説明

定着装置及び画像形成装置

【課題】定着ベルトの蛇行を規制するベルト規制部材と定着ベルトが接触することにより生じる摺動音の発生、及び定着ベルトの疲弊を防ぐ。
【解決手段】
定着装置は、無端状のベルトの内側に配されている第1ローラを、前記ベルトの外側から前記ベルトを介して第2ローラで押圧して、前記ベルト表面と前記第2ローラの間に定着ニップを確保し、未定着画像の形成されたシートを前記定着ニップに通過させ、前記未定着画像の熱定着を行い、第1ローラの軸方向の少なくとも一方の端部に配設され、第1ローラの軸に回転可能に篏合したベルト規制部材と、ベルト規制部材がベルトと接触した状態において、規制部材がベルトに従動回転するように、規制部材を付勢する付勢部材と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、複写機、レーザプリンタやファクシミリ等に用いられる定着装置、及び、この定着装置を有する画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、定着装置としては、加熱される定着ローラと加圧ローラとからなるローラ対を備え、そのローラ対のニップ部を記録紙が通過することによりトナーの定着を図るローラ加熱方式が広く採用されている。近年、ローラより熱容量が小さく、短い時間で昇温可能なベルト式の定着装置、特に、電磁誘導加熱方式の定着装置が増えている。
【0003】
電磁誘導加熱方式の定着装置としては、誘導発熱層を有する無端状の定着ベルトの内側に定着ローラを挿入すると共に、定着ベルトの外側から定着ベルトを介して定着ローラを加圧ローラで圧接して定着ニップを確保しつつ、ベルト外側に誘導発熱層を発熱させるための磁束を発生させる磁束発生部を配置する構成が知られている。
【0004】
このようなベルトを用いる構成では、定着ローラの回転駆動中に定着ローラに対して定着ローラの軸方向に定着ベルトが動く、いわゆるベルトの蛇行が発生しやすい。そこで、ベルトの蛇行を防止するための規制部材を設ける構成が知られている(例えば特許文献1参照)。図10に従来のベルト規制部材190の一例を示す。この図は、定着ローラ1と加圧ローラ2とのニップ部を含む断面を示しており、ベルト部材(誘導発熱ベルト8)の端部がベルト規制部材190に当接している。このベルト規制部材190は略リング状の部材であり、定着ローラ1の両端部において芯金11に固定されている。従って、ベルト規制部材190は、定着ローラ1とともに回転し、ベルト部材の端面に接触してベルト部材の蛇行を防止している。しかし、この定着装置では、定着ニップ領域で定着ローラの弾性層が撓むことにより定着ベルトと定着ローラとの間にわずかな隙間ができてスリップすることにより、定着ベルトと定着ローラとの間にわずかな周速差が発生する。ベルト規制部材は定着ローラに固定された状態で取り付けられているため、結果的に定着ベルトと規制部材との間でも周速差が生じることとなる。その結果、定着ベルト端面とベルト規制部材とが擦れて摺動音が発生するという問題があった。また、併せて、定着ベルト端面がベルト規制部材に擦れることにより、定着ベルト端面が磨耗するという問題もあった。
【0005】
そこで、特許文献1では、ベルト規制部材とベルトのビッカーズ硬度差ΔHvを400以下とするものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−145958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の定着装置においては、定着ベルト端面とベルト規制部材との接触により生じる異音については何ら考慮されていない。
【0008】
そこで、本発明の定着装置及びこれを備えた画像形成装置は、定着ベルトと定着ローラを備える定着装置において、定着ローラに設けられた定着ベルトの蛇行防止のためのベルト規制部材と定着ベルトとの摺擦による異音を防止すると共に、摺擦による定着ベルトの疲弊を防ぎ、その寿命を長くしようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するため、本発明に係る定着装置は、無端状のベルトの内側に配されている第1ローラを、ベルトの外側からベルトを介して第2ローラで押圧して、ベルト表面と第2ローラの間に定着ニップを確保し、未定着画像の形成されたシートを定着ニップに通過させ、未定着画像の熱定着を行う定着装置であって、第1ローラの軸方向の少なくとも一方の端部に配設され、第1ローラの軸に回転可能に篏合したベルト規制部材と、ベルト規制部材がベルトと接触した状態において、規制部材がベルトに従動回転するように、規制部材を付勢する付勢部材とを有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る定着装置は、第1ローラには、前記ベルト規制部材を前記付勢部材による付勢に抗して受け止めるベルト規制部材受部が更に配設され、ベルト規制部材は、前記ベルト規制部材受部と接触した状態において、前記第1ローラに従動回転することを特徴とする。
【0011】
前記ベルト規制部材は、前記ベルトの軸方向の両端部にそれぞれ配設されていても良い。また、前記付勢部材とベルト規制部材との接触面のうち少なくとも一方の面は、低摩擦材料からなっていても構わない。
【0012】
更に、本発明に係る画像形成装置は、これらの定着装置を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の定着装置とそれを用いた画像形成装置によれば,定着ベルトが蛇行してベルト規制部材と擦れることによる異音の発生を防ぎ、かつ、定着ベルトの疲弊を防いでその寿命を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】画像形成装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】定着装置の概略構成を示す断面図である。
【図3】定着ローラの概略構成を示す一部断面図である。
【図4】実施の形態1に係るベルト規制部材が定着ローラに従動している様子を示す図である。
【図5】実施の形態1に係るベルト規制部材がベルトに従動している様子を示す図である。
【図6】実施の形態2に係る定着ローラの概略構成を示す一部断面図である。
【図7】実施の形態3に係るベルト規制部材の断面図である。
【図8】実施の形態2に係るベルト規制部材の変形例である。
【図9】付勢部材の変形例を示す図である。
【図10】従来の定着装置に係るベルト規制部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施の形態1)
以下、本発明に係る定着装置及び画像形成装置について図に基づいてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に何ら限定されるものではない。
【0016】
<画像形成装置>
図1は、本発明に係る画像形成装置の一例を示す概説図である。図1の画像形成装置は、タンデム型デジタルカラープリンタ(以下、単に「プリンタ」と記すことがある)である。もちろん、プリンタの他、更にスキャナを有する複写機、ファクシミリ又はそれらの機能を複合的に備えた複合機等にも本発明を適用することができる。なお、以下において、説明の対象である装置又は部材がイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)若しくはブラック(K)のいずれのものであるかを明確にする必要がある場合は、「(Y)」、「(M)」、「(C)」、「(K)」の文字を符号に付加して説明し、それ以外の場合はそれら文字を省略して説明する。
【0017】
プリンタ1は、その内部のほぼ中央部に中間転写ベルト11を備えている。中間転写ベルト11は、ローラ12、テンションローラ13、ガイドローラ14、15の外周部に掛け渡されて反時計回りに回転駆動する。テンションローラ13は、外側へスライド可能に取り付けられていると共に、押しバネSによって中間転写ベルト11の内側から外側に向かって付勢されている。これにより、中間転写ベルト11は、常に張力がかかった状態となっている。
【0018】
中間転写ベルト11の下部には、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(B)の各色にそれぞれ対応する4つの作像部2Y、2M、2C、2Bが、中間転写ベルト11に沿ってこの順に並んで配置されている。各作像部2Y、2M、2C、2Bは、感光体ドラム21Y、21M、21C、21Bをそれぞれ有している。各感光体ドラム21Y、21M、21C、21Bの周囲には、その回転方向に沿って順に、帯電器22Y、22M、22C、22Bと、プリントヘッド部23Y、23M、23C、23Bと、現像器24Y、24M、24C、24Bと、クリーナ25Y、25M、25C、25Bとがそれぞれ配置されている。プリントヘッド部23Y、23M、23C、23Bは、感光体ドラムの軸方向と平行な主走査方向に並べられた多数のLEDから構成されている。
【0019】
そして、中間転写ベルト11を挟んで、各感光体ドラム21Y、21M、21C、21Bと対向する位置には、一次転写ローラ30Y、30M、30C、30Bが設けられている。また、中間転写ベルト11のローラ12で支持された部分には、2次転写ローラ16が圧接されている。2次転写ローラ16と中間転写ベルト11とのニップ部が2次転写領域17となる。この2次転写領域17において中間転写ベルト11上に形成されたトナー像が、搬送されてきた用紙(記録材)Pに転写される。
【0020】
プリンタ1の下部には、給紙カセット91が着脱可能に配置されている。給紙カセット91内に積載収容された用紙Pは、給紙ローラ92の回転によって最上部のものから1枚ずつ引き出されて搬送路93に送り出される。搬送路93は、給紙カセット91から、タイミングローラ対94のニップ部、2次転写領域17、及び定着装置Tを通って排紙トレイ98まで延びている。給紙カセット91から送り出された用紙Pは、タイミングローラ対94に搬送され、ここで所定のタイミングで2次転写領域17に送り出される。
【0021】
定着装置Tは、定着ローラ4と、定着ローラ4に圧接する加圧ローラ5と、定着ローラ4の外周に離隔して配置された磁束発生部6とを備える。定着ローラ4と加圧ローラ5とのニップ部を用紙Pが通過することによって、用紙P上に2次転写されたトナー像が加熱溶融されて用紙Pに定着する。この定着装置Tの詳細については後述する。
【0022】
このような構成のプリンタ1の概略動作について説明する。まず、カラー画像を出力するフルカラーモードの場合、外部装置(例えばパソコン)からプリンタ1の画像信号処理部(不図示)に画像信号が入力されると、画像信号処理部ではこの画像信号をイエロー、シアン、マゼンタ、ブラックに色変換したデジタル画像信号を作成し、この信号をプリントヘッド用LEDドライブ回路に伝達する。このドライブ回路は、入力されたデジタル信号に基づいて、各作像部2Y、2M、2C、2Bのプリントヘッド部23Y、23M、23C、23Bを発光させて露光を行う。この露光は、プリントヘッド部23Y、23M、23C、23Bの順にそれぞれ時間差をもって行われる。これにより、各感光体ドラム21Y、21M、21C、21Bの表面に各色用の静電潜像がそれぞれ形成される。
【0023】
各感光体ドラム21Y、21M、21C、21B上に形成された静電潜像は、各現像器24Y、24M、24C、24Bによってそれぞれ現像されて各色のトナー像となる。そして、各色のトナー像は、各一次転写ローラ30Y、30M、30C、30Bの作用により、図中反時計回りに回転する中間転写ベルト11上に順次一次転写されて重ね合わせられる。
【0024】
このようにして中間転写ベルト11上に形成されたトナー像は、中間転写ベルト11の移動にしたがって2次転写領域17に達する。一方、給紙カセット91から搬送路93に送り出された用紙Pは、タイミングローラ対94によって、トナー像が2次転写領域17に達するタイミング合わせて2次転写領域17へ搬送される。そして、2次転写ローラ16にはトナーの帯電極性と逆極性の電圧が印加される。これにより、2次転写領域17において、重ね合わされた各色トナー像は中間転写ベルト11から用紙Pに一括して2次転写される。なお、2次転写後に中間転写ベルト11上に残留するトナーは、不図示のベルトクリーナにより回収される。
【0025】
トナー像が2次転写された用紙Pは、搬送路93を通って定着装置Tに送られ、そこでニップ部を通過することによりトナー像が用紙Pに定着される。そして、用紙Pは排紙トレイ98に排出される。
【0026】
<定着装置>
図2に、図1のプリンタ1で使用されている定着装置Tの概説図を示す。定着装置Tは、定着ローラ4と加圧ローラ5とが圧接してなり、定着ローラ4の外周には定着ローラ4に対して離隔対向する位置に磁束発生部6が設けられている。以下、各部材について順に説明する。
【0027】
定着ローラ4は、中空円筒状の芯金41と、芯金41の外周に形成された弾性層42と、弾性層42の外周に非接着状態に設けられた無端状のベルト43とを備える。
【0028】
芯金41の材料としてはアルミニウムや鉄などの金属材料の他、ポリフェニレンサルファイド(PPS)などの耐熱性樹脂などを使用できる。なお、本実施形態のように加熱手段として電磁誘導加熱手段を用いている場合には、芯金41が電磁誘導によって加熱されるのを防ぐためアルミニウムなどの非磁性材料を用いるのが好ましい。
【0029】
この芯金41の外周に形成された弾性層42は耐熱性及び弾性を有する部材から形成される。例えばシリコンスポンジ体が好適である。
【0030】
この弾性層42の外周に設けられているベルト43は、図2の部分拡大図のように、内周側から電磁誘導発熱層431、弾性層432、離型層433の積層構造を有する。電磁誘導発熱層431は、磁束発生部6による励磁によりジュール熱を発生させる層である。その材料としては、ニッケルや磁性ステンレス鋼、鉄などの磁性金属材料が望ましい。
【0031】
ベルト43の弾性層432は、用紙Pとベルト43表面との密着性を高めるための層であって、耐熱性及び弾性を有する部材が使用される。例えば、シリコンゴム等の耐熱性エラストマーが好適に使用される。
【0032】
ベルト43の離型層433は、ベルト43の表面離型性を高めるための層であり、例えば、フッ素ゴム、ポリテトラフルオロエチレン(PFA)等のフッ素樹脂が例示される。
【0033】
図2において、加圧ローラ5は、中空円筒状の芯金51上に、弾性層52と離型層(不図示)とがこの順で積層されている。芯金51としては、アルミニウムや鉄などの金属材料の他、PPSなどの耐熱性樹脂も使用できる。また弾性層52としては、定着ローラ4の弾性層42と同じ材用がここでも好適に使用できる。離型層としては、ベルト43の離型層432と同じ材料がここでも好適に使用できる。
【0034】
加圧ローラ5は、バネ等によって定着ローラ4側に付勢され、定着ローラ4との間でニップ部を形成する。加圧ローラ5は、モータ等の駆動機構により所定の速度で回転駆動され、定着ローラ4は加圧ローラ5との圧接摩擦力によって加圧ローラ5の回転に従動回転する。なお、これらの回転駆動は、定着ローラ4を主駆動として、加圧ローラ5を従動回転としてもよい。
【0035】
図2において、磁束発生部6は、コイル部61、コア部62、コイルガイド63等で構成されている。コイル部61は、定着ローラ4の外周の一部を覆うように配設されたコイルガイド63上に細線を束ねたリッツ線を巻回して定着ローラの軸と並行な方向に延設したものである。コイルガイド63は、耐熱性の高い樹脂材料等からなり、コイル部61を保持する。コア部62は、フェライト等の強磁性体からなり、発熱層に向けて効率のよい磁束を形成するためにセンターコア62aやサイドコア62bが設けられている。コア部62は、上述の軸方向に延設されたコイル部61に対向するように設置されている。
【0036】
磁束発生部6には、不図示の高周波インバータが接続されており、高周波インバータからコイル部61に10kHz〜100kHzの交流電流が印加されることによって、ベルト43の電磁誘導発熱層431が発熱し、ベルト43の表面温度は所定温度に維持される。
【0037】
<ベルト規制部材>
図3に定着ローラ4の一部断面図を示す。定着ローラ4の軸方向両端部には、ベルト43の軸方向の移動を規制する略円板状の一対のベルト規制部材7、7が設けられている。このベルト規制部材7の外径R1は、定着ローラ4のベルト43の外径Q1より大きく、中心に貫通孔が形成されている。この貫通孔の径R2は、後述する芯金41の径Q3よりわずかに大きく、ベルト規制部材7は芯金41に対し、軸方向に移動可能であり、かつ回転可能に篏合している。
【0038】
図4にベルト規制部材7が定着ローラ4の芯金41に取り付けられた状態の断面図を示す。図示を省略するが、反対側の端部の構成も同じである。芯金41には、その外周に取り付けられた弾性層42の端部から軸方向約2mm外側に、軸と直交する方向に一周にわたって段差があり、この段差部415より外側の外径Q3は、中央部411の外径Q2より小さくなっている。段差部415から軸方向約20mm外側には、一周にわたって約2mm幅の溝部413が形成されており、溝部413の径Q4は、段差部415より外側の外径Q3より小さい。溝部413から約25mm外側が芯金の最端部となる。
【0039】
なお、段差部415から溝部413までの間約20mmがベルト規制部材7を取り付けるためのベルト規制部材取付部412となる。
【0040】
ベルト規制部材7の芯金41への取り付けは、まず、芯金41のベルト規制部材取付部412に、ベルト規制部材7の貫通孔を嵌め入れ、次いでブッシュ71を嵌め込む。ブッシュ71は、円筒部711と円筒部711の一端に形成された円盤状のフランジ部712とからなり、円筒部711の内径は、芯金41のベルト規制部材取り付け部412の外径Q3より少し大きく、フランジ部712の外径は芯金41の中央部の外径Q2より少し大きくなっている。ブッシュ71は、フランジ部712をベルト規制部材7に面するようにして芯金41に嵌め込まれる。次に、ねじりコイルばね72をブッシュ71の円筒部711の外周に取り付け、最後に、芯金41に形成された溝部413に止め輪73を嵌めこむ。これにより、ブッシュ71とねじりコイルばね72は芯金41に対して抜け止めされる。なお、ベルト規制部材7は、ステンレス鋼(SUS)などの金属材料で構成されており、ブッシュ71はPPS等の樹脂材料で構成され、そのフランジ部712にはフッ素樹脂がコーティングされている。ねじりコイルばね72は鉄など金属材料で構成されている。
【0041】
このようにして芯金41のベルト規制部材取付部412に取り付けられたベルト規制部材7は、付勢部材であるねじりコイルばね72とブッシュ71とにより軸方向中央部に向かって付勢されることにより、芯金41の段差部415に押しつけられた状態で、芯金41に従動回転する。ここで、ねじりコイルばね72の付勢力は、回転中にベルト規制部材7が振動することがないように0.5N以上であることが好ましい。
【0042】
図5は、ベルト43が定着ローラ4の軸方向端部に向かって蛇行したときの状態を示すものである。本実施例においてベルト43が蛇行しベルト規制部材7に向かって付勢する力(以下「蛇行力」という。)は、最大で約3Nとなることが分かっている。そこで、ねじりコイルばね72の付勢力は2N以下に設定されている。これにより、ベルト43が蛇行してベルト43の端面435がベルト規制部材7に接触すると、蛇行力がねじりコイルばね72の付勢力を上回るため、ベルト規制部材7は芯金41の段差部415から離接して、ベルト端面435とブッシュ71に挟持される。ねじりコイルばね72の付勢力は、ベルト規制部材7に対して、定着ローラ4の軸と平行に周方向に均等に付与されるので、ベルト規制部材7はベルト43の端面435に均一な力で安定して接触する。このようにして、ベルト規制部材7は、ベルト43の端面435と接触すると、ベルト43に従動回転する。
【0043】
以下、ベルト規制部材7がベルト43に従動回転するための構成についてより詳細に説明する。ベルト43の蛇行によりベルト43がベルト規制部材7に接触したとき、ベルト規制部材7がベルト43に従動回転しようとする力をF(f)、ベルト規制部材7が定着ローラ41、より具体的には定着ローラ41に固定されたブッシュ71に従動回転しようとする力をF(r)とすると、以下の(1)の関係を成立させることにより、ベルト規制部材7をベルト43に従動回転させることができる。
【0044】
F(f)>F(r)・・・(1)
ここで、ベルト規制部材7がベルト43に従動回転する力F(f)は以下のように規定される。
【0045】
F(f)=F1=μ1・P1
F1:ベルト43とベルト規制部材7の摩擦抵抗
μ1:ベルト43とベルト規制部材7の摩擦係数
P1:ベルト43とベルト規制部材7の接触圧
また、ベルト規制部材7が定着ローラ41に固定されたブッシュ71に従動回転する力F(r)は以下のように規定される。
【0046】
F(r)=F2+F3=μ2・P2+μ3+P3
F2:ブッシュ71とベルト規制部材7の摩擦抵抗
μ2:ブッシュ71とベルト規制部材7の摩擦係数
P2:ブッシュ71とベルト規制部材7の接触圧
F3:芯金41とベルト規制部材7の摩擦抵抗
μ3:芯金41とベルト規制部材の摩擦係数
P3:芯金41とベルト規制部材7の接触圧
なお、ここでは、ベルト43の蛇行により、ベルト規制部材7が芯金41の段差部415から離接して、ベルト43とブッシュ71により挟持された状態なので、芯金41とベルト規制部材7の摩擦抵抗F3とは、芯金41のベルト規制部材取付部412とベルト規制部材7との間の摩擦抵抗と考える。そうすると、芯金41とベルト規制部材7の接触圧は、ベルト規制部材7の自重によるものであり、本実施の形態においては0.1N程度と想定される。これは、想定されるベルト蛇行力(最大3N以上)に対して非常に小さいため、無視できるとし、「0」とする。すると、
F(r)≒μ2・P2
と、することができる。
【0047】
よって、(1)を満足するためには
μ1・P1>μ2・P2
であればよい。
【0048】
またベルト規制部材7は、ベルト43からの端部へ向かう蛇行力とブッシュ71からの中央部へ向かう付勢力との均衡が取れたところで挟持されているから、ベルト43とベルト規制部材7の接触圧P1とブッシュ71とベルト規制部材7の接触圧は同じで、P1=P2である。よって、
μ1>μ2・・・(2)
であれば(1)を満足し、ベルト規制部材7をベルト43に従動回転させることができる。すなわち、ベルト43の端部431とベルト規制部材7との摩擦係数が、ベルト規制部材7とブッシュ71との摩擦係数より大きくなるようにすれば良い。
【0049】
本実施の形態において、ベルト規制部材7はSUSからなり、ベルト43は前述の通り磁性金属材料からなる電磁誘導発熱層431と、シリコンゴムからなる弾性層432と、フッ素樹脂からなる離型層433とから構成されている。ベルト43とベルト規制部材7との摩擦係数μ1は、0.5〜0.6になっている。また、ブッシュ71は、PPS等の樹脂からなっており、ベルト規制部材7とブッシュ71との摩擦係数μ2は0.3〜0.4である。このままでも、上記(2)の関係を満足するため、ベルト規制部材7はベルト43に従動するが、μ1とμ2の差が小さい場合は、ベルト規制部材7が安定してベルト43に従動しにくいことが想定される。そこで、本実施の形態では、ブッシュ71のフランジ部712に、フッ素樹脂をコーティングしている。これにより、ベルト規制部材7とブッシュ71との摩擦係数μ2を0.08〜0.2程度にまで小さくすることができ、μ1とμ2の差が大きくなるので、ベルト規制部材7が安定してベルト43に従動回転することができる。
【0050】
以上説明した定着ローラ4によると、初期状態では、芯金41に取り付けられたベルト規制部材7は、軸方向中央に向かってねじりコイルばね72とブッシュ71によって付勢され、芯金41の段差部415に受け止められることにより、芯金41に従動回転するので、ベルト規制部材7が揺動してベルト43に当たることがない。すなわち、異音の発生やベルト端部の摩耗を防ぐことができる。また、ベルト43が蛇行してベルト規制部材7に接触すると、ベルト規制部材7は芯金41の段差部415を離れて、ベルト43とブッシュ71に挟持され、ベルト43に従動回転するため、ベルト規制部材7がベルト43に当たったり離れたりすることがなく、やはり異音の発生やベルト端部の摩耗を生じることがない。
【0051】
(実施の形態2)
図6に実施の形態2に係る定着ローラ40の一部断面図を示す。実施の形態2においては、ベルト規制部材7が片側にのみ備えられている点が実施の形態1と異なるがその余は同じである。同じ部材には同じ番号を付し、説明を省略する。
【0052】
一般的に、ローラに巻きかけられたベルトが蛇行する方向は、設計誤差や組立時の誤差などによって一定の方向に定まっているのが通常である。従って、本実施の形態においては、ベルト43の組み付け時に、定着ローラ40を駆動させてベルト43の蛇行する方向を確認し、ベルト43が蛇行する方向にのみベルト規制部材7を備えるようにすればよい。
【0053】
これにより、定着ローラ4の片側はベルト規制部材7を取り付ける必要がないので、組立上の自由度が増すだけでなく、ベルト規制部材7が一つでよいので、製造コストを抑えることができる。
【0054】
(実施の形態3)
図7に実施の形態3に係るベルト規制部材7の断面図を示す。実施の形態3においては、芯金410に段差部がなく、ベルト規制部材は常にベルトに従動する構成となっている点が実施の形態1と異なるが、その余は同じである。同じ部材には同じ番号を付し、説明を省略する。
【0055】
実施の形態3では、定着ローラ4の芯金410には段差部はなく、芯金410の外周に備えられた弾性層42の端部から軸方向約25mm外側に溝部413が形成されているだけである。芯金410の外周には弾性層42が形成され、弾性層42の外周には無端状のベルト430が設けられている。ベルト430は、軸方向の長さが、弾性層42よりも長くなっており、ベルト規制部材7に常時接触するようになっている。ベルト規制部材7は、芯金410に回転自在に取り付けられ、ブッシュ71とねじりコイルばね72により軸方向中央に向かって付勢されている。図示を省略するが、反対側の端部も同様にベルト規制部材7が備えられており、軸方向中央に向かって付勢されている。このように、ベルト430は、両側からベルト規制部材7を介してブッシュ71とねじりコイルばね72により軸方向中央に向かって付勢されるため、ベルトが蛇行して一方のねじりコイルばね72を圧縮した場合には、この一方のねじりコイルばねの弾性力が他方のねじりコイルばね72の弾性力に勝り、軸方向中央に向かって付勢され、両方のねじりコイルばね72の弾性力が均衡となるところまで押し戻す。これにより、ベルトの蛇行が規制される。
【0056】
このような構成とすることにより、ベルト規制部材7は常にベルト430に従動回転することができ、ベルト規制部材7がベルト430に当たったり離れたりすることによる異音や、ベルト43の磨耗を防ぐことができる。
【0057】
(変形例)
なお、本発明は以上の実施の形態に限られないことはいうまでもない。実施の形態1及び2では、ベルト規制部材受部として、芯金の段差部にてベルト規制部材を受け止めるように構成されていたが、図8に示すように、定着ローラの弾性層にベルト規制部材を接触させ、これをベルト規制部材受部とすることで、定着ローラに従動回転させるように構成してもよい。
【0058】
また、実施の形態1乃至3では、ブッシュ71のフランジ部712にフッ素コーティングをすることとしたが、ベルト規制部材7のブッシュ71と対向する面にフッ素コーティングをしてもよい。あるいは、ブッシュ71の素材として予めPPSにフッ素樹脂を含有したものを採用することにより、ブッシュ71とベルト規制部材7との摩擦係数μ2を小さくすることができる。
【0059】
更に、実施の形態1乃至3では、付勢部材として、ブッシュ71とねじりコイルばね72を用いたが、これに限られず、ベルト規制部材7に対して軸と平行に周方向に均等に付勢することができる部材であれば良い。例えば、図9(a)に示すようなリング状の薄板721に周方向均等に3つの足部722をもつ板ばね720を付勢部材として用いてもよい。図9(b)に示すように、板ばね720を、ベルト規制部材7に足部722が接触するように取付け、止め輪73で固定することにより、ベルト規制部材7に対して均等に力をかけることができ、ベルト規制部材7の揺動を抑えることができ、同様の効果を得ることができる。この場合、足部722又はベルト規制部材7の足部722に接触する面に、フッ素コーティングを施すことが好ましい。
【0060】
最後に、定着装置は、電磁誘導加熱方式に限られず、加熱ローラにベルトを巻きかけたベルト式定着装置であっても同様の効果を得る事ができるのはもちろんである。
【符号の説明】
【0061】
1 画像形成装置
4 定着ローラ
5 加圧ローラ
6 磁束発生部
43、430 ベルト
41、410 芯金
71 ブッシュ
72 ねじりコイルばね
720 板ばね
415 段差部
431 電磁誘導発熱層
433 離型層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状のベルトの内側に配されている第1ローラを、前記ベルトの外側から前記ベルトを介して第2ローラで押圧して、前記ベルト表面と前記第2ローラの間に定着ニップを確保し、未定着画像の形成されたシートを前記定着ニップに通過させ、前記未定着画像の熱定着を行う定着装置であって、
前記第1ローラの軸方向の少なくとも一方の端部に配設され、前記第1ローラの軸に回転可能に篏合したベルト規制部材と、
前記ベルト規制部材が前記ベルトと接触した状態において、前記規制部材が前記ベルトに従動回転するように、前記規制部材を付勢する付勢部材と、
を有することを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記第1ローラには、前記ベルト規制部材を前記付勢部材による付勢に抗して受け止めるベルト規制部材受部が更に配設され、
前記ベルト規制部材は、前記ベルト規制部材受部と接触した状態において、前記第1ローラに従動回転する
ことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記ベルト規制部材は、前記ベルトの軸方向の両端部にそれぞれ配設されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記付勢部材とベルト規制部材との接触面のうち少なくとも一方の面は、低摩擦材料からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の定着装置。
【請求項5】
前記第1ローラの外周部に、前記ベルトを加熱するための電磁誘導加熱部が配置され、
前記ベルトは磁性金属層を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の定着装置。
【請求項6】
前記ベルトは外周面に離型層を備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の定着装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の定着装置を備えた画像形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2013−61499(P2013−61499A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200085(P2011−200085)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】