説明

室温で安定している、半合成ビンカアルカロイドと炭水化物の凍結乾燥注射用医薬組合せ

本発明は、室温で安定している、半合成ビンカアルカロイド誘導体からなる医薬組成物であって、該誘導体が少なくとも1種の炭水化物の存在下で得られる凍結乾燥製品の形態で存在する医薬組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
本発明は、室温で安定している、半合成ビンカアルカロイドの凍結乾燥注射用医薬組成物に関する。
【0002】
一般に、ビンカアルカロイドの臨床的重要性は40年ほどの間にはっきりと確立された。それ以来、これらの化合物は抗癌薬として広く用いられている。
【0003】
ビンブラスチンおよびビンクリスチンは、ニチニチソウ(Catharanthus roseus G. DonまたはVinca rosea L)の葉から初めて単離された。これらのアルカロイドは2つのインドールユニット:カタランチンおよびビンドリンからなる二量体である。ビンブラスチンおよびビンクリスチンは、仏国においてそれぞれ1963年および1964年に、VELBE(登録商標)およびONCOVIN(登録商標)というブランド名で初めて市販されるようになった。ビンブラスチンについて行われた合成研究は、最初の非天然誘導体であり、医薬品ELDISINEの源泉であるビンデシンの製造につながった(1983)。
【0004】
Poitier et al.によって、ビスインドール構造を有する第二の非天然医薬用誘導体がもたらされている。この誘導体はビノレルビンであり、このビノレルビンは、カタランチンおよびビンドリンの使用に基づく半合成経路によって得られる、広範囲にわたる抗腫瘍特性を有する分子である。ビノレルビンは、Pierre Fabre Medicamentによって仏国において1989年に初めて、非小細胞肺癌の治療用に、NAVELBINE(登録商標)というブランド名で登録され、その後1992年に転移性乳癌の治療用に登録された。経口形態は仏国において2001年に登録された。
【0005】
これらの抗癌薬は、すぐ使用できる溶液の形態(ONCOVIN(登録商標)、NAVELBINE(登録商標))または粉末形態(VELBE(登録商標)、ELDISINE(登録商標))のいずれかで入手可能である。これらの抗癌薬は輸送中も保存中も冷蔵庫で2℃〜8℃の温度で保存しなければならない。
【0006】
数年前に、超酸媒質中での化学反応によって新規ファミリーがもたらされた。半合成二フッ素化誘導体であるビンフルニンは、現在臨床開発中である。
【0007】
ビノレルビンと同じように、ビンフルニンはヒドロビンブラスチンから得られ、このヒドロビンブラスチン自体はカタランチンとビンドリンとの生体模倣カップリング反応によって生じる。
【0008】
水への溶解度に関する理由で、ビンフルニンは水溶性塩の形態に塩化される。例えば、二酒石酸塩は、この塩の水溶液を凍結乾燥した後に単離される。
【0009】
ビンフルニン二酒石酸塩は白色または実質的に白色の粉末であり、窒素またはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下、−15℃より低い負の温度で保存しなければならない。ビノレルビン二酒石酸塩も同様である。
【0010】
本願出願人の仏国特許出願第2863891号("Vinflunine pharmaceutical composition for parenteral administration, preparation and usage procedure")では、ビンフルニン水溶性塩の水性媒質への溶解についての安定効果が着目されている。その請求項の1つは、5℃±3℃で少なくとも36ヶ月間の前記組成物の良好な安定性に関する。
【発明の開示】
【0011】
思いがけないことに、本発明は、ビンフルニンおよびビノレルビンの水溶性塩を粉状態としながら、それらの水溶性塩を安定させることを可能とする。そのため、前述した−15℃より低くない室温でそれらの水溶性塩を保存することも可能となる。
【0012】
本発明は、少なくとも1種の炭水化物(還元もしくは非還元の単糖類、オリゴ糖類またはイヌリンなどの多糖類など)の存在下での凍結乾燥半合成ビンカアルカロイド誘導体の安定な処方物に、より特定的には半合成ビンカアルカロイド誘導体水溶性塩の安定な処方物に、より特定的には二糖類、より具体的にはサッカロース、トレハロースまたはラクトースの存在下での凍結乾燥ビンフルニンおよびビノレルビン水溶性塩の安定な処方物にも基づいている。
【0013】
半合成ビンカアルカロイド誘導体と炭水化物との相対的割合は、1/1〜1/20、より具体的には1/1〜1/10(w/w)の範囲であってよい。
【0014】
有利には、少なくとも1種の炭水化物(還元もしくは非還元の単糖類、オリゴ糖類またはイヌリンなどの多糖類など)の存在下での凍結乾燥半合成ビンカアルカロイド誘導体の安定な処方物は、該凍結乾燥製品を注射製剤用水に再溶解した後に得られる溶液のpHを、該有効成分の良好な安定性を高める値に維持するために、pH3〜4、より特定的にはpH=3.5の緩衝系を含み得る。
【0015】
限定されない例として、これらの緩衝系は、酢酸および酢酸ナトリウム、クエン酸およびクエン酸ナトリウム、酒石酸ならびにソーダからなる。それらのモル濃度は0.005M〜0.5M、より具体的には0.05M〜0.2Mである。
【0016】
非経口経路によるこれらの出発材料の非毒性により、これらの凍結乾燥製品を癌治療において注射薬として用いることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】
【図2】
【実施例】
【0018】
限定されない例として示す以下の処方およびその出発材料と比較したそれらの安定性の結果は、本発明を例示するものである。
【0019】
以下の表1に記載される単位組成の溶液を調製し、その後凍結乾燥した。
【0020】
実施例1
【表1】

【0021】
次の製造手順を適用した:
1).製造に必要な、サッカロースおよびビンフルニン二酒石酸塩を酢酸/酢酸ナトリウム0.1M緩衝液 pH=3.5の大部分に攪拌しながら連続して溶かし、
2).酢酸/酢酸ナトリウム0.1M緩衝液 pH=3.5で最終容量に調整し、得られた溶液をホモジナイズし、
3).親水性0.22μmフッ化ポリビニリデンメンブレンでの濾過により前記溶液を滅菌し、タイプIガラス瓶に分配し、
4).次の条件:
−48℃での製品凍結、
0.100ミリバール下、0.03℃/分の割合で37時間の一次乾燥、
0.010ミリバール下、20℃で16時間の二次乾燥
下で凍結乾燥操作を行い、
5).前記瓶に栓をし、キャップにねじ込む。
【0022】
得られた凍結乾燥製品を1バッチの出発材料、ビンフルニン二酒石酸塩(バッチ503)とともに25℃−60%RHで6ヶ月間保存した。
【0023】
不純物の出現(前記製品の分解に相当する)を、
・25℃および60%相対湿度で6ヶ月後の再構成溶液の420nmにおける吸光度(図1に示した)
・25℃および60%相対湿度で6ヶ月後の総不純物(割合として表し、図2に示した)
:の変化を記録することによってモニタリングした。
【0024】
サッカロースは明白な安定効果を有する。420nmにおける吸光度結果により分かるように、この効果はサッカロース含量が高くなるとますます高くなる。
【0025】
注目すべきは、全く予期していなかったこれらの優れた結果がさらに良くなる可能性があるということである。ビンフルニン二酒石酸塩は酸化に対して感受性が高い分子である。当業者であれば、不活性ガス(窒素またはアルゴンなど)、あるいは親水性抗酸化剤(アスコルビン酸およびその誘導体、亜硫酸塩(亜硫酸ナトリウムなど)ならびにチオール誘導体など)を組み合わせることでこの安定性を高めることができることはことは周知である。
【0026】
炭水化物(還元もしくは非還元の単糖類、オリゴ糖類またはイヌリンなどの多糖類など)によって、より具体的には二糖類によって凍結乾燥ビンフルニンに与えられる保護は、注射用凍結乾燥製品の構成剤(structuring agents)として通常用いられている他の賦形剤では見られない。
【0027】
以下の組成物を凍結乾燥した。
【0028】
実施例2
【表2】

【0029】
前記凍結乾燥製品を5℃、25℃−60%RHさらに40℃−75%RHで1ヶ月間保存した。最後の条件は、認められる差異を大きくするために極めて厳しい条件にした。
【0030】
不純物総量をHPLCによって測定し、ビンフルニンに対する割合として示す。以下の表に示した結果は25℃−60%RH、40℃−75%RHでの測定値と5℃での測定値との間の差異計算値である。
【0031】
【表3】

【0032】
処方MP1762(トレハロース)に関して得られた結果は良好であり、25℃−60%RHおよび5℃において同じである。
【0033】
処方MP1766(ポリビドン)に関して得られた結果は明らかに好ましくない。
【0034】
これらの結果総て、特に25℃−60%RHでの6ヶ月間の保存で得られた結果から、フォーミュレーターは室温で18ヶ月を超える貯蔵寿命を有する抗癌組成物を放出することができるようになり、このことにより、前記処方物を2℃〜8℃間の温度で輸送し、保存する必要があるという制約がなくなる。
【0035】
有利には、本発明の組成物は、50mgを超える単位量のビンフルニンを含む。
【0036】
有利な実施形態では、本発明の組成物は、50mgを超える単位量のビンフルニン(例えば100mgまたは250mg)を含むことがある。この観点から、凍結乾燥前の前記溶液の処方は同じままで、分配する溶液の容量だけが変わる:前述の用量100mgおよび250mgビンフルニンの場合には4mlおよび10ml。
【0037】
以下の表に示される単位組成の溶液を調製し、その後凍結乾燥した。
【0038】
実施例3
【表4】

【0039】
得られた前記凍結乾燥製品を25℃−60%RHおよび30℃−65%RHで1ヶ月間、そして5℃および25℃−60%RHで2ヶ月間保存した。
【0040】
不純物総量をHPLCによって測定し、最初の値に対して示す。
【0041】
【表5】

【0042】
【表6】

【0043】
同じ保存条件下で出発材料であるビノレルビン二酒石酸塩は分解不純物レベルの変化を示し、これは、この製品はT<−15℃で保存する必要があるということを意味する(5℃で3ヶ月後の平均変化は+0.3%に等しい)。
【0044】
得られた結果は、二酒石酸塩形態で存在し、炭水化物の存在下で凍結乾燥したビノレルビンの室温保存に関して非常に好都合である。
【0045】
本発明による組成物は、20mg以下の単位量のビノレルビン(例えば10mgおよび50mg)を含むこともある。凍結乾燥前の前記溶液の処方は全く同じままで、分配容量だけが変わる:上述の用量10mgおよび50mg(市販品)の場合には1mlおよび5ml。
【0046】
本発明の1つの特定の実施形態では、本発明による医薬組成物は、注射製剤用水で再構成し、輸液(0.9%塩化ナトリウムまたは5%グルコース溶液など)に希釈した後に静脈内経路での注入によって投与される。
【0047】
本発明はまた、特に癌の治療において、有利には非経口投与により、有利な方法では注入による静脈内経路により、さらに有利には化学療法中に抗新生物薬および抗腫瘍薬として、薬物治療として用いるための本発明による医薬組成物にも関する。
【0048】
本発明はまた、有利には癌の治療のための、有利には注入による静脈内経路による、非経口投与を目的とする薬物の製造のための本発明による組成物の使用にも関する。
【0049】
非経口投与、すなわち、本発明によるビンフルニンまたはビノレルビン医薬組成物の静脈内経路による非経口投与によって、ビンフルニンまたはビノレルビンの効果に対する感受性が高い癌を治療することが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
室温で安定している、半合成水溶性ビンカアルカロイド誘導体からなる医薬組成物であって、該誘導体が、少なくとも1種の炭水化物の存在下で得られる凍結乾燥形態である、医薬組成物。
【請求項2】
前記半合成水溶性ビンカアルカロイド誘導体が水溶性塩の形態である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
半合成ビンカアルカロイド誘導体の前記水溶性塩がビンフルニンまたはビノレルビンである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
凍結乾燥賦形剤としての炭水化物に加えて、少なくとも1種の緩衝系を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記炭水化物が、還元もしくは非還元の単糖類、オリゴ糖類またはイヌリンなどの多糖類、より特定的には二糖類の中から選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記炭水化物が、サッカロース、トレハロースおよびラクトースの中から選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
pHを制御するために選択される前記緩衝系が3〜4の値を有し、より具体的には約3.5のpHを有し、かつ、0.005M〜0.5M、より具体的には0.05M〜0.2Mのモル濃度を有するものである、請求項4〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
不活性ガス雰囲気下で、かつ/または処方中への親水性抗酸化剤の配合を伴って、製造され、パッケージングされる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
静脈内経路での注入による投与に適した形態にある、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−514737(P2010−514737A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−543478(P2009−543478)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【国際出願番号】PCT/EP2007/064612
【国際公開番号】WO2008/080968
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(500033483)ピエール、ファーブル、メディカマン (73)
【Fターム(参考)】