説明

対象であるペプチドのデータを識別するための、質量分析データのリアルタイム分析

【課題】タンデム質量分析装置において、効率良くデータを取得できる分析システムを提供する。
【解決手段】質量分析装置102に、システム100の動作を指示するコントローラ104を設ける。試料流116のプリカーサイオンスペクトルを取得し、プリカーサイオンスペクトルをリアルタイムに分析して、第1の評価基準が満たされるかどうかを判定する。この第1の評価基準が満たされている場合、前記試料流116のプロダクトイオンスペクトルを取得する。このプロダクトイオンスペクトルもリアルタイムに分析して、第2の評価基準が満たされるかどうかを判定する。この第2の評価基準が満たされている場合、プロダクトイオンスペクトルを分析して該プロダクトイオンスペクトルに識別を割り当てる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析機器、特に質量分析装置システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ペプチド、タンパク質および他の生体分子を分析するためには、種々の分析機器を使用することができる。質量分析は、種々の生体分子を高感度でかつ高速スループットで処理できるため、よく知られている。例えば、タンパク質は、タンデム質量分析を利用して取得されたスペクトル分析によって同定(識別)することができる。場合によっては、タンパク質を、タンパク質分解試薬を使用して最初に分解して種々のペプチドを生成し、その後、ペプチドをタンデム質量分析装置によって分析する。
【0003】
場合によっては、タンデム質量分析装置は、クロマトグラフィシステムに結合されていて、試料流内に存在する生体分子を分析する。例えば、試料流の連続する溶出部分は、高性能液体クロマトグラフィ(「HPLC」)カラムなどのクロマトグラフィカラムから、タンデム質量分析装置内に流れることができ、この溶出部分から一連のスペクトルを取得することができる。クロマトグラフィシステムにタンデム質量分析装置を結合することは、種々の理由で望ましいが、このような構成は、特定のクロマトグラフィの実行中に質量分析データを取得する効率に関して問題を有している。例えば、試料流の特定の溶出部分から取得されるスペクトルの分析に基づいて、その同じ溶出部分から追加のスペクトルを取得することが望ましい場合がある。しかし、試料流内に存在する生体分子の溶出速度は、タンデム質量分析装置の手動の制御に対して、それが効率的な制御であっても速過ぎる場合がある。同様に、試料流の流れを妨げることは望ましくないかまたは実用的でない場合がある。さらに、分析を繰り返すのに材料が不十分である場合がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タンデム質量分析装置において、効率よくデータを取得することができる分析システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は質量分析システムを提供する。この質量分析システムは、(a)質量分析装置と、(b)質量分析装置に接続されたコントローラとを備えている。このコントローラは、(i)試料流のプリカーサ(前駆体)イオンスペクトルを取得するように、質量分析装置に指示し、(ii)プリカーサイオンスペクトルをリアルタイムに分析して、第1の評価基準が満たされるかどうかを判定し、(iii)第1の評価基準が満たされる場合、試料流のプロダクト(生成物)イオンスペクトルを取得するように、質量分析装置に指示し、(iv)プロダクトイオンスペクトルをリアルタイムに分析して、第2の評価基準が満たされるかどうかを判定し、(v)第2の評価基準が満たされる場合、プロダクトイオンスペクトルを分析して、プロダクトイオンスペクトルに識別を割り当てるように構成される。
【0006】
本発明は、コンピュータ読み取り可能媒体も提供する。このコンピュータ読み取り可能媒体は、(a)所定のプリカーサイオンスペクトルについてペプチドマスフィンガープリント検索を実施して、プリカーサイオンスペクトルに関連する質量電荷比のセットを選択し、(b)該質量電荷比のセットでのプロダクトイオンスペクトルのセットの取得を指示し、(c)該プロダクトイオンスペクトルのセットに対してシーケンスタグ分析を実施して、プロダクトイオンスペクトルのセットの少なくとも1つを選択し、(d)該プロダクトイオンスペクトルのセットの少なくとも1つを分析して、プリカーサイオンスペクトルに識別を割り当てる実行可能な指示を含む。
【0007】
本発明はまた、質量分析システムを動作させる方法を提供する。この方法では、(a)試料流のプリカーサイオンスペクトルを取得し、(b)このプリカーサイオンスペクトルを分析して、ペプチドマスフィンガープリントスコア基準が満たされるかどうかを判定し、(c)ペプチドマスフィンガープリントスコア基準が満たされる場合、試料流のプロダクトイオンスペクトルを取得する。
【0008】
有利には、本発明の実施形態は、質量分析データのリアルタイム分析を可能にし、これにより、リアルタイム分析の結果を、追加の分析を始動するもしくは精密化する(refine)ため、または追加の質量分析データの取得を始動するもしくは精密化するための基礎とすることができる。本発明の実施形態によれば、質量分析データのリアルタイム分析は、評価基準のセットを使用して達成することができ、この評価基準は、無関係なもしくは対象でない質量分析データを効率的にフィルタリング除去する役割を果たす。このようにして、貴重なメモリ資源および処理時間を、実際に関連があるかもしくは対象である質量分析データのためだけに使用することができる。
【0009】
本発明の他の態様および実施形態も可能である。上記の発明の概要および以下の詳細な説明は、本発明を任意の特定の実施形態に限定するものではなく、単に本発明のいくつかの実施形態を記述しているにすぎない。
【0010】
本発明のいくつかの実施形態の性質および目的をよりよく理解するために、添付図面と関連させた以下の詳細な説明を読まれたい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
定義
以下の定義は、本発明のいくつかの実施形態に関して述べる要素の一部に適用される。これらの定義は、本明細書において同様に拡張されてもよい。
【0012】
本明細書で使用される「a」、「an」、および「the」という単数の用語は、文脈が別途明確に指示しない限り複数の指示対象を含む。そのため、例えば、コントローラへの言及は、文脈が別途明確に指示しない限り、複数のコントローラを含むことができる。
【0013】
本明細書で使用される「セット」という用語は、1つまたは複数の要素の集合のことを言う。そのため、例えば、質量電荷比のセットは、単一の質量電荷比または複数の質量電荷比を含むことができる。セットの要素はまた、そのセットの構成部材と呼ぶことができる。或るセットの要素は、同じか、または、異なる場合がある。場合によっては、或るセットの要素は、1つまたは複数の一般的な特徴を共有することができる。
【0014】
本明細書で使用される「生体分子」という用語は、生体試料内に存在することができる分子のことを言う。生体分子の例は、ペプチド、タンパク質、オリゴ糖類、多糖類、脂質、核酸、代謝産物などを含む。
【0015】
本明細書で使用される「生体試料」という用語は、単細胞有機体または多細胞有機体などの有機体から得られるか、有機体から誘起されるか、有機体によって排出されるか、または、有機体によって分泌される試料のことを言う。通常、生体試料は、ペプチドのセットまたはタンパク質のセットなどの生体分子のセットを含む。生体試料の例は、血液、血漿、血清、尿、胆汁、脳脊髄液、房水または硝子体液、体の分泌液、感染または炎症の膿腫または他の部位から得られる流体、関節から得られる流体、任意の組織または器官の一部、原始細胞、培養細胞、ならびに任意の細胞、組織、または器官によって条件付けられた媒体を含む。場合によっては、生体試料は、予備的処理または他の試料調製処置が施されていてよい。例えば、生体試料内に存在する生体分子は、トリプシン、エンドプロテアーゼGluC、臭化シアン等の、種々のタンパク質分試薬のうちの任意の試薬を使用した分解またはタンパク質分解を施すことができる。別の例として、生体試料には、非細胞分画(subcellular fractionation)、1次元電気泳動、2次元電気泳動、HPLC等の分離処置のセットを施すことができる。
【0016】
本明細書で使用される「タンパク質」という用語は、共に連結した複数のアミノ酸を含む分子のことを言う。通常、タンパク質は、ペプチド結合によって共に連結する、50を超えるアミノ酸を含む。アミノ酸の例は、20の遺伝子的に符号化されたアミノ酸を含み、20の遺伝子的に符号化されたアミノ酸は、アラニン(1文字略語:A)、アルギニン(1文字略語:R)、アスパラギン(1文字略語:N)、アスパラギン酸(1文字略語:D)、システイン(1文字略語:C)、グルタミン(1文字略語:Q)、グルタミン酸塩(1文字略語:E)、グリシン(1文字略語:G)、ヒスチジン(1文字略語:H)、イソロイシン(1文字略語:I)、ロイシン(1文字略語:L)、リジン(1文字略語:K)、メチオニン(1文字略語:M)、フェニルアラニン(1文字略語:F)、プロリン(1文字略語:P)、セリン(1文字略語:S)、トレオニン(1文字略語:T)、トリプトファン(1文字略語:W)、チロシン(1文字略語:Y)、バリン(1文字略語:V)を含む。アミノ酸の追加的な例は、D−アミノ酸、改質アミノ酸、アミノ酸類似物、合成的に生成されるアミノ酸および同様なものを含む。タンパク質は、自然に発生するか、組み換え的に生成されるか、または合成的に生成されるものであってよい。場合によっては、タンパク質は、糖化、アセチル化、リン酸化、ユビキチン化等の、翻訳後修飾のセットが施されることができる。
【0017】
本明細書で使用される「ペプチド」という用語は、共に連結した複数のアミノ酸を含む分子のことを言う。通常、ペプチドは、ペプチド結合によって共に連結する複数のアミノ酸を含む。ペプチドは、自然に発生するか、組み換え的に生成されるか、または、合成的に生成されることができる。場合によっては、ペプチドのセットは、タンパク質に加水分解またはタンパク質分解を施すことによって生成することができる。加水分解またはタンパク質分解によって生成されるペプチドは、通常、2〜50のアミノ酸を含む。
【0018】
本明細書で使用される「ペプチド性(もしくはペプチドの)」という用語は、ペプチドのセットを伴うか、ペプチドのセットを示すか、またはペプチドのセットに関連することを指す。そのため、例えば、ペプチド性のデータは、ペプチドのセットを伴うか、ペプチドのセットを示すか、またはペプチドのセットに関連するデータを含むことができる。
【0019】
本明細書で使用される「リアルタイム」という用語は、動作のセットを実施することを言うため、動作のセットの出力または結果は、特定のタイミング制約に基づいて生成される。本明細書では、動作がリアルタイムに実施されるとして言及されることがあるが、動作の出力は、或る検出可能な遅延または待ち時間を有して生成することができることが考えられる。例えば、動作の出力が、動作の入力が取得されるレートと同じかまたはほぼ同じであるレートで生成される場合、動作はリアルタイムに実施されるということができる。別の例として、動作の出力が、1秒以内、0.1秒以内、0.01秒以内、または、0.001秒以内などの、応答時間の特定の上限以内で生成される場合、動作は、リアルタイムに実施されるということができる。さらなる例として、プロセスが行われている間に、プロセスに影響を及ぼすか、または、プロセスを制御することが可能であるように、動作の出力が、適時に生成される場合、動作はリアルタイムに実施されるということができる。
【0020】
まず、本発明の一実施形態に従って実施される質量分析システム100を示す図1を参照されたい。質量分析システム100は、タンデム質量分析装置として実施される質量分析装置102を備えている。図示の実施形態では、質量分析装置102は、行われるべき特定のタイプの質量分析実験に応じて、種々の動作モードで動作することができる。例えば、質量分析装置102は、プリカーサイオンスペクトルを取得する質量分析モード(「MSモード」)で、またはプロダクトイオンスペクトルを取得するタンデム質量分析モード(「MS/MSモード」)で動作することができる。
【0021】
図1に示すように、質量分析装置102は、イオンを生成するように動作するイオン源106を備えている。質量分析装置102の特定の動作モードに応じて、イオン源106によって生成されるイオンは、プリカーサイオンの役割を果たすことができ、このプリカーサイオンは断片化されて、プロダクトイオンを生成する。図示の実施形態では、イオン源106は、エレクトロスプレーイオン化(「ESI」)を使用してイオンを生成する。ESIの1つの利点は、ESIが、HPLCなどの種々の分離工程と共に使用するのが容易だということである。図1に示すように、イオン源106は、試料流116内に存在する分析物からイオンを生成する。特に、試料流116は、適当な溶剤中に分散する生体分子を含む。例えば、生体分子は、タンパク質のセットに分解もしくはタンパク質分解を施すことによって生成されるペプチドを含むことができる。図示の実施形態では、試料流116を、HPLCカラムなどのクロマトグラフィカラム(図1には示さず)から、連続して、つまり流れるようにイオン源106内に導入し、試料流116の連続する溶出部分を、後述のように質量分析システム100によって分析する。
【0022】
図1を参照すると、質量分析装置102は、タンデムインスペース方式で(質量分析器を2台並べた様式で)実施され、一対の質量分析器108および112、ならびにこれらの質量分析器108と112との間に配置された衝突セル110を備えている。図1には、2つの質量分析器108および112を示しているが、質量分析装置102は、他の実施態様に設けられている質量分析器の数は、より多くてもより少なくてもよい。例えば、質量分析装置102は、タンデムインタイム方式で(質量分析器を時間的にずらして使用する様式で)実施することができ、この場合、質量分析装置102は、単一の質量分析器を備えている。図1に示すように、質量分析器108は、イオン源106の下流に配置されており、イオンを受け取る。質量分析器112の特定の動作モードに応じて、質量分析器108は、質量電荷比に基づいてイオンを選択するか、または全てもしくはほぼ全てのイオンを送るように動作する。衝突セル110は、質量分析器108の下流に配置されていて、イオンを受け取る。質量分析装置102の特定の動作モードに応じて、衝突セル110は、イオンの断片化を誘起するように動作して、プロダクトイオンを生成するか、または全てもしくはほぼ全てのイオンを送る。質量分析器112は、衝突セル110の下流に配置されており、イオンを受け取り、質量電荷比に基づいてイオンを分離するように動作する。質量分析器108および112は、四重極質量分析器、飛行時間質量分析器、イオントラップ質量分析器およびこれらに類するものを使用するなど、種々の方法で実施することができる。衝突セル110は、不活性ガスを使用して衝突により誘起される解離に基づいてイオンの断片化を誘起するなど、種々の方法で実施することができる。
【0023】
図1に示すように、質量分析装置102はまた、検出器114を備えており、この検出器114は、質量分析器112の下流に配置されていて、イオンを受け取る。検出器114は、多量のイオンを検出するように動作し、試料流116のスペクトルのセットを取得する。例えば、検出器114は、多量のプリカーサイオンを検出して、プリカーサイオンスペクトルを取得するか、または多量のプロダクトイオンを検出して、プロダクトイオンスペクトルを取得することができる。検出器114は、電子増倍、シンチレーションカウンタおよびこれらに類するものを使用するなど、種々の方法で実施することができる。
【0024】
図1を参照すると、質量分析システム100はまた、コントローラ104を備えており、コントローラ104は、任意の有線または無線伝送チャネルを使用して質量分析装置102に接続されており、質量分析装置102を制御するように動作する。特に、コントローラ104は、行われるべき特定のタイプの質量分析実験に応じて、特定の動作モードで動作するように質量分析装置102に指示する。特定の動作モードを指定すること共に、コントローラ104は、質量分析装置102のための種々の取得パラメータ、例えばイオン源106、質量分析器108および112、衝突セル110ならびに検出器114のための取得パラメータを指定するかまたは能動的に変更することができる。例えば、コントローラ104は、取得パラメータを指定するかまたは能動的に変更して、特定のイオン化の設定、質量電荷比の特定の範囲、特定のスペクトル取得レート、特定の信号対雑音比、特定の質量分解能、特定の断片化の設定、特定の検出器の利得およびこれらに類するものを得ることができる。
【0025】
図1に示すように、コントローラ104は、取得されたスペクトルのリアルタイム分析を実施し、リアルタイム分析の結果に基づいて特定の動作モードで動作するように質量分析装置102に指示するリアルタイムエンジンとして動作する。有利には、コントローラ104は、リアルタイム分析の結果に基づいて、行われるべき質量分析実験のタイプを指定するかまたは能動的に変更することによって、質量分析データの自動化されかつデータに依存した取得を可能にする。特に、リアルタイム分析の結果を、追加の分析を始動するかもしくは精密化するため、または追加の質量分析データの取得を始動するかもしくは精密化するための基礎とすることができる。このようにして、コントローラ104は、試料流116の特定のクロマトグラフィの実行中に質量分析データを取得する効率を改善する。コントローラ104のこのような性能が特に有利となるのは、試料流116中に存在する生体分子の溶出速度が質量分析装置102の効率的な手動制御に対して速すぎる場合、試料流116の流れを妨げることが望ましくないもしくは実用的でない場合、および分析を繰り返すのに材料が不十分である場合である。
【0026】
図示の実施形態では、コントローラ104は、評価基準のセットに基づいて取得したスペクトルのリアルタイム分析を実施する。有利には、この評価基準のセットは、階層的にまたは連続して適用することができ、無関係であるかもしくは対象でない質量分析データを効率的にフィルタリング除去する。このようにして、貴重なメモリ資源および処理時間を、実際に関連があるかもしくは対象である質量分析データのみのために使用することができる。結果として、評価基準のセットは、対象でないデータの取得を減らしながら対象であるデータの取得を増やすことによって、試料流116の包括的な分析を可能にする。記憶され分析される対象でないデータ量を減らすことによって、評価基準のセットは、試料流116中に存在する生体分子の識別を加速しかつ簡略化することも助ける。
【0027】
例えば、質量分析システム100の動作中に、コントローラ104は、試料流116の特定の溶出部分のプリカーサイオンスペクトルを取得するように、質量分析装置102に指示することができる。次に、コントローラ104は、第1の評価基準に基づいてプリカーサイオンスペクトルのリアルタイム分析を実施することができ、プリカーサイオンスペクトルが、対象である質量分析データを含むかどうかを判定する。前記プリカーサイオンスペクトルのリアルタイム分析に基づいて、コントローラ104は、対象であるピークのセットを識別し、追加的な質量分析データの取得のためのピークのセットを選択することができる。特に、コントローラ104は、前記ピークのセットに対するプロダクトイオンスペクトルのセットを取得するように質量分析装置102に指示することができる。プリカーサイオンスペクトルのリアルタイム分析を実施することによって、プリカーサイオンスペクトルが取得された試料流116の同じ溶出部分からプロダクトイオンスペクトルのセットを取得することができ、これにより、その溶出部分の包括的な分析が可能となる。次に、コントローラ104は、第2の評価基準に基づいてプロダクトイオンスペクトルのセットのリアルタイム分析を実施することができ、プロダクトイオンスペクトルのセットが、対象である質量分析データを含むかどうかを判定する。プロダクトイオンスペクトルのセットのリアルタイム分析に基づいて、コントローラ104は、対象であるプロダクトイオンスペクトルを識別し、追加的な分析のためにプロダクトイオンスペクトルを選択することができる。特に、コントローラ104は、プロダクトイオンスペクトルを分析することができ、プロダクトイオンスペクトルのそれぞれに識別を割り当てる。このように割り当てられた識別に基づいて、コントローラ104は、プリカーサイオンスペクトルにも識別を割り当てることができる。
【0028】
コントローラ104は、コンピュータコード、配線回路またはコンピュータコードと配線回路の組合せを使用するなど、種々の方法で実施することができる。コントローラ104は、パーソナルコンピュータ、サーバコンピュータ、ウェブ設備、個人情報端末製品またはこれらに類するものなどの、コンピューティングデバイスを備えていることができるかまたはそれと連携して動作することができる。例えば、特定の評価基準に基づいてスペクトルの分析を実施することに関連して、コントローラ104は、任意の有線または無線伝送チャネルを使用してコントローラ104に接続されていてよいパーソナルコンピュータまたはサーバコンピュータに載っている検索エンジンと連携して動作することができる。場合によっては、コントローラ104は、ユーザが種々の処理オプションを指定することを可能にするユーザインタフェースを提供することができる。
【0029】
次に、本発明の一実施形態に従って実施可能な動作を示す図2Aおよび図2Bを参照されたい。特に、図2Aおよび図2Bは、、質量分析データの自動化されかつデータに依存した取得を指示するコントローラ104によって実施可能な動作を示す。
【0030】
図2Aを参照すると、コントローラ104は、まずMSモードで動作するように質量分析装置102を構成している(ブロック200)。MSモードでは、イオン源106は、試料流116の特定の溶出部分に存在する生体分子からイオンを生成する。特に、イオン源106は、その溶出部分に存在するペプチドからイオンを生成することができる。イオン源106はまた、他のタイプの生体分子または化学的不純物からイオンを生成することもできる。次に、質量分析器108および衝突セル110は、イオンの全てもしくはほぼ全てを質量分析器112に送り、質量分析器112は、質量電荷比に基づいてイオンを分離する。イオンは、最後には検出器114に達し、検出器114は、多量のイオンを検出し、プリカーサイオンスペクトルを取得する。プリカーサイオンスペクトルの特定の形式に応じて、コントローラ104は、追加的な分析を容易にするために、プリカーサイオンスペクトル処理を行うことができる。図2Aに示すように、プリカーサイオンスペクトルは未処理の形式で取得され、コントローラ104は、プリカーサイオンスペクトルに対して、ピーク検出、同位体クラスタ検出、変化状態決定およびこれらに類する種々のスペクトル処理動作を実施する(ブロック202)。特に、コントローラ104は、ピークリストを最初に導出し、そのピークは、プリカーサイオンスペクトルに存在する複数のピークを含む。各ピークは、特定の質量電荷比でのイオンの豊富さを表す強度値を含むことができる。次に、コントローラ104は、ピークリストを使用して、プリカーサイオンスペクトルに存在する同位体クラスタを検出し、その後、同位体クラスタのそれぞれについての電荷状態を判定する。
【0031】
図2Aに示すように、コントローラ104は、次に、第1の評価基準に基づいてプリカーサイオンスペクトルのリアルタイム分析を実施し、プリカーサイオンスペクトルが、対象である質量分析データを含むかどうかを判定する(ブロック204)。図示の実施形態では、第1の評価基準を使用して、プリカーサイオンスペクトルが、ペプチド性であるかもしくはペプチド性であるという十分な可能性がある質量分析データを含むかどうかが判定される。さらに、第1の評価基準は、対象である特定のペプチド性データに関しての追加的な制約を課すことができる。この場合、第1の評価基準は、ペプチドマスフィンガープリントスコア基準を含む。このペプチドマスフィンガープリントスコア基準は、プリカーサイオンスペクトルに存在するピークが、プリカーサイオン参照スペクトルのセットに存在するピークに一致する程度を判定するのに使用される。プリカーサイオン参照スペクトルのセットは、タンパク質に分解もしくはタンパク質分解を施すことによって生成される、ペプチドの実験的なまたは理論的なプリカーサイオンスペクトルを含むことができる。図2Aに示すように、コントローラ104は、プリカーサイオンスペクトルに対してペプチドマスフィンガープリント検索を実施し、ペプチドマスフィンガープリントスコアを導出し、続いて、そのペプチドマスフィンガープリントスコアのセットを、ユーザが選択するかもしくは指定することができる閾値と比較する。例えば、閾値は、50%、60%、70%、80%、90%もしくは95%等のパーセンテージとして表される最小の信頼レベルに相当しうる。一致するかもしくは閾値を超えるプリカーサイオンスペクトルに存在する各ピークは、対象であるペプチド性データであるかもしくは対象であるペプチド性データであるという十分な可能性があるものとして識別されうる。このようにして、コントローラ104は、対象であるピークのセットを識別し、プロダクトイオンスペクトルのセットの取得のためのピークのセットを選択することができる。有利には、ペプチドマスフィンガープリント検索は、リアルタイムに実施されるように加速することができ、そのため、これを「高速」ペプチドマスフィンガープリント検索と呼ぶことができる。ペプチドマスフィンガープリント検索の加速が達成可能であるのは、この検索が、可能性のある一致の包括的なリストを作成することを必要とせず、プリカーサイオンスペクトルに存在するピークが一致するかもしくは閾値を超えるかどうかの予備的な指示を導出するのに単に使用可能であるためである。よって、ペプチドマスフィンガープリント検索は、網羅的なデータベース検索である必要はなく、検索空間を限定することができる。場合によっては、ペプチドマスフィンガープリント検索は、ユーザが選択または指定できる対象であるペプチドのセットまたはタンパク質のセットの観点から検索空間を狭めることによって、さらに加速される可能性がある。コントローラ104は、特定のペプチドまたは特定のタンパク質、例えばアミノ酸の特定の配列を含むもの、システインのカルバミドメチル化等一定の改質を有するアミノ酸を含むもの、セリンのリン酸化等の様々なの改質を有するアミノ酸を含むもの、リン酸塩損失等の特定の損失を示す質量差を含むものをユーザが指定できるような機能性を提供することができる。
【0032】
第1の評価基準は、別法としてもしくは連携して、対象であるピークのセットを識別するための別のタイプの評価基準を含むことができる。例えば、特定のピークは、その絶対強度値、他のピークの強度値に対するその強度値、閾値に対するその強度値またはこれらに類するものに基づいて識別できる。特に、プリカーサイオンスペクトルに存在するn個の最も強いピークを識別することができ、この場合、nはユーザが選択するかもしくは指定することができる任意の整数である。別の態様として、特定のピークを、包含リストにおいて構成要素であること、または除外リストにおいて構成要素となっていないことに基づいて、識別できる。
【0033】
図2Aに示すように、第1の評価基準が満たされる場合(ブロック206)、コントローラ104は、保存性の形式で、例えばデータファイルに、プリカーサイオンスペクトルの記憶を協調作動させ(プリカーサイオンスペクトルを保存し)(ブロック208)、続いて、後述の追加的な動作を実施する。一方、第1の評価基準が満たされない場合(ブロック206)、プリカーサイオンスペクトルは保持される必要がなく、そのため、保存されるべき質量分析データ量が減る。コントローラ104は、任意の追加的なプリカーサイオンスペクトルが取得されるべきかどうかを判定する(ブロック210)。このような判定は、例えば、タイミング制約、試料流116の分析されるべき任意の残留溶出部分が残っているかどうか、または異なる取得パラメータを使用すべきかどうかに基づいていてよい。追加的なプリカーサイオンスペクトルが取得されない場合(ブロック210)、コントローラ104は、終了段階へ進むように質量分析装置102に指示する。一方、追加的なプリカーサイオンスペクトルが取得される場合(ブロック210)、コントローラ104は、試料流116の、同じかもしくは後続の溶出部分から追加的なプリカーサイオンスペクトルを取得するMSモードで動作するように質量分析装置102を構成する(ブロック200)。有利には、コントローラ104は、異なる取得パラメータを使用してプリカーサイオンスペクトルを取得するように質量分析装置102に指示することができる。このようにして、追加的なプリカーサイオンスペクトルは、同じ溶出部分からであるが、改善されたスペクトル特性で取得することができる。コントローラ104は、続いて、前述の同様な方法で追加的なプリカーサイオンスペクトルを処理することができる。
【0034】
図2Bを参照すると、次にコントローラ104は、MS/MSモードで動作するように質量分析装置102を構成する(ブロック212)。特に、第1の評価基準を使用して対象であるピークを識別することに基づいて、コントローラ104は、そのピークの質量電荷比でプロダクトイオンスペクトルを取得するように質量分析装置102に指示する。質量分析装置102は、対象であるピークの質量電荷比を含む質量電荷比の範囲においてプロダクトイオンスペクトルを取得することもできる。例えば、質量電荷比の範囲は、対象であるピークを含む同位体クラスタに基づいて決定することができる。MS/MSモードでは、イオン源106は、試料流116の特定の溶出部分に存在する生体分子からイオンを生成する。特に、イオン源106は、プリカーサイオンスペクトルを取得した試料流116の同じ溶出部分に存在するペプチドからイオンを生成することができる。イオン源106は、他のタイプの生体分子または化学的不純物からイオンを生成することもできる。次に、質量分析器108は、対象であるピークの質量電荷比に基づいて特定のイオンを選択し、この特定のイオンは、プリカーサイオンとしての役割を果たすものであり、衝突セル110において断片化が施され、プロダクトイオンを生成する。質量分析器112は、プロダクトイオンを受け取り、質量電荷比に基づいてプロダクトイオンを分離する。プロダクトイオンは、最後に検出器114に達し、検出器114は、多量のプロダクトイオンを検出して、プロダクトイオンスペクトルを取得する。プロダクトイオンスペクトルの特定の形式に応じて、コントローラ104は、追加的な分析を容易にするために、プロダクトイオンスペクトル処理を行うことができる。図2Bに示すように、プロダクトイオンスペクトルは、未処理の形式で取得され、コントローラ104は、プロダクトイオンスペクトルに対して、ピーク検出、同位体クラスタ検出、変化状態決定等の種々のスペクトル処理動作を実施する(ブロック214)。特に、コントローラ104は、プロダクトイオンスペクトルに存在するピークを含むピークリストを最初に導出する。各ピークは、特定の質量電荷比でのプロダクトイオンの豊富さを表す強度値を含むことができる。次に、コントローラ104は、ピークリストを使用して、プロダクトイオンスペクトルに存在する同位体クラスタを検出し、その後、同位体クラスタのそれぞれについての電荷状態を判定する。
【0035】
図2Bに示すように、コントローラ104は、次に、第2の評価基準に基づいてプロダクトイオンスペクトルのリアルタイム分析を実施し、プロダクトイオンスペクトルが、対象である質量分析データを含むかどうかを判定する(ブロック216)。図示の実施形態では、第2の評価基準を使用して、プロダクトイオンスペクトルが、ペプチド性であるかまたはペプチド性であるという十分な可能性がある質量分析データを含むかどうかが判定される。さらに、第2の評価基準は、対象である特定のペプチド性データについて、追加的な制約を課すことができる。本明細書では、第2の評価基準は、シーケンスタグ長基準を含み、このシーケンスタグ長基準は、プロダクトイオンスペクトルに存在するピークが、所定のシーケンスタグ、すなわちペプチドまたはタンパク質に存在しうる連続のアミノ酸の配列を示すかどうかを判定するのに使用される。特に、シーケンスタグ長基準は、プロダクトイオンスペクトルに存在する一連のピークが、所定のシーケンスタグ長、すなわち特定の数の連続するアミノ酸を示すかどうかを判定するのに使用される。図2Bに示すように、コントローラ104は、シーケンスタグ長を導出するためにプロダクトイオンスペクトルに対してシーケンスタグ分析を実施し、シーケンスタグ長を、ユーザが選択または指定することができる閾値と比較する。例えば、閾値は、最小のシーケンスタグ長に相当し、1以上の任意の整数とすることができる。シーケンスタグ分析により、閾値以上であるシーケンスタグ長が得られた場合、プロダクトイオンスペクトルは、対象であるペプチド性データを含むかまたは対象であるペプチド性データを含むという十分な可能性があるものとして識別できる。このようにして、コントローラ104は、プロダクトイオンスペクトルを対象であるとして識別し、後述の追加的な分析のためにプロダクトイオンスペクトルを選択することができる。有利には、シーケンスタグ分析は、リアルタイムに実施されるように加速することができ、そのため、「高速」シーケンスタグ分析と呼ぶことができる。シーケンスタグ分析の加速が達成可能であるのは、分析が、シーケンスタグを含むアミノ酸の包括的な識別の生成を必要としておらず、プロダクトイオンスペクトルに存在するピークが、閾値以上のシーケンスタグ長を示すかどうかについての予備的な指示を導出するのに単に使用できるからである。そのため、シーケンスタグ分析は、包括的なシーケンシング決定を行う必要はなく、その代わりに、上記の予備的な指示を導出するために、制限されたシーケンシング決定行うことができる。
【0036】
第2の評価基準は、別法としてまたは連携して、プロダクトイオンスペクトルを対象であるとして識別するための別のタイプの評価基準を含むことができる。例えば、第2の評価基準は、プロダクトイオンスペクトルが、ユーザが選択または指定できる、対象であるシーケンスタグを示すかどうかを判定するために規定できる。コントローラ104は、ユーザが、特定のシーケンスタグ、例えばアミノ酸の特定のシーケンスを含むもの、一定の改質を有するアミノ酸を含むもの、様々な改質を有するアミノ酸を含むもの、特定の損失を示す質量差を含むものおよびこれらに類するものを指定可能にする機能性を提供することができる。
【0037】
図2Bに示すように、第2の評価基準が満たされる場合(ブロック218)、コントローラ104は、後述の追加的な動作を実施する。一方、第2の評価基準が満たされない場合(ブロック218)、コントローラ104は、任意の追加的なプロダクトイオンスペクトル(フラグメントスペクトル)を取得すべきかどうかを判定する(ブロック220)。このような判定は、例えば、タイミング制約、プリカーサイオンスペクトルに存在する分析されるべき任意の残留ピークが残っているかどうか、または異なる取得パラメータを使用すべきかどうかに基づいていてよい。追加的なプロダクトイオンスペクトルが取得されない場合(ブロック220)、コントローラ104は、図2Aに関連して先に述べたように、任意の追加的なプリカーサイオンスペクトルを取得するべきであるかを判定する(ブロック210)。一方で、図2Bを参照すると、追加的なプロダクトイオンスペクトルが取得される場合(ブロック220)、コントローラ104は、試料流116の同じかまたは後続の溶出部分から追加的なプロダクトイオンスペクトルを取得するMS/MSモードで動作するように質量分析装置102を構成する(ブロック212)。有利には、コントローラ104は、異なる取得パラメータを使用して追加的なプロダクトイオンスペクトルを取得するように質量分析装置102に指示できる。このようにして、追加的なプロダクトイオンスペクトルを、同じ溶出部分からおよび同じ質量電荷比ではあるが、改善されたスペクトル特性で取得できる。コントローラ104は、続いて、上述の同様な方法で追加的なプロダクトイオンスペクトルを処理することができる。
【0038】
図2Bを参照すると、コントローラ104は、次に、第3の評価基準に基づいてプロダクトイオンスペクトルの分析を実施し、プロダクトイオンスペクトルが、対象である質量分析データを含むかどうかを判定する(ブロック222)。図示の実施形態では、第3の評価基準も、プロダクトイオンスペクトルが、ペプチド性であるかまたはペプチド性であるという十分な可能性のある質量分析データを含むかどうかを判定するのに使用される。さらに、第3の評価基準は、対象である特定のペプチド性のデータに対して追加的な制約を課すことができる。ここでは、第2の評価基準と同様に、第3の評価基準は、シーケンスタグ長基準を含み、このシーケンスタグ長基準が、プロダクトイオンスペクトル内に存在する一連のピークが特定のシーケンスタグ長を示すかどうかを判定するのに使用される。しかし、第3の評価基準を、シーケンスタグ長の最小値に関してより厳しくすることができる。図2Bに示すように、コントローラ104は、プロダクトイオンスペクトルについてデノボシーケンシング分析を実施し、シーケンスタグを含むアミノ酸を識別する。デノボシーケンシング分析を実施することに関連して、コントローラ104はまた、シーケンスタグ長を導出し、シーケンスタグ長を、ユーザが選択または指定できる閾値と比較する。例えば、閾値は、最小シーケンスタグ長に相当し、1以上の任意の整数であってよい。前述のように、第3の評価基準は、最小シーケンスタグ長に関してより厳しくすることができ、そのため、第3の評価基準について指定された閾値は、第2の評価基準について指定された閾値より大きくなっていてよい。デノボシーケンス分析が、閾値以上であるシーケンスタグ長をもたらす場合、プロダクトイオンスペクトルを、対象であるペプチド性データを含むかまたは対象であるペプチド性データを含むという十分な可能性があるものととして識別できる。このようにして、コントローラ104は、プロダクトイオンスペクトルを対象であるとして識別し、後述の記憶のためにプロダクトイオンスペクトルを選択することができる。
【0039】
第3の評価基準は、別法としてまたは連携して、プロダクトイオンスペクトルを対象であるものとして識別するための別のタイプの評価基準を含むことができる。例えば、第3の評価基準は、シーケンスデータベーススコア基準を含むことができ、このシーケンスデータベーススコア基準は、プロダクトイオンスペクトル内に存在するピークが、プロダクトイオン参照スペクトルのセット内に存在するピークに一致する程度を判定するのに使用される。プロダクトイオン参照スペクトルのセットは、タンパク質に分解またはタンパク質分解を施すことによって生成されるペプチドの実験的または理論的プロダクトイオンスペクトルを含むことができる。特に、コントローラ104は、プロダクトイオンスペクトルに対してシーケンスデータベース検索を実施し、シーケンスデータベーススコアのセットを導出し、その後、シーケンスデータベーススコアのセットを、ユーザが選択または指定できる閾値と比較することができる。例えば、閾値は、50%、60%、70%、80%、90%、または95%等のパーセンテージとして表される最小の信頼レベルに対応することができる。シーケンスデータベース検索が、閾値以上である結果をもたらす場合、プロダクトイオンスペクトルは、匹敵するペプチドまたは匹敵するタンパク質と関連するかまたは関連するという十分な可能性があるものとして識別できる。このようにして、コントローラ104は、プロダクトイオンスペクトルが対象であると識別し、記憶についてプロダクトイオンスペクトルを選択することができる。有利には、シーケンスデータベース検索を加速することができ、そのため、これを「高速」シーケンスデータベース検索と呼ぶことができる。特に、シーケンスデータベース検索は、リアルタイムに実施されるように、十分に加速できる。シーケンスデータベース検索の加速は、ユーザが選択または指定できる対象であるペプチドのセットまたはタンパク質のセットに関して検索空間を狭めることによって達成できる。コントローラ104は、ユーザが、特定のペプチドまたは特定のタンパク質、例えば、アミノ酸の特定の配列を含むもの、一定の改質を有するアミノ酸を含むもの、可変の改質を有するアミノ酸を含むもの、特定の損失を示す質量差を含むもの等を指定することを可能にする機能性を提供することができる。場合によっては、シーケンスデータベース検索は、第2の評価基準に関連して以前に識別されたシーケンスタグを含むペプチドのセットまたはタンパク質のセットに関して検索空間を狭めることによってさらに加速することができる。別の例として、第3の評価基準は、プロダクトイオンスペクトルが、ユーザが選択または指定できる対象のシーケンスタグを示しているか否かを判定するために規定できる。コントローラ104は、特定のシーケンスタグ、例えばアミノ酸の特定のシーケンスを含むもの、一定の改質を有するアミノ酸を含むもの、可変の改質を有するアミノ酸を含むもの、特定の損失を示す質量差を含むもの等をユーザが指定することを可能にする機能性を提供することができる。
【0040】
図2Bに示すように、第3の評価基準が満たされる場合(ブロック224)、コントローラ104は、データファイルなどの、持続性の形式でプロダクトイオンスペクトルの記憶を協調作動させ(ブロック226)、その後、任意の追加的なプロダクトイオンスペクトルが取得すべきかどうか判定する(ブロック220)。一方、第3の評価基準が満たされない場合(ブロック224)、プロダクトイオンスペクトルは保持される必要がなく、そのため、持続すべき質量分析データ量が減る。コントローラ104は、続いて、任意の追加的なプロダクトイオンスペクトルを取得すべきかどうかを判定する(ブロック220)。
【実施例】
【0041】
以下に、本発明のいくつかの実施形態の特定の態様を当業者のために述べ、実施形態の説明を示しかつ提供する。実施例は、本発明のいくつかの実施形態を理解し、実施する際に有益な特定の方法を提供するためのものにすぎず、本発明を制限するものと解釈されるべきではない。
【0042】
以下は、質量分析データの自動化されかつデータに依存した取得のためのワークフローの例を提供する。
1)ユーザは、除外リストおよび包含リストのいずれかまたは両方に基づいて第1の評価基準を規定する。除外リストおよび包含リストは、質量電荷比のセットについての中断条件または閾値を含むことができる。
2)ユーザは、対象であるアミノ酸の配列を指定することに基づいて第2の評価基準を規定する。ユーザは、グラフィカルユーザインタフェースを利用して、例えば、[質量範囲]:VLESXDIDDLKを指定することができる。本明細書では、記号Xは、特定された配列内の未知の間隙を表し、質量範囲は、指定された配列(または指定された配列の任意の断片)を検索すべき質量電荷比の範囲を表す。所定のアミノ酸配列に対して、複数の間隙を指定することもできる。例えば、[10〜1200]:VLESXDIX’LK(XおよびX’は同じであってもよいし、異なっていてもよい)。
3)続いてユーザは、データに依存した実験結果をリアルタイムエンジンに送信し、このリアルタイムエンジンは、質量分析データをリアルタイムに分析し、指定されたシーケンス(または指定された配列の任意の断片)に対応するアミノ酸シーケンスを識別する。図3は、アミノ酸のこのようにして識別された配列のy−シリーズイオン(C末端側のイオン)およびb−シリーズイオン(N末端側のイオン)を指示するプロダクトイオンスペクトル、すなわち、VLESAIANAEHNDGADIDDLKを示す。
【0043】
上述の本発明の実施形態は一例であり、本発明は、他の種々の実施形態が包含することを理解されたい。例えば、図1を参照すると、イオン源106は、別のタイプのイオン化プロセス、例えばマトリクス支援レーザ脱離イオン化法(「MALDI」)、大気圧マトリクス支援レーザ脱離イオン化法(「AP−MALDI」)またはこれらに類するものを使用してイオンの生成を実施できる。特に、本明細書に記載の所定の動作は、有利には、質量分析データを取得する効率を高めかつ改善するために、MALDIまたはAP−MALDIと共に利用できる。別の例として、所定のいくつかの動作がコントローラ104によって実施されるものとして述べたが、これらの動作は、任意のリアルタイムエンジンによって実施することができる。このようなリアルタイムエンジンは、コンピュータコード、配線回路またはコンピュータコードと配線回路との組合せを使用する等、種々の方法で実施することができる。別の例として、所定のオペレーションがリアルタイムに実施されるものとして述べたが、これらの動作は、別法としてまたは連携して、質量分析データ取得後の処理中に実施することができる。別の例として、図2Aおよび図2Bを参照して、3つの評価基準を説明したが、他の実施態様の場合に、より多いかまたはより少ない数の評価基準を使用することができる。さらなる例として、所定の動作が試料流に対して実施されるとして述べたが、これらの動作は、任意の試料、例えば不連続なもしくは静止した試料に対して実施することができる。特に、本明細書に記載した所定の動作は、有利には、質量分析データを取得する効率を高めかつ改善するために、不連続なもしくは静止した試料と共に使用することができる。
【0044】
本発明の一実施形態は、コンピュータにより実行される動作のセットを実施するための、コンピュータコードまたは実行可能命令を備えるコンピュータ読み取り可能媒体を有するコンピュータ記憶製品に関する。媒体およびコンピュータコードは、本発明のために特別に設計されかつ構築されたものとすることもできるし、コンピュータソフトウェア技術の専門家によく知られかつ手可能なものであってもよい。コンピュータ読み取り可能媒体の例は、ハードディスク、フロッピーディスクおよび磁気テープ等の磁気媒体や、コンパクトディスク読み出し専用メモリ(「CD−ROM」)およびホログラフィックデバイス等の光学媒体、フロプティカルディスクなどの磁気光学媒体や、特定用途向け集積回路(「ASIC」)、プログラマブルロジックデバイス(「PLD」)、および読み出し専用メモリ(「ROM」)デバイスおよびランダムアクセスメモリ(「RAM」)デバイス等の、コンピュータコードを記憶しかつ実行するように特別に構成されたハードウェアデバイスを含む。コンピュータコードの例は、コンパイラによって生成されるような機械コードおよびインタープリタを使用してコンピュータによって実行される高レベルコードを含むファイルを含む。例えば、本発明の一実施形態は、Java、C++または他のプログラミング言語および開発ツールを使用して実施することができる。コンピュータコードのさらなる例は、暗号化されたコードおよび圧縮されたコードを含む。さらに、本発明の実施形態は、コンピュータプログラム製品としてダウンロードすることができ、コンピュータプログラム製品は、伝送チャネルを介して、搬送波または他の伝播媒体で具体化されるデータ信号によって遠隔のコンピュータから要求先コンピュータへ伝達することができる。したがって、本明細書で使用される搬送波は、コンピュータ読み取り可能媒体と見なすことができる。本発明の別の実施形態は、コンピュータコードの代わりにまたはコンピュータコードと組み合わせて実配線した回路において実施することができる。
【0045】
以上、本発明を、特定の実施形態を参照して説明したが、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の真の精神および範囲から逸脱することがなければ、種々の変更が可能であり、また等価なものでの代用も可能であることは、当業者によって理解されるであろう。さらに、本発明の目的とする精神および範囲にかなうよう、特定の状況、材料、物質の成分、方法、1つ以上の動作に適合するように、多くの修正を行ってもよい。こうした全ての修正は、添付の特許請求の範囲内にあることが意図される。特に、本明細書に開示される方法は、特定の順序で実施される特定の動作を参照して説明したが、これらの動作は、本発明の教示から逸脱することがなければ、等価な方法を形成するように、組み合わされるか、細分されるかまたは再順序付けされてもよいことが理解されるであろう。したがって、本明細書で特に指示しない限り、動作の順序およびグループ分けは本発明の制限とはならない。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施形態に従って実施される質量分析システムを示す図である。
【図2A】本発明の一実施形態に従って実施することができる動作を示す図である。
【図2B】本発明の一実施形態に従って実施することができる動作を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態による、アミノ酸の識別された配列のy−シリーズおよびb−シリーズのイオンを指示するプロダクトイオンスペクトルを示す図である。
【符号の説明】
【0047】
100 質量分析システム
102 質量分析装置
104 コントローラ
106 イオン源
108、112 質量分析器
110 衝突セル
114 検出器
116 試料流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)質量分析装置(102)と、
(b)前記質量分析装置(102)に接続されたコントローラ(104)とを備えており、該コントローラが、
(i)試料流(116)のプリカーサイオンスペクトルを取得するように、前記質量分析装置(102)に指示し、
(ii)前記プリカーサイオンスペクトルをリアルタイムに分析して、第1の評価基準が満たされるかどうかを判定し、
(iii)前記第1の評価基準が満たされる場合、前記試料流(116)のプロダクトイオンスペクトルを取得するように、前記質量分析装置(102)に指示し、
(iv)前記プロダクトイオンスペクトルをリアルタイムに分析して、第2の評価基準が満たされるかどうかを判定し、
(v)前記第2の評価基準が満たされる場合、前記プロダクトイオンスペクトルを分析して該プロダクトイオンスペクトルに識別を割り当てるように構成されている、質量分析システム(100)。
【請求項2】
前記第1の評価基準が、前記プリカーサイオンスペクトルが所定のペプチドのセットを示すかどうかを判定するように構成されている、請求項1に記載の質量分析システム(100)。
【請求項3】
前記コントローラ(104)が、前記(ii)で、前記プリカーサイオンスペクトルをプリカーサイオン参照スペクトルのセットとリアルタイムで比較することに基づいて、前記プリカーサイオンスペクトルを分析するように構成されている、請求項1に記載の質量分析システム(100)。
【請求項4】
前記コントローラ(104)が、前記(ii)で、前記プリカーサイオンスペクトルを分析して、前記プロダクトイオンスペクトルが取得される質量電荷比を選択するように構成されている、請求項1に記載の質量分析システム(100)。
【請求項5】
前記プリカーサイオンスペクトルが第1のプリカーサイオンスペクトルであり、前記コントローラ(104)が、前記第1の評価基準が満たされない場合には、前記試料流(116)の第2のプリカーサイオンスペクトルを取得するように、前記質量分析装置(102)に指示するように構成されている、請求項1に記載の質量分析システム(100)。
【請求項6】
前記第2の評価基準が、前記プロダクトイオンスペクトルがアミノ酸のセットを示すかどうかを判定するように構成されている、請求項1に記載の質量分析システム(100)。
【請求項7】
前記コントローラ(104)が、前記プロダクトイオンスペクトルに対して第1のシーケンスの判定をリアルタイムに実施することに基づいて、前記(iv)で前記プロダクトイオンスペクトルを分析するように構成されている、請求項1に記載の質量分析システム(100)。
【請求項8】
前記コントローラ(104)が、前記プロダクトイオンスペクトルに対して第2のシーケンスの判定を実施することに基づいて、前記(v)で前記プロダクトイオンスペクトルを分析するように構成されている、請求項7に記載の質量分析システム(100)。
【請求項9】
前記コントローラ(104)が、前記プロダクトイオンスペクトルをプロダクトイオン参照スペクトルのセットと比較することに基づいて、前記ステップ(v)で前記プロダクトイオンスペクトルを分析するように構成されている、請求項1に記載の質量分析システム(100)。
【請求項10】
前記プロダクトイオンスペクトルが第1プロダクトイオンスペクトルであり、前記コントローラ(104)が、前記第2の評価基準が満たされない場合には、前記試料流(116)の第2のプロダクトイオンスペクトルを取得するように、前記質量分析装置(102)に指示するように構成されている、請求項1に記載の質量分析システム(100)。
【請求項11】
コンピュータ読み取り可能媒体であって、
(a)プリカーサイオンスペクトルについてのペプチドマスフィンガープリント検索を実施して、前記プリカーサイオンスペクトルに関連する質量電荷比のセットを選択し、
(b)前記質量電荷比のセットでの、プロダクトイオンスペクトルのセットの取得を指示し、
(c)前記プロダクトイオンスペクトルのセットについてのシーケンスタグ分析を実施して、前記プロダクトイオンスペクトルのセットの少なくとも1つを選択し、
(d)前記プロダクトイオンスペクトルのセットの前記少なくとも1つを分析して、前記プリカーサイオンスペクトルに識別を割り当てる、実行可能な命令を含む、コンピュータ読み取り可能媒体。
【請求項12】
前記(a)において、前記ペプチドマスフィンガープリント検索を実施する前記実行可能な命令が、前記質量電荷比のセットをペプチドのセットと関連するものとして識別する実行可能な命令を含む、請求項11に記載のコンピュータ読み取り可能媒体。
【請求項13】
前記(a)において、前記ペプチドマスフィンガープリント検索を実施する前記実行可能な命令が、前記プリカーサイオンスペクトルをプリカーサイオン参照スペクトルのセットと比較する実行可能な命令を含む、請求項11に記載のコンピュータ読み取り可能媒体。
【請求項14】
前記(c)において、前記シーケンスタグ分析を実施する前記実行可能な命令は、前記プロダクトイオンスペクトルのセットの前記少なくとも1つを、複数の連続するアミノ酸と関連するものとして識別する実行可能な命令を含む、請求項11に記載のコンピュータ読み取り可能媒体。
【請求項15】
前記(d)前記プロダクトイオンスペクトルのセットの前記少なくとも1つを分析する前記実行可能な命令は、前記プロダクトイオンスペクトルのセットの前記少なくとも1つについてデノボシーケンス分析を実施する実行可能命令を含む、請求項11に記載のコンピュータ読み取り可能媒体。
【請求項16】
前記(d)において、前記プロダクトイオンスペクトルのセットの前記少なくとも1つを分析する前記実行可能な命令は、前記プロダクトイオンスペクトルのセットの前記少なくとも1つについてシーケンスデータベース検索を実施する実行可能な命令を含む、請求項11に記載のコンピュータ読み取り可能媒体。
【請求項17】
質量分析システム(100)を動作させる方法であって、
(a)試料流(116)のプリカーサイオンスペクトルを取得し、
(b)前記プリカーサイオンスペクトルを分析し、それによって、ペプチドマスフィンガープリントスコア基準が満たされるかどうかを判定し、
(c)前記ペプチドマスフィンガープリントスコア基準が満たされる場合、前記試料流(116)のプロダクトイオンスペクトルを取得する、方法。
【請求項18】
前記ステップ(b)で前記プリカーサイオンスペクトルを分析することを、前記試料流(116)の流れを妨げない状態で実施する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ステップ(b)で前記プリカーサイオンスペクトルを分析することが、前記プリカーサイオンスペクトルについてペプチドマスフィンガープリント検索を実施してペプチドマスフィンガープリントスコアを導出し、前記ペプチドマスフィンガープリントスコアを閾値と比較することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
(d)前記プロダクトイオンスペクトルを分析し、それによって、シーケンスタグ長基準が満たされるかどうかを判定し、
(e)前記シーケンスタグ長基準が満たされる場合、前記プロダクトイオンスペクトルを分析し、それにより、前記プロダクトイオンスペクトルに識別を割り当てることをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記ステップ(d)で前記プロダクトイオンスペクトルを分析することを、前記試料流(116)の流れを妨げない状態で実施する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記ステップ(d)で前記プロダクトイオンスペクトルを分析することが、前記プロダクトイオンスペクトルについてシーケンスタグ分析を実施し、それによって、シーケンスタグ長を導出し、さらに、前記シーケンスタグ長を閾値と比較することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記シーケンスタグ長基準が第1シーケンスタグ長基準であり、前記ステップ(e)で前記プロダクトイオンスペクトルを分析することが、
(i)前記プロダクトイオンスペクトルを分析し、第2シーケンスタグ長基準が満たされるかどうかを判定し、
(ii)前記第2シーケンスタグ長基準が満たされる場合、前記プロダクトイオンスペクトルの記憶を協調作動させることを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記ステップ(e)で前記プロダクトイオンスペクトルを分析することが、
(i)前記プロダクトイオンスペクトルを分析し、それによって、シーケンスデータベーススコア基準が満たされるかどうかを判定し、
(ii)前記シーケンスデータベーススコア基準が満たされる場合、前記プロダクトイオンスペクトルの記憶を協調作動させることを含む、請求項20に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−308600(P2006−308600A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−127454(P2006−127454)
【出願日】平成18年5月1日(2006.5.1)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
2.JAVA
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【住所又は居所原語表記】395 Page Mill Road Palo Alto,California U.S.A.
【Fターム(参考)】