説明

容器構造物の更新方法

【課題】既設の容器構造物の周囲に余剰スペースが存在しない場合においても、既設の1槽からなる容器構造物を2槽化することによりこれを更新する。
【解決手段】既設の1槽からなる容器構造物2を2槽化する際において、既設の容器構造物2の底面から柱材33を複数本に亘り立設するとともに、その柱材33の上端に架設した梁材37を基礎にして上段貯水槽3を構築する上段構築工程と、梁材33より下位に下段貯水槽4を構築する下段構築工程とを有し、給水及び排水を必要に応じて随時実行することによる貯水槽としての機能を、上段構築工程では既設の容器構造物2に担わせ、下段構築工程では上段貯水槽3に担わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は上水道、工業用水、農業用水等を貯水するための既設の1槽からなる容器構造物を貯水機能を停止することなく2槽化する容器構造物の更新方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、老朽化した上水道、工業用水等を貯水するための既設の1槽からなる容器構造物を更新する場合、通常は貯水槽の使用を中断することができないため、老朽化した既設容器構造物に対して給水及び排水を必要に応じて随時実行することによる貯水槽としての機能を担わせつつ、その近傍に新設の容器構造物を築造していた。そして、完成したこの新設の容器構造物に対して貯水槽としての機能を担わせた後に、老朽化した既設容器構造物を取り壊していた。
【0003】
しかしながら、かかる従来における容器構造物の更新方法では、既設容器構造物とは別の場所に新設容器構造物を設けるため広大な用地が必要となるという問題点があった。また、特に新設の容器構造物を設置する場所の地盤を強化する等の工事をともなうため施工期間が長くなり、施工コストが上昇してしまうという問題点があった。
【0004】
このため、近年において例えば特許文献1に示す、既設貯水槽の不断水更新工法が提案されている。この工法では、平面形状が既設の貯水槽に収容可能な新設貯水槽を既設貯水槽外の近傍で製作し、既設貯水槽内に存在する貯溜水の浮力を利用して新設貯水槽を既設貯水槽内に挿入設置する。しかしかかる工法では、周囲に新設貯水槽を製作するための用地が必要となるという問題点があった。
【0005】
このように従来では、更新対象の既設の容器構造物周囲に仮設容器構造物や新設容器構造物を製作するための十分な用地があれば問題は無いが、逆にこれらを製作するために十分な用地が無い場合には、容器構造物の更新を行うことができないという問題点があった。特に既設容器構造物の更新を行うことができない場合には、これを更新することを断念し、新たに用地を確保して容器構造物を新設しなければならず、不経済となっていた。
【0006】
このため、既設容器構造物の更新を、特に周囲に十分な製作用地が無い場合においても実現できる方法が望まれていた。
【0007】
また、特許文献2、3では、特に既設の容器構造物の周囲に新設の容器構造物を増設することによる2槽化を行う技術が開示されている。これら2槽化を伴う更新方法により貯水槽としての機能を完全に停止させることなく更新工事を行うことは可能であるが、既設の容器構造物の周囲に新設の容器構造物を増設するためのスペースが必要になるという問題点があった。仮に既設の容器構造物の周囲に余剰スペースが存在しない場合には、既設容器構造物内を2槽化せざるを得なくなる。また、かかる特許文献2、3の開示技術において、既設容器構造物の周囲に余剰スペースが存在しない場合には、当然のことながら仮設の容器構造物を設置することもできず、結局のところ貯水槽としての機能を一時的に停止した上で施工しなければならなくなるという問題点があった。
【特許文献1】特開2001−152694号公報
【特許文献2】特開2001−317089号公報
【特許文献3】特開2000−336706号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、既設の容器構造物の周囲に余剰スペースが存在しない場合においても、既設の1槽からなる容器構造物を貯水機能を維持しつつ2槽化する容器構造物の更新方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の容器構造物の更新方法は、上述した課題を解決するために、既設の1槽からなる容器構造物を2槽化する容器構造物の更新方法において、既設の容器構造物の底面から柱材を複数本に亘り立設するとともに、その柱材の上端に架設した梁材を基礎にして上段貯水槽を構築する上段構築工程と、上記梁材より下位に下段貯水槽を構築する下段構築工程とを有し、給水及び排水を必要に応じて随時実行することによる貯水槽としての機能を、上記上段構築工程では既設の容器構造物に担わせ、上記下段構築工程では上記上段貯水槽に担わせることを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の容器構造物の更新方法は、請求項1記載の発明において、上記下段構築工程では、上記梁材より下位の上記容器構造物の側壁に作業用開口を設け、当該作業用開口を通じて搬入した資材により下段貯水槽を構築し、その後当該開口を閉塞することを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の容器構造物の更新方法は、請求項1記載の発明において、上記上段構築工程では、上記既設の容器構造物より小径からなる上段貯水槽を構築し、また上記梁材に床板を架設することによる中間床版を構築するとともに、当該中間床版において上記上段貯水槽より外側に作業用開口を設け、上記下段構築工程では、上記作業用開口を通じて搬入した資材により下段貯水槽を構築し、その後当該開口を閉塞することを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の容器構造物の更新方法は、請求項1〜3のうち何れか1項記載の発明において、上記上段構築工程では、上記既設の容器構造物内に貯留された水に、上記柱材に取り付けられた浮体で浮かせることにより、当該柱材を所定の立設位置まで搬送することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
上述した構成からなる本発明によれば、上段構築工程では、給水及び排水を必要に応じて随時実行することによる貯水槽としての機能を既設の容器構造物に担わせ、下段構築工程では、給水及び排水を必要に応じて随時実行することによる貯水槽としての機能を上段貯水槽に担わせる。このため、施工開始から施工完了までに、貯水槽としての機能を維持しつつ、これを継続させながら更新工事を行うことが可能となる。
【0014】
また、既設容器構造物とは別の場所に新設容器構造物を設けるため広大な用地が必要とならず、新設の容器構造物を設置する場所の地盤を強化する等の工事も必要なくなり、施工コストを低減させることが可能となる。また、新設容器構造物を設けるための十分な用地が無い場合であっても容器構造物の更新を行うことができ、従来のように更新を断念し、新たに用地を確保して容器構造物を新設する必要も無くなる点においても経済的となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態として、既設の1槽からなる容器構造物を2槽化する容器構造物の更新方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
図2(a)は、既設の容器構造物2を示している。この容器構造物2には、図示しない給水口及び排水口が設けられ、必要に応じて給水、排水を随時実行することによる貯水槽と
しての機能を担うものである。
【0017】
容器構造物2は、略円形で構成された底版21の周囲に側壁22が立設された円筒状で構成されており、その上端には既設人孔25が形成されている既設屋根23が取り付けられている。また、この円筒状の容器構造物2の下端は地中に埋設されており、底版21は地表の高さよりも低い。この図2(a)において、内部に貯水されている水の水位は側壁22の上端付近に位置している場合を例に挙げているが、これに限定されるものではない。
【0018】
このような構成からなる既設の1槽からなる容器構造物2に対して、本発明を適用した容器構造物の更新方法では、これを2槽化することによる更新工事を行う。この発明を実施する過程では、給水及び排水を必要に応じて随時実行することによる貯水槽としての機能を停止させることなく施工を行う。
【0019】
以下、本発明を適用した容器構造物の更新方法について、図1のフローチャートに基づいて説明をする。
【0020】
先ず、ステップS11に示すように、容器構造物2内の清掃を行う。このステップS11における清掃は、水中作業による濁水を極力抑えることを目的としたものである。ちなみに、この容器構造物2内の水位が、実際の作業を行う上で支障になる場合には、図2(b)に示すように水位を低減させる。
【0021】
次にステップS12へ移行し、後述する作業用開口を設置するための支保工を設置する。このとき、図2(c)に示すように、既設屋根23に形成された既設人孔25を通じて、支保工材26を投入する。実際には、クレーン27により支保工材26を吊り下ろすようにしてもよい。この吊り下ろされた支保工材26は、底版21から上方へ向けて組み立てられる。この組立て作業は、ダイバーが潜水することにより行われることになる。なお、この支保工材26は、実際に水中で組み立てられる前に消毒されていることが望ましい。この支保工材を組み上げることにより構築された支保工29は、既設人孔25付近の高さまで組み上げられることになる。
【0022】
次にステップS13へ移行し、図3(a)に示すように、養生並びに作業用開口30の設置を行う。この養生は、養生シート31を支保工29から作業用開口30に至るまで張設することにより、支保工29上の作業空間を水面に対して遮るようにする。ちなみに、作業用開口30の設置は、既設人孔25を拡径することにより、比較的大きい部材も投入可能なサイズとする。この既設人孔25を拡径する作業を行う上で、上述した養生シート31の存在により、水中にゴミ等が落下してしまうのを防止することが可能となる。このステップS13における作業用開口30の設置まで終了させた後、養生シート31並びに支保工29を撤去する。
【0023】
次にステップS14へ移行し、図3(b)に示すように、既設の容器構造物2の底版21から柱材33を複数本に亘り立設する。かかる工程においては、クレーン27により作業用開口30を通じて柱材33を吊り下ろす。この柱材33には予め浮体36が取り付けられている。このため、水が貯留された容器構造物2内に柱材33を下ろすと、浮体36によりこれを浮かせることが可能となる。ちなみに、この浮体36としては、例えば空気を封入したビニル製のチューブ等で構成するようにしてもよい。次にこの浮体36により浮かせた柱材33を所定の立設位置まで搬送する。そしてダイバーが水中において、搬送した柱材33を底版21にメカニカルアンカーボルトにより固定し、これを立設する。この次に柱材33の上端に梁材37を架設する。この架設作業は、柱材33と、梁材37との間でボルト接合することにより行う。
【0024】
このようにして、柱材33の立設と、梁材37の架設とを交互に繰り返しながら実行していく。なお、浮体36を利用しない水中施工手段がある場合には、それに代替させることにより、浮体36の柱材33に対する取り付けを省略することも可能となる。
【0025】
ステップS14において構築された、柱材33と梁材37による骨組みの平面図を図12に示す。柱材33は、容器構造物2の中心に1本立設され、その周囲に一定間隔をおいて立設されている。また、この柱材33の上端間において梁材37が架設されている。ちなみに、この梁材37は、一端が他の梁材37に対して架設されるものであってもよい。また、この梁材37間を更に小梁38が架設されていてもよい。なお、上述した図12の柱材33並びに梁材37の配置例に限定されることなく、いかなる配置を採用するようにしてもよい。
【0026】
次にステップS15へ移行し、図3(c)に示すように、水位を梁材37よりも下位まで低下させる。そして、この梁材37について溶接に支障が生じない程度まで乾燥させた後、後述する上段貯水槽の床板を架設することによる中間床版40を構築する。この中間床版40を構成する鋼製の床板は、底面において敷き並べた上で、溶接接合により固定する。
【0027】
次にステップS16へ移行し、図4(a)に示すように梁材37と側壁22との間の隙間を埋めるための養生41を施す。これにより、以降の作業において、下段に貯水されている水に作業ゴミが落下するのを防止することが可能となる。次に、梁材37を基礎として足場43を構築していく。この足場43は、既設屋根23に至るまで構築することにより、これを支持可能とする。次に、既設屋根23をカッター等により切断するとともに、これをクレーン27により吊り降ろして撤去する。このステップS16では、この既設屋根23を全て撤去するまで上述した作業を繰り返し実行していくことになる。
【0028】
次にステップS17へ移行し、図4(b)に示すように、上段貯水槽を構成する側板44を設置していく。この側板44は、側壁22よりも100〜200mm内側に離間した位置において、当該側壁22に沿って断面略円形となるように取り付けられることになる。この側板44は、中間床版40に対して溶接接合により組み立てられる。側板44の構築を完了させた後、ステップS18へ移行する。
【0029】
ステップS18では、図4(c)に示すように、上段貯水槽3を構成する屋根45をクレーン27により取り付ける。この屋根45は、既設の容器構造物2における既設屋根23よりも高さが高くなる場合には、足場43を上方に継ぎ足した上で、設置作業を行うことになる。この新設の屋根45は、互いに溶接により接合することにより、側板44を架設するようにして設けられる。屋根45の構築を終了した段階で、上段貯水槽3の完成となる。この上段貯水槽3は、既設の容器構造物2とは独立した単独の貯水槽としての役割を担うことになることから、このステップS18の終了時において、槽として利用できるか否かの一通りの検査を行うことになる。
【0030】
なお、ここまでのステップS11〜ステップS18までの上段構築工程では、給水及び排水を必要に応じて随時実行することによる貯水槽としての機能を既設の容器構造物2に担わせる。具体的には、既設の容器構造物2を構成する底版21、側壁22で囲まれる円筒状の凹部に貯水させることになる。
【0031】
しかし、次にステップS19へ移行した後、この貯水槽としての機能は上段貯水槽3に担わせることになる。具体的には、図5(a)に示すように、上段貯水槽3に対して給水及び排水を必要に応じて随時実行し、既設の容器構造物2に貯水されている貯留水を抜くことになる。
【0032】
次にステップS20へ移行し、図5(b)に示すように、側壁22に作業用開口47を設ける。この作業用開口47の位置は、梁材37より下位の側壁22の一部とされる。作業用開口47は、下段貯水槽4を構築するためのいわゆる資材投入用の開口となる。
【0033】
次にステップS21へ移行し、図5(c)に示すように、当該作業用開口47から内部へと搬入した資材により、底版21上にモルタルを敷き均すことにより不陸調整を行い、更にこの底版21上に、下段貯水槽4の床版となる底板49を敷き並べてこれらを互いに溶接接合する。
【0034】
次に、ステップS22へ移行し、図6(a)に示すように、下段貯水槽4の側板50を設ける。この側板50は、側壁22よりも100〜200mm内側に離間した位置において、当該側壁22に沿って断面略円形となるように取り付けられることになる。この側板50は、下段貯水槽4の床版となる底板49に対して溶接接合により固定される。側板50を構築する最終段階において図6(b)に示すように、作業用開口47を閉塞する。その結果、この下段貯水槽4内を密閉構造とすることが可能となる。
【0035】
次にステップS23へ移行し、図7(a)に示すように、側板50、側板44と、側壁22との間隙においてエアーモルタル51を充填する。このエアーモルタル51は、側板44、50を構成する鋼板裏面の防食を期待するのと、これら側板44、50と既設の側壁22との一体化を期待したものである。ちなみに、既設の側壁22を撤去する場合には、このステップS23を省略するようにしてもよい。このステップS23を終了した段階において、下段貯水槽4の完成となる。この下段貯水槽4も独立した単独の貯水槽としての役割を担うことになることから、ステップS24において、槽として利用できるか否かの一通りの検査を行うことになる。このステップS24の検査合格後、実際に下段貯水槽4にも貯水をした例を図7(b)に示す。2槽化された上段貯水槽3並びに下段貯水槽4の双方に貯水機能を担わせたものである。
【0036】
ここでステップS19〜ステップS23を下段構築工程としたとき、この下段構築工程では、給水及び排水を必要に応じて随時実行することによる貯水槽としての機能を上段貯水槽3に担わせる。
【0037】
このように、本発明を適用した容器構造物の更新方法では、既設容器構造物とは別の場所に新設容器構造物を設けるため広大な用地が必要とならず、新設の容器構造物を設置する場所の地盤を強化する等の工事も必要なくなり、施工コストを低減させることが可能となる。また、新設容器構造物を設けるための十分な用地が無い場合であっても容器構造物の更新を行うことができ、従来のように更新を断念し、新たに用地を確保して容器構造物を新設する必要も無くなる点においても経済的となる。
【0038】
また本発明は、既設の容器構造物の周囲に余剰スペースが存在しない場合においても、かかる既設の1槽からなる容器構造物を2槽化することによりこれを更新することが可能となる点に加え、以下に説明するような効果がある。
【0039】
本発明では、ステップS11〜ステップS18までの上段構築工程では、給水及び排水を必要に応じて随時実行することによる貯水槽としての機能を既設の容器構造物2に担わせ、ステップS19〜ステップS23を下段構築工程としたとき、この下段構築工程では、給水及び排水を必要に応じて随時実行することによる貯水槽としての機能を上段貯水槽3に担わせる。このため、ステップS11からステップS23に至るまでに、貯水槽としての機能を維持しつつ、これを継続させながら更新工事を行うことが可能となる。
【0040】
また本発明では、更新部位を、屋根のみ、又は側壁のみといった個別部位に限定されることなく、床版を含めた容器構造物全体を更新することが可能となる。
【0041】
更に本発明では、特にステップS14において、浮体36により浮かせた柱材33を所定の立設位置まで搬送することが可能となり、貯水機能を継続させながら、逆にその貯水を搬送手段として利用することが可能となり、搬送機能をも向上させることが可能となる。
【0042】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではない。例えば図8に示すようなフローチャートに基づいて、施工を実施するようにしてもよい。この図8のフローチャートにおいて、上述した図1のフローチャートのステップS11〜S16は共通するため、かかるステップの説明を引用することにより以下での説明を省略する。
【0043】
ステップS16において既設屋根23を撤去後、ステップS27へ移行し、図9(a)に示すように、上段貯水槽を構成する側板44を設置していく。この側板44は、側壁22よりも1.5〜2.0m内側に離間した位置において、当該側壁22に沿って断面略円形となるように取り付けられることになる。この側板44は、中間床版40に対して溶接接合により組み立てられる。また、このステップS28では、中間床版40に対して作業用開口55を設ける。この作業用開口55は、下段貯水槽4を構築するためのいわゆる資材投入用の開口である。この作業用開口55は、上段貯水槽3より外側に設置される。なお、この作業用開口55に加えて更に作業員が出入りするための人孔56を設けるようにしてもよい。
【0044】
ステップS28では、図9(b)に示すように、上段貯水槽3を構成する屋根45をクレーン27により取り付ける。この屋根45は、既設の容器構造物2における既設屋根23よりも高さが高くなる場合には、足場43を上方に継ぎ足した上で、設置作業を行うことになる。この新設の屋根45は、互いに溶接により接合することにより、側板44を架設するようにして設けられる。屋根45の構築を終了した段階で、上段貯水槽3の完成となる。この上段貯水槽3は、既設の容器構造物2の内径よりも3〜4m小さい径からなる。その結果、上述した作業用開口55を設けるためのスペースを確保することが可能となる。この上段貯水槽3は、既設の容器構造物2とは独立した単独の貯水槽としての役割を担うことになることから、このステップS28の終了時において、槽として利用できるか否かの一通りの検査を行うことになる。
【0045】
なお、ここまでのステップS11〜ステップS28までの上段構築工程では、給水及び排水を必要に応じて随時実行することによる貯水槽としての機能を既設の容器構造物2に担わせる。具体的には、既設の容器構造物2を構成する底版21、側壁22で囲まれる円筒状の凹部に貯水させることになる。
【0046】
しかし、次にステップS29へ移行した後、この貯水槽としての機能は上段貯水槽3に担わせることになる。具体的には、図9(c)に示すように、上段貯水槽3に対して給水及び排水を必要に応じて随時実行し、既設の容器構造物2に貯水されている貯留水を抜くことになる。
【0047】
次にステップS30へ移行し、図10(a)に示すように、当該作業用開口55から内部へと搬入した資材により、底版21上にモルタルを敷き均すことにより不陸調整を行い、更にこの底版21上に、下段貯水槽4の床版となる底板49を敷き並べてこれらを互いに溶接接合する。
【0048】
次に、ステップS31へ移行し、図10(b)に示すように、下段貯水槽4の側板50を
設ける。この側板50は、側壁22よりも100〜200mm内側に離間した位置において、当該側壁22に沿って断面略円形となるように取り付けられることになる。この側板50は、下段貯水槽4の床版となる底板49に対して溶接接合により固定される。この側板50の上端と、中間床版40とを溶接接合することにより下段貯水槽4を密閉構造とすることが可能となる。
【0049】
次にステップS32へ移行し、図11(a)に示すように、側板50、側板44と、側壁22との間隙においてエアーモルタル51を充填する。このエアーモルタル51は、側板44、50を構成する鋼板裏面の防食を期待するのと、これら側板44、50と既設の側壁22との一体化を期待したものである。ちなみに、既設の側壁22を撤去する場合には、このステップS32を省略するようにしてもよい。このステップS32を終了した段階において、下段貯水槽4の完成となる。この下段貯水槽4も独立した単独の貯水槽としての役割を担うことになることから、ステップS33において、槽として利用できるか否かの一通りの検査を行うことになる。このステップS33の検査合格後、実際に下段貯水槽4にも貯水をした例を図11(b)に示す。2槽化された上段貯水槽3並びに下段貯水槽4の双方に貯水機能を担わせたものである。
【0050】
ここでステップS29〜ステップS32を下段構築工程としたとき、この下段構築工程では、給水及び排水を必要に応じて随時実行することによる貯水槽としての機能を上段貯水槽3に担わせる。
【0051】
この図8に示すフローチャートに示す容器構造物の更新方法においても同様に、既設容器構造物とは別の場所に新設容器構造物を設けるため広大な用地が必要とならず、新設の容器構造物を設置する場所の地盤を強化する等の工事も必要なくなり、施工コストを低減させることが可能となる。また、給水及び排水を必要に応じて随時実行することによる貯水槽としての機能を停止させることなく、これを継続させながら更新工事を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明を適用した容器構造物の更新方法について説明するためのフローチャートである。
【図2】図1に示すフローチャートのステップS11〜S12について説明するための図である。
【図3】図1に示すフローチャートのステップS13〜S15について説明するための図である。
【図4】図1に示すフローチャートのステップS16〜S18について説明するための図である。
【図5】図1に示すフローチャートのステップS19〜S21について説明するための図である。
【図6】図1に示すフローチャートのステップS22について説明するための図である。
【図7】図1に示すフローチャートのステップS23〜S24について説明するための図である。
【図8】本発明を適用した容器構造物の更新方法について説明するための他のフローチャートである。
【図9】図9に示すフローチャートのステップS27〜S29について説明するための図である。
【図10】図9に示すフローチャートのステップS30〜S31について説明するための図である。
【図11】図9に示すフローチャートのステップS32〜S33について説明するための図である。
【図12】柱材と梁材による骨組みの平面図を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
2 容器構造物
3 上段貯水槽
4 下段貯水槽
21 底版
22 側壁
23 既設屋根
25 既設人孔
26 支保工材
27 クレーン
29 支保工
30 作業用開口
31 養生シート
33 柱材
36 浮体
37 梁材
40 中間床版
41 養生
43 足場
44 側板
45 屋根
47 作業用開口(側壁部)
49 底板
50 側板
51 モルタル
55 作業用開口(中間床版部)
56 人孔(中間床版部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設の1槽からなる容器構造物を貯水機能を維持しつつ上下に2槽化する容器構造物の更新方法において、
既設の容器構造物の底面から柱材を複数本に亘り立設するとともに、その柱材の上端に架設した梁材を基礎にして上段貯水槽を構築する上段構築工程と、
上記梁材より下位に下段貯水槽を構築する下段構築工程とを有し、
給水及び排水を必要に応じて随時実行することによる貯水槽としての機能を、上記上段構築工程では既設の容器構造物に担わせ、上記下段構築工程では上記上段貯水槽に担わせること
を特徴とする容器構造物の更新方法。
【請求項2】
上記下段構築工程では、上記梁材より下位の上記容器構造物の側壁に作業用開口を設け、当該作業用開口を通じて搬入した資材により下段貯水槽を構築し、その後当該開口を閉塞すること
を特徴とする請求項1記載の容器構造物の更新方法。
【請求項3】
上記上段構築工程では、上記既設の容器構造物より小径からなる上段貯水槽を構築し、また上記梁材に床板を架設することによる中間床板を構築するとともに、当該中間床板において上記上段貯水槽より外側に作業用開口を設け、
上記下段構築工程では、上記作業用開口を通じて搬入した資材により下段貯水槽を構築し、その後当該開口を閉塞すること
を特徴とする請求項1記載の容器構造物の更新方法。
【請求項4】
上記上段構築工程では、上記既設の容器構造物内に貯留された水に、上記柱材に取り付けられた浮体で浮かせることにより、当該柱材を所定の立設位置まで搬送すること
を特徴とする請求項1〜3のうち何れか1項記載の容器構造物の更新方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−70964(P2010−70964A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−238777(P2008−238777)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(500171811)日鉄パイプライン株式会社 (34)
【Fターム(参考)】