説明

定着ベルト、定着ベルトの製造方法、定着装置および画像形成装置

【課題】ウォームアップ時間が短く、曲げ変形等に対して高い耐久性を有する、電磁誘導加熱方式に適用される定着ベルトを提供する。
【解決手段】少なくとも3層以上を有し、内側から、樹脂を含んで構成される基材層102、金属を主成分とする金属発熱層104、樹脂を含んで構成される保護層106の順に層が構成されており、金属発熱層104が厚さ方向に貫通した空隙部108を有し、基材層102を構成する樹脂および保護層106を構成する樹脂のうち少なくとも1つが空隙部108を充填している定着ベルトである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着ベルト、定着ベルトの製造方法、定着装置および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真方式の複写機やプリンタ等の画像形成装置では、用紙等の記録媒体上に形成された未定着トナー像を定着装置によって定着して画像形成を行っている。定着工程において、従来、圧力定着、オーブン定着、および、溶剤定着等の方式が知られているが、熱が有効に伝えられ、トナー像をより強固に定着させられ、かつ比較的安全である観点から、熱圧力定着法がもっとも一般的に用いられている。この熱圧力定着法は、未定着トナー像が保持された記録媒体を、加熱された定着ロールまたは定着ベルト等の定着部材により構成されたニップ内を通過させ、ニップ通過時に定着ロールまたは定着ベルト等によって加熱されて溶融状態となった未定着トナー像をニップ圧力により記録媒体に押圧することで、記録媒体にトナー像を定着させる方法である。
【0003】
定着部材を加熱する方法として、近年、電磁誘導加熱方式が検討されている。この電磁誘導加熱方式を用いれば、加熱したい定着部材の表面が効果的、かつ、高熱効率で加熱されるため、定着可能となるまでの時間(以下、「ウォームアップ時間」と称する場合がある)が短縮される。
【0004】
この電磁誘導加熱方式に適用される定着部材としては、例えば、エンジニアリングプラスチック等の耐熱性樹脂を含んで構成される基材上に、金属発熱層を設けた構成の無端状の定着ベルト等が挙げられる。この構成の定着ベルトは、耐熱性樹脂を含んで構成される基材により強度が確保されているため、金属発熱層は発熱性能が十分に確保されるのであれば、その膜厚を薄くすることができ、ウォームアップ時間の短縮が可能となる。また、基材が耐熱性樹脂を含んで構成されるため、定着ベルトの内面に設けられる押圧部材との摺動性も良好である。
【0005】
無端状の定着ベルトが用いられる定着装置や画像形成装置では、その定着ベルトを大きな曲率で曲げ回すことによって、定着ベルトと定着ベルトに押圧される加圧部材との間に送り込まれた記録媒体が、自身の剛性によって定着ベルトから離れる方向に排出されるため、記録媒体が無端状ベルトから良好に剥離される。
【0006】
このような無端状の定着ベルトの曲げ変形等に対する耐久性の改良が検討されている。
【0007】
例えば、特許文献1には、定着ベルトの金属発熱層を、金属を含む繊維状部材で2次元の網目構造とし、特許文献2には、網目を立体的に形成したり、発泡金属構造とした3次元の網目状構造体とし、ベルトに良好な屈曲性を持たせ、耐久性を持たせることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−189404号公報
【特許文献2】特開2006−010884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、曲げ変形等に対して高い耐久性を有する、電磁誘導加熱方式に適用される定着ベルト、その定着ベルトの製造方法、その定着ベルトを備える定着装置および画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、少なくとも3層以上を有し、内側から、樹脂を含んで構成される基材層、金属を主成分とする金属発熱層、樹脂を含んで構成される保護層の順に層が構成されており、前記金属発熱層が厚さ方向に貫通した空隙部を有し、前記基材層を構成する樹脂および前記保護層を構成する樹脂のうち少なくとも1つが前記空隙部を充填している定着ベルトである。
【0011】
請求項2に係る発明は、前記空隙部が、ベルトの周方向に周期的間隔でベルトの幅方向にわたって存在している、請求項1に記載の定着ベルトである。
【0012】
請求項3に係る発明は、前記空隙部が、ベルト面に点在する、請求項1に記載の定着ベルトである。
【0013】
請求項4に係る発明は、前記金属発熱層が、銀を含んで構成される請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の定着ベルトである。
【0014】
請求項5に係る発明は、前記基材層上に、前記金属発熱層を形成する金属発熱層形成工程と、前記保護層を形成する保護層形成工程と、前記基材層、前記金属発熱層、前記保護層を同時に焼成する焼成工程とを含む、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の定着ベルトの製造方法である。
【0015】
請求項6に係る発明は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の定着ベルトを備える定着装置である。
【0016】
請求項7に係る発明は、少なくとも、記録媒体に未定着トナー像を保持させるトナー像形成手段と、請求項6に記載の定着装置とを備える画像形成装置である。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明によると、本構成を有さない場合に比べて、曲げ変形等に対して高い耐久性を有する、電磁誘導加熱方式に適用される定着ベルトが提供される。
【0018】
請求項2に係る発明によると、前記空隙部がベルトの周方向に周期的間隔でベルトの幅方向にわたって存在していない場合に比べて、曲げ変形等に対して高い耐久性を有する、電磁誘導加熱方式に適用される定着ベルトが提供される。
【0019】
請求項3に係る発明によると、前記空隙部がベルト面に点在しない場合に比べて、曲げ変形等に対して高い耐久性を有する、電磁誘導加熱方式に適用される定着ベルトが提供される。
【0020】
請求項4に係る発明によると、前記金属発熱層が銀を含んで構成されない場合に比べて、曲げ変形等に対して高い耐久性を有する、電磁誘導加熱方式に適用される定着ベルトが提供される。
【0021】
請求項5に係る発明によると、本構成を有さない場合に比べて、曲げ変形等に対して高い耐久性を有する、電磁誘導加熱方式に適用される定着ベルトの製造方法が提供される。
【0022】
請求項6に係る発明によると、定着ベルトが本構成を有さない場合に比べて、定着ベルトが曲げ変形等に対して高い耐久性を有する、電磁誘導加熱方式の定着装置が提供される。
【0023】
請求項7に係る発明によると、定着ベルトが本構成を有さない場合に比べて、定着ベルトが曲げ変形等に対して高い耐久性を有する画像形成装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係る定着ベルトの一例を示す概略図である。
【図2】図1におけるA−A’の断面の概念図である。
【図3】本発明の実施形態に係る定着ベルトの他の例を示す概略図である。
【図4】比較例1における金属発熱層の構造のイメージ図である。
【図5】本発明の実施形態に係る定着装置の構成の一例を示す側断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る画像形成装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0026】
<定着ベルト>
本発明の実施形態に係る定着ベルトは、少なくとも3層以上を有し、内側から、樹脂を含んで構成される基材層、金属を主成分とする金属発熱層、樹脂を含んで構成される保護層の順に層が構成されており、前記金属発熱層が厚さ方向に貫通した空隙部を有し、前記基材層を構成する樹脂および前記保護層を構成する樹脂のうち少なくとも1つが前記空隙部を充填しているものである。これにより、金属発熱層による発熱性能を確保した上で、曲げ変形等に対して良好な屈曲性を有し、金属発熱層の割れ等の発生の起点が少なくなる。よって、曲げ変形等に対して高い耐久性を有する。特に、短時間昇温や使用中の繰り返し曲げ変形に対して高い耐久性を有する。
【0027】
図1は、本発明の実施形態に係る定着ベルトの一例を示す概略図である。また、図2に、図1におけるA−A’の断面の概念図を示す。図2に示すように、定着ベルト61は、少なくとも3層以上を有し、内側から、樹脂を含んで構成される基材層102、金属を主成分とする金属発熱層104、樹脂を含んで構成される保護層106の順に層が構成されている。なお、図1では、保護層106の記載を省略してある。図2に示すように、金属発熱層104は、厚さ方向に貫通した空隙部108を有し、基材層102を構成する樹脂および保護層106を構成する樹脂のうち少なくとも1つが空隙部108を充填している。また、空隙部108を介して保護層106と基材層102とが接着する構造となっている。図1の例では、金属発熱層104において、直線状の空隙部108が、定着ベルト61の周方向に周期的ピッチでベルトの幅方向(図1の例ではベルト全幅)にわたって存在している。このようなキャタピラ状の金属発熱層の構成により、金属発熱層による発熱性能を確保した上で、曲げ変形等に対して良好な屈曲性を有し、金属発熱層の割れ等の発生の起点が少なくなる。
【0028】
基材層102は、樹脂を含んで構成され、樹脂を主成分として構成されることが好ましい。主成分とは、質量比で50%以上である。基材層102を構成する樹脂は、金属発熱層104の空隙部108を充填し、保護層106と接着する機能を有してもよい。樹脂としては、例えば、熱硬化性ポリイミド樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂等から選択される1つまたは複数の混合体等が挙げられ、耐熱性、機械特性等の観点からポリイミド樹脂が好ましい。
【0029】
基材層102の厚みは、例えば、10μm以上200μm以下の範囲である。基材層102の厚みが200μmを超えると、柔軟性が確保されなくなる場合や、熱容量が増加するためウォームアップ時間が長くなる場合がある。一方、基材層102の厚みが10μm未満であると、剛性が弱く、皺が生じたり、両端に亀裂が生じてしまう場合がある。
【0030】
金属発熱層104は、電磁誘導加熱定着装置において、コイルから発生する磁界により渦電流を発生させることで発熱する機能を有する層であり、電磁誘導作用を生じる金属を含んで構成される。電磁誘導作用を生じる金属としては、例えば、ニッケル、鉄、銅、金、銀、アルミニウム、クロム、錫、亜鉛等の単一金属、もしくは2種類以上の元素からなる合金(スチール等)から選択される。薄膜への加工性、発熱性能等の点から、銀、銅が好ましく、耐酸化性等の点から銀がより好ましい。
【0031】
金属発熱層104の厚みは、その材質によって適切な厚みは異なるが、例えば銀を金属発熱層に用いる場合には、3μm以上30μmの範囲の厚みとすればよい。金属発熱層104の厚みが3μm未満になると、金属発熱層の抵抗値が高くなることにより、十分な渦電流が発生し難くなり発熱が不足し、ウォームアップ時間が長くなるか、あるいは定着可能温度まで十分に加熱されない場合がある。また、金属発熱層104の厚みが30μmを超えると、十分な発熱は得られるものの、層自体の熱容量が大きくなってしまうことからウォームアップ時間が長くなってしまう場合がある。
【0032】
空隙部108のベルトの周方向の間隔(ピッチ)は、例えば、0.1mm以上10mm以下の範囲が好ましく、0.5mm以上7mmの範囲がより好ましい。空隙部108のベルトの周方向の間隔が7mmを超えると、金属発熱層自身が繰り返し急激な曲げ変形を受け、クラックが発生する場合があり、0.1mm未満であると、金属発熱層の面積が小さくなり、発熱性能が低下する場合がある。空隙部108は、ベルトの周方向に周期的間隔で配置される。
【0033】
空隙部108のベルトの周方向の間隔が、ニップ幅以下であることが好ましい。空隙部の間隔が、ニップ幅以下であることにより、曲げ変形等に対して追従性が良好となり、高い耐久性を示す。ここで、ニップ幅とは、荷重をかけられた状態で定着ベルト61が加圧ロール等の加圧部材と接している部分の記録媒体の進行方向の幅のことをいう。
【0034】
空隙部108の幅は、例えば、1μm以上1000μm以下の範囲が好ましく、5μm以上500μmの範囲がより好ましい。空隙部108の幅が500μmを超えると、非発熱部の連続面積が大きくなりトナー未定着が発生する場合があり、5μm未満であると、曲げ変形等に対する屈曲性が十分でない場合がある。
【0035】
空隙部108の形状としては、特に制限はないが、例えば、直線状の他に、曲線状等である。
【0036】
保護層106は、樹脂を含んで構成され、樹脂を主成分として構成されることが好ましい。保護層106を構成する樹脂は、金属発熱層104の空隙部108を充填し、基材層102と接着する機能を有してもよい。樹脂としては、例えば、熱硬化性ポリイミド樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂等から選択される1つまたは複数の混合体等が挙げられ、耐熱性、機械特性等の観点からポリイミド樹脂が好ましい。接着性等の点から、基材層102と保護層106は、同じ成分の樹脂を主成分として構成されることが好ましい。
【0037】
保護層106の厚みは、例えば、50μm以上200μm以下の範囲である。保護層106の厚みが50μm以上であれば、ベルトに必要な剛性を確保することができる。また200μm以下であればウォームアップ時間の短縮化が図られる。
【0038】
定着ベルト61は、保護層の外周面にさらに弾性層、離型層等を有してもよい。
【0039】
弾性層の材質としては、例えば、シリコーンゴム、フッ素ゴム等のゴム等が挙げられる。弾性層の厚みは、例えば、0.1mm以上3mm以下の範囲である。
【0040】
離型層は、未定着トナー像を溶融状態として記録媒体に固着させる際に、溶融状態のトナーが定着部材に固着することを抑制するものである。離型層を構成する材料としては、トナー像に対して適度な離型性を有するものであればよく、特に制限はない。離型層は、フッ素系化合物を主成分として形成することが好ましい。フッ素系化合物としては、例えば、フッ素ゴム、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、四フッ化エチレン六フッ化プロピレン共重合体(FEP)等のフッ素樹脂等が挙げられる。
【0041】
離型層の厚みは、例えば、10μm以上100μm以下の範囲である。離型層の厚みが10μm以上であれば、記録媒体として用いる用紙の縁との繰り返し擦擦等により離型層が摩滅することが抑制されやすくなる。一方、離型層の厚みが100μm以下であればベルトの表面の柔軟性が確保されやすくなる。その結果、トナーを押しつぶす力が抑制され、定着画像の粒状性が維持され、ウォームアップ時間の短縮化が図られる。
【0042】
図3は、本発明の実施形態に係る定着ベルトの他の例を示す概略図である。なお、図3では、保護層106の記載を省略してある。金属発熱層104は、厚さ方向に貫通した空隙部110を有する。また、図示しないが、基材層102を構成する樹脂および保護層106を構成する樹脂のうち少なくとも1つが空隙部110を充填しており、空隙部110を介して保護層106と基材層102とが接着する構造となっている。図3の例では、金属発熱層104において、十字状の空隙部110が、ベルト面(図3の例ではベルト全面)に点在している。このような金属発熱層の構成により、金属発熱層による発熱性能を確保した上で、曲げ変形等に対して良好な屈曲性を有し、金属発熱層の割れ等の発生の起点が少なくなる。
【0043】
空隙部110の周方向の間隔は、例えば、0.05mm以上ニップ幅以下の範囲が好ましく、0.1mm以上ニップ幅の範囲がより好ましい。空隙部110の周方向の間隔がニップ幅を超えると、繰り返し使用中に発熱層に割れが発生する場合があり、0.05mm未満であると、金属発熱層が十分な発熱性能を確保できない場合がある。空隙部110は、ベルトの周方向に周期的間隔で配置されてもよい。
【0044】
空隙部110の軸方向の間隔は、例えば、0.05mm以上が好ましい。空隙部110の軸方向の間隔が0.05mm未満であると、金属発熱層が十分な発熱性能を確保できない場合がある。
【0045】
空隙部110の形状としては、特に制限はないが、例えば、円形状の他に、十字状、楕円状、直線状、曲線状等である。
【0046】
空隙部110の配置としては、特に制限はないが、例えば、軸方向に上記間隔で直線状に配置し、周方向に上記間隔で配置すればよい。
【0047】
空隙部110のベルトの周方向の間隔が、ニップ幅以下であることが好ましい。空隙部の間隔が、ニップ幅以下であることにより、曲げ変形等に対して追従性が良好となり、高い耐久性を示す。
【0048】
<定着ベルトの製造方法>
本発明の実施形態に係る定着ベルトの製造方法は、例えば、基材層102上に、金属発熱層104を形成する金属発熱層形成工程と、保護層106を形成する保護層形成工程とを含む。また、基材層102、金属発熱層104、保護層106を同時に焼成する焼成工程を含んでもよい。
【0049】
金属発熱層形成工程において、基材層102上に金属発熱層104を形成する。金属発熱層104を形成する方法としては、例えば、銀化合物、樹脂、溶媒等を含む銀ペースト等の金属ペーストを基材層102の例えば半乾燥膜上に塗布し、金属ペーストを乾燥、加熱焼成すればよい。その他に、めっきによる成膜方法等が挙げられる。
【0050】
金属発熱層形成工程には、金属発熱層に空隙部を形成する空隙部形成工程を含む。金属発熱層に空隙部を形成する方法としては、例えば、スクリーン印刷法、フォトリソグラフィ法、金属発熱層成形時の温度制御によって空隙を生成する方法等が挙げられる。これらの方法のうち、例えば、スクリーン印刷法によって、予め定めたパターン状に上記図1の構成の金属発熱層を形成すればよい。また、金属発熱層を加熱する方法によって空隙部を生じさせ、上記図3の構成の金属発熱層を形成してもよい。
【0051】
保護層形成工程において、保護層106を形成する方法としては、例えば、ポリイミド前駆体溶液等の樹脂溶液を塗布、焼成する方法等が挙げられる。
【0052】
焼成工程において、基材層102、金属発熱層104、保護層106を同時に焼成して、基材層、保護層のポリイミド前駆体を架橋させることにより、基材層102と保護層106との接着性が良好となり、また製造工程が簡略化される。
【0053】
弾性層、離型層等は公知の方法によって形成すればよい。
【0054】
<定着装置>
次に、本実施形態に係る定着装置の構成について説明する。本実施形態に係る定着装置は、上記定着ベルトを備えるものである。なお、本実施形態に係る定着装置として、電磁誘導加熱方式を用いれば、加熱したい定着部材の表面が効果的かつ高熱効率で加熱されるため、ウォームアップ時間が短縮される。
【0055】
図5に示すように、本実施形態に係る定着装置60は、回転可能な回転部材である加圧ロール62と、回転部材である加圧ロール62に接触して配置され、加圧ロール62との間に形成される加圧部N(以下「ニップ部N」ともいう)に未定着トナー像を保持した記録媒体Pを狭持することで未定着トナー像を記録媒体Pに定着させる、回転可能な定着ベルト61と、定着ベルト61と押圧部材である押圧パッド64との間に介在する摺動シート68とを有する。定着ベルト61は、上記のような、少なくとも3層以上を有し、内側から、樹脂を含んで構成される基材層、金属を主成分とする金属発熱層、樹脂を含んで構成される保護層の順に層が構成されており、金属発熱層が厚さ方向に貫通した空隙部を有し、保護層が空隙部を充填しているものである。なお、摺動シート68については後述する。
【0056】
定着装置60は、定着ベルト61、交流電流により生じる磁界によって定着ベルト61を発熱させる加熱部材の一例としての磁場発生ユニット85、定着ベルト61に対向するように配置する、加圧部材の一例としての加圧ロール62、定着ベルト61を介して、回転部材である加圧ロール62から押圧される押圧パッド64を有する。
【0057】
定着ベルト61は、押圧パッド64とベルトガイド部材63、定着ベルト61の両端部に配置するエッジガイド部材(図示せず)によって回転駆動自在に支持される。そして、加圧部(ニップ部)Nにおいて加圧ロール62に圧接され、加圧ロール62に従動して矢印方向に回転駆動する。
【0058】
ベルトガイド部材63は、定着ベルト61の内部に配置するホルダ65に取り付けられる。そして、ベルトガイド部材63は、定着ベルト61の回転駆動方向に向けた複数のリブ(図示せず)で形成され、定着ベルト61内周面との接触面積を小さくする。さらに、ベルトガイド部材63は、摩擦係数が低く、かつ熱伝導率が低いPFA(パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)やPPS(ポリフェニレンサルファイド)等の耐熱性樹脂で形成される。これにより、ベルトガイド部材63と定着ベルト61内周面との摺動抵抗を低減し、熱の発散を低くするように構成する。
【0059】
押圧パッド64は、定着ベルト61を介して加圧ロール62から押圧されて加圧部Nを形成する。押圧パッド64は、バネ等の弾性体等によって加圧ロール62を、例えば35kgfの荷重で押圧するようにホルダ65により支持される。押圧パッド64は、例えばシリコーンゴム、フッ素ゴム等の弾性体から構成される。押圧パッド64は、加圧ロール62側に凹部と凸部が形成されている。これにより、定着ベルト61が、押圧パッド64の加圧ロール62側の面から離れる際に急激な曲率の変化を生じ、定着後の記録媒体Pが定着ベルト61から剥離しやすくしている。
【0060】
加圧部Nの下流側近傍に配設する剥離補助部材70は、剥離バッフル71が定着ベルト61の回転方向と対向する方向(カウンタ方向)に向けられ、バッフルホルダ72により保持される。また、押圧パッド64と定着ベルト61との間に摺動シート68が配設され、定着ベルト61の内周面と押圧パッド64との摺動抵抗を低減する。本実施形態では、摺動シート68は押圧パッド64と別体に構成され、両端をホルダ65に固定される。
【0061】
ホルダ65に、定着装置60の長手方向にわたって潤滑剤塗布部材67が配設される。潤滑剤塗布部材67は、定着ベルト61の内周面に接触し、定着ベルト61と摺動シート68との摺動部に潤滑剤を供給する。なお、潤滑剤としては、例えば、シリコーンオイル、フッ素オイル等の液体状オイル;固形物質と液体とを混合させたグリース等、さらにこれらを組み合わせたものが挙げられる。
【0062】
加圧ロール62は、例えば、直径16mmの中実の鉄製等のコア(円柱状芯金)621と、コア621の外周面を被覆する、例えば厚み12mmのシリコーンスポンジ等のゴム層622と、例えば、厚み30μmのPFA等の耐熱性樹脂被覆または耐熱性ゴム被覆による表面層623とを有する。なお、加圧ロール62の製造方法としては、例えば、PFAチューブ(表面層623になる)の内周面に、接着用プライマを塗布したフッ素樹脂チューブと中実シャフト(コア621になる)とを成形金型内に装填し、フッ素樹脂チューブと中実シャフトとの間に液状発泡シリコーンゴムを注入後、加熱処理(150℃、2時間)によりシリコーンゴムを加硫、発泡させてゴム層622を形成する方法等が挙げられる。
【0063】
加圧ロール62は、定着ベルト61に対向するように配置され、矢印D方向に、例えば140mm/secのプロセススピードで回転され、定着ベルト61を従動させる。また、加圧ロール62と押圧パッド64とにより定着ベルト61を挟持した状態で保持して加圧部Nを形成し、この加圧部Nに未定着トナー像を保持した記録媒体Pを通過させ、熱および圧力を加えて未定着トナー像を記録媒体Pに定着する。
【0064】
磁場発生ユニット85は、断面が定着ベルト61の形状に沿った曲線形状を有し、定着ベルト61の外周表面と例えば0.5mm以上2mm以下程度の間隙で設置される。磁場発生ユニット85は、磁界を発生させる励磁コイル851と、励磁コイル851を保持するコイル支持部材852と、励磁コイル851に電流を供給する励磁回路853とを有する。
【0065】
励磁コイル851は、例えば、相互に絶縁された直径φ0.5mm程度の銅線材を16本から20本程度束ねたリッツ線を、長円形状や楕円形状、長方形状等の閉環状に巻いて形成したものを用いる。励磁コイル851に励磁回路853によって予め定められた周波数の交流電流を印加することにより、励磁コイル851の周囲に交流磁界Hが発生する。交流磁界Hが、定着ベルト61の金属層を横切る際に、電磁誘導作用によってその交流磁界Hの変化を妨げる磁界を発生するように渦電流Iが生じる。励磁コイル851に印加する交流電流の周波数は、例えば、10kHzから50kHzに設定すればよい。渦電流Iが定着ベルト61の金属発熱層を流れることによって、金属発熱層の抵抗値Rに比例した電力W(W=I2R)によるジュール熱が発生し、定着ベルト61が加熱される。
【0066】
コイル支持部材852は、例えば耐熱性を有する非磁性材料で構成される。このような非磁性材料としては、例えば、耐熱ガラス、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォン、PPS等の耐熱性樹脂、またはこれらにガラス繊維を混合した耐熱性樹脂等が挙げられる。
【0067】
なお、本実施形態では、定着ベルト61を加熱する加熱部材の一例として磁場発生ユニット85を備える電磁誘導加熱方式の定着装置60について説明したが、加熱部材としては、輻射ランプ発熱体、抵抗発熱体を採用することもできる。
【0068】
輻射ランプ発熱体としては、例えば、ハロゲンランプ等が挙げられる。抵抗発熱体としては、例えば、鉄−クロム−アルミ系、ニッケル−クロム系、白金、モリブデン、タンタル、タングステン、炭化珪素、モリブデン−シリサイド、カーボン等が挙げられる。
【0069】
定着装置60では、加圧ロール62の矢印D方向への回転に伴い、定着ベルト61が従動回転され、励磁コイル851により発生した磁界に曝される。この際、定着ベルト61中の金属発熱層には渦電流が発生し、定着ベルト61の外周面が定着可能な温度まで加熱される。このようにして加熱された定着ベルト61は、加圧ロール62との加圧部Nまで移動する。搬送手段により、未定着トナー像がその表面に設けられた記録媒体Pが定着入口ガイド56を介して定着装置60に搬入される。記録媒体Pが定着ベルト61と加圧ロール62との加圧部Nを通過した際に、未定着トナー像は定着ベルト61により加熱され記録媒体Pの表面に定着される。その後、画像が表面に形成された記録媒体Pは、搬送手段により搬送され、定着装置60から排出される。また、加圧部Nにおいて定着処理を終え、外周面の表面温度が低下した定着ベルト61は、励磁コイル851方向へと回転し、次の定着処理に備えて再度加熱される。
【0070】
<画像形成装置>
次に、本実施形態に係る定着装置を備えた画像形成装置の構成について説明する。本実施形態に係る画像形成装置は、少なくとも、記録媒体に未定着トナー像を保持させるトナー像形成手段と、上記定着装置とを備えるものである。
【0071】
以下、図面を参照しつつ本実施形態に係る画像形成装置の構成を説明するが、本発明は下記実施形態に限定されるものではない。
【0072】
図6は、本実施形態に係る定着装置が適用される画像形成装置を示した概略構成図である。図6に示す画像形成装置3は、一般にタンデム型と呼ばれる中間転写方式の画像形成装置であって、電子写真方式にて各色成分のトナー像が形成されるトナー像形成手段の一例としての複数の画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kと、各画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kにて形成された各色成分トナー像を中間転写ベルト15に順次転写(一次転写)させる一次転写部10と、中間転写ベルト15上に転写された重畳トナー画像を記録紙等の記録媒体Pに一括転写(二次転写)させる二次転写部20と、二次転写された画像を記録媒体P上に定着させる定着手段の一例としての定着装置60とを備える。また、画像形成装置3は、各装置(各部)の動作を制御する制御部40を備える。
【0073】
本実施形態において、各画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kは、矢印A方向に回転する像保持体としての感光体ドラム11の周囲に、これらの感光体ドラム11を帯電する帯電手段としての帯電器12、感光体ドラム11上に静電潜像を形成する静電潜像形成手段としてのレーザ露光器13(図6において露光ビームを符号Bmで示す)、各色成分トナーが収容されて感光体ドラム11上の静電潜像をトナーにより可視像化する現像手段としての現像器14、感光体ドラム11上に形成された各色成分トナー像を一次転写部10にて中間転写ベルト15に転写する一次転写手段としての一次転写ロール16、感光体ドラム11上の残留トナーを除去するクリーニング手段としてのドラムクリーナ17等の電子写真用デバイスが順次配設されている。これらの画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kは、中間転写ベルト15の上流側から、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の順に、略直線状に配置されている。
【0074】
中間転写体である中間転写ベルト15は、ポリイミドあるいはポリアミド等の樹脂にカーボンブラック等の帯電防止剤を適当量含有させたフィルム状の無端ベルトで構成されている。そして、その体積抵抗率は例えば106Ωcm以上1014Ωcm以下の範囲となるように形成されており、その厚みは例えば0.1mm程度に構成されている。中間転写ベルト15は、各種ロールによって図6に示すB方向に予め定めた速度で循環駆動(回転駆動)されている。この各種ロールとして、定速性に優れたモータ(図示せず)等により駆動されて中間転写ベルト15を循環駆動させる駆動ロール31、各感光体ドラム11の配列方向に沿って略直線状に延びる中間転写ベルト15を支持する支持ロール32、中間転写ベルト15に対して予め定めた張力を与えると共に中間転写ベルト15の蛇行等を防止する補正ロールとして機能するテンションロール33、二次転写部20に設けられるバックアップロール25、中間転写ベルト15上の残留トナーを掻き取るクリーニング部に設けられるクリーニングバックアップロール34等を有している。
【0075】
一次転写部10は、中間転写ベルト15を挟んで感光体ドラム11に対向して配置される一次転写ロール16で構成されている。一次転写ロール16は、例えば、シャフトと、シャフトの周囲に固着された弾性層としてのスポンジ層とで構成されている。シャフトは鉄、SUS等の金属等で構成された円柱状等の棒である。スポンジ層は、例えばカーボンブラック等の導電剤を配合したニトリル−ブタジエンゴム(NBR)とスチレン−ブタジエンゴム(SBR)とエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)とのブレンドゴム等で形成され、体積抵抗率が例えば107.5Ωcm以上108.5Ωcm以下のスポンジ状等の円筒状等のロールである。そして、一次転写ロール16は、中間転写ベルト15を挟んで感光体ドラム11に圧接して配置され、さらに一次転写ロール16にはトナーの帯電極性(マイナス極性とする。以下同様。)と逆極性の電圧(一次転写バイアス)が印加されるようになっている。これにより、各々の感光体ドラム11上のトナー像が中間転写ベルト15に順次、静電吸引され、中間転写ベルト15上において重畳されたトナー像が形成されるようになっている。
【0076】
二次転写部20は、中間転写ベルト15のトナー像保持面側に配置される二次転写ロール22と、バックアップロール25とによって構成される。バックアップロール25は、表面が例えばカーボン等を分散したEPDMとNBRのブレンドゴムのチューブ、内部は例えばEPDMゴムで構成されている。そして、その表面抵抗率が例えば107Ω/□以上1010Ω/□以下の範囲となるように形成され、硬度は例えば70°(アスカーC:高分子計器社製、以下同様。)に設定される。このバックアップロール25は、中間転写ベルト15の裏面側に配置されて二次転写ロール22の対向電極をなし、二次転写バイアスを印加する金属製等の給電ロール26が接触して配置されている。
【0077】
一方、二次転写ロール22は、例えば、シャフトと、シャフトの周囲に固着された弾性層としてのスポンジ層とで構成されている。シャフトは例えば鉄、SUS等の金属等で構成された円柱状等の棒である。スポンジ層は、例えばカーボンブラック等の導電剤を配合したNBRとSBRとEPDMとのブレンドゴム等で形成され、体積抵抗率が例えば107.5Ωcm以上108.5Ωcm以下のスポンジ状等の円筒状等のロールである。そして、二次転写ロール22は、中間転写ベルト15を挟んでバックアップロール25に圧接して配置され、さらに二次転写ロール22は接地されてバックアップロール25との間に二次転写バイアスが形成され、二次転写部20に搬送される記録媒体P上にトナー像を二次転写する。
【0078】
また、中間転写ベルト15の二次転写部20の下流側には、二次転写後の中間転写ベルト15上の残留トナーや紙粉等を除去し、中間転写ベルト15の表面をクリーニングする中間転写ベルトクリーナ35が接離自在に設けられている。一方、イエローの画像形成ユニット1Yの上流側には、各画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kにおける画像形成タイミングをとるための基準となる基準信号を発生する基準センサ(ホームポジションセンサ)42が配設されている。また、黒の画像形成ユニット1Kの下流側には、画質調整を行うための画像濃度センサ43が配設されている。この基準センサ42は、中間転写ベルト15の裏側に設けられた予め定めたマーク等を認識して基準信号を発生しており、この基準信号の認識に基づく制御部40からの指示により、各画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kが画像形成を開始するように構成されている。
【0079】
さらに、本実施形態の画像形成装置3では、用紙搬送系として、例えば、記録媒体Pを収容する用紙トレイ50、この用紙トレイ50に集積された記録媒体Pを所定のタイミングで取り出して搬送するピックアップロール51、ピックアップロール51にて繰り出された記録媒体Pを搬送する搬送ロール52、搬送ロール52により搬送された記録媒体Pを二次転写部20へと送り込む搬送シュート53、二次転写ロール22によって二次転写された後に搬送される記録媒体Pを定着装置60へと搬送する搬送ベルト55、記録媒体Pを定着装置60に導く定着入口ガイド56等を備えている。
【0080】
次に、本実施形態に係る画像形成装置の基本的な作像プロセスの一例について説明する。図6に示すような画像形成装置では、図示しない画像読取装置(IIT)や図示しないパーソナルコンピュータ(PC)等から出力される画像データは、図示しない画像処理装置(IPS)にて所定の画像処理が施された後、画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kによって作像作業が実行される。IPSでは、入力された反射率データに対して、シェーディング補正、位置ズレ補正、明度/色空間変換、ガンマ補正、枠消しや色編集、移動編集等の各種画像編集等の所定の画像処理が施される。画像処理が施された画像データは、Y、M、C、Kの4色の色材階調データに変換され、レーザ露光器13に出力される。
【0081】
レーザ露光器13では、入力された色材階調データに応じて、例えば半導体レーザから出射された露光ビームBmを画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kの各々の感光体ドラム11に照射する。画像形成ユニット1Y,1M,1C、1Kの各感光体ドラム11では、帯電器12によって表面が帯電された後、このレーザ露光器13によって表面が走査露光され、静電潜像が形成される。形成された静電潜像は、各々の画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kにて、Y,M,C,Kの各色のトナー像として現像される。
【0082】
画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kの感光体ドラム11上に形成されたトナー像は、各感光体ドラム11と中間転写ベルト15とが接触する一次転写部10にて、中間転写ベルト15上に転写される。より具体的には、一次転写部10において、一次転写ロール16にて中間転写ベルト15の基材に対しトナーの帯電極性(マイナス極性)と逆極性の電圧(一次転写バイアス)が付加され、トナー像を中間転写ベルト15の表面に順次重ね合わせて一次転写が行われる。
【0083】
トナー像が中間転写ベルト15の表面に順次一次転写された後、中間転写ベルト15は移動してトナー像が二次転写部20に搬送される。トナー像が二次転写部20に搬送されると、用紙搬送系では、トナー像が二次転写部20に搬送されるタイミングに合わせてピックアップロール51が回転し、用紙トレイ50から予め定めたサイズの用紙である記録媒体Pが供給される。ピックアップロール51により供給された記録媒体Pは、搬送ロール52により搬送され、搬送シュート53を経て二次転写部20に到達する。この二次転写部20に到達する前に、記録媒体Pは一旦停止され、トナー像が保持された中間転写ベルト15の移動タイミングに合わせてレジストロール(図示せず)が回転することで、記録媒体Pの位置とトナー像の位置との位置合わせがなされる。
【0084】
二次転写部20では、中間転写ベルト15を介して、二次転写ロール22がバックアップロール25に押圧される。このとき、タイミングを合わせて搬送された記録媒体Pは、中間転写ベルト15と二次転写ロール22との間に挟み込まれる。その際に、給電ロール26からトナーの帯電極性(マイナス極性)と同極性の電圧(二次転写バイアス)が印加されると、二次転写ロール22とバックアップロール25との間に転写電界が形成される。そして、中間転写ベルト15上に保持された未定着トナー像は、二次転写ロール22とバックアップロール25とによって押圧される二次転写部20にて、記録媒体P上に一括して静電転写される。
【0085】
その後、トナー像が静電転写された記録媒体Pは、二次転写ロール22によって中間転写ベルト15から剥離された状態でそのまま搬送され、二次転写ロール22の用紙搬送方向下流側に設けられた搬送ベルト55へと搬送される。搬送ベルト55では、定着装置60における最適な搬送速度に合わせて、記録媒体Pを定着装置60まで搬送する。定着装置60に搬送された記録媒体P上の未定着トナー像は、定着装置60によって熱および圧力で定着処理を受けることで記録媒体P上に定着される。そして定着画像が形成された記録媒体Pは、画像形成装置の排出部に設けられた排紙載置部に搬送される。
【0086】
一方、記録媒体Pへの転写が終了した後、中間転写ベルト15上に残った残留トナー等は、中間転写ベルト15の回転駆動に伴ってクリーニング部まで搬送され、クリーニングバックアップロール34および中間転写ベルトクリーナ35によって中間転写ベルト15上から除去される。
【実施例】
【0087】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0088】
(実施例1)
<ベルトの作製方法>
[電磁誘導加熱方式の定着ベルトの作製]
離型剤(信越化学製、KS700)処理された円筒形の金型にポリイミド前駆体溶液(U−ワニスS:宇部興産株式会社製)をフローコート装置でΦ30のアルミ金型上に塗布し、120℃で30分乾燥させた後、そのポリイミド半乾燥膜上に導電性ペースト(ドータイト XA−9053:株式会社フジクラ製、銀ペースト(ペースト中、銀化合物90質量%含有)の10質量%希釈溶液をスクリーン印刷法でベルト軸方向に25μm幅、1mmピッチで塗布した。
【0089】
その後、80℃で40分乾燥させた後、200℃に設定された炉に入れ80分、銀を焼成し、ポリイミド乾燥膜上に、ベルト周方向に1mmの周期的間隔の導電性ペーストの焼成膜(厚み15μm)を形成した2層無端ベルトを得た(図1参照)。さらに、その上層に前記のポリイミド前駆体溶液を塗布、380℃で基材層、金属発熱層、保護層を同時に焼成し、基材層、保護層のポリイミド前駆体を架橋させ、ポリイミド製の保護層(厚み60μm)を形成した。
【0090】
次に、3層ベルトの外周面に、フローコート装置を用いて、弾性層の下地処理プライマ(DY39−067:東レダウコーニングシリコーン株式会社製)、液状シリコーンゴム(X34−1053A/B:信越化学工業株式会社製)を塗布し、10℃30分で乾燥させて、厚み200μmの弾性層を形成した。その後、当該弾性層の外周面に、離型層としてPFAチューブ(テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体チューブ)30μmを、被覆機を用いてチュービング被覆を行い、200℃の炉に入れて加硫焼成させて、離型層を形成した。以上の方法で定着ベルトを作製した。
【0091】
(実施例2)
実施例1において、ポリイミド半乾燥膜の外周面全面に銀ペーストをフローコート法で塗布し、80℃で40分乾燥させた後、10℃/minで200℃まで昇温し、200℃で80分銀を焼成した以外は、実施例1と同様にして、空隙部がベルト全面に点在する導電層パターンを作製した(図3参照)。空隙部の周方向の間隔は0.2mm、軸方向の間隔は、0.2mmであった。それ以外は実施例1と同様にして、定着ベルトを作製した。
【0092】
(実施例3)
ベルト周方向に7mmピッチの導電層パターンを作製した以外は実施例1と同様にして、定着ベルトを作製した。
【0093】
(実施例4)
ベルト周方向に8mmピッチの導電層パターンを作製した以外は実施例1と同様にして、定着ベルトを作製した。
【0094】
(比較例1)
金属線を円筒状に編み上げる方法で、SUS材で3次元の網目構造を有する金属発熱層を形成した。図4に、比較例1における金属発熱層の構造のイメージ図を示す。それ以外は実施例1と同様にして、定着ベルトを作製した。
【0095】
(比較例2)
金属線を円筒状に編み上げる方法で、SUS材で2次元の網目構造を有する金属発熱層を形成した。それ以外は実施例1と同様にして、定着ベルトを作製した。
【0096】
(比較例3)
実施例1と同様にして離型剤処理された円筒形の金型にポリイミド前駆体溶液(U−ワニスS:宇部興産株式会社製)を、フローコート装置を用いて塗布し、100℃で30分間乾燥後、380℃の炉に入れて60分間焼成させ、基材層60μmを形成した。次に、基材層の外周面に対して、下地金属層の下地処理として、ブラスト装置による粗面化処理を行った。具体的には、基材層のベルト軸方向中央部(通紙幅内)における表面粗さRaが0.5μmとなるように粗面化処理を行った。次に、基材層の外周面に、下地金属層として無電解ニッケル層を成膜した。具体的には、ベルト軸方向中央部における下地金属層の厚さが0.5μmとなる条件で、下地金属層の成膜を行った。次に、下地金属層の外周面に、金属発熱層として電解銅めっき層10μmおよび金属保護層として電解ニッケルめっき層10μmを成膜した。具体的には、基材層の外周面に設けられた下地金属層を陰極とし、ベルト軸方向中央部の幅よりも外側の両端部に給電部を配置させ、電解メッキを行うことにより、金属発熱層および金属保護層の成膜を行った。それ以外は実施例1と同様にして、定着ベルトを作製した。
【0097】
<評価>
(ベルトの耐久性)
得られたベルトを、富士ゼロックス製の画像形成装置Docu Centre IV C3370の定着ユニットに装備し、ベルトが所望の温度に昇温するまでの時間(ウォームアップ時間)と、ベルトにクラックが生じるまでの回転数(プリント枚数相当、以下PVとする)を調査し、ベルトの昇温性能と耐久性を評価した。ニップ幅は7mmとした。結果を表1に示す。耐久性評価については、ニップ出口の曲率半径をR=5.5,R=5としたときのそれぞれについて、1000kPV相当まで評価を実施し、クラックが発生しなかったものは、クラック発生無しとした。耐久性を以下の基準で評価した。
○:1000kPV以上
△:500kPV以上
×:500kPV未満
【0098】
(ウォームアップ時間)
ウォームアップ時間(WUT)は、1100Wで加熱開始から定着部材表面が160℃になるまでの時間とした。
○:10秒未満
△:10秒以上20秒未満
×:20秒以上
【0099】
【表1】

【0100】
このように、金属発熱層が厚さ方向に貫通した空隙部を有し、保護層が空隙部を充填している実施例の定着ベルトは、比較例の定着ベルトに比べて、ウォームアップ時間が短く、高い耐久性を有した。
【符号の説明】
【0101】
1Y,1M,1C,1K 画像形成ユニット、3 画像形成装置、10 一次転写部、11 感光体ドラム、12 帯電器、13 レーザ露光器、14 現像器、15 中間転写ベルト、16 一次転写ロール、17 ドラムクリーナ、20 二次転写部、22 二次転写ロール、25 バックアップロール、26 給電ロール、31 駆動ロール、32 支持ロール、33 テンションロール、34 クリーニングバックアップロール、35 中間転写ベルトクリーナ、40 制御部、42 基準センサ、43 画像濃度センサ、50 用紙トレイ、51 ピックアップロール、52 搬送ロール、53 搬送シュート、55 搬送ベルト、56 定着入口ガイド、60 定着装置、61 定着ベルト、62 加圧ロール、63 ベルトガイド部材、64 押圧パッド、65 ホルダ、67 潤滑剤塗布部材、68 摺動シート、70 剥離補助部材、71 剥離バッフル、72 バッフルホルダ、85 磁場発生ユニット、102 基材層、104 金属発熱層、106 保護層、108,110 空隙部、621 コア、622 ゴム層、623 表面層、851 励磁コイル、852 コイル支持部材、853 励磁回路、Bm 露光ビーム、N 加圧部(ニップ部)、P 記録媒体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3層以上を有し、内側から、樹脂を含んで構成される基材層、金属を主成分とする金属発熱層、樹脂を含んで構成される保護層の順に層が構成されており、前記金属発熱層が厚さ方向に貫通した空隙部を有し、前記基材層を構成する樹脂および前記保護層を構成する樹脂のうち少なくとも1つが前記空隙部を充填していることを特徴とする定着ベルト。
【請求項2】
前記空隙部が、ベルトの周方向に周期的間隔でベルトの幅方向にわたって存在していることを特徴とする、請求項1に記載の定着ベルト。
【請求項3】
前記空隙部が、ベルト面に点在することを特徴とする、請求項1に記載の定着ベルト。
【請求項4】
前記金属発熱層が、銀を含んで構成されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の定着ベルト。
【請求項5】
前記基材層上に、前記金属発熱層を形成する金属発熱層形成工程と、前記保護層を形成する保護層形成工程と、前記基材層、前記金属発熱層、前記保護層を同時に焼成する焼成工程とを含むことを特徴とする、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の定着ベルトの製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の定着ベルトを備えることを特徴とする定着装置。
【請求項7】
少なくとも、記録媒体に未定着トナー像を保持させるトナー像形成手段と、請求項6に記載の定着装置とを備えることを特徴とする画像形成装置。

【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−68788(P2013−68788A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207086(P2011−207086)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】