説明

安定液の基準水位設定装置及び基準水位設定方法

【課題】掘削孔を安定させて孔壁面の崩壊を防止可能な安定液の基準水位を、人手を要することなく精度よく容易に設定する。
【解決手段】掘削孔90に安定液80を充填して、次第に減少する安定液80の水位を、水位センサ2により所定時間毎に測定する。水位の測定結果を設定制御装置10の記憶部12に記憶するとともに、水位の測定結果に基づき、設定制御装置10の基準水位判定部15により基準水位を判定する。基準水位判定部15は、各水位の前回からの差分を演算し、差分0が所定回数連続したときの水位を、安定液80の水位の変化が止まる水位と判定し、その水位を、掘削孔90内における安定液80の基準水位として記憶部12に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤の掘削孔内に供給する安定液の基準となる水位を把握するため、掘削孔内における安定液の基準水位を測定して設定する安定液の基準水位設定装置、及び、安定液の基準水位設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地中構造物、例えば、構造物の基礎となる場所打ちコンクリート杭を構築するときには、アースドリル工法やリバース工法により地盤を掘削して断面円形状や矩形状の掘削孔を形成した後、掘削孔内にコンクリートを打設してコンクリート杭が構築される。その際、このような掘削孔は、地下水の流入や水圧等により孔壁面が崩壊し易く、掘削の各段階に応じて安定化処理を施して孔壁面を維持する必要がある。そのため、従来、掘削孔内に安定液を所定水位まで供給して貯留し、孔壁面の崩壊を防止することが行われている(特許文献1、2参照)。
【0003】
図9は、このように安定液を供給した掘削孔の例を模式的に示す断面図である。
地盤Gの掘削孔90には、図示のように、掘削中や掘削後のコンクリート打設までの間、内部に安定液80が供給されて貯留される。また、ここでは、掘削孔90に、筒状のスタンドパイプ92を地表GHから所定高さ突出して、かつ、地表GHから下方に孔壁面91に沿って設けており、安定液80を、その水面(液面)がスタンドパイプ92内に位置するように貯留している。
【0004】
安定液80は、例えば、水、又は、水にベントナイトや高分子化合物を分散させた液体であり、その液圧を孔壁面91に作用させて地下水の流入を抑制し、或いは、水圧に拮抗させる等して、掘削孔90を安定させて孔壁面91の崩壊を防止する。その際、安定液80は、掘削孔90を安定させる充分な作用を発揮させるため、地盤G内の地下水の水位WL等に応じて設定される、孔壁面91の崩壊を防止可能な所定水位まで供給する必要がある。また、安定液80は、地盤Gへの浸透による水位の低下に応じて掘削孔90(スタンドパイプ92を含む)内に供給し、その水位を確保することも要求される。
【0005】
このように、安定液80は、掘削孔90を安定させて孔壁面91の崩壊を防止するため、掘削孔90へ適宜供給して適正な水位を確保する必要がある。これに対し、従来、孔壁面91の崩壊を防止可能な安定液80の基準水位を掘削孔90毎に予め測定して設定し、各基準水位に基づき、掘削孔90に安定液80を供給して水位を管理することが行われている。その際、基準水位は、掘削孔90内に安定液80を充填した後、作業者が所定時間毎に掘削孔90内の水位を都度測定して設定するのが一般的である。
【0006】
ところが、掘削孔90内の安定液80は、長時間(例えば、数時間程度)かけて僅かずつ水位が変化するとともに、時間の経過に伴い水位の変化する速度が次第に低下する。そのため、基準水位を得るには、水位の測定作業を長時間に亘って多数回繰り返す必要があり、多大な手間や時間を要して作業者に大きな負担がかかる。また、水位を繰り返し人手により測定するのに伴い、その測定精度が変動して基準水位の精度も低下する虞もあり、この場合には、安定液80を掘削孔90へ適切に供給できない虞も生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−250131号公報
【特許文献2】特開平11−247188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような従来の問題に鑑みなされたものであって、その目的は、掘削孔を安定させて孔壁面の崩壊を防止可能な安定液の基準水位を、人手を要することなく精度よく容易に設定できるようにし、掘削孔への安定液の適切な供給を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、掘削孔内における安定液の基準水位を設定する安定液の基準水位設定装置であって、掘削孔に充填した安定液の水位を所定時間毎に基準位置からの距離で測定する測定装置と、前記測定装置の測定結果に基づき基準水位を設定する設定制御装置と、を備え、前記設定制御装置は、前記測定装置による測定量と前回の測定量との差分を演算する差分演算手段と、前記差分演算手段の差分が0となる測定量が連続して所定回得られたとき、当該水位を基準水位として記憶手段に設定する設定手段と、を有することを特徴とする安定液の基準水位設定装置である。
請求項2の発明は、請求項1に記載された安定液の基準水位設定装置において、基準水位要求信号を受信する受信手段と、前記基準水位要求信号に応じて前記記憶手段から前記基準水位を読み出す読出手段と、前記読み出した基準水位を送信する送信手段と、を備えたことを特徴とする安定液の基準水位設定装置である。
請求項3の発明は、掘削孔内における安定液の基準水位を設定する安定液の基準水位設定方法であって、掘削孔に充填した安定液の水位を所定時間毎に基準位置からの距離で測定する測定工程と、前記測定工程における測定量と前回の測定工程における測定量との差分を演算する演算工程と、前記演算工程の差分が0となる測定量が連続して所定回得られたとき、当該水位を基準水位として記憶手段に設定する設定工程と、を有することを特徴とする安定液の基準水位設定方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、掘削孔を安定させて孔壁面の崩壊を防止可能な安定液の基準水位を、人手を要することなく精度よく容易に設定でき、掘削孔へ安定液を適切に供給させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態の安定液の基準水位設定装置を模式的に示す要部構成図である。
【図2】本実施形態の基準水位設定装置による基準水位の設定例を示す図である。
【図3】図2に示す基準水位の設定例の結果を示すデータテーブルである。
【図4】本実施形態の安定液の水位管理装置を模式的に示す概略構成図である。
【図5】掘削孔への安定液の供給について説明するための図である。
【図6】水位管理装置の制御装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【図7】水位管理装置による水位管理の手順を示すフローチャートである。
【図8】フロート式の水位検知手段を設置した掘削孔を示す模式図である。
【図9】安定液を供給した掘削孔の例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の安定液の基準水位設定装置と基準水位設定方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
本実施形態の安定液の基準水位設定装置は、上記した安定液の水位管理を実施する際に、掘削孔に供給する安定液の供給開始や停止等の基準となる掘削孔内における安定液の基準水位を測定して設定する装置である。この基準水位は、掘削孔内において、掘削孔を安定させて孔壁面の崩壊を防止可能な安定液の水位であり、地盤内の地下水の水位や掘削孔の深さ等に応じた水位が設定される。
【0013】
本実施形態では、このように設定した基準水位に基づいて、地盤の掘削作業中や掘削作業の中断時、又は掘削後の次作業(例えばコンクリート打設)までの間に、安定液を掘削孔内に適宜供給して掘削孔内における安定液の水位を管理し、掘削孔(孔壁)を安定させて孔壁面の崩壊を防止する。以下、上記した上端にスタンドパイプ92(図9参照)が設けられた堀置き時や掘削後の掘削孔90(ここでは断面円形孔)の基準水位を測定して設定し、円筒状のスタンドパイプ92内まで安定液80を貯留して水位を管理する場合を例に採り説明する。なお、このように、スタンドパイプ92や他の部材が地盤Gの孔に設けられているときには、地盤Gに形成した孔に加えて、その内部や上方まで突出して設けられたスタンドパイプ92等の部材を含めて掘削孔90という。
【0014】
図1は、この安定液80の基準水位設定装置を模式的に示す要部構成図である。
基準水位設定装置1は、図示のように、掘削孔90内の安定液80の水位を測定する水位センサ2と、安定液80の基準水位の設定制御装置10とを備え、水位センサ2がスタンドパイプ92に固定されて基準水位を測定して設定する。この基準水位の設定時には、まず、タンク(図示せず)から水等の安定液80を掘削孔90内に供給し、掘削孔90に安定液80を基準水位よりも高い所定水位まで充填する。その際、ここでは、スタンドパイプ92を地表GHから所定高さ(ここでは50cm)突出させて設置し、その内部の地表GHよりも上まで安定液80を充填して水位センサ2による測定を開始する。
【0015】
水位センサ2は、掘削孔90に充填した安定液80の徐々に変化する水位を測定する測定装置であり、地盤Gへの浸透により掘削孔90内で次第に減少する安定液80の水位を、所定時間毎に基準位置からの距離で測定する。水位センサ2には、超音波式やフロート式の水位センサ、或いは水位に対応した複数の電極を備えた装置が使用でき、例えば超音波式水位センサを安定液80の水面上方に設置し、水面に向けて超音波を発信して水面で反射した超音波を受信し、送受信の時間差から水面の水位を測定する。また、複数の電極を備えた装置では、各電極のオン/オフにより掘削孔90に充填した安定液80の水位を測定する。ただし、ここでは、フロート式水位センサを使用し、水面上のフロート2Aを、水位に応じてロッド状のステム2Bに沿って上下動させ、フロート2Aの位置を検知して安定液80の水位を測定し、水位の測定結果を電気信号に変換して設定制御装置10へ出力する。
【0016】
設定制御装置10は、例えば、マイクロプロセッサ(MPU)と、各種のプログラムを格納するROM(Read Only Memory)と、MPUの処理用データを一時的に格納するRAM(Random Access Memory)とを有するコンピュータを備えている。また、設定制御装置10は、水位センサ2が接続された入力部11と、水位や基準水位に関するデータを記憶する記憶部12と、ユーザによる操作や各種条件の入力に使用されるキーボードやマウス等の操作部13と、水位の測定結果や基準水位等を表示する表示部14と、基準水位判定部15と、を備えている。
【0017】
設定制御装置10は、入力部11を介して水位センサ2から入力された安定液80の各水位に基づき、基準水位判定部15により、安定液80の基準水位に関する演算処理を実行して基準水位を判定する。その際、基準水位判定部15は、差分演算手段と基準水位の設定手段とを有し、差分演算手段により、水位センサ2による各水位の測定量(測定値)と、その1つ前(前回)の測定量との差分を演算する。また、基準水位判定部15は、それぞれ演算した差分が0(ゼロ)となる測定量が連続して所定回得られたとき、その水位を安定液80の基準水位と判定して、設定手段により、記憶手段である記憶部12に記憶して設定する。このようにして、設定制御装置10は、水位センサ2による水位の測定結果に基づき、安定液80の水位の経時的な変化が止まる水位を判定し、この水位を安定液80の基準水位として設定する。
【0018】
図2は、この基準水位設定装置1による基準水位の設定例を示す図であり、孔径が2mの掘削孔90に安定液80を充填して水位を測定した例を示している。
この例では、図示のように、掘削孔90(スタンドパイプ92)内の安定液80の水位が次第に低下して地表GH(水位50cm)に一致したときに水位の測定を開始し、所定時間毎(ここでは5分毎)に水位を順に測定して、安定液80の水位変化が100cmで停止する。なお、上記したように、スタンドパイプ92の上端は地表GHから50cmの高さに位置しており、ここでは、その上端位置を基準位置(=0)に水面までの距離を水位とする。
【0019】
図3は、図2に示す基準水位の設定例の結果を示すデータテーブルであり、左列から順に、測定開始からの経過時間、安定液80の各水位から演算した前回の水位との差分、安定液80の測定水位を示している。
この例では、安定液80は、図示のように、測定開始(0分)からの時間の経過に伴い、水位の差分が次第に小さくなり、95分経過したときに水位が100cmになって水位の差分が0になり、以降、水位の変化が停止する。
【0020】
従って、この例では、基準水位設定装置1は、水位100cmが安定液80の基準水位であると判定して、その掘削孔90内における安定液80の基準水位を設定する。その際、基準水位設定装置1は、設定ミスを防止して正確な基準水位を設定するため、設定制御装置10により、安定液80の水位の差分が0となる状態が連続して所定回数(ここでは2回)得られたときの水位を、安定液80の基準水位として記憶部12に設定する。そのため、100分経過時の水位100cmが安定液80の基準水位と設定され、それまでの水位の変化量50cmから、水面の平均変位速度(逸水速度)は0.5(cm/分)と算出される。
【0021】
加えて、この基準水位設定装置1は、例えば操作部13を介してユーザから基準水位要求を受けたときに、基準水位を読み出して送信し、基準水位を表示部14に表示する。このように、基準水位設定装置1は、設定制御装置10に、基準水位要求信号を受信する受信手段と、基準水位要求信号に応じて記憶部12から基準水位を読み出す読出手段と、読み出した基準水位を送信する送信手段とを備え、ユーザに設定した基準水位を取得させる。なお、設定制御装置10に、外部装置との通信手段を設け、通信手段を介して、外部装置からの基準水位要求信号を受信して、外部装置に基準水位を送信するようにしてもよい。また、本実施形態では、以上のように基準水位を取得した後、基準水位に基づいて、安定液80の水位管理装置により掘削孔90内に供給された安定液80の水位を管理し、掘削孔90を安定させて孔壁面91の崩壊を防止する。
【0022】
図4は、この安定液80の水位管理装置20を模式的に示す概略構成図である。
水位管理装置20は、図示のように、安定液80を蓄えるタンク21と、安定液80の供給ポンプ22と、一端部が供給ポンプ22に取り付けられて他端部が掘削孔90内に挿入された変形自在なホース23と、掘削孔90内に貯留された安定液80の水位を検知する水位検知手段30と、を備えている。また、水位管理装置20は、水位検知手段30と供給ポンプ22が接続された制御装置40を備え、制御装置40により制御して、水位検知手段30の検知結果に基づき供給ポンプ22を作動させ、タンク21からホース23を介して安定液80を掘削孔90に供給する。
【0023】
ここで、供給ポンプ22は、制御装置40からの制御信号に応じて、掘削孔90に安定液80を供給及び停止する安定液80の供給手段を構成し、家庭用の100ボルトの電源に接続されてタンク21内の安定液80中に設置される。また、供給ポンプ22として、例えば、給水能力0.1(m/分)のものを用いると、掘削孔90(孔径2m、断面積3.14m)内での供給速度(0.1/3.14)は3.2(cm/分)となる。水位管理装置20は、このような供給ポンプ22を使用し、掘削孔90内の安定液80の水位を水位検知手段30により検知して、安定液80を掘削孔90に供給する。
【0024】
図5は、掘削孔90への安定液80の供給について説明するための図である。
本実施形態では、掘削孔90内で、安定液80が下限量(下限水位)まで減少したときに安定液80の供給を開始し、安定液80が上限量(上限水位)まで貯留されたときに安定液80の供給を停止する。そのため、掘削孔90内における安定液80の下限水位と上限水位を基準水位に応じて設定し、これら予め定めた所定の下限水位及び上限水位を水位検知手段30により検知して安定液80を供給し、掘削孔90内の安定液80の水位を上・下限水位間に維持して管理する。ここでは、図示のように、基準水位(100cm)から下方と上方に、それぞれ5cm離れた位置に下限水位(105cm)と上限水位(95cm)を設定し、両水位を水位検知手段30により検知する。
【0025】
水位検知手段30は、下限水位検知ロッド31と、それよりも短い上限水位検知ロッド32からなり、各検知ロッド31、32の下端に安定液80を検知する検知部(電極)が設けられている。また、水位検知手段30は、上限水位検知ロッド32の下端に対して、下限水位検知ロッド31の下端が例えば10cm離れた下側に位置しており、各検知ロッド31、32の下端が、それぞれ下限水位と上限水位の位置になるように、掘削孔90内に配置される。水位検知手段30は、安定液80が下限水位検知ロッド31の下端位置よりも減少したときに(図5A参照)、その検知部がオフになり安定液80が下限水位に達したことを検知し、供給ポンプ22を作動させる。これに対し、安定液80の水位が上昇して下限水位検知ロッド31の検知部がオンした後、安定液80が上限水位検知ロッド32の下端に接したときに(図5B参照)、その検知部がオンになり安定液80が上限水位に達したことを検知して供給ポンプ22を停止させる。つまり、水位検知手段30は、これら下限水位と上限水位の検知結果(各オン、オフ信号)を制御装置40(図4参照)に出力して供給ポンプ22のオン/オフを制御させる。
【0026】
図6は、この制御装置40の概略構成を示す機能ブロック図であり、接続された他の構成もブロックで示している。
制御装置40は、例えばコンピュータやPLC(プログラマブルロジックコントローラ)を備え、予め設定されたプログラムや条件に基づいて水位管理装置20の全体を制御し、掘削孔90内の安定液80の水位を管理及び監視する。また、制御装置40は、図示のように、供給ポンプ22と水位検知手段30が接続された入出力部41、制御部42、記憶部43、設定部44、異常判定部45、及び通信部46を有し、それらがバス47を介して互いに接続されている。
【0027】
制御部42は、装置各部を制御する制御手段であり、入出力部41を介して、水位検知手段30から入力された水位の検知結果に基づき、上記のように供給ポンプ22に制御信号(オン、オフ信号)を出力して安定液80の供給開始と停止を実行させる。つまり、制御部42は、水位検知手段30が安定液80の下限水位(図5A参照)を検知したとき、その検知結果(検知信号)の入力に応じて、供給ポンプ22を作動させて安定液80を供給させる。また、制御部42は、安定液80の供給に伴い掘削孔90内の安定液80の水位が上昇して、水位検知手段30が上限水位(図5B参照)を検知したとき、その検知結果の入力に応じて、供給ポンプ22の作動を停止させて安定液80の供給を停止させる。
【0028】
記憶部43は、安定液80の供給と停止に関する各データを記憶し、例えば、上・下限水位の検知時間、安定液80の供給開始及び停止時間、安定液80の供給開始から停止までの供給時間(供給継続時間)、安定液80の供給量等を順次記憶する。また、記憶部43は、設定部44を介してユーザにより予め設定される、安定液80の水位管理に関する条件や、通信部46により通信する外部装置50、異常判定部45が使用する安定液80の供給異常に関する判定条件を記録する。
【0029】
異常判定部45は、記憶部43に記憶された判定条件に基づき、安定液80の水位管理の実行中に、その供給異常が発生したか否かを判定する。その際、ここでは、安定液80の供給が停止せずに供給開始から予め定めた所定時間が経過したとき、タンク21、供給ポンプ22、ホース23を含む安定液80の供給側や水位検知手段30の故障や異常、又は、掘削孔90や周辺地盤の異常等に起因して、安定液80の供給異常が発生したと判定する。このように、異常判定部45は、下限水位の検知に伴う安定液80の供給開始後(供給ポンプ22の作動開始後)、予め定めた所定時間後に、水位検知手段30により上限水位が検知されずに供給ポンプ22の作動が停止しないときに、安定液80の供給が正常時間を超えて継続する異常であると判定する。
【0030】
なお、この異常と判定される時間は、供給ポンプ22による安定液80の供給速度や、安定液80を下限水位から上限水位まで供給するのに必要な時間(供給必要時間)に基づき、各掘削孔90に応じて安定液80の供給異常と判定すべき境界の時間が設定される。例えば、供給ポンプ22の供給速度が上記した3.2(cm/分)であるときに、安定液80を上・下限水位間の距離10cm供給するための供給必要時間は、(10/3.2)から3.1分と算出され、その時間に所定の許容時間(ここでは5分)を加算した8.1分が設定される。制御装置40には、このように算出した時間が、安定液80の供給の継続を許容できる最長時間(許容継続時間)として予め設定され、異常判定部45が安定液80の供給継続時間と設定された許容継続時間とを比較して異常を判定する。また、異常判定部45は、許容継続時間に加えて、後述するように、設定された他の条件に基づき、安定液80の供給が開始されないときや、安定液80の供給量又は水位に異常が生じたときにも、安定液80の供給異常が発生したと判定する。
【0031】
更に、制御装置40は、異常判定部45により安定液80の供給等に関する異常が発生したと判定されたとき、通信部46を介して、予め設定された1又は複数の外部装置50に異常信号を送信して各供給異常の発生を通知する。その際、制御装置40は、例えばネットワークや通信回線に接続された管理センタの管理サーバやパーソナルコンピュータ、又は携帯電話に向けて、信号や音声等により供給異常の発生を通知する。また、ここでは、通信部46が無線通信手段を有しており、携帯電話やPDA(Personal Digital Assistant)等の外部無線通信端末に向けて、供給異常の発生した掘削孔90の位置や異常の種類、異常の発生時間等の必要な情報を添付し、メールにより供給異常の発生を通知することもできる。従って、この安定液80の水位管理装置20は、通信部46から送信される異常信号を受信する外部装置50等の受信装置と共に水位管理システムを構成する。
【0032】
次に、以上説明した水位管理装置20により、掘削孔90の安定液80の水位を管理する手順や動作について説明する。
図7は、この水位管理装置20による水位管理の手順を示すフローチャートである。
水位管理装置20は、図示のように、水位管理を開始して水位検知手段30が下限水位を検知するまで待機し(S101−NO)、水位検知手段30が掘削孔90内の安定液80が下限水位に達したことを検知したときに(S101−YES)、供給ポンプ22をオンして作動させる(S102)。水位管理装置20は、このようにして掘削孔90内の安定液80を検知し、例えば潮汐による安定液80の水位変化を監視する。
【0033】
また、水位管理装置20は、下限水位の検知に基づき掘削孔90に安定液80を供給させるが、制御装置40により、供給ポンプ22からの作動信号の出力を検知する等して、実際に安定液80の供給が開始されたか否かを監視する(S103)。その結果、水位検知手段30が下限水位を検知(供給ポンプ22のオン)してから所定時間内に、供給ポンプ22が作動せずに掘削孔90内への安定液80の供給が開始されないときには(S103−NO)、異常判定部45により安定液80の供給異常が発生したと判定する(S108)。この供給異常の判定により、供給ポンプ22の故障等に伴う掘削孔90内への安定液80の供給が開始されない異常を把握し、通信部46を介して外部装置50に供給異常の発生を通知する(S109)。
【0034】
これに対し、安定液80の供給が所定時間内に開始されたときには(S103−YES)、水位管理装置20は、安定液80の供給に伴い掘削孔90内の安定液80の水位が上限水位に達するまで、供給ポンプ22により安定液80の供給を継続する。この供給継続中に、水位管理装置20は、異常判定部45により、安定液80の供給を継続する供給開始時からの供給継続時間を計測し、計測した供給継続時間と、上記のように予め設定された所定の許容継続時間とを比較する。その結果、各継続時間同士の比較結果に基づき、供給継続時間が許容継続時間を超えたときに、安定液80の供給異常が発生したと判定する。このように、水位管理装置20は、水位検知手段30により上限水位が検知されるまでに所定時間が経過したか否かを判定し(S104−NO、S105−NO)、上限水位を検知できずに所定時間が経過したときに、異常判定部45により異常であると判定する。即ち、異常判定部45は、供給ポンプ22の作動開始後、予め定めた所定時間後に供給ポンプ22が作動停止せず、供給開始から所定時間が経過しときに(S104−YES)、異常と判定する(S108)。制御装置40は、このようにして異常と判定されたとき、通信部46により通信して異常信号を送信し、外部装置50に供給異常の発生を通知する(S109)。
【0035】
また、水位管理装置20は、所定時間内に、水位検知手段30により安定液80の水位が上限水位に達したことを検知したときには(S105−YES)、この上限水位の検知に基づき供給ポンプ22をオフして停止させ(S106)、掘削孔90への安定液80の供給を停止する。続いて、水位管理装置20は、異常判定部45により、掘削孔90への安定液80の供給開始から供給停止までの時間を算出して安定液80の供給時間を取得し、この供給時間に基づき、安定液80の供給量又は水位が異常か否かを判定する(S107)。その結果、異常が発生したときには(S107−YES)、水位管理装置20は、上記と同様に外部装置50に供給異常の発生を通知し(S108、S109)、異常が発生していないときには(S107−NO)、次の下限水位の検知(S101)まで待機する。
【0036】
水位管理装置20は、このように安定液80の予め定めた所定の下限水位及び上限水位を検知して、下限水位を検知したとき供給ポンプ22を作動し、上限水位を検知したとき供給ポンプ22の作動を停止する。また、上記した各手順(S101〜S109)を実行して、安定液80の異常を監視し、掘削孔90内に供給した安定液80の水位を管理する。その後、掘削孔90内の底部から上方に向かって未硬化のコンクリートを注入しながら、安定液80を掘削孔90から排出させて回収し、掘削孔90内にコンクリートを打設する。又は、掘削孔90内から安定液80を排出してから掘削孔90内にコンクリートを打設する。このように掘削孔90にコンクリートを充填して、場所打ち杭等の地中構造物を構築する。
【0037】
以上説明した安定液80の水位管理を、本実施形態では、予め掘削孔90内における安定液80の基準水位を取得し、基準水位に応じて、掘削孔90への安定液80の供給を開始及び停止する。また、この基準水位は、基準水位設定装置1(図1参照)により、掘削孔90に充填した安定液80の水位を順に測定して、各測定量の前回からの差分が連続して0となるときの水位が設定される(図2、図3参照)。そのため、掘削孔90内の水位が長時間かけて変化し、或いは、時間の経過に伴い水位の変化する速度が次第に低下しても、安定液80の各水位を、人手を介さずに精度よく測定して、その経時的な変化を正確に把握でき、安定液80の基準水位を自動で正確に設定できる。
【0038】
これに伴い、基準水位の設定に要する手間や負担を大幅に削減して、設定効率を向上できるとともに、掘削孔90を安定させて孔壁面91の崩壊を防止可能な基準水位を、人手を要することなく精度よく容易に設定できる。また、このように設定した基準水位に基づき、掘削孔90に安定液80を供給して水位を管理するため、掘削孔90へ安定液80を適切に供給して適正に管理することもできる。その結果、掘削孔90への地下水の流入抑制や水圧への拮抗等、掘削孔90を安定させる安定液80の各作用を充分に発揮させて、孔壁面91の崩壊を確実に防止できる。加えて、この基準水位設定装置1では、各水位の差分が0の状態が所定回数連続したときに、その水位を安定液80の水位の変化が止まる基準水位として設定するため、設定ミスを防止して、より正確な基準水位を設定できる。
【0039】
併せて、上記したように掘削孔90内の水位の低下に伴い安定液80を供給する場合、水位管理装置20により、安定液80の供給時間が予め定めた所定時間を経過したときは、異常が発生したと判定して異常信号を送信し、異常発生を外部装置50に通知する。そのため、掘削孔90の近辺に人がいない夜間や作業の休止時等においても、掘削孔90内の水位の異常低下を早期に通知して適切に対処させることができる。その際、異常を通知された管理者は、掘削現場で異常に応じた対策、例えば、1台の供給ポンプ22の供給能力を上回る勢いで掘削孔90内の水位が低下するときには、他のタンク21からも掘削孔90内に安定液80を供給して必要な水位を確保する等の対策を講じて、掘削孔90の崩壊を防止することができる。
【0040】
従って、本実施形態によれば、掘削孔90の安定液80の異常をリアルタイムで判定して通知でき、安定液80の供給異常に対して早期に又は適切に対処させることができる。また、ここでは、上記したように、供給ポンプ22が作動せずに掘削孔90内への安定液80の供給が開始されないときにも、供給異常と判定して通知するため、その異常も早期に通知して適切に対処させることができる。
【0041】
加えて、安定液80の供給時間から供給量や水位を算出して供給異常を判定するため、安定液80の供給が停止した場合であっても、供給量や水位に関するより詳細な異常を判定して通知できる。これにより、例えば水位検知手段30の誤作動で、安定液80の供給量が多く水位が高すぎるときや、上限水位に達するまでに供給が停止したときにも異常を通知できる。更に、制御装置40(図6参照)の記憶部43に記憶されたデータを読み出すことで、上・下限水位の検知時間、安定液80の各供給時間や供給量等を取得でき、それらから掘削孔90内における安定液80の変化の態様を把握することもできる。
【0042】
なお、本実施形態の水位管理装置20では、一対の水位検知ロッド31、32を有する水位検知手段30で安定液80の上・下限水位を検知したが、上・下限水位を含む範囲の任意の水位を測定可能な水位センサにより、上・下限水位を検知するようにしてもよい。この場合には、設定された上・下限水位を水位センサが測定したときに、その測定信号に基づき、制御装置40により安定液80が上限又は下限水位である判断して各水位を検知する。また、水位管理装置20に、一対のフロートにより安定液80の上・下限水位をそれぞれ検知するフロート式の水位検知手段を設けて、各水位を検知するようにしてもよい。
【0043】
図8は、このフロート式の水位検知手段35を設置した掘削孔90を示す模式図である。
水位検知手段35は、図示のように、掘削孔90内で吊り下げられた下限水位検知フロート36と、それよりも高い位置に吊り下げられた上限水位検知フロート37とを有し、各フロート36、37が下限水位と上限水位に対応する位置に配置されている。水位検知手段35は、安定液80の水位が減少して水面から下限水位検知フロート36が離れたときに(図8A参照)、その重さで下限水位検知スイッチ(図示せず)がオンして安定液80が下限水位に達したことを検知する。また、水位検知手段35は、安定液80の水位の上昇に伴い、下限水位検知フロート36が浮いて下限水位検知スイッチがオフした後、上限水位検知フロート37が浮いて上限水位検知スイッチがオフしたときに(図8B参照)、安定液80が上限水位に達したことを検知する。
【符号の説明】
【0044】
1・・・基準水位設定装置、2・・・水位センサ、10・・・設定制御装置、11・・・入力部、12・・・記憶部、13・・・操作部、14・・・表示部、15・・・基準水位判定部、20・・・水位管理装置、21・・・タンク、22・・・供給ポンプ、23・・・ホース、30・・・水位検知手段、31・・・下限水位検知ロッド、32・・・上限水位検知ロッド、35・・・水位検知手段、36・・・下限水位検知フロート、37・・・上限水位検知フロート、40・・・制御装置、41・・・入出力部、42・・・制御部、43・・・記憶部、44・・・設定部、45・・・異常判定部、46・・・通信部、47・・・バス、50・・・外部装置、80・・・安定液、90・・・掘削孔、91・・・孔壁面、92・・・スタンドパイプ、G・・・地盤、GH・・・地表。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削孔内における安定液の基準水位を設定する安定液の基準水位設定装置であって、
掘削孔に充填した安定液の水位を所定時間毎に基準位置からの距離で測定する測定装置と、前記測定装置の測定結果に基づき基準水位を設定する設定制御装置と、を備え、
前記設定制御装置は、前記測定装置による測定量と前回の測定量との差分を演算する差分演算手段と、前記差分演算手段の差分が0となる測定量が連続して所定回得られたとき、当該水位を基準水位として記憶手段に設定する設定手段と、を有することを特徴とする安定液の基準水位設定装置。
【請求項2】
請求項1に記載された安定液の基準水位設定装置において、
基準水位要求信号を受信する受信手段と、
前記基準水位要求信号に応じて前記記憶手段から前記基準水位を読み出す読出手段と、
前記読み出した基準水位を送信する送信手段と、
を備えたことを特徴とする安定液の基準水位設定装置。
【請求項3】
掘削孔内における安定液の基準水位を設定する安定液の基準水位設定方法であって、
掘削孔に充填した安定液の水位を所定時間毎に基準位置からの距離で測定する測定工程と、
前記測定工程における測定量と前回の測定工程における測定量との差分を演算する演算工程と、
前記演算工程の差分が0となる測定量が連続して所定回得られたとき、当該水位を基準水位として記憶手段に設定する設定工程と、
を有することを特徴とする安定液の基準水位設定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−265638(P2010−265638A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116736(P2009−116736)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(505408686)ジャパンパイル株式会社 (67)
【Fターム(参考)】