説明

家族性高コレステロール血症の検査方法

【課題】本発明は、FHの疑いのある患者のFH関連遺伝子変異を迅速に特定する方法を提供することである。
【解決手段】迅速なFHの検査方法及び該検査方法に使用する低比重リポタンパク質受容体(LDLR)の新規遺伝子変異を特定した。
さらに、患者、特に日本人に多いFH関連遺伝子変異の頻度及びその割合を解析して、効率的にFH関連遺伝子変異を特定する方法を提供した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、迅速な家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemia; FH)の検査方法及び該検査方法に使用する低比重リポタンパク質受容体(low-density lipoprotein receptor; LDLR)の新規遺伝子変異に関する。
【背景技術】
【0002】
(家族性高コレステロール血症)
血中総コレステロール(total cholesterol; TC)のうち、低比重リポタンパクコレステロール(low-density lipoprotein cholesterol; LDL-C)は動脈硬化を促進し、高比重リポタンパクコレステロール(high-density lipoprotein cholesterol; HDL-C)は動脈硬化を抑制する。FHは、遺伝的に顕著な高LDL-C血症を示す。
従来、FHは稀な疾患と考えられていたが、実は最も頻度の高い遺伝性疾患であり、適切な診断と病態の理解と治療は日常診療でもきわめて重要である。
【0003】
FHの臨床症状の三つの主な特徴は高LDL-C血症、腱黄色腫、冠動脈疾患(coronary heart disease; CHD)である。FHは常染色体優性遺伝性疾患であり、ヘテロ接合体性FH(以下、ヘテロFHと称する場合がある)とホモ接合体性FH(以下、ホモFHと称する場合がある)が区別できる。
【0004】
(高LDL-C血症)
本発明者らの調査では、ヘテロFHの平均血中TC(±SD)は330±60 mg/dl、ホモFHでは669±104 mg/dl、正常者では179±26 mg/dlである。よって、ホモFH及びヘテロFHは、正常者と比較して、それぞれ約2倍及び約4倍となっている。
【0005】
(腱黄色腫)
腱黄色腫はFHに特異的な臨床症状であり、その好発部位は手背伸筋腱、アキレス腱などである。
アキレス腱のX線撮影はアキレス腱黄色腫を客観的・定量的に評価する方法である。アキレス腱厚は、正常者では6.3±1.2 mm(平均±SD)であり、9.0 mm以上はアキレス腱黄色腫と診断できる。アキレス腱肥厚はFHの85%で確認できる。アキレス腱黄色腫が認められないFH、特に若年者FHの診断には家族調査や遺伝子診断が必須である。
FHに皮膚黄色腫が出現する頻度は必ずしも高くない。特に高コレステロール血症が軽症の若年ヘテロFH患者ではほとんど黄色腫はみられない。10歳未満で黄色腫を認められる例はホモFHと考えられる。黄色腫を指標にFHをスクリーニングすると見逃す可能性が非常に高い。特に全身性黄色腫はホモFHであるか、極めて重症のヘテロFHしか認められない。
よって、腱黄色腫のみをFHの診断の指標とすることは非常に危険である。
【0006】
(冠動脈硬化症)
FHは高頻度に動脈硬化症、特に冠動脈硬化症、大動脈硬化症を併発する。FHにおける末梢動脈硬化は稀である。
【0007】
(FHの成因)
細胞内コレステロールは細胞膜の構成成分として、また、性ホルモン及び胆汁酸の前駆物質として重要であり、欠乏や過剰が起こらないように制御されている。細胞内コレステロールが過剰になればコレステロール合成酵素(HMG-CoA還元酵素)が抑制され、血中からLDL-Cを取り込むLDLRが減少する。細胞内コレステロールが減少すればHMG-CoA還元酵素活性が増加し、LDLRが増加して血中LDL-Cを細胞内へ取り込む。このことから、LDL-Cが細胞に入る機構の異常がFHの原因と考えられる(参照:図1)。
なおLDLRは細胞表面にある糖タンパク質であり、LDLR遺伝子は第19染色体短腕上にあり、その大きさは約45kbで、18のエクソンと17のイントロンから成る。該遺伝子のどこかにLDLRの機能異常を来たす変異があれば、FHが発症する(参照:図1)。
【0008】
上記以外の原因によるFHとして、LDLRのリガンドであるアポリポ蛋白B(ApoB)の異常による家族性欠陥アポリポ蛋白B血症(familial defective apolipoprotein B-100; FDB)、proprotein convertase subtilisin/kexin type 9(PCSK9)機能亢進症、常染色体性劣性遺伝性高コレステロール血症(autosomal recessive hypercholesterolemia; ARH)が知られている。
【0009】
また、LDLR遺伝子の変異については、下記文献に一部記載されている。
特許文献1では、「ヒトLDLレセプター遺伝子のエクソン4のコドン109の塩基配列がTCAになっているか又はこれにCが挿入されてTCCAになっているかを調べることから成る、ヒトLDLレセプター遺伝子異常の診断方法」を開示している。
特許文献2では、「195個の候補遺伝子に関し258個の遺伝子多型をPCR、配列特異的オリゴヌクレオチドプローブ、およびサスペンション・アレイ・テクノロジー(SAT)を用いて検出し、脂質代謝異常に有意に関連する遺伝子多型を検出する方法」を開示している。
特許文献3では、「家族性高コレステロール血症を引き起こす突然変異の存在の有無を分析する体外法」を開示している。
【0010】
上記特許文献では、LDLR遺伝子の変異が単に列挙されているのみである。千以上の存在が知られているLDLR遺伝子の変異をどのように検出すれば、効率的にFH関連遺伝子変異を特定できるかが不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10-99099号公報
【特許文献2】特開2009-247263号公報
【特許文献3】特表2006-515762号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】日本医事新報 No.4363(2007年12月8日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
高コレステロール血症の中でも、FHを積極的に診断することは重要である。上記述べた臨床所見を示さず、又は該所見があっても気がつかず、単に高コレステロール血症と診断されているFH症例が非常に多い現実がある。この場合には、FHの適切な治療を施すことができない。
しかしながら、千以上の存在が知られているFH関連遺伝子変異を検出することは非常に困難である。よって、FH関連遺伝子変異を有する患者であっても遺伝子変異が特定されていない場合が多々ある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために、迅速なFHの検査方法及び該検査方法に使用する低比重リポタンパク質受容体(LDLR)の新規遺伝子変異を提供した。
より詳しくは、患者、特に日本人に多いFH関連遺伝子変異の頻度及びその割合を解析して、効率的にFH関連遺伝子変異を特定する方法を提供した。
【発明の効果】
【0015】
本発明のFHの検査方法により、FHの疑いのある患者のFH関連遺伝子変異を迅速に特定することができるようになった。
【0016】
すなわち、本発明は以下の通りである。
「1.家族性高コレステロール血症(FH)の疑いのある患者由来の試料を用いて、図2に記載の順位に従って、FH関連遺伝子変異の有無を検出することを特徴とする家族性高コレステロール血症の検査方法。
2.家族性高コレステロール血症の疑いのある患者由来の試料を用いて、図3に記載の順位に従って、低比重リポタンパク質受容体(LDLR)遺伝子変異の有無を検出することを特徴とする家族性高コレステロール血症の検査方法。
3.家族性高コレステロール血症の疑いのある患者由来の試料を用いて、以下のいずれか1以上の低比重リポタンパク質受容体(LDLR)遺伝子変異の有無を検出することを特徴とする家族性高コレステロール血症の検査方法。
Exon4_12del (c.314-?_1845+?del)
314-1_314GC>CT (c.314-1_314delinsCT)
S117X (c.413C>G)
W159X (c.539G>A)
C163S (c.551G>C)
662_665dupACTG (c.662_665dupACTG)
C275X (c.887_888delinsAA)
E316G (c.1010A>G)
P671L (c.2075C>T)
P732S (c.2257C>T)
4.前項3に記載の検査方法に使用する、以下の1)〜4)のいずれか1以上から選択される家族性高コレステロール血症検査用プライマーセット。
1)配列番号1及び2に表された各塩基配列からなる2種のオリゴヌクレオチド
2)配列番号3及び4に表された各塩基配列からなる2種のオリゴヌクレオチド
3)配列番号5及び6に表された各塩基配列からなる2種のオリゴヌクレオチド
4)配列番号7及び8に表された各塩基配列からなる2種のオリゴヌクレオチド
5.以下の工程を含むホモFH患者の家族性高コレステロール血症の検査方法。
(1)ホモFHの疑いのある患者の血中総コレステロール値が500 mg/dl以上であるなら、LDLR遺伝子変異の有無を検出し、LDLR遺伝子変異が確認できないなら、次にPCSK9遺伝子変異の有無及び/又はLDLRAP1遺伝子の変異の有無を検出する工程
(2)ホモFHの疑いのある患者の血中総コレステロール値が、500 mg/dl以下であるなら、PCSK9遺伝子変異の有無及び/又はLDLRAP1遺伝子の変異の有無を検出し、PCSK9遺伝子変異の有無及びLDLRAP1遺伝子の変異が確認できなら、次にLDLR遺伝子変異の有無を検出する工程」
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】FHの成因
【図2】FH関連遺伝子変異の頻度
【図3】LDLR遺伝子変異の頻度
【図4】ヘテロFH遺伝子変異の頻度
【図5】ホモFH患者の臨床及び遺伝的特徴
【図6】ホモFH患者の血中総コレステロール濃度
【発明を実施するための形態】
【0018】
(家族性高コレステロール血症の遺伝子変異)
ホモFH患者は2つの変異対立遺伝子を有し、ヘテロFH患者は1つの変異対立遺伝子及び1つの正常対立遺伝子を有する。
FHは、4つのFH関連遺伝子の突然変異に起因する。LDLR遺伝子、ApoB遺伝子及びPCSK9遺伝子は常染色体優性遺伝性高コレステロール血症(autosomal dominant hypercholesterolemia; ADH)の病因遺伝子であり、LDLRAP1遺伝子は劣勢遺伝形式を示すARHの病因遺伝子である。
【0019】
(ホモFHの診断)
ホモFHの臨床診断は、(1)小児期からみられる黄色腫、(2)アテローム硬化性疾患及び(3)血中TC 550 mg/dl以上であればほぼ確定的である。しかし、血中TC 500 mg/dl以下でもホモFHの可能性がある。
よって、ホモFHの確定診断には血中TC濃度の測定とともに、LDLR活性の測定、LDLR遺伝子変異等の解析が必要となる。
また、「ホモFHの疑いのある患者」とは、上記(1)〜(3)のいずれか1以上の要件を満たす患者を意味する。
【0020】
(ヘテロFHの診断)
ヘテロFHの診断基準は、以下のいずれかを満たせばよい。
(1)腱黄色腫を伴う高コレステロール血症
(2)一親等に(1)を満たす者がいる高コレステロール血症
(3)FH関連遺伝子に異常を示す高コレステロール血症
上記高コレステロール血症の診断基準は血中TCが230 mg/dl以上である。この際、高コレステロール血症は高LDL-C血症に基づくものであり、その診断基準値は160 mg/dl以上となる。
なお、血中TC 230 mg/dl以下でも腱黄色腫を認め、FHと診断された例もある。加えて、発明者らの研究からでは、20歳以下のヘテロFHや20歳以上の25%のFHでは腱黄色腫が認められないことを確認している。
よって、ヘテロFHの確定診断には、LDLR遺伝子等の解析が必要となる。
また、「ヘテロFHの疑いのある患者」とは、上記(1)〜(3)のいずれか1以上の要件を満たす患者を意味する。
【0021】
(対象患者)
本発明のFHの検査方法の対象患者は、好ましくは日本人である。
【0022】
(FH関連遺伝子変異の有無の検出方法)
本発明のFHの検査方法におけるFH関連遺伝子変異の有無を検出する方法は、例えば、以下の自体公知の方法を利用することができるが、特に限定されない。
DNAシークエンス法、PCR-RFLP(restriction fragment length polymorphism)法、SSCP (single strand conformation polymorphism)法、ECA(electrochemical array)法、Allele specific PCR法、TaqMan allelic discrimination法、Hybridization法(DNA microarray, DNA chip)、Mass spectrometry法、Denaturing HPLC(high performance liquid chromatography)法、Invader assay法、MLPA(multiplex ligation-dependent probe amplification)法。
【0023】
(FH関連遺伝子変異の有無を検出することによる家族性高コレステロール血症の検査方法)
本発明のFHの検査方法、特にヘテロFH患者の検査方法では、実施例1の結果から得られた図2に記載の順位に従って、FH関連遺伝子変異の有無を検出する。検査方法の例を以下に示す。
【0024】
図2及び図3中の"Allele name"は、遺伝子変異の名称を意味する。図2及び図3中に記載の各遺伝子変異は、本発明で特定された新たな遺伝子変異以外は、「http://www.ucl.ac.uk/ldlr/Current/search.php?select_db=LDLR&srch=all」に登録されている。なお、本発明で特定された新たな遺伝子変異のAllele nameに下線を記載している。加えて、Atherosclerosis 165 (2002) 335-342の記載を参照することができる。
また、図中の「累計」は、全患者数における各順位までの遺伝子変異の出現確率を示す。例えば、図2中の順位1のK790X遺伝子変異の有無を検出すれば、約31.66%の確率でヘテロFH患者の遺伝子変異を特定できる。
また、同じ順位に複数の遺伝子変異がある場合、例えば4つの遺伝子変異を有する順位19の場合には、順位1〜順位19のすべての遺伝子変異の有無を検出すれば、約80.02%の確率でヘテロFH患者の遺伝子変異を特定できるが、順位1〜順位18のすべての遺伝子変異及び順位19の2つのの遺伝子変異の有無を検出すれば、約79.15%の確率でヘテロFH患者の遺伝子変異を特定できる。なお、同じ順位の複数の遺伝子変異間には順位がなく、いずれの遺伝子変異から検査しても良い。
さらに、順位1〜28のすべての遺伝子変異の有無を検出すれば、約84.28%の確率でヘテロFH患者の遺伝子変異を特定できる。
【0025】
1.K790Xの遺伝子変異を持つヘテロFH患者由来の試料の遺伝子変異を検出する場合
最初に、順位1のK790X遺伝子変異の有無を検出する。そして、K790X遺伝子変異があることを確認した場合には、本発明の検査を終了する。そして、患者は、K790X遺伝子変異によるヘテロFHであると特定する。
【0026】
2.P664Lの遺伝子変異を持つヘテロFH患者由来の試料の遺伝子変異を検出する場合
最初に、順位1のK790X遺伝子変異の有無を検出し、そして、K790X遺伝子変異がないことを確認する。次に、順位2のIVS15-3C>A遺伝子変異の有無を検出し、そして、IVS15-3C>A遺伝子変異がないことを確認する。次に、順位3のExon2_3del及びPCSK9 遺伝子E32K変異の有無を検出し、そして、Exon2_3del及びPCSK9 遺伝子E32K変異がないことを確認する。なお、同じ順位に複数の遺伝子変異が存在する場合には、どの遺伝子変異から検査しても良く、同時に検査しても良い。次に、順位5のP664L遺伝子変異の有無を検出し、そして、P664L遺伝子変異があることを確認した場合には、本発明の検査を終了する。そして、患者は、P664L遺伝子変異によるヘテロFHであると特定する。
【0027】
なお、複数の順位の遺伝子変異(例えば、順位1〜5)を同時に検査しても良い。
本発明の検査方法では、ヘテロFHの疑いのある患者(特に、日本人のFHの疑いのある患者)由来の試料を用いて、図1に記載の順位1(K790X)〜順位9(Exon3_6dup)のFH関連遺伝子の変異の有無を検出することにより、約70%の確率でヘテロFH患者であることを特定することができる。
【0028】
(LDLR遺伝子変異の有無を検出することによる家族性高コレステロール血症の検査方法)
本発明のFHの検査方法、特にヘテロFH患者の検査方法では、実施例1の結果から得られた図3に記載の順位に従って、LDLR遺伝子変異の有無を検出する。検査方法の例を以下に示す。
【0029】
1.K790Xの遺伝子変異を持つヘテロFH患者由来の試料の遺伝子変異を検出する場合
最初に、順位1のK790X遺伝子変異の有無を検出する。そして、K790X遺伝子変異があることを確認した場合には、本発明の検査を終了する。そして、患者は、K790X遺伝子変異によるヘテロFHであると特定する。
【0030】
2.C163Rの遺伝子変異を持つヘテロFH患者由来の試料の遺伝子変異を検出する場合
順位1のK790X遺伝子変異から順位13の1871-1873delTCA及びD280Y遺伝子変異の有無を検出し、そして、順位1〜順位13の遺伝子変異がないことを確認する。
次に、順位15のC163R、又は、C25Y及びC163Rの有無を検出し、そして、C163R遺伝子変異があることを確認した場合には、本発明の検査を終了する。そして、患者は、C163R遺伝子変異によるヘテロFHであると特定する。
【0031】
本発明の検査方法では、FHの疑いのある患者(特に、日本人のFHの疑いのある患者)由来の試料を用いて、図3に記載の順位である順位1(K790X)〜順位15(C163R、C25Y)のFH関連遺伝子の変異の有無を検出することにより、約71%の確率でヘテロFH患者であることを特定することができる。
【0032】
(本発明のLDLR遺伝子変異)
本発明では、以下の新たな10個のLDLR遺伝子変異を特定した。よって、本発明は、以下のいずれか1以上のLDLR遺伝子の変異の有無を検出することを特徴とするFHの検査方法も対象とする。
Exon4_12del (c.314-?_1845+?del)
314-1_314GC>CT (c.314-1_314delinsCT)
S117X (c.413C>G)
W159X (c.539G>A)
C163S (c.551G>C)
662_665dupACTG (c.662_665dupACTG)
C275X (c.887_888delinsAA)
E316G (c.1010A>G)
P671L (c.2075C>T)
P732S (c.2257C>T)
【0033】
(家族性高コレステロール血症の検査用プライマーセット)
本発明の新たなLDLR遺伝子変異は、以下のプライマーセットを使用した自体公知の遺伝子変異検出法を利用することで検出することができる。よって、本発明は、以下の1)〜4)のいずれか1以上から選択される家族性高コレステロール血症の検査用プライマーセットも対象とする。
1)314-1_314GC>CT (c.314-1_314delinsCT)、S117X (c.413C>G)、W159X (c.539G>A)、C163S (c.551G>C)及び662_665dupACTG (c.662_665dupACTG)を検出するための、配列番号1 (GACTTCACACGGTGATGGTG)及び配列番号2 (AAATCACTGCATGTCCCACA)に表された各塩基配列からなる2種のオリゴヌクレオチド
2) C275X (c.887_888delinsAA)を検出するための、配列番号3 (TGAATGAGTGCCAAGCAAAC)及び配列番号4 (TTCCCAAAACCCTACAGCAC)に表された各塩基配列からなる2種のオリゴヌクレオチド
3)E316G (c.1010A>G)を検出するための、配列番号5 (CGAGAGTGACCAGTCTGCAT)及び配列番号6 (GTTTGGTTGCCATGTCAGG)に表された各塩基配列からなる2種のオリゴヌクレオチド
4)P671L (c.2075C>T)及びP732S (c.2257C>T)を検出するための、配列番号7 (CGTCATTAGGCGCACACCTA)及び配列番号8 (ACCCGTCTCTGGGTGAAGAG)に表された各塩基配列からなる2種のオリゴヌクレオチド
【0034】
(ホモ接合体性家族性高コレステロール血症患者の検査方法)
本発明では、下記実施例1により、LDLR遺伝子変異を有するホモFH患者の血中TC値は、PCSK9遺伝子変異を有するホモFH患者及びLDLRAP1遺伝子変異を有するホモFH患者の血中TC値と比較して、高いことを確認している。
よって、本発明では、ホモFHの疑いのある患者の血中TC値を指標として迅速なホモFH患者の遺伝子変異の有無の検出方法を提供した。より詳しくは、以下の通りである。
【0035】
ホモFHの疑いのある患者の血中TC値が500 mg/dl以上であるなら、最初にLDLR遺伝子変異の有無を検出し、LDLR遺伝子変異が確認できないなら、次にPCSK9遺伝子変異の有無及び/又はLDLRAP1遺伝子の変異の有無を検出する。
また、ホモFHの疑いのある患者の血中TC値が500 mg/dl以下であるなら、最初にPCSK9遺伝子変異の有無及び/又はLDLRAP1遺伝子の変異の有無を検出し、PCSK9遺伝子変異の有無及びLDLRAP1遺伝子の変異が確認できないなら、次にLDLR遺伝子変異の有無を検出する。
【0036】
さらに、上記検査方法において、LDLR遺伝子変異の検出順位は、以下の通りである。
順位1:Exon2_3del/ Exon2_3del
順位2:K790X/K790X、D280Y/D280Y
順位1及び順位2のFH関連遺伝子変異の有無を検出することにより、約38(10/26)%の確率でホモFH患者の遺伝子変異を特定することができる。
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0038】
(FHの診断基準)
1.ヘテロFH
a)臨床的診断基準は、腱黄色腫を伴う高コレステロール血症患者、又は一親等若しくは二親等に高コレステロール血症がいる患者
b)遺伝的診断基準は、FH関連遺伝子の突然変異を有する患者
2.ホモFH
a)臨床的診断基準は、ヘテロFHである両親の約2倍の血中TC値である若年性黄色腫症を有する患者
b)遺伝的診断基準は、真性ホモ接合体、複合ヘテロ接合体及びダブルヘテロ接合体を有する患者
なお、アキレス腱厚が9.0 mm以上はアキレス腱黄色腫と診断する。
【0039】
(FH患者)
上記FHの診断基準を基にして、日本の北陸地方の1787名のヘテロFH患者及び26名のホモFH患者を選抜した。
1787名の内916名のヘテロFH患者並びに26名のホモFH患者のFH関連遺伝子変異を解析した。
加えて、遺伝子解析前に、上記遺伝子を解析した患者より、書面によるインフォームド・コンセントを受けた。
【0040】
(試料の処理方法)
遺伝子解析に使用する血液試料は、夜間絶食した患者から採血により取得した。血中TC、トリグリセリド(TG)及びHDL-Cの濃度は、自体公知の方法で測定した。LDL-C濃度は、該TG濃度が400 mg/dl未満の場合には、Friedewaldの計算式(参照:Clin Chem. 1972;18:499-502)を用いて計算した。
【0041】
(FH関連遺伝子分析の材料)
1.ゲノムDNA
ゲノムDNAは、Genomic DNA Purification Kit (Gentra Systems, Minneapolis, MN, USA)を用いて白血球細胞から抽出した。
2.使用したプライマー
LDLR及びPCSK9のエクソン及びエクソン-イントロン境界配列のすべてを網羅するプライマーは、Primer3 online software (http://frodo.wi.mit.edu/primer3/) により設計した。
【0042】
(LDLR遺伝子変異の解析方法)
既知LDLR遺伝子変異にはInvader assay法(Third Wave Technologies, Inc., Madison, WI, USA)、未知LDLR遺伝子変異にはHRM (High resolution melting)法を使用した。Large rearrangement解析のためのMLPAは、P062B LDLR MLPA kit (MRC Holland, Amsterdam, Netherland)を使用した。DNAシークエンスは、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit (Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)を使用して実行した。MLPA及びダイレクトシークエンス法は、ABI PRISM 310 Genetic Analyzer (Applied Biosystems)で行った。
なお、遺伝子変異解析の詳細方法は、Atherosclerosis 165 (2002) 335-342の記載を参照できる。
【0043】
上記の解析方法において、今回新たに特定したLDLR遺伝子変異の検出方法の詳細は、以下の通りである。
Exon4_12del (c.314-?_1845+?del)は、MLPAを使用した。
314-1_314GC>CT (c.314-1_314delinsCT)、S117X (c.413C>G)、W159X (c.539G>A)、C163S (c.551G>C)及び662_665dupACTG (c.662_665dupACTG)は、フォワードプライマー(GACTTCACACGGTGATGGTG:配列番号1)及びリバースプライマー(AAATCACTGCATGTCCCACA:配列番号2)を用いてダイレクトシークエンス法で解析した。
C275X (c.887_888delinsAA)は、フォワードプライマー(TGAATGAGTGCCAAGCAAAC:配列番号3)及びリバースプライマー(TTCCCAAAACCCTACAGCAC:配列番号4)を用いてHRM法、続いてダイレクトシークエンス法で解析した。
E316G (c.1010A>G)は、フォワードプライマー(CGAGAGTGACCAGTCTGCAT:配列番号5)及びリバースプライマー(GTTTGGTTGCCATGTCAGG:配列番号6)を用いてHRM法、続いてダイレクトシークエンス法で検出した。
P671L (c.2075C>T)及びP732S (c.2257C>T)は、フォワードプライマー(CGTCATTAGGCGCACACCTA:配列番号7)及びリバースプライマー(ACCCGTCTCTGGGTGAAGAG:配列番号8)を用いてHRM法、続いてダイレクトシークエンス法で検出した。
【0044】
(PCSK9遺伝子変異の解析方法)
PCSK9遺伝子変異は、SSCP(single strand conformation polymorphism)法、続いてダイレクトシークエンス法で検出した。
より詳しくは、PCSK9遺伝子のエクソン1のE32K変異は、フォワードプライマー(TGAACTTCAGCTCCTGCACA:配列番号9)及びリバースプライマー(AACGCAAGGCTAGCACCA:配列番号10)を用いたPCR-RFLP法により決定した。PCR産物は、1U制限酵素Bsl I (New England Biolabs, Ipswich, MA, USA)で一晩消化させた。そして、該PCR産物を用いてRFLP法による解析を行った。
なお、遺伝子解析の詳細方法は、Atherosclerosis 165 (2002) 335-342の記載を参照できる。
【0045】
(LDLRAP1遺伝子変異の解析方法)
LDLRAP1遺伝子変異は、LDLRAP1遺伝子のダイレクトシークエンス法で検出した。
【0046】
(ApoB遺伝子変異の解析方法)
ApoB遺伝子の変異は、文献Hum Mutat 1996;8:168-77の記載に従って実行した。より詳しくは、ApoB遺伝子のコドン3448-3562を含むエクソン26を増幅した。
【0047】
(統計分析)
血中脂質濃度及びその他のパラメータは、スチューデントt-検定を使用してFHグループ間で比較した。本明細書に記載のデータは、平均±標準偏差(mean±SD)で示している。統計分析にはJMP 5.12ソフトウェア(SAS Institute, Cary, NC, USA)を使用した。P<0.05を統計的に有意であると判断した。
【0048】
(ヘテロFH患者の遺伝子型分析の解析結果)
ヘテロFH患者の遺伝子型分析の解析結果を図4に示す。
全ヘテロFH患者916名の内訳は、LDLR遺伝子変異の患者は737名、ApoB遺伝子変異の患者は0名、PCSK9遺伝子変異の患者は54名、LDLRAP1遺伝子変異の患者は12名並びに遺伝子変異が特定できなかった患者は113名であった。
また、全ヘテロFH患者に対するLDLR遺伝子変異の患者の割合は80.5%、ApoB遺伝子変異の患者の割合は0%、PCSK9遺伝子変異の患者の割合は5.9%並びにLDLRAP1遺伝子変異の患者は1.3%であった。
【0049】
全ヘテロFH患者の遺伝子変異の累計を図2に示す。図2から明らかなように、順位1〜9の遺伝子変異の有無を検出することにより、約70.31%のヘテロFH患者の遺伝子変異を特定することができる。さらに、順位1〜40のすべての遺伝子変異の有無を検出することにより、約87.66%のヘテロFH患者の遺伝子変異を特定することができる。
加えて、全LDLR遺伝子変異の患者737名の各遺伝子変異の累計を図3に示す。
図3から明らかなように、順位1〜15の遺伝子変異の有無を検出することにより、約71.07%のヘテロFH患者の遺伝子変異を特定することができる。さらに、順位1〜38のすべての遺伝子変異の有無を検出することにより、約80.46%のヘテロFH患者の遺伝子変異を特定することができる。
【0050】
(新たな特定したLDLR遺伝子変異)
本発明では、以下の新たな10個のLDLR遺伝子変異を特定した。
Exon4_12del (c.314-?_1845+?del)
314-1_314GC>CT (c.314-1_314delinsCT)
S117X (c.413C>G)
W159X (c.539G>A)
C163S (c.551G>C)
662_665dupACTG (c.662_665dupACTG)
C275X (c.887_888delinsAA)
E316G (c.1010A>G)
P671L (c.2075C>T)
P732S (c.2257C>T)
【0051】
(ホモFH患者の遺伝子型分析の解析結果)
ヘテロFH患者の遺伝子型分析の解析結果を図5に示す。
全ホモFH患者26名から、14種類のLDLR遺伝子変異が検出された。PCSK9 E32Kは、4名のホモFH患者から検出された。LDLRAP1 606dupCは、1名のホモFH患者から検出された。なお、17名のホモFH患者の両親がヘテロFH患者であることが確認されており、5名のホモFH患者のいずれかの親がヘテロFH患者であることが確認されており、並びに4名のホモFH患者の両親のデータはない。
【0052】
全ホモFH患者26名の血中TC値の測定結果を図6に示す。LDLR遺伝子変異のホモ接合体患者のTCは605±146 mg/dlであり、PCSK9遺伝子変異のホモ接合体又はダブルヘテロ接合体患者のTCは436±122 mg/dlであり、並びにLDLRAP1遺伝子変異のホモ接合体のTCは513 mg/dlであった。
すなわち、ホモFH患者の遺伝子変異の種類により、血中TC濃度が異なることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明では、FHの疑いのある患者の遺伝子変異を迅速に特定する方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
家族性高コレステロール血症(FH)の疑いのある患者由来の試料を用いて、図2に記載の順位に従って、FH関連遺伝子変異の有無を検出することを特徴とする家族性高コレステロール血症の検査方法。
【請求項2】
家族性高コレステロール血症の疑いのある患者由来の試料を用いて、図3に記載の順位に従って、低比重リポタンパク質受容体(LDLR)遺伝子変異の有無を検出することを特徴とする家族性高コレステロール血症の検査方法。
【請求項3】
家族性高コレステロール血症の疑いのある患者由来の試料を用いて、以下のいずれか1以上の低比重リポタンパク質受容体(LDLR)遺伝子変異の有無を検出することを特徴とする家族性高コレステロール血症の検査方法。
Exon4_12del (c.314-?_1845+?del)
314-1_314GC>CT (c.314-1_314delinsCT)
S117X (c.413C>G)
W159X (c.539G>A)
C163S (c.551G>C)
662_665dupACTG (c.662_665dupACTG)
C275X (c.887_888delinsAA)
E316G (c.1010A>G)
P671L (c.2075C>T)
P732S (c.2257C>T)
【請求項4】
請求項3に記載の検査方法に使用する、以下の1)〜4)のいずれか1以上から選択される家族性高コレステロール血症検査用プライマーセット。
1)配列番号1及び2に表された各塩基配列からなる2種のオリゴヌクレオチド
2)配列番号3及び4に表された各塩基配列からなる2種のオリゴヌクレオチド
3)配列番号5及び6に表された各塩基配列からなる2種のオリゴヌクレオチド
4)配列番号7及び8に表された各塩基配列からなる2種のオリゴヌクレオチド
【請求項5】
以下の工程を含むホモFH患者の家族性高コレステロール血症の検査方法。
(1)ホモFHの疑いのある患者の血中総コレステロール値が500 mg/dl以上であるなら、LDLR遺伝子変異の有無を検出し、LDLR遺伝子変異が確認できないなら、次にPCSK9遺伝子変異の有無及び/又はLDLRAP1遺伝子の変異の有無を検出する工程
(2)ホモFHの疑いのある患者の血中総コレステロール値が、500 mg/dl以下であるなら、PCSK9遺伝子変異の有無及び/又はLDLRAP1遺伝子の変異の有無を検出し、PCSK9遺伝子変異の有無及びLDLRAP1遺伝子の変異が確認できなら、次にLDLR遺伝子変異の有無を検出する工程

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−80835(P2012−80835A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230449(P2010−230449)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【Fターム(参考)】