説明

密度勾配遠心分離による細胞の分離回収方法および部材

【課題】密度勾配遠心分離は細胞を生きたまま回収できる手段であるが、密度勾配遠心分離後の操作で密度勾配遠心分離層が混合してしまい、正確に細胞を回収することには課題があった。
【解決手段】密度勾配遠心分離時に使用する遠沈管1の内部に細管2を設けたまま遠心分離を行なう。その後、分離した各層を遠沈管1の底部からシリンジポンプ6ならびにシリンジ7で吸引回収し、流路部3に導入する。導入した密度勾配層は、特定の流路を経てメンブレンフィルタ4に送液され、ろ過回収される。流路部3は制御部9によって流路を調節される。シリンジポンプ6ならびに制御部9はパソコン12によって制御される。これにより、高効率かつ高精度な密度勾配遠心分離が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密度勾配遠心分離を用いて、異なる種類の細胞同士または細胞以外の物質と細胞を高効率に、かつ簡便に分離することができる細胞の分離回収方法および部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞の分離には酵素や界面活性剤など薬剤で分離する方法や密度勾配遠心分離法で分離する手段が利用されてきた。
薬剤を利用した分離法は、目的の細胞と異なる種類の細胞や目的の細胞以外の物質を溶解させたり、微小化させたりして目的の細胞を抽出する手法である(特許文献1参照)。また、密度勾配遠心分離法は、特定の容器内に密度が異なる溶液の層を形成させ、各層の表面にその密度よりも軽い粒子が集まることを利用した分離法であり、細胞へ与える障害が少ないことから、細胞を生きたまま回収する手段として利用されてきた。
これらの手法は、様々な種類の細胞を分離する手段として利用されている。
【0003】
【特許文献1】特許公開2006−288257
【特許文献2】特許公開2003−319775
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来の細胞分離回収方法は、異なる細胞種の特性の違いを利用して分離する方法であるが、薬剤を利用した分離法は、目的の細胞へのダメージが発生する場合があるため、目的の細胞を生きたまま回収することができない場合があった。また、密度勾配遠心分離法は、遠心分離後、目的の密度勾配層を回収しようとする場合に、上部から吸引部位を挿入するが、その際、分離した密度勾配層が混合してしまい、分離させた細胞を再び混合してしまうため、回収率が安定しないと言った課題があった。
そこで、簡便に、高効率で、かつ生きたまま細胞を回収する細胞分離手段が要求されている。
本発明は、このような従来の課題を解決するものであり、密度勾配遠心分離を利用し、密度勾配遠心分離後、密度勾配層を再び混合させずに各層を回収することができるものであり、その結果、目的の細胞を生きたまま、簡便に、高効率で回収できる細胞の分離回収方法および部材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の密度勾配遠心分離による細胞の分離回収方法および部材は、上記課題を解決するために、密度勾配遠心分離を行なう遠沈管とその内側に遠沈管上部から備えられた出し入れ可能な少なくとも一つの当該遠沈管よりも細い管により、各密度勾配層を下層から順番に吸引し各密度勾配層に濃縮あるいは分散された細胞を回収することができる細胞の分離回収方法および部材であることを特徴とする。
本発明の密度勾配遠心分離による細胞の分離回収方法および部材は、上記課題を解決するために、密度勾配遠心分離を行なう遠沈管とその内側に遠沈管上部から備えられた出し入れ可能な少なくとも一つの当該遠沈管よりも細い管と吸引回収された各密度勾配層を流すことができる流路を備えた流路部とから成り、各密度勾配層を下層から順番に吸引し各密度勾配層に濃縮あるいは分散された細胞を遠沈管とは別の場所で回収することができる細胞の分離回収方法および部材であることを特徴とする。
本発明の密度勾配遠心分離による細胞の分離回収方法および部材は、上記課題を解決するために、各密度勾配遠心分離層に濃縮あるいは分散された細胞を吸引回収した後、フィルタ上に目的の細胞を回収できる細胞の分離回収方法および部材であることを特徴とする。
本発明の密度勾配遠心分離による細胞の分離回収方法および部材は、上記課題を解決するために、各密度勾配遠心分離層に濃縮あるいは分散された細胞を吸引回収した後、流路を備えた流路部を介して異なる位置に設置されたフィルタ上に目的の細胞を回収できる細胞の分離回収方法および部材であることを特徴とする。
本発明の密度勾配遠心分離による細胞の分離回収方法および部材は、密度勾配遠心分離層の数だけ設けられた遠沈管上部から出し入れ可能な当該遠沈管よりも細い管が束ねられることにより、遠心分離時の密度勾配層の乱れを防止することができる細胞の分離回収方法および部材であることを特徴とする。
本発明の密度勾配遠心分離による細胞の分離回収方法および部材は、回収する目的の細胞が集まる密度勾配層の数だけ設けられた遠沈管上部から出し入れ可能な当該遠沈管よりも細い管が束ねられることにより、遠心分離時の密度勾配層の乱れを防止し、余分な部材を使用しない細胞の分離回収方法および部材であることを特徴とする。
本発明の密度勾配遠心分離による細胞の分離回収方法および部材は、遠沈管上部から出し入れ可能な当該遠沈管よりも細い管の内側に吸引管が設けられている細胞の分離回収方法および部材であることを特徴とする。
本発明の密度勾配遠心分離による細胞の分離回収方法および部材は、密度勾配遠心分離層に回収された細胞を吸引回収した後、当該細胞を含む密度勾配遠心分離層をフィルタ上に回収するものであり、フィルタ上の定位置に回収することができるという細胞の分離回収方法および部材であることを特徴とする。
本発明の密度勾配遠心分離による細胞の分離回収方法および部材は、密度勾配遠心分離層に回収された細胞を吸引回収した後、当該細胞を含む密度勾配遠心分離層をフィルタ上に回収するものであり、一つの密度勾配遠心分離層がフィルタ上の一つの位置に対応している細胞の分離回収方法および部材であることを特徴とする。
本発明の密度勾配遠心分離による細胞の分離回収方法および部材は、密度勾配遠心分離を行なう遠沈管と、その内側に遠沈管上部から出し入れ可能な少なくとも一つの当該遠沈管よりも細い管と、当該細い管で吸引回収された各密度勾配層を流すことができる流路を備えた流路部が構成された状態のまま遠心分離することができることを特徴とする。
本発明の密度勾配遠心分離による細胞の分離回収方法および部材は、密度勾配遠心分離を行なう遠沈管と、その内側に遠沈管上部から出し入れ可能な少なくとも一つの当該遠沈管よりも細い管と、当該細い管で吸引回収された各密度勾配層を流すことができる流路を備えた流路部と、フィルタが構成された状態のまま遠心分離することができることを特徴とする。
本発明の密度勾配遠心分離による細胞の分離回収方法および部材は、遠沈管の内側に遠沈管上部から出し入れ可能な少なくとも一つの当該遠沈管よりも細い管が対象細胞よりも大きく、夾雑物よりも小さい口径であることを特徴とする。
本発明の密度勾配遠心分離による細胞の分離回収方法および部材は、遠沈管の内側に遠沈管上部から出し入れ可能な少なくとも一つの当該遠沈管よりも細い管の先端が対象細胞よりも大きく、夾雑物よりも小さい口径であることを特徴とする。
本発明の密度勾配遠心分離による細胞の分離回収方法および部材は、各密度勾配層を流すことができる流路を備えた流路部の一箇所以上の各部位において流路を開閉することによって、目的の流路のみを開閉することができることを特徴とする。
本発明の密度勾配遠心分離による細胞の分離回収方法および部材は、各密度勾配層を流すことができる流路を備えた流路部の上に備えた形状を戻すことができるシートと一箇所以上の各部位において流路の開閉を制御する制御部から成り、制御部から流路に位置するシートの一部もしくは全面を圧迫することによって、目的の流路のみを開閉することができることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、密度勾配遠心分離法の特徴の一つである生きている細胞を回収する能力を維持したまま、密度勾配遠心分離後の密度勾配層の混合を避けることによって、高効率での分離が可能となる。また、密度勾配遠心分離後の密度勾配層を通過させる流路を備えた流路部を設けることにより、操作が簡便になる。また、密度勾配遠心分離後の密度勾配層をフィルタ上に回収することによってその後の観察や培養を容易なものとし、得られた細胞の特性を維持することが可能となる。
これにより、従来は効率に課題があった手法であり、密度勾配遠心分離後の操作が煩雑であったが、密度勾配遠心分離を行なう遠沈管と、その内側に遠沈管上部から出し入れ可能な少なくとも一つの当該遠沈管よりも細い管を設け、その回収流路を備えた流路部を利用することで高効率、簡便な細胞の分離回収方法および部材を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の請求項1記載の発明は、密度勾配遠心分離を行なう遠沈管と、その内側に遠沈管上部から出し入れ可能な少なくとも一つの当該遠沈管よりも細い管とから成り、その細い管が底部にまで伸びており、各密度勾配層を下層から順番に吸引し各密度勾配層に濃縮あるいは分散された細胞を再び混合することなく回収することができるという作用を有する。
本発明の請求項2記載の発明は、 密度勾配遠心分離を行なう遠沈管と、その内側に遠沈管上部から出し入れ可能な少なくとも一つの当該遠沈管よりも細い管と、当該細い管で吸引回収された各密度勾配層を流すことができる流路を備えた流路部とから成り、その細い管が底部にまで伸びており、各密度勾配層を下層から順番に吸引し各密度勾配層に濃縮あるいは分散された細胞を容易に回収し、密度勾配層を混合することがないという作用を有する。
本発明の請求項3記載の発明は、各密度勾配遠心分離層に濃縮あるいは分散された細胞を吸引回収した後、当該細胞をフィルタに直接濃縮することで回収後の細胞を観察しやすくし、また、培養など異なる手法での解析が可能になるという作用を有する。
本発明の請求項4記載の発明は、各密度勾配遠心分離層に濃縮あるいは分散された細胞を吸引回収した後、当該細胞を、各密度勾配層を流すことができる流路を備えた流路部を介してフィルタに濃縮することで、一連の操作を自動化し、簡便化することができるという作用を有する。
本発明の請求項5記載の発明は、遠沈管上部から出し入れ可能な、当該遠沈管よりも細い管が密度勾配遠心分離層の数だけ束ねられていることで、遠心分離時の振動で当該遠沈管よりも細い管が複数存在した場合でも、密度勾配遠心分離層を乱すことがないという作用を有する。
本発明の請求項6記載の発明は、遠沈管上部から出し入れ可能な、当該遠沈管よりも細い管が密度勾配遠心分離層の内、目的の細胞が集まる密度勾配層の数だけ束ねられていることで、必要最低限の本数の当該遠沈管よりも細い管の利用となり、より安定した密度勾配遠心分離が可能になるという作用を有する。
本発明の請求項7記載の発明は、当該遠沈管上部から出し入れ可能な、当該遠沈管よりも細い管の内側に、さらに密度勾配層を吸引する管が設けられていることで、当該遠沈管よりも細い管が密度勾配層を吸引する管を束ねることとなり、一本の細い管が密度勾配層に影響を与えるに過ぎないという作用を有する。
本発明の請求項8記載の発明は、各密度勾配遠心分離層に濃縮あるいは分散された細胞を、吸引回収した後、当該細胞をフィルタ上の定位置にのみ回収することで、目的以外の密度勾配層の影響を低減することができるという作用を有する。
本発明の請求項9記載の発明は、各密度勾配遠心分離層に濃縮あるいは分散された細胞を吸引回収した後、当該細胞を、密度勾配遠心分離層毎に、フィルタ上の一つの定位置にのみ回収することで、一つのフィルタで複数の密度勾配層に濃縮された細胞を同時に回収することができるという作用を有する。
本発明の請求項10記載の発明は、密度勾配遠心分離を行なう遠沈管と、その内側に遠沈管上部から出し入れ可能な少なくとも一つの当該遠沈管よりも細い管と、当該細い管で吸引回収された各密度勾配層を流すことができる流路を備えた流路部とから成り、これらを構成した状態で遠心分離することが可能な構造とすることで、密度勾配遠心分離後に各部材の着脱操作を必要とせず、安定して細胞を回収できるという作用を有する。
本発明の請求項11記載の発明は、密度勾配遠心分離を行なう遠沈管と、その内側に遠沈管上部から出し入れ可能な少なくとも一つの当該遠沈管よりも細い管と、吸引回収された各密度勾配層を流すことができる流路を備えた流路部と、密度勾配層に分離回収した対象細胞をフィルタ上に濃縮することができる構造にすることで、各密度勾配層に対応させて流路を保持させることで、流路内での混合が回避でき、高効率な分離が可能になるという作用を有する。
本発明の請求項12記載の発明は、遠沈管の内側に遠沈管上部から出し入れ可能な少なくとも一つの当該遠沈管よりも細い管が対象細胞よりも大きく、夾雑物よりも小さい口径とすることで、口径よりも大きな夾雑物を吸入時に除去し、流路の目詰まりを防止することができるという作用を有する。
本発明の請求項13記載の発明は、遠沈管の内側に遠沈管上部から出し入れ可能な少なくとも一つの当該遠沈管よりも細い管の先端が対象細胞よりも大きく、夾雑物よりも小さい口径とすることで、広い流路を確保し、安定した吸引が可能になるという作用を有する。
本発明の請求項14記載の発明は、各密度勾配層を流すことができる流路を備えた流路部の一箇所以上の各部位において流路を開閉することによって、目的の流路のみを開閉し、高効率な吸引が可能になるという作用を有する。
本発明の請求項15記載の発明は、各密度勾配層を流すことができる流路を備えた流路部の上に備えた形状を戻すことができるシートと一箇所以上の各部位において流路の開閉を制御する制御部から成り、制御部から流路に位置するシートの一部もしくは全面を圧迫することによって、目的の流路のみを狭い範囲の圧迫で開閉することができ、高効率な吸引が可能になるという作用を有する。
以下、本発明の実施の形態について説明する。
(実施の形態1)
細胞の分離において、生きたまま、かつ高効率に回収することで、細胞分離後、異なる手段の解析が可能になる。これまで利用されてきた溶解手段では、プロテアーゼや界面活性剤など細胞にとってダメージの強い薬剤が利用されてきており、これらは細胞の活性を低下させる要因となりうる。また、密度勾配遠心分離法は、生きたまま回収することができるものであるが、回収時に密度勾配層が混合してしまい、分離させた細胞を再び混合してしまうと言った課題があった。そこで生きたまま、かつ安定した回収が可能な方法および部材が求められている。密度勾配遠心分離後の密度勾配層の混合を防止するために、密度勾配遠心分離を行なう遠沈管の内側に、予め遠沈管上部から出し入れ可能な少なくとも一つの当該遠沈管よりも細い管を挿入しておき、その細い管を遠沈管底部にまで伸ばしておくものである。各密度勾配層はこの細い管を通過し、下層から順番に吸引され、細胞が回収される。これにより、密度勾配後の各密度勾配層回収に伴う外部要因はなくなり、密度勾配層が乱れることはない。また、細い管を通過し、回収された各密度勾配層は、流路を備えた流路部を経て回収される。それにより、分離後の回収が安定し、高効率、かつ簡便になる。流路部は板を削り、溝を作製したものを利用できる。本流路部を遠沈管に直接設置して用いることもできる。流路部を経た細胞はフィルタ表面に滴下し、吸引ろ過することで濃縮、回収することができる。流路部出口とフィルタは直接、または間接的に接触させることで、分離、吸引、ろ過回収までを一体化させることができる。遠沈管の内側に挿入している細い管は複数本設置した場合、これを束ねることで遠心分離時の振動による影響などを防止することができる。遠沈管の内側に挿入している細い管の本数は、目的の密度勾配層の層の数に合わせて設けることで必要最低限の部材で分離が可能となる。また、遠沈管の内側に挿入している細い管を支えとして、その内側に密度勾配層を吸引する管を設けることで、出し入れを繰り返した場合でも密度勾配層を分散させること無く、安定した密度勾配層の維持が可能である。密度勾配で分離し、回収された細胞は、フィルタの定位置にのみ回収することで、視野範囲を限定させることができるため、観察が容易となる。あるいは、密度勾配層毎に同一フィルタ上の異なる場所に回収することで一度に複数の検体を評価することが可能となる。密度勾配遠心分離を行なう遠沈管や出し入れ可能な少なくとも一つの当該遠沈管よりも細い管、流路部については、これらを組み立てた構成状態で遠心分離することで各操作が終了した時点で組み立てる煩雑さが無くなり、また、各操作が終了した後に行なう組み立て操作により、再び、密度勾配層が混合してしまうことを回避することができる。各密度勾配層に回収された細胞は、遠沈管の内側に備えられた当該遠沈管よりも細い管を通過して回収されるが、この細い管の口径を細胞よりも大きく、夾雑物よりも小さい口径とすることで、細い管の口径で選択することができる。細い管全体の口径を細胞よりも大きく、夾雑物よりも小さい口径とすることも可能であるが、細い管の先端のみを細胞よりも大きく、夾雑物よりも小さい口径とすることで、通過後の流路を確保し、安定した送液が可能である。密度勾配層を回収する流路の選択は、流路の一箇所以上の部位を開閉することで、目的の流路のみを確保することができる。あるいは、流路部の流路上面が開放系であった場合、流路部の上面にシリコンシートなど形状を維持できる蘇生性のシートを利用することで、そのシートの上部からの圧迫により、流路を確保することができる。
以上より、本密度勾配遠心分離による分離回収方法および部材を利用することで密度勾配遠心分離を利用し、細胞を生きたまま回収することが可能となり、密度勾配遠心分離時に発生する密度勾配層の混合を防止することが可能となる安定した細胞の分離回収が可能となる。
【実施例1】
【0008】
以下、本発明の実施例について説明する。
本方法および部材は、密度勾配遠心分離法ならびにその後のサンプリング工程を簡便化するものであり、密度勾配遠心分離後のサンプリング工程で発生する密度勾配層の混合を防止することができるものである。図1に密度勾配遠心分離システム概要図を示す。密度勾配層を遠沈管1に作製し、積層させた密度勾配層の上から検体を注入する。遠沈管の中央部には、遠沈管1よりも細い管である細管2が備えられており、そこから密度勾配層を吸引させることができる。細管2は流路部3と結合している。密度勾配遠心分離は、遠沈管1と細管2が組み込まれた状態で行い、分離時に流路部3に装着させる。流路部3には、メンブレンフィルタ4が装着されており、回収した密度勾配遠心分離後の密度勾配層をメンブレンフィルタ4上で吸引ろ過させることができる。密度勾配層に回収した細胞を回収するための吸引はメンブレンフィルタ4の吸引ポンプ5で行なわれる。流路部3内の送液はシリンジポンプ6に備えられたシリンジ7によって行なわれる。送液の調整は、シリンジ7と流路部3は吸引チューブ8を経て、制御される。密度勾配遠心分離後、遠沈管1に形成された密度勾配層の密度に準じた粒子の回収は、細管2の底部から吸引される。吸引は、シリンジポンプ6内部が減圧化されることにより流路部3内の流路内が減圧され、行なわれる。流路部3の流路の開閉制御は制御部9によって行なわれる。制御部9にはソレノイド素子10が備えられており、ソレノイド素子10のオン−オフで流路の開閉を行なう。流路は流路部3に備えられているが、流路の上部が開放されているため、その上にシリコンシート11を備え、開閉制御に必要なソレノイド素子10がシリコンシート11を加圧することで、流路の開閉を行なう。シリンジポンプ、ならびに制御部の制御はパソコン12によって行なわれる。
なお、細管2は、流路部3に必ずしも結合させる必要は無く、完全に独立させる、あるいは、遠沈管1に備えることも可能である。
なお、流路部3に吸引チューブ8を介して備えたシリンジポンプ6乃至シリンジ7については、これらが無くとも吸引ポンプ5の吸引圧力を利用することも可能である。
なお、細管2は遠沈管設置時には、上部から空気が漏れないようにすることで密度勾配層の乱れを低減化させることもできる。
なお、シリコンシート11以外にも、ゴムシート、樹脂シートなど加圧に対し、形状を元に戻すことができる素材であれば利用できる。
なお、遠沈管1および細管2が流路部3に装着された状態で遠心分離することも可能である。
なお、流路部3に備えられたメンブレンフィルタ4は、着脱可能であり、必ずしも必要ではない。例えば、流路部3から流路を経て送液された密度勾配層に回収された細胞を液状のまま回収することもできる。
なお、流路部3で回収された密度勾配層は、必要のない密度勾配層をメンブレンフィルタ4などに送液せずにそのまま流路部3に維持、あるいは、廃液させることができる。
となる。
なお、細胞回収用フィルタはメンブレンフィルタ4に限らず、細胞の種類に応じたものを利用するのが望ましい。具体的には、孔径が0.2マイクロメートルから100マイクロメートル程度のものとなる。
なお、フィルタの種類は、ポリカーボネート、セルロース、ポリエチレンなどが有効であるが、孔径が0.2マイクロメートルから100マイクロメートル程度のものであり、形状を維持できれば利用できる。
なお、密度勾配遠心分離に使用する密度勾配層は、スクロースなど糖類から樹脂系まで利用できる。
【実施例2】
【0009】
以下、本発明の実施例について説明する。
本方法および部材は、遠沈管1内に遠沈管1よりも細い管である細管2を予め設けて密度勾配遠心分離を行なうことによって密度勾配遠心分離後の細胞回収時に密度勾配層が乱れることを防止することで高い回収率と高効率化を図るものである。図2に密度勾配遠心分離に利用している遠沈管1ならびに細管2の概要を示す。遠沈管1の中央部には細管2が備えられており、その細管2の内部には密度勾配層吸引管13が設けられている。密度勾配層吸引管13は出し入れ可能である。また、密度勾配層吸引管13は密度勾配層界面14の数だけ設けられている。吸引時は、密度勾配層界面14と液層15を合わせて吸引させることも可能である。密度勾配層を遠沈管1に形成させた後、密度勾配層上部から検体を積層させ、密度勾配遠心分離を開始する。密度勾配遠心分離は、細管2ならびに密度勾配層吸引管13の両方あるいはいずれか一方を備えたまま行なうことで、密度勾配遠心分離終了後、液層回収を行なう際に生ずる密度勾配層界面14同士の混合を防止することができる。密度勾配遠心分離終了後は、細管2内の密度勾配層吸引管13を経て底部から密度勾配層界面14と液層15を合わせた一層ずつが吸引される。密度勾配遠心分離を細管2のみを遠沈管に設置したまま行なう場合、密度勾配遠心分離後、密度勾配層吸引管13を細管2内に挿入し、遠沈管1の底部まで至った後、吸引を開始する。また、細管2を遠沈管1に設置させない場合は、密度勾配層吸引管13を直接、遠沈管1に挿入する。この際、密度勾配層吸引管13を束ねておくことも有効である。密度勾配遠心分離後、そのまま吸引を開始することができる。
なお、密度勾配層吸引管13の本数は密度勾配層に合わせて設置することも可能であり、また、必要な密度勾配層の数を設置させることも有効である。
なお、密度勾配層吸引管13の材質は、樹脂、ガラス、金属などが有効であるが、中空であれば、材質に影響されない。
なお、密度勾配層吸引管13の直径を細胞の大きさ以上、夾雑物の大きさ未満にすることで、夾雑物の混入を低減できる。具体的には、0.5マイクロメートルから5マイクロメートル以上、10マイクロメートルから100マイクロメートル未満である
なお、密度勾配層吸引管13の底部側先端を細胞の大きさ以上、夾雑物の大きさ未満にすることで、夾雑物の混入を低減できる。具体的には、0.5マイクロメートルから5マイクロメートル以上、10マイクロメートルから100マイクロメートル未満である。
なお、細管2の先端を尖らせておくことで、遠沈管底部まで吸引することができる。
なお、密度勾配層吸引管13の先端を尖らせておくことで、遠沈管底部まで吸引することができる。
なお、密度勾配層吸引管13を一本だけ備えさせ、密度勾配層ごとに流路を変更させることで、分離することも可能である。
なお、細管2および密度勾配層吸引管13は必ずしも遠沈管1の中央に位置させる必要はない。
【実施例3】
【0010】
以下、本発明の実施例について説明する。
密度勾配遠心分離後の密度勾配層の流路部9の送液方法について図3に記す。送液は流路16を経て遠沈管1からメンブレンフィルタ4へ向かって行なわれる。吸引した密度勾配遠心分離層の細胞は、流路16内を移動するが、シリンジポンプ6、シリンジポンプ7および吸引チューブ8による制御は、吸引口17を介して、送気路A18、送気路B19、送気路C20内の気道の開閉をもって行なわれる。気道の開閉は、バルブA21、バルブB22、バルブC23、バルブD24、バルブE25の開閉によって行なわれる。以下、遠沈管1からメンブレンフィルタ4への送液順路について示す。密度勾配遠心分離後、遠沈管1から密度勾配層に回収された細胞を含む溶液が流路16を遠沈管1からメンブレンフィルタ4へ向かって送液される。この際、シリンジポンプ6およびシリンジ8は吸引方向へ駆動し、吸引チューブ8を介して送気路A18、送気路B19内の空気を吸引する。また、この際、バルブA21、バルブC23、バルブD24は開放しており、バルブB22、バルブE25は閉鎖している。そのため、溶液は一時的にバルブE25から遠沈管1の間の流路16に保持される。必要量が流路16の中のバルブC23とバルブE25の間に保持された後、バルブA21、バルブB22、バルブC23、バルブD24、バルブE25の全てが閉鎖される。これにより、対象の密度勾配層は流路16の中のバルブC23とバルブE25の間にのみ保持される。続いて流路16の中のバルブC23とバルブE25の間にのみ保持した密度勾配層をメンブレンフィルタ4に送液するために、バルブA21、バルブB22、バルブE25が開放され、シリンジポンプ6が駆動し、シリンジポンプ7内の空気が吸引チューブ8を経て送気路18に送り込まれる。送り込まれた空気は送気路20に送られ、流路16内に保持されていた密度勾配層がメンブレンフィルタ4方向へ移動されるものである。これにより、送液が可能となる。
なお、シリンジポンプ6およびシリンジ7の駆動により流路16内ならびに送気路A18、送気路B19、送気路C20内の圧力を変化させるのは空気だけでなく、水、油など液体状のものでも可能である。
【実施例4】
【0011】
以下、本発明の実施例について説明する。
密度勾配遠心分離後の密度勾配層は流路部9を経て、メンブレンフィルタ4に回収される。メンブレンフィルタ4には密度勾配層毎にろ過する場所を限定しておき、密度勾配層界面14に回収された細胞を同一メンブレンフィルタ4の上に滴下することができる。流路部9の流路16は、密度勾配層界面14の数に合わせることも有効である。遠沈管1で密度勾配遠心された検体は、細管13を経て、流路部9の流路16のいずれかに移動する。移動については、吸引口17を経てシリンジポンプ6、シリンジ7、吸引チューブ8によって制御される。シリンジポンプ6の制御と共にメンブレンフィルタ4に設置した吸引ポンプ5を作動させることによってろ過が促進される。
なお、流路16は必ずしも密度勾配層の数である必要はない。例えば、流路16が一本でも可能である。
なお、流路16は必ずしも密度勾配層一種に対して一本である必要はない。量が多い場合は、二本で回収することも可能である。
なお、流路16の出口とメンブレンフィルタ4の接点が一箇所だけでなく、密度勾配遠心分離層の数、若しくは、目的の密度勾配遠心分離層の数だけ設けることも有効である。
なお、メンブレンフィルタ4の表面の複数場所に密度勾配分離後の細胞を回収するために、メンブレンフィルタ4のみを回転させることも有効である。
【実施例5】
【0012】
以下、本発明の実施例について説明する。
密度勾配遠心分離後の密度勾配層をメンブレンフィルタで回収する場合、各密度勾配層、あるいは、複数の対象密度勾配層に回収した細胞をメンブレンフィルタ上の複数箇所に改修させることで、少ないメンブレンフィルタ、かつ多彩な情報を同一表面上で得ることができる。図5に示すようなろ過補助部材を利用することでメンブレンフィルタ4表面の限定した位置にのみろ過、回収が可能となる。ろ過補助部材は、ろ過補助部材開口部26と、ゴムシート27とろ過補助部材下部28とからなる。ろ過補助部材開口部26には、ろ過させたい場所に合致させるためのろ過穴29が設けられている。また、ろ過補助部材下部28には、その中央に吸引ろ過させるための吸引口30が設けてある。ゴムシート27とろ過補助部材下部28の間には、メンブレンフィルタ4を挟み込むことができる。ゴムシート27の表面には、ろ過補助部材開口部26と同じ位置にろ過穴29を設けることができる。また、本ろ過補助部材は流路部3に設置させることが可能である。ろ過補助部材開口部26のろ過穴は少なくとも回収したい密度勾配遠心分離層を回収させる流路16の本数と同等存在させることにより、密度勾配遠心分離し、検出したい密度勾配層の細胞を効率よく観察することができる。
なお、密着性を保つことができる素材であれば、必ずしもゴムシート27でなくとも可能である。例えばシリコンシートなども有効である。
なお、吸引口30は各穴に対応させることで全ての穴をろ過させることができる。また、全ての穴をろ過するために吸引口30の数をろ過穴29の数に合わせることも可能である。
なお、ろ過補助部材開口部26とろ過補助部材下部28を密着させることでメンブレンフィルタ4とゴムシート27の密着性を向上させることができる。
なお、ゴムシート27の代わりにろ過穴29と同じ位置にOリングを設置することもできる。
なお、ろ過穴29の面積は、顕微鏡観察などで一視野に相当する大きさが望ましい。具体的には、直径50マイクロメートルから3ミリメートル程度である。
なお、ろ過補助部材とメンブレンフィルタ4を回転させ、必要な場所のみろ過させることも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例1に示す、密度勾配遠心分離による細胞の分離回収方法および部材およびその稼動システム全体概要を示す図。
【図2】本発明の実施例2に示す、密度勾配遠心分離要遠沈管および細管および密度勾配層吸引管を示す図。
【図3】本発明の実施例3に示す、密度勾配層の流路部内移動経路およびその方法を示す図。
【図4】本発明の実施例4に示す、流路部および流露部付属部材を示す図。
【図5】本発明の実施例5に示す、メンブレンフィルタ上の定位置ろ過部を限定するろ過補助部材を示す図。
【符号の説明】
【0014】
1.遠沈管
2.細管
3.流路部
4.メンブレンフィルタ
5.吸引ポンプ
6.シリンジポンプ
7.シリンジ
8.吸引チューブ
9.制御部
10.ソレノイド素子
11.シリコンシート
12.パソコン
13.密度勾配層吸引管
14.密度勾配界面
15.液層
16.流路
17.吸引口
18.送気路A
19.送気路B
20.送気路C
21.バルブA
22.バルブB
23.バルブC
24.バルブD
25.バルブE
26.ろ過補助部材開口部
27.ゴムシート
28.ろ過補助部材下部
29.ろ過穴
30.吸引口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度勾配遠心分離を行なう遠沈管と、その内側に遠沈管上部から出し入れ可能な少なくとも一つの当該遠沈管よりも細い管とから成り、その細い管が底部にまで伸びており、各密度勾配層を下層から順番に吸引し各密度勾配層に濃縮あるいは分散された細胞を回収することができる、密度勾配遠心分離による細胞の分離回収方法および部材。
【請求項2】
密度勾配遠心分離を行なう遠沈管と、その内側に遠沈管上部から出し入れ可能な少なくとも一つの当該遠沈管よりも細い管と、当該細い管で吸引回収された各密度勾配層を流すことができる流路を備えた流路部とから成り、その細い管が底部にまで伸びており、各密度勾配層を下層から順番に吸引し各密度勾配層に濃縮あるいは分散された細胞を回収することができる、密度勾配遠心分離による細胞の分離回収方法および部材。
【請求項3】
各密度勾配遠心分離層に濃縮あるいは分散された細胞を吸引回収した後、当該細胞をフィルタ上に直接濃縮することができる、請求項1記載の密度勾配遠心分離による細胞の分離回収方法および部材。
【請求項4】
各密度勾配遠心分離層に濃縮あるいは分散された細胞を吸引回収した後、当該細胞を、各密度勾配層を流すことができる流路を備えた流路部を介してフィルタ上に濃縮することができる、請求項2記載の密度勾配遠心分離による細胞の分離回収方法および部材。
【請求項5】
当該遠沈管上部から出し入れ可能な、当該遠沈管よりも細い管が密度勾配遠心分離層の数だけ束ねられている請求項1乃至4記載の密度勾配遠心分離による細胞の分離回収方法および部材。
【請求項6】
当該遠沈管上部から出し入れ可能な、当該遠沈管よりも細い管が密度勾配遠心分離層の内、目的の細胞が集まる密度勾配層の数だけ束ねられている請求項1乃至4記載の密度勾配遠心分離による細胞の分離回収方法および部材。
【請求項7】
当該遠沈管上部から出し入れ可能な、当該遠沈管よりも細い管の内側に密度勾配層を吸引する管が設けられている請求項1乃至6記載の密度勾配遠心分離による細胞の分離回収方法および部材。
【請求項8】
各密度勾配遠心分離層に濃縮あるいは分散された細胞を、吸引回収した後、当該細胞をフィルタ上の定位置にのみ回収することができる請求項3乃至7記載の密度勾配遠心分離による細胞の分離回収方法および部材。
【請求項9】
各密度勾配遠心分離層に濃縮あるいは分散された細胞を吸引回収した後、当該細胞を、密度勾配遠心分離層毎に、フィルタ上の一つの定位置にのみ回収する請求項3乃至7記載の密度勾配遠心分離による細胞の分離回収方法および部材。
【請求項10】
密度勾配遠心分離を行なう遠沈管と、その内側に遠沈管上部から出し入れ可能な少なくとも一つの当該遠沈管よりも細い管と、当該細い管で吸引回収された各密度勾配層を流すことができる流路を備えた流路部とから成り、これらを構成した状態で遠心分離することが可能な請求項1乃至9記載の密度勾配遠心分離による分離回収方法および部材。
【請求項11】
密度勾配遠心分離を行なう遠沈管と、その内側に遠沈管上部から出し入れ可能な少なくとも一つの当該遠沈管よりも細い管と、吸引回収された各密度勾配層を流すことができる流路を備えた流路部と、密度勾配層に分離回収した対象細胞をフィルタ上に濃縮することができる構造を備えた請求項1乃至9記載の密度勾配遠心分離による分離回収方法および部材。
【請求項12】
遠沈管の内側に遠沈管上部から出し入れ可能な少なくとも一つの当該遠沈管よりも細い管が対象細胞よりも大きく、夾雑物よりも小さい口径である請求項1乃至11記載の密度勾配遠心分離による分離回収方法および部材。
【請求項13】
遠沈管の内側に遠沈管上部から出し入れ可能な少なくとも一つの当該遠沈管よりも細い管の先端が対象細胞よりも大きく、夾雑物よりも小さい口径である請求項1乃至11記載の密度勾配遠心分離による分離回収方法および部材。
【請求項14】
各密度勾配層を流すことができる流路を備えた流路部の一箇所以上の各部位において流路を開閉することによって、目的の流路のみを開閉することができる請求項1乃至13記載の密度勾配遠心分離による分離回収方法および部材。
【請求項15】
各密度勾配層を流すことができる流路を備えた流路部の上に備えた形状を戻すことができるシートと一箇所以上の各部位において流路の開閉を制御する制御部から成り、制御部から流路に位置するシートの一部もしくは全面を圧迫することによって、目的の流路のみを開閉することができる請求項1乃至13記載の密度勾配遠心分離による分離回収方法および部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−75073(P2010−75073A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244821(P2008−244821)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】