説明

封口材及びセラミックスハニカム焼成体の製造方法

【課題】低温(例えば、100〜300℃)で硬化し、セラミックスハニカム焼成体の隔壁との優れた密着性が得られ、且つ、優れた耐熱性が得られる封口材を提供すること。
【解決手段】水系の無機接着剤と、チタン酸アルミニウム系セラミックス粒子と、を含有する封口材。無機接着剤とチタン酸アルミニウム系セラミックス粒子との固形分質量比は、99:1〜25:75であることが好ましい。低温での硬化性、密着性及び耐熱性をより良好なものとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は封口材及びセラミックスハニカム焼成体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ハニカムフィルタが、DPF(Diesel particulate filter)用等として広く知られている。このハニカムフィルタは、多数の貫通孔(流路)を有するハニカム焼成体の一部の貫通孔の一端側を封口材(plugging material)で封じると共に、残りの貫通孔の他端側を封口材で封じた構造を有する。こうしたハニカム焼成体を形成するための封口材として、無機化合物と有機化合物とを含むペーストが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2007/097000号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の封口材は、有機化合物を含むことから、セラミックスハニカム焼成体の封口に使用する場合、封口後に有機化合物を高温で分解又は除去する操作が必要である。そのため、セラミックスハニカム焼成体を製造するための工程が多くなり、操作が煩雑になるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、低温(例えば、100〜300℃)で硬化し、セラミックスハニカム焼成体の隔壁との優れた密着性が得られ、且つ、優れた耐熱性が得られる封口材、及び、それを用いたセラミックスハニカム焼成体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、水系の無機接着剤と、チタン酸アルミニウム系セラミックス粒子と、を含有する封口材を提供する。
【0007】
かかる封口材は、上記特定の組成を有することにより、低温(例えば、100〜300℃)で硬化させることができ、セラミックスハニカム焼成体の隔壁との優れた密着性を得ることができ、且つ、高温(例えば、1200℃)において、その形状を維持する耐熱性を有する。したがって、かかる封口材は、セラミックスハニカム焼成体の封口用に非常に有用である。また、上記封口材は、セラミックスハニカム焼成体にカケ(chipping)や亀裂(cracking)等の欠陥や封口不足箇所等があった場合に、それらの欠陥部位を補修する補修剤としても使用することができる。なお、本発明において、チタン酸アルミニウム系セラミックス粒子は、チタン酸アルミニウムマグネシウム系セラミックス粒子を含意する。また、チタン酸アルミニウム系セラミックス粒子は、一種を単独で用いても良いし、二種以上を混合して用いても良い。
【0008】
また、本発明の封口材において、上記無機接着剤と上記チタン酸アルミニウム系セラミックス粒子との固形分質量比は、99:1〜25:75であることが好ましい。これにより、低温での硬化性、密着性及び耐熱性をより良好なものとすることができる。
【0009】
さらに、本発明の封口材において、上記無機接着剤は、コロイド状無機酸化物、無機高分子、耐火物粒子及び水を含むことが好ましい。これにより、低温での硬化性、密着性及び耐熱性をより良好なものとすることができる。
【0010】
本発明はまた、原料混合物を押出成形して、隔壁により区画された複数の流路を有するグリーンハニカム(unsintered(green) honeycomb)成形体を得る押出成形工程と、上記グリーンハニカム成形体を焼成して未封口ハニカム焼成体を得る焼成工程と、上記未封口ハニカム焼成体における上記流路の一方の端部を、上記本発明の封口材を用いて封口し、封口ハニカム焼成体を得る封口工程と、上記封口ハニカム焼成体を100〜300℃で加熱してセラミックスハニカム焼成体を得る加熱工程と、を有するセラミックスハニカム焼成体の製造方法を提供する。
【0011】
かかる製造方法により、100〜300℃の低温で封口材を硬化させることができ、硬化後の封口材とセラミックスハニカム焼成体の隔壁との密着性を良好にすることができ、且つ、硬化後の封口材は優れた耐熱性を得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低温(例えば、100〜300℃)で硬化し、セラミックスハニカム焼成体の隔壁との優れた密着性が得られ、且つ、優れた耐熱性が得られる封口材、及び、それを用いたセラミックスハニカム焼成体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1の(a)は、セラミックスハニカム焼成体の一例を示す斜視図であり、図1の(b)は、図1の(a)の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当部分には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0015】
<封口材>
本実施形態の封口材は、水系の無機接着剤と、チタン酸アルミニウム系セラミックス粒子(粉末)と、を含有するものである。以下、封口材の各構成材料について説明する。
【0016】
無機接着剤は水系の無機接着剤である。ここで水系の無機接着剤とは、熱硬化性を有する無機化合物が、水を主体とする分散媒中に分散された剤を指す。無機接着剤は、コロイド状無機酸化物、無機高分子、耐火物粒子から選ばれる少なくとも一種と、水とを含むものであることが好ましく、コロイド状無機酸化物、無機高分子、耐火物粒子及び水を含むものであることがより好ましい。また、無機接着剤は、無機繊維を含んでいてもよい。コロイド状無機酸化物としては、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ等が挙げられる。無機高分子としては、ポリリン酸化合物、ポリアルミン酸化合物、ポリシロキサン化合物等が挙げられる。耐火物粒子としては、アルミナ、石英、長石、ケイ酸アルミニウム、ムライト等が挙げられる。無機繊維としては、アルミナ繊維、シリカ繊維、シリカアルミナ繊維等が挙げられる。封口材が上記した成分を含む無機接着剤を含有することにより、低温(例えば、100〜300℃)での硬化がより促進される。
【0017】
無機接着剤におけるコロイド状無機酸化物の含有量は、無機接着剤の固形分全量を基準として6〜20質量%であることが好ましい。6質量%未満であると、接着強度が低下することがある。20質量%を超えると、接着強度は増加するが、無機接着剤における耐火物粒子及び無機繊維の割合が減少するため、硬化後にクラックが生じることがある。無機接着剤における耐火物粒子の含有量は、無機接着剤の固形分全量を基準として30〜90質量%であることが好ましく、50〜90質量%であることがより好ましい。コロイド状無機酸化物及び耐火物粒子の含有量が上記範囲内であることにより、低温での硬化性、密着性、硬化時の体積収縮の低減の全てをよりバランス良く向上させることができる。
【0018】
無機接着剤における無機高分子の含有量は、無機接着剤の固形分全量を基準として0.1〜10質量%であることが好ましく、0.1〜5質量%であることがより好ましい。無機接着剤における無機繊維の含有量は、無機接着剤の固形分全量を基準として0〜10質量%であることが好ましく、0〜5質量%であることがより好ましい。無機高分子及び無機繊維の含有量が上記範囲内であることにより、低温での硬化性、密着性、硬化時の体積収縮の低減の全てをよりバランス良く向上させることができる。
【0019】
無機接着剤における水の含有量は、無機接着剤の粘度が、後述する好ましい範囲となるように調整することが好ましい。または、無機接着剤における水の含有量は、後述する封口材全体としての好ましい水の量となるように調整することが好ましい。
【0020】
無機接着剤の粘度は、1000〜80000mPa・sであることが好ましく、5000〜50000mPa・sであることがより好ましい。粘度が1000mPa・s未満であると重力により液ダレする傾向があり、80000mPa・sを超えると狭部に導入されず、欠陥が生じる傾向がある。
【0021】
コロイド状無機酸化物、無機高分子、耐火物粒子及び水を含む水系無機接着剤としては、スミセラム(SUMICERUM)(登録商標)S−10A、S−18D、S−30A(以上、朝日化学工業社製)や、アロンセラミック(Aron Ceramics)D(東亞合成社製)などの市販品を使用することができる。
【0022】
本実施形態のチタン酸アルミニウム系セラミックス粒子はチタン酸アルミニウムマグネシウム系セラミックス粒子を含意する。封口材がこれらのセラミックス粒子を含有することにより、耐熱性が向上するとともに、硬化後の体積収縮が小さく、セラミックスハニカム焼成体の隔壁との密着性が向上する。
【0023】
ここで、チタン酸アルミニウム系セラミックス粒子としてチタン酸アルミニウムマグネシウム系セラミックス粒子を用いた場合、チタン酸アルミニウムマグネシウム系セラミックス粒子におけるマグネシウムの含有量は、アルミニウム及びチタンの合計量に対して、モル比(マグネシウムのモル数/アルミニウム及びチタンの合計モル数)で0.03〜0.15であることが好ましく、0.03〜0.12であることがより好ましい。通常、チタン酸アルミニウム系結晶は、1100〜1200℃の温度で、チタニア、アルミナ等に分解することが知られているが、上記範囲内の含有量のマグネシウムを含有させることにより、耐熱分解性を向上させることができる。
【0024】
本実施形態において、チタン酸アルミニウム系セラミックス粒子は、X線回折スペクトルにおいて、チタン酸アルミニウム(AlTiO)またはチタン酸アルミニウムマグネシウム(Al2(1−x)MgTi(1+x))の結晶パターンのほか、アルミナ、チタニアなどの他の結晶パターンを含んでいてもよい。また、チタン酸アルミニウム系セラミックス粒子は、チタン、アルミニウム、マグネシウム及び酸素以外の元素、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属元素やケイ素といった、原料から不可避的に混入する不純物元素等を含んでいてもよい。また、チタン酸アルミニウム系セラミックス粒子は、チタン酸アルミニウムまたはチタン酸アルミニウムマグネシウムと、他の無機物との複合相を持つセラミックス粒子も含意する。他の無機物としては、アルミナ、チタニア、マグネシア、アルミノシリケートガラス、トリジマイト、クリストバライト、スピネル、コージェライト、ムライト、長石等が挙げられる。
【0025】
セラミックス粒子の粒径は特に限定されないが、レーザー回折法により測定される体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)が1〜100μmであることが好ましく、5〜50μmであることがより好ましい。この粒径が1μm未満であると、封口材の硬化後の体積収縮が大きくなる傾向があり、100μmを超えると、封口材においてチタン酸アルミニウム系セラミックス粒子が分離・沈殿する可能性があり、封口材が扱いにくくなる傾向がある。
【0026】
封口材において、無機接着剤とチタン酸アルミニウム系セラミックス粒子との固形分質量比(無機接着剤:チタン酸アルミニウム系セラミックス粒子)は、99:1〜25:75であることが好ましく、90:10〜25:75であることがより好ましく、57:43〜27:73であることがさらに好ましい。上記比率よりも無機接着剤が少ない(チタン酸アルミニウム系セラミックス粒子が多い)と、接着強度が低くなり、封口材が硬化しにくくなる傾向がある。上記比率よりもチタン酸アルミニウム系セラミックス粒子が少ない(無機接着剤が多い)と、封口材の硬化後の熱膨張係数がハニカム焼成体よりも大きくなり、封口材の耐熱衝撃性が低下する傾向がある。
【0027】
封口材は水系であり、溶媒として水を含む。また、封口材は、アルカリ性、中性、酸性のいずれであってもよい。封口材における水の含有量は、封口材全量を基準として25〜60質量%であることが好ましく、30〜55質量%であることがより好ましい。水の含有量が25質量%未満であると、封口材が硬くなり流動しにくい傾向があり、60質量%を超えると、硬化時に封口材が液ダレ(dripping)しやすい傾向がある。
【0028】
封口材は、本発明の効果を損なわなければ、上述したもの以外の材料を含有していてもよい。なお、封口材は、有機化合物を含まないことが好ましい。但し、100〜300℃の加熱により除去される有機化合物であれば、本発明の効果を損なわない範囲で添加することは可能である。添加できる有機化合物としては、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール類やプロピレングリコール、エチレングリコール等のグリコール類等の水溶性有機溶媒が挙げられる。
【0029】
封口材は、通常、ペースト状又はスラリー状のものであり、上述した各構成材料を均一に混合することで調製することができる。
【0030】
<セラミックスハニカム焼成体の製造方法>
本実施形態のセラミックスハニカム焼成体の製造方法は、原料混合物を押出成形して、隔壁により区画された複数の流路を有するグリーンハニカム成形体を得る押出成形工程と、上記グリーンハニカム成形体を焼成して未封口ハニカム焼成体を得る焼成工程と、上記未封口ハニカム焼成体における上記流路の一方の端部を、上記本実施形態の封口材を用いて封口し、封口ハニカム焼成体を得る封口工程と、上記封口ハニカム焼成体を100〜300℃で加熱してセラミックスハニカム焼成体を得る加熱工程と、を有する方法である。また、本発明は、セラミックスハニカム焼成体にカケや亀裂等の欠陥や封口不足箇所が存在する場合、それらの欠陥部位を上記本実施形態の封口材により補修する方法を含む。
【0031】
ここで、図1は、上記本実施形態の製造方法により製造するセラミックスハニカム焼成体の一例を示す図である。図1の(a)は、セラミックスハニカム焼成体の一例を示す斜視図であり、図1の(b)は、図1の(a)の部分拡大図である。図1に示したセラミックスハニカム焼成体70は、図1の(a)に示すように、隔壁70cにより区画された多数の流路70a,70bが略平行に配置された円柱体である。流路70a,70bの断面形状は、図1の(b)に示すように正方形である。これらの複数の流路70a,70bは、ハニカム焼成体70において、端面から見て、正方形配置(square configuration)、すなわち、流路70a,70bの中心軸が、正方形の頂点にそれぞれ位置するように配置されている。また、ハニカム焼成体70において、流路70a,70bは、その両端の開口部のうちの一方が封口されている。図1の(b)に示した側の端部(図1(a)における上端部)では、流路70aが開口し、流路70bが封口されている。また、これとは反対側の端部(図1(a)における下端部)では、流路70aが封口され、流路70bが開口している。ハニカム焼成体70においては、図1の(b)に示すように、このような流路70aと流路70bとが交互に配置されている。流路70a,70bの断面の正方形のサイズは、例えば、一辺0.5〜2.5mmとすることができる。
【0032】
ハニカム焼成体70の寸法は、図1に示したような円柱体である場合、例えば、直径約100mm以上、長さ約100mm以上、隔壁70cの壁厚は約0.5mm以下であることが好ましい。なお、隔壁70cの壁厚は約0.2mm以上であることが好ましい。また、ハニカム焼成体70におけるセル構造は流路70a,70bの合計数として100CPSI(Cells Per Square Inch)以上であることが好ましい。ハニカム焼成体70の、有効気孔率は30〜60体積%、平均細孔直径は1〜20μm、細孔径分布(D90−D10)/D50は0.5未満であることが好ましい。ここで、D10、D50、D90は全細孔容積のうち累積細孔容積が各々10%、50%、90%になるときの細孔直径である。
【0033】
以下、本実施形態のセラミックスハニカム焼成体の製造方法における各工程について詳しく説明する。
【0034】
押出成形工程は、原料混合物を押出成形してグリーンハニカム成形体を得る工程である。グリーンハニカム成形体を形成するための原料混合物は、後で焼成することにより多孔性セラミックスとなる材料であり、セラミックス原料を含む。セラミックス原料は特に限定されないが、例えば、アルミナ、シリカ、ムライト、コーディエライト、ガラス、チタン酸アルミニウム等の酸化物、シリコンカーバイド、窒化珪素、金属等が挙げられる。なお、チタン酸アルミニウムは、さらに、マグネシウム及び/又はケイ素を含むことができる。
【0035】
原料混合物は、好ましくは、セラミックス原料である無機化合物源粉末、及び、メチルセルロース等の有機バインダ、及び、必要に応じて添加される添加剤を含む。
【0036】
例えば、セラミックスがチタン酸アルミニウムの場合、無機化合物源粉末は、αアルミナ粉等のアルミニウム源粉末、及び、アナターゼ型やルチル型のチタニア粉末等のチタニウム源粉末、及び/又は、チタン酸アルミニウム粉末を含み、必要に応じて、さらに、マグネシア粉末やマグネシアスピネル粉末等のマグネシウム源粉末、及び/又は、酸化ケイ素粉末やガラスフリット等のケイ素源粉末を含むことができる。セラミックスをチタン酸アルミニウムとした場合、セラミックスハニカム焼成体の隔壁と本実施形態の封口材との熱膨張率が近い値になるため好ましい。
【0037】
有機バインダとしては、メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ヒドロキシアルキルメチルセルロース、ナトリウムカルボキシルメチルセルロースなどのセルロース類;ポリビニルアルコールなどのアルコール類;リグニンスルホン酸塩を例示できる。
【0038】
添加物としては、例えば、造孔剤(pore−forming agent)、潤滑剤および可塑剤、分散剤、溶媒が挙げられる。
【0039】
造孔剤としては、グラファイト等の炭素材;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル等の樹脂類;でんぷん、ナッツ殻、クルミ殻、コーンなどの植物材料;氷;およびドライアイス等などが挙げられる。
【0040】
潤滑剤および可塑剤としては、グリセリンなどのアルコール類;カプリル酸、ラウリン酸、パルミチン酸、アラキジン酸、オレイン酸、ステアリン酸などの高級脂肪酸;ステアリン酸Alなどのステアリン酸金属塩;ポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどが挙げられる。
【0041】
分散剤としては、たとえば、硝酸、塩酸、硫酸などの無機酸;シュウ酸、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、乳酸などの有機酸;メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類;ポリカルボン酸アンモニウムなどの界面活性剤などが挙げられる。
【0042】
溶媒としては、たとえば、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノールなどのアルコール類;プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールなどのグリコール類;および水などを用いることができる。
【0043】
原料混合物は、無機化合物源粉末と、有機バインダと、溶媒と、必要に応じて添加される添加物を混練機等により混合することで調製することができる。
【0044】
グリーンハニカム成形体は、隔壁により区画された複数の流路を有するものである。このグリーンハニカム成形体は、グリーンハニカム成形体の隔壁の断面形状に対応する出口開口を有する押出機から上記原料混合物を押し出し、必要に応じて乾燥をし、所望の長さに切ることにより得ることができる。
【0045】
焼成工程は、グリーンハニカム成形体を焼成して未封口ハニカム焼成体を得る工程である。焼成工程において、グリーンハニカム成形体を仮焼(脱脂)および焼成することにより、多孔質のセラミックスからなる隔壁により区画された複数の流路を有するハニカム焼成体を得ることができる。焼成工程で得られるハニカム焼成体は、流路が両端部とも封口されておらず、貫通孔となっている未封口ハニカム焼成体である。
【0046】
仮焼(脱脂)は、グリーンハニカム成形体中の有機バインダや、必要に応じて配合される有機添加物を、焼失、分解等により除去するための工程であり、典型的には、焼成温度に至るまでの昇温段階(たとえば、150〜900℃の温度範囲)になされる。仮焼(脱脂)工程おいては、昇温速度を極力おさえることが好ましい。
【0047】
グリーンハニカム成形体の焼成における焼成温度は、通常、1300℃以上、好ましくは1400℃以上である。また、焼成温度は、通常、1650℃以下、好ましくは1550℃以下である。焼成温度までの昇温速度は特に限定されるものではないが、通常、1℃/時間〜500℃/時間である。
【0048】
焼成は通常、大気中で行なわれるが、用いる原料粉末の種類や使用量比によっては、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス中で焼成してもよいし、一酸化炭素ガス、水素ガスなどのような還元性ガス中で焼成してもよい。また、水蒸気分圧を低くした雰囲気中で焼成を行なってもよい。
【0049】
焼成は、通常、管状電気炉、箱型電気炉、トンネル炉、遠赤外線炉、マイクロ波加熱炉、シャフト炉、反射炉、ローラーハース炉(roller hearth furnaces)などの通常の焼成炉を用いて行なわれる。焼成は回分式(batch type)で行なってもよいし、連続式で行なってもよい。また、焼成は、静置式で行なってもよいし、流動式で行なってもよい。
【0050】
焼成に要する時間は、セラミックスが生成するのに十分な時間であればよく、グリーンハニカム成形体の量、焼成炉の形式、焼成温度、焼成雰囲気などにより異なるが、通常は10分〜24時間である。
【0051】
封口工程は、上記未封口ハニカム焼成体における流路の一方の端部を、上述した本実施形態の封口材を用いて封口し、封口ハニカム焼成体を得る工程である。
【0052】
封口は、例えば、図1に示されるように、流路70a,70bの一端の開口部に封口材を充填することにより行われる。この場合、封口は、例えば、複数の貫通孔が所望の位置に設けられたマスクをハニカム焼成体の一端面に密着させ、そこへ封口材を供給することにより、流路70aの端部にのみ封口材を充填し、ハニカム焼成体の他端面に対しても同様にして流路70bの端部にのみ封口材を充填することにより行うことができる。これにより、図1に示したように、一端の開口部が封口された流路70aと、流路70aとは反対側の開口部が封口された流路70bとが交互に配置された封口ハニカム焼成体を得ることができる。
【0053】
封口材を流路70a,70bに供給する方法は特に限定されない。例えば、マスク上に供給した封口材を、スキージ(squeegee)を用いてマスクの貫通孔を介して流路内に押し込んでもよいし、ピストンにより押し込んでもよい。
【0054】
加熱工程は、上記封口ハニカム焼成体を100〜300℃で加熱してセラミックスハニカム焼成体を得る工程である。加熱工程では、封口工程で流路内に充填した封口材を硬化させる。従来の封口材では、封口後に上述した焼成工程と同程度の温度(例えば、1250〜1550℃)で加熱する必要があったが、本実施形態の製造方法では、上記本実施形態の封口材を用いることで、100〜300℃の加熱により封口材を十分に硬化させることができる。また、本実施形態の製造方法では、硬化後の封口材とセラミックスハニカム焼成体の隔壁との密着性も良好となる。
【0055】
加熱工程において、加熱雰囲気は特に限定されないが、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス中で加熱してもよいし、一酸化炭素ガス、水素ガスなどの還元性ガス中で加熱してもよい。また、空気雰囲気や、水蒸気分圧を低くした雰囲気で加熱を行ってもよい。
【0056】
また、封口又は未封口ハニカム焼成体にカケや亀裂等の欠陥や封口不足箇所が存在する場合、それらの欠陥部位を、上記封口材を用いて補修することができる。この場合、上記欠陥部位に封口材を充填し、上記加熱工程と同様の方法で加熱して、封口材を硬化させる。これにより、カケや亀裂等の欠陥や封口不足箇所等が補修されたハニカム焼成体を得ることができる。
【0057】
以上の工程を経て、図1に示したような目的のセラミックスハニカム焼成体70を得ることができる。得られたセラミックスハニカム焼成体は、研削加工等により、所望の形状に加工することもできる。
【0058】
図1に示した構造のセラミックスハニカム焼成体70においては、隔壁70cは多孔質のセラミックスで構成され、この隔壁がフィルターの役割を果たす。このセラミックスハニカム焼成体70に対し、図1の(b)に示した側の端部(図1(a)における上端部)から流体を供給した場合、流体は開口している流路70aから入り、多孔質の隔壁70cを通って流路70bに移動し、図1の(b)に示した側と反対側の端部(図1(a)における下端部)において、流路70bの開口部から排出される。
【0059】
なお、本発明は上記実施形態に限定されず、様々な変形態様が可能である。例えば、本発明の製造方法により製造するセラミックスハニカム焼成体の形状は特に限定されず、用途に応じて任意の形状を取ることができる。例えば、外形は、円柱には限定されず、正三角柱、正方形柱、正六角柱、正八角柱等の正多角柱や、正多角柱以外の、3角柱、4角柱、6角柱、8角柱等の柱体とすることができる。円柱の円形状は楕円形状を含む。また、各流路の断面形状も、正方形には限定されず、矩形、円形、楕円形、3角形、6角形、8角形等にすることができ、流路には、径の異なるもの、断面形状の異なるものが混在してもよい。さらに、流路の配置も、正方形配置に限定されず、断面において流路の中心が正三角形の頂点に配置される正三角形配置(equilateral−triangular configuration)、千鳥配置(zigzag configuration)等にすることができる。
【0060】
本発明の製造方法により製造されるセラミックスハニカム焼成体は、たとえば、ディーゼルエンジン及びガソリンエンジンなどの内燃機関の排気ガス浄化に用いられる排ガスフィルター、触媒担体、ビールなどの飲食物の濾過に用いる濾過フィルター、石油精製時に生じるガス成分(たとえば一酸化炭素、二酸化炭素、窒素、酸素など)を選択的に透過させるための選択透過フィルターなどに好適に適用することができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
[実施例1]
(封口材の調製)
水系無機接着剤としてスミセラムS−10A(商品名、朝日化学工業社製、特性は下記表1に示す)を75質量%と、チタン酸アルミニウムマグネシウム(Al1.76Mg0.12Ti1.12)とアルミノシリケートガラスの複合相を持つ粉末(Al1.82Mg0.12Ti1.126.09−0.1SiO、平均粒径D50:23μm)25質量%とを混合し、封口材を調製した。なお、チタン酸アルミニウムマグネシウムとアルミノシリケートガラスの複合相をもつ粉末は、本発明のチタン酸アルミニウム系セラミックス粒子に相当する。このときの固形分質量比は、S−10A:チタン酸アルミニウムマグネシウム系セラミックス粉末=55:45であった。
【0063】
(セラミックスハニカム焼成体の作製)
グリーンハニカム成形体を形成するために、チタン酸アルミニウムマグネシウムの原料粉末(Al,TiO,MgO)、SiO、チタン酸アルミニウムマグネシウムとアルミナとアルミノシリケートガラスとの複合相をもつセラミックス粉末(仕込み時の組成式:41.4Al−49.9TiO−5.4MgO−3.3SiO、式中の数値はモル比を表す。)、有機バインダ、潤滑剤、造孔剤、可塑剤、分散剤及び水(溶媒)を含む原料混合物を調製した。原料混合物中の各成分の含有量は下記の値に調整した。
Al:37.3質量部。
TiO:37.0質量部。
MgO:1.9質量部。
SiO:3.0質量部。
セラミックス粉末:8.8質量部。
造孔剤:馬鈴薯(potato)から得た平均粒径25μmの澱粉12.0質量部。
有機バインダ:メチルセルロース(SM−4000、信越化学工業社製)5.5質量部、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(60SH−4000、信越化学工業社製)2.3質量部、合計7.8質量部。
可塑剤:グリセリンDG(日本油脂社製)0.4質量部。
分散剤:ユニルーブ(50MB−72、日本油脂社製)4.6質量部。
水:28.3質量部。
【0064】
上記の原料混合物を混練して、押出成形することにより、隔壁により区画された複数の流路を有するハニカム形状のグリーン(未焼成)成形体(直径160mmφの円柱体)を作製した。グリーンハニカム成形体を250mmの長さで切断し、常圧下、マイクロ波で乾燥した後、雰囲気の酸素濃度を3体積%以下として昇温速度10℃/時間にて600℃まで昇温し、その後1450℃で5時間焼成することで、チタン酸アルミニウム焼成体(未封口ハニカム焼成体)を得た。得られた未封口ハニカム焼成体の流路(貫通孔)の断面形状は、一辺が1.2mmの正方形であった。また、隔壁の厚みは0.28mmであった。
【0065】
得られた未封口ハニカム焼成体の流路の一方の端部を、上記封口材により封口した。封口は、複数の貫通孔が所望の位置に設けられたマスクを未封口ハニカム焼成体の一端面に密着させ、そこへ封口材を供給し、スキージを用いて流路内へ封口材を押し込むことにより行った。また、封口は、図1に示したように、一端の開口部が封口された流路70aと、流路70aとは反対側の開口部が封口された流路70bとが交互に配置されるように行った。これにより、封口ハニカム焼成体を得た。
【0066】
次に、得られた封口ハニカム焼成体を、空気雰囲気中、300℃で1時間加熱することにより封口材を硬化させ、目的のセラミックス(チタン酸アルミニウムマグネシウム系セラミックス)ハニカム焼成体を得た。
【0067】
[実施例2]
水系無機接着剤としてスミセラムS−18D(商品名、朝日化学工業社製、特性は下記表1に示す)を75質量%と、チタン酸アルミニウムマグネシウム(Al1.76Mg0.12Ti1.12)とアルミノシリケートガラスの複合相を持つ粉末(Al1.82Mg0.12Ti1.126.09−0.1SiO、平均粒径D50:23μm)25質量%とを混合し、封口材を調製した。このときの固形分質量比は、S−18D:チタン酸アルミニウムマグネシウム系セラミックス粉末=57:43であった。この封口材を用いた以外は実施例1と同様にして、セラミックスハニカム焼成体を得た。
【0068】
[実施例3]
水系無機接着剤としてスミセラムS−30A(商品名、朝日化学工業社製、特性は下記表1に示す)を75質量%と、チタン酸アルミニウムマグネシウム(Al1.76Mg0.12Ti1.12)とアルミノシリケートガラスの複合相を持つ粉末(Al1.82Mg0.12Ti1.126.09−0.1SiO、平均粒径D50:23μm)25質量%とを混合し、封口材を調製した。このときの固形分質量比は、S−30A:チタン酸アルミニウムマグネシウム系セラミックス粉末=53:47であった。この封口材を用いた以外は実施例1と同様にして、セラミックスハニカム焼成体を得た。
【0069】
[実施例4]
水系無機接着剤としてスミセラムS−208A(商品名、朝日化学工業社製、特性は下記表1に示す)を75質量%と、チタン酸アルミニウムマグネシウム(Al1.76Mg0.12Ti1.12)とアルミノシリケートガラスの複合相を持つ粉末(Al1.82Mg0.12Ti1.126.09−0.1SiO、平均粒径D50:23μm)25質量%とを混合し、封口材を調製した。このときの固形分質量比は、S−208A:チタン酸アルミニウムマグネシウム系セラミックス粉末=57:43であった。この封口材を用いた以外は実施例1と同様にして、セラミックスハニカム焼成体を得た。
【0070】
[実施例5]
水系無機接着剤としてスミセラムS−30A(商品名、朝日化学工業社製、特性は下記表1に示す)を50質量%と、チタン酸アルミニウムマグネシウム(Al1.76Mg0.12Ti1.12)とアルミノシリケートガラスの複合相を持つ粉末(Al1.82Mg0.12Ti1.126.09−0.1SiO、平均粒径D50:23μm)50質量%とを混合し、封口材を調製した。このときの固形分質量比は、S−30A:チタン酸アルミニウムマグネシウム系セラミックス粉末=27:73であった。この封口材を用いた以外は実施例1と同様にして、セラミックスハニカム焼成体を得た。
【0071】
[実施例6]
水系無機接着剤としてスミセラムS−208A(商品名、朝日化学工業社製、特性は下記表1に示す)を50質量%と、チタン酸アルミニウムマグネシウム(Al1.76Mg0.12Ti1.12)とアルミノシリケートガラスの複合相を持つ粉末(Al1.82Mg0.12Ti1.126.09−0.1SiO、平均粒径D50:23μm)50質量%とを混合し、封口材を調製した。このときの固形分質量比は、S−208A:チタン酸アルミニウムマグネシウム系セラミックス粉末=31:69であった。この封口材を用いた以外は実施例1と同様にして、セラミックスハニカム焼成体を得た。
【0072】
[比較例1]
水系無機接着剤であるスミセラムS−18D(商品名、朝日化学工業社製、特性は下記表1に示す)を単独で封口材として用いた以外は実施例1と同様にして、セラミックスハニカム焼成体を得た。
【0073】
[比較例2]
水系無機接着剤であるスミセラムS−30A(商品名、朝日化学工業社製、特性は下記表1に示す)を単独で封口材として用いた以外は実施例1と同様にして、セラミックスハニカム焼成体を得た。
【0074】
[比較例3]
水系無機接着剤であるスミセラムS−208A(商品名、朝日化学工業社製、特性は下記表1に示す)を単独で封口材として用いた以外は実施例1と同様にして、セラミックスハニカム焼成体を得た。
【0075】
<密着性の評価>
上記の実施例及び比較例で得られたセラミックスハニカム焼成体について、封口の状態を観察し、密着性を評価した。密着性は、硬化後の封口材とハニカム焼成体の隔壁との間に隙間がなく、両者の密着性が良好である場合を「良好」とし、硬化後の封口材とハニカム焼成体の隔壁との間に隙間がある場合を「不可」として評価した。結果を表2に示す。
【0076】
<耐熱性の評価>
上記の実施例及び比較例で得られたセラミックスハニカム焼成体を、空気雰囲気中、1200℃で1時間加熱することにより、硬化した封口材の耐熱性を評価した。耐熱性は、上記加熱条件での耐熱試験後、封口材の融解の有無、封口材と隔壁との密着性、及び、封口材の膨張による隔壁破壊の有無を確認することにより評価した。結果を表2に示す。
【0077】
【表1】



【0078】
【表2】



【産業上の利用可能性】
【0079】
以上説明した通り、本発明によれば、低温(例えば、100〜300℃)で硬化し、セラミックスハニカム焼成体の隔壁との優れた密着性が得られ、且つ、優れた耐熱性が得られる封口材、及び、それを用いたセラミックスハニカム焼成体の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0080】
70…セラミックスハニカム焼成体、70a,70b…流路、70c…隔壁。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系の無機接着剤と、チタン酸アルミニウム系セラミックス粒子と、を含有する封口材。
【請求項2】
前記無機接着剤と前記チタン酸アルミニウム系セラミックス粒子との固形分質量比が、99:1〜25:75である、請求項1記載の封口材。
【請求項3】
前記無機接着剤が、コロイド状無機酸化物、無機高分子、耐火物粒子及び水を含む、請求項1又は2記載の封口材。
【請求項4】
原料混合物を押出成形して、隔壁により区画された複数の流路を有するグリーンハニカム成形体を得る押出成形工程と、
前記グリーンハニカム成形体を焼成して未封口ハニカム焼成体を得る焼成工程と、
前記未封口ハニカム焼成体における前記流路の一方の端部を、請求項1〜3のいずれか一項に記載の封口材を用いて封口し、封口ハニカム焼成体を得る封口工程と、
前記封口ハニカム焼成体を100〜300℃で加熱してセラミックスハニカム焼成体を得る加熱工程と、
を有するセラミックスハニカム焼成体の製造方法。


【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−106913(P2012−106913A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227106(P2011−227106)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】