説明

実血流量測定システムおよび方法

【課題】既存の血液回路に変更を加えることなく、かつ、血液透析装置に圧力検出器を追加せず既存の圧力検出器からの圧力検出値を利用して、血液ポンプ一次側の脱血圧を測定できるようにし、その脱血圧から実血流量を迅速にかつ精度良く測定できるようにした実血流量測定システムおよび方法を提供する。
【解決手段】血液ポンプを用いて患者の体内との間で血液を循環させる血液回路を有する血液体外循環装置における、実血流量測定システムであって、血液ポンプ以降の血液回路内の圧力を検出する圧力検出手段と、該圧力検出手段による検出圧力の変動の振幅と血液ポンプの設定流量とに基づいて脱血圧を算出する脱血圧算出手段と、該脱血圧算出手段により算出された脱血圧を参照し、あらかじめ求めた脱血圧と実血流量との関係を表す特性曲線から実血流量を算出する実血液流量算出手段とを有することを特徴とする実血流量測定システム、および実血流量測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実血流量測定システムおよび方法に関し、とくに、血液透析装置や血液浄化装置等の血液体外循環装置において、実質的に既存の設備を用いて、実際の血液の流量を迅速かつ精度良く求めることができるようにした実血流量測定システムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液ポンプを用いて患者の体内との間で血液を循環させる血液回路を有する血液体外循環装置、とくに血液透析装置や血液浄化装置は広く知られている。たとえば、血液透析においては、患者の動脈側から採血され、体外の血液透析装置で透析した後の浄化された血液が静脈側に戻される。このような血液透析装置は、広く実用化されており、代表的なものとして、特許文献1や特許文献2等に記載されたものが知られている。
【特許文献1】特公昭56−82号公報
【特許文献2】特公昭61−25382号公報
【0003】
血液透析装置では、血液透析を行うための血液透析要素として、透析膜を内在させた血液透析要素が用いられ、患者の動脈側から送られてきた血液中から、血液透析要素内で血液回路側と透析液回路との間で透析膜を介して尿成分などが除去され、また余剰水分が除去されて、透析後の血液が患者の静脈側へと戻される。この患者の体内との間の血液の送液・循環には、通常血液回路中の血液透析要素の上流側に設けられたチューブポンプからなる血液ポンプが用いられる。このチューブポンプは円弧状に湾曲されたチューブに対し、通常2個のローラーをチューブをしごくように回転させてチューブ内の血液を押し出すようにしたものであり、回転数に応じて精度良く流量が設定できるようになっている。
【0004】
血液透析を行う際には、血液ポンプによりシャントから血液を脱血するが、このときシャント穿刺部が抵抗となるため、血液ポンプ一次側の脱血圧は通常陰圧になる。上記のような構造を有するチューブポンプの特性上、ポンプの一次側が陰圧の場合には、実際のポンプ吐出量は設定流量に比べて減少することが知られている。
【0005】
血液透析要素の透析効率や発揮すべき性能は、通常、時間当たりの総血流量で透析効率を判断するようにしているので、上記のように血液ポンプの設定流量と実血流量との間にズレが生じた場合、設定流量で判断したのでは、最適な透析時間の設定や血液透析要素の最適設定を、正確に行うことができなくなる。最適な設定を行うためには、実血流量を精度良く測定できることが望まれる。
【0006】
このような問題に対し、先に本出願人により、未だ出願未公開の段階ではあるが特許文献3において、補液(例えば、生理食塩液)を血液側流路内に注入し、注入前後の検出圧力から実血流量を測定できるようにしたシステムが提案されている。しかしこのシステムにおける実血流量測定においては、測定を行う毎に生理食塩液を注入する必要があり、その分、測定および測定系が複雑になるという問題が残されている。
【特許文献3】特願2003−132959号
【0007】
一方、血液透析を行うために血液ポンプによりシャントから血液を脱血する際、前述の如くシャント穿刺部が抵抗となるため、血液ポンプ一次側の脱血圧は通常陰圧になるが、この脱血圧の陰圧値が過大になると、患者への負担が大きくなるとともに、過大な脱血圧が穿刺ミスがあることを示している場合もある。したがって、脱血圧測定はこのような患者への負担を軽減するために、極力迅速にかつ精度良く測定されることが望まれる。
【0008】
このような要望に対し、先に本出願人により、未だ出願未公開の段階ではあるが特許文献4において、血液回路内の圧力の検出手段による検出圧力の変動の振幅と血液ポンプの設定流量とに基づいて脱血圧を算出するようにした脱血圧測定システムが提案されている。この測定システムにより、既存の血液回路に実質的に変更を加えることなく、かつ、血液透析装置に圧力検出器を追加せず既存の圧力検出器からの圧力検出値を利用して、血液ポンプ一次側の脱血圧を迅速にかつ精度良く測定できるようになった。
【特許文献4】特願2004−172761号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、血液ポンプ一次側の脱血圧と実血流量との間に密接な関係が存在することに着目し、上記先に提案した特許文献4における脱血圧測定システムが、実血流量の測定にも適用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の課題は、前述したような実情に鑑み、既存の血液回路に変更を加えることなく、かつ、血液透析装置に圧力検出器を追加せず既存の圧力検出器からの圧力検出値を利用して、血液ポンプ一次側の脱血圧を測定できるようにし、その脱血圧から実血流量を迅速にかつ精度良く測定できるようにした実血流量測定システムおよび方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る実血流量測定システムは、血液ポンプを用いて患者の体内との間で血液を循環させる血液回路を有する血液体外循環装置における、実血流量測定システムであって、前記血液ポンプ以降の前記血液回路内の圧力を検出する圧力検出手段と、該圧力検出手段による検出圧力の変動の振幅と前記血液ポンプの設定流量とに基づいて脱血圧を算出する脱血圧算出手段と、該脱血圧算出手段により算出された脱血圧を参照し、あらかじめ求めた脱血圧と実血流量との関係を表す特性曲線から実血流量を算出する実血液流量算出手段とを有することを特徴とするものからなる。
【0012】
この実血流量測定システムにおいて、上記脱血圧算出手段としては、上記血液ポンプの各設定流量について、あらかじめ求めた上記振幅と脱血圧との関係を表す特性曲線に基づいて脱血圧を算出する手段から構成できる。このように算出された脱血圧を参照して、上記のように、あらかじめ求めた脱血圧と実血流量との関係を表す特性曲線から実血流量が算出される。
【0013】
また、上記血液ポンプとしては、チューブとローラーを備えたチューブポンプを用いることができる。このようなチューブポンプは、通常2個のローラーを備えたものからなり、ローター1回転で2回の圧力の変動を生じ、それに応じた振幅を生じる。
【0014】
本発明に係る実血流量測定システムは、上記のような血液ポンプを用いて患者の体内との間で血液を循環させる血液回路を有する血液体外循環装置であれば、いかなる種類の血液体外循環装置にも適用できる。代表的には、血液体外循環装置として、上記血液回路と透析液回路との間で血液透析を行う血液透析装置が挙げられる。また、本発明は、血液体外循環装置が、上記血液回路中の血液を浄化する血液浄化装置からなる場合にも適用できる。
【0015】
本発明に係る実血流量測定方法は、血液ポンプを用いて患者の体内との間で血液を循環させる血液回路を有する血液体外循環装置における、実血流量測定方法であって、前記血液ポンプ以降の前記血液回路内の圧力を検出し、その検出圧力の変動の振幅と前記血液ポンプの設定流量とに基づいて脱血圧を算出し、該算出した脱血圧を参照して、あらかじめ求めた脱血圧と実血流量との関係を表す特性曲線から実血流量を算出することを特徴とする方法からなる。
【0016】
この実血流量測定方法においては、上記血液ポンプの各設定流量について、上記振幅と脱血圧との関係を表す特性曲線を予め求め、該特性曲線に基づいて上記脱血圧を算出することができる。
【0017】
また、上記血液ポンプが、チューブとローラを備えたチューブポンプからなり、圧力の検出において、ローラの回転に伴う圧力の変動を検出する構成とすることができる。
【0018】
この本発明に係る実血流量測定方法も、上記血液体外循環装置が、血液回路と透析液回路との間で血液透析を行う血液透析装置である場合、上記血液体外循環装置が、血液回路中の血液を浄化する血液浄化装置である場合のいずれに対しても適用できる。
【0019】
このような本発明に係る実血流量測定システムおよび方法は、次のような技術思想に基づいて完成されたものである。すなわち、血液ポンプを有し、かつ動脈側または/および静脈側に(たとえば、血液透析装置における血液透析要素(ダイアライザー)の前後に)圧力検出部を有する血液体外循環装置においては、とくに動脈側圧力検出部より検出された圧力は、2ローター(2ローラー)の血液ポンプでは1回転で2回の圧力変動の振幅を生じる。静脈側においても、対応する振幅を生じる。この振幅の大きさは血液ポンプの速度(設定流量)や、血液ポンプ一次側の圧力(つまり、脱血圧)により変化する。血液ポンプの速度が速いほど、変動の位相の幅は小さくなり振幅は大きくなる。陰圧となる血液ポンプ一次側圧力が低いほど動脈側圧力検出部で検出される圧力は低くなり振幅は大きくなる。振幅の絶対値としては、血液ポンプの速度が速いほど、血液ポンプ一次側の圧力が低いほど振幅は大きくなる。このように、とくに動脈側圧力検出部での検出圧力は、血液ポンプ速度(つまり、血液ポンプの設定流量)と血液ポンプ一次側圧力(つまり脱血圧)に依存し、その最大値と最小値との差である振幅も、血液ポンプの設定流量と脱血圧とに依存して変化することになる。したがって、ある血液ポンプの設定流量における上記検出圧力の変動の振幅の大きさを把握できれば、その時の血液ポンプ一次側の圧力(脱血圧)が測定可能になる。本発明は、このような技術思想を利用して完成されたもので、後述の検証結果からも明らかなように、現実にこの技術思想に基づく算出により、迅速にかつ精度良く脱血圧を測定できることが確認されている。そして、測定された脱血圧を参照することにより、あらかじめ求めた脱血圧と実血流量の特性曲線から、迅速にかつ精度良く実血液流量を算出することができるようになる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る実血流量測定システムおよび方法によれば、極めて簡単な回路構成でありながら、とくに、既存の機械的構成を利用して動脈圧の振幅の大きさを測定するだけで、脱血圧を容易に、かつ迅速に、しかも実用上十分に精度良く測定することができ、測定された脱血圧を参照することにより、あらかじめ求めた脱血圧と実血流量の特性曲線から、迅速にかつ精度良く、そのときの実血流量を測定できるようになる。
【0021】
実血流量を正確に把握できる結果、最適な透析時間の設定や血液透析要素の最適設定等を、正確に行うことができるようになり、より望ましい条件にて血液透析や血液浄化を行うことができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、血液透析装置について、図面を参照しながら説明する。なお、前述したように、本発明は、血液透析装置以外に、血液浄化装置等の体外血液循環装置にも適用できる。
【0023】
図1は、本発明の一実施態様に係る実血流量測定システムを示している。図1において、1は、血液体外循環装置としての血液透析装置を示しており、血液ポンプ2を用いて患者3の体内との間で血液を循環させる血液回路4を有している。血液は、シャント動脈側5から採血され、シャント静脈側6を介して患者3の体内に戻される。血液は、チューブとローラ(たとえば、2ローラ)を備えたチューブポンプからなる血液ポンプ2により血液回路4を送られるが、シャント動脈側5の抵抗により、血液ポンプ2の一次側は一般に陰圧になる。本発明では、この血液ポンプ2の一次側の圧力を、脱血圧と言う。
【0024】
血液ポンプ2から吐出された血液は、密閉型のドリップ装置7を介して、血液透析要素(ダイアライザー)8の血液流路9側に送られる。血液透析要素8は、透析膜10により血液流路9側と透析液流路11側とに画成されている。血液透析要素8の透析液流路11側には、透析液回路12の透析液送液路13と透析液排液路14が接続されており、透析膜10を介して、循環されている血液に対し透析が行われ、血液の浄化、必要に応じた除水が行われるようになっている。透析後の血液は、血液透析要素8の血液流路9から、密閉型のドリップ装置15を介して、患者3の静脈側へ戻される。
【0025】
上記血液ポンプ2以降の血液回路4内の圧力を検出する手段として、本実施態様では、ドリップ装置7部分に圧力センサー16が設けられており、血液透析要素8の入口側の圧力が検出されるようになっている。本発明では、この部分の圧力を動脈圧と呼ぶ。そして、圧力センサー16による検出圧力の変動の振幅が、制御・演算装置17に組み込まれた脱血圧算出手段18により算出される。算出した動脈圧の変動の振幅が、後述の脱血圧の算出に用いられる。そして、算出された脱血圧を参照して、制御・演算装置17に組み込まれた実血流量算出手段19により、あらかじめ求めた脱血圧と実血流量との関係を表す特性曲線から、後述の如く、実血流量が算出されるようになっている。本実施態様では、上記動脈圧の変動は、血液ポンプ2の回転により、より正確には、2ローラの回転により、1回転で2回生じ、それぞれ振幅を生じる。この動脈圧の変動に対応する変動は、血液透析要素8通過後の静脈側でも検出可能であるため、ドリップ装置15に設けた静脈側の圧力センサー20による検出値の振幅を用いて、後述の脱血圧を算出することも可能である。
【0026】
制御・演算装置17からの信号に基づいて、血液ポンプ2の速度が設定され、血液ポンプ2の流量が設定される。この血液ポンプ2の設定流量と、上記圧力センサー16による検出圧力の変動の振幅とに基づいて、血液ポンプ2の一次側圧力である脱血圧が、脱血圧算出手段18により算出され、算出された脱血圧を参照して実血流量算出手段19により実血流量が算出される。
【0027】
このように、本実施態様においては、圧力センサー16による検出圧力の変動の振幅から、脱血圧が脱血圧算出手段18により算出されるが、この算出は、基本的に、血液ポンプ2の各設定流量毎に行われる。したがって、血液ポンプ2の各設定流量毎に、上記振幅と脱血圧との関係を表す特性曲線を予め試験により求めておけば、そのときの脱血圧は脱血圧算出手段18により迅速にかつ容易に算出されることになる。また、血液ポンプ2の設定流量が、予め行った試験における設定流量間の中間領域にある場合には、その両側の実際に試験した設定流量における両特性曲線に基づいて補正する(たとえば、補正係数を加入する)ことで、簡単に、その中間領域にある設定流量における特性曲線を算出することができ、その特性曲線に基づいて、検出圧力の変動の振幅から、脱血圧を脱血圧算出手段18により算出することができる。
【0028】
上記検出圧力の変動の振幅と脱血圧との関係を表す特性曲線を求めるために、以下のような試験を行った。試験に用いた装置を図2に示す。
【0029】
図2において、21は、血液透析装置(東レ・メディカル(株)製、TR−7000S)を示しており、血液透析装置21には、チューブポンプからなる血液ポンプ22(試験における流量制御範囲:50〜400mL/min)が設けられているとともに、血液流路におけるダイアライザー23(東レ・メディカル(株)製、BS−1.6UL)の前後の圧力のセンサーおよび表示部(動脈圧センサーおよび表示部24、静脈圧センサーおよび表示部25)が設けられている。
【0030】
試験液貯留タンク26に、血液と同等の粘度を有する試験液(キサンタンガム(XG)溶液(ヘマトクリット値〔Ht〕20%、30%、40%相当のもの))を各試験において貯留し、血液ポンプ22で吸入、圧送するとともに、流量調整弁27で流路抵抗を変えながら、血液ポンプ22の各設定流量毎に、血液ポンプ22の一次側圧力、すなわち、脱血圧を圧力計28で計測した。同時に、上記動脈圧センサー24による検出圧力を記録計29で記録し、そのときの検出圧力の変動の振幅を算出できるようにした。ダイアライザー23における血液回路30側に対する透析液回路31側には、透析液を供給した(透析液温度:36℃、透析液流量:500mL/min)。ダイアライザー23からの返血圧は、圧力計32で計測し、リリーフ弁33で、血液ポンプ22の設定流量変更毎に150mmHgに調節し、返血側(静脈側)の試験液は試験液貯留タンク26に回収した。このように構成したフローにて、血液ポンプ22の設定流量を50、100、150、200、250、300、350、400mL/minにそれぞれ設定して、各設定流量における、脱血圧と動脈圧振幅との関係を求めた。動脈圧振幅は、記録計29に示された動脈圧電圧変動の最大値、最小値の目盛りを読み取り、動脈圧に置き換えて、そのときの血液ポンプ設定流量における、動脈圧の最大値と最小値の差(振幅)を計算した。結果を図3〜図10に示す。
【0031】
図3〜図10においては、各Ht値(20%、30%、40%)について、上記で得られたデータをy=ax2 +bx+cの形の多項式で近似して特性線を求め、そのときの相関係数をR2 で表してある。
【0032】
図3〜図10から明らかなように、各血液ポンプ設定流量において、動脈圧振幅と脱血圧との関係は、十分に高い相関をもって特定の特性曲線で表せることが確認できた。したがって、そのときの血液ポンプ設定流量と動脈圧振幅とに基づいて、脱血圧を算出することができる。なお、図3〜図10においては、各Ht値毎に特性曲線を求めてあるが、血液ポンプ設定流量によっては、これら複数の特性曲線を一つの特性曲線で代表することが可能であり、一つの特性曲線で代表しても、Ht値の変化に関わらず十分な精度が得られる。
【0033】
また、そのときの血液ポンプ設定流量が上記試験で特性曲線を求めた血液ポンプ設定流量間にある場合には(たとえば、そのときの血液ポンプ設定流量が120mL/minで、試験で特性曲線を求めた血液ポンプ設定流量が100mL/minと150mL/minである場合には)、試験で求めた両特性曲線により、補正係数等を用いて、そのときの血液ポンプ設定流量における特性曲線を算出することが可能であり、その算出した特性曲線に基づいて、そのときの動脈圧振幅から脱血圧を算出することができる。
【0034】
このように、本発明によれば、血液ポンプ以降の血液回路内の検出圧力の変動の振幅と血液ポンプの設定流量とに基づいて脱血圧を迅速にかつ精度良くしかも容易に算出することができ、圧力計を新たに付加することなく、既存の装置にも容易に本発明を適用することができる。
【0035】
なお、上記実施態様および試験装置では、ダイアライザー前の動脈圧振幅から脱血圧を算出するようにしたが、ダイアライザー後の静脈圧でも、血液ポンプ回転による圧力変動が生じ、その振幅を算出できることから、この振幅と脱血圧との関係を各血液ポンプ設定流量毎に求めておくことにより、上記同様の脱血圧算出が可能になる。
【0036】
上記のように算出された脱血圧を参照して、実血流量算出手段19により、あらかじめ求めた脱血圧と実血流量との関係を表す特性曲線から実血流量が算出される。図11は、脱血圧と実血流量との関係を表す特性曲線としての、あらかじめ求めた、脱血圧と、実血流量を算出するための血液ポンプ設定流量に対する流量比との関係を表す特性曲線を、各Ht値(20%、30%、40%)について示したものである。
【0037】
前述の如く得られた脱血圧データをy=ax2 +bx+cの形の多項式で近似して、各Ht値(20%、30%、40%)について、流量比の特性線を求めたものである。それぞれの近似式は、
Ht20%: y = -0.000002x2 + 0.0004x + 1
Ht30%: y = -0.000002x2 + 0.0003x + 1
Ht40%: y = -0.000002x2 + 0.0003x + 1
となり、これらの差は下線の部分である。
【0038】
実血流量の算出は以下のように行う。
(1)算出された脱血圧から流量比を求める(算出された脱血圧を上記近似式に代入)。(2)次式にて実血流量を算出する。
実血流量=血液ポンプ速度設定値(ml/min)(設定流量)×流量比
【0039】
例えば、血液ポンプ速度設定値が200 ml/minのとき、脱血圧測定の結果が、−200 mmHgであったとすると、それぞれの実血流量算出値は以下のようになる。
Ht20%の近似式を用いたとき、実血流量は168 ml/min、Ht30%、40%の近似式を用いたとき、実血液流量は172 ml/minとなる。
【0040】
このときの条件において、実測値を確認した結果、以下のようであった。
Ht20%:179.3 ml/min
Ht30%:176.7 ml/min
Ht40%:178.6 ml/min
したがって、実用上問題のない精度で、脱血圧の測定結果から実血流量が算出されていることが確認できた。
【0041】
なお、図3〜図11においては、各Ht値毎に特性曲線を求めてあるが、血液ポンプ設定流量によっては、これら複数の特性曲線を一つの特性曲線で代表することが可能であり、その場合には、一つの特性曲線で代表しても、Ht値の変化に関わらず十分な精度が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明に係る実血流量測定システムおよび方法は、血液透析装置の他に、単に血液の浄化を行うだけの血液浄化装置等の血液体外循環装置にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施態様に係る実血流量測定システムの概略構成図である。
【図2】動脈圧振幅と脱血圧との特性曲線を求めるための試験装置の概略構成図である。
【図3】図2の試験装置における試験結果を示す特性図である。
【図4】図2の試験装置における別の試験結果を示す特性図である。
【図5】図2の試験装置におけるさらに別の試験結果を示す特性図である。
【図6】図2の試験装置におけるさらに別の試験結果を示す特性図である。
【図7】図2の試験装置におけるさらに別の試験結果を示す特性図である。
【図8】図2の試験装置におけるさらに別の試験結果を示す特性図である。
【図9】図2の試験装置におけるさらに別の試験結果を示す特性図である。
【図10】図2の試験装置におけるさらに別の試験結果を示す特性図である。
【図11】算出された脱血圧から実血流量を求めるための特性曲線を示す、脱血圧と流量比との関係図である。
【符号の説明】
【0044】
1 血液体外循環装置としての血液透析装置
2 血液ポンプ
3 患者
4 血液回路
5 シャント動脈側
6 シャント静脈側
7、15 密閉型ドリップ装置
8 血液透析要素(ダイアライザー)
9 血液透析要素の血液流路
10 透析膜
11 透析液流路
12 透析液回路
13 透析液送液路
14 透析液排液路
16 動脈側の圧力センサー
17 制御・演算装置
18 脱血圧算出手段
19 実血流量算出手段
20 静脈側の圧力センサー
21 血液透析装置
22 血液ポンプ
23 ダイアライザー
24 動脈圧センサーおよび表示部
25 静脈圧センサーおよび表示部
26 試験液貯留タンク
27 流量調整弁
28 脱血圧用圧力計
29 記録計
30 血液回路
31 透析液回路
32 返血圧用圧力計
33 リリーフ弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液ポンプを用いて患者の体内との間で血液を循環させる血液回路を有する血液体外循環装置における、実血流量測定システムであって、前記血液ポンプ以降の前記血液回路内の圧力を検出する圧力検出手段と、該圧力検出手段による検出圧力の変動の振幅と前記血液ポンプの設定流量とに基づいて脱血圧を算出する脱血圧算出手段と、該脱血圧算出手段により算出された脱血圧を参照し、あらかじめ求めた脱血圧と実血流量との関係を表す特性曲線から実血流量を算出する実血液流量算出手段とを有することを特徴とする実血流量測定システム。
【請求項2】
前記脱血圧算出手段が、前記血液ポンプの各設定流量について、あらかじめ求めた前記振幅と脱血圧との関係を表す特性曲線に基づいて脱血圧を算出する手段からなる、請求項1の実血流量測定システム。
【請求項3】
前記血液ポンプが、チューブとローラーを備えたチューブポンプからなる、請求項1または2の実血流量測定システム。
【請求項4】
前記血液体外循環装置が、前記血液回路と透析液回路との間で血液透析を行う血液透析装置からなる、請求項1〜3のいずれかに記載の実血流量測定システム。
【請求項5】
前記血液体外循環装置が、前記血液回路中の血液を浄化する血液浄化装置からなる、請求項1〜3のいずれかに記載の実血液流量測定システム。
【請求項6】
血液ポンプを用いて患者の体内との間で血液を循環させる血液回路を有する血液体外循環装置における、実血流量測定方法であって、前記血液ポンプ以降の前記血液回路内の圧力を検出し、その検出圧力の変動の振幅と前記血液ポンプの設定流量とに基づいて脱血圧を算出し、該算出した脱血圧を参照して、あらかじめ求めた脱血圧と実血流量との関係を表す特性曲線から実血流量を算出することを特徴とする実血流量測定方法。
【請求項7】
前記血液ポンプの各設定流量について、前記振幅と脱血圧との関係を表す特性曲線をあらかじめ求め、該特性曲線に基づいて前記脱血圧を算出する、請求項6の実血流量測定方法。
【請求項8】
前記血液ポンプが、チューブとローラーを備えたチューブポンプからなり、圧力の検出において、ローラーの回転に伴う圧力の変動を検出する、請求項6または7の実血流量測定方法。
【請求項9】
前記血液体外循環装置が、前記血液回路と透析液回路との間で血液透析を行う血液透析装置である、請求項6〜8のいずれかに記載の実血流量測定方法。
【請求項10】
前記血液体外循環装置が前記血液回路中の血液を浄化する血液浄化装置である、請求項6〜8のいずれかに記載の実血流量測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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