説明

定着装置及び画像形成装置

【課題】抵抗発熱層における傷等の異常が生じたことを精度よく的確に検出する。
【解決手段】抵抗発熱層を有する加熱ベルトの周面に加圧ローラーを押圧してニップ部を形成し、ニップ部に、未定着画像が形成された記録シートを通過させて熱定着させる定着装置において、加熱ベルトの外周面を、回転軸方向に沿って分割された複数の領域の温度をそれぞれ測定する温度センサーが設けられている。制御部は、加熱ベルトを回転させて抵抗発熱層に所定の電力を供給した状態で、各領域のそれぞれ毎に、加熱ベルトの外周面の温度を周方向の全周にわたって測定できるタイミングで温度センサーの測定温度をサンプリングし(S11)、サンプリングされた測定温度の最大値と最小値との差に基づいて、抵抗発熱層に周方向に沿った異常が生じているかを判定する(S12〜S15)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録シート上に形成された未定着画像を加熱して記録シートに定着させる定着装置、及び、そのような定着装置を備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンター、複写機等の電子写真方式の画像形成装置では、画像データーに対応したトナー画像を記録紙、OHPシート等の記録シートに転写した後に定着装置で定着する構成になっている。定着装置は、記録シート上のトナー画像を加熱して加圧することにより記録シートに定着する。
特許文献1には、ハロゲンヒーター等の加熱手段によって加熱される加熱ローラーの表面温度を、赤外線センサーによって検出して所定温度に制御する定着装置が開示されている。この定着装置では、赤外線センサーが、加熱ローラーの軸方向に沿って移動可能な状態で配置されており、加熱ローラーの軸方向における複数位置の表面温度を、1つの赤外線センサーによって検出して、測定された表面温度のバラつきに基づいて、ハロゲンヒーター等の加熱手段を制御する構成になっている。
【0003】
また、近年、定着装置の加熱手段には、通電によって発熱する抵抗発熱体を用いる方式が採用されることもある。この方式では、例えば、周回移動(回転)する加熱ベルトに抵抗発熱体を設けて、加熱ベルトの外周面と加圧ローラーとを押し付けて定着ニップを形成し、記録シートが定着ニップを通過するように構成される。
加熱ベルトに設けられた抵抗発熱体には、加熱ベルトの周回移動方向とは直交する幅方向(回転軸方向)の両側の端部間に電力が供給されるようになっている。抵抗発熱層は、幅方向に沿って電流が流れることによりジュール熱を発生する。抵抗発熱層に発生した熱は、定着ニップを通過する記録シートに与えられる。これにより、記録シート上のトナー画像が加熱されて定着される。
【0004】
このような定着装置では、熱源である加熱ベルトの熱容量が小さいために、ウォームアップ時間を短くすることができる。しかも、加熱ベルトの抵抗発熱層から記録シートまでの距離が短いために、抵抗発熱層に生じた熱を効率よく記録シートに与えることができる。従って、ウォームアップ時および定着動作時の両方においてエネルギーの消費量を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−227732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
抵抗発熱層を有する加熱ベルトを用いた定着装置では、ジャム発生時における不適切なジャム処理、記録シートに付着した異物等によって、加熱ベルトに設けられた抵抗発熱層が損傷するおそれがある。抵抗発熱層に生じた損傷が加熱ベルトの周方向(抵抗発熱層での電流が流れる方向(加熱ベルトの幅方向)に対して交差する方向)に沿った状態になっていると、損傷部の周辺部において局所的な高温状態になる。
【0007】
これは、以下の理由による。すなわち、抵抗発熱層に周方向に沿った損傷が生じると、損傷部の周辺において電流は加熱ベルトの幅方向に沿って流れることができず、損傷部を迂回するように流れる。これにより、抵抗発熱層における周方向の両側の端部の周辺部において局所的に電流が集中し、それぞれの端部の周辺部において電流密度が増加する。その結果、損傷部の両側の端部の周辺部が過熱状態になって、局所的な高温状態になる。
【0008】
このように、加熱ベルトが局所的に高温になると、高温オフセット等の画像ノイズが発生するおそれがある。また、加熱ベルトの周方向に沿って長い損傷が生じると、損傷部の両側の端部の周辺部において電流密度がさらに上昇し、異常高温状態になるおそれがある。この場合には、加熱ベルトに圧接された加圧ローラーの表面が溶融する等のダメージを受ける可能性がある。
【0009】
このために、加熱ベルトの抵抗発熱層に傷等の損傷が生じたことを検出して、画像ノイズの発生、加圧ローラーの損傷等を未然に防止することが好ましい。
前述したように、抵抗発熱層に生じた周方向の傷の場合、傷の両側の端部の周辺部において局所的に高温になることから、局所的に高温になった部分を検出することができれば、抵抗発熱層に傷が生じていると判定することができる。
【0010】
例えば、特許文献1に記載された赤外線センサーは、対向する加熱ベルトの表面部分における一定の範囲(加熱ベルトの幅方向における一か所の一定面積の範囲)を測定領域として、その測定領域内の平均温度を検出するようになっている。このような赤外線センサーによって、回転状態になった加熱ベルトの表面に対して測定領域を全周にわたって相対的に移動させる間に、所定のサンプリングタイミングによって得られた測定温度の平均値が、予め設定された閾値温度よりも高温になっていれば、測定領域内において抵抗発熱層に損傷が生じていると判定することができる。
【0011】
しかし、この場合、赤外線センサーは、一定面積の測定領域内の温度を平均化して検出するために、抵抗発熱層に生じた傷の両側の端部の周辺部において局所的に閾値温度以上の高温になっていても、サンプリングタイミングにおける赤外線センサーの測定領域が、局所的な高温部分に対して広くなっていると、そのサンプリングタイミングでの測定領域の測定温度(平均温度)は、局所的な高温部分の実際の温度よりも低くなり、加熱ベルトの表面の全周にわたる平均温度が所定の閾値以上にならないおそれがある。この場合には、抵抗発熱層に損傷が生じているにもかかわらず、損傷を検出できない。
【0012】
さらに、抵抗発熱層に損傷部が生じていることを検出できた場合にも、周方向に沿った損傷部の長さについては不明である。このために、抵抗発熱層に生じた損傷部の周方向に沿った長さが短く、加圧ローラーにダメージを与えるおそれがないような場合に、定着動作が停止されることによって、画像形成装置の使用が制限されるおそれがある。
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、抵抗発熱層における傷等の異常が生じたことを、高精度で的確に判定することができる定着装置を提供することにある。本発明の他の目的は、そのような定着装置を有する画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明に係る定着装置は、抵抗発熱層を有する加熱回転体の外周面に加圧部材を押圧してニップ部を形成し、当該ニップ部に、未定着画像が形成された記録シートを通過させて熱定着させる定着装置であって、前記加熱回転体の外周面を回転軸方向に沿って分割して得られる複数の領域のそれぞれの温度を測定する温度測定手段と、前記加熱回転体を回転させて前記抵抗発熱層に所定の電力を供給した状態で、前記複数の領域のそれぞれ毎に、前記加熱回転体の外周面の温度を全周にわたって測定できるタイミングで前記温度測定手段の測定温度をサンプリングして、サンプリングされた測定温度の最大値と最小値との差に基づいて、前記抵抗発熱層に周方向に沿った異常が生じていることを判定する異常判定手段と、を有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る画像形成装置は、前記定着装置を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の画像形成装置では、加熱回転体の外周面の温度を周方向の全周にわたって測定できるタイミングで温度測定手段による測定温度をサンプリングし、サンプリングされた測定温度の最大値と最小値との差に基づいて、抵抗発熱層に周方向に沿った異常が生じていることを判定しているために、抵抗発熱層に周方向に沿った異常が発生していることを高精度で的確に判定することができる。
【0016】
好ましくは、前記異常判定手段は、前記最大値と最小値との差が、予め設定された所定値以上になっている場合に、前記異常が生じていると判定することを特徴とする。
好ましくは、前記異常判定手段は、前記所定の電力を供給した状態で異常が生じていると判定されない場合に、所定の電力よりも大きい電力を供給した状態で、前記温度測定手段による前記各領域のそれぞれの温度を再度サンプリングして、サンプリングされた測定温度の最大値と最小値との差に基づいて異常が生じていることを判定することを特徴とする。
【0017】
好ましくは、前記異常判定手段は、前記加熱回転体を、定着動作を実行する場合の回転速度よりも低下させた状態で回転させて、前記温度測定手段による前記各領域の温度のサンプリングを実行することを特徴とする。
好ましくは、前記異常判定手段は、定着動作の実行時に異常が生じていることを判定することを特徴とする。
【0018】
好ましくは、前記異常判定手段は、定着動作の実行時以外に、前記抵抗発熱層に供給される電力量を、定着動作の実行時に供給される電力量よりも増加させた状態で、異常が生じていることを判定することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る画像形成装置の一例であるプリンターの構成を説明するための模式図である。
【図2】図1に示すプリンターに設けられた定着装置における主要部の構成を説明するための模式的な斜視図である。
【図3】図2に示す定着装置における主要部の構成を説明するための模式的な横断面図である。
【図4】図2に示す定着装置に設けられた加熱ベルトの周回移動方向とは直交する方向である幅方向(回転軸方向)の一方の端部の縦断面図である。
【図5】図2に示す定着装置を制御する制御系の主要部の構成を説明するためのブロック図である。
【図6】図5に示す制御部によって実行される異常判定制御の処理手順を示すフローチャートである。
【図7】(a)および(b)は、異常判定制御に使用される温度センサーの1つの測定領域において、加熱ベルトの周方向に沿って短い傷および長い傷のそれぞれが生じた場合における測定温度のサンプリングタイミングの一例を示す模式図、(c)は、(a)および(b)に示されたそれぞれの傷の周辺部分の温度を示すグラフである。
【図8】本発明の他の実施形態における異常判定制御の処理手順を示すフローチャートである。
【図9】本発明のさらに他の実施形態における異常判定制御の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[実施形態1]
以下、本発明に係る定着装置を備えた画像形成装置の実施形態について説明する。
<画像形成装置の概略構成>
図1は、本発明の実施の形態に係る画像形成装置の一例であるプリンターの構成を説明するための模式図である。このプリンターは、ネットワーク(例えばLAN)を介して外部の端末装置等から入力される画像データー等に基づいて、周知の電子写真方式により、モノクロの画像を、記録用紙、OHPシート等の記録シートに形成する。
【0021】
図1に示すプリンターは、矢印Aで示す方向に回転駆動される感光体ドラム11を有しており、感光体ドラム11の周囲には、電子写真方式によってトナー画像を記録シートS上に形成するための帯電装置12、露光装置13、現像装置14、転写ローラー15が、回転方向の上流側から下流側にかけて順番に設けられている。
帯電装置12は、感光体ドラム11の最上部に対して回転方向下流側の位置に対向するように配置されており、回転される感光体ドラム11の表面を一様に帯電する。
【0022】
帯電装置12によって一様に帯電された感光体ドラム11の表面は、露光装置13から照射されるレーザー光Lにて露光される。
露光装置13にはレーザーダイオードが設けられており、外部機器から入力される画像データーが、図示しない制御部によってレーザーダイオードの駆動信号に変換され、その駆動信号によって、露光装置13のレーザーダイオードが駆動される。これにより、露光装置13からは画像データーに対応したレーザー光Lが感光体ドラム11の表面に照射され、感光体ドラム11の表面上に静電潜像が形成される。
【0023】
露光装置13からレーザー光Lが照射される感光体ドラム11の表面位置に対して、感光体ドラム11の回転方向下流側に対向する位置には、現像装置14が配置されている。この現像装置14は、感光体ドラム11の表面に形成された静電潜像をトナーによって現像する。これにより、感光体ドラム11の表面上の静電潜像はトナー画像として可視化される。
【0024】
現像装置14の下方には、記録用紙、OHPシート等の記録シートSを複数枚収容できる記録シートカセット21が設けられている。また、感光体ドラム11の下方には、記録シートカセット21内の記録シートSを1枚ずつ繰り出す給紙ローラー22が設けられている。給紙ローラー22によって記録シートカセット21から繰り出された記録シートSは、給紙ローラー22の上方に位置する感光体ドラム11に向けて搬送される。
【0025】
給紙ローラー22と感光体ドラム11との間には、タイミングローラー対23が設けられている。タイミングローラー対23は、記録シートカセット21から繰り出された記録シートSを、感光体ドラム11の回転に同期して感光体ドラム11の表面に接するように搬送する。
感光体ドラム11の側方には転写ローラー15が設けられている。転写ローラー15は、感光体ドラム11に圧接されており、感光体ドラム11の回転に追従して矢印Bで示す方向に回転する。転写ローラー15と感光体ドラム11との間には転写ニップが形成されており、記録シートSは、タイミングローラー対23によって、感光体ドラム11の回転に同期して転写ニップへ搬送される。
【0026】
転写ニップを通過する記録シートSには、転写ローラー15に印加された転写電圧によって生成された転写電界の作用により、感光体ドラム11上に形成されたトナー画像が転写される。トナー画像が転写された記録シートSは、剥離爪16によって感光体ドラム11から剥離されて定着装置30へ搬送される。
定着装置30では、記録シートS上の未定着のトナー画像が加熱されて記録シートSに加圧される。これにより、トナー画像が記録シートS上に定着される。トナー画像が定着された記録シートSは、排紙ローラー24によって、排紙トレイ19上に排出される。
【0027】
感光体ドラム11の上方には、クリーナー17が配置されており、トナー画像が転写された後の感光体ドラム11の表面に残留するトナーが、クリーナー17によって除去される。クリーナー17によって残留トナーが除去された感光体ドラム11の表面は、イレーサー18によって残留電荷が消去されるようになっている。残留電荷が消去された感光体ドラム11は、次の画像形成指示によって、帯電装置12にて表面が帯電され、その後、上述した動作と同様の動作が繰り返されることにより、記録シート上にトナー画像を形成する。
【0028】
<定着装置の構成>
図2は、定着装置30における主要部の構成を説明するための模式的な斜視図、図3は、その模式的な横断面図である。なお、定着装置30では、図1に示すように、記録シートは、下方から上方に向って通過するが、図2においては記録シートの通過方向が、紙面の手前側から奥側になるように、図3においては紙面の右側から左側になるように、定着装置30をそれぞれ示している。
【0029】
図2および図3に示すように、定着装置30は、加圧部材としての加圧ローラー32と、加圧ローラー32に外周面が押圧された状態で回転(周回移動)するように配置された加熱ベルト31と、加熱ベルト31の回転域(周回移動域)の内部に配置されて加熱ベルト31の内周面を押圧する定着ローラー33とを備えている。
加熱ベルト(加熱回転体)31には、電力が供給されることによって発熱する抵抗発熱層31b(図4参照)が設けられている。加熱ベルト31は、抵抗発熱層31bが発熱することによって加熱状態になり、加熱状態で周回移動する。
【0030】
加熱ベルト31は、例えば、周回移動方向と直交する回転軸方向(幅方向)の長さが、加圧ローラー32の外周面における軸方向長さにほぼ等しく、また、加圧ローラー32の直径よりも若干大きな直径を有する円筒形状になっている。加熱ベルト31と加圧ローラー32とは、それぞれの回転軸同士が平行な状態で、加熱ベルト31の外周面と加圧ローラー32の外周面とが相互に圧接されている。加熱ベルト31と加圧ローラー32とは、相互に圧接されることによって、記録シートSが通過する定着ニップNを形成している。
【0031】
図4は、加熱ベルト31の周回移動方向とは直交する方向である軸方向の一方の端部の横断面図である。加熱ベルト31は、例えば、ポリイミド(PI)によって一定の厚さの円筒形状に構成された補強層31aを有しており、補強層31aの外周面上には、抵抗発熱層31bが全周にわたって積層されている。
抵抗発熱層31bは、軸方向の両側の端部における外周面上に、抵抗発熱層31bに対して通電するための電極部31gがそれぞれ全周にわたって設けられている。各電極部31gは、それぞれ、定着ニップNよりも軸方向の両側(外側)に配置されている。各電極部31gの外周面には、各電極部31gに対して電力を供給する給電部材37がそれぞれ導電状態で圧接されている。
【0032】
両電極部31gの間に位置する抵抗発熱層31bの外周面には、弾性層31cが積層されており、この弾性層31cの外周面上に離型層31dが積層されている。
図2に示すように、給電部材37のそれぞれには、商用の交流電源34から供給される交流電力が電力調整部35によって所定の電力に調整されて、ハーネスを介して供給されるようになっている。
【0033】
各給電部材37は、例えば、カーボン粉と、銅粉等の粉体を混合して焼成した導電ブラシによって構成されている。各給電部材37は、加熱ベルト31が回転することによって、それぞれが圧接された電極部31gに摺接する。これにより、相互に圧接された給電部材37と、電極部31gとの導電状態が維持される。
なお、各給電部材37としては、導電ブラシに限るものではなく、電極部31gとの摺接によって導電状態を維持できる構成になっていればよい。例えば、給電部材37を、金属等の導電体で構成してもよく、また、絶縁体等の表面にCu、Ni等をメッキした構成とすることも可能である。さらに、各給電部材37は、周回移動する電極部31gのそれぞれに接触した状態で回転するローラー等のような回転体としてもよい。
【0034】
加熱ベルト31には、加圧ローラー32が圧接された外周面の位置から、周方向に180度離れた外周面に対向して、加熱ベルト31の外周面の温度を測定する温度センサー36が設けられている。温度センサー36は、対向する加熱ベルト31の外周面の温度を、幅方向の全域を複数の領域に分割した場合におけるそれぞれの領域毎に、個別に測定できるように構成されている。
【0035】
温度センサー36は、例えば、複数のサーモパイルを直線状に配列して集積化したマルチアレイサーモパイルを有しており、個々のサーモパイルの配列方向が加熱ベルト31の幅方向に沿うように、加熱ベルト31の表面(外周面)における幅方向の中央部に対向して設けられている。
温度センサー36は、集積化された複数のサーモパイルのそれぞれの測定領域36aが、加熱ベルト31における幅方向の両側の各電極部31gを除く外周面上において、それぞれほぼ等しい面積で、加熱ベルト31の幅方向全域に亘って隙間なく並ぶように、加熱ベルト31の表面から所定の距離をあけて配置されている。温度センサー36の各サーモパイルは、加熱ベルト31の外周面における所定面積の測定領域36aの全体の平均温度を測定する。温度センサー36によって測定される加熱ベルト31の表面温度は、加熱ベルト31に損傷等の異常が生じていることを検出するため、および、加熱ベルト31の表面温度が所定値になるように制御するために使用される。
【0036】
温度センサー36における各サーモパイルの測定領域36aは、加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに生じた損傷等の異常を、その発生位置にかかわらずに検出するために、加熱ベルト31の両電極部31g間の幅方向のほぼ全域にわたって連続している必要がある。この場合、隣接する測定領域36aの端部同士が相互に重なった状態になっていてもよく、また、隣接する測定領域36aの端部同士が重なることなく接した状態になっていてもよい。
【0037】
なお、温度センサー36における各サーモパイルの測定領域36aの数は、特に限定されるものではなく、加熱ベルト31の幅方向長さ、各測定領域36aの面積、必要とされる測定精度等に基づいて、適宜、設定される。測定領域36aの個数は、通常、5〜20個程度である。
また、温度センサー36としては、複数のサーモパイルが集積化されたマルチサーモパイルアレイを用いる構成に限らず、サーモパイル単体を、加熱ベルト31の幅方向に沿って並べる構成としてもよい。さらに、測定領域36aが多くなる場合には、サーモパイルの個数を増加してもよく、あるいは、所定個数のサーモパイルをそれぞれ有する複数のマルチサーモパイルアレイを加熱ベルト31の幅方向に沿って並べて使用してもよい。
【0038】
なお、温度センサー36として、複数のマルチアレイサーモパイルを用いる構成の場合には、個々のサーモパイルの視野角が広いことから、マルチアレイサーモパイルの個数を減らすことができる。これにより、温度センサー36を小型化することができ、省スペース化が可能である。
温度センサー36としては、サーモパイル、マルチアレイサーモパイルを用いる構成に限らず、サーモグラフィを用いる構成等であってもよい。いずれの場合にも、温度センサー36は、定着ニップNを形成する加熱ベルト31の外周面の温度を幅方向の全域にわたって検出できる複数の測定領域を有している。
【0039】
なお、温度センサー36として、サーモパイル、マルチアレイサーモパイル、サーモグラフィのいずれを用いる場合、加熱ベルト31の表面に対向して固定した状態で、加熱ベルト31の表面における温度を幅方向の所定範囲にわたって測定できる。従って、温度センサー36を移動させる機構を設ける必要がなく、温度センサー36を移動させる機構の故障等による信頼性が低下するおそれがない。
【0040】
また、温度センサー36を加熱ベルト31の表面に対向して固定する構成に代えて、例えば、1つのサーモパイルを、加熱ベルト31の幅方向に沿って移動させる構成、あるいは、1つのサーモパイルの測定範囲が加熱ベルト31の幅方向に沿って往復移動するようにサーモパイルを揺動(首振り運動)させる構成としてもよい。
さらに、1つのサーモパイルを加熱ベルト31の周辺において固定して、加熱ベルト31の幅方向に沿って照射される光が、固定されたサーモパイルに向けて反射されるように構成してもよい。この場合には、例えば、反射鏡を高速で移動させる反射装置を用いることができる。このように、反射鏡を高速で移動させる反射装置を用いることによって、温度センサー36自体を高速で移動させる場合に比べて簡潔な構成とすることができ、反射装置の故障等の発生を抑制することができる。
【0041】
加熱ベルト31における補強層31a上に設けられた抵抗発熱層31bは、耐熱性樹脂に、導電性フィラーおよび高イオン導電体粉末を一様に分散させて所定の円筒形状に成型されたものであり、全周にわたって一様な電気抵抗率に調整されている。
抵抗発熱層31bを構成する耐熱性樹脂としては、PI(ポリイミド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)等が使用されるが、PIが最も耐熱性に優れているために好ましい。なお、本実施形態では、PIを用いている。
【0042】
導電性フィラーとしては、電気抵抗率が低い(導電性が高い)金属材料の粉末と、電気抵抗率が高い(導電性が低い)炭素化合物粉末とを用いることが好ましい。高イオン導電体粉末としては、ヨウ化銀(AgI)、ヨウ化銅(CuI)等の無機化合物中の高イオン導電体粉末を用いることが好ましい。金属材料の粉末としては、Ag、Cu、Al、Mg、Ni等の金属材料の微粒子が好適である。炭素化合物粉末としては、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノファイバ、カーボンナノチューブが好適である。
【0043】
高イオン導電体粉末は、抵抗発熱層31bの機械的強度を低下させるおそれはないが、高イオン導電体粉末および高抵抗の炭素化合物粉末だけでは、商用電源を用いた500〜1500W程度の電力を使用する定着装置の場合に、抵抗発熱層31bの電気抵抗率を所定の発熱量になるように調整することが容易でない。このために、低抵抗の金属粉末も用いられる。このように、金属粉末と、炭素化合物粉末と、高イオン導電体粉末とを用いることにより、機械的強度を低下させることなく、抵抗発熱層31bを所定の電気抵抗率に容易に調整することができる。
【0044】
なお、低抵抗の金属粉末、高抵抗の炭素化合物粉末、高イオン導電体粉末のそれぞれは、2種類以上の材料によって構成してもよい。
また、低抵抗の金属粉末、高抵抗の炭素繊維粉末、高イオン導電体粉末のそれぞれは、繊維状になっていることが好ましい。金属粉末、炭素繊維粉末、高イオン導電体粉末のそれぞれが繊維状になっていることによって、それぞれが接触する確率が高くなり、パーコレーションしやすくなるためである。
【0045】
高イオン導電体粉末としてヨウ化銀(AgI)またはヨウ化銅(CuI)を用いると、抵抗変化率が大きく変化して急激に抵抗値が低下する温度(相転移点)が存在するために、非通紙領域における過昇温を防止する効果は顕著になる。AgIの場合、相転移点は、通常147℃であるが、AgIの粒径に依存するために、粒径が小さいほど低温にすることができる。CuIの場合も同様である。
【0046】
従って、定着温度に応じて、AgIまたはCuIとして混合する材料の粒径を適宜選択することにより、所定の相転移点とすることができる。特に、材料の粒径が小さい場合には、硝酸銀(AgNO)水溶液、ヨウ化ナトリウム(NaI)水溶液および銀イオン伝導性の有機ポリマーであるPVP(Poly-N−vinyl-2-pyrrolidone)の水溶液を、常温および常圧下において、混合、ろ過、乾燥するという簡便な方法によって、AgIまたはCuIを合成することができる。また、溶液の濃度、混合手順を変更することによって、10nm〜50nmの範囲で、異なるサイズのナノ粒子とすることができる。
【0047】
金属粉末の粒径は、0.01〜10μm程度が好ましく、このような粒径とすることにより、高抵抗である炭素化合物粉末および高イオン導電体粉末は、全体にわたって線状に絡み合い、全体として均一な電気抵抗率を有する抵抗発熱層31bとすることができる。
耐熱性樹脂中に分散される導電性フィラーは、耐熱性樹脂に対して、低抵抗の金属粉末が、50〜300重量%、高抵抗の炭素化合物粉末および高イオン導電体粉末は、5〜100重量%であることが好ましい。金属粉末、炭素化合物粉末、高イオン導電体粉末のそれぞれは、いずれも、300重量%よりも多くなると、抵抗発熱層31bの電気抵抗率が低下しすぎるおそれがあり、50重量%よりも少なくなると、抵抗発熱層31bの電気抵抗率が高くなりすぎるおそれがある。このように、300重量%よりも多くなる場合および50重量%よりも少なくなる場合のいずれにおいても、所定の体積抵抗率に調整することは容易でないので、50〜300重量%とすることが好ましい。
【0048】
抵抗発熱層31bの厚さは、任意であるが、5〜100μm程度が好ましい。
抵抗発熱層31bの電気抵抗率は、抵抗発熱層31bに供給される電力、印加される電圧、抵抗発熱層31bの厚さ、定着ローラー33の直径および軸方向長さ等に基づいて、任意に設定されるが、好ましくは、1.0×10−6〜1.0×10−2Ω・m程度、より好ましくは、1.0×10−5〜5.0×10−3Ω・m程度である。
【0049】
なお、抵抗発熱層31bの体積抵抗率を調整するために、金属合金、金属間化合物等の導電性粒子を適宜混入してもよい。また、抵抗発熱層31bの機械的強度を向上させるために、ガラスファイバー、ウィスカ(金属の針状単結晶)、酸化チタン、チタン酸カリウム等を混入してもよい。
さらに、抵抗発熱層31bの熱伝導率を向上させるために、窒化アルミニウム、アルミナ等を混入してもよい。
【0050】
また、抵抗発熱層31bを安定的に製造するために、イミド化剤、カップリング剤、界面活性剤、消泡剤等を混入してもよい。
抵抗発熱層31bは、例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを有機溶媒中で重合して得られるポリイミドワニスに導電性フィラーを均一に分散させた状態で、円柱形状の金型に塗布してイミド転化させることによって製造することができる。
【0051】
加熱ベルト31の弾性層31cは、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の高耐熱性の弾性体によって構成されている。本実施形態では、弾性層31cとしてシリコーン(Si)ゴムを用いている。
加熱ベルト31の離型層31dは、PFA(ポリテトラフルオロエチレン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン(4フッ化)樹脂)、ETFE(4フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂)等のフッ素系チューブ、フッ素系コーティング等によって、離型性が付与されている。離型層31dの厚さは、5〜100μm程度が好ましい。フッ素系チューブとしては、三井・デュポンフロロケミカル株式会社製の商品名「PFA350−J」、「451HP−J」、「951HP Plus」等が好適である。
【0052】
離型層31dは、定着ニップNを通過する際に接触した記録シートSが容易に剥離されるような剥離性を有している。
この離型層31dは、例えば、水との接触角が90°以上、好ましくは110°以上であって、表面粗さRaが0.01〜50μm程度が好ましい。離型層31dは、導電性であってもよい。本実施形態では、離型層31dとしてPFAを用いている。
【0053】
補強層31a、抵抗発熱層31b、弾性層31cおよび離型層31dのそれぞれは、所定の厚さになっており、これらによって構成された加熱ベルト31は、加圧ローラー32が圧接されていない状態で、所定の直径の円筒形状を維持する剛性を有している。加熱ベルト31は、加圧ローラー32が圧接されることによる定着ローラー33の変形に追従して、加圧ローラー32の外周面に沿った湾曲状態に変形する。
【0054】
なお、加熱ベルト31は、上述したような4層構造に限るものではなく、抵抗発熱層31bと離型層31dとの2層構造であってもよい。また、いずれの場合にも、絶縁のためにPI、PPS等の樹脂層をさらに設ける構成であってもよい。なお、いずれの場合にも、抵抗発熱層31bは、離型層31dよりも内周側に位置していればよい。
各電極部31gを構成する導電体は、例えば、Cu、Al、Ni、真鍮、リン青銅等の金属を、抵抗発熱層31bに対して直接、化学メッキあるいは電気メッキすることによって形成することができる。
【0055】
なお、各電極部31gを金属のメッキによって形成する場合は、2種類の金属によってメッキすることが好ましい。例えば、抵抗発熱層31bに対して、Cuを、直接、化学メッキした後に、Cu上にNiを電気メッキすることによって各電極部31gを形成することができる。
また、各電極部31gは、このような構成に限定されず、Cu、Ni等の金属箔を、導電性接着剤により、抵抗発熱層31b上に接着することによって形成してもよい。
【0056】
さらには、抵抗発熱層31b上に、導電性インク、導電性ペーストを塗布することによって各電極部31gを形成してもよい。また、導電性テープを、抵抗発熱層31bに貼り付けることによっても、各電極部31gを形成することができる。
加熱ベルト31の周回移動域内に設けられた定着ローラー33は、軸心部に設けられた芯金33aと、芯金33aの外周面に積層された弾性層33bとを有している。芯金33aの両側の各端部は、弾性層33bの両側の端部からそれぞれ外側に突出した状態になっている。
【0057】
芯金33aは、一定の直径の軸体に、直径が10〜30mm程度のアルミニウム、鉄等の金属製の円柱体(中実体または中空体)が嵌合された構成になっており、軸体の両側の各端部は、円柱体における軸方向の両側の各端部からそれぞれ突出している。弾性層33bは、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の耐熱性に優れた弾性材料によって構成されている。弾性層33bの軸方向長さは、加熱ベルト31の軸方向長さにほぼ等しくなっている。
【0058】
加圧ローラー32は、芯金32aと、芯金32aの外周面に積層された弾性層32bと、弾性層32bの外周面に積層された離型層32cとを有している。加圧ローラー32の外径は、20〜100mm程度になっている。
加圧ローラー32の芯金32aは、定着ローラー33の芯金33aと同様に、一定の直径の軸体に、直径が10〜30mm程度のアルミニウム、鉄等の金属製の円柱体が嵌合された構成になっている。弾性層32bは、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の高耐熱性の弾性体によって、1〜20mm程度の厚さになっている。
【0059】
離型層32cは、PFA(ポリテトラフルオロエチレン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン(4フッ化)樹脂)、ETFE(4フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂)等のフッ素系チューブ、フッ素系コーティング等の記録シートに対する離型性を有する材料によって構成されており、例えば、5〜100μm程度の厚さになっている。なお、離型層は、トナーのオフセットを防止するために導電性であってもよい。
【0060】
加圧ローラー32は、定着ローラー33に平行な状態で、図示しない付勢手段(例えば引っ張りバネ)によって、加熱ベルト31に向って付勢されている。これにより、加圧ローラー32の外周面が、加熱ベルト31の外周面に圧接されて、加熱ベルト31が定着ローラー33に押し付けられている。加熱ベルト31と加圧ローラー32との圧接部には、記録シートSが通過する定着ニップNが形成されている。
【0061】
加圧ローラー32は、図2に示すように、定着モーター38によって、図2に矢印D1で示す方向に回転駆動されるようになっている。加熱ベルト31は、加圧ローラー32と定着ローラー33とに圧接されていることにより、加圧ローラー32の回転に追従して、図2に矢印D2で示す方向に回転(周回移動)する。加熱ベルト31に圧接された定着ローラー33は、加熱ベルト31の回転に追従して同じ方向に回転する。
【0062】
なお、定着装置30は、加圧ローラー32を回転駆動させる構成に代えて、定着ローラー33を定着モーター38によって回転させる構成としてもよい。あるいは、加圧ローラー32および定着ローラー33の両方を定着モーター38によって回転させる構成としてもよい。
定着ニップNには、加圧ローラー32および加熱ベルト31が回転された状態で、しかも、交流電源34から電力調整部35を介して供給される電流によって加熱ベルト31が加熱された状態で、記録シートSが搬送される。記録シートSは、定着ニップNを通過する間に、加熱状態になった加熱ベルト31によって加圧および加熱されることにより、当該記録シートS上の未定着のトナー画像が定着される。
【0063】
<定着装置の動作>
このような構成の定着装置では、プリントジョブの実行が指示されると、定着モーター38が駆動されて、加圧ローラー32が回転される。これにより、加熱ベルト31が周回移動(回転)される。また、交流電源34の交流電力が、電力調整部35によって調整されて、両給電部材37間に印加される。これにより、抵抗発熱層31bに所定の電力が供給される。なお、加熱ベルト31が回転されていない状態では、交流電源34の交流電力は、両給電部材37には印加されない。
【0064】
両給電部材37に電力が印加される場合、一方の給電部材37に供給される電流が、当該給電部材37に圧接された電極部31gから抵抗発熱層31bを通って他方の電極部31gおよび給電部材37に流れる。これにより、抵抗発熱層31bは発熱し、加熱ベルト31の全体が発熱状態になる。
加熱ベルト31が所定の表面温度に発熱した状態になると、加熱ベルト31と加圧ローラー32とが圧接された定着ニップNに、トナー画像が転写された記録シートSが搬送される。そして、記録シートSが定着ニップNを通過する間に、記録シートS上のトナー画像が加熱および加圧されることによって、記録シートS上に定着される。
【0065】
このような定着動作の間に、温度センサー36によって検出される加熱ベルト31の幅方向中央部の表面温度に基づいて、交流電源34から各給電部材37に供給される電力量が、電力調整部35によって調整されて、加熱ベルト31は、所定の定着温度とされる。
また、温度センサー36のそれぞれのサーモスタットによってそれぞれの測定領域36a毎に測定される加熱ベルト31の表面温度に基づいて、加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに、傷等の異常が発生していることを判定する異常判定制御が実行される。
【0066】
<制御系の構成>
図5は、定着装置30を制御する制御系の主要部の構成を説明するためのブロック図である。定着装置30は、プリンター全体を制御する制御部60によって制御される。なお、制御部60は、定着装置30に設けられていてもよい。
制御部60には、定着装置30に設けられた温度センサー36の出力が与えられている。また、制御部60は、各給電部材37に供給される電力量を調整する電力調整部35、加圧ローラー32を回転させて発熱ベルト31を周回移動させる定着モーター38のそれぞれを制御するように構成されている。
【0067】
なお、温度センサー36からは、それぞれの測定領域36a毎に測定された加熱ベルト31の表面温度を出力しており、制御部60は、それぞれの測定領域36a毎に出力された測定温度に基づいて、加熱ベルト31における傷等の異常が生じているかを判定するようになっている。制御部60は、異常判定制御の結果、加熱ベルト31に、傷等の異常が生じていると判定された場合には、操作パネル(図示せず)に設けられた液晶ディスプレイ等の表示装置28に判定結果を表示するようになっている。
【0068】
また、制御部60は、温度センサー36における所定のサーモパイルによって、加熱ベルト31の幅方向中央部の表面温度を検出し、検出された表面温度に基づいて、加熱ベルト31が予め設定された所定の温度になるように、電力調整部35を制御するようになっている。これにより、各給電部材37を介して抵抗発熱層31bに供給される電力量が調整されて、加熱ベルト31の表面温度が所定の温度とされる。
【0069】
なお、温度センサー36によって検出される加熱ベルト31の表面温度が、予め設定された異常高温状態になった場合には、加熱ベルト31に対する電力の供給が停止されるように、制御部60は、電力調整部35を制御する。加熱ベルト31に対する電力の供給を停止する場合の加熱ベルト31の表面温度は、加熱ベルト31の寸法、材料等によって異なるが、通常、260℃以上の高温である。
【0070】
なお、温度センサー36によって検出される加熱ベルト31の表面温度に基づいて、交流電源34から各給電部材37に供給される電力量を電力調整部35によって調整する構成に限らず、例えば、温度センサー36とは別に、加熱ベルト31の幅方向の中央部における表面温度を検出する温度センサーを設けて、その温度センサーの検出結果に基づいて電力調整部35を制御して、各給電部材37に供給される電力量を調整する構成としてもよい。
【0071】
<異常判定制御>
図6は、制御部60によって実行される加熱ベルト31の異常判定制御の処理手順を示すフローチャートである。異常判定制御は、予め設定された所定のタイミングで実行される。異常判定制御の実行タイミングは、プリント動作が実行されている場合、プリント動作が実行されていない場合のどちらでもよい。
【0072】
なお、異常判定制御をプリント動作中以外に実行する場合には、プリント動作中と同様に、定着モーター38を駆動して、加圧ローラー32の回転により加熱ベルト31を回転させるとともに、加熱ベルト31の表面温度が、通常(普通紙)の定着動作時と同様になるように、電力調整部35を制御する。
異常判定制御が開始されると、制御部60は、温度センサー36における全てのサーモパイルのそれぞれ毎に、加熱ベルト31が1回転または複数回転する間に、一定の間隔で複数回にわたるタイミングで測定温度をサンプリングする(図6のステップS11参照、以下同様)。この場合、各サーモパイルの個々のサンプリングタイミング時における測定領域36aが、加熱ベルト31の周方向に一部が重なった状態で、加熱ベルト31の外周面の全周(1周)にわたって連続するように設定される。1つのサーモパイルにおけるサンプリング回数は、例えば、加熱ベルト31の1回転当たり、5〜10回程度である。
【0073】
なお、加熱ベルト31の1回転当たりのサーモパイルによる測定温度のサンプリング回数は、加熱ベルト31が1回転する毎に、加熱ベルト31の外周面における測定領域36aが周方向にずれた状態になるように設定することが好ましい。このように設定することにより、加熱ベルト31が1回転する毎に、測定領域36aによって測定される加熱ベルト31の表面位置が異なるために、ノイズの影響を抑制することができ、加熱ベルト31の全周における影響温度状況を高精細に検出することができる。
【0074】
それぞれのサーモパイル毎に、所定回数の測定温度のサンプリングが終了すると、サンプリングされた全ての測定温度から最大値(最高温度)Tmaxおよび最小値(最低温度)Tminをそれぞれのサーモパイル毎に抽出する(ステップS12)。
次いで、それぞれのサーモパイル毎に、抽出された測定温度の最大値Tmaxと最小値Tminとの温度差ΔTを演算する(ステップS13)。全てのサーモパイルに対して、測定温度の最大値Tmaxと最小値Tminとの温度差ΔTが演算されると、演算されたそれぞれの温度差ΔTが、第1閾値Ta以上になっているか否かを判定する(ステップS14)。
【0075】
この場合の第1閾値Taは、加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに、加熱ベルト31の周長に対して20%(加熱ベルト31の周長が100mmの場合には20mm)の長さの傷が生じている場合に、測定領域36aを加熱ベルト31に対して相対的に移動させて全周にわたってサーモパイルによる測定温度をサンプリングしたときに得られた実際の測定温度における最高温度と最低温度との差(20℃程度)に設定されている。
【0076】
ステップS14における温度差ΔTと第1閾値Taとの比較の結果、全てのサーモパイルにおいて、温度差ΔTが第1閾値Taよりも小さい場合には(ステップS14において「NO」)、そのサーモパイルの測定領域36aが加熱ベルト31の表面を相対的に移動した範囲内において、加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに、加熱ベルト31における周長の20%未満の短い傷が生じているか、または、傷が生じていないと判定する。この場合には、そのまま、異常判定制御を終了する。
【0077】
このように、抵抗発熱層31bに生じた傷が加熱ベルト31における周長の20%未満の短い長さの場合、または、傷が生じていない場合には、加熱ベルト31の表面温度は、加圧ローラー32が損傷するような高温状態になるおそれがないために、定着動作を継続して実行しても、加圧ローラー32が損傷するおそれがない。従って、警告等を表示することなく異常判定制御を終了することによって、プリント動作を継続して実行できる状態とする。
【0078】
これに対して、ステップS14において、いずれかのサーモパイルの温度差ΔTが第1閾値Ta以上になっている場合には(ステップS14において「YES」)、加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに、そのサーモパイルの測定領域36aが加熱ベルト31の表面を相対的に移動した範囲内において、加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに、加熱ベルト31の周長の20%以上の長い傷が生じていると判定し、そのような長い傷が生じていることを、操作パネルに設けられた表示部28に表示する(ステップS15)。この場合、プリント動作を禁止する必要があることも同時に表示する。
【0079】
なお、抵抗発熱層31bに、加熱ベルト31における周長の20%以上の長い傷が生じていると判定される場合には、給電部材37を介して加熱ベルト31に電力が供給されないように電力調整部35を制御する構成、あるいは、加熱ベルト31への電力の供給の停止と、定着モーター38の回転の停止とを同時に行って、定着動作を禁止する構成としてもよい。この場合には、プリント動作を禁止する必要があることの表示に代えて、プリント動作が禁止されたことを表示部28に表示すればよい。
【0080】
このように、抵抗発熱層31bに、加熱ベルト31の周長の20%以上の長い傷が生じていると判定される場合に定着動作を禁止する構成とすることにより、加熱ベルト31が局所的に高温になることによって加圧ローラー32が損傷することを確実に防止することができる。
次に、温度センサー36の全てのサーモパイル毎に、抽出された測定温度の最大値Tmaxと最小値Tminとの温度差ΔTに基づいて、加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに、所定長さ以上の傷が生じていることを判定できる理由について説明する。
【0081】
加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに、加熱ベルト31の周方向に沿った傷が発生した場合、傷が発生した部分では、電流は、加熱ベルト31の幅方向に沿って流れることができず、その傷を迂回するように電流が流れる。これにより、傷の両側の端部(周方向の両側の各端部)の周辺部における電流量が増加し、それぞれの端部の周辺部の発熱量が増加する。その結果、傷の両側の端部の周辺部では、中央部の周辺部よりも高温になる。
【0082】
図7(a)および(b)は、温度センサー36における1つのサーモパイルの測定領域36aが周方向に移動する範囲において、加熱ベルト31の周方向に沿った短い傷Kaと長い傷Kbとがそれぞれ生じた場合に、短い傷Kaおよび長い傷Kbのそれぞれを測定領域内に含むサーモパイルによって所定のタイミングで測定温度をサンプリングした場合の模式図である。
【0083】
なお、加熱ベルト31の周回移動方向(回転方向)は、矢印D1で示す方向になっている。また、短い傷Kaおよび長い傷Kbは、回転方向下流側に位置する端部が加熱ベルト31の幅方向に揃った状態になっている。但し、それぞれの傷KaおよびKbは、加熱ベルト31の周長の約30%(加熱ベルト31の周方向長さが100mmの場合には約30mm)よりも長くなっている
図7(c)は、(a)および(b)に示された短い傷Kaおよび長い傷Kbのそれぞれの周辺部における加熱ベルト31の実際の表面温度を示すグラフである。なお、図7(c)における実線(細線)は、短い傷Kaの周辺部における温度を示しており、一点鎖線(太線)は、長い傷Kbの周辺部における温度を示している。
【0084】
図7(c)に示すように、加熱ベルト31は、傷KaおよびKbのそれぞれの長手方向両側の各端部の周辺部において最も高温になり、長手方向の中央部の周辺部において最も低温になっている。
図7(c)に示すように、傷KaおよびKbのそれぞれが測定領域36a内に位置するサーモパイルは、5回のタイミング(第1番目〜第5番目のサンプリングタイミングSP1、SP2、SP3、SP4、SP5)で測定領域36a内の測定温度をサンプリングしている。この場合、第3番目のサンプリングタイミングSP3における測定領域36aの中心が、短い傷Kaの長手方向の中央に一致している。
【0085】
第1番目〜第5番目の各サンプリングタイミングSP1、SP2、SP3、SP4、SP5におけるそれぞれの測定領域36aを、図7(a)および(b)のそれぞれに示している。なお、図7(a)において、短い傷Kaにおける第1〜第5番目のサンプリングタイミングでのそれぞれの測定領域36aを、RA1、RA2、RA3、RA4、RA5として示し、図7(b)において、長い傷Kbにおける第1〜第5番目のサンプリングタイミングでのそれぞれの測定領域36aを、RB1、RB2、RB3、RB4、RB5として示している。
【0086】
また、第1〜第5番目の測定領域RA1、RA2、RA3、RA4、RA5における測定温度(それぞれの測定領域における全体の平均温度)を、それぞれ、TA1、TA2、TA3、TA4、TA5とし、図7(c)のグラフにおいて△印で示している。また、第1〜第5番目の測定領域RB1、RB2、RB3、RB4、RB5における測定温度(それぞれの測定領域における全体の平均温度)を、それぞれ、TB1、TB2、TB3、TB4、TB5とし、図7(c)のグラフにおいて×印で示している。
【0087】
第1番目のサンプリングタイミングSP1に対応した第1測定領域RA1は、短い傷Kaにおける回転方向下流側の端部の周辺部の局所的に高温になった領域(図7(a)および図7(c)に破線で示す高温領域AHa)を含んでいるが、高温領域AHaとは周方向にずれた状態になっており、この高温領域AHaよりも低い温度の領域を広く含んでいる。これにより、その測定温度TA1(第1測定領域RA1の平均温度)は、高温領域AHaの実際の温度よりも低くなっている。この測定温度TA1は、例えば、200℃程度になっている。
【0088】
次の第2番目のサンプリングタイミングSP2に対応した第2測定領域RA2も、短い傷Kaにおける回転方向下流側の端部の周辺部の高温領域AHaを含んでいるが、高温領域AHaよりも低い温度の領域を広く含んでいるために、その測定温度TA2(第2測定領域RA2全体の平均温度)も、高温領域AHaにおける実際の温度よりも低くなっている。
【0089】
さらに、短い傷Kaにおける長手方向の中央部を含む第3番目のサンプリングタイミングSP3に対応した第3測定領域RA3では、局所的に低温になった領域(低温領域ALa)を含んでいるが、第3測定領域RA3が低温領域ALaよりも高温になった領域を広く含んでいるために、その測定温度TA3(第3測定領域RA3の平均温度)は、実際の低温領域ALaの温度よりも高く、例えば、160℃になっている。但し、この場合、第3測定領域RA3の中心位置が、短い傷Kaにおける長手方向の中央部に一致していることにより、第3測定領域RA3は、低温領域ALaとの温度差が小さな周囲の領域を広く含んでいるために、測定温度TA3と実際の温度との差は小さくなっている。
【0090】
第4番目のサンプリングタイミングSP4に対応した第4測定領域RA4は、短い傷Kaにおける回転方向上流側の端部の周辺部の高温領域AHaを含んでいるが、高温領域AHaよりも低い温度の領域を広く含んでいることから、第2測定領域RA2における測定温度TA2と同程度の測定温度TA4になっている。
さらに、第5番目のサンプリングタイミングSP5に対応した第5測定領域RA5においても、短い傷Kaにおける回転方向上流側の端部の高温領域AHaを含んでいるが、高温領域AHaよりも低い温度の領域を広く含んでいることから、第1測定領域RA1における測定温度TA1と同程度の測定温度TA5(200℃程度)になっている。
【0091】
この場合、第1サンプリングタイミングSP1での測定温度TA1(高温領域AHaを含む第1測定領域RA1の平均温度)が最高温度(最大値)Tmaxになっている。また、第3サンプリングタイミングSP3での測定温度TA3(低温領域を含む第3測定領域RA3の平均温度)が最低温度(最小値)Tminになっている。最高温度Tmax(=TA1)と最低温度Tmin(=TA3)との温度差ΔTAは、40℃程度になっている。
【0092】
長い傷Kbの場合も同様であり、長い傷Kbにおける回転方向下流側の端部周辺部の高温領域AHbを含む第1番目のサンプリングタイミングSP1時の測定領域RB1の測定温度TB1は、例えば、220℃程度の高温になっている。
第2番目のサンプリングタイミングSP2に対応した測定領域RB2(高温領域AHbを含む)の測定温度TB2は、傷Kbにおける端部から中央部の低温領域ALbにかけて順次低温になっている部分を含んでいることから、測定温度TB1よりも低くなっている(例えば160℃)。
【0093】
さらに、長い傷Kbにおける長手方向の中央部の低温領域ALbを含む第3番目のサンプリングタイミングSP3に対応した測定領域RB3では、低温領域ALbよりも高い温度の領域を広く含んでいることから、測定温度TB2よりも低い測定温度TB3(例えば160℃)になっている。なお、長い傷Kbにおける長手方向の中央部周辺部の低温領域ALbの実際の温度は、140℃程度である。
【0094】
第4番目のサンプリングタイミングSP4に対応した測定領域RB4は、長い傷Kbにおける回転方向中央部周辺部である低温領域ALbを含んでいるが、この低温領域ALbよりも高い温度の領域を広く含んでいることから、低温領域ALbよりも高い温度になっている。
第5番目のサンプリングタイミングSP5に対応した測定領域RB5(高温領域AHbを含む)においては、第1番目のサンプリングタイミングSP1における測定温度TB1と同程度の測定温度TB5(220℃程度)になっている。
【0095】
この場合、第1番目のサンプリングタイミングSP1での測定温度TB1(高温領域AHbを含む第1測定領域RB1における平均温度)が最高温度(最大値)Tmaxになっており、また、第3番目のサンプリングタイミングSP3での測定温度TB3(第3測定領域RB3における平均温度)が最低温度(最小値)Tminになっている。最高温度Tmax(=TB1)と最低温度Tmin(=TB3)との温度差ΔTBは、60℃程度になっている。
【0096】
このように、傷の周辺部における局所的な高温領域(AHaおよびAHb)と低温領域(ALaおよびALb)とのそれぞれの温度差(ΔTAおよびΔTB)は、加熱ベルト31の周方向長さが長い傷Kbの方が、短い傷Kaよりも大きくなる(ΔTB>ΔTA)。これは、長い傷の場合、短い傷の場合よりも、電流の迂回量が大きくなるために、中央部における電流密度がより低くなるとともに、両側の端部における電流密度が高くなるからである。
【0097】
このことから、それぞれのサーモパイルの測定領域36aが、加熱ベルト31の全周にわたって相対的に移動する間にサンプリングされた測定温度における最大値Tmaxと最小値Tminとの温度差(ΔTA、ΔTB)が予め設定された所定の温度以上になっている場合には、加熱ベルト31の周方向に沿った所定の長さ以上の傷による局所的な高温領域(AHaおよびAHb)および低温領域(ALaおよびALb)が生じているものとして、抵抗発熱層31bに所定の長さ以上の傷が生じていると判定することができる。
【0098】
通常、加熱ベルト31の周長の30%程度の長さ(加熱ベルト31の周方向長さが100mmの場合には30mm程度)の傷の場合には、加圧ローラー32に損傷を与える可能性がある。このことから、本実施形態では、加熱ベルト31の周長の20%程度の長さ(加熱ベルト31の周方向長さが100mmの場合には20mm程度)の傷に対応した温度差(20℃程度)以上になっている場合には、加圧ローラー32に損傷を与えるおそれのある傷が生じているものと判定するようにしている。
【0099】
なお、測定領域36aは、傷Ka、Kbの長手方向の両側の端部の周辺部における高温領域AHa、AHbよりも広く、高温領域AHaよりも低い温度の領域を広く含んでいる。このために、傷の端部周辺部の高温領域(AHa、AHb)を含んだ測定領域(RA1およびRA5、RB2およびRB5)の測定温度(TA1およびTA5、TB2およびTB5)は、当該測定領域の全体の平均温度になることによりに、高温領域(AHa、AHb)における実際の温度よりも低くなる。
【0100】
このことから、例えば、第1〜第5番目のサンプリングタイミングSP1〜SP5のそれぞれの第1〜第5の測定領域RA1〜RA5、RB1〜RB5における測定温度TA1〜TA5、TB1〜TB5の最高温度(TA1、TB5)が、予め設定された所定の閾値温度以上になっている場合に傷Ka、Kbが生じていると判定する構成にすると、閾値温度の設定によっては、傷Ka、Kbが生じていることを正確に判定できないおそれがある。
【0101】
本実施形態では、測定温度TA1〜TA5、TB1〜TB5の最高温度に基づいてではなく、最高温度と最低温度との温度差ΔTに基づいて、周方向の長さが所定値以上の傷が生じていることを判定しているために、周方向の長さが所定値以上の傷が生じていることを、的確に検出することができる。
なお、第1閾値Taは、加熱ベルト31における抵抗発熱層31bの物性、寸法等によって変化するために、実験等に基づいて、適宜、設定される。
【0102】
また、本実施形態では、異常判定制御をプリント動作中以外に実行する場合には、上述したように、加熱ベルト31が普通紙に対する定着動作を実行する際の定着温度になるように、抵抗発熱層31bに対して電力を供給する構成としたが、このような構成に代えて、抵抗発熱層31bに供給される電力量を、普通紙に対する定着動作を実行する場合よりも増加させた状態で異常判定制御を実行するようにしてもよい。
【0103】
この場合には、抵抗発熱層31bに傷が生じている場合に、所定のタイミングでサンプリングされた測定温度における最大値と最小値との温度差が、上記の説明の場合よりも大きくなるために、所定の長さ以上の傷を、さらに精度よく検出することができる。なお、この場合には、第1閾値Taは、上記の場合とは異なった値になり、抵抗発熱層31bに供給される電力量に基づいて設定される。
【0104】
さらに、この場合には、ステップS14において、加熱ベルト31の周長の20%以上の長さの傷が生じていないと判定された場合には(ステップS14において「NO」)、その後に、ステップS13にて得られた温度差ΔTに基づいて、比較的短い傷が生じていることを判定する処理を実行するようにしてもよい。
この場合には、ステップS13にて得られた温度差ΔTは、第1閾値Taよりも低温であり、しかも、抵抗発熱層31bに供給される電力のリップル等の影響によって生じる加熱ベルト31表面の温度ムラ(温度差)によって傷が生じているものと誤判定されない第2閾値Tbと比較される。この第2閾値Tbは、例えば、抵抗発熱層31bに、加熱ベルト31の周長の10%程度の周方向に沿った傷が形成された場合に、傷を含む周辺部の全周にわたる表面の実際の温度における最高温度と最低温度との差(10℃程度)に設定されている。
【0105】
従って、ステップS13にて得られた温度差ΔTが第2閾値Tb以上になっている場合には、抵抗発熱層31bに、加熱ベルト31の周長の10%程度の周方向に沿った傷が生じていると判定することができる。この場合、抵抗発熱層31bに供給される電力のリップル等の影響によって生じる加熱ベルト31表面の温度ムラ(温度差)が発生しても、その温度ムラによっては、抵抗発熱層31bに傷が生じていると誤って判定するおそれがない。
【0106】
[実施形態2]
図8は、本実施形態2における異常判定制御の処理手順を示すフローチャートである。本実施形態2の異常判定制御も、実施形態1における異常判定制御と同様に、プリント動作中、プリント動作中以外のいずれにおいても、実行することができる。
本実施形態の異常判定制御では、まず、前記実施形態1と同様に、記録シートSとして厚紙でない普通紙を用いたプリント時の定着動作を実行する場合に加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに供給される電力と同様の電力が加熱ベルト31に供給されるように、電力調整部35を制御した状態として、加熱ベルト31を回転させる。そして、実施形態1と同様のサンプリングタイミングで、全てのサーモパイルのそれぞれの測定温度をサンプリングする(図8のステップS21参照、以下同様)。
【0107】
なお、記録シートSとして普通紙を用いたプリント動作中に異常判定制御を実行する場合には、電力調整部35は、定着動作のために必要とされる電力を加熱ベルト31に供給するために、特に、電力調整部35を調整する必要はない。
次いで、制御部60は、図6に示すフローチャートのステップS12〜S14と同様に、それぞれのサーモパイル毎に、サンプリングされた測定温度の最大値Tmaxと最小値Tminとを抽出して(ステップS22)、抽出された最大値Tmaxと最小値Tminとの温度差ΔTを演算し(ステップS23)、演算された温度差ΔTを、予め設定された所定の温度である第1閾値Taと比較する(ステップS24)。この第1閾値Taは、実施形態1における第1閾値Taと同じである。
【0108】
いずれかのサーモパイルにおいて、温度差ΔTが第1閾値Ta以上になっている場合には(ステップS24において「YES」)、実施形態1と同様に、そのサーモパイルの測定領域36aが加熱ベルト31の表面を相対的に移動した範囲内において、加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに、加熱ベルト31の周長の20%以上の長い傷が生じていると判定し、そのような長い傷が生じていることを、操作パネルに設けられた表示部28に表示する(ステップS25)。
【0109】
これに対して、ステップS24にて得られた温度差ΔTと第1閾値Taとの比較の結果、温度差ΔTが第1閾値Taよりも小さい場合には(ステップS24において「NO」)、抵抗発熱層31bに加熱ベルト31の周長の20%未満の傷が生じているかを判定する処理が実行される。
このために、まず、加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに供給される電力が、記録シートSとして普通紙を用いた定着動作時よりも増加するように、電力調整部35を制御する。このような状態で、ステップS21と同様のサンプリングタイミングで、全てのサーモパイルの測定温度をサンプリングする(ステップS26)。この場合、例えば、普通紙に対するトナー画像を定着させる場合よりも、20%程度、電力が増加した状態とされる。
【0110】
なお、プリント動作を実行中に異常判定制御が実行されている場合には、プリントジョブが終了した時点で、このステップS26以降、ステップS30までの処理が実行される。
次いで、ステップS22〜S24と同様に、それぞれのサーモパイル毎に、サンプリングされた測定温度の最大値Tmaxと最小値Tminとを抽出して(ステップS27)、抽出された最大値Tmaxと最小値Tminとの温度差ΔTを演算し(ステップS28)、演算された温度差ΔTを、予め設定された所定の温度である第2閾値Tbと比較する(ステップS29)。この第2閾値Tbは、実施形態1において説明した第2閾値Tbと同様であり、抵抗発熱層31bに、加熱ベルト31の周長の10%程度の周方向に沿った傷が形成された場合に、傷を含む周辺部の全周にわたる表面の実際の温度における最高温度と最低温度との差(10℃程度)に設定されている。
【0111】
ステップS29における比較の結果、温度差ΔTが第2閾値Tb未満の場合には(ステップS29において「NO」)、抵抗発熱層31bに傷が生じていないと判定し、そのまま、異常判定制御を終了する。
これに対して、温度差ΔTが第2閾値Tb以上の場合には(ステップS29において「YES」)、加圧ローラー32に損傷を与えるおそれがない程度の小さな傷が生じているものと判定して、定着動作を実行しても加圧ローラーにダメージを与えるおそれのない小さな傷(加熱ベルト31の周長の10%程度の長さの傷)が加熱ベルト31に生じていることを、操作パネルに設けられた表示部28に表示する(ステップS30)。これにより、抵抗発熱層31bに小さな傷が発生していることによって、将来的に加圧ベルト32にダメージを与えるような傷になる可能性あることをユーザに知らせることができる。なお、この場合には、通常の定着動作を実行しても問題はないために、定着動作を禁止する必要はない。
【0112】
このように、加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに供給される電力を増加させた状態で、各サーモパイルにおける測定温度の最大値Tmaxと最小値Tminとの温度差ΔTを第2閾値Tbと比較することにより、抵抗発熱層31bに供給される電力のリップルの影響によって生じた温度差により傷が生じていることを誤判定するおそれがない。従って、加熱ベルト31における周長の10%未満の短い傷を正確に検出することができる。
【0113】
なお、本実施形態2においては、ステップS29において、加熱ベルト31の周長の10%程度の長さの傷が抵抗発熱層31bに生じていると判定された場合には(ステップS29において「YES」)、さらに、普通紙に対する定着動作を実行する場合よりも抵抗発熱層31bに供給される電力量が増加した場合に、その増加した電力量によっては、抵抗発熱層31bに生じた傷による加熱ベルト31の温度上昇により加圧ローラー32に対してダメージを与えるおそれがあるかを判定する処理を追加してもよい。
【0114】
この場合には、ステップS28で得られた温度差ΔTを第3閾値Tcと比較する。この第3閾値Tcは、抵抗発熱層31bに供給される電力量が、普通紙に対する定着動作時よりも20%程度増加すると、抵抗発熱層31bに生じた傷の周辺部における高温領域の温度が、加圧ローラー32に対してダメージを与えるおそれがあると判定することができる温度差(例えば15℃程度)に設定される。
【0115】
このような温度差では、例えば、加熱ベルト31における周方向長さの15%以上の長さの傷が生じており、厚紙に対する定着動作を実行するために抵抗発熱層31bに供給される電力量を増加させると、加圧ローラー32に対してダメージを与えるおそれがある。このために、表示部28には、厚紙によるプリント動作の禁止が表示される。この場合には、厚紙によるプリント動作が実行できないように構成してもよい。
【0116】
[実施形態3]
図9は、本実施形態3における異常判定制御の処理手順を示すフローチャートである。本実施形態3の異常判定制御は、プリント動作が実行されていない間に実行される。
本実施形態3の異常判定制御では、まず、加熱ベルト31の回転速度(周回移動速度)を、プリント動作時よりも低速になるように、定着モーター38を制御する(図9のステップS10参照、以下同様)。そして、図6のフローチャートに示すステップS11〜S15と同様の処理手順によって、全てのサーモパイルの測定温度を所定のタイミングでサンプリングし、サンプリングされた測定温度の最大値Tmaxと最小値Tminとの温度差ΔTに基づいて、加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに所定の長さ以上の傷が生じているかを判定して、所定の長さ以上の傷が生じている場合に、そのことを表示部28に表示する。
【0117】
ステップS11〜S15の一連の処理が終了すると、ステップS16に進み、加熱ベルト31の回転速度が、プリント動作時における通常モードになるように、定着モーター38を制御して、異常判定制御を終了する。
本実施形態3では、異常判定制御を、加熱ベルト31の回転速度(周回移動速度)が、通常のプリント動作時よりも低速にして行っているために、温度センサー36の全てのサーモパイルにおける測定温度を、実施形態1の場合と同じタイミングでサンプリングすると、加熱ベルト31の1回転(1周)当たりのサンプリング回数は、実施形態1の場合よりも増加する。これにより、加熱ベルト31の表面温度を、全周にわたって高密度で測定することができ、抵抗発熱層31bに傷が生じていることの判定、および、傷の長さの判定を高精度で実行することができる。
【0118】
[変形例]
なお、上記の実施形態では、定着ローラー33と加熱ベルト31とをそれぞれ別体として、加熱ベルト31の周回移動域内に定着ローラー33を配置する構成としたが、このような構成に限らず、定着ローラー33の外周面に抵抗発熱層31bを一体的に設けることによって加熱回転体を構成してもよい。
【0119】
さらには、加熱ベルト31に加圧手段としての加圧ローラー32を圧接させて定着ニップNを形成する構成であったが、定着ニップNを形成するための加圧手段は、加圧ローラー32に限らずベルトを用いてもよい。さらには、加圧手段は、加圧ローラー32、ベルト等のように回転している必要がなく、固定的に設けられた加圧部材等を用いてもよい。
さらに、上記の実施形態では、定着装置30の電源として、商用の交流電源を用いる構成であったが、直流電源を用いる構成であってもよい。
【0120】
また、本発明に係る画像形成装置は、モノクロ画像を形成するプリンターに限るものではなく、タンデム型等のカラープリンターであってもよい。さらには、プリンターに限らず、複写機、複合機(MFP)、FAX等(いずれの場合にも、カラー画像用、モノクロ画像用のいずれであってもよい)にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、電流が流れることによって発熱する抵抗発熱層に異常が生じたことを的確に検出する技術として有用である。
【符号の説明】
【0122】
30 定着装置
31 加熱ベルト
31a 補強層
31b 抵抗発熱層
31c 弾性層
31d 離型層
31g 電極部
32 加圧ローラー
33 定着ローラー
34 交流電源
37 給電部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗発熱層を有する加熱回転体の外周面に加圧部材を押圧してニップ部を形成し、当該ニップ部に、未定着画像が形成された記録シートを通過させて熱定着させる定着装置であって、
前記加熱回転体の外周面を回転軸方向に沿って分割して得られる複数の領域のそれぞれの温度を測定する温度測定手段と、
前記加熱回転体を回転させて前記抵抗発熱層に所定の電力を供給した状態で、前記複数の領域のそれぞれ毎に、前記加熱回転体の外周面の温度を全周にわたって測定できるタイミングで前記温度測定手段の測定温度をサンプリングして、サンプリングされた測定温度の最大値と最小値との差に基づいて、前記抵抗発熱層に周方向に沿った異常が生じていることを判定する異常判定手段と、
を有することを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記異常判定手段は、前記最大値と最小値との差が、予め設定された所定値以上になっている場合に、前記異常が生じていると判定することを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記異常判定手段は、前記所定の電力を供給した状態で異常が生じていると判定されない場合に、所定の電力よりも大きい電力を供給した状態で、前記温度測定手段による前記各領域のそれぞれの温度を再度サンプリングして、サンプリングされた測定温度の最大値と最小値との差に基づいて異常が生じていることを判定することを特徴とする請求項1または2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記異常判定手段は、前記加熱回転体を、定着動作を実行する場合の回転速度よりも低下させた状態で回転させて、前記温度測定手段による前記各領域の温度のサンプリングを実行することを特徴とする請求項1または2に記載の定着装置。
【請求項5】
前記異常判定手段は、定着動作の実行時に異常が生じていることを判定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の定着装置。
【請求項6】
前記異常判定手段は、定着動作の実行時以外に、前記抵抗発熱層に供給される電力量を、定着動作の実行時に供給される電力量よりも増加させた状態で、異常が生じていることを判定することを特徴とする請求項1または2に記載の定着装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の定着装置を有することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−247552(P2012−247552A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118049(P2011−118049)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】