説明

官能検査基準設定プログラム及び異音検査基準設定プログラム

【課題】異常な被検査対象のデータが正常と判断されることなく過検出を抑制することができる官能検査基準設定プログラムを提供する。
【解決手段】CPU6は、官能検査の基準として予め設定された単位空間の中心からの距離が第1基準値以上である被検査対象の第1データと、予め設定された異常パターンを示す被検査対象の第2データと、をRAM5から収集する。その後、CPU6は、第1データ追加前に作成された単位空間の中心と第2データとの間の距離と、第1データ追加後に作成された単位空間の中心と第2データとの間の距離との差を算出し、これらの差が第2基準値以下となる場合、第1データ追加後に作成された単位空間を、官能検査の基準として再設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正常パターンを示す複数の被検査対象のデータ群から構成される単位空間を官能検査の基準として設定する、コンピュータに読取り可能な官能検査基準設定プログラムに関する。
【0002】
また、本発明は、正常パターンを示す複数の被検査対象のデータ群から構成される単位空間を異音検査の基準として設定する、コンピュータに読取り可能な異音検査基準設定プログラムに関する。
【背景技術】
【0003】
官能検査では、被検査対象の官能データを検知し、検知した官能データの特徴を数値化し、数値化した官能データの特徴と異常パターンを示す被検査対象のデータの特徴との間でパターンマッチングを行うことによって、被検査対象に異常があるか否かを検査している。このような官能検査として、例えば、車載用DVDデッキの製造ラインにおける車載用DVDデッキに対するディスクの挿入及び排出動作等の作動音の異音検査を挙げることができる。
【0004】
しかしながら、このようなパターンマッチングを行う場合、数値化した官能データの特徴が異常パターンを示す被検査対象のデータの特徴と一致しないときには被検査対象が正常であると判断される。したがって、将来発生する可能性がある未知の異常が被検査対象に発生した場合には、被検査対象の異常を検出することができず、このような事態が発生する確率を小さくするために、異常パターンを示す被検査対象のデータの個数が甚大(例えば、数百個)になるという不都合がある。
【0005】
このような不都合を解消するために、パターンマッチングの代わりにMT(Maharanobis Taguchi)法を用いた官能検査を行うことが提案されている(例えば、特許文献1,2)。MT法を用いた官能検査を行う場合、図1に示すように、正常パターンを示す複数の被検査対象のデータ群から構成される単位空間Sを官能検査の基準として設定し、点aに示すように単位空間Sの中心Oと被検査対象のデータとの間の距離(マハラノビス距離。以下、「MD値」と称する。)がしきい値Thを超えない場合には被検査対象が正常であると判断し、点bに示すようにMD値がしきい値Thを超える場合には被検査対象が異常であると判断する。したがって、単位空間Sは、複数の正常な被検査対象のデータ群から構成される正常な被検査対象のパターンの集団となる。
【0006】
MD値は、以下の式で定義される。
【0007】
【数1】

【0008】
このようにMT法を用いた官能検査を行うことによって、MD値を用いるだけで被検査対象が異常であるか否か定量的に判断することができる。また、異常パターンを示す被検査対象のデータの特徴を用いて被検査対象の異常を検出しないので、将来発生する可能性がある未知の異常も検出することができる。
【0009】
官能検査として異音検査を行うためにMT法を用いる場合、単位空間及び式(1)の作成並びに式(1)で算出されたMD値に対するしきい値の設定が必要である。MD値を計算するためには、以下の(a)〜(f)の手順が実行される。
(a)正常な音波形を、単位空間を生成するためのデータとして収集し、被検査対象が正常であるか否かを区別しうる特徴量を、収集したデータから複数(例えば、200個)取り出す。ここで、特徴量とは、音波形の特徴を数値化したものであり、レベル、波形の面積等を上げることができる。
(b)各特徴量の平均値mと標準偏差σを計算する。
(c)各特徴量のデータ群をm=0及びσ=1となるように規準化する。
(d)規準化されたデータの相関行列Rを求める。
(e)相関行列Rの逆行列を計算し、式(1)に代入する。
(f)被検査対象の音データを取得し、特徴量を抽出し、式(1)からMD値を計算する。
【0010】
上記(a)〜(e)の手順は、コンピュータによってオフラインで実行される。この場合、MD値に対するしきい値が、正常パターンを示す被検査対象のMD値と異常パターンを示す被検査対象のMD値との間に設定される。上記手順(f)は、コンピュータによって製造ラインで実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−258535号公報
【特許文献2】特開2009−276146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、単位空間として設定したデータ群とは異なる特徴を有する正常な被検査対象のデータは、図1において点cで示すようにMD値がしきい値Thより大きくなる。したがって、単位空間として設定したデータ群とは異なる特徴を有する正常な被検査対象のデータは、正常であるにもかかわらず官能検査において異常であると判断される(過検出)。
【0013】
車載用DVDデッキの製造ラインにおける車載用DVDデッキに対するディスクの挿入及び排出動作等の作動音の異音検査の場合、車載用DVDデッキの作動音は、車載用DVDデッキの各構成要素のロットのばらつきや組み付け状態により微妙に変化し、これらの変化が単位空間を用いた検査では正常であるか否かの判断に反映されないため、過検出が生じる。
【0014】
このような過検出を抑制するために、しきい値を小さくし、単位空間として設定したデータ群とは異なる特徴を有する正常な被検査対象のデータも正常であると判断されるようにすることが考えられる。しかしながら、しきい値を小さくした場合、異常な被検査対象のデータも正常であると判断される可能性がある。
【0015】
一方、異音検査において特徴量として音波形の特徴を数値化する場合、レベル(振幅)の時間変化を示す波形又は周波数の時間変化を示す波形が用いられている。例えば、通常の間欠音や突発音は、レベル(振幅)の時間変化を示す波形を用いて検出することができ、音色の違いは、周波数の時間変化を示す波形を用いて検出することができる。
【0016】
しかしながら、甲高い間欠音や突発音のようにレベル(振幅)の時間変化と周波数の時間変化を対応付けなければ検出することができない異音が存在する。レベル(振幅)の時間変化と周波数の時間変化を対応付けは、レベル(振幅)の時間変化を示す波形と周波数の時間変化を示す波形の両方を用いたとしても困難である。したがって、異音検査において特徴量として音波形の特徴を数値化する場合、レベル(振幅)の時間変化と周波数の時間変化を対応付けなければ検出することができない異音が生じた異常な被検査対象のデータも正常であると判断される可能性がある。
【0017】
本発明の目的は、異常な被検査対象のデータが正常と判断されることなく過検出を抑制することができる官能検査基準設定プログラム及び異音検査基準設定プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明による官能検査基準設定プログラムは、正常パターンを示す複数の被検査対象のデータ群から構成される単位空間を官能検査の基準として設定する、コンピュータに読取り可能な官能検査基準設定プログラムであって、当該プログラムは、コンピュータによって、前記官能検査の基準として予め設定された単位空間の中心からの距離が第1基準値以上である被検査対象の第1データと、予め設定された異常パターンを示す被検査対象の第2データと、を収集する収集ステップと、前記第1データ追加前に作成された単位空間の中心と前記第2データとの間の距離と、前記第1データ追加後に作成された単位空間の中心と前記第2データとの間の距離との差を算出する算出ステップと、前記差が第2基準値以下となる場合、前記第1データ追加後に作成された単位空間を、前記官能検査の基準として再設定する再設定ステップと、を実行させることを特徴とする。
【0019】
本発明による異音検査基準設定プログラムは、正常パターンを示す複数の被検査対象のデータ群から構成される単位空間を異音検査の基準として設定する、コンピュータに読取り可能な異音検査基準設定プログラムであって、当該プログラムは、コンピュータによって、レベルの時間変化を示す音波形データを抽出するステップと、レベルの時間変化を示す少なくとも二つの周波数帯域の音波形データを前記音波形データから生成するステップと、前記少なくとも二つの周波数帯域の音波形データの各々に対し、音波形の特徴を数値化し、数値化した音波形の特徴に基づいて単位空間を設定するステップと、を実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明による官能検査基準設定プログラムによれば、第1データ追加前に作成された単位空間の中心と第2データとの間の距離と、第1データ追加後に作成された単位空間の中心と第2データとの間の距離との差を算出し、差が第2基準値以下となる場合、第1データ追加後に作成された単位空間を、官能検査の基準として再設定する。これによって、正常であるにもかかわらず異常であると判断された第1データのみを追加した新規の単位空間を官能検査の基準として再設定することができるので、官能検査において、異常な被検査対象のデータが正常と判断されることなく過検出を抑制することができる。
【0021】
本発明による異音検査基準設定プログラムによれば、レベルの時間変化を示す少なくとも二つの帯域の音波形データを音波形データから生成し、少なくとも二つの帯域の音波形データの各々に対し、音波形の特徴を数値化し、数値化した音波形の特徴に基づいて単位空間を設定している。これによって、レベル(振幅)の時間変化と周波数の時間変化を対応付けた特徴量を設定することができ、レベル(振幅)の時間変化と周波数の時間変化を対応付けなければ検出することができない異音が生じたとしても、被検査対象の異常を検出することができる。したがって、異音検査において、異常な被検査対象のデータが正常と判断されることがなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】MT法を説明するための図である。
【図2】本発明によるプログラムを実行するコンピュータのブロック図である。
【図3】本発明による異音検査基準設定プログラムを実行するための単位空間設定フローチャートである。
【図4】図3の官能データ検知で得られる実際の作動音の波形の一例を示す図である。
【図5】図3のデータ群構成で得られる被検査対象のデータ群の一例を示す図である。
【図6】図3の特徴数値化で行われる特徴数値化フローチャートである。
【図7】図6の作動音抽出で得られる作動音の波形の一例を示す図である。
【図8】図6の各帯域抽出で得られる作動音の各帯域の波形の一例を示す図である。
【図9】図6のマトリックス化及び数値化を説明するための図である。
【図10】図6のデータセット作成で得られるデータセットの一例を示す図である。
【図11】本発明による官能検査基準設定プログラムの実行の前段階で行われるデータ収集フローチャートである。
【図12A】本発明による官能検査基準設定プログラムを実行するための新規単位空間設定フローチャートである。
【図12B】本発明による官能検査基準設定プログラムを実行するための新規単位空間設定フローチャートである。
【図13】本発明による官能検査基準設定プログラムの実行後に実行される官能検査フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明による実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ。また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を付加した形態で実施することも可能である。
【0024】
以下の説明では、特に説明しない限り官能検査が異音検査である場合について説明するが、特徴量を適切に設定することによって、異音検査以外の官能検査にも本発明を適用することができる。
【0025】
図2は、本発明によるプログラムを実行するコンピュータのブロック図である。インターフェイス(I/F)1は、パーソナルコンピュータ(PC)のようなコンピュータ2に設けられたメモリカード2の差込口、いわゆるスロット部を構成する。I/F1は、メモリカード3に記録された、後に説明する被検査対象のNGデータ及び予め設定された異常パターンを示す被検査対象のデータ等をコンピュータ2側に転送する。
【0026】
RAM4は、コンピュータ2により各種処理等を行う際に一時的にデータ(例えば、予め設定された異常パターンを示す被検査対象のデータ)を記憶するために利用される。RAM4には、例えばSDRAMが用いられる。ROM5は、各部の制御やデータ演算処理のプログラムとして機能する後に説明する各種プログラム等を記憶する。ROM5には、例えば、EEPROM、強誘電体メモリ等が用いられる。
【0027】
CPU6は、制御装置として動作し、マイクロコンピュータ等により構成される。CPU6は、ROM5に記憶された各種プログラムに基づき、コンピュータ2の各部の制御やデータ演算処理等を実行する。
【0028】
操作部7は、キーボード、マウス等から構成され、ユーザがコンピュータ2を操作する場合に、CPU6への操作入力を行うための手段として利用する。表示部8は、液晶表示装置等から構成され、各種情報等を適宜表示するために利用される。カード情報記録部9は、ハードディスク等の記録媒体によって構成され、メモリカード3に記録された後に説明するNGデータ、予め設定された異常パターンを示す被検査対象のデータ、単位空間のデータ等を記録するために利用される。
【0029】
マイクロホン10は、車載用DVDデッキのような被検査対象(図示せず)の作動音を取り込むために、被検査対象が配置される防音箱(図示せず)の内部上方に配設され、アンプ11及びA/D変換器を介してCPU6に接続されている。
【0030】
図3は、本発明による異音検査基準設定プログラムを実行するための単位空間設定フローチャートである。図3に示すフローチャートは、主にコンピュータ2のCPU6がROM5に格納された異音検査基準設定プログラムに従ってコンピュータ2の各構成要素と共同することによって、例えば、製造ラインで実行される。
【0031】
先ず、ステップS1において、CPU6は、官能データとしての異音データを検知するために、防音箱に配置された被検査対象(図示せず)の作動音を、マイクロホン10、アンプ11及びA/D変換器を介して取り込み、音波形データをバンドバスフィルタ(図示せず)でフィルタリング処理を行い、外部音成分が除去された作動音波形が抽出される。ステップS1で抽出した作動音波形は、図4に示すような振幅の時間変化を示す音波形データとなる。なお、バンドパスフィルタ(図示せず)としては、例えば、500Hz以下の音を除去するフィルタを使用する。また、被検査対象(図示せず)の作動音は、被検査対象(図示せず)を異音検査のために作動させる駆動信号に基づいて作動させる。
【0032】
次に、ステップS2において、CPU6は、ステップS1で得られた音波形の特徴を数値化する。なお、ステップS2で行われる音波形の特徴の数値化は、後に詳細に説明する。次に、ステップS3において、正常パターンを示す複数の被検査対象のデータ群から構成される単位空間を構成するための十分なデータ数を取得したか否か判断する。十分なデータ数を取得していないと判断した場合、更にデータを取得するためにステップS1に戻り、十分なデータ数を取得したと判断した場合、ステップS4において、CPU6は、これまで取得したデータに基づいて、単位空間を設定するためのデータ群を構成する。データ群の一例を図5に示す。図5において、サンプルA、サンプルB、サンプルC...サンプルNは、ステップS1及びステップS2で得られる各データに対応する。
【0033】
ステップS4でデータ群を構成した後、ステップS5において、CPUS5は、ステップS4で構成されたデータ群に基づいて単位空間及びしきい値を設定し、設定した単位空間及びしきい値をRAM4に格納し、本ルーチンを終了する。なお、しきい値は、例えば、後に説明する予め設定された異常パターンを示す被検査対象の複数のデータのMD値のうちの最も小さい値のMD値に設定する。
【0034】
図6は、図3の特徴数値化で行われる特徴数値化フローチャートである。図6に示すフローチャートは、主にコンピュータ2のCPU6がROM5に格納された特徴数値化プログラムに従ってコンピュータ2の各構成要素と共同することによって、例えば、製造ラインで実行される。
【0035】
先ず、ステップS11において、CPU6は、ステップS1で得られた音波形データからトリガレベルを超えた部分を抽出する。ステップS11で抽出した作動音波形は、図7に示すような振幅の時間変化を示す音波形データとなる。
【0036】
次に、ステップS12において、CPU6は、ステップS11で抽出した波形に対して、500〜2000Hzの低音域波形を抽出する第1バンドパスフィルタ、3000〜6000Hzの中音域波形を抽出する第2バンドパスフィルタ、及び、6000〜13000Hzの高音域波形を抽出する第3バンドパスフィルタ(いずれも図示せず)を用いて、音波形の低音域波形、中音域波形及び高音域波形をそれぞれ生成する。音波形の低音域波形の一例を図8Aに示し、音波形の中音域波形の一例を図8Bに示し、音波形の高音域波形の一例を図8Cに示す。図8A〜Cに示すように、音波形の低音域波形、中音域波形及び高音域波形はそれぞれ、振幅の二乗平均の時間変化を示す音波形データとなる。なお、音波形の低音域波形、中音域波形及び高音域波形をそれぞれ生成する場合について説明したが、ステップS12において少なくとも二つの周波数帯域(例えば、低音域及び高音域)の音波形データを生成すればよい。
【0037】
次に、ステップS13において、CPU6は、ステップS12で生成した音波形の低域波形、中域波形及び高域波形のそれぞれについてマトリックス化を行う。このようなマトリックス化は、図9に示すように、ステップS12で生成された波形のグラフをm×n個のブロックに細分することによって行われる。
【0038】
次に、ステップS14において、CPU6は、ステップS13のマトリックス化で生成されたブロックに占める波形と横軸とによって囲まれた面積(波形の面積)を計算する。次に、ステップS15において、CPU6は、ステップS14で計算された面積に基づいてデータセットを作成し、本ルーチンを終了する。
【0039】
ステップS14のデータセット作成で得られるデータセットの一例を図10に示す。図10において、サンプル**は、ステップS1及びステップS2で得られるデータに対応し、A(1,1)...A(n,m),B(1,1)...B(n,m),C(1,1)...C(n,m)は、ステップS14で計算された面積にそれぞれ対応する。なお、図5のサンプルA、サンプルB、サンプルC...サンプルNの各々が図10のサンプル**に対応し、図5の特徴量1、特徴量2...特徴量Nが図10のA(1,1)...A(n,m),B(1,1)...B(n,m),C(1,1)...C(n,m)の一部又は全部に対応する。
【0040】
図3及び図6に示すフローチャートによれば、振幅の二乗平均の時間変化を示す三つの帯域の音波形データを音波形データから生成し、三つの帯域の音波形データの各々に対し、音波形の特徴を数値化し、数値化した音波形の特徴に基づいて単位空間を設定している。これによって、レベル(振幅)の時間変化と周波数の時間変化を対応付けた特徴量を設定することができ、レベル(振幅)の時間変化と周波数の時間変化を対応付けなければ検出することができない異音が生じたとしても、被検査対象の異常を検出することができる。したがって、異音検査において、異常な被検査対象のデータが正常と判断されることがなくなる。
【0041】
図11は、本発明による官能検査基準設定プログラムの実行の前段階で行われるデータ収集フローチャートである。図11に示すフローチャートは、主にコンピュータ2のCPU6がROM5に格納された特徴数値化プログラムに従ってコンピュータ2の各構成要素と共同することによって、例えば、製造ラインで実行される。
【0042】
先ず、ステップS21において、CPU6は、被検査対象の官能データを検知する。官能検査として異音検査を行う場合には、図3のステップS1と同様な処理が実行され、異音検査以外の官能検査を行う場合には、従来の官能データ検知処理が実行される。
【0043】
次に、ステップS22において、CPU6は、検知した官能データの特徴を数値化する。官能検査として異音検査を行う場合には、図3のステップS2と同様な処理が実行され、異音検査以外の官能検査を行う場合には、従来の官能データの特徴の数値化処理が実行される。
【0044】
次に、ステップS23において、CPU6は、正常パターンを示す複数の被検査対象のデータ群から構成される単位空間の中心と検知された官能データとの間の距離(MD値)を算出する。次に、ステップS24において、CPU6は、ステップS23で算出したMD値が第1基準値としてのしきい値以上であるか否か判断する。官能検査として異音検査を行う場合には、図3のステップS5で設定された単位空間及びしきい値を使用し、異音検査以外の官能検査を行う場合には、従来の方法で設定された単位空間及びしきい値を使用する。
【0045】
MD値がしきい値以上である場合、被検査対象が異常であると判断し、ステップS26において、CPU6は、特徴量を数値化した官能データ及びそのMD値をNGデータとしてRAM4に格納し、それに対し、MD値がしきい値未満である場合、被検査対象が正常であると判断し、ステップS27において、CPU6は、特徴量を数値化した官能データ及びそのMD値をOKデータとしてRAM4に格納する。
【0046】
ステップS26又はステップS27の後、CPU6は、後に行われる官能検査基準設定プログラムで使用されるNGデータが十分にそろったか否か判断する。ここで設定されるNGデータの数は、例えば、10〜20個となるが、設定されるNGデータの数を1個にすることもできる。
【0047】
十分なNGデータの数がそろったと判断した場合、CPU6は、NGデータのみを収集したデータ群を構成し、構成されたデータ群をRAM4に格納し、本ルーチンを終了する。それに対し、十分なNGデータの数がそろっていないと判断した場合、更にデータを取得するためにステップS21に戻る。
【0048】
図12A及び図12Bは、本発明による官能検査基準設定プログラムを実行するための新規単位空間設定フローチャートである。図12A及び図12Bに示すフローチャートは、主にコンピュータ2のCPU6がROM5に格納された官能検査基準設定プログラムに従ってコンピュータ2の各構成要素と共同することによって、例えば、オフラインで実行される。図12A及び図12Bに示すフローチャートをオフラインで実行する場合、図2に示すコンピュータ2において、マイクロホン10、アンプ11及びA/D変換器12はCPU6に接続されていない。
【0049】
先ず、ステップS31において、CPU6は、図11のステップS28で収集されたNGデータと、予め設定された異常パターンを示す被検査対象のデータとを、単位空間のデータとともに収集する。このような収集は、図3の単位空間設定フローチャート、図6の特徴数値化フローチャート及び図11のデータ収集フローチャートがコンピュータ2によって既に実行されている場合には、NGデータ、予め設定された異常パターンを示す被検査対象のデータ及び単位空間のデータを格納したRAM4から収集し、これらのフローチャートが別のコンピュータによって実行されている場合には、は、ハードディスク等の記録媒体によって構成され、メモリカード3に記録されたNGデータ、予め設定された異常パターンを示す被検査対象のデータ及び単位空間のデータを記録したカード情報記録部9から収集する。
【0050】
次に、ステップS32において、CPU6は、予め設定された異常パターンを示す非検査対象のデータの数が十分な個数(例えば、数十個)であるか否か判断する。予め設定された異常パターンを示す非検査対象のデータの数が十分な個数でない場合、後に行われる官能検査において将来発生する可能性がある未知の異常がある被検査対象を判別できなくなる確率が高くなるので、ステップS33において、CPUは、NGデータを正常パターンのデータとしてRAM4に格納し、新規の単位空間を設定することなく本ルーチンを終了する。
【0051】
それに対し、予め設定された異常パターンを示す非検査対象のデータの数が十分な個数である場合、ステップS34において、CPU6は、NGデータをMD値の小さい順に並べ替える。次に、ステップS35において、CPU6は、最も小さいMD値を有するNGデータを追加した単位空間を作成する。
【0052】
次に、ステップS36において、NGデータ追加前の単位空間の中心と異常データとの間の距離及びNGデータ追加後の単位空間の中心と異常データとの間の距離並びにこれらの距離の差を、予め設定された異常パターンを示す非検査対象のデータの全てについて算出する。
【0053】
次に、ステップS37において、CPU6は、ステップS36で算出した距離の差が第2基準値としての所定の値より大きいか否か判断する。この判断は、予め設定された異常パターンを示す非検査対象のデータの全てについて行う。予め設定された異常パターンを示す非検査対象のデータの全てについてステップS36で算出した距離の差が第2基準値以下である場合、CPU6は、NGデータが正常な被検査対象のデータであると判断し、NGデータ追加後の単位空間のデータをRAM4に格納する。このような判断は、正常な非検査対象のデータの特徴はばらつきも小さく特徴が類似しているために正常な非検査対象のデータを単位空間に追加してもMD値が変化しないという単位空間の特性を利用したものである。
【0054】
それに対し、予め設定された異常パターンを示す非検査対象のデータの少なくとも一つについてステップS36で算出した距離の差が第2基準値より大きい場合、CPU6は、NGデータが異常な被検査対象のデータであると判断し、NGデータ追加後の単位空間のデータをRAM4に格納する。
【0055】
ステップS37及びステップS38の後、ステップS39において、CPU6は、全てのNGデータを単位空間に追加したか否か、すなわち、全てのNGデータについてステップS37の判断を行ったか否か判断する。全てのNGデータを単位空間に追加していない場合、全てのNGデータについてステップS37の判断を行うためにステップS35に戻る。ステップS39からステップS35に進んだ場合、CPU6は、ステップS37の判断を行っていないNGデータのうちの最も小さいMD値を有するNGデータを追加した単位空間を作成する。ステップS37をMD値の小さい順に実行する、すなわち、MD値の小さい順にNGデータを単位空間に追加する理由は、追加するデータのMD値が小さくなるに従って単位空間が変化する確率が小さくなるからである。
【0056】
それに対し、全てのNGデータを単位空間に追加した場合、ステップS40において、CPU6は、除外されたNGデータがあるか否か、すなわち、ステップS37からステップS38に進んだNGデータがあるか否か判断する。除外されたNGデータがない場合、ステップS41において、CPU6は、全てのNGデータを追加した単位空間を設定し、設定した単位空間のデータをRAM4に格納し、本ルーチンを終了する。
【0057】
それに対し、除外されたNGデータがある場合、ステップS42において、CPU6は、ステップS38で除外されたNGデータの全てについて、ステップS38で除外されたNGデータを除く全てのNGデータを追加した単位空間の中心とステップS38で除外されたNGデータとの間の距離(MD値)を算出する。
【0058】
次に、ステップS43において、CPU6は、後に行われる官能検査で用いる異常パターンとして用いるために、ステップS42で算出したMD値がしきい値より小さくなるNDデータを抽出する。
【0059】
次に、ステップS44において、CPU6は、ステップS43で抽出されたNGデータの数が所定の数(例えば、10)より少なく、かつ、過検出率が所定の値(例えば、2%)以下であるか否か判断する。なお、過検出率は、図11のステップS26でRAM4に格納されたOKデータの数と図11のステップS25でRAM4に格納されたNGデータの数の和で単位空間に追加されたNGデータの数を除算したものとなる。NGデータの数が所定の数以上又は過検出率が所定の値を超える場合、ステップS31で収集した単位空間が官能検査で用いるのに適切でないため、ステップS45において、CPU6は、単位空間を設定するための特徴量を見直す。ステップS45の特徴の見直しでは、例えば、データ数の増大、特徴量の種類の増大、特徴量の種類の変更等を行われる。
【0060】
次に、ステップS46において、CPU46は、見直された特徴量に基づいて単位空間を再設定し、その後、ステップS35に進む。ステップS46は、官能検査として異音検査を行う場合には、図3の単位空間設定フローチャートと同様な処理が実行され、異音検査以外の官能検査を行う場合には、従来の単位空間設定処理が実行される。
【0061】
ステップS44でNGデータの数が所定の数(例えば、10)より少なく、かつ、過検出率が所定の値(例えば、2%)以下であると判断した場合、ステップS47において、CPU6は、ステップS38で除外されたNGデータを除く全てのNGデータを追加した単位空間を新規の単位空間と設定し、設定された新規の単位空間のデータをRAM4に格納する。次に、ステップS48において、CPU6は、ステップS42で算出したMD値がしきい値より小さくなるNDデータを異常パターンのデータとして設定し、設定された異常パターンのデータをRAM4に格納する。
【0062】
図12A及び図12Bの新規単位空間設定プログラムによれば、除外されたNGデータを除く全てのNGデータを追加した単位空間を官能検査の基準として再設定することによって、正常であるにもかかわらず異常であると判断したNGデータのみを追加した新規の単位空間を官能検査の基準として再設定することができる。これによって、正常であるにもかかわらずNGデータと判断されたデータが正常であると判断されるように単位空間が適切に広がっていくので、後に説明する官能検査において、異常な被検査対象のデータが正常と判断されることなく過検出を抑制することができる。
【0063】
図13は、本発明による官能検査基準設定プログラムの実行後に実行される官能検査フローチャートである。図13に示すフローチャートは、主にコンピュータ2のCPU6がROM5に格納された特徴数値化プログラムに従ってコンピュータ2の各構成要素と共同することによって、例えば、製造ラインで実行される。
【0064】
先ず、ステップS51において、CPU6は、被検査対象の官能データを検知する。官能検査として異音検査を行う場合には、図3のステップS1と同様な処理が実行され、異音検査以外の官能検査を行う場合には、従来の官能データ検知処理が実行される。
【0065】
次に、ステップS52において、CPU6は、検知した官能データの特徴を数値化する。官能検査として異音検査を行う場合には、図3のステップS2と同様な処理が実行され、異音検査以外の官能検査を行う場合には、従来の官能データの特徴の数値化処理が実行される。
【0066】
次に、ステップS53において、CPU6は、検知した官能データが図12AのステップS33で設定された正常パターンと一致するか否か判断する。正常パターンと一致しないと判断した場合、ステップS54において、CPU6は、図12BのステップS41又はステップS47で設定された単位空間の中心と検知された官能データとの間の距離(MD値)を算出する。次に、ステップS55において、CPU6は、ステップS54で算出したMD値がしきい値以上であるか否か判断する。官能検査として異音検査を行う場合には、図3のステップS5で設定されたしきい値を使用し、異音検査以外の官能検査を行う場合には、従来の方法で設定された単位空間及びしきい値を使用する。
【0067】
MD値がしきい値以上である場合、被検査対象が異常であると判断し、ステップS56において、CPU6は、特徴量を数値化した官能データをNGデータとしてRAM4に格納する。それに対し、MD値がしきい値未満である場合、ステップS56において、CPU6は、検知した官能データが図12BのステップS48で設定された異常パターンと一致するか否か判断する。ステップS56の判断によって検出困難な被検査対象の異常を検出することができる。異常パターンと一致すると判断した場合、ステップS56に進む。
【0068】
ステップS53で正常パターンと一致すると判断し又はステップS56で異常パターンと一致しないと判断した場合、CPU6は、被検査対象が正常であると判断し、ステップS57において、CPU6は、特徴量を数値化した官能データをOKデータとしてRAM4に格納する。
【0069】
ステップS56又はステップS57の後、CPU6は、全ての被検査対象に対して官能検査が行われたか否か判断する。全ての被検査対象に対して官能検査が行われたと判断した場合、CPU6は、本ルーチンを終了する。それに対し、全ての被検査対象に対して官能検査が行われていないと判断した場合、全ての被検査対象に対して官能検査を行うためにステップS51に戻る。
【符号の説明】
【0070】
1 インターフェイス(I/F)
2 コンピュータ
3 メモリカード
4 RAM
5 ROM
6 CPU
7 操作部
8 表示部
9 カード情報記録部
10 マイクロホン
11 アンプ
12 A/D変換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正常パターンを示す複数の被検査対象のデータ群から構成される単位空間を官能検査の基準として設定する、コンピュータに読取り可能な官能検査基準設定プログラムであって、当該プログラムは、コンピュータによって、
前記官能検査の基準として予め設定された単位空間の中心からの距離が第1基準値以上である被検査対象の第1データと、予め設定された異常パターンを示す被検査対象の第2データと、を収集する収集ステップと、
前記第1データ追加前に作成された単位空間の中心と前記第2データとの間の距離と、前記第1データ追加後に作成された単位空間の中心と前記第2データとの間の距離との差を算出する算出ステップと、
前記差が第2基準値以下となる場合、前記第1データ追加後に作成された単位空間を、前記官能検査の基準として再設定する再設定ステップと、
を実行させることを特徴とする官能検査基準設定プログラム。
【請求項2】
前記収集ステップは、複数の前記第1データを収集し、
前記算出ステップ及び前記再設定ステップを、前記複数の第1データの各々について、前記前記官能検査の基準として予め設定された単位空間の中心からの距離が短い順に前記コンピュータによって実行させる請求項1に記載の官能検査プログラム。
【請求項3】
前記官能検査が異音検査である請求項1又は2に記載の官能検査プログラム。
【請求項4】
前記第1データ及び前記第2データが、音波形のレベルの時間変化及び周波数変化を示すデータを有する請求項3に記載の官能検査プログラム。
【請求項5】
正常パターンを示す複数の被検査対象のデータ群から構成される単位空間を異音検査の基準として設定する、コンピュータに読取り可能な異音検査基準設定プログラムであって、当該プログラムは、コンピュータによって、
レベルの時間変化を示す音波形データを抽出するステップと、
レベルの時間変化を示す少なくとも二つの周波数帯域の音波形データを前記音波形データから生成するステップと、
前記少なくとも二つの周波数帯域の音波形データの各々に対し、音波形の特徴を数値化し、数値化した音波形の特徴に基づいて単位空間を設定するステップと、
を実行させることを特徴とする異音検査基準設定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13】
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