説明

安定同位体標識芳香族アミノ酸、その標的蛋白質への組み込み方法並びに蛋白質のNMR構造解析方法

アミノ酸残基に結合するフェニル基の炭素原子が13Cであり、該フェニル基を構成する残り5つの炭素原子のうち2〜4個の炭素原子が12Cであり、これに重水素が結合し、残りの炭素原子が13Cであって、これに水素原子が結合している安定同位体標識フェニルアラニンや、アミノ酸残基に結合するフェニル基の炭素原子が13Cであり、該フェニル基のヒドロキシル基(OH基)に結合する炭素原子が12C又は13Cであり、該フェニル基を構成する残り4つの炭素原子のうち2〜4個の炭素原子が12Cであり、これに重水素が結合し、残りの炭素原子が13Cであって、これに水素原子が結合している安定同位体標識チロシンなどを提供する。これにより、従来の均一標識アミノ酸残基がNMR解析を困難にする最も大きな理由であった芳香環NMRシグナルの複雑さを取り除き、その感度を著しく向上させることができる安定同位体標識芳香族アミノ酸を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蛋白質のNMR構造解析に有用な安定同位体標識芳香族アミノ酸、その標的蛋白質への組み込み方法並びに蛋白質のNMR構造解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
NMRを用いて蛋白質の構造解析を行う時には、常にNMRシグナルの重なり合いや、緩和によるシグナル強度の減少などの問題を考慮しなければならない。この問題を解決するためにはNMR測定・解析技術の進歩が不可欠であったが、1990年代初頭に開発された多核種多次元NMR法の蛋白質への応用と、それとともに発展した安定同位体標識蛋白質の大量発現技術よって現在では分子量が2万程度であればほぼ誤りのない解析が可能になってきた。
しかしながら、これらの従来の手法は全て立体構造決定の精度を犠牲にして高分子量蛋白質の立体構造情報を得る手法であったため、その適用対象や有用性には限界があった。この従来の問題点を解消し、さらに蛋白質の重水素置換を残余水素核のNMR感度を損なうことなく達成し、従来の限界を越えた高分子量蛋白質のNMRスペクトルの迅速・確実な解析、立体構造の高精度決定を同時に達成することを可能にする発明を、特許文献1において開示した。しかしながら、この発明では芳香族アミノ酸の芳香環部位の標識パターンに関する指定はなかった。
【0003】
一方、Phe、Tyr、Trpなどの芳香族アミノ酸は、Leu、Val、Ileなど長鎖アルキル基を持つアミノ酸類とともに球状蛋白質の疎水性コア部分の立体構造形成において重要な部分を担っている。また、これらの芳香族アミノ酸は、Tyrの水酸基、Trpのインドール窒素などの官能基、或いは芳香環に共通するパイ電子を利用し、蛋白質の立体構造形成のみならず、基質認識をはじめ蛋白質機能の発現に重要な役割を果たしている。しかしながら、特許文献1に記載の均一安定同位体(13C、15N、2H)試料、或いは天然存在比(非標識)試料を用いると、芳香族アミノ酸、特にPheやTrpなどでは環部分のプロトンNMRシグナルは互い化学シフトが近接し、またそれらの結合する炭素(13C)間の化学シフトも近接するために均一標識体においてはシグナルが極めて複雑となり、NMR測定感度が低下し、また各シグナルを個別に観測し、配列帰属を行うことを困難としている。
これらの困難さを乗り越え、立体構造決定にとって重要な距離制限情報である芳香環プロトンを含む核オーバーハウザー(NOE)効果を収集し、また芳香環の局所的構造情報を精密に計測するための手法が様々試みられてきた。しかしながら、従来の手法は全て試料調製が容易である均一安定同位体(13C、15N、2H)試料を対象に開発されてきたものばかりであり、実用的にみて優れた手法はこれまで存在していなかった。
【0004】
【特許文献1】国際公開WO03/053910A1公報
【発明の開示】
【0005】
本発明は、従来の均一標識アミノ酸残基がNMR解析を困難にする最も大きな理由であった芳香環NMRシグナルの複雑さを取り除き、その感度を著しく向上させることができる安定同位体標識芳香族アミノ酸を提供することを目的とする。
本発明は、主鎖シグナルの連鎖帰属を環部分にまで展開するための標識パターンをもった芳香族アミノ酸を提供することを目的とする。

本発明は、標的蛋白質を構成するアミノ酸の全てが、安定同位体標識アミノ酸となっている、安定同位体標識アミノ酸の組み合わせを提供することを目的とする。
本発明は、安定同位体標識アミノ酸の標的蛋白質への組み込み方法を提供することを目的とする。
本発明は、安定同位体標識アミノ酸で構成される標的蛋白質の調製方法を提供することを目的とする。
本発明は、一層感度の向上した蛋白質のNMR構造決定方法を提供することを目的とする。
【0006】
本発明者らは、上記課題を達成するために、鋭意検討を重ねた結果、特許文献1とは、Cβ炭素シグナルを経由して主鎖のNMRシグナルの連鎖帰属と関連付けることを考慮し、遠隔13C-13C及び遠隔13C-1Hスピン結合による磁化移動経路を十分確保することにより、すなわち、直接に結合する炭素の化学シフトが近接する可能性が高い場合には両方とも13Cで標識することを避け、しかも非標識(12C)炭素部分の水素は選択的に重水素化することにより、1H-NMRのみならず、13C-NMRスペクトルも高次のスピン結合による複雑さを回避できるとの知見により、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、下記から選ばれる安定同位体標識アミノ酸を提供する。
式Aで表されるアミノ酸残基に結合するフェニル基の炭素原子が13Cであり、該フェニル基を構成する残り5つの炭素原子のうち2〜4個の炭素原子が12Cであり、これに重水素が結合し、残りの炭素原子が13Cであって、これに水素原子が結合していることを特徴とする安定同位体標識フェニルアラニン、
式Aで表されるアミノ酸残基に結合するフェニル基の炭素原子が13Cであり、該フェニル基のヒドロキシル基(OH基)に結合する炭素原子が12C又は13Cであり、該フェニル基を構成する残り4つの炭素原子のうち2〜4個の炭素原子が12Cであり、これに重水素が結合し、残りの炭素原子が13Cであって、これに水素原子が結合していることを特徴とする安定同位体標識チロシン、
【0007】
式Aで表されるアミノ酸残基に結合するインドリル基の炭素原子が13Cであり、該インドリル基を構成する残り7つの炭素原子のうち1〜5個の炭素原子が12Cであり、これに重水素が結合し、残りの炭素原子が13Cであって、これに水素原子が結合しており、該インドリル基を構成するNH基の窒素原子が15N又は14Nであることを特徴とする安定同位体標識トリプトファン、及び
式Aで表されるアミノ酸残基に結合するイミダゾリル基の炭素原子が13Cであり、該イミダゾリル基を構成する残り2つの炭素原子の両方の炭素原子が13Cであってこれに水素原子が結合しているか、片方の炭素原子が12Cであってこれに重水素が結合しており、残りの炭素原子が13Cであって、これに水素原子が結合しており、該イミダゾリル基を構成する2つの窒素の1つが15Nであり残りが14Nであって、NH基を構成する水素原子が重水素ではないことを特徴とする安定同位体標識ヒスチジン。
*1C(X)(Y)−*2C(Z)(15NH)(*3COOH) - - - (A)
(式中、*1C、*2C及び*3Cは、それぞれ12C又は13Cを示し、X、Y及びZは、それぞれ水素原子又は重水素原子を示す。)
【0008】
本発明は、又、標的蛋白質を構成する芳香族アミノ酸が、上記安定同位体標識芳香族アミノ酸であり、標的蛋白質を構成する脂肪族アミノ酸が、次の標識パターン
(a)水素原子を2つ有するメチレン基が存在する場合には、メチレン水素のうちの一つが重水素化されている、
(b)プロキラルなgem−メチル基が存在する場合には、一方のメチル基の全ての水素が完全に重水素化され、他方のメチル基の水素が部分重水素化されている、
(d)上記以外のメチル基が存在する場合には、該メチル基の一つの水素を残して他は重水素化されているか、又は該メチル基の全てのメチル基が重水素化されている、
(e)上記(a)、(b)及び(d)において重水素化された後において、水素原子を持つメチレン基および/またはメチル基の炭素の15原子%以上が13Cに置換されているか、全てが12Cになっている、
(f)窒素が全て15Nに置換されている
を満たす安定同位体標識脂肪族アミノ酸であることを特徴とする標的蛋白質を構成する安定同位体標識アミノ酸の組み合わせを提供する。
【0009】
本発明は、又、上記安定同位体標識芳香族アミノ酸の標的蛋白質への組み込み方法であって、無細胞蛋白質合成により組み込むことを特徴とする安定同位体標識アミノ酸の標的蛋白質への組み込み方法を提供する。
本発明は、又、標的蛋白質を構成する全てのアミノ酸として上記安定同位体標識アミノ酸の組み合わせを用いて、無細胞蛋白質合成を行うことを含む、安定同位体標識アミノ酸で構成される標的蛋白質の調製方法を提供する。
本発明は、又、上記安定同位体標識アミノ酸を標的蛋白質に組み込みNMRスペクトルを測定して構造解析することを含む蛋白質のNMR構造解析方法を提供する。
本発明は、又、標的蛋白質を構成する全てのアミノ酸が上記安定同位体標識アミノ酸で置換されてなる標的蛋白質の構造をNMRスペクトル測定により解析することを含む標的蛋白質のNMR構造解析方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明においては、基本的には直接に結合する炭素の化学シフトが近接する可能性が高い場合には両方 とも13Cで標識することを避け、しかも非標識(12C)炭素部分の水素は選択的に 重水素化することにより1H -NMRのみならず、13C-NMRスペクトルも高次のスピン結合による複雑さを回避でき、しかも、Cβ炭素シグナルを経由して主鎖 のNMRシグナルの連鎖帰属と関連付けることを考慮し遠隔13C-13C及び遠隔13C-1Hスピン結合による磁化移動経路を十分確保する設計が必要であるため、フェニルアラニン(Phe)に関しては以下に示した3種類を設計し合成した。
(1) [γ,ε1,ε2-13C3;δ1,δ2,ζ-2H3]-Phe : 1Hε-13Cγ間のスピン結合定数が7Hz程度と比較的大きいことを利用し、環プロトンの化学シフトをCβひいては主鎖シグナルへと関連付けることをめざしたものである。
(2) [γ,ζ-13C2; δ1,δ2,ε1,ε2-2H4]-Phe : 13Cζ-13Cβのスピン結合が9Hz程度と大きい事を利用すし環プロトンの化学シフトをCβひいては主鎖シグナルへと関連付けることをめざしたものである。
(3) [γ,δ1,δ2-13C3;ε1,ε2,ζ-2H3]-Phe : 13Cδ-13Cγ間の大きなスピン結合(約60Hz)を利用し環プロトンの化学シフトをCβひいては主鎖シグナルへと関連付けることをめざしたものである。
【0011】
いずれの場合もプロトン間のスピン結合は観測されないために著しくスペクトルは単純化され、また感度も大きく向上するなど、NMR解 析上様々な利点が予期される。
チロシン(Tyr)に関してはz位炭素には水酸基が結合しているためにもともと1Hシグナルは比較的簡単であるがフェニルアラニン(Phe)と同様に
(3) [γ,ε1,ε2-13C3;δ1,δ2,-2H2]-Tyr
(4) [γ,δ1,δ2-13C3;ε1,ε2-2H2]-Tyr
の二種類を設計した。(1)、(2)はPheのケースと全く 同じ有効性を持つ。
トリプトファン(Trp)に関しては環部分が非対照な双環性であるためにより考慮すべき要素が多いが、
(5) [ζ2,ζ3;γ,δ,ε1,ε2,η2]-Tyr
を設計し合成した。
【0012】
本発明は、特許文献1に開示の同位体方向族アミノ酸の標識パターンとは、Cβ炭素シグナルを経由して主鎖のNMRシグナルの連鎖帰属と関連付けることを考慮し遠隔13C-13C,及び遠隔13C-1Hスピン結合による磁化移動経路を十分確保するように設計した点で発想が異なる。
特許文献1では、メチル基のような磁気的に等価な1H核が2種類以上あった場合は、一つの水素を残して他は重水素化されていた。これと同様にPheやTyrに関してもδ1、δ2位及びε1、ε2位の水素核はそれぞれ磁気的に等価であるため、δ位及びε位の水素核の一方を重水素化するといった標識パターンを示していた。しかしながら、一般にタンパク質内部に存在するアミノ酸側鎖芳香環部位の立体構造はメチル基のそれとは異なり(R)-(c)軸上(2軸上)で回転することは困難であることから、芳香環上のプロトンは磁気的に非等価に観測される。そのため特許文献1に開示のPhe及びTyrを用いてタンパク質の構造を解析した場合、その芳香環部位のプロトン感度従来法に比べても低下する可能性がある。β位までの標識パターンは、特許文献1におけるものと同じであってもよい。
【0013】
本発明で用いる安定同位体標識芳香族アミノ酸としては、
式Aで表されるアミノ酸残基に結合するフェニル基の炭素原子が13Cであり、該フェニル基を構成する残り5つの炭素原子のうち3又は4個の炭素原子が12Cであり、これに重水素が結合し、残りの炭素原子が13Cであって、これに水素原子が結合していることを特徴とする安定同位体標識フェニルアラニン、
式Aで表されるアミノ酸残基に結合するフェニル基の炭素原子が13Cであり、該フェニル基のヒドロキシル基(OH基)に結合する炭素原子が12C又は13Cであり、該フェニル基を構成する残り4つの炭素原子のうち3又は4個の炭素原子が12Cであり、これに重水素が結合し、残りの炭素原子が13Cであって、これに水素原子が結合していることを特徴とする安定同位体標識チロシン、
式Aで表されるアミノ酸残基に結合するインドリル基の炭素原子が13Cであり、該インドリル基を構成する残り7つの炭素原子のうち3〜5個の炭素原子が12Cであり、これに重水素が結合し、残りの炭素原子が13Cであって、これに水素原子が結合しており、該インドリル基を構成するNH基の窒素原子が15N又は14Nであることを特徴とする安定同位体標識トリプトファン、及び
式Aで表されるアミノ酸残基に結合するイミダゾリル基の炭素原子が13Cであり、該イミダゾリル基を構成する残り2つの炭素原子の片方の炭素原子が12Cであってこれに重水素が結合しており、残りの炭素原子が13Cであって、これに水素原子が結合しており、該イミダゾリル基を構成する2つの窒素の1つが15Nであり残りが14Nであって、NH基を構成する水素原子が重水素ではないことを特徴とする安定同位体標識ヒスチジンが好ましい。
本発明で用いる安定同位体標識芳香族アミノ酸としては、式Aで表されるアミノ酸残基中の*1C、*2C及び*3Cは、それぞれ13Cを示すのが好ましい。より好ましくは、下記一般式(1)〜(15)で表される安定同位体標識芳香族アミノ酸である。
【0014】

【0015】

(式中、Cは12C又は13Cを示し、Nは14N又は15Nを示し、Zは水素原子又は重水素原子を示し、Rは下記の基
【0016】

【0017】
(式中、X、Y及びZは、それぞれ水素原子又は重水素原子を示す。)である。)
これらのうち、特に、一般式(1)、(2)、(3)、(4)、(7)又は(8)で表される安定同位体標識芳香族アミノ酸が好ましい。
本発明で用いる上記安定同位体標識芳香族アミノ酸は、従来公知の種々化学合成方法を組み合わせて、又はそれらを改変して合成することができる。例えば、後述の実施例に例示したような反応スキームに沿って化学合成により調製してもよい。
本発明では、標的蛋白質を構成するアミノ酸として上記安定同位体標識芳香族アミノ酸を用いて、無細胞蛋白質合成を行って安定同位体標識アミノ酸で構成される標的蛋白質を調製し、そのNMRスペクトルを測定して蛋白質の構造解析することができるが、上記安定同位体標識芳香族アミノ酸とともに、標的蛋白質を構成する脂肪族アミノ酸が、(a)〜(f)の標識パターンを満たすものである安定同位体標識脂肪族アミノ酸と組み合わせて用いるのが好ましい。
ここで、(a)〜(f)の標識パターンを満たすものである安定同位体標識脂肪族アミノ酸としては、(a)、(b)及び(d)において重水素化された後において、水素原子を持つメチレン基およびメチル基の炭素の全てが13Cに置換されているものが好ましい。又、安定同位体標識脂肪族アミノ酸のカルボニル基及びグアニジル基を構成する炭素が13Cに置換されているものが好ましい。又、(a)、(b)及び(d)において重水素化された後において、水素原子を持つメチレン基およびメチル基の炭素の13C/12Cが15/85(原子比)以上又は全てが12Cになっているのが好ましい。
【0018】
尚、(a)〜(f)の標識パターンを満たすものである安定同位体標識脂肪族アミノ酸として特に好ましいものは、特許文献1の図1にその構造式が記載されており、又、特許文献1に記載の方法により、容易に調製することができる。尚、特許文献1の記載内容は本明細書の記載に含まれるものとする。図1中、安定同位体標識脂肪族アミノ酸には、中性アミノ酸及び塩基性アミノ酸も含まれる。参考のため、特許文献1の図1に示された安定同位体標識脂肪族アミノ酸を図1に示す。
NMRによる蛋白質の構造解析のために、安定同位体標識アミノを、標的とする蛋白質に組み込む。この際、標的蛋白質を構成する芳香族アミノ酸のうちで任意に選定した一つ、複数、或は全てをここで示すような立体構造情報の入手、NMRスペクトル解析を最も有効ならしめるパターンを有する本発明の安定同位体標識芳香族アミノ酸で置換することができる。しかしながら、標的蛋白質を構成する全ての芳香族アミノ酸を、本発明の安定同位体標識芳香族アミノ酸で置換し、さらに、標的蛋白質を構成する残りの全てのアミノ酸、すなわち、全ての脂肪族アミノ酸も、上記安定同位体標識アミノで置換するのが好ましい。標的蛋白質を構成するアミノ酸を安定同位体標識アミノで置換することは、従来公知の方法、例えば、培養生物細胞を用いた通常の高発現蛋白質合成系、有機化学的・酵素化学的ペプチド・蛋白質合成手法、或は無細胞抽出液を用いる蛋白質調製法などの何れの手法を利用して行うことができる。これらのうち、無細胞抽出液を用いる蛋白質合成法が好ましい。すなわち、通常の培養生物細胞を用いる手法で問題となるアミノ酸代謝による同位体希釈や拡散の制御が容易であること、また多量合成が困難な標識アミノ酸を極めて高効率で蛋白質に取り込むことが可能となるからである。
【0019】
NMRによるスペクトル測定や蛋白質の構造解析のための手法も様々であってよい。また、リガンド結合による構造変化部位の特定等も可能である。
いずれにしても、本発明で使用するアミノ酸は、様々な標識パターンを持つことに最大の特徴があり、それらが蛋白質に取り込まれた際には従来の手法によっては得ることが困難な蛋白質の立体構造解析が可能になるものである。
本発明では、特許文献1に記載の立体選択重水素化(Stereo-selective Deuteration,SSD)、位置選択重水素化(Regio-selective Deuteration, RSD)、立体整列重水素化(Stereo-array Deuteration,SAD)、プロトン濃度最小化(Proton-density Minimization, PDM)及びテーラー環移転(Tailored ring-labeling, TRL)を組み合わせることにより蛋白質の立体構造情報の取得に最適なアミノ酸をデザインすることができる。
本発明の蛋白質のNMR構造解析方法としては、標的蛋白質を構成する全てのアミノ酸が上記安定同位体標識アミノ酸、すなわち、芳香族アミノ酸を安定同位体芳香族アミノ酸で、これ以外のアミノ酸、つまり、脂肪族アミノ酸が上記安定同位体脂肪族アミノ酸で置換されてなる標的蛋白質の構造をNMRスペクトル測定により解析することを含む標的蛋白質のNMR構造解析方法が好ましい。
【0020】
本発明によれば、次に示す効果が得られる。蛋白質中のアミノ酸残基を重水素標識することで双極子相互作用を低減させることから、芳香環上のプロトン及びその近傍にあるプロトンのシグナルの測定感度が向上する。
(i)蛋白質中のアミノ酸残基を重水素標識することで双極子相互作用を低減させることから、芳香環上のプロトン及びその近傍にあるプロトンのシグナルの測定感度が向上する。
(ii)主鎖シグナルの連鎖帰属を環部分にまで展開することが可能になり芳香環シグナルの配列特異的帰属が可能になる。
(iii)NMRスペクトル解析の精度が向上する。
(iv)NMRスペクトル解析の解析時間を短縮することができる。
(v)芳香環プロトンの関与したNOEの収集が可能となり従って蛋白質コア部分の立体構造決定がより精密に可能 となる。
(vi)芳香族アミノ酸残基側鎖シグナルを利用した構造決定、構造情報の取得が可能になり、蛋白質の標識アミノ酸残基近傍の詳細な構造情報を入手することが可能になる。
(vii)又、本発明の標識芳香族アミノ酸をアミノ酸残基選択的に蛋白質に導入した場合には、上記(i)〜(vi)の効果が期待できる。
以下に、実施例として、様々な標識パターンを持つアミノ酸を用いて標識した蛋白質の調製と、それらのNMRスペクトルが、立体構造を入手する上でどのような優れた特徴を有するかに関して例示する。
もちろん、下記の実施例はこの出願の発明についての具体的な理解を得るための例示であって、これらの例示によってこの出願の発明が限定されることはない。
【0021】
(実施例1)
フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンの安定同位体標識体の合成
アセトンからのフェニルアラニン、チロシン、トリプトファンの安定同位体標識体の合成フローチャートを図2に示す。
アセトン(16)から安定同位体標識チロシン(4)の合成(図3)
(i)[3,5-13C2]-Diethyl 2,4,6-Trioxoheptanoate(17
文献(1)を参考にして合成を行った。[1,3-13C2]-アセトン(16) 10g(167mmol)とシュウ酸ジエチルエステル25ml(184mmol)に21%-EtONaエタノール溶液65ml(174mmol)を水浴下、2時間かけて滴下した。室温で1時間攪拌後、シュウ酸ジエチルエステル25ml(184mmol)を加え、水浴下21%-EtONaのエタノール溶液65ml(174mmol)を滴下した。105℃で2時間攪拌しながら溶媒を留去した。0℃で濃塩酸40ml、続いて氷水140mlを加え、ろ過後、残渣を乾燥し、[3,5-13C2]- ジエチル 2,4,6-トリオキソヘプタンエステル(17) 27.8g(107mmol,64%)を得た。
(ii)[3,5-13C2;1,3,5,7-2H4]-4-Oxo-4H-Pyrane-2,6-dicarboxylic Acid(18)
文献(2)を参考にして合成を行った。ヘプタンエステル(17) 27.8g(107mmol)をconc-DC1 30mlに懸濁し、102℃で24時間攪拌し、冷却、ろ過し、その残渣を冷D2O(5ml×2)で洗浄後、オートクレーブに入れD2O 200mlに溶かし、120℃で12時間攪拌した。冷却し、室温で12時間放置し、結晶を析出させた。これをろ過し、残渣をビーカーに入れ、油浴下、110℃で2時間、160℃で2時間、乾燥し、目的の4-オキソ-4H-ピラン-2,6-ジカルボン酸19.1g(18)(101mmol,94%)を得た。
【0022】
(iii)[3,5-13C2;2,3,5,6-2H4]- 4H-Pyrane-4-one(19)
文献(2)を参考にして合成を行った。Cu粉末19.0gを 2N-DCl 10mlと超音波で一分間処理し、デカンテーション後、D2O 10ml加え、160℃で1時間、加熱乾燥した。これとジカルボン酸(18)19.1g(101mmol)を合わせ、乳鉢で混合し、D2O 15mlを加え、160℃で1時間加熱後、常圧で蒸留(240℃で1時間、250℃で1時間、260℃で3時間、段階的に加熱)し、目的の4-オキソ-4H-ピラン(19) 7.39g(72.6mmol,72%)を得た。
(iv)[1,3',5'-13C3;2',3',5',6'-2H4]- Ethyl 4'-hydroxybenzoate(20)
文献(3)を参考にして合成を行った。ピラン(19)7.39g(72.6mmol)と[1,2,3-13C3]-マロン酸エチルエステル13.0ml(79.8mmol)をt-BuOD 50mlに溶解し、t-BuOK 2.9g(17.8mmol)のt-BuOD (80ml)溶液を105℃で1時間かけて滴下した。105℃で18時間、攪拌後、室温にし、D2O 150ml、次いで2N-DCl 50mlを加え、減圧濃縮し、酢酸エチル500mlと蒸留水100mlを加え分液後、有機相を飽和食塩水100mlで洗浄した。減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマト(酢酸エチル:ヘキサン=1:1)で精製し、ヒドロキシ安息香酸エステル(20) 10.7g(61.4mmol,37%)を得た。
【0023】
(v)[1,3',5'-13C3;2',3',5',6'-2H4]- Ethyl 4'-methoxybenzoate(21)
文献(4)を参考にして合成を行った。ヒドロキシ安息香酸エステル(20) 3.39g (19.4mmol)を脱水アセトン100mlに溶解し、ヨウ化メチル1.56ml (25.1mmol)と炭酸カリウム12.1g,( 87.6mmol)を加え、窒素雰囲気下、75℃で16時間攪拌した。蒸留水30mlを加え、約30mlまで減圧濃縮し、ジエチルエーテル(50ml×3)で抽出後、減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマト(酢酸エチル:ヘキサン=1:1)で精製し、メトキシ安息香酸エステル(21) 3.40g(18.1mmol,93%)を得た。
(vi)[1,3',5'-13C3;1,2',3',5',6'-2H5]- 4'-methoxybenzaldehyde(22)
文献(4)を参考にして合成を行った。メトキシ安息香酸エステル(21) 3.40g(18.1mmol)を脱水THF 20mlに溶解し、LiAlD4の 1M-THF溶液19ml(19.0mmol)を0℃で加えた。室温で30分反応後、1N-HCl 80mlを加え、約80mlまで減圧濃縮し、酢酸エチル(60ml×3)で抽出後、減圧濃縮し、メトキシベンジルアルコールを得た。アルコールを塩化メチレン200mlに溶解し、0℃でモレキュラーシーブズ4A 10g、PCC 3.89g(36.2mmol) を加え、0℃で3時間攪拌し、30φのクロマト管に充填し、ハイフロスーパーセルを12cm加え、ジエチルエーテル1000mlで溶出後、減圧濃縮し、メトキシベンズアルデヒド(22)1.81g(11.6ml)を得た。
(vii)[1,2,3,3',5'-13C5;3,2',3',5',6'-2H5;2-15N1]- 4-methoxybenzylideneazlactone(23)
文献(5)を参考にして合成を行った。[1,2-13C2; 2-15N1]-N-アセチルグリシン1.81g (15.1 mmol)にメトキシベンズアルデヒド(22)1.81g (11.6 mmol)と酢酸ナトリウム 900mg (11.0 mmol)と無水酢酸3mlを加え、窒素雰囲気下,105℃で14時間攪拌した。得られた混合物を濃縮し、氷浴下、生じた結晶を濾取した後、冷水で洗浄し、減圧乾燥し、4'-メトキシ-ベンジリデンアズラクト(23) 1.23g (5.3mmol,46%)を得た。
【0024】
(viii)[1,2,3,3',5'-13C5;3,2',3',5',6'-2H5;2-15N1]- dehydro-N-acethyl-4'-methoxyphenylalanine methyl ester(24)
文献(6)を参考にして合成を行った。アズラクトン(23) 1.23g (5.3mmol)を脱水MeOH 50mlに溶解し、室温でトリエチルアミン0.5ml加え、室温で1時間、攪拌した。溶媒を減圧留去後、シリカゲルカラム(20×70mm)にアプライし、酢酸エチル200mlで溶出した。
溶媒を留去すると目的のデヒドロ体(24) 1.03g (3.9mmol,74%)を得た。
(ix)(2S,3R)-[1,2,3,3',5'-13C5;3,2',3',5',6'-2H5;2-15N1]-N-acethyl-4'-methoxyphenylalanine methyl ester(25)
文献(7)を参考にして合成を行った。デヒドロ体(24) 1.03g (3.9mmol)を脱水メタノール15mlに溶解し、(S,S)-Et-DuPhos-Rh触媒55mgを入れ中圧還元装置を用いて水素圧2気圧、室温で12時間攪拌する。シリカゲルカラム(15×40mm)にアプライし、酢酸エチル200mlで溶出し、目的のメトキシフェニルアラニンメチルエステル(25)を1.02g(3.8mmol,98%)得た。
(x)(2S,3R)-[1,2,3,3',5'-13C5;3,2',3',5',6'-2H5;2-15N1]-Tyrosine(26)
文献(8)を参考にして合成を行った。チロシンメチルエステル(25) 1.02 g (3.8mmol)を1N-HCl 50mlに溶解し、105℃で12時間、攪拌した。冷却後、得られた混合物を濃縮後、Dowex-50w-X8にてイオン交換しメトキフェニルアラニン775mg(3.77mmol)を得た。これとヨウ化ナトリウム623mg (4.15mmol)を48%-臭化水素酸45mlに溶解し、セプタムでふたをして針金で堅く止めて、92℃で4時間半攪拌した。室温で冷却後、得られた混合物を濃縮後、Dowex-50w-X8にてイオン交換し、チロシン(4)を得た。
【0025】
安定同位体標識フェニルアラニンの合成(図4)
(i)[1,3',5'-13C3;2', 6'-2H2]- Ethyl 4'-hydroxybenzoate(26
文献(9)を参考にして行った。ヒドロキシ安息香酸(20)3.8g(21.9mmol)を6N-HCl 80mlに懸濁し、102℃で12時間、攪拌した。冷却後、溶媒を留去し、氷浴下、塩化チオニル660μlと脱水エタノール10mlを加え、90℃で4時間攪拌した。溶媒留去後、シリカゲルカラムクロマト(酢酸エチル:ヘキサン=1:1)で精製し、ヒドロキシ安息香酸エステル(26) 3.0g(17.4mmol,80%)を得た。
(ii)[1,3',5'-13C3;2',4',6'-2H3]- Ethyl benzoate(27
文献(10)を参考にして行った。ヒドロキシ安息香酸エステル(26)4.5g(26.2mmol)を脱水アセトン120mlに溶解し、室温で1-フェニル-5-クロロテトラゾール 5.0g(27.7mmol) と炭酸カリウム 22g(159mmol) を加え、75℃で15時間、攪拌した。ろ過後、ろ液を濃縮、EtOD 80mlに溶解し、Pd-C触媒3.5gを入れ中圧還元装置で水素圧4気圧、室温で12時間攪拌した。溶媒留去後、シリカゲルカラムクロマト(酢酸エチル:ヘキサン=1:1)で精製し、安息香酸エステル(27)3.77g(24.0mmol,92 %)を得た。
【0026】
(iii)[1,3',5'-13C3;1,2',4',6'-2H4]- benzaldehyde(28
文献(4)を参考にして行った。安息香酸エステル(27)3.77g(24.0mmol)を無水THF 100mlに溶解し、LiAlD4 1M-THF溶液12ml(12.0mmol)を0℃で加えた。室温で30分反応後、1N-HCl 80mlを加え、約80mlまで減圧濃縮し、酢酸エチル(60ml×3)で抽出、減圧濃縮し、
ベンジルアルコールを得た。アルコールを塩化メチレン200mlに溶解し、0℃でモレキュラーシーブズ4A 10g、PCC 3.89g(36.2mmol) を加え、0℃で3時間攪拌し、30φのクロマト管に充填し、ハイフロスーパーセルを12cm加え、ジエチルエーテル1000mlで溶出、減圧濃縮し、ベンズアルデヒド(28)1.9g(16.7mmol,69%)を得た。
(iv)[1,2,3,3',5'-13C3;1,2',4',6'-2H4; 2-15N1]- benzylideneazlactone(29
文献(5)を参考にして行った。[1,2-13C2; 2-15N1]-N-アセチルグリシン(28)1.50g (12.3 mmol)にベンズアルデヒド1.28g (11.2 mmol)と酢酸ナトリウム 800mg (9.75 mmol)と無水酢酸3.0mlを加え、窒素雰囲気下で115℃で2時間攪拌した。得られた混合物を濃縮し、氷浴下、生じた結晶を濾取後、冷水で洗浄し、減圧乾燥し、ベンジリデンアズラクトン(29) 1.28g (6.5mmol,58%)が得られた。
(v)[1,2,3,3',5'-13C3;1,2',4',6'-2H4; 2-15N1]- dehydro-N-acethyl-phenylalanine methyl ester(30
文献(6)を参考にして行った。アズラクトン(29)1.28g (6.5mmol)を脱水MeOH 50mlに溶解し、室温でトリエチルアミン500ul加え、室温で1時間、攪拌した。溶媒を減圧留去後、シリカゲルカラム(25×40mm)にアプライし、酢酸エチル300mlで溶出した。溶媒を留去すると目的のデヒドロ体(30) 1.18g (5.1mmol,78%)を得た。
【0027】
(vi)[1,2,3,3',5'-13C3;1,2',4',6'-2H4; 2-15N1]- N-acethyl-phenylalanine methyl ester(31
文献(7)を参考にして行った。デヒドロ体(30)1.46g (6.4mmol)を脱水メタノール20mlに溶解し、(S,S)-Et-DuPhos-Rh触媒35mgを入れ中圧還元装置で水素圧2気圧、室温で16時間攪拌した。シリカゲルカラム(20×55mm)にアプライし、酢酸エチル200mlで溶出し、目的のフェニルアラニンメチルエステル(31)を1.40g(6.0mmol,95%)を得た。
(vii)[1,2,3,3',5'-13C3;1,2',4',6'-2H4; 2-15N1]- Phenylalanine(1
フェニルアラニンメチルエステル(31)1.40 g (6.0mmol)を1N-HCl 50mlに溶解し、105℃で12時間、攪拌した。冷却後、得られた混合物を濃縮後、Dowex-50w-X8にてイオン交換し、フェニルアラニン(1) 1.10mg(5.97mmol,99%)を得た。
【0028】
安定同位体標識トリプトファン(8)の合成(図5)
(i)benzoicacid (32)
標識安息香酸エステル(27)に2N水酸化ナトリウム水溶液を加え室温で終夜撹拌した。
反応溶液に塩酸を加えた後塩化メチレンを用いて抽出した。有機層を乾燥後濃縮した。
(ii)Aniline (34)
NaOH(7.2eq, 7.418g)を冷水(38ml)に溶解し、0℃に冷却した。
KMnO4(15.49mmol, 2.45g)にconcHCl(10cc)を滴下し、生じた塩素ガスをNaOH溶液中に吹き込んだ。そこに標識ベンズアミド(33)(2.63 g, 20.76 mmol)を加えた後、100℃に昇温し1時間撹拌した。反応溶液をエーテルにより抽出し有機層をNa2SO4で乾燥後ろ過した。エーテル溶液にdryHClガスを吹き込、み生じたアニリン塩酸塩をろ過した。結晶に重水を加え濃縮後、さらに重水(60ml)を加え、耐圧管を用いて120度で2日撹拌した。反応溶液を0℃に冷却後2N-NaOH20ml)を加え塩化メチレンで抽出、有機層を乾燥後濃縮しアニリン(34)を得た。収量16.8mmol
(iii)indole (35)
文献11を参考にして合成した。アニリン(34)(16.8mmol)を塩化メチレンに溶解し、−70℃に冷却した後、別途合成したtBuOCl(16.8mmol)の塩化メチレン溶液(8ml)を滴下し−70℃で15分撹拌した。反応溶液に別途合成したMeSCH2CO2Et(16.8mmol)の塩化メチレン溶液(8ml)を1時間以上かけて滴下し、さらに2時間撹拌した。得られた反応溶液にTEA(16.8mmol)の塩化メチレン溶液(8ml)を30分以上かけて滴下し同温度で15分撹拌した後室温まで昇温した。水10mlをくわえ15分撹拌した後、濃縮後、エーテル(20ml)、2MCHl(13ml)を加え、エーテルで抽出し、乾燥濃縮した。得られた化合物(4.25mmol)をHMPA(5ml)に溶解し、アルゴン中LR試薬(2.1mmol)を加えた。後処理後、Ra-Ni(4杯)、MeOH(60ml)を加え1時間加熱還流した。デカンテーションによりRaNiを取り除き、溶液を濃縮、乾燥後カラムクロマトグラフィー(3cm)により精製しインドール(35)を得た。収量3.76 mmol 収率88%
【0029】
(iv)indole-3-carboxyaldehyde (36)
[a-2H; a-13C]-DMF(7.52 mmol)をTHF(4 ml)に溶解し、氷浴下で攪拌溶液中にオキシ塩化リン(3.76 mmol)を加え、さらにインドール(35) (3.76 mmol)を溶解したTHF(50 ml)溶液を加え、室温で3時間攪拌した。TLCで反応の終了を確認後、氷浴下で冷却し、水(30 ml)と2M-水酸化ナトリウム水溶液をアルカリ性になるまで加え、塩化メチレン-メタノール溶液(95:5)(100 ml×3 )で抽出後、飽和塩化ナトリウム水溶液(100 ml×3)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。吸引濾過後、溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し(展開溶媒 塩化メチレン:メタノール=94:6)、アルデヒド(36)が得られた。収量2.68mmol 収率71%
【0030】
(v)Tryptophane (8)
[12,-13C2; 2-15N]-N-アセチルグリシン(3.4mmol)にインドール-3-カルボキシアルデヒド(35) (2.86 mmol)と酢酸ナトリウム(5.15mmol)と無水酢酸(20mmol)を加え、アルゴン雰囲気下120℃で8時間攪拌した。得られた混合物を氷浴下で冷却し、生じた結晶を濾取した後、少量の冷水で洗浄し、減圧下で乾燥した、得られた結晶を0.5M-炭酸ナトリウム水溶液(20 ml)に加え、140℃で4時間還流した。氷浴下で冷却後、不溶物をハイフロスーパーセルを用いた吸引濾過により除去し、冷濃塩酸を酸性になるまで加え、結晶を濾取した後冷水で洗い、減圧下で乾燥しN-アセチルデヒドロトリプトファンが得られた。N-アセチルデヒドロトリプトファンをエタノール(30 ml)に溶解し、PtO2(0.05 g)を加え、室温、常圧(1 atm)で水素添加を行った。10日後に1H-NMRにより原料の消失を確認後、ハイフロスーパーセルを用いた吸引濾過により触媒を除去した後溶媒を留去し、減圧下で乾燥し、N-アセチルトリプトファンが得られた。得られたN-アセチルトリプトファンを1M-水酸化ナトリウム水溶液(50 ml)に溶解し、1M-塩酸(50ml)を加えた後、無水塩化コバルト(10 mg)を加えた。これに1M-水酸化ナトリウム水溶液あるいは1M-塩酸を注意深く加えpH 8に調整し、糸状菌由来のアシラーゼ(150 mg)を加え、37℃で3日間攪拌した。ハイフロスーパーセルを用いた吸引濾過により触媒を除去し、水を留去した後、2M-塩酸をpH 1になるまで加え、アセチル体を結晶化し濾取した。濾液を濃縮後、Amberlite CG50にてイオン交換し、トリプトファン(8)(0.315 g, 1.529 mmol)とN-アセチル-D-トリプトファンが得られた。
【0031】
安定同位体標識ヒスチジン(48)の合成(図6)
(i)グリシン(37)(7.50g、100 mmol)をメタノールに懸濁させ、氷冷下でSOCl2(11.9g、100 mmol)を滴下した後約1時間refluxした。メタノールを加えて濃縮することを数回繰り返すことにより(38)の塩酸塩の結晶をほぼ定量的に得た。
(ii)PhCH2Br (17.1g、100 mmol)をTHF(100ml)に溶解し、よく攪拌しながらEt3N (20.2g、200 mmol)を加えた。しばらくしてから基質(38)を加え、室温で一晩攪拌した。反応後Et3NHBr塩をろ過して取り除き、ろ液を濃縮して目的物(39)を得た(15.1g、84.4 mmol、84.4%)。
(iii)氷冷下で、基質(39)をギ酸(45ml)に溶解し、無水酢酸(45ml)を少しずつ加えた。100℃で約1〜2時間加熱した後濃縮し、ギ酸と酢酸を飛ばした。塩化メチレンを加えて抽出し、有機相を飽和NaHCO3水溶液で4回洗った後、水で洗い、飽和NaCl水溶液で洗った。有機相をNa2SO4で乾燥し、濃縮した。シリカゲルカラム(展開溶媒 へキサン:酢酸エチル=2:1)で精製することにより目的物(40)を得た (8.12g、39.1 mmol、46.3%)。
【0032】
(iv) N2気流下、基質(40)(17.17g、81.7mmol)にH13COMe 12.4g(203.2mmol)を加えて氷浴上で攪拌し、NaOMe(6.61g、122.5 mmol)とdryトルエン(40ml)を加え、15℃以下で約2時間攪拌した後0℃で一晩放置した。反応混合物に、dryエーテルを加え、析出してきたNa塩(41)の結晶をろ過して回収し、乾燥した (3.51g、12.9 mmol、33.0%)。
(v) 基質(41)に、50%MeOH(70ml)と12N HCl(13.6ml)を加え室温で一晩攪拌した後、KS13C15N (7.43g、76.5mmol)を加え80℃で4時間攪拌した。析出してきた結晶をろ過して回収し乾燥し目的物(42) (18.5g、70.9mmol, 87%)を得た。
(vi)基質(42)(18.5g、70.9mmol)をdryEtOH(70ml)に溶解し、raney Ni(約20g)をdryEtOHに懸濁させて少しずつ加えた。100℃で約1〜2時間加熱した。セライトでろ過し、ろ液を濃縮した。残渣をシリカゲルカラム(展開溶媒 へキサン:酢酸エチル=1:1)で精製して目的物(43)を得た(8.12g、39.1 mmol、収率56.7%)。
【0033】
(vii)三つ口にLiAlD4(0.41g)とdryTHF(50ml)を加えて、基質43 (2.18g、9.8mmol)をdryTHF(15ml)に溶解して加えた。室温で3時間攪拌し、水(10ml)を加えて反応を止めた。6N HClを加えてpHを8〜9に合わせてから塩化メチレンで抽出し、有機相を飽和食塩水で洗った。Na2SO4で乾燥後、有機相を濃縮することにより目的物(44)を得た(0.65g、3.3mmol、収率34%)。
(viii)基質(44)(0.65g、3.3mmol )をクロロホルム(15ml)に溶解し、MnO2(2g)を加え、室温で2日攪拌した。セライトでろ過し、ろ液を濃縮した。残渣をシリカゲルカラム(展開溶媒 クロロホルム:メタノール=9:1)で精製することにより目的物(45)を得た (0.61g、3.1mmol、収率96.0%)。
(ix) 均一標識ホスホリルグリシン(0.4988g, 2.06mmol)を塩化メチレン(5ml)に溶解し氷浴下でDBU (0.487ml、3.17mmol)を加え室温で30分攪拌した後、基質(45)(0.767g、3.17mmol)を塩化メチレン (5ml)に溶解して加え、室温で一晩攪拌した。濃縮後残渣を酢酸エチルに溶解して、飽和NH4Cl水溶液で洗浄後、Na2SO4で乾燥、濃縮することにより目的物(46)を得た(0.625g、2.06mmol、収率65.0%)。
(x)基質(46)(0.312g、1.03mmol)を塩化メチレン(5ml)、メタノール(5ml)に溶解し、Pd/C(0.3g)加えて、室温、5気圧で水素添加を行った。3日後にセライトでろ過し、ろ液を濃縮した。残渣をシリカゲルカラム(展開溶媒 クロロホルム:メタノール=9:1)で精製することにより目的物(47)を得た(0.205g、0.957 mmol、収率92.9%)。
(xi)基質(47)(0.205g、0.957mmol)に1N HCl(10ml)を加えて100℃で一晩還流した後濃縮し、ヒスチジン(48)のHCl塩を得た(0.0845g)。
【0034】
安定同位体標識ヒスチジン(55)の合成(図11)
図11に示す合成ルートにより、同位体原料として[ul-13C;15N]Gly、2HCO2Me及びKS13CNを用い、前述のヒスチジンの合成法を利用して安定同位体標識ヒスチジン(55)を合成した。
(i)N2気流下、基質40(7.854g, 37.4mmol)に2HCOMe (10.87g, 178mmol)を加えて氷浴上で攪拌し、NaOMe(5.710g、65.7 mmol)とdryトルエン(44ml)を加えた。15℃以下で約2時間攪拌した後0℃で一晩放置した。そのまま濃縮し、50%MeOH(70ml)と12N HCl(13.6ml)を加えて室温で一晩攪拌した。KS13CN (3.318g, 33.8mmol)を加え、80℃で4時間攪拌した。析出してきた結晶をろ過して回収し、乾燥した。(5.065g, 20.0mmol, 41%)
(ii) 基質49(3.859g, 15.3mmol)をdryEtOH(70ml)に溶解し、raney Ni(約20g)をdryEtOHに懸濁させて少しずつ加えた。100℃で約1〜2時間加熱した。セライトでろ過し、ろ液を濃縮した。残渣をシリカゲルカラム(展開溶媒 へキサン:酢酸エチル=1:1)で精製することにより目的物2(2.312g, 10.9mmol, 71%)を得た。
(iii)三つ口にLiAlD4(0.458g, 10.9mmol)とdryTHF(100ml)を加えて、基質50 (2312g, 10.9mmol )をdryTHF(15ml)に溶解して加えた。室温で3時間攪拌し、水(10ml)を加えて反応を止めた。6N HClを加えてpHを8〜9に合わせてから塩化メチレンで抽出し、有機相を飽和食塩水で洗った。有機相をNa2SO4で乾燥後、濃縮することにより目的物51(1.878g, 9.62mmol, 89%)を得た。
【0035】
(iv)基質51(1.878g, 9.62mmol)をクロロホルム(45ml)に溶解し、MnO2(6g)を加え、室温で2日攪拌した。セライトでろ過し、ろ液を濃縮した。残渣をシリカゲルカラム(展開溶媒 クロロホルム:メタノール=9:1)で精製し、目的物52 (1.703g, 8.86mmol, 92%)を得た。
(v)均一標識ホスホリルグリシン(2.150g, 8.87mmol)を塩化メチレン(5ml)に溶解し氷浴下でDBU (1.350g, 8.87mmol)を加え室温で30分攪拌した後、基質52(1.703g, 8.86mmol)を塩化メチレン (5ml)に溶解して加え、室温で一晩攪拌した。濃縮後酢酸エチルに溶解して、飽和NH4Cl水溶液で洗い、有機相をNa2SO4で乾燥後、濃縮することにより目的物53(1.042g, 3.38mmol, 38%)を得た。
(vi)基質53(0.398g, 1.29mmol)を塩化メチレン(15ml)、メタノール(15ml)に溶解し、Pd/C(0.7g)加えて、室温、5気圧で水素添加を行った。3日後にセライトでろ過し、ろ液を濃縮することにより目的物54(0.247g, 1.20mmol, 93%)を得た。
(vii)基質54(0.247g, 1.20mmol)に1N HCl(10ml)を加えて100℃で一晩還流した後濃縮し、ヒスチジン55のHCl塩を得た(0.240g)。
【0036】
(実施例2) NMR測定解析
背景説明で述べたように、球状蛋白質はPhe,Trp,Tyrなどの芳香族アミノ酸とLeu、Val、Ileなどのアルキル側鎖を持つアミノ酸から構成される疎水性コア部分を有するものが多い。従って、NMR法により蛋白質の立体構造を決定する場合にはこれらのアミノ酸相互がどのような相対的位置関係にあるかを知るための距離制限を実験的に求める必要がある。通常はこのような距離制限は1H-1H 間の双極子相互作用が空間距離の三乗分の一に比例することを利用した核オーバーハウザー効果(NOE; nuclearOverhauser effect)を各水素核(プロトン)NMRシグナルに関して実験的に求めることによって得られる。本発明は要約すれば、従来はNOE測定実験上の制約により、NMR構造解析の対象となり得なかった高分子量蛋白質に関して、特に構造決定実験上不可欠である芳香族アミノ酸水素核を含むNOEの測定をより感度良く、しかも正確に行うことを可能とするものである。本発明の新規安定同位体標識芳香族アミノ酸類を添加した培地を用いて、微生物或いはその他の細胞を培養し、それらの生産する蛋白質、或いは外来遺伝子として組み込まれた蛋白質中のアミノ酸残基を特異的に標識することができる。培養中の希釈などを避け、また標識アミノ酸に対する蛋白質収量を高めるためには生細胞を培養するよりも、むしろそれらの細胞中の蛋白質合成因子を抽出し、外来遺伝子を発現させる、いわゆる無細胞蛋白質発現系を用いることが好ましい。このようにして得られた、新規標識芳香族アミノ酸を組み入れた蛋白質試料がいかに従来の均一同位体標識試料と比べてNMR解析に利点を有するかを説明するために、NOE測定の実験プロセスを簡単に説明する。
【0037】
高分子量蛋白質には通常複数の芳香族アミノ酸が含まれているために、芳香環NMRスペクトル領域は数多くのPhe、Tyr、His、Trpなどのシグナルが重なり合って現れ、芳香環のどの部位に由来するシグナルであるのか、或いはアミノ酸配列上どの位置の残基に由来するのかを決定する“シグナルの配列帰属"は著しく困難である。このための天然に存在する炭素(12C)をNMR核である13Cに全て置換した均一13C 標識試料を調製し、1H-観測軸に13C 観測軸を加えた多核種多次元NMR技術を利用することが不可欠である。しかしながら、これらの既存の手法(参考文献:a)Rueterjans et al., b) Baxet al., c)Kay et al.など)においては比較的低分子量蛋白質であっても数日から一週間程度の測定時間を要し、しかもその結果含まれる全ての芳香族アミノ酸残基のシグナルを観測・帰属することは極めて稀である。本発明で合成された新規標識芳香族アミノ酸においては直接に結合した炭素間のスピン結合を通した磁化移動が芳香環部分ではスピン系の複雑さのために効率的に行えない場合には、磁化移動に十分な大きさを持つ遠隔13C間、13C-1H 間のスピン結合定数を帰属に利用する設計がなされている。また、芳香環上の水素核と近隣のアミノ酸残基とのNOEを用いて構造決定する場合には必ずしも芳香環上の水素核全てのNOE情報が不可欠でなく、むしろ各芳香環に少なくとも一つの水素核が残存していれば構造決定には十分なNOE情報が入手できる。従って、Pheを例に挙げて説明すればタイプ(1)の標識体ではCε、Cγのみが、タイプ(2)ではCγ-Cζのみが13C標識されているために直接結合した13C-13Cスピン結合を除去するための定間隔(constant time) HSQCの代わりに通常のHSQCを利用できる利点が生じる(図5)。
【0038】
さらに環上の水素核は13C標識部位以外全て重水素化されているために1H-1H間のスピン結合は存在せず、また1H-1H間の双極子相互作用が無くなるためにシグナルの線幅が著しく鋭くなり、従って測定感度は著しく向上する。これらの飛びラベル芳香族アミノ酸においては極めて高分子量の蛋白質に有効とされている1H-13C TROSY(Transverse Relaxation Optimized Spectroscopy)の適用にも従来の均一標識体と比較して遥かに有効に利用できる(図6)。芳香環水素核のNMRシグナルは全てγ位の13C NMRシグナルを経由しCβ及びHβと関連付けられ、従って通常の手法により主鎖NMRシグナルの帰属に関連付けることが可能となる(図7、図8)。タイプ(3)の芳香族アミノ酸においてはCγ-Cδ文字間に13C -13C結合を有するがこれらの炭素は一般的に化学シフトが十分大きく磁化移動に大きな障害はなく、むしろ大きな1J(13C-13C)を通してHδの配列帰属を行うことができる利点がある。帰属の完了した芳香環シグナルと空間的近い水素核とのNOEの観測は飛びラベル芳香族アミノ酸を利用し13C NMR化学シフト軸を含む3D 13C NOESY法を利用することにより高感度で行うことができる。通常の二重均一13C,15N-標識試料を用いた実験では原理的には全ての1H 核が観測されるためにより多くのNOEシグナルが見られるはずであるが、実際には以上述べた様々な問題点から芳香環部分のNOEシグナルは観測・帰属が困難であり、本発明によって得られるNOEは蛋白質の精密な立体構造決定に極めて有用な距離制限となる。
【0039】
(参考文献)
(1)Organic Syntheses, Coll. Vol. II, Wiley, New York, 126 (1943)
(2)Organic Syntheses with Isotopes, Part II, INTERSCIENCE PUBLISHERS, INC., New York, 1388 (1958)
(3)Organic Syntheses, Coll. Vol. 78, Wiley, New York, 113 (2002)
(4)Wolfgang Steglich, Synthesis, 1047 (1998)
(5)E. Erlenmeyer, Ann. 275,1 (1893)
(6)I. Ojima and M. Fujita, J. Org. Chem. 54, 4511 (1989)
(7)M. J. Burrk, J. Am. Chem. Soc. 115, 10125 (1993)
(8)Guigen Li, Dinesh Patel and Victor J. Hurby, Tetrahedron Letters, 34, 5393 (1993)
(9)K. Nishiyama and M. Kainosho, J. Labelled Compds., 9, 831 (1994)
(10)V. Viswanatha and Victor J. Hurby, J. Org. Chem., 45, 2012 (1980)
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明で用いるのが好ましい安定同位体標識脂肪族アミノ酸を示す。
【図2】アセトンからフェニルアラニン、チロシン、トリプトファンの安定同位体標識体の合成経路の概略図を示す。
【図3】アセトン(16)から安定同位体標識チロシン()の合成経路を示す。
【図4】安定同位体標識フェニルアラニン()の合成経路を示す。
【図5】安定同位体標識トリプトファン(8)の合成経路を示す。
【図6】安定同位体標識ヒスチジン(48)の合成経路を示す。
【図7】Tyr選択標識カルモジュリンの1H−13C(ct-)HSQCスペクトルを示す。
【図8】Phe選択標識カルモジュリンの1H-13C(ct-)TROSYスペクトルを示す。
【図9】Phe選択標識カルモジュリンのHεプロトン帰属ステップを示す。
【図10】Tyr及びPhe選択標識カルモジュリンのHεプロトン帰属ステップを示す。
【図11】安定同位体標識ヒスチジン(55)の合成経路を示す。
【図12】安定同位体標識ヒスチジン(55)を取り込んだタンパク質(MBP:Maltose Binding Protein)の1H−13CHSQCスペクトルを示す。
【図13】安定同位体標識トリプトファン(8) を取り込んだタンパク質(EPPI)の1H−13CHSQCスペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記から選ばれる安定同位体標識芳香族アミノ酸。
式Aで表されるアミノ酸残基に結合するフェニル基の炭素原子が13Cであり、該フェニル基を構成する残り5つの炭素原子のうち2〜4個の炭素原子が12Cであり、これに重水素が結合し、残りの炭素原子が13Cであって、これに水素原子が結合していることを特徴とする安定同位体標識フェニルアラニン、
式Aで表されるアミノ酸残基に結合するフェニル基の炭素原子が13Cであり、該フェニル基のヒドロキシル基(OH基)に結合する炭素原子が12C又は13Cであり、該フェニル基を構成する残り4つの炭素原子のうち2〜4個の炭素原子が12Cであり、これに重水素が結合し、残りの炭素原子が13Cであって、これに水素原子が結合していることを特徴とする安定同位体標識チロシン、
式Aで表されるアミノ酸残基に結合するインドリル基の炭素原子が13Cであり、該インドリル基を構成する残り7つの炭素原子のうち1〜5個の炭素原子が12Cであり、これに重水素が結合し、残りの炭素原子が13Cであって、これに水素原子が結合しており、該インドリル基を構成するNH基の窒素原子が15N又は14Nであることを特徴とする安定同位体標識トリプトファン、及び
式Aで表されるアミノ酸残基に結合するイミダゾリル基の炭素原子が13Cであり、該イミダゾリル基を構成する残り2つの炭素原子の両方の炭素原子が13Cであってこれに水素原子が結合しているか、片方の炭素原子が12Cであってこれに重水素が結合しており、残りの炭素原子が13Cであって、これに水素原子が結合しており、該イミダゾリル基を構成する2つの窒素の1つが15Nであり残りが14Nであって、NH基を構成する水素原子が重水素ではないことを特徴とする安定同位体標識ヒスチジン。
*1C(X)(Y)−*2C(Z)(15NH)(*3COOH) - - - (A)
(式中、*1C、*2C及び*3Cは、それぞれ12C又は13Cを示し、X、Y及びZは、それぞれ水素原子又は重水素原子を示す。)
【請求項2】
式A中の*1C、*2C及び*3Cが、それぞれ13Cを示す、請求項1記載の安定同位体標識芳香族アミノ酸。
【請求項3】
下記一般式(1)〜(15)で表される請求項1記載の安定同位体標識芳香族アミノ酸。




(式中、Cは12C又は13Cを示し、Nは14N又は15Nを示し、Zは水素原子又は重水素原子を示し、Rは下記の基


(式中、X、Y及びZは、それぞれ水素原子又は重水素原子を示す。)である。)
【請求項4】
一般式(1)、(2)、(3)、(4)、(7)又は(8)で表される請求項3記載の安定同位体標識芳香族アミノ酸。
【請求項5】
標的蛋白質を構成する芳香族アミノ酸が、請求項1〜4のいずれか1項記載の安定同位体標識芳香族アミノ酸であり、標的蛋白質を構成する脂肪族アミノ酸が、次の標識パターン
(a)水素原子を2つ有するメチレン基が存在する場合には、メチレン水素のうちの一つが重水素化されている、
(b)プロキラルなgem−メチル基が存在する場合には、一方のメチル基の全ての水素が完全に重水素化され、他方のメチル基の水素が部分重水素化されている、
(d)上記以外のメチル基が存在する場合には、該メチル基の一つの水素を残して他は重水素化されているか、又は該メチル基の全てのメチル基が重水素化されている、
(e)上記(a)、(b)及び(d)において重水素化された後において、水素原子を持つメチレン基および/またはメチル基の炭素の全てが13Cに置換されている、
(f)窒素が全て15Nに置換されている
を満たす安定同位体標識脂肪族アミノ酸であることを特徴とする標的蛋白質を構成する安定同位体標識アミノ酸の組み合わせ。
【請求項6】
(e)上記(a)、(b)及び(d)において重水素化された後において、水素原子を持つメチレン基およびメチル基の炭素の全てが13Cに置換されている、請求項5記載の安定同位体標識アミノ酸の組み合わせ。
【請求項7】
安定同位体標識脂肪族アミノ酸のカルボニル基及びグアニジル基を構成する炭素が13Cに置換されている、請求項6記載の安定同位体標識アミノ酸の組み合わせ。
【請求項8】
標的蛋白質を構成する芳香族アミノ酸が、請求項1〜4のいずれか1項記載の安定同位体標識芳香族アミノ酸であり、標的蛋白質を構成する脂肪族アミノ酸が、次の標識パターン
(a)水素原子を2つ有するメチレン基が存在する場合には、メチレン水素のうちの一つが重水素化されている、
(b)プロキラルなgem−メチル基が存在する場合には、一方のメチル基の全ての水素が完全に重水素化され、他方のメチル基の水素が部分重水素化されている、
(d)上記以外のメチル基が存在する場合には、該メチル基の一つの水素を残して他は重水素化されているか、又は該メチル基の全てのメチル基が重水素化されている、
(e)上記(a)、(b)及び(d)において重水素化された後において、水素原子を持つメチレン基および/またはメチル基の炭素の15原子%以上が13Cに置換されている、
(f)窒素が全て15Nに置換されている
を満たす安定同位体標識脂肪族アミノ酸であることを特徴とする標的蛋白質を構成する安定同位体標識アミノ酸の組み合わせ。
【請求項9】
標的蛋白質を構成する芳香族アミノ酸が、請求項1〜4のいずれか1項記載の安定同位体標識芳香族アミノ酸であり、標的蛋白質を構成する脂肪族アミノ酸が、次の標識パターン
(a)水素原子を2つ有するメチレン基が存在する場合には、メチレン水素のうちの一つが重水素化されている、
(b)プロキラルなgem−メチル基が存在する場合には、一方のメチル基の全ての水素が完全に重水素化され、他方のメチル基の水素が部分重水素化されている、
(d)上記以外のメチル基が存在する場合には、該メチル基の一つの水素を残して他は重水素化されているか、又は該メチル基の全てのメチル基が重水素化されている、
(e)上記(a)、(b)及び(d)において重水素化された後において、水素原子を持つメチレン基および/またはメチル基の炭素の全てが12Cである、
(f)窒素が全て15Nに置換されている
を満たす安定同位体標識脂肪族アミノ酸であることを特徴とする標的蛋白質を構成する安定同位体標識アミノ酸の組み合わせ。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか1項記載の安定同位体標識芳香族アミノ酸の標的蛋白質への組み込み方法であって、無細胞蛋白質合成により組み込むことを特徴とする安定同位体標識アミノ酸の標的蛋白質への組み込み方法。
【請求項11】
請求項5〜9のいずれか1項記載の安定同位体標識芳香族アミノ酸の標的蛋白質への組み込み方法であって、無細胞蛋白質合成により組み込むことを特徴とする安定同位体標識アミノ酸の標的蛋白質への組み込み方法。
【請求項12】
標的蛋白質を構成する全てのアミノ酸として請求項5〜9のいずれか1項の安定同位体標識アミノ酸の組み合わせを用いて、無細胞蛋白質合成を行うことを含む、安定同位体標識アミノ酸で構成される標的蛋白質の調製方法。
【請求項13】
請求項1〜4のいずれか1項記載の安定同位体標識アミノ酸を標的蛋白質に組み込みNMRスペクトルを測定して構造解析することを含む蛋白質のNMR構造解析方法。
【請求項14】
標的蛋白質を構成する全てのアミノ酸が請求項5〜9のいずれか1項記載の安定同位体標識アミノ酸で置換されてなる標的蛋白質の構造をNMRスペクトル測定により解析することを含む標的蛋白質のNMR構造解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【国際公開番号】WO2005/042469
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【発行日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515191(P2005−515191)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016215
【国際出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】