説明

定着装置、及び、画像形成装置

【課題】ウォームアップ時間やファーストプリント時間が短くて、定着画像に静電オフセット画像やチリ画像等の異常画像が生じにくい、定着装置、及び、画像形成装置を提供する。
【解決手段】固定部材26が固設されたニップ部とは異なる位置で定着ベルト21の内周面に当接又は対向するように定着ベルト21の周方向に沿って固設されて、定着ベルト21を加熱する発熱部材22が設けられている。そして、この発熱部材22は、定着ベルト21に対向する対向面に導電性を有する薄層22aが形成されていて、その薄層22aが接地されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複写機、プリンタ、ファクシミリ、又は、それらの複合機等の画像形成装置と、そこに設置される定着装置と、に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、複写機、プリンタ等の画像形成装置において、ウォームアップ時間やファーストプリント時間が短くて、装置を高速化した場合であっても定着不良が生じにくい定着装置として、定着ベルトの内周面に対向するように抵抗発熱体を設置する技術が知られている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0003】
詳しくは、特許文献1、2等の定着装置は、定着部材としての定着ベルト、定着ベルトの内周面に対向するように固設された略円筒状の発熱部材(抵抗発熱体)、加圧ローラ(加圧回転体)、定着ベルトを介して加圧ローラに圧接してニップ部を形成する当接部材(固定部材)、等で構成されている。
そして、定着ベルトが抵抗発熱体(発熱部材)によって加熱されて、ニップ部に向けて搬送された記録媒体上のトナー像がニップ部にて熱と圧力とを受けて記録媒体上に定着されることになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1、2等の定着装置は、ウォームアップ時間やファーストプリント時間が短くて、装置を高速化した場合であっても定着不良が充分に生じにくい装置であるものの、定着ベルトの走行時においてニップ部に記録媒体が通過することによって定着ベルトに電荷が徐々に蓄積されていって定着画像に静電オフセット画像やチリ画像等の異常画像が生じてしまうことがあった。
【0005】
このような問題は、定着ベルトの内周面に対向するように設置された発熱部材を、ヒータや励磁コイルによって加熱される金属部材で形成した場合にも、共通して生じうるものである。しかし、特に、定着ベルトの内周面に対向するように設置された発熱部材を抵抗発熱体で形成した場合には、抵抗発熱体に絶縁層が設けられているために、走行時の定着ベルトが発熱部材に当接しても帯電状態にある定着ベルトが除電されにくく、無視できない問題になっていた。
【0006】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、ウォームアップ時間やファーストプリント時間が短くて、定着画像に静電オフセット画像やチリ画像等の異常画像が生じにくい、定着装置、及び、画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の請求項1記載の発明にかかる定着装置は、所定方向に走行してトナー像を加熱して溶融するとともに、可撓性を有する無端状の定着ベルトと、前記定着ベルトの内周面側に固設されて、当該定着ベルトを介して加圧回転体に圧接して記録媒体が搬送されるニップ部を形成する固定部材と、前記ニップ部とは異なる位置で前記定着ベルトの内周面に当接又は対向するように前記定着ベルトの周方向に沿って固設されるとともに、前記定着ベルトを加熱する発熱部材と、を備え、前記発熱部材は、前記定着ベルトに対向する対向面の一部又は全部に導電性を有する薄層を具備し、前記薄層が直接的又は間接的に接地されたものである。
【0008】
なお、本願において、固定部材や補強部材が「固設」された状態とは、固定部材や補強部材が回転駆動されることなく非回転で保持されている状態であるものと定義する。したがって、例えば、固定部材がスプリング等の付勢部材によってニップ部に向けて付勢されている場合であっても固定部材が非回転で保持されていれば、固定部材が「固設」された状態となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、ニップ部とは異なる位置で定着ベルトの内周面に対向する発熱部材の対向面に、導電性を有する薄層を形成して、その薄層を接地しているため、ウォームアップ時間やファーストプリント時間が短くて、定着画像に静電オフセット画像やチリ画像等の異常画像が生じにくい、定着装置、及び、画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態における画像形成装置を示す全体構成図である。
【図2】図1の画像形成装置に設置された定着装置を示す構成図である。
【図3】図2の定着装置を幅方向にみた図である。
【図4】ニップ部の近傍を示す拡大図である。
【図5】走行時における定着ベルトの帯電状態を示すグラフである。
【図6】発熱部材を保持するフランジが設置された幅方向端部を示す断面図である。
【図7】別形態の定着装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態.
以下、この発明を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0012】
まず、図1にて、画像形成装置全体の構成・動作について説明する。
図1に示すように、本実施の形態における画像形成装置1は、タンデム型カラープリンタである。画像形成装置本体1の上方にあるボトル収容部101には、各色(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)に対応した4つのトナーボトル102Y、102M、102C、102Kが着脱自在(交換自在)に設置されている。
ボトル収容部101の下方には中間転写ユニット85が配設されている。その中間転写ユニット85の中間転写ベルト78に対向するように、各色(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)に対応した作像部4Y、4M、4C、4Kが並設されている。
【0013】
各作像部4Y、4M、4C、4Kには、それぞれ、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kが配設されている。また、各感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの周囲には、それぞれ、帯電部75、現像部76、クリーニング部77、除電部(不図示である。)等が配設されている。そして、各感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上で、作像プロセス(帯電工程、露光工程、現像工程、転写工程、クリーニング工程)がおこなわれて、各感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上に各色の画像が形成されることになる。
【0014】
感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kは、不図示の駆動モータによって図1中の時計方向に回転駆動される。そして、帯電部75の位置で、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面が一様に帯電される(帯電工程である。)。
その後、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面は、露光部3から発せられたレーザ光Lの照射位置に達して、この位置での露光走査によって各色に対応した静電潜像が形成される(露光工程である。)。
【0015】
その後、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面は、現像装置76との対向位置に達して、この位置で静電潜像が現像されて、各色のトナー像が形成される(現像工程である。)。
その後、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面は、中間転写ベルト78及び第1転写バイアスローラ79Y、79M、79C、79Kとの対向位置に達して、この位置で感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上のトナー像が中間転写ベルト78上に転写される(1次転写工程である。)。このとき、感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上には、僅かながら未転写トナーが残存する。
【0016】
その後、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面は、クリーニング部77との対向位置に達して、この位置で感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上に残存した未転写トナーがクリーニング部77のクリーニングブレードによって機械的に回収される(クリーニング工程である。)。
最後に、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面は、不図示の除電部との対向位置に達して、この位置で感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上の残留電位が除去される。
こうして、感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上でおこなわれる、一連の作像プロセスが終了する。
【0017】
その後、現像工程を経て各感光体ドラム上に形成した各色のトナー像を、中間転写ベルト78上に重ねて転写する。こうして、中間転写ベルト78上にカラー画像が形成される。
ここで、中間転写ユニット85は、中間転写ベルト78、4つの1次転写バイアスローラ79Y、79M、79C、79K、2次転写バックアップローラ82、クリーニングバックアップローラ83、テンションローラ84、中間転写クリーニング部80、等で構成される。中間転写ベルト78は、3つのローラ82〜84によって張架・支持されるとともに、1つのローラ82の回転駆動によって図1中の矢印方向に無端移動される。
【0018】
4つの1次転写バイアスローラ79Y、79M、79C、79Kは、それぞれ、中間転写ベルト78を感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kとの間に挟み込んで1次転写ニップを形成している。そして、1次転写バイアスローラ79Y、79M、79C、79Kに、トナーの極性とは逆の転写バイアスが印加される。
そして、中間転写ベルト78は、矢印方向に走行して、各1次転写バイアスローラ79Y、79M、79C、79Kの1次転写ニップを順次通過する。こうして、感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上の各色のトナー像が、中間転写ベルト78上に重ねて1次転写される。
【0019】
その後、各色のトナー像が重ねて転写された中間転写ベルト78は、2次転写ローラ89との対向位置に達する。この位置では、2次転写バックアップローラ82が、2次転写ローラ89との間に中間転写ベルト78を挟み込んで2次転写ニップを形成している。そして、中間転写ベルト78上に形成された4色のトナー像は、この2次転写ニップの位置に搬送された記録媒体P上に転写される。このとき、中間転写ベルト78には、記録媒体Pに転写されなかった未転写トナーが残存する。
その後、中間転写ベルト78は、中間転写クリーニング部80の位置に達する。そして、この位置で、中間転写ベルト78上の未転写トナーが回収される。
こうして、中間転写ベルト78上でおこなわれる、一連の転写プロセスが終了する。
【0020】
ここで、2次転写ニップの位置に搬送された記録媒体Pは、装置本体1の下方に配設された給紙部12から、給紙ローラ97やレジストローラ対98等を経由して搬送されたものである。
詳しくは、給紙部12には、転写紙等の記録媒体Pが複数枚重ねて収納されている。そして、給紙ローラ97が図1中の反時計方向に回転駆動されると、一番上の記録媒体Pがレジストローラ対98のローラ間に向けて給送される。
【0021】
レジストローラ対98に搬送された記録媒体Pは、回転駆動を停止したレジストローラ対98のローラニップの位置で一旦停止する。そして、中間転写ベルト78上のカラー画像にタイミングを合わせて、レジストローラ対98が回転駆動されて、記録媒体Pが2次転写ニップに向けて搬送される。こうして、記録媒体P上に、所望のカラー画像が転写される。
【0022】
その後、2次転写ニップの位置でカラー画像が転写された記録媒体Pは、定着部20の位置に搬送される。そして、この位置で、定着ベルト21及び加圧ローラ31による熱と圧力とにより、表面に転写されたカラー画像が記録媒体P上に定着される。
その後、記録媒体Pは、排紙ローラ対99のローラ間を経て、装置外へと排出される。排紙ローラ対99によって装置外に排出された被転写Pは、出力画像として、スタック部100上に順次スタックされる。
こうして、画像形成装置における、一連の画像形成プロセスが完了する。
【0023】
次に、図2〜図4等を用いて、画像形成装置本体1に設置される定着装置20の構成・動作について詳述する。
図2〜図4に示すように、定着装置20は、定着部材としての定着ベルト21(ベルト部材)、固定部材26、発熱部材22(抵抗発熱体)、金属部材24(金属熱伝導体)、補強部材23、加圧回転体としての加圧ローラ31、温度検知手段としての温度センサ40、等で構成される。
【0024】
ここで、定着ベルト21は、薄肉で可撓性を有する無端状ベルトであって、図2中の矢印方向(反時計方向)に回転(走行)する。定着ベルト21は、内周面21a(固定部材26との摺接面である。)側から、基材層、弾性層、離型層が順次積層されていて、その全体の厚さが1mm以下に設定されている。
定着ベルト21の基材層は、層厚が30〜50μmであって、ニッケル、ステンレス等の金属材料やポリイミド等の樹脂材料で形成されている。
定着ベルト21の弾性層は、層厚が100〜300μmであって、シリコーンゴム、発泡性シリコーンゴム、フッ素ゴム、等のゴム材料で形成されている。弾性層を設けることで、ニップ部における定着ベルト21表面の微小な凹凸が形成されなくなり、記録媒体P上のトナー像Tに均一に熱が伝わりユズ肌画像の発生が抑止される。なお、本実施の形態では、定着ベルト21の弾性層として、層厚が200μmのシリコーンゴムを用いている。
定着ベルト21の離型層は、層厚が10〜50μmであって、PFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリイミド、ポリエーテルイミド、PES(ポリエーテルサルファイド)、等の材料で形成されている。離型層を設けることで、トナーT(トナー像)に対する離型性(剥離性)が担保される。
【0025】
また、定着ベルト21の直径は15〜120mmになるように設定されている。なお、本実施の形態では、定着ベルト21の内径が30mmに設定されている。
定着ベルト21の内部(内周面側)には、固定部材26、発熱部材22、金属部材24、補強部材23、等が固設されている。
ここで、固定部材26は、定着ベルト21の内周面21aに摺接するように固定されている。そして、固定部材26が定着ベルト21を介して加圧ローラ31に圧接することで、記録媒体Pが搬送されるニップ部が形成される。図3を参照して、固定部材26は、その幅方向両端部が定着装置20の側板43に固定支持されている。
【0026】
図2を参照して、発熱部材22は、ニップ部とは異なる位置で定着ベルト21の内周面に対向(又は、軽接触)するように、定着ベルト21の周方向に沿って固設されている。
図3を参照して、発熱部材22は、その幅方向両端部がフランジ29を介して定着装置20の側板43に固定支持されている。また、このフランジ29は、定着ベルト21の寄り(幅方向の移動である。)を制限するための機能も有している。さらに、フランジ29は、発熱部材22の外周面に形成された薄層22aを接地するための機能も有しているが、これについては後で詳しく説明する。
【0027】
ここで、発熱部材22は、その一部に抵抗発熱体からなる発熱層が形成されている。図示は省略するが、発熱部材22は、内周面側から、基材層、発熱層、電極層、保護層(絶縁層)、薄層22a(導電層)が順次積層されている。
発熱部材22の基材層は、酸化アルミニウム(アルミナ)や窒化アルミニウム等の絶縁材料からなる。
発熱部材22の発熱層は、抵抗発熱体からなる。抵抗発熱体としては、セラミック等からなる面状発熱体を用いることもできる。
発熱部材22の電極層は、その幅方向両端部に電源部(不図示である。)が接続されている。そして、発熱部材22の電極層に電圧が印加されると、発熱層(抵抗発熱体)に電流が流れて、発熱層(抵抗発熱体)自身の電気抵抗によって発熱層(抵抗発熱体)が昇温して、当接(又は、対向)する定着ベルト21を加熱する。なお、発熱層(抵抗発熱体)は、適度に抵抗値を調整した金属分散樹脂等のように発熱機能を有するデバイスであれば、本実施の形態のものに限定されることなくそれらを用いることができる。
発熱部材22の保護層(絶縁層)は、ガラス等の絶縁材料からなり、発熱部材22に印加された電流が定着ベルト21に流れるのを防止している。
ここで、本実施の形態における発熱部材22には、保護層の表面(定着ベルト21に対向する対向面である。)にさらに導電性を有する薄層22a(導電層)が積層されていて、その薄層22aが接地されているが、これについては後で詳しく説明する。
【0028】
また、本実施の形態では、発熱部材22の強度を補強するために、発熱部材22の内周面に当接する略パイプ状の金属部材24を設置している。金属部材24の材料としては、肉厚が0.1〜1.0mm程度のステンレス鋼を用いることができる。
なお、本実施の形態では金属部材22を設置したが、発熱部材22の強度を充分に確保できる場合には、その設置を省くことができる。
【0029】
そして、本実施の形態では、発熱部材22が自ら発熱して、伝熱により定着ベルト21を加熱することになる。そして、加熱された定着ベルト21の表面から記録媒体P上のトナー像Tに熱が加えられることになる。
なお、発熱部材22に電流を印加する電源(不図示である。)の出力制御は、定着ベルト21表面に対向するサーミスタ、サーモパイル等の温度センサ40(温度検知手段)によるベルト表面温度の検知結果に基いておこなわれる。また、このような電源の出力制御によって、定着ベルト21の温度(定着温度)を所望の温度に設定することができる。温度センサ40(温度検知手段)は、図3に示すように、通紙可能な最小サイズの記録媒体Pの通紙領域に対応する位置に配設されている。
なお、本実施の形態では、発熱部材22を多層構造体として、その一部に発熱層(抵抗発熱体)を形成した。これに対して、発熱部材22における薄層22a以外の部分を、単層構造体として、その全部を発熱層(抵抗発熱体)として形成することもできる。
【0030】
このように、本実施の形態における定着装置20は、定着ベルト21の一部のみが局所的に加熱されるのではなく、発熱部材22によって定着ベルト21が周方向にわたってほぼ全体的に加熱されることになるために、装置を高速化した場合であっても定着ベルト21が充分に加熱されて定着不良の発生を抑止することができる。すなわち、比較的簡易な構成で効率よく定着ベルト21を加熱できるために、ウォームアップ時間やファーストプリント時間が短縮化されるとともに、装置の小型化が達成される。
【0031】
ここで、発熱部材22は、装置が停止した状態(定着ベルト21が走行していない状態)において、定着ベルト21の内周面(ニップ部を除く位置である。)にクリアランスをあけて対向するように固設されている。定着ベルト21と発熱部材22とのクリアランス量δ(ニップ部を除く位置のギャップである。)は、0mmより大きく1mm以下になるように設定されている(0mm<δ≦1mmである。)。これにより、装置が稼動したとき(定着ベルト21が走行しているとき)に、発熱部材22と定着ベルト21とが摺接する面積が大きくなって定着ベルト21の磨耗が加速する不具合を抑止するとともに、発熱部材22と定着ベルト21とが離れ過ぎて定着ベルト21の加熱効率が低下する不具合を抑止することができる。さらに、発熱部材22が定着ベルト21に近設されることで、可撓性を有する定着ベルト21の円形姿勢がある程度維持されるため、定着ベルト21の変形による劣化・破損を軽減することができる。
また、発熱部材22と定着ベルト21とが摺接しても定着ベルト21の磨耗が軽減されるように、定着ベルト21の内周面にフッ素グリスやシリコーンオイル等の潤滑剤を塗布することもできる。
【0032】
なお、装置が停止した状態(定着ベルト21が走行していない状態)においては、定着ベルト21にテンションがかからないために、定着ベルト21と発熱部材22とのギャップ(クリアランス量δ)は、ニップ部入口側とニップ部出口側とでほとんど変わらない。しかし、装置が駆動した状態(定着ベルト21が走行している状態)においては、ニップ部入口側が定着ベルト21の張り側(ベルトテンションが大きい側)となるために、図4に示すように、定着ベルト21と発熱部材22とのギャップ(クリアランス量δ)は、ニップ部入口側がニップ部出口側に比べて小さくなる。具体的に、ニップ部出口側では発熱部材22に対して定着ベルト21が離間した状態であるのに対して、ニップ部入口側では発熱部材22に対して定着ベルト21が接触した状態になる。
【0033】
ここで、本実施の形態では、ニップ部を形成する固定部材26の強度を補強する補強部材23が、定着ベルト21の内周面側に固設されている。図3を参照して、補強部材23は、幅方向(図3の左右方向であって、図2の紙面垂直方向である。)の長さが固定部材26と同等になるように形成されていて、その幅方向両端部が定着装置20の側板43に固定支持されている。そして、補強部材23が固定部材26及び定着ベルト21を介して加圧ローラ31に当接することで、ニップ部において固定部材26が加圧ローラ31の加圧力を受けて大きく変形する不具合を抑止している。
この補強部材23は、上述した機能を満足するために、ステンレスや鉄等の機械的強度が高い金属材料で形成することが好ましい。
【0034】
図2を参照して、ニップ部の位置で定着ベルト21の外周面に当接する加圧回転体としての加圧ローラ31は、外径が25mm程度であって、中空構造の芯金32上に弾性層33(層厚が3mm程度である。)を形成したものである。加圧ローラ31(加圧回転体)の弾性層33は、発泡性シリコーンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の材料で形成されている。なお、弾性層33の表層にPFA、PTFE等からなる薄肉の離型層を設けることもできる。加圧ローラ31は定着ベルト21に圧接して、双方の部材間に所望のニップ部を形成する。また、図3を参照して、加圧ローラ31には不図示の駆動機構の駆動ギアに噛合するギア45が設置されていて、加圧ローラ31は図2中の矢印方向(時計方向)に回転駆動される。また、加圧ローラ31は、その幅方向両端部が定着装置20の側板43に軸受42を介して回転自在に支持されている。
【0035】
なお、加圧ローラ31の弾性層33を発泡性シリコーンゴム等のスポンジ状の材料で形成した場合には、ニップ部に作用する加圧力を減ずることができるために、固定部材26に生じる撓みをさらに軽減することができる。さらに、加圧ローラ31の断熱性が高められて、定着ベルト21の熱が加圧ローラ31側に移動しにくくなるために、定着ベルト21の加熱効率が向上する。
なお、本実施の形態において、定着ベルト21の直径と加圧ローラ31の直径とをほぼ同等になるように形成することもできる。
【0036】
図4を参照して、定着ベルト21の内周面21aに摺接する固定部材26は、ベース層上に表面層が形成されたものである。固定部材26は、幅方向に直交する断面でみたときに、加圧ローラ31との対向面の曲率(ニップ部における曲率)が、加圧ローラ31の曲率よりも小さくなるように凹状に形成されている。さらに、固定部材26における定着ベルト21の走行方向に沿った範囲Mが、ニップ部における定着ベルト21の走行方向に沿った範囲Nを含むように形成されている。このような構成により、記録媒体Pは加圧ローラ31の曲率にならうようにニップ部から送出されるために、定着工程後の記録媒体Pが定着ベルト21に吸着して分離しないような不具合を抑止することができる。
なお、本実施の形態では、ニップ部を形成する固定部材26の形状を凹状に形成したが、ニップ部を形成する固定部材26の形状を平面状に形成することもできる。すなわち、固定部材26の摺接面(加圧ローラ31に対向する面である。)が平面形状になるように形成することができる。これにより、ニップ部の形状が記録媒体Pの画像面に対して略平行になって、定着ベルト21と記録媒体Pとの密着性が高まるために定着性が向上する。さらに、ニップ部の出口側における定着ベルト21の曲率が大きくなるために、ニップ部から送出された記録媒体Pを定着ベルト21から容易に分離することができる。
【0037】
また、固定部材26のベース層を形成する材料としては、加圧ローラ31による加圧力を受けても大きく撓むことがないように、ある程度剛性のある材料で形成されている。ベース層としては、セラミック、ガラス、絶縁性樹脂材料等の不導体を用いることができる。
また、固定部材26の表面層は、フッ素ゴム等の低摩擦弾性材料で形成されている。このような表面層を設けることにより、固定部材26と定着ベルト21との摺接によって双方の部材21、26が磨耗する不具合が軽減されるとともに、双方の部材21、26の間に所望のニップ部が形成されることになる。また、固定部材26の表面層に、予め潤滑剤を含浸させることもできる。これにより、固定部材26は、定着ベルト21に当接する面に潤滑剤が保持された状態になり、双方の部材21、26が磨耗する不具合がさらに軽減される。
このように、本実施の形態において、固定部材26は、全体として、非導電性材料(不導体)で形成されている。
【0038】
以下、上述のように構成された定着装置20の通常時の動作について簡単に説明する。
装置本体1の電源スイッチが投入されると、発熱部材22(抵抗発熱体)に電力が供給されるとともに、不図示の駆動モータから駆動力が伝達されて加圧ローラ31の図2中の矢印方向の回転駆動が開始される。これにより、ニップ部における加圧ローラ31との摩擦力によって、定着ベルト21も図2中の矢印方向に従動(回転)する。
その後、給紙部12から記録媒体Pが給送されて、2次転写ローラ89の位置で、記録媒体P上に未定着のカラー画像が担持(転写)される。未定着画像T(トナー像)が担持された記録媒体Pは、不図示のガイド板に案内されながら図2の矢印Y10方向に搬送されて、圧接状態にある定着ベルト21及び加圧ローラ31のニップ部に送入される。
そして、発熱部材22(抵抗発熱体)によって加熱された定着ベルト21による加熱と、補強部材23によって補強された固定部材26と加圧ローラ31との押圧力とによって、記録媒体Pの表面にトナー像Tが定着される。その後、ニップ部から送出された記録媒体Pは、矢印Y11方向に搬送される。
【0039】
以下、本実施の形態における定着装置20において特徴的な構成・動作について、詳しく説明する。
図2及び図4を参照して、本実施の形態における定着装置20において、定着ベルト21の内周面に内接又は対向する発熱部材22(抵抗発熱体)は、ニップ部を除き、定着ベルト21の周方向に沿って固設されている。
そして、図4に示すように、発熱部材22には、定着ベルト21に対向する対向面の全部に、導電性を有する薄層22a(導電層)が形成されている。さらに、この薄層22aは、接地(アース)されている。
【0040】
詳しくは、薄層22a(導電層)は、発熱部材22の対向面(外周面)に積層された銅等の良導電性の金属薄膜(銅層)であって、層厚が0.03mm程度になるように発熱部材22の外周面の全域にわたって形成されている。発熱部材22上に薄層22aを形成する製造方法としては、薄板をプライマ等を介して接着する方法や、蒸着する方法、等の種々の方法を用いることができる。
そして、外周面に薄層22a(導電層)が形成された状態の略パイプ状の発熱部材22が、図3及び図6(A)に示すように、導電性材料からなるフランジ29を介して、定着装置20の側板43(導電性金属材料からなり装置本体1において接地されている。)に保持されることで、薄層22aが接地されている。
なお、図6は、図3の定着装置20の一部をA視方向からみた図である。
【0041】
このような構成により、定着ベルト21の走行時においてニップ部に記録媒体Pが通過することによって定着ベルト21に電荷が蓄積されて帯電状態になることなく、定着ベルト21に蓄積される電荷が薄層22aを介して除去(除電)されるために、定着画像に静電オフセット画像やチリ画像等の異常画像が生じてしまう不具合が確実に軽減される。
【0042】
詳しくは、ニップ部を通過する記録媒体P上に担持されたトナー像(未定着画像)の極性に対して、定着ベルト21が逆極性で帯電してしまった場合には、図5中のグラフS0に示すように、定着ベルト21の走行時間が増加するにつれて定着ベルト21の帯電量が増加して、やがて定着画像に静電オフセットと呼ばれる残像が生じてしまうことになる。また、ニップ部を通過する記録媒体P上に担持されたトナー像(未定着画像)の極性に対して、定着ベルト21が同極性で帯電してしまった場合には、図5中のグラフR0に示すように、定着ベルト21の走行時間が増加するにつれて定着ベルト21の帯電量が増加して、やがて定着画像にチリ画像と呼ばれる異常放電による異常画像が生じてしまうことになる。本願発明者が実験により確認したところ、従来の定着装置(発熱部材22に薄層22aが設けられていないものである。)は、走行時に定着ベルト21の帯電電位が+1000V(又は、−1000V)程度まで上昇するのを確認した。
これに対して、本実施の形態では、走行時の定着ベルト21の内周面の一部に摺接する薄層22aを積極的に接地しているため、走行時に定着ベルト21の帯電量が上昇するのを抑えることができる。本願発明者が実験により確認したところ、本実施の形態における定着装置(発熱部材22に薄層22aが設けられているものである。)は、走行時における定着ベルト21の帯電電位の上昇を+350V(又は、−350V)程度までに抑えることができて、静電オフセット画像(又は、チリ画像)の発生が抑止されることを確認した。
【0043】
なお、本実施の形態では、発熱部材22の薄層22aを金属薄膜で形成したが、発熱部材22の薄層22aを発熱部材22の対向面(外周面)に導電性材料をコーティングすることで形成することもできる。具体的には、発熱部材22の外周面に、カーボン粒子を分散したPFA等の低摩擦材料(体積抵抗が10×10+5〜10×10+10Ωcm程度である。)を厚さ10μm程度でコーティングして導電性の薄層22aを形成する。このような場合には、薄層22aと定着ベルト21との摩擦抵抗も低下させることができるため、定着ベルト21の帯電量が軽減されるとともに、定着ベルト21や薄層22aの磨耗劣化も軽減される。
【0044】
また、発熱部材22の薄層22aは、その層厚がなるべく均一になるように形成されることが好ましい。これは、薄層22aの層厚が不均一になると、定着ベルト21に当接する薄層22aとの間に所々で空気層が形成されてしまい、発熱部材22から伝熱されて昇温する定着ベルト21に温度ムラが生じやすくなってしまうためである。すなわち、薄層22aの層厚を均一化することで、定着ベルト21の温度分布を均一化することができて、定着画像に定着ムラが生じにくくなる。
【0045】
なお、本実施の形態では、先に図4を用いて説明したように、固定部材26が非導電性材料(不導体)で形成されている。本実施の形態では、定着ベルト21を積極的に除電するために発熱部材22に薄層22a(導電層)を設けている。固定部材26を導電性材料で形成してしまうと、それを積極的に接地でもしない限り、定着ベルト21に蓄積された電荷が固定部材26にも蓄積されてしまい、薄層22a(導電層)による定着ベルト21の除電効率が低下してしまう可能性がある。これに対して、本実施の形態では、固定部材26が非導電性材料で形成されているために、そのような不具合が生じにくくなる。
また、同じような理由から、補強部材23についても、非導電性材料(不導体)で形成することが好ましいことになる。すなわち、補強部材23を非導電性材料で形成することで、定着ベルト21に蓄積された電荷が固定部材26を介して補強部材23に蓄積されることがないため、薄層22a(導電層)による定着ベルト21の除電効率が低下する不具合が生じにくくなる。
また、このように固定部材26や補強部材23を非導電性材料で形成するときには、その材料として成形性の高い樹脂材料を選択することができるために、それらの形状の自由度を高めることができる。
【0046】
なお、本実施の形態では、図6(A)に示すように、外周面に薄層22a(導電層)が形成された状態の略パイプ状の発熱部材22が、導電性材料からなるフランジ29を介して、定着装置20の側板43(導電性金属材料からなり装置本体1において接地されている。)に保持されることで、薄層22aが間接的に接地されるように構成している。
これに対して、図6(B)に示すように、外周面に薄層22aが形成された発熱部材22が、フランジ29を介して定着装置20の側板43(導電性金属材料からなり装置本体1において接地されている。)に保持されるとともに、薄層22aが側板43の一部(フランジ29に形成した切欠部に嵌合する突出部43aである。)に接触して薄層22aが直接的に接地されるように構成することもできる。このような場合には、フランジ29の導電性の有無に関わらず、薄層22aが接地されることになるため、フランジ29に対する材料選択の自由度が高められることになる。
【0047】
また、本実施の形態では、定着ベルト21に対向する発熱部材23の対向面(外周面)の全部に薄層22a(導電層)を形成した。
これに対して、図7に示すように、定着ベルト21に対向する発熱部材23の対向面の一部にのみ薄層22a(導電層)を形成することもできる。その場合に、薄層22aは、ニップ部に対して上流側(定着ベルト21の走行方向上流側である。)であって走行時の定着ベルト21が発熱部材22に当接する範囲(図7の一点鎖線で示した範囲である。)に形成することが好ましい。これは、先に図4を用いて説明したように、上述した範囲が、走行時に定着ベルト21の張り側(ベルトテンションが大きい側)となって、定着ベルト21が発熱部材22(薄層22a)に確実に接触するためである。これにより、薄層22aが形成される範囲が小さくなって材料費を軽減することができるとともに、定着ベルト21の除電を確実におこなうことができる。具体的に、図7における定着装置20では、発熱部材22の対向面の周方向の範囲をニップ部上流側とニップ部下流側とに2分割して、そのニップ部上流側の範囲にのみ薄層22aを形成している。
【0048】
以上説明したように、本実施の形態においては、ニップ部とは異なる位置で定着ベルト21の内周面に対向する発熱部材22の対向面に、導電性を有する薄層22aを形成して、その薄層22aを接地しているため、ウォームアップ時間やファーストプリント時間が短くて、定着画像に静電オフセット画像やチリ画像等の異常画像が生じにくくなる。
【0049】
なお、本実施の形態では、定着ベルトとして複層構造の定着ベルト21を用いたが、定着ベルトとしてポリイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、金属等からなる無端状の定着フィルムを用いることもできる。そして、その場合にも、本実施の形態と同様の効果を得ることができる。
また、本実施の形態では、加圧回転体として加圧ローラを用いた定着装置に対して本発明を適用したが、加圧回転体として加圧ベルト等を用いた定着装置に対しても本発明を適用することができる。そして、この場合にも、本実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0050】
なお、本発明が本実施の形態に限定されず、本発明の技術思想の範囲内において、本実施の形態の中で示唆した以外にも、本実施の形態は適宜変更され得ることは明らかである。また、前記構成部材の数、位置、形状等は本実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好適な数、位置、形状等にすることができる。
【符号の説明】
【0051】
1 画像形成装置本体(装置本体)、
20 定着装置、
21 定着ベルト(定着部材)、
22 発熱部材(抵抗発熱体)、
23 補強部材、
23a 薄層(導電層)、
24 金属部材、
26 固定部材、
27 断熱部材、
29 フランジ、
31 加圧ローラ(加圧回転体)、
40 温度センサ、 P 記録媒体。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0052】
【特許文献1】特許2008−216928号公報
【特許文献2】特許2008−158482号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に走行してトナー像を加熱して溶融するとともに、可撓性を有する無端状の定着ベルトと、
前記定着ベルトの内周面側に固設されて、当該定着ベルトを介して加圧回転体に圧接して記録媒体が搬送されるニップ部を形成する固定部材と、
前記ニップ部とは異なる位置で前記定着ベルトの内周面に当接又は対向するように前記定着ベルトの周方向に沿って固設されるとともに、前記定着ベルトを加熱する発熱部材と、
を備え、
前記発熱部材は、前記定着ベルトに対向する対向面の一部又は全部に導電性を有する薄層を具備し、前記薄層が直接的又は間接的に接地されたことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記薄層は、前記発熱部材の前記対向面に積層された金属薄膜、又は、前記発熱部材の前記対向面にコーティングされた導電性材料であることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記薄層は、前記ニップ部に対して前記定着ベルトの走行方向上流側であって走行時の前記定着ベルトが前記発熱部材に当接する範囲に形成されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記薄層は、その層厚が均一になるように形成されたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の定着装置。
【請求項5】
前記固定部材は、非導電性材料で形成されたことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の定着装置。
【請求項6】
前記発熱部材の内周面側に固設されて前記固定部材に当接して当該固定部材を補強する補強部材をさらに備え、
前記補強部材は、非導電性材料で形成されたことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の定着装置。
【請求項7】
前記発熱部材は、抵抗発熱体であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の定着装置。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれかに記載の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−37270(P2013−37270A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174876(P2011−174876)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】