説明

容器注ぎ出し動作の負担推定方法及び容器本体の製造方法

【課題】本発明の目的は、容器本体を持ち上げ、続いて容器本体を傾ける一連の注ぎ出し動作における身体負担を客観的かつ定量的に評価することを可能とすることである。
【解決手段】本発明に係る容器注ぎ出し動作の負担推定方法は、容器本体の胴部を把持して持ち上げ、続いて容器本体を傾ける一連の注ぎ出し動作がなされたときの負担感に関係する動作筋の最大随意当尺性収縮時の筋電位情報を取得する工程と、前記注ぎ出し動作がなされたときの前記動作筋の筋電位情報を取得する工程と、数1で表される最大筋力比を算出する工程と、を有し、前記最大筋力比の値に基づいて注ぎ出し動作における負担を定量評価することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器本体を把持して持ち上げ、続いて容器本体を傾ける一連の動作(以下、注ぎ出し動作ともいう)を伴う容器全般について、この動作時に消費者にかかる負担の度合いを定量的に評価し、消費者の主観としてどの程度の負担と感じるかを推測する技術及びその技術を利用した容器本体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、容器を評価する方法は官能評価であり、数多くの被験者が開発した試作品と従来品とについて、注ぎ出し動作をしてもらい、その使用感を5段階乃至7段階で点数付けして、それらを集計して相対的に評価していた。
【0003】
ところで、容器の開栓性について骨格筋の筋電位を測定し、容器開栓動作における負担を評価する技術の開示がある(例えば特許文献1を参照。)。特許文献1の技術に拠れば、容器の開栓性について客観的かつ定量的に評価することができるとしている。
【0004】
その他同様に、筋負担を測定する技術の開示がある(例えば特許文献2〜4を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009‐56040号公報
【特許文献2】特開2004‐275214号公報
【特許文献3】特開2006‐75200号公報
【特許文献4】特開2004‐344356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された容器の開栓性を評価する方法によれば、開栓性について客観的かつ定量的に評価することができるものの、近年普及が著しいペットボトルの注ぎ易さについては評価できない。ペットボトルは様々な機能設計を重視したものが増加しているが、一方でユーザビリティに関する不満もある。例えば、容器がやわらかく、持つときに落としそうになる、くぼみや指に引っ掛る箇所がないと持ちにくい、片手では持ちにくく、こぼしやすいなどである。特に、1.5リットルから2リットルサイズの大型ペットボトルの場合が顕著である。
【0007】
しかし、ペットボトルの注ぎ易さについて官能評価を行うとすると、数多くの被験者を集めて評価しなければならず、時間と労力がかかる。したがって、開発途中の段階においては官能評価に時間がかかりすぎるため、試作のたびに行うことは難しい。また、官能評価であると、客観的かつ定量的な結果が得られにくい。
【0008】
注ぎ出し動作における「やりやすさ」は容器把持部の形状・寸法(以下、設計要素という)によって変わるが、従来のインタビュー、アンケート調査方法では、どの設計要素がどの程度悪いのかが明らかにならない。そのため、容器の形状改良の方向性も明確になりにくい。
【0009】
そこで本発明の目的は、容器本体を持ち上げ、続いて容器本体を傾ける一連の注ぎ出し動作における身体負担を客観的かつ定量的に評価することを可能とすることである。これによって、開発品を消費者が実際にどのように主観的に評価するか推定することを可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、注ぎ出し動作を伴う容器を対象として、当該動作のときに働く動作筋を特定し、この動作筋の筋電位を利用して、容器注ぎ出し動作の負担の評価方法を確立した。すなわち、本発明に係る容器注ぎ出し動作の負担推定方法は、容器本体の胴部を把持して持ち上げ、続いて容器本体を傾ける一連の注ぎ出し動作がなされたときの負担感に関係する動作筋の最大随意当尺性収縮時の筋電位情報を取得する工程と、前記注ぎ出し動作がなされたときの前記動作筋の筋電位情報を取得する工程と、数1で表される最大筋力比を算出する工程と、を有し、前記最大筋力比の値に基づいて注ぎ出し動作における負担を定量評価することを特徴とする。
(数1)最大筋力比=注ぎ出し動作に伴う筋電位/最大随意当尺性収縮時の筋電位
【0011】
本発明に係る容器注ぎ出し動作の負担推定方法では、前記動作筋の筋電位情報は、前記容器本体の胴部を把持して持ち上げたときの筋電位情報と前記容器本体を傾けたときの筋電位情報とに分けて入手することが好ましい。注ぎ出し動作における負担感を各動作ごとに解析することができる。
【0012】
本発明に係る容器注ぎ出し動作の負担推定方法では、前記負担感に関係する動作筋は、持ち上げ動作の評価をするための動作筋として第1背側骨間筋、長母指外転筋、総指伸筋及び橈側手根伸筋から選択される少なくともいずれか一種を含み、かつ、容器本体を傾ける動作の評価をするための動作筋として第1背側骨間筋又は総指伸筋のいずれか一種及び浅指屈筋を含むことが好ましい。必要最小限の動作筋を選択し、簡易に評価することができる。
【0013】
本発明に係る容器注ぎ出し動作の負担推定方法では、前記負担感に関係する動作筋は、第1背側骨間筋、長母指外転筋、総指伸筋、橈側手根伸筋及び浅指屈筋を含むことが好ましい。注ぎ出し動作に関係する動作筋の情報を得て、詳細な評価・解析を行うことができる。
【0014】
本発明に係る容器本体の製造方法は、本発明に係る容器注ぎ出し動作の負担推定方法によって得られた、注ぎ出し動作における最大筋力比が0.5以下を満たすように容器本体の胴部形状を決定したことを特徴とする。本発明に係る容器注ぎ出し動作の負担推定方法によって得られた評価結果を用いて、注ぎ出しやすい容器本体を製造することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、注ぎ出し動作における身体負担を客観的かつ定量的に評価することができる。これによって、開発品を消費者が実際にどのように主観的に評価するか推定することを可能とすることである。このとき、官能評価のように数多くの被験者を集める必要がなく、身体的特徴(男女、手の大きさなど)の異なる特定の数名の被験者を集めた計測結果からでも十分に一連の注ぎ出し動作における身体負担を客観的かつ定量的に評価することができる。また、手間のかかる官能評価を行わずに済むので、評価に要する時間を短縮することができる。さらに、被験者母集団の境界に位置するような人、例えば母集団の中で手の大きな人、小さな人、握力の大きい人、小さい人などを選定し、これらの人のデータを取ることで、最も母集団に適した容器を推定することができる。さらに、負担の大きな筋が明らかとなるため、その負担を発生させている設計要素を特定することが容易となり、形状改良の方向性を論理的に明確にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】コップに注ぐ動作の分類であり、タイプ1〜4の4種類の動作に分けられる。
【図2】各筋の名称と位置を示す図である。
【図3】浅指屈筋の最大筋力比と筋負担に対する被験者の主観的評価との関係を示した。
【図4】図3における縦軸の被験者の主観的評価の数値の具体的基準を示す図である。
【図5】実施例1における主観的評価の結果を示した。
【図6】持ち上げ動作における最大筋力比(%MVC)を示した。
【図7】注ぎ動作における最大筋力比(%MVC)を示した。
【図8】実施例2で使用した2リットルボトルの形状を示す図であり、(a)はA型ボトルの正面図、(b)はA型ボトルのA‐A破断面図、(c)はB型ボトルの正面図、(d)はB型ボトルのA‐A破断面図である。
【図9】被験者6人のデータを平均した持ち上げ動作における主観的評価の結果を示した。
【図10】被験者6人のデータを平均した注ぎ動作における主観的評価の結果を示した。
【図11】被験者6人のデータを平均した持ち上げ動作における最大筋力比(%MVC)を示した。
【図12】被験者6人のデータを平均した注ぎ動作における最大筋力比(%MVC)を示した。
【図13】握力の弱い被験者の持ち上げ動作における主観的評価の結果を示した。
【図14】握力の弱い被験者の注ぎ動作における主観的評価の結果を示した。
【図15】握力の弱い被験者の持ち上げ動作における最大筋力比(%MVC)を示した。
【図16】握力の弱い被験者の注ぎ動作におけるに最大筋力比(%MVC)を示した
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下本発明について実施形態を示して詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0018】
(動作筋の特定)
まず、測定対象は2リットルポリエチレンテレフタレート製容器(ペットボトル)の本体を準備した。次に、20代の男女11名に動作の指示をせずに自由にコップに注いでもらい、現れる動作を観察した。注ぎ出す動作を上肢の各関節の動きで見ると次のとおりであった。
(1)把持する。つまり、母指の屈曲、内転及び第2〜5指の屈曲の動きである。
(2)持ち上げる。つまり、肘関節の屈曲、手関節の橈屈、伸展の動きである。
(3)コップに注ぐ。この動作は、図1に示すようにタイプ1〜4の4種類の動作に分けられた。
【0019】
前記(1)〜(3)の動作の中で働く動作筋のうち、筋電図を計測可能な筋を選定した。結果を表1に示した。手及び腕の骨格筋としては、図2(出典:森, 小川他,金原監修:分担解剖学1 総説・骨学・人体学・筋学,金原出版株式会社,1982)に示した筋がある。
【0020】
【表1】

【0021】
筋電図は筋電位の経過時間を横軸とし、筋電位を縦軸とするグラフである。筋肉は脳からの指令によって収縮を行うが、この指令は電気信号として伝わる。この電気信号を皮膚表面に固定した電極によって測定したものを筋電位という。筋電位は計測系だけでなく、筋肉量や皮膚の厚さ、負荷に対する筋活動の現れ方など、個人差が大きいため、最大随意当尺性収縮(以下、「MVC:maximum voluntary contraction」ともいう)時の筋電位を100%とする相対値(%MVC)を用いて比較すると個人差等の誤差を少なくすることができる。
【0022】
次に本実施形態に係る容器注ぎ出し動作の負担推定方法について説明する。本実施形態に係る容器注ぎ出し動作の負担推定方法は、少なくとも3つの工程、すなわち第1工程:動作筋の最大随意当尺性収縮時の筋電位情報の取得工程、第2工程:動作筋の筋電位情報の取得工程、第3工程:最大筋力比算出工程、である。以下、順に説明する。
【0023】
(動作筋の最大随意当尺性収縮時の筋電位情報の取得工程)
表1で示した動作筋についてそれぞれ最大随意当尺性収縮時の筋電位を求めた。筋電位の測定は、筋電計を用いて公知の方法、例えば手・腕の筋部位に電極を取り付け、筋電位を測定することで行う。
【0024】
(動作筋の筋電位情報の取得工程)
次に注ぎ出し動作がなされたときの動作筋の筋電位情報を取得する。筋電位の測定方法は、動作筋の最大随意当尺性収縮時の筋電位情報の取得する場合と同様である。
【0025】
最大随意当尺性収縮時の筋電位情報及び注ぎ出し動作時の筋電位情報の取得のときに測定の対象とする動作筋は、注ぎ出し動作時の負担感に関係する動作筋である。具体的には表1に示した動作筋である。そこで、簡易に評価を行う場合には、持ち上げ動作の評価をするための動作筋として第1背側骨間筋、長母指外転筋、総指伸筋及び橈側手根伸筋から選択される少なくともいずれか一種を選択する。そして、容器本体を傾ける動作(注ぎ動作)の評価をするための動作筋として第1背側骨間筋又は総指伸筋のいずれか一種及び浅指屈筋を選択する。このような動作筋を選択することによって、注ぎ出し動作を行うに際して、必ず、いずれかの動作筋を測定していることとなり、被験者の負担感を評価することが可能となる。
【0026】
一方、注ぎ出し動作の被験者の負担感を詳細に評価する場合には、表1に示した動作筋のうち、第1背側骨間筋、長母指外転筋、総指伸筋、橈側手根伸筋及び浅指屈筋を含むことが好ましい。さらに尺側手根伸筋を加えたすべての動作筋について測定することがより好ましい。各動作筋の負担感を相対的に比較することができる。
【0027】
(最大筋力比算出工程)
前記のとおり、筋電位を単に比較するのではなく、個人差等の測定値の変動要因を排除するために、最大随意当尺性収縮時の筋電位を100%とする相対値(%MVC)を用いて比較することとなる。%MVCは、最大筋力比であり、数1で求めることができる。
(数1)最大筋力比=注ぎ出し動作に伴う筋電位/最大随意当尺性収縮時の筋電位
【0028】
ここで、注ぎ出し動作に伴う筋電位は、筋電図を描いて測定することとなるため、注ぎ出し動作の進め方は、動作の間に静止時間を設けて進めることが好ましい。具体的な動作は例えば次のとおりである。2秒で持ち上げ、3秒静止、2秒で傾け、3秒停止する。容器1種につき、上記動作を8回試行し、筋電位を最大筋力比に換算し、平均する。このとき、筋電位は試行ごとに計測した筋電位を全波整流する。より具体的には、筋電位データを全波整流する。次に1kHzで計測した生データを離散フーリエ変換する。次に10〜250Hz以外の周波数成分をカットする。次に逆フーリエ変換する。この結果から、筋電位を求める。そして同様の方法にて求めておいた最大随意当尺性収縮時の筋電位でこの筋電位を除して、最大筋力比に換算する。
【0029】
以上の工程を経ることで、測定対象の容器について筋ごとに最大筋力比の値が算出される。さらに、他の形状を有する容器を同様に測定することで、同様に筋ごとに最大筋力比の値が算出される。そして、各容器について、筋ごとの最大筋力比を比較し、各容器の注ぎ出し動作のし易さを比較、定量化する。負担の大きな筋が明らかとなるため、その負担を発生させている設計要素を特定することが容易となり、形状改良の方向性を論理的に明確にすることができる。
【0030】
本実施形態に係る容器注ぎ出し動作の負担推定方法は、最大筋力比を指標として使用するため、個人間の差異が出にくい。よって、官能評価のように数多くの被験者を集める必要がなく、注ぎ出し動作における身体負担を客観的に評価することができ、また、最大筋力比という数値で表現できるため、定量的に把握できる。また、被験者として、身体的特徴(男女、手の大きさなど)の異なる特定の数名の被験者を集めて計測すれば、その身体的特徴を包含する被験者を想定して、注ぎ出し動作における身体負担を把握することが可能となる。被験者母集団の境界に位置するような人、例えば母集団の中で手の大きな人、小さな人、握力の大きい人、小さい人などを選定し、これらの人のデータを取ることで、最も母集団に適した容器を推定することができる。
【0031】
本実施形態に係る容器注ぎ出し動作の負担推定方法を活用すれば容器本体の設計が可能となる。例えば、本発明に係る容器注ぎ出し動作の負担推定方法によって得られた、注ぎ出し動作における最大筋力比が0.5以下(50%MVC以下)を満たすように容器本体の胴部形状を決定するという容器本体の製造方法である。
【0032】
本発明者らは、最大筋力比と筋負担に対する被験者の主観的評価(例えば楽である、やや楽である、ややきつい、きついなど)との関係を調べたところ、対数関数として対応可能であることを突き止めた。図3に浅指屈筋の最大筋力比と筋負担に対する被験者の主観的評価との関係を示す。図4に、図3における縦軸の被験者の主観的評価の数値の具体的基準(ボルグスケール)を示した。
【0033】
図3と図4から、筋電位の値の大小は個人差があるものの、最大筋力比を基準にすれば筋負担に対する被験者の主観的評価が被験者に拠らず統一されることがわかる。具体的には、浅指屈筋の動作の場合、最大筋力比が30%を超えると被験者がややきついと筋負担を感じはじめ、最大筋力比が50%を超えると被験者がきついと筋負担を感じはじめることがわかる。他の動作筋についても図3と同様の傾向が観察された。そこで、注ぎ出し動作における最大筋力比が0.5以下(50%MVC以下)を満たすように容器本体の胴部形状を決定すれば、被験者は負担感を感じにくくなる。より好ましくは最大筋力比が0.3以下(30%MVC以下)とする。このように決定することで、容器胴体を従来の官能評価を経ずして製造することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を示しながら本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定して解釈されない。
【0035】
(実施例1)
持ち方を変えることによって手のひらと容器本体との接触面積を変えて、注ぎ出し動作における被験者の負担感と筋電位との関係を検証した。被験者は、手首と手のひらの境界から中指の先端までの手長が17.0cmであった。
【0036】
2リットルのペットボトルの高さ中央が中指の位置にくるように、かつ、中指が水平方向を向くように把持し、注ぎ出し動作を行った。この動作を0°とする。次に同じボトルの高さ中央が中指の位置にくるように、かつ、中指が水平方向に対して15°上を向くように把持し、注ぎ出し動作を行った。この動作を15°とする。さらに同じボトルの高さ中央が中指の位置にくるように、かつ、中指が水平方向に対して15°下を向くように把持し、注ぎ出し動作を行った。この動作を−15°とする。使用するボトルは表面形状の影響をなくすため、凹凸のないモックアップを用いた。被験者は1人とした。
【0037】
注ぎ出し動作は次のとおりである。すなわち、2秒で持ち上げ、3秒静止、2秒で傾け、3秒停止する。上記動作を8回試行し、筋電位を最大筋力比に換算し、平均する。このとき、持ち上げ動作と、注ぎ動作を分けてそれぞれ最大筋力比を算出した。なお、注ぎ出し動作は図1のタイプ2(もっとも把持に負担がかかる持ち方である)で行った。図5に主観的評価の結果を示した。図6に持ち上げ動作における最大筋力比(%MVC)を示した。図7に注ぎ動作における最大筋力比(%MVC)を示した。図5によれば、−15°、0°、15°の順に被験者の負担感が減少していることがわかる。次いで図6によれば、持ち上げ動作において第1背側骨間筋、長母指外転筋及び総指伸筋の三つの筋で−15°、0°、15°の順に被験者の負担感が減少していることがわかり、図5の主観評価と対応していることがわかった。さらに図7によれば、注ぎ動作において第1背側骨間筋、長母指外転筋及び総指伸筋の三つの筋で−15°、0°、15°の順に被験者の負担感が減少していることがわかり、図5の主観評価と対応していることがわかった。以上の結果から、注ぎ出し動作において、主観評価と最大筋力比との間に対応する関係があることが見出された。
【0038】
(実施例2)
手の小さい男女6名(10代から30代)を被験者として、検証を行った。手首と手のひらの境界から中指の先端までの手長が15.4〜17.4cmで、握力は18〜34kgであった。なお、成人25パーセンタイル値は17.4cmである。使用したボトルは図8(a)(b)で示した2リットルボトル(以下A型ボトルという)と図8(c)(d)で示した2リットルボトル(以下B型ボトルという)である。そして、注ぎ出し動作は次のとおりである。すなわち、2秒で持ち上げ、3秒静止、2秒で傾け、3秒停止する。傾けのやり方は図1のタイプ2に統一した。上記動作を8回試行し、筋電位を最大筋力比に換算し、平均する。このとき、持ち上げ動作と、注ぎ動作を分けてそれぞれ最大筋力比を算出した。
【0039】
図9に被験者6人のデータを平均した持ち上げ動作における主観的評価の結果を示した。図10に被験者6人のデータを平均した注ぎ動作における主観的評価の結果を示した。図11に被験者6人のデータを平均した持ち上げ動作における最大筋力比(%MVC)を示した。図12に被験者6人のデータを平均した注ぎ動作における最大筋力比(%MVC)を示した。図9と図10を参照すると、いずれの動作においてもB型ボトルの方が被験者の主観的な負担感が小さい。また、図11と図12を参照すると、いずれの動作においてもB型ボトルの方が最大筋力比が小さい。なお、図11及び図12において、筋Aは第1背側骨間筋、B筋は長母指外転筋、C筋は浅指屈筋、D筋は総指伸筋、E筋は橈側手根伸筋である。以上の結果から、手の小さい被験者の集合においても注ぎ出し動作において、主観評価と最大筋力比との間に対応する関係があることが見出された。
【0040】
上記6人の被験者のうち、握力の弱い被験者(20代女性、手長17.2cm、握力18kg)のデータを図13〜図16に示した。図13に持ち上げ動作における主観的評価の結果を示した。図14に注ぎ動作における主観的評価の結果を示した。図15に持ち上げ動作における最大筋力比(%MVC)を示した。図16に注ぎ動作における最大筋力比(%MVC)を示した。図15及び図16において、筋A〜筋Eは図11及び図12と同じである。図9〜図12と同様の傾向、すなわち、いずれの動作においてもB型ボトルの方が最大筋力比が小さいという傾向が見られた。そして、握力が弱い被験者の場合、筋負担差が顕著に現れやすいこともわかった。よって、握力の弱い被験者を集めた母集団(例えば、握力を基準として下位25%以下の被験者集合体)の最大筋力比を測定することで、定量値の有意差を出しやすくすることができる。以上のとおり、母集団の境界付近の人を被験者としてピックアップし、それぞれ最大筋力比が所定値(例えば0.5以下)となる形状の容器本体とすれば、手長が異なる人等が混在した母集団で形成されている一般消費者の誰もが注ぎやすいと感ずる容器本体とすることができ、その容器本体を従来の官能評価を経ずして製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器本体の胴部を把持して持ち上げ、続いて容器本体を傾ける一連の注ぎ出し動作がなされたときの負担感に関係する動作筋の最大随意当尺性収縮時の筋電位情報を取得する工程と、
前記注ぎ出し動作がなされたときの前記動作筋の筋電位情報を取得する工程と、
数1で表される最大筋力比を算出する工程と、を有し、
前記最大筋力比の値に基づいて注ぎ出し動作における負担を定量評価することを特徴とする容器注ぎ出し動作の負担推定方法。
(数1)最大筋力比=注ぎ出し動作に伴う筋電位/最大随意当尺性収縮時の筋電位
【請求項2】
前記動作筋の筋電位情報は、前記容器本体の胴部を把持して持ち上げたときの筋電位情報と前記容器本体を傾けたときの筋電位情報とに分けて入手することを特徴とする請求項1に記載の容器注ぎ出し動作の負担推定方法。
【請求項3】
前記負担感に関係する動作筋は、持ち上げ動作の評価をするための動作筋として第1背側骨間筋、長母指外転筋、総指伸筋及び橈側手根伸筋から選択される少なくともいずれか一種を含み、かつ、容器本体を傾ける動作の評価をするための動作筋として第1背側骨間筋又は総指伸筋のいずれか一種及び浅指屈筋を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の容器注ぎ出し動作の負担推定方法。
【請求項4】
前記負担感に関係する動作筋は、第1背側骨間筋、長母指外転筋、総指伸筋、橈側手根伸筋及び浅指屈筋を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の容器注ぎ出し動作の負担推定方法。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4に記載の容器注ぎ出し動作の負担推定方法によって得られた、注ぎ出し動作における最大筋力比が0.5以下を満たすように容器本体の胴部形状を決定したことを特徴とする容器本体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−45566(P2011−45566A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197309(P2009−197309)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)
【出願人】(391058381)キリンビバレッジ株式会社 (94)
【Fターム(参考)】