる。
【0011】
また、本発明の安定化光源係数設定方法は、レーザダイオード(10)と、前記レーザダイオードの周辺温度を測定する温度測定部(11)と、前記温度測定部によって測定された周辺温度を独立変数として前記レーザダイオードの駆動電流を従属変数とした、出力光強度一定の条件で求めた2次関数に基づいて前記レーザダイオードの駆動電流を制御する駆動電流制御部(12)とを備えた安定化光源装置(5)における前記2次関数の係数を設定する安定化光源係数設定方法であって、複数のレーザダイオードに対して、それぞれ周辺温度を段階的に変化させ、各周辺温度において前記各レーザダイオードに所定の強度の光を出力させるための駆動電流値をそれぞれ測定し、測定した前記各駆動電流値の近似曲線となるように前記周辺温度を独立変数とした2次関数の係数をレーザダイオード毎に決定し、決定した係数の平均値を項毎に算出する準備ステップと、前記準備ステップで算出された前記各係数の平均値を前記安定化光源装置における前記2次関数の各係数として設定する設定ステップと、前記安定化光源装置に設けられたレーザダイオードの周辺温度を所定の温度に設定し、前記所定の温度において前記安定化光源装置に設けられたレーザダイオードに前記所定の強度の光を出力させるための駆動電流値を測定し、測定した駆動電流値を含むように前記2次関数の定数項を調整する調整ステップとを備える。
【0012】
この方法により、安定化光源装置の駆動電流制御部に設定する2次関数の係数の設定を2次関数の定数項を調整することによって行うことができるため、安定化光源装置の駆動電流制御部に設定する2次関数の係数の設定を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、フォトダイオードを要する従来の安定化光源装置と比較して安価に製造することができる安定化光源装置を提供することができる。また、レーザダイオードにおける駆動電流と光強度の特性の経年変化に対し、2次関数の定数項を調整することで大まかに補正できるため、定期校正を容易に行うことができる。さらに、同じ製造ロットのレーザダイオード間の駆動電流と光強度の特性のばらつきや異なる製造ロット間でのばらつき等に対しても、請求項7の方法を用いることで、2次関数の各項の値を、各項毎に求めた平均値からわずかにずらした値に設定するだけで、対応可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、本実施の形態は、本発明の一実施の形態に係る安定化光源装置を図1(a)に示すようなPON(Passive Optical Network)型のFTTH(Fiber To The Home)サービスに適用した例を説明する。
【0015】
図1(a)において、加入者側に設けられたONU(Optical Network Unit)1は、光を分岐するスプリッタ2を介して局用装置3と光ファイバ4で接続されている。ONU1は、コンピュータ装置等の通信機器が接続され、通信機器との間で送受信される電気信号と光ファイバ4を介して送受信される光信号とを光電変換するものである。
【0016】
光ファイバの長さ、損失の測定、および破断箇所の検知等の光ファイバの試験を行うものとしてOTDR(Optical Time Domain Reflectometer)というものが知られている。OTDRは、ONU1に代えて光ファイバ4に接続され、局用装置3に向けて光を出力し、出力した光が光ファイバ4の端部や破断箇所で反射された反射光の強度や時刻に基づいて光ファイバ4の長さ、損失の測定、および破断箇所の検知を行うものである。
【0017】
このOTDRによる試験に先立って、破断箇所の大まかな特定や心線対照を行うために、図1(b)に示すように、本発明の一実施の形態に係る安定化光源装置5と心線対照器(IDテスタともいう)6を用いた試験が行われる。心線対照器6は、光ファイバ4を湾曲させて漏洩した安定化光源装置5によって出力された光を検知するものである。なお、心線対照器6に代えて光パワーメータを用いてもよい。
【0018】
図2は、本発明の一実施の形態に係る安定化光源装置5のブロック図である。
【0019】
安定化光源装置5は、光ファイバ4に光を出力するレーザダイオード10と、レーザダイオード10の周辺温度を測定する温度測定部11と、温度測定部11によって測定された周辺温度に応じてレーザダイオード10の駆動電流をレーザダイオード10によって出力される光の強度が一定になるように制御する駆動電流制御部12とを備えている。
【0020】
温度測定部11は、温度を検知する温度センサを有している。駆動電流制御部12は、CPU(Central Processing Unit)および電流制御回路を有しており、温度センサによって検知された温度に基づいてCPUが電流制御回路を制御するように構成されている。
【0021】
図3は、レーザダイオード10の各周辺温度における駆動電流と光強度の特性を示すグラフである。図3に示したようなレーザダイオード10の各周辺温度における駆動電流と光強度の特性を表すグラフに基づいて、レーザダイオード10によって出力される光の強度を一定にするためのレーザダイオード10の周辺温度と駆動電流との特性を得ることができる。
【0022】
図4は、レーザダイオード10によって出力される光の強度を一定にするためのレーザダイオード10の周辺温度と駆動電流との特性を示すグラフである。なお、図4において、一定にする光の強度を2mWとし、レーザダイオード10として同一メーカの同一形名製品のレーザダイオードA〜Dを使用した。
【0023】
図4に示したように、レーザダイオード10によって出力される光の強度を一定にするためのレーザダイオード10の周辺温度と駆動電流との特性は、2次関数によって近似できる。図4には、レーザダイオードA〜Dに対してそれぞれ得られた2次関数a〜dが示されている。各2次関数a〜dは、xをレーザダイオード10の周辺温度とし、yを駆動電流とするとそれぞれ式(a)〜(d)のようになる。
【0024】
(a) y = 0.0086x2 + 0.1366x + 20.706
(b) y = 0.0047x2 + 0.2094x + 18.878
(c) y = 0.0068x2 + 0.2408x + 19.94
(d) y = 0.0064x2 + 0.1974x + 20.047
これにより、駆動電流制御部12は、温度測定部11によって測定された周辺温度を独立変数としてレーザダイオード10の駆動電流を従属変数とした、2次関数に基づいてレーザダイオード10の駆動電流を制御するように構成する。
【0025】
例えば、レーザダイオード10にレーザダイオードAを適用したときに、レーザダイオード10の周辺温度が30℃で光の強度を2mWにする場合には、2次関数aによって0.086×302+0.1366×30+20.706=32.544が求まり、レーザダイオード10の駆動電流が32.544mAになるように駆動電流制御部12がレーザダイオード10の駆動電流を制御する。
【0026】
なお、図4から分かるように、駆動電流制御部12は、2次関数に代えて3次関数等の他の多項式関数や指数関数に基づいてレーザダイオード10の駆動電流を制御するように構成することもできる。なお、駆動電流制御部12が指数関数に基づいてレーザダイオード10の駆動電流を制御する場合には、指数関数の底は、自然対数の底(ネイピア数ともいう)とする。
【0027】
次に、駆動電流制御部12に2次関数の係数を設定する安定化光源係数設定方法について説明する。安定化光源係数設定方法としては、以下に示すように2つの方法がある。
【0028】
第1の安定化光源係数設定方法においては、図4に示したように、レーザダイオード10の周辺温度を段階的に変化させ、各周辺温度においてレーザダイオード10に所定の強度の光を出力させるための駆動電流値をそれぞれ測定し、測定した各駆動電流値の近似曲線となるように係数を決定し、決定した係数を駆動電流制御部12に設定する。
【0029】
第2の安定化光源係数設定方法においては、複数のレーザダイオードを対象として大まかな係数を算出する準備ステップと、準備ステップで算出された大まかな係数を駆動電流制御部12に設定する設定ステップと、駆動電流制御部12に設定した係数を調整する調整ステップとからなる。
【0030】
なお、準備ステップは、安定化光源装置5の製造を開始する前に実行され、設定ステップは、安定化光源装置5の製造時に実行され、調整ステップは、安定化光源装置5の出荷前やメンテナンス時などの製造後に実行される。
【0031】
準備ステップにおいては、複数のレーザダイオードに対して、それぞれ周辺温度を段階的に変化させ、各周辺温度において各レーザダイオードに所定の強度の光を出力させるための駆動電流値をそれぞれ測定し、測定した各駆動電流値の近似曲線となるように周辺温度を独立変数とした2次関数の係数をレーザダイオード毎に決定し、決定した係数の平均値を項毎に算出する。
【0032】
設定ステップにおいては、準備ステップで算出された各係数の平均値を2次関数の各係数として駆動電流制御部12に設定する。
【0033】
調整ステップにおいては、レーザダイオード10の周辺温度を所定の温度に設定し、所定の温度においてレーザダイオード10に所定の強度の光を出力させるための駆動電流値を測定し、測定した駆動電流値を含むように駆動電流制御部12に設定した2次関数の定数項を調整する。
【0034】
以上説明したように、本発明の一実施の形態に係る安定化光源装置5によれば、レーザダイオード10の周辺温度に応じてレーザダイオード10の駆動電流を制御することによって、フォトダイオードを要せずにレーザダイオード10によって出力される光の強度を一定にするため、フォトダイオードを要する従来の安定化光源装置と比較して安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施の形態に係る安定化光源装置の適用例を示すネットワーク構成図
【図2】本発明の一実施の形態に係る安定化光源装置の構成を示すブロック図
【図3】本発明の一実施の形態に係る安定化光源装置を構成するレーザダイオードの各周辺温度における駆動電流と光強度の特性を示すグラフ
【図4】本発明の一実施の形態に係る安定化光源装置を構成するレーザダイオードによって出力される光の強度を一定にするためのレーザダイオードの周辺温度と駆動電流の特性を示すグラフ
【図5】従来の安定化光源装置の構成を示すブロック図
【符号の説明】
【0036】
1 ONU
2 スプリッタ
3 局用装置
4 光ファイバ
5 安定化光源装置
6 心線対照器
10、20 レーザダイオード
11 温度測定部
12 駆動電流制御部
21 フォトダイオード
22 差動増幅器
23 駆動電流制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザダイオード(10)と、
前記レーザダイオードの周辺温度を測定する温度測定部(11)と、
前記温度測定部によって測定された周辺温度に応じて前記レーザダイオードの駆動電流を前記レーザダイオードによって出力される光の強度が一定になるように制御する駆動電流制御部(12)とを備えた安定化光源装置。
【請求項2】
前記駆動電流制御部は、前記温度測定部によって測定された周辺温度を独立変数として前記レーザダイオードの駆動電流を従属変数とした多項式関数に基づいて前記レーザダイオードの駆動電流を制御することを特徴とする請求項1に記載の安定化光源装置。
【請求項3】
前記多項式関数は、前記周辺温度の2次関数であることを特徴とする請求項2に記載の安定化光源装置。
【請求項4】
前記駆動電流制御部は、前記温度測定部によって測定された周辺温度を独立変数として前記レーザダイオードの駆動電流を従属変数とした指数関数に基づいて前記レーザダイオードの駆動電流を制御することを特徴とする請求項1に記載の安定化光源装置。
【請求項5】
前記指数関数の底は、自然対数の底とすることを特徴とする請求項4に記載の安定化光源装置。
【請求項6】
レーザダイオード(10)と、前記レーザダイオードの周辺温度を測定する温度測定部(11)と、前記温度測定部によって測定された周辺温度を独立変数として前記レーザダイオードの駆動電流を従属変数とした、出力光強度一定の条件で求めた2次関数に基づいて前記レーザダイオードの駆動電流を制御する駆動電流制御部(12)とを備えた安定化光源装置(5)における前記2次関数の係数を設定する安定化光源係数設定方法であって、
前記レーザダイオードの周辺温度を段階的に変化させ、
各周辺温度において前記レーザダイオードに所定の強度の光を出力させるための駆動電流値をそれぞれ測定し、
測定した前記各駆動電流値の近似曲線となるように前記2次関数の係数を設定する安定化光源係数設定方法。
【請求項7】
レーザダイオード(10)と、前記レーザダイオードの周辺温度を測定する温度測定部(11)と、前記温度測定部によって測定された周辺温度を独立変数として前記レーザダイオードの駆動電流を従属変数とした、出力光強度一定の条件で求めた2次関数に基づいて前記レーザダイオードの駆動電流を制御する駆動電流制御部(12)とを備えた安定化光源装置(5)における前記2次関数の係数を設定する安定化光源係数設定方法であって、
複数のレーザダイオードに対して、それぞれ周辺温度を段階的に変化させ、各周辺温度において前記各レーザダイオードに所定の強度の光を出力させるための駆動電流値をそれぞれ測定し、測定した前記各駆動電流値の近似曲線となるように前記周辺温度を独立変数とした2次関数の係数をレーザダイオード毎に決定し、決定した係数の平均値を項毎に算出する準備ステップと、
前記準備ステップで算出された前記各係数の平均値を前記安定化光源装置における前記2次関数の各係数として設定する設定ステップと、
前記安定化光源装置に設けられたレーザダイオードの周辺温度を所定の温度に設定し、前記所定の温度において前記安定化光源装置に設けられたレーザダイオードに前記所定の強度の光を出力させるための駆動電流値を測定し、測定した駆動電流値を含むように前記2次関数の定数項を調整する調整ステップとを備えた安定化光源係数設定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−73857(P2006−73857A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−256766(P2004−256766)
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】