説明

対物レンズ、レンズ製造方法、光学ドライブ装置

【課題】記録と再生とで同一光学系を共用できるという意味での光可逆性を確保しつつ、従来のSILを用いた対物レンズとする場合よりも実効的なNAを向上させることでさらなる高記録密度化、大記録容量化を図る。
【解決手段】最も対物側に配置される先玉レンズとして、誘電率が負である第1の薄膜と誘電率が正である第2の薄膜とが交互に積層され且つ、各薄膜が、その断面形状として、光源からの光が入射する側に凸となる角形状を有するように形成された積層構造体を有して構成された先玉レンズを備える対物レンズとする。これにより、上記積層構造体の上記入射側の先端部で局所近接場効果(表面プラズモン効果)による高NAの近接場光を発生させることができ、これを伝搬して対象物体に照射できる。局所近接場効果を利用したものであるので、従来のSILを用いたニアフィールド方式の場合よりもスポットサイズを縮小化でき、またプラズモンアンテナ方式のように金属ピンを用いる手法ではないので光可逆性を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、入射光を集光して対象物体に照射する対物レンズと、当該対物レンズに用いられるレンズの製造方法とに関する。また、上記対物レンズを備えて光記録媒体に対する情報記録又は上記光記録媒体に記録された情報の再生を行う光学ドライブ装置に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0002】
【特許文献1】特開2010−33688号公報
【特許文献2】特開2009−134780号公報
【特許文献3】特開2005−116155号公報
【背景技術】
【0003】
光の照射により情報の記録及び/又は記録情報の再生が行われる光記録媒体として、例えばCD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、BD(Blu-ray Disc:登録商標)などのいわゆる光ディスク記録媒体(単に光ディスクとも表記する)が広く普及している。
【0004】
これらの光ディスクにおいては、徐々に記録再生光の短波長化・対物レンズの高開口数(NA)化が図られてきており、それによって記録再生のための集光スポットサイズの縮小化が実現され、大記録容量化・高記録密度化が達成されてきた。
【0005】
但し、これら従来の光ディスクでは、対物レンズと光ディスクとの間の媒質が空気であるため、集光スポットのサイズ(径)を左右する開口数NAを「1」より大とすることができないことが知られている。
具体的に、光ディスク上に対物レンズを介して照射される光のスポットのサイズは、当該対物レンズの開口数をNAobj、光の波長をλとおくと、およそ

λ/NAobj

で与えられるものである。
このとき、開口数NAobjは、対物レンズと光ディスクとの間に介在する媒質の屈折率をnA、対物レンズの周辺光線の入射角度をθとしたとき、

NAobj=nA×sinθ

で表されるものとなる。
この式を参照して理解されるように、媒質が空気(nA=1)である限り、NAobj>1とすることはできない。
【0006】
そこで、例えば上記特許文献1や特許文献2などに開示されるような、近接場光(エバネッセント光)を利用してNAobj>1を実現する記録再生方式(ニアフィールド記録再生方式)が提案されている。
【0007】
周知のようにニアフィールド記録再生方式では、光ディスクに対して近接場光を照射して情報の記録/再生を行うようにされるが、このとき、光ディスクに対し近接場光を照射するための対物レンズとしては、ソリッドイマージョンレンズ(Solid Immersion Lens、以下SILと略称する)が用いられる(例えば特許文献1、特許文献2を参照)。
【0008】
図18は、SILを用いた従来のニアフィールド光学系について説明するための図である。
なお、この図18では、SILとして超半球状のSIL(超半球SIL)を用いた例を示している。具体的に、この場合の超半球SILは、対物側(つまり記録/再生対象とする記録媒体が配置される側)の形状が平面形状とされ、それ以外の部分が超半球状とされている。
【0009】
この場合の対物レンズは、上記超半球SILを先玉レンズとして有する2群レンズとして構成される。図示されるように、後玉レンズとしては、両面非球面レンズが用いられている。
【0010】
ここで、図18に示す構成による対物レンズの実効的な開口数NAは、入射光の入射角度をθi、超半球SILの構成材料の屈折率をnSILとすると、

NA=nSIL2×sinθi

で表される。
この式より、図18に示す対物レンズの構成とすれば、実効的な開口数NAは、SILの屈折率nSILを「1」よりも高く(空気の屈折率よりも高く)設定することで、「1」より大にできることが分かる。
従来において、SILの屈折率としては例えばnSIL=2程度が設定され、これにより実効的な開口数NAとして1.8程度が実現されている。
【0011】
ここで、ニアフィールド光学系としては、上記のような超半球SILを用いる構成のみでなく、半球状のSIL(半球状SIL)を用いたものであってもよい。
図18に示す超半球SILに代えて半球状SILを用いた対物レンズとした場合、その実効的な開口数NAは、

NA=nSIL×sinθi

となる。この式より、半球状SILを用いた場合も、SILの構成材料としてnSIL>1の高屈折率材料を用いることで、NA>1を実現可能であることが分かる。
【0012】
このとき、先の超半球SILの場合の式と比較すると、超半球状の場合と半球状の場合とでSILの構成材料(屈折率)を同一とするときには、超半球SILを用いる場合の方が、実効的なNAをより高く設定できることが分かる。
【0013】
なお確認のため述べておくと、SILにより生成されるNA>1の光(近接場光)を記録媒体に伝播(照射)して記録再生を行うためには、SILの対物面と記録媒体とを非常に近接させて配置する必要がある。このときのSILの対物面と記録媒体(記録面)との間隔は、ギャップと呼ばれている。
ニアフィールド記録再生方式において、ギャップの値としては、少なくとも光の波長の1/4程度以下に抑えることが要請される。
【0014】
上記のようにして、半球状や超半球状によるSILを備えた対物レンズを用いることで、開口数NAを「1」より大に設定することができ、その結果、スポット径を従来の光ディスクシステムでの限界を超えて縮小化できる。つまりその分、記録密度の向上、ひいては大記録容量化が図られる。
【0015】
ここで、高記録密度化や大記録容量化については、その程度が大であることに越したことはなく、さらなる向上が要請されていると言うことができる。
【0016】
記録光のスポットサイズを縮小化し大記録容量化を図るという観点では、上記特許文献3に開示されるような金属ピンを用いたプラズモンアンテナ方式を採用することが有効である。
具体的に、当該特許文献3に記載の発明では、記録媒体に対して垂直に倒立させた状態の金属ピン(金属ナノ構造体)に対して光を入射することで、表面プラズモン効果(局所近接場効果)により極小光スポットを発生させ、これにより記録を行うようにされている。
このような特許文献3に記載のプラズモンアンテナ方式によれば、その近接場光の発生原理により、SILを用いたニアフィールド方式を採用する場合よりも記録スポットの大幅な縮小化を図ることができる。また、プラズモン共鳴(共振)の作用により記録パワー(光強度)の増大化も図ることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、特許文献3に記載のプラズモンアンテナ方式は、近接場光の照射を金属ピンにより行うため、記録は可能であるが、再生は不能となる。すなわち、プラズモンアンテナ方式は、上記金属ピンを用いた再生が不能であるという点において光の可逆性を有しておらず、記録時と再生時とで光学系を共用できない点が問題となる。
【0018】
本技術はこのような問題点に鑑み為されたもので、記録時と再生時とで光学系を共用するための光可逆性を確保しつつ、従来のSILを用いた対物レンズとする場合よりも実効的なNAを向上させることでさらなる高記録密度化、大記録容量化を図ることをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
かかる課題の解決のため、本技術では対物レンズとして以下のように構成することとした。
つまり、本技術の対物レンズは、最も対物側に配置される先玉レンズとして、誘電率が負である第1の薄膜と誘電率が正である第2の薄膜とが交互に積層され且つ、各薄膜が、その断面形状として、光源からの光が入射する側に凸となる角形状を有するように形成された積層構造体を有して構成された先玉レンズを備えるものである。
【0020】
また、本技術では、レンズ製造方法として以下の第1、第2の方法を提案する。
つまり、第1のレンズ製造方法は、誘電率が負である第1の薄膜と誘電率が正である第2の薄膜とが交互に積層され且つ、各薄膜が、その断面形状として、光源からの光が入射する側に凸となる角形状を有するように形成された積層構造体を有して構成されるレンズを製造するためのレンズ製造方法であって、基板に対してその先端部の断面形状が角形状とされた凸部を形成する凸部形成工程を有する。
また、上記凸部形成工程により形成した上記凸部に対して、上記第1の薄膜と上記第2の薄膜とを交互に積層する積層工程を有するものである。
【0021】
また、第2のレンズ製造方法は、以下の通りとなる。
つまり、誘電率が負である第1の薄膜と誘電率が正である第2の薄膜とが交互に積層され且つ、各薄膜が、その断面形状として、光源からの光が入射する側に凸となる角形状を有するように形成された積層構造体を有して構成されるレンズを製造するためのレンズ製造方法であって、基板に対してその先端部の断面形状が角形状とされた凹部を形成する凹部形成工程を有する。
また、上記凹部形成工程により形成した上記凹部に対して、上記第1の薄膜と上記第2の薄膜とを交互に積層する積層工程を有するものである。
【0022】
また、本技術では光学ドライブ装置として以下のように構成することとした。
すなわち、光記録媒体に最も近接した位置に配置される先玉レンズとして、誘電率が負である第1の薄膜と誘電率が正である第2の薄膜とが交互に積層され且つ、各薄膜が、その断面形状として、光源からの光が入射する側に凸となる角形状を有するように形成された積層構造体を有して構成された先玉レンズを備える対物レンズを備える。
また、上記対物レンズを介して上記光記録媒体に対する光照射を行うことで、上記光記録媒体に対する情報の記録又は上記光記録媒体の記録情報の再生を行う記録/再生部を備えるものである。
【0023】
ここで、上記のように誘電率が負の薄膜と正の薄膜とを交互に積層した積層構造体においては、NA>1(NA:開口数)の光を伝搬することができる。なおかつ、当該積層構造体においては、上記のように各薄膜が、その断面形状が入射側に凸となる角形状を有するように形成されていることで、その入射側の角形状先端部において、局所近接場効果(表面プラズモン効果)による高NAの近接場光を発生させることができる。なお、ここで言う「高NAの近接場光」とは、表面プラズモン効果により生じ、微細構造部の寸法で決まる分解能をもった微小光スポットのことを指す。
これらより、本技術の対物レンズによれば、上記積層構造体の上記先端部において表面プラズモン効果により生じた近接場光を、当該積層構造体内を伝播させて対象物体に照射することができる。
プラズモンアンテナ方式と同様に表面プラズモン効果を利用した手法であるので、従来のSIL(ソリッドイマージョンレンズ)を用いたニアフィールド方式の場合よりもスポットサイズを縮小化できる。
一方で、プラズモンアンテナ方式のように金属ピンを用いる手法ではないので、従来のニアフィールド方式のように光可逆性を実現できる。
【発明の効果】
【0024】
上記のように本技術の対物レンズによれば、記録時と再生時とで光学系を共用するための光可逆性を確保しつつ、従来のSILを用いた対物レンズとする場合よりも実効的なNAを向上させてさらなる高記録密度化、大記録容量化を図ることができる。
【0025】
また、本技術のレンズ製造方法によれば、このような優れた効果を奏する本技術の対物レンズを製造することができる。
また本技術の光学ドライブ装置によれば、本技術の対物レンズを用いた記録/再生が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】先行例としての対物レンズについての説明図である。
【図2】先行例の対物レンズが有するハイパーレンズ部の拡大断面図である。
【図3】ハイパーレンズを別体で設けた対物レンズの構成を示した図である。
【図4】先行例の対物レンズが奏する効果を実証するための具体的な計算結果を示した図である。
【図5】実施の形態の対物レンズの構成についての説明図である。
【図6】実施の形態のハイパーレンズ部の作用について説明するための図である。
【図7】実施の形態のハイパーレンズ部と先行例のハイパーレンズ部とについて、レンズ内を伝搬する光の強度のシミュレーションを行った結果を示した図である。
【図8】実施の形態のハイパーレンズ部を用いた場合と先行例のハイパーレンズを用いた場合の変調度を比較した図である
【図9】ハイパーレンズ部の先端部の角度に依存してスポットサイズや強度が変化する点についての説明図である。
【図10】ハイパーレンズ部にて生じ得る反射・散乱に起因した迷光についての説明図である。
【図11】マスク層(及び保護膜)についての説明図である。
【図12】実施の形態のレンズ製造方法のうちの第1の製造方法について説明するための図である。
【図13】実施の形態のレンズ製造方法のうちの第2の製造方法について説明するための図である。
【図14】実施の形態の光学ドライブ装置の主に光学ピックアップの内部構成を示した図である。
【図15】実施の形態で記録再生の対象とする光記録媒体の断面構造を示した図である。
【図16】実施の形態の光学ドライブ装置の全体的な内部構成を示した図である。
【図17】ギャップ長と対物レンズからの戻り光量との関係について説明するための図である。
【図18】ソリッドイマージョンレンズを用いたニアフィールド光学系について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本技術に係る実施の形態について説明していく。
なお、説明は以下の順序で行う。

<1.先行例としての対物レンズ>
<2.先行例の有する問題>
<3.実施の形態としての対物レンズ>
[3-1.対物レンズの構成・効果について]
[3-2.第1の製造方法]
[3-3.第2の製造方法]
[3-4.光学ピックアップの構成]
[3-5.ドライブ装置全体の内部構成]
<4.変形例>
【0028】
<1.先行例としての対物レンズ>

先ずは、本実施の形態の対物レンズの比較対象となるべき、先行例としての対物レンズOL'について説明していく。
図1は、先行例としての対物レンズOL'の構成について説明するための図である。
なおこの図1では、対物レンズOL'の断面を示している。
また図1では、対物レンズOL'に対する入射光Liとその光軸axsも併せて示している。
【0029】
図示するように先行例としての対物レンズOL'は、後玉レンズL1と先玉レンズL2'とを有する2群レンズとされる。
この場合、後玉レンズL1としては両面非球面レンズが用いられる。
後玉レンズL1は、入射光Liに基づく収束光を先玉レンズL2'に対し入射する。
【0030】
先玉レンズL2'は、SIL部(SIL:Solid Immersion Lens:ソリッドイマージョンレンズ)L2'aに対し、ハイパーレンズ部L2'bが一体的に形成されたレンズとなる。換言すれば、先玉レンズL2'は、ソリッドイマージョンレンズの一部に対してハイパーレンズ部L2'bが形成されたものとも言うことができる。
先玉レンズL2'に用いるSIL(SIL部L2'a)は、図のように超半球形状を有するSILとされる。具体的に、この場合のSIL部L2'aは、その対物側の面が平面とされた超半球状のSILとされる。
【0031】
なお確認のため述べておくと、「対物側」とは、対物レンズによる光照射の対象とする物体が配置される側を意味するものである。本先行例の対物レンズOL'は、光記録媒体に対する記録/再生システムに適用されるので、対物側と言ったときは、光記録媒体が配置される側を意味するものとなる。
【0032】
ソリッドイマージョンレンズとしてのSIL部L2'aは、少なくとも屈折率が1より大となる高屈折率材料で構成されており、後玉レンズL1からの入射光に基づき、開口数NA>1による近接場光(エバネッセント光)を生成する。
そして、先玉レンズL2'において、ハイパーレンズ部L2'bは、図のようにSIL部L2'aにおける対物面に面する部分に形成されている。このような構成により、ハイパーレンズ部L2'bには、SIL部L2'aが生成したNA>1による光が入射されるようになっている。
図のようにハイパーレンズ部L2'bは、その全体的な形状として、略半球状の形状を有する。
【0033】
図2は、ハイパーレンズ部L2'bの拡大断面図である。
図のようにハイパーレンズ部L2'bは、複数の薄膜を積層した構造を有する。
具体的に、ハイパーレンズ部L2'bは、誘電率εが負(ε<0)となる第1の薄膜と、誘電率εが正(ε>0)となる第2の薄膜とを交互に積層して形成されたものとなる。
【0034】
ここで、誘電率εが負の材料は、プラズモニック材料(Plasmonic Material)とも呼ばれる。プラズモニック材料の例としては、例えばAg、Cu、Au、Alなどを挙げることができる。
また、誘電率εが正の材料としては、例えばSiO2、SiN、SiCなどのシリコン系化合物、MgF2、CaF2などのフッ化物、GaN、AlNなどの窒化物、金属酸化物(Metal Oxide)、ガラス、ポリマーなどを挙げることができる。
【0035】
ここで、誘電率εは、使用する光の波長λに応じて変化するものである。従って第1の薄膜、第2の薄膜の材料は、所期の誘電率εが得られるべく、波長λに応じて選定すればよい。
本先行例の場合、第1の薄膜の材料としてAgを、また第2の薄膜の材料としてAl23をそれぞれ選定するものとしている(本先行例の場合、波長λ=405nm程度を前提としている)。
【0036】
図2において、第1の薄膜と第2の薄膜との積層は、ハイパーレンズ部L2'bの対物側の外部(つまり先玉レンズL2'の対物側の外部と同じ)に設定した所定の基準点Prを中心とする半径Riによる球面に沿って、上記基準点Prを中心とする半径Ro(Ro>Ri)による球面の範囲まで行われている。このとき、第1の薄膜と第2の薄膜との積層は球面を基準に行われるので、各薄膜の積層は、図のようにドーム状に行われるものとなる。結果、ハイパーレンズ部L2'bの断面形状としては、図のように年輪のような形状(半年輪形状)になる。
【0037】
なお確認のため述べておくと、前述のようにハイパーレンズ部L2'bは、その全体的な形状としては略半円形状を有するものであり、従ってその対物側の面形状は、上記半径Riによる球面の形状を有する部分以外は、平面形状とされる。このようにハイパーレンズ部L2'bの対物側の面をほぼ平面形状としているのは、当該ハイパーレンズ部L2'bが一体形成されたSIL部L2'aの対物側の面形状が平面形状とされていることに対応させるためである。
【0038】
ここで、第1の薄膜と第2の薄膜とを積層した合計の層数は、3〜100000とされればよい。具体的に、本先行例の場合は68層程度としている。
また、各薄膜の膜厚は4nm〜40nmとされればよく、本先行例の場合、第1,第2の薄膜とも10nmを設定している。
【0039】
上記のようにハイパーレンズ部L2'bは、誘電率が負である第1の薄膜と誘電率が正である第2の薄膜とを交互に積層した構造を有する。このような構造により、ハイパーレンズ部L2'bにおいては、薄膜の積層方向に平行な方向おいて、NA>1の光(近接場光)を伝搬することができる。つまりこのことで、SIL部L2'aが生成したNA>1の光を伝搬して、対物側に出射することができる。
また、上記により説明したハイパーレンズ部L2'bの積層構造によれば、半径Roの球面側から入射した光を半径Riの球面側より出射する際に、光の光束(つまり光のスポット径)を、上記半径Riと半径Roとの比率(Ro/Ri)に応じた分だけ縮小化することができる。
【0040】
これらの作用により、上記ハイパーレンズ部L2'bによっては、SIL部L2'aによって生成されるNA>1の光で実現される極小光スポットをさらに縮小化することができ、なおかつ、これを伝搬して光記録媒体に対して照射することができる。
この結果、先行例としての対物レンズOL'によれば、従来のソリッドイマージョンレンズを用いた対物レンズとする場合よりも小さなスポット径での記録を実現できる。つまりその分、従来よりも高記録密度化が図られ、大記録容量化が図られるものである。
【0041】
また、図2に示す構造を有するハイパーレンズ部L2'bによれば、対物側からの戻り光について、その光束を上記半径Riと上記半径Roとの比率に応じた分だけ拡大化することもできる。つまりハイパーレンズ部L2'bは、光束を可逆的に縮小/拡大化することができるものである。
このような可逆的縮小/拡大化が可能なハイパーレンズ部L2'bを有する対物レンズOL'によれば、当該対物レンズOL'を用いて極小スポットにより記録したマーク(情報)について、その読み出しも行うことができる。
つまりこの結果、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、BD(Blu-ray Disc:登録商標)などの従来の光ディスクシステムの場合と同様に、共通の光学系を用いた記録再生を実現することができる。換言すれば、記録時と再生時とで、それぞれ異なる光学系を用いるといった複雑な構成を採らずに済むものとできる。
【0042】
ところで、先行例においては、ハイパーレンズ部L2'bをSIL部L2'aに対して一体的に形成するものとしているが、上記で説明したようなハイパーレンズ部L2'bによるスポット径のさらなる縮小化作用、及び光可逆性を得るという面においては、例えば図3に示されるように、従来と同様のSILとした先玉レンズL2''と、ハイパーレンズ部L2'bと同様の構造を有するハイパーレンズL2'b'とを、別体に設けた構成とすることも考えられ得る。
しかしながら、このようにSILとしての先玉レンズL2''とハイパーレンズ部L2'b'とを別体で設けた場合には、先玉レンズL2''とハイパーレンズL2'b'とが接する点以外の領域での媒質が空気とされるため、先玉レンズL2''からハイパーレンズL2'b'への光の入射の際に、光の反射ロスが生じてしまう。このとき、SILとしての先玉レンズL2''及びハイパーレンズL2'b'としては共に高屈折率材料で構成されるため、このような反射によるロスは非常に大きなものとなる。
【0043】
図1に示したようにハイパーレンズ部L2'bをSILに一体的に形成する構成とすれば、かかる問題の発生を効果的に回避することができ、光の利用効率を格段に高めることができる。
【0044】
図4は、上記により先行例の対物レンズOL'が奏する効果を実証するための具体的な計算結果を示している。
この図4では、BDシステム、従来SILのシステム、及び先行例(図中、先行実施例1、先行実施例2)の対物レンズOL'を用いたシステムの別ごとに、波長λ(nm)、後玉NA(NAb)、先玉屈折率(n)、縮小/拡大倍率(Ro/Ri)、実効NA、スポット径を表すλ/NA(nm)、作動距離(記録媒体との距離:ギャップ)、プリグルーブ形態、トラックピッチTp(nm)、変調方式、チャンネルの各条件を示すと共に、最短マーク長(nm)、ビット長(nm/bit)、記録密度(Gbpsi)、及び記録容量(GB)についての計算結果を示している。
なお図4において、「従来SIL」のシステムとは、先の図18に示した超半球状のソリッドイマージョンレンズを用いたシステムを指す。
また図4において、「チャンネル」は、採用するPR(Partial Response)のクラスの別を表したものである。
また、「記録容量」は、12cmディスクとした場合の記録容量を指す。
ここで、先行例のシステムとして、先行実施例1と先行実施例2のシステムの差は、主に後玉レンズL1のNAの差と、先玉レンズL2'の屈折率nの差となる。
【0045】
なお、この図4に示される以外の条件として、先行実施例1のシステムでは、図1に示した後玉レンズL1の厚さ(光軸axsに平行な方向の長さ)T_L1、SIL部L2'aの厚さT_L2、SIL部L2'aの半径R、及び後玉レンズL1と先玉レンズL2'との間のスペース(後玉レンズL1の対物側面の頂点からSIL部L2'aの超半球面の頂点までの距離)T_sを、以下のように設定した。

T_L1=1.7mm
T_L2=0.7124mm
R=0.45mm
T_s=0.1556mm

また、後玉レンズL1への入射光Liは平行光とし、その径φは2.1mmとした。
【0046】
図4において、先ず波長λについては、BD、従来SIL、先行実施例1,2の各場合で共通のλ=405nmである。
また、後玉NAについては、BDの場合は対物レンズのNAであり0.85である。また、従来SIL、先行実施例1、先行実施例2の場合は、共に後玉レンズL1のNAであり、従来SIL及び先行実施例1の場合が0.43で同値であり、また先行実施例2の場合は0.37である。
【0047】
また、先玉レンズの屈折率nについては、BDの場合は該当無し、従来SIL及び先行実施例1の場合が共通でn=2.075となる。また先行実施例2の場合、n=2.36である。
【0048】
縮小/拡大倍率(Ro/Ri)については、先行実施例1、2が該当し、図のように共に6.58である。
なお本例の場合、半径Ri=120nm、半径Ro=790nmを設定するものとしており、その結果がRo/Ri=6.58となる。
【0049】
実効NAは、対物レンズの実効的な開口数NAであり、BDの場合は0.85、従来SILの場合は1.84となる。これに対し、先行実施例1の場合は12.1、先行実施例2の場合が13.7となる。
なお確認のため述べておくと、従来SIL(超半球状SIL)の場合における対物レンズの実効NAは、先に示した通り、

NA=nSIL2×sinθi

で求まる。
これに対し、先行実施例1、2の場合における対物レンズOL'の実効NAは、

NA=n2×NAb×(Ro/Ri)

で計算されるものとなる。
【0050】
スポット径は、BDの場合が476nm、従来SILの場合が220nmとなる。これに対し、先行実施例1の場合は33nm、先行実施例2の場合には30nmとなる。
このように先行例としての対物レンズOL'によれば、従来SILの場合よりもスポット径の大幅な縮小化が図られる。
【0051】
また、作動距離は、BDの場合が0.3mmである。また、従来SIL及び先行実施例1,2としてのニアフィールド記録再生方式の場合、作動距離(つまりギャップG)は20nmとなる。
また、プリグルーブ形態は、各場合とも連続蛇行溝(ウォブリンググルーブ)で共通である。
【0052】
トラックピッチTpについては、BDの場合が320nm、従来SILの場合が160nmとされる。
そして、先行実施例1,2の場合は、前述のようにスポット径の縮小化が図られることで、トラックピッチTpは従来SILの場合よりも狭い24nmとなる。
【0053】
変調方式については、各場合とも1−7pp変調方式で共通である。
また、チャンネルについては、BDの場合は該当無し(PRML復号無し)としており、また従来SIL及び先行実施例1の場合は共にPR(1,2,2,1)を採用している。また先行実施例2ではPR(1,2,2,2,1)を採用している。
【0054】
最短マーク長は、BDの場合が149nm、従来SILの場合が66.5nmとなる。
これに対し、先行実施例1の場合の最短マーク長は10.1nm、先行実施例2の場合の最短マーク長は8.4nmにまで縮小化できる。
【0055】
ビット長については、BDの場合が112nm/bit、従来SILの場合が50nm/bitとなる。
これに対し、先行実施例1の場合は7.6nm/bit、先行実施例2の場合は6.2nm/bitと、従来SILの場合よりも大幅に短縮化される。
【0056】
記録密度については、BDの場合が18Gbpsi、従来SILの場合でも81Gbpsiである。これに対し、先行実施例1の場合には3510Gbpsi、先行実施例2の場合には4290Gbpsiとなる。
この結果より、先行例としての対物レンズOL'によれば、従来SILの場合よりも記録密度を数十倍向上できることが分かる。
【0057】
また、記録容量に関しては、BDの場合が25GB、従来SILの場合でも112GBである。これに対し先行実施例1、先行実施例2の場合、記録容量はそれぞれ4850GB、5930GBまで増大化する。
この結果からも理解されるように、先行例としての対物レンズOL'によれば、記録容量についても、従来SILの場合との比較で数十倍程度向上することができる。
【0058】
<2.先行例の有する問題>

上記のように先行例としての対物レンズOL'によれば、光可逆性を確保しつつ、従来のSILを用いたニアフィールド方式を採用する場合よりもスポット径を縮小化して高記録密度化、大記録容量化を図ることができる。
【0059】
但し、先行例で用いるハイパーレンズ部L2'bは、例えば特許文献3に開示されるプラズモンアンテナ方式を採用する場合等と比較して、スポットの光強度を高めることが困難となる。
具体的に、ハイパーレンズ部L2'bで用いる金属膜(第1の薄膜)は、これが反射膜としても機能してしまうので、光の減衰量が比較的大きなものとなる。ここで、ハイパーレンズ部L2'bは、その外径/内径の比(Ro/Ri)でスポットサイズが決まるので、スポットサイズを小とするには、その分、厚さが増す傾向となる。すなわち、薄膜の積層数が大となる傾向となる。具体的に、前述のような30nm程度のスポットサイズ(Ro/Ri=6.5程度)を実現しようとしたとき、ハイパーレンズ部L2'bの薄膜の積層数は、前述の各薄膜の膜厚(=10nm程度)等を考慮するとおよそ60層程度となる。うち、金属膜による第1の薄膜の積層数は、その半分のおよそ30層程度である。
【0060】
光スポットの強度が小であると、記録パワーの不足や再生時のSNR(S/N比)の低下を招き、記録性能・再生性能の悪化に繋がる。
【0061】
<3.実施の形態としての対物レンズ>
[3-1.対物レンズの構成・効果について]

そこで本実施の形態では、先行例のハイパーレンズ部L2'b(以下、球面ハイパーレンズとも称する)のように光可逆性を確保し且つ従来SILを用いたニアフィールド方式よりもスポット径の縮小化が図られるようにしつつ、さらに、光スポット強度の向上を図ることのできる対物レンズを提案する。
【0062】
図5は、本技術の対物レンズの一実施形態としての対物レンズ(対物レンズOLとする)の構成についての説明図である。
図5Aは対物レンズOL全体の断面図を、また図5Bは対物レンズOLが有するハイパーレンズ部L2bの拡大断面図をそれぞれ示している。
なおこの図5において、既に先行例において説明済みとなった部分と同様となる部分については同一符号を付して説明を省略する。
【0063】
本実施の形態の対物レンズOLは、球面によるハイパーレンズ部L2'bに代えて、図のように光源からの入射光Liが入力される側に凸となる角形状を有する積層構造体(つまり第1の薄膜と第2の薄膜の交互積層体)によるハイパーレンズ部L2bを形成したものとなる。
なお、図5Aを参照して分かるように、本例においても、ハイパーレンズ部L2bは、SIL(ここではSIL部2aとしている)における対物面に面する部分に一体的に形成するものとしている。
【0064】
具体的に、本例のハイパーレンズ部L2bは、その断面において、図のように第1の薄膜と第2の薄膜をそれぞれV字状に交互積層して形成されたものとなる。また、対物側の面の形状は、先行例の場合と同様、SIL部L2aの対物面が平面で形成されることに対応させて平面により形成している。
これらより、ハイパーレンズ部L2bは、その全体的な断面形状が略三角形状とされる。
なお、この場合におけるハイパーレンズ部L2bの外形形状としては、ピラミッド形状(四角錐形状)、又は円錐形状とすればよい。
【0065】
ここで、この場合も第1の薄膜は誘電率ε<0、第2の薄膜は誘電率ε>0である。本例においても、これら第1の薄膜、第2の薄膜の材料としては、所期の誘電率εが得られるべく、使用する波長λに応じて選定すればよい。
具体的な材料については、先行例にて挙げたものと同様でよい。
本例の場合、第1の薄膜の材料としてはAgを、また第2の薄膜の材料としてはAl23をそれぞれ選定しているものとする。
ここで、これら薄膜の積層順としては、光源からの光の入射側から順に第1の薄膜→第2の薄膜の順とする。
【0066】
また、第1,第2の薄膜の膜厚についても、先行例の場合と同様に4nm〜40nm程度の範囲内で適切に設定すればよい。
【0067】
なお、図5Bに示したように、ハイパーレンズ部L2bの対物側の面から入射側の端部(角部)の頂点までの距離(ハイパーレンズ部L2bの厚さ)をHとする。
また、ハイパーレンズ部L2bの入射側の角部(先端部)の角度はθと表記する。
【0068】
図6は、実施の形態のハイパーレンズ部L2bの作用について説明するための図である。
図6Aがハイパーレンズ部L2bで得られる作用を模式的に示し、図6Bは、比較として先行例のハイパーレンズ部L2'bで得られる作用を模式的に示している。
なお、図中の入射光Liは、SIL部L2a(図6Bの場合はL2'a)からの入射光を意味している。
【0069】
図6Aにおいて、実施の形態のハイパーレンズ部L2bは、入射側の先端部が角形状とされる。このことで、当該入射側先端部においては、図中のP1と示すように局所近接場効果(表面プラズモン効果)に伴う近接場光(局所近接場光)が発生することになる。
周知ように局所近接場効果は、金属中の電子が光と相互作用を起こすことで発生するものである。
特に本例のハイパーレンズ部L2bのように、角状の先端部に続けてその内部に角状の薄膜が周期的に並ぶような構造をとる場合、電子と光の共鳴(プラズモン共鳴)が促進され、非常に高い光出力をもたらすことができる。
【0070】
ハイパーレンズ部L2bは、第1の薄膜と第2の薄膜とが交互に積層されているので、このように生じた近接場光は、当該ハイパーレンズ部L2b内を伝搬する(図中、斜線矢印)。そして、このように伝搬した近接場光が、図中のP2と示すように対物面から出力されることになる。
ここで、図6Aにおいては、このような局所近接場光の発生・伝搬・出力に係る、ハイパーレンズ部L2bの中心軸近傍の領域を、領域R1と示している。
【0071】
また、ハイパーレンズ部L2bを三角断面形状で構成した場合には、局所近接場光の発生・伝搬等に係る領域R1以外にも、近接場光を伝搬可能な第1,第2の薄膜の積層領域が得られる。
このことでハイパーレンズ部L2bによっては、SIL部L2aにより生成されるNA>1の成分を伝搬して、これを出力するという作用も同時に得られることとなる(図中、白抜き矢印)。
【0072】
これに対し、先行例のハイパーレンズ部L2'bの場合は、図6Bに示すように、これら実施の形態のハイパーレンズ部L2bで得られる2つの作用のうち、後者の作用、すなわちSIL部で生成されたNA>1の入射光成分を伝搬して出力する作用のみが得られるものと表すことができる。
【0073】
ここで、局所近接場光による光強度は非常に大きなものである。また本例の場合は、多層構造としていることで金属膜が周期的に配置されることから、多層構造内部においてもプラズモン共鳴効果を得ることができる。
従って上記の対比からも明らかなように、本実施の形態のハイパーレンズ部L2bによれば、先行例のハイパーレンズ部L2'bと比較して、スポットの光強度を大幅に改善することができる。
【0074】
図7は、実施の形態のハイパーレンズ部L2b(図7A)と先行例のハイパーレンズ部L2'b(図7B)とについて、それぞれレンズ内を伝搬する光の強度のシミュレーションを行った結果を示している。
なお、この図に示すシミュレーション結果を得るにあたっては、形成される光スポットのサイズが同等となるように第1,第2の薄膜の膜厚、積層数を設定した。具体的に、各膜厚=10nmの条件下で、図7Aの場合は積層数=12程度、図7Bの場合は積層数=68程度とした。また実施の形態のハイパーレンズ部L2bについて、先端部の角度θは90°程度とした。なお図7Bの場合、Ro/Ri=6.58程度とした。
【0075】
これら図7A,図7Bを対比して明らかなように、光強度については、先行例との比較でおよそ10倍程度の改善が図られることが分かる(図7Aにおいて強度|E|の単位が10倍となっている点に注意)。
【0076】
図8は、実施の形態のハイパーレンズ部L2bを用いた場合と先行例のハイパーレンズ部L2'bを用いた場合の変調度を比較した図である。
なお、この図に示すシミュレーション結果を得るにあたって設定した条件は、図7の場合と同様である。またシミュレーションでは、GeSbTeアモルファスの記録膜に結晶マークを形成することを前提とした。このとき、マーク長=30nm、スペース長=30nmで一定とした。
横軸は距離(時間)、縦軸は、先行例のハイパーレンズ部L2'bを用いた場合の変調度幅を±1としたときの変調度比を表す。●プロットが先行例のハイパーレンズ部L2'bを用いた場合の結果を、■プロットが実施の形態のハイパーレンズ部L2bを用いた場合の結果をそれぞれ表す。
【0077】
この図8を参照して分かるように、実施の形態のハイパーレンズ部L2bによれば、先行例のハイパーレンズ部L2'bと比較して大幅な変調度の改善が図られる。具体的にこの場合は、約50倍程度の変調度の改善が図られる。
【0078】
ここで、実施の形態のハイパーレンズ部L2bにおいて、形成される光スポットのサイズやその光強度は、主として、入射側の先端部の角度θに依存する傾向となる。
図9は、この点について説明するための図である。
図9では、図9Bにおいて角度θに対するエネルギー面内分布(半値全幅)、すなわち光スポットの半径の関係性についてのシミュレーション結果を示し、図9Cに角度θに対するエネルギー面内分布中心強度の関係性についてのシミュレーション結果を示している。
【0079】
ここで、図9B、図9Cに示すシミュレーション結果を得るにあたって設定した条件を図9Aを参照して説明しておく。
先ず、エネルギー分布算出面は、図のようにハイパーレンズ部L2bの対物面から10nm離間した位置とした。
またこの場合、ハイパーレンズ部L2bを形成する第1の薄膜、第2の薄膜の膜厚はそれぞれ10nmとし、これら第1の膜厚と第2の膜厚を交互に6回繰り返し積層した(第1の薄膜×6、第2の薄膜×6)。この場合、ハイパーレンズ部L2bの対物面は平面とされるので、最も対物側となる位置には、図のような三角断面形状による第1の薄膜が形成される(つまり第1の薄膜については7層目が存在する)。
この場合におけるハイパーレンズ部L2bの厚さHは、125nm(6回の繰り返し積層部=120、及び7層目の第1の薄膜=5nm)となる。
なお、第1の薄膜=Ag、第2の薄膜=Al23である。
また、ハイパーレンズ部L2bへの入射光Liの波長λ及び開口数NAについては、それぞれλ=375nm、NA=1.61とした。
【0080】
図9Bの結果によれば、スポットサイズは角度θに依存して変化することが分かる。具体的にスポットサイズは、概ね角度θ=130°付近が最小となり、そこから角度θが大又は小となることに応じて拡大していく傾向となる。
【0081】
また図9Cの結果によれば、スポットの中心光強度についても角度θに依存して変化することが分かる。具体的には、概ね角度θ=120°付近で光強度が最小となり、そこから角度θが大又は小となることに応じて光強度が増大化していく傾向となる。
【0082】
ここで、スポットの光強度については、本実施の形態では局所近接場光を利用した方式であることから、先行例との比較では非常に大きなものとなる。この意味で、角度θを定めるにあたっては、主として、スポットサイズを基準とすべきであると言える。
【0083】
この点に鑑みると、角度θについては、先行例と同等のおよそ50nm程度以下のスポットサイズを実現するという意味では、概ね80°〜160°の範囲内で設定することが望ましいと言える(図9Bを参照)。
或いは、さらなるスポットサイズの縮小化を図るとした場合には、角度θは概ね100°〜150°の範囲内で設定することが望ましい。
【0084】
ところで、実際に角度θを定めるにあたっては、ハイパーレンズ部L2bで発生する反射や散乱の発生も考慮に入れるべきである。これら反射・散乱に起因した迷光により、SNRの悪化が生じるためである。
【0085】
図10は、ハイパーレンズ部L2bにて生じ得る反射・散乱に起因した迷光についての説明図である。
ハイパーレンズ部L2bに光が入射(図中の破線矢印)された場合には、先に述べた局所近接場効果等により、紙面上向きの白抜き矢印で示す記録/再生光がハイパーレンズ部L2bにより出射される。
また、前述のようにハイパーレンズ部L2bは光可逆性を有するため、再生時には、このように出射された再生光の光記録媒体からの戻り光がハイパーレンズ部L2bを介して出力されることになる(紙面下向きの白抜き矢印)。
【0086】
そして、これと共にハイパーレンズ部L2bにおいては、図中に第1の反射・散乱光と示すような、光の入射側に発せられるノイズ光が生じ得る。
また同時に、図中に第2の反射・散乱光と示す、光記録媒体側(対物側)に発せられるノイズ光も生じ得る。
第1の反射・散乱光は、第1,第2の薄膜の膜面放線方向に発せられるものとなる。また第2の反射・散乱光は、第1,第2の薄膜の膜面接線方向に発せられるものとなる。
【0087】
第1の反射・散乱光は、少なくともその一部が再生光についての反射光(戻り光)と共に受光部に導かれて、SNRを悪化させる。また第2の反射・散乱光は、光記録媒体の記録面(反射面)で反射された後、それらの少なくとも一部が戻り光と共に受光部に導かれてSNRを悪化させるものとなる。
【0088】
ここで、角度θを大とすると、第1の反射・散乱光が戻り光と共に受光部に導かれる量(すなわち迷光の発生量)が増大し、SNRがより悪化する傾向となる。一方で、第2の反射・散乱光については、角度θが大となる分、これが発せられる角度が広がることで、光記録媒体からの反射光が戻り光と共に受光部側に戻される量(迷光の発生量)が減少し、SNRは改善する傾向となる。
【0089】
角度θを小とした場合には、上記とは逆の関係が成り立つ。すなわち、第1の反射・散乱光に起因する迷光が減少して当該迷光に依るSNRの悪化は抑制傾向となり、第2の反射・散乱光に起因する迷光が増大して、当該迷光に依るSNRの悪化は増大傾向となる。
【0090】
角度θについては、このようにハイパーレンズ部L2bで生じる反射・散乱光に起因する迷光の影響も考慮して、主にスポットサイズ(及び要求される場合は光強度)との兼ね合いで適切に設定すればよい。
【0091】
ここで、対物側に発せられる第2の反射・散乱光に起因する迷光については、例えば図11に示すようなマスク層を先玉レンズL2の対物面側に設けることでその抑制を図ることができる。
【0092】
この図11に示す例では、マスク層と共に、保護膜も併せて設けるものとしている。
具体的に、図11Aの例では、ハイパーレンズ部L2bの対物面の全体を保護膜FCで覆うものとしている。この図の例では、保護膜FCは先玉レンズL2におけるハイパーレンズ部L2bの形成部分以外の部分も覆うように形成している。
その上で、マスク層FDを、先玉レンズL2の対物面に面した領域(この場合は保護膜FCと接する領域となる)であって、ハイパーレンズ部L2bの形成領域以外の領域に対して形成するものとしている。
このようなマスク層FCの形成により、第2の反射・散乱光に起因する迷光の発生を効果的に抑制できる。
また保護膜FCの形成により、ハイパーレンズ部L2bのレンズとしての信頼性を向上できる。
【0093】
また、図11Bは、マスク層と保護膜を同じ層位置に形成する例である。
この場合の保護膜FC'は、図のようにハイパーレンズ部L2bの対物面の全体を覆うものとはせず、中心部を含む一部領域のみを覆うように形成している。その上で、先玉レンズL2の対物面と、ハイパーレンズ部L2bの対物面における保護膜FC'が覆われていない領域とを、マスク層FD'により覆うものとしている。
当該マスク層FD'によれば、ハイパーレンズ部L2bの一部もマスクされるものとなるので、第2の反射・散乱光に起因する迷光の発生をより効果的に抑制できる。
なお確認のために述べておくと、図11Bの例においては、マスク層FD'の一部がハイパーレンズ部L2bを保護するための保護膜としても機能することになる。
【0094】
図11に示したようなマスク層の形成により、第2の反射・散乱光に起因する迷光の発生を抑制できるので、迷光によるSNRの悪化の抑制にあたっては、第1の反射・散乱光のみを考慮する、つまりは角度θはできるだけ小とすることが望ましいものとなる。
【0095】
以上で説明してきたように、本実施の形態の対物レンズOLによれば、誘電率が負の薄膜と正の薄膜とを交互に積層した積層構造体について、各薄膜の断面形状として、入射側に凸となる角形状を与えることによって、当該積層構造体にて局所近接場効果による高NAの光を発生させ、かつこれを伝搬して光記録媒体(対象物体)に照射できる。
局所近接場効果で発生した高NAの光を利用する手法であるので、プラズモンアンテナ方式と同様、従来のSILを用いたニアフィールド方式を採用する場合よりもスポットサイズを縮小化できる。すなわち、高記録密度化、大記録容量化を図ることができる。
また本実施の形態では、金属ピンではなく誘電率が負の薄膜と正の薄膜の積層構造体としていることで、光可逆性を得ることができる。すなわち、記録時と再生時とでそれぞれ異なる光学系を用いるといった複雑な構成を採らずに済むものとできる。
【0096】
また、先行例との比較においては、スポットサイズは同等に縮小化しつつ、光強度を増大化できる。
【0097】
また本実施の形態のハイパーレンズ部L2bは、その外形形状をピラミッド形状又は円錐形状として、その全体的な断面形状が略三角形状となるようにしている。これによれば、当該三角形の裾野部分に入射される光のNA>1の成分も伝搬してこれを光記録媒体に照射することができる。つまりその分、光の利用効率が向上するものである。
【0098】
[3-2.第1の製造方法]

続いて、上記により説明した実施の形態としての対物レンズOLが備える先玉レンズL2の製造方法について説明する。
以下では、先玉レンズL2の製造方法に関し、図12に示す第1の製造方法と、図13に示す第2の製造方法とを説明する。
【0099】
先ず、図12により第1の製造方法について説明する。
第1の製造方法は、基板に対してその先端部の断面形状が角形状とされた凸部を形成し、当該凸部に対して第1の薄膜と第2の薄膜とを交互に積層していくことでハイパーレンズ部L2bを形成するものである。
【0100】
具体的に、先ず第1の製造方法では、図12Aに示すように、所定の基板BS上に第1の薄膜又は第2の薄膜の何れかの形成材料による膜を成膜する。本例では、第1の薄膜の形成材料を成膜するものとしている。
【0101】
次いで、図12Bに示す凸部形成工程として、その先端部が角状の断面形状を有する凸部を、例えばFIB加工(FIB:Focused Ion Beam system、集束イオンビーム加工観察装置)や電子ビーム露光等により形成する。
なお、このような凸部を形成するための具体的な手法については、例えば下記参考文献1に記載のドット形成手法を採用することができる。

・参考文献1・・・H.Toyota,et al.,JJAP.40(2001)L747.
【0102】
凸部を形成した後は、図12Cに示すように、ハイパーレンズ部L2bを形成する各薄膜の交互積層を行う。具体的にこの場合は、上記凸部を第1の薄膜材料で形成したので、第2の薄膜→第1の薄膜の交互積層を行う。
この積層工程により、図のようにその先端部の断面形状が角形状とされた積層構造体L2b-Bが形成される。
【0103】
図12Cの積層工程を行った後は、図12Dに示す貼り合わせ工程を行う。
具体的に当該貼り合わせ工程では、超半球状SILとしてのSIL部L2a-Bの対物側平面に対し、図12Cで形成した積層構造体L2b-B付きの基板BSの当該積層構造体L2b-Bの形成面を突き合わせ、これらの間に高屈折率レジンL2a-x(例えばSIL部L2a-Bと同屈折率)を充填してUV硬化処理を施す。
当該硬化処理により、レンジL2a-xはSIL部L2a-Bと一体を成す。すなわち次の図12Eにも示されるように、これらSIL部L2a-BとレンジL2a-xとが一体となって、先の図5Aに示したSIL部L2aが形成されるものである。
【0104】
図12Dの貼り合わせ工程後は、図12Eに示す剥離工程により、基板BSを剥離する。
そして図12Fに示すエッチング工程により、積層構造体L2b-Bにおける平坦多層部分を例えばドライエッチング等のエッチングにより除去する。
これにより、SIL部L2aとハイパーレンズ部L2bとを有して成る先玉レンズL2が生成される。
【0105】
[3-3.第2の製造方法]

続いて、図13により第2の製造方法について説明する。
第2の製造方法は、基板に対してその先端部の断面形状が角形状とされた凹部を形成した上で、当該凹部に第1の薄膜と第2の薄膜とを交互に積層するものである。
この図13では、凹部の形成を異方性エッチングにより行う場合を例示する。
先ずこの場合は、図13Aに示す成膜工程により、異方性エッチング可能な基板BS'上に、被ガイド膜(マスク材)FGを成膜する。ここで、この場合の異方性エッチングでは、その先端部の断面形状が角形状を有する凹部、すなわち深い位置ほど幅が狭まる形状の凹部を形成するので、基板BS'としては、水平方向へのエッチング速度が速く、縦方向のエッチング速度の遅い性質のものを用いる。
基板BS'の材料としては、例えばSiを挙げることができる。また被ガイド膜FGの材料としてはSiNやSiO2を挙げることができる。
【0106】
図13Aの成膜工程後は、図13Bに示すエッチング工程を行う。具体的には、FIBや電子線描画等により被ガイド膜FGにホールを形成後、強アルカリ溶液による異方性エッチングを行う。
前述のように基板BS'においては水平方向のエッチング速度が速く縦方向のエッチング速度が遅いため、上記強アルカリ溶液の注入に応じては、図のようにその先端部の断面形状が角形状となる、三角断面形状の凹部が基板BS'に形成されることになる。
【0107】
図13Bのエッチング処理により凹部を形成した後は、被ガイド膜FGを剥離後、図13Cに示す積層工程により、基板BS'上の上記凹部が形成された面に対して第1の薄膜と第2の薄膜の交互積層を行う。これにより、第1の薄膜と第2の薄膜とが交互積層され且つその断面において角形状の凸部を有する積層構造体L2b-B'が形成される。
【0108】
図13Cの積層工程後は、図13Dに示すように、積層構造体L2b-B'の角形状の先端部の裏側(図のように三角状の穴部となる)に対し、レジストをパターニングする。
次いで、図13Eのエッチング工程により、積層構造体L2b-B'の平坦多層部分をドライエッチングにより除去する。
これにより、基板BS'の凹部内において、ハイパーレンズ部L2bが形成される。
【0109】
図13Eのエッチング工程後は、図13Fの貼り付け工程により、基板BS'のハイパーレンズ部L2bが形成された側の面に対し転写用基板RBSを貼り付ける。これにより、ハイパーレンズ部L2bが転写用基板RBSに貼り付けられた状態となる。
【0110】
図13Fの貼り付け工程後は、図13Gのエッチング工程により、基板BS'をエッチングにより剥離する。
【0111】
このように基板BS'を剥離した後は、図13Hに示す貼り合わせ工程により、超半球状のSIL部L2a-Bの対物側平面に対して転写用基板RBSのハイパーレンズ部L2bが形成された側の面を突き合わせ、これらの間に高屈折率レジンL2a-xを充填してUV硬化処理を施す。
そして、図13Iに示す剥離工程により、転写用基板RBSを剥離する。
これにより、SIL部L2aとハイパーレンズ部L2bとを有して成る先玉レンズL2が形成される。
【0112】
[3-4.光学ピックアップの構成]

図14は、対物レンズOLを備えて構成される実施の形態としての光学ドライブ装置の主に光学ピックアップ(光学ピックアップOP)の内部構成を示した図である。
先ず、図14には、実施の形態の光学ドライブ装置が記録再生対象とする光ディスクDが示されている。
光ディスクDは、円盤状の光記録媒体であり、光の照射により情報の記録及び記録情報の再生が行われる。
【0113】
図15は、光ディスクDの断面構造を示している。
図示するように光ディスクDには、カバー層Lc、記録層Lr、基板Lbが同順で形成されている。光学ドライブ装置が備える対物レンズOLからの出射光は、カバー層Lc側から入射することになる。
【0114】
カバー層Lcは、記録層Lrの保護のために設けられる。
記録層Lrは、記録パワーによるレーザ光の照射に応じて記録マークが形成される記録膜と、反射膜とを備えて構成される。この場合、上記記録膜としては、相変化材料で構成されている。
【0115】
記録層Lrには、案内溝の形成に伴う図のような凹凸の断面形状が与えられている。
具体的に、この場合は基板Lb上に対して案内溝が形成されており、当該基板Lbの案内溝が形成された面側に対して記録層Lrが形成されることで、記録層Lrに凹凸の断面形状が与えられている。
本例の場合、案内溝としてはウォブリンググルーブが形成され、グルーブの蛇行周期の情報によりディスク上の絶対位置を表す絶対位置情報(半径位置情報や回転角度情報)の記録が行われている。
ここで、案内溝は、スパイラル状(又は同心円状であってもよい)に形成されている。
【0116】
説明を図14に戻す。
図14において、光ディスクDは、図中のスピンドルモータ(SPM)30により回転駆動される。このようにスピンドルモータ30により回転駆動される光ディスクDに対して、光学ピックアップOPによる情報記録・記録情報の再生のための光照射が行われる。
【0117】
光学ピックアップOP内には、記録層Lrに対する情報記録及び記録層Lrの記録情報についての再生を行うためのレーザ光である録再用レーザ光についての光学系と、対物レンズOLと光ディスクDとの間のギャップGを保つためのギャップ長サーボを行うためのレーザ光であるギャップサーボ用レーザ光についての光学系とが設けられる。
先に挙げた特許文献1にも記載されるように、録再用レーザ光とギャップサーボ用レーザ光とはそれぞれ波長帯の異なるレーザ光を用いる。本例の場合、録再用レーザ光の波長は例えば405nm程度、ギャップサーボ用レーザ光の波長は例えば650nm程度を設定しているとする。
【0118】
先ず、録再用レーザ光の光学系において、録再用レーザ1より出射された録再用レーザ光は、コリメーションレンズ2を介して平行光となるようにされた後、偏光ビームスプリッタ3に入射する。偏光ビームスプリッタ3は、このように録再用レーザ1側から入射した録再用レーザ光については透過するように構成されている。
【0119】
上記偏光ビームスプリッタ3を透過した録再用レーザ光は、固定レンズ5、可動レンズ6、及びレンズ駆動部7を備えて成るフォーカス機構4に入射する。このフォーカス機構4は、録再用レーザ光の焦点位置を調整するために設けられる。
フォーカス機構4において、固定レンズ5は、光源である録再用レーザ1に近い側に配置され、可動レンズ6は録再用レーザ1から遠い側に配置される。レンズ駆動部7は可動レンズ6を録再用レーザ光の光軸に平行な方向に駆動する。
後述もするように、レンズ駆動部7は、図16に示すフォーカスドライバ33からのフォーカスドライブ信号FDにより駆動制御される。
【0120】
フォーカス機構4における固定レンズ5及び可動レンズ6を介した録再用レーザ光は、1/4波長板8を介してダイクロイックプリズム9に入射する。
ダイクロイックプリズム9は、その選択反射面が、録再用レーザ光と同波長帯の光は反射し、それ以外の波長による光は透過するように構成されている。従って上記のようにして入射した録再用レーザ光は、ダイクロイックプリズム9にて反射される。
【0121】
ダイクロイックプリズム9で反射された録再用レーザ光は、図示するようにして対物レンズOLを介して光ディスクDに対して照射される。
【0122】
ここで、対物レンズOLに対しては、当該対物レンズOLをトラッキング方向(光ディスクDの半径方向)に変位させるためのトラッキング方向アクチュエータ10と、光軸方向(フォーカス方向)に変位させるための光軸方向アクチュエータ11とが設けられる。
本例の場合、これらトラッキング方向アクチュエータ10、光軸方向アクチュエータ11としては共にピエゾアクチュエータが用いられる。
そしてこの場合、対物レンズOLは、トラッキング方向アクチュエータ10に保持され、このように対物レンズOLを保持するトラッキング方向アクチュエータ10が、光軸方向アクチュエータ11によって保持されている。これにより、これらトラッキング方向アクチュエータ10、光軸方向アクチュエータ11を駆動することで、対物レンズOLをトラッキング方向及び光軸方向に変位させることができるようにされている。
なお、逆に光軸方向アクチュエータ11が対物レンズOLを保持し、光軸方向アクチュエータ11をトラッキング方向アクチュエータ10が保持する構成としても同様の作用が得られることは言うまでもない。
【0123】
トラッキング方向アクチュエータ10は、図16に示す第1トラッキングドライバ39からの第1トラッキングドライブ信号TD-1に基づき駆動される。
また光軸方向アクチュエータ11は、図16に示す第1光軸方向ドライバ47からの第1光軸方向ドライブ信号GD-1に基づき駆動される。
【0124】
再生時においては、前述のように光ディスクDに対して録再用レーザ光が照射されることに応じて、記録層Lrからの反射光が得られる。このように得られた録再用レーザ光の反射光は、対物レンズOLを介してダイクロイックプリズム9に導かれ、当該ダイクロイックプリズム9にて反射される。
ダイクロイックプリズム9で反射された録再用レーザ光の反射光は、1/4波長板8→フォーカス機構4(可動レンズ6→固定レンズ5)を介した後、偏光ビームスプリッタ3に入射する。
【0125】
ここで、このように偏光ビームスプリッタ3に入射する録再用レーザ光の反射光(復路光)は、1/4波長板8による作用と記録層Lrでの反射時の作用とにより、録再用レーザ1側から偏光ビームスプリッタ3に入射した録再用レーザ光(往路光)とはその偏光方向が90度異なるようにされる。この結果、上記のようにして入射した録再用レーザ光の反射光は、偏光ビームスプリッタ3にて反射される。
【0126】
このように偏光ビームスプリッタ3にて反射された録再用レーザ光の反射光は、シリンドリカルレンズ12→集光レンズ13を介して録再光用受光部14の受光面上に集光する。
録再光用受光部14は、複数の受光素子を備えて成り、これら受光素子が非点収差法によるフォーカスエラー信号、トラッキングエラー信号(プッシュプル信号)、RF信号(再生信号)の生成が可能となるように配置されている。
ここでは、録再光用受光部14が備えるそれぞれの受光素子による受光信号について、それらを包括して受光信号D_rpと表記している。
【0127】
また、図14に示す光学ピックアップOPにおいて、ギャップサーボ用レーザ光の光学系には、ギャップサーボ用レーザ15、コリメーションレンズ16、偏光ビームスプリッタ17、1/4波長板18、集光レンズ19、及びギャップサーボ用受光部20が設けられている。
【0128】
ギャップサーボ用レーザ15より出射されたギャップサーボ用レーザ光は、コリメーションレンズ16を介して平行光となるようにされた後、偏光ビームスプリッタ17に入射する。偏光ビームスプリッタ17は、このようにギャップサーボ用レーザ15側から入射したギャップサーボ用レーザ光(往路光)は透過するように構成される。
【0129】
偏光ビームスプリッタ17を透過したギャップサーボ用レーザ光は、1/4波長板18を介してダイクロイックプリズム9に入射する。
先に述べたように、ダイクロイックプリズム9は、録再用レーザ光と同波長帯の光は反射し、それ以外の波長による光は透過するように構成されているため、ギャップサーボ用レーザ光はダイクロイックプリズム9を透過し、対物レンズOLに入射する。
【0130】
ここで、後述もするように、ギャップ長が過大な状態(近接場結合が生じず対物レンズOLにより生成される光が光ディスクDに伝播しない状態)では、ギャップサーボ用レーザ光は対物レンズOLの端面(ハイパーレンズ部L2bの端面)にて全反射され、戻り光量は最大となる。一方、ギャップ長が適切な状態(近接場結合状態)では、その分、対物レンズOL端面での反射光量は減少し、戻り光量も減少することとなる。
ギャップ長サーボは、このようなギャップ長に相関した対物レンズOL端面からのギャップサーボ用レーザ光の反射光の光量変動を利用して行われるものである。
【0131】
対物レンズOL端面からのギャップサーボ用レーザ光の反射光(復路光)は、ダイクロイックプリズム9を透過した後、1/4波長板18を介して偏光ビームスプリッタ17に入射する。
【0132】
このように偏光ビームスプリッタ17に入射した復路光としてのギャップサーボ用レーザ光の反射光は、1/4波長板18の作用と対物レンズOLでの反射時の作用とにより、往路光とはその偏光方向が90度異なるものとされ、従って復路光としてのギャップサーボ用レーザ光の反射光は偏光ビームスプリッタ17にて反射される。
【0133】
偏光ビームスプリッタ17にて反射されたギャップサーボ用レーザ光の反射光は、集光レンズ19を介してギャップサーボ光用受光部20の受光面上に集光する。
本例の場合、ギャップサーボ用受光部20は複数の受光素子を備えて構成される。ギャップサーボ用受光部20が有する複数の受光素子による受光信号については、これらを包括して受光信号D_svと表記する。
【0134】
[3-5.ドライブ装置全体の内部構成]

図16は、実施の形態の光学ドライブ装置の全体的な内部構成を示している。
なお図16において、光学ピックアップOPの内部構成については、先の図14に示した構成のうち録再用レーザ1、レンズ駆動部7、トラッキング方向アクチュエータ10、光軸方向アクチュエータ11のみを抽出して示している。
また図16においては、スピンドルモータ30の図示は省略している。
【0135】
先ず、光学ドライブ装置には、記録処理部52が設けられる。
記録処理部52に対しては、光ディスクDに記録すべきデータ(記録データ)が入力される。記録処理部52は、入力された記録データに対して例えばエラー訂正符号の付加や所定の記録変調符号化を施すなどして、光ディスクDに実際に記録される例えば「0」「1」の2値データ列である記録変調データ列を得る。
記録処理部52は、上記記録変調データ列に応じた記録パルス信号を生成し、該記録パルス信号に基づき光学ピックアップOP内の録再用レーザ1を発光駆動する。
【0136】
また光学ドライブ装置には、光ディスクDに記録された情報を再生するための構成として、マトリクス回路31、及び再生処理部53が設けられる。
マトリクス回路31は、先の図14に示した録再光用受光部14からの受光信号D_rpに基づいて必要な信号を生成する。
具体的に、マトリクス回路31は、上記受光信号D_rpとしての複数の受光素子からの受光信号に基づき、RF信号(再生信号)、フォーカスエラー信号FE、トラッキングエラー信号TEを生成する。RF信号としては和信号を生成し、フォーカスエラー信号FEは非点収差法に対応した演算により生成する。またトラッキングエラー信号TEとしてはプッシュプル信号を生成する。
なお、フォーカスエラー信号FE、トラッキングエラー信号TEの生成手法については上記に限定されるべきものでなく、他の手法を採ることもできる。例えばトラッキングエラー信号TEについてはDPP法(差動プッシュプル法)により生成することもできる。
【0137】
マトリクス回路31により生成されたRF信号は、再生処理部34に供給される。
再生処理部34は、RF信号について、記録変調符号の復号化やエラー訂正処理など上述した記録データを復元するための再生処理を行い、上記記録データを再生した再生データを得る。
【0138】
また、光学ドライブ装置において、フォーカスサーボ回路32、フォーカスドライバ33、トラッキングサーボ回路34、第1トラッキングドライバ39、第2トラッキングドライバ40、及びスライド移送・偏芯追従機構50は、録再用レーザ光についてのフォーカスサーボ、トラッキングサーボ、及び光学ピックアップOP全体のスライドサーボを実現するために設けられる。
【0139】
先ず、フォーカスサーボ回路32には、マトリクス回路31により生成されたフォーカスエラー信号FEが入力される。
フォーカスサーボ回路32は、フォーカスエラー信号FEに対しサーボ演算(位相補償やループゲイン付与)を行ってフォーカスサーボ信号FSを生成する。
フォーカスドライバ33はフォーカスサーボ回路33から入力されたフォーカスサーボ信号FSに基づくフォーカスドライブ信号FDを生成し、当該フォーカスドライブ信号FDにより光学ピックアップOP内のレンズ駆動部7を駆動する。
これにより、録再用レーザ光の焦点が記録層Lrに一致するように制御される。
【0140】
スライド移送・偏芯追従機構50は、光学ピックアップOP全体をトラッキング方向に変位可能に保持する。
このスライド移送・偏芯追従機構50は、例えばCDやDVDなどの従来の光ディスクシステムに設けられるスレッド機構が備えるモータよりも高速な応答性を有する動力部を備えて構成され、光学ピックアップOPを、シーク時のスライド移送のために変位させるのみでなく、トラッキングサーボがオンの状態においてディスク偏芯に伴い生じるレンズシフトの抑制のためにも変位させる。
本例の場合、スライド移送・偏芯追従機構50はリニアモータを備え、当該リニアモータによる駆動力を光学ピックアップOPをトラッキング方向に変位可能に保持する機構部に与えるように構成されている。
【0141】
ここで、本実施の形態の光学ドライブ装置において、上記のように光学ピックアップOP全体をディスク偏芯にも追従させるように駆動するものとしているのは、本実施の形態のようなハイパーレンズ部L2bを備える対物レンズOLを用いるシステムでは、BDシステムや従来SILのシステムとの比較で、視野範囲が比較的狭いものとなる点に鑑みたものである。
【0142】
トラッキングサーボ回路34に対しては、マトリクス回路31で生成されたトラッキングエラー信号TEが入力される。
トラッキングサーボ回路34内には、図中のハイパスフィルタ(HPF)35とサーボフィルタ36とによる第1のトラッキングサーボ信号生成系と、ローパスフィルタ(LPF)37とサーボフィルタ38とによる第2のトラッキングサーボ信号生成系とが形成される。
第1のトラッキングサーボ信号生成系が対物レンズOLを保持するトラッキング方向アクチュエータ10側に対応するものとなり、第2のトラッキングサーボ信号生成系が光学ピックアップOPを保持するスライド移送・偏芯追従機構50側に対応するものとなる。
【0143】
トラッキングサーボ回路34内において、トラッキングエラー信号TEは、ハイパスフィルタ35とローパスフィルタ37とに分岐して入力される。
ハイパスフィルタ35は、トラッキングエラー信号TEの所定のカットオフ周波数以上の成分を抽出してサーボフィルタ36に出力する。
サーボフィルタ36は、ハイパスフィルタ35の出力信号についてサーボ演算を行って第1のトラッキングサーボ信号TS-1を生成する。
また、ローパスフィルタ37はトラッキングエラー信号TEの所定のカットオフ周波数以下の成分を抽出してサーボフィルタ38に出力する。
サーボフィルタ38はローパスフィルタ37の出力信号についてサーボ演算を行って第2のトラッキングサーボ信号TS-2を生成する。
【0144】
第1トラッキングドライバ39は、第1のトラッキングサーボ信号TS-1に基づき生成した第1のトラッキングドライブ信号TD-1によってトラッキング方向アクチュエータ10を駆動する。
【0145】
また第2トラッキングドライバ40は、第2のトラッキングサーボ信号TS-2に基づき生成した第2のトラッキングドライブ信号TD-2によってスライド移送・偏芯追従機構50を駆動する。
【0146】
なお、図示による説明は省略するが、トラッキングサーボ回路34は、例えば光学ドライブ装置の全体制御を行う制御部より目標アドレスが指示されることに応じて、トラッキングサーボループをオフとして、第1トラッキングドライバ39や第2トラッキングドライバ40にトラックジャンプやシーク移動のための指示信号を与えるように構成されている。
【0147】
ここで、トラッキングサーボ回路34において、ローパスフィルタ37のカットオフ周波数は、ディスク偏芯周期(ディスク偏芯に伴い光スポット位置とトラック位置との位置関係が変化する周期)以上の周波数に設定される。これにより、スライド移送・偏芯追従機構50が、光学ピックアップOPをディスク偏芯に追従させるように駆動することができる。
つまりこの結果、ディスク偏芯に伴う対物レンズOLのレンズシフトの量を大幅に抑えることができ、録再用レーザ光が視野範囲(視野全幅)から外れないようにすることができる。換言すれば、ディスク偏芯に依って録再用レーザ光が視野範囲から外れて記録/再生を行うことができなくなってしまうといった事態の発生を防止することができるものである。
【0148】
また、光学ドライブ装置には、ギャップ長サーボを実現するための構成として、信号生成回路41、ギャップ長サーボ回路42、第1光軸方向ドライバ47、第2光軸方向ドライバ48、引込制御部49、及び面振れ追従機構51が設けられている。
【0149】
先ず、面振れ追従機構51は、光学ピックアップOPを保持するスライド移送・偏芯追従機構50を、光軸方向(フォーカス方向)に変位可能に保持する。
本例の場合、当該面振れ追従機構51もリニアモータを備えて成り、比較的高速な応答性を有するようにされている。面振れ追従機構51は、当該リニアモータの動力によりスライド移送・偏芯追従機構50を光軸方向に駆動し、これによって光学ピックアップOPを光軸方向に変位させる。
なお、当該面振れ追従機構51とスライド移送・偏芯追従機構50との位置関係についても、先のトラッキング方向アクチュエータ10と光軸方向アクチュエータ11との関係と同様に、それらの関係を入れ替えたとしても得られる作用は同様となる。
【0150】
信号生成回路41は、図14に示したギャップサーボ用受光部20による受光信号D_sv(複数の受光素子からの受光信号)に基づき、ギャップ長サーボにおけるエラー信号として機能する信号を生成する。具体的には、和信号(全光量信号)sumを生成する。
【0151】
ここで、図17は、ギャップ長と対物レンズOLからの戻り光量(ハイパーレンズ部L2bの対物側端面からの戻り光量)との関係について説明するための図である。
なおこの図17では一例として、シリコン(Si)ディスクを用いた場合におけるギャップ長と戻り光量との関係を示しているが、本例のように相変化材料による記録層Lrとする場合においてもこの図17とほぼ同様の関係が得られる。
【0152】
この図17に示されるように、対物レンズOLからの戻り光量は、ギャップ長が過大で近接場結合が生じない領域では最大値となる。
これに対し、およそ波長の1/4程度となるギャップ長=50nm近傍以下の領域では、近接場結合の作用により、戻り光量はギャップ長が短くなるに連れて徐々に減少していくものとなる。
【0153】
ここで、近接場結合による作用を優先するのであれば、ギャップ長は短いほど有利となるが、ギャップ長を短くすると対物レンズOLと光ディスクDとの衝突や摩擦が問題となる。このため、ギャップ長としては近接場結合が生じる範囲内で光ディスクDとの間隔が或る程度空けられるようにして設定される。
この点を踏まえ、本例においては、ギャップ長(ギャップG)をG=20nm程度に設定している。
【0154】
図17において、例えばギャップG=20nmとする場合の戻り光量の目標値は、およそ0.08程度となっている。
ギャップ長サーボを行うにあたっては、予めギャップGの値から戻り光量についての目標値を求めておく。ギャップ長サーボは、検出した戻り光量がこのように予め求めておいた目標値で一定となるようにして行われる。
【0155】
説明を図16に戻す。
信号生成回路41により生成された和信号sumは、ギャップ長サーボ回路42と共に引込制御部49に入力される。
【0156】
ギャップ長サーボ回路42には、ハイパスフィルタ43とサーボフィルタ44とによる第1のギャップ長サーボ信号生成系と、ローパスフィルタ45とサーボフィルタ46とによる第2のギャップ長サーボ信号生成系とが形成される。
第1のギャップ長サーボ信号生成系は光軸方向アクチュエータ11に対応するものとなり、第2のギャップ長サーボ信号生成系が面振れ追従機構51に対応する。
【0157】
ハイパスフィルタ43は、和信号sumを入力し、当該和信号sumの所定のカットオフ周波数以上の成分を抽出してサーボフィルタ44に出力する。
サーボフィルタ44は、ハイパスフィルタ43の出力信号についてサーボ演算を行って第1のギャップ長サーボ信号GS-1を生成する。
また、ローパスフィルタ45は、和信号sumを入力し、当該和信号sumの所定のカットオフ周波数以下の成分を抽出してサーボフィルタ46に出力する。
サーボフィルタ46はローパスフィルタ46の出力信号についてサーボ演算を行って第2のギャップ長サーボ信号GS-2を生成する。
【0158】
ここで、ギャップ長サーボ回路42には、ギャップGに基づいて予め求められた和信号sumについての目標値(つまりギャップGのときの和信号sumの値)が設定されており、サーボフィルタ44、46のそれぞれは、上記サーボ演算により、和信号sumの値を当該目標値とするためのギャップ長サーボ信号GS-1、GS-2をそれぞれ生成する。
【0159】
第1光軸方向ドライバ47は、第1のギャップ長サーボ信号GS-1に基づいて生成した第1の光軸方向ドライブ信号GD-1によって光軸方向アクチュエータ11を駆動する。
【0160】
また第2光軸方向ドライバ48は、第2のギャップ長サーボ信号GS-2に基づいて生成した第2の光軸方向ドライブ信号GD-2によって面振れ追従機構51を駆動する。
【0161】
ここで、上記により説明したギャップ長サーボ回路42において、ローパスフィルタ45のカットオフ周波数は、ディスクの面振れ周期以上の周波数に設定される。これにより、面振れ追従機構51によって光学ピックアップOPをディスク面振れに追従させるように変位させることができる。
このように光学ピックアップOP全体が面振れに追従するように駆動されることで、対物レンズOLの光ディスクDへの衝突の防止を図ることができる。
【0162】
引込制御部49は、ギャップ長サーボの引き込み制御を行うために設けられる。
この引込制御部49には、予めギャップGに基づいて求められた和信号sumについての目標値(ギャップGのときの和信号sumの値)が設定されている。引込制御部49は、このように設定された和信号sumの目標値に基づき、以下のようにしてギャップ長サーボの引き込み制御を行う。
先ずは、ギャップ長サーボがオフの状態において、信号生成回路41から入力される和信号sumの値と上記目標値との差分を計算する。そして、この差分の値が予め設定された引き込み範囲内の値であるか否かを判定し、引き込み範囲内でないとした場合は上記差分に応じた引き込み用波形(差分を減少させる方向に和信号sumを変化させるための信号)を生成し、これを第1光軸方向ドライバ47、第2光軸方向ドライバ48に与える。これにより、和信号sumの値が引き込み範囲内に収まるように制御することができる。
そして、上記差分の値が上記引き込み範囲内に入ったとした場合は、ギャップ長サーボ回路42にサーボループ(第1及び第2のギャップ長サーボ信号生成系の双方)をオンとするように指示を行う。これにより、引き込み制御が完了となる。
【0163】
以上で説明した光学ドライブ装置によれば、対物レンズOLを用いて光ディスクDに対し高密度記録を行うことができ、光ディスクDの大記録容量化を図ることができる。また同時に、対物レンズOLを用いて高記録密度で記録された情報の再生を行うことができる。
【0164】
<4.変形例>

以上、本技術の実施の形態について説明したが、本技術としては上記により説明した具体例に限定されるべきものではない。
例えば、これまでの説明では、SIL部L2aとして、超半球形状を有するソリッドイマージョンレンズを用いる場合を例示したが、半球形状を有するソリッドイマージョンレンズを用いることもできる。
【0165】
また、これまでの説明では、ハイパーレンズ部L2bの外形形状を、ピラミッド形状又は円錐形状で形成する場合を例示したが、従来SILを用いたニアフィールド方式よりもスポットサイズの縮小化を図りかつ光可逆性を実現するという点においては、外形形状はこれらの形状に限定されるべきものではなく、少なくともハイパーレンズ部L2bとしては、図6Aに示したような領域R1を有していればよい。この意味で、ハイパーレンズ部L2bとしては、ピン状の外形形状とすることもできる。但し、その断面形状として、入射側に凸となる角形状を有することは必要である(局所近接場効果を得るため)。
【0166】
また、これまでの説明では、本技術による第1の薄膜と第2の薄膜との積層構造体(ハイパーレンズ)を、ハイパーレンズ部L2bとして、超半球状(又は半球状)のSILと一体的に形成する場合を例示したが、SILと別体で形成することもできる。
ここで、先行例のハイパーレンズ部L2'bは、先の図3にて説明したようにSILと別体に形成するとその表面反射により光記録媒体に照射される光の強度が激減するものとなるが、本実施の形態のハイパーレンズ部L2bでは、先行例の場合とは異なり、局所近接場効果を利用してスポットを形成するので、表面反射による影響は先行例と比較して格段に小さくできる。従って、SILと別体とする構成も可能である。
【0167】
さらに、本技術の積層構造体によれば、SILと一体の先玉レンズとする必要性もない。局所近接場効果により高NAの光を発生させるので、当該積層構造体に入射させる光はNA>1である必要性が無いためである。
【0168】
またこれまでの説明では、本技術の積層構造体について、その対物面の形状が平面とされる場合のみを例示したが、当該対物面の形状は平面に限定されるべきものではなく例えば所要の曲率を有した凸状又は凹状に形成するなど、他の形状とすることもできる。
【0169】
また、これまでの説明では、記録再生の対象とする光記録媒体が相変化材料による記録層を有するものとされる場合を例示したが、本技術は、相変化材料以外で構成された記録層を有する光記録媒体とする場合にも好適に適用することができる。
また本技術は、例えば下記の参考文献2に開示されるような、いわゆるビットパターンドメディアによる光記録媒体とする場合にも好適に適用できる。

参考文献2・・・特開2006−73087号公報
【0170】
また、これまでの説明では、本技術の対物レンズを、光記録媒体についての記録/再生を行うシステムが有する対物レンズに適用する場合を例示したが、本技術の対物レンズは、例えば光学顕微鏡における対物レンズなど、光記録媒体の記録/再生システム以外の他の用途にも好適に適用できるものである。
【0171】
また、本技術は、以下の(1)〜(12)に示す構成とすることも可能である。
(1)
最も対物側に配置される先玉レンズとして、
誘電率が負である第1の薄膜と誘電率が正である第2の薄膜とが交互に積層され且つ、各薄膜が、その断面形状として、光源からの光が入射する側に凸となる角形状を有するように形成された積層構造体を有して構成された先玉レンズを備える
対物レンズ。
(2)
上記積層構造体は、その断面形状が略三角形状とされる上記(1)に記載の対物レンズ。
(3)
上記先玉レンズの対物面に面した領域において、上記積層構造体で生じる反射・散乱に起因した迷光を低減するためのマスク層が形成されている
上記(1)又は(2)に記載の対物レンズ。
(4)
上記第1の薄膜は、Ag、Cu、Au、Alの何れかで構成される上記(1)〜(3)に記載の対物レンズ。
(5)
上記第2の薄膜は、シリコン系化合物、フッ化物、窒化物、金属酸化物(Metal Oxide)、ガラス、ポリマーの何れかで構成される上記(1)〜(4)に記載の対物レンズ。
(6)
上記第1の薄膜はAgで構成され、上記第2の薄膜はAl23で構成される上記(1)〜(5)に記載の対物レンズ。
(7)
上記積層構造体は、その外形が略ピラミッド形状とされる上記(1)〜(6)に記載の対物レンズ。
(8)
上記積層構造体は、その外形が略円錐形状とされる上記(1)〜(6)に記載の対物レンズ。
(9)
上記積層構造体の対物面が保護膜で覆われている上記(1)〜(8)に記載の対物レンズ。
(10)
上記先玉レンズは、
ソリッドイマージョンレンズの対物面側に上記積層構造体を一体的に形成して成るものである
上記(1)〜(10)に記載の対物レンズ。
(11)
上記積層構造体を有して構成された上記先玉レンズに対してソリッドイマージョンレンズにより集光した光を入射するように構成されている
上記(1)〜(10)に記載の対物レンズ。
(12)
上記積層構造体における上記光源からの光が入射する側の頂点の角度が略80°〜略160°とされる上記(1)〜(11)に記載の対物レンズ。
なお、本技術の光学ドライブ装置は、これら(1)〜(12)の何れかに記載の対物レンズを有して構成できるものである。
【符号の説明】
【0172】
OL 対物レンズ、L1 後玉レンズ、L2 先玉レンズ、L2a SIL部、L2b ハイパーレンズ部、FC,FC' 保護膜、FD,FD' マスク層、BS,BS' 基板、L2b-B,L2b-B' 積層構造体、L2a-B SIL、L2a-x 高屈折率レジン、FG 被ガイド膜、RBS 転写用基板、1 録再用レーザ、2,16 コリメーションレンズ、3,17 偏光ビームスプリッタ、4 フォーカス機構、5 固定レンズ、6 可動レンズ、7 レンズ駆動部、8,18 1/4波長板、9 ダイクロイックプリズム、10 トラッキング方向アクチュエータ、11 光軸方向アクチュエータ、12 シリンドリカルレンズ、13,19 集光レンズ、14 録再光用受光部、15 ギャップサーボ用レーザ、20 ギャップサーボ用受光部、31 マトリクス回路、32 フォーカスサーボ回路、33 フォーカスドライバ、34 トラッキングサーボ回路、35,43 ハイパスフィルタ、36,38,44,46 サーボフィルタ、37,45 ローパスフィルタ、39 第1トラッキングドライバ、40 第2トラッキングドライバ、41 信号生成回路、42 ギャップ長サーボ回路、47 第1光軸方向ドライバ、48 第2光軸方向ドライバ、50 スライド移送・偏芯追従機構、51 面振れ追従機構、52 記録処理部、53 再生処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最も対物側に配置される先玉レンズとして、
誘電率が負である第1の薄膜と誘電率が正である第2の薄膜とが交互に積層され且つ、各薄膜が、その断面形状として、光源からの光が入射する側に凸となる角形状を有するように形成された積層構造体を有して構成された先玉レンズを備える
対物レンズ。
【請求項2】
上記積層構造体は、その断面形状が略三角形状とされる請求項1に記載の対物レンズ。
【請求項3】
上記先玉レンズの対物面に面した領域において、上記積層構造体で生じる反射・散乱に起因した迷光を低減するためのマスク層が形成されている
請求項1に記載の対物レンズ。
【請求項4】
上記第1の薄膜は、Ag、Cu、Au、Alの何れかで構成される請求項1に記載の対物レンズ。
【請求項5】
上記第2の薄膜は、シリコン系化合物、フッ化物、窒化物、金属酸化物(Metal Oxide)、ガラス、ポリマーの何れかで構成される請求項1に記載の対物レンズ。
【請求項6】
上記第1の薄膜はAgで構成され、上記第2の薄膜はAl23で構成される請求項1に記載の対物レンズ。
【請求項7】
上記積層構造体は、その外形が略ピラミッド形状とされる請求項2に記載の対物レンズ。
【請求項8】
上記積層構造体は、その外形が略円錐形状とされる請求項2に記載の対物レンズ。
【請求項9】
上記積層構造体の対物面が保護膜で覆われている請求項1に記載の対物レンズ。
【請求項10】
上記先玉レンズは、
ソリッドイマージョンレンズの対物面側に上記積層構造体を一体的に形成して成るものである
請求項1に記載の対物レンズ。
【請求項11】
上記積層構造体を有して構成された上記先玉レンズに対してソリッドイマージョンレンズにより集光した光を入射するように構成されている
請求項1に記載の対物レンズ。
【請求項12】
上記積層構造体における上記光源からの光が入射する側の頂点の角度が略80°〜略160°とされる請求項1に記載の対物レンズ。
【請求項13】
誘電率が負である第1の薄膜と誘電率が正である第2の薄膜とが交互に積層され且つ、各薄膜が、その断面形状として、光源からの光が入射する側に凸となる角形状を有するように形成された積層構造体を有して構成されるレンズを製造するためのレンズ製造方法であって、
基板に対してその先端部の断面形状が角形状とされた凸部を形成する凸部形成工程と、
上記凸部形成工程により形成した上記凸部に対して、上記第1の薄膜と上記第2の薄膜とを交互に積層する積層工程と
を有するレンズ製造方法。
【請求項14】
誘電率が負である第1の薄膜と誘電率が正である第2の薄膜とが交互に積層され且つ、各薄膜が、その断面形状として、光源からの光が入射する側に凸となる角形状を有するように形成された積層構造体を有して構成されるレンズを製造するためのレンズ製造方法であって、
基板に対してその先端部の断面形状が角形状とされた凹部を形成する凹部形成工程と、
上記凹部形成工程により形成した上記凹部に対して、上記第1の薄膜と上記第2の薄膜とを交互に積層する積層工程と
を有するレンズ製造方法。
【請求項15】
光記録媒体に最も近接した位置に配置される先玉レンズとして、誘電率が負である第1の薄膜と誘電率が正である第2の薄膜とが交互に積層され且つ、各薄膜が、その断面形状として、光源からの光が入射する側に凸となる角形状を有するように形成された積層構造体を有して構成された先玉レンズを備える対物レンズと、
上記対物レンズを介して上記光記録媒体に対する光照射を行うことで、上記光記録媒体に対する情報の記録又は上記光記録媒体の記録情報の再生を行う記録/再生部と
を備える光学ドライブ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図7】
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【図12】
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【図13】
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