説明

害虫忌避剤組成物及び化合物

【課題】害虫忌避活性を有する新規な化合物を提供する。
【解決手段】下記の一般式で表されるアミド誘導体。


(式中、Rは、置換されていてもよい非分枝鎖又は分枝鎖のC〜C15アルキルであり、;R1及びR2は、置換されていてもよい非分枝鎖又は分枝鎖のC〜C12アルキル、好ましくは、C〜Cアルキルであり、;X及びYは、互いに独立して、1〜20個の炭素原子を有する置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖のアルキレンブリッジ、好ましくは、1〜3個の炭素原子を有するアルキレンブリッジである。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式(I)に基づいて命名される新規化合物及び式(I)の範囲に包含されるその代表的な新規化合物に関し、また、該化合物の使用に基づき害虫を忌避するための本質的に非治療的な方法に関する。さらに、本発明は、活性成分として該物質を含有する対応する害虫忌避剤組成物、害虫駆除用組成物(vermin−deterring composition)を調製するための式(I)の化合物、及び、害虫から防御するための式(I)の化合物の使用にも関する。
【0002】
検討されている物質は、式(I):
【0003】
【化1】

[式中、
Rは、非分枝鎖又は分枝鎖のC〜C15アルキル、好ましくは、分枝鎖C〜Cアルキルであり、その際、該アルキルは、置換されていないか、又は、ハロゲン、シアノ若しくはニトロで置換されており;
R1及びR2は、非分枝鎖又は分枝鎖のC〜C12アルキル、好ましくは、C〜Cアルキルであり、その際、該アルキルは、置換されていないか、又は、ハロゲン、シアノ若しくはニトロで置換されており;
X及びYは、互いに独立して、1〜20個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖のアルキレンブリッジ、好ましくは、1〜3個の炭素原子を有するアルキレンブリッジを形成しており、その際、該アルキレンブリッジは、置換されていないか、又は、ハロゲン、シアノ若しくはニトロで置換されている]
で表される化合物である。
【0004】
好ましい1つの亜群は、式(I)[式中、RはCH(C〜Cアルキル)であり、その際、2つのC〜Cアルキル基は同一又は異なる長さを有する、分枝鎖であるか、又は、好ましくは、非分枝鎖である]の範囲に含まれる化合物によって形成される。
【0005】
式(I)[式中、R1及びR2は、式(I)で定義されているとおりであり、RはCH(C〜Cアルキル)であり、その際、2つのC〜Cアルキル基は同一であって、分枝鎖であるか、又は、好ましくは、非分枝鎖である]で表される化合物は、新規化合物であり、本発明の好ましい対象である。
【0006】
式(I)の化合物の範囲に包含される好ましい別の群は、式(I)[式中、X及びYは、互いに独立して、メチレン又はエチレンである]で表される化合物からなる。
【0007】
式(I)の化合物の範囲に包含される好ましい別の群は、式(I)[式中、R1及びR2は、互いに独立して、メチル又はエチルである]で表される化合物からなる。
【0008】
式(I)の化合物の範囲に包含される好ましいさらに別の群は、式(I)[式中、RはCH(C−n)である]で表される化合物からなる。
【背景技術】
【0009】
この型の構造を有する特定の化合物は、文献により知られているが、その用途は完全に異なっている。
【0010】
例えば、US−3,515,754には、基R−C(O)−として好ましくは長鎖脂肪酸基を有する物質が記載されており(式(I)を参照されたい)、唯一の例外は、実施例4のN,N−ビス(2−エトキシエチル)−2−エチルヘキサンアミドである。該物質は、可塑剤として有用である。
【0011】
US−3,712,926では、同様に、式(I)で表される数種類の代表的な物質(例えば、CH−CO−N(CHOCH)の製造について記載されている。これらは、物質表面のコーティングのためのいわゆる架橋剤として有用である。
【0012】
Derwent出版XP002241616では、N,N−ビス−イソプロポキシ−メチルアミド(この物質は、感光層として使用される)について記載されている。
【0013】
ドイツ公開明細書DE−4435114では、化合物が、
【0014】
【化2】

[ここで、Rは、H、CHCHOH又はR’’’であり、R’は、H又はCHCHOHであり、R’’’は、ヤシ油から誘導された脂肪酸基である]で表されるタイプの構造を有する殺虫剤組成物(insecticidal composition)及び昆虫駆除用組成物(insect−deterring composition)について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第3,515,754号明細書
【特許文献2】米国特許第3,712,926号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第4435114号明細書
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Derwent出版XP002241616
【発明の概要】
【0017】
驚くべきことに、式(I)で表される化合物が、害虫を駆除するのに極めて適していることが見いだされた。本発明に従って上記化合物を使用することにより、ヒト、動物、対象物又は特定の場所における非常に広範な種類の害虫を駆除することが可能である。ここで、式(I)の範囲内にある多くの化合物は、注目すべきことに、特に長い時間効果が持続する。
【0018】
上記置換基の定義中に存在しているアルキル基は、炭素原子の数に応じて、直鎖であり得るか、又は、好ましくは、分枝鎖であり得る。また、該アルキル基は、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル又はエイコシル、及び、好ましくは、それらの分枝鎖異性体、例えば、イソプロピル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、イソペンチル、ネオペンチル又はイソヘキシルなどである。本発明に関連して、好ましいのは、式中のRが、
【0019】
【化3】


である式(I)の化合物である。これらの内で、最も好ましい基は、CH−基が対称的に置換している基である。CH(CHCHCH)(CHCHが特に好ましい。
【0020】
ハロゲンは、通常、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素、好ましくは、フッ素又は塩素を表し、特に、塩素を表す。それにより、対応するアルキル置換基は、1以上の同一であるか又は異なっているハロゲン原子を含有し得る。ハロゲン化アルキル置換基の非限定的な例は、フッ素、塩素及び/又は臭素で1置換〜3置換されているメチル、例えば、CHF又はCF;フッ素、塩素及び/又は臭素で1置換〜5置換されているエチル、例えば、CHCF、CFCF、CFCCl、CFCHCl、CFCHF、CFCFCl、CFCHBr、CFCHClF、CFCHBrF又はCClFCHClF;フッ素、塩素及び/又は臭素で1置換〜7置換されているプロピル又はイソプロピル、例えば、CHCHBrCHBr、CFCHFCF、CHCFCF又はCH(CF;及び、フッ素、塩素及び/又は臭素で1置換〜9置換されているブチル又はその異性体の内の1つ、例えば、CF(CF)CHFCF又はCH(CFCFなどである。
【0021】
式(I)に関連する好ましい亜群は、式中のRが分枝鎖C〜C12アルキル、好ましくは、C〜Cアルキルである化合物によって形成される。
【0022】
特に好ましいのは、式中の置換基Rが置換されていない式(I)の化合物である。
【0023】
本発明に関連して、好ましいのは、X及びYが、互いに独立して、1〜3個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖の非置換アルキレンブリッジを形成している化合物である。特に、エチレンが好ましい。
【0024】
注目すべき化合物は、式中のR1及びR2が非分枝鎖C〜Cアルキル、好ましくは、メチル又はエチルである式(I)の化合物である。
【0025】
式(I)で表される化合物の内で、特に好ましい代表的な1つの化合物は、2−プロピル−ペンタン酸−ビス−(2−メトキシエチル)−アミドであり、これは、下記構造式:
【0026】
【化4】

で表される。
【0027】
式(I)の化合物を調製すると、その遊離形態又は塩形態が得られる。
【0028】
式(I)で表される化合物は、例えば、式:
【0029】
【化5】

[式中、R1、R2、X及びYは、式(I)に関して定義されているように定義される]で表される化合物(この化合物は、既知であるか又は対応する既知化合物と同様に調製し得る)を、場合により塩基性触媒の存在下で、式:
【0030】
【化6】

[式中、Rは式(I)に関して定義されているように定義され、Qは脱離基である]で表される化合物(この化合物も、また、既知であるか又は対応する既知化合物と同様に調製し得る)と反応させ、必要な場合には、該方法若しくは別の方法で得ることができる各々遊離形態にあるか若しくは塩形態にある式(I)の化合物を式(I)で表される別の化合物に変換し、該方法で得られる異性体混合物を既知方法で分離して所望の異性体を単離し、及び/又は、該方法で得ることができる式(I)の遊離化合物を塩に変換するか若しくは該方法で得ることができる式(I)の化合物の塩を式(I)で表される遊離化合物に変換するか別の塩に変換することにより調製する。
【0031】
化合物(I)の塩について上記で述べたことは、同様に、上記及び下記で挙げられている出発物質の塩にも適用される。
【0032】
反応体の対は、互いにそのままで、即ち、溶媒又は希釈剤を添加しないで、例えば溶融状態で、反応させることが可能である。しかしながら、殆どの場合、不活性な溶媒又は希釈剤又はそれらの混合物を添加するのが有利である。そのような溶媒又は希釈剤の例は以下のものである:芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素及びハロゲン化炭化水素、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ブロモベンゼン、石油エーテル、ヘキサン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン又はテトラクロロエタン;エーテル類、例えば、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジメトキシジエチルエーテル、テトラヒドロフラン又はジオキサン;ケトン類、例えば、アセトン、メチルエチルケトン又はメチルイソブチルケトン;アミド類、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン又はヘキサメチルリン酸トリアミド;ニトリル類、例えば、アセトニトリル又はプロピオニトリル;及び、スルホキシド類、例えば、ジメチルスルホキシドなど。
【0033】
好ましい脱離基Qは、ハロゲン、トシラート類、メシラート類及びトリフラート類であり、最も好ましくは、ハロゲン、特に、塩素である。
【0034】
該反応を促進するのに適する塩基は、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、水素化物、アミド類、アルカノラート類、酢酸塩、炭酸塩、ジアルキルアミド類又はアルキルシリルアミド類;アルキルアミン類、アルキレンジアミン類、場合によりN−アルキル化されていてもよい場合により不飽和のシクロアルキルアミン類、塩基性ヘテロ環、水酸化アンモニウム、及び、炭素環式アミン類である。例として挙げることができるものは、水酸化ナトリウム、水素化ナトリウム、ナトリウムアミド、ナトリウムメタノラート、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、カリウムt−ブタノラート、水酸化カリウム、炭酸カリウム、水素化カリウム、リチウムジイソプロピルアミド、カリウムビス(トリメチルシリル)アミド、水素化カルシウム、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリエチレンジアミン、シクロヘキシルアミン、N−シクロヘキシル−N,N−ジメチル−アミン、N,N−ジエチルアニリン、ピリジン、4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジン、キヌクリジン、N−メチルモルホリン、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム、及び、1,5−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−5−エン(DBU)などである。好ましいのは、ジイソプロピルエチルアミン及び4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジンである。
【0035】
該反応は、有利には、約0℃〜約100℃の温度範囲、好ましくは、約10℃〜約40℃の温度範囲で行う。
【0036】
式(I)で表される化合物は、無色から淡黄色で、中性風味(neutral−tasting)の油状物であり、比較的容易に揮発する。動力学的な研究により、式(I)の化合物が、局所施用された後で皮膚内に浸透しないことが示されている。式(I)で表される化合物の測定可能な血中レベルを確定することもできないし、また、想定される分解産物を確定することもできない。従って、局所施用は、動物又はヒトにとって治療的な処置ではない。
【0037】
本発明に関連して、害虫(vermin)は、特に、昆虫、ダニ(mite)及びマダニ(tick)であると理解される。そのようなものには、鱗翅目、甲虫目、同翅目、異翅目、双翅目、アザミウマ目、直翅目、シラミ目、ノミ目、ハジラミ目、シミ目、シロアリ目、チャタテムシ目及び膜翅目の昆虫が包含される。しかしながら、特に挙げることができる害虫は、ヒト又は動物に有害であって、病原体を伝搬するもの、例えば、ハエ類、例えば、Musca domestica、Musca vetustissima、Musca autumnalis、Fannia canicularis、Sarcophaga camaria、Lucilia cuprina、Hypoderma bovis、Hypoderma lineatum、Chrysomyia chloropyga、Dermatobia hominis、Cochliomyia hominivorax、Gasterophilus intestinalis、Oestrus ovis、Stomoxys calcitrans、Haematobia irritans)、及び、ユスリカ類(カ亜目)、例えば、Culicidae、Simuliidae、Psychodidae、さらに、吸血性害虫、例えば、ノミ類、例えば、Ctenocephalides felis(ネコノミ)、Ctenocephalides canis(イヌノミ)、Xenopsylla cheopis、Pulex irritans、Dermatophilus penetrans、シラミ類、例えば、Damalina ovis、Pediculus humanis、サシバエ類(biting flies)及びアブ類(Tabanidae)、Haematopota spp.、例えば、Haematopota pluvialis、Tabanidea spp.、例えば、Tabanus nigrovittatus、Chrysopsinae spp.、例えば、Chrysops caecutiens、ツェツェバエ類、例えば、Glossiniaの種、刺咬昆虫(biting insect)、特に、ゴキブリ類、例えば、Blatella germanica、Blatta orientalis、Periplaneta americana、ダニ類、例えば、Dermanyssus gallinae、Sarcoptes scabiei、Psoroptes ovis及びPsorergates spp.などであり、最後に、さらに、マダニ類を挙げることができる。マダニ類は、ダニ目に属する。公知マダニの代表的なものは、例えば、Boophilus、Amblyomma、Anocentor、Dermacentor、Haemaphysalis、Hyalomma、Ixodes、Rhipicentor、Margaropus、Rhipicephalus、Argas、Otobius及びOrnithodorosなどであり、これらは、好ましくは、ウシ、ブタ、ヒツジ及びヤギなどの家畜類、ニワトリ、シチメンチョウ及びガチョウなどの家禽類、ミンク、キツネ、チンチラ及びウサギなどの毛皮動物、ネコ及びイヌなどの飼育動物、さらには、ヒトをも包含する温血動物に寄生する。
【0038】
マダニ類は、カタダニ類(hard ticks)及びヒメダニ類(soft ticks)に分類することができる。また、マダニ類は、1種、2種又は3種の宿主動物に寄生することで特徴づけられる。マダニ類は、一時的な宿主動物(passing host animal)に付着し、血液又は体液を吸う。完全に充血した雌マダニは宿主動物から落下して、床の適する亀裂又はそこで幼虫が孵化する任意の別の保護されている場所で大量の卵(2000〜3000)を産卵する。今度は、これらが、血液を吸うために宿主動物を求める。1種類の宿主動物にのみ寄生するマダニの幼虫は、自分たちが選択した宿主から離れることなく、2回脱皮して若虫になり、最後には、マダニ成虫となる。2種類又は3種類の宿主動物に寄生するマダニの幼虫は、血液を充分に摂取した後、該宿主動物から離れ、局所環境で脱皮し、若虫として又は成虫として血を吸うために、第2又は第3の宿主を求める。
【0039】
マダニ類は、世界中で、ヒト及び動物の多くの疾患の媒介及び蔓延の原因となる。経済的な影響を有するという理由により、最も重要なマダニ類は、Boophilus、Rhipicephalus、Ixodes、Hyalomma、Amblyomma、及び、Dermacentorである。これらのマダニは、細菌性疾患、ウイルス性疾患、リケッチア症及び原虫症のキャリヤであり、ダニ麻痺症及びダニ中毒症を引き起こす。
【0040】
たった1匹のマダニでさえ、血液摂取に際して宿主動物に唾液を浸透させることにより麻痺を引き起こし得る。マダニに起因する疾患は、通常、数種類の宿主動物に寄生するマダニにより広められる。そのような疾患は、例えば、バベシア病、アナプラズマ病、タイレリア症及び心水病などであり、これらは、世界中の多くの飼育動物(domestic animal)及び家畜(farm animal)の死と障害の原因となっている。温和な気候の多くの国では、マダニ類により、慢性的に有害なライム病の媒介因子が野生動物からヒトへと伝染する。マダニ類は、病気を伝染させる以外にも、家畜生産において大きな経済的損失を招く。損失は、宿主動物の死に限られたことではなく、毛皮の損傷、成長の低下、ミルク産生の低下、及び、肉の価値の低下なども包含する。マダニが動物を侵襲することによる有害な影響については以前から知られており、また、マダニ防除プログラムを使用して大きな進歩がなされてきたが、今日に至るまで、これらの寄生虫を防除又は排除するための完全に満足のいく方法は見いだされていない。さらに、マダニは、多くの場合、化学的活性成分に対して抵抗性を発達させてきた。
【0041】
飼育動物及びペットをノミ類が侵襲した場合も、同様に、所有者にとって問題であり、そのような問題は、これまで満足に解決されていないか、又は、多額の費用をかけた場合にのみ解決することができる。マダニの場合と同様に、ノミも、煩わしい存在であるばかりではなく、病気のキャリアでもあり、特に、多湿で温暖な気候の領域、例えば、地中海沿岸や米国南部などにおいて、宿主動物から宿主動物及び飼育者にさまざまな菌類病を伝染させる。特に危険にさらされているのは、免疫系が弱い人々、又は、免疫系が未だ充分に発達していない子供である。ノミは生活環が複雑であるので、ノミを防除するための既知方法は、いずれも完全に満足のいくものではない。それは、特に、殆どの既知方法が、基本的に毛皮内のノミ成虫の防除を目指すものであり、ノミの幼虫の種々の段階(これらは、動物の毛皮のみではなく、床、カーペット、動物の寝わら、椅子、庭及び侵襲されている動物が接触する別の全ての場所にも存在している)は完全に手つかずのままであるからである。ノミの処理は、通常、費用がかかり、長い期間にわたって継続しなければならない。ノミの処理が旨くいくかどうかは、通常、侵襲されている動物(例えば、イヌ又はネコ)を処理するのみではなく、同時に、侵襲されている動物が頻繁に出入りする場所も処理することにかかっている。
【0042】
そのような面倒な方法は、本発明の式(I)で表される化合物を用いた場合は不要である。それは、検討下にある式(I)の化合物が、極めて高い効果を有すると同時に標的となる寄生虫並びに温血動物に対しても極めて毒性が低いという特に有利な点を有しているからである。これは、式(I)の化合物の活性が、標的寄生虫の死に基づくのではなく、宿主生物が標的寄生虫に攻撃されたり、刺されたり、咬まれたり又は別の何れかの方法で危害を加えられる前に実施される回避型防御(parrying defence)に基づくという理由による。本明細書中で検討されている式(I)の化合物が存在していると、それは、寄生虫が咬んだり刺したりせずに処理された環境からすぐに離れるか、又は、処理された宿主動物を全く侵襲しなくなるような方法で、寄生虫を阻害するようである。特筆すべきことは、本発明の活性成分に寄生虫が少しの間接触するだけで、効果が発揮されるということである。短時間接触した後は、寄生虫は、該活性成分とのそれ以上のどのような接触も回避する。さらなる有利な点は、例えば、DEET(N,N−ジエチル−m−トルアミド)と比較して、作用が長期間にわたることである。DEETは、極めて効果は高いが、かなり急速に揮発するので、早くも約2時間後には再度適用しなければならない。従って、DEETは、動物の維持療法(long−term treatment)には適さない。本発明の活性成分は殆ど無臭であるので、それらを使用することは好ましい。
【0043】
本発明の活性成分は、当然のことながら、同様の活性範囲を有する別の物質、又は、殺寄生虫薬、又は、作用をさらに向上させるか若しくは作用の持続時間をさらに長くするための別の活性改善物質(activity−improving substance)と混合して適用することが可能であるが、本発明の活性成分は、既に有利な特性の全てを合わせ持っているので、従来技術の多くの化合物とは対照的に、上記のような混合して適用することは全く不必要である。
【0044】
寄生虫を寄せ付けないだけでなく、殺す場合は、当然のことながら、適切な殺虫剤及び/又は殺ダニ剤を添加することにより寄生虫を殺すことができる。しかしながら、このことは、実際のところ殆どの場合不要である。
【0045】
式(I)の化合物は、好都合には、希釈溶液の形態で、動物の毛皮又はヒトの皮膚に適用する。さらにまた、式(I)の化合物は、別の適用形態に変換して、ペースト若しくは噴霧の形態で適用することも可能であるか、又は、首輪(collar)若しくはタグに組み入れることも可能である。
【0046】
後者の適用形態は、長期にわたる効果が望まれる場合には、特に有利である。それは、ペースト、首輪及びタグが、比較的多量の活性成分を取り込んで、それを長期間にわたって放出することが可能であるからである。そのような徐放性製剤は、以前から当業者には知られている。
【0047】
首輪の製造には、ポリビニル樹脂、ポリウレタン、ポリアクリレート、エポキシ樹脂、セルロース、セルロース誘導体、ポリアミド及びポリエステルが既知方法で使用され、これらは、上記活性成分と充分な適合性を有している。上記ポリマーは、ベルトに成形したときに裂けたり又は脆くなったりしないように、充分な強度と柔軟性を有しているべきである。上記ポリマーは、通常の摩損や引き裂きに耐えることができるように、充分に長期間持続するようなものでなくてはならない。さらに、上記ポリマーは、該活性成分が成形された首輪の表面に充分に移動できるようなものでなければならない。特に固形のポリビニル樹脂(即ち、ビニル二重結合を重合させることにより形成される重合産物)は、上記要件を満たしている。典型的なビニル樹脂は、例えば、ポリハロゲン化ビニル、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニル−酢酸ビニル及びポリフッ化ビニル;ポリアクリル酸エステル及びポリメタクリル酸エステル、例えば、ポリアクリル酸メチル及びポリメタクリル酸メチル;並びに、ポリビニルベンゼン、例えば、ポリスチレン及びポリビニルトルエンなどである。
【0048】
ポリビニル樹脂をベースとする首輪を製造するために適する可塑剤は、固形のビニル樹脂を可塑化するのに通常使用される可塑剤である。どの可塑剤を使用するかは、樹脂に依存し、また、樹脂と可塑剤の適合性に依存する。適する可塑剤は、例えば、リン酸のエステル、例えば、リン酸トリクレシル、フタル酸のエステル、例えば、フタル酸ジメチル及びフタル酸ジオクチル、並びに、アジピン酸のエステル、例えば、アジピン酸ジイソブチルなどである。アゼライン酸エステル、マレイン酸エステル、リシノール酸エステル、ミリスチン酸エステル、パルミチン酸エステル、オレイン酸エステル、セバシン酸エステル、ステアリン酸エステル及びトリメリト酸エステルなどの別のエステルも使用可能であり、また、複合線状ポリエステル、高分子可塑剤及びエポキシ化ダイズ油も使用可能である。可塑剤の量は、組成物全体の約10〜50重量%、好ましくは、20〜45重量%である。
【0049】
該首輪は、該組成物の基本的な特性を変えることなく、安定剤、崩壊剤、滑沢剤、増量剤及び着色剤などのさらなる成分も含有し得る。適する安定剤は、酸化防止剤、並びに、紫外線や加工(例えば、押出し)中の望ましくない劣化から首輪を保護するための作用物質である。数種類の安定剤(例えば、エポキシ化ダイズ油)は、さらに、第2可塑剤としても作用する。使用する滑沢剤は、例えば、ステアレート類、ステアリン酸及び低分子量ポリエチレンなどである。これらの成分は、組成物全体の5重量%以下の濃度で使用し得る。
【0050】
ビニルをベースとする首輪を製造する場合、種々の成分を、既知混合方法により乾式混合し、既知押出し法により製造する。
【0051】
本発明の首輪の製造における加工方法の選択は、首輪材料のレオロジー特性及び所望される首輪の形状に対する技術的基盤に依存する。該加工方法は、加工技術又は成型のタイプに応じて調節し得る。加工技術では、該加工は、連続的なレオロジー条件に従って分類される。以上のことにより、粘性の首輪材料については、鋳込、加圧、注入及びコーティングを考慮することができ、粘弾性(elastoviscous)ポリマーについては、射出成形、押出し、カレンダ加工、圧延及び場合によりエッジングを考慮することができる。成形のタイプに従って分類する場合、本発明の成形された首輪は、鋳込、液浸、加圧、射出成形、押出し、カレンダ加工、スタンピング、ベンディング及びカッピングなどによって製造し得る。
【0052】
これらの加工方法は知られており、それ以上の説明は不要である。ポリビニル樹脂に関して例として上記で記載した説明は、原則として、ポリアミドやポリエステルなどのポリマーにも適用される。
【0053】
本発明の首輪のためのさらに別の担体物質は、ポリウレタンである。ポリウレタンは、既知方法により、ポリイソシアネートをイソシアネートに対して反応性である少なくとも2つの基を有している高分子化合物と反応させ、さらに、場合により、低分子量連鎖延長剤(chain lengthener)及び/又は単官能性連鎖停止剤と反応させて製造する。該活性成分は、担体ポリマー中に、0.1〜30重量%の濃度で存在させる。10〜20重量%の濃度が好ましい。活性成分の濃度は、約20重量%であるのが特に好ましい。
【0054】
本発明の活性成分は、好ましくは、希釈されている形態で使用する。それらは、通常、適切な製剤用賦形剤を用いて最終的な適用形態とする。それらは、0.1〜95重量%、好ましくは、0.5〜90重量%の活性成分を含有している。エタノール、プロパノール又はイソプロパノールなどの低級アルコールに溶解させた単純なアルコール溶液を使用し得るが、その場合、極めて良好な結果が得られ、さらに別の賦形剤を必要としない。この種の単純な溶液は、本発明の範囲内で特に好ましい。
【0055】
該活性成分は、多くの場合、温血動物に対して適用され、当然のことながら、その皮膚に接触するので、適切な製剤用賦形剤は、化粧品において知られている賦形剤及び投与形態でもある。それらは、溶液、エマルション、軟膏、クリーム、ペースト、粉末、噴霧などの形態で投与し得る。
【0056】
生産性家畜(productive livestock)又はペット及び畜舎に入れられた家畜、例えば、ウシ、ウマ、ロバ、ラクダ、イヌ、ネコ、家禽、ヒツジ及びヤギなどに投与する場合、いわゆる「ポアオン」製剤又は「スポットオン」製剤が特に適している。これらの液体製剤又は半流動性製剤は、毛皮又は羽毛の小さな領域に適用することのみが必要であるという利点を有しており、該液体製剤又は半流動性製剤は、上記割合の拡展性油(spreading oil)又は別の拡展性添加剤(spreading additive)のおかげで、他に何もすることを必要とせずに、毛皮又は羽毛の全体にわたって勝手に分散していき、全領域にわたって活性を示す。
【0057】
当然のことながら、無生物材料、例えば、衣類又はイヌ若しくはネコのバスケット、畜舎、カーペット、カーテン、住居及び温室などは、該製剤で処理可能であり、そのようにして、寄生虫の侵襲から保護することができる。
【0058】
ゴキブリを防除するためには、それらが存在している場所(通常、壁の割れ目、家具類など)に噴霧又は散粉することができる。ゴキブリは極めて活動的であり、また、ゴキブリを完全に駆逐することは殆ど不可能であるので、本発明の活性成分を使用する場合は、ゴキブリに対して活性を有している殺虫剤を付加的に使用することが推奨される。
【0059】
ヒトに対して適用する場合、心地よい香りのする精油、例えば、香料などを添加して、その適用をより魅惑的なものとすることができる。
【実施例】
【0060】
本発明の活性成分の調製及び使用についての下記実施例は、本発明を限定することなく本発明を例証するのに有用である。
【0061】
特に、好ましい製剤は、以下のようにして製造する。
【0062】
製剤実施例1
皮膚に適用するためのローションの形態にある害虫駆除用組成物は、30部の表1に記載されている式(I)の化合物の内の1種類の化合物、1.5部の香料及び68.5部のイソプロパノールを混合することにより調製する。ここで、イソプロパノールはエタノールで置き換えてもよい。
【0063】
製剤実施例2
ペットの毛皮に噴霧するためのエーロゾルの形態にある害虫駆除用組成物は、30部の表1に記載されている式(I)の化合物の内の1種類の化合物、1.5部の香料及び68.5部のイソプロパノールからなる活性成分溶液50%を、エーロゾル缶噴射剤ガスとしてのFrigen 11/12(ハロゲン化炭化水素)50%と配合することにより調製する。
【0064】
製剤実施例3
皮膚に噴霧するためのエーロゾルの形態にある害虫駆除用組成物は、20部の式(I)の化合物の内の1種類の化合物、1部の香料及び79部のイソプロパノールからなる活性成分溶液40%を、エーロゾル缶噴射剤ガスとしてのプロパン/ブタン(比率 15:85)60%と配合することにより調製する。
【0065】
調製実施例: 下記式で表される2−プロピル−ペンタン酸−ビス−(2−メトキシエチル)−アミド(下記表1における化合物番号1.31)の調製
【0066】
【化7】

75g(0.56mol)のビス−(2−メトキシエチル)−アミンと50.6g(0.50mol)のトリエチルアミンを700mLの塩化メチレンに溶解させた溶液に、10℃で、162.5g(0.50mol)の塩化2−プロピル−ペンタノイルを300mLの塩化メチレンに溶解させた溶液を滴下して加える。その反応混合物を室温で約12時間撹拌した後、得られた反応溶液を、250mLのHO、250mLの1N NaOH、250mLの1N HCl及び250mLの塩化ナトリウム水溶液で洗浄する。次に、有機相を分離し、蒸発させて濃縮し、残渣を、Vigreuxカラムで高真空(0.1トル)下に蒸留する(沸点:108〜112℃)。121g(93%)の無色無臭の油状物が得られる。
【0067】
既に明記したように、式(I)で表される化合物は、無色から淡黄色で、中性風味の油状物であり、比較的容易に揮発する。
【0068】
下記表1は、式(I)で表される化合物の好ましい代表的なものを示している。
【0069】
【表1】



【0070】
生物学的実施例
害虫忌避物質を試験するためのアレーナ試験法
この方法は、コンピュータ支援によるビデオシステムを使用して、横断面がそれぞれ5cmの6個のウェルを有するタイタープレートで実施する。該タイタープレートの各ウェルの内側を円形の濾紙又は別の適切な担体物質で覆う。式(I)で表される被験物質を、メタノール又はアセトニトリル又は別の適切な溶媒に溶解させ、その際、超音波処理を行い、また、溶解性が低い物質の場合は加熱する。溶解させた被験物質を、1〜100μg/cmの量で、4分円上の濾紙の中心又は約2.4cm半径の円形領域上の濾紙の中心に配置する。6個のウェルの内の4つには、異なった被験物質を入れるか、又は、異なった希釈(例えば、1μg/cm、3.2μg/cm、5μg/cm、10μg/cm及び20μg/cm)の同一の被験物質を入れる。第5番目のウェルは、標準物質としてのDEET(N,N−ジエチル−m−トルアミド)で処理する。第6番目のウェルには純粋な溶媒を入れて、対照とする。被験寄生虫(例えば、マダニ)の60〜100匹の幼虫又は25〜50匹の若虫又は10〜25匹の成虫を各濾紙に添加しする。系を板ガラスで覆い、ビデオカメラの下に置く。
【0071】
ビデオカメラは、5秒間隔で、6個の全てのウェルを個別に撮影する。定性的評価を行うために、これらの継時露出撮影映像を連続フィルムとして観察し、濾紙上の寄生虫の移動を光学的に追跡し、それらを、対照ウェル(No.6)における寄生虫の移動と比較するか又は第5番目のウェルの標準と比較する。そのようにして、被験寄生虫が濾紙の全表面にわたり一様に移動して被験物質を無視するか否かに関して定性的な観察を行うか、又は、被験寄生虫が処理された領域を避けるか否か及びどの程度の期間にわたって処理された領域を避けるか、並びに、被験物質の希釈が被験寄生虫の振る舞いに対してどのような影響を及ぼすかに関して定性的な観察を行う。このような方法により、中性物質(neutral substance)と忌避性物質を決定する。同時に、被験物質の活性の持続時間を決定して、標準物質のそれと比較する。個々のウェルのそれぞれについての全ての映像を互いの上に描くことにより、密度の異なる領域が得られる。これは、被験寄生虫が特定の場所を訪れる頻度を表している。この頻度を統計的に、例えば、Willcoxon法により、対照及び標準との比較において定量的に評価する。表1の化合物、例えば、番号1.11〜番号1.31、番号1.45、番号1.47及び番号1.55は、顕著な活性を示す。化合物番号1.31は、特に活性が高いことが示された。
【0072】
Amblyomma hebraeum又はvariegatum(若虫)に対するインビトロでのアレーナ試験
この試験は、各ウェル当たり約25〜50匹の若虫を添加して、上記で記載されているようにして実施する。10mgの溶解させた被験物質を、2.4cm半径の領域に適用する。ビデオ映像を評価することにより、式(I)の化合物がAmblyommaの若虫に対して著しい忌避作用を示すことが分かる。この忌避作用は、DEETの忌避作用に比較して著しく長い時間持続する。特に長期にわたる作用を示したのは、例えば、化合物番号1.31であり、これは、3.2μg/cmまで希釈しても特に長期にわたる作用を示す。
【0073】
Boophilus microplus Biarra(幼虫)に対するインビトロでのアレーナ試験
この試験は、各ウェル当たり約60〜100匹の幼虫を添加して、上記で記載されているようにして実施する。10mgの溶解させた被験物質を、2.4cm半径の領域に適用する。ビデオ映像を評価することにより、式(I)の化合物がBoophilusの幼虫に対して著しい忌避作用を示すことが分かる。この忌避作用は、DEETの忌避作用に比較して著しく長い時間持続する。特に長期にわたる作用を示したのは、例えば、化合物番号1.31であり、これは、3.2μg/cmまで希釈しても特に長期にわたる作用を示す。
【0074】
Rhipicephalus sanguineus(若虫)に対するインビトロでのアレーナ試験
約40〜50匹の若虫を用いて、実施例Bと同様に試験を行う。ビデオ映像を評価することにより、本発明の化合物が良好な忌避作用を示すことが分かる。特に、本発明の化合物は、その殆ど完全な忌避作用に関して傑出しており、この忌避作用は、DEETの忌避作用に比較して著しく長い時間持続する。特に長期にわたる作用を示したのは、例えば、化合物番号1.31であり、これは、3.2μg/cmまで希釈しても特に長期にわたる作用を示す。
【0075】
類似した試験の構成において、同じ被験物質をさまざまな種類のハエ(例えば、Musca domestic)に対する誘引作用に関して試験する。上記物質がこれら被験モデルでも強い忌避作用を示すことが分かる。
【0076】
本発明の2−プロピル−ペンタン酸−ビス−(2−メトキシエチル)−アミドとDEED(Parapic Dog(登録商標))の、イヌにおけるインビボでの噴霧適用による抗マダニ作用に関する比較
活性成分の下記製剤を、以下の試験で使用する。
【0077】
従来技術の組成物 Parapic抗マダニスプレー
活性物質:15% N,N−ジエチル−3−メチルベンズアミド(DEET);15% エチルブチルアセチルアミノプリピオネート(EBAAP);イソプロパノール、メタクリル酸コポリマー、カルバミド、芳香物質(香料)。
【0078】
本発明の組成物 2−プロピル−ペンタン酸−ビス−(2−メトキシエチル)−アミドスプレー
活性物質:2−プロピル−ペンタン酸−ビス−(2−メトキシエチル)−アミド 4.5%;Pluronic F6(登録商標) 2.0%;水 10.0%、イソプロパノール 100.0%まで。
【0079】
Pluronic(登録商標)は、プロピレンオキシドとエチレンオキシドのブロックコポリマーからなる非イオン性界面活性物質(界面活性剤)である。
【0080】
この試験の目的は、市販抗害虫製品のParapic Dog(登録商標)と式(I)で表される典型的な化合物(即ち、2−プロピル−ペンタン酸−ビス−(2−メトキシエチル)−アミド)を自然条件下で比較することである。包装に記載されている情報によると、Parapic Dog(登録商標)を用いて48時間にわたり80%の抗マダニ保護が達成される。Parapic Dog(登録商標)の活性成分は、DEEDであり、これは、化学物質N,N−ジエチル−3−メチルベンズアミドである。Parapic Dog(登録商標)のような活性成分DEETをベースとする製品は、イヌ及びネコにおけるマダニや、さらに、ヒトにおけるマダニに対しても、広く使用されている。実際、現在使用されている抗マダニ製品の大部分はDEETをベースにしており、また、イヌにおいて最も使用されている製品は、上記Parapic Dog(登録商標)である。
【0081】
試験プロトコル:12匹のビーグル犬を4匹からなるグループに分ける。それらを区別するために、各イヌには番号の付いたラベルを付けておく。グループ1は、4.5%2−プロピル−ペンタン酸−ビス−(2−メトキシ−エチル)−アミドスプレー(3645mg a.i./m)で処理する。グループ2は、Parapic Dog(登録商標)スプレー(20% DEED/3645mg a.i./m)で処理する。グループ3は、処理をせずにおいて、対照とする。
【0082】
12匹全てのイヌを、連続する3日間、Ixodes ricinus属のマダニが感染している樹木の茂った区域に入れ、そこで走り回らせておく。イヌたちは、そこで2時間自由に動き回ることができる。評価は、樹木の茂った区域から戻った直後に行う。それに続く2日間、イヌに対して再度処理を行うことなく、2時間の歩行を繰り返させる。評価は、再び、樹木の茂った区域から戻った直後に行う。この試験は、毛皮及び皮膚に付いているマダニを求めて各動物の毛皮及び皮膚を注意深く検査することにより達成される。マダニの数を数えて、対照グループのマダニの数と比較する。いずれのイヌにおいても、皮膚への刺激や望ましくない別の副作用はいずれも認められなかった。
【0083】
この試験により、以下の結果が得られる。
【0084】
【表2】

上記の比較により、本発明の物質2−プロピル−ペンタン酸−ビス−(2−メトキシ−エチル)−アミドが、現在最もよく使用されているDEEDよりも非常に優れているということが示されている。本発明の2−プロピル−ペンタン酸−ビス−(2−メトキシ−エチル)−アミドでは、連続する3日間にわたり、極めて良好な結果が得られているが、DEEDの活性は、2日後、突然に低下する。
【0085】
本発明の式(I)で表される化合物は、従って、1回適用しただけで、望ましくない副作用を全く示すことなく、全週末中、マダニに対する保護を付与する製品を製造するのに適している。動物及びヒトは、本発明の化合物に対して良好な耐性を示す。刺激や、別の悪影響は観察されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
害虫忌避剤組成物であって、少なくとも1種の適切な希釈剤又は拡展性添加剤と、活性成分として、式(I):
【化1】

[式中、Rは、非分枝鎖又は分枝鎖のC〜C15アルキル(ここで、該アルキルは、置換されていないか、又は、ハロゲン、シアノ若しくはニトロで置換されている)であり;R1及びR2は、非分枝鎖又は分枝鎖のC〜C12アルキル(ここで、該アルキルは、置換されていないか、又は、ハロゲン、シアノ若しくはニトロで置換されている)であり;X及びYは、互いに独立して、1〜20個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖のアルキレンブリッジ(ここで、該アルキレンブリッジは、置換されていないか、又は、ハロゲン、シアノ若しくはニトロで置換されている)である]で表される化合物を含有することを特徴とする、前記害虫忌避剤組成物。
【請求項2】
Rが、分枝鎖C〜Cアルキルであり、R1、R2、X及びYは、請求項1で定義されているとおりであることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
活性成分として、式(I)[式中、RはCH(C〜Cアルキル)であり、その際、2つのアルキルは同一又は異なる長さを有する分枝鎖又は非分枝鎖であり、R1、R2、X及びYは、請求項1で定義されているとおりである]で表される化合物を含有することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
活性成分として、式(I)[式中、RはCH(C−n)であり、R1、R2、X及びYは、請求項1で定義されているとおりである]で表される化合物を含有することを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の組成物。
【請求項5】
活性成分として、式(I)[式中、X及びYは、互いに独立して、メチレン又はエチレンであり、R、R1及びR2は、請求項1で定義されているとおりである]で表される化合物を含有することを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の組成物。
【請求項6】
活性成分として、式(I)[式中、R1及びR2は、互いに独立して、メチル又はエチルであり、R、X及びYは、請求項1で定義されているとおりである]で表される化合物を含有することを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載の組成物。
【請求項7】
活性成分として、化合物2−プロピル−ペンタン酸−ビス−(2−メトキシ−エチル)−アミドを含有することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
アルコール溶液の形態で存在していることを特徴とする、請求項1〜7の何れか1項に記載の害虫忌避剤組成物。
【請求項9】
ポアオン製剤又はスポットオン製剤の形態で存在していることを特徴とする、請求項1〜8の何れか1項に記載の害虫忌避剤組成物。
【請求項10】
首輪又はタグの形態で存在していることを特徴とする、請求項1〜7の何れか1項に記載の害虫忌避剤組成物。
【請求項11】
動物若しくはヒトから害虫を駆除するか又は対象物から害虫を駆除するための請求項1〜7の何れか1項に記載の式(I)の化合物の使用であって、前記害虫を忌避する量の式(I)の化合物を、非治療的な方法で、該動物若しくは該ヒト又は該対象物に局所的に適用することを特徴とする、前記使用。
【請求項12】
害虫忌避剤組成物を製造するための、請求項1〜7の何れか1項に記載の式(I)の化合物の使用。
【請求項13】
動物、ヒト又は対象物から害虫を忌避する方法における、請求項1〜7の何れか1項に記載の式(I)の化合物の使用。
【請求項14】
害虫が望まれない場所又は材料物質から害虫を駆除する方法であって、有効量の請求項1〜7の何れか1項に記載の式(I)の化合物を、害虫を駆除しようとする場所又は材料物質に適用することを特徴とする、前記方法。
【請求項15】
害虫を忌避するための組成物を調製する方法であって、請求項1〜7の何れか1項に記載の式(I)の化合物を適切な添加剤と混合することを特徴とする、前記方法。
【請求項16】
式(I):
【化2】

[式中、R1及びR2は、非分枝鎖又は分枝鎖のC〜C12アルキル(ここで、該アルキルは、置換されていないか、又は、ハロゲン、シアノ若しくはニトロで置換されている)であり;X及びYは、互いに独立して、1〜20個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖のアルキレンブリッジ(ここで、該アルキレンブリッジは、置換されていないか、又は、ハロゲン、シアノ若しくはニトロで置換されている)であり、RはCH(C〜Cアルキル)であり、その際、2つのC〜Cアルキル基は同一であり、また、分枝鎖であるか又は好ましくは非分枝鎖である]
で表される化合物。
【請求項17】
RがCH(C−n)である、請求項16に記載の式(I)で表される化合物。
【請求項18】
2−プロピル−ペンタン酸−ビス−(2−メトキシ−エチル)−アミドである、請求項17に記載の式(I)で表される化合物。

【公開番号】特開2011−79832(P2011−79832A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−235145(P2010−235145)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【分割の表示】特願2004−560442(P2004−560442)の分割
【原出願日】平成15年12月16日(2003.12.16)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】