説明

家畜飼料の製造方法

【課題】 牧草等に代わる十分な繊維を有する家畜飼料を提供する。
【解決手段】 広葉樹の樹皮と食品副産物との混合物を密封貯蔵し、混合物を発酵させて広葉樹の樹皮を飼料化した畜産飼料は、牧草等を原料とする飼料と同等の繊維質を有する。上記家畜飼料は、牧草、ワラ等からなる粗飼料の代替え品と成り得るものである。これにより、コストの高い輸入牧草等の代替え飼料を得ることができ、飼料自体のコストの削減を図ることができる。また、食品副段物を原料とすることから、国内資源を有効に活用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家畜、特に牛の家畜飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
純国内産飼料自給率は、平成18年度(概算)において、25%に留まっている(農林水産省:平成20年6月発表)。従来、畜産経営においては、利便性、労力面の負担等の要因により、飼料の多くを輸入に依存していた。現在、輸入される飼料のうち乾草やワラなどの粗飼料は、畜産家にとって単価が高いものになっている。よって、飼料の国際価格及び海上運賃等が高騰すると飼料価格が上昇し、牛等の畜産業者の経営に大きな影響を与えるという問題が起こっていた。また、その影響は二次製品の価格変動に及び、物価高騰の要因ともなっていた。
なお、現在、国内において牧草を育てるなど粗飼料の自給率を高める対策が講じられているが、未だ問題解決には至っていない。
【0003】
上記問題を解決するものとして、広葉樹のろくろ木屑を牧草程度の柔らかさに分解した家畜用飼料が提供されている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開平5−211845号公報
【0004】
特許文献1の家畜用飼料は、広葉樹よりなるろくろ木屑に家畜用濃厚飼料を混合し、アルコール醗酵酵母を加えて、該ろくろ木屑中のリグニンをアルコール醗酵させ、該ろくろ木屑を草程度に分解させて得るものである。これにより、牧草やワラ等に代えて、広葉樹のろくろ木屑を飼料とすることができる。また、国内産飼料自給率を高めることができるとともに、輸入飼料による畜産業者の経済的負担を軽減できる可能性がある。
【0005】
しかし、広葉樹のろくろ木屑の繊維は、牧草やワラ等に比べると繊維質が細かいことから、牛の消化機能に適さないおそれがある。従って、広葉樹のろくろ木屑は、牧草等の代替え飼料としては十分なものではなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、輸入牧草等に代わる十分な有効繊維を有する牛などの家畜飼料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、上記目的を実現するために、飼料の繊維質確保と観点から広葉樹の樹皮に着目し種々の検討を行った結果、広葉樹の樹皮と食品副産物(食品残渣等)とを混合貯蔵し、その混合物を発酵させて広葉樹の樹皮を飼料化することによって、十分な有効繊維を有する家畜飼料を生成できることを見出し、本願発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の家畜飼料は、広葉樹の樹皮と食品副産物との混合物を密封貯蔵し、混合物を発酵させて広葉樹の樹皮を飼料化するようにしたものである。
また、前記広葉樹の樹皮が40.0〜99.9質量%であり、前記食品副産物が0.1〜60.0質量%であるようにしたものである。
また、前記混合物の発酵に係る水分含量を30〜70質量%に調整するようにしたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、国内において発生する広葉樹の樹皮と食品副産物(食品残渣等)との混合物を発酵させて生成される家畜飼料である。これにより、乾草やワラなどの粗飼料と同等の繊維質を有する粗飼料を生成することができる。
また、特許文献1に係る牛の胃袋の消化機能の観点から広葉樹のろくろ木屑はその繊維の構造上、牧草の代替えには適していない。これに対し、本発明は、ろくろ木屑より長い繊維質を有する広葉樹の樹皮を原料とするため、牛の消化機能に有効に働く。
以上のように、本発明の家畜飼料は、牧草、ワラ等からなる粗飼料の代替え品と成り得るものであり、海外の飼料に頼ることなく生成することができる。また、食品副段物を原料とすることから、国内資源を有効に活用できる。
また、本発明の家畜飼料は、海外の飼料に頼らず日本国内の材料により生成することができるため、畜産業者に輸入飼料より安価な飼料を安定供給できる。これにより、畜産業者は牛等が欲する一定量の飼料を毎年継続して安定給与することができ、「巨大な発酵タンク」と呼ばれるルーメン機能を低下させることなく、牛等の胃を常に健康に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、乾草やワラ等を原料とする粗飼料と同等の繊維質を有する家畜飼料を生成することを実現するものである。
【実施例1】
【0011】
本発明の家畜飼料は、広葉樹の樹皮と食品副産物との混合物を密封貯蔵し、その混合物を発酵させて広葉樹の樹皮を飼料化した飼料である。
【0012】
本発明に係る広葉樹としては、本実施例のミズナラ以外に、クリ、ブナ、カシ、トチ、ケヤキ、カエデ、カツラ、キリ、シナノキ、ホオノキ、マカンバ、ヤチダモ、ヤマザクラなどが考えられる。なお、本発明に係る広葉樹は、上例の広葉樹に限定されるものではない。
【0013】
また、食品副産物としては、本実施例のおから、リンゴジュース粕、コーンコブ以外に、ビール粕・発泡酒粕、醤油粕、茶系飲料粕、ミカンジュース粕・ニンジンジュース粕、キノコ菌床残渣、焼酎粕、穀物蒸留粕(DDGS)などが考えられる。なお、本発明に係る広葉樹は、上例の食品副産物に限定されるものではない。
【0014】
本発明の家畜飼料において、原料の配合率は、前記広葉樹の樹皮が40.0〜99.9質量%であり、前記食品副産物が0.1〜60.0質量%であることが好ましい。
また、前記混合物の乳酸発酵等に係る水分含量を30〜70質量%に調整することが好ましい。
【0015】
本実施例では、ミズナラの広葉樹を使用し、食品残渣として、おから、リンゴジュース粕、コーンコブの3種の混合飼料を使用した。また、本実施例では、広葉樹の樹皮40〜95質量%、おから・リンゴジュース粕・コーンコブを併せたもの5〜60質量%を混合した。
本発明の家畜飼料は、以下の作業工程1〜11の手順で生成した。
【0016】
(第1工程)原料調達
ミズナラの広葉樹の樹脂と、食品副産物としてトウフ粕(おから)、リンゴジュース粕、コーンコブを調達する。
(第2工程)原料粉砕
広葉樹の樹皮を粉砕機にて5cm程度の大きさに粉砕し、一定の大きさの繊維を確保する。
(第3工程)1次混合
ホイルローダーで原料(広葉樹と食品副産物)を混合する。
(第4工程)2次混合粉砕
原料を粉砕機に投入し、再度混合し、その混合状態を確認する。
(第5工程)トランスパック充填
トランスバッグ内に脱気用シートをセットし、原料の混合物を充填する。
なお、トランスバックに詰められた混合物は、嫌気性菌(乳酸)による発酵により乳酸や酢酸などの有機酸の成分比率を増やし、pHが低くなることにより腐敗の原因となるカビや好気性菌類の活動を抑え長期保存を可能にする。広葉樹の樹皮に乳酸や酢酸などの有機酸を含む食品副産物を添加・混合することと水分量を調整することで発酵を促進させ、豊富な有機酸を含む、良質な飼料を完成させることができる。すなわち、上手に発酵した畜産飼料を生成することができる。
(第6工程)鎮圧・脱気
トランスバッグに充填した混合物を鎮圧し、空気が入らないよう踏みつける。
(第7工程)
混合物内の空気をバキュームで抜き、空気が抜けないよう脱気シートを封印密封する。
(第8工程)トランスバック計量
充填重量を測り、600kgにする。
(第9工程)発酵
発酵期間を30日間以上確保し、発酵させる。発酵が終了するまで日陰など、嫌気発酵できる環境化で保管する。
(第10工程)発酵飼料仕上がり状態確認
脱気シートを開封し、飼料の仕上がり状態を確認し、pHを測定し規定範囲内であることを確認する。上記規定範囲は、pH4前後とする。なお、完全に発酵が終わると、pH4前後で安定する。
(第11工程)発酵飼料仕上がり最終検査
本発明の家畜飼料の最終検査で、臭気、カビの発生の有無、発酵状態を確認し、良品であることを確認する。なお、良品の基準は、臭気で確認する。甘酸っぱい香りがする場合は良品と判断できる。但し、混合する食品副産物によりその発酵終了後の臭気は異なる。
【0017】
本発明の家畜飼料の成分について説明する。以下に本発明の家畜飼料の現物中と乾物中の含量分析データを示す。
(現物中)
ADF(酸性デタージェント繊維):20.8%
NDF(中性デタージェント繊維):26.8%
(乾物中)
ADF(酸性デタージェント繊維):52.4%
NDF(中性デタージェント繊維):67.5%
【0018】
牧草の乾物中のADFは25.5%〜37.7%であり、NDFは32.2%〜62.9%である。本発明の家畜飼料のADFは52.4%であり、NDFは67.5%であることから、牧草と同等又はそれ以上の繊維質を有していることが分かった。以上のように、本発明の家畜飼料は、牧草からなる飼料と同等の繊維質を有する飼料を提供することができるものである。
【0019】
本発明の家畜飼料に畜産業者が独自にブレンドする飼料を混合(配合)して乳牛に2年間給与する本発明の実用試験を行ったところ、健康上の問題は発生せず、乳牛の乳量、乳質にも変化は認められなかった。
また、本発明の家畜飼料に畜産業者が独自にブレンドする飼料を混合(配合)して肉牛に10ヶ月間給与を続けたところ、健康上の問題は発見されなかった。
なお、10ヶ月間給与した後出荷した30頭程度の胃袋を屠場で確認したが、胃袋に異常や異物は確認されなかった。
【0020】
また、本発明の家畜飼料を牧草の代替えとして牛に与えたところ、牛の食い付きは変わりなかった。牛の食い付きは、本発明に係る食品副産物の種類によって多少異なるが、食品副産物によって牛の嗜好性に富む飼料を生成できることが分かった。例えば、焼酎粕を添加した飼料より、リンゴジュース粕を添加した飼料の方が、牛の食い付き(嗜好性)が良好であった。
【0021】
以上のように、広葉樹の樹皮および食品副産物を原料とする本発明の家畜飼料は、コストの高い輸入牧草等の代替え飼料として十分可能なものである。よって、本発明により、飼料自体のコストの削減を図ることができる。
なお、本発明の家畜用飼料は、牧草等の繊維に代わる家畜飼料であり、他の配合飼料等(濃厚飼料)と混合して給与するものであるが、混合せずにそのまま給与することもできる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
広葉樹の樹皮と食品副産物を混合し密封貯蔵することにより、その混合物を発酵させて広葉樹の樹皮を飼料化することを特徴とする家畜飼料。
【請求項2】
前記広葉樹の樹皮が40.0〜99.9質量%であり、前記食品副産物が0.1〜60.0質量%であることを特徴とする請求項1記載の家畜飼料。
【請求項3】
前記混合物の発酵に係る水分含量を30〜70質量%に調整することを特徴とする請求項1記載の家畜飼料。

【公開番号】特開2010−81814(P2010−81814A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−251722(P2008−251722)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【特許番号】特許第4397959号(P4397959)
【特許公報発行日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(508292361)
【Fターム(参考)】