室内通信環境の設計方法、及び室内通信環境の設計計画用のコンピュータプログラム
【課題】遅延スプレッドと電波残響時間との相関性を利用して、遅延スプレッドの推奨値から所要の電波吸収力を、簡易に設計できる方法を提案する。
【解決手段】電波を反射する傾向を有する境界面で囲われた室内の対象空間の通信環境を設計する方法であって、電波の遅延スプレッド(DS)と電波の残響時間(TR)との関数式を用いて、遅延スプレッドの推奨値から、電波の残響時間を計算する第1の行程と、 計算した電波の残響時間に、電波の残響時間と吸収力との関係式又はこの関係式と等価な換算表を援用して、電波の残響時間に対応する電波吸収力を設定する第2の行程と、からなり、上記第1の行程において、電波の残響時間と遅延スプレッドとの関数式を次の数式1とした。
[数式1]DS=a×TR+b (但しa=0.072±0.01)
【解決手段】電波を反射する傾向を有する境界面で囲われた室内の対象空間の通信環境を設計する方法であって、電波の遅延スプレッド(DS)と電波の残響時間(TR)との関数式を用いて、遅延スプレッドの推奨値から、電波の残響時間を計算する第1の行程と、 計算した電波の残響時間に、電波の残響時間と吸収力との関係式又はこの関係式と等価な換算表を援用して、電波の残響時間に対応する電波吸収力を設定する第2の行程と、からなり、上記第1の行程において、電波の残響時間と遅延スプレッドとの関数式を次の数式1とした。
[数式1]DS=a×TR+b (但しa=0.072±0.01)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内通信環境の設計方法、及び室内通信環境の設計計画用のコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の屋内空間ではLANなどの情報通信のための環境の整備が重要視されている。通信の環境における問題の一つは、例えば図2に示す空間において、送信アンテナAT1から同時に発信された信号のうち受信アンテナAT2に直接届くもの(Signal1)と壁・床などに反射して受信アンテナに届くもの(Signal2)とがあることである。通信経路が多経路であると、ある時刻tに発信された信号と後の時刻t+Δtに発信された信号とが同時に受信されることになり、情報の送信エラーを招く可能性がある。こうした空間に無線LANを適用すると通信速度の低下や通信障害を生ずるおそれがあり、また無線電話システムを適用すると、音声が途切れるおそれがある。
通信環境の評価のために、電力遅延プロファイル(送信アンテナから送信されたインパルス信号の、受信アンテナでの受信電力レベルの時間変化)を用いて、受信波の時間的ばらつき巾の大きさを表わす遅延スプレッドという概念が用いられる。
【0003】
従来、通信環境の遅延スプレッドを推定するためには、送信アンテナから受信アンテナまでの電波の経路をトレースすることが行われていた(レイトレース法)。この方法は、屋外では地図データ、屋内では建物の見取り図や建物の材質の誘電率・導電率などのデータをコンピュータに記憶させ、送信アンテナから受信アンテナへの電波の伝搬経路を検索し、経路に沿って電力遅延プロファイルを求め、遅延スプレッドを計算するものである(特許文献1の段落0002の従来技術の欄)。しかしこの方法では、計算手順が複雑であって長時間の計算時間を必要とするとともに、一度で好適な遅延スプレッドの数値が得られないと、良好な数値を得るまで条件を変えて(電波吸収材を増やすなどして)計算を繰り返さなければならなかった。特に屋内の通信環境では、電波の反射頻度や回数が屋外に比べて格段に多くなるので、計算が非常に煩雑である。
【0004】
より簡易な方法として、特許文献1は、遅延スプレッドを推定したい場所と電波伝搬条件が類似している場所で過去に測定した信号瞬時レベル変動特性と電力遅延プロファイル特性とを利用する遅延スプレッドの推定方法を開示している(段落0006)。
また特許文献2には、無線通信を行う室の遅延スプレッドを、別の実験室に関して算出した遅延スプレッドに、2つの室の大きさの比の平方根を乗ずることで求める方法が記載されている(同文献の段落0057及び段落0058)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−242061号
【特許文献2】特開2001−350817
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「建築音響」共立出版株式会社 前川純一著 昭和43年5月1日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の方法は、電波伝搬環境が近似する他の場所で電力遅延プロファイルを測定していなければ適用できない。特許文献2の方法も、無線通信を行う室と実験室との電波伝搬条件の類似が前提であり、計算の手間がかかる点で従来と変らない。
【0008】
しかも電波には偏波という特性があり、一般的には水平偏波の電波は水平偏波のアンテナでしか受信できず、また垂直偏波の電波は垂直偏波のアンテナでしか受信できない。従って上記のシミュレーションでは、水平偏波・垂直偏波のそれぞれに、電波の入射角度毎に材料特性を計算する必要があり、多大な労力が必要である。
【0009】
出願人は、より簡単に通信環境の設計を行う方法を探究し、電波の拡散場においては、音響技術における残響時間の概念を電波に応用した概念(後述の電波残響時間)が遅延スプレッドと強い相関を示すことを発見した。反射性の強い室内の空間では、電波はあまり減衰せず何度も壁・床・天井に反射する。その際に、室の床と壁のコーナー、壁と天井のコーナーなどに反射した電波は、この偏波方向そのものが変化するため、つまり、水平偏波が垂直偏波に、垂直偏波が水平偏波に変化するため、発信源が水平偏波でも反射波は垂直偏波のアンテナで受信できることになる。このように複雑に反射し電波の進行方向や偏波がランダムになった場は拡散場と想定される。拡散場での電波のエネルギーの減衰曲線は、室内音響の残響曲線と同様な形となる。出願人の研究によれば、その減衰曲線の減衰初期段階の傾き(電波残響時間)を表す複数のデータをプロットすると図5に示す如く遅延スプレッドと非常に高い相関(0.985)にある。
【0010】
音響技術における残響時間(reverberation time)は、一般に音を急に止めたときに、残響音のエネルギーが元の音のエネルギーに比べて60dB低下する(換言すれば10−6まで小さくなる)時間である。音響学によれば、吸音力の小さい室に関して残響時間TRと室内の容積Vとの関係を表す式として、Sabineの残響式TR=KV/Aが知られている(非特許文献1の第33行目)。但し、Kは比例定数であって、K=24/(cs×log10e)であり、csは音速である。空室の場合には室内の表面積をS、平均吸収率をα0とすればA=S×α0である。この音波残響時間の計算では、残響チャンバーを用いることで、1つの周波数に対しては1回の測定で材料の特性が得られ、残響を所要レベルに減らすにはどの程度の吸音材を用いればよいのかが判る。こうした概念を電波に応用すれば、電波吸収材の設計を簡易に行うことができる。
【0011】
そこで出願人は、反射性の境界に囲まれた空間内で電波のエネルギーが10−6に減衰するのに要する時間を「電波残響時間」と定義し、音響技術の残響時間の手法を電波通信の環境設計に応用している。換言すれば電波残響時間は電波減衰時間でもある。
【0012】
本発明の第1の目的は、遅延スプレッドと電波残響時間との相関性を利用して、遅延スプレッドの推奨値から所要の電波吸収力を、簡易に設計できる方法を提案することである。
【0013】
本発明の第2の目的は、遅延スプレッドの推奨値を設定することで、所要の電波吸収材の面積や電波吸収率を容易に設計できる方法を提案することである。
【0014】
本発明の第3の目的は、上記方法の実行に適したプログラムを提案することである。
【0015】
本発明の第4の目的は、屋内空間内に人がいるか否かに係らず、容易に所要の電波吸収力を設計できるプログラムを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第1の手段は、
電波の拡散場である屋内空間の通信環境を設計する方法であって、
電波の遅延スプレッド(DS)と電波の残響時間(TR)との関数式を用いて、遅延スプレッドの推奨値から、電波の残響時間を計算する第1の行程と、
計算した電波の残響時間に、電波の残響時間と吸収力との関係式又はこの関係式と等価な換算表を援用して、電波の残響時間に対応する電波吸収力を設定する第2の行程と、からなり、
上記第1の行程において、電波の残響時間と遅延スプレッドとの関数式を次の数式1とし、また上記第2の行程において、屋内空間の容積を(V)、境界面の吸収力を(A)として、電波の残響時間から吸収力を求めるときに次の数式2を使用としている。
【0017】
(数1)
DS=a×TR+b (但しa=0.072±0.005:bは定数)
【0018】
(数2)
A=K×V/TR(但しKは定数)
【0019】
本手段では、電波の拡散場において、電波の残響時間と遅延スプレッドとの関係式を利用して、遅延スプレッドの推奨値から電波の残響時間を求め、電波残響時間から電波吸収力を設計することを提案している。前述のように遅延スプレッドと電波残響時間との間には図5に示すように相関性があり、これを数式1で表わす。音波の残響時間は屋内空間の容積に比例しかつ吸音力に反比例するが、電波残響時間も同様の性質を有する(数式2)。これらの数式を利用すれば、遅延スプレッドの推奨値から電波吸収力を、一義的な手順で容易に導くことが可能となる。この手順を図1の上半分に示している。これにより前述のシミュレーションを必要とせず机上で簡便に設計した目標値を満足する仕様を決定できる。
【0020】
数式2中のAとTRとを入れ替えた式、TR=K×V/Aは、電波残響時間の実質的な意味合いを示している。一般にはK=24/(c×log10e)=55.3/cであるが、cは音速ではなく、光速である。
【0021】
「拡散場」とは、電波のエネルギーが室内全体に一様に分布し、室内のあらゆる位置でも全ての方向への電波のエネルギーの流れが等しい状態を、電波が完全に拡散しているといい、このような室内の電磁場をいう。このような空間(電磁場)では偏波が明確でなく、水平偏波のアンテナでも垂直偏波のアンテナでも同等の電界強度が得られる。つまりは、偏波の影響が顕著でない空間をいい、例えば垂直偏波(又は水平偏波)を一つの送信アンテナから発信し、これと十分な距離(室平面の短辺の長さをLmとした場合L/3m)を隔てた受信アンテナで受信したときの垂直偏波と水平偏波との差が20dB以下であることと定義することができる。拡散場の性質に関しては後述する。「屋内空間」は、電波を反射する複数の境界面で空間のほぼ全体を囲まれている。拡散場であるから、電波のエネルギーの減衰曲線が室内音響の残響曲線と同様な形となり、電波残響時間と遅延スプレッドとの間の相関性が成立するからである。屋内空間は居住空間に限らず、無人の空間でもよい。「境界面」とは、金属やLow−Eガラスなどの反射性材料で形成される表面であり、複数の面がコーナーをはさんで隣接することで、偏波が変化し、拡散場としての扱いが可能となる。
【0022】
「数式1」は、慎重を期してDS=a×TR+bの形にしているが、一般的にはDS=a×TRの形で用いれば足りる。伝搬系のインパルス応答波形の標準偏差を表わす遅延スプレッドDSが零に近づけば、空間中の電波エネルギーが一定レベルに減衰する時間を表わす電波残響時間TRも零に近づくからである。「関係式と等価な換算表」とは、この関数式による計算結果をまとめて、残響時間から吸収力又は電波吸収材の分量を決定できるようにしたものを含む。
【0023】
第2の手段は、第1の手段を有し、かつ
さらに設定された電波吸収力の数値から、屋内空間内の電波吸収材の面積及び分量を設計する第3の行程とからなり
この第3の行程において、屋内空間の境界面を材料毎に分類して、i番目の材料の面積をSi、i番目の材料の吸収率をαiとするとき、屋内空間の吸収力を次の数式3で表して、各材料毎の面積を設計することを特徴としている。
【0024】
(数3)
A=ΣSi×αi (但しi=1、2…)
【0025】
本手段では、電波吸収力の設定の態様として、電波吸収力を数値として設定するだけではなく、その数値から電波吸収材の分量を設計することを提案している。数式3は、屋内空間全体の電波吸収力(A)を、空間の境界面を構成する各素材(床材・壁材・天井材・窓材など)の面積及び電波吸収率の積の和で表わしている。電波吸収材を敷設する前の状態において、[Aの目標値]>ΣSi×αiであれば、電波吸収材の敷設面積SA及び吸収率αAを用いて、電波吸収材を敷設した後の境界面の全体の吸収力をA1として、[Aの目標値]=SA×αA+A1となるようにSA及びαAを決定すればよい。屋内空間のうち電波吸収材を設置しない境界面の電波吸収力をA1とする。電波吸収材の面積を設定して所要の電波吸収材の電波吸収率を求めるときには、αA=(A−A1)/SAとすればよい。逆に電波吸収材の電波吸収率を設定して所要の電波吸収材の面積を求めるときには、簡単のために電波吸収材を設置する前の境界面の電波吸収率をαFとすれば、SA=(A−A1−Sα1)/(αA−α1)で与えられる。これらの式の説明については後で説明する。
【0026】
また屋内空間内に人がいるときには、屋内空間の全体の電波吸収力の一部を人体の電波吸収力が占めるが、レイトレース法などではシミュレーションの条件が複雑となりすぎるため、人体の電波吸収力を無視することが多い。本発明の方法では、後述のように部屋の広さに対応して予め人体の電波吸収力を測定し、これを[屋内空間の全体の電波吸収力]=[境界面全体の電波吸収力]+[居住者の電波吸収力]のような式に代入することで境界面全体の電波吸収力の設計の精度を高めることができる。
【0027】
第3の手段は、電波の拡散場である屋内空間の通信環境を設計する方法を行うためのコンピュータプログラムであり、
コンピュータを、
電波の遅延スプレッド(DS)と電波の残響時間(TR)との関数式である下記の数式1、及び電波の残響時間と吸収力との関係式である下記の数式2を記憶する記憶手段、
遅延スプレッドの推奨値を入力する手段、
記憶手段から数式1を呼び出して、この数式1に、上述の入力された遅延スプレッドの推奨値を代入して電波の残響時間(TR)を計算する手段、
屋内空間の容積(V)を入力する手段、
記憶手段から数式2を呼び出し、この数式2に、上述の計算された電波の残響時間(TR)及び屋内空間の容積(V)を代入して屋内空間全体の電波吸収力(A)を計算する手段、
計算した屋内空間全体の電波吸収力(A)を出力するための出力手段、
として機能させるように構成している。
[数式1]DS=a×TR+b (但しa=0.072±0.005)
[数式2]A=K×V/TR(但しKは定数)
【0028】
本手段では、第1の手段である方法の実施に適したコンピュータプログラムを提案している。このプログラムにより構成されるコンピュータの機能の概念図を図12に示す。
【0029】
第4の手段は、第3の手段を有し、かつ
上記屋内空間全体の電波吸収力(A)に代えて、或いはこの電波吸収力とともに、屋内空間の境界面に設けた電波吸収材の吸収率(αA)をコンピュータに出力させるためのプログラムであって、
コンピュータを、
上記屋内空間の電波吸収力(A)の計算値を少なくとも一時的に記憶する手段、
屋内空間のうち電波吸収材を設けていない境界面部分の吸収力(A1)と屋内空間内に居る人間の吸収力(A2)と電波吸収材の面積(SA)とを入力データとして入力する手段、
これら境界面部分の吸収力(A1)と屋内空間内の人間の吸収力(A2)と電波吸収材の面積(SA)と電波吸収材の吸収率(αA)と屋内空間全体の吸収力(A)との関係式である数式4を記憶する記憶手段、
この記憶手段から数式4を呼び出し、この数式4に、上記入力データである境界面部分の吸収力(A1)、屋内空間内の人間の吸収力(A2)、及び電波吸収材の面積(SA)と、計算結果である屋内空間全体の電波吸収力(A)とをそれぞれ代入し、電波吸収材の吸収率(αA)を計算する手段、
計算した電波吸収材の吸収率(αA)を出力するための出力手段
として機能させるためのものである。
【0030】
(数4)
αA=(A−A1−A2)/SA
【0031】
本手段では、第2の手段である方法の実施に適したコンピュータプログラムを提案している。本手段では、居住者による電波の吸収力を考慮に入れているが、必要がなければ省略することができる。「屋内空間内の人間の吸収力」とは、[空間内に居る人間の吸収力の総和]であり、[一人当たりの人間の吸収力]×[空間内の人数]で与えられる。
【発明の効果】
【0032】
第1の手段に係る発明によれば、次の効果を奏する。
○屋内空間の通信環境を計画する時点で、当該空間内の材料の吸収特性と面積とから、机上において電波エネルギーの減衰を表す電波残響時間をある程度の精度で簡易に計算でき、この電波残響時間と遅延スプレッドとの相関性を用いて通信環境を適切に設計できる。
○電波の残響時間を利用する場合には、1つの周波数に対して一度の計測で材料特性が得られ、レイトレース法でシミュレーションを行う場合のように材料特性を電波の入射角度毎にかつ水平・垂直の偏波毎に計測する必要がないので、大幅に労力を緩和できる。
第2の手段に係る発明によれば、次の効果を奏する。
○目標値の設定と目標値に則した材料の設定とが数式3を用いて比較的容易に行える。
○電波残響時間を用いて屋内空間に人が入った状態と入らない状態の双方に適用できる。
第3の手段に係る発明によれば、数式1及び数式2の計算をコンピュータに実行させるから、さらに効率がよい。
第4の手段に係る発明によれば、数式4を用いて電波吸収材の必要面積を計算できるから作業が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1実施形態に係る室内通信環境の設計方法の手順を示すフローチャートである。
【図2】本発明の方法が適用される屋内空間を側方から見た図である。
【図3】図2の空間の斜視図である。
【図4】一般的な電力遅延プロファイルの説明図である。
【図5】本発明の方法に用いられる遅延スプレッド(観測値及び予想値)と電波残響時間との相関図である。
【図6】図5の遅延スプレッドの観測値と予想値との残差を示す図である。
【図7】図5の遅延スプレッドの実験データの代表値を示す表である。
【図8】本発明の方法に関連する実験に使用された電波残響室の平面図である。
【図9】本発明の方法に関連する実験に使用された電波暗室計測室の平面図である。
【図10】図9の計測室で採取された実験データを示すグラフである。
【図11】本発明の第2実施形態に係る室内通信環境の設計方法の手順を示すフローチャートである。
【図12】本発明の第3の実施形態に係る室内通信環境の設計方法を実行するためのコンピュータプログラムの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1から図10は、本発明の第1の実施形態に係る室内通信環境の設計方法の説明図である。まずこの方法が適用される屋内空間と、この方法に使用される基本用語について解説する。
【0035】
図2は、屋内空間1を示す。屋内空間1の境界面2は、床面3と壁面4と天井面5とからなる。この屋内空間1は電波の拡散場を構築する。音響の拡散場は、音響のエネルギーが均一に分布し、任意の点で音の進行方向があらゆる方向に一様であるという性質を有する。電波の拡散場も同様である。但し完全な拡散場である必要はない。具体的には、床面3にはデッキプレート6などが埋め込まれており、壁には金属パーティション(図示せず)が埋め込まれている。壁に窓を設ける場合に用いる窓ガラスは、Low−Eガラスなどの反射性材料でもよい。また各面の内部には電磁シールドを施してもよい。
【0036】
屋内空間1の通信環境を改善するためには、広い面積にあまり高くない性能を有する低コストの電波吸収材を敷設し、直接波だけではなく、反射波を含めた入射波を吸収することが現実的である。そこで図3に示すように、全面積Sの境界面2の一部に電波吸収材8を敷設し、所要の遅延スプレッドを実現するために必要な電波吸収材8の面積SA及び電波吸収材の吸収率αAを求めるものとする。
【0037】
遅延スプレッドDSは電力遅延プロファイルPmから導かれる値である。図4に室内の電波のエコーを測定した電力遅延プロファイルの一例を示す。横軸は遅延距離D(時間T=D/c、c:光速)を示し、縦軸は受信強度(相対値)を示している。送信アンテナからパルス状に電波が放射され、多数の経路を経て伝搬し、受信アンテナで受信された電波の受信電力Pmは次式で与えられる。ここでt0はf(t)が最初に雑音レベルを超える時刻であり、t1はf(t)が最後に雑音レベル以下になる時刻である。
【0038】
【数5】
また平均遅延TDはf(t)の平均値であり次式で与えられる。
【0039】
【数6】
受信電力Pm、平均遅延TDを用いて、遅延スプレッドDSは次式で与えられる
【0040】
【数7】
【0041】
次に図1に従って本発明の設計方法の手順を説明する。
(1)遅延スプレッドの推奨値の設定
遅延スプレッドDSの推奨値を、屋内空間1に構築する通信手段の内容に応じて定める。
【0042】
(2)屋内空間の電波残響時間を計算する。
遅延スプレッドDSの推奨値を、前述のTR=DS/aに代入して電波残響時間TR(ns:ナノ秒=10−9秒)を計算する。TR=DS/aは、遅延スプレッドと残響時間の関係から求めた回帰式である。ここでa=0.072とする。遅延スプレッドの推奨値は、無線LANの機器のカタログに数値が明示されていれば、その数値を用いる。
【0043】
(3)所要の電波吸収力を計算する。
計算した電波残響時間を前述のA=K×V/TRに代入し、所要の電波吸収力Aを計算する。ここでV=室容積(m3)、A:吸収力(m2セービン)、K:定数、K=24/(c×log10e)c=55.3/c=1.8×10−7、c:電波の伝搬速度(m/s)である。
所要の電波吸収力Aと、電波吸収材を敷設する前の屋内空間の電波吸収力AINと比較して、A>AINならば電波吸収材の設計を行う。床面の面積をSF、吸収率をαF、壁面の面積をSW、吸収率をαW、天井面の面積をSC、吸収率をαCとすると、AIN=ΣSi×αi=SF×αF+SW×αW+SC×αCとなる。
【0044】
(4)電波吸収材の面積及び吸収率を設計する。
(4−1)電波吸収材の面積を設定して電波吸収材の電波吸収率を算出する場合
この場合には、電波吸収材の面積及び設置場所が最初に決まってしまうので、屋内空間1の境界面2のうち電波吸収材を設置しない部分の電波吸収力A1が一義的に決まる。空間全体の電波吸収力のうち居住者の身体による吸収力を無視するとすれば、A=A1+SA×αAであるから、電波吸収材の面積は次式で与えられる。
[数式8]SA=(A−A1)/αA
簡単のために境界面の電波吸収率を一律にα1とし、境界面の全面積Sのうちx%に電波吸収材を設置するとすれば、A1=α1×S×(x/100)である。
【0045】
(4−2)電波吸収材の電波吸収率を設定して面積を算出する場合
この場合に、屋内空間の境界面のうち電波吸収材を敷設していない部分の面積S1は、S1=S−SAであるから、A=S1×α1+SA×αA=(S−SA)×α1+SA×αA=S×α1+(αA−α1)×SA=AIN+(αA−α1)×SAとなる。これから電波吸収材の面積は次のように求められる。
[数式9]SA=(A−S×α1)/(αA−α1)
【0046】
床面2と壁面3と天井面4との電波吸収力が異なる場合には、次の手順で電波吸収材を求めればよい。例えば天井面の一部に電波吸収材を敷設する。天井面のうち電波吸収材を敷設していない部分の面積をS1とすると、S1=SF−SAであるから、A=(SF−SA)×αF+SW×αW+SC×αC+SA×αA=SF×αF+SW×αW+SC×αC+(αA−αF)×SA=AIN+(αA−αF)×SAである。
[数式10]SA=(A−ΣSi×αi)/(αA−αF) (但しAIN=S×α1)
【0047】
以上の設計方法によれば、遅延スプレッドと電波残響時間との相関性から所要の電波残響時間が導かれる。或る空間の電波残響時間は、その空間を構成する材料の吸収特性と面積とから簡易に計算できるから、通信環境の設計が容易となる。また電波残響時間の計算では、残響室法を用いて1つの周波数に対しては1回の測定で材料の特性が得られる。
【0048】
図5は、遅延スプレッドと電波残響時間との関係を表わす図である。同図中の◆は遅延スプレッドの観測値である。図6は各観測点での観測値と回帰値との差(残差)を残響時間ごとに表わしている。図7は各観測点での遅延スプレッドの観測値と予想値との差(残差)を表にしたものである。図5から回帰直線を求めると、0.985という高い相関性が得られた。
【0049】
この実験は、下記の表1に示すように容積の異なる複数の電磁シールド室No.1〜No.9で行われた。電波吸収材としては、ITフォームまたは超広帯域電波吸収フィルムを用いて、これらの電波吸収材の面積をいろいろと変化させて電波残響時間と遅延スプレッドとの関係を実験した。その実験の一例を示すと次のようになる。電磁シールド室はNo.5を利用しており、測定された電波残響時間は1553.9〜8453.7nsであり、遅延スプレッドは97.2〜664.2 nsある。
【0050】
【表1】
【0051】
電波残響時間の概念を理解するために、図5の知見に至る経緯を説明する。まず図8に示す電磁シールド室(音響残響室の約1/10の縮尺モデルとしたもの)10を構成し、拡散場における電波吸収性能の測定を行った。電波残響室中の三角印の位置に送信アンテナAT1を、丸印の位置に受信アンテナAT2を配置した。電波残響室内に炭素を内包した発泡吸収体(25mm×300mm×400mm)の測定試料を配置した場合と配置しない場合とで2.45GHzでの遅延プロファイルを観測した。遅延プロファイルをシュレーダー積分して滑らかな減衰曲線とし、その傾斜角から測定試料がある場合の電波残響時間T2及び測定試料がない場合の電波残響時間T1を計算し、JISA1409の計算式[α=55.3V/Sc(1/T1−1/T2)]に代入した。但しVは電波残響室の容積(m3)、Sは測定試料の面積(m2)である。
【0052】
次に図9のような内法4.75m×4.95mの電磁シールド室12で電波残響時間を測定した。室内仕上げは壁が電磁シールドパネル、床が金属OAフロアの表面にカーペット、天井が電磁シールドパネルである。さらに天井側に電波吸収体を設置した。そして1つの発信アンテナAT1と多数の受信アンテナAT2とを設置し、周波数2.45GHz帯の電波を用いて観測した遅延プロファイルをシュレーダー積分して図10の如き偏波毎の残響曲線を得た。各曲線は直線的な減衰を示し、偏波による差は小さい。従って図9に示す矩形の部屋の内部でも拡散場に近いことが確認された。さらに各曲線の傾斜から電波残響時間(60dB減衰に要する時間)を計算した。計算により吸収率に関して次の表の結果を得た。電波残響時間は、電波吸収体がない場合には600ns程度、電波吸収体がある場合には430ns程度となった。
【0053】
【表2】
【0054】
図11は、本発明の第2の実施形態に係る室内通信環境の設計方法の説明図である。本実施形態では、屋内空間1の電波吸収力として屋内空間の境界面の電波吸収力の他に居住者の電波吸収力A2を考慮して電波吸収材の吸収特性を設計している。そのためには、第1実施形態で使用した数式SA=(A−A1)/αAを、αA=(A−A1−A2)/SA(数式4)と置き換え、また、数式SA=(A−S×α1)/(αA−α1)を、SA=(A−S×α1)/(αA−α1−A2)と置き換えればよい。A2は、屋内空間に居る居室者全体の電波吸収力である。具体的な手順を図11にフローチャートで描いた。図1の第1ステージ及び第2ステージと同じ手順に関しては、手順の記載を省略している。
【0055】
従来のレイトレース法などでは、人が居る場合のシミュレーションが複雑であったが、本発明の方法ではヒトの電波吸収力を簡単に定量化することができる。人間1人当りの電波吸収力は、衣服を含む人体の表面積と吸収率とに依存する。厳密に言えば起立した人の電波吸収量は、着座した人のそれよりも多いなどの相違があるが、一定の条件(例えば居住者が全員着座しているという条件)で人間1人当りの電波吸収量を求め、これに予想される居室者の数を乗じて、居住者全体の電波吸収力A2を推定できる。居住者の数が一定ではないときに部屋の定員数に比べて少なめに(例えば1人に)設定することもできる。
【0056】
出願人は、所定の電磁シールド室に各種電波吸収材を敷設した場合と複数のヒトを入室した場合とでそれぞれ電波吸収力を実験して調べた。この実験ではヒト一人当たりの電波吸収率は0.34であった。
【0057】
【表3】
【0058】
図12は、本発明の第3の実施形態に係るコンピュータプログラムにより構築されるコンピュータシステムの構成を示している。説明の便宜上、システムの構成から説明する。
【0059】
このコンピュータシステムは、入力手段20と、計算手段22と、記憶手段24と、出力手段26とで構成される。
【0060】
入力手段20は、キーボードやマウスなどのインターフェイスであり、少なくとも図1又は図11のフローチャートに「入力」又は「指定」と記載した各種データを受け取る機能を有する。計算手段(演算処理部)22は、少なくとも前述の数式1〜4及び数式8〜9の計算を行うことができる程度の演算能力を有する。記憶手段24は、上記各数式、電波吸収材として使用可能な素材の電波吸収力、ヒトの身体の電波吸収力などのデータを記憶している。出力手段26は、プリンターやコンピュータ画面などで構成することができる。
【0061】
コンピュータプログラムは、コンピュータを先の第3の手段及び第4の手段において記載した各手段として機能させる働きを行う。図1及び図11に具体的な機能を記載している。
【0062】
コンピュータプログラムにより実行される手順を図1に従って説明する。手順の主体は特に明示しない限り計算手段(演算処理部)である。
(イ−1)遅延スプレッドの奨励値を入力することを利用者に促すこと。
ここにおいて利用者が直接遅延スプレッドの奨励値を数字で入力するようにしてもよいが、表4のように市販の通信機器のカタログ情報と対応する遅延スプレッドの奨励値とを対応づけた換算テーブルを、データベースとして記憶手段に予め構築しておき、利用者がこの表の左欄の通信機器を選択すると、記憶手段から計算手段へ対応する遅延スプレッドの奨励値が送られるようにしておいてもよい。
【0063】
【表4】
【0064】
(イ−2)記憶手段から数式DS=a×TRを呼び出し、遅延スプレッドの推奨値を代入して電波残響時間を計算すること。
(イ−3)計算した電波残響時間を好ましくはコンピュータ画面などの出力手段に出力させ、さらに屋内空間の容積Vを入力することを利用者に促すこと。
(イ−4)数式A=K×V/TRを記憶手段から呼び出し、電波吸収力の目標値を計算すること。
(イ−5)電波吸収力を計算した後に処理を継続するか否かの指示を入力することを利用者に促すこと。
(イ−6)作業を打ち切るときには、計算した電波吸収力の目標値を出力すること。
(イ−7)電波吸収材の面積や吸収率の設計を行うときには、その面積及び吸収率の何れを計算するかの指示を入力するように利用者に求めること。
【0065】
(ロ−1)電波吸収材の吸収率を計算するときには、電波吸収材の面積を指定することを利用者に求めること。
(ロ−2)面積が指定されたら、電波吸収材を設けない境界面部分の素材i毎の吸収率αi及び面積Siを入力することを利用者に求めること。
なお、このステップにおいて利用者が各素材の吸収率を直接入力する代わりに、市販の各素材と吸収率とを対応づけた換算テーブルを、データベースとして記憶手段に予め構築しておき、利用者がこの表の左欄の通信機器を選択すると、記憶手段から計算手段へ対応する吸収率が入力されるように構成してもよい。
(ロ−3)電波吸収材を設けない境界面部分の面積及び吸収率のデータが入力されたら、記憶手段から数式A1=ΣSi×αiを呼び出して、電波吸収材を設けない境界部分の吸収力A1を計算すること。
(ロ−4)電波吸収材を設けない境界部分の吸収力A1を計算しかつ電波吸収材の面積が入力されたら、記憶手段から数式8であるαA=(A−A1)/SAを呼び出して、電波吸収材の吸収率αAを計算すること。
(ロ−5)電波吸収材の吸収率の計算値が吸収率の上限値を超えないときには、その計算値を出力し、上限値を超えるときには新たな面積の入力を利用者に求める。
利用者が電波吸収材の面積SAをあまり小さくすると、数式8から判るように、吸収材の吸収率αAが現実的ではないほど大となる可能性がある。そこで予め利用者が指定した上限値と吸収材の計算値とを演算処理部が比較し、計算値が上限値を超えるときには、(ロ−1)の段階に戻って新たな面積を入力することを利用者に要求するようにするとよい。
【0066】
(ハ−1)電波吸収材の面積を計算するときには、電波吸収材の吸収率を指定することを利用者に求めること。
この場合には、各種電波吸収材の種類と吸収率との換算テーブルを予め記憶手段に構築し、(ロ−2)で述べた換算テーブルと同様に活用するようにしてもよい。
(ハ−2)電波吸収材を敷設しない境界面部分の吸収率α1及び境界面全体の面積Sを入力することを利用者に促すこと。
ここでは、電波吸収材を設けない境界面部分の吸収率は一定であるものとする。完全に一定ではないが、ほぼ一定とみなせるときには、平均吸収率をα1とする。
(ハ−3)S,α1,αAが入力されたら、数式9であるSA=(A−S×α1)/(αA−α1)を記憶手段から呼び出してSAを計算する。
(ハ−4)電波吸収材の面積SAの計算値が面積の上限値を超えないときには、その計算値を出力し、上限値を超えるときには新たな吸収率の入力を利用者に求める。
数式9のうちの(αA−α1)が小さすぎると、面積SAが過大となる恐れがある。故に(ロ−5)で述べたのと同様に吸収材の面積の上限値を設定し、上限値を超えたときには再度数値を入力するようにするとよい。
【実施例】
【0067】
DS=0.0716TRとしていくつかの場合について具体的に説明する。
[実施例1]
スティールパーティションの壁とアルミパンチングメタルの天井で囲われた5m×6mの平面、天井高さ2.8mの会議室における2.45GHz(無線LANのIEEE802.11g規格)の残響時間を計算する。室容積は81.0m3である。各部材の吸収率は表5の値を用いる。
【0068】
【表5】
【0069】
この表から求めた吸収力Aを用い、室容積81を数式2に代入すると、残響時間TはT=K・V/A=184.21×81/2.411=6188.7(ns)となる。遅延スプレッドDSは残響時間と0.0716の積であるから、443.1(ns)となる。なお、在室者がない場合の吸収力は1.047と減少し、残響時間は14251.2(ns)となる。また遅延スプレッドは同様に1020.4(ns)となる。
【0070】
[実施例2]
計算例―1と同じ寸法のスチールパーティションで囲われた会議室で、外壁に面しており通常のガラス窓2m×2mが2つある場合の残響時間と遅延スプレッドを計算する。
【0071】
【表6】
【0072】
この場合、実施例1と比べて吸収力Aのみが増加する。普通ガラスは誘電率が4.8であり、この値から算出した透過減衰量は0.5dBであることから、殆ど反射せず透過してしまう、即ち室内側から見ると吸収率が1に近い値となることが分かる。このような普通ガラスの窓面積が大きい室内では、他の壁、床、天井が反射性であっても室内の残響時間や遅延スプレッドは大きな値とならず、通信環境として良好なものとなる。
【0073】
なお、上記実施形態は、本発明の好適な一例であり、本発明の原理・性質に反しない限り、本願特許請求の範囲に属する他の実施形態を除外する根拠として解釈されるべきではない。
【符号の説明】
【0074】
1…屋内空間 2…境界面 3…床面 4…壁面 5…天井面 6…デッキプレート
8…電波吸収材 10…電波残響室 12…電波暗室計測室 14…電波シールド室
20…入力手段 22…計算手段 24…記憶手段 26…出力手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内通信環境の設計方法、及び室内通信環境の設計計画用のコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の屋内空間ではLANなどの情報通信のための環境の整備が重要視されている。通信の環境における問題の一つは、例えば図2に示す空間において、送信アンテナAT1から同時に発信された信号のうち受信アンテナAT2に直接届くもの(Signal1)と壁・床などに反射して受信アンテナに届くもの(Signal2)とがあることである。通信経路が多経路であると、ある時刻tに発信された信号と後の時刻t+Δtに発信された信号とが同時に受信されることになり、情報の送信エラーを招く可能性がある。こうした空間に無線LANを適用すると通信速度の低下や通信障害を生ずるおそれがあり、また無線電話システムを適用すると、音声が途切れるおそれがある。
通信環境の評価のために、電力遅延プロファイル(送信アンテナから送信されたインパルス信号の、受信アンテナでの受信電力レベルの時間変化)を用いて、受信波の時間的ばらつき巾の大きさを表わす遅延スプレッドという概念が用いられる。
【0003】
従来、通信環境の遅延スプレッドを推定するためには、送信アンテナから受信アンテナまでの電波の経路をトレースすることが行われていた(レイトレース法)。この方法は、屋外では地図データ、屋内では建物の見取り図や建物の材質の誘電率・導電率などのデータをコンピュータに記憶させ、送信アンテナから受信アンテナへの電波の伝搬経路を検索し、経路に沿って電力遅延プロファイルを求め、遅延スプレッドを計算するものである(特許文献1の段落0002の従来技術の欄)。しかしこの方法では、計算手順が複雑であって長時間の計算時間を必要とするとともに、一度で好適な遅延スプレッドの数値が得られないと、良好な数値を得るまで条件を変えて(電波吸収材を増やすなどして)計算を繰り返さなければならなかった。特に屋内の通信環境では、電波の反射頻度や回数が屋外に比べて格段に多くなるので、計算が非常に煩雑である。
【0004】
より簡易な方法として、特許文献1は、遅延スプレッドを推定したい場所と電波伝搬条件が類似している場所で過去に測定した信号瞬時レベル変動特性と電力遅延プロファイル特性とを利用する遅延スプレッドの推定方法を開示している(段落0006)。
また特許文献2には、無線通信を行う室の遅延スプレッドを、別の実験室に関して算出した遅延スプレッドに、2つの室の大きさの比の平方根を乗ずることで求める方法が記載されている(同文献の段落0057及び段落0058)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−242061号
【特許文献2】特開2001−350817
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「建築音響」共立出版株式会社 前川純一著 昭和43年5月1日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の方法は、電波伝搬環境が近似する他の場所で電力遅延プロファイルを測定していなければ適用できない。特許文献2の方法も、無線通信を行う室と実験室との電波伝搬条件の類似が前提であり、計算の手間がかかる点で従来と変らない。
【0008】
しかも電波には偏波という特性があり、一般的には水平偏波の電波は水平偏波のアンテナでしか受信できず、また垂直偏波の電波は垂直偏波のアンテナでしか受信できない。従って上記のシミュレーションでは、水平偏波・垂直偏波のそれぞれに、電波の入射角度毎に材料特性を計算する必要があり、多大な労力が必要である。
【0009】
出願人は、より簡単に通信環境の設計を行う方法を探究し、電波の拡散場においては、音響技術における残響時間の概念を電波に応用した概念(後述の電波残響時間)が遅延スプレッドと強い相関を示すことを発見した。反射性の強い室内の空間では、電波はあまり減衰せず何度も壁・床・天井に反射する。その際に、室の床と壁のコーナー、壁と天井のコーナーなどに反射した電波は、この偏波方向そのものが変化するため、つまり、水平偏波が垂直偏波に、垂直偏波が水平偏波に変化するため、発信源が水平偏波でも反射波は垂直偏波のアンテナで受信できることになる。このように複雑に反射し電波の進行方向や偏波がランダムになった場は拡散場と想定される。拡散場での電波のエネルギーの減衰曲線は、室内音響の残響曲線と同様な形となる。出願人の研究によれば、その減衰曲線の減衰初期段階の傾き(電波残響時間)を表す複数のデータをプロットすると図5に示す如く遅延スプレッドと非常に高い相関(0.985)にある。
【0010】
音響技術における残響時間(reverberation time)は、一般に音を急に止めたときに、残響音のエネルギーが元の音のエネルギーに比べて60dB低下する(換言すれば10−6まで小さくなる)時間である。音響学によれば、吸音力の小さい室に関して残響時間TRと室内の容積Vとの関係を表す式として、Sabineの残響式TR=KV/Aが知られている(非特許文献1の第33行目)。但し、Kは比例定数であって、K=24/(cs×log10e)であり、csは音速である。空室の場合には室内の表面積をS、平均吸収率をα0とすればA=S×α0である。この音波残響時間の計算では、残響チャンバーを用いることで、1つの周波数に対しては1回の測定で材料の特性が得られ、残響を所要レベルに減らすにはどの程度の吸音材を用いればよいのかが判る。こうした概念を電波に応用すれば、電波吸収材の設計を簡易に行うことができる。
【0011】
そこで出願人は、反射性の境界に囲まれた空間内で電波のエネルギーが10−6に減衰するのに要する時間を「電波残響時間」と定義し、音響技術の残響時間の手法を電波通信の環境設計に応用している。換言すれば電波残響時間は電波減衰時間でもある。
【0012】
本発明の第1の目的は、遅延スプレッドと電波残響時間との相関性を利用して、遅延スプレッドの推奨値から所要の電波吸収力を、簡易に設計できる方法を提案することである。
【0013】
本発明の第2の目的は、遅延スプレッドの推奨値を設定することで、所要の電波吸収材の面積や電波吸収率を容易に設計できる方法を提案することである。
【0014】
本発明の第3の目的は、上記方法の実行に適したプログラムを提案することである。
【0015】
本発明の第4の目的は、屋内空間内に人がいるか否かに係らず、容易に所要の電波吸収力を設計できるプログラムを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第1の手段は、
電波の拡散場である屋内空間の通信環境を設計する方法であって、
電波の遅延スプレッド(DS)と電波の残響時間(TR)との関数式を用いて、遅延スプレッドの推奨値から、電波の残響時間を計算する第1の行程と、
計算した電波の残響時間に、電波の残響時間と吸収力との関係式又はこの関係式と等価な換算表を援用して、電波の残響時間に対応する電波吸収力を設定する第2の行程と、からなり、
上記第1の行程において、電波の残響時間と遅延スプレッドとの関数式を次の数式1とし、また上記第2の行程において、屋内空間の容積を(V)、境界面の吸収力を(A)として、電波の残響時間から吸収力を求めるときに次の数式2を使用としている。
【0017】
(数1)
DS=a×TR+b (但しa=0.072±0.005:bは定数)
【0018】
(数2)
A=K×V/TR(但しKは定数)
【0019】
本手段では、電波の拡散場において、電波の残響時間と遅延スプレッドとの関係式を利用して、遅延スプレッドの推奨値から電波の残響時間を求め、電波残響時間から電波吸収力を設計することを提案している。前述のように遅延スプレッドと電波残響時間との間には図5に示すように相関性があり、これを数式1で表わす。音波の残響時間は屋内空間の容積に比例しかつ吸音力に反比例するが、電波残響時間も同様の性質を有する(数式2)。これらの数式を利用すれば、遅延スプレッドの推奨値から電波吸収力を、一義的な手順で容易に導くことが可能となる。この手順を図1の上半分に示している。これにより前述のシミュレーションを必要とせず机上で簡便に設計した目標値を満足する仕様を決定できる。
【0020】
数式2中のAとTRとを入れ替えた式、TR=K×V/Aは、電波残響時間の実質的な意味合いを示している。一般にはK=24/(c×log10e)=55.3/cであるが、cは音速ではなく、光速である。
【0021】
「拡散場」とは、電波のエネルギーが室内全体に一様に分布し、室内のあらゆる位置でも全ての方向への電波のエネルギーの流れが等しい状態を、電波が完全に拡散しているといい、このような室内の電磁場をいう。このような空間(電磁場)では偏波が明確でなく、水平偏波のアンテナでも垂直偏波のアンテナでも同等の電界強度が得られる。つまりは、偏波の影響が顕著でない空間をいい、例えば垂直偏波(又は水平偏波)を一つの送信アンテナから発信し、これと十分な距離(室平面の短辺の長さをLmとした場合L/3m)を隔てた受信アンテナで受信したときの垂直偏波と水平偏波との差が20dB以下であることと定義することができる。拡散場の性質に関しては後述する。「屋内空間」は、電波を反射する複数の境界面で空間のほぼ全体を囲まれている。拡散場であるから、電波のエネルギーの減衰曲線が室内音響の残響曲線と同様な形となり、電波残響時間と遅延スプレッドとの間の相関性が成立するからである。屋内空間は居住空間に限らず、無人の空間でもよい。「境界面」とは、金属やLow−Eガラスなどの反射性材料で形成される表面であり、複数の面がコーナーをはさんで隣接することで、偏波が変化し、拡散場としての扱いが可能となる。
【0022】
「数式1」は、慎重を期してDS=a×TR+bの形にしているが、一般的にはDS=a×TRの形で用いれば足りる。伝搬系のインパルス応答波形の標準偏差を表わす遅延スプレッドDSが零に近づけば、空間中の電波エネルギーが一定レベルに減衰する時間を表わす電波残響時間TRも零に近づくからである。「関係式と等価な換算表」とは、この関数式による計算結果をまとめて、残響時間から吸収力又は電波吸収材の分量を決定できるようにしたものを含む。
【0023】
第2の手段は、第1の手段を有し、かつ
さらに設定された電波吸収力の数値から、屋内空間内の電波吸収材の面積及び分量を設計する第3の行程とからなり
この第3の行程において、屋内空間の境界面を材料毎に分類して、i番目の材料の面積をSi、i番目の材料の吸収率をαiとするとき、屋内空間の吸収力を次の数式3で表して、各材料毎の面積を設計することを特徴としている。
【0024】
(数3)
A=ΣSi×αi (但しi=1、2…)
【0025】
本手段では、電波吸収力の設定の態様として、電波吸収力を数値として設定するだけではなく、その数値から電波吸収材の分量を設計することを提案している。数式3は、屋内空間全体の電波吸収力(A)を、空間の境界面を構成する各素材(床材・壁材・天井材・窓材など)の面積及び電波吸収率の積の和で表わしている。電波吸収材を敷設する前の状態において、[Aの目標値]>ΣSi×αiであれば、電波吸収材の敷設面積SA及び吸収率αAを用いて、電波吸収材を敷設した後の境界面の全体の吸収力をA1として、[Aの目標値]=SA×αA+A1となるようにSA及びαAを決定すればよい。屋内空間のうち電波吸収材を設置しない境界面の電波吸収力をA1とする。電波吸収材の面積を設定して所要の電波吸収材の電波吸収率を求めるときには、αA=(A−A1)/SAとすればよい。逆に電波吸収材の電波吸収率を設定して所要の電波吸収材の面積を求めるときには、簡単のために電波吸収材を設置する前の境界面の電波吸収率をαFとすれば、SA=(A−A1−Sα1)/(αA−α1)で与えられる。これらの式の説明については後で説明する。
【0026】
また屋内空間内に人がいるときには、屋内空間の全体の電波吸収力の一部を人体の電波吸収力が占めるが、レイトレース法などではシミュレーションの条件が複雑となりすぎるため、人体の電波吸収力を無視することが多い。本発明の方法では、後述のように部屋の広さに対応して予め人体の電波吸収力を測定し、これを[屋内空間の全体の電波吸収力]=[境界面全体の電波吸収力]+[居住者の電波吸収力]のような式に代入することで境界面全体の電波吸収力の設計の精度を高めることができる。
【0027】
第3の手段は、電波の拡散場である屋内空間の通信環境を設計する方法を行うためのコンピュータプログラムであり、
コンピュータを、
電波の遅延スプレッド(DS)と電波の残響時間(TR)との関数式である下記の数式1、及び電波の残響時間と吸収力との関係式である下記の数式2を記憶する記憶手段、
遅延スプレッドの推奨値を入力する手段、
記憶手段から数式1を呼び出して、この数式1に、上述の入力された遅延スプレッドの推奨値を代入して電波の残響時間(TR)を計算する手段、
屋内空間の容積(V)を入力する手段、
記憶手段から数式2を呼び出し、この数式2に、上述の計算された電波の残響時間(TR)及び屋内空間の容積(V)を代入して屋内空間全体の電波吸収力(A)を計算する手段、
計算した屋内空間全体の電波吸収力(A)を出力するための出力手段、
として機能させるように構成している。
[数式1]DS=a×TR+b (但しa=0.072±0.005)
[数式2]A=K×V/TR(但しKは定数)
【0028】
本手段では、第1の手段である方法の実施に適したコンピュータプログラムを提案している。このプログラムにより構成されるコンピュータの機能の概念図を図12に示す。
【0029】
第4の手段は、第3の手段を有し、かつ
上記屋内空間全体の電波吸収力(A)に代えて、或いはこの電波吸収力とともに、屋内空間の境界面に設けた電波吸収材の吸収率(αA)をコンピュータに出力させるためのプログラムであって、
コンピュータを、
上記屋内空間の電波吸収力(A)の計算値を少なくとも一時的に記憶する手段、
屋内空間のうち電波吸収材を設けていない境界面部分の吸収力(A1)と屋内空間内に居る人間の吸収力(A2)と電波吸収材の面積(SA)とを入力データとして入力する手段、
これら境界面部分の吸収力(A1)と屋内空間内の人間の吸収力(A2)と電波吸収材の面積(SA)と電波吸収材の吸収率(αA)と屋内空間全体の吸収力(A)との関係式である数式4を記憶する記憶手段、
この記憶手段から数式4を呼び出し、この数式4に、上記入力データである境界面部分の吸収力(A1)、屋内空間内の人間の吸収力(A2)、及び電波吸収材の面積(SA)と、計算結果である屋内空間全体の電波吸収力(A)とをそれぞれ代入し、電波吸収材の吸収率(αA)を計算する手段、
計算した電波吸収材の吸収率(αA)を出力するための出力手段
として機能させるためのものである。
【0030】
(数4)
αA=(A−A1−A2)/SA
【0031】
本手段では、第2の手段である方法の実施に適したコンピュータプログラムを提案している。本手段では、居住者による電波の吸収力を考慮に入れているが、必要がなければ省略することができる。「屋内空間内の人間の吸収力」とは、[空間内に居る人間の吸収力の総和]であり、[一人当たりの人間の吸収力]×[空間内の人数]で与えられる。
【発明の効果】
【0032】
第1の手段に係る発明によれば、次の効果を奏する。
○屋内空間の通信環境を計画する時点で、当該空間内の材料の吸収特性と面積とから、机上において電波エネルギーの減衰を表す電波残響時間をある程度の精度で簡易に計算でき、この電波残響時間と遅延スプレッドとの相関性を用いて通信環境を適切に設計できる。
○電波の残響時間を利用する場合には、1つの周波数に対して一度の計測で材料特性が得られ、レイトレース法でシミュレーションを行う場合のように材料特性を電波の入射角度毎にかつ水平・垂直の偏波毎に計測する必要がないので、大幅に労力を緩和できる。
第2の手段に係る発明によれば、次の効果を奏する。
○目標値の設定と目標値に則した材料の設定とが数式3を用いて比較的容易に行える。
○電波残響時間を用いて屋内空間に人が入った状態と入らない状態の双方に適用できる。
第3の手段に係る発明によれば、数式1及び数式2の計算をコンピュータに実行させるから、さらに効率がよい。
第4の手段に係る発明によれば、数式4を用いて電波吸収材の必要面積を計算できるから作業が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1実施形態に係る室内通信環境の設計方法の手順を示すフローチャートである。
【図2】本発明の方法が適用される屋内空間を側方から見た図である。
【図3】図2の空間の斜視図である。
【図4】一般的な電力遅延プロファイルの説明図である。
【図5】本発明の方法に用いられる遅延スプレッド(観測値及び予想値)と電波残響時間との相関図である。
【図6】図5の遅延スプレッドの観測値と予想値との残差を示す図である。
【図7】図5の遅延スプレッドの実験データの代表値を示す表である。
【図8】本発明の方法に関連する実験に使用された電波残響室の平面図である。
【図9】本発明の方法に関連する実験に使用された電波暗室計測室の平面図である。
【図10】図9の計測室で採取された実験データを示すグラフである。
【図11】本発明の第2実施形態に係る室内通信環境の設計方法の手順を示すフローチャートである。
【図12】本発明の第3の実施形態に係る室内通信環境の設計方法を実行するためのコンピュータプログラムの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1から図10は、本発明の第1の実施形態に係る室内通信環境の設計方法の説明図である。まずこの方法が適用される屋内空間と、この方法に使用される基本用語について解説する。
【0035】
図2は、屋内空間1を示す。屋内空間1の境界面2は、床面3と壁面4と天井面5とからなる。この屋内空間1は電波の拡散場を構築する。音響の拡散場は、音響のエネルギーが均一に分布し、任意の点で音の進行方向があらゆる方向に一様であるという性質を有する。電波の拡散場も同様である。但し完全な拡散場である必要はない。具体的には、床面3にはデッキプレート6などが埋め込まれており、壁には金属パーティション(図示せず)が埋め込まれている。壁に窓を設ける場合に用いる窓ガラスは、Low−Eガラスなどの反射性材料でもよい。また各面の内部には電磁シールドを施してもよい。
【0036】
屋内空間1の通信環境を改善するためには、広い面積にあまり高くない性能を有する低コストの電波吸収材を敷設し、直接波だけではなく、反射波を含めた入射波を吸収することが現実的である。そこで図3に示すように、全面積Sの境界面2の一部に電波吸収材8を敷設し、所要の遅延スプレッドを実現するために必要な電波吸収材8の面積SA及び電波吸収材の吸収率αAを求めるものとする。
【0037】
遅延スプレッドDSは電力遅延プロファイルPmから導かれる値である。図4に室内の電波のエコーを測定した電力遅延プロファイルの一例を示す。横軸は遅延距離D(時間T=D/c、c:光速)を示し、縦軸は受信強度(相対値)を示している。送信アンテナからパルス状に電波が放射され、多数の経路を経て伝搬し、受信アンテナで受信された電波の受信電力Pmは次式で与えられる。ここでt0はf(t)が最初に雑音レベルを超える時刻であり、t1はf(t)が最後に雑音レベル以下になる時刻である。
【0038】
【数5】
また平均遅延TDはf(t)の平均値であり次式で与えられる。
【0039】
【数6】
受信電力Pm、平均遅延TDを用いて、遅延スプレッドDSは次式で与えられる
【0040】
【数7】
【0041】
次に図1に従って本発明の設計方法の手順を説明する。
(1)遅延スプレッドの推奨値の設定
遅延スプレッドDSの推奨値を、屋内空間1に構築する通信手段の内容に応じて定める。
【0042】
(2)屋内空間の電波残響時間を計算する。
遅延スプレッドDSの推奨値を、前述のTR=DS/aに代入して電波残響時間TR(ns:ナノ秒=10−9秒)を計算する。TR=DS/aは、遅延スプレッドと残響時間の関係から求めた回帰式である。ここでa=0.072とする。遅延スプレッドの推奨値は、無線LANの機器のカタログに数値が明示されていれば、その数値を用いる。
【0043】
(3)所要の電波吸収力を計算する。
計算した電波残響時間を前述のA=K×V/TRに代入し、所要の電波吸収力Aを計算する。ここでV=室容積(m3)、A:吸収力(m2セービン)、K:定数、K=24/(c×log10e)c=55.3/c=1.8×10−7、c:電波の伝搬速度(m/s)である。
所要の電波吸収力Aと、電波吸収材を敷設する前の屋内空間の電波吸収力AINと比較して、A>AINならば電波吸収材の設計を行う。床面の面積をSF、吸収率をαF、壁面の面積をSW、吸収率をαW、天井面の面積をSC、吸収率をαCとすると、AIN=ΣSi×αi=SF×αF+SW×αW+SC×αCとなる。
【0044】
(4)電波吸収材の面積及び吸収率を設計する。
(4−1)電波吸収材の面積を設定して電波吸収材の電波吸収率を算出する場合
この場合には、電波吸収材の面積及び設置場所が最初に決まってしまうので、屋内空間1の境界面2のうち電波吸収材を設置しない部分の電波吸収力A1が一義的に決まる。空間全体の電波吸収力のうち居住者の身体による吸収力を無視するとすれば、A=A1+SA×αAであるから、電波吸収材の面積は次式で与えられる。
[数式8]SA=(A−A1)/αA
簡単のために境界面の電波吸収率を一律にα1とし、境界面の全面積Sのうちx%に電波吸収材を設置するとすれば、A1=α1×S×(x/100)である。
【0045】
(4−2)電波吸収材の電波吸収率を設定して面積を算出する場合
この場合に、屋内空間の境界面のうち電波吸収材を敷設していない部分の面積S1は、S1=S−SAであるから、A=S1×α1+SA×αA=(S−SA)×α1+SA×αA=S×α1+(αA−α1)×SA=AIN+(αA−α1)×SAとなる。これから電波吸収材の面積は次のように求められる。
[数式9]SA=(A−S×α1)/(αA−α1)
【0046】
床面2と壁面3と天井面4との電波吸収力が異なる場合には、次の手順で電波吸収材を求めればよい。例えば天井面の一部に電波吸収材を敷設する。天井面のうち電波吸収材を敷設していない部分の面積をS1とすると、S1=SF−SAであるから、A=(SF−SA)×αF+SW×αW+SC×αC+SA×αA=SF×αF+SW×αW+SC×αC+(αA−αF)×SA=AIN+(αA−αF)×SAである。
[数式10]SA=(A−ΣSi×αi)/(αA−αF) (但しAIN=S×α1)
【0047】
以上の設計方法によれば、遅延スプレッドと電波残響時間との相関性から所要の電波残響時間が導かれる。或る空間の電波残響時間は、その空間を構成する材料の吸収特性と面積とから簡易に計算できるから、通信環境の設計が容易となる。また電波残響時間の計算では、残響室法を用いて1つの周波数に対しては1回の測定で材料の特性が得られる。
【0048】
図5は、遅延スプレッドと電波残響時間との関係を表わす図である。同図中の◆は遅延スプレッドの観測値である。図6は各観測点での観測値と回帰値との差(残差)を残響時間ごとに表わしている。図7は各観測点での遅延スプレッドの観測値と予想値との差(残差)を表にしたものである。図5から回帰直線を求めると、0.985という高い相関性が得られた。
【0049】
この実験は、下記の表1に示すように容積の異なる複数の電磁シールド室No.1〜No.9で行われた。電波吸収材としては、ITフォームまたは超広帯域電波吸収フィルムを用いて、これらの電波吸収材の面積をいろいろと変化させて電波残響時間と遅延スプレッドとの関係を実験した。その実験の一例を示すと次のようになる。電磁シールド室はNo.5を利用しており、測定された電波残響時間は1553.9〜8453.7nsであり、遅延スプレッドは97.2〜664.2 nsある。
【0050】
【表1】
【0051】
電波残響時間の概念を理解するために、図5の知見に至る経緯を説明する。まず図8に示す電磁シールド室(音響残響室の約1/10の縮尺モデルとしたもの)10を構成し、拡散場における電波吸収性能の測定を行った。電波残響室中の三角印の位置に送信アンテナAT1を、丸印の位置に受信アンテナAT2を配置した。電波残響室内に炭素を内包した発泡吸収体(25mm×300mm×400mm)の測定試料を配置した場合と配置しない場合とで2.45GHzでの遅延プロファイルを観測した。遅延プロファイルをシュレーダー積分して滑らかな減衰曲線とし、その傾斜角から測定試料がある場合の電波残響時間T2及び測定試料がない場合の電波残響時間T1を計算し、JISA1409の計算式[α=55.3V/Sc(1/T1−1/T2)]に代入した。但しVは電波残響室の容積(m3)、Sは測定試料の面積(m2)である。
【0052】
次に図9のような内法4.75m×4.95mの電磁シールド室12で電波残響時間を測定した。室内仕上げは壁が電磁シールドパネル、床が金属OAフロアの表面にカーペット、天井が電磁シールドパネルである。さらに天井側に電波吸収体を設置した。そして1つの発信アンテナAT1と多数の受信アンテナAT2とを設置し、周波数2.45GHz帯の電波を用いて観測した遅延プロファイルをシュレーダー積分して図10の如き偏波毎の残響曲線を得た。各曲線は直線的な減衰を示し、偏波による差は小さい。従って図9に示す矩形の部屋の内部でも拡散場に近いことが確認された。さらに各曲線の傾斜から電波残響時間(60dB減衰に要する時間)を計算した。計算により吸収率に関して次の表の結果を得た。電波残響時間は、電波吸収体がない場合には600ns程度、電波吸収体がある場合には430ns程度となった。
【0053】
【表2】
【0054】
図11は、本発明の第2の実施形態に係る室内通信環境の設計方法の説明図である。本実施形態では、屋内空間1の電波吸収力として屋内空間の境界面の電波吸収力の他に居住者の電波吸収力A2を考慮して電波吸収材の吸収特性を設計している。そのためには、第1実施形態で使用した数式SA=(A−A1)/αAを、αA=(A−A1−A2)/SA(数式4)と置き換え、また、数式SA=(A−S×α1)/(αA−α1)を、SA=(A−S×α1)/(αA−α1−A2)と置き換えればよい。A2は、屋内空間に居る居室者全体の電波吸収力である。具体的な手順を図11にフローチャートで描いた。図1の第1ステージ及び第2ステージと同じ手順に関しては、手順の記載を省略している。
【0055】
従来のレイトレース法などでは、人が居る場合のシミュレーションが複雑であったが、本発明の方法ではヒトの電波吸収力を簡単に定量化することができる。人間1人当りの電波吸収力は、衣服を含む人体の表面積と吸収率とに依存する。厳密に言えば起立した人の電波吸収量は、着座した人のそれよりも多いなどの相違があるが、一定の条件(例えば居住者が全員着座しているという条件)で人間1人当りの電波吸収量を求め、これに予想される居室者の数を乗じて、居住者全体の電波吸収力A2を推定できる。居住者の数が一定ではないときに部屋の定員数に比べて少なめに(例えば1人に)設定することもできる。
【0056】
出願人は、所定の電磁シールド室に各種電波吸収材を敷設した場合と複数のヒトを入室した場合とでそれぞれ電波吸収力を実験して調べた。この実験ではヒト一人当たりの電波吸収率は0.34であった。
【0057】
【表3】
【0058】
図12は、本発明の第3の実施形態に係るコンピュータプログラムにより構築されるコンピュータシステムの構成を示している。説明の便宜上、システムの構成から説明する。
【0059】
このコンピュータシステムは、入力手段20と、計算手段22と、記憶手段24と、出力手段26とで構成される。
【0060】
入力手段20は、キーボードやマウスなどのインターフェイスであり、少なくとも図1又は図11のフローチャートに「入力」又は「指定」と記載した各種データを受け取る機能を有する。計算手段(演算処理部)22は、少なくとも前述の数式1〜4及び数式8〜9の計算を行うことができる程度の演算能力を有する。記憶手段24は、上記各数式、電波吸収材として使用可能な素材の電波吸収力、ヒトの身体の電波吸収力などのデータを記憶している。出力手段26は、プリンターやコンピュータ画面などで構成することができる。
【0061】
コンピュータプログラムは、コンピュータを先の第3の手段及び第4の手段において記載した各手段として機能させる働きを行う。図1及び図11に具体的な機能を記載している。
【0062】
コンピュータプログラムにより実行される手順を図1に従って説明する。手順の主体は特に明示しない限り計算手段(演算処理部)である。
(イ−1)遅延スプレッドの奨励値を入力することを利用者に促すこと。
ここにおいて利用者が直接遅延スプレッドの奨励値を数字で入力するようにしてもよいが、表4のように市販の通信機器のカタログ情報と対応する遅延スプレッドの奨励値とを対応づけた換算テーブルを、データベースとして記憶手段に予め構築しておき、利用者がこの表の左欄の通信機器を選択すると、記憶手段から計算手段へ対応する遅延スプレッドの奨励値が送られるようにしておいてもよい。
【0063】
【表4】
【0064】
(イ−2)記憶手段から数式DS=a×TRを呼び出し、遅延スプレッドの推奨値を代入して電波残響時間を計算すること。
(イ−3)計算した電波残響時間を好ましくはコンピュータ画面などの出力手段に出力させ、さらに屋内空間の容積Vを入力することを利用者に促すこと。
(イ−4)数式A=K×V/TRを記憶手段から呼び出し、電波吸収力の目標値を計算すること。
(イ−5)電波吸収力を計算した後に処理を継続するか否かの指示を入力することを利用者に促すこと。
(イ−6)作業を打ち切るときには、計算した電波吸収力の目標値を出力すること。
(イ−7)電波吸収材の面積や吸収率の設計を行うときには、その面積及び吸収率の何れを計算するかの指示を入力するように利用者に求めること。
【0065】
(ロ−1)電波吸収材の吸収率を計算するときには、電波吸収材の面積を指定することを利用者に求めること。
(ロ−2)面積が指定されたら、電波吸収材を設けない境界面部分の素材i毎の吸収率αi及び面積Siを入力することを利用者に求めること。
なお、このステップにおいて利用者が各素材の吸収率を直接入力する代わりに、市販の各素材と吸収率とを対応づけた換算テーブルを、データベースとして記憶手段に予め構築しておき、利用者がこの表の左欄の通信機器を選択すると、記憶手段から計算手段へ対応する吸収率が入力されるように構成してもよい。
(ロ−3)電波吸収材を設けない境界面部分の面積及び吸収率のデータが入力されたら、記憶手段から数式A1=ΣSi×αiを呼び出して、電波吸収材を設けない境界部分の吸収力A1を計算すること。
(ロ−4)電波吸収材を設けない境界部分の吸収力A1を計算しかつ電波吸収材の面積が入力されたら、記憶手段から数式8であるαA=(A−A1)/SAを呼び出して、電波吸収材の吸収率αAを計算すること。
(ロ−5)電波吸収材の吸収率の計算値が吸収率の上限値を超えないときには、その計算値を出力し、上限値を超えるときには新たな面積の入力を利用者に求める。
利用者が電波吸収材の面積SAをあまり小さくすると、数式8から判るように、吸収材の吸収率αAが現実的ではないほど大となる可能性がある。そこで予め利用者が指定した上限値と吸収材の計算値とを演算処理部が比較し、計算値が上限値を超えるときには、(ロ−1)の段階に戻って新たな面積を入力することを利用者に要求するようにするとよい。
【0066】
(ハ−1)電波吸収材の面積を計算するときには、電波吸収材の吸収率を指定することを利用者に求めること。
この場合には、各種電波吸収材の種類と吸収率との換算テーブルを予め記憶手段に構築し、(ロ−2)で述べた換算テーブルと同様に活用するようにしてもよい。
(ハ−2)電波吸収材を敷設しない境界面部分の吸収率α1及び境界面全体の面積Sを入力することを利用者に促すこと。
ここでは、電波吸収材を設けない境界面部分の吸収率は一定であるものとする。完全に一定ではないが、ほぼ一定とみなせるときには、平均吸収率をα1とする。
(ハ−3)S,α1,αAが入力されたら、数式9であるSA=(A−S×α1)/(αA−α1)を記憶手段から呼び出してSAを計算する。
(ハ−4)電波吸収材の面積SAの計算値が面積の上限値を超えないときには、その計算値を出力し、上限値を超えるときには新たな吸収率の入力を利用者に求める。
数式9のうちの(αA−α1)が小さすぎると、面積SAが過大となる恐れがある。故に(ロ−5)で述べたのと同様に吸収材の面積の上限値を設定し、上限値を超えたときには再度数値を入力するようにするとよい。
【実施例】
【0067】
DS=0.0716TRとしていくつかの場合について具体的に説明する。
[実施例1]
スティールパーティションの壁とアルミパンチングメタルの天井で囲われた5m×6mの平面、天井高さ2.8mの会議室における2.45GHz(無線LANのIEEE802.11g規格)の残響時間を計算する。室容積は81.0m3である。各部材の吸収率は表5の値を用いる。
【0068】
【表5】
【0069】
この表から求めた吸収力Aを用い、室容積81を数式2に代入すると、残響時間TはT=K・V/A=184.21×81/2.411=6188.7(ns)となる。遅延スプレッドDSは残響時間と0.0716の積であるから、443.1(ns)となる。なお、在室者がない場合の吸収力は1.047と減少し、残響時間は14251.2(ns)となる。また遅延スプレッドは同様に1020.4(ns)となる。
【0070】
[実施例2]
計算例―1と同じ寸法のスチールパーティションで囲われた会議室で、外壁に面しており通常のガラス窓2m×2mが2つある場合の残響時間と遅延スプレッドを計算する。
【0071】
【表6】
【0072】
この場合、実施例1と比べて吸収力Aのみが増加する。普通ガラスは誘電率が4.8であり、この値から算出した透過減衰量は0.5dBであることから、殆ど反射せず透過してしまう、即ち室内側から見ると吸収率が1に近い値となることが分かる。このような普通ガラスの窓面積が大きい室内では、他の壁、床、天井が反射性であっても室内の残響時間や遅延スプレッドは大きな値とならず、通信環境として良好なものとなる。
【0073】
なお、上記実施形態は、本発明の好適な一例であり、本発明の原理・性質に反しない限り、本願特許請求の範囲に属する他の実施形態を除外する根拠として解釈されるべきではない。
【符号の説明】
【0074】
1…屋内空間 2…境界面 3…床面 4…壁面 5…天井面 6…デッキプレート
8…電波吸収材 10…電波残響室 12…電波暗室計測室 14…電波シールド室
20…入力手段 22…計算手段 24…記憶手段 26…出力手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波の拡散場である屋内空間の通信環境を設計する方法であって、
電波の遅延スプレッド(DS)と電波の残響時間(TR)との関数式を用いて、遅延スプレッドの推奨値から、電波の残響時間を計算する第1の行程と、
計算した電波の残響時間に、電波の残響時間と吸収力との関係式又はこの関係式と等価な換算表を援用して、電波の残響時間に対応する電波吸収力を設定する第2の行程と、からなり、
上記第1の行程において、電波の残響時間と遅延スプレッドとの関数式を次の数式1とし、また上記第2の行程において、屋内空間の容積を(V)、境界面の吸収力を(A)として、電波の残響時間から吸収力を求めるときに次の数式2を使用することを特徴とする、
室内通信環境の設計方法。
[数式1]DS=a×TR+b (但しa=0.072±0.005:bは定数)
[数式2]A=K×V/TR(但しKは定数)
【請求項2】
さらに設定された電波吸収力の数値から、屋内空間内の電波吸収材の面積及び分量を設計する第3の行程とからなり
この第3の行程において、屋内空間の境界面を材料毎に分類して、i番目の材料の面積をSi、i番目の材料の吸収率をαiとするとき、屋内空間の吸収力を次の数式3で表して、各材料毎の面積を設計することを特徴とする、
請求項1記載の室内通信環境の設計方法。
[数式3]A=ΣSi×αi (但しi=1、2…)
【請求項3】
電波の拡散場である屋内空間の通信環境を設計する方法を行うためのコンピュータプログラムであり、
コンピュータを、
電波の遅延スプレッド(DS)と電波の残響時間(TR)との関数式である下記の数式1、及び電波の残響時間と吸収力との関係式である下記の数式2を記憶する記憶手段、
遅延スプレッドの推奨値を入力する手段、
記憶手段から数式1を呼び出して、この数式1に、上述の入力された遅延スプレッドの推奨値を代入して電波の残響時間(TR)を計算する手段、
屋内空間の容積(V)を入力する手段、
記憶手段から数式2を呼び出し、この数式2に、上述の計算された電波の残響時間(TR)及び屋内空間の容積(V)を代入して屋内空間全体の電波吸収力(A)を計算する手段、
計算した屋内空間全体の電波吸収力(A)を出力するための出力手段、
として機能させるための、室内通信環境の設計計画用のコンピュータプログラム。
[数式1]DS=a×TR+b (但しa=0.072±0.005:bは定数)
[数式2]A=K×V/TR(但しKは定数)
【請求項4】
上記屋内空間全体の電波吸収力(A)に代えて、或いはこの電波吸収力とともに、屋内空間の境界面に設けた電波吸収材の吸収率(αA)をコンピュータに出力させるためのプログラムであって、
コンピュータを、
上記屋内空間の電波吸収力(A)の計算値を少なくとも一時的に記憶する手段、
屋内空間のうち電波吸収材を設けていない境界面部分の吸収力(A1)と屋内空間内に居る人間の吸収力(A2)と電波吸収材の面積(SA)とを入力データとして入力する手段、
これら境界面部分の吸収力(A1)と屋内空間内の人間の吸収力(A2)と電波吸収材の面積(SA)と電波吸収材の吸収率(αA)と屋内空間全体の吸収力(A)との関係式である数式4を記憶する記憶手段、
この記憶手段から数式4を呼び出し、この数式4に、上記入力データである境界面部分の吸収力(A1)、屋内空間内の人間の吸収力(A2)、及び電波吸収材の面積(SA)と、計算結果である屋内空間全体の電波吸収力(A)とをそれぞれ代入し、電波吸収材の吸収率(αA)を計算する手段、
計算した電波吸収材の吸収率(αA)を出力するための出力手段
として機能させるための、請求項3記載の室内通信環境の設計計画用のコンピュータプログラム。
[数式4]αA=(A−A1−A2)/SA
【請求項1】
電波の拡散場である屋内空間の通信環境を設計する方法であって、
電波の遅延スプレッド(DS)と電波の残響時間(TR)との関数式を用いて、遅延スプレッドの推奨値から、電波の残響時間を計算する第1の行程と、
計算した電波の残響時間に、電波の残響時間と吸収力との関係式又はこの関係式と等価な換算表を援用して、電波の残響時間に対応する電波吸収力を設定する第2の行程と、からなり、
上記第1の行程において、電波の残響時間と遅延スプレッドとの関数式を次の数式1とし、また上記第2の行程において、屋内空間の容積を(V)、境界面の吸収力を(A)として、電波の残響時間から吸収力を求めるときに次の数式2を使用することを特徴とする、
室内通信環境の設計方法。
[数式1]DS=a×TR+b (但しa=0.072±0.005:bは定数)
[数式2]A=K×V/TR(但しKは定数)
【請求項2】
さらに設定された電波吸収力の数値から、屋内空間内の電波吸収材の面積及び分量を設計する第3の行程とからなり
この第3の行程において、屋内空間の境界面を材料毎に分類して、i番目の材料の面積をSi、i番目の材料の吸収率をαiとするとき、屋内空間の吸収力を次の数式3で表して、各材料毎の面積を設計することを特徴とする、
請求項1記載の室内通信環境の設計方法。
[数式3]A=ΣSi×αi (但しi=1、2…)
【請求項3】
電波の拡散場である屋内空間の通信環境を設計する方法を行うためのコンピュータプログラムであり、
コンピュータを、
電波の遅延スプレッド(DS)と電波の残響時間(TR)との関数式である下記の数式1、及び電波の残響時間と吸収力との関係式である下記の数式2を記憶する記憶手段、
遅延スプレッドの推奨値を入力する手段、
記憶手段から数式1を呼び出して、この数式1に、上述の入力された遅延スプレッドの推奨値を代入して電波の残響時間(TR)を計算する手段、
屋内空間の容積(V)を入力する手段、
記憶手段から数式2を呼び出し、この数式2に、上述の計算された電波の残響時間(TR)及び屋内空間の容積(V)を代入して屋内空間全体の電波吸収力(A)を計算する手段、
計算した屋内空間全体の電波吸収力(A)を出力するための出力手段、
として機能させるための、室内通信環境の設計計画用のコンピュータプログラム。
[数式1]DS=a×TR+b (但しa=0.072±0.005:bは定数)
[数式2]A=K×V/TR(但しKは定数)
【請求項4】
上記屋内空間全体の電波吸収力(A)に代えて、或いはこの電波吸収力とともに、屋内空間の境界面に設けた電波吸収材の吸収率(αA)をコンピュータに出力させるためのプログラムであって、
コンピュータを、
上記屋内空間の電波吸収力(A)の計算値を少なくとも一時的に記憶する手段、
屋内空間のうち電波吸収材を設けていない境界面部分の吸収力(A1)と屋内空間内に居る人間の吸収力(A2)と電波吸収材の面積(SA)とを入力データとして入力する手段、
これら境界面部分の吸収力(A1)と屋内空間内の人間の吸収力(A2)と電波吸収材の面積(SA)と電波吸収材の吸収率(αA)と屋内空間全体の吸収力(A)との関係式である数式4を記憶する記憶手段、
この記憶手段から数式4を呼び出し、この数式4に、上記入力データである境界面部分の吸収力(A1)、屋内空間内の人間の吸収力(A2)、及び電波吸収材の面積(SA)と、計算結果である屋内空間全体の電波吸収力(A)とをそれぞれ代入し、電波吸収材の吸収率(αA)を計算する手段、
計算した電波吸収材の吸収率(αA)を出力するための出力手段
として機能させるための、請求項3記載の室内通信環境の設計計画用のコンピュータプログラム。
[数式4]αA=(A−A1−A2)/SA
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−164212(P2012−164212A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25294(P2011−25294)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】
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