説明

密封装置

【課題】バックアップリングに圧力が掛ってカット部が開いても、その隙間を埋めることができるようにすることにより、Oリングの局部的な振幅拡大を抑止し、シール耐久性の向上を図り得る密封装置の提供。
【解決手段】弾性体からなるOリングと、該Oリングに同軸状に並設される樹脂製のバックアップリング1とを有し、軸孔を有するハウジングと軸孔に挿入されてハウジングと相対移動を行う軸との間の環状隙間を密封する密封装置であって、バックアップリング1は、周方向に対して斜めとなるカット部11、12を有し、カット部11、12によって形成される2つの傾斜端部のうち、Oリング側が鋭角となる先端部を有する一方の傾斜端部におけるOリング側の側面1a、1bに、カット部11、12が開いた際の隙間を埋めるための膨出部17が設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は密封装置に関し、詳しくは、Oリングと軸方向に沿って斜めに切断されるカット部を有するバックアップリングとを有し、カット部の開きによるOリングの損傷を防止することのできる密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば船舶用燃料ポンプ部のような高圧(脈動有り)の流体を移送する装置において、軸孔を有するハウジングとその軸孔に挿入されてハウジングと相対移動を行う軸(例えばピストン)との間の環状隙間を密封するための密封装置として、弾性体からなるOリングと、このOリングと同軸状に並設される樹脂製のバックアップリングとを用いたものがある。
【0003】
密封は専らOリングによってなされるが、バックアップリングは、作動油の圧力によってOリングが軸の外周面とハウジングの内周面との間の隙間へはみ出すのを防止するように機能している。
【0004】
Oリングは、ゴム状弾性材料等の弾性体であるため、軸の外周に装着する際は、大径に引き延ばしながら装着することができるが、バックアップリングは、Oリングよりも硬質の合成樹脂材料からなるため、装着性を考慮して、円周方向の少なくとも一箇所を切断することによって、軸の外周面よりも大径に開くことができるようにしている。
【0005】
この切断方法の一つに、バックアップリングの周方向に対して斜めとなるように切断されるカット部(バイアスカット部)を形成したものが知られている。
【0006】
ところで、Oリングと共に、このようなカット部を形成したバックアップリングを使用した密封装置を、船舶用燃料ポンプ部のような高圧(脈動有り)の流体を移送する装置に使用した場合、次のような問題がある。
【0007】
図4は、Oリング100とバックアップリング200とを同軸状に並設して軸の外周面に装着した状態を部分で示している。ここでは図中上側から高圧が掛る状態にある。(a)はOリング100に圧力が掛っていない状態、(b)は圧力が掛った状態を示している。
【0008】
バックアップリング200には、周方向に対して斜めに切断されたカット部201が形成されており、このカット部201を挟んで、傾斜端部202、203が互いに突き合わされて装着されている。
【0009】
(a)に示す圧力が掛っていない状態では、バックアップリング200の傾斜端部202、203は、互いの傾斜面同士が密接し、カット部201は閉じた状態となっている。
【0010】
しかし、(b)に示すようにOリング100に高圧の脈圧が掛ると、Oリング100に押されてバックアップリング200にも圧力が掛り、互いに密接している傾斜端部202、203に圧力が掛ることによって傾斜端部202、203が離れてカット部201が開いてしまう。このとき、Oリング100との接触側面に鋭角な先端部202aを有する一方の傾斜端部202は、その先端部202aがOリング100に押し付けられて変形してしまう。
【0011】
これが長期使用によって繰り返されると、バックアップリング200のカット部201の摩滅を発生させ、バックアップリング200のボリュームが減少し、カット部201の開きが拡大してしまう。カット部201の開きが拡大してしまうと、図示するように、当該部分のOリング100の溝間振幅が大きくなる影響で、Oリング100の内外周が、拡大したカット部201に入り込むことで局部的に摩滅してしまい、シール機能が低下する問題がある。
【0012】
従来、カット部を有するバックアップリングの摩滅を低減する技術として、図5(a)に示すように、バックアップリング300を、リング素材をスパイラル状に巻き付けて環状体を構成し、その両端の傾斜端部302、303を突き合わせることなく、周方向の対向する位置(軸方向に沿って同位置)となるように形成したものが提案されている(特許文献1)。
【0013】
図中、301はカット部であり、各傾斜端部302、303の間を周方向に対して斜めとなるように形成されている。各傾斜端部302、303は、バックアップリング300のリング素材の側面に密接しており、この傾斜端部302、303に挟まれる部位に、バックアップリング300の周方向に対して斜めとなる斜め形状部304が形成されている。
【0014】
このようなバックアップリング300を用いて、上記同様にOリング100とで密封装置を構成した場合でも、図5(b)に示すように高圧の脈圧が掛った場合、バックアップリング300がOリング100に押し付けられ、カット部301が開いてしまう現象が起きるが、図4に示す場合に比べてカット部301の拡大量を抑えることができる。
【0015】
しかしながら、このバックアップリング300では、カット部301が開くと、圧力によって斜め形状部304が更に斜めに倒れ込むように変形し、これに伴い、一方の傾斜端部302の先端部302aも変形してしまうため、上記の場合と同様に、拡大した部分のOリング100の溝間振幅が大きくなってしまう問題があることに変わりはなく、やはり上記同様に局部的な摩滅を発生させてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2000−329233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
そこで、本発明は、バックアップリングに圧力が掛ってカット部が開いても、その隙間を埋めることができるようにすることにより、Oリングの局部的な振幅拡大を抑止し、シール耐久性の向上を図り得る密封装置を提供することを課題とする。
【0018】
本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0020】
(請求項1)
弾性体からなるOリングと、該Oリングに同軸状に並設される樹脂製のバックアップリングとを有し、軸孔を有するハウジングと前記軸孔に挿入されて前記ハウジングと相対移動を行う軸との間の環状隙間を密封する密封装置であって、
前記バックアップリングは、周方向に対して斜めとなるカット部を有し、
前記カット部によって形成される2つの傾斜端部のうち、前記Oリング側が鋭角となる先端部を有する一方の傾斜端部における前記Oリング側の側面に、前記カット部が開いた際の隙間を埋めるための膨出部が設けられていることを特徴とする密封装置。
【0021】
(請求項2)
前記膨出部は、前記先端部が前記Oリング側の側面において周方向に延長されることによって、前記カット部の径方向に延びるように現われるカットラインを跨ぐように形成されていることを特徴とする請求項1記載の密封装置。
【0022】
(請求項3)
前記膨出部は、前記Oリング側に凸状となる円弧形状であることを特徴とする請求項1又は2記載の密封装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、バックアップリングに圧力が掛ってカット部が開いても、膨出部がその隙間を埋めることにより、Oリングの局部的な振幅拡大を抑止し、シール耐久性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る密封装置に使用されるバックアップリングの斜視図
【図2】図1に示すバックアップリングの膨出部を軸方向から見た状態を示す部分拡大図
【図3】(a)は本発明に係る密封装置における圧力が掛っていない状態を示す使用状態図、(b)は圧力が掛った状態を示す使用状態図
【図4】(a)は従来の密封装置における圧力が掛っていない状態を示す使用状態図、(b)は圧力が掛った状態を示す使用状態図
【図5】(a)は従来の他の密封装置における圧力が掛っていない状態を示す使用状態図、(b)は圧力が掛った状態を示す使用状態図
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係る密封装置は、弾性体からなるOリングと、該Oリングに同軸状に並設される樹脂製のバックアップリングとを有する。
【0026】
Oリングは、例えばゴム等の弾性材料によって環状に成形された環状弾性体であり、一方のバックアップリングは、Oリングよりも硬質で低摩擦係数の例えばPTFE(四フッ化エチレン)等の合成樹脂材料からなる。
【0027】
これらOリングとバックアップリングとは、例えばピストンシリンダのように、軸孔を有するハウジングとこの軸孔に挿入されてハウジングと相対移動を行う軸との間に装着されることにより、環状隙間を密封する。
【0028】
密封は、Oリングとバックアップリングとを軸の外周に形成された環状溝内に装着することによって行う態様であってもよいし、軸孔の内周に形成された環状溝内に装着することによって行う態様であってもよいが、本発明においては、圧力が掛ることによって拡径する軸の外周の環状溝内に装着する態様の方が、本発明の効果を顕著に得られるために好ましい。
【0029】
バックアップリングは、周方向に対して斜めとなるカット部(バイアスカット部)を有する。
【0030】
このような斜めのカット部は、図4に示したように、バックアップリングの周方向を完全に二分するように切断する態様でもよいが、圧力が掛った際の切断部の拡大量を抑制できるようにする点で、図5に示したように、バックアップリングの軸方向に配向される各側面からそれぞれバックアップリングの軸方向の中央部に亘って同一方向に斜めとなる2つのカット部(第1及び第2のカット部)を有する態様とすることが好ましい。この2つの斜めのカット部は、バックアップリングの軸方向の中央部において周方向に亘る1つのカット部(第3のカット部)によってつながっている。
【0031】
バックアップリングは、このような斜めのカット部(第1及び第2のカット部)によって2つの傾斜端部が形成される。各傾斜端部は鋭角な先端部を有するが、本発明において、そのうちのOリング側が鋭角となる先端部を有する一方の傾斜端部における該Oリング側の側面に、圧力が掛ってカット部が開いた際に形成される隙間を埋めるための膨出部が設けられる。
【0032】
この膨出部は、傾斜端部の先端部において、バックアップリングの軸方向に凸状に膨出するように該傾斜端部と一体に成形される。
【0033】
このため、バックアップリングにOリングが押し付けられてカット部に隙間が生じると、傾斜端部の先端部がOリングの押し付けによって変形した際、膨出部も共に変形するが、この膨出部の分だけカット部の隙間が埋められることによって、隙間は縮小される。従って、この隙間の部位におけるOリングの局部的な溝間振幅の拡大が抑止され、Oリングの局部的な摩滅が防止されることにより、長期に亘ってシール機能を発揮することができるようになり、シール耐久性の向上を図ることができる。
【0034】
この膨出部は、傾斜端部の先端部を周方向に沿うように延長させることによって形成することができる。従って、この場合、膨出部は、先端部のOリング側の側面おいて、カット部の径方向に延びるように現われるカットラインを跨ぐように設けられる。
【0035】
この先端部を延長量は、圧力が掛ることによって発生するカット部の隙間を、Oリングの摩滅を発生させないように埋めることができる程度の膨出部が形成できればよく、バックアップリングに使用される樹脂材料、使用される環境等に応じて適宜調整することができる。
【0036】
このように膨出部を、傾斜端部の先端部を周方向に延長することによって形成することで、隙間を埋めるために必要な大きさの膨出部を形成する際、バックアップリングの軸方向への膨出量を抑制することでき、それだけOリングに与える影響を低減することができる。
【0037】
好ましい膨出部の形状は、Oリング側に凸状となる円弧形状であることである。これによりOリングとの当接部位がなだらかになるので、膨出部によるOリングの損傷を回避することができる。
【0038】
以下、本発明の具体的な実施形態について図面を用いて説明する。
【0039】
図1は、本発明に係る密封装置に使用されるバックアップリングの斜視図、図2は、図1に示すバックアップリングの膨出部を軸方向から見た状態を示す部分拡大図である。本実施形態では、図4と同様に2つの斜めのカット部を有する態様について説明する。
【0040】
バックアップリング1は、軸方向(図1における上下方向)に配向される各側面1a、1bからそれぞれバックアップリング1の軸方向の中央部に亘って周方向に対して同一方向に斜めとなるように形成された2つのカット部(第1及び第2のカット部)11、12と、バックアップリング1の軸方向の中央部において周方向に亘って形成され、上記カット部11、12の端部とつながる1つのカット部(第3のカット部)13とを有している。
【0041】
なお、このバックアップリング1は、図1における上側に不図示のOリングが同軸状に並設されて使用されるものとする。
【0042】
これらのカット部11〜13が形成されることにより、バックアップリング1は、カット部11、12の間に斜め形状部14が形成されると共に、無圧の定常状態においてカット部11、12に沿ってこの斜め形状部14と接する2つの傾斜端部15、16が形成される。
【0043】
そして、この2つの傾斜端部15、16のうち、図1の上側に位置する傾斜端部15における上側(Oリング側)の側面1aに、膨出部17が一体に設けられている。
【0044】
この膨出部17は、側面1aから軸方向の上方に向けてやや凸状に膨出していると共に、その先端部17aは、側面1aおいてバックアップリング1の周方向に延長形成されており、該側面1a上でカット部11の径方向に延びるように現われるカットライン11aを跨ぐように形成されている。なお、このカットライン11aは、カット部11と側面1aとの境界線である。
【0045】
また、膨出部17は、その側面1a側が、凸状の円弧面17bとなる円弧形状に形成されている。
【0046】
次に、このようなバックアップリング1をOリング2と共に、高圧流体の脈圧が掛るピストン軸の外周に形成された環状溝3に装着して使用した場合の作用について、図3を用いて説明する。
【0047】
図3は、バックアップリング1とOリング2とを環状溝3に装着した状態を示しており、(a)は流体圧が掛っていない状態、(b)は流体圧が掛った状態を示している。
【0048】
バックアップリング1とOリング2とは、バックアップリング1における膨出部17が設けられている側面1a側にOリング2が並設されるように、環状溝3内に同軸状に装着されている。
【0049】
いま、(a)に示す無加圧の状態から、(b)に示すようにOリング2に流体の高圧の脈圧が掛ると、Oリング2に圧力が掛ることでバックアップリング1に押し付けられ、それに伴って、バックアップリング1のOリング2側のカット部11に、該Oリング2の押し付けによって開きが発生し、カット部11、12に隙間が発生して、斜め形状部14がより傾斜して倒れ込むように変形する。
【0050】
このときに傾斜端部15の先端部もOリング2によって押し付けられて隙間に向けて変形するが、傾斜端部15の先端部に一体に成形された膨出部17が、隙間に入り込むように変形することで隙間を埋めるように機能する。このため、Oリング2に局部的な溝間振幅を拡大させるような隙間が残存するようなことはない。従って、Oリング2の局部的な溝間振幅の拡大が抑止され、Oリング2の局部的な摩滅が防止される。
【0051】
また、膨出部17は、Oリング2と接触する側がなだらかな円弧面17bとなっているので、Oリング2がバックアップリング1に押し付けられても、Oリング2が膨出部17によって損傷するおそれはない。
【符号の説明】
【0052】
1:バックアップリング
1a、1b:側面
11:斜めとなるカット部(第1のカット部)
12:斜めとなるカット部(第2のカット部)
11a:カットライン
13:周方向に亘るカット部(第3のカット部)
14:斜め形状部
15、16:傾斜端部
17:膨出部
17a:先端部
17b:円弧面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性体からなるOリングと、該Oリングに同軸状に並設される樹脂製のバックアップリングとを有し、軸孔を有するハウジングと前記軸孔に挿入されて前記ハウジングと相対移動を行う軸との間の環状隙間を密封する密封装置であって、
前記バックアップリングは、周方向に対して斜めとなるカット部を有し、
前記カット部によって形成される2つの傾斜端部のうち、前記Oリング側が鋭角となる先端部を有する一方の傾斜端部における前記Oリング側の側面に、前記カット部が開いた際の隙間を埋めるための膨出部が設けられていることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
前記膨出部は、前記先端部が前記Oリング側の側面において周方向に延長されることによって、前記カット部の径方向に延びるように現われるカットラインを跨ぐように形成されていることを特徴とする請求項1記載の密封装置。
【請求項3】
前記膨出部は、前記Oリング側に凸状となる円弧形状であることを特徴とする請求項1又は2記載の密封装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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