説明

密封装置

【課題】シール性を維持しつつ摺動部分の摩耗を抑制することができる密封装置を提供する。
【解決手段】ハウジング4の軸孔に設けられた環状溝40に装着されて、ハウジング4と軸孔に挿入される軸5との間の環状隙間を密封する密封装置であって、軸5に向かって突出し、その先端が軸5に摺接する凸部20を備えた環状の樹脂部材2を備える密封装置において、凸部20は、低圧側斜面20aと高圧側斜面を両裾として構成され、高圧側Hからの圧力Pにより、樹脂部材2の凸部20よりも高圧側の部分が軸5から離れて、凸部20の高圧側斜面と軸5の周面との間の傾斜角度が大きくなるとともに、樹脂部材2の凸部20よりも低圧側の部分が軸5に近づいて、凸部20の低圧側斜面20aが軸5の周面に密着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば建設機械や運搬車両等のアクチュエータとして用いられる油圧シリンダ等に使用される密封装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油圧シリンダ等に使用される密封装置としては、図3(a)に示すような、樹脂部材110とOリング120とからなる密封装置100が従来から知られている。密封装置100は、油圧シリンダのロッド用の密封装置として、油圧シリンダの内周摺動部に使用され、外部への油漏れ防止を目的している。
【0003】
樹脂部材110は、四フッ化エチレン(PTFE)等の樹脂材料からなる断面矩形の環状部材であり、シリンダ200の内周面に設けられた環状溝201に装着される。そして、その内周面111がピストン300の外周面に摺接し、その低圧側端面112が環状溝201の低圧側側壁202に当接することにより、高圧側Hからの油漏れを防いでいる。
【0004】
また、樹脂部材110と環状溝201の溝底との間には、ゴム製のOリング120が配設されており、樹脂部材110をピストン300に向かって付勢して樹脂部材110の内周面111とピストン300の外周面との間の接触圧力を確保している。
【0005】
しかしながら、このような樹脂部材は、耐圧性・耐摩耗性は高いものの、摺動相手面への密着性が悪く、密封性能に劣るため、油漏れが許されない(例えば、漏れた油を回収するための機構を備えていない等)用途への適用が困難であった。
【0006】
そこで、耐圧性・耐摩耗性を保持しながら、シール性を高めるために、図3(b)に示すような、樹脂部材の摺動面に凸部113を設けたものが特許文献1に開示されている。
【0007】
この樹脂部材110aは、図4(a)に示すように、接触圧力分布Yにおいて凸部113部分の接触圧力の勾配の傾きを急にすることにより、上述した樹脂部材110に対してシール性の向上を図っている。
【特許文献1】特開2001−349438号公報
【特許文献2】特開平08−254272号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、凸部113は凸部先端の相手摺動面への接触面積が小さいため、凸部先端付近に接触圧力のピークが発生する。そして、高圧側Hの圧力が大きくなると、図4(b)に示すように、凸部先端部分の接触圧力が上昇し、該部分における潤滑性が低下する等して凸部に摩耗が発生してしまう。
【0009】
そして、凸部113の摩耗が大きくなると、Oリング120のしめ代が低下してOリング120による接触圧力の確保の効果が低下してしまい、シール性が低下してしまう。また、凸部113が摩耗して摺動面積等が変化することにより、樹脂部材の挙動が不安定となり、このこともシール性の低下の原因となる。
【0010】
本発明は上記の従来技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、シール性を維持しつつ摺動部分の摩耗を抑制することができる密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明における密封装置は、
軸孔を有するハウジングと前記軸孔に挿入される軸のうちの一方の部材に設けられた環状溝に装着されて、これら2部材間の環状隙間を密封する密封装置であって、
他方の部材に向かって突出し、その先端が該他方の部材に摺接する凸部を備えた環状の樹脂部材を備える密封装置において、
前記凸部は、低圧側斜面と高圧側斜面を両裾として構成され、
高圧側からの圧力により、
前記樹脂部材の前記凸部よりも高圧側の部分が前記他方の部材から離れて、前記凸部の前記高圧側斜面と前記他方の部材の周面との間の傾斜角度が大きくなるとともに、
前記樹脂部材の前記凸部よりも低圧側の部分が前記他方の部材に近づいて、前記凸部の前記低圧側斜面が前記他方の部材の周面に密着することを特徴とする。
【0012】
このように、加圧時には凸部先端だけでなく低圧側斜面も相手部材に密着することにより樹脂部材は他方の部材に対して面状に接触することになる。したがって、摺動部分の接触圧力が低減されて摺動部分の摩耗が抑制される。また、面状に接触することにより接触圧力のピークは低下するが、凸部の高圧側斜面の他方の部材に対する傾斜が大きくなることによって凸部先端付近の接触圧力の勾配の傾きが急になり、十分なシール性を得ることができる。
【0013】
前記樹脂部材を前記他方の部材側に付勢する付勢部材をさらに備え、
前記樹脂部材は、高圧側端面および低圧側端面が環状溝の溝底側から他方の部材側に向かうにつれて低圧側に傾斜しており、溝底側周面が高圧側から低圧側に向かうにつれて前記環状溝の溝底側に傾斜しており、
無圧時には、前記付勢部材による付勢力によって、前記凸部の先端が前記他方の部材に密着しており、
加圧時には、前記樹脂部材の前記高圧側端面および前記凸部の高圧側斜面に働く圧力と、溝底側周面に働く付勢部材の付勢力とにより、前記樹脂部材が前記凸部先端を支点として回動することによって、前記凸部の前記低圧側斜面が前記他方の部材に密着し、前記樹脂部材の前記低圧側端面が前記環状溝の低圧側側壁に密着する構成でもよい。
【0014】
このように、無圧時には凸部先端が相手部材に接触するため、凸部先端部分の接触圧力が上昇して凸部先端付近に接触圧力のピークが発生しているが、加圧時には樹脂部材が凸部先端を支点として回動することにより、凸部の低圧側斜面が相手部材に接触して相手部材に対して面で接触することになる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明により、シール性を維持しつつ摺動部分の摩耗を抑制することができ、密封装置の長寿命化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【実施例1】
【0017】
図1および図2を参照して、実施例に係る密封装置について説明する。図1は、本実施例に係る密封装置10の径方向に沿って切断して得られる模式的切断面である。図2は、
本実施例に係る密封装置の装着状態を示す模式的断面図であり、(a)は無圧時の状態、(b)は加圧時の状態をそれぞれ示す。
【0018】
本実施例に係る密封装置1は、油圧ピストンのロッドパッキンとして使用されるものであり、環状の樹脂部材2と、その外周側に配設されるゴム製のOリング3とから構成され、シリンダ(ハウジング)4の内周面に設けられた環状溝40に装着されてシリンダ4の内周面とピストン(軸)5の外周面との間の環状隙間を密封し、高圧側Hから低圧側Lへの油漏れを防止する。
【0019】
樹脂部材2は、四フッ化エチレン(PTFE)等の樹脂からなる環状部材であり、その内周面がピストン5の外周面に摺接し、その低圧側Lの端面がシリンダ4の環状溝40の低圧側側壁に密着することにより、シリンダ4の内周面とピストン5の外周面との間の環状隙間が密封される。
【0020】
樹脂部材2の基本的な形状は略矩形を呈するが、その内周面にはピストン5に向かって突出する凸部20が設けられている。凸部20は軸方向に沿って偏倚した形状を呈し、その両裾をなす斜面のうち低圧側Lの斜面20aは、ピストン5の外周面から環状溝40に向かってわずかに傾斜している。一方、高圧側Hの斜面20bは低圧側斜面20aよりも大きな角度でピストン5の外周面から環状溝40に向かって傾斜している。
【0021】
また、樹脂部材2の高圧側Hと低圧側Lの両端面21、22は、外周側から内周側(環状溝40の溝底側からピストン5側)に向かうにつれて低圧側Lの方向に傾斜しており、外周面23は、高圧側Hから低圧側Lに向かうにつれ外径方向(環状溝40の溝底側)に傾斜している。
【0022】
樹脂部材2の端面21と端面22および外周面23と凸部20の低圧側斜面20aとは、それぞれ略平行に形成されている。また、高圧側端面21と凸部20の高圧側斜面20bとの間には、無圧時においてピストン5の外周面と略平行な周面24が形成されている。
【0023】
Oリング3は、樹脂部材2と環状溝40の溝底との間に配設されて、樹脂部材2をピストン5に向かって付勢する付勢部材であり、その外径が環状溝40の溝底径よりも大きく設定されることにより、樹脂部材2と環状溝40の溝底との間で圧縮され、樹脂部材2をピストン5に向かって付勢する弾性力が発生する。
【0024】
次に、密封装置1の装着状態について図2(a)、(b)を参照して説明する。
【0025】
まず、図2(a)に示すように、無圧状態においては、樹脂部材2は凸部20のみがピストン5の外周面に摺接しており、図中Xで示すような接触圧力分布が形成される。すなわち、凸部20の先端付近で接触圧力のピークが発生している。
【0026】
次に、高圧側Hから圧力Pが作用して加圧状態になると、Oリング3が低圧側Lに押し込まれることによって外周面23が内径方向に受ける力と、高圧側端面21、高圧側斜面20b、周面24が高圧側Hから受ける圧力Pとにより、樹脂部材2は凸部20の先端を支点として低圧側Lに回動することになる。
【0027】
その結果、樹脂部材2は凸部20の先端を境として高圧側Hの部分がピストン5から離れるとともに、低圧側Lの部分がピストン5に近づいていき、図2(b)に示すように、凸部20の低圧側斜面20aがピストン5の外周面に密着し、低圧側端面22が環状溝40の低圧側側壁41に密着するようになる。すなわち、凸部20の先端による線の接触か
ら、凸部20の低圧側斜面20aによる面の接触に切り替わることになる。
【0028】
そして、樹脂部材2とピストン5の外周面との摺接部分の接触圧力は、図中X´で示すように、凸部20の低圧側斜面20a全体にわたって接触圧力のピークが発生するような分布となり、図4(b)に示すような、加圧状態においても凸部20先端部のみが摺接している場合と比して、接触圧力のピークが低下することになる。したがって、樹脂部材2のピストン5外周面に摺動する部分における接触圧力は低減されることになる。
【0029】
また、凸部20の高圧側斜面20bのピストン5の外周面に対する傾斜角度が、樹脂部材2の回動により、無圧状態のときと比してより大きくなるため、接触圧力の勾配もより一層急となり、接触圧力のピークは、無圧状態のときと比して大きくなる。
【0030】
すなわち、図4(b)に示す場合と比して、ピストン5の外周面に面で接触することにより接触圧力のピークは低下するが十分な接触圧力を確保することができ、十分なシール性を得ることができる。
【0031】
したがって、十分なシール性を確保しつつ接触圧力を低減することにより摺動部分の摩擦を抑制することができ、密封装置の長寿命化を図ることができる。
【0032】
本実施例においては、樹脂部材2の両端面21、22がそれぞれ略平行に形成されているが、これに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本実施例に係る密封装置の模式的断面図。
【図2】本実施例に係る密封装置の装着状態を示す模式的断面図。
【図3】従来技術に係る密封装置の模式的断面図。
【図4】従来技術に係る密封装置の装着状態を示す模式的断面図。
【符号の説明】
【0034】
1 密封装置
2 樹脂部材
3 Oリング
4 シリンダ
5 ピストン
X、X´ 接触圧力分布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸孔を有するハウジングと前記軸孔に挿入される軸のうちの一方の部材に設けられた環状溝に装着されて、これら2部材間の環状隙間を密封する密封装置であって、
他方の部材に向かって突出し、その先端が該他方の部材に摺接する凸部を備えた環状の樹脂部材を備える密封装置において、
前記凸部は、低圧側斜面と高圧側斜面を両裾として構成され、
高圧側からの圧力により、
前記樹脂部材の前記凸部よりも高圧側の部分が前記他方の部材から離れて、前記凸部の前記高圧側斜面と前記他方の部材の周面との間の傾斜角度が大きくなるとともに、
前記樹脂部材の前記凸部よりも低圧側の部分が前記他方の部材に近づいて、前記凸部の前記低圧側斜面が前記他方の部材の周面に密着することを特徴とする密封装置。
【請求項2】
前記樹脂部材を前記他方の部材側に付勢する付勢部材をさらに備え、
前記樹脂部材は、高圧側端面および低圧側端面が環状溝の溝底側から他方の部材側に向かうにつれて低圧側に傾斜しており、溝底側周面が高圧側から低圧側に向かうにつれて前記環状溝の溝底側に傾斜しており、
無圧時には、前記付勢部材による付勢力によって、前記凸部の先端が前記他方の部材に密着しており、
加圧時には、前記樹脂部材の前記高圧側端面および前記凸部の高圧側斜面に働く圧力と、溝底側周面に働く付勢部材の付勢力とにより、前記樹脂部材が前記凸部先端を支点として回動することによって、前記凸部の前記低圧側斜面が前記他方の部材に密着し、前記樹脂部材の前記低圧側端面が前記環状溝の低圧側側壁に密着することを特徴とする請求項1に記載の密封装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−247672(P2007−247672A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−68003(P2006−68003)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】