説明

容器用樹脂被覆金属板および樹脂被覆金属缶

【課題】タンパク質含有率の高い内容物について優れた取り出し性を確保するとともに、容器用素材に要求される各種特性を兼ね備えた容器用樹脂被覆金属板および樹脂被覆金属缶を提供する。
【解決手段】樹脂層を両面に有し、金属板を容器成形した後に容器内面側になる樹脂層表面の水との界面自由エネルギーが30mN/m以上である容器用樹脂被覆金属板。例えば、容器成形後に容器内面側になる前記樹脂層はポリエステルを主成分ととし、0.5mass%〜40.0mass%の脂肪酸アミドを含有する。前記樹脂層にイオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤のうち、少なくとも一つを含むことも可能である。また、前記樹脂層は複層構造の樹脂層でもよく、この場合、内容物と接する樹脂層表面の水との界面自由エネルギーを30mN/m以上とする。さらに、本発明の樹脂被覆金属缶は、前記金属板を容器成形して得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、食品缶詰の缶胴及び蓋等に用いられる容器用樹脂被覆金属板および樹脂被覆金属缶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食缶に用いられる金属缶用素材であるティンフリースチール(TFS)およびアルミニウム等の金属板には、耐食性・耐久性・耐候性などの向上を目的として、塗装が施されていた。この塗装を施す技術は、焼き付け工程が複雑であるばかりでなく、多大な処理時間を必要とし、さらには多量の溶剤を排出するという問題を抱えている。
そこで、これらの問題を解決するため、塗装鋼板に替わり、熱可塑性樹脂フィルムを加熱した金属板に積層してなる容器用樹脂被覆金属板が開発され、現在、飲料缶用素材を中心として工業的に広く用いられている。
【0003】
しかしながら、前記樹脂被覆金属板を食品缶詰用途に使用すると、容器から内容物を取り出す際に、内容物が容器内面に強固に付着してしまい、内容物を取り出しにくいという問題があった。この問題は、消費者の購買意欲と密接に関係するため、消費者の購買意欲を確保する上で極めて重要な問題である。にもかかわらず、従来の容器用樹脂被覆金属板は、内容物の取り出し易さの改善に対する検討は極めて少ない。
【0004】
そこで、本発明者らは、内容物取り出し性を確保すべく鋭意検討を重ね、ポリエステル樹脂中に特定のワックス(カルナウバワックス)を添加し、樹脂表面に存在させることで、脂肪分を多く含んだ内容物(付着性の乏しい内容物:肉・卵・炭水化物の混合物など)については、良好な特性を確保することができるとし、特許文献1を出願した。
【特許文献1】特開2001−328204号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されている技術では、ランチョンミートやツナなどのタンパク質の含有率が高い内容物については、その付着性の強さから良好な内容物取り出し性を確保することが不十分なこともあった。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、タンパク質含有率の高い内容物についても、優れた取り出し性を確保するとともに、容器用素材に要求される各種特性を兼ね備えた容器用樹脂被覆金属板および樹脂被覆金属缶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、容器用樹脂被覆金属板の、容器成形した後の容器内面側になる樹脂層の表面に着目し、前記表面を、水との界面自由エネルギーが30mN/m以上となるように制御することで、優れた内容物取り出し性が得られることを見出した。
【0008】
その要旨は以下のとおりである。
[1]樹脂層を両面に有する容器用樹脂被覆金属板であって、該金属板を容器成形した後に容器内面側になる樹脂層表面の、水との界面自由エネルギーが30mN/m以上であることを特徴とする内容物取り出し性に優れる容器用樹脂被覆金属板。
[2]樹脂層を両面に有する容器用樹脂被覆金属板であって、該金属板を容器成形した後に容器内面側になる樹脂層表面の、レトルト殺菌処理後の、水との界面自由エネルギーが30mN/m以上であることを特徴とする内容物取り出し性に優れる容器用樹脂被覆金属板。
[3]前記[1]または[2]において、容器成形した後に容器内面側になる前記樹脂層が、ポリエステルを主成分とする樹脂層であることを特徴とする内容物取り出し性に優れる容器用樹脂被覆金属板。
[4]前記[1]〜[3]のいずれかにおいて、容器成形した後に容器内面側になる前記樹脂層が、イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤のうち、少なくとも一つを含むことを特徴する内容物取り出し性に優れる容器用樹脂被覆金属板。
[5]前記[1]〜[4]のいずれかにおいて、容器成形した後に容器内面側になる前記樹脂層が、0.5mass%〜40.0mass%の脂肪酸アミドを含有することを特徴とする内容物取り出し性に優れる容器用樹脂被覆金属板。
[6]前記[5]において、前記脂肪酸アミドが、エチレンビスステアリン酸アミドであることを特徴とする内容物取り出し性に優れる容器用樹脂被覆金属板。
[7]前記[1]〜[6]のいずれかにおいて、容器成形した後に容器内面側になる前記樹脂層が、複層構造の樹脂層であって、かつ、内容物と接する樹脂層表面の、水との界面自由エネルギーが30mN/m以上であることを特徴とする内容物取り出し性に優れる容器用樹脂被覆金属板。
[8]前記[1]〜[3]のいずれかにおいて、容器成形した後に容器内面側になる前記樹脂層が、複層構造のポリエステル樹脂層であって、最上層のポリエステル樹脂層は、0.5mass%〜40.0mass%の脂肪酸アミドを含有し、かつ、内容物と接する樹脂層表面の、水との界面自由エネルギーが30mN/m以上であることを特徴とする内容物取り出し性に優れる容器用樹脂被覆金属板。
[9]前記[8]において、前記脂肪酸アミドが、エチレンビスステアリン酸アミドであることを特徴とする内容物取り出し性に優れる容器用樹脂被覆金属板。
[10]ポリエステルを主成分とする樹脂層を両面に有する容器用樹脂被覆金属板であって、容器成形した後に容器内面側になる樹脂層表面の水との界面自由エネルギーが、該容器成形した後の内容物が充填される際に30mN/m以上であり、容器成形した後に容器外面側になる樹脂層表面の表面自由エネルギーが、25mN/m以上であることを特徴とする内容物取り出し性に優れる容器用樹脂被覆金属板。
[11]樹脂層を両面に有する金属板を容器成形した樹脂被覆金属缶であって、該金属板が前記[1]〜[10]のいずれかに記載の容器用樹脂被覆金属板であることを特徴とする内容物取り出し性に優れる樹脂被覆金属缶。
[12]樹脂層を両面に有する金属板を容器成形した樹脂被覆金属缶であって、容器成型した後に容器内面側になる樹脂層表面の、水との界面自由エネルギーが30mN/m以上であることを特徴とする内容物取り出し性に優れる樹脂被覆金属缶。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、内容物取り出し性に優れる容器用樹脂被覆金属板および樹脂被覆金属缶が得られる。また、本発明の容器用樹脂被覆金属板および樹脂被覆金属缶は、ランチョンミートやツナなどのタンパク質含有率が高い内容物に対しても好適な内容物取り出し性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
まず、本発明の容器用樹脂被覆金属板について説明する。
本発明の金属板としては、缶用材料として広く使用されているアルミニウム板や軟鋼板等を用いることができ、特に下層が金属クロム、上層がクロム水酸化物からなる二層皮膜を形成させた表面処理鋼板(いわゆるTFS)等が最適である。
TFSの金属クロム層、クロム水酸化物層の付着量については、特に限定されないが、加工後密着性、耐食性の観点から、何れもCr換算で、金属クロム層は70〜200mg/m、クロム水酸化物層は10〜30mg/mの範囲とすることが望ましい。
【0012】
そして、本発明では上記金属板の両面に樹脂を被覆し樹脂被覆金属板とする。この時の被覆する樹脂についての詳細は後述する。
【0013】
さらに、樹脂被覆金属板を容器成形した後に容器内面側になる樹脂層表面の、水との界面自由エネルギーは30mN/m以上とする。これは、本発明の特徴であり、本発明において最も重要な要件である。このように容器内面側になる樹脂層表面の水との界面自由エネルギーを規定することにより、ランチョンミートやツナなどのンパク質含有率が高い内容物に対しても、優れた取り出し性を確保することが可能となる。なお、この現象の詳細なメカニズムは不明であるが、以下のように推定できる。
【0014】
樹脂層表面の水との界面エネルギーを一定値以上とすることで、内容物と樹脂層との界面に、油膜(油の薄膜)を安定して存在させることが可能となる。そして、この界面エネルギーを30mN/m以上の範囲に制御することで、ランチョンミートやツナなどのタンパク質を多く含む内容物はもちろんのこと、他の内容物(魚肉、野菜など)についても、樹脂層と内容物との界面に油膜を形成することが可能となる。
そして、樹脂層と内容物との界面に生成する油膜が、内容物由来のタンパク質や細胞の樹脂層への吸着を抑止するように働き、樹脂層表面への内容物付着を抑制するものと考えられる。油膜の形成能は、樹脂層表面の水との界面エネルギーと相関するため、エネルギー値の増加に伴い、取りだし性は良好傾向となる。
以上より、容器内面側になる樹脂層表面の、水との界面自由エネルギーは30mN/m以上とし、より優れた内容物取り出し性を得るためには、水との界面エネルギーを40mN/m以上、さらに好ましくは45mN/m以上とする。
【0015】
また、上記で規定する水との界面自由エネルギーは、以下の理由により、レトルト殺菌処理後も維持されていることが好ましい。内容物中のタンパク質は、レトルト殺菌処理過程で熱処理を受けることで、熱変性する。熱変性したタンパク質は、その高次構造が崩れるため、未変性状態では分子鎖の内部に存在していた親水基・疎水基が、その立体配置を変化させ、親水基はタンパク質の表面に多く分布することとなる。このため、熱変性後のタンパク質は、特にポリエステルを主成分とする樹脂表面に対し、より付着しやすい表面状態となる。よって、樹脂層表面の水との界面自由エネルギーは、レトルト殺菌処理後も、規定範囲に維持されている必要がある。
【0016】
容器内面側になる樹脂層表面の、水との界面自由エネルギーを30mN/m以上とする技術としては、樹脂層表面に、−CH基などの疎水基(親油基)を導入する技術が好適である。このための手段としては、(1)プラズマ処理によって、疎水基(親油基)を樹脂層表面に導入する技術、(2)樹脂層内へ界面活性剤などの添加剤を導入する技術、(3)樹脂層表面を疎水性の高分子等で被覆する技術、などが挙げられる。
(1)の技術としては、例えば、電子密度が比較的低い(10-2〜10mmHg)低圧ガス下でおこるグロー放電プラズマ(低温プラズマ)が挙げられる。活性粒子のエネルギーが高く、寿命も長いことから、樹脂層の性質を損なわずに、表面とその近傍の深さ数1000Åの表面層のみを変化させることができる。水との界面自由エネルギーは、雰囲気のガス成分を変えることにより調整できる。例えば、4フッ化メタン雰囲気中でプラズマ処理を行なうことで、樹脂層表面の水との界面自由エネルギーを30mN/m以上に制御できる。
(2)の技術としては、親水基と疎水基をもつ界面活性剤を高分子材料に添加する処理が挙げられる。界面活性剤を表面に拡散させ、疎水基(親油基)を空気の方に向けて配列する。その結果、表面が疎水化(親油化)され、水との界面自由エネルギーが制御できる。界面活性剤としては、イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤のうち、少なくとも一つを含むことが望ましい。例えば、脂肪族カルボン酸化合物と脂肪族アルコール化合物とのエステル化合物や、グリセリン脂肪酸エステル系、ソルビタン脂肪酸エステル系、プロピレングリコール脂肪酸エステル系、非イオン性オルガノシリコーン界面活性剤などの利用が好適である。また、非極性グループを主鎖・側鎖に有するポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエレン、ポリスチレンなどの適用も好適である。
(3)の技術としては、非極性もしくは極性の小さい高分子などを被覆する方法が挙げられる。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂またはケイ素樹脂などを好適に使用することができるが、基材表面(樹脂層表面)との強固な密着性と容器加工に追随する加工性が求められる。
【0017】
上記(1)〜(3)の技術の中から、容器用樹脂被覆金属板に要求される各種特性および工業性(生産性・経済性)などを考慮して、最も妥当な技術を選択する。中でも、(2)の技術は、例えば、ポリエステル樹脂中に特定の添加剤を微量に導入することで目的が達成されるため、コストや生産性を阻害する可能性が小さく、また性能面においてもポリエステル樹脂とほぼ同等のレベルを確保することが容易であるため、好適である。
【0018】
また、疎水基(親油基)を主体とする界面活性剤として、脂肪酸アミドをポリエステル樹脂内に添加する処理が有効である。脂肪酸アミドは、疎水基(親油基)を空気の方に向けて配列し、かつ親水基はポリエステル樹脂内部に向けて配列する。その結果、ポリエステル樹脂表面が疎水化(親油化)され、かつ樹脂表面に固定化されるため、安定して良好な水との界面自由エネルギーを維持することが期待できる。
ここで、脂肪酸アミドとしては、融点が120℃以上のものが好ましく、より好ましくは130℃以上のものである。これにより、長時間のレトルト殺菌処理においても、ポリエステル樹脂表面に安定して存在することが可能となる。
このような脂肪酸アミドとしては、アルキレンビス脂肪酸アミドがあげられ、耐熱性、食品安全性の観点から、エチレンビスステアリン酸アミドが特に好適である。
本発明に用いる脂肪酸アミドの添加量は、ポリエステルを主成分とする樹脂層100重量部に対し、0.5mass%〜40.0mass%、好ましくは、5.0mass%〜30.0mass%、さらに好ましくは10.0mass%〜25.0mass%である。脂肪酸アミドの添加量が0.5mass%未満であると、樹脂層表面における疎水基の存在密度が不足し、目的とする水との界面自由エネルギーを得ることができない。一方、40.0mass%を超えると、目的とする水との界面自由エネルギーを得ることができるものの、脂肪酸アミドの表面濃化が過度となり、ポリエステル樹脂表面での固定が十分でなくなり、脱離しやすい状態となる。このような状態で、樹脂被覆金属板がコイル状に巻き取られた場合、容器成形した後の容器内面側となるポリエステル樹脂表面から脱離した脂肪酸アミドが、容器成形した後の容器外面側となるポリエステル樹脂層の表面に転写し、表面自由エネルギーを変化させてしまう。これが、印刷用のインクとの親和性を劣化させるため、容器外面の印刷不良の原因となる。また、樹脂の機械特性や熱的特性も劣化させるため、好ましくない。
【0019】
樹脂被覆金属板を容器成形した後に容器外面側となる樹脂層表面の表面自由エネルギーは、25mN/m以上が好ましい。上述のように、通常、容器外面には商品名や商標などの印刷が施されるので、インクに対する濡れ性を高くする必要があるためである。
【0020】
次に、容器成形した後に容器内面側となる樹脂層について説明する。本発明に於いて、容器成形した後に容器内面側となる樹脂層としては、得に限定はしないが、ポリエステルを主成分とする樹脂を使用することが望ましい。ポリエステルを主成分とする樹脂とは、ポリエステルを50mass%以上含み、それ例外にポリオレフィンなどを含む樹脂のことである。
【0021】
また、樹脂層の構成としては、単層、複層の如何を問わない。少なくとも2層以上から構成される樹脂層の場合、金属板に接する樹脂層と、この層を除く他の各層との固有粘度差が0.01〜0.5であることが、優れた成形性、耐衝撃性を発現させる点から望ましい。また、当然のことながら、複層構造とした場合は、内容物と接する樹脂層表面の、水との界面自由エネルギーを30mN/m以上に制御する必要がある。
以下に、本発明で好適に用いられるポリエステル樹脂層について説明する。
【0022】
ポリエステル樹脂層の組成としては、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン酸ジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、アジピン酸等を用いることができ、中でも好ましくはテレフタル酸、イソフタル酸を用いることができる。
グリコール成分としては、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等が挙げられるが、中でもエチレングリコールが好ましい。
これらのジカルボン酸成分、グリコール成分は2種以上を併用しても良い。また、必要に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、顔料、帯電防止剤、結晶核剤等を配合できる。
なお、上記において、特に、イソフタル酸は透明性、引き裂き強度が高く、かつ安全性にも優れるため好ましく、ポリエステル樹脂としては、イソフタル酸を22モル%以下の比率で共重合化した共重合ポリエチレンテレフタレートであることが特に好ましい。イソフタル酸共重合比率が22モル超となる場合は、樹脂層の耐熱性が劣化し、レトルト殺菌処理などの加熱処理に対する耐久性に欠けるため、本発明の目的を達成することが困難となる場合がある。
また、上記において、複層構造の場合は、ポリエステル樹脂層の組成として、上層がポリエチレンテレフタレート、もしくは、酸成分としてイソフタル酸を6モル%以下の比率で共重合化した共重合ポリエチレンテレフタレートであり、下層が酸成分としてイソフタル酸を10モル%以上22モル%以下の比率で共重合ポリエチレンテレフタレートであることが望ましい。上層のイソフタル酸共重合比率が6モル%超の場合、樹脂層の融点が低下するため熱で溶けやすく、そのため金属板上に樹脂層を熱融着にて形成する際に本発明で規定する配向状態を実現することが困難となる場合がある。一方、下層のイソフタル酸共重合比率が10モル%未満では、樹脂の融点が高いため熱で溶け難くなる。金属板上への樹脂層形成の際に、前記上層の配向状態を本発明の規定範囲内にコントロールしようとすると、金属板上での溶融濡れが不十分となり密着性が劣化する懸念がある。また、イソフタル酸共重合比率が増すにつれ、樹脂コストも上昇するため、下層のイソフタル酸共重合比率は22モル%以下に抑えることが望ましい。
【0023】
ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、5000〜40000のものが好ましく、10000〜30000のものが特に好ましい。
【0024】
本発明のポリエステル樹脂の厚みは2μm以上、100μm以下であることが好ましく、更には8μm以上50μm以下、特に10μm以上25μm以下の範囲であることが好ましい。
また、複層構造とした場合、上層となるポリエステル樹脂層の厚みは、0.5以上5.0μm以下の範囲であることが好ましく、更に好ましくは、0.5以上1.5μm以下の範囲である。
【0025】
以上よりなるポリエステルは、引張強度、弾性率、衝撃強度等の機械特性に優れるとともに極性を有するため、これを容器成形した後に容器内面側となる樹脂層の主成分とすることで樹脂層の密着性、成形性を容器加工に耐え得るレベルまで向上させるとともに容器加工後の耐衝撃性を付与させることが可能となる。
【0026】
ポリエステルを主成分とする樹脂層は、例えばダイレクトラミネート製法により形成された無配向層樹脂層であっても良いが、ニ軸延伸フィルムを金属板上に熱融着ラミネートして形成された樹脂層であれば、耐衝撃性・耐食性が向上するため好適である。
【0027】
また、複層構造のポリエステル樹脂層の場合、少なくとも上層のポリエステル樹脂層は、JIS K2425に定める熱軟化点が130℃以上であることが好ましい。食缶用のレトルト殺菌処理は、120℃以上の高温で1時間以上に及ぶことがあるため、120℃超の耐熱性を有することが求められるためである。また、ガラス転移点は、30℃以上であることが望ましい。樹脂被覆金属板が保管・運搬される際、30℃以上の温度で長時間保持される可能性があるためである。
【0028】
ニ軸延伸フィルムをラミネートして形成された樹脂層であって、この樹脂層が2層構造である場合、上層のポリエステル樹脂層の、厚み方向の平均複屈折率が、0.06以上0.15以下であれば、加工性・耐衝撃性が共に優れるため、更に好適である。一般に、二軸延伸法により製膜されたポリエステルフィルムにはフィルム表面と平行に配向した結晶(配向結晶)が存在し、その存在量はフィルムの複屈折率を指標として定量化できる。容器加工後の耐衝撃性は、ポリエステル樹脂層の配向結晶量が増すと共に良好となるため、0.06以上であることが望ましい。一方、上層ポリエステル樹脂層の厚み方向の平均複屈折率が0.15超となると、柔軟性に富む非晶領域が少なくなるため、加工性が不足し、容器成形の際の加工に耐えられず、樹脂層の一部が破断し割れを生じてしまう場合がある。よって、上層ポリエステル樹脂層の、厚み方向の平均複屈折率は0.06以上0.15以下の範囲が好ましい。
また、下層ポリエステル樹脂層の平均複屈折率は、0.06以下が好ましい。この理由は以下のとおりである。樹脂被覆金属板の製造は、樹脂を熱せられた金属板に接触させ圧着することで金属板界面の樹脂を溶融させ、金属板に濡れさせることで接着を行うのが通常である。従って、フィルムと金属板との密着性を確保するためには樹脂が溶融していることが必要であり、融着後の金属板と接する部分のフィルム複屈折率は、配向結晶が融解するため低下することとなる。本発明に規定するようにこの部分のフィルム複屈折率が0.06以下であれば、熱融着時の樹脂の溶融濡れが十分であったことを示すものであり、すなわち優れた密着性を確保することが可能となる。0.06超となると、密着性が低下し、食品缶詰に施される高温・長時間のレトルト殺菌処理後に、缶蓋との巻き締め部等で樹脂層が剥離するおそれがある。
なお、ポリエステル樹脂の複屈折率は、以下の測定手法にて求められる。
偏光顕微鏡を用いてラミネート金属板の金属板を除去した後のフィルムの断面方向のレタデーションを測定し、樹脂フィルムの断面方向の複屈折率を求める。フィルムに入射した直線偏光は、二つの主屈折率方向の直線偏光に分解される。この時、高屈折率方向の光の振動が低屈折率方向よりも遅くなり、そのためフィルム層を抜けた時点で位相差を生じる。この位相差をレタデーションRと呼び、複屈折率△nとの関係は、式(1)で定義される。
△n=R/d…(1)
但し、d:フィルム層の厚み
次に、レタデーションの測定方法について説明する。単色光を偏光板を通過させることで、直線偏光とし、この光をサンプル(フィルム)に入射する。入射された光は上記のように、レタデーションを生じるため、フィルム層を透過後、楕円偏光となる。この楕円偏光はセナルモン型コンペンセーターを通過させることにより、最初の直線偏光の振動方向に対してθの角度をもった直線偏光となる。このθを偏光板を回転させて測定する。レタデーションRとθの関係は式(2)で定義される。
R=λ・θ/180 …(2)
但し、λ:単色光の波長
よって複屈折率△nは、式(1)、(2)から導き出される式(3)で定義される。
△n=(θ・λ/180)/d…(3)
また、本発明に用いるポリエステル樹脂の分子構造は、固体分解能NMR構造解析によって求められた1、4位のベンゼン環炭素の緩和時間T1ρが150msec以上となることが望ましい。緩和時間T1ρは、分子運動性を表わすものであり、緩和時間T1ρを増加するとフィルム内の非晶部拘束力が高まる。1,4位のベンゼン環炭素の緩和時間T1ρが増加することにより、1,4位のベンゼン環炭素部位の分子整列性を制御し、結晶構造にも似た安定構造を形成し、これによって、成形時における非晶部分の結晶化を抑制できるようになる。すなわち、非晶部の運動性が低下し、結晶化のための再配向挙動が抑制されるようになる。1,4位のベンゼン環炭素の緩和時間T1ρを150msec以上とすることで、上記の優れた効果を十分に発揮できるようになり、優れた成形性、耐衝撃性が得られるようになる。このような観点から、1,4位のベンゼン環炭素の緩和時間T1ρは、より好ましくは180msec以上、さらにより好ましくは200msec以上である。
【0029】
1,4位のベンゼン環炭素の緩和時間T1ρを150msec以上にする方法としては、フィルム製造時に縦延伸工程で高温予熱法、高温延伸法を組み合わせて採用することにより可能である。しかしこれに限定されるものでなく、例えば原料の固有粘度、触媒、ジエチレングリコール量や延伸条件、熱処理条件などの適正化によっても1,4位のベンゼン環炭素の緩和時間T1ρを150msec以上とすることは可能である。フィルム製造時の縦延伸の予熱温度としては、90℃以上が好ましく、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは110℃以上である。また延伸温度は105℃以上が好ましく、より好ましくは110℃以上、さらに好ましくは115℃以上である。
【0030】
また、固体高分解能NMRによる構造解析における1,4位のベンゼン環炭素の緩和時間T1ρが150msec以上である二軸延伸ポリエステルフィルムをラミネ−トした容器成形した後に容器内面側になる樹脂層は、複屈折率が0.02以下である領域が、金属板との接触界面から樹脂厚み方向に5μm未満であることが好ましい。
【0031】
次に、容器成形した後に容器外面側となる樹脂層について説明する。本発明に於いて、容器成形した後に容器外面側となる樹脂層としては、特に限定しない。例えば、ポリエステルを主成分とする樹脂層等を用いることができる。
【0032】
また、容器成形した後に容器内面側になる樹脂層および/または容器成形した後に容器外面側になる樹脂層に着色顔料を添加することで、下地の金属板を隠蔽し、樹脂独自の多様な色調を付与できる。例えば、白色顔料を添加することで下地の金属光沢を隠蔽するとともに、印刷面を鮮映化することができ、良好な外観を得ることができる。また、隠蔽性を完全とせず下地の金属光沢を利用した光輝色の付与も可能であり、優れた意匠性を得ることができる。更に樹脂表面への印刷と異なり、樹脂内に直接顔料を添加して着色しているため、容器成形工程においても色調が脱落する問題もなく、良好な外観を保持できる。また、一般的に、容器成形した後には塗装印刷が施されるが、着色樹脂層を形成することで工程の一部を省略することができ、コストの低減、有機溶剤、二酸化炭素の発生を抑制することができる。
【0033】
添加する顔料としては、容器成形した後に優れた意匠性を発揮できることが必要であり、係る観点からは、容器内面側となる樹脂層に添加する顔料としては、二酸化チタンなどの無機系顔料やキノフタロン系、ベンズイミダゾロン系、イソインドリノン系などの有機顔料が使用できる。これらは着色力が強く、展延性にも富むため、容器成形した後も良好な意匠性を確保でき、好適に使用される。
中でも、特に二酸化チタンの使用が望ましい。容器開封後、内容物の色が映えるとともに、清潔感を付与できるためである。顔料を添加する樹脂層としては、上層でないことが望ましい。二酸化チタンの添加量は、樹脂層に対して、mass%で5〜30%であることが望ましい。5%未満であると、白色度が十分でなく、良好な意匠性が確保できない場合がある。一方、30%超の含有量となると、白色度が飽和するとともに経済的にも不利であるため、30%未満とすることが望ましい。より好ましくは、10〜20%の範囲である。なお、顔料の添加量は、顔料を添加した樹脂層に対する割合である。
【0034】
一方、容器外面側となる樹脂層に添加する顔料としては、キノフタロン系、ベンズイミダゾロン系、イソインドリノン系の少なくとも1種類以上の有機顔料であることが望ましい。これらの顔料は、透明性に優れながら着色力が強く、展延性に富むため、製缶後も光輝色のある外観が得られることになる。中でも、容器内面側同様に、二酸化チタンの使用が望ましい。
上記有機顔料を添加する樹脂層としては、最上層でないことが望ましい。これらの有機顔料は、レトルト殺菌処理時などの熱処理を経ても、樹脂層表面にブリードしにくいという特徴を有するが、顔料を添加した樹脂層の上に0.5μm以上の無添加層(クリア層)を設けることで、ブリードアウトを確実に抑制することが可能となる。また、有機顔料の添加量は、樹脂層に対して、mass%で0.1〜5.0%とすることが望ましい。添加量が0.1%未満であると発色が乏しい場合がある。また、5.0%を超えると、透明性が乏しくなり光輝性に欠けた色調となってしまう場合がある。
【0035】
樹脂層が複層構造である場合、顔料はそのうちの少なくとも1つの層に添加すればよく、最上層以外の樹脂層に添加することが望ましい。
【0036】
次に製造方法について説明する。
まず、金属板に被覆する複層を含む樹脂層(フィルム)の製造方法について説明する。
樹脂層(フィルム)の製造方法については特に限定はしない。例えば、各ポリエステル樹脂を必要に応じて乾燥した後、単独及び/または各々を公知の溶融積層押出機に供給し、スリット状のダイからシート状に押出し、静電印加等の方式によりキャスティングドラムに密着させ冷却固化し未延伸シートを得る。この未延伸シートをフィルムの長手方向及び幅方向に延伸することにより二軸延伸フィルムを得る。延伸倍率は目的とするフィルムの配向度、強度、弾性率等に応じて任意に設定することができるが、好ましくはフィルムの品質の点でテンター方式によるものが好ましく、長手方向に延伸した後、幅方向に延伸する逐次二軸延伸方式、長手方向、幅方向をほぼ同じに延伸していく同時二軸延伸方式が望ましい。
また、ポリエステルを主成分とする樹脂層の場合は、例えばダイレクトラミネート製法により形成された無配向層樹脂層であっても良いが、ニ軸延伸フィルムを金属板上に熱優着ラミネートして形成された樹脂層であれば、耐衝撃性・耐食性が向上するため好適である。ポリエステル樹脂中に脂肪酸アミドを添加する方法としては、例えば、溶融状態のポリエステル樹脂に脂肪酸アミドを添加し、押し出し成形機で混練後に溶融押出して金属板上に樹脂皮膜を形成する方法や、脂肪酸アミドを含む塗液をポリエステルフィルムの製膜時もしくは製膜後に塗布して、最上層に脂肪酸アミドを含有したポリエステル樹脂層を形成させる方法があげられ、本発明の目的・用途には、後者の方が望ましい。なかでも、二軸配向ポリエステルフィルムの製膜時もしくは製膜後に塗布し、加熱乾燥させて塗膜を形成させる方法が好ましい。製膜時に塗布する場合は、ドラムキャスティング直後、もしくはドラムへキャスティングした後の縦延伸直後に行うことが好ましい。また、二軸配向ポリエステルフィルムへの塗布においては、グラビアロールコート法が好適であり、塗液塗布後の乾燥条件としては、80℃〜170℃で20〜180秒間、特に80℃〜120℃で60〜120秒間が好ましい。
また、複層構造の形成方法としては、ダイレクトラミネート製法により複数の樹脂層を共押し出しすることによって、金属板上に直接積層しても良いし、複層構造のポリエステルフィルムを金属板上に熱融着させる方法でもよい。
【0037】
次に、前記樹脂層(フィルム)を金属板にラミネートして樹脂被覆金属板を製造する方法について述べる。本発明では、例えば、金属板をフィルムの融点を超える温度で加熱し、その両面に樹脂フィルムを圧着ロール(以後ラミネートロールと称す)を用いて接触させ熱融着させる方法(以後ラミネートと称す)を用いことができる。このとき、容器成形した後に容器内面側になるフィルムについては、何もコーティングされていない面をラミネートロールを用いて金属板に接触させ熱融着させることが必要である。
ラミネート条件については、本発明に規定する樹脂層が得られるように適宜設定される。例えば、ラミネート開始時の温度を少なくともフィルムの融点以上とし、ラミネート時にフィルムの受ける温度履歴として、フィルムの融点以上の温度で接している時間を1〜20msecの範囲とすることが好適である。このようなラミネート条件を達成するためには、高速でのラミネートに加え接着中の冷却も必要である。ラミネート時の加圧は特に規定するものではないが、面圧として9.8〜294N/cm(1〜30kgf/cm)が好ましい。この値が低すぎると、樹脂界面の到達する温度が融点以上であっても時間が短時間であるため溶融が不十分であり、十分な密着性を得難い。また、加圧が大きいとラミネート金属板の性能上は不都合がないものの、ラミネートロールにかかる力が大きく設備的な強度が必要となり装置の大型化を招くため不経済である。
【0038】
また、本発明では、樹脂層をフィルムに成形して金属板に被覆するのを原則とするが、樹脂層の規定が本発明の範囲内であれば、樹脂層をフィルムに成形せずに、樹脂層を溶融し、金属板表面に被覆する溶融押出しラミネーションを適用することも可能である。
【実施例1】
【0039】
以下、本発明の実施例について説明する。
冷間圧延、焼鈍、調質圧延を施した厚さ0.18mm・幅977mmからなる鋼板を、脱脂、酸洗後、クロムめっきを行い、クロムめっき鋼板(TFS)を製造した。クロムめっきは、CrO、F、SO2−を含むクロムめっき浴でクロムめっき、中間リンス後、CrO、Fを含む化成処理液で電解した。その際、電解条件(電流密度・電気量等)を調整して金属クロム付着量とクロム水酸化物付着量を、Cr換算でそれぞれ120mg/m、15mg/mに調整した。
【0040】
次いで、図1に示す金属帯のラミネート装置を用い、前記で得たクロムめっき鋼板1を金属帯加熱装置2で加熱し、ラミネートロール3で前記クロムめっき鋼帯1の一方の面に、容器成形した後に容器内面側になる樹脂樹脂層として、表1に示す各種樹脂フィルム4aを、他方の面に、容器成形した後に容器外面側となる樹脂層として、イソインドリノン系有機顔料を0.6質量%添加したポリエステル樹脂4bをラミネート(熱融着)した。その後、金属帯冷却装置5にて水冷を行い、樹脂被覆金属板を製造した。
ラミネートロール3は内部水冷式とし、ラミネート中に冷却水を強制循環し、フィルム接着中の冷却を行った。また、樹脂フィルムを金属板にラミネートする際に、金属板に接する界面のフィルム温度がフィルムの融点以上になる時間を1〜20msecの範囲内にした。
【0041】
ここで、各種フィルムの製造方法について説明する。発明例1〜3で使用した樹脂層は、ポリエステル樹脂の2層構造であって、上層にのみ添加剤を導入している。添加剤としては、発明例1については、エチレンビスステアリン酸アミドを上層の樹脂層に対して0.8質量%添加し、発明例2については、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を上層の樹脂層に対して0.9質量%添加し、発明例3については、ポリメチルペンテン(TPX)を1.5質量%添加した。
発明例4〜6で使用した樹脂層は、表面を低温プラズマ処理している。プラズマ処理装置内に4フッ化メタンガスを充填した後、電極に高周波電力を印加することでプラズマを照射した。具体的には、プラズマ処理装置内の雰囲気を、CF−4%O2、0.6torrとして処理時間及び印加電力を調整することで、樹脂層表面の水との界面自由エネルギーを調整した。発明例4は、印加電力100Wで1分間処理したもの、発明例5は、印加電力200Wで2秒処理したもの、発明例6は、印加電力200Wで4秒処理したもの、である。
発明例7〜9は、ポリエステル樹脂層表面に疎水性高分子をコーティングしたものである。発明例7は、ポリテトラフルオロエチレンを樹脂層表面に、厚みが0.2μmとなるように被覆したものであり、発明例8は、テトラメチルジシロキサンを樹脂層表面に、厚みが0.1μmとなるように被覆したものである。発明例9は、ヘキサメチルジシロキサンを樹脂層表面に、厚みが0.3μmとなるように被覆したものである。
【0042】
一方、比較例1は、ポリエステル樹脂層の上層に、脂肪酸エステルを0.8%添加させたものであり、比較例2はポリエステル樹脂層の表面を、放電量を12(W/m2・min)としてコロナ処理したもの、比較例3はポリプロピレン樹脂層の表面を、放電量を20(W/m2・min)としてコロナ処理したものである。
【0043】
【表1】

【0044】
以上より得られた樹脂被覆金属板及び金属板上に有する樹脂層に対して以下の特性を測定、評価した。測定、評価方法を、下記に示す。
【0045】
(1)水との界面自由エネルギー
樹脂被覆金属板の表面に液体を滴下したときの接触角をθ、ラミネート金属板の表面自由エネルギーの分散力成分をγs、極性力成分をγs、また液体の表面自由エネルギーをγl、その分散力成分をγl、その極性力成分γlとすると、これらは次の関係を満足する。
γl(1+cosθ)/2*(γl1/2
=(γs1/2*(γl1/2/(γl1/2+(γs1/2
そこで、表面自由エネルギーが既知(γl、γl、γlが既知)の5つの液体(水、グリセロール、ホルムアミド、エチレングリコール、ジエチレングリコール)を使用し、接触角計(協和界面科学(株)製CA−D型)を用いて、レトルト殺菌処理(130℃、90分間)前後の、水の樹脂層表面に対する静的接触角を求めた(湿度:55〜65%、温度20℃)。
上記式に前記5液の各々について測定した接触角θと各々の液体のγl、γl、γlの値を代入して、最小二乗法フィッティングで、γs、γs及びγsを求める。
続いて、水の表面自由エネルギーをγw、γw、γwとすると、樹脂層表面における水との界面自由エネルギーγ1wは、次の関係式により求められる。
γ1w=γs+γw−2*(γs*γw)−2*(γs*γw
以上から求めた樹脂層表面における水との界面自由エネルギーの結果を上記表1に併せて示す。なお、測定に用いた5液の表面自由エネルギー値を表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
(2)内容物取り出し性
絞り成形機を用いて、ラミネート金属板を、絞り工程で、ブランク径:100mm、絞り比(成形前径/成形後径):1.88でカップ成形した。続いて、ランチョンミート用の塩漬け肉をカップ内に充填し、蓋を巻き締めた後、レトルト殺菌処理(130℃、90分間)を行なった。その後、蓋を取り外し、カップを逆さまにして内容物を取り出した時に、カップ内側に残存する内容物の程度を観察することにより、内容物の取り出し易さの程度を評価した。
(評点について)
○:カップをさかさまにしただけで(手で振ることなく)内容物が取り出せ、取り出し後のカップ内面を肉眼で観察した際、付着物が殆ど確認できない状態になるもの。
△:カップをさかさまにしただけではカップ内側に内容物が残存するが、カップを上下に振動させる(手でカップを振るなどの動作をする)と、内容物が取り出せる。取り出し後のカップ内面を肉眼で観察した際、付着物が殆ど確認できない状態になるもの。
×:カップを上下に振動させる(手でカップを振るなどの動作をする)だけでは、内容物が取り出し難い。上下に振動させるスピードを極端に増すか、もしくはスプーンなどの器具を用いて内容物を強制的に取り出した後、カップ内面を肉眼で観察した際、付着物が明らかに確認できる状態になるもの
(3)成形性
被覆金属板にワックス塗布後、直径179mmの円板を打ち抜き、絞り比1.80で浅絞り缶を得た。次いで、この絞り缶に対し、絞り比2.20で再絞り加工を行った。この後、常法に従いドーミング成形を行った後、トリミングし、次いでネックイン−フランジ加工を施し深絞り缶を成形した。このようにして得た深絞り缶のネックイン部に着目し、フィルムの損傷程度を目視観察した。
(評点について)
○:成形後フィルムに損傷が認められない状態
△:形可能であるが、部分的にフィルム損傷が認められる状態
×:缶が破胴し、成形不可能
得られた結果を表3に示す。
【0048】
【表3】

【0049】
表3より、本発明範囲の発明例は、内容物取り出し性に優れ、樹脂の損傷がなく、さらに成形性も良好である。これに対し、本発明の範囲を外れる比較例は、内容物取り出し性もしくは成形性のいずれかの特性が劣っている。
【実施例2】
【0050】
樹脂被覆金属板を製造した。なお、製造するにあたっては、一方の面に、容器成形した後に容器内面側になる樹脂樹脂層として表4に示す各種樹脂を、他方の面に、容器成形した後に容器外面側となる樹脂層として表5に示す各種樹脂をラミネート(熱融着)した以外は全て実施例1と同様の方法にて製造した。
【0051】
ここで、フィルムの製造方法について説明する。ジオール成分としてエチレングリコール、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸および/またはイソフタル酸、さらに容器成形後容器外面側となるフィルムについては表5に記載の添加剤(顔料)を用いる。これらを、
表4の「下層の樹脂層」および表5の「上層の樹脂層」「下層の樹脂層」に示す比率にて重合したポリエステル樹脂を乾燥、溶融、押し出し、冷却ドラム上で冷却固化させ、未延伸フィルムを得た後、二軸延伸・熱固定して、二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
続いて、ポリエステル樹脂を主成分とする樹脂と脂肪酸アミド及びその他の添加剤を、表4の「上層の樹脂層」に示す重量比にて、トルエンとメチルエチルケトンの混合溶媒中に溶解して塗液を作製した。この塗液を、容器成形した後容器内面側となるポリエステルフィルムの片側の面に、ロールコーターで塗布・乾燥し、乾燥後の樹脂層の膜厚を調整した。乾燥温度は、80〜120℃の範囲とした。
【0052】
【表4】

【0053】
【表5】

【0054】
以上より得られた樹脂被覆金属板及び金属板上に有する樹脂層に対して、以下の特性を測定、評価した。測定、評価方法を下記に示す。
【0055】
(1)水との界面自由エネルギー
樹脂被覆金属板の容器成形した後容器内面側となる樹脂表面に液体を滴下したときの接触角をθ、ラミネート金属板の表面自由エネルギーの分散力成分をγs、極性力成分をγs、また液体の表面自由エネルギーをγl、その分散力成分をγl、その極性力成分γlとすると、これらは次の関係を満足する。
γl(1+cosθ)/2*(γl1/2
=(γs1/2*(γl1/2/(γl1/2+(γs1/2
そこで、表面自由エネルギーが既知(γl、γl、γlが既知)の5つの液体(水、グリセロール、ホルムアミド、エチレングリコール、ジエチレングリコール)を使用し、接触角計(協和界面科学(株)製CA−D型)を用いて、レトルト殺菌処理(130℃、90分間)前後の、水の樹脂層表面に対する静的接触角を求めた(湿度:55〜65%、温度20℃)。
上記式に前記5液の各々について測定した接触角θと各々の液体のγl、γl、γlの値を代入して、最小二乗法フィッティングで、γs、γs及びγsを求める。
続いて、水の表面自由エネルギーをγw、γw、γwとすると、樹脂層表面における水との界面自由エネルギーγ1wは、次の関係式により求められる。
γ1w=γs+γw−2*(γs*γw)−2*(γs*γw
なお、樹脂被覆金属板は、予め内容物が充填される直前の状態として、測定に供した。例えば、印刷缶用途であれば、印刷後の加熱処理を施し容器成形を行った後、容器底部などの測定に適する平坦な部分を対象として、測定を行った。
以上から求めた内面側となる樹脂層表面における水との界面自由エネルギーの結果を、上記表4に示す。なお、測定に用いた5液の表面自由エネルギー値を表6に示す。
【0056】
【表6】

【0057】
(2)表面自由エネルギー
樹脂被覆金属板の容器成形した後容器外面側となる樹脂表面に液体を滴下したときの接触角をθ、ラミネート金属板の表面自由エネルギーの分散力成分をγs、極性力成分をγs、また液体の表面自由エネルギーをγl、その分散力成分をγl、その極性力成分γlとすると、これらは次の関係を満足する。
γl(1+cosθ)/2*(γl1/2
=(γs1/2*(γl1/2/(γl1/2+(γs1/2
そこで、表面自由エネルギーが既知(γl、γl、γlが既知)の5つの液体(水、グリセロール、ホルムアミド、エチレングリコール、ジエチレングリコール)を使用し、接触角計(協和界面科学(株)製CA−D型)を用いて、レトルト殺菌処理(130℃、90分間)前後の、水の樹脂層表面に対する静的接触角を求めた(湿度:55〜65%、温度20℃)。
上記式に前記5液の各々について測定した接触角θと各々の液体のγl、γl、γlの値を代入して、最小二乗法フィッティングで、γs、γsを求め、γs(=γs+γs)を算出した。
以上から求めた外面側となる樹脂層表面における水との界面自由エネルギーの結果を上記表5に示す。
【0058】
(3)内容物取り出し性
絞り成形機を用いて、ラミネート金属板を、絞り工程で、ブランク径:100mm、絞り比(成形前径/成形後径):1.88でカップ成形した。続いて、タンパク質含有率の高い塩漬け肉(固形分中のタンパク質比率:50%以上)をカップ内に充填し、蓋を巻き締めた後、レトルト殺菌処理(130℃、90分間)を行なった。その後、蓋を取り外し、カップを逆さまにして内容物を取り出した時に、カップ内側に残存する内容物の程度を観察することにより、内容物の取り出し易さの程度を評価した。
(評点について)
○:カップをさかさまにしただけで(手で振ることなく)内容物が取り出せ、取り出し後のカップ内面を肉眼で観察した際、付着物がほとんど確認できない状態になるもの。
△:カップをさかさまにしただけではカップ内側に内容物が残存するが、カップを上下に振動させる(手でカップを振るなどの動作をする)と、内容物が取り出せる。取り出し後のカップ内面を肉眼で観察した際、付着物がほどんど確認できない状態になるもの。
×:カップを上下に振動させる(手でカップを振るなどの動作をする)だけでは、内容物が取り出し難い。上下に振動させるスピードを極端に増すか、もしくはスプーンなどの器具を用いて内容物を強制的に取り出した後、カップ内面を肉眼で観察した際、付着物が明らかに確認できる状態になるもの。
【0059】
(4)成形性
被覆金属板にワックス塗布後、直径179mmの円板を打ち抜き、絞り比1.80で浅絞り缶を得た。次いで、この絞り缶に対し、絞り比2.20で再絞り加工を行った。この後、常法に従いドーミング成形を行った後、トリミングし、次いでネックイン−フランジ加工を施し深絞り缶を成形した。このようにして得た深絞り缶のネックイン部に着目し、フィルムの損傷程度を目視観察した。
(評点について)
○:成形後フィルムに損傷が認められない状態
△:成形可能であるが、部分的にフィルム損傷が認められる状態
×:缶が破胴し、成形不可能
(5)転写性
樹脂被覆金属板の、容器成形後に容器内面側となる樹脂表面と、容器成形後に容器外面側となる樹脂表面を接触させ、200kg/cm2の荷重を負荷したまま、試験環境を60℃一定に保ちながら1週間経時させる。その後、容器成形した後容器外面側となる樹脂層表面の表面自由エネルギーを測定し、試験を開始する前の表面自由エネルギーとの差を求めた(湿度:55〜65%、温度20℃)。
(評点について)
○:表面自由エネルギーの差が、5mN/m未満
△:表面自由エネルギーの差が、5mN/m以上10mN/m未満
×:表面自由エネルギーの差が、10mN/m以上
(6)印刷適性
樹脂被覆金属板の容器成形した後容器外面側となる樹脂表面に印刷用インク(東洋インキ製印刷用インキCCST39)を塗布・乾燥させ、塗膜厚1.5μmとなるよう調整した。
その後、塗装面にニチバン(株)製セロテープ(登録商標)を密着させ、一気に剥離する。10枚試験を行い、インクに剥がれた枚数を調査した。
○:0枚
△:1〜3枚
×:4枚以上
得られた結果を表7に示す。
【0060】
【表7】

【0061】
表7より、本発明範囲の発明例は、内容物取り出し性に優れ、かつ他の特性も良好である。これに対し、本発明の範囲を外れる比較例は、内容物取り出し性をはじめ、いずれかの特性が劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の樹脂被覆金属板は、優れた内容物取り出し性が要求される容器用途、包装用途として好適である。そして、絞り加工等を行う容器用素材、特に食缶容器用素材として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】金属板のラミネート装置の要部を示す図である。(実施例1)
【符号の説明】
【0064】
1 金属板(クロムめっき鋼板)
2 金属帯加熱装置
3 ラミネートロール
4a、4b 樹脂フィルム
5 金属帯冷却装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂層を両面に有する容器用樹脂被覆金属板であって、該金属板を容器成形した後に容器内面側になる樹脂層表面の、水との界面自由エネルギーが30mN/m以上であることを特徴とする内容物取り出し性に優れる容器用樹脂被覆金属板。
【請求項2】
樹脂層を両面に有する容器用樹脂被覆金属板であって、該金属板を容器成形した後に容器内面側になる樹脂層表面の、レトルト殺菌処理後の、水との界面自由エネルギーが30mN/m以上であることを特徴とする内容物取り出し性に優れる容器用樹脂被覆金属板。
【請求項3】
容器成形した後に容器内面側になる前記樹脂層が、ポリエステルを主成分とする樹脂層であることを特徴とする請求項1または2に記載の内容物取り出し性に優れる容器用樹脂被覆金属板。
【請求項4】
容器成形した後に容器内面側になる前記樹脂層が、イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤のうち、少なくとも一つを含むことを特徴する請求項1〜3のいずれかに記載の内容物取り出し性に優れる容器用樹脂被覆金属板。
【請求項5】
容器成形した後に容器内面側になる前記樹脂層が、0.5mass%〜40.0mass%の脂肪酸アミドを含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の内容物取り出し性に優れる容器用樹脂被覆金属板。
【請求項6】
前記脂肪酸アミドが、エチレンビスステアリン酸アミドであることを特徴とする請求項5に記載の内容物取り出し性に優れる容器用樹脂被覆金属板。
【請求項7】
容器成形した後に容器内面側になる前記樹脂層が、複層構造の樹脂層であって、かつ、内容物と接する樹脂層表面の、水との界面自由エネルギーが30mN/m以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の内容物取り出し性に優れる容器用樹脂被覆金属板。
【請求項8】
容器成形した後に容器内面側になる前記樹脂層が、複層構造のポリエステル樹脂層であって、最上層のポリエステル樹脂層は、0.5mass%〜40.0mass%の脂肪酸アミドを含有し、かつ、内容物と接する樹脂層表面の、水との界面自由エネルギーが30mN/m以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の内容物取り出し性に優れる容器用樹脂被覆金属板。
【請求項9】
前記脂肪酸アミドが、エチレンビスステアリン酸アミドであることを特徴とする請求項8に記載の内容物取り出し性に優れる容器用樹脂被覆金属板。
【請求項10】
ポリエステルを主成分とする樹脂層を両面に有する容器用樹脂被覆金属板であって、容器成形した後に容器内面側になる樹脂層表面の水との界面自由エネルギーが、該容器成形した後の内容物が充填される際に30mN/m以上であり、容器成形した後に容器外面側になる樹脂層表面の表面自由エネルギーが、25mN/m以上であることを特徴とする内容物取り出し性に優れる容器用樹脂被覆金属板。
【請求項11】
樹脂層を両面に有する金属板を容器成形した樹脂被覆金属缶であって、該金属板が請求項1〜10のいずれかに記載の容器用樹脂被覆金属板であることを特徴とする内容物取り出し性に優れる樹脂被覆金属缶。
【請求項12】
樹脂層を両面に有する金属板を容器成形した樹脂被覆金属缶であって、容器成型した後に容器内面側になる樹脂層表面の、水との界面自由エネルギーが30mN/m以上であることを特徴とする内容物取り出し性に優れる樹脂被覆金属缶。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−55687(P2007−55687A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−201379(P2006−201379)
【出願日】平成18年7月25日(2006.7.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】