説明

密閉型電池

【課題】溶接等の加熱を伴う処理が行われてもそのことに影響を受けることなく予め設定された開弁圧付近で正常に開口し得る安全弁を備えた密閉型電池を提供すること。
【解決手段】本発明により提供される密閉型電池のケース20の一部に形成された安全弁40は、該安全弁の周囲の部分よりも薄肉に形成された薄肉部42を備えており、該安全弁の薄肉部の周囲部分において、前記ケースの他の部分から該薄肉部への熱伝導を妨げるスリット80が該薄肉部を包囲するように形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密閉されたケース内に電極体が電解質とともに収容された構成の密閉型電池に関し、詳しくは、ケース内圧が上昇した際に開放する安全弁を備えた密閉型電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池その他の密閉型の二次電池は、車両搭載用電源あるいはパソコンや携帯端末等の電源として重要性が高まっている。特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウムイオン電池は、車両搭載用高出力電源として好ましく用いられるものとして期待されている。
かかる密閉型電池には、一般に過充電等によりケース内のガス圧(内圧)が過剰に上昇した場合に該内圧を開放するための内圧開放機構が設けられている。かかる内圧開放機構の一つの代表例として、特許文献1に記載されるような、ケースの一部に他の部分よりも厚みの小さい薄肉部(典型的には金属製)を形成しておき、該ケースの内圧が所定値(開放圧力)以上になると上記薄肉部が破断(開裂)してケース内のガスを放出し、ケース内圧を低下させるように構成された安全弁がある。また、この種の安全弁を備えた電池に関する他の従来技術文献として特許文献2や3が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−250885号公報
【特許文献2】特開2001−23595号公報
【特許文献3】特開2007−179793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1にも記載されているように、従来、電池ケースの一部に設けられる薄肉の安全弁は、当該ケースを構成する所定の材質の金属板(例えばアルミニウム板)をプレス加工等の手段によって薄肉化することにより形成されている。従って、かかる加工時に生じる金属硬化(加工硬化)によって、薄肉の安全弁の物理的強度(具体的には引張り強度)は逆に向上している。そして従来の安全弁では、電池の形状や容量に応じて適切な開弁圧(即ち、安全弁が開裂するときのケース内圧)が予め設定され、当該開弁圧の圧力が加わった際に正しく開裂するように、薄肉部分の肉厚や当該薄肉部分に形成される刻印部(即ち薄肉部分の開裂を誘導するための開裂開始点となり得る溝部)の溝深さが規定されるところ、かかる肉厚や溝深さは、安全弁が上記加工硬化した後の材質から成ることを前提に設定される。このこと自体は技術的に適切である。
【0005】
しかし、実際の密閉型電池の製造プロセスでは、上記プレス加工等によって薄肉化ならびに加工硬化して形成された安全弁を有する電池ケースに電池を構成する電極体や種々の電解質(典型的には電解液)を収容した後、当該電池ケースの開口部を封止する封止処理が行われる。一般に、かかる封止処理は、電池ケースの開口部に所定の蓋部材(封口板)を溶接するなどの加熱を伴う処理によって行われる。このため、当該溶接等の加熱処理時に発生する熱が安全弁の薄肉部分にも伝わり、結果、いったんは加工硬化した安全弁の薄肉部分が、かかる入熱によっていわゆる焼き鈍しをされた状態となり逆に軟化する虞がある。このことは、加工硬化されたことを前提に上記開弁圧を設定した安全弁が、軟化の結果、当該設定開弁圧よりも低い内圧時に開弁してしまうという不具合を発生させる原因となるため好ましくない。
このことに関する対処法として、軟化することを前提として設定開弁圧での開弁が実現できるように予め薄肉部分の肉厚や刻印部の溝深さを設定することが挙げられるのであるが、実際には上記鈍しの発生やその程度は個々の電池毎(即ち個々の溶接等の加熱処理の強弱)によって異なる。従って、所定の生産ラインで製造される全ての電池について、鈍しの程度を予測して一律に薄肉部分の肉厚や刻印部の溝深さを予め設定するということは実現不可能である。
【0006】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みて創出されたものであり、その目的は、上記溶接等の加熱を伴う処理が行われてもそのことに影響を受けることなく予め設定された開弁圧付近で正常に開裂(開口)し得る構造の安全弁を提供することである。また、そのような安全弁を備える密閉型電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によって提供される一態様の電池は、正極および負極を構成する電極体と、電解質と、該電極体および電解質を収容する密閉されたケースとを備える密閉型電池である。また、前記ケースの一部には、該ケースの内圧が所定レベル以上に上昇した場合に開放される安全弁が形成されている。この安全弁は、該安全弁の周囲の部分よりも薄肉に形成された薄肉部を備えている。
そして、前記安全弁の薄肉部の周囲部分において、前記ケースの他の部分から該薄肉部への熱伝導を妨げるスリットが、該薄肉部を包囲するように形成されていることを特徴とする。
【0008】
かかる構成の密閉型電池は、上記のとおりのスリット(溝部)が安全弁を構成する薄肉部を包囲するようにして該薄肉部の周囲に形成されている。
これにより、電池構築時のケース封止処理のような熱の発生を伴う処理に安全弁が一部に形成されたケース(典型的にはアルミニウム等の金属製ケース)が曝された場合であっても、ケースを伝導する熱が安全弁を構成する薄肉部に伝わる(入熱する)ことを妨げ、当該薄肉部への入熱によって「鈍し」が生じるのを抑制することができる。
このため、電池製造プロセスにおいて薄肉部の鈍しによる軟化が抑制され、延いては開弁圧の低下が抑制され、予め設定された開弁圧付近で正常に開裂(開口)し得る安全弁を備えた密閉型電池を提供することができる。
また、かかるスリット形成によって、上記のような伝導熱の影響のみならず、振動に対する減衰特性を向上させることができる。このため、ここで開示される密閉型電池のケース(例えばケースを構成する蓋体)に設けられた安全弁は、例えば超音波を用いた電池製造プロセス(例えば電極体に集電端子を接合するために行われる超音波溶接工程)において当該超音波によるダメージを抑制することができる。延いては超音波による劣化を防止して信頼性の高い安全弁を備えた密閉型電池を提供することができる。
【0009】
ここで開示される密閉型電池としての好ましい一態様では、前記スリットは、前記安全弁の薄肉部の周囲部分において前記ケースの内面側に形成されている。
かかる構成によると、スリットを設けることによる電池ケース(特に薄肉部周囲)の機械的強度の低下を抑制することができる。また、ケース内圧が異常に上昇したようなとき(即ち、安全弁が開弁する直前のような状態)でも、当該スリットの部分で開裂が生じる不具合を確実に防止することができる。
【0010】
また、ここで開示される密閉型電池としての好ましい他の一態様では、前記スリットは前記ケースの表面から少なくとも前記薄肉部の肉厚を上回る深さまで形成されていることを特徴とする。さらに好ましくは、前記スリットは前記安全弁の薄肉部の周囲部分におけるケース外面側から内面側に至る肉厚の10%を上回る深さ(例えば当該肉厚の10〜50%に相当する深さ、好ましくは当該肉厚の10〜30%に相当する深さ)まで形成されていることを特徴とする。
上記のような深さでスリットを形成することにより、より効果的にケースを伝わる伝導熱の薄肉部への入熱(伝導)を防止することができる。
【0011】
また、ここで開示される密閉型電池の特に好ましい一態様では、前記薄肉部の所定方向Xの寸法Wと、前記薄肉部の周囲に形成されたスリットの該薄肉部を挟んで前記所定方向Xにあるスリット間の寸法Wsとの比:Ws/Wが、1.1≦Ws/W≦2(さらに好ましくは1.25≦Ws/W≦2、特には1.5≦Ws/W≦2、例えば1.5≦Ws/W≦1.75程度)を具備するように前記スリットが前記薄肉部の周囲に形成されていることを特徴とする。
このような条件を満足するようにスリットを形成することにより、スリットを設けたことによって生じる鈍し発生防止効果と、スリットの存在による電池ケース(特に薄肉部周囲)の機械的強度の低下を抑制することとを、高次元に両立させることができる。
【0012】
また、ここで開示される密閉型電池の好ましい別の一態様は、前記スリットが形成されている前記安全弁の薄肉部の周囲部分におけるケース外面側から内面側に至る肉厚が、該周囲部分のさらに外周部分よりも厚く形成されていることを特徴とする。
このようにスリットが形成されている付近の肉厚を周囲よりも意図的に厚くすることにより、当該厚肉部分での吸熱効果を向上させることができる。このため、スリットによる熱伝導の妨げ効果との相乗作用により、さらに効果的にケースを伝わる伝導熱の薄肉部への入熱(伝導)を防止することができる。
【0013】
好ましくは、本発明は、ここで開示される密閉型電池として、リチウム二次電池(典型的にはリチウムイオン電池)を構成する電池を提供することができる。リチウム二次電池は、電池ケース内部においてガスが発生してケース内圧が上昇し易く、本発明を適用する対象として好適である。
【0014】
ここで開示される密閉型電池は、所定レベルのケース内圧に達した際に精度よく開放され得る構造の安全弁を備えており、特に自動車等の車両に搭載されるモーター(電動機)用電源として好適に使用することができる。従って本発明は、ここで開示されるいずれかの密閉型電池(典型的には当該密閉型電池複数個が相互に電気的に接続された組電池)を電源として備える車両(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車)を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一実施形態に係る密閉型電池を模式的に示す斜視図である。
【図2】一実施形態に係る電極体および電極端子を示す模式的側面図である。
【図3】一実施形態に係る密閉型電池の安全弁の構造を模式的に示す斜視図である。
【図4】図3に示す安全弁の平面図である。
【図5】図4におけるV−V線断面図である。
【図6】安全弁を模擬した形状の試験例で用いたテストピースの平面図である。
【図7】スリット深さ(ds:mm)と開弁圧低下率(%)および算出耐久性減少率(%)との関係を示すグラフである。
【図8】スリット寸法(Ws:mm)と薄肉部温度(℃)および算出耐久性残存率(%)との関係を示すグラフである。
【図9】一実施形態に係る密閉型電池の安全弁の構造を模式的に示す断面図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る密閉型電池を搭載した車両を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を図面を参照しつつ説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば電極体の構築方法や当該電極体を構築するために使用する材料)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
特に限定することを意図したものではないが、以下では捲回タイプの電極体(以下「捲回電極体」という。)と非水電解液とを角形(箱形)のケースに収容した形態の密閉型リチウム二次電池(リチウムイオン電池)を例として説明する。なお、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。また、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化する。
【0017】
本実施形態に係るリチウムイオン電池10は、図2に示すような捲回電極体30が、図示しない液状電解質(電解液)とともに、図1に示すような扁平な角形の電池ケース(即ち外装容器)20に収容された構成を有する。
ケース20は、一端(本実施形態に係る電池10の通常の使用状態における上側の端部に相当する。)に開口部を有する箱形(すなわち有底四角筒状)のケース本体21と、その開口部に取り付けられて該開口部を塞ぐ蓋体(ケース構成部品)22とから構成される。蓋体22には、外部接続用の正極端子14および負極端子16が固定されている。それらの電極端子14,16の一端(外側端)はケース(蓋体)の外方に突出しており、他端(内側端)は電極体30の正極32および負極34とそれぞれ電気的に接続されている。
【0018】
ケース20の材質は、従来の密閉型電池で使用されるものと同じであればよく、特に制限はない。軽量で熱伝導性の良い金属材料を主体に構成されたケース20が好ましく、このような金属製材料としてアルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルめっき鋼等が例示される。本実施形態に係るケース20(具体的には本体21および蓋体22)はアルミニウム若しくはアルミニウムを主体とする合金によって構成されている。
蓋体22の外形は全体として概ね長方形板状であり、その長手方向の両端部には電極端子14,16を貫通させる端子引出孔(図示せず)が形成されている。
蓋体22のうち、電極端子14,16の間に位置する部分の幅方向の中央部には、ケース20の内圧が所定レベル(例えば設定開弁圧0.3〜1.0MPa程度)以上に上昇した場合に該内圧を開放するように構成された安全弁40が形成されている。本実施形態に係る安全弁40とその周囲の構造、機構については後述する。
【0019】
図2に示すように、捲回電極体30は通常のリチウムイオン電池の捲回電極体と同様、長尺シート状の正極(正極シート)32および負極(負極シート)34を計二枚の長尺シート状のセパレータ(セパレータシート)36とともに積層して長手方向に捲回し、次いで得られた捲回体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって作製される。具体的には、正極シート32と負極シート34とは幅方向に位置をややずらしてセパレータシートの幅方向の一端および他端から該シート32,34の幅方向の一端がそれぞれはみ出すように積層された状態で捲回される。その結果として、捲回電極体30の捲回軸方向の一方および他方の端部には、正極シート32の幅方向の一端が捲回コア部31(すなわち正極シート32と負極シート34とセパレータシートとが密に捲回された部分)から外方にはみ出した部分と、負極シート34の幅方向の一端が捲回コア部31から外方にはみ出した部分とがそれぞれ形成されている。該はみ出し部に電極端子14,16が結合される。
【0020】
かかる捲回電極体30を構成する材料および部材自体は、従来のリチウムイオン電池に備えられる電極体と同様でよく、特に制限はない。例えば正極シート32は、長尺状の正極集電体(例えばアルミニウム箔)の上に正極活物質層が形成された構成であり得る。この正極活物質層の形成に用いる正極活物質としては、従来からリチウムイオン電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定なく使用することができる。好適例として、LiMn、LiCoO、LiNiO等のリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。負極シート34は、長尺状の負極集電体(例えば銅箔)の上に負極活物質層が形成された構成であり得る。この負極活物質層の形成に用いる負極活物質としては、従来からリチウムイオン電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定なく使用することができる。好適例として、グラファイトカーボン、アモルファスカーボン等の炭素系材料、リチウム遷移金属酸化物、リチウム遷移金属窒化物等が挙げられる。上記セパレータシートの好適例としては、多孔質ポリオレフィン系樹脂で構成されたものが挙げられる。
【0021】
液状電解質(電解液)としては、従来からリチウムイオン電池に用いられる非水電解液と同様のものを特に限定なく使用することができる。かかる非水電解液は、典型的には、適当な非水溶媒に支持塩を含有させた組成を有する。上記非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン等からなる群から選択された一種または二種以上を用いることができる。また、上記支持塩としては、例えば、LiPF,LiBF,LiAsF,LiCFSO,LiCSO,LiN(CFSO,LiC(CFSO等のリチウム塩を用いることができる。本実施形態では、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒(例えば質量比1:1)にLiPFを約1mol/リットルの濃度で含有させた電解液を用いている。なお、電解液の代わりに固体状やゲル状の電解質を採用してもよい。
【0022】
上記のような構成の各部材を備えるリチウムイオン電池10を製造する好適な一態様につき簡単に説明する。
まず、正負の電極端子14,16の外側端を蓋体22から外方に突出させて、該端子14,16を蓋体22に固定する。それらの端子14,16の内側端を、捲回電極体30の正極32および負極34に接続(例えば溶接)することにより、蓋体22と電極体30とを結合する。そして、蓋体22に結合された電極体30をケース本体21の開口部から内部に収めるようにして該開口部に蓋体22を被せ、蓋体22とケース本体21との合わせ目を例えばレーザ溶接により封止する。かかるレーザ溶接による封止処理は、従来技術において上述の「鈍し」を発生させ得る加熱を伴う処理に該当する典型例である。
次いで、図示しない電解液注入孔からケース20内に電解液を注入する。その後、上記電解液注入孔を塞いでケース20を封止する。このようにして密閉型リチウムイオン電池10を製造(構築)することができる。なお、電池の構築自体は本発明を特徴付けるものではないため、これ以上の詳細な説明は省略する。以下、本実施形態(第1の実施形態)に係る安全弁について詳細に説明する。
【0023】
図3は、ケース20の蓋体22に形成された安全弁40の付近を拡大して示す斜視図である。図4は、安全弁40の表面側の形状を示す平面図である。また、図5は図4中のV−V線断面図である。
これら図面に示されているように、本実施形態に係る安全弁はケース20(ここでは蓋体22)の一部に形成されており、その周囲の部分よりも薄肉に形成された薄肉部42と該薄肉部42の内部に所定のパターンで形成された破断溝部(刻印部)50とを備えている。図示されるように、薄肉部42は、その周囲部分におけるケース厚み(蓋体の肉厚は概ね0.5mm〜1mm、ここでは約0.8mm)よりも薄肉(概ね0.1mm〜0.3mmの肉厚、好ましくは0.1mm〜0.2mm程度の肉厚、ここでは約0.1mm)に形成されている。また、本実施形態に係る薄肉部42は、長軸方向と短軸方向のサイズが異なる横長形状に形成されている。具体的には、周縁が長軸方向に沿う一対の直線部と該方向の両端の半円状の曲線部とから構成されるいわゆる長円形状(トラック形状ともいう。)であり、薄肉部42の中心点を通る長軸方向で14mm、同中心点を通る短軸方向で4mmの薄肉部42に形成されている。薄肉部42の典型的形状として、かかる長円形状が挙げられるが、本発明を適用し得る薄肉部の形状はかかる長円形状に限定されない。例えば楕円形状、円形状、長方形や正方形等の矩形状が典型例として挙げられる。長方形や正方形の角部が4分の1円状のような曲線となっているいわゆる角丸方形状でもよい。
【0024】
薄肉部42に形成されている破断溝部(刻印部)50は、図4に示されるように薄肉部42の中央部分において該薄肉部42の長軸方向に延びる中央直線溝部60と、該中央直線溝部60の長軸方向の両側に形成され且つ該中央直線溝部60に繋がる一対のサイド溝部70とから構成されている。特に限定しないが本実施形態の破断溝部50は、開弁時の薄肉部42の外方への捲り上がりが好適に実現できるように、中央直線溝部60の一端及び他端から長軸方向の外側を向いたY字状に延長された溝形状である。なお、かかる破断溝部50の断面形状は、薄肉部42の外表面に開口するV字形状である。
破断溝部50の肉厚は、電池の形状や用途に応じて開弁させたい圧力設定が異なるために特に限定されないが、例えば、中央直線溝部60の肉厚が概ね30μm〜50μm(例えば45μm)、サイド溝部70の肉厚が概ね50μm〜100μm(例えば55μm)であることが好適である。
【0025】
上記のような構造の安全弁40を設けることによって、本実施形態に係る密閉型リチウムイオン電池10は、所定レベル以上のケース内圧が生じた場合に効率よく安全弁が開弁され、速やかにケース20の内部で発生したガスを放出することができる。
具体的には、ケース内圧の上昇にともない、先ず最も肉厚の薄い中央直線溝部60が破断(開裂)し、それを契機にしてサイド溝部70が破断(開裂)し、それによって薄肉部42が外方に捲り上がることにより開弁が行われる。このように開弁が行われることにより、電池ケース内部のガスを放出して速やかにケース内圧を減少させることができる。
【0026】
次に、薄肉部の周囲に形成された本実施形態に係るスリット80について図面を参照しつつ説明する。
図4および図5に示すように、ケース20(蓋体22)の内面側において薄肉部42の周囲部分に薄肉部42を包囲するようにしてスリット80が形成されている。特に限定しないが本実施形態においてスリットの開口部の幅は30μm以下(例えば10μm〜30μm)、より好ましくは20μm以下(例えば10μm〜20μm)に規定され、スリット深さは150μm〜200μmに規定されている。また、薄肉部42を挟んでスリット80間の寸法(距離)は、薄肉部42の中心点を通る短軸方向(図4中の上下方向)で8mm、薄肉部42の中心点を通る長軸方向(図4中の左右方向)で18mmである。従って、薄肉部42と近接するスリット80との間の距離(寸法)は、短軸方向で2mm、長軸方向で2mmである。
【0027】
上記のように、本実施形態のスリット80は、ケース20(蓋体22)の表面から少なくとも薄肉部42の肉厚(ここでは100μm)を上回る深さまで形成されている。
また、本実施形態のスリット80は、薄肉部42の周囲部分におけるケース外面側から内面側に至る肉厚(ここでは800μm)の10%を上回る深さ(典型的には当該肉厚の10〜50%に相当する深さ、好ましくは当該肉厚の10〜30%に相当する深さ)まで形成されている。
また、本実施形態においてスリット80は、上記長円形状薄肉部(楕円形状や角丸方形状の薄肉部でもよい。)において、所定方向Xとして短軸方向の薄肉部42の寸法(4mm)と、薄肉部42を挟んで短軸方向にあるスリット80間の寸法(8mm)との比が8/4、即ち2である。また、所定方向Xとして長軸方向の薄肉部42の寸法(14mm)と、薄肉部42を挟んで長軸方向にあるスリット80間の寸法(18mm)との比が18/14、即ち1.28である。
このような条件でスリット80を薄肉部42の周囲に形成することによって、上記レーザ溶接による封止処理のような熱の発生を伴う処理に安全弁40(薄肉部42)を備えるケース20が曝された場合であっても、当該熱がケース20を伝導して薄肉部42に高レベルに入熱されるのを妨げることができる。これにより、薄肉部における鈍しの発生を抑制し、予め設定されている開弁圧が低下することを防止することができる。このことを実験的に確認するため、以下の試験を行った。
【0028】
<試験1>
本実施形態に係る安全弁を備える密閉型電池に代えて、同形状の安全弁を備え且つその周囲にスリットを形成した図6に示すテストピース200を作製した。
即ち、厚さ約0.8mmのアルミニウム板210の一部に、上記実施形態と同様の長円形状(トラック形状)の薄肉部242を形成した。薄肉部242の肉厚は100μm、薄肉部242の中心点を通る長軸方向の寸法Lは14mm、同中心点を通る短軸方向の寸法Wは4mmに設定した。また、本試験では、薄肉部242を挟んで短軸方向にあるスリット280間の寸法Wsを8mmに設定し、長軸方向にあるスリット280間の寸法Lsを18mmに設定した。換言すれば、長円形状薄肉部242の周縁から2mmの間隔を設け当該周縁に沿ってスリットを形成した。
而して本試験では、スリット深さdsを0mm(即ちスリットを設けない)、0.05mm、0.1mm、0.15mm、0.2mm、0.25mm、0.3mm、0.4mmおよび0.5mmに設定して各種テストピースを作製した。
【0029】
次いで、実際の電池製造プロセスにおける封口のための溶接処理の模擬として、各テストピースについて、薄肉部242の周縁から5mmの間隔(即ちスリット280からは約3mmの間隔)を維持しつつ当該周縁に沿ってYAGレーザを連続的に照射した。
かかるレーザ処理後、テストピースに対して所定のガス圧を加え、レーザ処理前の開弁圧に対してレーザ処理後の開弁圧低下率(%)を求めた。また、一般的なCAE(Computer Aided Engineering)解析手法により、スリットの深さの程度が及ぼす耐久性の減少率(%:即ちスリット無しのものが耐久性減少率0とする)を算出した。結果を図7に示す。
図7に示されるように、開弁圧低下率(%)は、スリット深さが概ね0.08mm以上で減少し始めた(グラフ中に点線で示す境界線参照)。他方、スリット深さの増大に応じて耐久性も減少するため、両者のバランスを考慮すると、スリット深さが概ね0.08mm以上0.4mm以下が適当であり、0.08mm以上0.25mm以下程度がより好ましい。
【0030】
<試験2>
本試験では、試験1と同様のテストピース200を作製した。但し、本試験では、スリットを形成する位置を適宜異ならせた。具体的には、上記薄肉部242の中心点を通る短軸方向の寸法W(4mm)に対し、薄肉部242を挟んで短軸方向にあるスリット280間の寸法Wsを4mm(即ちスリットなし)から12mmまで1mmきざみで変化させた各種テストピースを作製した。これをWs/Wに換算すると図8の横軸に記載したように、0(即ちスリットなし)〜3の範囲となる。本試験ではスリット280の深さは全てのテストピースにおいて0.2mmに設定した。なお、各テストピース200における薄肉部242を挟んで長軸方向にあるスリット280間の寸法Ls(なおLは試験1と同じ14mm)は、各テストピース200におけるWs/Wに対応して設定した。即ち、薄肉部242の全周に亘って該薄肉部242の周縁とスリット280との間の距離がほぼ等しくなるように、薄肉部242の外周に沿って薄肉部242を包囲するようにスリット280を形成した。
【0031】
次いで、試験1と同様、実際の電池製造プロセスにおける封口のための溶接処理の模擬として、各テストピースについて、薄肉部242の周縁から5mmの間隔を維持しつつ当該周縁に沿ってYAGレーザを連続的に照射した。
かかるレーザ処理後、各テストピースの薄肉部242の温度(℃)を測定した。また、一般的なCAE解析手法により、スリット寸法Wsの変化(即ちWs/Wの変化)が及ぼす耐久性の残存率(%:即ちスリット無しのものを耐久性残存率100%とする)を算出した。結果を図8に示す。
図8に示されるように、薄肉部温度(℃)は、スリット寸法Wsが8mm(Ws/W=2)までは減少がみられ、スリットを形成した効果が認められる。しかしスリット寸法Wsが8mmを越えてくると、温度低下が認められなくなる。特に限定するものではないが、その理由としてWs/W比が大きくなりすぎると、スリット外側のヒートマスが低下し、テストピース全体の温度が上がり、効果があがらなくなったことが挙げられる。耐久性の低下度合いも考慮すると、Ws/Wは、1.25≦Ws/W≦2、特には1.5≦Ws/W≦2、例えば1.5≦Ws/W≦1.75程度が好ましい。
【0032】
以上、第1の実施形態の安全弁とスリットを備える電池について説明したが、本発明を上述した実施形態の電池に限定することを意図したものでなく、本発明の目的を実現し得る種々の変更例が本発明の技術的範囲に包含され得る。例えば第2の実施形態として図9に示す断面構造の形態が挙げられる。
図9に示す実施形態では、スリット180が形成されている安全弁140(薄肉部142)の周囲部分123におけるケース120(蓋体122)の外面側から内面側に至る肉厚が、該周囲部分のさらに外周部分124よりも厚く形成されている。この形態のように、スリット180が形成されている付近の肉厚を周囲よりも意図的に厚くすることにより、当該厚肉部分123での吸熱効果を向上させることができる。このため、スリット180による熱伝導の妨げ効果との相乗作用により、さらに効果的にケース120を伝わる伝導熱の薄肉部142への入熱(伝導)を防止することができる。なお、図9に示していない部分は第1の実施形態の電池と同様であるため重複説明は省略する。
【0033】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。例えば、電池の種類は上述したリチウムイオン電池に限られず、電極体構成材料や電解質が異なる種々の内容の電池、例えばリチウム金属やリチウム合金を負極とするリチウム二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池であってもよい。
また、ここで開示される密閉型電池は、安全弁の薄肉部の熱による鈍し発生を防止し、設定開弁圧付近で精度よく開弁が実現されるため、特に自動車等の車両に搭載されるモータ(電動機)用電源として好適に使用され得る。従って、図10に模式的に示すように、密閉型電池10(典型的には当該電池10を複数電気的に接続して形成される組電池)を電源として備える車両(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車等のような電動機を備える自動車)100を提供する。
【符号の説明】
【0034】
10 密閉型電池(リチウムイオン電池)
20,120 ケース
21 ケース本体
22,122 蓋体
30 捲回電極体
32 正極
34 負極
36 セパレータシート
40,140 安全弁
42,142,242 薄肉部
50 破断溝部
80,180,280 スリット
100 車両
200 テストピース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極および負極を構成する電極体と、電解質と、該電極体および電解質を収容する密閉されたケースとを備える密閉型電池であって、
前記ケースの一部には、該ケースの内圧が所定レベル以上に上昇した場合に開放される安全弁が形成されており、
前記安全弁は、該安全弁の周囲の部分よりも薄肉に形成された薄肉部を備えており、
ここで前記安全弁の薄肉部の周囲部分において、前記ケースの他の部分から該薄肉部への熱伝導を妨げるスリットが該薄肉部を包囲するように形成されていることを特徴とする、密閉型電池。
【請求項2】
前記スリットは、前記安全弁の薄肉部の周囲部分において前記ケースの内面側に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の密閉型電池。
【請求項3】
前記スリットは、前記ケースの表面から少なくとも前記薄肉部の肉厚を上回る深さまで形成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の密閉型電池。
【請求項4】
前記スリットは、前記安全弁の薄肉部の周囲部分におけるケース外面側から内面側に至る肉厚の10%を上回る深さまで形成されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の密閉型電池。
【請求項5】
前記薄肉部の所定方向Xの寸法Wと、前記薄肉部の周囲に形成されたスリットの該薄肉部を挟んで前記所定方向Xにあるスリット間の寸法Wsとの比:Ws/Wが、
1.1≦Ws/W≦2
を具備するように前記スリットが前記薄肉部の周囲に形成されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の密閉型電池。
【請求項6】
前記スリットが形成されている前記安全弁の薄肉部の周囲部分におけるケース外面側から内面側に至る肉厚は、該周囲部分のさらに外周部分よりも厚く形成されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の密閉型電池。
【請求項7】
リチウム二次電池を構成することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の密閉型電池。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の密閉型電池を備える車両。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−282851(P2010−282851A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−135601(P2009−135601)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(592204886)冨士発條株式会社 (11)
【Fターム(参考)】