説明

封着用ガラスタブレット

【課題】非酸化雰囲気(減圧雰囲気、不活性雰囲気等)であっても、450〜800℃の中温度域で金属材料等を良好に封着可能なSnO−P系ガラスを含むガラスタブレットを創案することにより、長期間に亘って、封着部分の気密性を確保すること。
【解決手段】本発明の封着用ガラスタブレットは、少なくともSnO−P系ガラスを含む封着用ガラスタブレットにおいて、SnO−P系ガラスが、ガラス組成として、モル%表示で、SnO 15〜30%(但し、30%を含まず)、P 20〜40%、WO 5〜20%(但し、5%を含まず)、ZnO 6〜30%(但し、30%を含まず)を含有し、モル比SnO/ZnOが1以上、4.5以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封着用ガラスタブレットに関し、特に450〜800℃の中温度域で金属材料を良好に封着可能な封着用ガラスタブレットに関する。なお、以下の説明において、「封着」は「封止」の概念を含むものとする。
【背景技術】
【0002】
従来から種々の封着用ガラスタブレットが使用されている。例えば、鉛を多量に含むPbO−B系ガラスからなる封着用ガラスタブレット、高温度域用としてSiO−B系ガラスからなる封着用ガラスタブレット等が使用されている。また、封着用ガラスタブレットは、気密端子用金属パッケージ等の金属パッケージ、導線保持体、ガラスタブレット一体型排気管等に広く使用されている(例えば、特許文献1〜5参照)。
【0003】
さらに、低温度域用の封着用ガラスタブレットとして、SnO−P系ガラス、Bi−B系ガラス等を含む封着用ガラスタブレットが提案されている(例えば、特許文献6〜8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−158209号公報
【特許文献2】特開2005−353291号公報
【特許文献3】特開平6−29049号公報
【特許文献4】特開2005−294390号公報
【特許文献5】特開2001−253724号公報
【特許文献6】特開2004−182584号公報
【特許文献7】特開2006−169018号公報
【特許文献8】特開2009−46379号公報
【特許文献9】特開2008−30972号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、金属材料の封着は、ガラスタブレットを用いて、450〜800℃の中温度域で行われる場合がある。例えば、シーズヒーターの口元封止等の場合、通常、ガラスタブレットが使用されると共に、450〜800℃の中温度域で封止が行われる。そして、金属材料の封着は、通常、金属材料の酸化を防止するため、非酸化雰囲気で行われる。
【0006】
しかし、上記のSnO−P系ガラスを含むガラスタブレットを用いて、450〜800℃の中温度域で金属材料を封着すると、SnO−P系ガラスの融点が低いことに起因して、ガラスタブレット中に多数の気泡が発生し、結果として、長期間の使用により気泡からリークが生じて、封着部分の気密性が損なわれたり、封着部分が剥離する可能性が高くなる。また、封着時にガラスタブレットが流動し過ぎて、封着部分以外の箇所を汚染するおそれもある。
【0007】
また、近年、PbO−B系ガラスの無鉛代替品として、Bi−B系ガラスが使用されているが、Bi−B系ガラスは、非酸化雰囲気の焼成でビスマス成分が還元され易く、安定な状態を確保し難い問題がある(例えば、特許文献9参照)。
【0008】
そこで、本発明は、非酸化雰囲気(減圧雰囲気、不活性雰囲気等)であっても、450〜800℃の中温度域で金属材料等を良好に封着可能なガラスタブレットを創案することにより、長期間に亘って、封着部分の気密性を確保することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、種々の実験を行ったところ、ガラスタブレットのガラス材質としてSnO−P系ガラスを採用すると共に、SnO−P系ガラスのガラス組成範囲を厳密に規制することにより、非酸化雰囲気であっても、450〜800℃の中温度域で金属材料等を良好に封着し得ることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の封着用ガラスタブレットは、少なくともSnO−P系ガラスを含む封着用ガラスタブレットにおいて、SnO−P系ガラスが、ガラス組成として、モル%表示で、SnO 15〜30%(但し、30%を含まず)、P 20〜40%、WO 5〜20%(但し、5%を含まず)、ZnO 6〜30%(但し、30%を含まず)を含有し、モル比SnO/ZnOが1以上、4.5以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明の封着用ガラスタブレットは、上記のようにSnO−P系ガラスのガラス組成範囲が規制されている。このようにすれば、450〜800℃の中温度域で金属材料等を良好に封着可能になる。即ち、このようにすれば、450〜800℃の中温度域で適正に流動しつつ、ガラスタブレット中に気泡が発生する事態を防止し得ると共に、ガラスタブレットと金属材料等の反応性を適正化して、封着強度を高めることができる。また、非酸化雰囲気で封着する場合であっても、ガラスタブレットが失透、変質する事態を防止できるため、長期間に亘って、封着部分の気密性を確保することが可能になる。なお、本発明の封着用ガラスタブレットは、金属材料の封着に好適であるが、金属材料の封着に限定されるものではなく、金属材料以外の材料の封着に使用することも可能である。
【0011】
第二に、本発明の封着用ガラスタブレットは、ガラス転移点が370〜500℃(但し、370℃を含まず)であることを特徴とする。なお、ガラス転移点は、押し棒式熱膨張計等で測定可能である。
【0012】
第三に、本発明の封着用ガラスタブレットは、実質的にPbOを含まないことを特徴とする。このようにすれば、近年の環境的要請を満たすことができる。ここで、「実質的にPbOを含まない」とは、ガラスタブレット中のPbOの含有量が1000ppm(質量)以下の場合を指す。
【0013】
第四に、本発明の封着用ガラスタブレットは、更に、耐火性フィラーを0〜55体積%含むことを特徴とする。このようにすれば、ガラスタブレットの熱膨張係数が各種金属材料の熱膨張係数に整合し易くなる。
【0014】
第五に、本発明の封着用ガラスタブレットは、1.0×10−2Torr以下の減圧雰囲気における封着に用いることを特徴とする。
【0015】
第六に、本発明の封着用ガラスタブレットは、酸素濃度が5体積%以下の雰囲気における封着に用いることを特徴とする。
【0016】
第七に、本発明の封着用ガラスタブレットは、封着対象物の全部又は一部が金属材料であることを特徴とする。つまり、本発明の封着用ガラスタブレットは、金属材料同士の封着、金属材料とガラス材料の封着、金属材料とセラミック材料の封着等に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の封着用ガラスタブレットの実施態様を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の封着用ガラスタブレットにおいて、SnO−P系ガラスのガラス組成範囲を限定した理由を以下に説明する。なお、各成分の含有範囲の説明において、%表示はモル%を指す。
【0019】
SnOは、ガラスの融点を下げる成分であり、その含有量は15〜30%(但し、30%を含まず)、好ましくは20〜28%である。SnOの含有量が15%より少ないと、ガラスタブレットの粘性が高くなり過ぎて、中温度域でガラスタブレットの流動性が低下し易くなる。なお、SnOの含有量が20%以上であると、中温度域でガラスタブレットの流動性が向上するため、高い気密性を確保し易くなる。一方、SnOの含有量が30%以上であると、低温でガラスタブレットが軟化するため、封着時にガラスタブレットが流動し過ぎて、中温度域で使用し難くなる。
【0020】
は、ガラス形成酸化物であり、その含有量は20〜40%、好ましくは25〜35%である。Pの含有量が20%よりも少ないと、ガラスが不安定になる。一方、Pの含有量が40%より多いと、耐湿性が低下する。なお、Pの含有量が25%以上であれば、ガラスがより安定化し、35%以下であれば、ガラスタブレットの耐候性を高めることができる。
【0021】
WOは、本発明の必須成分であり、金属材料との反応性を適正化して、封着強度や気密性を高める成分である。また、WOを添加すると、耐候性が向上するため、封着部分の長期信頼性を高めることができる。WOの含有量は5〜20%(5%を含まず)、好ましくは10〜15%である。WOの含有量が5%以下であると、上記効果を得ることができない。一方、WOの含有量が20%より多いと、溶融時に分相傾向が強くなり、ガラスが不安定になる。なお、WOの含有量が10〜15%であると、中温度域においてガラスタブレットの流動性が向上する。また、WOの含有量が5%より多いと、上記効果を享受できるが、大気雰囲気で封着する場合、封着時にガラスタブレットが失透し易くなる。このため、本発明の封着用ガラスタブレットは、1.0×10−2Torr以下の減圧雰囲気における封着、或いは酸素濃度が5体積%以下の雰囲気における封着に用いることが好ましい。
【0022】
ZnOは、中間酸化物であり、またガラスを安定化させる効果が大きい成分であり、その含有量は6〜30%(但し、30%を含まず)、好ましくは6〜28%である。全体的なガラスの安定性(耐失透性、分相性等)を考慮すると、ZnOの含有量は8%以上が好ましい。しかし、ZnOの含有量が30%以上になると、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、封着時にガラスタブレットの表面に失透が発生し易くなる。なお、ZnOの含有量が28%以下になると、中温度域においてガラスの安定性が向上する。
【0023】
モル比SnO/ZnOは1以上4.5以下、好ましくは1以上4以下である。モル比SnO/ZnOが1より小さいと、ガラスが不安定になり易い。一方、モル比SnO/ZnOが4.5より大きいと、封着時にガラスタブレットが流動し過ぎて、金属材料を封着し難くなると共に、ガラスタブレット中に気泡が発生し易くなる。
【0024】
任意成分として、以下の成分を添加することができる。
【0025】
MgOは、網目修飾酸化物であり、またガラスを安定化させる成分である。MgOの含有量は0〜20%、特に0〜5%が好ましい。MgOの含有量が20%より多いと、封着時にガラスタブレットの表面に失透が発生し易くなる。
【0026】
SiOは、ガラス形成酸化物であり、またガラスの失透を抑制する成分であり、その含有量は0〜15%、特に0〜8%が好ましい。SiOの含有量が15%より多いと、ガラスタブレットの粘性が高くなり過ぎて、中温度域でガラスタブレットの流動性が低下し易くなる。
【0027】
は、ガラス形成酸化物であり、またガラスを安定化させる成分であり、その含有量は0〜25%である。Bの含有量が25%より多いと、ガラスタブレットの粘性が高くなり過ぎて、封着時にガラスタブレットの流動性が著しく低下して、封着部分の気密性が損なわれるおそれがある。特に、本発明に係るSnO−P系ガラスにおいて、Bの含有量が25%より多いと、ガラスが分相し易くなる。なお、Bは、ガラスタブレットの粘性を高くする傾向が強い。このため、軟化温度を大幅に低下させたい場合は、実質的にBを含有しないこと、つまり0.1%以下が好ましい。
【0028】
Alは、中間酸化物であり、またガラスを安定化させる成分であり、更に熱膨張係数を低下させる成分である。Alの含有量は0〜10%、特にガラスタブレットの熱的安定性、熱膨張係数、流動性等を考慮すると、0.5〜5%が好ましい。Alの含有量が10%より多いと、ガラスタブレットの粘性が高くなり過ぎて、中温度域でガラスタブレットの流動性が低下し易くなる。
【0029】
O(RはLi、Na、K、Csのいずれか)は、必須成分ではないが、RO成分の内、少なくとも1種類を添加すると、ステンレス等の金属材料との封着強度が向上する。ROの含有量は0〜20%、特に0.1〜10%が好ましい。ROの含有量が20%より多いと、封着時にガラスタブレットが失透し易くなる。なお、RO成分の内、LiOは、金属材料との封着強度を高める効果が大きい。
【0030】
ランタノイド酸化物は、網目修飾酸化物であり、その含有量は0〜25%、0.1〜20%、特に0.5〜15%が好ましい。ランタノイド酸化物の含有量が25%より多いと、ガラスタブレットの粘性が高くなり過ぎて、中温度域でガラスタブレットの流動性が低下し易くなる。なお、ランタノイド酸化物として、La、CeO、Nd等が使用可能である。また、ランタノイド酸化物の含有量を0.1%以上にすれば、ガラスタブレットの耐候性を高めることができる。
【0031】
ランタノイド酸化物に加えて、希土類酸化物、例えばYを添加すると、耐候性を更に高めることができる。希土類酸化物の含有量は合量で0〜5%が好ましい。
【0032】
さらに、ガラスを安定化させるために、MoO、Nb、TiO、ZrO、CuO、MnO、In、R’O(R’はMg、Ca、Sr、Baのいずれか)等を合量で35%まで添加してもよい。なお、これらの成分の含有量が合量で35%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが不安定になり、ガラスタブレットの製造が困難になる。なお、これらの成分の含有量が合量で25%以下であれば、ガラスが不安定になり難い。
【0033】
MoOの含有量は0〜20%、特に0〜10%が好ましい。MoOの含有量が20%より多いと、ガラスタブレットの粘性が高くなり過ぎて、中温度域でガラスタブレットが流動し難くなる。
【0034】
Nb、TiO、ZrOの含有量は何れも0〜15%、特に0〜10%が好ましい。これらの成分が各々15%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが不安定になり易い。
【0035】
CuO、MnOの含有量は何れも0〜10%、特に0〜5%が好ましい。これらの成分が各々10%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが不安定になり易い。
【0036】
Inは、コストを度外視した場合、高度な耐候性を得る目的で使用可能な成分である。Inの含有量は0〜5%が好ましい。
【0037】
R’Oの含有量は合量で0〜15%、特に0〜5%が好ましい。R’Oの含有量が合量で15%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが不安定になり易い。
【0038】
上記成分以外にも、他の成分を例えば5%まで添加することができる。なお、上記の通り、環境的観点から、実質的にPbOを含まないことが好ましい。
【0039】
上記のSnO−P系ガラスは、ガラス転移点が約370〜500℃、屈伏点が約380〜530℃、30〜300℃の温度範囲における熱膨張係数が約60×10−7〜110×10−7/℃であり、また1.0×10−2Torr以下の減圧雰囲気において、500〜800℃の温度範囲で金属材料を良好に封着可能であり、更に残存酸素濃度が5体積%以下の雰囲気、例えば窒素、アルゴン等の不活性雰囲気において、450〜650℃の温度範囲で金属材料を良好に封着可能である。
【0040】
本発明の封着用ガラスタブレットにおいて、ガラス転移点は370〜500℃(但し、370℃は含まず)、特に400〜450℃が好ましい。ガラス転移点が370℃未満であると、中温度域でガラスタブレットが流動し過ぎて、金属材料を封着し難くなると共に、ガラスタブレット中に気泡が発生し易くなる。一方、ガラス転移点が500℃より高いと、ガラスタブレットの粘性が高くなり過ぎて、中温度域でガラスタブレットの流動性が低下し易くなる。同様にして、本発明に係るSnO−P系ガラスのガラス転移点も上記範囲内であることが好ましい。
【0041】
本発明の封着用ガラスタブレットにおいて、屈伏点は380〜530℃、特に440〜480℃が好ましい。屈伏点が380℃より低いと、中温度域でガラスタブレットが流動し過ぎて、金属材料を封着し難くなると共に、ガラスタブレット中に気泡が発生し易くなる。一方、屈伏点が530℃より高いと、ガラスタブレットの粘性が高くなり過ぎて、中温度域でガラスタブレットの流動性が低下し易くなる。同様にして、本発明に係るSnO−P系ガラスの屈伏点も上記範囲内であることが好ましい。なお、屈伏点は、押し棒式熱膨張計等で測定可能である。
【0042】
本発明の封着用ガラスタブレットにおいて、30〜300℃の温度範囲における熱膨張係数は30〜110×10−7/℃、特に40〜85×10−7/℃が好ましい。このようにすれば、金属材料の熱膨張係数に整合し易くなるため、封着部分にかかる応力を低減することができる。なお、30〜300℃の温度範囲における熱膨張係数は、押し棒式熱膨張計等で測定可能である。
【0043】
本発明の封着用ガラスタブレットは、種々の金属材料を良好に封着可能である。また、本発明の封着用ガラスタブレットは、封着時に金属材料の酸化を防止するために、1.0×10−2Torr以下の減圧雰囲気、或いは酸素濃度が5体積%以下の雰囲気における封着に用いることが好ましい。
【0044】
本発明の封着用ガラスタブレットは、熱膨張係数の調整のために、耐火性フィラーを添加して、複合化して使用してもよい。耐火性フィラーを混合する場合、その混合量はSnO−P系ガラス45〜100体積%、耐火性フィラー0〜55体積%、特にSnO−P系ガラス50〜99体積%、耐火性フィラー1〜50体積%が好ましい。耐火性フィラーの含有量が55体積%より多いと、相対的にSnO−P系ガラスの割合が少なくなり、ガラスタブレットが流動し難くなる。
【0045】
耐火性フィラーとして、種々の材料が使用可能であり、例えば石英、コージエライト、ジルコン、酸化錫、酸化ニオブ、リン酸ジルコニウム、ウイレマイト、ムライト等が使用可能である。またNbZr(PO系セラミックは、成分中にリン酸を含有するため、SnO−P系ガラスと適合性が良好である。なお、NbZr(PO系セラミックは、焼結助剤としてMgOが少量(例えば、2質量%)添加されてなることが好ましい。
【0046】
本発明の封着用ガラスタブレットにおいて、充填率は71%以上であり、75%以上、80%以上、特に83%以上が好ましい。このようにすれば、封着時にガラスタブレットが寸法変化し難くなるため、つまりガラスタブレットが収縮し難くなるため、ガラスタブレットの流動性が向上して、封着強度を高めることができる。ここで、「充填率」とは、[(ガラスタブレットの実測密度)/(ガラスタブレットの理論密度)]×100(%)の値を指す。なお、ガラスタブレットの実測密度は、周知のアルキメデス法等で測定することができる。また、ガラスタブレットの理論密度は、各構成材料の密度と混合比率から計算で算出することができる。
【0047】
本発明の封着用ガラスタブレットは、形状が限定されるものではなく、リング状、円柱状、三角柱、四角柱等の形状が考えられる。
【0048】
以下、本発明の封着用ガラスタブレットの製造方法を詳述する。
【0049】
まず、乾式加圧成形時の均一充填や成形体密度の向上のために、粉末状のSnO−P系ガラス(又は複合粉末)を造粒して顆粒を作製する。次に得られた顆粒を金型に充填してプレス成形する。また必要に応じて後加工を施す。その後、得られたプレス成形体を仮焼成して、顆粒に含まれるバインダーを分解揮発させると共に、顆粒同士を焼結させる。このようにして、本発明の封着用ガラスタブレットを作製することができる。なお、ガラスタブレットの機械的強度を高めるために、仮焼成を複数回行ってもよい。
【0050】
以下のようにして、本発明に係るSnO−P系ガラスを作製することができる。まず上記のガラス組成になるように、ガラス原料を調合した後、850〜1000℃で溶融して、溶融ガラスを得る。溶融は、大気中で行っても支障はないが、溶融時にガラス組成中のSnOがSnOに酸化されないように留意する必要がある。ガラス組成中のSnOがSnOに酸化する事態を防止するため、N中で溶融したり、溶融ガラス中にNバブリングする等、非酸化性雰囲気で溶融することが好ましい。続いて、溶融ガラスを成形した後、粉砕、分級することにより、ガラス粉末を得ることができる。
【0051】
また、上記ガラス粉末の平均粒径は15μm以下が好ましい。このようにすれば、顆粒の粒度を調整し易くなる。SnO−P系ガラスを所望の粒度に加工する方法としては、どのような方式を採用してもよい。例えば、ボールミル、攪拌ミル等を採用してもよい。また、湿式粉砕、乾式粉砕の何れでもよく、SnO−P系ガラスの耐水性等を考慮して決定すればよい。
【0052】
顆粒に添加するバインダーとしては、ガラス粉末同士を強固に結合可能であり、且つ分解終了温度がSnO−P系ガラスのガラス転移点以下であることが好ましい。バインダーの分解終了温度がSnO−P系ガラスのガラス転移点より高いと、仮焼成時に完全に分解されず、その残留残滓が封着時に分解して、ガラスタブレット中の発泡を助長し易くなる。また、結晶性のSnO−P系ガラスを使用する場合、バインダーの分解終了温度がSnO−P系ガラスのガラス転移点より高いと、残留残滓(カーボン)によって、SnO−P系ガラスの結晶化温度が不当に低下するおそれもある。なお、バインダーを低分子量化すれば、同種のバインダーであっても分解終了温度が更に低くなる。
【0053】
顆粒中のバインダー量は特に制限されないが、ガラス粉末(又は複合粉末)100質量部に対して0.1〜20質量部、特に0.3〜10質量部程度が好ましい。
【0054】
バインダーとしては、ポリエチレンカーボネート、ポリエチレングリコール誘導体、ポリプロピレンカーボネート、ポリメチルスチレンが好適である。これらのバインダーは、分解終了温度が非常に低く、仮焼成時に完全に分解揮発可能なものである。加えて、これらのバインダーを使った顆粒は圧力伝達性が良く、比較的低い成形圧力でも顆粒間ポアのないプレス成形体が得られる。また金型からの離型の際にも、プレス成形体と金型の摩擦力が小さいためにスプリングバックの影響が小さく、クラックの原因となる表面の歪みが生じ難い。また、ニトロセルロースは、上記のバインダーに比べて粉末粒子同士の結合力が乏しくなるものの、顆粒作製条件を厳密に管理することで使用可能である。
【0055】
バインダーを溶解させる溶媒としては、SnO−P系ガラスのガラス転移点以下の沸点を有する有機溶媒や蒸留水が使用可能であり、SnO−P系ガラスの耐水性やバインダーの特性を考慮して適宜選択すればよい。例えば、バインダーとしてポリエチレンカーボネートを選択した場合、溶媒としては、N、N’−ジメチルホルムアミド、プロピレンカーボネート、酢酸n−プロピル、酢酸n−ブチル、プロピオニトリル、スチレン、炭酸プロピレン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、エチルメチルケトン、トルエン、ブタノール、酢酸エチル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、m−キシレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、エチレングリコール類等が好適である。ポリエチレングリコール誘導体を選択した場合、溶媒としては、蒸留水、N、N’−ジメチルホルムアミド等の極性溶媒が好適である。ポリメチルスチレンを選択した場合、溶媒としては、トルエン等が好適である。なお、SnO−P系ガラスのガラス転移点より高い沸点を有する溶媒を使用すると、ガラスタブレットの発泡原因になるおそれがある。
【0056】
ガラス粉末(又は複合粉末)にバインダー、溶媒を添加して造粒すると、顆粒を作製することができる。造粒には、ガラス粉末(又は複合粉末)、バインダー及び溶媒からなるスラリー状混濁液を噴霧乾燥して造粒する方法(噴霧造粒法)、ガラス粉末(又は複合粉末)を攪拌又は振動させながら、溶媒及びバインダーを添加して凝集造粒する方法(攪拌造粒法、転動造粒法)、ガラス粉末(又は複合粉末)を気流中に分散させ、その中に溶媒及びバインダーをスプレーして凝集造粒する方法(流動造粒法)等の方法があり、目的に応じて適宜選択可能である。
【0057】
以下に、噴霧造粒法を用いる場合を例に挙げて、造粒方法を詳述する。まず、スラリー状混濁液を調製する。バインダーの添加量は、ガラス粉末(又は複合粉末)100質量部に対して、0.1〜20質量部、特に0.3〜10質量部であることが好ましい。特にポリエチレンカーボネートを用いる場合では0.5〜15質量部、ポリエチレングリコール誘導体では0.3〜10質量部、ポリメチルスチレンでは0.5〜10質量部が望ましい。バインダーの添加量が少な過ぎると、粉末同士の結合力が乏しくなって、所望の顆粒を得ることが困難になる。逆に多過ぎると、顆粒半径が過大になる傾向があり、顆粒の粒径制御が困難になる。なお、上記のバインダーの添加量は、噴霧造粒の場合に限らず、他の造粒法にも適用できる。
【0058】
溶媒の添加量は、ガラス粉末(又は複合粉末)100質量部に対して、10〜100質量%となるように調製することが好ましい。溶媒量が少な過ぎると、棒状顆粒が生成し易くなって、顆粒の金型充填率が不安定になる。逆に多過ぎると、陥没顆粒が生成し易くなって、上記と同様にして、顆粒の金型充填率が不安定になる。
【0059】
また、後のプレス成形時に、顆粒が潰れ易くなるように、造粒前に可塑剤等を添加することもできる。プレス成形時に顆粒が潰れ易いと、プレス成形体の粉末充填密度が上昇して、ガラスタブレットの機械的強度が向上し易くなる。
【0060】
続いて、スラリー状混濁液を噴霧乾燥装置に供給して造粒し、顆粒を得る。噴霧乾燥の方式としては、二流体ノズル方式、高圧ノズル方式、回転円盤方式等、目的に応じて適宜選択すればよい。
【0061】
このようにして得られた顆粒の平均粒径は10〜120μm、特に40〜80μmの範囲内にあることが好ましい。平均粒径が小さ過ぎると、所望の流動性(金型充填性)が低下し易くなる。逆に大き過ぎると、顆粒に陥没等の欠陥が生じ易くなる。なお、顆粒の平均粒径は、バインダーの添加量等で調整可能である。例えば、バインダーの添加量を多くすると、顆粒の平均粒径が大きくなる。
【0062】
顆粒をガラスタブレットに加工する方法を以下に述べる。まず、顆粒を、所定の寸法に設計された金型に投入して、例えばリング状に乾式プレス成形し、プレス成形体を作製する。次に、ベルト炉等の熱処理炉にて、このプレス成形体に残存するバインダーを分解揮発させると共に、SnO−P系ガラスの軟化点程度の温度で仮焼成する。なお、仮焼成は、SnO−P系ガラスの変質を防止するため、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気、特に窒素雰囲気で行うことが好ましい。
【0063】
本発明の封着用ガラスタブレットは、1.0×10−2Torr以下の減圧雰囲気における封着に用いることが好ましい。1.0×10−2Torr以下の減圧雰囲気であれば、金属材料の酸化を防止することができる。また、金属材料の酸化を確実に防止するため、1.0×10−3Torr以下の減圧雰囲気で封着することが更に好ましい。一方、圧力が1.0×10−2Torrより大きいと、封着時にガラスタブレットが失透、変質し易くなる。なお、1.0×10−2Torr以下の減圧であれば、一般的に使用されるロータリーポンプで到達可能である。
【0064】
金属材料の封着等は、パッケージ中の真空度を高めるために、油拡散ポンプ(ディフュージョンポンプ)で封着雰囲気を減圧した状態で行われる場合がある。この場合、封着雰囲気の真空度は1.0×10−3Torr以下となる。なお、封着雰囲気の真空度の上限は特に制限されない。なお、ロータリーポンプとターボ分子ポンプを併用することにより、1.0×10−6Torrに減圧して、封着試験を行ったところ、本発明の封着用ガラスタブレットに失透、変質が認められなかったことが確認されている。但し、実生産上、封着雰囲気の真空度は、ガラスタブレットや金属材料からの放出ガスの影響により、1.0×10−6Torr以下とすることは困難である。
【0065】
本発明の封着用ガラスタブレットは、酸素濃度が5体積%以下の雰囲気、例えば窒素、アルゴン等の不活性雰囲気における封着に用いることが好ましい。このようにすれば、封着時にガラスタブレットが失透、変質し難くなると共に、金属材料の酸化を防止することができる。一方、封着雰囲気の酸素濃度が5体積%より多いと、ガラスタブレットが失透、変質し易くなると共に、金属材料が酸化し易くなる。なお、真空ポンプ等を使用しなくても、単に窒素、アルゴン等の不活性ガスを封着雰囲気に流して、不活性ガスの雰囲気濃度を95体積%以上にすれば、封着雰囲気中の残存酸素濃度を5体積%以下にすることができる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例に基づいて、本発明の封着用ガラスタブレットを詳述する。
【0067】
表1は本発明の実施例(No.1〜7)を示し、表2は本発明の比較例(No.8〜11)を示している。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
次のようにして、各試料を調製した。まず表中のガラス組成になるように、ガラス原料を調合した。また、リンの導入原料として、液体原料である正リン酸(オルトリン酸)を使用せず、ピロリン酸第一錫及びメタリン酸亜鉛を用いて、リンの導入原料をすべて固体原料とした。リンの導入原料をすべて固体原料にすると、他のガラス系と同様の製造設備を使用できるという利点がある。なお、リンの導入原料として、液体原料を直接溶融炉に入れて溶融すると、噴きこぼれの問題が発生し易くなる。そして、噴きこぼれの問題を回避するには、一旦、ガラス原料を乾燥しなければならない。
【0071】
次に、調合したガラス原料を950℃で2時間溶融した。なお、溶融の際に、SnOの酸化を抑制するために、溶融炉内に窒素を流した。窒素流入時の溶融炉内の残存酸素濃度は1%以下であった。
【0072】
次のようにして熱物性の評価試料を作製した。カーボン冶具を用いて、溶融ガラスを直径5mm、長さ20mmの円柱状に成形した。この円柱状試料を用いて、アニール処理し、押し棒式熱膨張計(リガク製)により、30〜300℃の温度範囲における熱膨張係数α、ガラス転移点Tg、屈伏点Tfを測定した。
【0073】
また、溶融ガラスを水冷ローラーでフィルム状に成形した。最後に、得られたガラスフィルムをボールミルにて粉砕後、目開き105メッシュの篩いを通過させて、平均粒径約10μmの各ガラス粉末試料を得た。
【0074】
表中に記載の混合比率になるように、上記のガラス粉末と表中に記載の耐火性フィラー(平均粒径約10μm)を混合した。なお、表中のNZPはNbZr(PO、SNZは酸化第二錫、ZWPはZr(WO)(PO、CDRはコーディエライト、ZPはリン酸ジルコニウムを表している。
【0075】
各粉末試料100質量部に対して、ポリエチレンカーボネート4質量部、炭酸ジメチル20質量部を混合してスラリー状混濁液を得た。このスラリー状混濁液を噴霧造粒して、平均粒径約50μmの顆粒試料を得た。
【0076】
この顆粒試料を金型に入れて、1.0ton/cmの圧力でプレス成形し、プレス成形体を得た。次に、表中に記載のSnO−P系ガラスのガラス転移点より60℃高い温度で10分間仮焼成し、各種形状のガラスタブレットを作製した。
【0077】
5mmφ×20mmのガラスタブレット試料を用いて、押し棒式熱膨張計(リガク製)により、30〜300℃の温度範囲における熱膨張係数αを測定した。
【0078】
図1に記載の形状のガラスタブレットを用いて、金属材料の封着性を評価した。具体的には、ガラスタブレットの内孔に熱膨張係数約50×10−7/℃の鉄−ニッケル−コバルト合金(コバール)製金属リードを挿入した上で、熱膨張係数約80×10−7/℃の鉄を主成分とする金属ベース上にガラスタブレットを設置した。次に、表中及び下記の条件で焼成した後、金属リードと金属ベースの封着状態を確認し、封着状態が良好であったものを「○」、封着状態が不良であったものを「×」で評価した。
【0079】
表中の「減圧中焼成」は、絶えずロータリーポンプによって減圧しながら、焼成したものである。焼成時には、ガラスタブレットから発生した発泡ガスによる圧力の変動があったが、圧力ゲージにより、その圧力が1.0×10−2Torr以下であることを確認した。なお、焼成条件は、焼成温度650℃で10分間保持、室温から焼成温度までの昇温速度20℃/分、室温までの降温速度15℃/分であった。
【0080】
表中の「雰囲気焼成」は、絶えず表中に記載のガスを2.0L/分で流し続けながら、焼成したものである。焼成時に残存する酸素濃度は、酸素濃度計により5体積%以下であることを確認した。なお、焼成条件は、焼成温度550℃で10分間保持、室温から焼成温度までの昇温速度15℃/分、室温までの降温速度10℃/分であった。
【0081】
表1から明らかなように、試料No.1〜7は、30〜300℃の温度範囲における熱膨張係数が52.0×10−7〜72.4×10−7/℃であり、また減圧焼成、雰囲気焼成共に、焼成後に失透、変質がなく、良好な封着性を示していた。
【0082】
一方、表2から明らかなように、試料No.8、9は、減圧焼成、雰囲気焼成共に、失透、変質がなかったが、金属材料との封着強度が弱く、封着部分が剥離した。試料No.10は、減圧焼成、雰囲気焼成共に、失透、変質がなかったが、モル比SnO/ZnOが4.5より大きいため、過剰に流動して、金属ベースからはみ出してしまった。なお、試料No.10は、融点が低過ぎて、中温度域で使用できないものと考えられる。試料No.11は、減圧焼成、雰囲気焼成共に、失透、変質がなかったが、金属材料上で殆ど流動しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の封着用ガラスタブレットは、450〜800℃の中温度域において、金属材料を良好に封着可能であるため、気密端子用金属パッケージ等の金属パッケージの封着、導線保持体の固定、ガラスタブレット一体型排気管、ジュメット線の封着、シーズヒーターの口元封止等に使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともSnO−P系ガラスを含む封着用ガラスタブレットにおいて、
SnO−P系ガラスが、ガラス組成として、モル%表示で、SnO 15〜30%(但し、30%を含まず)、P 20〜40%、WO 5〜20%(但し、5%を含まず)、ZnO 6〜30%(但し、30%を含まず)を含有し、モル比SnO/ZnOが1以上、4.5以下であることを特徴とする封着用ガラスタブレット。
【請求項2】
ガラス転移点が370〜500℃(但し、370℃を含まず)であることを特徴とする請求項1に記載の封着用ガラスタブレット。
【請求項3】
実質的にPbOを含まないことを特徴とする請求項1又は2に記載の封着用ガラスタブレット。
【請求項4】
更に、耐火性フィラーを0〜55体積%含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の封着用ガラスタブレット。
【請求項5】
1.0×10−2Torr以下の減圧雰囲気における封着に用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の封着用ガラスタブレット。
【請求項6】
酸素濃度が5体積%以下の雰囲気における封着に用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の封着用ガラスタブレット。
【請求項7】
封着対象物の全部又は一部が金属材料であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の封着用ガラスタブレット。

【図1】
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【公開番号】特開2012−46358(P2012−46358A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186752(P2010−186752)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】