説明

寄生虫症抑制剤、海産養殖魚類用飼料、および海産養殖魚類の寄生虫症の予防方法

【課題】 駆虫の対象となる魚種や寄生虫の種類に限定されることなく使用でき、養殖業者の労力およびコストを軽減するとともに養殖魚に過大なストレスを与えることがない寄生虫症抑制剤を提供する。
【解決手段】 寄生虫症抑制剤により、ブリ、カンパチ、ヒラマサ、マダイ、スズキ、ヒラメ、トラフグ、シマアジ、イシガキダイ、スギ、クロマグロなどの海産養殖魚類に寄生するハダムシやエラムシなどの外部寄生虫による寄生虫症を抑制する。この寄生虫症抑制剤は、カカオ豆から得られるカカオ豆組成物、すなわちカカオ豆から生成されるココアパウダーやカカオ豆の豆殻を有効成分として含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寄生虫症抑制剤に係り、特に海産養殖魚類に寄生する外部寄生虫による寄生虫症を抑制する寄生虫症抑制剤に関するものである。また、本発明は、このような寄生虫症抑制剤を含む海産養殖魚類用飼料および寄生虫症抑制剤を投与して海産養殖魚類の寄生虫症を予防する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
日本で広く養殖されている海産魚類に寄生して被害を与える寄生虫としては、宿主となる魚種や寄生する部位によって様々な種類のものがあるが、ブリ、カンパチ、マダイ、スズキ、ヒラメ、トラフグ、シマアジ、ヒラマサ、イシガキダイ、スギ、クロマグロなどの海産養殖魚類の体表に寄生する通称ハダムシと呼ばれる外部寄生虫や、ブリ、カンパチ、ヒラマサ、マダイ、トラフグ、ヒラメなどの鰓に寄生する通称エラムシと呼ばれる外部寄生虫などが知られている。
【0003】
このような外部寄生虫による海産養殖魚類の被害は、寄生数の少ない段階ではそれほど大きな問題にはならないが、繁殖適水温期(22℃〜26℃)である5〜7月には、寄生虫の虫卵が孵化して成虫となり産卵に至るライフサイクルが2〜3週間と比較的短くなるため、大量の寄生が生じ、大きな問題となる。この寄生刺激のストレスによって養殖魚類の摂餌量の減少、成長停滞、活力低下が起こる。さらに、外部寄生に伴う体表の損傷部位から病原性微生物の2次感染が誘発され、被害の拡大を招く結果になる。このような状況は、寄生虫に対する抵抗力が弱い稚魚期や幼魚期に特に問題となる。
【0004】
このような海産養殖魚類における外部寄生虫の駆虫方法としては、従来から淡水浴や濃塩水浴などの方法が知られている。これらの方法の原理は、海水とは浸透圧の異なる淡水や濃塩水に魚体を3〜5分間浸漬し、この浸透圧の差によって外部寄生虫を死滅させ、透明な虫体が白化して魚体表から剥落することに基づいている。例えば、一般的に行われている淡水浴では、海面養殖生簀の周辺または船上に設置した特設水槽に淡水を満たし、この特設水槽にエアレーションによる通気を行う。この特設水槽に養殖生簀から取り上げた養殖魚を浸漬して3〜5分間放置し、寄生虫体を死滅および剥落させる。
【0005】
しかしながら、この淡水浴を用いた駆虫方法では、大量の淡水を運んで特設水槽に汲み入れる必要があり、また、莫大な数の養殖魚を生簀から取り上げて特設水槽に入れ、さらに淡水浴の終了後には特設水槽から取り上げて養殖生簀に戻す必要がある。このように、淡水浴を用いた駆虫方法は、煩雑で過酷な作業を繰り返さなければならず、過大な労力と時間を必要としている。
【0006】
また、これらの作業過程における養殖魚の取り上げや淡水浴でのハンドリングが、これらの養殖魚に対して多大なストレスを与えることになる。特に、繁殖適水温期には外部寄生虫のライフサイクルが2〜3週間と短くなり、これに伴い頻繁に淡水浴を行う必要があるため、養殖魚にストレスが蓄積され、養殖魚の健康状態に悪影響を及ぼすことにもなる。
【0007】
このように、多種の海産養殖魚類に寄生する外部寄生虫(ハダムシやエラムシ)を駆虫する方法として、一般的には淡水浴が利用されてきたが、最近では一部の魚類について駆虫剤で薬浴する方法が農林水産省によって示されている(非特許文献1参照)。例えば、ブリ、カンパチ、マダイ、シマアジ、スギ、クロマグロなどのスズキ目魚類におけるハダムシ駆虫のために、承認済みの過酸化水素1kgを現場海水の1mに混合溶解して3分間魚体を薬浴する方法、トラフグやカワハギなどのフグ目魚類におけるエラムシ駆虫のために、承認済みの過酸化水素1kgを現場海水の1mに混合溶解して20分間魚体を薬浴する方法、フグ目魚類におけるハダムシ駆虫のために、承認済みの過酸化水素1kgを現場海水の1mに混合溶解して20〜30分間魚体を薬浴する方法などが提案されている。なお、過酸化水素を用いる薬浴法では、工業用過酸化水素や食品添加物用過酸化水素などは未承認となっているため、これらの工業用過酸化水素や食品添加物用過酸化水素を使用することはできない。
【0008】
このような過酸化水素を薬浴駆虫剤として現場海水に混合溶解して薬浴に供する方法によれば、淡水浴のように養殖生簀の周辺や船上に設けた特設水槽に大量の淡水を運搬して汲み入れる労力と経費が必要なくなるという利点がある。しかしながら、この薬浴作業も長時間にわたって多大な労力を必要とする点では淡水浴と変わりはなく、また、薬浴に伴うストレスによって、駆虫の対象となる養殖魚の活力が低下し、病原性微生物の2次感染が誘発されて魚病の発生原因となる懸念が依然として残されている。
【0009】
これらの問題を解決するために、淡水浴や薬浴によらない方法として、駆虫剤を経口投与する方法が提案されている(特許文献1、特許文献2、非特許文献1参照)。例えば、ブリ、カンパチ、マダイ、シマアジ、スギ、クロマグロなどのスズキ目魚類について、ハダムシ駆虫剤としてプラジクアンテル(イソキノリン・ピラジン誘導体)を魚体重1kg当たり1日150mg経口投与する方法が提案されている。このような方法によれば、日常の給餌作業において、駆虫剤を飼料に混合して養殖魚に給与すればよいので、大きな労力を必要としない。また、駆虫剤は飼料とともに経口摂取されるので、養殖魚にストレスを与えることもなく、確実に駆虫処理ができるという点で大きな利点がある。
【0010】
しかしながら、例えば、上述した例で挙げられているハダムシ駆虫剤は、水産用医薬品として承認された高価な医薬品である。養殖魚に給与すべき薬剤の量は養殖魚の体重が大きくなるにしたがって多くなるので、このような高価な駆虫剤の使用は、薬剤経費の点から魚体重の小さい稚魚期または幼魚期に限定されることになる。したがって、魚体重1kgを超える魚に対しては、上述した淡水浴または薬浴を使用せざるを得ない状況にある。
【0011】
また、上述した駆虫剤は、スズキ目魚類のハダムシのみを対象に使用できる経口駆虫剤として承認されており、トラフグやカワハギなどのフグ目魚類、ヒラメやマコガレイなどのカレイ目魚類のハダムシおよびエラムシに対しては使用が承認されていない。したがって、スズキ目魚類のエラムシ、フグ目魚類やカレイ目魚類のハダムシおよびエラムシに対しては依然として淡水浴や薬浴で対応する以外に方法がない。このように、医薬品としての経口駆虫剤は便利ではあるものの、使用上の制約が多く、使いづらい一面があった。
【0012】
【特許文献1】特開平7−213234号公報
【特許文献2】特開2000−281568号公報
【非特許文献1】農林水産省消費・安全局衛生管理課、「水産用医薬品の使用について」、第17報、平成15年7月18日、p.9,12
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、駆虫の対象となる魚種や寄生虫の種類に限定されることなく使用でき、養殖業者の労力およびコストを軽減するとともに養殖魚に過大なストレスを与えることがない寄生虫症抑制剤を提供することを第1の目的とする。
【0014】
また、本発明は、駆虫の対象となる魚種や寄生虫の種類に限定されることなく使用でき、また、養殖魚に過大なストレスを与えずに、安価かつ少ない労力で海産養殖魚類の寄生虫症を抑制することができる海産養殖魚類用飼料を提供することを第2の目的とする。
【0015】
さらに、本発明は、安価に、駆虫の対象となる魚種や寄生虫の種類に限定されることなく使用でき、養殖業者の労力負担およびコストを軽減するとともに養殖魚に過大なストレスを与えることがない海面養殖魚類の寄生虫症の予防方法を提供することを第3の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
例えば、ブリ、カンパチ、ヒラマサなどの養殖ブリ類におけるハダムシに対する感受性は、同一魚種であっても個体間で差がみられる。当初の寄生数が少ない個体では、淡水浴で駆虫処理した後に再度寄生する数は少なくなる傾向があり、逆に当初の寄生数が多い個体では、駆虫処理後の再寄生数も多くなる傾向がある。これらの傾向は、養殖魚類の細菌・ウイルス感染症において、生体防御活性の高い個体は発症頻度が低く、逆に生体防御活性の低い個体は発症頻度が高くなる傾向と類似している。これらのことから、本発明者等は、ハダムシによる寄生虫症の抑制方法として、養殖魚類の生体防御活性を高めることが有効であると考えた。
【0017】
また、養殖トラフグにおいて、鰓にエラムシが寄生した個体が斃死を免れて生き残った場合は、その後のエラムシ寄生を受ける頻度が低くなると言われている。このことは、養殖魚類の細菌・ウイルス感染症において、斃死を免れた個体は抗体免疫を獲得して生体防御活性が向上し、その後の感染発症が抑制されることと共通している。これらのことから、本発明者等は、エラムシによる寄生虫症の抑制方法として、養殖魚類の生体防御活性を高めることが有効であると考えた。
【0018】
養殖魚類の生体防御活性を増強する物質としては、これまで菌体由来のペプチドグリカンや酵母類、きのこ類、海藻類由来のβ−1,3−グルカン、あるいはエビ・カニ殻のキチン・キトサン(「養殖」、緑書房、2001年11月、p.61)などが開発され、利用されてきたが、最近では、様々な植物に含まれるフラボノイド類、アントシアン類、カテキン類等に代表されるポリフェノール化合物が注目されるようになっている。
【0019】
ポリフェノールは、水溶性の一群のフェノールであり、同じ分子内のベンゾール核(炭素六員環)に直結した複数の水酸基(−OH基)を有する化合物の総称である。このポリフェノールは、天然の植物界では、通常、糖と結合した配糖体として広く分布しており、植物の色素や苦味の成分などを構成している。このようなポリフェノールは、様々な疾病の原因となる生体内活性酸素や過酸化脂質の有害な働きを抑制する抗酸化作用や抗ストレス作用、あるいはビタミンP作用(毛細血管の強化、正常な透過性の維持、アレルギー抗過敏作用、ビタミンC酸化抑制など)をはじめとする医薬的効果を示すことが知られている(「食品学」、三共出版、1994年、p.117−122;「理化学辞典」、岩波書店、1986年、p.1030,1130)。
【0020】
本発明者等は、海産養殖魚類の生体防御活性を増強する物質について種々研究を進める中で、魚類飼料の分野では全く利用されておらず、また、養殖魚類に対する生理的役割も研究されていないカカオ豆に注目した。カカオ豆は、フラボノイド類のケルセチンやその配糖体でビタミンP作用を示すルチン、あるいはタンニン、エピカテキンなど、カカオポリフェノールを豊富に含有していることがわかっている。本発明者等による実験の結果、このカカオ豆を生体防御活性物質として、海産養殖魚類に経口投与することにより、外部寄生虫症を極めて有効に抑制できることが突き止められ、本発明を完成するに至った。
【0021】
すなわち、本発明の第1の態様によれば、海産養殖魚類に寄生する外部寄生虫による寄生虫症を抑制する寄生虫症抑制剤が提供される。この寄生虫症抑制剤は、カカオ豆から得られるカカオ豆組成物、すなわちカカオ豆から生成されるココアパウダーおよびカカオ豆の豆殻の少なくとも1つを有効成分として含んでいる。
【0022】
本発明の第2の態様によれば、上記寄生虫症抑制剤を含有する海産養殖魚類用飼料が提供される。例えば、上記寄生虫症抑制剤を配合飼料粉末と混合して固形飼料に造粒成形したものや、上記寄生虫症抑制剤を生餌モイスト用飼料粉末および生餌と混合して生餌モイスト飼料に造粒成形したものを海産養殖魚類用飼料として用いることができる。
【0023】
本発明の第3の態様によれば、海産養殖魚類の寄生虫症の予防方法が提供される。すなわち、上記海産養殖魚類用飼料を、ブリ、カンパチ、ヒラマサ等のブリ類やマダイ、スズキ、ヒラメ、トラフグ、シマアジ、イシガキダイ、スギ、クロマグロをはじめとする海産養殖魚類に経口投与することで、これらの海産養殖魚類の寄生虫症を予防することができる。
【0024】
ここで、カカオ豆とは、熱帯地域で栽培されるアオギリ科カカオノキ属植物であるカカオ樹の果実に入っている種子をいう。また、ココアパウダーとは、このカカオ豆を通常の加工方法により発酵および焙煎した後、皮を取り除き、摺り潰して粉末に加工したものをいい、ピュアココアとも呼ばれる。また、カカオ豆の豆殻(以下、カカオ豆殻という)とは、ココアパウダーを加工する際に加工副産物として得られる豆殻(カカオハスク)をいう。なお、一般に、ココアパウダーは、飲用に供する場合はココアと呼ばれ、菓子に用いられる場合はチョコレートと呼ばれる(「食材図典」、小学館、1995年、p.351)。したがって、これらのココアやチョコレートが本発明におけるココアパウダーに含まれることは言うまでもない。
【0025】
本発明者等は、ココアパウダーとカカオ豆殻のおよその成分組成を調べるために、これらを溶剤分画に付して画分比を比較した。その結果、ココアパウダーは、水分4.0%、脂溶性成分19.1%、水溶性エキス成分38.2%、不溶性成分の繊維質38.2%であり、カカオ豆殻は、水分7.0%、脂溶性成分8.9%、水溶性エキス成分11.2%、不溶性成分の繊維質73.0%であった。このように、ココアパウダーの加工副産物であるカカオ豆殻には、ココアパウダーの成分である脂溶性成分や水溶性エキス成分がかなり残留していることが認められた。この結果から、本発明者等は、寄生虫症抑制剤の有効成分としてカカオ豆殻をココアパウダーと同様に取り扱っても差し支えないと考えた。なお、カカオ豆の豆殻については、乳牛用の畜産飼料において繊維質源として極めてわずかだけ使用されることが例示されている(「飼料原料図鑑」、芝光社、平成9年、p.39)。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、駆虫の対象となる魚種や寄生虫の種類に限定されることなく使用でき、養殖魚に過大なストレスを与えずに、安価かつ少ない労力で海産養殖魚類の寄生虫症を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明に係る寄生虫症抑制剤は、カカオ豆から得られるカカオ豆組成物、すなわちカカオ豆から生成されるココアパウダーおよびカカオ豆の豆殻の少なくとも1つを有効成分として含むものである。この寄生虫症抑制剤を海産養殖魚類に投与する場合、そのまま単独で養殖魚類に投与してもよいが、海産養殖魚類がより確実に経口摂取できるように、海産魚類用の配合飼料粉末に所定量のカカオ豆組成物を添加して均一に混合した後、適当なサイズの配合固形飼料に造粒成形したものを給与することが好ましい。この場合において、カカオ豆組成物の含有量が一定濃度となるように飼料用賦形剤を混合した、通常、混合飼料と呼ばれるプレミックス(混合飼料プレミックス)を調製しておいて、この混合飼料プレミックスを海産養殖魚類用の配合飼料粉末に添加混合して造粒成形してもよい。あるいは、生餌モイスト用飼料粉末に所定量のカカオ豆組成物を直接添加して均一に混合した後、生餌と合わせて適当なサイズの生餌モイスト飼料に造粒成形したものを給与してもよい。この場合において、生餌モイスト用飼料粉末に上記混合飼料プレミックスを所定量添加して混合した後、生餌と合わせて適当なサイズの生餌モイスト飼料に造粒成形してもよい。
【0028】
ここで、混合飼料プレミックスの調製に使用される飼料用賦形剤としては、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、シリカゲル、乳糖、飼料用酵母類、小麦粉、澱粉、デキストリン、穀類粉、糟糠類などが挙げられる。また、必要に応じて、ビタミン混合物やミネラル混合物などの栄養剤を添加して海産養殖魚類の栄養強化を図ることもできる。さらに、生餌モイスト飼料の造粒成形を容易にするために、アルギン酸ソーダやグアガムなどの粘結剤を同時に添加してもよい。
【0029】
また、上記寄生虫症抑制剤を含む固形飼料または生餌モイスト飼料を海産養殖魚類に給与する場合、飼料水分を10%としたときの飼料中のココアパウダーの濃度が500〜5000ppm、好ましくは1000〜3000ppmとなるように、あるいは、カカオ豆殻の濃度が3000〜10000ppm、好ましくは5000〜10000ppmとなるようにするのがよい。
【0030】
また、給与すべきカカオ組成物の重量は、対象とする魚の種類や大きさによっても異なるが、通常、1日につき魚体重1kg当たり、10〜100mg、好ましくは20〜60mgのココアパウダー、または60〜200mg、好ましくは100〜200mgのカカオ豆殻を給与することが好ましい。なお、これらの値は、対象とする魚が飽食摂取した、カカオ豆組成物を含有する飼料の摂餌量(平均摂餌率2%)から換算したものである。
【0031】
例えば、ブリ、カンパチ、マダイ、スズキ、ヒラメ、トラフグ、シマアジ、ヒラマサ、イシガキダイ、スギ、クロマグロなどの海産養殖魚類の体表に寄生するハダムシとしては、ベネデニア・セリオラエ(Benedenia seriolae)、ベネデニア・セキイ(Benedenia sekii)、ベネデニア・ホシナイ(Benedenia hoshinai)、ベネデニア・エピネフェリ(Benedenia epinepheli)、ネオベネデニア・ギレレ(Benedenia girellae)、アノプロディスクス・タイ(Anoplodiscus tai. sp. nov.)、アノプロディスクス・スパリ(Anoplodiscus spari)、カリグス・ラランディ(Caligus lalandei)、カリグス・ロンギペディス(Caligus longipedis)、シュードカリグス・フグ(Pseudocaligus fugu)などが報告されている。
【0032】
また、例えば、ブリ、カンパチ、ヒラマサ、マダイ、トラフグ、ヒラメなどの鰓に寄生するエラムシとして、ヘテラキシネ・ヘテロセルカ(Heteraxine heterocerca)、ゼウクサプタ・ジャポニカ(Zeuxapta japonica)、ビバギナ・タイ(Bivagina tai)、ヘテロボツリウム・オカモトイ(Heterobothrium okamotoi)、ヘテロボツリウム・テトロドニス(Heterobothrium tetrodonis)、ネオヘテロボツリウム・ヒラメ(Neoheterobothriuum hirame)、カリグス・スピノサス(Caligus spinosus)などが報告されている。
【0033】
上述した寄生虫症抑制剤を含有する海産養殖魚類用飼料は、これらのハダムシやエラムシに有効なものであり、これらの外部寄生虫類が海産養殖魚類に寄生する前から投与することができる。また、ブリやカンパチの養殖では、外部寄生虫による被害が大きい稚魚から幼魚(体重600〜800g)までの期間については1日に1〜3回の投与を連日行ってもよい。また、マダイやトラフグでも稚魚期から幼魚期にかけて常時1日1〜3回の投与を行ってもよい。さらに、外部寄生虫症を有効に抑制するために、一度寄生虫症に罹った養殖魚類を淡水浴等で駆虫処理した後、上記寄生虫症抑制剤を投与してもよい。
【0034】
以下、上述した海産養殖魚類用飼料の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
まず、外部寄生虫であるハダムシ(ベネデニア・セリオラエ)の被害を最も受け易い魚種とされるカンパチに対する海産養殖魚類用飼料の寄生抑制効果を調べた。試験飼料としては、海産魚類用配合飼料粉末にカカオ豆殻を添加してカカオ豆殻の濃度がそれぞれ1000ppm、3000ppm、5000ppmとなるように均一に混合した後、試験魚の大きさに合わせて適当なサイズに造粒成形したペレット状乾燥固形飼料と、ココアパウダーを添加してココアパウダーの濃度がそれぞれ500ppm、1000ppmとなるように均一に混合した後、試験魚の大きさに合わせて適当なサイズに造粒成形したペレット状乾燥固形飼料とを用いた。また、対照飼料として、これらのカカオ豆組成物を含まない固形飼料を用いた。
【0036】
この実施例1では、試験開始時の平均体重が約130gのカンパチ幼魚を実験に先立って3分間淡水浴に付し、上記ハダムシを完全に駆虫した後、25尾を1トン容FRP円形水槽に収容して4週間、各飼料を1日2回試験魚に飽食給餌(平均摂餌率2%)して飼育した。この間、2週目毎に体重測定を行うとともに、各試験区から5尾を無作為に抽出して淡水浴に付し、各期間中に自然寄生したハダムシを体表から剥落させて、ハダムシの総寄生数を計数した。これにより、寄生数の多寡に基づいてカカオ豆組成物の濃度別による寄生虫症の抑制効果を比較した。試験終了後のカンパチの平均体重は約220gとなった。このときの結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【実施例2】
【0038】
実施例2では、実施例1と同様の実験を、試験開始時の平均体重が約35gのカンパチ稚魚に対して行った。この実験においては、カカオ豆殻の濃度がそれぞれ5000ppm、10000ppmの試験飼料と、ココアパウダーの濃度がそれぞれ1000ppm、3000ppm、5000ppmの試験飼料を用いた。淡水浴によりハダムシを完全に駆虫した30尾のカンパチ稚魚を1トン容FRP円形水槽に収容して6週間、各飼料を給餌して飼育した。この間、2週目毎に各試験区から5尾を無作為に抽出して淡水浴に付し、ハダムシの総寄生数を計数した。試験終了後のカンパチの平均体重は約140gとなった。このときの結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【実施例3】
【0040】
実施例3では、実施例1と同様の実験を、試験開始時の平均体重が約45gのカンパチ稚魚に対して行った。この実験においては、カカオ豆殻の濃度がそれぞれ5000ppm、10000ppmの試験飼料を用いた。淡水浴によりハダムシを完全に駆虫した17尾のカンパチ稚魚を1トン容FRP円形水槽に収容して6週間、各飼料を給餌して飼育した。この間、2週目毎に各試験区から3尾を無作為に抽出して淡水浴に付し、ハダムシの総寄生数を計数した。試験終了後のカンパチの平均体重は約130gとなった。このときの結果を表3に示す。
【0041】
【表3】

【0042】
上記表1から表3に示す結果から、稚魚または幼魚サイズのカンパチについては、4週間〜6週間の飼育期間を通して、いずれの試験飼料も対照飼料に比べてハダムシの寄生数が明らかに減少していることがわかる。また、ココアパウダー濃度が1000ppmの飼料およびカカオ豆殻濃度が5000ppm〜10000ppmの飼料については、試験魚の体重を増加させる効果が高いことが確認された。
【実施例4】
【0043】
実施例4では、実施例1と同様の実験を、試験開始時の平均体重が約500gの育成段階におけるカンパチに対して行った。この実験においては、カカオ豆殻の濃度5000ppmの試験飼料を用いた。淡水浴によりハダムシを完全に駆虫した24尾のカンパチを1トン容FRP円形水槽に収容して8週間、飼料を給餌して飼育した。この間、2週目毎に各試験区から4尾を無作為に抽出して淡水浴に付し、ハダムシの総寄生数を計数した。試験終了後のカンパチの平均体重は約750gとなった。このときの結果を表4に示す。
【0044】
【表4】

【実施例5】
【0045】
実施例5では、実施例1と同様の実験を、試験開始時の平均体重が約650gの育成段階におけるカンパチに対して行った。この実験においては、カカオ豆殻の濃度が5000ppmの試験飼料を用いた。淡水浴によりハダムシを完全に駆虫した16尾のカンパチを1トン容FRP円形水槽に収容して8週間、飼料を給餌して飼育した。この間、2週目毎に各試験区から4尾を無作為に抽出して淡水浴に付し、ハダムシの総寄生数を計数した。試験終了後のカンパチの平均体重は約850gとなった。このときの結果を表5に示す。
【0046】
【表5】

【0047】
上記表4および表5に示す結果から、育成サイズのカンパチについては、8週間の飼育期間を通して、いずれの試験飼料もハダムシの寄生数が対照飼料よりも少ない数で推移しており、カカオ豆殻による寄生虫症の抑制効果が認められた。また、実施例4および5で使用した試験飼料についても、上述した実施例1から3で使用した試験飼料と同様に、試験魚の体重を増加させる効果が高いことが認められた。
【0048】
従来から、有機化セレン含有菌体(例えば、特開平7−213234号公報参照)や唐辛子の辛味成分であるカプサイシン(例えば、特開2000−281568号公報参照)が寄生虫症を抑制するのに効果的であることが知られている。以下に述べる実施例6から9では、上記実施例4および5で供試したカカオ豆殻の濃度が5000ppmの試験飼料のカンパチに対する寄生虫症の抑制効果を、セレンを含有する飼料およびカプサイシンを含有する飼料と比較した。
【実施例6】
【0049】
実施例6では、試験開始時の平均体重が約40gのカンパチ稚魚に対する寄生虫症の抑制効果を比較した。比較する飼料としては、配合飼料粉末にセレンを添加してセレン濃度が1ppmとなるように均一に混合した後、ペレット状乾燥固形飼料に調製した飼料と、カプサイシンを添加してカプサイシン濃度が15ppmとなるように均一に混合した後、ペレット状乾燥固形飼料に調製した飼料とを用いた。淡水浴によりハダムシを完全に駆虫した30尾のカンパチを1トン容FRP円形水槽に収容して4週間、飼料を給餌して飼育した。この間、2週目毎に各試験区から5尾を無作為に抽出して淡水浴に付し、ハダムシの総寄生数を計数した。試験終了後のカンパチの平均体重は約100gとなった。このときの結果を表6に示す。
【0050】
【表6】

【実施例7】
【0051】
実施例6と同様の実験を、試験開始時の平均体重が約330gの育成段階におけるカンパチに対して行った。比較する飼料としては、セレン濃度を1ppmとしたペレット状乾燥固形飼料を用いた。淡水浴によりハダムシを完全に駆虫した15尾のカンパチを1トン容FRP円形水槽に収容して6週間、飼料を給餌して飼育した。この間、2週目毎に各試験区から2尾を無作為に抽出して淡水浴に付し、ハダムシの総寄生数を計数した。試験終了後のカンパチの平均体重は約450gとなった。このときの結果を表7に示す。
【0052】
【表7】

【実施例8】
【0053】
実施例6と同様の実験を、試験開始時の平均体重が約580gの育成段階におけるカンパチに対して行った。比較する飼料としては、セレン濃度をそれぞれ0.5ppm、1ppmとしたペレット状乾燥固形飼料を用いた。淡水浴によりハダムシを完全に駆虫した15尾のカンパチを1トン容FRP円形水槽に収容して6週間、飼料を給餌して飼育した。この間、2週目毎に各試験区から2尾を無作為に抽出して淡水浴に付し、ハダムシの総寄生数を計数した。試験終了後のカンパチの平均体重は約650gとなった。このときの結果を表8に示す。
【0054】
【表8】

【実施例9】
【0055】
実施例6と同様の実験を、試験開始時の平均体重が約1.07gのカンパチ成魚に対して行った。比較する飼料としては、セレン濃度を1ppmとしたペレット状乾燥固形飼料とカプサイシン濃度を35ppmとしたペレット状乾燥固形飼料とを用いた。淡水浴によりハダムシを完全に駆虫した8尾のカンパチを2トン容FRP円形水槽に収容して4週間、飼料を給餌して飼育した。この間、2週目毎に各試験区から4尾を無作為に抽出して淡水浴に付し、ハダムシの総寄生数を計数した。試験終了後のカンパチの平均体重は約1.6kgとなった。このときの結果を表9に示す。
【0056】
【表9】

【0057】
上記表6から表9に示す結果から明らかなように、本発明に係るカカオ豆殻の濃度5000ppmの飼料は、カンパチに対するハダムシ寄生の抑制効果として、従来の寄生虫症抑制剤よりも優れた効果を示した。また、本発明に係る海産養殖魚類用飼料は、カンパチの稚魚から成魚のいずれの段階においても、比較的安定した寄生虫症抑制効果を示すことがわかった。
【実施例10】
【0058】
次に、本発明に係る海産養殖魚類用飼料のハマチに対するハダムシ(ベネデニア・セリオラエ)の寄生抑制効果を調べた。試験飼料としては、海産魚類用配合飼料粉末にカカオ豆殻を添加してカカオ豆殻の濃度が5000ppmとなるように均一に混合した後、試験魚の大きさに合わせて適当なサイズに造粒成形したペレット状乾燥固形飼料と、ココアパウダーを添加してココアパウダーの濃度がそれぞれ1000ppm、3000ppm、5000ppmとなるように均一に混合した後、試験魚の大きさに合わせて適当なサイズに造粒成形したペレット状乾燥固形飼料とを用いた。この実施例10では、試験開始時の平均体重が約45gのハマチ稚魚50尾を水槽に収容して4週間飼育した。この間に自然寄生した各試験区におけるハダムシの総寄生数を計数した。試験終了後のハマチの平均体重は約135gとなった。このときの結果を表10に示す。
【0059】
【表10】

【0060】
上記表10に示す結果から、稚魚サイズのハマチについては、上記飼育期間を通して、いずれの試験飼料も対照飼料に比べてハダムシの寄生数が明らかに減少していることがわかる。また、実施例10で使用した試験飼料については、試験魚の体重を増加させる効果が高いことが確認された。
【実施例11】
【0061】
次に、本発明に係る海産養殖魚類用飼料のマダイに対するエラムシ(ビバギナ・タイ)の寄生抑制効果を調べた。試験飼料としては、海産魚類用配合飼料粉末にカカオ豆殻を添加してカカオ豆殻の濃度がそれぞれ5000ppm、10000ppmとなるように均一に混合した後、試験魚の大きさに合わせて適当なサイズに造粒成形したペレット状乾燥固形飼料を用いた。この実施例11では、試験開始時の平均体重が約160gのマダイ幼魚20尾を水槽に収容して8週間飼育し、この間、2週目毎に各試験区から5尾を無作為に抽出して体重測定を行うとともに、鰓を切除して顕微鏡によりエラムシ寄生状況を観察してエラムシの総寄生数を計数した。試験終了後のマダイの平均体重は約270gとなった。このときの結果を表11に示す。
【0062】
【表11】

【0063】
上記表11に示す結果から、幼魚サイズのマダイについては、上記飼育期間を通して、いずれの試験飼料も対照飼料に比べてエラムシの寄生数が明らかに減少していることがわかる。また、実施例11で使用した試験飼料については、試験魚の体重を増加させる効果が高いことが確認された。
【実施例12】
【0064】
次に、本発明に係る海産養殖魚類用飼料のヒラメに対するハダムシ(ネオベネデニア・ギレレ)の寄生抑制効果を調べた。試験飼料としては、海産魚類用配合飼料粉末にカカオ豆殻を添加してカカオ豆殻の濃度が5000ppmとなるように均一に混合した後、試験魚の大きさに合わせて適当なサイズに造粒成形したペレット状乾燥固形飼料と、ココアパウダーを添加してココアパウダーの濃度がそれぞれ1000ppm、3000ppm、5000ppmとなるように均一に混合した後、試験魚の大きさに合わせて適当なサイズに造粒成形したペレット状乾燥固形飼料とを用いた。この実施例12では、試験開始時の平均体重が約85gのヒラメ幼魚50尾を水槽に収容して6週間飼育し、この間、2週目毎に体重測定を行うとともに、各試験区から5尾を無作為に抽出して淡水浴に付し、各期間中に自然寄生したハダムシを体表から剥落させて、ハダムシの総寄生数を計数した。試験終了後のヒラメの平均体重は約180gとなった。このときの結果を表12に示す。
【0065】
【表12】

【0066】
上記表12に示す結果から、幼魚サイズのヒラメについては、上記飼育期間を通して、いずれの試験飼料も対照飼料に比べてハダムシの寄生数が明らかに減少していることがわかる。なお、実施例12のヒラメに対する実験では、カンパチやハマチと異なり、試験魚の体重を増加させる効果が対照飼料に比べて低いことが認められた。
【実施例13】
【0067】
海面養殖場において、本発明に係る海産養殖魚類用飼料のカンパチに対するハダムシ(ベネデニア・セリオラエ)の寄生抑制効果を試験した。8m×8m×8mの角型金網生簀に試験開始時の平均体重が約1.55kgのカンパチ4580尾を収容して試験区とし、同様の生簀に4680尾を収容して対照区とした。試験飼料としては、海産魚類用配合飼料粉末にカカオ豆殻を添加してカカオ豆殻の濃度が5000ppmとなるように均一に混合した後、試験魚の大きさに合わせて適当なサイズに造粒成形した円筒型半乾燥固形飼料(直径1.2cm、長さ1.1cm)を用いた。また、対照飼料としては、カカオ豆組成物を含まない生餌モイスト飼料(冷凍魚とモイスト用飼料粉末との混合物を造粒成形した飼料)を用いた。
【0068】
上記飼料を試験区および対照区のカンパチに1日1回、週6日、飽食給餌して2ヶ月飼育した。試験開始時に全魚を薬浴に付してハダムシを完全に駆虫し、飼育1ヶ月目に試験区および対照区から10尾ずつ取り上げて体重測定を行い、淡水浴に付してハダムシの寄生数を計測した。このとき、試験区および対照区の試験魚を全魚を薬浴に付してハダムシを完全に駆虫した後、試験を継続した。飼育2ヶ月目にこれと同じ作業を行い、体重測定とハダムシの寄生数の計測を行った。試験終了後のカンパチの平均体重は約2.1kgとなった。このときの結果を表13に示す。
【0069】
【表13】

【0070】
上記表13においては、海面養殖場のカンパチ成魚における飼育1ヶ月目のハダムシ寄生数は、対照区が300であるのに対して、試験区が170となっており、また、飼育2ヶ月目のハダムシ寄生数は、対照区が670であるのに対して、試験区が380となっている。すなわち、上記表13に示す結果から、いずれの計測においても、試験区の寄生数が対照区の寄生数の1/2程度に抑制されることがわかった。この結果は、対照区では2回の薬浴が必要となる場合に、試験区では1回の薬浴で済むことを示唆している。
【0071】
このように、養殖場規模における本実施例により、カカオ豆組成物が、寄生虫症の抑制に有効であるとともに、薬浴の回数を減らすことができるという利点を有することが明らかとなった。なお、本実施例における試験魚の体重の増加量については、飼料形態が固形飼料(試験飼料)と生餌モイスト飼料(対照飼料)とで異なるため、一概に比較することはできないが、試験の1ヶ月経過後は対照区で寄生虫が増加したため、摂餌量が低下して体重の増加量が大きく減少したことが推察される。
【実施例14】
【0072】
次に、海面養殖場で給餌される頻度の高い生餌にカカオ豆組成物を混合して養殖カンパチに給与し、ハダムシ(ベネデニア・セリオラエ)の寄生抑制効果を試験した。8m×8m×8mの角型金網生簀に試験開始時の平均体重が約280gのカンパチ幼魚17500尾を収容して試験区とし、同様の生簀に16000尾を収容して対照区とした。試験飼料としては、冷凍魚をそのまま粉砕機で砕き、これにカカオ豆殻の濃度が1000ppmとなるようにカカオ豆殻を添加して造粒成形した生餌ペレット飼料を用いた。また、対照飼料としては、カカオ豆組成物を含まない生餌ペレット飼料を用いた。
【0073】
上記飼料を試験区および対照区のカンパチに1日1回、週6日、飽食給餌した。試験開始時に全魚を薬浴に付してハダムシを完全に駆虫し、飼育1ヶ月目に試験区および対照区から10尾ずつ取り上げて体重測定を行い、淡水浴に付してハダムシの寄生数を計測した。試験終了後のカンパチの平均体重は約400gとなった。このときの結果を表14に示す。
【0074】
【表14】

【0075】
上記表14に示す結果から、対照区における飼育1ヶ月目のハダムシの寄生数は470であったのに対して、試験区における寄生数は280であり、試験区における寄生数が対照区の1/2程度に抑制されたことがわかる。この結果は、円筒型半乾燥固形飼料を用いて試験した上述の実施例13の結果と類似していることから、本発明に係る海産養殖魚類用飼料のハダムシに対する寄生抑制効果が、給餌される飼料の形態によって影響を受ける可能性は少ないと考えられる。なお、本実施例では、試験区におけるカンパチの体重の増加量が対照区における体重の増加量よりも多かったが、自然減耗と思われる斃死が試験区および対照区の双方にみられた。
【実施例15】
【0076】
次に、海面養殖場において、本発明に係る海産養殖魚類用飼料のトラフグに対するエラムシ(ヘテロボツリウム・オカモトイ)およびハダムシ(体表カリグス:シュードカリグス・フグ)の寄生抑制効果を試験した。10m×10m×5mの角型網生簀に試験開始時の平均体重が約390gのトラフグ3800尾を収容して試験区とし、同様の生簀に4500尾を収容して対照区とした。試験飼料としては、海産魚類用配合飼料粉末にカカオ豆殻を添加してカカオ豆殻の濃度が1000ppmとなるように均一に混合して造粒成形した生餌モイスト飼料(生餌とモイスト飼料粉末の比は9:1)を用いた。また、対照飼料としては、カカオ豆組成物を含まないモイスト飼料を用いた。
【0077】
上記飼料を試験区および対照区のトラフグに1日2回、週6日、飽食給餌して8週間飼育した。試験開始時に全魚を薬浴に付してエラムシおよびハダムシ(カリグス)を完全に駆虫し、その後の3週目と5週目の中間体重測定のたびに、対照区の魚だけを薬浴に付した。体重測定では、試験区および対照区から10尾ずつ取り上げ、その4尾は淡水浴に付し、ハダムシ(カリグス)を計測し、鰓を切除して顕微鏡によりエラムシを計測した。試験終了後のトラフグの平均体重は約500gとなった。このときの結果を表15に示す。
【0078】
【表15】

【0079】
上記表15に示す結果から、対照区におけるエラムシの寄生数は8週間を通して29〜67であるのに対して、試験区では3〜7と明らかに低減されていることがわかる。また、対照区におけるハダムシ(体表カリグス)の寄生数は8週目で8を示したが、試験区では飼育期間を通して寄生が認められなかった。このように、本実施例により、カカオ豆組成物が、トラフグのエラムシやハダムシ(カリグス)の寄生を抑制する効果を有することが明らかとなった。なお、本実施例では、試験区におけるトラフグの体重の増加量が対照区における体重の増加量よりも多かったが、自然減耗と思われる斃死が試験区および対照区の双方にみられた。
【0080】
これまで本発明の実施例について説明したが、本発明は上述の実施例に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海産養殖魚類に寄生する外部寄生虫による寄生虫症を抑制する寄生虫症抑制剤であって、
カカオ豆から生成されるココアパウダーおよびカカオ豆の豆殻の少なくとも一方を含むことを特徴とする寄生虫症抑制剤。
【請求項2】
前記海産養殖魚類は、ブリ、カンパチ、ヒラマサ、マダイ、スズキ、ヒラメ、トラフグ、シマアジ、イシガキダイ、スギ、およびクロマグロのうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載の寄生虫症抑制剤。
【請求項3】
前記外部寄生虫は、ハダムシであることを特徴とする請求項1または2に記載の寄生虫症抑制剤。
【請求項4】
前記ハダムシは、ベネデニア・セリオラエ(Benedenia seriolae)、ベネデニア・セキイ(Benedenia sekii)、ベネデニア・ホシナイ(Benedenia hoshinai)、ベネデニア・エピネフェリ(Benedenia epinepheli)、ネオベネデニア・ギレレ(Benedenia girellae)、アノプロディスクス・タイ(Anoplodiscus tai. sp. nov.)、アノプロディスクス・スパリ(Anoplodiscus spari)、カリグス・ラランディ(Caligus lalandei)、カリグス・ロンギペディス(Caligus longipedis)、およびシュードカリグス・フグ(Pseudocaligus fugu)のうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項3に記載の寄生虫症抑制剤。
【請求項5】
前記外部寄生虫は、エラムシであることを特徴とする請求項1または2に記載の寄生虫症抑制剤。
【請求項6】
前記エラムシは、ヘテラキシネ・ヘテロセルカ(Heteraxine heterocerca)、ゼウクサプタ・ジャポニカ(Zeuxapta japonica)、ビバギナ・タイ(Bivagina tai)、ヘテロボツリウム・オカモトイ(Heterobothrium okamotoi)、ヘテロボツリウム・テトロドニス(Heterobothrium tetrodonis)、ネオヘテロボツリウム・ヒラメ(Neoheterobothriuum hirame)、およびカリグス・スピノサス(Caligus spinosus)のうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項5に記載の寄生虫症抑制剤。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の寄生虫症抑制剤を含有することを特徴とする海産養殖魚類用飼料。
【請求項8】
前記寄生虫症抑制剤を配合飼料粉末と混合して固形飼料に造粒成形したことを特徴とする請求項7に記載の海産養殖魚類用飼料。
【請求項9】
前記寄生虫症抑制剤を生餌モイスト用飼料粉末および生餌と混合して生餌モイスト飼料に造粒成形したことを特徴とする請求項7に記載の海産養殖魚類用飼料。
【請求項10】
前記寄生虫症抑制剤と飼料用賦形剤とを混合した混合飼料プレミックスを前記飼料粉末に混合することを特徴とする請求項8または9に記載の海産養殖魚類用飼料。
【請求項11】
前記ココアパウダーを飼料水分10%換算値の濃度で500ppmから5000ppm含有することを特徴とする請求項7から10のいずれか一項に記載の海産養殖魚類用飼料。
【請求項12】
前記ココアパウダーを飼料水分10%換算値の濃度で1000ppmから3000ppm含有することを特徴とする請求項7から10のいずれか一項に記載の海産養殖魚類用飼料。
【請求項13】
前記豆殻を飼料水分10%換算値の濃度で3000ppmから10000ppm含有することを特徴とする請求項7から10のいずれか一項に記載の海産養殖魚類用飼料。
【請求項14】
前記豆殻を飼料水分10%換算値の濃度で5000ppmから10000ppm含有することを特徴とする請求項7から10のいずれか一項に記載の海産養殖魚類用飼料。
【請求項15】
請求項7から14のいずれか一項に記載の海産養殖魚類用飼料を前記海産養殖魚類に投与することを特徴とする海産養殖魚類の寄生虫症の予防方法。

【公開番号】特開2006−61107(P2006−61107A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−249224(P2004−249224)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(598062608)株式会社 ヒガシマル (2)
【Fターム(参考)】