射出成形方法及びその装置
【課題】射出成形において、装置が大型化することや大重量化すること、さらには設備投資が高騰することを回避しつつ、十分な強度を示し且つ欠陥発生が回避された成形品を得る。
【解決手段】流動通路を流通する溶融樹脂を、昇温部40を通過させることで、射出機32内で溶融したときの温度よりも高温とするとともに粘度を低下させる。昇温部40にスタティックミキサ54が配設されている場合、溶融樹脂は、撹拌されながら昇温部40を流動する。このため、溶融樹脂に温度ムラが生じることが回避され、その結果、粘度が略一様となる。以上のようにして高温となり且つ粘度が低下した溶融樹脂は、糸引き防止部42、スプルー44、スラッグウェル86、ランナ46及びゲート48を経由した後、製品部50に導入される。
【解決手段】流動通路を流通する溶融樹脂を、昇温部40を通過させることで、射出機32内で溶融したときの温度よりも高温とするとともに粘度を低下させる。昇温部40にスタティックミキサ54が配設されている場合、溶融樹脂は、撹拌されながら昇温部40を流動する。このため、溶融樹脂に温度ムラが生じることが回避され、その結果、粘度が略一様となる。以上のようにして高温となり且つ粘度が低下した溶融樹脂は、糸引き防止部42、スプルー44、スラッグウェル86、ランナ46及びゲート48を経由した後、製品部50に導入される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、型内に形成されたキャビティに溶融樹脂を充填することで成形品を得る射出成形方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形は、型内に形成されたキャビティに溶融樹脂を充填し、その後、該溶融樹脂を冷却硬化して成形品を得る一手法として周知である。
【0003】
射出成形においては、射出機にて樹脂が溶融され、これにより得られた溶融樹脂が前記射出機から射出された後、ホットランナを流通する。溶融樹脂は、さらに、型に形成されるスプルーやゲート等を経由して製品部に導入される。ホットランナの温度は、例えば、200℃〜220℃程度に保持され、一方、型の温度は略常温である。従って、キャビティに射出された溶融樹脂は該キャビティの形状に沿って変形し(すなわち、成形され)、さらに、熱が奪取されることに伴って降温することによって硬化して成形品となる。
【0004】
このような射出成形において、製品コストの低廉化を図るべく樹脂の使用量を低減することや、CO2発生量の低減のために軽量な成形品を得ることを目的とし、厚み方向寸法(肉厚)が小さい薄肉物を作製することが試みられる。しかしながら、この場合、肉厚が大きな厚肉物を成形するときと射出条件を同一とすると、溶融樹脂の流動距離が短くなることがある。
【0005】
このような事態が生じると、例えば、製品部の端部に溶融樹脂が到達しなくなる。すなわち、充填不良が起こり、このため、当該部位が欠落したり、いわゆるデフォームが発生したりした不良成形品が作製されてしまう。
【0006】
この不具合を回避するべく、溶融樹脂の射出圧力を大きくすることが想起される。この場合、溶融樹脂に対する押圧力が大きくなるので、該溶融樹脂の流動距離が大きくなると期待されるからである。しかしながら、溶融樹脂の射出圧力を大きくすると、パーティング面、特にゲート近傍でバリが発生し易くなる。そこで、型締め圧力を大きくし、バリが発生するような間隙を可及的に低減することも考えられるが、大きな型締め圧力を得るためには、可動型を変位させて型締め・型開きを行う変位機構として大型のものや高出力のものが必要である。このため、射出成形装置が大型化するとともに、重量も大となってしまう。また、そのような変位機構は概して高価であるため、設備投資が高騰する。
【0007】
以上の観点から、特許文献1では、薄肉部を有する樹脂成形品を安価な設備コストで成形するべく、型内に第1及び第2の樹脂通路を形成し、第1の樹脂通路から製品部に導入される溶融樹脂が薄肉部を形成する部位を通過した後、第2の樹脂通路に設けた弁を開き、該第2の樹脂通路から、製品部中の未充填部位に対して溶融樹脂を供給することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−154562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1記載の従来技術では、弁を開くタイミング、換言すれば、第2の樹脂通路から溶融樹脂を供給するタイミングを制御装置に記憶させるべく、溶融樹脂の射出を開始してからの経過時間と、製品部内における溶融樹脂の到達位置との関係を、試験を繰り返すことで予め求めておく必要がある。従って、煩雑であり、また、試験の実施のために長時間を要する。
【0010】
特許文献1の段落[0027]に記載されるように、製品部に検出手段を設け、この検出手段で溶融樹脂が所定の位置を通過したことを検出することも考えられるが、この場合、検出手段の位置に応じて溶融樹脂の射出圧力を変更しなければならない。
【0011】
しかも、特許文献1に開示された射出成形装置は、製品部に溶融樹脂を導入するゲートが複数個存在する、いわゆる多点ゲートのものであるが、このためにウェルドラインが形成されるので、成形品の外観品質が低下する。加えて、バブルゲートを複数個設置しなければならないので、金型費が増大する。
【0012】
そこで、射出機での樹脂の溶融温度を高温に設定することで溶融樹脂の温度を上昇させるとともに粘度を低下させ、ホットランナで高温・低粘度状態を維持した後、該溶融樹脂をキャビティに導入することも考えられる。しかしながら、本発明者の鋭意検討によれば、この場合、溶融樹脂が物性変化を起こすことに起因して、強度が十分ではない成形品が得られることが多々ある。
【0013】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、製品部の全体にわたって溶融樹脂を充填させることが可能であり、しかも、射出成形装置が大型化することや大重量化すること、さらには設備投資が高騰することを回避し得るとともに、十分な強度を示す成形品を得ることが可能な射出成形方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の目的を達成するために、本発明は、型内に形成された製品部に溶融樹脂を充填することで成形品を得る射出成形方法において、
樹脂を射出機にて溶融して得た溶融樹脂を、該射出機から射出する工程と、
ホットランナを流動する前記溶融樹脂を、前記ホットランナの一部に設けられた昇温部に通過させることによって温度上昇させ、前記射出機内での溶融時の温度よりも高温とする工程と、
前記温度上昇に伴って粘度が低下した前記溶融樹脂を、前記製品部に導入する工程と、
を有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、型内に形成された製品部に溶融樹脂を充填することで成形品を得る射出成形装置において、
樹脂を溶融して溶融樹脂を得るとともに、該溶融樹脂を射出する射出機と、
前記溶融樹脂の流動通路であるホットランナと、
前記ホットランナの一部に設けられ、前記溶融樹脂を、前記射出機内での溶融時の温度よりも高温とするための昇温部と、
を有することを特徴とする。
【0016】
以上のように、本発明では、ホットランナを流動する溶融樹脂を昇温部に通過させて温度上昇させ、射出機内での溶融時の温度よりも高温とするとともに粘度を低下させるようにしている。このため、溶融樹脂の流動距離を大きくすることができる。
【0017】
すなわち、例えば、製品部に薄肉部を形成する部位が存在する場合であっても、溶融樹脂の温度が高いために金型から熱を奪取され難いので、溶融樹脂が低粘度のまま該部位を容易に通過し、該製品部の端部まで到達する。このため、欠陥が発生することが回避された成形品を得ることができる。
【0018】
しかも、溶融樹脂が高温に保持される時間が短いので、溶融樹脂が物性変化を起こすことに起因して成形品が脆化することも回避される。すなわち、得られた成形品は、十分な強度を示す。
【0019】
その上、本発明では、成形品の強度を確保するには昇温部の温度と高温に保持される時間を制御すれば十分であり、多点ゲートのように試験を繰り返して射出条件を最適化する必要もない。加えて、多点ゲートを採用する必要が特にないので、ウェルドラインが発生する懸念が払拭される。しかも、金型費が増大することもない。
【0020】
また、この場合、溶融樹脂の流動距離を大きくするべく溶融樹脂の射出圧力を大きくする必要がない。このため、射出圧力を大きくすることに伴ってバリが発生することを回避するべく型締め圧力を大きくする必要がないと期待される。
【0021】
以上のような理由から、射出成形装置が大型化することや、大重量化することを回避することが図れる。また、小型の変位機構は、大型のものに比して概して安価であるため、設備投資が高騰することも回避される。
【0022】
なお、昇温部を流動する溶融樹脂を撹拌するための撹拌手段を設けることが好ましい。この撹拌により、溶融樹脂に温度ムラが生じることが回避される。従って、溶融樹脂の温度、ひいては粘度が略一様となる。これにより、溶融樹脂に高粘度な部位が形成されることが回避されるので、該溶融樹脂の流動距離を大きくすることが容易となる。
【0023】
撹拌手段の好適な例としては、スタティックミキサが挙げられる。周知のように、スタティックミキサで撹拌を行うに際しては動力を必要としないので、例えば、射出成形を行う際の消費電力が上昇することが回避される。また、スタティックミキサの形状や構造により、溶融樹脂に付与される熱の伝達と剪断力を調整することができる。このため、スタティックミキサを通過する溶融樹脂の昇温の度合いを制御することができる。さらに、溶融樹脂への剪断力を制御することができるので、射出機の射出圧力を小さくすることが可能となることから、射出機の負担を軽減することができる。
【0024】
また、昇温部を通過した溶融樹脂が通過する糸引き防止部を設けることが好ましい。この場合、昇温部の熱が成形品に伝達されることが防止されるので、型開き時に糸引きが生じることを回避し得る。
【0025】
1回の射出成形が終了した後、昇温部に溶融樹脂が残留することがある。この残留溶融樹脂は、次回の射出成形が行われるまで昇温部に残留するので、温度が上昇した状態を維持する。このため、残留溶融樹脂が物性変化を起こすことが懸念される。物性変化を起こした残留溶融樹脂が、次回の射出成形時に製品部に導入されると、強度が十分でない成形品や、外観品質が良好でない成形品等が得られる可能性がある。
【0026】
この懸念を払拭するべく、昇温部から製品部に至るまでの流動通路の距離を大きくすることが考えられる。残留溶融樹脂は、新たに射出された溶融樹脂によって押し出される際にファウンテンフローを起こし、流動通路の壁面にスキン層として付着するので、流動通路の距離が大きくなれば、残留溶融樹脂の全量がスキン層となる。このため、残留溶融樹脂が製品部に導入されることが防止されるからである。しかしながら、この場合、射出成形装置が大型化してしまう。
【0027】
そこで、前回の射出時に昇温部に残留した溶融樹脂を、次回の射出時に受けることが可能なスラッグウェルを昇温部の下流側に設けることが好ましい。この場合、流動通路の距離を大きくすることなく、残留溶融樹脂の全量を昇温部から製品部に至るまでの流動通路でスキン層とすることができる。従って、射出成形装置が大型化することがない。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、ホットランナを流動する溶融樹脂を昇温部に通過させて温度上昇させ、射出機内での溶融時の温度よりも高温とするとともに粘度を低下させるようにしているので、溶融樹脂の流動距離が大きくなる。従って、例えば、製品部に薄肉部を形成する部位が存在する場合であっても、溶融樹脂が該部位を容易に通過し、該製品部の端部まで到達するようになる。このため、欠陥が発生することが回避された成形品を得ることができる。
【0029】
しかも、溶融樹脂が昇温部に滞在する時間が短いので、溶融樹脂が物性変化を起こすことに起因して成形品が脆化することが回避される。従って、十分な強度を示す成形品が得られる。
【0030】
さらに、本発明においては、強度が確保された成形品を得るには昇温部の温度を制御すれば十分であるので、多点ゲートのように試験を繰り返して射出条件を最適化する必要もない。加えて、多点ゲートを採用する必要が特にないので、ウェルドラインが発生する懸念が払拭されるとともに、金型費が増大することが回避される。
【0031】
また、本発明においては、上記したように溶融樹脂の粘度を低下させることで流動距離を大きくするようにしているので、流動距離を大きくするために溶融樹脂の射出圧力を大きくする必要がない。従って、射出圧力を大きくすることに伴ってバリが発生することを回避するべく型締め圧力を大きくする必要がなくなると期待される。以上のような理由から、射出成形装置が大型化することや、大重量化することを回避することが図れる。また、小型の変位機構は、大型のものに比して概して安価であるため、設備投資が高騰することも回避される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態に係る射出成形装置の要部概略縦断面図である。
【図2】図1の射出成形装置の別部位の要部概略縦断面図である。
【図3】直管内を流動する流動物の温度ムラを模式的に示した概略側面断面図である。
【図4】スタティックミキサ内の流動物の流動状態を模式的に示した概略断面側面図である。
【図5】射出成形を行った後に昇温部に溶融樹脂が残留した状態を示す要部概略縦断面図である。
【図6】昇温部に残留した溶融樹脂が、新たに射出された溶融樹脂によって昇温部から押し出された状態を示す要部概略縦断面図である。
【図7】昇温部に残留した溶融樹脂が、図6からさらに押し出された状態を示す要部概略縦断面図である。
【図8】昇温部に残留した溶融樹脂が、図7からさらに押し出され、スラッグウェルに貯留された状態を示す要部概略縦断面図である。
【図9】スラッグウェルに貯留された残留溶融樹脂の一部が、スラッグウェルから押し出されてランナに導入された状態を示す要部概略縦断面図である。
【図10】残留溶融樹脂の一部が、図9からさらに押し出されてランナを流動している状態を示す要部概略縦断面図である。
【図11】残留溶融樹脂の一部が、図10からさらに押し出されてランナを流動している状態を示す要部概略縦断面図である。
【図12】残留溶融樹脂の一部が、図11からさらに押し出されてランナを流動した後、スキン層を形成して残留した状態を示す要部概略縦断面図である。
【図13】新たに射出された溶融樹脂のみが製品部に導入された状態を示す要部概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明に係る射出成形方法につき、それを実施する射出成形装置との関係で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0034】
図1は、本実施の形態に係る射出成形装置10の要部概略縦断面図である。この射出成形装置10は、固定型12と、図示しない変位機構の作用下に固定型12に対して接近又は離間する可動型14とを備える。
【0035】
固定型12には、第1ホットランナ16が形成された第1ホットランナブロック18が付設される。なお、第1ホットランナブロック18の下流側には、第2ホットランナ20が形成された第2ホットランナブロック22が設けられる。
【0036】
第1ホットランナブロック18には、タッチピース24が設けられている。タッチピース24には導入孔30が貫通形成され、この導入孔30の開口には、射出機32の射出ノズル34が着座する。
【0037】
前記第1ホットランナ16は、前記導入孔30に連通する。また、第2ホットランナ20は、第1ホットランナ16に連通する連通路36と、該連通路36から放射状に分岐した複数個の分岐路38とからなる。なお、図1においては、複数個の分岐路38中、互いに略180°離間した2個を示している。
【0038】
分岐路38は、第2ホットランナ20の末端部としての昇温部40を経た後、さらに、糸引き防止部42、スプルー44、ランナ46及びゲート48(図2参照)を介して、製品部50に連通する。
【0039】
第1ホットランナ16及び第2ホットランナ20の近傍には、図示しないヒータ等の加熱手段が設けられている。このため、第1ホットランナ16及び第2ホットランナ20を流動する溶融樹脂は、例えば、200℃〜220℃の間の所定温度に保たれる。
【0040】
第2ホットランナ20には、ホットノズル52(図1参照)を介して分岐路38に連なるようにして、昇温部40が設けられる。
【0041】
本実施の形態において、昇温部40は、スタティックミキサ54の外周壁に第1バンドヒータ56が巻回されることで構成されている。スタティックミキサ54の小径な端部55はネジ部であり、このネジ部は、前記ホットノズル52の端部に設けられたネジ部に螺合されている。
【0042】
スタティックミキサ54は、周知の通り、内部にミキシングブレード58が設けられた管部材である。スタティックミキサ54内を流通する溶融樹脂は、ミキシングブレード58を通過する際、該ミキシングブレード58の形状に沿って移動する。この移動により、溶融樹脂が撹拌される。このことから諒解されるように、スタティックミキサ54は、動力が不要な撹拌手段である。
【0043】
スタティックミキサ54の外周壁に巻回された第1バンドヒータ56は、該外周壁を介してミキシングブレード58に熱を伝達する。従って、ミキシングブレード58を通過する溶融樹脂にも熱が伝達され、また、ミキシングブレード58の形状によっては剪断発熱が生じ、その結果、溶融樹脂の温度が上昇する。すなわち、昇温部40は、該昇温部40を流通する溶融樹脂の温度を上昇させるためのものである。なお、昇温部40の温度は、第1熱電対60を介して測定された値に応じて制御される。
【0044】
昇温部40には、糸引き防止部42が連なる。この糸引き防止部42は、管部材62と、該管部材62の外周壁に巻回された第2バンドヒータ64と、管部材62の内部に収容された糸引き防止リング66とを有する。
【0045】
スタティックミキサ54の端部には、軸線方向に沿って陥没したネジ付段部70が形成されている。一方、管部材62は、小径部72、大径部74をスタティックミキサ54に近接する側からこの順序で有し、スタティックミキサ54に最近接する小径部72が前記ネジ付段部70に挿入されている。小径部72にはネジ部が形成され、このネジ部は、ネジ付段部70のネジ部に螺合される。
【0046】
また、小径部72の外周壁にはリング形状の断熱部材78が外嵌され、この断熱部材78により、スタティックミキサ54と管部材62との熱的遮断が図られている。すなわち、スタティックミキサ54の熱が管部材62に伝達されることが抑制される。
【0047】
前記第2バンドヒータ64は、管部材62の大径部74の外周壁に巻回されている。ここで、大径部74には第2熱電対80が接触している。第1バンドヒータ56、第2バンドヒータ64、第1熱電対60及び第2熱電対80は、図示しない制御回路に電気的に接続されており、従って、第1バンドヒータ56及び第2バンドヒータ64の発熱量は、第1熱電対60及び第2熱電対80によって検出される昇温部40及び糸引き防止部42の温度に対応して、制御回路の制御作用下に調節される。後述するように、糸引き防止部42の温度は、昇温部40に比して低温に設定される。
【0048】
管部材62には、大径部74に収容凹部82が形成される。前記糸引き防止リング66は、この収容凹部82に収容されている。なお、糸引き防止リング66は、溶融樹脂の射出成形において広汎に使用されている当業者に周知のものであり、従って、その詳細な説明は省略する。
【0049】
収容凹部82には、スプルー44が形成されたノズルチップ84も収容される。なお、ノズルチップ84の外径は略一定であるが、該ノズルチップ84の内部に形成されたスプルー44は、管部材62に近接する側(上流側)の端部から離間する側(下流側)の端部に向かってテーパー状に拡径している。
【0050】
可動型14には、スプルー44の軸線方向に沿って延在するスラッグウェル86が形成される。このスラッグウェル86の容積と、スプルー44、ランナ46及びゲート48の各容積との総和は、スタティックミキサ54の容積に比して大きく設定される。従って、スタティックミキサ54に残留した溶融樹脂は、次回の射出成形時、その全量がスプルー44、スラッグウェル86、ランナ46及びゲート48でスキン層となる。
【0051】
スラッグウェル86には、ランナ46が連通する。ここで、ランナ46の軸線方向は、スプルー44の軸線方向に対して略直交している。このため、スプルー44から導出された溶融樹脂の流動方向は、ランナ46によって変換される。
【0052】
ランナ46の下流には、図2に示すように、該ランナ46に連通するゲート48と、該ゲート48を介してランナ46に連通する製品部50とが形成される。上記したように、製品部50は、固定型12と可動型14との合わせ面に位置している。
【0053】
図1及び図2においては、理解を容易にするために昇温部40やスプルー44、ランナ46等を拡大して示しているが、図1及び図2の縮尺は実際の寸法に対応するものではない。例えば、スタティックミキサ54の軸線方向寸法(長さ)は、実際には、分岐路38及び第2ホットランナ20に比して著しく小さく設定される。すなわち、スタティックミキサ54における溶融樹脂の流動距離は、分岐路38及び第2ホットランナ20における溶融樹脂の流動距離に比して小さい。
【0054】
本実施の形態に係る射出成形装置10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その作用効果につき、該射出成形装置10にて実施される射出成形方法との関係で説明する。
【0055】
射出成形を行うに際しては、先ず、図示しない前記変位機構の作用下に可動型14を固定型12に向けて変位させ、型締めを行う。その前又は後に、射出機32内にて所定の温度で樹脂を溶融し、溶融樹脂を得る。
【0056】
次に、射出機32の射出ノズル34から溶融樹脂を射出する。射出された溶融樹脂は、タッチピース24に形成された導入孔30を経由して第1ホットランナ16に到達し、その後、第2ホットランナ20の連通路36を経て分岐路38に至る。溶融樹脂は、複数個の分岐路38の各々に沿ってさらに流動する。
【0057】
上記したように第1ホットランナ16及び第2ホットランナ20は、図示しない加熱手段(ヒータ等)によって加熱されており、このため、溶融樹脂は、溶融時の温度に略保持された状態で、第1ホットランナ16及び第2ホットランナ20を流動する。勿論、この温度は、溶融樹脂が冷却硬化して成形品となったときに十分な強度を確保し得る温度である。
【0058】
溶融温度ないし保持温度は、溶融樹脂の種類に応じて設定されるが、概ね200℃〜220℃の間、一層好適には205℃〜215℃の間である。
【0059】
第2ホットランナ20の分岐路38を流動した溶融樹脂は、ホットノズル52から、昇温部40を構成するスタティックミキサ54の内部に導出される。ここで、スタティックミキサ54には、該スタティックミキサ54内が射出機32における溶融時の温度に比して高温となるように、第1バンドヒータ56からの熱が伝達される。従って、ミキシングブレード58を通過する溶融樹脂にも熱が伝達され、その結果、溶融樹脂は、射出機32内で溶融したとき、ないし分岐路38を流動したときの温度に比して高温となり、これに伴って粘度が低下する。
【0060】
なお、スタティックミキサ54の設定温度は、射出機32内の溶融温度に比して10℃〜150℃程度高温が好適であり、20℃〜100℃程度高温が一層好適である。この程度の温度であれば、強度が不十分な成形品が作製されることが回避される。
【0061】
溶融樹脂は、ミキシングブレード58を通過する際に剪断力を受けることに伴って熱を帯びる。すなわち、ミキシングブレード58を通過することのみでも溶融樹脂の温度が上昇する。この温度上昇幅が十分であれば、スタティックミキサ54の設定温度を、射出機32内の溶融温度と同一にしてもよい。
【0062】
射出機32内での溶融温度を、樹脂の溶融に必要最低限に設定するとともに、昇温部40の温度を、溶融樹脂が製品部50の全体に充填されるに必要な粘度にし得る必要最低限に設定することにより、射出成形装置10の電力消費量を抑制することができる。
【0063】
ここで、昇温部40に単純な直管90が配置されている場合(図3参照)、実際には、直管90の内部に温度ムラが生じる。すなわち、内周壁に近い箇所では温度が高く、直径中心近傍では温度が低くなる。このため、直管90内を流動する溶融樹脂にも温度ムラが生じるので、直管90内の場所に関わらず溶融樹脂の粘度を均等にすることが容易でなくなる懸念がある。
【0064】
これに対し、スタティックミキサ54を設けた本実施の形態においては、図4に示すように、溶融樹脂がミキシングブレード58を通過することに伴って、内周壁に近い溶融樹脂が直径中心に向かって移動するとともに、直径中心に近い溶融樹脂が内周壁に向かって移動する。このため、熱源である第1バンドヒータ56に近接して比較的高温となった溶融樹脂と、第1バンドヒータ56から離間して比較的低温である溶融樹脂とが連続的に混じり合いながらスタティックミキサ54を流動していくことになる。従って、溶融樹脂に温度ムラが生じることが回避され、その結果、部位に関わらず温度が略均等な、換言すれば、粘度が略一様な溶融樹脂が得られる。
【0065】
しかも、出発材料が、例えば、マスターバッチ材料やメタリック原着材料であっても、スタティックミキサ54の撹拌によって十分に分散されるので、外観品質に優れた成形品を得ることができる。また、初回の射出成形を行った後、色や出発材料の種類を変更して第2回の射出成形を行う際、初回の射出成形時に射出された溶融樹脂が残留して新たに射出された溶融樹脂に混入したとしても、両溶融樹脂がスタティックミキサ54によって十分に撹拌されるため、例えば、残留した溶融樹脂に起因する筋状の外観不良等が成形品に発生し難い。このため、不良品の発生数を低減することができる。
【0066】
加えて、スタティックミキサ54を採用する場合、撹拌を行うための動力を設ける必要がない。このため、射出成形装置10の構成が複雑となることが回避されるとともに、金型投資が高騰することが回避される。また、消費電力が多くなることもない。
【0067】
昇温部40を通過した溶融樹脂は、糸引き防止部42に導入される。この糸引き防止部42は、昇温部40に比して50℃〜100℃、典型的には約80℃程度低温に設定される。しかしながら、管部材62の長さはスタティックミキサ54に比して著しく小さく、また、管部材62にミキシングブレード58が存在しないので、糸引き防止部42を流動する溶融樹脂は、ほとんど温度降下を起こすことなく糸引き防止リング66からスプルー44に導出される。
【0068】
溶融樹脂は、スプルー44を通過した後、ランナ46及びゲート48(図2参照)を経て製品部50に導入される。ここで、上記したように、溶融樹脂は昇温部40によって昇温されることで粘度が低下している。従って、流動距離が大きくなり、このため、製品部50に薄肉部を形成する部位が存在する場合であっても、溶融樹脂は、該部位を容易に通過して製品部50の端部まで到達する。
【0069】
製品部50は、通常、略常温となるように温度調整されている。従って、製品部50に導入された溶融樹脂は、熱が奪取されることに伴って冷却硬化する。これにより、成形品が得られるに至る。
【0070】
溶融樹脂は、昇温部40に導入される前、冷却硬化して成形品となったときに十分な強度を確保し得る温度に保持されて第2ホットランナ20、連通路36及び分岐路38を流動する。その後、昇温部40を通過するが、この際の流通時間は短い。換言すれば、溶融樹脂が、射出機32内での溶融時よりも高温となっている時間は短い。このため、溶融樹脂が物性変化を起こすことが回避されるので、十分な強度を示す成形品を得ることができる。しかも、溶融樹脂が製品部50の端部まで到達して冷却硬化しているので、該成形品に欠陥が発生することが回避される。
【0071】
また、溶融樹脂の射出圧力を大きくする必要がないので、バリが発生することを回避するべく型締め圧力を大きくする必要もない。従って、型締め・型開きを行う変位機構(油圧シリンダ等)は小型のもので十分である。このため、射出成形装置10が大型化することや、大重量化することが回避される。また、高価な変位機構が不要であるので、設備投資が高騰することも回避される。
【0072】
しかも、本実施の形態では、多点ゲートを採用していないので、ウェルドラインが形成される懸念が払拭される。加えて、昇温部40の温度を制御すればよいので、射出条件を設定するための試験を繰り返し行う必要がないという利点も得られる。
【0073】
前記変位機構の作用下に可動型14を固定型12から離間させて型開きを行えば、成形品を露呈させることができる。成形品は、例えば、ノックアウトピン(図示せず)によって押し出され、射出成形装置10から離間する。
【0074】
成形品には、スプルー44、ランナ46及びゲート48に残留して冷却硬化した樹脂が製品部位に一体的に連結したものとして得られる。このような部位は成形品の製品部位から切断され、例えば、次回の射出成形の出発原料とするべく粉砕される。
【0075】
ここで、本実施の形態では、糸引き防止部42を設けるようにしている。糸引き防止部42に溶融樹脂が残留した場合、この溶融樹脂は、糸引き防止部42に長時間残留したことによって、昇温部40を通過したときよりも低温となっている。上記したように、糸引き防止部42が昇温部40に比して低温に設定されているからである。また、断熱部材78によってスタティックミキサ54の熱が管部材62に伝達されることが抑制されていることも、糸引き防止部42を昇温部40に比して低温に保つことに寄与する。
【0076】
このように温度が低下した溶融樹脂は、粘度が十分に低下している。しかも、糸引き防止部42には、糸引き防止リング66が設けられている。以上のことが相俟って、型開きの際に糸引きが発生することが防止される。
【0077】
以上の射出成形を行った後は、図5に示すように、昇温部40に溶融樹脂が残留することがある。この残留溶融樹脂は、次回の射出成形時に、図6に示すように、第2ホットランナ20及び分岐路38を通過して昇温部40に到達した新たな溶融樹脂によってスプルー44に押し出される。なお、残留溶融樹脂と新たに射出された溶融樹脂との区別を明確にするべく、各々の参照符号を100、102とするとともに、互いに相違するハッチングを付す。
【0078】
残留溶融樹脂100は、後述するファウンテンフローによって一部がスプルー44の内周壁に付着する。一方、残部は、図7に示すようにランナ46側に向かって押し出され、その結果、図8に示すようにスラッグウェル86及びランナ46に貯留される。すなわち、スラッグウェル86は、押し出された残留溶融樹脂100を受ける。
【0079】
新たな溶融樹脂102は、図9〜図12に示すように、残留溶融樹脂100の中央近傍を押圧しながらさらに流動する。すなわち、残留溶融樹脂100に、中央からランナ46の壁面に向かう流れ(ファウンテンフロー)が生じる。
【0080】
ファウンテンフローによってランナ46の壁面に接触した残留溶融樹脂100は、該壁面に熱が奪取される。壁面近傍の残留溶融樹脂100は、これにより冷却硬化し、スキン層として壁面に付着する。スプルー44、ランナ46、スラッグウェル86及びゲート48の各容積の総和が、スタティックミキサ54の容積に比して大きく設定されているので、スキン層の形成は、最大でもゲート48で終了する。なお、図12においては、残留溶融樹脂100の壁面への付着がゲート48の上流側で終了した場合を示している。このため、図13から諒解されるように、残留溶融樹脂100が次回の射出成形時に製品部50に導入されることが回避される。
【0081】
残留溶融樹脂100は、前回の射出成形が終了してから次回の射出成形が開始されるまで高温の昇温部40に残留していたものであるので、これを製品部50に導入した場合、強度が十分でない成形品が作製される懸念がある。しかしながら、本実施の形態では、残留溶融樹脂100をスラッグウェル86に一時的に受け、新たな溶融樹脂102が流動するときにファウンテンフローを生じさせてスプルー44やランナ46の壁面に付着したスキン層とするようにしているので、残留溶融樹脂100が製品部50に導入されることが回避される。このため、強度が十分でない成形品が作製される懸念が払拭される。
【0082】
スキン層は、ランナ46に残留した新たな溶融樹脂102が冷却硬化した際にこの硬化物と一体化する。上記と同様に、型開きが行われた後、該硬化物は成形品の製品部位から切断される。
【0083】
なお、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは勿論である。
【0084】
例えば、この実施の形態では、スタティックミキサ54に第1バンドヒータ56を巻回することで昇温部40を構成するようにしているが、スタティックミキサ54にコイル型ヒータやカートリッジヒータを埋設して昇温部40を構成するようにしてもよい。
【0085】
また、撹拌手段はスタティックミキサ54に特に限定されるものではなく、例えば、動力によって回転動作するスクリュであってもよい。
【0086】
撹拌手段は必須ではなく、例えば、直径が小さいために温度ムラ幅が小さい直管を昇温部40に用いる場合等では、撹拌手段を省略するようにしてもよい。
【0087】
さらに、昇温部40の残留溶融樹脂100を、スプルー44、ランナ46及びゲート48でスキン層にし得る場合には、スラッグウェル86を設ける必要は特にない。
【0088】
そして、糸引き防止部42には、例えば、管部材62に放熱リングを外嵌する等、放熱を促進する部材をさらに設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0089】
10…射出成形装置 12…固定型
14…可動型 16、20…ホットランナ
32…射出機 34…射出ノズル
40…昇温部 42…糸引き防止部
44…スプルー 46…ランナ
48…ゲート 50…製品部
54…スタティックミキサ 56、64…バンドヒータ
58…ミキシングブレード 62…管部材
66…糸引き防止リング 78…断熱部材
86…スラッグウェル 100…残留溶融樹脂
102…新たに射出された溶融樹脂
【技術分野】
【0001】
本発明は、型内に形成されたキャビティに溶融樹脂を充填することで成形品を得る射出成形方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形は、型内に形成されたキャビティに溶融樹脂を充填し、その後、該溶融樹脂を冷却硬化して成形品を得る一手法として周知である。
【0003】
射出成形においては、射出機にて樹脂が溶融され、これにより得られた溶融樹脂が前記射出機から射出された後、ホットランナを流通する。溶融樹脂は、さらに、型に形成されるスプルーやゲート等を経由して製品部に導入される。ホットランナの温度は、例えば、200℃〜220℃程度に保持され、一方、型の温度は略常温である。従って、キャビティに射出された溶融樹脂は該キャビティの形状に沿って変形し(すなわち、成形され)、さらに、熱が奪取されることに伴って降温することによって硬化して成形品となる。
【0004】
このような射出成形において、製品コストの低廉化を図るべく樹脂の使用量を低減することや、CO2発生量の低減のために軽量な成形品を得ることを目的とし、厚み方向寸法(肉厚)が小さい薄肉物を作製することが試みられる。しかしながら、この場合、肉厚が大きな厚肉物を成形するときと射出条件を同一とすると、溶融樹脂の流動距離が短くなることがある。
【0005】
このような事態が生じると、例えば、製品部の端部に溶融樹脂が到達しなくなる。すなわち、充填不良が起こり、このため、当該部位が欠落したり、いわゆるデフォームが発生したりした不良成形品が作製されてしまう。
【0006】
この不具合を回避するべく、溶融樹脂の射出圧力を大きくすることが想起される。この場合、溶融樹脂に対する押圧力が大きくなるので、該溶融樹脂の流動距離が大きくなると期待されるからである。しかしながら、溶融樹脂の射出圧力を大きくすると、パーティング面、特にゲート近傍でバリが発生し易くなる。そこで、型締め圧力を大きくし、バリが発生するような間隙を可及的に低減することも考えられるが、大きな型締め圧力を得るためには、可動型を変位させて型締め・型開きを行う変位機構として大型のものや高出力のものが必要である。このため、射出成形装置が大型化するとともに、重量も大となってしまう。また、そのような変位機構は概して高価であるため、設備投資が高騰する。
【0007】
以上の観点から、特許文献1では、薄肉部を有する樹脂成形品を安価な設備コストで成形するべく、型内に第1及び第2の樹脂通路を形成し、第1の樹脂通路から製品部に導入される溶融樹脂が薄肉部を形成する部位を通過した後、第2の樹脂通路に設けた弁を開き、該第2の樹脂通路から、製品部中の未充填部位に対して溶融樹脂を供給することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−154562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1記載の従来技術では、弁を開くタイミング、換言すれば、第2の樹脂通路から溶融樹脂を供給するタイミングを制御装置に記憶させるべく、溶融樹脂の射出を開始してからの経過時間と、製品部内における溶融樹脂の到達位置との関係を、試験を繰り返すことで予め求めておく必要がある。従って、煩雑であり、また、試験の実施のために長時間を要する。
【0010】
特許文献1の段落[0027]に記載されるように、製品部に検出手段を設け、この検出手段で溶融樹脂が所定の位置を通過したことを検出することも考えられるが、この場合、検出手段の位置に応じて溶融樹脂の射出圧力を変更しなければならない。
【0011】
しかも、特許文献1に開示された射出成形装置は、製品部に溶融樹脂を導入するゲートが複数個存在する、いわゆる多点ゲートのものであるが、このためにウェルドラインが形成されるので、成形品の外観品質が低下する。加えて、バブルゲートを複数個設置しなければならないので、金型費が増大する。
【0012】
そこで、射出機での樹脂の溶融温度を高温に設定することで溶融樹脂の温度を上昇させるとともに粘度を低下させ、ホットランナで高温・低粘度状態を維持した後、該溶融樹脂をキャビティに導入することも考えられる。しかしながら、本発明者の鋭意検討によれば、この場合、溶融樹脂が物性変化を起こすことに起因して、強度が十分ではない成形品が得られることが多々ある。
【0013】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、製品部の全体にわたって溶融樹脂を充填させることが可能であり、しかも、射出成形装置が大型化することや大重量化すること、さらには設備投資が高騰することを回避し得るとともに、十分な強度を示す成形品を得ることが可能な射出成形方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の目的を達成するために、本発明は、型内に形成された製品部に溶融樹脂を充填することで成形品を得る射出成形方法において、
樹脂を射出機にて溶融して得た溶融樹脂を、該射出機から射出する工程と、
ホットランナを流動する前記溶融樹脂を、前記ホットランナの一部に設けられた昇温部に通過させることによって温度上昇させ、前記射出機内での溶融時の温度よりも高温とする工程と、
前記温度上昇に伴って粘度が低下した前記溶融樹脂を、前記製品部に導入する工程と、
を有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、型内に形成された製品部に溶融樹脂を充填することで成形品を得る射出成形装置において、
樹脂を溶融して溶融樹脂を得るとともに、該溶融樹脂を射出する射出機と、
前記溶融樹脂の流動通路であるホットランナと、
前記ホットランナの一部に設けられ、前記溶融樹脂を、前記射出機内での溶融時の温度よりも高温とするための昇温部と、
を有することを特徴とする。
【0016】
以上のように、本発明では、ホットランナを流動する溶融樹脂を昇温部に通過させて温度上昇させ、射出機内での溶融時の温度よりも高温とするとともに粘度を低下させるようにしている。このため、溶融樹脂の流動距離を大きくすることができる。
【0017】
すなわち、例えば、製品部に薄肉部を形成する部位が存在する場合であっても、溶融樹脂の温度が高いために金型から熱を奪取され難いので、溶融樹脂が低粘度のまま該部位を容易に通過し、該製品部の端部まで到達する。このため、欠陥が発生することが回避された成形品を得ることができる。
【0018】
しかも、溶融樹脂が高温に保持される時間が短いので、溶融樹脂が物性変化を起こすことに起因して成形品が脆化することも回避される。すなわち、得られた成形品は、十分な強度を示す。
【0019】
その上、本発明では、成形品の強度を確保するには昇温部の温度と高温に保持される時間を制御すれば十分であり、多点ゲートのように試験を繰り返して射出条件を最適化する必要もない。加えて、多点ゲートを採用する必要が特にないので、ウェルドラインが発生する懸念が払拭される。しかも、金型費が増大することもない。
【0020】
また、この場合、溶融樹脂の流動距離を大きくするべく溶融樹脂の射出圧力を大きくする必要がない。このため、射出圧力を大きくすることに伴ってバリが発生することを回避するべく型締め圧力を大きくする必要がないと期待される。
【0021】
以上のような理由から、射出成形装置が大型化することや、大重量化することを回避することが図れる。また、小型の変位機構は、大型のものに比して概して安価であるため、設備投資が高騰することも回避される。
【0022】
なお、昇温部を流動する溶融樹脂を撹拌するための撹拌手段を設けることが好ましい。この撹拌により、溶融樹脂に温度ムラが生じることが回避される。従って、溶融樹脂の温度、ひいては粘度が略一様となる。これにより、溶融樹脂に高粘度な部位が形成されることが回避されるので、該溶融樹脂の流動距離を大きくすることが容易となる。
【0023】
撹拌手段の好適な例としては、スタティックミキサが挙げられる。周知のように、スタティックミキサで撹拌を行うに際しては動力を必要としないので、例えば、射出成形を行う際の消費電力が上昇することが回避される。また、スタティックミキサの形状や構造により、溶融樹脂に付与される熱の伝達と剪断力を調整することができる。このため、スタティックミキサを通過する溶融樹脂の昇温の度合いを制御することができる。さらに、溶融樹脂への剪断力を制御することができるので、射出機の射出圧力を小さくすることが可能となることから、射出機の負担を軽減することができる。
【0024】
また、昇温部を通過した溶融樹脂が通過する糸引き防止部を設けることが好ましい。この場合、昇温部の熱が成形品に伝達されることが防止されるので、型開き時に糸引きが生じることを回避し得る。
【0025】
1回の射出成形が終了した後、昇温部に溶融樹脂が残留することがある。この残留溶融樹脂は、次回の射出成形が行われるまで昇温部に残留するので、温度が上昇した状態を維持する。このため、残留溶融樹脂が物性変化を起こすことが懸念される。物性変化を起こした残留溶融樹脂が、次回の射出成形時に製品部に導入されると、強度が十分でない成形品や、外観品質が良好でない成形品等が得られる可能性がある。
【0026】
この懸念を払拭するべく、昇温部から製品部に至るまでの流動通路の距離を大きくすることが考えられる。残留溶融樹脂は、新たに射出された溶融樹脂によって押し出される際にファウンテンフローを起こし、流動通路の壁面にスキン層として付着するので、流動通路の距離が大きくなれば、残留溶融樹脂の全量がスキン層となる。このため、残留溶融樹脂が製品部に導入されることが防止されるからである。しかしながら、この場合、射出成形装置が大型化してしまう。
【0027】
そこで、前回の射出時に昇温部に残留した溶融樹脂を、次回の射出時に受けることが可能なスラッグウェルを昇温部の下流側に設けることが好ましい。この場合、流動通路の距離を大きくすることなく、残留溶融樹脂の全量を昇温部から製品部に至るまでの流動通路でスキン層とすることができる。従って、射出成形装置が大型化することがない。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、ホットランナを流動する溶融樹脂を昇温部に通過させて温度上昇させ、射出機内での溶融時の温度よりも高温とするとともに粘度を低下させるようにしているので、溶融樹脂の流動距離が大きくなる。従って、例えば、製品部に薄肉部を形成する部位が存在する場合であっても、溶融樹脂が該部位を容易に通過し、該製品部の端部まで到達するようになる。このため、欠陥が発生することが回避された成形品を得ることができる。
【0029】
しかも、溶融樹脂が昇温部に滞在する時間が短いので、溶融樹脂が物性変化を起こすことに起因して成形品が脆化することが回避される。従って、十分な強度を示す成形品が得られる。
【0030】
さらに、本発明においては、強度が確保された成形品を得るには昇温部の温度を制御すれば十分であるので、多点ゲートのように試験を繰り返して射出条件を最適化する必要もない。加えて、多点ゲートを採用する必要が特にないので、ウェルドラインが発生する懸念が払拭されるとともに、金型費が増大することが回避される。
【0031】
また、本発明においては、上記したように溶融樹脂の粘度を低下させることで流動距離を大きくするようにしているので、流動距離を大きくするために溶融樹脂の射出圧力を大きくする必要がない。従って、射出圧力を大きくすることに伴ってバリが発生することを回避するべく型締め圧力を大きくする必要がなくなると期待される。以上のような理由から、射出成形装置が大型化することや、大重量化することを回避することが図れる。また、小型の変位機構は、大型のものに比して概して安価であるため、設備投資が高騰することも回避される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態に係る射出成形装置の要部概略縦断面図である。
【図2】図1の射出成形装置の別部位の要部概略縦断面図である。
【図3】直管内を流動する流動物の温度ムラを模式的に示した概略側面断面図である。
【図4】スタティックミキサ内の流動物の流動状態を模式的に示した概略断面側面図である。
【図5】射出成形を行った後に昇温部に溶融樹脂が残留した状態を示す要部概略縦断面図である。
【図6】昇温部に残留した溶融樹脂が、新たに射出された溶融樹脂によって昇温部から押し出された状態を示す要部概略縦断面図である。
【図7】昇温部に残留した溶融樹脂が、図6からさらに押し出された状態を示す要部概略縦断面図である。
【図8】昇温部に残留した溶融樹脂が、図7からさらに押し出され、スラッグウェルに貯留された状態を示す要部概略縦断面図である。
【図9】スラッグウェルに貯留された残留溶融樹脂の一部が、スラッグウェルから押し出されてランナに導入された状態を示す要部概略縦断面図である。
【図10】残留溶融樹脂の一部が、図9からさらに押し出されてランナを流動している状態を示す要部概略縦断面図である。
【図11】残留溶融樹脂の一部が、図10からさらに押し出されてランナを流動している状態を示す要部概略縦断面図である。
【図12】残留溶融樹脂の一部が、図11からさらに押し出されてランナを流動した後、スキン層を形成して残留した状態を示す要部概略縦断面図である。
【図13】新たに射出された溶融樹脂のみが製品部に導入された状態を示す要部概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明に係る射出成形方法につき、それを実施する射出成形装置との関係で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0034】
図1は、本実施の形態に係る射出成形装置10の要部概略縦断面図である。この射出成形装置10は、固定型12と、図示しない変位機構の作用下に固定型12に対して接近又は離間する可動型14とを備える。
【0035】
固定型12には、第1ホットランナ16が形成された第1ホットランナブロック18が付設される。なお、第1ホットランナブロック18の下流側には、第2ホットランナ20が形成された第2ホットランナブロック22が設けられる。
【0036】
第1ホットランナブロック18には、タッチピース24が設けられている。タッチピース24には導入孔30が貫通形成され、この導入孔30の開口には、射出機32の射出ノズル34が着座する。
【0037】
前記第1ホットランナ16は、前記導入孔30に連通する。また、第2ホットランナ20は、第1ホットランナ16に連通する連通路36と、該連通路36から放射状に分岐した複数個の分岐路38とからなる。なお、図1においては、複数個の分岐路38中、互いに略180°離間した2個を示している。
【0038】
分岐路38は、第2ホットランナ20の末端部としての昇温部40を経た後、さらに、糸引き防止部42、スプルー44、ランナ46及びゲート48(図2参照)を介して、製品部50に連通する。
【0039】
第1ホットランナ16及び第2ホットランナ20の近傍には、図示しないヒータ等の加熱手段が設けられている。このため、第1ホットランナ16及び第2ホットランナ20を流動する溶融樹脂は、例えば、200℃〜220℃の間の所定温度に保たれる。
【0040】
第2ホットランナ20には、ホットノズル52(図1参照)を介して分岐路38に連なるようにして、昇温部40が設けられる。
【0041】
本実施の形態において、昇温部40は、スタティックミキサ54の外周壁に第1バンドヒータ56が巻回されることで構成されている。スタティックミキサ54の小径な端部55はネジ部であり、このネジ部は、前記ホットノズル52の端部に設けられたネジ部に螺合されている。
【0042】
スタティックミキサ54は、周知の通り、内部にミキシングブレード58が設けられた管部材である。スタティックミキサ54内を流通する溶融樹脂は、ミキシングブレード58を通過する際、該ミキシングブレード58の形状に沿って移動する。この移動により、溶融樹脂が撹拌される。このことから諒解されるように、スタティックミキサ54は、動力が不要な撹拌手段である。
【0043】
スタティックミキサ54の外周壁に巻回された第1バンドヒータ56は、該外周壁を介してミキシングブレード58に熱を伝達する。従って、ミキシングブレード58を通過する溶融樹脂にも熱が伝達され、また、ミキシングブレード58の形状によっては剪断発熱が生じ、その結果、溶融樹脂の温度が上昇する。すなわち、昇温部40は、該昇温部40を流通する溶融樹脂の温度を上昇させるためのものである。なお、昇温部40の温度は、第1熱電対60を介して測定された値に応じて制御される。
【0044】
昇温部40には、糸引き防止部42が連なる。この糸引き防止部42は、管部材62と、該管部材62の外周壁に巻回された第2バンドヒータ64と、管部材62の内部に収容された糸引き防止リング66とを有する。
【0045】
スタティックミキサ54の端部には、軸線方向に沿って陥没したネジ付段部70が形成されている。一方、管部材62は、小径部72、大径部74をスタティックミキサ54に近接する側からこの順序で有し、スタティックミキサ54に最近接する小径部72が前記ネジ付段部70に挿入されている。小径部72にはネジ部が形成され、このネジ部は、ネジ付段部70のネジ部に螺合される。
【0046】
また、小径部72の外周壁にはリング形状の断熱部材78が外嵌され、この断熱部材78により、スタティックミキサ54と管部材62との熱的遮断が図られている。すなわち、スタティックミキサ54の熱が管部材62に伝達されることが抑制される。
【0047】
前記第2バンドヒータ64は、管部材62の大径部74の外周壁に巻回されている。ここで、大径部74には第2熱電対80が接触している。第1バンドヒータ56、第2バンドヒータ64、第1熱電対60及び第2熱電対80は、図示しない制御回路に電気的に接続されており、従って、第1バンドヒータ56及び第2バンドヒータ64の発熱量は、第1熱電対60及び第2熱電対80によって検出される昇温部40及び糸引き防止部42の温度に対応して、制御回路の制御作用下に調節される。後述するように、糸引き防止部42の温度は、昇温部40に比して低温に設定される。
【0048】
管部材62には、大径部74に収容凹部82が形成される。前記糸引き防止リング66は、この収容凹部82に収容されている。なお、糸引き防止リング66は、溶融樹脂の射出成形において広汎に使用されている当業者に周知のものであり、従って、その詳細な説明は省略する。
【0049】
収容凹部82には、スプルー44が形成されたノズルチップ84も収容される。なお、ノズルチップ84の外径は略一定であるが、該ノズルチップ84の内部に形成されたスプルー44は、管部材62に近接する側(上流側)の端部から離間する側(下流側)の端部に向かってテーパー状に拡径している。
【0050】
可動型14には、スプルー44の軸線方向に沿って延在するスラッグウェル86が形成される。このスラッグウェル86の容積と、スプルー44、ランナ46及びゲート48の各容積との総和は、スタティックミキサ54の容積に比して大きく設定される。従って、スタティックミキサ54に残留した溶融樹脂は、次回の射出成形時、その全量がスプルー44、スラッグウェル86、ランナ46及びゲート48でスキン層となる。
【0051】
スラッグウェル86には、ランナ46が連通する。ここで、ランナ46の軸線方向は、スプルー44の軸線方向に対して略直交している。このため、スプルー44から導出された溶融樹脂の流動方向は、ランナ46によって変換される。
【0052】
ランナ46の下流には、図2に示すように、該ランナ46に連通するゲート48と、該ゲート48を介してランナ46に連通する製品部50とが形成される。上記したように、製品部50は、固定型12と可動型14との合わせ面に位置している。
【0053】
図1及び図2においては、理解を容易にするために昇温部40やスプルー44、ランナ46等を拡大して示しているが、図1及び図2の縮尺は実際の寸法に対応するものではない。例えば、スタティックミキサ54の軸線方向寸法(長さ)は、実際には、分岐路38及び第2ホットランナ20に比して著しく小さく設定される。すなわち、スタティックミキサ54における溶融樹脂の流動距離は、分岐路38及び第2ホットランナ20における溶融樹脂の流動距離に比して小さい。
【0054】
本実施の形態に係る射出成形装置10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その作用効果につき、該射出成形装置10にて実施される射出成形方法との関係で説明する。
【0055】
射出成形を行うに際しては、先ず、図示しない前記変位機構の作用下に可動型14を固定型12に向けて変位させ、型締めを行う。その前又は後に、射出機32内にて所定の温度で樹脂を溶融し、溶融樹脂を得る。
【0056】
次に、射出機32の射出ノズル34から溶融樹脂を射出する。射出された溶融樹脂は、タッチピース24に形成された導入孔30を経由して第1ホットランナ16に到達し、その後、第2ホットランナ20の連通路36を経て分岐路38に至る。溶融樹脂は、複数個の分岐路38の各々に沿ってさらに流動する。
【0057】
上記したように第1ホットランナ16及び第2ホットランナ20は、図示しない加熱手段(ヒータ等)によって加熱されており、このため、溶融樹脂は、溶融時の温度に略保持された状態で、第1ホットランナ16及び第2ホットランナ20を流動する。勿論、この温度は、溶融樹脂が冷却硬化して成形品となったときに十分な強度を確保し得る温度である。
【0058】
溶融温度ないし保持温度は、溶融樹脂の種類に応じて設定されるが、概ね200℃〜220℃の間、一層好適には205℃〜215℃の間である。
【0059】
第2ホットランナ20の分岐路38を流動した溶融樹脂は、ホットノズル52から、昇温部40を構成するスタティックミキサ54の内部に導出される。ここで、スタティックミキサ54には、該スタティックミキサ54内が射出機32における溶融時の温度に比して高温となるように、第1バンドヒータ56からの熱が伝達される。従って、ミキシングブレード58を通過する溶融樹脂にも熱が伝達され、その結果、溶融樹脂は、射出機32内で溶融したとき、ないし分岐路38を流動したときの温度に比して高温となり、これに伴って粘度が低下する。
【0060】
なお、スタティックミキサ54の設定温度は、射出機32内の溶融温度に比して10℃〜150℃程度高温が好適であり、20℃〜100℃程度高温が一層好適である。この程度の温度であれば、強度が不十分な成形品が作製されることが回避される。
【0061】
溶融樹脂は、ミキシングブレード58を通過する際に剪断力を受けることに伴って熱を帯びる。すなわち、ミキシングブレード58を通過することのみでも溶融樹脂の温度が上昇する。この温度上昇幅が十分であれば、スタティックミキサ54の設定温度を、射出機32内の溶融温度と同一にしてもよい。
【0062】
射出機32内での溶融温度を、樹脂の溶融に必要最低限に設定するとともに、昇温部40の温度を、溶融樹脂が製品部50の全体に充填されるに必要な粘度にし得る必要最低限に設定することにより、射出成形装置10の電力消費量を抑制することができる。
【0063】
ここで、昇温部40に単純な直管90が配置されている場合(図3参照)、実際には、直管90の内部に温度ムラが生じる。すなわち、内周壁に近い箇所では温度が高く、直径中心近傍では温度が低くなる。このため、直管90内を流動する溶融樹脂にも温度ムラが生じるので、直管90内の場所に関わらず溶融樹脂の粘度を均等にすることが容易でなくなる懸念がある。
【0064】
これに対し、スタティックミキサ54を設けた本実施の形態においては、図4に示すように、溶融樹脂がミキシングブレード58を通過することに伴って、内周壁に近い溶融樹脂が直径中心に向かって移動するとともに、直径中心に近い溶融樹脂が内周壁に向かって移動する。このため、熱源である第1バンドヒータ56に近接して比較的高温となった溶融樹脂と、第1バンドヒータ56から離間して比較的低温である溶融樹脂とが連続的に混じり合いながらスタティックミキサ54を流動していくことになる。従って、溶融樹脂に温度ムラが生じることが回避され、その結果、部位に関わらず温度が略均等な、換言すれば、粘度が略一様な溶融樹脂が得られる。
【0065】
しかも、出発材料が、例えば、マスターバッチ材料やメタリック原着材料であっても、スタティックミキサ54の撹拌によって十分に分散されるので、外観品質に優れた成形品を得ることができる。また、初回の射出成形を行った後、色や出発材料の種類を変更して第2回の射出成形を行う際、初回の射出成形時に射出された溶融樹脂が残留して新たに射出された溶融樹脂に混入したとしても、両溶融樹脂がスタティックミキサ54によって十分に撹拌されるため、例えば、残留した溶融樹脂に起因する筋状の外観不良等が成形品に発生し難い。このため、不良品の発生数を低減することができる。
【0066】
加えて、スタティックミキサ54を採用する場合、撹拌を行うための動力を設ける必要がない。このため、射出成形装置10の構成が複雑となることが回避されるとともに、金型投資が高騰することが回避される。また、消費電力が多くなることもない。
【0067】
昇温部40を通過した溶融樹脂は、糸引き防止部42に導入される。この糸引き防止部42は、昇温部40に比して50℃〜100℃、典型的には約80℃程度低温に設定される。しかしながら、管部材62の長さはスタティックミキサ54に比して著しく小さく、また、管部材62にミキシングブレード58が存在しないので、糸引き防止部42を流動する溶融樹脂は、ほとんど温度降下を起こすことなく糸引き防止リング66からスプルー44に導出される。
【0068】
溶融樹脂は、スプルー44を通過した後、ランナ46及びゲート48(図2参照)を経て製品部50に導入される。ここで、上記したように、溶融樹脂は昇温部40によって昇温されることで粘度が低下している。従って、流動距離が大きくなり、このため、製品部50に薄肉部を形成する部位が存在する場合であっても、溶融樹脂は、該部位を容易に通過して製品部50の端部まで到達する。
【0069】
製品部50は、通常、略常温となるように温度調整されている。従って、製品部50に導入された溶融樹脂は、熱が奪取されることに伴って冷却硬化する。これにより、成形品が得られるに至る。
【0070】
溶融樹脂は、昇温部40に導入される前、冷却硬化して成形品となったときに十分な強度を確保し得る温度に保持されて第2ホットランナ20、連通路36及び分岐路38を流動する。その後、昇温部40を通過するが、この際の流通時間は短い。換言すれば、溶融樹脂が、射出機32内での溶融時よりも高温となっている時間は短い。このため、溶融樹脂が物性変化を起こすことが回避されるので、十分な強度を示す成形品を得ることができる。しかも、溶融樹脂が製品部50の端部まで到達して冷却硬化しているので、該成形品に欠陥が発生することが回避される。
【0071】
また、溶融樹脂の射出圧力を大きくする必要がないので、バリが発生することを回避するべく型締め圧力を大きくする必要もない。従って、型締め・型開きを行う変位機構(油圧シリンダ等)は小型のもので十分である。このため、射出成形装置10が大型化することや、大重量化することが回避される。また、高価な変位機構が不要であるので、設備投資が高騰することも回避される。
【0072】
しかも、本実施の形態では、多点ゲートを採用していないので、ウェルドラインが形成される懸念が払拭される。加えて、昇温部40の温度を制御すればよいので、射出条件を設定するための試験を繰り返し行う必要がないという利点も得られる。
【0073】
前記変位機構の作用下に可動型14を固定型12から離間させて型開きを行えば、成形品を露呈させることができる。成形品は、例えば、ノックアウトピン(図示せず)によって押し出され、射出成形装置10から離間する。
【0074】
成形品には、スプルー44、ランナ46及びゲート48に残留して冷却硬化した樹脂が製品部位に一体的に連結したものとして得られる。このような部位は成形品の製品部位から切断され、例えば、次回の射出成形の出発原料とするべく粉砕される。
【0075】
ここで、本実施の形態では、糸引き防止部42を設けるようにしている。糸引き防止部42に溶融樹脂が残留した場合、この溶融樹脂は、糸引き防止部42に長時間残留したことによって、昇温部40を通過したときよりも低温となっている。上記したように、糸引き防止部42が昇温部40に比して低温に設定されているからである。また、断熱部材78によってスタティックミキサ54の熱が管部材62に伝達されることが抑制されていることも、糸引き防止部42を昇温部40に比して低温に保つことに寄与する。
【0076】
このように温度が低下した溶融樹脂は、粘度が十分に低下している。しかも、糸引き防止部42には、糸引き防止リング66が設けられている。以上のことが相俟って、型開きの際に糸引きが発生することが防止される。
【0077】
以上の射出成形を行った後は、図5に示すように、昇温部40に溶融樹脂が残留することがある。この残留溶融樹脂は、次回の射出成形時に、図6に示すように、第2ホットランナ20及び分岐路38を通過して昇温部40に到達した新たな溶融樹脂によってスプルー44に押し出される。なお、残留溶融樹脂と新たに射出された溶融樹脂との区別を明確にするべく、各々の参照符号を100、102とするとともに、互いに相違するハッチングを付す。
【0078】
残留溶融樹脂100は、後述するファウンテンフローによって一部がスプルー44の内周壁に付着する。一方、残部は、図7に示すようにランナ46側に向かって押し出され、その結果、図8に示すようにスラッグウェル86及びランナ46に貯留される。すなわち、スラッグウェル86は、押し出された残留溶融樹脂100を受ける。
【0079】
新たな溶融樹脂102は、図9〜図12に示すように、残留溶融樹脂100の中央近傍を押圧しながらさらに流動する。すなわち、残留溶融樹脂100に、中央からランナ46の壁面に向かう流れ(ファウンテンフロー)が生じる。
【0080】
ファウンテンフローによってランナ46の壁面に接触した残留溶融樹脂100は、該壁面に熱が奪取される。壁面近傍の残留溶融樹脂100は、これにより冷却硬化し、スキン層として壁面に付着する。スプルー44、ランナ46、スラッグウェル86及びゲート48の各容積の総和が、スタティックミキサ54の容積に比して大きく設定されているので、スキン層の形成は、最大でもゲート48で終了する。なお、図12においては、残留溶融樹脂100の壁面への付着がゲート48の上流側で終了した場合を示している。このため、図13から諒解されるように、残留溶融樹脂100が次回の射出成形時に製品部50に導入されることが回避される。
【0081】
残留溶融樹脂100は、前回の射出成形が終了してから次回の射出成形が開始されるまで高温の昇温部40に残留していたものであるので、これを製品部50に導入した場合、強度が十分でない成形品が作製される懸念がある。しかしながら、本実施の形態では、残留溶融樹脂100をスラッグウェル86に一時的に受け、新たな溶融樹脂102が流動するときにファウンテンフローを生じさせてスプルー44やランナ46の壁面に付着したスキン層とするようにしているので、残留溶融樹脂100が製品部50に導入されることが回避される。このため、強度が十分でない成形品が作製される懸念が払拭される。
【0082】
スキン層は、ランナ46に残留した新たな溶融樹脂102が冷却硬化した際にこの硬化物と一体化する。上記と同様に、型開きが行われた後、該硬化物は成形品の製品部位から切断される。
【0083】
なお、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは勿論である。
【0084】
例えば、この実施の形態では、スタティックミキサ54に第1バンドヒータ56を巻回することで昇温部40を構成するようにしているが、スタティックミキサ54にコイル型ヒータやカートリッジヒータを埋設して昇温部40を構成するようにしてもよい。
【0085】
また、撹拌手段はスタティックミキサ54に特に限定されるものではなく、例えば、動力によって回転動作するスクリュであってもよい。
【0086】
撹拌手段は必須ではなく、例えば、直径が小さいために温度ムラ幅が小さい直管を昇温部40に用いる場合等では、撹拌手段を省略するようにしてもよい。
【0087】
さらに、昇温部40の残留溶融樹脂100を、スプルー44、ランナ46及びゲート48でスキン層にし得る場合には、スラッグウェル86を設ける必要は特にない。
【0088】
そして、糸引き防止部42には、例えば、管部材62に放熱リングを外嵌する等、放熱を促進する部材をさらに設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0089】
10…射出成形装置 12…固定型
14…可動型 16、20…ホットランナ
32…射出機 34…射出ノズル
40…昇温部 42…糸引き防止部
44…スプルー 46…ランナ
48…ゲート 50…製品部
54…スタティックミキサ 56、64…バンドヒータ
58…ミキシングブレード 62…管部材
66…糸引き防止リング 78…断熱部材
86…スラッグウェル 100…残留溶融樹脂
102…新たに射出された溶融樹脂
【特許請求の範囲】
【請求項1】
型内に形成された製品部に溶融樹脂を充填することで成形品を得る射出成形方法において、
樹脂を射出機にて溶融して得た溶融樹脂を、該射出機から射出する工程と、
ホットランナを流動する前記溶融樹脂を、前記ホットランナの一部に設けられた昇温部に通過させることによって温度上昇させ、前記射出機内での溶融時の温度よりも高温とする工程と、
前記温度上昇に伴って粘度が低下した前記溶融樹脂を、前記製品部に導入する工程と、
を有することを特徴とする射出成形方法。
【請求項2】
請求項1記載の射出成形方法において、前記昇温部を流動する前記溶融樹脂を撹拌手段によって撹拌することを特徴とする射出成形方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の射出成形方法において、前記昇温部を通過した前記溶融樹脂を、糸引き防止部に通過させることを特徴とする射出成形方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の射出成形方法において、前記昇温部の下流側にスラッグウェルを設け、前回の射出時に前記昇温部に残留した前記溶融樹脂を、次回の射出時に前記スラッグウェルで受けることを特徴とする射出成形方法。
【請求項5】
型内に形成された製品部に溶融樹脂を充填することで成形品を得る射出成形装置において、
樹脂を溶融して溶融樹脂を得るとともに、該溶融樹脂を射出する射出機と、
前記溶融樹脂の流動通路であるホットランナと、
前記ホットランナの一部に設けられ、前記溶融樹脂を、前記射出機内での溶融時の温度よりも高温とするための昇温部と、
を有することを特徴とする射出成形装置。
【請求項6】
請求項5記載の射出成形装置において、前記昇温部を流動する前記溶融樹脂を撹拌する撹拌手段をさらに有することを特徴とする射出成形装置。
【請求項7】
請求項6記載の射出成形装置において、前記撹拌手段がスタティックミキサであることを特徴とする射出成形装置。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の射出成形装置において、前記昇温部の下流側に糸引き防止部が設けられていることを特徴とする射出成形装置。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれか1項に記載の射出成形装置において、前記昇温部の下流側にスラッグウェルが設けられていることを特徴とする射出成形装置。
【請求項1】
型内に形成された製品部に溶融樹脂を充填することで成形品を得る射出成形方法において、
樹脂を射出機にて溶融して得た溶融樹脂を、該射出機から射出する工程と、
ホットランナを流動する前記溶融樹脂を、前記ホットランナの一部に設けられた昇温部に通過させることによって温度上昇させ、前記射出機内での溶融時の温度よりも高温とする工程と、
前記温度上昇に伴って粘度が低下した前記溶融樹脂を、前記製品部に導入する工程と、
を有することを特徴とする射出成形方法。
【請求項2】
請求項1記載の射出成形方法において、前記昇温部を流動する前記溶融樹脂を撹拌手段によって撹拌することを特徴とする射出成形方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の射出成形方法において、前記昇温部を通過した前記溶融樹脂を、糸引き防止部に通過させることを特徴とする射出成形方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の射出成形方法において、前記昇温部の下流側にスラッグウェルを設け、前回の射出時に前記昇温部に残留した前記溶融樹脂を、次回の射出時に前記スラッグウェルで受けることを特徴とする射出成形方法。
【請求項5】
型内に形成された製品部に溶融樹脂を充填することで成形品を得る射出成形装置において、
樹脂を溶融して溶融樹脂を得るとともに、該溶融樹脂を射出する射出機と、
前記溶融樹脂の流動通路であるホットランナと、
前記ホットランナの一部に設けられ、前記溶融樹脂を、前記射出機内での溶融時の温度よりも高温とするための昇温部と、
を有することを特徴とする射出成形装置。
【請求項6】
請求項5記載の射出成形装置において、前記昇温部を流動する前記溶融樹脂を撹拌する撹拌手段をさらに有することを特徴とする射出成形装置。
【請求項7】
請求項6記載の射出成形装置において、前記撹拌手段がスタティックミキサであることを特徴とする射出成形装置。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の射出成形装置において、前記昇温部の下流側に糸引き防止部が設けられていることを特徴とする射出成形装置。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれか1項に記載の射出成形装置において、前記昇温部の下流側にスラッグウェルが設けられていることを特徴とする射出成形装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−6370(P2013−6370A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141190(P2011−141190)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]