説明

安定化高分子ミセル

本発明は、非荷電性セグメントと荷電性セグメントとを有するブロック共重合体からなる静電結合型高分子ミセルであって該ミセルの内核に前記荷電性セグメントと反対の荷電を有する薬物を担持させたものを、架橋剤と反応させることを特徴とする薬物担持高分子ミセルの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、安定化高分子ミセルに関する。詳しくは、本発明は、薬物運搬システム(DDS)等の分野において有用なタンパク質又はDNA等の荷電性薬物を安定に保持する静電結合型高分子ミセルに関する。
【背景技術】
最近、医薬品医療の分野において、薬物や遺伝子の体内分布を時間的又は空間的に正確に制御することによって、「必要なとき(timing)に、必要な部位(location)で、必要な薬物治療(action)」を最小限の副作用で達成する高精度ターゲティング治療に対する関心が高まっている。この治療法を首尾よく達成するためには、ナノスケールで精密設計された高機能化薬物運搬体(ドラッグキャリア)の開発が最も重要な課題となっている。
これまでに、共有結合又は非共有結合(疎水性相互作用、静電相互作用など)を介して、薬物をさまざまなキャリヤーに担持させる試みが活発に行われており、リポソーム、微粒子、各種水溶性高分子がキャリヤーとして用いられてきた(橋田 充:新バイオサイエンスシリーズ「ドラッグデリバリーシステム、−創薬と治療への新たなる挑戦−」、化学同人、1995年)。
そして、ポリイオンコンプレックス(PIC)ミセルと呼ばれるポリエチレングリコール−ポリ(α,β−アスパラギン酸)ブロック共重合体を用いて荷電性薬物を担持させた、静電結合性型高分子ミセル担持剤も知られている(特許第2690276号)。この静電結合性型高分子ミセル担持剤は、薬物の疎水性、親水性の区別にかかわりなく、薬物を担持させることができるものであった。
しかしながら、静電結合性型高分子ミセル担持剤において、荷電性薬物は高分子ミセル内に静電結合によって担持されているため、同じ系に塩を添加することにより、ミセルが不安定化する場合がある。従って、塩の添加に際してはミセルの安定性を考慮しなければならない。
【発明の開示】
そこで、安定して存在できる高分子ミセルを提供することが望まれていた。
本発明は、上記の課題を解決するものとして完成されたものである。
すなわち、本発明は、非荷電性セグメントと荷電性セグメントとを有するブロック共重合体からなる静電結合型高分子ミセルであって該ミセルの内核に前記荷電性セグメントと反対の荷電を有する薬物を担持させたものを、架橋剤と反応させることを特徴とする薬物担持高分子ミセルの製造方法である。
また、本発明は、非荷電性セグメントと荷電性セグメントとを有するブロック共重合体からなる静電結合型高分子ミセルに、前記荷電性セグメントと反対の荷電を有する薬物と架橋剤とを添加することを特徴とする薬物担持高分子ミセルの製造方法である。
さらに、本発明は、非荷電性セグメントと荷電性セグメントとを有するブロック共重合体からなる静電結合型高分子ミセルであって該ミセルの内核に前記荷電性セグメントと反対の荷電を有する薬物を担持させたものを、架橋剤と反応させることを特徴とする薬物担持高分子ミセルの安定化方法である。
さらに、本発明は、非荷電性セグメントと荷電性セグメントとを有するブロック共重合体からなる静電結合型高分子ミセルに、前記荷電性セグメントと反対の荷電を有する薬物と架橋剤とを添加することを特徴とする薬物担持高分子ミセルの安定化方法である。
ここで、架橋剤としては例えばグルタルアルデヒドが挙げられる。また、架橋剤と薬物分子中の反応性官能基とのモル比は、例えば2:1〜1000:1である。さらに、非荷電性セグメントはポリエチレングリコール由来のもの、荷電性セグメントはポリアミノ酸由来のものである。そして、荷電性セグメントの末端がアミノ基であることが好ましい。さらに、薬物としては、タンパク質、酵素、核酸及び荷電性官能基を有する水溶性化合物からなる群から選択される。酵素としては、例えばトリプシン又はリゾチームが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
図1は、グルタルアルデヒドを添加したときの添加比とミセルの時間経過に対する安定性を示す図である。
図2は、ミセルの粒径の分布を示す図である。
図3は、グルタルアルデヒドを添加したときのミセルの塩(NaCl)濃度に対する安定性を示す図である。
図4は、グルタルアルデヒドを添加したときのミセルの塩(NaCl)濃度に対する安定性を示す図である。
図5は、グルタルアルデヒドを添加したときのミセルの時間経過に対する安定性を示す図である。
図6は、ブロック共重合体中のアミノ基をアセチル化させたときのミセルの安定性を示す図である。
図7は、ミセルの粒径の分布を示す図である。
図8は、ミセルに内包させたビリルビンオキシダーゼの活性の安定化を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
上記の通り、本発明は、従来の静電結合型高分子ミセル型薬剤を改良するために本発明の発明者による検討の結果なされたものである。そして、静電結合型高分子ミセル型薬剤と架橋剤とを反応させることによって、ミセル内の凝集力を増強させ、極めて安定したミセル型薬剤を提供するものである。
本発明におけるミセルは、非荷電性セグメントと荷電性セグメントとからなる静電結合型高分子ミセル担体を使用し、両セグメントともに各種のものが本発明に包含される。
非荷電性セグメントとしては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール、ポリアルキレンオキシド、ポリサッカライド、ポリアクリルアミド、ポリ置換アクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリ置換メタクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクルル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、非荷電性ポリアミノ酸、又はそれらの誘導体由来の各種のセグメント等が例示される。
荷電性セグメントとしては、例えば荷電性側鎖を有するポリアミノ酸、より具体的には、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリリシン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン等が、あるいはポリリンゴ酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリビニルイミダゾール等が挙げられる。さらに、これらのポリアミノ酸の誘導体由来のセグメント等が例示されている。
ミセル内の凝集力をより増強させる観点から、荷電性セグメントの側鎖が架橋剤と反応性を有さない場合には、荷電性セグメントの末端は、架橋剤に対して反応性の高い官能基が用いられる。このような官能基としては、例えば、1級アミノ基(−NH)であることが好ましい。
これらのセグメントから構成される本発明のブロック共重合体については、例えば次のものが例として挙げられる。
すなわち、ポリエチレングリコール−ポリアスパラギン酸ブロック共重合体、ポリエチレンオキシド−ポリグルタミン酸ブロック共重合体、ポリエチレングリコール−ポリアルギニンブロック共重合体、ポリエチレングリコール−ポリヒスチジンブロック共重合体、ポリエチレングリコール−ポリメタクリル酸ブロック共重合体、ポリエチレングリコール−ポリエチレンイミンブロック共重合体、ポリエチレングリコール−ポリビニルアミンブロック共重合体、ポリエチレングリコール−ポリアリルアミンブロック共重合体、ポリエチレンオキシド−ポリアスパラギン酸ブロック共重合体、ポリエチレンオキシド−ポリグルタミン酸ブロック共重合体、ポリエチレンオキシド−ポリリジンブロック共重合体、ポリエチレンオキシド−ポリアクリル酸ブロック共重合体、ポリエチレンオキシド−ポリビニルイミダゾールブロック共重合体、ポリアクリルアミド−ポリアスパラギン酸ブロック共重合体、ポリアクリルアミド−ポリヒスチジンブロック共重合体、ポリメタクリルアミド−ポリアクリル酸、ポリメタクリルアミド−ポリビニルアミンブロック共重合体、ポリビニルピロリドン−ポリメタクリル酸ブロック共重合体、ポリビニルアルコール−ポリアスパラギン酸ブロック共重合体、ポリビニルアルコール−ポリアルギニンブロック共重合体、ポリアクリル酸エステル−ポリグルタミン酸ブロック共重合体、ポリアクリル酸エステル−ポリヒスチジンブロック共重合体、ポリメタクリル酸エステル−ポリビニルアミンブロック共重合体、ポリメタクリル酸−ポリビニルイミダゾールブロック共重合体等である。
これらのブロック共重合体としては、例えば、次式(I)又は(II):

で示される。
上記式中、Rは、水素原子、炭化水素基若しくは官能基、又は官能基置換炭化水素基を表し、Rは、NH、CO、又はR(CH(Rは、OCO、OCONH、NHCO、NHCOO、NHCONH、CONH又はCOOを表し、Rは、NH又はCOを表し、qは1以上の整数を表す。)を表す。
また、Rは、カルボキシル基、カルボキシル基置換炭化水素基、アミノ基置換炭化水素基、ヒドラジノ基置換炭化水素基又は(CH−NHCNHNH基(pは1以上の整数を表す。)を表す。あるいは、Rは含窒素複素環基又は含窒素複素環基置換炭化水素基を表す。
は、水素原子、ヒドロキシル基又はその結合末端にCO、NH若しくはOのいずれかを有する炭化水素基を表す。
mは、4〜2500、nは1〜300、xは0〜300であり、x<nである。
本発明においては、上記式中、Rが、−COOH、−CHCOOH、−(CH−NH、−(CHNHCNHNH、又は次式(III):

で示される複素環基であることが好ましい。
これらのブロック共重合体としては、例えば、その代表的構造としていわゆるAB型ブロック共重合体がある。より具体的には、次式(IV):

で示されるポリエチレングリコール誘導体由来の非荷電性セグメントとポリアスパラギン酸を荷電性セグメントとするAB型ブロック共重合体が挙げられる。
上記共重合体は、例えばポリエチレングリコールとポリ(α,β−アスパラギン酸)から得られるポリエチレングリコール−ポリ(α,β−アスパラギン酸)ブロック共重合体であることが好ましい。この共重合体は、まず、β−ベンジル−L−アスパルテート−N−カルボン酸無水物を、片末端一級アミノ基のポリエチレングリコール(分子量約200〜250000)を開始剤として重合することにより合成される。このポリエチレングリコール−ポリ(β−ベンジル−L−アスパルテート)ブロック共重合体における(β−ベンジル、L−アスパルテート)部分の分子量は約205〜62000まで可変である。この共重合体をアルカリ処理して脱ベンジル化を行うことにより、ポリエチレングリコール−ポリ(α,β−アスパラギン酸)ブロック共重合体を得ることができる。
また、ブロック共重合体としてカチオン性セグメントを有する次式(V):

で示されるポリエチレングリコール−ポリリシンブロック共重合体の場合には、まず、ε−カルボベンゾキシ−L−リシン無水物を、片末端一級アミノ基のポリエチレングリコール(分子量200〜250000)を開始剤として重合させることにより合成される。得られたポリエチレングリコール−ポリ(ε−カルボベンゾキシ−L−リシン)ブロック共重合体を、メタンスルホン酸を用いて脱保護反応を行うことで、ポリエチレングリコール−ポリリシンブロック共重合体を得ることができる。
本発明において、上記ブロック共重合体からなる高分子ミセル中に静電的に担持させることのできる薬物としては、特にその種類に限定されるものではない。ここで、「薬物」とは、前記荷電性セグメントとは反対の荷電性を有する低分子又は高分子物質を意味し、例えばペプチドホルモン、タンパク質、酵素、核酸(DNA又はRNA)等の高分子性薬物、アドリアマイシン、ダラノマイシン等の分子内に荷電性官能基を有する低分子性薬物(水溶性化合物)等が例示される。反対荷電とは、分子の一方が正に、他方が負に帯電していることを意味し、複数の異なる帯電状態の官能基を有する分子の場合は、pHを変化させることによって分子全体としての帯電状態の正、負を変化させる場合も含む。同じ荷電を有する場合は、反対荷電を有する官能基を有する化合物を反応させ、分子の帯電状態を変化させる処理をすることにより、一方の分子を他方の分子に対して反対荷電にすることができる。
これらの薬物を、高分子ミセルに担持させる際には、ブロック共重合体と薬物又はその溶液とを混合することを基本としているが、さらには、透析、攪拌、希釈、濃縮、超音波処理、温度制御、pH制御、有機溶媒の添加等の操作を適宜付加することができる。
例えば、上記式(IV)により示されるポリエチレングリコール−ポリ(α,β−アスパラギン酸)ブロック共重合体にトリプシンやリゾチーム等の酵素を封入させる場合には、共重合体の水溶液を適切な混合比、イオン強度及びpH等の条件に設定し、共重合体の水溶液に上記酵素水溶液を混合すればよい。
また、上記式(V)により示されるポリエチレングリコール−ポリリシンブロック共重合体にDNAを担持させる場合には、適切な混合比、イオン強度及びpH等の条件を設定し、共重合体の水溶液にDNA溶液を混合し、DNAを担持することができる。
以上の通り、本発明の静電結合型高分子ミセルは、安定な高分子ミセル構造となり、その内核に効率よくタンパク質やDNA等の荷電物質を取り込むことができる。このため、生体内で分解されやすい荷電性薬物を安定化して体内投与することができる。
本発明において、架橋の対象となる薬物(酵素)としては以下のものが挙げられる。
(1)血液中生物の定量に使用可能な酵素(表1)

(2)タンパク質分解酵素
本発明において、ミセルに内包させることができるタンパク質分解酵素としては、塩基性アミノ酸(Lys、Arg)のC末側を切断するエンドペプチダーゼを例示することができる。そのようなタンパク質分解酵素としては以下のものが挙げられる。
(i)トリプシン、プラスミン、カリクレイン、トロンビン、第Xa因子、アクロシン、エンテロペプチダーゼ、ウロキナーゼ、コクナーゼ、プレモフェノールモノオキシゲナーゼ活性化酵素、大腸菌(E.coli)プロテアーゼ、マウス顎下腺プロテアーゼ、ヘビ毒トロンビン様酵素、カテプシンB、フィシン、クロストリジウム・ヒストリカム(Clostridium histolyicum)プロテアーゼ、ミクソバクター(Myxobacter)AL−1プロテアーゼII、アーミリアリア・メレア(Armilliaria mellea)プロテアーゼ
(ii)また、エキソペプチダーゼには、C末端から分解するカルボキシペプチダーゼとN末端から分解するアミノペプチダーゼがあるが、グルタルアルデヒドは1級アミノ基と高い反応性を有していることから、以下のアミノペプチダーゼに関しても有効である。
ロイシンアミノペプチダーゼ
particulateアミノペプチダーゼ
アミノペプチダーゼB
小腸表面アミノペプチダーゼ
酵母アミノペプチダーゼI
アスペルギルス(Aspergillus)アミノペプチダーゼ
アミノアシルプロリンアミノペプチダーゼ
バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)アミノペプチダーゼ
クロストリジウム・ヒストリカム(Clostridium histolyticum)アミノペプチダーゼ
アエロモナス(Aeromonas)アミノペプチダーゼ
ストレプトミセス・グリセウス(Streptomyces griseus)アミノペプチダーゼ
トリチラキウム・アルバム・リンバー(Tritirachium album Limber)アミノペプチダーゼ
アシルアミノ酸遊離酵素
ピロリドニルペプチダーゼ
(iii)さらに、グルタルアルデヒド以外の架橋剤を使用する場合は、その反応性基が反応する部位が活性部位であるエンドペプチダーゼにも有効である。そのようなエンドペプチダーゼとして、以下に示すセリンプロテアーゼ、チオールプロテアーゼ、カルボキシルプロテアーゼなどを使用することができる。
(a)上記以外のセリンプロテアーゼ
キモトリプシン
メトリジウム(Metridium)プロテイナーゼA
大腸菌(E.coli)プロテアーゼI
カテプシンG
エラスターゼ
α−リティクプロテアーゼ
サーモマイコリン
プロテイナーゼK
ストレプトミセス・グリセウス(Streptomyces griseus)プロテアーゼ3
スタフィロコッカル(Staphylococal)プロテイナーゼ
テネブリオ(Tenebrio)α−プロテイナーゼ
アルスロバクター(Arthrobacter)セリンプロテイナーゼ
好熱性ストレプトミセス(Streptomyces)アルカリプロテイナーゼ
アルターナリア(Alternaria)エンドペプチダーゼ
カンジダ・リポリティカ(Candida lipolytica)アルカリプロテイナーゼ
スブチリシン
その他微生物セリンプロテイナーゼ
(b)チオールプロテアーゼ
パパイン
ブロメライン
キモパパイン
ストレプトコッカル(Streptococcal)プロテイナーゼ
カテプシンL
酵母プロテイナーゼB
カテプシンS
PZ−ペプチダーゼ
(c)カルボキシルプロテアーゼ
ペプシン
カテプシンB
レニン
キモシン
酵母プロテイナーゼA
カテプシンE
ペニシロペプシン
その他微生物カルボキシルプロテアーゼ
本発明においては、薬物を担持させた静電結合型高分子ミセルに架橋剤を添加して反応させる。
このような架橋剤として分子内に複数個のアルデヒド基を有するグルタルアルデヒド、スクシンアルデヒド、パラホルムアルデヒド、フタリックジカルボキシアルデヒド(フタルアルデヒド)など、分子内にマレイミド基と活性エステル基を有するN−[α−メレイミドアセトキシ]スクシンイミドエステル、N−[β−マレイミドプロピルオキシ]スクシンイミドエステル、N−[ε−マレイミドカプロイルオキシ]スクシンイミドエステル、N−[γ−マレイミドブチリルオキシ]スクシンイミドエステル、スクシニミジル−4−[N−マレイミドメチル]シクロヘキサン−1−カルボキシ−[6−アミドカプロエート]、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、スクシニミジル−4−[N−マレイミドメチル]シクロヘキサン−1−カルボキシレート、スクシニミジル−4−[p−メレイミドフェニル]ブチレート、スクシニミジル−6−[(β−マレイミドプロピオンアミド)ヘキサノエート]など、分子内に活性エステルとニトロフェニルアジド基を有するN−5−アジド−2−ニトロベンゾイルオキシスクシンイミド、N−スクシニミジル−6−[4’−アジド−2’−ニトロフェニルアミノ]ヘキサノエートなど、分子内にフェニルアジド基とフェニルグリオキサル基を有するp−アジドフェニルグリオキサルなど、分子内に複数個のマレイミド基を有する1,4−ビス−マレイミドブタン、ビス−マレイミドエタン、ビス−マレイミドヘキサン、1,4−ビス−マレイミジル−2,3−ジハイドロブタン、1,8−ビス−マレイミドトリエチレングリコール、1,11−ビス−マレイミドテトラエチレングリコール、ビス[2−(スクシンイミジルオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン、トリス−[2−マレイミドエチル]アミンなど、分子内に複数個のスルホ活性エステル基を有するビス[スルホスクシンイミジル]スベレート、ビス[2−(スルフォスクシニミドキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン、ジスルホスクシニミジルタートレート、エチレングリコールビス[スルホスクシニミジルスクシネート]、トリス−スルホスクシニジルアミノトリアセテートなど、分子内に複数個のアリルハライド基を有する1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼンなど、分子内に複数個のイミドエステル基を有するジメチルアジピミデート、ジメチルピメリミデート、ジメチルスベリミデートなど、分子内に複数個のピリジルジチオ基を有する1,4−ジ−[3’−(2’−ピリジルジチオ)プロピオンアミド]ブタンなど、分子内に複数個の活性エステル基を有するジスクシニミジルグルタレート、ジスクシニミジルスベレート、ジスクシニミジルタートレート、エチレングリコールビス[スクシミジルスクシネート]など、分子内に複数個のビニルスルホン基を有する1,6−ヘキサン−ビス−ビニルスルホンなど、分子内にピリジルジチオ基と活性エステル基を有するスクシニミジル−6−[3−(2−ピリジルジチオ)プロピオンアミド]ヘキサノエート、4−スクシニミジルオキシカルボニル−メチル−α−[2−ピリジルジチオ]トルエン、N−スクシニミジル−3−[2−ピリジルジチオ]プロピオネートなど、分子内にヒドロキシフェニルアジド基と活性エステル基を有するN−ヒドロキシスクシニミジル−4−アジドサリサイリック酸など、分子内にマレイミド基とイソシアネート基を有するN−[p−マレイミドフェニル]イソシアネートなど、分子内にマレイミド基とスルホ活性エステル基を有するN−[ε−マレイミドカプロイルオキシ]スルホスクシンイミドエステル、N−[γ−マレイミドブチリルオキシ]スルホスクシンイミドエステル、N−ヒドロキシスルホスクシニミジル−4−アジドベンゾエート、N−[κ−マレイミドウンデカノイルオキシ]スルホスクシンイミドエステル、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスルホスクシンイミドエステル、スルホスクシニミジル−4−[N−マレイミドメチル]シクロヘキサン−1−カルボキシレート、スルホスクシニミジル−4−[p−マレイミドフェニル]ブチレートなど、分子内にピリジルジチオ基とスルホ活性エステル基を有するスルホスクシニミジル−6−[3’−(2−ピリジルジチオ)プロピオンアミド]ヘキサノエート、スルホスクシニミジル−6−[α−メチル−α−(2−ピリジルジチオ)トルアミド]ヘキサノエートなど、分子内にヒドロキシフェニルアジド基とスルホ活性エステル基を有するスルホスクシニミジル[4−アジドサリサイルアミド]ヘキサノエートなど、分子内にニトロフェニルアジド基とスルホ活性エステル基を有するスルホスクニミジル−6−[4’−アジド−2’−ニトロフェニルアミノ]ヘキサノエートなど、分子内にビニルスルホン基と活性エステル基を有するN−スクシニミジル−[4−ビニルスルホニル]ベンゾエートなどを用いることができ、グルタルアルデヒドを用いることが特に好ましい。また、架橋剤をグルタルアルデヒド以外のものとした場合は、その反応性官能基が反応する部位が活性部位であるエンドペプチダーゼの場合にも安定化が可能である。
架橋剤の添加比、すなわち、架橋剤と薬物の反応性官能基のモル比は、2:1〜1000:1であり、5:1〜500:1であることが好ましく、50:1〜500:1であることがさらに好ましい。
架橋剤と高分子ミセルを反応させる際には、薬物を内包した高分子ミセルと架橋剤とを混合することを基本としている。但し、薬物を内包していない高分子ミセルと、架橋剤及び薬物の混合物とを混合して反応させることもできる。なお、透析、攪拌、希釈、濃縮、超音波処理、温度制御、pH制御、有機溶媒の添加等の操作を適宜に付加することができる。
本発明において作成されたミセルは、温度、pH等に安定である。安定温度範囲は、例えば15℃〜45℃であり、安定pH範囲は、例えばpH6〜pH10である。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕 グルタルアルデヒドで架橋されたタンパク質を内包するミセルの作製(1)
ポリエチレングリコール−ポリ(α,β−アスパラギン酸)ブロック共重合体(ポリエチレングリコール分子量12000、ブロック共重合体1本鎖当たり重合度63のポリアスパラギン酸、5.4mg)をリン酸緩衝液(塩濃度 10mM、pH7.4、3.0mL)に、牛膵臓由来トリプシン(30.0mg)をリン酸緩衝液(12.0mL)に溶解した後、この各々の溶液を混合した。混合溶液を2.5mLずつ6つに分取した。それぞれに70%グルタルアルデヒド水溶液(0、2.6、12.9、26、129、260μL)を添加した。その際、トリプシン中のリシン残基の総数に対するグルタルアルデヒド溶液中のアルデヒド基の総数として定義されるグルタルアルデヒド架橋度(GR)を、0.00、10.00、50.00、100.00、500.00、1000.00とした。架橋したミセル溶液を4℃で24時間置き、グルタルアルデヒド中のアルデヒド基とトリプシン中のリシン残基との間の架橋を完全なものにした。
得られた水溶液について、動的光散乱測定により平均粒径を測定し、静的光散乱測定により混合直後の散乱強度に対する所定時間後の相対散乱強度を測定した(波長488nm、検出角90度、温度25℃、動的レーザー散乱スペクトロメーターDLS−7000(大塚エレクトロニクス社))。
結果を図1に示す。図1において、(a)は相対散乱強度の変化を、(b)は平均粒径の変化を示す。図1において、GRはそれぞれ以下の通りである。
GR=0(△)、10(◆)、50(□)、100(▲)、500(●)、1000(◇)
グルタルアルデヒド水溶液を添加したものについては、混合30分後において平均粒径100nm以下のトリプシン内包高分子ミセルが観測された(図1b)。混合6時間後においては、グルタルアルデヒドを添加しなかった水溶液については、動的光散乱測定で検出可能な高分子ミセルは存在せず、相対散乱強度が1%以下まで減少し、高分子ミセルが存在しないことが確認された。
これに対し、グルタルアルデヒド水溶液を添加したものについては、混合48時間後においても平均粒径に変化は認められず、相対散乱強度も70%以上を維持しており(図1a)、トリプシン内包高分子ミセルがグルタルアルデヒド水溶液の添加により安定化されていることが確認された。
なお、トリプシンを内包させたときのミセル、グルタルアルデヒドの架橋度をGR=100としたときのミセル、及び塩化ナトリウムを添加したときのミセルについて、それぞれ粒径の分布を測定した。
その結果、図2に示すように、ミセルのサイズ分布は一定であった(多分散度1以下)。図2において、(a)はトリプシンを内包させたときのミセルでグルタルアルデヒドを添加する前のミセル、(b)はグルタルアルデヒドの架橋度をGR=100としたときのミセル(NaCl添加前)、(c)はNaCl(0.15M)を添加した後のミセルの粒径分布図である。架橋反応によってミセルの構造に変化や凝集はなく、ミセルの安定性が示された。
〔実施例2〕 塩存在下におけるミセルの安定性試験
実施例1で調製したポリエチレングリコール−ポリ(α,β−アスパラギン酸)ブロック共重合体に、牛膵臓由来トリプシン及びグルタルアルデヒドを混合して混合溶液(10.0mL)を調製し、得られた溶液を2.5mLずつ4つに分取した。そのうち3つに塩化ナトリウム水溶液を添加し、混合後の塩化ナトリウムの濃度が0、0.15、0.3、0.6Mとなるように4つの溶液を調製した。これらの溶液について、動的光散乱測定により平均粒径を測定し、静的光散乱測定により塩化ナトリウム濃度が0の水溶液の散乱強度に対する各溶液の相対散乱強度を測定した(検出角90度、温度25℃)。
結果を図3に示す。図3において、各GRはそれぞれ以下の通りである。
GR=0(△)、10(◆)、50(□)、100(▲)、500(●)、1000(◇)
グルタルアルデヒド水溶液を添加しなかったもの以外は、いずれの塩化ナトリウム濃度の水溶液においてもミセルの平均粒径に変化は認められず(図3b)、100%以上の相対散乱強度を維持しており(図3a)、グルタルアルデヒド水溶液添加によいトリプシン内包高分子ミセルが安定化されていることが確認された。
塩濃度に対する安定性をさらに調べるため、グルタルアルデヒドの添加量がGR=2、4、10、20、30となるようにし、混合後の塩化ナトリウムの濃度が0、0.05、0.1、0.15、0.2Mとなるように溶液を調製した。これらの溶液について、動的光散乱測定により平均粒径を測定し、静的光散乱測定により塩化ナトリウム濃度が0の水溶液の散乱強度に対する各溶液の相対散乱強度を測定した。
その結果、グルタルアルデヒドの添加量が2倍以上では、散乱光強度と粒径がほぼ変化せず、グルタルアルデヒド無添加と比較して極めて安定であることがわかった(図4)。
図4において、各GRはそれぞれ以下の通りである。
GR=0(○)、2(▲)、4(□)、10(◇)、20(●)、30(△)
【実施例3】
ポリエチレングリコール−ポリ(α,β−アスパラギン酸)ブロック共重合体(1.8mg)をリン酸緩衝液(1.0mL)に溶解した溶液と、牛膵臓由来トリプシン(10.0mg)をリン酸緩衝液(4.0mL)に溶解した溶液とを混合し、混合液を2.5mLずつ2つに分取した。この一方にグルタルアルデヒド水溶液(26μL)を添加することにより、グルタルアルデヒド水溶液添加高分子ミセル溶液、及びグルタルアルデヒド水溶液未添加高分子ミセル溶液を調製した。また、牛膵臓由来トリプシン(5.0mg)をリン酸緩衝液(2.5mL)に溶解した溶液(非ミセル化酵素溶液)も調製した。グルタルアルデヒド水溶液を添加したものについては、リン酸緩衝液に対して透析することによって、余剰のグルタルアルデヒドを除去した。なお、余剰グルタルアルデヒドの除去の確認は、3−メチル−2−ベンゾチアゾリノンヒドラゾンを用いて行った。これら3つの溶液について、410nmの吸光度の時間変化から単位時間当たりの基質の分解速度を測定することによって、トリプシンの酵素活性を測定した。基質は、L−リシンp−ニトロアニリンを用い、調製直後、1週間後、2週間後、3週間後に酵素活性を測定した。
その結果、トリプシンのみの溶液とグルタルアルデヒド未添加高分子ミセル溶液については、1週間後には、リン酸緩衝液に溶解直後のトリプシンの活性の1/3まで低下していた。これに対し、グルタルアルデヒド添加高分子ミセル溶液は、3週間後においても溶解直後のトリプシンと同程度の活性を維持していた(図5)。
〔比較例〕
ポリエチレングリコール−ポリ(α,β−アスパラギン酸)ブロック共重合体において、ポリ(α,β−アスパラギン酸)の末端の1級アミノ基にアセチル基を導入したものを作製し、グルタルアルデヒドとブロック共重合体とを反応させないようにした。ミセルに内包させるトリプシン濃度は2mg/mL、温度25℃とし、塩化ナトリウムの濃度が0、0.05、0.1、0.15、0.2Mとなるように溶液を調製した。これらの溶液について、静的光散乱測定により塩化ナトリウム濃度が0の水溶液の散乱強度に対する各溶液の相対散乱強度を測定した。
その結果、アセチル基を導入したミセルは、塩濃度0.05Mにおいて沈殿した(図6)。
実施例2で確認された塩化ナトリウム濃度増加に対する安定性は認められず、安定化のためにはブロック共重合体にもグルタルアルデヒド等の架橋剤と反応する官能基を有している必要があることが確認された。
〔実施例4〕 グルタルアルデヒドで架橋されたタンパク質を内包するミセルの作製(2)
本実施例は、実施例1で使用した牛膵臓由来トリプシンの代わりにビリルビンオキシダーゼ(BO)、ポリエチレングリコール−ポリ(α,β−アスパラギン酸)ブロック共重合体の代わりにポリエチレングリコール−ポリリシンブロック共重合体(ポリエチレングリコール分子量12000、ブロック共重合体1本鎖当たり重合度48のリシン)を使用し実施例1と同様にしてミセル粒径を測定した。
また、BOの酵素活性は、基質としてビリルビンを用いて実施例2に準じて測定した。
結果を図7及び図8に示す。
図7の結果より、グルタルアルデヒドの添加後においても単峰性のピークは維持されており、複合体構造を維持したまま架橋構造が導入されていることが示された。
また、図8より、グルタルアルデヒドを添加し構造の安定化を図ることによって、内包BOの活性の保存安定性が著しく向上することが確認された。
【産業上の利用可能性】
本発明により、安定化したタンパク質内包高分子ミセルが提供される。本発明の方法により安定化されたミセルは、温度やpHに不安定な薬物を内包させることができるため、バイオナノリアクターやバイオナノリザーバーとして有用である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
非荷電性セグメントと荷電性セグメントとを有するブロック共重合体からなる静電結合型高分子ミセルであって該ミセルの内核に前記荷電性セグメントと反対の荷電を有する薬物を担持させたものを、架橋剤と反応させることを特徴とする薬物担持高分子ミセルの製造方法。
【請求項2】
非荷電性セグメントと荷電性セグメントとを有するブロック共重合体からなる静電結合型高分子ミセルに、前記荷電性セグメントと反対の荷電を有する薬物と架橋剤とを添加することを特徴とする薬物担持高分子ミセルの製造方法。
【請求項3】
非荷電性セグメントと荷電性セグメントとを有するブロック共重合体からなる静電結合型高分子ミセルであって該ミセルの内核に前記荷電性セグメントと反対の荷電を有する薬物を担持させたものを、架橋剤と反応させることを特徴とする薬物担持高分子ミセルの安定化方法。
【請求項4】
非荷電性セグメントと荷電性セグメントとを有するブロック共重合体からなる静電結合型高分子ミセルに、前記荷電性セグメントと反対の荷電を有する薬物と架橋剤とを添加することを特徴とする薬物担持高分子ミセルの安定化方法。
【請求項5】
架橋剤がグルタルアルデヒドである請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
架橋剤の反応性官能基と薬物分子中の反応性官能基とのモル比が、2:1〜1000:1である請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
非荷電性セグメントがポリエチレングリコール由来のものである請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
荷電性セグメントがポリアミノ酸由来のものである請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
荷電性セグメントの末端がアミノ基である請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
薬物が、タンパク質、酵素、核酸及び荷電性官能基を有する水溶性化合物からなる群から選択されるものである請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
酵素がトリプシン又はリゾチームである請求項10記載の方法。

【国際公開番号】WO2004/105799
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506539(P2005−506539)
【国際出願番号】PCT/JP2004/007583
【国際出願日】平成16年5月26日(2004.5.26)
【出願人】(899000024)株式会社東京大学TLO (50)
【Fターム(参考)】