説明

実環境分極測定装置及びそれを用いた実環境分極抵抗・分極曲線測定方法

周囲環境から測定表面の密封を確保しないで、実環境における分極抵抗・分極曲線を精度良く測定できるようにした、実環境分極測定装置及びそれを用いた実環境分極抵抗・分極曲線測定方法を提供する。 溶液中の金属材料表面或いは溶液中の金属表面に塗布された塗膜の分極抵抗及び分極曲線を測
定するための分極測定装置であって、第1の電極と、前記第1の電極を取り囲んで2重に順番に配置された第2の電極、第3の電極とを備えるプローブを備え、前記第1の電極と前記第2の電極との間に、また、前記第2の電極と前記第3の電極との間に、絶縁材料で充填されるようにする。また、前記第1の電極は前記プローブの中心に配置されており、前記第2の電極、前記第3の電極は、前記第1の電極を中心とする同心円状な電極であるようにする。さらに、前記第2の電極、前記第3の電極は、それぞれ複数の部分電極から構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、溶液中の金属材料表面或いは溶液中の金属表面に塗布された塗膜の分極抵抗や分極曲線を実環境で精度良く測定する分極測定装置及びそれを用いた分極抵抗・分極曲線測定方法に関するものである。
【背景技術】
電気化学等の分野において、溶液中の金属材料表面の電流密度変化における電位変化の比は分極抵抗と呼ばれる。また、溶液中の金属材料表面の電位と電流密度の関係は分極曲線と呼ばれる。分極抵抗及び分極曲線の形状からは、金属界面における電気化学的性質を検討できるだけでなく、金属の腐食速度を正確に見積もることもできるので、こうした理由から実際の環境下で金属表面の分極抵抗及び分極曲線を測定することは工学上大変重要である。
つまり、溶液の温度やpH値、溶液成分などの溶液の状態や金属表面の腐食状態などが分極曲線に特徴的な変化をもたらす。分極曲線を実環境で測定することができれば、金属表面の腐食状態の推定を行ったり、電気化学の反応推定を行うなど工学上重要な知験を得ることができる。
これまでに数多くの分極抵抗・分極曲線測定手法が研究・開発されている(非特許文献1〜非特許文献4参照)。分極曲線は、各印加電流における電位変化を観測して、電流密度−電位のグラフにプロットすることで得られる。なお、実環境での観測では印加電流を正確に把握するために、周囲の環境から流入する外部電流を絶縁する必要がある。
従来では、分極曲線測定には第1図に示すような分極測定装置を用いる。第1図において、1は密封電位検出極で、2は計測電位検出極で、3は対極で、4は密封確認電位計で、5は定電位電源で、6は計測電位計で、7は密封ゴムパッキンで、8は周囲を環境から外部電流を絶縁するための密封容器で、9は測定対象である金属材料の表面で、つまり測定表面である。
第1図から分かるように、分極曲線の測定に際して、測定表面9に密封ゴムパッキン7を介して密封容器8を設置する。つまり、測定表面9と密封容器8の間はゴ厶パッキン7で絶縁するようになっている。密封容器8の中には定電位電源5から電流を印加する対極3が設置されている。測定対象である金属材料の表面の電位変化を観測するために、第1図に示された分極測定装置には、計測電位検出極2および計測電位計6が設置されている。また、密封容器8の絶縁を確認するために、分極測定装置には、その容器外部に密封電位検出極1と密封確認電位計4が設置されている。
第1図に示される従来の分極測定装置を用いて、分極曲線を測定するための測定手順について説明する。まず、密封容器8の密閉を確認するために測定前に水漏れテストを実施する。次に、ダイバーがその分極測定装置を実環境にある測定箇所(例えば、海水に浸かっている船の壁面等)(第1図において、その測定箇所は金属表面9になる)に設置する。そして、対極3から電流を印加して、測定対象である金属表面9の電位変化を測定する。さらに、その際に密封容器8内の絶縁を確認するために、密封電位検出極1の電位が変化していない事を確認する。最後に、対極3から印加された印加電流を金属表面9の面積等に応じて電流密度に変換してデータを記録する。このようにして、異なる各印加電流に対して金属表面9の電位変化をプロットして分極曲線が得られるわけである。
つまり、従来法では周囲の環境から絶縁された溶液中に分極曲線を測定する金属と印加電流源となる対極を直流電源に接続して回路を作る。そして、印加電流を変化させ、観測された金属表面の電位の関係をプロットすることで分極曲線を得るようにしている。
上述したような従来方法での分極曲線測定では、まず、周囲環境から密封を確保するための作業である測定前の水漏れテストや密封電位検出極の電位変化のモニタリングは手間がかかるといった問題がある。また、密封が確保されない場合は、ダイバーにより分極測定装置の再設置を行わなければならないので、非効率な作業となるといった問題も生じる。なお、実環境で上記のような方法で物理的に絶縁状態を確保することは非常に難しく、現状の測定では完全に絶縁状態を達成することはまれである。
さらに、周囲環境から電気的な密封を施さずにそのまま測定回路を実際の環境で適用すると、防食設備から流れる防食電流や迷走電流などの周囲から流入する外部電流を測定することができなかったり、測定のための印加電流の一部が外部の環境に漏れるので、正確に測定対象表面の電位と電流密度の関係を得られなかったという問題も生じた。
特に、塗装された海洋構造物表面(例えば海水に浸かっている船の壁面)においては分極抵抗が高く、また、海水の電気伝導度が高いので、対極からの印加電流は周囲に向かって分散しやすいといった問題が発生する。そのため、測定対象である金属表面の電流密度を正確に把握することは不可能であり、上述したような従来の分極抵抗測定手法では精度良く分極抵抗・分極曲線を測定できなかったという難点がある。
従来の測定手法では、上述した問題だけではなく、実環境での分極曲線の測定には密封容器で測定対象である金属表面を囲い、分極抵抗・分極曲線の測定領域を周囲の環境から絶縁する必要があった。また、従来の測定手法では、測定表面に流入する電流密度を均一にするために、対極を測定表面から十分離して測定を行う必要があり、分極測定装置が厚みのあるものになる問題もあった。
本発明は、上述のような事情よりなされたものであり、本発明の目的は、周囲環境から測定表面の密封を確保しなくても、実環境における分極抵抗・分極曲線を精度良く測定できるようにした、分極測定装置及びそれを用いた分極抵抗・分極曲線測定方法を提供することにある。
【発明の開示】
本発明は、周囲環境から測定表面の密封を確保しないで、実環境における分極抵抗・分極曲線を精度良く測定できるようにした、分極測定装置に関し、本発明の上記目的は、溶液中の測定対象の表面の分極抵抗及び分極曲線を測定するための分極測定装置であって、第1の電極と、前記第1の電極を取り囲んで2重に順番に配置された第2の電極、第3の電極とを備えるプローブを備え、前記第1の電極と前記第2の電極との間に、また、前記第2の電極と前記第3の電極との間に、絶縁材料で充填されるようにすることによって達成される。また、前記第1の電極は前記プローブの中心に配置されており、前記第2の電極、前記第3の電極は、前記第1の電極を中心とする同心円状な電極であるようにすることにより、或いは、前記第2の電極、前記第3の電極は、それぞれ複数の部分電極から構成されるようにすることによってより効果的に達成される。
本発明は、また、溶液中の測定対象の表面の分極抵抗を実環境において測定する分極抵抗測定方法に関し、本発明の上記目的は、本発明の実環境分極測定装置を用いて、溶液中の測定対象の表面の分極抵抗を実環境に測定する実環境分極抵抗測定方法であって、前記実環境分極測定装置を前記測定対象の付近に設置するステップと、前記第1の電極から前記測定対象に電流を印加するステップと、前記第1の電極が電流を印加したときに、前記第2の電極及び前記第3の電極では、電位変化が生じない様に電流を制御するステップと、前記第1の電極、前記第2の電極、前記第3の電極に流れる電流を各々電流計で測定するステップと、電極における電位および電流値から分極抵抗αの推定を行うステップとを有することによって達成される。
本発明は、さらに、溶液中の測定対象の表面の分極曲線を測定する実環境分極曲線測定方法に関し、本発明の上記目的は、本発明の実環境分極測定装置を用いて、溶液中の測定対象の表面の分極曲線を実環境に測定する実環境分極曲線測定方法であって、前記実環境分極測定装置を前記測定対象の付近に設置するステップと、前記測定対象の電位をシフトさせながら、分極曲線の傾きである分極抵抗を同定する分極抵抗同定ステップと、前記プローブでの電極電位を観測量とし、外部電流を同定する問題を解く事で分極曲線の一点を決定する外部電流同定ステップとを有するようにすることにより、或いは、前記外部電流同定ステップにおいて、さらに、前記プローブを前記測定対象の付近に設置するステップと、前記第1の電極、前記第2の電極、前記第3の電極では、電流を印加しないで電位を各々測定するステップと、前記測定対象の電位からの微小電位変化に対して分極曲線を式φ=α(i−i)=α×i+β(ここで、iは外部電流で、αは分極抵抗で、βは分極パラメータで)で近似し、電極における電位および電流値から分極パラメータβを推定するステップとを有することにより、或いは、本発明の実環境分極測定装置を用いて、溶液中の測定対象の表面の分極曲線を実環境に測定する実環境分極曲線測定方法であって、前記実環境分極測定装置を前記測定対象の付近に設置するステップと、前記第2および第3電極付近のそれぞれの電極での電位が同じになるように電流を制御するステップと、前記第1の電極から前記測定対象に電流を印加するステップと、前記第1、第2、第3の電極で測定された電流値から前記測定対象の表面に流れた電流密度を求めるステップを有することによってより効果的に達成される。
【図面の簡単な説明】
第1図は、従来の分極測定装置の概略図である。
第2図は、本発明に係る実環境分極測定装置を説明するための概略図である。
第3図は、本発明において、電極B、C間と測定対象構造物の間に挟まれる中間領域を説明するための模式図である。
第4図は、本発明に係る実環境分極測定装置のプローブの一構成例(プローブに電極電位測定のために参照電極を設けた例)を示す模式図である。
第5図は、本発明における分極パラメータ推定原理のフローチャートである。
第6図は本発明に係る実環境分極抵抗測定方法において、問題数理モデルを説明するための模式図である。
第7図は、本発明に係る実環境分極抵抗測定方法の解析例を説明するための模式図である。
第8図は、本発明に係る実環境分極抵抗測定方法において、分極抵抗αと電極Bの電流変化との相関関係を示すグラフである。
第9図は、構造物表面の電位分布図である。
第10図は、本発明に係る実環境分極曲線測定方法の外部電流同定ステップにおいて、問題数理モデルを説明するための模式図である。
第11図は、確認実験に使用される実験装置の概略図である。
第12図は、塩橋を説明するための模式図である。
第13図は、第11図の実験装置が内部電流遮断確認実験に用いられた場合の電気回路図である。
第14図は、内部電流遮断確認実験の実験結果を示す図である。
第15図は、第11図の実験装置が外部電流遮断確認実験に用いられた場合の電気回路図である。
第16図は、外部電流遮断確認実験の実験結果を示す図である。
第17図は、本発明に係る実環境分極測定装置のプローブの一構成例(プローブの測定面が平面でない例)を示す模式図である。
第18図は、本発明に係る実環境分極測定装置のプローブの一構成例(プローブそのものの形状及び電極の形状が円でない例、つまり、閉曲線の形状を有する例)を示す模式図である。
第19図は、本発明に係る実環境分極測定装置のプローブの一構成例(プローブの各電極がそれぞれ複数の部分電極から構成されている例)を示す模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
<1>本発明の概要及び着眼点
本発明では、周囲に分散する、対極からの印加電流を定量的に考慮するために、測定電極付近の電場を解析するようにしている。特に、溶液(例えば、海水)の電気伝導度が大きい場合に、対極から電流を印加すると広域に電場が変化し、解析領域が拡大するという問題が生じてしまう。そこで、本発明では、この問題を複数の電極を用いることで解決するようにしている。
先ず、分極抵抗・分極曲線の実環境で測定できる、本発明に係る実環境分極測定装置について説明をする。第2図には本発明に係る実環境分極測定装置を説明するための概略図を示している。第2図(A)は、本発明の実環境分極測定装置を用いて、測定表面9(例えば、溶液中の金属材料表面、或いは、溶液中の金属表面に塗布された塗膜)の分極抵抗・分極曲線を測定する様子を示している。第2図から分かるように、本発明の実環境分極測定装置は、三つの電極A10,電極B20,電極C30が同心円状に配置されたプローブ100(第2図(B)参照)と、これら電極A,B,Cの電位及び電流をそれぞれ測定・制御することが可能な電流電圧制御部200とを備えている。電流電圧制御部200は、各電極用の定電位電源(第2図(A)の中の電極A用定電位電源11、電極B用定電位電源21、電極C用定電位電源31)と、各電極用の計測用電流計(第2図(A)の中の電極A用計測電流計12、電極B用計測電流計22、電極C用計測電流計32)とを備えており、電極A,B,Cの電位及び電流をそれぞれ測定・制御するようにしている。なお、電流電圧制御部200は、複数(本例では3つ)のガルバノスタットにより構成されることが好ましい。なお、ここでも、9は測定対象である測定表面である。
第2図(B)に示されるように、本発明の分極測定装置の主要部である、円板状のプローブ100は、三つのリング状電極(すなわち、電極A10,電極B20,電極C30)から構成されており、電極A10は円心に設置されている。そして、電極A10と電極B20との間、また、電極B20と電極C30との間に、例えばプラスチック樹脂などの絶縁材料で充填され、絶縁状態になっている。各電極から、まず、それぞれの定電位電源に接続され、さらに、電流を測定するために、それぞれ計測用電流計にも接続され、最後に測定表面9に接続されるようになっている。
<1−1>本発明における電気的に絶縁状態を作り出す方法
本発明では、測定領域と外部の領域をつなぐ領域の溶液の電位分布を均一に制御することで測定領域への電流の流入および流出を防ぐことを最も重要な特徴としている。すなわち、例えば第2図(A)に示されるように、三つの電極A10,B20,C30が同心円状に配置されたプローブ100を測定対象(すなわち測定表面9)の付近に設置する。
そして、電極B、C間と測定対象構造物の間に挟まれる領域(以下、中間領域と称する)の溶液の電位差を0になるように(つまり、電極Bと電極Cの表面の電位が等しくなるように)、それぞれの電極B,Cにおける電流値を制御する。例えば第3図の例では中間領域は矢印40のように示される。
中間領域の溶液の電位差を0にすることで、中間領域の溶液に電流が流れない状態となる。中間領域の溶液の電場は均一となり、結果として、外部からの外部電流は電極Cに吸収され、測定領域に流れ込むことができず、一方、内部から流出しようとする電流(つまり電極Aからの電流)は電極Bで吸収され、外部(周囲)に流出することもできないような中間領域を隔てて絶縁状態を作り出すことができる。このような状態は測定領域と外部の領域が電気的に絶縁された状態と等価となる。
従って、本発明では、このような方法により、電極B、C間と測定対象構造物の間に挟まれる領域(つまり、中間領域)に電気的な絶縁状態を作り出して、従来のような密封容器で測定表面を囲わずに、分極測定を可能にした。
なお、上述した本発明の実環境分極測定装置の構成例では、電極B,C間の電位差を0に保つ制御を示したが、本発明はそれに限ることなく、例えば、電極B,C間の電位差が0でない場合でもこの電位差は中間領域を流れる電流に基づく電位の降下にほかならないので逆に前記中間領域の形状および溶液の電気伝導度を用いて中間領域を流れる電流を求めることができ、求められた電流値を用いて、分極測定の補正用に用いることができる。
また、本発明では特別に明記しない限り電極の電位とは、電極表面のごく近傍の溶液の電位を意味する。電極から電流を流している時の電極の電位を計測する場合には、電極の分極に基づいて分極補正をする必要がある。この分極補正を避け、精度よく電極電位を得る、良く知られた方法としては、電流を流している電極近傍に電位計測専用の参照電極を設置する方法がある。この参照電極設置といった方法を採用する場合には、本発明のプローブ100の電極A,B,Cの近傍にそれぞれの電極電位を計測するための参照電極(第4図の電極A用参照電極13、電極B用参照電極23、電極C用参照電極33を参照)を備える必要がある。
つまり、本発明に係る実環境分極測定装置のプローブ100の他の構成例は、第4図に示されるように、各電極近傍の溶液の参照電位を測定するための参照電極13、23、33をそれぞれ電極A,B,Cの近傍に配置するようにしても良い。
上述したような本発明の実環境分極測定装置を用いて、溶液中の金属材料の表面或いは溶液中の金属表面に塗布された塗膜の分極曲線を実環境に測定することができる。その実環境分極曲線測定方法の手順として、まず、本発明の実環境分極測定装置を測定対象である金属材料の表面或いは金属表面に塗布された塗膜の付近に設置する。次に、電極Bおよび電極C付近のそれぞれの電極での電位が同じになるように電流を制御する。そして、電極Aから測定対象に電流を印加する。最後に、電極A,B,Cで測定された電流値から測定対象の表面に流れた電流密度を求めることによって分極曲線を得ることができる。
要するに、本発明の実環境分極測定装置を用いることで、測定領域と外部の領域が電気的に絶縁された状態を確保することができ、後は従来法による方法で分極曲線を求めることも可能になる。
<1−2>分極曲線を区分的な分極パラメータで求める
対極(つまり、第2図の電極A)を測定表面9の近くに設置した場合に、測定表面9における電流密度が分布する。本発明では、電流密度分布を定量的に取り扱うことで問題を解決する。すなわち、測定領域付近の電場を解析する。まず、分極曲線を区分的に折れ線で近似し、分極曲線の測定を各々の区分iにおける分極パラメーターである折れ線の直線の傾きαと切片βをそれぞれ、測定領域で測定された電位および電流の測定値から同定する問題に帰着させる。この問題を解析する際に、測定領域の電位分布及び電流密度分布は考慮されるので、測定表面の電流密度が分布しても正確に分極曲線を同定する事ができる。
<1−3>分極パラメータ推定原理
次に、分極曲線を区分的に折れ線で近似した際の分極パラメータα,βの同定について説明する。本発明では効率的にαとβを独立に同定する。
まず、電極Aから電流を印加した時と印加しない際の測定領域における電位変化の分布に着目することで、αを独立に同定する事が出来る。あらかじめ様々なαに対する測定領域内の電位変化の分布を解析しておき、実際に測定された電位変化と比較参照することでαを同定する。
次に同定されたαを用いて測定領域の電位を解析する事でβを同定する。あらかじめ様々なβに対する領域内の電位を解析しておき、実際に測定された電位と比較参照することでβを同定する。
なお、この分極パラメータ推定原理をフローチャートで表すと第5図になる。まず、観測データφ,Iを入力する(ステップS10)。次に、分極抵抗αを仮定する(ステップS20)。そして、仮定した分極抵抗αを用いて電場順解析を行い、Iを求める(ステップS30)。観測データIと求められたIとの差について目的関数評価を行う(ステップS40)。その差がεより大きい場合に、分極抵抗αを修正して、ステップS20に戻る。一方、その差がεより小さい場合に、分極パラメータβを仮定する(ステップS50)。次に、仮定した分極パラメータβを用いて電場順解析を行い、Φを求める(ステップS60)。そして、観測データφと求められたφとの差について目的関数評価を行う(ステップS70)。その差がεより大きい場合に、分極パラメータβを修正して、ステップS50に戻る。一方、その差がεより小さい場合に終了となる。
分極パラメータ推定原理については、第5図のフローチャートに沿って説明したが、実際の解析では、分極抵抗α、分極パラメータβの推定は、繰り返し計算を行わずに予め様々な分極抵抗α、分極パラメータβに対するφ,Iを順解析によって求めておいて、観測量φ,Iと比較することで推定を行うようにしても良い。
なお、電場解析は例えば後述の<2−2>や<3−2−2>で示されるような数理モデルを例えば有限要素法や境界要素法などの数値解析で実施することができる。
<1−4>本発明における電気的な絶縁に対する補足
さらに、本発明では、実際の分極測定では、電極B,C間の電位を等しくせずに分極測定も可能である。例えば、電極Aの電位変化に対して電極B,Cの電位が変化しないように電極B,Cの電流値を制御するようにしても良い。このとき電極Aの電位を変化させた時の測定領域の電位差分布に注目する。電位差分布はB,C間で0となる。電位差が0の領域を作りだす事で、測定対象と外部の電流を分離する事が出来る。
<2>本発明に係る実環境分極抵抗測定方法
<2−1>測定手順
本発明に係る実環境分極抵抗測定方法では、第2図に示される本発明の実環境分極測定装置を用いて、測定対象の分極抵抗を測定する。第2図に示される測定対象は、例えば、海水に浸かっている船の壁面のような広い面を有する、溶液中の金属材料である。つまり、本発明に係る実環境分極抵抗測定方法では、電極A,B,Cが第2図の様に同心円状に配置されたプローブを測定対象付近に設置する。
測定手順として、まず、電極Aから測定対象に電流を印加する。電極B,Cでは電極Aが電流を印加したときに電位変化が生じない様に電流を制御する。次に、電極A,B,Cに流れる電流を各々計測用電流計で測定される。電極Cはプローブ付近の電場が変化する領域を小さくするために設ける。
<2−2>電場解析数理モデル
本発明に係る実環境分極抵抗測定方法では、対極から電流を印加する際と印加しない際の二つの状態における電場変化に着目し、分極抵抗を測定する。印加電流の分散を定量的に考慮するために測定対象表面、プローブ表面、構造物周囲を全て解析対象にする必要がある。しかし、計算量、記憶量が大きくなる問題や周囲の条件が未知であるなどの問題がある。そこで本発明に係る実環境分極抵抗測定方法では、第6図のような印加電流により電場が変化する領域であるΓ,Γprove,Γによって囲まれる閉領域Ωで解析を行う。

、式(1)の境界条件でモデル化できる。電極A,B,Cの表面は式(2)(3)(4)の境界条件となる。プローブ表面は絶縁条件とするので、式(5)の境界条件となる。Γ上は電場変化が生じる領域と生じない領域の境界となるので、式(6)の境界条件で与えられる。iは電極Aで測定された電流である。

式(1)(2)(3)(4)(5)(6)で表す上記の数理モデルを用いて、未知量である分極抵抗αの推定を行う。対極B20に接続され

分極抵抗αを推定する問題を設定する。本問題は分極抵抗αを求める一

<2−3>解析例
模擬データをシミュレーションにより作成し、それを用いて同定を行うことで本発明に係る実環境分極抵抗測定方法の有効性を示す。また解析領域を小さくするために、式(6)の仮定を行ったが、その検証を行う。
<2−3−1>解析モデル及び模擬データの作成
第7図(A)に示す測定系を解析する。半径1[m],長さ3[m]の円筒容器を考える。円筒側面は絶縁体で、左面は分極抵抗を測定する金属で、右面は電位一定の金属で構成されている。容器内は電気伝導度が4.6[Ω−1−1]の海水が満たされている。左面は実際の構造物表面を想定して境界条件は式(7)とした。円筒の右面の境界条件は式(8)とした。電極Aから流す電流は1[mA]とした。解析には軸対象境界要素法を用いた。要素数は192である。

<2−3−2>分極抵抗同定
<2−2>に述べた解析手法を解析モデルに適用して分極抵抗を同定する。第7図(B)に示すように、解析対象の中に幅2[m]の円筒形状で囲まれる領域を印加電流で電場が変化する閉領域Ωとする。閉領域Ωに対して、様々なαに対して電極Bの電流変化を求めた。分極抵抗αに

。以上より分極抵抗αを正確に推定することができた。
<2−3−3>印加電流により電場変化する領域
上記式(6)の仮定を確認するために、本解析例における電位差分布を調べた。構造物表面の電位分布を第9図に示す。構造物表面ではX=0.2[m]以上の領域は印加電流により電場がほとんど変化しない事が確認された。
<2−3−4>電極Cの役割
電極Cの役割について説明する。本発明では、電極Cは周囲の電場変化を小さくする役割を果たす。一方、電極Cが無い場合では、電極Bが

化の電流と周囲の電場変化による電流の和が観測されるので、印加電流による電場変化を選択的に観測することが難しい。電極Cによって、電極Bは印加電流による電場変化を選択的に観測できるようになり、同定精度が向上する。
上述したように、本発明に係る実環境分極抵抗測定方法では、実際の環境で分極抵抗を正確に測定することができる。本発明では、複数電極が配置されたプローブによる分極抵抗を測定する。分散する電流を定量的に考慮するために、測定電極付近の電場を解析した。電極B,Cは電極Aの印加電流による電場変化が起きる領域を小さくなるように電位制御を行った。電場変化を起こす領域だけを解析対象とすることで解析の効率化を行った。電極に流れる電流を観測量として、分極抵抗を推定する問題を設定した。模擬データを用いて解析を行い本発明の有効性を示した。また、電極の電位制御により電場変化が起きる領域が小さい事を模擬データから確認した。
<3>本発明に係る実環境分極曲線測定方法
<3−1>測定手順
本発明に係る実環境分極曲線方法では、分極曲線を測定するために、次のような二つのステップを経る。
まず、第1のステップ(つまり、分極抵抗同定ステップ)としては、測定対象の電位をシフトさせながら、分極曲線の傾きである分極抵抗を同定する。各電位における得られた分極抵抗(傾き)を繋げる事で分極曲線の形を得ることができる。分極抵抗を同定するに際して、電位をシフトさせる際の電極に流れる電流を観測して分極抵抗を同定する問題を解く。つまり、分極抵抗を同定する(測定する)際に、前述した本発明に係わる実環境分極抵抗測定方法を利用する。
次に、第2のステップ(つまり、外部電流同定ステップ)としては、プローブ電極で観測される電位を観測量として、未知量である外部電流を推定する問題を解く。外部電流を推定する事は、金属表面の自然電位を求める事に過ぎなく、分極曲線の電位−電流密度関係の一点が決定する。
上述した二つのステップを行うことにより、分極曲線を推定することができる。
<3−2>外部電流同定ステップの説明
外部電流同定ステップでは、プローブでの電極電位を観測量とし、外部電流を同定する問題を解く事で分極曲線の一点を決定する。
<3−2−1>測定手法
外部電流同定ステップでは、第2図に示めすプローブを測定対象付近に設置する。電極A,B,Cでは電流を印加しないで電位を各々測定する。つまり、外部電流同定ステップで使用される装置は、分極抵抗同定で使われる分極測定装置と同じであり、外部電流同定ステップにおいて特別な装置を用意する必要はない事に着目されたい。要するに、第2図に示される本発明の実環境分極測定装置を用いて、分極抵抗の測定も分極曲線の測定もできる。
<3−2−2>数理モデル
外部電流を定量的に考慮するためには測定対象、プローブ表面、構造物周囲を全て解析対象にする必要がある。しかし、計算量、記憶量が大きくなる問題や周囲の条件が未知であるという問題がある。そこで、外部電流同定ステップでは、第10図に示されるように、プローブと構造物表面で囲まれる閉領域Ωを解析対象にする。

解析を行う。測定対象表面は、分極抵抗をα、外部電流をiとすると、式(9)の境界条件によりモデル化される。電極A,B,Cの表面は式(10)(11)(12)の境界条件となる。プローブ表面は絶縁条件とするので、式(13)の境界条件となる。構造物とプローブとは互いに近傍に設定されているので、Γは電極Cの近くに存在しており、Γの電位は電極Cで観測される電位φと同じという仮定を行う。Γの境界条件は式(14)で与えられる。

式(9)(10)(11)(12)(13)(14)で表す上記の数理モデルを用いて、分極パラメータβの推定を行う。電極A,Bによって観測される電位φ,φを観測量として分極パラメータβを推定する問題を設定する。
<4>本発明における電気的に絶縁状態を作り出す方法の確認実験
第2図に示す本発明に係る実環境分極測定装置における測定領域の電気的な絶縁について、実際の構造物を模擬した実験装置を用いて確認を行った。ここでは、以下の2種類の実験を行い、本発明に係る実環境分極測定装置における測定領域と外部領域の電気的な絶縁を確認した。
1つ目の確認実験とは内部電流遮断確認実験で、つまり、内部電流遮断電極Bを定電位に制御して、電流印可電極Aから電流を印可し、この際に外部電流遮断電極C付近で電位が変化しない事を確認することで、電流印可電極Aからの電流が内部電流遮断電極Bで絶縁されている事を確認する。
2つ目の確認実験とは外部電流遮断確認実験で、つまり、外部電流遮断電極Cを定電位に制御して、外部電極から電流を印可し、この際に電極A付近で電位が変化しない事を確認することで外部からの電流が外部電流遮断電極Cで絶縁されている事を確認する。
<4−1>確認実験に使用される実験装置
本発明に係る実環境分極測定装置の一例(例えば第2図を参照)は同心円上に電極を配置するように構成されている。本発明に係る実環境分極測定装置における電場は軸対象であり、半径方向の電場の制御が本発明の本質である。これを検証するためには半径方向の一次元的な電場を再現できれば良いので、確認実験では長方形のプローブを制作して一次元的な電場の制御をすることで、本発明における電気的に絶縁状態の原理を確認する。
確認実験では、本発明における電気的に絶縁状態の原理を第11図に示す実験装置を用いて確認した。電極A、電極B及び電極Cは、同心円に配置せずに、長方形のプローブ表面に第11図(B)に示すように配置してある。長方形のプローブと水槽表面は隙間埋めされている。そのため、電極Aから印可した電流は、電解液を通して電極B方向にしか流れなくて、また、逆の外部電流も電極Cから電極Bの方向へしか流れない一次元的な電場を作り出す事ができる。この実験装置を用いて、本発明における測定領域と外部領域の電気的な絶縁原理の確認を行う。
実際の構造物を模擬して実験装置を作成した。実験装置は以下の物により構成される。
アクリル製水槽(300mm×600mm)に食塩水を入れて海洋を模擬する。食塩水は水深80mmに設定した。
海洋構造物を模擬したペイントされた金属板(100mm×300mm,SS40)を水槽の片側に設置する。設置に際して、食塩水が漏洩しないようにシリコンゴム(セメダイン製、バスコークN)で隙間埋めしてある。
アクリル製の長方形のプローブにはCu電極(100mm×10mm,Cu)の電極A、電極B、電極Cが取り付けられている。長方形のプローブを測定対象であるペイントされた金属板の表面(以下、測定対象表面と称する)に設置する。長方形のプローブも食塩水漏洩を防ぐためにシリコンゴムで隙間埋めされている。
長方形のプローブには電極A,B,C付近の電位を測定するために塩橋がおのおのゴムキャップを用いて設置されている。塩橋はガラス製ルギン細管及びゴムチューブから構成され、寒天でゲル化させた飽和塩化カリウム水溶液(飽和塩化カリウム20ml+寒天0.60gで作成)で満たしている。
第12図に示されるように、塩橋はルギン細管部を測定対象表面に設置させ、他端を参照電極(Ag−AgCl参照電極、北斗電工製HX−205C)が設置された飽和塩化カリウム水溶液中に浸す。
電極の定電位制御用ガルバノスタットは北斗電工製HA−501を用いた。電極電流印加用直流電源装置は、日置電機製DCシグナルソース7011を用いた。
水槽には電気伝導度κ=4.0[Ω−1・m−1]の水溶液が満たされている。外部電源を模擬するために、水槽にCu電極(100mm×40mm,Cu)を設置してある(第11図(A)を参照)。
<4−2>内部電流遮断確認実験
電極Aから電流を印加して電極Bをガルバノスタットを用いて定電位制御を行った時と定電位制御を行わない時の2つの実験条件を設定した。この時の電極C付近の電位変化を観測した。実験装置の電気回路は第13図である。
実験手順は次のようになる。
(A1)電極Aに接続された直流定電源装置の出力を0mA、電極Bに接続されたガルバノスタットを自然電位測定モードとして測定系に電流を印加しないで、測定対象表面を自然電位にする。安定するまで15分ほど待つ。
(A2)初期状態での各電極における自然電位を計測する。
(A3)電極Bを定電位制御するために、ガルバノスタットを定電位モードに切り替える。定電位制御を行わないときでは、自然電位測定モードのままとする。
(A4)直流定電源の電流を流して、電極Aでの電位が自然電位から、負方向へ100mV変化するまで50mVごとに電位を変化させる。電位変化をさせた時は安定するまでに10分ほど待つ。
(A5)直流定電源から印加された電流と電極Cでの電位を計測する。
実験結果を第14図に示す。横軸は電極Aから印可した電流値で、縦軸は電極Aの電流印加によって生じた電極Cの電位変化である。第14図から分かるように、電極Bを定電位制御しない場合では電極Aから電流を印可した時に電極Cの電位は大きく変化するので、電極Bで外部領域を絶縁できていない。しかし、電極Bを定電位制御した場合では電極Cの電位はほとんど変化しない。従って電極Bで外部領域を絶縁できている事が確認できた。
<4−3>外部電流遮断確認実験
水槽に設置された外部電源を模擬するCu電極から電流を印可して、電極Cを定電位制御を行った時と定電位制御を行わない時の2つの実験条件を設定した。この時の電極A付近の電位変化を観測した。実験装置の電気回路は第15図である。
実験手順は次のようになる。
(B1)外部電流源電極に接続された直流定電源装置の出力を0mA、電極Cに接続されたガルバノスタットを自然電位測定モードとして測定系に電流を印可しないで、測定対象表面を自然電位にする。安定するまで15分ほど待つ。
(B2)初期状態での各電極における自然電位を計測する。
(B3)電極Cを定電位制御するために、ガルバノスタットを定電位モードに切り替える。定電位制御を行わないときでは、自然電位測定モードのままとする。
(B4)直流定電源の電流を流して、外部電流を印可する。電位が安定するまでに10分ほど待つ。
(B5)直流電流源から印可された電流と電極Aでの電位を計測する。
実験結果を第16図に示す。横軸は外部電源から印可した電流値で、縦軸は外部電源の電流印可によって生じた電極Aの電位変化である。第16図から分かるように、電極Cを定電位制御しない場合では外部電源から電流を印可した時に電極Aの電位は大きく変化するので、電極Cで測定領域を絶縁できていない。しかし、電極Cを定電位制御した場合では電極Aの電位はほとんど変化しないので、電極Cで測定領域を絶縁できている事が確認できた。
<5>本発明の他の実施形態
なお、上述した実施形態では、3つの同心円状の電極から構成されるプローブを備えた実環境分極測定装置について説明をしたが、本発明はそれに限ることなく、本発明の分極測定装置のプローブは、必ずし同心円状の電極である必要はなく、他の形状を採用することができる。例えば、プローブ形状が正方形である場合には、辺に沿って複数に分割された電極により、上述した実施形態に示した分極抵抗・分極曲線測定方法と同じ原理で、プローブの縁の部分で電位場を均一に保ち、プローブ中心付近への外部電流の流入を防ぐことができる。したがって、正方形のプローブ形状に対して分極抵抗と中心の電極の電流の関係を解析で得ることにより、上述した実施形態と同様な方法で分極抵抗を測定することができる。
また、上述した実施形態では、分極抵抗・分極曲線の測定対象である構造物の表面形状は平面である場合を例として説明したが、本発明に適用可能な測定対象の形状はそれに限ることなく、他の形状であっても良い。つまり、分極抵抗・分極曲線の測定対象である構造物の表面形状が平面でない場合、例えば、円柱の側面の場合であってもプローブ形状を円柱側面形状にあわせて、例えばアーチ型の曲面状に構成し、辺に沿って複数に分割された電極により、上述した実施形態に示した方法と同じ原理でプローブの縁の部分で電位場を均一に保ち、プローブ中心付近への外部電流の流入を防ぐことができる。従って、対象構造物の表面形状が平面でない場合でも本発明を適用することが可能である。
なお、本発明に係る実環境分極抵抗・分極曲線測定方法では、分極抵抗同定及び外部電流同定について、CPUにより実行されるコンピュータ・プログラムで実現されることもできる。
なお、本発明に係る実環境分極測定装置のプローブの測定面は、必ずしも平面である必要はなく、例えば第17図に示すような形状の測定面であっても良い。また、本発明に係る実環境分極測定装置のプローブそのものの形状及び電極の形状は、必ずしも円形である必要はなく、例えば第18図に示すように、閉曲線の形状であっても良い。さらに、本発明に係る実環境分極測定装置のプローブにおいて、測定領域を取り囲む各電極は、必ずしも連続な電極である必要はなく、例えば第19図に示すように、それぞれ複数の部分電極から構成されるようにしても良い。
また、本発明に係る実環境分極測定装置のプローブにおいて、例えば第4図に示すように、電極A、電極B、電極Cの近傍にそれぞれ電位を測定するための専用の電極(つまり、参照電極)を備えることにより、電位測定の精度が一層増す。
【発明の効果】
先ず、本発明によれば、溶液中の金属材料表面の分極抵抗・分極曲線を実環境で測定する際に、周囲環境から測定表面の密封を確保しなくて良いので、従来法での分極抵抗・分極曲線の測定時に必須な作業である、密封容器の密閉を確認するために測定前に水漏れテストやダイバーが行う密封容器の設置作業を無くすことができるという優れた効果を奏する。
次に、本発明によれば、対極と測定表面との距離が近くても分極測定が可能なため、分極測定装置そのものの小型化を可能にした効果を奏する。
すなわち、本発明によれば、金属材料表面及び金属表面に塗布された塗膜の実環境での分極抵抗・分極曲線測定を簡単且つ高効率的に行うことができるといった顕著な効果を奏し得る。
【産業上の利用可能性】
上述した本発明をあらゆる溶液中での防食腐食分野に適用することができる。例えば、本発明を用いれば、海水中などの実環境での金属材料表面及び金属表面に塗布された塗膜(例えば、海水に浸かっている船の壁面等)の分極抵抗・分極曲線の測定は簡単にできる。よって、船の壁面などの腐食速度を正確に見積もることができる。
<参考文献一覧>
【非特許文献1】前田正雄,「電極の化学」,技報堂,1961年
【非特許文献2】逢坂哲彌他2名,「電気化学測定法−応用測定マニュアル」,講談社,1990年
【非特許文献3】木島茂,「防食工学」,日本工業新聞社,1982年
【非特許文献4】G.・ラングレン(G. Wranglen),吉沢四郎他2名共訳,「金属の腐食防食序論」,化学同人
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液中の測定対象の表面の分極抵抗及び分極曲線を測定するための分極測定装置であって、
第1の電極と、前記第1の電極を取り囲んで2重に順番に配置された第2の電極、第3の電極とを備えるプローブを備え、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に、また、前記第2の電極と前記第3の電極との間に、絶縁材料で充填されていることを特徴とする実環境分極測定装置。
【請求項2】
前記第1の電極は前記プローブの中心に配置されており、前記第2の電極、前記第3の電極は、前記第1の電極を中心とする同心円状な電極である請求の範囲第1項に記載の実環境分極測定装置。
【請求項3】
前記第2の電極、前記第3の電極は、それぞれ複数の部分電極から構成されている請求の範囲第1項に記載の実環境分極測定装置。
【請求項4】
請求の範囲第1項乃至請求の範囲第3項のいずれかに記載の実環境分極測定装置を用いて、溶液中の測定対象の表面の分極抵抗を実環境に測定する実環境分極抵抗測定方法であって、
前記実環境分極測定装置を前記測定対象の付近に設置するステップと、
前記第1の電極から前記測定対象に電流を印加するステップと、
前記第1の電極が電流を印加したときに、前記第2の電極及び前記第3の電極では、電位変化が生じない様に電流を制御するステップと、
前記第1の電極、前記第2の電極、前記第3の電極に流れる電流を各々電流計で測定するステップと、
電極における電位および電流値から分極抵抗αの推定を行うステップと、
を有することを特徴とする実環境分極抵抗測定方法。
【請求項5】
請求の範囲第1項乃至請求の範囲第3項のいずれかに記載の実環境分極測定装置を用いて、溶液中の測定対象の表面の分極曲線を実環境に測定する実環境分極曲線測定方法であって、
前記実環境分極測定装置を前記測定対象の付近に設置するステップと丶
前記測定対象の電位をシフトさせながら、分極曲線の傾きである分極抵抗を同定する分極抵抗同定ステップと、
前記プローブでの電極電位を観測量とし、外部電流を同定する逆問題を解く事で分極曲線の一点を決定する外部電流同定ステップと、
を有することを特徴とする実環境分極曲線測定方法。
【請求項6】
前記外部電流同定ステップにおいて、さらに、
前記プローブを前記測定対象の付近に設置するステップと、
前記第1の電極、前記第2の電極、前記第3の電極では、電流を印加しないで電位を各々測定するステップと、
前記測定対象の電位からの微小電位変化に対して分極曲線を式φ=α(i−i)=α×i+β(ここで、iは外部電流で、αは分極抵抗で、βは分極パラメータで)で近似し、電極における電位および電流値から分極パラメータβを推定するステップと、
を有する請求の範囲第5項に記載の実環境分極曲線測定方法。
【請求項7】
請求の範囲第1項乃至請求の範囲第3項のいずれかに記載のの実環境分極測定装置を用いて、溶液中の測定対象の表面の分極曲線を実環境に測定する実環境分極曲線測定方法であって、
前記実環境分極測定装置を前記測定対象の付近に設置するステップと、
前記第2および第3の電極付近のそれぞれの電極での電位が同じになるように電流を制御するステップと、
前記第1の電極から前記測定対象に電流を印加するステップと、
前記第1、第2、第3の電極で測定された電流値から前記測定対象の表面に流れた電流密度を求めるステップを有することを特徴とする実環境分極曲線測定方法。

【国際公開番号】WO2005/050186
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【発行日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515541(P2005−515541)
【国際出願番号】PCT/JP2004/004084
【国際出願日】平成16年3月24日(2004.3.24)
【出願人】(899000013)財団法人理工学振興会 (81)
【Fターム(参考)】