説明

対震丁番およびそれを用いた扉装置

【課題】地震等により扉を取り付けている枠体が変形し、丁番に変形荷重が作用しても扉を開くことができ、既存の丁番にも簡単に取り換えることができる対震丁番を提供する。
【解決手段】羽根板3、4の側端縁を巻回して羽根板と同じ幅の管部5、6を形成した上羽根2と下羽根1を設ける。各羽根を連通する軸9が管部5、6に挿入され、軸9の両端には管部内に軸方向に摺動可能に設けた座金13が当接し、座金の移動範囲を制限するストッパー15が設けられている。管部内には座金13をストッパー方向に付勢する圧縮コイルばね17が設けられ、これにより上羽根2と下羽根1間には圧縮代となる間隙18が形成される。上記軸9の一端には、下羽根に挿入した座金13が連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、扉を枠体に開閉自在に取り付けるための丁番に関し、特に地震等で枠体が変形するような外力を受けた場合であっても、丁番が変形分を吸収して扉を確実に開くことを可能にした対震丁番に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から一般に使用されている旗丁番は、2枚の金属製矩形薄板の一辺を管状に丸め残りの板部に取付孔を設けた羽根板で構成され、枠体側に取り付ける下羽根の管部には上方に突出する軸が挿入固定され、管部端には儀星が固着されている。また、扉側小口面に取り付ける上羽根の管部には、軸受を挟んで上記軸が回転自在に挿入され、管部端には儀星が固着され、これにより下羽根の管部上端と上羽根の管部下端が軸受を介して突き当たった状態で枠体に扉が支持されている。そのため、地震等の外力が作用して枠体が変形すると、下羽根の管部上端と上羽根の管部下端との間に隙間がないため変形加重が作用して丁番自体が変形、損傷し、扉を開閉することができなくなる。
【0003】
そのような事態を招来しないよう枠体が変形して丁番に変形荷重が作用しても扉を開くことが可能な対震性を備えた丁番(例えば特許文献1参照)が知られている。この特許文献1に記載の丁番は、支軸保持筒内に支軸を固定してその先端を側端縁部から一体的に突設させた第1羽根板と、案内筒(管部)を上記支軸に嵌合させた第2羽根板を有する丁番であって、上記案内筒内に、支軸の先端と当接する負荷プラグを摺動可能に配設すると共に、この負荷プラグが支軸側に抜け出ることを防止する係止部を形成し、案内筒の端部を蓋プラグにより閉塞し、蓋プラグと負荷プラグの間に圧縮コイルばねを弾装し、第1羽根板の第2羽根板に最も近い部分と、第2羽根板の第1羽根板に最も近い部分との間に間隙を形成した構成を具備している。そして、枠体が地震等で変形し扉に外力が加わった場合、この羽根板間の間隙が圧縮代となって丁番の変形が防止され、扉を開くことができるよう構成されている。このように従来提案されている対震丁番は第2羽根板(上羽根)側に負荷プラグや圧縮コイルばね設ける構成上、第2羽根板(上羽根)の管部を従来に丁番に比べて長く形成する必要があり、それに応じて第2羽根板(上羽根)の羽根板を第1羽根板(下羽根)の羽根板に比べて大きく形成するのが一般的である(例えば特許文献2参照)。
【0004】
しかし、下羽根に比べて上羽根の長さを異常に長く形成すると、種々の問題があった。例えば、新規枠体と扉にそのような丁番を新しく使用する場合は大きな問題はないが、従来の一般丁番を用いて扉の上部と下部を枠体に取り付けてある普通の扉において、対震のため上記のような対震丁番に交換しようとしても、取替えできない場合が多い。また、上下の羽根の長さが異なり、見た目に違和感があって、材料も無駄であり、加工するにも従来の加工機の約2倍の能力を要し、経済的に得ることがむずかしい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平2−29832号公報(特許請求の範囲、5欄27行〜6欄29行、第5図)
【特許文献2】特許第4067910号公報(図面)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の解決課題は、上記のように対震丁番において、既存の扉に使用されている丁番と簡単に取り替えることができ、変形時の圧縮代も従来の対震丁番と同程度確保でき、加工も容易で経済的に得られる対震丁番を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記のように対震丁番の圧縮代を維持し、一般丁番の羽根板に近い長さの対震丁番とするには、上記圧縮コイルばねと負荷プラグを上下の羽根に設け、圧縮代のほぼ半分ずつを上下の羽根で吸収させればよい。しかし、上羽根、下羽根と軸を組み立てて、圧縮代を上下の羽根で分担するよう各羽根をそれぞれ自由に移動可能に構成すると、搬送や施工時に、上羽根と下羽根と軸の3部分がばらばらになることもあり、取り扱いが面倒である。而して、本発明はそのような観点から発明され、本発明によれば、羽根板の側端縁を巻回して羽根板と同じ幅の管部を形成した下羽根と上羽根を有し、各羽根の管部に連通し相対的に上下動かつ回転可能な軸を設け、各羽根の管部端を儀星で閉塞し、上記軸の両端に当接するよう管部内に摺動可能に座金を挿入すると共に該座金の移動範囲を制限するよう管部内に該座金が当接するストッパーを設け、上記座金をストッパー方向に付勢するよう圧縮コイルばねを座金と儀星間に挿入して下羽根と上羽根間に間隙を形成し、上記軸を一方の座金に連結したことを特徴とする対震丁番が提供され、上記課題が解決される。
【0008】
また、本発明によれば、上記下羽根に挿入された座金を止めねじにより軸端に固定した上記対震丁番や、管部内に固定した止め輪若しくは管部端から管部内に挿入した案内パイプで上記ストッパーを構成した上記対震丁番が提供され、上記課題が解決される。
【発明の効果】
【0009】
本発明は上記のように構成され、羽根板の側端縁を巻回して羽根板と同じ幅の管部を形成した下羽根と上羽根を有し、各羽根の管部に連通し相対的に上下動かつ回転可能な軸を設け、各羽根の管部端を儀星で閉塞し、上記軸の両端に当接するよう管部内に摺動可能に座金を挿入すると共に該座金の移動範囲を制限するよう管部内に該座金が当接するストッパーを設け、上記座金をストッパー方向に付勢するよう圧縮コイルばねを座金と儀星間に挿入して下羽根と上羽根間に間隙を形成し、上記軸を一方の羽根の座金に連結してから他方の羽根を軸に組み込むと、上記下羽根と上羽根間に形成される間隙が圧縮代となり、従来の対震丁番の圧縮代に対して半分の圧縮代が上羽根側で確保され、残りの半分が下羽根側で確保されて全体として従来の圧縮代と同程度の圧縮代を維持することができ、しかも各羽根板の長さは管部の長さと同じであるので、経済的に製造することができ、美観もかわらず、既存の扉の丁番と簡単に交換することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施例を示し、(A)は通常の状態、(B)は丁番に地震等の荷重が作用した状態の各断面図。
【図2】分解斜視図。
【図3】(A)〜(D)はそれぞれ軸の一部を断面した正面図。
【図4】他の実施例を示し通常の状態の断面図。
【図5】図4に示す実施例において地震等の荷重が作用した状態の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は本発明の対震丁番の一実施例を示し、下羽根1と上羽根2はそれぞれ羽根板3、4の側端縁を巻回して羽根板3、4と同じ幅の管部5、6を形成してあり、羽根板3、4には図示を省いた扉や枠体に取り付けるための取付孔7が形成されている。この取付孔7の位置、数等は従来の一般の丁番と同じにすることが好ましい。なお、図1に示す実施例では上記のように羽根板3、4を巻回する前に、羽根板に溝を設け、巻回した際に管部内に該溝により環状溝8が形成されるようにしてある。上記下羽根1と上羽根2の管部5、6内には、各管部5、6に連通するよう軸9が挿入され、該軸9は各羽根1、2に対して相対的に上下動かつ回転可能に設けられている。この際、上記下羽根1及び上羽根2と軸9の嵌合は、軸と羽根が相対的に自由に移動できるようすきま嵌めに形成してあるが、上記上羽根2と軸9の嵌合を、軸9と上羽根2が自由に回動できるすきま嵌めにし、下羽根1と軸9の嵌合は、通常時は下羽根1と軸9の相対的移動が拘束され、丁番に変形荷重が作用したときには、該軸9と下羽根1が管部5に沿って相対的に軸方向に移動できるようなすきま嵌めに近い中間嵌めに設けてもよい。各羽根1,2の管部端には儀星10を嵌着して閉塞してあり、該儀星10は溶接やピン打ち込み等により管部5、6と一体的に固定されている。
【0012】
上記軸9は、図3に示すように両端が先細に形成され、上羽根2側の先部に形成したテーパー部の先端を図3(A)〜(C)に示すように球状に形成したり、図3(D)に示すようにボール11を嵌着して、軽快に回動するようにしてある。また、下羽根1側の先端は小径部に形成され、その先端には連結部12が設けられている。該連結部12としては、図3(A)に示すように周面にナーリングやローレットを形成した突軸12aを設けたり、溶接用の小突起12bを設けたり(図3(B))、カシメ用の突軸12cを設けたり(図3(C))、ねじ孔12dを設けて止めねじをねじ着するようにすることができる。
【0013】
上記管部5、6内には、軸9の両端に当接するようそれぞれ座金13が挿入されている。図に示す実施例では、該座金13は円板状に形成してあるが、下羽根と上羽根側で形状、構造、材質等を変えてもよく、例えば上羽根2側の座金をブロック状に形成してもよい。そして、一方の座金、通常は図に示すように、下羽根1側の座金13は上記軸9に連結されている。図に示す実施例では、座金13の中央に形成した差込孔を上記突軸12aに圧入したり、小突起12bに溶接したり、突軸12cに挿入してカシメたり、ねじ孔12dに止めねじをねじ着して座金13と軸9を固定してあるが、接着その他適宜の方法で固定してもよい(図示略)。
【0014】
上記管部5、6内には、上記座金13の移動範囲を制限するよう座金13が当接するストッパー15が設けられている。図1に示す実施例では、上記管部5、6内に形成した上記環状溝8に略C字状の有弾性の止め輪16を嵌着してストッパーとしてあるが、適宜の構成のストッパーを設けてもよい。
【0015】
上記座金13と儀星10間には、上記座金13をストッパー15方向に付勢するよう圧縮コイルばね17を挿入してある。この圧縮コイルばね17の強さは通常の状態では扉の荷重を支えて下羽根1と上羽根2間に圧縮代となる間隙18を形成できる十分な強さを有している。また、この間隙18が外部から見えないよう略筒状の化粧リング19が管部間に嵌め込まれている。
【0016】
上記構成により上記丁番を用いて扉を枠体につり込むと、通常時は座金13がストッパー15に当接していて圧縮コイルばね17に撓みを発生することがなく、図1(A)に示すように、下羽根1と上羽根2間には間隙18が形成されているので、普通のように扉を開閉することができる。そして、地震等により枠体が変形して丁番に不測の変形荷重が作用すると、上羽根2と下羽根1は軸9を介して座金13及び圧縮コイルばね17を押し退け、上記間隙18を小さくする方向に移動して丁番の変形や破壊が防止される。その結果、枠体が変形しても支障なく扉を開閉することが可能である。
【0017】
図4,5は他の実施例を示し、主として、ストッパーが上記実施例と相違し、その他は上記実施例とほぼ同様であるので、詳細な説明は省略する。すなわち、この実施例では、上記止め輪16に代えて、上記下羽根1の管部5上端および上羽根2の管部6下端から管部5、6内周に沿ってそれぞれ案内パイプ20を挿入してあり、各羽根の管部に該案内パイプ20を固定しその差込端がストッパー15として機能するようにしてある。この案内パイプ20は金属パイプや合成樹脂製パイプで構成され、管部に溶接、接着剤等で固定され、軸9が上記案内パイプ20の内面に摺接しているので、丁番の開閉をスムーズにすることができる。
【符号の説明】
【0018】
1 下羽根
2 上羽根
3、4 羽根板
5、6 管部
9 軸
10 儀星
13 座金
15 ストッパー
16 止め輪
17 圧縮コイルばね
18 間隙(圧縮代)
19 化粧リング
20 案内パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
羽根板の側端縁を巻回して羽根板と同じ幅の管部を形成した下羽根と上羽根を有し、各羽根の管部に連通し相対的に上下動かつ回転可能な軸を設け、各羽根の管部端を儀星で閉塞し、上記軸の両端に当接するよう管部内に摺動可能に座金を挿入すると共に該座金の移動範囲を制限するよう管部内に該座金が当接するストッパーを設け、上記座金をストッパー方向に付勢するよう圧縮コイルばねを座金と儀星間に挿入して下羽根と上羽根間に間隙を形成し、上記軸を一方の座金に連結したことを特徴とする対震丁番。
【請求項2】
上記下羽根の管部に挿入される上記軸は下端に連結部を有し、該連結部に上記座金を固定した請求項1に記載の対震丁番。
【請求項3】
上記ストッパーは管部内面に形成した環状溝に嵌着した止め輪である請求項1または2に記載の対震丁番。
【請求項4】
上記下羽根の管部上端および上羽根の管部下端から管部内周に沿ってそれぞれ案内パイプを挿入し、各羽根に該案内パイプを固定しその差込端をストッパーとした請求項1または請求項2に記載の対震丁番。
【請求項5】
上記上羽根と下羽根の管部間には略筒状の化粧リングが設けられている請求項1から4のいずれかに記載の対震丁番。
【請求項6】
上記上羽根と軸の嵌合は軸と上羽根が自由に回動できるすきま嵌めであり、下羽根と軸の嵌合は通常時は下羽根と軸の相対的移動を拘束し、丁番に変形荷重が作用した際は、該軸と下羽根は管部に沿って相対的に軸方向に移動可能な中間嵌めである請求項1から5のいずれかに記載の対震丁番。
【請求項7】
上記請求項1から6のいずれかに記載の対震丁番を具備する扉装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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