説明

害虫捕獲用粘着シート及びその製造方法

【課題】害虫の捕獲の性能(捕獲性)及び使い勝手(作業性)に優れるとともに、害虫の選択的捕獲が可能で、低コストの害虫捕獲用粘着シートを提供する。
【解決手段】0.03mm〜0.5mmの厚さを有するとともに、1mm〜7mmの間隔、1mm〜7mmの最大長さ、0.1mm〜3.0mmの高さ及び1.0mm〜36mmの凸面面積の凸部を持った、光の明暗によるコントラスト効果を発現し得る凹凸構造を有する基材層と、基材層上に0.03mm〜0.1mmの厚さに形成された粘着剤層とから構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、害虫捕獲用粘着シート及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、害虫(例えば、トマト、ナス、キューリ、メロン等に被害を与えるミナミキイロコナジラミ、オンシツコナジラミ、シルバーリーフコナジラミ等)を捕獲する必要のある、例えば、ハウス・温室、工場等の園芸施設、家庭菜園、ベランダ菜園等において好適に用いられる、害虫の捕獲の性能(捕獲性)及び使い勝手(作業性)に優れるとともに、害虫の選択的捕獲が可能で、環境負荷の小さい害虫捕獲用粘着シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
このような害虫捕獲用粘着シートとして、害虫の誘引色(害虫を誘引する色)である黄色、青色又は桃色を着色した粘着シ−トが広く使用されている。このような害虫捕獲用粘着シートの多くは、平面な基材の表面に粘着剤を塗布することによって形成されているが、害虫の捕獲性としては必ずしも満足し得るものではなかった。また、害虫の種類に対応して誘引色を変化させたもの、一部に、害虫の誘引剤やフェロモン剤を併用したもの、上述の粘着シ−トに紫外線ランプを組み合わせたもの等も普及している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、従来の害虫捕獲用粘着シートは、昆虫のうち害虫ではない益虫、昆虫以外の小動物や鳥、特に、植物の受粉に重要な役割を有するマルハナバチ、クロマルハナバチ等の益虫等を無制限に捕獲してしまうという不都合があり、さらに、粘着剤が、作業者の髪や肌、植物の葉や茎等に接触し、作業性を低下させ、かつ害虫捕獲用粘着シートの粘着面の減少をもたらす等の不都合があった。このことを考慮して、例えば、粘着剤付シートに網目形成部材を取り付けることで、害虫のみを捕獲し益虫は粘着剤層に付着しないように構成した害虫捕獲シートが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−306401号公報
【特許文献2】特開2005−304462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載された害虫捕獲用粘着シートは、害虫の捕獲性の向上に必要な、十分な誘引性や捕獲面積の確保等の点から、必ずしも十分に満足し得るものではなく、また構成が複雑となりコスト高とならざるを得なかった。本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであり、害虫の捕獲の性能(捕獲性)及び使い勝手(作業性)に優れるとともに、害虫の選択的捕獲が可能で、低コストの害虫捕獲用粘着シート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明によれば、以下の害虫捕獲用粘着シート及びその製造方法が提供される。
【0007】
[1]0.03mm〜0.5mmの厚さを有するとともに、1mm〜7mmの間隔、1mm〜7mmの最大長さ、0.1mm〜3.0mmの高さ及び1.0mm〜36mmの凸面面積の凸部を持った、光の明暗によるコントラスト効果を発現し得る凹凸構造を有する基材層と、前記基材層上に0.03mm〜0.1mmの厚さに形成された粘着剤層とを備えた害虫捕獲用粘着シート。
【0008】
[2]前記基材層と前記粘着剤層との間に、さらに、0.005mm〜0.02mmの厚さ及び昆虫を誘引する誘引色を有するともに、前記凹凸構造を有する着色層を備えた前記[1]に記載の害虫捕獲用粘着シート。
【0009】
[3]前記着色層と前記粘着剤層との間に、さらに、0.005mm〜0.02mmの厚さ及び耐水性を有するともに、前記凹凸構造を有する保護層を備えた前記[2]に記載の害虫捕獲用粘着シート。
【0010】
[4]前記基材層の片面又は両面に、前記粘着剤層、前記着色層及び前記粘着剤層、又は前記着色層、前記保護層及び前記粘着剤層が形成された前記[1]〜[3]のいずれかに記載の害虫捕獲用粘着シート。
【0011】
[5]前記粘着剤層の表面に、剥離材をさらに備えた前記[1]〜[4]のいずれかに記載の害虫捕獲用粘着シート。
【0012】
[6]短冊形状又はロール形状である前記[1]〜[5]のいずれかに記載の害虫捕獲用粘着シート。
【0013】
[7]0.03mm〜0.5mmの厚さを有する基材層を、1mm〜7mmの間隔、1mm〜7mmの最大長さ、0.1mm〜3.0mmの高さ及び1.0mm〜36mmの凸面面積の凸部を持った、光の明暗によるコントラスト効果を発現し得る凹凸構造を有する形状となるようにエンボス加工をし、エンボス加工をした前記基材層の表面の片面又は両面に、粘着剤を0.03mm〜0.1mmの厚さに塗布して粘着剤層を形成すること、を含む害虫捕獲用粘着シートの製造方法。
【0014】
[8]エンボス加工前の前記基材層の表面の片面又は両面上に、0.005mm〜0.02mmの厚さ及び昆虫誘引性の色彩を有する着色層、並びに/又は0.005mm〜0.02mmの厚さ及び耐水性を有する保護層を積層して、前記基材層並びに着色層及び/又は保護層を有する積層体を形成し、前記積層体を、1mm〜7mmの間隔、1mm〜7mmの最大長さ、0.1mm〜3.0mmの高さ及び1.0mm〜36mmの凸面面積の凸部を持った、光の明暗によるコントラスト効果を発現し得る凹凸構造を有する形状となるようにエンボス加工をし、エンボス加工をした前記積層体の表面の片面又は両面上に、粘着剤を0.03mm〜0.1mmの厚さに塗布して粘着剤層を形成する前記[7]に記載の害虫捕獲用粘着シートの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、害虫の捕獲の性能(捕獲性)及び使い勝手(作業性)に優れるとともに、害虫の選択的捕獲が可能で、低コストの害虫捕獲用粘着シート及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】本発明の実施の形態に係る害虫捕獲用粘着シートを模式的に示す平面図である。
【図1B】図1AにおけるA−A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[実施の形態に係る害虫捕獲用粘着シート]
図1Aは、本発明の実施の形態に係る害虫捕獲用粘着シートを模式的に示す平面図であり、図1Bは、図1AにおけるA−A線断面図である。
【0018】
図1A及び図1Bに示すように、本発明の実施の形態に係る害虫捕獲用粘着シート10は、短冊形状を有し、0.03mm〜0.5mm、好ましくは0.07mm〜0.4mmの厚さを有するとともに、1mm〜7mm、好ましくは3mm〜5mmの間隔、1mm〜7mm、好ましくは3mm〜5mmの最大長さ、0.1mm〜3.0mm、好ましくは0.5mm〜2.0mmの高さ、及び1.0mm〜36mm、好ましくは4mm〜25mmの凸面面積の凸部1を持った、光の明暗によるコントラスト効果を発現し得る凹凸構造20を有する基材層11と、基材層11上に0.03mm〜0.1mm、好ましくは0.04mm〜0.07mmの厚さに形成された粘着剤層14とを備えた基本的構成を有している。
【0019】
また、本実施の形態の害虫捕獲用粘着シート10は、吊り下げ穴30を有しており、所定の場所に、通常その複数が吊り下げられて用いられる。その形状は、断面L字形状、断面コの字形状、箱形状、筒形状、提灯形状、ロール巻き形状、複数枚積層形状等の他の形状であってもよい。
【0020】
なお、図1A及び図1Bにおいては、上述の基本的構成に加えて、基材層11と粘着剤層14との間に、さらに、0.005mm〜0.02mm、好ましくは、0.008mm〜0.015mmの厚さ及び昆虫を誘引する誘引色を有するともに、凹凸構造20を有する着色層12と、0.005mm〜0.02mm、好ましくは、0.006mm〜0.015mmの厚さ及び耐水性を有するともに、凹凸構造20を有する保護層13とを備えた場合を示している。
【0021】
また、図1A及び図1Bにおいては、基材層11の両面にそれぞれ、着色層12、保護層13及び粘着剤層14をこの順に備えた場合を示しているが、基材層11の片面に、着色層12、保護層13及び粘着剤層14をこの順に備えたものであってもよい。
【0022】
本発明に用いられる基材層11は、弾力性や可撓性を有するとともに、雨露に晒されることが多いことから防水性や耐候性を有し、一般ゴミとして廃棄可能で、後述する粘着剤層14等を確実に保持することが可能な材料から構成することが好ましい。例えば、合成紙、紙から構成されてなるものが廃棄時の環境負荷が小さいことから好ましい。具体的には、ミルクカ−トン紙、コートボール紙、両面PE(ポリエチレン)フィルムラミネート紙等を挙げることができる。また、ポリエステル、ポエチレン、ポリスチロ−ル及びポリウレタンからなる群から選ばれる少なくとも一種の合成樹脂、金属箔、又は不織布であってもよい。
【0023】
本発明に用いられる基材層11は、0.03mm〜0.5mm、好ましくは、0.07mm〜0.4mmの厚さを有している。0.03mm未満であると、凹凸構造の形状がなだらかになりすぎ、光の明暗によるコントラスト効果を発現できないことがあり、0.5mmを超えると、凹凸構造の形状が設定の型に成型されず、崩れた凹凸構造になることがある。
【0024】
本発明に用いられる基材層11は、上述のような凹凸構造20を有している。すなわち、1mm〜7mm、好ましくは3mm〜5mmの間隔(D)、1mm〜7mm、好ましくは3mm〜5mmの最大長さ(L)、0.1mm〜3.0mm、好ましくは0.5mm〜2.0mmの高さ(H)及び1.0mm〜36mm、好ましくは4mm〜25mmの凸面面積の凸部1と、凹部2とを持った、光の明暗によるコントラスト効果を発現し得る凹凸構造20を有している。従って、後述するように、この基材層11の上に、又は着色層12若しくは保護層13の上に、略均一に塗布されて構成される粘着剤層14の表面も同様な凹凸構造20を有することになる。なお、凹凸構造20における凸部1は、上面視で四角形を有する柱状である場合を示すが、上面視で、円形、菱形等を有する柱状であってもよく、他の角錐台、円錐台のような形状であってもよい。例えば、正四角錐台の場合、最大長さ(L)とは、上面視で、頂部の狭い方の正方形の辺の長さではなく、底部の広い方の正方形の辺の長さを意味する。また、凸面面積とは、上面視で、頂部の狭い方の正方形の面積を意味する。さらに、長方形の角錐台の場合、最大長さ(L)とは、上面視で、底部の長方形の長い方の辺の長さを意味する。
【0025】
このような凹凸構造20を有するようにしたのは、自然界において、昆虫が集まる植物の葉や茎の表面は、平面状でなく、凹凸状になっていることに着目し、昆虫の自然界の状況を再現したものである。すなわち、昆虫は、光の明暗のコントラストのある場所に、より多く誘引されることを利用して、上述の凹凸構造20を、光の明暗によるコントラスト効果を発現し得るように構成し、害虫の捕獲性を向上させたものである。
【0026】
具体的には、光が照射されると、粘着面層14が凹凸構造20を有するため、凹部2の内部が暗くなるとともに、凸部1は光の反射で明るくなり、粘着面層14に光の明暗のコントラストが発生する。昆虫は、このような光の明暗のコントラスに強く誘引されることが最近報告されている。例えば、英国のサセックス大学のNatalie Hempel de Lbarra博士は、以下のように報告している。すなわち、ミツバチは、視覚生理上、色の情報と明るさのコントラストの情報とを相補的に使いながら、効果的に視覚定位を行っているが、遠方から接近するときは、むしろ光の明暗のコントラストの情報を使っている、と報告している。このような光の明暗のコントラストを利用する場合、後述するように、害虫の誘引範囲が広がり、例えば、本発明の短冊形状の害虫捕獲用粘着シートを用いた場合、光の明暗のコントラストを利用しない場合に比べて、2〜3倍の誘引効果を発揮することができ、捕獲性を向上させることが可能であるとともに、シートの設置枚数を1/2〜1/3に低減することができ、大幅なコストダウンが可能である。
【0027】
また、基材層11及び粘着面層14の凹凸構造20の形状を上記の寸法の範囲内で調整することによって、作業者及び植物の葉や茎が接触した場合、これらとの接触面積を変化、低減させて容易に再剥離をすることが可能となり、また、植物の密集部にも設置が可能となり、使い勝手(作業性)を向上させることができる。また、実用上、製品として、粘着面層14の表面に剥離材を積層して保存したり運搬する場合が多いが、この場合、軽剥離が可能なため、安価なもの、例えば、汎用の剥離紙を用いることができ、コストの低減化を図ることができる。
【0028】
また、このような粘着シートを積層した積層品として用いる場合に、剥離の際の剥離力を、粘着剤層14の粘着力を弱めることなしに低減することができ、使い勝手(作業性)を向上させることができる。なお、粘着剤の粘着力を弱めると、粘着剤のフローに起因してタレが発生し、作物を汚染することがある。
【0029】
また、害虫に比べて体長が比較的大きく長い脚を有するマルハナバチ等の益虫の脚との接触面積を低減することができることから、体長の小さな害虫だけを確実に捕獲することができ、害虫の選択的捕獲が可能である。
【0030】
さらに、凹凸構造20を有することから、害虫捕獲用粘着シートの構造体としての剛性が増大し、カールすることが有効に防止される。カールが防止されると、粘着剤層の有効面積を保持することができるとともに、デザイン性としての外観の見栄えを保持することができる。
【0031】
上述の凹凸構造20を有する粘着面層14に用いられる粘着剤としては、害虫を確実に捕捉するとともに、高温時のフローによるタレを防止し、また積層品における剥離力を軽減化するものであれば特に制限はないが、例えば、耐水性を有して乾燥すれば粘着力が回復するもので、かつ誘引色を遮蔽することのない透明なものであることが好ましい。その凝集力としては、害虫の確実な捕捉、タレの防止、また剥離力の軽減化等の観点から、例えば、粘度として10Pa・s〜2×10Pa・sが好ましい。具体的には、アクリル系、ゴム系及びシリコン系からなる群から選ばれる少なくとも一種の透明粘着剤を好適例として挙げることができる。後述するファイバー塗工する場合に好適なホットメルト型の粘着剤であってもよい。なお、粘着剤層は、基材層11の全体を被覆したものであってもよく、少なくとも一部を被覆するものであってもよい。
【0032】
粘着剤層14の形成方法としては、特に制限はないが、例えば、印刷、塗装、貼付け等の方法を用いることができる。また、揮発性溶媒の揮発による微細な対流パターン形成現象を利用した、所謂ファイバー塗工であってもよい。このファイバー塗工によって、単位面積当たりの粘着剤の使用量の低減を図ることができるとともに、凹凸構造の形状に馴染んだ、均一な厚さの粘着剤層14を形成することができる。粘着剤層14の厚さは、通常、0.03mm〜0.1mmで、0.04mm〜0.07mmが好ましい。
【0033】
上述のように、本実施の形態においては、基本的構成に加えて、図1A及び図1Bに示すように、基材層11と粘着剤層14との間に、さらに、0.005mm〜0.02mm、好ましくは、0.008mm〜0.015mmの厚さ及び昆虫を誘引する誘引色を有するともに、凹凸構造20を有する着色層12と、0.005mm〜0.02mm、好ましくは、0.006mm〜0.015mmの厚さ及び耐水性を有するともに、凹凸構造20を有する保護層13とを備えている。
【0034】
本実施の形態においては、上述のように、基材層11の少なくとも一部が、着色層12によって被覆されていることが、捕獲性の向上の観点から好ましい。本実施の形態に用いられる着色層12は、害虫に固有の誘引色に着色されてなるものであることが好ましい。誘引色としては、例えば、黄色、青色又は桃色を好適例として挙げることができる。黄色、青色又は桃色の誘引色は、マンセル表色値を用いた反射色で、黄色は、色相:4Y、明度:7、彩度:14、また、青色は、色相:3.0PB、明度:5.4、彩度:10.6、また、桃色は、色相:5R、明度:6.5、彩度:8の範囲のものであることが特に好ましい。この場合、誘引色は、基材層11に、黄色、青色又は桃色の顔料を印刷で塗膜層として形成してもよく、黄色、青色又は桃色の顔料を基材層11に練り込んで形成してもよい。
【0035】
害虫の誘引性を高めるため、誘引色の上にさらに紫外線反射層及び/又は紫外線吸収層を配設してもよい。紫外線反射層としては、例えば、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化チタン、酸化鉛、蛍光顔料及びアルミニウム粉体からなる群から選ばれる少なくとも一種を含有してなるものを好適例として挙げることができる。また、紫外線吸収層としては、例えば、サルチル酸系、ベンゾフエノン系及びベンゾトリアゾ−ル系からなる群から選ばれる少なくとも一種の紫外線吸収剤を含有してなるものを好適例として挙げることができる。
【0036】
本実施の形態に用いられる着色層12は、0.005mm〜0.02mm、好ましくは0.008mm〜0.015mmの厚さを有している。0.005mm未満であると、太陽光で黄色の退色が大きくなることがあり、0.02mmを超えると、着色層に微細な割れが発生して誘引効果が低下することがある。
【0037】
本実施の形態においては、上述のように、基材層11及び着色層12が、保護層13によって被覆されていることが、及び耐候性の向上や凹凸構造の型崩れの防止の観点から好ましい。すなわち、本実施の形態に用いられる保護層13は、基材層11として、廃棄時の環境負荷の低減の観点から、薄手の紙を用いた場合に、劣った耐水性等をカバーする必要があることから有効である。特に、薄手の紙の場合は、エンボス加工で形成された凹凸構造20が、凹凸構造20に掛かる圧力で型が崩れることがあるため、保護層13を用いて、この型崩れを防止することが好ましい。具体的には、薄手の紙からなる基材層11の両面(通常、基材層11の両面には着色層12が形成されているのでその場合は着色層12のそれぞれの面)を保護層13、例えば、ポリエチレンフィルムでラミネートし、エンボス加工時、例えば、50℃〜200℃の熱を掛けて、凹凸構造20を形成して、室温でも型崩れがしないようにすることが好ましい。
【0038】
本発明に用いられる保護層13は、0.005mm〜0.02mm、好ましくは0.006mm〜0.015mmの厚さを有している。0.005mm未満であると、粘着シートをロール巻きにした場合、巻きの圧力で凹凸構造の形状が崩れることがあり、0.02mmを超えると、凹凸構造に形成する時の圧が大きくなり、基材へのシワの発生原因となることがある。
【0039】
[害虫捕獲用粘着シートの製造方法]
本実施の形態の害虫捕獲用粘着シートの製造方法は、0.03mm〜0.5mmの厚さを有する基材層11を、1mm〜7mmの間隔、1mm〜7mmの最大長さ、0.1mm〜3.0mmの高さ及び1.0mm〜36mmの凸面面積の凸部1を持った、光の明暗によるコントラスト効果を発現し得る凹凸構造20を有する形状となるようにエンボス加工をし、エンボス加工をした基材層11の表面の片面又は両面に、粘着剤を0.03mm〜0.1mmの厚さに塗布して粘着剤層14を形成すること、を基本的構成として含む。
【0040】
なお、基材層11をエンボス加工した後に粘着剤層14を形成することに代えて、エンボス加工前の基材層11の表面の片面又は両面上に、0.005mm〜0.02mmの厚さ及び昆虫誘引性の色彩を有する着色層12、並びに/又は0.005mm〜0.02mmの厚さ及び耐水性を有する保護層13を積層して、基材層11並びに着色層12及び/又は保護層13を有する積層体を形成し、この積層体を、1mm〜7mmの間隔、1mm〜7mmの最大長さ、0.1mm〜3.0mmの高さ及び1.0mm〜36mmの凸面面積の凸部1を持った、光の明暗によるコントラスト効果を発現し得る凹凸構造20を有する形状となるようにエンボス加工をし、エンボス加工をした積層体の表面の片面又は両面上に、粘着剤を0.03mm〜0.1mmの厚さに塗布して粘着剤層14を形成し、粘着剤層14の粘着剤上に剥離材15を貼り合せて害虫捕獲用粘着シート10を得てもよい。このようにして得られた害虫捕獲用粘着シート10は、図1Bに示すものに加えて、粘着剤層14の上に剥離材15が形成されて粘着面が保護されている。
【0041】
本実施の形態においては、基材層11、着色層12、保護層13及び粘着剤層14としては、既述のものを用いることができ、それぞれの積層、形成方法も、汎用の方法を用いることができる。また、剥離材15としても、剥離紙等の汎用されているものを用いることができる。
【0042】
本実施の形態に用いられるエンボス加工としては、特に制限はないが、例えば、加熱装置付きエンボスロール用いた方法を挙げることができる。具体的には、2本の金属製のエンボスロール、例えば、2本の鋼鉄製の凹凸エンボスロール、すなわち、正四角錐台の突起部を均等に配置した凸エンボスロールと、正四角錐台の凹部を形成した凹エンボスロールと、各々のロールの中に内蔵された電気ヒーターとを備えた加熱装置付きエンボスロールを用い、その加熱温度(ロール表面温度)を、例えば、100℃〜150℃に設定し、粘着剤層14を形成する前の基材層11、又は基材層11、着色層12及び保護層13からなる積層体を上述の2本のエンボスロール間に通すことによって、エンボス加工することを挙げることができる。
【実施例】
【0043】
以下に、本発明の害虫捕獲用粘着シートを、実施例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって、いかなる制限を受けるものではない。
【0044】
(実施例1〜4)
まず、以下のようにして4種類の粘着シートを作製した。すなわち、基材層としての厚さが0.32mmの厚手の紙(王子製紙社製:Newピジョン)の表裏面に、着色層として誘引色の黄色塗料(大日本インキ社製:XOS−1200)を10μmの厚さに印刷、形成し、次いで、この着色層を形成した基材層に、加熱装置付きエンボスロール(サイトウエンヂニアース社製:エンボスター450)を用いて、120〜130℃の温度で8m/分のスピードでエンボス加工をし、正四角柱形状の凹凸構造の凸部の寸法(間隔、最大長さ、高さ)がそれぞれ異なる4種類の粘着シートを作製した。次いで、粘着剤(ホットメルト粘着剤:新日本石油社製:エバータックSA−400E)をホットメルト塗工機(ダイナテック社製:ホットメルト塗工機)で50μmの厚さに塗布した。この場合、基材層に、粘着剤を、予めその粘度を140℃付近で、500mpas〜600mPasに調整し、塗布量を調節しながら、ファィバー状にして直接塗工して粘着層を形成させた。その後、粘着層の表面に剥離紙を貼着した。この付粘着シートのサイズを100mm×250mmの短冊形状にして4種類(実施例1〜4)の害虫捕獲用粘着シートを作製した。これらの害虫捕獲用粘着シートを、海老名市のトマトハウスにおいて剥離紙を剥離した状態で10日間設置して、コナジラミの捕獲数を確認する試験を実施した。結果を表1に示す。なお、害虫の捕獲数は、オンシツコナジラミ、タバココナジラミの数を示す。
【0045】
(比較例1〜3)
また、比較例1〜2として、凹凸構造の凸部の寸法(間隔、最大長さ、高さ)を変えたこと以外は実施例1と同様にして、害虫捕獲用粘着シートを作製した。さらに、基材層として、同じ黄色に印刷した同じ厚手の紙の平面板を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例3の害虫捕獲用粘着シートを作製した。これらの害虫捕獲用粘着シートを、海老名市のトマトハウスにおいて剥離紙を剥離した状態で10日間設置して、コナジラミの捕獲数を確認する試験を実施した。結果を表1に示す。なお、害虫の捕獲数はオンシツコナジラミ、タバココナジラミの数を示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1から、実施例1〜4の害虫捕獲用粘着シートは粘着剤層の粘着面の光の明暗のコントラストが好適なバランスを有しているため捕獲数が大きく、捕獲性に優れていることが分かる。これとは逆に、比較例1〜2の害虫捕獲用粘着シートは粘着剤層の粘着面の光の明暗のコントラストのバランスが崩れているため、また比較例3の害虫捕獲用粘着シートは粘着剤層の粘着面の光の明暗のコントラストが形成されないため、捕獲数が少ないことが分かる。
【0048】
(実施例5〜9及び比較例4〜6)
実施例1〜4の害虫捕獲用粘着シートのうち、凸部の間隔×最大長さが4mm×4mm(凸面の面積が16mm)の実施例3の場合が、害虫の捕獲数が最大値を示したことから、凸部の間隔×最大長さを4mm×4mmに固定して、凸部の高さの影響を検討した。具体的には、上述のエンボス加工機の凸ロール表面に、半田剤を塗布して凸形状の高さを調整し、所定高さの凸部が得られるようにしたこと以外は実施例3と同様にして実施例5〜9、及び比較例4〜5の害虫捕獲用粘着シートを作製した。さらに、基材層として、同じ黄色に印刷した同じ厚手の紙の平面板を用いたこと以外は実施例3と同様にして、比較例6の害虫捕獲用粘着シートを作製した。なお、比較例6は、比較例3と同じものである。これらの害虫捕獲用粘着シートを、海老名市のトマトハウスにおいて剥離紙を剥離した状態で10日間設置して、コナジラミの捕獲数を確認する試験を実施した。結果を表2に示す。なお、害虫の捕獲数は、オンシツコナジラミ、タバココナジラミの数を示す。
【0049】
【表2】

【0050】
表2から、凸部の高さが1.2mm付近に捕獲数の最大値があることが判明した。凸部の寸法(間隔×最大長さ)が4mm×4mmである時、比較例5のように凸部の高さが0.3mmより低いと、光の照射が凹部を明るく照らすため、凸部の表面と同じ明るさになり、光の明暗のコントラストが不明瞭になり、平面板の場合と大差のないコントラストとなり害虫の誘引性が小さくなることが分かる。また、比較例4のように凸部の高さが1.8mmを超えると、凹部のぼんやりとした暗さがなくなり、かなり暗い部分が多くなり、光のコントラストが明るい部分と暗い部分のモザイク模様が明瞭になりすぎたため、害虫の誘引性が小さくなる。害虫の捕獲が最大となる凸部の高さが1.2mm付近では、凹部に射し込む光が薄明かり状になっており、凸部の表面と凹部の谷間とに光の明暗のコントラストが害虫を誘引させる最適な状態になっていることが分かる。さらに、凸部の高さが2.2mmを超えると、コンジラミ類の害虫の大きさが約1mmなので、凹部の粘着面に害虫の後脚が接触する機会が極端に少なくなり凹部の粘着面に捕獲されないことから害虫捕獲数が落ちてくることも分かった。
【0051】
(害虫の選択的捕獲性の評価)
実施例1〜10及び比較例1〜6の害虫捕獲用粘着シートについて、害虫の選択的捕獲性(益虫は捕獲することなく害虫だけを選択的に捕獲することが可能な性質)を評価するため、益虫(マルハナバチ)を80匹放逐した300坪のトマトハウス内に、上述の害虫捕獲用粘着シートを2週間、放置設置した。マルハナバチの捕獲数を表3に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
表3から、マルハナバチの後脚が粘着面に接触する面積(間隔×最大長さ)を小さくすることによって、マルハナバチは、粘着面からの脱出し易くなり、捕獲数を減少させることができることが分かる。すなわち、ハチ類の後脚の大きさは、小型のヒメミツバチから大型のマルハナバチまで、7mm〜15mmの範囲にあり、表3に示す実施例1〜4の害虫捕獲用粘着シートの凸部の寸法(凹部の寸法も同様)は、間隔及び最大長さの大きさが3mm〜4mmであることからすると、接触部は後脚の長さの1/2〜1/3となり(後脚に掛かる粘着力も1/2〜1/3となり)、粘着面からの脱出は容易になることが分かる。
【符号の説明】
【0054】
1 凸部
2 凹部
10 害虫捕獲用粘着シート
11 基材層
12 着色層
13 保護層
14 粘着剤層
15 剥離材
20 凹凸構造
30 吊り下げ穴
D 凸部の間隔
L 凸部の最大長さ
H 凸部の高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.03mm〜0.5mmの厚さを有するとともに、1mm〜7mmの間隔、1mm〜7mmの最大長さ、0.1mm〜3.0mmの高さ及び1.0mm〜36mmの凸面面積の凸部を持った、光の明暗によるコントラスト効果を発現し得る凹凸構造を有する基材層と、前記基材層上に0.03mm〜0.1mmの厚さに形成された粘着剤層とを備えた害虫捕獲用粘着シート。
【請求項2】
前記基材層と前記粘着剤層との間に、さらに、0.005mm〜0.02mmの厚さ及び昆虫を誘引する誘引色を有するともに、前記凹凸構造を有する着色層を備えた請求項1に記載の害虫捕獲用粘着シート。
【請求項3】
前記着色層と前記粘着剤層との間に、さらに、0.005mm〜0.02mmの厚さ及び耐水性を有するともに、前記凹凸構造を有する保護層を備えた請求項2に記載の害虫捕獲用粘着シート。
【請求項4】
前記基材層の片面又は両面に、前記粘着剤層、前記着色層及び前記粘着剤層、又は前記着色層、前記保護層及び前記粘着剤層が、形成された請求項1〜3のいずれかに記載の害虫捕獲用粘着シート。
【請求項5】
前記粘着剤層の表面に、剥離材をさらに備えた請求項1〜4のいずれかに記載の害虫捕獲用粘着シート。
【請求項6】
短冊形状又はロール形状である請求項1〜5のいずれかに記載の害虫捕獲用粘着シート。
【請求項7】
0.03mm〜0.5mmの厚さを有する基材層を、1mm〜7mmの間隔、1mm〜7mmの最大長さ、0.1mm〜3.0mmの高さ及び1.0mm〜36mmの凸面面積の凸部を持った、光の明暗によるコントラスト効果を発現し得る凹凸構造を有する形状となるようにエンボス加工をし、
エンボス加工をした前記基材層の表面の片面又は両面に、粘着剤を0.03mm〜0.1mmの厚さに塗布して粘着剤層を形成すること、を含む害虫捕獲用粘着シートの製造方法。
【請求項8】
エンボス加工前の前記基材層の表面の片面又は両面上に、0.005mm〜0.02mmの厚さ及び昆虫誘引性の色彩を有する着色層、並びに/又は0.005mm〜0.02mmの厚さ及び耐水性を有する保護層を積層して、前記基材層並びに着色層及び/又は保護層を有する積層体を形成し、前記積層体を、1mm〜7mmの間隔、1mm〜7mmの最大長さ、0.1mm〜3.0mmの高さ及び1.0mm〜36mmの凸面面積の凸部を持った、光の明暗によるコントラスト効果を発現し得る凹凸構造を有する形状となるようにエンボス加工をし、エンボス加工をした前記積層体の表面の片面又は両面上に、粘着剤を0.03mm〜0.1mmの厚さに塗布して粘着剤層を形成する請求項7に記載の害虫捕獲用粘着シートの製造方法。

【図1A】
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【図1B】
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【公開番号】特開2011−36153(P2011−36153A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184905(P2009−184905)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(390000066)大協技研工業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】