説明

定着装置及びそれを備えた画像形成装置

【課題】ローラーから分離後のシートを所定の方向へ確実に案内することが可能な定着装置、およびそれを備えた画像形成装置を提供する。
【解決手段】画像形成装置の定着部60は、加圧ローラー362表面からシートを分離する分離爪61と、分離爪保持機構62とを備えている。分離爪保持機構62は、分離爪61によって加圧ローラー362の表面から分離されたシートを所定の方向へ案内するガイド65と、分離爪61を加圧ローラー362の表面に接触する第1位置から分離爪61と加圧ローラー362との接線方向の後方へ後退できるように案内する案内部72と、分離爪61が第1位置から後退して第3位置に到達したときに分離爪61に当接して後退を阻止するストッパー66とを備えており、分離爪61は、第3位置においてストッパー66および案内部72で支持されることにより、加圧ローラー362の表面に接触した状態で固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート上に形成されたトナー像を該シート上に定着させる定着装置、およびそれを備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
定着装置は、カラープリンターや複写機等の画像形成装置に設けられ、シート上に転写されたトナー像を該シート上に定着させる装置である。定着装置は、基本構成要素として、トナー像をシート上に加熱定着させる定着ローラーと、シートを定着ローラーに加圧する加圧ローラーとを備えている。
【0003】
また、特許文献1に記載されている定着装置は、これらの定着ローラーまたは加圧ローラーに巻き付いたシートをローラーから分離させる分離爪を備えている。
【0004】
分離爪は、定着処理されたシートが定着ローラーまたは加圧ローラーに巻き付いた状態で排出された場合にシートとローラーとの間に入り込むことによって、シートをローラーから分離させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−24645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載の定着装置では、分離爪によって定着ローラーまたは加圧ローラーに巻き付いたシートをローラーから分離させているが、ローラーから分離された直後のシートは不安定であり、シートを所定の搬送経路に沿って確実に搬送することが難しい。
【0007】
また、ローラーの下流側(出口側)には、通常、シートを案内する排出ガイドなどの板状部材が配置されているが、動作中の定着ローラーおよび加圧ローラーはヒーターで加熱されて高温になるので、排出ガイドをこれらのローラーに近づけて配置すれば、熱変形してローラーに接触するおそれがある。そのため、排出ガイドは、これらのローラーに近づけて配置することが難しかった。
【0008】
そこで、本発明は、上記事情に鑑み、ローラーから分離後のシートを所定の方向へ確実に案内することが可能な定着装置、およびそれを備えた画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の定着装置は、シートに接触して当該シートを搬送することが可能な回転体と、前記回転体の表面から前記シートを分離する少なくとも1個の分離爪と、前記分離爪を前記回転体に摺接可能に保持する少なくとも1個の分離爪保持機構とを備えており、前記分離爪保持機構は、前記シートの搬送方向において前記分離爪の下流側に配置され、前記分離爪によって前記回転体の表面から分離された前記シートを所定の方向へ案内する搬送部と、前記分離爪を前記回転体の表面に接触する第1位置と当該表面から離れた第2位置との間で移動できるように支持するとともに前記分離爪を前記第1位置から前記分離爪と前記回転体との接線方向の後方へ後退できるように案内する案内溝を有する案内部と、前記分離爪が前記第1位置から後退して第3位置に到達したときに当該分離爪に当接して前記後退を阻止するストッパーとを備えており、前記分離爪は、前記第3位置において前記ストッパーおよび前記案内部で支持されることにより、前記回転体の表面に接触した状態で固定されることを特徴とする(請求項1)。
【0010】
かかる構成によれば、分離爪によって回転体の表面から分離されたシートを、分離爪保持機構の搬送部によって、所定の方向へ確実に案内することが可能である。しかも、分離爪保持機構がシートを案内する搬送部を有しているので、シートを案内するための他の部材を熱変形などの影響により変形して回転体に接触しないように、当該他の部材が回転体から少し離して配置されていても、分離爪保持機構の搬送部によって確実にシートを案内することが可能である。
【0011】
しかも、分離爪が回転体に接触した状態で第1位置から分離爪と回転体との接線方向の後方へ後退して第3位置に到達したとき、分離爪は、ストッパーおよび案内部の2箇所で支持されることにより、回転体の表面に接触した状態で固定される。これにより、分離爪は、回転体の表面に接触した状態を維持しながら、シートを回転体から確実に分離することが可能である。
【0012】
前記分離爪が前記第1位置と前記第2位置との間で回転移動するための当該分離爪の回転中心は、前記分離爪と前記回転体との接線に対して、前記回転体と反対側に位置していることが望ましい(請求項2)。
【0013】
かかる構成によれば、分離爪の回転中心が分離爪と回転体との接線に対して回転体と反対側に位置しているので、分離爪の先端部が異常な状態で搬送されたシートから分離爪と回転体との接線方向へ押されたとき、その押された力によって生じる分離爪の回転中心まわりのモーメントによって、分離爪の先端部が回転体の表面に押え付けられる。その結果、分離爪の先端部が回転体から離れるおそれがない。
【0014】
複数の前記分離爪のそれぞれは、複数の前記分離爪保持機構によって個別に保持されていることが望ましい(請求項3)。
【0015】
かかる構成によれば、複数の分離爪を分離爪保持機構によって個別に保持するので、分離爪と回転体との距離や分離爪が回転体を押す力などを個別に調整することが可能である。とくに、動作中の回転体が高温になって分離爪およびその周辺部材が熱変形しやすくても、分離爪の個別調整を容易に行うことが可能である。
【0016】
本発明に係る画像形成装置は、シート上にトナー像を形成する画像形成部と、前記トナー像を前記シート上に定着させる定着装置とを含み、前記定着装置として、上記構成の定着装置が用いられている(請求項4)。
【0017】
かかる構成によれば、シートを案内するための他の部材を熱変形などの影響により変形しないようにローラーから離しておいた状態で、分離爪保持機構の搬送部によって、ローラーから分離後のシートを所定の方向へ確実に案内することが可能である。そのため、シートを案内するための他の部材の損傷などを防止することができ、画像形成装置の長寿命化を達成することが可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ローラーから分離後のシートを所定の方向へ確実に案内することができる。また、分離爪は、回転体の表面に接触した状態を維持しながら、シートを回転体から確実に分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る画像形成装置の内部構造を示す断面図である。
【図2】図1の定着部の断面図である。
【図3】図2の定着部の分離爪付近の拡大断面図である。
【図4】図3の分離爪および分離爪保持機構の配置を排出ガイドが閉じた状態で示す斜視図である。
【図5】図3の分離爪および分離爪保持機構の配置を排出ガイドが開いた状態で示す斜視図である。
【図6】図3の分離爪および分離爪保持機構の取付状態を示す分解斜視図である。
【図7】図3の分離爪が加圧ローラーからシートを分離する状態を示す拡大断面図である。
【図8】図3の分離爪が後退してロックされた状態を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態につき詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る画像形成装置1の内部構造を示す断面図である。ここでは、画像形成装置1として複写機を例示するが、画像形成装置は、プリンター、ファクシミリ装置、或いは、これらの機能を備える複合機であってもよい。
【0021】
画像形成装置1は、略直方体形状の筐体構造を有する装置本体10と、装置本体10上に配置される自動原稿給送装置20とを備える。装置本体10の内部には、複写する原稿画像を光学的に読み取る読取ユニット25と、シートに画像形成処理を行う画像形成部30と、画像形成部30へ搬送されるシートを貯留する給紙部40と、シートを給紙部40から画像形成部30を経由してシート排出口10Eまで搬送する搬送経路50と、この搬送経路50の一部を構成するシート搬送路を内部に有する搬送ユニット55とが収容されている。
【0022】
自動原稿給送装置20は、装置本体10の上面に回動自在に取り付けられている。自動原稿給送装置20は、装置本体10における所定の原稿読取位置(第1コンタクトガラス241が組み付けられた位置)に向けて、複写される原稿シートを自動給送する。一方、ユーザーが手置きで原稿シートを所定の原稿読取位置(第2コンタクトガラス242の配置位置)に載置する場合は、自動原稿給送装置20は上方に開けられる。自動原稿給送装置20は、原稿シートが載置される原稿トレイ21と、原稿シートを自動原稿読取位置を経由して搬送する原稿搬送部22と、読取後の原稿シートが排出される原稿排出トレイ23とを含む。
【0023】
読取ユニット25は、装置本体10の上面の自動原稿給送装置20から自動給送される原稿シートの読取用の第1コンタクトガラス241、又は手置きされる原稿シートの読取用の第2コンタクトガラス242を通して、原稿シートの画像を光学的に読み取る。読取ユニット25内には、光源、移動キャリッジ、反射ミラー等を含む走査機構と、撮像素子とが収容されている(図略)。走査機構は、原稿シートに光を照射し、その反射光を撮像素子に導く。撮像素子は、前記反射光をアナログ電気信号に光電変換する。前記アナログ電気信号は、A/D変換回路でデジタル電気信号に変換された後、画像形成部30に入力される。
【0024】
画像形成部30は、トナー画像を生成しこれをシート上に転写する作像部31と、前記トナー像をシートに定着させる定着部60とを含む。定着部60は、本発明の定着装置の一実施例として示されるものである。定着部60の構成については、後段の別項目で詳細に説明する。
【0025】
作像部31は、フルカラーのトナー像を形成するために、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)及びブラック(Bk)の各トナー像を形成する4つのユニット32Y、32M、32C、32Bkを含む画像形成ユニット32と、該画像形成ユニット32の上に隣接して配置された中間転写ユニット33と、中間転写ユニット33上に配置されたトナー補給部34とを含む。
【0026】
各画像形成ユニット32Y、32M、32C、32Bkは、感光体ドラム321と、この感光体ドラム321の周囲に配置された、帯電器322、露光器323、現像装置324、一次転写ローラー325及びクリーニング装置326とを含む。
【0027】
感光体ドラム321は、その軸回りに回転し、その周面に静電潜像及びトナー像が形成される。感光体ドラム321としては、アモルファスシリコン(a−Si)系材料を用いた感光体ドラムを用いることができる。帯電器322は、感光体ドラム321の表面を均一に帯電する。露光器323は、レーザー光源とミラーやレンズ等の光学系機器とを有し、感光体ドラム321の周面に、原稿画像の画像データに基づく光を照射して、静電潜像を形成する。
【0028】
現像装置324は、感光体ドラム321上に形成された静電潜像を現像するために、感光体ドラム321の周面にトナーを供給する。現像装置324は、2成分現像剤用のものであり、攪拌ローラー、磁気ローラー、及び現像ローラーを含む。攪拌ローラーは、2成分現像剤を攪拌しながら循環搬送することで、トナーを帯電させる。磁気ローラーの周面には2成分現像剤層が担持され、現像ローラーの周面には、磁気ローラーと現像ローラーとの間の電位差によってトナーが受け渡されることにより形成されたトナー層が担持される。現像ローラー上のトナーは、感光体ドラム321の周面に供給され、前記静電潜像が現像される。
【0029】
一次転写ローラー325は、中間転写ユニット33に備えられている中間転写ベルト331を挟んで感光体ドラム321とニップ部を形成し、感光体ドラム321上のトナー像を中間転写ベルト331上に一次転写する。クリーニング装置326は、クリーニングローラー等を有し、トナー像転写後の感光体ドラム321の周面を清掃する。
【0030】
中間転写ユニット33は、中間転写ベルト331、駆動ローラー332、従動ローラー333及びテンションローラー334を備える。中間転写ベルト331は、これらローラー332、333、334に架け渡された無端ベルトであって、該中間転写ベルト331の外周面には、複数の感光体ドラム321からトナー像が重ね塗りされる(一次転写)。駆動ローラー332は中間転写ベルト331を周回させるための駆動力が付与されるローラーであり、その周面に対向して二次転写ローラー35が配置されている。駆動ローラー332と二次転写ローラー35とのニップ部は、中間転写ベルト331に重ね塗りされたフルカラーのトナー像をシートに転写する二次転写部35Aとなる。なお、従動ローラー333は、中間転写ベルト331の周回に応じて従動するローラー、テンションローラー334は中間転写ベルト331に所定の張力を付与するローラーである。
【0031】
トナー補給部34は、イエロー用トナーコンテナ34Y、マゼンタ用トナーコンテナ34M、シアン用トナーコンテナ34C、及びブラック用トナーコンテナ34Bkを含む。これらトナーコンテナ34Y、34C、34M、34Bkは、それぞれ各色のトナーを貯留するものであり、YMCBk各色に対応する画像形成ユニット32Y、32M、32C、32Bkの現像装置324に、図略の供給経路を通して各色のトナーを供給する。
【0032】
給紙部40は、画像形成処理が施されるシートを収容する2段の給紙カセット40A、40Bを備える。これら給紙カセット40A、40Bは、装置本体10の前方から手前方向に引出可能である。給紙カセット40A、40Bは、自動給紙用に設けられたカセットであるが、装置本体10の右側面10Rには、手差し給紙用の給紙トレイ46も設けられている。給紙トレイ46は、その下端部において装置本体10に対して開閉自在に取り付けられている。ユーザーは、手差し給紙を行う場合、図示の通り給紙トレイ46を開き、その上にシートを載置する。
【0033】
給紙カセット40A(40B)は、複数のシートが積層されてなるシート束を収納するシート収容部41と、前記シート束を給紙のためにリフトアップするリフト板42とを備える。給紙カセット40A(40B)の右端側の上部には、ピックアップローラー43と、給紙ローラー44とリタードローラー45とのローラー対とが配置されている。ピックアップローラー43及び給紙ローラー44の駆動により、給紙カセット40A内のシート束の最上層のシートが1枚ずつ繰り出され、搬送経路50の上流端へ搬入される。一方、給紙トレイ46に載置されたシートは、同様にピックアップローラー461及び給紙ローラー462の駆動によって、搬送経路50へ搬入される。
【0034】
搬送経路50は、給紙部40から作像部31を経由して定着部60の出口までシートを搬送する主搬送路50Aと、シートに対して両面印刷を行う場合に片面印刷されたシートを作像部31に戻すための反転搬送路50Bと、主搬送路50Aの下流端から反転搬送路50Bの上流端へシートを向かわせるためのスイッチバック搬送路50Cと、主搬送路50Aの下流端から装置本体10の左側面10Lに設けられたシート排出口10Eまでシートを水平方向に搬送する水平搬送路50Dとを含む。
【0035】
主搬送路50Aの、二次転写部35Aよりも上流側には、レジストローラー対51が配置されている。シートは、レジストローラー対51にて一旦停止され、スキュー矯正が行われた後、画像転写のための所定のタイミングで、二次転写部35Aに送り出される。この他、主搬送路50Aには、シートを搬送するための搬送ローラー52が複数配置されている。他の搬送路50B、50C、50Dも同様である。
【0036】
搬送経路50の最下流端には、排紙ローラー53を備えた排紙ユニット530が、搬送ユニット55に隣接して配置されている。排紙ローラー53は、装置本体10の左側面10Lに配置される図略の後処理装置に、シート排出口10Eを通してシートを送り込む。なお、後処理装置が取り付けられない画像形成装置では、シート排出口10Eの下方にシート排出トレイが設けられる。
【0037】
搬送ユニット55は、定着部60から搬出されるシートを、シート排出口10Eまで搬送するユニットである。本実施形態の画像形成装置1は、定着部60(定着装置)が装置本体10の右側面10R(第1側面)側に配置され、シート排出口10Eは、右側面10Rと対向する装置本体10の左側面10L(第2側面)側に配置されている。従って、搬送ユニット55は、装置本体10の右側面10Rから左側面10Lに向けて、シートを水平方向に搬送する。
【0038】
(定着部60の構成)
つぎに、本実施形態の定着部60の構成について説明する。
【0039】
本実施形態の定着部60は、図2に示されるように、定着ベルトを外周に備えた定着ローラー361と、該定着ローラー361に押圧当接されて定着ニップ部を形成する加圧ローラー362と、加圧ローラー362の表面362aからシートPを分離する複数の分離爪61と、それぞれの分離爪61を個別に保持する分離爪保持機構62とを備えている。
【0040】
図2に示される定着部60は、定着ローラー361を加熱するために、コイル91および磁石コア92を備えた誘導加熱ヒーターユニット90を備えている。
【0041】
定着ローラー361および加圧ローラー362は、シートPの両側を挟んで接触しながら当該シートPを搬送する。上記二次転写部35Aにおいてトナー像が二次転写されたシートPは、上記定着ニップ部を通過し、加熱及び加圧されることで、トナー像がシートPの表面に定着される。
【0042】
図3および図6に示されるように、分離爪61は、加圧ローラー362の表面362aに接触する先端部61aと、先端部61aと反対側の端部に設けられた水平方向に延びる一対の円筒状の軸部61bとを備えている。
【0043】
分離爪保持機構62は、分離爪61を加圧ローラー362に摺接可能に保持する機構であり、図3および図6に示されるように、分離爪61を加圧ローラー362の表面362aに向けて付勢するスプリング63と、分離爪61の軸部61bを保持するホルダ64と、分離爪61の下流側でシートPを案内するガイド65とを備えている。
【0044】
ホルダ64は、案内溝67を有する案内部72と、分離爪61の後退距離を規制するストッパー66とを備えている。ホルダ64は、例えば、金属薄板を用いて一体形成されている。また、案内部72の両側には、ホルダ64をフレーム85にネジ止めするためのフランジ64aが設けられている。フレーム85は、加圧ローラー362を支持する。
【0045】
案内部72は、U字状の部分からなり、対向する側壁部分にはそれぞれ案内溝67が形成されている。案内溝67は、下方へ傾斜して延びる第1部分67aと、水平に延びる第2部分67bとを有している。第1部分67aと第2部分67bとは連続して形成されている。案内溝67の後端は、ホルダ64の背面側(図6におけるフレーム85に近い側)に開口している。分離爪61の水平に延びる一対の軸部61bは、ホルダ64の背面側から案内溝67に挿入することが可能である。
【0046】
分離爪61の軸部61bが案内溝67に挿入されることにより、分離爪61は、図7に示されるように、加圧ローラー362の表面362aに接触する第1位置と当該表面362aから上方(図7の矢印D0の方向)に離れた第2位置との間で回転中心O回りに回転移動できるように、ホルダ64の案内部72に支持される。
【0047】
また、案内溝67は、図7〜8に示されるように、分離爪61を図7に示される第1位置から分離爪61と加圧ローラー362との接線S方向の後方へ後退できるように案内することが可能である。具体的には、図7に示されるように、案内溝67の下方に傾斜している第1部分67aは、分離爪61の軸部61bを矢印D2方向へ案内する。矢印D2方向は、接線Sが延びる方向の後方に向いていれば良く、分離爪61と加圧ローラー362との接線Sの延びる方向と異なってもよいし、平行であってもよい。
【0048】
ストッパー66は、図6に示されるように、案内部72における先端側(フランジ64aと反対側)の端部に配置されている。ストッパー66の先端部66aは、斜め前方へ延びている。ストッパー66は、分離爪61の先端部66aが、ジャバラ状などの異常な状態になったシートPに押されてシートPに対して後退して所定の第3位置に到達したとき(図8参照)に、当該分離爪61の当接面61cに当接する。これによって、ストッパー66は、分離爪61の後退を阻止する。
【0049】
スプリング63は、図7に示されるように、圧縮コイルスプリングからなり、上端部63aおよび下端部63bを有している。上端部63aは、分離爪61の上端部の凹部61dに係合している。下端部63bは、ストッパー66の根元部分に係合している。分離爪61は、スプリング63によって加圧ローラー362側へ付勢され、分離爪61の先端部61aが加圧ローラー362aの表面362aから離れることを防止している。
【0050】
ガイド65は、図7に示されるように、背面側(図6におけるフレーム85に近い側)が開放された中空の部材であり、ホルダ64の外側を覆うことが可能な形状を有している。ガイド65の内部には、ホルダ64の案内部72およびストッパー66を収納する空間部71が形成されている。ガイド65におけるホルダ64に対して反対側に外方へ突出した部分65bの先端面には、斜め上方に傾斜する搬送面68が形成されている。搬送面68は、シートPの搬送方向において分離爪61の下流側に配置され、分離爪61によって加圧ローラー362の表面362aから分離されたシートPを図3に示されるように矢印Qの方向に沿って案内する。
【0051】
また、図6に示されるように、ガイド65の突出した部分65bにおいて、搬送面68よりも上方の位置には、分離爪61の上昇を規制する水平に延びる部分69が形成されている。さらに、搬送面68には、分離爪61の先端部61aが収納可能な形状の凹部70が形成されている。
【0052】
ガイド65は、シートPを下流側へ案内する排出ガイド80(図4〜5参照)よりも熱変形しにくい材質または構造が採用されている。そのため、ガイド65は、排出ガイド80よりも加圧ローラー362に近づけて配置することが可能である。ガイド65は、例えば、熱変形に強い樹脂材料などで製造される。また、ガイド65の両側には、ネジ止めのためのフランジ65aが設けられている。
【0053】
分離爪保持機構62は、図4〜6に示されるように、個々の分離爪61を個別に保持するために、加圧ローラー362を回転自在に支持するフレーム85に固定されている。具体的には、ホルダ64の案内溝67に分離爪61の軸部61bが挿入され、さらに、ガイド65をホルダ64の外側に覆いかぶせ、その状態で、ホルダ64およびガイド65の左右に延びるフランジ部64aおよび65aをネジが貫通してフレーム85のネジ孔にねじ込まれることにより、フレーム85の取付面85aに取り付けられる。
【0054】
図4〜5に示されるように、フレーム85に間隔をあけて保持された複数の分離爪61および分離爪保持機構62は、樹脂製の板状部材からなる排出ガイド80の下端部の凹部82の内部にそれぞれ配置される。分離爪保持機構62のガイド65は、排出ガイド80の下端部81よりも加圧ローラー362の表面に近づけて配置されている。
【0055】
上記のように構成された定着部60では、図3に示されるように、分離爪保持機構62が搬送面68を有するガイド65を備えているので、分離爪61によって加圧ローラー362の表面362aから分離されたシートPは、ガイド65の搬送面68によって所定の方向Qへ確実に案内することが可能である。なお、図3の搬送面68のさらに下流側では、アクチュエータ86によってシートPの搬送方向Qが制御される。
【0056】
図7に示されるように、シートPが正常に搬送されている状態では、分離爪61の軸部61bは、ホルダ64の案内部72における案内溝67の前端側内壁67cに接した状態で保持されている。このときには、分離爪61は、シートPから大きな押圧力を受けないので後退せずに現在の位置を維持し、スプリング63の弾性力で加圧ローラー362の表面362aに押し付けられている。したがって、シートPは、この分離爪61によって加圧ローラー362の表面362aから円滑に分離される。
【0057】
一方、図7〜8に示されるように、シートPがジャバラ状などの異常の状態で搬送された状態では、分離爪61は、シートPからシート搬送方向D1に向かって大きな押圧力を受ける。このとき、分離爪61は、案内溝67の第1部分67aに沿って矢印D2の方向へ移動し、シートPに対して後退する。
【0058】
そして、図8に示されるように、分離爪61が第3位置まで後退して、分離爪61の当接面61cがストッパー66の先端部66aに当接したときには、当該先端部66aを回転中心Oとして、分離爪61が矢印D3方向へ回転する。これにより、分離爪61の軸部61bは、案内溝67の上端側内壁67dに当接する。その結果、分離爪61は、図8に示される第3位置において、ストッパー66の先端部66aおよび案内部72の案内溝67の内壁67dの2箇所で支持される。これにより、加圧ローラー362の表面362aに分離爪61の先端部61aが接触した状態で固定される。
【0059】
すなわち、シートPが正常に搬送されている図7に示される状態では、分離爪61は、スプリング63による比較的軽い力で加圧ローラー362に押し付けられているが、シートPが異常になったときには、分離爪61はセルフロック状態になって加圧ローラー362に押し当てられた状態で強固に保持されるので、シートPがジャバラ状などの異常の状態で搬送されても、シートPを加圧ローラー362から確実に分離することが可能である。
【0060】
また、図7に示されるように、分離爪61の回転中心Oは、分離爪61と加圧ローラー362との接線Sに対して、加圧ローラー362と反対側(図7に示される上側)に位置しているので、分離爪61は、加圧ローラー362に対して前のめりの状態で接触することが可能である。そのため、分離爪61の先端部が図8に示されるように異常な状態で搬送されたシートPから分離爪61と加圧ローラー362との接線Sの方向(シート搬送方向D1と同じ方向)へ押圧力を受けたとき、その押圧力によって生じる分離爪61の回転中心Oまわりの矢印D4方向のモーメントによって、分離爪61の先端部61aが加圧ローラー362の表面362aに押え付けられる。
【0061】
(本実施形態の特徴)
(1)
本実施形態の定着装置は、図2〜6に示される定着部60のように、シートPに接触して当該シートPを搬送することが可能な加圧ローラー362と、加圧ローラー362の表面362aからシートPを分離する分離爪61と、分離爪61を加圧ローラー362に摺接可能に保持する分離爪保持機構62とを備えている。そのため、分離爪61によって加圧ローラー362の表面362aから分離されたシートPを、搬送面68を有するガイド65によって所定の方向Qへ確実に案内することが可能である。
【0062】
しかも、分離爪保持機構62がシートPを案内する搬送面68を有するガイド65を有しているので、シートPを案内するための他の部材を熱変形などの影響により変形して加圧ローラー362に接触しないように、排出ガイド80などの他の部材が加圧ローラー362から少し離して配置されていても、分離爪保持機構62の搬送面68を有するガイド65によって確実にシートPを案内することが可能である。
【0063】
(2)
また、図2〜6に示される定着部60では分離爪61が、紙詰まりなどによってシートPからシート搬送方向D1に沿って大きな押圧力を受けたとき、分離爪61が加圧ローラー362に接触した状態で図7に示される第1位置から分離爪61と加圧ローラー362との接線S方向の後方へ後退して図8に示される第3位置まで退避する。このとき、分離爪61は、ストッパー66および案内部72の2箇所で支持されるので、加圧ローラー362の表面362aに接触した状態で固定される。これにより、分離爪61の先端部61aは、加圧ローラー362の表面362aに接触した状態を維持する。その結果、分離爪61によってシートPを加圧ローラー362から確実に分離することが可能である。
【0064】
(3)
また、図2〜6に示される定着部60では、分離爪61が加圧ローラー362の表面362aに接触する第1位置と当該表面362aから離れた第2位置との間で回転移動するための当該分離爪61の回転中心Oは、分離爪61と加圧ローラー362との接線Sに対して、加圧ローラー362と反対側(上側)に位置しているので、分離爪61は、加圧ローラー362に対して前のめりの状態で接触することが可能である。そのため、分離爪61の先端部が図8に示されるように異常な状態で搬送されたシートPから分離爪61と加圧ローラー362との接線Sの方向へ押圧力を受けたとき、その押圧力によって生じる分離爪61の回転中心Oまわりの矢印D4方向のモーメントによって、分離爪61の先端部61aが加圧ローラー362の表面362aに押え付けられる。その結果、分離爪61の先端部61aが加圧ローラー362から離れるおそれがない。
【0065】
(4)
また、図2〜6に示される定着部60では、複数の分離爪61を分離爪保持機構62によって個別に保持されているので、分離爪61と加圧ローラー362との距離や分離爪61が加圧ローラー362を押す力などを個別に調整することが可能である。とくに、動作中の加圧ローラー362が高温になって分離爪61およびその周辺部材が熱変形しやすくても、分離爪61の個別調整を容易に行うことが可能である。
【0066】
(5)
また、本実施形態に係る画像形成装置1は、シートP上にトナー像を形成する画像形成部30と、トナー像をシートP上に定着させる定着部60とを含み、定着部60として、上記構成の定着装置が用いられているので、排出ガイド80などのシートPを案内するための他の部材を熱変形などの影響により変形しないように加圧ローラー362から離しておいた状態で、分離爪保持機構62のガイド65の搬送面68によって、加圧ローラー362から分離後のシートPを所定の方向へ確実に案内することが可能である。そのため、排出ガイド80などのシートPを案内するための他の部材の損傷などを防止することが可能になり、画像形成装置1の長寿命化を達成することが可能である。
【0067】
(変形例)
(A)
なお、上記実施形態では、本発明の定着装置の一例として、複数の分離爪61および分離爪保持機構62をそれぞれ備えた構成を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、少なくとも1個の分離爪61および分離爪保持機構62をそれぞれ備えていれば、上記実施形態のような作用効果を奏することが可能である。
【0068】
(B)
上記実施形態では、加圧ローラー362の表面の近くに分離爪61および分離爪保持機構62が設けられ、分離爪61が加圧ローラー362の表面からシートPを分離する構成を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、定着ローラー361の表面の近くに分離爪61および分離爪保持機構62を設け、分離爪61が定着ローラー361表面からシートPを分離する構成にしてもよく、この場合も上記実施形態と同様の効果を奏することが可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 画像形成装置
30 画像形成部
31 作像部
60 定着部(定着装置)
61 分離爪
61a 先端部
61b 軸部
61c 当接面
62 分離爪保持機構
63 スプリング
64 ホルダ
65 ガイド
66 ストッパー
66a 先端部
67 案内溝
68 搬送面
72 案内部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートに接触して当該シートを搬送することが可能な回転体と、
前記回転体の表面から前記シートを分離する少なくとも1個の分離爪と、
前記分離爪を前記回転体に摺接可能に保持する少なくとも1個の分離爪保持機構と
を備えており、
前記分離爪保持機構は、
前記シートの搬送方向において前記分離爪の下流側に配置され、前記分離爪によって前記回転体の表面から分離された前記シートを所定の方向へ案内する搬送部と、
前記分離爪を前記回転体の表面に接触する第1位置と当該表面から離れた第2位置との間で移動できるように支持するとともに前記分離爪を前記第1位置から前記分離爪と前記回転体との接線方向の後方へ後退できるように案内する案内溝を有する案内部と、
前記分離爪が前記第1位置から後退して第3位置に到達したときに当該分離爪に当接して前記後退を阻止するストッパーと
を備えており、
前記分離爪は、前記第3位置において前記ストッパーおよび前記案内部で支持されることにより、前記回転体の表面に接触した状態で固定される、
ことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記分離爪が前記第1位置と前記第2位置との間で回転移動するための当該分離爪の回転中心は、前記分離爪と前記回転体との接線に対して、前記回転体と反対側に位置している、
請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
複数の前記分離爪のそれぞれは、複数の前記分離爪保持機構によって個別に保持されている、
請求項1または2に記載の定着装置。
【請求項4】
トナー画像を生成し、当該トナー画像をシート上に転写する作像部と、
前記トナー像を前記シート上に定着させる定着部と、
を備え、
前記定着部として、請求項1から3のいずれかに記載の定着装置が用いられている画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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