容器壁状態の管理方法、装置、及びコンピュータプログラム
【課題】容器の外壁表面の所定領域を一部期間のみ測温したデータに基づいて、その所定領域に対応する容器壁内壁の容器壁状態(例えば損耗状態)を、広範囲に精度良く推定し、容器壁状態を高精度に管理できるようにする。
【解決手段】前記容器の外壁表面に設定した解析エリアを分割した各領域の温度をサーモグラフィによって計測する手順と、前記各領域の温度と前記解析エリアの平均温度との差であるサーマルコントラストを算出するサーマルコントラスト算出手順と、前記サーマルコントラスト算出手順で算出される前記各領域でのサーマルコントラストのピーク時間を、短い計測時間から全体の温度変化を推定して求めるピーク時間取得手順と、前記ピーク時間取得手順で求められる前記各領域でのサーマルコントラストのピーク時間に基づいて、前記解析エリアにおけるサーマルコントラストのピーク時間分布を求めるピーク時間分布取得手順とを有する。
【解決手段】前記容器の外壁表面に設定した解析エリアを分割した各領域の温度をサーモグラフィによって計測する手順と、前記各領域の温度と前記解析エリアの平均温度との差であるサーマルコントラストを算出するサーマルコントラスト算出手順と、前記サーマルコントラスト算出手順で算出される前記各領域でのサーマルコントラストのピーク時間を、短い計測時間から全体の温度変化を推定して求めるピーク時間取得手順と、前記ピーク時間取得手順で求められる前記各領域でのサーマルコントラストのピーク時間に基づいて、前記解析エリアにおけるサーマルコントラストのピーク時間分布を求めるピーク時間分布取得手順とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器壁状態の管理方法、装置、及びコンピュータプログラムに関し、特に、内壁表面と外壁表面とで温度差を有すると共に、時間経過に伴って温度が変化する熱履歴情報、及び前記熱履歴情報が得られた際の厚み情報が既知である容器における各領域の将来温度を推定して容器壁状態を推定し、管理するために用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
転炉、脱ガス炉、石炭ガス化反応炉等の高温のガス反応又は液体反応を伴う反応容器及び混銑車、溶銑鍋、溶鋼鍋等の溶鉄を運搬する容器の操業を管理する場合、これら高温物質を扱う容器壁の状況(例えば、損耗状態)を観測し、その状況を管理する必要がある。
【0003】
従来、容器壁の損耗状態は、高温物質が容器内に存在しないときに、人間が内壁表面の状態を目視で観察することで管理されてきた。
【0004】
しかしながら、高温物質が容器内に存在しないときでも耐火物表面は500℃以上の高温に熱せられており、前記のような目視による観察では、損耗状態を定量的な数値として捉えることは極めて困難であり、定性的な管理とならざるを得ない。
【0005】
また、高温物質が容器内に存在しないという条件下における管理が余儀無くされるため、稼動中の内部高温物質の流出という事態を管理することができない。
また、材料の一部で計測した温度の或る期間の時間推移データを基にして、材料全体の温度情報を知り、材料温度の時間推移の将来挙動を予測することは、例えば、溶鋼鍋のように製鋼工場内をクレーンで移動するようなプロセスに対し、赤外線サーモグラフィで鉄皮温度を計測する場合、一部期間の計測データから鉄皮温度がどの程度まで上昇するかを推定し、溶鋼漏れに繋がるような耐火物の異常溶損を迅速に検出する際に極めて重要となる。
【0006】
これに対して、稼動中の容器の外壁表面温度を、放射温度計又は赤外線サーモグラフィを使用して計測し、外壁表面温度の計測値から容器壁の損耗状態を管理する方法が提案されている。赤外線サーモグラフィの設置位置に溶鉄の入った容器が通過した際に、容器壁の温度の高低で耐火物の異常溶損を判定する方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されている判定方法は、容器壁を構成する耐火物の熱容量が大きいため、耐火物の温度が定常状態になることは極めてまれで、また、溶鉄が装入された後に容器が赤外線サーモグラフィの位置を通過する時間は一定でないため、容器壁の耐火物が同じ溶損状態であっても、容器壁温度は著しく変化するため、特許文献1に記載されているような容器壁の温度の高低だけで耐火物の異常溶損を判定する方法では、溶損量を精度良く定量的に評価するのは極めて困難であるという問題点があった。
【0008】
一方、容器壁内の熱伝導現象を非定常熱伝導逆問題と考えて、容器壁に設置した熱電対等の1点又は2点の温度計測手段によって測定された温度データに基づいて、非定常熱伝導逆問題により容器壁の内部の温度を計算し、容器壁の温度が溶鉄の凝固温度に一致する位置を検索することにより容器壁厚みを推定する方法が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【0009】
しかしながら、特許文献2に開示されている方法は、耐火物初期温度分布を仮定しなければならないことから、高温物質の容器への装入直後は、温度計算結果が安定せず、容器壁厚みの推定精度の低下を引き起こしていた。また、1次元を仮定しているため、温度計測点近傍の1箇所での耐火物の損耗状況しか知ることはできず、2次元形状や3次元形状の溶損状態の推定結果は不可能であった。更にまた、特許文献2においては、逆問題解析による温度計算結果の信頼区間は、温度計測データの存在する期間であり、温度計測データが一部の期間しかない被測定物の将来温度を推定することは困難であるという問題点があった。
【0010】
【特許文献1】特開平3−169474号公報
【特許文献2】特開2001−234217号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
容器壁の損耗状態は、容器壁の厚みによって判断することができる。例えば、損耗が均一な形状で1次元形状に近似できる場合、容器壁が熱的に定常状態にあれば、容器壁内部の温度分布は直線状になり、容器壁の厚みLは、容器壁外壁で測定した熱流束Q、容器壁の厚み方向の熱伝導率kx、容器内壁温度Tin及び容器外壁温度Toutを使って次式より推定できる。
L=kx・(Tin−Tout)/Q
【0012】
しかしながら、実際の容器壁の温度は、稼動・非稼動の時間サイクルによって異なった値を示すため、容器壁外壁で測定した熱流束Qの値も非定常的に変化する。これに加え、容器壁内部の温度分布は曲線形状で非定常的に変化するため、上式で容器壁の厚みを推定すると、大きな誤差を引き起こすことになる。
【0013】
以前述べたように、壁内部の測温データがなくても、非定常的に変化する壁内部の温度又は熱流束を求める必要がある。また、3次元的な溶損形状を扱う場合は、前記方法は適用できない。
【0014】
本発明は前記のような点に鑑みてなされたものであり、容器の外壁表面の所定領域を測温したデータに基づいて、その所定領域に対応する容器壁内壁の容器壁状態(例えば損耗状態)を、広範囲に精度良く推定し、容器壁状態を高精度に管理できるようにすると共に、温度計測データが一部期間しかなくても、容器壁状態を高精度に管理できるようにすることを目的とする。
特に、溶鋼鍋のように高温物質を内部に有する工程があり、内表面と外表面に温度差を有して、材料温度が非定常に変化し、損耗等により厚みが変化する容器壁内壁の容器壁状態を、温度の比較的短い計測期間から将来温度の挙動を推定し、温度計測データが存在する期間に限定されることなく、容器壁状態を高精度に管理できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の容器壁状態の管理方法は、内壁表面と外壁表面とで温度差を有すると共に、時間経過に伴って温度が変化する熱履歴情報、及び前記熱履歴情報が得られた際の厚み情報が既知である容器における各領域の将来温度を推定して容器壁状態を管理する容器壁状態の管理方法であって、
前記容器の外壁表面に設定した解析エリアを分割した各領域の温度をサーモグラフィによって計測する手順と、
前記各領域の温度と前記解析エリアの平均温度との差であるサーマルコントラストを算出するサーマルコントラスト算出手順と、
前記サーマルコントラスト算出手順で算出される前記各領域でのサーマルコントラストのピーク時間を、短い計測時間から全体の温度変化を推定して求めるピーク時間取得手順と、
前記ピーク時間取得手順で求められる前記各領域でのサーマルコントラストのピーク時間に基づいて、前記解析エリアにおけるサーマルコントラストのピーク時間分布を求めるピーク時間分布取得手順とを有し、
前記短い計測時間から全体の温度変化を推定して求めるピーク時間取得手順が、前記計測する領域における容器の厚みを増減させて、複数の厚みに対する熱履歴を熱履歴計算手段により計算する熱履歴計算ステップと、
前記既知である被測定物の厚み、及びその厚みに前後する前記計算上設定した厚みに対して、それぞれ、前記各領域の温度と前記解析エリアの平均温度との差であるサーマルコントラストφiを、「φi=Ti―T0 1≦i≦N」から計算するサーマルコントラスト計算ステップと、
前記サーマルコントラスト計算ステップにおいて計算した複数のサーマルコントラストφiを基底関数にして予測式「γ(t)」を、以下に示すように構成する予測式構成ステップと、
【数1】
(但し、Nは基底関数φiの個数、iはそのインデックス、wiはN個の基底関数を使って予測式γ(t)を記述する際の基底関数φiの重み係数、tは任意の時間を示す。)
前記予測式構成ステップにおいて構成した予測式「γ(t)」における「係数wi」を、以下の式を用いて決定する係数決定ステップと、
【数2】
(但し、dはサーマルコントラスト実測値、mはサーマルコントラストの実測値の個数を示す。)
前記係数決定ステップにおいて決定した「係数w1〜wN」を、前述した(2式)に代入して、計測している被測定物の将来予測曲線を決定する予測曲線決定ステップとを備えることを特徴とする。
【0016】
本発明の容器壁状態の管理装置は、内壁表面と外壁表面とで温度差を有すると共に、時間経過に伴って温度が変化する熱履歴情報、及び前記熱履歴情報が得られた際の厚み情報が既知である容器における各領域の将来温度を推定して容器壁状態を管理する容器壁状態の管理装置であって、
サーモグラフィによって計測される、前記容器の外壁表面に設定した解析エリアを分割した各領域の温度と、前記解析エリアの平均温度との差であるサーマルコントラストを算出するサーマルコントラスト算出手段と、
前記サーマルコントラスト算出手段で算出される前記各領域でのサーマルコントラストのピーク時間を、短い計測時間から全体の温度変化を推定して求めるピーク時間取得手段と、
前記ピーク時間取得手段で求められる前記各領域でのサーマルコントラストのピーク時間に基づいて、前記解析エリアにおけるサーマルコントラストのピーク時間分布を求めるピーク時間分布取得手段とを有し、
前記短い計測時間から全体の温度変化を推定して求めるピーク時間取得手段が、前記計測する領域における容器の厚みを増減させて、複数の厚みに対する熱履歴を熱履歴計算手段により計算する熱履歴計算ステップと、
前記既知である被測定物の厚み、及びその厚みに前後する前記計算上設定した厚みに対して、それぞれ、前記各領域の温度と前記解析エリアの平均温度との差であるサーマルコントラストφiを、「φi=Ti―T0 1≦i≦N」から計算するサーマルコントラスト計算ステップと、
前記サーマルコントラスト計算ステップにおいて計算した複数のサーマルコントラストφiを基底関数にして予測式「γ(t)」を、以下に示すように構成する予測式構成ステップと、
【数3】
(但し、Nは基底関数φiの個数、iはそのインデックス、wiはN個の基底関数を使って予測式γ(t)を記述する際の基底関数φiの重み係数、tは任意の時間を示す。)
前記予測式構成ステップにおいて構成した予測式「γ(t)」における「係数wi」を、以下の式を用いて決定する係数決定ステップと、
【数4】
(但し、dはサーマルコントラスト実測値、mはサーマルコントラストの実測値の個数を示す。)
前記係数決定ステップにおいて決定した「係数w1〜wN」を、前述した(2式)に代入して、計測している被測定物の将来予測曲線を決定する予測曲線決定ステップとを行うことを特徴とする。
【0017】
本発明のコンピュータプログラムは、内壁表面と外壁表面とで温度差を有すると共に、時間経過に伴って温度が変化する熱履歴情報、及び前記熱履歴情報が得られた際の厚み情報が既知である容器における各領域の将来温度を推定して容器壁状態を管理するためのコンピュータプログラムであって、
サーモグラフィによって計測される、前記容器の外壁表面に設定した解析エリアを分割した各領域の温度と、前記解析エリアの平均温度との差であるサーマルコントラストを算出するサーマルコントラスト算出処理と、
前記サーマルコントラスト算出処理で算出される前記各領域でのサーマルコントラストのピーク時間を、短い計測時間から全体の温度変化を推定して求めるピーク時間取得処理と、
前記ピーク時間取得処理で求められる前記各領域でのサーマルコントラストのピーク時間に基づいて、前記解析エリアにおけるサーマルコントラストのピーク時間分布を求めるピーク時間分布取得処理とをコンピュータに実行させ、
前記短い計測時間から全体の温度変化を推定して求めるピーク時間取得処理が、前記計測する領域における容器の厚みを増減させて、複数の厚みに対する熱履歴を熱履歴計算手段により計算する熱履歴計算ステップと、
前記既知である被測定物の厚み、及びその厚みに前後する前記計算上設定した厚みに対して、それぞれ、前記各領域の温度と前記解析エリアの平均温度との差であるサーマルコントラストφiを、「φi=Ti―T0 1≦i≦N」から計算するサーマルコントラスト計算ステップと、
前記サーマルコントラスト計算ステップにおいて計算した複数のサーマルコントラストφiを基底関数にして予測式「γ(t)」を、以下に示すように構成する予測式構成ステップと、
【数5】
(但し、Nは基底関数φiの個数、iはそのインデックス、wiはN個の基底関数を使って予測式γ(t)を記述する際の基底関数φiの重み係数、tは任意の時間を示す。)
前記予測式構成ステップにおいて構成した予測式「γ(t)」における「係数wi」を、以下の式を用いて決定する係数決定ステップと、
【数6】
(但し、dはサーマルコントラスト実測値、mはサーマルコントラストの実測値の個数を示す。)
前記係数決定ステップにおいて決定した「係数w1〜wN」を、前述した(2式)に代入して、計測している被測定物の将来予測曲線を決定する予測曲線決定ステップとを有することを特徴とする。
なお、本発明でいう「内壁表面と外壁表面とで温度差を有する容器」とは、転炉、脱ガス炉、石炭ガス化反応炉等の高温のガス反応又は液体反応を伴う反応容器及び混銑車、溶銑鍋、溶鋼鍋等の溶鉄を運搬する容器等をいう。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、内壁表面と外壁表面とで温度差を有すると共に、時間経過に伴って温度が変化する熱履歴情報、及び前記熱履歴情報が得られた際の厚み情報が既知である容器における各領域の将来温度を推定して容器状態を管理する際に、容器壁内壁の容器壁状態(例えば損耗状態)を、広範囲に精度良く推定し、容器壁状態を高精度に管理できるようにすることができると共に、温度計測データが一部期間しかなくても、容器壁状態を高精度に管理することができる。
特に、溶鋼鍋のように高温物質を内部に有する工程があり、内表面と外表面に温度差を有して、材料温度が非定常に変化し、損耗等により厚みが変化する容器壁内壁の容器壁状態を、温度の比較的短い計測期間から将来温度の挙動を推定し、温度計測データが存在する期間に限定されることなく、容器壁状態を高精度に管理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
(第1の実施形態)
本実施形態では、内壁表面と外壁表面とで温度差を有する容器として、溶鋼鍋300を例にして説明する。図1(a)に示すように、溶鋼鍋300の外壁(鉄皮)301表面の温度分布を赤外線サーモグラフィ200によって計測する。赤外線サーモグラフィ200で計測される温度分布データは、容器壁状態の管理装置100に入力される。
【0020】
図1(b)に示すように、溶鋼鍋300の内壁(ウエア煉瓦等の耐火物)302に溶損があると(溶損深さd)、受鋼後の溶鋼鍋300の外壁301表面において、溶損箇所に対応する部位の温度ucは、その周囲の温度uaよりも高温であるとともに早く定常状態に到達する(図2を参照)。
【0021】
以下、図3のフローチャートに基づいて、図4〜14も参照しつつ、本実施形態に係る容器壁状態の管理方法について説明する。図3は、本実施形態に係る容器壁状態の管理方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。容器壁状態の管理装置100が図3のステップS101〜S105の処理を行うことによって、容器壁状態、具体的には容器壁の残存厚みを推定し、管理する。
【0022】
まず、ステップS101において、溶鋼鍋300の外壁301表面に設定した解析エリアを適宜な複数の領域に分割し(図4を参照)、各領域i(i=1、2、・・・、N)の温度ui(t)を赤外線サーモグラフィ200によって経時的に計測する。解析エリアは、赤外線サーモグラフィ200で計測したエリア全域、又は計測したエリア全域から適宜選定したエリアを設定することができる。図5には、赤外線サーモグラフィ200によって計測された各領域iの温度ui(t)の一例を示す。なお、領域iは、検出素子の画素単位とすることができるが、近傍に存在する画素を複数纏めて平均温度を算出して領域iの温度とすることもできる。例えば、3840画素分(=縦32画素×横120画素)を1領域とする等に設定できる。
【0023】
本実施形態では、溶鋼鍋300の外壁301表面のうち、スラグライン部を解析エリアとして設定している。溶鋼鍋300では、下層(メタルライン部)に比べて上層(スラグライン部)ほど熱負荷が大きく、修理や交換の回数も多くなるので、特にスラグライン部の残存厚みを管理することが求められるからである。また、例えばスラグライン上部及び下部で材質が異なるような場合や、耐火物の交換頻度が上部と下部とで異なる場合は、図4に示すように、スラグライン上部及び下部をそれぞれ別の解析エリアとして設定してもよい。
【0024】
次に、ステップS102において、解析エリアの平均温度(解析エリアに含まれる全領域iの平均温度)ua(t)を算出するとともに、各領域iの温度ui(t)と解析エリアの平均温度ua(t)との差(ui(t)−ua(t))を算出する。図5に示すように、スラグの付着等の理由により異常値51が存在する場合、その異常値51は除外するようにしてもよい。
【0025】
本明細書では、各領域iの温度ui(t)と解析エリアの平均温度ua(t)との差(ui(t)−ua(t))を「サーマルコントラスト」と称する。図6には、ある領域iでのサーマルコントラストを示す。サーマルコントラストは、一部或いは複数の時間帯で(ui(t)−ua(t))を実測して曲線近似により予測カーブを求めることができる。この予測カーブは各領域i=1〜Nにおいて求める。詳細は後述する。
【0026】
次に、ステップS103において、各領域iでのサーマルコントラストのピーク時間(サーマルコントラストが最大となる時間)を求める。図7に示すように、各領域iでのサーマルコントラストのピーク時間は、溶損深さdが深くなるに従って(換言すれば、残存厚みが薄くなるに従って)、受鋼後の早い時間へと移行する。すなわち、溶損深さdが深くなるに従って(換言すれば、残存厚みが薄くなるに従って)、サーマルコントラストは受鋼後の早い段階で最大(ピーク)となる。
【0027】
また、サーマルコントラストのピーク時間を観測することによって、空鍋時間(受鋼前の初期温度分布)の影響を回避することができる。図8(a)に示すように、溶損サイズが同一であっても、空鍋時間が異なると、溶鋼鍋の外壁表面の温度は変化する。すなわち、外壁表面の温度だけを観察する場合は、空鍋時間の影響を受けてしまう。また、温度のピーク時間も空鍋時間の影響を受けてしまう。それに対して、サーマルコントラストのピーク時間を観測する場合、図8(b)に示すように、空鍋時間が異なっても、サーマルコントラスト自体の値は変化するが、サーマルコントラストのピーク時間はほとんど変動しない(空鍋時間の影響をほとんど受けない)。
【0028】
さらに、サーマルコントラストのピーク時間を観測することによって、溶損の3次元形状の影響を回避することができる。図9(a)に示すように、溶損幅(溶損深さdは同一)が異なると、溶鋼鍋の外壁表面の温度は変化する。すなわち、外壁表面の温度だけを観察する場合は、溶損の3次元形状の影響を受けてしまう。それに対して、サーマルコントラストのピーク時間を観測する場合、図9(b)に示すように、溶損幅(溶損深さは同一)が異なっても、サーマルコントラスト自体の値は変化するが、サーマルコントラストのピーク時間はほとんど変動しない(溶損の3次元形状の影響をほとんど受けない)。
【0029】
図3に説明を戻し、次に、ステップS104において、各領域iでのサーマルコントラストのピーク時間に基づいて、解析エリアにおけるサーマルコントラストのピーク時間分布を調べる。図10(a)は、溶鋼鍋300の使用2回目(ほぼ新品)におけるサーマルコントラストのピーク時間分布を示す。それに対して、図10(b)は、同溶鋼鍋300の使用17回目(修理間近)におけるサーマルコントラストのピーク時間分布を示す。同図に示すように、使用回数を重ねるにつれて、ピーク時間分布の分散幅が増大しており、溶鋼鍋300の内壁302の溶損が進行している状況が窺える。
【0030】
本実施形態では、図11に示すように、サーマルコントラストのピーク時間分布において、平均ピーク時間Save、分散時間SΣ、最小ピーク時間Sminの3つの統計量を管理
する。
【0031】
次に、ステップS105において、解析エリアにおけるサーマルコントラストのピーク時間分布に基づいて、例えば逆問題解析を用いて、容器壁の残存厚みを推定する。例えば図12に示すように、平均ピーク時間からの増減に対する平均残存厚からの増減を表わす検量線を、修理時や空鍋時等の厚み計測による結果から予め定めておき、空鍋時の厚み計測又は逆問題解析による厚み計算により求めた平均残存厚みを加算することにより、サーマルコントラストのピーク時間分布に基づいて容器壁の残存厚みを換算する。なお、逆問題解析計算により平均残存厚みを設定する手法は特に限定されるものではないが、その一例について後述する。
【0032】
図7に示したように、サーマルコントラストのピーク時間は、溶損深さdが深くなるに従って(換言すれば、残存厚みが薄くなるに従って)、受鋼後の早い時間へと移行するので、容器壁の残存厚み分布もサーマルコントラストのピーク時間分布と対応したものとなる。すなわち、平均ピーク時間Saveが平均残存厚に対応し、最小ピーク時間Sminが容器壁の残存厚みが最小残存厚に対応し、サーマルコントラストのピーク時間分布曲線における最小時間Sminとなる領域iを特定することにより、容器壁の残存厚みが最小残存厚となっている領域iを特定することができる。
【0033】
図13は、図12の検量線を用いて求めた容器壁の残存厚み分布である。図13(a)は、溶鋼鍋300の使用2回目における容器壁の残存厚み分布を示す(図10(a)に対応)。それに対して、図13(b)は、同溶鋼鍋300の使用17回目における容器壁の残存厚み分布を示す(図10(b)に対応)。使用回数を重ねるにつれて、平均残存厚が減少するとともに、残存厚み分布の分散幅が増大して最小残存厚の値が小さくなっており、内壁302の溶損が進行している様子を捉えている。
【0034】
容器壁状態の管理装置100では、図3のステップS101〜S105の処理を、例えば溶鋼鍋300を使用するごとに、すなわち受鋼ごとに実行する。
そして、各回で求められるサーマルコントラストのピーク時間分布における平均ピーク時間Save、分散時間SΣ、最小ピーク時間Sminや、それらを換算して求められた容器壁の残存厚みをデータベ
ース化して履歴を管理する。特に溶鋼鍋300の日常点検では、容器壁の残存厚みが最小残存厚となっている領域iを重点的に管理すればよい。
【0035】
図14に示すように、溶鋼鍋300の使用回数を重ねて内壁302の溶損が進むと、容器壁の残存厚み分布Sの最小残存厚の値が小さくなっていく。例えば、容器壁状態の管理装置100において最小残存厚の閾値Yを予め設定しておき、最小残存厚の値が閾値に達したならば、溶鋼鍋300の寿命であると判定するようにしておけばよい。この場合、容器壁状態の管理装置100が溶鋼鍋300の寿命であることをユーザに通知し、溶鋼鍋300の修理や必要部位の交換等を促すようにしてもよい。
【0036】
なお、溶鋼鍋300の修理(交換)時に容器壁の残存厚みを計測し、その計測値に基づいて、図12に示した検量線を修正することにより、残存厚みの推定精度を向上させるようにしてもよい。
【0037】
以前述べたように、サーマルコントラストのピーク時間は容器壁の残存厚みに応じて移行するので、容器壁の残存厚みを推定することが可能になる。しかも、サーマルコントラストのピーク時間を観測することによって、空鍋時間(受鋼前の初期温度分布)や溶損の3次元形状の影響を回避することができる。したがって、溶鋼鍋300の外壁表面における2次元測温データに基づいて容器壁の状態、具体的には容器壁の残存厚み、容器壁の3次元損耗状態の最大損耗量を精度良く推定し、管理することができる。
【0038】
また、前記実施形態では、サーマルコントラストのピーク時間分布に基づいて、容器壁状態として容器壁の残存厚みを推定しているが、それ以外にも所謂「地金差し」の有無を検出することも可能である。地金差しとは、溶鋼鍋300の内壁に亀裂が生じ、そこに溶鋼が浸入することをいう。図15(a)、(b)に示すように、地金差しが生じると、他の部位との熱伝導性の相違により、サーマルコントラストのピーク時間分布において平均ピーク時間Save以外に地金差しによるピークが生じる。
したがって、平均ピーク時間Save以外にピークが現れている場合は、地金差しが生じているものと推定することができる。
【0039】
図16には、容器壁状態の管理装置100として機能するコンピュータシステムのハードウェア構成例を示す。容器壁状態の管理装置100は、CPU20と、入力装置21と、表示装置22と、記録装置23とを含み、各部はバス24を介して接続される。記録装置23はROM、RAM、HD等により構成されており、前述した容器壁状態の管理装置100としての動作を制御するコンピュータプログラムが格納される。CPU20がコンピュータプログラムを実行することによって容器壁状態の管理装置100の機能、又は処理を実現する。また、記録装置23にデータベースが格納される。
【0040】
(第2の実施形態)
次に、サーマルコントラストを、一部或いは複数の時間帯で(ui(t)−ua(t))を実測して曲線近似により予測カーブを求める本発明の好適な実施形態について説明する。
本実施形態においては、図4に示した複数の領域に分割した解析エリアにおいて、特定の領域(例えば、i=20)毎に、温度の将来挙動を推定して容器壁状態の管理をするようにようにしている。以下、推定手順の一例について、図23のフローチャートを参照しながら説明する。
【0041】
先ず、最初のステップS81において、被測定物について、各厚み毎に熱履歴を計算する。
前述したように、本実施形態においては被測定物として溶鋼鍋300を対象とし、溶鋼鍋300の壁状態の管理を行うようにしている。溶鋼鍋300においては、内部に溶鋼が入れられている状態(以下、受鋼鍋とする)と、空の状態(以下、空鍋とする)とが交互に繰り返される。図18(a)には、受鋼鍋→空鍋→受鋼鍋→空鍋・・・のサイクルを4回繰り返した際の熱履歴を、ウエア煉瓦の残厚毎に示している。図18(a)に示したように、製鉄工程においては、以前にどのような操業が行われたかが既知であるので、溶鋼鍋耐火物の厚み毎に鉄皮温度の熱履歴を計算する(推定する)ことができる。この場合、4回前からの溶鋼鍋300の時間履歴(受鋼鍋、空鍋)を使用して溶鋼鍋300の表面温度の1次元伝熱計算を行う例を示している。
【0042】
具体的には、溶鋼鍋300について、図22に示すように、例えば前回の操業において解析エリアにおける温度変化uaの情報が既知である。そこで、この温度変化uaの情報が得られた際の溶鋼鍋300(この場合は、ウエア煉瓦)の厚みを変化させて、図18(a)において符号30で示したように、複数の厚みについて熱履歴を計算する。この例の場合は、ウエア煉瓦の残存厚が「30mm」、「50mm」、「70mm」、「90mm」、「110mm」、「130mm」、「150mm」についてそれぞれ計算している。具体的には、溶鋼鍋300の構成材料を、1次元近似した非定常熱伝導方程式で表し、差分法等の数値計算法を使って計算する。すなわち、4回前(新品時)からの溶鋼鍋のウエア煉瓦残存厚みの推移の履歴と操業時間履歴(受鋼鍋、空鍋)を使用して溶鋼鍋300の表面温度の1次元非定常伝熱計算を行うことで求めることができる。
【0043】
次に、ステップS82に進み、前回の操業から既知である溶鋼鍋300の厚みに対してサーマルコントラストφiを計算する。
これは、ステップS81で計算した前回の耐火物の厚みにおける鉄皮温度T0を基準にして、ステップS81で計算した各耐火物厚みにおける鉄皮温度Tiとの差を、「サーマルコントラストφi」と定義して行う。
φi=Ti―T0 1≦i≦N ・・・(1式)
【0044】
前述した(1式)による計算を、ステップS81で計算した複数の耐火物厚み毎に行う。例えば、図18(b)に示すように、ウエア煉瓦残厚110mmを基準としたときの溶損量が「−80mm」、「−60mm」、「−40mm」、「−20mm」、「+20mm」、「+40mm」について行う。これにより、耐火物厚み毎に「サーマルコントラストφ1」〜「サーマルコントラストφ6」が得られる。ここでは、溶損量0mmを除いて計算しているが、勿論、溶損量0mmを含めて計算しても構わない。
【0045】
次に、ステップS83に進み、「領域i=20」におけるサーマルコントラスト変化の予測式「γ(t)」を構成する。本実施形態においては、サーマルコントラストφiを基底関数にして、予測式「γ(t)」を、以下に示す(2式)で構成した例を示している。
【0046】
【数7】
【0047】
(2式)において、「係数wi」が不明である。この不明な「係数wi」を、ステップS84において決定する。先ず、溶鋼鍋300の解析エリアにおいて、着目している領域の温度uc(例えば、i=20)を赤外線サーモグラフィ200によって所定の時間計測して、「サーマルコントラスト実測値d(t)=uc(t)−ua(t)」を得る。温度を計測する時間は、例えば、10分程度とする。
【0048】
次に、ステップS85において、将来の温度予測曲線を決定する。これは、ステップS84で取得した「サーマルコントラスト実測値d(t1)〜d(tm)」を、下記の(3式)に代入して得られる方程式を解くことにより、「係数w1〜wN」を求める。そして、この計算した「係数w1〜wN」を前述した(2式)に代入することにより、サーマルコントラストの実測値の将来予測曲線が決定できる。このときの着目した「領域i=20」における将来温度予測式は「T0(t)+γ(t)」となる。また、ウエア煉瓦の残存厚みは、「サーマルコントラストφ1」〜「サーマルコントラストφN」で使用したウエア煉瓦の各残存厚みに、wi/Σwiを乗じて加重平均を施すことで、決定できる。尚、mはNと等しくするか、Nより大きく設定すると求めやすくなるため好ましい。特に、mがNに等しい場合の「係数w1〜wN」は一義的に求めることができるため、より好ましい。mがNより大きい場合の「係数w1〜wN」は最小2乗法等を用いて近似解として計算により求めることが出来る。
【0049】
【数8】
【0050】
前述のようにして決定した、既知の厚みに前後する複数のサーマルコントラスト基底関数φ1〜φ6と、受鋼からの経過時間(分)との関係を図19に示す。これら複数のサーマルコントラスト基底関数φ1〜φ6の重ね合わせで、サーマルコントラスト変化の予測式「γ(t)」を、図19中に構成する。図19において、縦軸は温度(℃)、横軸は時間(分)を表している。
【0051】
図20は、図19におけるサーマルコントラスト変化の予測式「γ(t)」を拡大して示したものである。なお、図20においては、ノイズ除去を行う例を示しているが、ノイズ除去は必ずしも行わなくてもよい。ノイズ除去は、例えば移動平均法などの、通常用いられている方法で構わない。
【0052】
図21に、本実施形態のサーマルコントラスト変化の予測式「γ(t)」を用いて予測した将来温度の予測誤差と、従来の予測方法、例えば、一般的な3次スプライン補間法による将来温度予測結果を示す。従来の予測方法で予測した将来温度予測曲線61は、20分経過した以降、極端に誤差が増加する。これに対して、本実施形態予測方法で予測した将来温度予測曲線62は、1時間後でも誤差1℃以下であり、良好な精度を維持できていることが分かる。
ここで、3次スプライン補間公式とは、関数yi=y(xi)i=1,2・・・,Nのデータが与えられているとしたときに、xjからxj+1までの区間に注目し、その区間で下記の式で補間を行うものである。
【0053】
【数9】
【0054】
前述したように、本実施形態の容器壁状態の管理方法によれば、溶鋼鍋300の所定の領域で計測した温度の或る期間の時間推移データを基にして、前記溶鋼鍋300の厚みを決定する。そして、前記決定した溶鋼鍋300の厚み情報、及び前記溶鋼鍋300の熱履歴情報に基いて、溶鋼鍋300の温度の時間推移の将来挙動を予測するようにした。
【0055】
これにより、一次元伝熱計算を行うだけで溶鋼鍋300の将来温度が時間推移に応じてどのように変化するのかを確実に予測することができる。また、サーマルコントラスト予測曲線のピーク時間に基づいて、前記溶鋼鍋300における各領域の厚みを確実に推定することができる。
【0056】
特に、本実施形態においては、既知の厚み、及び前記既知の厚みの前後の厚みについて表面温度の熱履歴を計算し、前記既知の厚みの温度T0を基準にして、前記計算した既知の厚みの前後の厚みの各温度Tiの差を前記(1式)を用いて計算し、複数のサーマルコントラストφ1〜φ6を定義した。そして、これらのサーマルコントラストφ1〜φ6を基底関数にして、予測式γ(t)を構成し、溶鋼鍋300の将来温度を予測するようにした。したがって、溶鋼鍋300の状態を極めて高精度に予測することができる。
【0057】
(第3の実施形態)
次に、図24を参照しながら本発明の第3の実施形態を説明する。
先ず、最初のステップS91において、溶鋼鍋300について、解析エリアの平均温度変化uaが得られた際の溶鋼鍋300の厚みを変化させて、複数の厚みについて熱履歴を計算する。この計算は、前述した第2の実施形態において、図23のステップS81で行った計算と同様であり、溶鋼鍋300の時間履歴と温度変化履歴に基いて、前回の計測で分かっている溶鋼鍋300の厚みの前後における複数の厚み毎に熱履歴をそれぞれ計算する。
【0058】
次に、ステップS92に進み、溶鋼鍋300の特定領域、すなわち「領域i=20」の温度を計測する。この計測の結果、「領域i=20」における或る時間の「計測値uc(t)」が得られる。
【0059】
次に、ステップS93に進み、ステップS92で計測した或る時間の「計測値uc(t)」に対応する熱履歴及び温度変化の特性曲線を特定する。そして、この特定した特性曲線から、「領域i=20」における溶鋼鍋300の厚みを特定する。
【0060】
次に、ステップS94に進み、ステップS93において特定した「領域i=20」における溶鋼鍋300の厚みから将来温度を推定する。この将来温度の推定は、例えば、「領域i=20」で計測した温度の或る期間の時間推移データを基にして、曲線近似により予測曲線を求めることができる。
【0061】
前述したように、本実施形態においても,一次元伝熱計算を行うだけで溶鋼鍋300における各領域の将来温度が時間推移に応じてどのように変化するのかを確実に予測することができる。また、予測曲線を構成するときの重み係数から、前記溶鋼鍋300の各領域について、厚みを確実に推定することができる。したがって、前述のように推定した厚み情報に基いて、溶鋼鍋300の容器壁状態を良好に管理することができる。
【0062】
なお、本発明の容器壁状態の管理装置は、複数の機器から構成されるシステムに適用しても、一つの機器からなる装置に適用してもよい。
【0063】
また、本発明の目的は、前述した機能を実現するコンピュータプログラムをシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(CPU若しくはMPU)が実行することによっても達成され、この場合、コンピュータプログラム自体が本発明を構成することになる。
【0064】
以上、本発明を種々の実施形態と共に説明したが、本発明はこれらの実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内で変更等が可能である。例えば、前記実施形態では赤外線サーモグラフィ200の台数について言及していないが、図17に示すように、溶鋼鍋300の周囲に3台以上の赤外線サーモグラフィ200を均等に配置し、溶鋼鍋300の全周における溶鋼壁状態を管理するようにしてもよい。
【0065】
以下に、逆問題解析計算により平均残存厚みを決定する手法の一例を説明する。まず、容器壁の厚み推定手法の基本的な考え方について説明する。図25は、容器壁の一部を表わす図であり、x=0が容器の内壁面の位置である。同図において、容器壁の残存厚みl、容器内に存在する高温物質の温度f(t)=UM、容器壁の温度u(x,t)(外壁面の温度計測点にて計測された温度h(t))、温度h(t)を基に算出した熱流束(又は外壁面の温度計測点にて計測された熱流束)g(t)である。
【0066】
(定式化)
(4式)、(5式)は、非定常熱伝導方程式を表わす。なお、utは∂u/∂tを表し、uxxは∂2u/∂x2を表わす。(4式)において、αは熱拡散係数、u(x,0)=u0(x)は容器壁の温度の初期値である。この場合、容器壁の温度の初期値u(x,0)=u0(x)は未知である。また、高温物質の温度UM、外気温度ua、熱拡散係数α、放射伝熱のステファンボルツマン係数σ、容器壁の熱伝導率λは正の定数である。
【0067】
【数10】
【0068】
ここで、(6式)を導入してフーリエ展開することにより、(4式)の容器壁の温度u(x,t)は(7式)のように求められる。
【0069】
【数11】
【0070】
【数12】
【0071】
x=lとすると、(8式)が得られる。
【0072】
【数13】
【0073】
ところが、コンピュータによる演算処理を実行する場合、(8式)の右辺において、特に第2項、第3項の計算は打ち切り誤差を引き起こしやすいという問題がある。そこで、容器壁の温度u(x,t)の代替として変数v(x,t)を定義し、(9式)を導入する。(9式)において、変数の初期値v(x,0)=xg(0)+f(0)は、内壁面の熱流束の初期値g(0)、及び、内壁面の温度の初期値(即ち、高温物質の温度)f(0)をいずれも既知とすることができる。したがって、変数v(x,t)については、例えば後退差分法により直接計算することができる。
【0074】
【数14】
【0075】
さらに、容器壁の温度u(x,t)と変数v(x,t)との差をw(x,t)と定義すると、(7式)のようになる。
【0076】
【数15】
【0077】
ここで、上述したのと同様にフーリエ展開することにより、(10式)の変数w(x,t)は(11式)のように求められる。(11式)においては、(7式)と比較して明らかなように、第2項、第3項のない簡単な式とすることができる。
【0078】
【数16】
【0079】
また、w(l,t)=u(l,t)−v(l,t)である。そして、u(l,t)は既知のh(t)であり、また、v(l,t)は(9式)から後退差分法により直接計算することができる。したがって、w(l,t)が既知であるとして、(11式)からBn(l)の近似値を得ることができる。
【0080】
(残存厚みlを求めるための逆問題)
逆問題においては、容器壁の残存厚みlは未知であり、したがって変数v(l,t)は未知であるが、u(l,t)は計測値h(t)として与えられる。(11式)から(12式)が得られる。
【0081】
【数17】
【0082】
以下述べるように、最適化計算により、容器壁の残存厚みlの近似値を得ることができる。即ち、観察時間を(Tst,Tend)と設定し、Tst<T1<T2<Tendとする。そして、T1=t1<t2<・・・<tM=T2と均一格子にする。残存厚みの仮定値l〜>0は既知条件とする。なお、本明細書において、l〜の表記は、lの上に〜が付されているものとする。
【0083】
ここで、外壁面の温度計測点にて計測された温度h(t)は既知で、変数v(l〜,ti)は仮定値l〜を与えることにより(9式)から後退差分法により求められる。(13式)のように、MAはM×(N+1)行列、VBは(N+1)×1ベクトル、VbはM×1ベクトルであって、MA×VB=Vbを解くことにより、B0(l〜)、B1(l〜)、・・・、BN(l〜)が求められる。
【0084】
【数18】
【0085】
そして、実測によるw(l,t)と計算によるw(l〜,t)との差分を表わす(14式)を定義する。t∈(T2,Tend)としてBi(l〜)を(11式)に代入すると、p(l〜,t)が得られるので、p(l〜,t)が0に近づくように残存厚みの仮定値l〜を選択することにより、その仮定値l〜を容器壁の残存厚みlの近似値として求めることができる。
【0086】
【数19】
【0087】
図26は、上述した逆問題解析による容器壁の厚み推定処理を説明するためのフローチャートである。容器の外壁面の温度計測点にて計測された温度h(ti)が入力されると(ステップS111)、その温度h(ti)を基に熱流束g(ti)を算出する(ステップS112)。なお、外壁面の温度計測点にて計測された熱流束g(ti)が入力されるようにしてもよく、その場合、熱流束の算出は不要である。
【0088】
続いて、まず残存厚みの仮定値l〜を設定する(ステップS113)。次に、仮定値l〜を与えることにより、(6式)から変数v(l〜,ti)を求める(ステップS114)。そして、(15式)のMA×VB=Vbを解くことにより、B0(l〜)、B1(l〜)、・・・、BN(l〜)を求め(ステップS115)、(16式)のp(l〜,t)を算出する(ステップS116)。設定値ε以下となるp(l〜,t)が得られるまでステップS113〜S116を繰り返し(ステップS117)、設定値ε以下となったときの仮定値l〜を容器壁の残存厚みlとして決定する(ステップS118)。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】(a)が溶鋼鍋の外壁表面の温度分布を赤外線サーモグラフィによって計測している状態を示す図であり、(b)が溶損付近の状態を示す図である。
【図2】時間と溶鋼鍋の外壁表面の温度との関係を示す特性図である。
【図3】本実施形態に係る容器壁状態の管理方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図4】溶鋼鍋の外壁表面の解析エリアを適宜な複数の領域に分割したイメージを示す図である。
【図5】赤外線サーモグラフィによって計測された各領域の温度の一例を示す特性図である。
【図6】受鋼からの経過時間とサーマルコントラストとの関係を示す特性図である。
【図7】受鋼からの経過時間とサーマルコントラストとの関係を示す特性図である。
【図8】(a)が受鋼からの経過時間と鉄皮温度との関係を示す特性図であり、(b)が受鋼からの経過時間とサーマルコントラストとの関係を示す特性図である。
【図9】(a)が受鋼からの経過時間と鉄皮温度との関係を示す特性図であり、(b)が受鋼からの経過時間とサーマルコントラストとの関係を示す特性図である。
【図10】(a)が使用2回目におけるサーマルコントラストのピーク時間分布を示す特性図であり、(b)が使用17回目におけるサーマルコントラストのピーク時間分布を示す特性図である。
【図11】サーマルコントラストのピーク時間分布を示す特性図である。
【図12】平均ピーク時間からの増減と平均残存厚からの増減を表わす検量線を示す特性図である。
【図13】(a)が使用2回目における残存厚み分布を示す特性図であり、(b)が使用17回目における残存厚み分布を示す特性図である。
【図14】溶損が進んで容器壁の残存厚み分布の最小残存厚の値が小さくなっていく状態を説明するための図である。
【図15】(a)が地金差しのあった場合のサーマルコントラストのピーク時間分布を示す特性図であり、(b)が地金差しのない場合のサーマルコントラストのピーク時間分布を示す特性図である。
【図16】容器壁状態の管理装置として機能するコンピュータシステムのハードウェア構成例を示す図である。
【図17】赤外線サーモグラフィの配置例を示す図である。
【図18】(a)は、4回前からの溶鋼鍋の時間履歴(受鋼鍋、空鍋)を使用して溶鋼鍋の表面温度の1次元伝熱計算を行う例を示す特性図であり、(b)は前回計測した溶鋼鍋の厚みを変化させて複数のサーマルコントラストを計算した例を示す特性図である。
【図19】既知の厚みに前後する複数のサーマルコントラスト基底関数と受鋼からの経過時間との関係を示す図である。
【図20】図19におけるサーマルコントラスト変化の予測式γ(t)を拡大して示した特性図である。
【図21】本実施形態のサーマルコントラスト変化の予測式γ(t)を用いて予測した将来温度の予測誤差と、従来の予測方法による将来温度予測結果を示す特性図である。
【図22】本実施形態で着目している領域の温度と、解析エリアの平均温度の変化とを示す特性図である。
【図23】溶鋼鍋の将来温度推定方法の第2の実施形態を示し、サーマルコントラストの予測曲線を用いて溶鋼鍋の将来温度の挙動を推定する手順の一例を説明するフローチャートである。
【図24】被測定物の将来温度推定方法の第3の実施形態を示し、被測定物の一部で計測した温度の或る期間の時間推移データを基にして、曲線近似により被測定物の将来温度の挙動を推定する手順の一例を説明するフローチャートである。
【図25】逆問題解析計算により平均残存厚みを設定する手法の一例を説明するための、容器壁の一部を表わす図である。
【図26】逆問題解析による容器壁の厚み推定処理を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0090】
100 容器壁状態の管理装置
200 赤外線サーモグラフィ
300 溶鋼鍋
301 外壁
302 内壁
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器壁状態の管理方法、装置、及びコンピュータプログラムに関し、特に、内壁表面と外壁表面とで温度差を有すると共に、時間経過に伴って温度が変化する熱履歴情報、及び前記熱履歴情報が得られた際の厚み情報が既知である容器における各領域の将来温度を推定して容器壁状態を推定し、管理するために用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
転炉、脱ガス炉、石炭ガス化反応炉等の高温のガス反応又は液体反応を伴う反応容器及び混銑車、溶銑鍋、溶鋼鍋等の溶鉄を運搬する容器の操業を管理する場合、これら高温物質を扱う容器壁の状況(例えば、損耗状態)を観測し、その状況を管理する必要がある。
【0003】
従来、容器壁の損耗状態は、高温物質が容器内に存在しないときに、人間が内壁表面の状態を目視で観察することで管理されてきた。
【0004】
しかしながら、高温物質が容器内に存在しないときでも耐火物表面は500℃以上の高温に熱せられており、前記のような目視による観察では、損耗状態を定量的な数値として捉えることは極めて困難であり、定性的な管理とならざるを得ない。
【0005】
また、高温物質が容器内に存在しないという条件下における管理が余儀無くされるため、稼動中の内部高温物質の流出という事態を管理することができない。
また、材料の一部で計測した温度の或る期間の時間推移データを基にして、材料全体の温度情報を知り、材料温度の時間推移の将来挙動を予測することは、例えば、溶鋼鍋のように製鋼工場内をクレーンで移動するようなプロセスに対し、赤外線サーモグラフィで鉄皮温度を計測する場合、一部期間の計測データから鉄皮温度がどの程度まで上昇するかを推定し、溶鋼漏れに繋がるような耐火物の異常溶損を迅速に検出する際に極めて重要となる。
【0006】
これに対して、稼動中の容器の外壁表面温度を、放射温度計又は赤外線サーモグラフィを使用して計測し、外壁表面温度の計測値から容器壁の損耗状態を管理する方法が提案されている。赤外線サーモグラフィの設置位置に溶鉄の入った容器が通過した際に、容器壁の温度の高低で耐火物の異常溶損を判定する方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されている判定方法は、容器壁を構成する耐火物の熱容量が大きいため、耐火物の温度が定常状態になることは極めてまれで、また、溶鉄が装入された後に容器が赤外線サーモグラフィの位置を通過する時間は一定でないため、容器壁の耐火物が同じ溶損状態であっても、容器壁温度は著しく変化するため、特許文献1に記載されているような容器壁の温度の高低だけで耐火物の異常溶損を判定する方法では、溶損量を精度良く定量的に評価するのは極めて困難であるという問題点があった。
【0008】
一方、容器壁内の熱伝導現象を非定常熱伝導逆問題と考えて、容器壁に設置した熱電対等の1点又は2点の温度計測手段によって測定された温度データに基づいて、非定常熱伝導逆問題により容器壁の内部の温度を計算し、容器壁の温度が溶鉄の凝固温度に一致する位置を検索することにより容器壁厚みを推定する方法が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【0009】
しかしながら、特許文献2に開示されている方法は、耐火物初期温度分布を仮定しなければならないことから、高温物質の容器への装入直後は、温度計算結果が安定せず、容器壁厚みの推定精度の低下を引き起こしていた。また、1次元を仮定しているため、温度計測点近傍の1箇所での耐火物の損耗状況しか知ることはできず、2次元形状や3次元形状の溶損状態の推定結果は不可能であった。更にまた、特許文献2においては、逆問題解析による温度計算結果の信頼区間は、温度計測データの存在する期間であり、温度計測データが一部の期間しかない被測定物の将来温度を推定することは困難であるという問題点があった。
【0010】
【特許文献1】特開平3−169474号公報
【特許文献2】特開2001−234217号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
容器壁の損耗状態は、容器壁の厚みによって判断することができる。例えば、損耗が均一な形状で1次元形状に近似できる場合、容器壁が熱的に定常状態にあれば、容器壁内部の温度分布は直線状になり、容器壁の厚みLは、容器壁外壁で測定した熱流束Q、容器壁の厚み方向の熱伝導率kx、容器内壁温度Tin及び容器外壁温度Toutを使って次式より推定できる。
L=kx・(Tin−Tout)/Q
【0012】
しかしながら、実際の容器壁の温度は、稼動・非稼動の時間サイクルによって異なった値を示すため、容器壁外壁で測定した熱流束Qの値も非定常的に変化する。これに加え、容器壁内部の温度分布は曲線形状で非定常的に変化するため、上式で容器壁の厚みを推定すると、大きな誤差を引き起こすことになる。
【0013】
以前述べたように、壁内部の測温データがなくても、非定常的に変化する壁内部の温度又は熱流束を求める必要がある。また、3次元的な溶損形状を扱う場合は、前記方法は適用できない。
【0014】
本発明は前記のような点に鑑みてなされたものであり、容器の外壁表面の所定領域を測温したデータに基づいて、その所定領域に対応する容器壁内壁の容器壁状態(例えば損耗状態)を、広範囲に精度良く推定し、容器壁状態を高精度に管理できるようにすると共に、温度計測データが一部期間しかなくても、容器壁状態を高精度に管理できるようにすることを目的とする。
特に、溶鋼鍋のように高温物質を内部に有する工程があり、内表面と外表面に温度差を有して、材料温度が非定常に変化し、損耗等により厚みが変化する容器壁内壁の容器壁状態を、温度の比較的短い計測期間から将来温度の挙動を推定し、温度計測データが存在する期間に限定されることなく、容器壁状態を高精度に管理できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の容器壁状態の管理方法は、内壁表面と外壁表面とで温度差を有すると共に、時間経過に伴って温度が変化する熱履歴情報、及び前記熱履歴情報が得られた際の厚み情報が既知である容器における各領域の将来温度を推定して容器壁状態を管理する容器壁状態の管理方法であって、
前記容器の外壁表面に設定した解析エリアを分割した各領域の温度をサーモグラフィによって計測する手順と、
前記各領域の温度と前記解析エリアの平均温度との差であるサーマルコントラストを算出するサーマルコントラスト算出手順と、
前記サーマルコントラスト算出手順で算出される前記各領域でのサーマルコントラストのピーク時間を、短い計測時間から全体の温度変化を推定して求めるピーク時間取得手順と、
前記ピーク時間取得手順で求められる前記各領域でのサーマルコントラストのピーク時間に基づいて、前記解析エリアにおけるサーマルコントラストのピーク時間分布を求めるピーク時間分布取得手順とを有し、
前記短い計測時間から全体の温度変化を推定して求めるピーク時間取得手順が、前記計測する領域における容器の厚みを増減させて、複数の厚みに対する熱履歴を熱履歴計算手段により計算する熱履歴計算ステップと、
前記既知である被測定物の厚み、及びその厚みに前後する前記計算上設定した厚みに対して、それぞれ、前記各領域の温度と前記解析エリアの平均温度との差であるサーマルコントラストφiを、「φi=Ti―T0 1≦i≦N」から計算するサーマルコントラスト計算ステップと、
前記サーマルコントラスト計算ステップにおいて計算した複数のサーマルコントラストφiを基底関数にして予測式「γ(t)」を、以下に示すように構成する予測式構成ステップと、
【数1】
(但し、Nは基底関数φiの個数、iはそのインデックス、wiはN個の基底関数を使って予測式γ(t)を記述する際の基底関数φiの重み係数、tは任意の時間を示す。)
前記予測式構成ステップにおいて構成した予測式「γ(t)」における「係数wi」を、以下の式を用いて決定する係数決定ステップと、
【数2】
(但し、dはサーマルコントラスト実測値、mはサーマルコントラストの実測値の個数を示す。)
前記係数決定ステップにおいて決定した「係数w1〜wN」を、前述した(2式)に代入して、計測している被測定物の将来予測曲線を決定する予測曲線決定ステップとを備えることを特徴とする。
【0016】
本発明の容器壁状態の管理装置は、内壁表面と外壁表面とで温度差を有すると共に、時間経過に伴って温度が変化する熱履歴情報、及び前記熱履歴情報が得られた際の厚み情報が既知である容器における各領域の将来温度を推定して容器壁状態を管理する容器壁状態の管理装置であって、
サーモグラフィによって計測される、前記容器の外壁表面に設定した解析エリアを分割した各領域の温度と、前記解析エリアの平均温度との差であるサーマルコントラストを算出するサーマルコントラスト算出手段と、
前記サーマルコントラスト算出手段で算出される前記各領域でのサーマルコントラストのピーク時間を、短い計測時間から全体の温度変化を推定して求めるピーク時間取得手段と、
前記ピーク時間取得手段で求められる前記各領域でのサーマルコントラストのピーク時間に基づいて、前記解析エリアにおけるサーマルコントラストのピーク時間分布を求めるピーク時間分布取得手段とを有し、
前記短い計測時間から全体の温度変化を推定して求めるピーク時間取得手段が、前記計測する領域における容器の厚みを増減させて、複数の厚みに対する熱履歴を熱履歴計算手段により計算する熱履歴計算ステップと、
前記既知である被測定物の厚み、及びその厚みに前後する前記計算上設定した厚みに対して、それぞれ、前記各領域の温度と前記解析エリアの平均温度との差であるサーマルコントラストφiを、「φi=Ti―T0 1≦i≦N」から計算するサーマルコントラスト計算ステップと、
前記サーマルコントラスト計算ステップにおいて計算した複数のサーマルコントラストφiを基底関数にして予測式「γ(t)」を、以下に示すように構成する予測式構成ステップと、
【数3】
(但し、Nは基底関数φiの個数、iはそのインデックス、wiはN個の基底関数を使って予測式γ(t)を記述する際の基底関数φiの重み係数、tは任意の時間を示す。)
前記予測式構成ステップにおいて構成した予測式「γ(t)」における「係数wi」を、以下の式を用いて決定する係数決定ステップと、
【数4】
(但し、dはサーマルコントラスト実測値、mはサーマルコントラストの実測値の個数を示す。)
前記係数決定ステップにおいて決定した「係数w1〜wN」を、前述した(2式)に代入して、計測している被測定物の将来予測曲線を決定する予測曲線決定ステップとを行うことを特徴とする。
【0017】
本発明のコンピュータプログラムは、内壁表面と外壁表面とで温度差を有すると共に、時間経過に伴って温度が変化する熱履歴情報、及び前記熱履歴情報が得られた際の厚み情報が既知である容器における各領域の将来温度を推定して容器壁状態を管理するためのコンピュータプログラムであって、
サーモグラフィによって計測される、前記容器の外壁表面に設定した解析エリアを分割した各領域の温度と、前記解析エリアの平均温度との差であるサーマルコントラストを算出するサーマルコントラスト算出処理と、
前記サーマルコントラスト算出処理で算出される前記各領域でのサーマルコントラストのピーク時間を、短い計測時間から全体の温度変化を推定して求めるピーク時間取得処理と、
前記ピーク時間取得処理で求められる前記各領域でのサーマルコントラストのピーク時間に基づいて、前記解析エリアにおけるサーマルコントラストのピーク時間分布を求めるピーク時間分布取得処理とをコンピュータに実行させ、
前記短い計測時間から全体の温度変化を推定して求めるピーク時間取得処理が、前記計測する領域における容器の厚みを増減させて、複数の厚みに対する熱履歴を熱履歴計算手段により計算する熱履歴計算ステップと、
前記既知である被測定物の厚み、及びその厚みに前後する前記計算上設定した厚みに対して、それぞれ、前記各領域の温度と前記解析エリアの平均温度との差であるサーマルコントラストφiを、「φi=Ti―T0 1≦i≦N」から計算するサーマルコントラスト計算ステップと、
前記サーマルコントラスト計算ステップにおいて計算した複数のサーマルコントラストφiを基底関数にして予測式「γ(t)」を、以下に示すように構成する予測式構成ステップと、
【数5】
(但し、Nは基底関数φiの個数、iはそのインデックス、wiはN個の基底関数を使って予測式γ(t)を記述する際の基底関数φiの重み係数、tは任意の時間を示す。)
前記予測式構成ステップにおいて構成した予測式「γ(t)」における「係数wi」を、以下の式を用いて決定する係数決定ステップと、
【数6】
(但し、dはサーマルコントラスト実測値、mはサーマルコントラストの実測値の個数を示す。)
前記係数決定ステップにおいて決定した「係数w1〜wN」を、前述した(2式)に代入して、計測している被測定物の将来予測曲線を決定する予測曲線決定ステップとを有することを特徴とする。
なお、本発明でいう「内壁表面と外壁表面とで温度差を有する容器」とは、転炉、脱ガス炉、石炭ガス化反応炉等の高温のガス反応又は液体反応を伴う反応容器及び混銑車、溶銑鍋、溶鋼鍋等の溶鉄を運搬する容器等をいう。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、内壁表面と外壁表面とで温度差を有すると共に、時間経過に伴って温度が変化する熱履歴情報、及び前記熱履歴情報が得られた際の厚み情報が既知である容器における各領域の将来温度を推定して容器状態を管理する際に、容器壁内壁の容器壁状態(例えば損耗状態)を、広範囲に精度良く推定し、容器壁状態を高精度に管理できるようにすることができると共に、温度計測データが一部期間しかなくても、容器壁状態を高精度に管理することができる。
特に、溶鋼鍋のように高温物質を内部に有する工程があり、内表面と外表面に温度差を有して、材料温度が非定常に変化し、損耗等により厚みが変化する容器壁内壁の容器壁状態を、温度の比較的短い計測期間から将来温度の挙動を推定し、温度計測データが存在する期間に限定されることなく、容器壁状態を高精度に管理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
(第1の実施形態)
本実施形態では、内壁表面と外壁表面とで温度差を有する容器として、溶鋼鍋300を例にして説明する。図1(a)に示すように、溶鋼鍋300の外壁(鉄皮)301表面の温度分布を赤外線サーモグラフィ200によって計測する。赤外線サーモグラフィ200で計測される温度分布データは、容器壁状態の管理装置100に入力される。
【0020】
図1(b)に示すように、溶鋼鍋300の内壁(ウエア煉瓦等の耐火物)302に溶損があると(溶損深さd)、受鋼後の溶鋼鍋300の外壁301表面において、溶損箇所に対応する部位の温度ucは、その周囲の温度uaよりも高温であるとともに早く定常状態に到達する(図2を参照)。
【0021】
以下、図3のフローチャートに基づいて、図4〜14も参照しつつ、本実施形態に係る容器壁状態の管理方法について説明する。図3は、本実施形態に係る容器壁状態の管理方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。容器壁状態の管理装置100が図3のステップS101〜S105の処理を行うことによって、容器壁状態、具体的には容器壁の残存厚みを推定し、管理する。
【0022】
まず、ステップS101において、溶鋼鍋300の外壁301表面に設定した解析エリアを適宜な複数の領域に分割し(図4を参照)、各領域i(i=1、2、・・・、N)の温度ui(t)を赤外線サーモグラフィ200によって経時的に計測する。解析エリアは、赤外線サーモグラフィ200で計測したエリア全域、又は計測したエリア全域から適宜選定したエリアを設定することができる。図5には、赤外線サーモグラフィ200によって計測された各領域iの温度ui(t)の一例を示す。なお、領域iは、検出素子の画素単位とすることができるが、近傍に存在する画素を複数纏めて平均温度を算出して領域iの温度とすることもできる。例えば、3840画素分(=縦32画素×横120画素)を1領域とする等に設定できる。
【0023】
本実施形態では、溶鋼鍋300の外壁301表面のうち、スラグライン部を解析エリアとして設定している。溶鋼鍋300では、下層(メタルライン部)に比べて上層(スラグライン部)ほど熱負荷が大きく、修理や交換の回数も多くなるので、特にスラグライン部の残存厚みを管理することが求められるからである。また、例えばスラグライン上部及び下部で材質が異なるような場合や、耐火物の交換頻度が上部と下部とで異なる場合は、図4に示すように、スラグライン上部及び下部をそれぞれ別の解析エリアとして設定してもよい。
【0024】
次に、ステップS102において、解析エリアの平均温度(解析エリアに含まれる全領域iの平均温度)ua(t)を算出するとともに、各領域iの温度ui(t)と解析エリアの平均温度ua(t)との差(ui(t)−ua(t))を算出する。図5に示すように、スラグの付着等の理由により異常値51が存在する場合、その異常値51は除外するようにしてもよい。
【0025】
本明細書では、各領域iの温度ui(t)と解析エリアの平均温度ua(t)との差(ui(t)−ua(t))を「サーマルコントラスト」と称する。図6には、ある領域iでのサーマルコントラストを示す。サーマルコントラストは、一部或いは複数の時間帯で(ui(t)−ua(t))を実測して曲線近似により予測カーブを求めることができる。この予測カーブは各領域i=1〜Nにおいて求める。詳細は後述する。
【0026】
次に、ステップS103において、各領域iでのサーマルコントラストのピーク時間(サーマルコントラストが最大となる時間)を求める。図7に示すように、各領域iでのサーマルコントラストのピーク時間は、溶損深さdが深くなるに従って(換言すれば、残存厚みが薄くなるに従って)、受鋼後の早い時間へと移行する。すなわち、溶損深さdが深くなるに従って(換言すれば、残存厚みが薄くなるに従って)、サーマルコントラストは受鋼後の早い段階で最大(ピーク)となる。
【0027】
また、サーマルコントラストのピーク時間を観測することによって、空鍋時間(受鋼前の初期温度分布)の影響を回避することができる。図8(a)に示すように、溶損サイズが同一であっても、空鍋時間が異なると、溶鋼鍋の外壁表面の温度は変化する。すなわち、外壁表面の温度だけを観察する場合は、空鍋時間の影響を受けてしまう。また、温度のピーク時間も空鍋時間の影響を受けてしまう。それに対して、サーマルコントラストのピーク時間を観測する場合、図8(b)に示すように、空鍋時間が異なっても、サーマルコントラスト自体の値は変化するが、サーマルコントラストのピーク時間はほとんど変動しない(空鍋時間の影響をほとんど受けない)。
【0028】
さらに、サーマルコントラストのピーク時間を観測することによって、溶損の3次元形状の影響を回避することができる。図9(a)に示すように、溶損幅(溶損深さdは同一)が異なると、溶鋼鍋の外壁表面の温度は変化する。すなわち、外壁表面の温度だけを観察する場合は、溶損の3次元形状の影響を受けてしまう。それに対して、サーマルコントラストのピーク時間を観測する場合、図9(b)に示すように、溶損幅(溶損深さは同一)が異なっても、サーマルコントラスト自体の値は変化するが、サーマルコントラストのピーク時間はほとんど変動しない(溶損の3次元形状の影響をほとんど受けない)。
【0029】
図3に説明を戻し、次に、ステップS104において、各領域iでのサーマルコントラストのピーク時間に基づいて、解析エリアにおけるサーマルコントラストのピーク時間分布を調べる。図10(a)は、溶鋼鍋300の使用2回目(ほぼ新品)におけるサーマルコントラストのピーク時間分布を示す。それに対して、図10(b)は、同溶鋼鍋300の使用17回目(修理間近)におけるサーマルコントラストのピーク時間分布を示す。同図に示すように、使用回数を重ねるにつれて、ピーク時間分布の分散幅が増大しており、溶鋼鍋300の内壁302の溶損が進行している状況が窺える。
【0030】
本実施形態では、図11に示すように、サーマルコントラストのピーク時間分布において、平均ピーク時間Save、分散時間SΣ、最小ピーク時間Sminの3つの統計量を管理
する。
【0031】
次に、ステップS105において、解析エリアにおけるサーマルコントラストのピーク時間分布に基づいて、例えば逆問題解析を用いて、容器壁の残存厚みを推定する。例えば図12に示すように、平均ピーク時間からの増減に対する平均残存厚からの増減を表わす検量線を、修理時や空鍋時等の厚み計測による結果から予め定めておき、空鍋時の厚み計測又は逆問題解析による厚み計算により求めた平均残存厚みを加算することにより、サーマルコントラストのピーク時間分布に基づいて容器壁の残存厚みを換算する。なお、逆問題解析計算により平均残存厚みを設定する手法は特に限定されるものではないが、その一例について後述する。
【0032】
図7に示したように、サーマルコントラストのピーク時間は、溶損深さdが深くなるに従って(換言すれば、残存厚みが薄くなるに従って)、受鋼後の早い時間へと移行するので、容器壁の残存厚み分布もサーマルコントラストのピーク時間分布と対応したものとなる。すなわち、平均ピーク時間Saveが平均残存厚に対応し、最小ピーク時間Sminが容器壁の残存厚みが最小残存厚に対応し、サーマルコントラストのピーク時間分布曲線における最小時間Sminとなる領域iを特定することにより、容器壁の残存厚みが最小残存厚となっている領域iを特定することができる。
【0033】
図13は、図12の検量線を用いて求めた容器壁の残存厚み分布である。図13(a)は、溶鋼鍋300の使用2回目における容器壁の残存厚み分布を示す(図10(a)に対応)。それに対して、図13(b)は、同溶鋼鍋300の使用17回目における容器壁の残存厚み分布を示す(図10(b)に対応)。使用回数を重ねるにつれて、平均残存厚が減少するとともに、残存厚み分布の分散幅が増大して最小残存厚の値が小さくなっており、内壁302の溶損が進行している様子を捉えている。
【0034】
容器壁状態の管理装置100では、図3のステップS101〜S105の処理を、例えば溶鋼鍋300を使用するごとに、すなわち受鋼ごとに実行する。
そして、各回で求められるサーマルコントラストのピーク時間分布における平均ピーク時間Save、分散時間SΣ、最小ピーク時間Sminや、それらを換算して求められた容器壁の残存厚みをデータベ
ース化して履歴を管理する。特に溶鋼鍋300の日常点検では、容器壁の残存厚みが最小残存厚となっている領域iを重点的に管理すればよい。
【0035】
図14に示すように、溶鋼鍋300の使用回数を重ねて内壁302の溶損が進むと、容器壁の残存厚み分布Sの最小残存厚の値が小さくなっていく。例えば、容器壁状態の管理装置100において最小残存厚の閾値Yを予め設定しておき、最小残存厚の値が閾値に達したならば、溶鋼鍋300の寿命であると判定するようにしておけばよい。この場合、容器壁状態の管理装置100が溶鋼鍋300の寿命であることをユーザに通知し、溶鋼鍋300の修理や必要部位の交換等を促すようにしてもよい。
【0036】
なお、溶鋼鍋300の修理(交換)時に容器壁の残存厚みを計測し、その計測値に基づいて、図12に示した検量線を修正することにより、残存厚みの推定精度を向上させるようにしてもよい。
【0037】
以前述べたように、サーマルコントラストのピーク時間は容器壁の残存厚みに応じて移行するので、容器壁の残存厚みを推定することが可能になる。しかも、サーマルコントラストのピーク時間を観測することによって、空鍋時間(受鋼前の初期温度分布)や溶損の3次元形状の影響を回避することができる。したがって、溶鋼鍋300の外壁表面における2次元測温データに基づいて容器壁の状態、具体的には容器壁の残存厚み、容器壁の3次元損耗状態の最大損耗量を精度良く推定し、管理することができる。
【0038】
また、前記実施形態では、サーマルコントラストのピーク時間分布に基づいて、容器壁状態として容器壁の残存厚みを推定しているが、それ以外にも所謂「地金差し」の有無を検出することも可能である。地金差しとは、溶鋼鍋300の内壁に亀裂が生じ、そこに溶鋼が浸入することをいう。図15(a)、(b)に示すように、地金差しが生じると、他の部位との熱伝導性の相違により、サーマルコントラストのピーク時間分布において平均ピーク時間Save以外に地金差しによるピークが生じる。
したがって、平均ピーク時間Save以外にピークが現れている場合は、地金差しが生じているものと推定することができる。
【0039】
図16には、容器壁状態の管理装置100として機能するコンピュータシステムのハードウェア構成例を示す。容器壁状態の管理装置100は、CPU20と、入力装置21と、表示装置22と、記録装置23とを含み、各部はバス24を介して接続される。記録装置23はROM、RAM、HD等により構成されており、前述した容器壁状態の管理装置100としての動作を制御するコンピュータプログラムが格納される。CPU20がコンピュータプログラムを実行することによって容器壁状態の管理装置100の機能、又は処理を実現する。また、記録装置23にデータベースが格納される。
【0040】
(第2の実施形態)
次に、サーマルコントラストを、一部或いは複数の時間帯で(ui(t)−ua(t))を実測して曲線近似により予測カーブを求める本発明の好適な実施形態について説明する。
本実施形態においては、図4に示した複数の領域に分割した解析エリアにおいて、特定の領域(例えば、i=20)毎に、温度の将来挙動を推定して容器壁状態の管理をするようにようにしている。以下、推定手順の一例について、図23のフローチャートを参照しながら説明する。
【0041】
先ず、最初のステップS81において、被測定物について、各厚み毎に熱履歴を計算する。
前述したように、本実施形態においては被測定物として溶鋼鍋300を対象とし、溶鋼鍋300の壁状態の管理を行うようにしている。溶鋼鍋300においては、内部に溶鋼が入れられている状態(以下、受鋼鍋とする)と、空の状態(以下、空鍋とする)とが交互に繰り返される。図18(a)には、受鋼鍋→空鍋→受鋼鍋→空鍋・・・のサイクルを4回繰り返した際の熱履歴を、ウエア煉瓦の残厚毎に示している。図18(a)に示したように、製鉄工程においては、以前にどのような操業が行われたかが既知であるので、溶鋼鍋耐火物の厚み毎に鉄皮温度の熱履歴を計算する(推定する)ことができる。この場合、4回前からの溶鋼鍋300の時間履歴(受鋼鍋、空鍋)を使用して溶鋼鍋300の表面温度の1次元伝熱計算を行う例を示している。
【0042】
具体的には、溶鋼鍋300について、図22に示すように、例えば前回の操業において解析エリアにおける温度変化uaの情報が既知である。そこで、この温度変化uaの情報が得られた際の溶鋼鍋300(この場合は、ウエア煉瓦)の厚みを変化させて、図18(a)において符号30で示したように、複数の厚みについて熱履歴を計算する。この例の場合は、ウエア煉瓦の残存厚が「30mm」、「50mm」、「70mm」、「90mm」、「110mm」、「130mm」、「150mm」についてそれぞれ計算している。具体的には、溶鋼鍋300の構成材料を、1次元近似した非定常熱伝導方程式で表し、差分法等の数値計算法を使って計算する。すなわち、4回前(新品時)からの溶鋼鍋のウエア煉瓦残存厚みの推移の履歴と操業時間履歴(受鋼鍋、空鍋)を使用して溶鋼鍋300の表面温度の1次元非定常伝熱計算を行うことで求めることができる。
【0043】
次に、ステップS82に進み、前回の操業から既知である溶鋼鍋300の厚みに対してサーマルコントラストφiを計算する。
これは、ステップS81で計算した前回の耐火物の厚みにおける鉄皮温度T0を基準にして、ステップS81で計算した各耐火物厚みにおける鉄皮温度Tiとの差を、「サーマルコントラストφi」と定義して行う。
φi=Ti―T0 1≦i≦N ・・・(1式)
【0044】
前述した(1式)による計算を、ステップS81で計算した複数の耐火物厚み毎に行う。例えば、図18(b)に示すように、ウエア煉瓦残厚110mmを基準としたときの溶損量が「−80mm」、「−60mm」、「−40mm」、「−20mm」、「+20mm」、「+40mm」について行う。これにより、耐火物厚み毎に「サーマルコントラストφ1」〜「サーマルコントラストφ6」が得られる。ここでは、溶損量0mmを除いて計算しているが、勿論、溶損量0mmを含めて計算しても構わない。
【0045】
次に、ステップS83に進み、「領域i=20」におけるサーマルコントラスト変化の予測式「γ(t)」を構成する。本実施形態においては、サーマルコントラストφiを基底関数にして、予測式「γ(t)」を、以下に示す(2式)で構成した例を示している。
【0046】
【数7】
【0047】
(2式)において、「係数wi」が不明である。この不明な「係数wi」を、ステップS84において決定する。先ず、溶鋼鍋300の解析エリアにおいて、着目している領域の温度uc(例えば、i=20)を赤外線サーモグラフィ200によって所定の時間計測して、「サーマルコントラスト実測値d(t)=uc(t)−ua(t)」を得る。温度を計測する時間は、例えば、10分程度とする。
【0048】
次に、ステップS85において、将来の温度予測曲線を決定する。これは、ステップS84で取得した「サーマルコントラスト実測値d(t1)〜d(tm)」を、下記の(3式)に代入して得られる方程式を解くことにより、「係数w1〜wN」を求める。そして、この計算した「係数w1〜wN」を前述した(2式)に代入することにより、サーマルコントラストの実測値の将来予測曲線が決定できる。このときの着目した「領域i=20」における将来温度予測式は「T0(t)+γ(t)」となる。また、ウエア煉瓦の残存厚みは、「サーマルコントラストφ1」〜「サーマルコントラストφN」で使用したウエア煉瓦の各残存厚みに、wi/Σwiを乗じて加重平均を施すことで、決定できる。尚、mはNと等しくするか、Nより大きく設定すると求めやすくなるため好ましい。特に、mがNに等しい場合の「係数w1〜wN」は一義的に求めることができるため、より好ましい。mがNより大きい場合の「係数w1〜wN」は最小2乗法等を用いて近似解として計算により求めることが出来る。
【0049】
【数8】
【0050】
前述のようにして決定した、既知の厚みに前後する複数のサーマルコントラスト基底関数φ1〜φ6と、受鋼からの経過時間(分)との関係を図19に示す。これら複数のサーマルコントラスト基底関数φ1〜φ6の重ね合わせで、サーマルコントラスト変化の予測式「γ(t)」を、図19中に構成する。図19において、縦軸は温度(℃)、横軸は時間(分)を表している。
【0051】
図20は、図19におけるサーマルコントラスト変化の予測式「γ(t)」を拡大して示したものである。なお、図20においては、ノイズ除去を行う例を示しているが、ノイズ除去は必ずしも行わなくてもよい。ノイズ除去は、例えば移動平均法などの、通常用いられている方法で構わない。
【0052】
図21に、本実施形態のサーマルコントラスト変化の予測式「γ(t)」を用いて予測した将来温度の予測誤差と、従来の予測方法、例えば、一般的な3次スプライン補間法による将来温度予測結果を示す。従来の予測方法で予測した将来温度予測曲線61は、20分経過した以降、極端に誤差が増加する。これに対して、本実施形態予測方法で予測した将来温度予測曲線62は、1時間後でも誤差1℃以下であり、良好な精度を維持できていることが分かる。
ここで、3次スプライン補間公式とは、関数yi=y(xi)i=1,2・・・,Nのデータが与えられているとしたときに、xjからxj+1までの区間に注目し、その区間で下記の式で補間を行うものである。
【0053】
【数9】
【0054】
前述したように、本実施形態の容器壁状態の管理方法によれば、溶鋼鍋300の所定の領域で計測した温度の或る期間の時間推移データを基にして、前記溶鋼鍋300の厚みを決定する。そして、前記決定した溶鋼鍋300の厚み情報、及び前記溶鋼鍋300の熱履歴情報に基いて、溶鋼鍋300の温度の時間推移の将来挙動を予測するようにした。
【0055】
これにより、一次元伝熱計算を行うだけで溶鋼鍋300の将来温度が時間推移に応じてどのように変化するのかを確実に予測することができる。また、サーマルコントラスト予測曲線のピーク時間に基づいて、前記溶鋼鍋300における各領域の厚みを確実に推定することができる。
【0056】
特に、本実施形態においては、既知の厚み、及び前記既知の厚みの前後の厚みについて表面温度の熱履歴を計算し、前記既知の厚みの温度T0を基準にして、前記計算した既知の厚みの前後の厚みの各温度Tiの差を前記(1式)を用いて計算し、複数のサーマルコントラストφ1〜φ6を定義した。そして、これらのサーマルコントラストφ1〜φ6を基底関数にして、予測式γ(t)を構成し、溶鋼鍋300の将来温度を予測するようにした。したがって、溶鋼鍋300の状態を極めて高精度に予測することができる。
【0057】
(第3の実施形態)
次に、図24を参照しながら本発明の第3の実施形態を説明する。
先ず、最初のステップS91において、溶鋼鍋300について、解析エリアの平均温度変化uaが得られた際の溶鋼鍋300の厚みを変化させて、複数の厚みについて熱履歴を計算する。この計算は、前述した第2の実施形態において、図23のステップS81で行った計算と同様であり、溶鋼鍋300の時間履歴と温度変化履歴に基いて、前回の計測で分かっている溶鋼鍋300の厚みの前後における複数の厚み毎に熱履歴をそれぞれ計算する。
【0058】
次に、ステップS92に進み、溶鋼鍋300の特定領域、すなわち「領域i=20」の温度を計測する。この計測の結果、「領域i=20」における或る時間の「計測値uc(t)」が得られる。
【0059】
次に、ステップS93に進み、ステップS92で計測した或る時間の「計測値uc(t)」に対応する熱履歴及び温度変化の特性曲線を特定する。そして、この特定した特性曲線から、「領域i=20」における溶鋼鍋300の厚みを特定する。
【0060】
次に、ステップS94に進み、ステップS93において特定した「領域i=20」における溶鋼鍋300の厚みから将来温度を推定する。この将来温度の推定は、例えば、「領域i=20」で計測した温度の或る期間の時間推移データを基にして、曲線近似により予測曲線を求めることができる。
【0061】
前述したように、本実施形態においても,一次元伝熱計算を行うだけで溶鋼鍋300における各領域の将来温度が時間推移に応じてどのように変化するのかを確実に予測することができる。また、予測曲線を構成するときの重み係数から、前記溶鋼鍋300の各領域について、厚みを確実に推定することができる。したがって、前述のように推定した厚み情報に基いて、溶鋼鍋300の容器壁状態を良好に管理することができる。
【0062】
なお、本発明の容器壁状態の管理装置は、複数の機器から構成されるシステムに適用しても、一つの機器からなる装置に適用してもよい。
【0063】
また、本発明の目的は、前述した機能を実現するコンピュータプログラムをシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(CPU若しくはMPU)が実行することによっても達成され、この場合、コンピュータプログラム自体が本発明を構成することになる。
【0064】
以上、本発明を種々の実施形態と共に説明したが、本発明はこれらの実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内で変更等が可能である。例えば、前記実施形態では赤外線サーモグラフィ200の台数について言及していないが、図17に示すように、溶鋼鍋300の周囲に3台以上の赤外線サーモグラフィ200を均等に配置し、溶鋼鍋300の全周における溶鋼壁状態を管理するようにしてもよい。
【0065】
以下に、逆問題解析計算により平均残存厚みを決定する手法の一例を説明する。まず、容器壁の厚み推定手法の基本的な考え方について説明する。図25は、容器壁の一部を表わす図であり、x=0が容器の内壁面の位置である。同図において、容器壁の残存厚みl、容器内に存在する高温物質の温度f(t)=UM、容器壁の温度u(x,t)(外壁面の温度計測点にて計測された温度h(t))、温度h(t)を基に算出した熱流束(又は外壁面の温度計測点にて計測された熱流束)g(t)である。
【0066】
(定式化)
(4式)、(5式)は、非定常熱伝導方程式を表わす。なお、utは∂u/∂tを表し、uxxは∂2u/∂x2を表わす。(4式)において、αは熱拡散係数、u(x,0)=u0(x)は容器壁の温度の初期値である。この場合、容器壁の温度の初期値u(x,0)=u0(x)は未知である。また、高温物質の温度UM、外気温度ua、熱拡散係数α、放射伝熱のステファンボルツマン係数σ、容器壁の熱伝導率λは正の定数である。
【0067】
【数10】
【0068】
ここで、(6式)を導入してフーリエ展開することにより、(4式)の容器壁の温度u(x,t)は(7式)のように求められる。
【0069】
【数11】
【0070】
【数12】
【0071】
x=lとすると、(8式)が得られる。
【0072】
【数13】
【0073】
ところが、コンピュータによる演算処理を実行する場合、(8式)の右辺において、特に第2項、第3項の計算は打ち切り誤差を引き起こしやすいという問題がある。そこで、容器壁の温度u(x,t)の代替として変数v(x,t)を定義し、(9式)を導入する。(9式)において、変数の初期値v(x,0)=xg(0)+f(0)は、内壁面の熱流束の初期値g(0)、及び、内壁面の温度の初期値(即ち、高温物質の温度)f(0)をいずれも既知とすることができる。したがって、変数v(x,t)については、例えば後退差分法により直接計算することができる。
【0074】
【数14】
【0075】
さらに、容器壁の温度u(x,t)と変数v(x,t)との差をw(x,t)と定義すると、(7式)のようになる。
【0076】
【数15】
【0077】
ここで、上述したのと同様にフーリエ展開することにより、(10式)の変数w(x,t)は(11式)のように求められる。(11式)においては、(7式)と比較して明らかなように、第2項、第3項のない簡単な式とすることができる。
【0078】
【数16】
【0079】
また、w(l,t)=u(l,t)−v(l,t)である。そして、u(l,t)は既知のh(t)であり、また、v(l,t)は(9式)から後退差分法により直接計算することができる。したがって、w(l,t)が既知であるとして、(11式)からBn(l)の近似値を得ることができる。
【0080】
(残存厚みlを求めるための逆問題)
逆問題においては、容器壁の残存厚みlは未知であり、したがって変数v(l,t)は未知であるが、u(l,t)は計測値h(t)として与えられる。(11式)から(12式)が得られる。
【0081】
【数17】
【0082】
以下述べるように、最適化計算により、容器壁の残存厚みlの近似値を得ることができる。即ち、観察時間を(Tst,Tend)と設定し、Tst<T1<T2<Tendとする。そして、T1=t1<t2<・・・<tM=T2と均一格子にする。残存厚みの仮定値l〜>0は既知条件とする。なお、本明細書において、l〜の表記は、lの上に〜が付されているものとする。
【0083】
ここで、外壁面の温度計測点にて計測された温度h(t)は既知で、変数v(l〜,ti)は仮定値l〜を与えることにより(9式)から後退差分法により求められる。(13式)のように、MAはM×(N+1)行列、VBは(N+1)×1ベクトル、VbはM×1ベクトルであって、MA×VB=Vbを解くことにより、B0(l〜)、B1(l〜)、・・・、BN(l〜)が求められる。
【0084】
【数18】
【0085】
そして、実測によるw(l,t)と計算によるw(l〜,t)との差分を表わす(14式)を定義する。t∈(T2,Tend)としてBi(l〜)を(11式)に代入すると、p(l〜,t)が得られるので、p(l〜,t)が0に近づくように残存厚みの仮定値l〜を選択することにより、その仮定値l〜を容器壁の残存厚みlの近似値として求めることができる。
【0086】
【数19】
【0087】
図26は、上述した逆問題解析による容器壁の厚み推定処理を説明するためのフローチャートである。容器の外壁面の温度計測点にて計測された温度h(ti)が入力されると(ステップS111)、その温度h(ti)を基に熱流束g(ti)を算出する(ステップS112)。なお、外壁面の温度計測点にて計測された熱流束g(ti)が入力されるようにしてもよく、その場合、熱流束の算出は不要である。
【0088】
続いて、まず残存厚みの仮定値l〜を設定する(ステップS113)。次に、仮定値l〜を与えることにより、(6式)から変数v(l〜,ti)を求める(ステップS114)。そして、(15式)のMA×VB=Vbを解くことにより、B0(l〜)、B1(l〜)、・・・、BN(l〜)を求め(ステップS115)、(16式)のp(l〜,t)を算出する(ステップS116)。設定値ε以下となるp(l〜,t)が得られるまでステップS113〜S116を繰り返し(ステップS117)、設定値ε以下となったときの仮定値l〜を容器壁の残存厚みlとして決定する(ステップS118)。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】(a)が溶鋼鍋の外壁表面の温度分布を赤外線サーモグラフィによって計測している状態を示す図であり、(b)が溶損付近の状態を示す図である。
【図2】時間と溶鋼鍋の外壁表面の温度との関係を示す特性図である。
【図3】本実施形態に係る容器壁状態の管理方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図4】溶鋼鍋の外壁表面の解析エリアを適宜な複数の領域に分割したイメージを示す図である。
【図5】赤外線サーモグラフィによって計測された各領域の温度の一例を示す特性図である。
【図6】受鋼からの経過時間とサーマルコントラストとの関係を示す特性図である。
【図7】受鋼からの経過時間とサーマルコントラストとの関係を示す特性図である。
【図8】(a)が受鋼からの経過時間と鉄皮温度との関係を示す特性図であり、(b)が受鋼からの経過時間とサーマルコントラストとの関係を示す特性図である。
【図9】(a)が受鋼からの経過時間と鉄皮温度との関係を示す特性図であり、(b)が受鋼からの経過時間とサーマルコントラストとの関係を示す特性図である。
【図10】(a)が使用2回目におけるサーマルコントラストのピーク時間分布を示す特性図であり、(b)が使用17回目におけるサーマルコントラストのピーク時間分布を示す特性図である。
【図11】サーマルコントラストのピーク時間分布を示す特性図である。
【図12】平均ピーク時間からの増減と平均残存厚からの増減を表わす検量線を示す特性図である。
【図13】(a)が使用2回目における残存厚み分布を示す特性図であり、(b)が使用17回目における残存厚み分布を示す特性図である。
【図14】溶損が進んで容器壁の残存厚み分布の最小残存厚の値が小さくなっていく状態を説明するための図である。
【図15】(a)が地金差しのあった場合のサーマルコントラストのピーク時間分布を示す特性図であり、(b)が地金差しのない場合のサーマルコントラストのピーク時間分布を示す特性図である。
【図16】容器壁状態の管理装置として機能するコンピュータシステムのハードウェア構成例を示す図である。
【図17】赤外線サーモグラフィの配置例を示す図である。
【図18】(a)は、4回前からの溶鋼鍋の時間履歴(受鋼鍋、空鍋)を使用して溶鋼鍋の表面温度の1次元伝熱計算を行う例を示す特性図であり、(b)は前回計測した溶鋼鍋の厚みを変化させて複数のサーマルコントラストを計算した例を示す特性図である。
【図19】既知の厚みに前後する複数のサーマルコントラスト基底関数と受鋼からの経過時間との関係を示す図である。
【図20】図19におけるサーマルコントラスト変化の予測式γ(t)を拡大して示した特性図である。
【図21】本実施形態のサーマルコントラスト変化の予測式γ(t)を用いて予測した将来温度の予測誤差と、従来の予測方法による将来温度予測結果を示す特性図である。
【図22】本実施形態で着目している領域の温度と、解析エリアの平均温度の変化とを示す特性図である。
【図23】溶鋼鍋の将来温度推定方法の第2の実施形態を示し、サーマルコントラストの予測曲線を用いて溶鋼鍋の将来温度の挙動を推定する手順の一例を説明するフローチャートである。
【図24】被測定物の将来温度推定方法の第3の実施形態を示し、被測定物の一部で計測した温度の或る期間の時間推移データを基にして、曲線近似により被測定物の将来温度の挙動を推定する手順の一例を説明するフローチャートである。
【図25】逆問題解析計算により平均残存厚みを設定する手法の一例を説明するための、容器壁の一部を表わす図である。
【図26】逆問題解析による容器壁の厚み推定処理を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0090】
100 容器壁状態の管理装置
200 赤外線サーモグラフィ
300 溶鋼鍋
301 外壁
302 内壁
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内壁表面と外壁表面とで温度差を有すると共に、時間経過に伴って温度が変化する熱履歴情報、及び前記熱履歴情報が得られた際の厚み情報が既知である容器における各領域の将来温度を推定して容器壁状態を管理する容器壁状態の管理方法であって、
前記容器の外壁表面に設定した解析エリアを分割した各領域の温度をサーモグラフィによって計測する手順と、
前記各領域の温度と前記解析エリアの平均温度との差であるサーマルコントラストを算出するサーマルコントラスト算出手順と、
前記サーマルコントラスト算出手順で算出される前記各領域でのサーマルコントラストのピーク時間を、短い計測時間から全体の温度変化を推定して求めるピーク時間取得手順と、
前記ピーク時間取得手順で求められる前記各領域でのサーマルコントラストのピーク時間に基づいて、前記解析エリアにおけるサーマルコントラストのピーク時間分布を求めるピーク時間分布取得手順とを有し、
前記短い計測時間から全体の温度変化を推定して求めるピーク時間取得手順が、前記計測する領域における容器の厚みを増減させて、複数の厚みに対する熱履歴を熱履歴計算手段により計算する熱履歴計算ステップと、
前記既知である被測定物の厚み、及びその厚みに前後する前記計算上設定した厚みに対して、それぞれ、前記各領域の温度と前記解析エリアの平均温度との差であるサーマルコントラストφiを、「φi=Ti―T0 1≦i≦N」から計算するサーマルコントラスト計算ステップと、
前記サーマルコントラスト計算ステップにおいて計算した複数のサーマルコントラストφiを基底関数にして予測式「γ(t)」を、以下に示すように構成する予測式構成ステップと、
【数1】
(但し、Nは基底関数φiの個数、iはそのインデックス、wiはN個の基底関数を使って予測式γ(t)を記述する際の基底関数φiの重み係数、tは任意の時間を示す。)
前記予測式構成ステップにおいて構成した予測式「γ(t)」における「係数wi」を、以下の式を用いて決定する係数決定ステップと、
【数2】
(但し、dはサーマルコントラスト実測値、mはサーマルコントラストの実測値の個数を示す。)
前記係数決定ステップにおいて決定した「係数w1〜wN」を、前述した(2式)に代入して、計測している被測定物の将来予測曲線を決定する予測曲線決定ステップとを備えることを特徴とする容器壁状態の管理方法。
【請求項2】
内壁表面と外壁表面とで温度差を有すると共に、時間経過に伴って温度が変化する熱履歴情報、及び前記熱履歴情報が得られた際の厚み情報が既知である容器における各領域の将来温度を推定して容器壁状態を管理する容器壁状態の管理装置であって、
サーモグラフィによって計測される、前記容器の外壁表面に設定した解析エリアを分割
した各領域の温度と、前記解析エリアの平均温度との差であるサーマルコントラストを算出するサーマルコントラスト算出手段と、
前記サーマルコントラスト算出手段で算出される前記各領域でのサーマルコントラストのピーク時間を、短い計測時間から全体の温度変化を推定して求めるピーク時間取得手段と、
前記ピーク時間取得手段で求められる前記各領域でのサーマルコントラストのピーク時間に基づいて、前記解析エリアにおけるサーマルコントラストのピーク時間分布を求めるピーク時間分布取得手段とを有し、
前記短い計測時間から全体の温度変化を推定して求めるピーク時間取得手段が、前記計測する領域における容器の厚みを増減させて、複数の厚みに対する熱履歴を熱履歴計算手段により計算する熱履歴計算ステップと、
前記既知である被測定物の厚み、及びその厚みに前後する前記計算上設定した厚みに対して、それぞれ、前記各領域の温度と前記解析エリアの平均温度との差であるサーマルコントラストφiを、「φi=Ti―T0 1≦i≦N」から計算するサーマルコントラスト計算ステップと、
前記サーマルコントラスト計算ステップにおいて計算した複数のサーマルコントラストφiを基底関数にして予測式「γ(t)」を、以下に示すように構成する予測式構成ステップと、
【数3】
(但し、Nは基底関数φiの個数、iはそのインデックス、wiはN個の基底関数を使って予測式γ(t)を記述する際の基底関数φiの重み係数、tは任意の時間を示す。)
前記予測式構成ステップにおいて構成した予測式「γ(t)」における「係数wi」を、以下の式を用いて決定する係数決定ステップと、
【数4】
(但し、dはサーマルコントラスト実測値、mはサーマルコントラストの実測値の個数を示す。)
前記係数決定ステップにおいて決定した「係数w1〜wN」を、前述した(2式)に代入して、計測している被測定物の将来予測曲線を決定する予測曲線決定ステップとを行うことを特徴とする容器壁状態の管理装置。
【請求項3】
内壁表面と外壁表面とで温度差を有すると共に、時間経過に伴って温度が変化する熱履歴情報、及び前記熱履歴情報が得られた際の厚み情報が既知である容器における各領域の将来温度を推定して容器壁状態を管理するためのコンピュータプログラムであって、
サーモグラフィによって計測される、前記容器の外壁表面に設定した解析エリアを分割した各領域の温度と、前記解析エリアの平均温度との差であるサーマルコントラストを算出するサーマルコントラスト算出処理と、
前記サーマルコントラスト算出処理で算出される前記各領域でのサーマルコントラストのピーク時間を、短い計測時間から全体の温度変化を推定して求めるピーク時間取得処理と、
前記ピーク時間取得処理で求められる前記各領域でのサーマルコントラストのピーク時間に基づいて、前記解析エリアにおけるサーマルコントラストのピーク時間分布を求めるピーク時間分布取得処理とをコンピュータに実行させ、
前記短い計測時間から全体の温度変化を推定して求めるピーク時間取得処理が、前記計測する領域における容器の厚みを増減させて、複数の厚みに対する熱履歴を熱履歴計算手段により計算する熱履歴計算ステップと、
前記既知である被測定物の厚み、及びその厚みに前後する前記計算上設定した厚みに対して、それぞれ、前記各領域の温度と前記解析エリアの平均温度との差であるサーマルコントラストφiを、「φi=Ti―T0 1≦i≦N」から計算するサーマルコントラスト計算ステップと、
前記サーマルコントラスト計算ステップにおいて計算した複数のサーマルコントラストφiを基底関数にして予測式「γ(t)」を、以下に示すように構成する予測式構成ステップと、
【数5】
(但し、Nは基底関数φiの個数、iはそのインデックス、wiはN個の基底関数を使って予測式γ(t)を記述する際の基底関数φiの重み係数、tは任意の時間を示す。)
前記予測式構成ステップにおいて構成した予測式「γ(t)」における「係数wi」を、以下の式を用いて決定する係数決定ステップと、
【数6】
(但し、dはサーマルコントラスト実測値、mはサーマルコントラストの実測値の個数を示す。)
前記係数決定ステップにおいて決定した「係数w1〜wN」を、前述した(2式)に代入して、計測している被測定物の将来予測曲線を決定する予測曲線決定ステップとを有することを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項1】
内壁表面と外壁表面とで温度差を有すると共に、時間経過に伴って温度が変化する熱履歴情報、及び前記熱履歴情報が得られた際の厚み情報が既知である容器における各領域の将来温度を推定して容器壁状態を管理する容器壁状態の管理方法であって、
前記容器の外壁表面に設定した解析エリアを分割した各領域の温度をサーモグラフィによって計測する手順と、
前記各領域の温度と前記解析エリアの平均温度との差であるサーマルコントラストを算出するサーマルコントラスト算出手順と、
前記サーマルコントラスト算出手順で算出される前記各領域でのサーマルコントラストのピーク時間を、短い計測時間から全体の温度変化を推定して求めるピーク時間取得手順と、
前記ピーク時間取得手順で求められる前記各領域でのサーマルコントラストのピーク時間に基づいて、前記解析エリアにおけるサーマルコントラストのピーク時間分布を求めるピーク時間分布取得手順とを有し、
前記短い計測時間から全体の温度変化を推定して求めるピーク時間取得手順が、前記計測する領域における容器の厚みを増減させて、複数の厚みに対する熱履歴を熱履歴計算手段により計算する熱履歴計算ステップと、
前記既知である被測定物の厚み、及びその厚みに前後する前記計算上設定した厚みに対して、それぞれ、前記各領域の温度と前記解析エリアの平均温度との差であるサーマルコントラストφiを、「φi=Ti―T0 1≦i≦N」から計算するサーマルコントラスト計算ステップと、
前記サーマルコントラスト計算ステップにおいて計算した複数のサーマルコントラストφiを基底関数にして予測式「γ(t)」を、以下に示すように構成する予測式構成ステップと、
【数1】
(但し、Nは基底関数φiの個数、iはそのインデックス、wiはN個の基底関数を使って予測式γ(t)を記述する際の基底関数φiの重み係数、tは任意の時間を示す。)
前記予測式構成ステップにおいて構成した予測式「γ(t)」における「係数wi」を、以下の式を用いて決定する係数決定ステップと、
【数2】
(但し、dはサーマルコントラスト実測値、mはサーマルコントラストの実測値の個数を示す。)
前記係数決定ステップにおいて決定した「係数w1〜wN」を、前述した(2式)に代入して、計測している被測定物の将来予測曲線を決定する予測曲線決定ステップとを備えることを特徴とする容器壁状態の管理方法。
【請求項2】
内壁表面と外壁表面とで温度差を有すると共に、時間経過に伴って温度が変化する熱履歴情報、及び前記熱履歴情報が得られた際の厚み情報が既知である容器における各領域の将来温度を推定して容器壁状態を管理する容器壁状態の管理装置であって、
サーモグラフィによって計測される、前記容器の外壁表面に設定した解析エリアを分割
した各領域の温度と、前記解析エリアの平均温度との差であるサーマルコントラストを算出するサーマルコントラスト算出手段と、
前記サーマルコントラスト算出手段で算出される前記各領域でのサーマルコントラストのピーク時間を、短い計測時間から全体の温度変化を推定して求めるピーク時間取得手段と、
前記ピーク時間取得手段で求められる前記各領域でのサーマルコントラストのピーク時間に基づいて、前記解析エリアにおけるサーマルコントラストのピーク時間分布を求めるピーク時間分布取得手段とを有し、
前記短い計測時間から全体の温度変化を推定して求めるピーク時間取得手段が、前記計測する領域における容器の厚みを増減させて、複数の厚みに対する熱履歴を熱履歴計算手段により計算する熱履歴計算ステップと、
前記既知である被測定物の厚み、及びその厚みに前後する前記計算上設定した厚みに対して、それぞれ、前記各領域の温度と前記解析エリアの平均温度との差であるサーマルコントラストφiを、「φi=Ti―T0 1≦i≦N」から計算するサーマルコントラスト計算ステップと、
前記サーマルコントラスト計算ステップにおいて計算した複数のサーマルコントラストφiを基底関数にして予測式「γ(t)」を、以下に示すように構成する予測式構成ステップと、
【数3】
(但し、Nは基底関数φiの個数、iはそのインデックス、wiはN個の基底関数を使って予測式γ(t)を記述する際の基底関数φiの重み係数、tは任意の時間を示す。)
前記予測式構成ステップにおいて構成した予測式「γ(t)」における「係数wi」を、以下の式を用いて決定する係数決定ステップと、
【数4】
(但し、dはサーマルコントラスト実測値、mはサーマルコントラストの実測値の個数を示す。)
前記係数決定ステップにおいて決定した「係数w1〜wN」を、前述した(2式)に代入して、計測している被測定物の将来予測曲線を決定する予測曲線決定ステップとを行うことを特徴とする容器壁状態の管理装置。
【請求項3】
内壁表面と外壁表面とで温度差を有すると共に、時間経過に伴って温度が変化する熱履歴情報、及び前記熱履歴情報が得られた際の厚み情報が既知である容器における各領域の将来温度を推定して容器壁状態を管理するためのコンピュータプログラムであって、
サーモグラフィによって計測される、前記容器の外壁表面に設定した解析エリアを分割した各領域の温度と、前記解析エリアの平均温度との差であるサーマルコントラストを算出するサーマルコントラスト算出処理と、
前記サーマルコントラスト算出処理で算出される前記各領域でのサーマルコントラストのピーク時間を、短い計測時間から全体の温度変化を推定して求めるピーク時間取得処理と、
前記ピーク時間取得処理で求められる前記各領域でのサーマルコントラストのピーク時間に基づいて、前記解析エリアにおけるサーマルコントラストのピーク時間分布を求めるピーク時間分布取得処理とをコンピュータに実行させ、
前記短い計測時間から全体の温度変化を推定して求めるピーク時間取得処理が、前記計測する領域における容器の厚みを増減させて、複数の厚みに対する熱履歴を熱履歴計算手段により計算する熱履歴計算ステップと、
前記既知である被測定物の厚み、及びその厚みに前後する前記計算上設定した厚みに対して、それぞれ、前記各領域の温度と前記解析エリアの平均温度との差であるサーマルコントラストφiを、「φi=Ti―T0 1≦i≦N」から計算するサーマルコントラスト計算ステップと、
前記サーマルコントラスト計算ステップにおいて計算した複数のサーマルコントラストφiを基底関数にして予測式「γ(t)」を、以下に示すように構成する予測式構成ステップと、
【数5】
(但し、Nは基底関数φiの個数、iはそのインデックス、wiはN個の基底関数を使って予測式γ(t)を記述する際の基底関数φiの重み係数、tは任意の時間を示す。)
前記予測式構成ステップにおいて構成した予測式「γ(t)」における「係数wi」を、以下の式を用いて決定する係数決定ステップと、
【数6】
(但し、dはサーマルコントラスト実測値、mはサーマルコントラストの実測値の個数を示す。)
前記係数決定ステップにおいて決定した「係数w1〜wN」を、前述した(2式)に代入して、計測している被測定物の将来予測曲線を決定する予測曲線決定ステップとを有することを特徴とするコンピュータプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
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【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【公開番号】特開2009−198225(P2009−198225A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−37965(P2008−37965)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「エネルギー使用合理化技術戦略的開発 エネルギー有効利用基盤技術先導研究開発 固定エネルギー削減のための非定常伝熱逆問題センシング技術の研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条に規定する適用を受ける特許出願)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「エネルギー使用合理化技術戦略的開発 エネルギー有効利用基盤技術先導研究開発 固定エネルギー削減のための非定常伝熱逆問題センシング技術の研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条に規定する適用を受ける特許出願)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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