説明

密閉室の開放検知方法およびシステム

【課題】空気中の自然放射能による放射性ダスト濃度の変化を利用した密閉室の開放検知方法およびシステムを提供する。
【解決手段】密閉室1に設けた外気導入部5と、外気導入部5に設けられ密閉室1に導入される空気中の放射性ダストをろ過するフィルタ9と、密閉室1に設けた内気排気部6と、密閉室1の換気速度を測定する換気速度測定部8と、密閉室1内部の空気中の放射性ダストをサンプリングしダスト放射能濃度を測定する内部ダストモニタ4と、内部ダストモニタ4の指示値と換気速度測定部8の指示値にもとづいて密閉室1の密閉度が低下したことを検知する開放検知部10とを備えている構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保管庫や金庫などの意図せざる開放を検知する密閉室の開放検知方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、保管庫や金庫など、他者の侵入を排除することを目的として設けられる密閉性の高い部屋(密閉室)の意図せざる開放の検知は、ドア部や室内に設けたセンサ等を用いた防犯装置により行われている。しかし、これらの技術は長年にわたり広く使用されており、ドアに取り付けられたセンサの場合、その接点部への工作や密閉室の壁面等の破壊による侵入、赤外線センサの場合、赤外線放出の欺瞞による侵入など、侵入者側の対抗手段も広まっており、設けたセンサを無効化されかねない。
【0003】
放射能という観点で密閉空間をみると、通常の空気中にはラドン等の放射能が自然に存在し、一方で、空気中の放射能検出のための装置として、特許文献1〜4に示すような放射性ダストモニタと呼ばれるものはあるが、密閉空間が破られることによるこれらの放射能濃度の変化を利用して開放検知システムはない。
【特許文献1】特開2000−241549号公報
【特許文献2】特開平07−84060号公報
【特許文献3】特開平09−230056号公報
【特許文献4】特開2000−162319号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、空気中の自然放射能による放射性ダスト濃度の変化を利用した密閉室の開放検知方法およびシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、密閉室に設けた外気導入部と、前記外気導入部に設けられ前記密閉室に導入される空気中の放射性ダストをろ過するフィルタと、前記密閉室に設けた内気排気部と、前記密閉室の換気速度を測定する換気速度測定部と、前記密閉室内部の空気中の放射性ダストをサンプリングしダスト放射能濃度を測定する内部ダストモニタと、前記内部ダストモニタの指示値と前記換気速度測定部の指示値にもとづいて前記密閉室の密閉度が低下したことを検知する開放検知部とを備えている構成とする。
【0006】
請求項12の発明は、密閉室内部の空気中のダスト放射能濃度と前記密閉室の換気速度にもとづいて前記密閉室の密閉度の低下を検知する方法とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、空気中の自然放射能による放射性ダスト濃度の変化を利用して密閉室の開放検知を行うことにより、信頼性の高い開放検知ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の第1ないし第4の実施の形態の密閉室の開放検知方法およびシステムを図面を参照して説明する。
【0009】
(第1の実施の形態)
本実施の形態は、図1に示すように、密閉室1の室外に置かれた外部ダストモニタ3と、室内に置かれた内部ダストモニタ4と、密閉室1に接続された外気の吸気配管5および排気配管6と、換気装置7と、換気速度測定部8と、吸気配管5の先端に設けられたフィルタ9と、密閉室1の開放を検知する開放検知部10からなる。
【0010】
吸気配管5および排気配管6はそれぞれ外気導入部および内気排気部を構成する。外気導入部および内気排気部は密閉室1に形成された窓のような形態でもよい。開放検知部10には、外部ダストモニタ3の出力と、内部ダストモニタ4の出力と、換気速度測定部8の出力が入力され、これらの入力を元に開放検知を行う。
【0011】
内部ダストモニタ4は図1に示すように密閉室1内に置き、密閉室1から配線を行い、電源の供給とその出力信号取り出しを行ってもよいし、図2あるいは図3に示すように密閉室1の外に置き、室内または室内からの排気側の配管部6からサンプリングしてもよい。
【0012】
内部ダストモニタ4を密閉室1の室外に設置する場合、あるいは室内の空気に有害な物質を放出する物質を密閉室1内に収納する場合には、サンプリング後の空気は密閉室1あるいは排気配管6の有害物質除去部の上流側に戻し、また、内部ダストモニタ4に密閉室1内からサンプリングしたガスが漏れないような構成が必要である。また、内部ダストモニタ4のサンプリング部を排気配管6の末端に接続し、内部ダストモニタ4の吸引力をもって換気を行い、換気装置7を省略したり、さらにこの場合、内部ダストモニタ4に流量計が内蔵されていれば換気速度測定部8を省略してもよい。
【0013】
開放検知部10における開放検知の処理を以下に説明する。
大気には通常自然界に存在するラドンが含まれている。ラドンは希ガスの放射性核種であり、半減期3.825日で崩壊し、図4に示す崩壊系列を構成する。図4に示されているラドン以降の娘核種はいずれも固体であり、空気中にダストとして浮遊する。これらのダストの濃度は外部ダストモニタ3で集塵し測定することができる。
【0014】
一方、密閉室1内部の空気は、吸気口でダストがフィルタ9に集塵されるので、ラドンの娘核種はほとんど密閉室内部に流入しない。しかしながら、希ガスであるラドンはフィルタ9を通過し、密閉室内部に流入する。密閉室内部に入ったラドンは半減期3.842日で崩壊し、娘核種を室内で作り出す。もし、密閉室の換気速度がラドンの半減期よりも充分に長ければ、娘核種が続々と生成され、空気中のラドン娘核種のダストの濃度は高くなるが、密閉室の換気速度がラドンの半減期程度よりも短い場合には、ほとんどのラドンは娘核種へと崩壊する前に、一部のラドンの崩壊により生じた娘核種のダストとともに排気されてしまうため、娘核種のダスト濃度は低い値に保たれる。
【0015】
従って、密閉室が密閉状態に保たれ換気が正常に行われている限り室内のラドン娘核種濃度は室外の娘核種濃度よりも低くなるため、内部ダストモニタ4の指示値は外部ダストモニタ3の指示値よりも低い値となる。逆に密閉室1が開放されると内部ダストモニタ4の指示値は上昇し外部ダストモニタ3の指示値に近づく。
【0016】
床面、天井、壁面などに使用する壁材や、収納した物質からラドンが湧き出す場合においても、密閉室の換気速度をラドンの半減期程度より早くすることで室内のラドン娘核種濃度を室外のラドン娘核種濃度よりも低くすることができる。また、換気速度測定部8を設けることで、指示値の上昇が換気装置7の異常によるかそうでないかを知ることができる。従って、密閉室1の扉2の開放や、密閉室1の壁の損傷などの密閉室1の密閉性の破壊の有無を内部ダストモニタ4と外部ダストモニタ3の指示値の比較を行う開放検知部10により知得することができる。
【0017】
以上のように本実施の形態は、空気中の自然放射能という制御が難しいものを密閉室1の開放検知に使用するため、欺瞞が困難で信頼性の高い開放検知システムを構築することができる。なお、内部ダストモニタ4の出力値が充分に小さくなる程高い換気環境である場合には、外部ダストモニタ3を省略し、内部ダストモニタ4の指示値の上昇のみで開放検知を行ってもよい。また、本実施の形態は、密閉室1として金庫、保管庫、収納ケース、倉庫などの区切られた空間に対する開放の検知に対して適用することができる。
【0018】
(第2の実施の形態)
本実施の形態は、前記第1の実施の形態における内部ダストモニタ4を、集塵した放射能のα線とβ線の双方の計数を求めることのできるα/β弁別型検出器を内蔵する構成とする。
【0019】
図4に示すように、ラドン娘核種はα線を放出するものとβ線を放出するものが存在する。一方、密閉室1内に保管する物質が放射性物質であり、その一部が空気中に飛散し、その放射性物質がα線またはβ線のどちらか一方しか放出しない場合、内部ダストモニタ4のα線とβ線の指示値のうち、保管した放射性物質が放出しないほうの放射線の値のモニタを行う。
【0020】
本実施の形態によれば、密閉室1内に保管する物質がα線、又はβ線のどちらか一方を放出する物質である場合にも適用することが可能となる。なお、この場合、外部ダストモニタ3にもα/β弁別型検出器を内蔵した構成でもよい。
【0021】
(第3の実施の形態)
本実施の形態は、前記第1の実施の形態における内部ダストモニタ4を、集塵した放射能のα線とβ線の双方の計数を求めることができるα/β弁別型検出器を内蔵し、そのα線とβ線の同時計数を求めることができる構成とする。
【0022】
図4に示すように、ラドン娘核種のうち、RaCはβ線を放出してRaC'に崩壊し、RaC'は、半減期164μ秒でRaDに崩壊する。すなわち、β線のあと、数百μ秒程度の間隔をおいて、α線を測定することができれば、Rn娘核種であるRaC'の濃度に関連した値を求めることができる。一方、密閉室1内に保管する物質が放射性物質であり、その一部が空気中に飛散し、その放射性物質がα線及びβ線の双方を放出する場合、この同時計数値のモニタを行うことで密閉室1の開放検知を行うことができる。
【0023】
本実施の形態によれば、密閉室1内に保管する物質がα線、又はβ線の双方を放出する物質である場合にも、Rn娘核種濃度に関連した値をモニタし、この値を元に密閉室1の開放検知を行うことができる。なお、この場合、外部ダストモニタ3にも、同時計数機能を設けてもよい。
【0024】
(第4の実施の形態)
本実施の形態は第1〜第3の実施の形態におけるダストモニタ3あるいは4内に、放射線検出器の計数率の時間変動の乱数の一様性を検証する機能を有する構成とする。ここで、計数率ではなく、一定時間ごとの計数値であってもよい。
【0025】
放射線による事象はランダムであるため、そこから得られる値はそのときの計数率の値に依存したばらつきを有する。このばらつきは一様な乱数であるため、得られた数値の乱数としての一様性を評価することで計数率が放射線によるものか否かを評価することができる。
【0026】
密閉室1の開放検知を欺瞞するために、密閉室1の開放後に上昇すべき放射線検出器の計数率を模擬パルスの入力などの手段で人為的に低く抑えようとしても、一様な乱数の生成は通常の手段では難しいため、本実施の形態の構成によってそのような欺瞞行為を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施の形態の密閉室の開放検知システムの構成を示す図。
【図2】本発明の第1の実施の形態の第1の変形例の密閉室の開放検知システムの構成を示す図。
【図3】本発明の第1の実施の形態の第2の変形例の密閉室の開放検知システムの構成を示す図。
【図4】ラドンの崩壊系列を示し、本発明の第1ないし第4の実施の形態の密閉室の開放検知システムの作用を説明する図。
【符号の説明】
【0028】
1…密閉室、2…扉、3…外部ダストモニタ、4…内部ダストモニタ、5…外気の吸気配管、6…排気配管、7…換気装置、8…換気速度測定部、9…フィルタ、10…開放検知部、11…サンプリング配管、12…戻り配管。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉室に設けた外気導入部と、前記外気導入部に設けられ前記密閉室に導入される空気中の放射性ダストをろ過するフィルタと、前記密閉室に設けた内気排気部と、前記密閉室の換気速度を測定する換気速度測定部と、前記密閉室内部の空気中の放射性ダストをサンプリングしダスト放射能濃度を測定する内部ダストモニタと、前記内部ダストモニタの指示値と前記換気速度測定部の指示値にもとづいて前記密閉室の密閉度が低下したことを検知する開放検知部とを備えていることを特徴とする密閉室の開放検知システム。
【請求項2】
前記密閉室外部の空気中の放射性ダストをサンプリングしダスト放射能濃度を測定する外部ダストモニタを備え、前記開放検知部は前記外部ダストモニタの指示値と前記内部ダストモニタの指示値と前記換気速度測定部の指示値にもとづいて前記密閉室の密閉度が低下したことを検知することを特徴とする請求項1記載の密閉室の開放検知システム。
【請求項3】
前記内部ダストモニタは前記密閉室の内部に設けられていることを特徴とする請求項1記載の密閉室の開放検知システム。
【請求項4】
前記内部ダストモニタは前記密閉室の外部に設けられ、前記密閉室内部または前記内気排気部の空気を導入するサンプリング配管を備えていることを特徴とする請求項1記載の密閉室の開放検知システム。
【請求項5】
前記内部ダストモニタからの排気を前記密閉室内部または前記内気排気部に戻す戻り配管を備えていることを特徴とする請求項4記載の密閉室の開放検知システム。
【請求項6】
前記戻り配管の前記内気排気部への出口端にフィルタを備えていることを特徴とする請求項5記載の密閉室の開放検知システム。
【請求項7】
前記内部ダストモニタによる吸引および排気により前記内気排気部および前記換気装置を兼ねることを特徴とする請求項1記載の密閉室の開放検知システム。
【請求項8】
前記内部ダストモニタは流量計測機能を備え、前記換気速度測定部を兼ねることを特徴とする請求項1記載の密閉室の開放検知システム。
【請求項9】
前記内部ダストモニタは、α線とβ線の双方の計数を弁別して求めることのできる放射線検出器を備えていることを特徴とする請求項1記載の密閉室の開放検知システム。
【請求項10】
前記内部ダストモニタは、前記放射線検出器のα線とβ線の出力間の同時性を判定する機能を有することを特徴とする請求項9記載の密閉室の開放検知システム。
【請求項11】
前記内部ダストモニタまたは外部ダストモニタは、求めた放射線計数率の乱数としての一様性を検証する機能を有することを特徴とする請求項1または2記載の密閉室の開放検知システム。
【請求項12】
密閉室内部の空気中のダスト放射能濃度と前記密閉室の換気速度にもとづいて前記密閉室の密閉度の低下を検知することを特徴とする密閉室の開放検知方法。
【請求項13】
密閉室外部の空気中のダスト放射能濃度を参酌することを特徴とする請求項12記載の密閉室の開放検知方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−79411(P2006−79411A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−263711(P2004−263711)
【出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】