説明

対称性判定装置、その方法、及びプログラム

【課題】人体の背面から撮像したモアレ画像の左右の対称性を判定するための最適な特徴量を用いて、精度の高い識別を行う対称性判定装置等を提供する。
【解決手段】一定分散強調処理とソーベルフィルタを施したモアレ画像の差分画像を、バイラテラルフィルタで平滑化する前処理を行い、人体の背面側全体の左右の重心位置の差、及び平均濃度値の差、並びに肩甲骨領域における左右の平均濃度値の差、及びフーリエ記述子を特徴量として算出し、算出した特徴量に基づいて、ニューラルネットワークからなる識別器により左右の対象性を判定する。また、肩ラインの左右差を特徴量に加えることで、より高い識別率を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の背面側から撮像されたモアレ画像に基づいて、左右の対称性を判定する対称性判定装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、脊柱側彎症は、背骨(脊柱)が側方にねじれて曲がる状態の病気で、成長期の小中学生、特に女子生徒に多く見られる症状の一つである。彎曲が大きく、症状が進行した場合、臓器の圧迫による肺機能の低下、さらには心臓にも影響が出ることになるが、痛みなどの自覚症状を伴わないため、早期発見が困難で問題となっている。
【0003】
脊柱側彎症の早期発見を目的として、医師による学校での集団検診が行われている。脊柱側彎症の診断法の一般的なものとして、前屈テストによる医師の視診が用いられている。これは、前屈姿勢をとって背部を観察し、左右の肋骨の隆起を比較するもので、側彎症の種類によっては背部隆起の差が少ない例があることや、医師の主観による診断基準に差が生じるなどの問題が生じている。
【0004】
また、集団検診において医師の負担が大きいことや、再現性の欠如などといった問題が医療現場から指摘されている。そこで、脊柱側彎症の診断にはモアレ法を用いた画像(以下、モアレ画像とする)が適用されるようになった。これは、人体の凹凸情報を地図における等高線のような縞模様に記録することにより、2次元画像として表現したものである。脊柱側彎症者のモアレ画像は、健常者のものと比べてモアレ縞に左右非対称なひずみが現れており、視診における肩や腰の左右の対称性と同様、医師の診断においての一つの評価指標として用いられている。モアレ画像を用いることにより、集団検診における脊柱側彎症の診断効率は格段に向上した。
【0005】
しかし、依然として画像を用いて診断するのは医師であり、全体の僅か数パーセントしかない脊柱側彎症例を診断するために、多量のモアレ画像を処理することが医師の大きな負担となっている。これらの問題点を解決するため、画像情報からの診断の定量化や支援を行うための手法がいくつか提案されている(例えば、非特許文献1ないし4を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】金、タン、石川、大塚、四宮:“左右非対称の特徴を用いたモアレ画像からの脊柱側彎症自動識別”、画像電子学会掲載論文、第37巻、第1号、pp.57−62、日本、2008年1月号掲載
【非特許文献2】田上、中野、金、タン、石川、大塚、清水、四宮:“左右肩・腰部の非対称性に着目した脊柱側彎症識別”、バイオメディカルファジィシステム学会第20回年次大会講演論文集掲載論文、pp.35−38、日本、2007年8月
【非特許文献3】田上、金、タン、石川、大塚、清水、四宮:“肩甲骨領域内の左右非対称度の評価に基づく脊柱側彎症識別”、第26回SICE九州支部学術講演会掲載論文、pp.317−318、日本、2007年12月
【非特許文献4】田上、金、タン、石川、四宮:“フーリエ記述子を用いたモアレ画像からの脊柱側彎症識別”、バイオメディカルファジィシステム第21回年次大会掲載論文、pp.165−168、日本、2008年10月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記各非特許文献に記載の技術は、複数の特徴量を算出し、それらの特徴量に基づいてモアレ画像の識別を行うことができるが、識別の精度が十分とは言えず、その向上が求められている。
【0008】
そこで、本発明は、人体の背面から撮像したモアレ画像の左右の対称性を判定するための最適な特徴量を用いて、精度の高い識別を行う対称性判定装置、対称性判定方法、及び対称性判定プログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願に開示する対称性判定装置は、人体の背面側から撮像されたモアレ画像に基づいて、前記人体の左右の対称性を判定する対称性判定装置において、撮像されたモアレ画像を入力する画像入力手段と、前記入力されたモアレ画像に基づいて、当該モアレ画像の左右の対称性の基準となる正中線を設定する正中線設定手段と、前記正中線を中心とする左右の重心位置の差を算出する重心位置算出手段と、前記正中線を中心とする左右の平均濃度値の差を算出する平均濃度算出手段と、前記モアレ画像に基づいて、肩甲骨領域を関心領域として設定する関心領域設定手段と、前記関心領域における前記正中線を中心とする左右の平均濃度値の差を算出する関心領域平均濃度算出手段と、前記関心領域における前記正中線を中心とする左右のモアレ縞を閉曲線として抽出し、フーリエ記述子を算出するフーリエ記述子算出手段と、前記重心位置算出手段が算出した重心位置の差、前記平均濃度算出手段が算出した平均濃度値の差、前記関心領域平均濃度算出手段が算出した関心領域における平均濃度値の差、及びフーリエ記述子算出手段が算出したフーリエ記述子の各特徴量に基づいて、前記モアレ画像の左右の対称性を判定する対称性判定手段とを備えるものである。
【0010】
このように、本願に開示する対称性判定装置においては、人体の背面側全体の左右の重心位置の差、及び平均濃度値の差、並びに肩甲骨領域における左右の平均濃度値の差、及びフーリエ記述子を特徴量として算出することで、背面全体の歪みと肩甲骨領域における歪みとを医師が着目する観点と同様の観点から検出し、左右の非対称性を総合的に判定することができるため、モアレ画像を精度よく識別することができるという効果を奏する。
【0011】
また、平均濃度値、及び重心位置のような濃度的な特徴量と、フーリエ記述子のような形状的な特徴量とを総合的に判定するため、独立した観点からの総合的な識別が可能となり、識別の精度を上げることができるという効果を奏する。
【0012】
本願に開示する対称性判定装置は、前記画像入力手段が入力したモアレ画像に対して前処理を施し、新たな入力されたモアレ画像とする前処理手段を備え、当該前処理手段が、前記入力されたモアレ画像に一定分散強調処理を行うCVE手段と、前記入力されたモアレ画像にソーベルフィルタを施すソーベルフィルタ手段と、前記一定分散強調処理が行われた画像情報と前記ソーベルフィルタが施された画像情報との差分画像を生成する差分画像生成手段と、前記差分画像をバイラテラルフィルタで平滑化する平滑化処理手段とを備えるものである。
【0013】
このように、本願に開示する対称性判定装置においては、モアレ画像に一定分散強調処理(CVE:Constant Variance Enhancement)を行ったものと、モアレ画像にソーベルフィルタを施したものとの差分画像を、バイラテラルフィルタで平滑化する前処理を行うことで、照明等の環境の違い、カメラの画質、環境ノイズ等の有無に関わらず、人体の形状、及びモアレ縞を鮮明な画像で抽出することができ、正確な特徴量を算出して識別の精度を上げることができるという効果を奏する。
【0014】
本願に開示する対称性判定装置は、前記モアレ画像に基づいて、左右の肩のラインの差
を算出する肩ライン算出手段を備え、前記対称性判定手段が、前記重心位置の差、前記平均濃度値の差、前記関心領域における平均濃度値の差、前記フーリエ記述子、及び前記肩ラインの差の各特徴量に基づいて、前記モアレ画像の左右の対称性を判定するものである。
【0015】
このように、本願に開示する対称性判定装置においては、左右の肩のラインの差(例えば、水平方向に対する傾きの角度差)を特徴量として算出して判定の要素とするため、新たに肩部の形状的な特徴量が加わり、背中部や肩甲骨領域だけでは左右の対称性を正確に判定しにくいモアレ画像に対しても、識別の精度をより高くすることができるという効果を奏する。
【0016】
本願に開示する対称性判定装置は、前記肩ライン算出手段が、前記モアレ画像を2値化し、ハフ変換により左右の肩のラインを直線近似して差を算出するものである。
【0017】
このように、本願に開示する対称性判定装置においては、モアレ画像を2値化し、ハフ変換により左右の肩のラインを直線近似して差を算出するため、肩のラインを正確に算出することができ、識別の精度をより高くすることができるという効果を奏する。
【0018】
本願に開示する対称性判定装置は、対称性判定手段が、ニューラルネットワークからなる識別器であるものである。
【0019】
このように、本願に開示する対称性判定装置においては、ニューラルネットワークからなる識別器により判定を行うため、既知のモアレ画像(正常例と脊柱側彎症例)に基づく学習により、未知のモアレ画像に対して適切な判定を行い、識別の精度を上げることができるという効果を奏する。
【0020】
本願に開示する対称性判定装置は、前記各特徴量のうち少なくとも一以上の特徴量が、他の特徴量と比較して異常値と判断される場合に、前記一以上の特徴量の重み付けを大きく調整する重付調整手段を備えるものである。
【0021】
このように、本願に開示する対称性判定装置においては、各特徴量のうち少なくとも一以上の特徴量が、他の特徴量と比較して異常値と判断される場合に、前記一以上の特徴量の重み付けを大きく調整するため、一つでも異常な特徴量があるモアレ画像については非対称と判定する傾向になり、異常性の見落としを最小限に抑えることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1の実施形態に係る対称性判定装置を適用する脊柱側彎症の診療に関する図である。
【図2】第1の実施形態に係る対称性判定装置の機能ブロック図である。
【図3】第1の実施形態に係る対称性判定装置で用いるモアレに関する説明図である。
【図4】第1の実施形態に係る対称性判定装置における前処理部の機能ブロック図である。
【図5】第1の実施形態に係る対称性判定装置における前処理部の結果を示す第1の図である。
【図6】第1の実施形態に係る対称性判定装置における前処理部の結果を示す第2の図である。
【図7】第1の実施形態に係る対称性判定装置における正中線の求め方を示す図である。
【図8】第1の実施形態に係る対称性判定装置における処理領域の設定方法に関する図である。
【図9】第1の実施形態に係る対称性判定装置における特徴量算出部の機能ブロック図である。
【図10】第1の実施形態に係る対称性判定装置における対称度の算出方法を示す図である。
【図11】第1の実施形態に係る対称性判定装置のハードウェア構成図である。
【図12】第1の実施形態に係る対称性判定装置の処理を示すフローチャートである。
【図13】第2の実施形態に係る対称性判定装置における特徴量算出部の機能ブロック図である。
【図14】第2の実施形態に係る対称性判定装置における肩ラインの左右差に関する図である。
【図15】第3の実施形態に係る対称性判定装置の機能ブロック図である。
【図16】第4の実施形態に係る対称性判定装置の出力におけるブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明は多くの異なる形態で実施可能である。従って、本実施形態の記載内容のみで本発明を解釈すべきではない。また、本実施形態の全体を通して同じ要素には同じ符号を付けている。以下の実施の形態では、主に装置について説明するが、所謂当業者であれば明らかな通り、本発明は方法、及び、コンピュータを動作させるためのプログラムとしても実施できる。
【0024】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係る対称性判定装置について、図1ないし図12を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る対称性判定装置を適用する脊柱側彎症の診療に関する図、図2は、本実施形態に係る対称性判定装置の機能ブロック図、図3は、本実施形態に係る対称性判定装置で用いるモアレに関する説明図、図4は、本実施形態に係る対称性判定装置における前処理部の機能ブロック図、図5は、本実施形態に係る対称性判定装置における前処理部の結果を示す第1の図、図6は、本実施形態に係る対称性判定装置における前処理部の結果を示す第2の図、図7は、本実施形態に係る対称性判定装置における正中線の求め方を示す図、図8は、本実施形態に係る対称性判定装置における処理領域の設定方法に関する図、図9は、本実施形態に係る対称性判定装置における特徴量算出部の機能ブロック図、図10は、本実施形態に係る対称性判定装置における対称度の算出方法を示す図、図11は、本実施形態に係る対称性判定装置のハードウェア構成図、図12は、本実施形態に係る対称性判定装置の処理を示すフローチャートである。
【0025】
本実施形態においては、対称性判定装置を脊柱側彎症の診療に用いた場合を例に説明する。脊柱側彎症は、脊柱が横に曲がり、多くの場合は脊柱自体の捻れを伴うものであり、側彎が進行すると重大な障害が生じる場合がある。図1(A)は脊柱側彎症者のX線写真の一例である。一般に正常者の脊柱は、横から見た場合にS字型に彎曲しているが、正面から見た場合はほぼ直線になる。しかし、脊柱側彎症の場合、図1(A)に示すように、脊柱がねじれを伴って側方に曲がる症状が顕著に現れる。
【0026】
脊柱傾斜の角度を評価する指標として、図1(B)に示すCobb角が用いられており、Cobb角が20度以上の彎曲を有する場合に治療が必要となる。図1(B)に示すように、Cobb角は傾いた2つの脊柱から脊柱の彎曲により生じた彎曲部分に沿って線を引き、2つの線が交わるところの角度αを計測する。
【0027】
脊柱側彎症は、一般に痛みなどの自覚症状がない。したがって本人は気づかず、家族や友人らに両肩の高さの違いを指摘されたり、あるいは学校における集団検診の際に発見されたりすることが多い。そのため早期発見が難しいとされている。しかし、重度の側彎症においては、心肺機能の低下、腰痛、背部痛が生じるなど深刻な問題となる。
【0028】
側彎の程度を詳しく調べるには、図1(A)に示すようなX線検査を行う必要がある。その際、脊柱の曲がり具合、骨の柔軟さ、成長度などを観測するため、様々な姿勢、角度でX線画像を撮影する。そのため、診断するにあたって何枚ものX線写真を撮影する必要がある。しかし、被験者の大半が成長過程にある子供であることを考慮すれば、放射線被曝を伴うX線撮影の対象者数は、必要最小限にとどめるべきである。そこで、診断は以下のような3段階の手順で行われる。
【0029】
まず、第1次診断として、脊柱側彎症者が多く見られる成長期の小中学生を対象に集団検診を行う。ここでは、前屈テストやモアレ法による検診が行われる。この段階で脊柱側彎症の疑いのある者を対象に、第2次診断として低線量X線撮影を行う。ここでは、身体への影響を極力なくすため、低線量X線で撮影し、脊柱の大まかな形状を確認する。そして、この段階においても脊柱側彎症の疑いがあると診断された者のみ、第3次診断として、直接X線撮影が行われ、脊柱の形状が詳しく調べられる。
【0030】
第1次診断における集団検診では、被験者一人一人を視診することになる。これは前屈テストと呼ばれる。図1(C)に前屈テストの際、医師が最も注目する診断箇所を示しており、両肩の高さの左右不均衡(図中の1に相当)、両肩甲骨の高さ、又は凹凸の左右不均衡(図中の2に相当)、ウエストライン付近における脇線の左右非対称(図中の3に相当)、前屈テストにおけるリブ・ハンプ(rib hump:前屈姿勢での肋骨隆起)の存在(図中の4に相当)が診断される。
【0031】
この第1次診断において、最も重点が置かれる注目箇所はリブ・ハンプで、治療が必要な側彎症者を効率よく発見できる。しかし、側彎症の種類によっては、リブ・ハンプが目立たない場合や、集団検診のため多数の被験者を一定時間内に診断しなければならないなどの理由から、医師の主観によって判断基準に差が生じたりすることが問題であり、その改善が求められている。また、再現性の欠如などの問題もある。本実施形態に係る対称性判定装置は、この第1次診断における診察を支援するものである。
【0032】
図2は、モアレ画像撮像装置10と、対称性判定装置20とを備える診断支援システムの構成を示す。モアレ画像撮像装置10は、被験者の姿勢を保持するための姿勢保持装置11と、モアレ画像を撮像するためのモアレカメラ12と、モアレカメラ12が撮像した映像を表示するモニタ13とを備える。被験者は、姿勢保持装置11に凭れ掛かることにより、呼吸等によるわずかな変化を抑え、一定の姿勢が保たれた状態でモアレカメラ12により背面部分が撮像される。検査技師等の撮像者は、モニタ13を見ながら、被験者の位置関係や撮像環境を確認し、モアレ画像の撮像を行う。
【0033】
ここで、モアレ画像(モアレ法)について説明する。モアレは、点又は線が幾何学的に規則正しく分布したものを重ね合わせた時に生じる縞状の斑紋のことである。規則的に並んだ模様を2種類以上重ね合わせた場合に、元のパターンとは異なる模様が現れる現象のことをモアレ現象と言い、モアレ現象により現れる縞模様をモアレ縞と呼ぶ。
【0034】
モアレ縞は、一定の幅で平行に描かれた格子を上から重ね合わせる方法で作り出すことができる。ここで、重ね合わせる側の規則的に並んだ格子のことを基準格子と言い、重ね合わされる側の格子で、表現したいものに合わせて基準格子に歪みを持たせたものを試料格子と言う。
【0035】
光を上から基準格子に当てた場合、その影を試料格子として取り出すと、その形状は図3(A)のようになる。図3(A)の(a)のように、影が映る面が平面であれば、試料格子は規則的に並ぶ格子となり、図3(A)の(b)のように,影が映る面が凹凸面であれば、試料格子も凹凸に沿って歪んだものとなる。このようにして作られた試料格子の上に、基準格子を重ね合わせてできるモアレ縞は、物体の等高線を表すものとなる。本実施形態で用いるモアレ画像は、これにノイズ除去、大きな被写体への対応などの工夫が施された、格子投影法により撮影されたものである。
【0036】
図3(B)及び(C)に、人体背面のモアレ画像の例を示す。図3(B)は正常例で、図3(C)は脊柱側彎症例である。正常例のモアレ画像は、縞模様が背中の正中線を境に左右対称になっているのに対し、脊柱側彎症例のモアレ画像は、脊柱の彎曲が原因で縞模様に左右非対称な歪みが生じている。脊柱側彎症診断にモアレ画像を用いることの最大の利点は、画像データとして情報を記録することができる点にある。これにより、医師が現場に立ち会う必要がなくなり、後日まとめて画像診断を行うことが可能になったことから、集団検診の効率化が図られるようになった。また、医師による視診では、医師の主観によって判断基準が左右されるが、モアレ画像による診断では、背面の凹凸情報を地図の等高線のような縞模様に投影するため、より客観的な診断が可能となる。さらに、画像データとして記録するため再現性にも優れている。そのため、モアレ画像は視診に代わる第1次診断法として取り入れられている。
【0037】
図2に戻って、対称性判定装置20は、モアレカメラ12で撮像されたモアレ画像を入力する画像入力部21と、入力されたモアレ画像に基づいて正中線を設定する正中線設定部24と、入力されたモアレ画像に前処理を施して新たな入力画像(処理用入力画像とする)を生成する前処理部23と、処理用入力画像に基づいて関心領域を設定する関心領域設定部22と、処理用入力画像、正中線、及び関心領域に基づいて特徴量を算出する特徴量算出部25と、算出された特徴量に基づいてモアレ画像の左右の対称性を判定する判定部26と、判定結果を出力する出力部27とを備える。
【0038】
画像入力部21は、モアレカメラ12で撮像されたモアレ画像を入力する。なお、入力方法としては、モアレカメラ12と直接接続されて画像情報を入力してもよいし、モアレカメラ12から記録媒体に記憶された画像情報を入力してもよいし、電気通信回線を通じて画像情報をダウンロードして入力するようにしてもよい。
【0039】
前処理部23は、画像入力部21が入力した画像を前処理して、以降の処理を正確に行うための鮮明な画像を生成する。ここで、前処理について詳細に説明する。図4に前処理部の構成を示す。前処理部23は、入力画像23aに対してソーベルフィルタを施すソーベルフィルタ処理部231と、入力画像23aに対して一定分散強調処理を行うCVE処理部232と、ソーベルフィルタ処理部231、及びCVE処理部232のそれぞれの処理部で実行されたモアレ画像の差分画像を生成する差分画像生成部233と、差分画像をバイラテラルフィルタで平滑化して処理用入力画像23bを生成する平滑化処理部234とを備える。
【0040】
モアレ画像は、撮影環境によってコントラストが大きく異なる場合がある。ソーベルフィルタ処理部231は、この問題を回避するための前処理としてソーベルフィルタを用いる。ソーベルフィルタは、ノイズを抑えながらエッジを効率的に抽出することが可能なフィルタで、平滑化を行う場合に中心となる画素からの距離に反比例した重みを与えて平均化を行う。図5(A)に示す入力画像に対して、ソーベルフィルタを施した画像の例を図5(B)に示す。
【0041】
CVE処理部232は、肩や腰部の特徴量を抽出する前処理として、入力画像23aに一定分散強調処理を行う。これは、画像内のどの領域内においても濃度分散と濃度平均とを均一にし、最適なコントラストを持った画像に変換する方法である。一定分散強調処理を用いる理由は、ヒストグラムを平坦化することにより、コントラストの低い画像に対してダイナミックレンジを広げ、微妙な明暗の変化も認識できるようにする必要があり、また、画像にシェーディングが存在する場合に、単純なヒストグラム変換処理では最適に平坦化することが困難な場合があるからである。そのため、変換する画素ごとにその周辺の情報を加味し、階調変換を行う必要がある。用いる変換式は、生化学検査などでよく用いられるSDI(Standard Deviation Index)と呼ばれている統計量である。
【0042】
この変換式を式(1)に示す。ユーザーが与えるのは、局所領域(M)の大きさである。SDIは平均値0、分散1の値になるため、目的の階調になるように変換する必要がある。本実施形態では、求めたSDIの値を閾値として2値画像に用いる。
【0043】
【数1】

μは平均値、σは標準偏差、XとNは局所領域M内の各データの値とデータ数を示す。
【0044】
図5(C)、(D)に一定分散強調処理を行い、SDIで2値化した画像を示す。肩甲骨領域の抽出(詳細は後述する)に用いるCVE画像は、51×51[pixels](図5(D))、人体背面の縞の抽出(詳細は後述する)に用いるCVE画像は、21×21[pixels](図5(C))を用いる。
【0045】
差分画像生成部233は、ソーベルフィルタ、及び一定分散強調処理を施したそれぞれの画像から差分画像を作成する。これは、2種類のエッジ強調画像から差分演算を行うことにより、肩や腰部の輪郭が良好に抽出できるためである。図6(A)は、図5(B)の画像と図5(D)の画像との差分画像である。図6(A)から肩や腰のエッジが強調されていることが明らかである。
【0046】
図6(A)に示すように、差分画像にはスパイク状ノイズが生じている。これらのノイズを取り除くため、平滑化処理部234が、バイラテラルフィルタを用いた平滑化処理を行う。バイラテラルフィルタを用いる理由として、バイラテラルフィルタはエッジを保持しながら平滑化を行うことが可能である利点が挙げられる。
【0047】
バイラテラルフィルタは、重みとしてガウス関数を用い、ガウシアンフィルタのように画素間の距離だけで重みを決めるのではなく、同時に輝度差も考慮に入れて重みを決めるフィルタである。輝度差が激しい部分では重みを小さくすることにより、輪郭をぼかすことなく平滑化を行うものである。バイラテラルフィルタの式を式(2)に示す。
【0048】
【数2】

xは画素間の重み、Wdは輝度差の重みをそれぞれ示す。
【0049】
また、本実施形態においては、ガウス関数は、式(2)のように等方的なガウス関数を用いる。また、係数α、βの値を変化させることにより、フィルタの効果を調整することができる。図6(A)に対し、バイラテラルフィルタを施して平滑化した画像の例を図6(B)に示す。図6(B)から、ノイズ成分が除去できていることが明らかである。
【0050】
図2に戻って、正中線設定部24は、左右対称性を評価するための基準となる背面の正中線を設定する。ここで、正中線の設定について詳細に説明する。人体背面のモアレ画像は、正中線を境にほぼ左右対称であるとみなすことができるため、その正中線を近似的対称軸として設定する。
【0051】
近似的対称軸は,図形とその鏡映対称図形との重ね合わせによって求まる。重ね合わせの位置は、以下の式(3)によって求まる。これは、図7に示すように、入力画像と鏡映対称図形が重なり合った部分の差分画像の1画素あたりの濃度値が最小になる位置を、最も重なり合った位置として求めることを示す。このときの入力画像の重心と、鏡映対称図形の重心との垂直二等分線が求める近似的対称軸となる。
【0052】
【数3】

【0053】
なお、本実施形態で用いるモアレ画像は、ほぼ直立で撮影されているため、同手法における回転操作は行わず、水平方向の移動のみで処理を行う。
ここで重心とは、モーメントによって求めることのできる画像特徴の一つである。画像F内における座標(x,y)∈Rにおける濃度値をf(x,y)とすると、Fの(i+j
)次のモーメントは次式の式(4)で表される。ただし、Rは図形領域を示す。
【0054】
【数4】

式(4)より、画像Fの重心(xc,yc)は、次式により求まる。
【0055】
【数5】

【0056】
図2に戻って、関心領域設定部22は、特徴量算出部25が特徴量を求める場合の対象となる処理領域を設定する。特徴量算出部25は、背面全体の平均濃度値、及び重心位置、並びに肩甲骨領域の平均濃度値、及びフーリエ記述子を算出するため、ここでは、人体背面の処理領域と肩甲骨領域のそれぞれの処理領域を設定する。
【0057】
まず、人体背面の処理領域の設定について詳細に説明する。本実施形態で用いるモアレ画像は、人体背面の腰から首付近までを撮影したものである。そのため、処理対象外である腕や画像の左右に存在する背景など処理に不要な部分が存在する。そこで、これらの不要な部分を除去した処理領域を設定する。図8(A)に示すように、横軸を基準とした累積ヒストグラムを作成した場合、図8(A)の矢印で示す部分のような谷が生じる。そこで、中央から見て左右で値が小さくなる箇所(図8(A)における矢印部分)をヒストグラム解析により求め、処理領域を設定する。
【0058】
モアレ画像内の処理領域に対し、式(5)の近似的対称性解析手法により得られる正中線を付加した画像を図8(B)に示す。この領域における正中線を境とした左右対称性を調べ、左右の非対称度として求める。このとき、以下の式(6)により左右の計算領域を設定する。
【0059】
【数6】

mは正中線、lは処理領域の左端、rは処理領域の右端の座標値を示す。
【0060】
この計算領域を上から下へと移動させ、それぞれ左右領域内の特徴量を比較することにより、その画像における非対称度を算出する(図8(B))。
【0061】
次に、肩甲骨領域の設定について詳細に説明する。図5(D)に示す51×51[pixels]の一定分散強調処理を施した画像と、ソーベルフィルタを施した画像との差分画像から得られる肩部および腰部の輪郭線より、肩甲骨部の関心領域を求める(図8(C))。具体的には、肩のラインをハフ変換で直線近似することにより、その輪郭を求める。ある直線に対し、ρは原点から直線におろした垂線の長さ、θはx軸となす角とすると、ハフ変換は、式(7)のように表すことができる。
【0062】
【数7】

【0063】
これより、極座標系の一点(ρ,θ)が求まれば一つの直線が定まる。次にヒストグラム解析により、脇上の点をもとにした矩形領域を選定し、その領域内の正中線を境とした左右の濃度差を特徴量として求める。なお、関心領域の設定には、近似的対称性解析手法を用いて求めた正中線をもとに、左右で小さい方の領域を基準とする。以上の処理により、処理領域が設定される。
【0064】
なお、人体背面の処理領域の設定については、必ずしも設定する必要はなく、予め処理の対象となる図8(B)のような領域を、操作者からの指示情報に基づいて抽出しておいてもよい。
【0065】
図2に戻って、特徴量算出部25は、モアレ画像の左右の非対象度を判定するための特徴量を算出する。図9に、特徴量算出部25の構成を示す。特徴量算出部25は、正中線を中心にして、人体背面の左右の重心位置の差を算出する重心位置算出部251と、人体背面の左右の平均濃度値の差を算出する平均濃度算出部252と、肩甲骨領域における左右のモアレ縞のフーリエ記述子の振幅の差を算出するフーリエ記述子算出部253と、肩甲骨領域における左右の平均濃度値の差を算出する関心領域平均濃度算出部254とを備える。
【0066】
それぞれの特徴量の算出方法について説明する。抽出した人体背面の左右の計算領域に対し、各局小領域内の左右の重心位置、平均濃度値をそれぞれ求め、その差の平均、及び標準偏差を求める。図10に、重心を用いた特徴量の算出処理の概要を示す。左側の重心をGl(xl,yl)、右側の重心をGr(xr,yr)とする。さらに、右側の計算領域に、正中線を軸としてGl(xl,yl)を折り返した点をGl’(xl’,yl’)として、左右の重心位置の差Eを以下の式(8)より求める。
【0067】
【数8】

また、同様の計算領域において、以下の式(9)により平均濃度値の差を求める。
【0068】
【数9】

lmv、rmvは、それぞれ左右の計算領域内の平均濃度を示す。
【0069】
背面上部から下部にかけて、計算領域をN回移動させたとき、式(8)、(9)から求まる特徴量の平均値μ1、μ2は次式となる。
【0070】
【数10】

次に、肩甲骨領域に対し、平均濃度値の差を次式により求める。
【0071】
【数11】

lmv’、rmv’は、それぞれ左右の肩甲骨領域内の平均濃度を示す。
【0072】
次に、図5(C)に示す21×21[pixels]の一定分散強調処理を施した画像と、ソーベルフィルタを施した画像との差分画像から得られる画像における肩甲骨領域を設定し、2値化を行った後、正中線を基準に画像の中心からラスタ操作を行う。境界線追跡を行い背面のモアレ縞を閉曲線として抽出し、任意の点における接線との偏角を用い、フーリエ記述子を求める。特徴量としては、フーリエ記述子を振幅Aの形とし、左右で比較した差の2乗を用いる。以下に計算式を示す。
【0073】
【数12】

Tは閉曲線1周の長さ、tは初期点からの距離、an,bnは輪郭の形状情報をそれぞれ示す。
【0074】
以上より、モアレ画像における重心位置の差の平均値μ1、平均濃度値の差の平均値μ2、肩甲骨領域における平均濃度値の差d’、及びフーリエ記述子の振幅Aを非対称度を表す特徴量として算出する。
【0075】
図2に戻って、判定部26は、特徴量算出部25が算出した特徴量データに基づいて、モアレ画像の左右の対称性を判定する。判定する際の識別器としては、例えばニューラルネットワーク、SVM(Support Vector Machine)、マハラノビス距離等を用いることができる。出力部27は、判定部26の判定結果を出力し、出力された情報を医師が参照して診断を行う。
【0076】
上記各処理を実現する対称性判定装置のハードウェア構成を図11に示す。対象性判定装置20は、オペレーティングシステムや各種プログラム(例えば、対象性判定プログラム、画像表示プログラム等)が格納されているROM203と、各種データ(例えば、画像データ、設定情報、結果情報等)が格納されているHD(ハードディスク)204と、各種プログラム等が必要に応じて読み出されるRAM202と、読み出されたプログラム等に基づいて実際の演算を実行するCPU201と、他の装置(例えば、サーバ、モアレ画像撮像装置等)と通信を行うためのインタフェースである通信I/F205と、キーボ
ードやマウス等の入力機器からの入力を受け付けたり、プリンタやモニタ等にデータを出力するためのインタフェースである入出力I/F206とを備える。この入出力I/F206としてUSBやRS232C等が用いられる。また、必要に応じて、光磁気ディスク、フロッピーディスク(登録商標)、CD−R、DVD−R等のリムーバブルディスクに対応したドライブを接続することができる。
【0077】
本実施形態に係る対称性判定装置の動作について説明する。図12において、まず、モアレ画像撮像装置10で被験者の背面のモアレ画像が撮像される。これは、検査技師等により行われ、撮像されたモアレ画像は画像入力部21に入力される(S11)。モアレ画像の入力は、撮像と同時に行われてもよいし、撮像のみを行った後に、モアレ画像の入力を別途行うようにしてもよい。モアレ画像が入力されると、正中線設定部24が正中線を設定し(S12)、関心領域設定部22が人体背面の処理領域を設定する(S13)。
【0078】
また、入力されたモアレ画像に対して、前処理部23が一定分散強調処理、及びソーベルフィルタを施す処理を行い(S14、S15)、それらの差分画像を作成し(S16)、バイラテラルフィルタを施して平滑化する(S17)。関心領域設定部22が、平滑化された画像を2値化し(S18)、肩甲骨領域を設定する(S19)。特徴量抽出部25が上記で示した各種特徴量を算出し(S20)、判定部26が判定処理を行う(S21)。判定結果を、出力部27が出力して処理を終了する。
【0079】
このように、本実施形態に係る対称性判定装置によれば、各種特徴量として算出することで、背面全体の歪みと肩甲骨領域における歪みとを医師が着目する観点と同様の観点から検出し、左右の非対称性を総合的に判定することができるため、モアレ画像を精度よく識別することができる。また、平均濃度値、及び重心位置のような濃度的な特徴量と、フーリエ記述子のような形状的な特徴量とを総合的に判定するため、広い観点からの識別が可能となり、識別の精度を上げることができる。
【0080】
さらに、モアレ画像に一定分散強調処理を行ったものと、モアレ画像にソーベルフィルタを施したものとの差分画像を、バイラテラルフィルタで平滑化する前処理を行うことで、照明等の環境の違い、カメラの画質、環境ノイズ等の有無に関わらず、人体の形状、及びモアレ縞を鮮明な画像で抽出することができ、正確な特徴量を算出して識別の精度を上げることができる。さらにまた、各種特徴量をニューラルネットワークからなる識別器により判定する場合には、既知のモアレ画像に基づいて適切な判定を行い、識別の精度を上げることができる。
【0081】
(本発明の第2の実施形態)
本実施形態に係る対称性判定装置について、図13及び図14を用いて説明する。図13は、本実施形態に係る対称性判定装置における特徴量算出部の機能ブロック図、図14は、本実施形態に係る対称性判定装置における肩ラインの左右差に関する図である。
【0082】
なお、本実施形態において、前記第1の実施形態と重複する説明については省略する。
【0083】
図13において図9と異なるのは、肩ライン算出部255を新たに備えることである。肩ライン算出部255は、図6(B)で得た画像に基づいて肩のラインを算出する。図8(C)で肩甲骨領域を設定した場合と同様に、一定分散強調処理を施した画像と、ソーベルフィルタを施した画像との差分画像について、平滑化し、2値化して得られた肩部の輪郭線をハフ変換で直線近似し、水平方向に対する角度の差を算出する。図14に示すように、直線近似された左右の肩のラインと水平方向との角度θ1,θ2の差を特徴量として算出する。
【0084】
判定部26は、第1の実施形態で示した各種特徴量に、形状的な特徴量である肩のラインの左右差を加えた5つの特徴量に基づいて判定処理を行う。
なお、直線近似はハフ変換以外にも最小二乗法を用いてもよい。
【0085】
このように、本実施形態に係る対称性判定装置によれば、左右の肩のラインの差を特徴量として算出して判定の要素とするため、人体の全体の形状的な特徴量が加わり、識別の精度をより高くすることができる。また、モアレ画像を2値化し、ハフ変換により左右の肩のラインを直線近似して差を算出するため、肩のラインを正確に算出することができ、識別の精度をより高くすることができる。
【0086】
(本発明の第3の実施形態)
本実施形態に係る対称性判定装置について、図15を用いて説明する。図15は、本実施形態に係る対称性判定装置の機能ブロック図である。
なお、本実施形態において、上記各実施形態と重複する説明については省略する。
【0087】
図15において図2と異なるのは、調整部28を備えることである。調整部28は、各特徴量のうち少なくとも一以上の特徴量が、他の特徴量と比較して異常値と判断される場合に、その特徴量の重み付けを大きく調整する。つまり、4つ又は5つの特徴量において、総合的に判定した場合には、対称であると判定できるときであっても、その中の1つの特徴量が正常の範囲から大きく外れている場合には、その特徴量の重み付けを大きくし、判定部26が非対称であると判定するように調整する。
【0088】
なお、正常の範囲から大きく外れているか否かは、例えば正常と判断できる閾値を予め設定し、その閾値と比較することで判断するようにしてもよい。
【0089】
このように、本実施形態に係る対称性判定装置によれば、各特徴量のうち少なくとも一以上の特徴量が、他の特徴量と比較して異常値と判断される場合に、前記一以上の特徴量の重み付けを大きく調整するため、一つでも異常な特徴量があるモアレ画像については非対称と判定する傾向になり、異常性の見落としを最小限に抑えることができる。
【0090】
(本発明の第4の実施形態)
本実施形態に係る対称性判定装置について、図16を用いて説明する。図16は、本実施形態に係る対称性判定装置の出力におけるブロック図である。
なお、本実施形態において、上記各実施形態と重複する説明については省略する。
【0091】
本実施形態に係る対称性判定装置は、対称、非対称、及びその中間の少なくとも3段階以上の判定を行うものである。また、対称と非対称の中間の段階であると判定した前記モアレ画像について、再度別の識別器で対称性の判定を行う。さらに、出力部が、判定部により判定された対称性の判定結果、及び特徴量算出部により算出された各特徴量に関する情報を出力するものである。
【0092】
図16において、出力部27は、判定結果データ160を出力する。この判定結果データ160は、対称、非対称、中間の3段階で示されている。中間と判定されたモアレ画像については、処理用入力画像23bとして再度別の識別器161に入力され、再判定処理が行われる。実際の診断を行う医師は、出力部27の出力結果である判定結果データ160と、特徴量算出部25が算出した特徴量データ25aと、識別器161が再判定した結果である再判定結果データ162とに基づいて、総合的に診断を行う。
【0093】
なお、対称、非対称、中間の判定については、対称と判定されるモアレ画像のうちユークリッド距離が非対称に近いもの、非対称と判定されるモアレ画像のうちユークリッド距
離が対称に近いもの(例えば、距離の閾値を予め設定しておく)を中間として判定するようにしてもよい。また、予め対称、非対称、中間の3段階をニューラルネットワークに学習させておき、そのニューラルネットワークに基づいて、判定を行うようにしてもよい。さらに、4段階以上に判定してもよい。
【0094】
識別器161については、処理対象となるモアレ画像は中間と判定された、所謂グレーゾーンのモアレ画像であることから、その判定に適した学習を予め行った識別器であることが好ましい。
【0095】
また、特徴量データ25aについては、総合的に対称と判定されているものの特徴量にバラつきがあったり、第3の実施形態に示すように、特に正常から大きく外れた特徴量の情報等を提示することで、医師の診断を確実にし、異常の見落としをなくすことができる。また、異常と判定されたモアレ画像について、特徴量を参照することで視認しにくい異常を把握することができ、医師の診断において重要な情報となり得る。
【0096】
このように、本実施形態に係る対称性判定装置によれば、対称、非対称、及びその中間の少なくとも3段階以上の判定を行うため、対称性があるかないかの微妙なグレーゾーンが判定され、より詳細な判断を必要とするモアレ画像を識別することができる。また、対称と非対称の中間の段階であると判定したモアレ画像について、再度別の識別器で対称性の判定を行うため、グレーゾーンとなったモアレ画像をさらに識別し、細かく分類して医師等にフィードバックすることができ、医師の負担を軽減することができる。さらに、対称性の判定結果だけでなく、各特徴量に関する情報も出力されるため、医師が診察する際の情報が増え、安定した診察が可能になる。
【0097】
なお、本実施形態に係る対称性判定装置20が、モアレ画像撮像装置10によるモアレ画像の撮像時に使用可能である場合、つまりモアレ画像を撮像しながら同時に左右の対称性を判定できる状態である場合には、判定部が中間と判定したモアレ画像について、基準格子及び/もしくは試料格子の格子幅の変更、基準格子及び試料格子を重ね合わせる角度の変更、光源の変更、又は、光源と被験者との距離の変更等を行うことで、撮像環境を変化させ、異なるパターンの一又は複数のモアレ画像を再度撮像するようにしてもよい。そうすることで、グレーゾーンと判定されたモアレ画像について、医師が複数のパターンから総合的に診断を行い、診断の精度と効率を向上させることができる。
以上の前記各実施形態により本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は実施形態に記載の範囲には限定されず、これら各実施形態に多様な変更又は改良を加えることが可能である。
【実施例】
【0098】
本発明に係る対称性判定装置を用いて、実際に人体背面を撮像したモアレ画像の対象性の判定を行った。本実施例では、人体背面における濃度平均、フーリエ記述子、人体背面における重心位置の差、及び肩甲骨領域における局所関心領域内の濃度平均の4つの特徴量を利用する。
【0099】
実施例に用いるモアレ画像は、正常例600、側彎症例600の計1200例で構成される。本実施例では、これらのデータ群から正常例200、側彎症例200で構成される計400例の学習データとして3つのデータ群を用意する。ここで、それぞれのデータ群をData1、Data2、Data3とする。この3つのデータ群に対し、リーブ・ワン・アウト法を適用し平均識別率を求める。リーブ・ワン・アウト法とは、あるデータ群を識別器の学習サンプルとし、残り二組のデータ群に対し識別を行う。これを全ての組み合わせにおいて行うことによりデータの偏りのない評価を行う方法である。
【0100】
識別器は、ニューラルネットワーク、非線形SVM(Support Vector Machine)、及びマハラノビス距離を用いた識別器を使用する。ニューラルネットワークは、階層型ニューラルネットワークを用い、階層型ニューラルネットワークの学習アルゴリズムとして、一般的に知られている誤差逆伝播学習アルゴリズム(BP:Back Propagation)を用いる。SVMは、2つのクラスのいずれかに属するデータ群をクラスタリングする識別関数を設計する手法であり、学習により得られた識別関数を同様の属性をもつ未知データに適用することにより、データの分類が可能となる。ここでは、非線形SVMを使用する。マハラノビス距離は、正規母集団と標本との距離尺度であり、正常例、側彎症例の2つの群におけるマハラノビス距離D2の比較を行うことで、正常例、側彎症例のいずれかに分類する。
【0101】
ニューラルネットワークを用いて得られる識別結果を表1に示す。また、フーリエ記述子と他の特徴量との2次元の組み合わせで得られた結果を表2ないし4に示す。Averageは各データ群から得られる平均的な識別率、Ave.は正常例、側彎症例における識別率をそれぞれ示す。表1より、平均90.79(%)という高い識別率が得られ、特に側彎症例だけに関しては、94.80(%)という高い認識率が得られた。
【0102】
【表1】

【0103】
【表2】

【0104】
【表3】

【0105】
【表4】

【0106】
非線形SVMを用いて得られる識別結果を表5に示す。また、フーリエ記述子と他の特徴量との2次元の組み合わせで得られた結果を表6ないし8に示す。表5より、平均88.89(%)の識別率が得られ、側彎症例だけに関しては、90.60(%)の認識率が得られた。
【0107】
【表5】

【0108】
【表6】

【0109】
【表7】

【0110】
【表8】

【0111】
マハラノビス距離を用いて得られる識別結果を表9に示す。また、フーリエ記述子と他の特徴量との2次元の組み合わせで得られた結果を表10ないし12に示す。表9より、平均85.04(%)の識別率が得られ、側彎症例だけに関しては、87.25(%)の認識率が得られた。
【0112】
【表9】

【0113】
【表10】

【0114】
【表11】

【0115】
【表12】

【0116】
これらの結果から、ニューラルネットワーク、非線形SVM、マハラノビス距離による正常例と側彎症例の識別率は、それぞれ平均で90.79%、88.89%、85.04%の識別率が得られ、ニューラルネットワークによる識別性能が一番高いという結果が得られた。また、形状特徴であるフーリエ記述子と他の濃度特徴量を組み合わせた結果では、どの識別器でも約8割の識別率を得た。このことから、4つの特徴量を組み合わせることにより互いに識別できないパターンを補っていると考えられる。さらに、全体的に正常例と側彎症例とをある程度分離することができていると考えられるため、識別関数付近にグレーゾーンを設けて医師に提示することにより、非常に有効なシステムが実装可能である。
【0117】
なお、側彎症例の誤認識例として、縞模様や左右の濃度分布、縞の形状に差がほとんど見られないものが含まれていた。これらの誤認識のモアレデータに関しては、上記第2の実施形態に示す肩ラインの差を特徴量とすることで、この誤認識を解消できると考えられる。
【符号の説明】
【0118】
10 モアレ画像撮像装置
11 姿勢保持装置
12 モアレカメラ
13 モニタ
160 判定結果データ
161 識別器
162 再判定結果データ
20 対象性判定装置
201 CPU
202 RAM
203 ROM
204 HD
205 通信I/F
206 入出力I/F
21 画像入力部
22 関心領域設定部
23 前処理部
23a 入力画像
23b 処理用入力画像
231 ソーベルフィルタ処理部
232 CVE処理部
233 差分画像生成部
234 平滑化処理部
24 正中線設定部
25 特徴量算出部
25a 特徴量データ
251 重心位置算出部
252 平均濃度算出部
253 フーリエ記述子算出部
254 関心領域平均濃度算出部
255 肩ライン算出部
26 判定部
27 出力部
28 調整部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体の背面側から撮像されたモアレ画像に基づいて、前記人体の左右の対称性を判定する対称性判定装置において、
撮像されたモアレ画像を入力する画像入力手段と、
前記入力されたモアレ画像に基づいて、当該モアレ画像の左右の対称性の基準となる正中線を設定する正中線設定手段と、
前記正中線を中心とする左右の重心位置の差を算出する重心位置算出手段と、
前記正中線を中心とする左右の平均濃度値の差を算出する平均濃度算出手段と、
前記モアレ画像に基づいて、肩甲骨領域を関心領域として設定する関心領域設定手段と、
前記関心領域における前記正中線を中心とする左右の平均濃度値の差を算出する関心領域平均濃度算出手段と、
前記関心領域における前記正中線を中心とする左右のモアレ縞を閉曲線として抽出し、フーリエ記述子を算出するフーリエ記述子算出手段と、
前記重心位置算出手段が算出した重心位置の差、前記平均濃度算出手段が算出した平均濃度値の差、前記関心領域平均濃度算出手段が算出した関心領域における平均濃度値の差、及びフーリエ記述子算出手段が算出したフーリエ記述子の各特徴量に基づいて、前記モアレ画像の左右の対称性を判定する対称性判定手段とを備えることを特徴とする対称性判定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の対称性判定装置において、
前記画像入力手段が入力したモアレ画像に対して前処理を施し、新たな入力されたモアレ画像とする前処理手段を備え、
当該前処理手段が、
前記入力されたモアレ画像に一定分散強調処理を行うCVE手段と、
前記入力されたモアレ画像にソーベルフィルタを施すソーベルフィルタ手段と、
前記一定分散強調処理が行われた画像情報と前記ソーベルフィルタが施された画像情報との差分画像を生成する差分画像生成手段と、
前記差分画像をバイラテラルフィルタで平滑化する平滑化処理手段とを備えることを特徴とする対称性判定装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の対称性判定装置において、
前記モアレ画像に基づいて、左右の肩のラインの差を算出する肩ライン算出手段を備え、
前記対称性判定手段が、前記重心位置の差、前記平均濃度値の差、前記関心領域における平均濃度値の差、前記フーリエ記述子、及び前記肩ラインの差の各特徴量に基づいて、前記モアレ画像の左右の対称性を判定することを特徴とする対称性判定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の対称性判定装置において、
前記肩ライン算出手段が、前記モアレ画像を2値化し、ハフ変換により左右の肩のラインを直線近似して差を算出することを特徴とする対称性判定装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の対称性判定装置において、
対称性判定手段が、ニューラルネットワークからなる識別器であることを特徴とする対称性判定装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の対称性判定装置において、
前記各特徴量のうち少なくとも一以上の特徴量が、他の特徴量と比較して異常値と判断される場合に、前記一以上の特徴量の重み付けを大きく調整する重付調整手段を備える
ことを特徴とする対称性判定装置。
【請求項7】
人体の背面側から撮像されたモアレ画像に基づいて、コンピュータが前記人体の左右の対称性を判定する対称性判定方法において、
撮像されたモアレ画像を入力する画像入力ステップと、
前記入力されたモアレ画像に基づいて、当該モアレ画像の左右の対称性の基準となる正中線を設定する正中線設定ステップと、
前記正中線を中心とする左右の重心位置の差を算出する重心位置算出ステップと、
前記正中線を中心とする左右の平均濃度値の差を算出する平均濃度算出ステップと、
前記モアレ画像に基づいて、肩甲骨領域を関心領域として設定する関心領域設定ステップと、
前記関心領域における前記正中線を中心とする左右の平均濃度値の差を算出する関心領域平均濃度算出ステップと、
前記関心領域における前記正中線を中心とする左右のモアレ縞を閉曲線として抽出し、フーリエ記述子を算出するフーリエ記述子算出ステップと、
前記重心位置算出ステップが算出した重心位置の差、前記平均濃度算出ステップが算出した平均濃度値の差、前記関心領域平均濃度算出ステップが算出した関心領域における平均濃度値の差、及びフーリエ記述子算出ステップが算出したフーリエ記述子の各特徴量に基づいて、前記モアレ画像の左右の対称性を判定する対称性判定ステップとを含むことを特徴とする対称性判定方法。
【請求項8】
人体の背面側から撮像されたモアレ画像に基づいて、前記人体の左右の対称性を判定するようにコンピュータを機能させる対称性判定プログラムにおいて、
撮像されたモアレ画像を入力する画像入力手段、
前記入力されたモアレ画像に基づいて、当該モアレ画像の左右の対称性の基準となる正中線を設定する正中線設定手段、
前記正中線を中心とする左右の重心位置の差を算出する重心位置算出手段、
前記正中線を中心とする左右の平均濃度値の差を算出する平均濃度算出手段、
前記モアレ画像に基づいて、肩甲骨領域を関心領域として設定する関心領域設定手段、
前記関心領域における前記正中線を中心とする左右の平均濃度値の差を算出する関心領域平均濃度算出手段、
前記関心領域における前記正中線を中心とする左右のモアレ縞を閉曲線として抽出し、フーリエ記述子を算出するフーリエ記述子算出手段、
前記重心位置算出手段が算出した重心位置の差、前記平均濃度算出手段が算出した平均濃度値の差、前記関心領域平均濃度算出手段が算出した関心領域における平均濃度値の差、及びフーリエ記述子算出手段が算出したフーリエ記述子の各特徴量に基づいて、前記モアレ画像の左右の対称性を判定する対称性判定手段としてコンピュータを機能させる対称性判定プログラム。

【図2】
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【図4】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−250998(P2011−250998A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126869(P2010−126869)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】